1: 2011/01/15(土) 23:14:41.29
シャロ「勢いがついてココロちゃんの回転が止まらなくなっちゃったー! ……って、なんでですかー」

小衣「いいから止めなさいよぉおおお! 目が回るぅううううう!!」


◎←シャロ
 ̄\
   \○←ココロちゃん
     \
      \

7: 2011/01/15(土) 23:39:09.50
 坂を転がり落ちていくような、そんな人生だった。

高卒上司「明智さーん、頼んどいた資料まだっすか?」

小衣「すみません……」

高卒上司「しっかりしてくださいよ? 僕だって年上の方にこんなこと言うのは辛いんすからね」

小衣「はい……」

 ハーバードを飛び級で卒業後、そのまま警察の対怪盗特別組織G4へ抜擢。
ここまではよかった。
が、その後大した成果を上げられずにG4は解散。
憤った私は、若さにまかせて警察を飛び出し、独立して会社を起こすも失敗。
そして気が付けば……、高卒の上司に頭を下げる、冴えない23の女がそこにはいた。

小衣「はぁ……」

10: 2011/01/15(土) 23:45:21.03
小衣「あ……」

 いつの間にか正午になっていた。
お昼ごはんを食べに席を立つ。

高卒上司「仕事は遅い癖に食事へ行くのは誰よりも早いんすね」

小衣「……」

 そんな嫌味を言われても、もはや反抗心も湧いてこない。
私の心は20代前半にして枯れ果てていた。
何も言い返さずに錆びかけたガラス戸を開け、職場の外へ。
適当なコンビニで菓子パンでも買おうかしら……。

12: 2011/01/15(土) 23:53:39.34
 北風に身を縮めつつ、歩くこと数分。
私が普段よく使うコンビニが見えてきた。
入口の自動ドアに自分の姿がうっすら反射する。
10年前より背が伸びた筈なのに、なぜか当時よりみすぼらしく見える私の姿。

「いらっしゃいませー」

 店員の元気な声が妙に癇にさわるのも、そんな今の自分の姿と若々しい店員を、無意識の内に比較してしまうからなのだろう。
コンビニの店内の明るさはなんとなく気持ちが悪い。
さっさと買い物をすませよう。

小衣「今日は……チョココロネでいいか……」

 と、その時。
商品棚の向こう側から、聞きたくない声が聞こえてきた。

平乃「次子はまた激辛ラーメンですか?」

13: 2011/01/15(土) 23:57:32.84
 次子、か。
そっか、いつの間にか呼び捨てできるような仲になったんだ。

次子「冬の昼食ってったらやっぱこれが一番だからな」

 次子の元気な声は相変わらず。
あのまま警察に残った二人は、きっと私と違って出世してるんだろうな。
顔、合わせたくない……。
私は逃げるようにトイレへ駆け込んだ。

14: 2011/01/16(日) 00:05:46.98
――――


 何やってんだろうな、私。
用も足したくないのにトイレに逃げ込んで……。

小衣「……」

 なんだか無性に悲しくなってきた。
くしゃくしゃとコロネの入ったビニール袋を弄び、時間を潰す。
そういえば、早くしないとお昼休みが終わっちゃうな……。
そろそろトイレから出ようかな、そう思った矢先のこと。
コンコンとトイレの扉が二度叩かれた。

小衣「あっ……」

早くトイレから出なくちゃ。
とりあえずトイレを使っていましたという体を整えるために水だけ流し、トイレの扉を開ける。
すると……、

次子「あれ!? もしかしてココロか!?」

17: 2011/01/16(日) 00:15:17.07
次子「いやー、全く連絡よこさないから心配してたんだぞ! にしても身長伸びたなぁ!」

小衣「あ、つ、次子……ひさしぶ…ぃ……」

 パニクって言葉がしどろもどろになってしまった。

次子「ん? 元気ないようだけど風邪か何かか?」

小衣「う、ううん。それよりトイレはいいの?」

次子「あっはっは、そうだったそうだった。……あー、そういや今平乃も店内にいるから、声かけてってやれよー!」

小衣「わ、分かった」

 私はトイレを出ると、まずきょろきょろと辺りを見渡した。
平乃がいるのはレジ近くの和菓子コーナーか……。
コロネを買うのは諦めよう。
さっさとこのパンを商品棚に戻して店を去らないと。

18: 2011/01/16(日) 00:20:45.31
 コロネを元の場所に置き、早足でコンビニの出入り口へ。

平乃「あら? もしかしてココロさんですか?」

 聞こえないふり、聞こえないふり。
私は平乃の声を無視してコンビニを出ると、そのまま全速力で仕事場へ戻った。

小衣「はあっ、はあっ……はぁ……」

もうお昼時にあのコンビニを使うのは止めよう……。

20: 2011/01/16(日) 00:27:47.93
―――――

 高卒上司の嫌味を受け流しつつ、適当にパソコンをいじること数時間。
ようやく終業の時間になった。

小衣「ふぅ……」

 やっとお家に帰れる……。
安堵のため息をついたところへ、予期せぬ一言が。

高卒上司「んじゃ、この書類もたのんまーす」

小衣「え? だ、だって、もう時間……」

高卒上司「残業残業」

 そう言いながらも、高卒上司は自分だけ帰り支度を進めていく。

高卒上司「んじゃ、お先ー」

小衣「あ……」

 高卒上司が退社していってしまった。
やるしかないのかな、残業……。

25: 2011/01/16(日) 00:36:51.52
 結局仕事が終わったのは、正規の終業時間の3時間後だった。
気乗りのしない作業はどうしても効率が悪くなってしまう。
残業代出るのかな。
出ないんだろうな、ブラックだし……。

小衣「かえろ……」

 外へ出ると粉雪がちらちらと舞っていた。
見る分には綺麗だけど、帰りの時間に合わせられるのは勘弁願いたい。

『続いてのニュースです。ミルキィホームズがまたまたやってくれました! 今度は怪盗王国なる四人組を―――』

 大きなビルの前を横切ろうとした時、そんな音声が聞こえてきた。
顔をそちらのほうに向けると、ミルキィホームズの活躍を称えるニュースが巨大モニターに映し出されていた。

小衣「……」

 アホ探偵、頑張ってんだなぁ……。

27: 2011/01/16(日) 00:45:02.68
 なんだか真っ直ぐ帰る気分になれないな。
安酒でも飲んで帰るか。
この前見つけた裏通りのお店、あそこなら知り合いに会うこともないだろう。

……

……

 歩くこと十数分、目をつけていたお店が見えてきた。
色の変色した木製の扉をガラガラと開けると、そこには落ち着いて飲める空間が広がって……、

シャロ「それじゃあお仕事成功を祝して、かんぱーい!」

小衣「あ……」

 なんであいつらがここにいるのよ……。

29: 2011/01/16(日) 00:51:06.88
ネロ「あれっ? もしかして明智?」

シャロ「えっ!? どこどこ!? あーっ、本当だ! ココロちゃんだ!」

小衣「ココロちゃん言うな!」

 ……あれ? 私、今……。

シャロ「お久しぶりですココロちゃん!」

小衣「だーからココロちゃん言うなっつの! アンタは何年経ってもアホのまんまね!」

コーデリア「二人は相変わらず仲がいいわね」

エリー「仲、いいんでしょうか……?」

 なんでだろう……。
昔みたいに振る舞えてる。

32: 2011/01/16(日) 00:59:24.13
シャロ「そうだ! 折角だしココロちゃんも一緒に飲みましょう!」

小衣「しょっ、しょーうがないわね! アンタがどうしてもって言うなら、まあ一緒に飲んであげなくもないわよ」

 誰かとお酒を飲むなんて、初めてだな……。

コーデリア「明智さんカルーアミルク飲める?」

小衣「飲めなくはないけど、どうして?」

エリー「私達、一杯目は必ずそれって決めてるんです」

ネロ「そ。ミルキィって部分にかけてね!」

 そう言われてみれば、四人ともグラスの中身は統一されていた。

小衣「ココロも……アンタ達と同じものを頼んでいいの?」

シャロ「あったりまえじゃないですかー!」

小衣「……」

 嬉しい……。
思わず涙が零れそうになったけど、グッとこらえた。

34: 2011/01/16(日) 01:10:47.92
ネロ「店員さーん! カルーアもう一つ! えーっと、あとスタミナ炒飯大盛りも!」

コーデリア「ちょっとネロ、勝手に炒飯なんて頼んで……」

ネロ「いいじゃんいいじゃん。みんなで食べようよ」

コーデリア「もうっ、しょうがないわね」

 次子もそうだったけど、こいつらもあんまり変わらないな。
……いや、いい方には変わってるのか、あのニュースを見る限り。

シャロ「そういえばココロちゃんは今何をしてるんですか?」

小衣「えっ、私……?」

ネロ「あっ、それボクも気になる! 警察止めてからどうしてたんだよ?」

小衣「え、えっと、それは……」

 トウキョウへ行って起業するも失敗。
それからはずっとバイトやなんやで食いつないで……。
そしてつい一月前、派遣社員としてヨコハマへ配属されてきましたー。
なんて、言えるわけもない……。

35: 2011/01/16(日) 01:21:41.41
小衣「あ、IT系のベンチャーを立ち上げて社長をやっているわ!」

シャロ「社長さん!? ココロちゃん凄ーい!」

小衣「あったりまえでしょ! なんたって私はIQ1300の天才、明智小衣なんだから!」

 つい嘘をついてしまった。
いけないことだとは分かっていた。
でも昔通りの私を取り繕うためには、正直なことを話すわけにはいかなかったのだ。

47: 2011/01/16(日) 08:16:42.85

 嘘をついてしまったことはずっと気がかりだったが、飲み自体はとても楽しく進められた。
きっと心のどこかで人との触れ合いに飢えていたんだろう。

シャロ「それじゃあそろそろお開きにしましょう」

ネロ「二次会はぁー?」

シャロ「あはは、コーデリアさんがあの調子では……」

 そう笑ってが指差した先には、べろんべろんに酔ってエリーに抱きつくコーデリアの姿が。

コーデリア「エリーの膝あったかーい」

エリー「ちょ、ちょっとコーデリアさん……!」

ネロ「……そうだね。明智もそれでいい?」

小衣「あ、うん」

49: 2011/01/16(日) 08:26:27.16

 会計を終え、店の外に出ると、さっきまで降っていた雪は止んでいた。
ラッキー、と心の中でつぶやく。

シャロ「そういえばココロちゃんはどこへ行くんですか? もし方向が一緒なら一緒に帰ろうよ!」

小衣「あー、私は……」

 まずい。
万一ココロの住んでいるボロアパートを見られでもしたら、社長だって嘘がばれる。

小衣「あ、アンタはどうなのよ?」

シャロ「あたしはあっちですー」

 やばい、私と同じだ。
じゃあ嘘ついて遠回りしてから帰るか。

ネロ「ちなみにボクはあっち」

エリー「私とコーデリアさんは……そっちです」

 って、なんでどっちの方向にも誰かしらいるのよ……。

50: 2011/01/16(日) 09:05:41.49

 仕方がない、とりあえず正しい方向を答えよう。
もし帰り道が最後まで私と一緒のようなら、その時は適当に嘘をついて別れればいい。

小衣「私の家はあっちよ」

シャロ「わーい、ココロちゃんあたしと同じだ!」

小衣「不本意ながらね」

ネロ「ちぇっ、ボクだけ一人かー」

シャロ「まあまあネロ」

コーデリア「うううぅ……」

シャロ「っと、立ち話してたらコーデリアさんがきつそうですね」

エリー「それじゃあ……また明日。明智さんも……ま、また機会があったら……」

ネロ「そだね。社長だから忙しいかもしれないけど、予定が合えばまた今日みたいに騒ごうよ」

小衣「しょーうがないわね!」

51: 2011/01/16(日) 09:10:21.39
ネロ「じゃあねー!」

エリー「う、うん。ばいばい」

コーデリア「お花畑~」

 三人は私達と別れ、それぞれの帰路へとついた。

シャロ「それじゃああたし達も帰ろうか」

小衣「そうね」

 私達も歩き始める。

52: 2011/01/16(日) 09:19:34.03
シャロ「今日は楽しかったね!」

小衣「そうー? 私は久々にアンタなんかの顔を間近に見る羽目になって最悪の気分だったわ」

シャロ「またまたぁー」

 昔のような掛け合いをしながら歩みを進める。

シャロ「ねえココロちゃん」

 シャーロックが不意に冷めた声を出した。

小衣「ん?」

シャロ「社長さんっていうの……嘘、ですよね?」

55: 2011/01/16(日) 09:32:30.79
小衣「う、うう、嘘じゃないわよ!」

シャロ「いいえ、嘘です」

 シャーロックはそう言い放った。
つぶらな瞳があたしを捉える。

シャロ「だってココロちゃん……なんだか辛そうだったから……」

小衣「はっ、話にならないわね!」

 私はシャーロックを置いていこうと小走りになった。
だけどそれに合わせてきているのか、コイツの足音は私とつかず離れずの位置を保ち続ける。

シャロ「別に嘘をついたことを責めたりなんてしません! あたしはただ……」

小衣「ついてこないでよ!」

 気づけば私は全速力で走っていた。
しかし全く引き離せる様子は無い。

56: 2011/01/16(日) 09:42:04.64
小衣「はあっ、はあっ……はあっ……」

 日ごろの運動不足が祟ったか、すぐに体力の限界がきた。

シャロ「ココロちゃん!」

 対するシャーロックは、声から察するに全然体力を消耗していないようだ。
怪盗を追いかけまわすうちに体力が付いたのだろう。

小衣「くそっ、くそっ! くるなったらぁ!」

 そう毒づきながら、重たい足を動かす。
と、後ろから細い腕が私に絡みついてきた。

シャロ「お願いココロちゃん。何も話さなくていいから……逃げないで」

小衣「……」

58: 2011/01/16(日) 09:53:52.42
シャロ「何があったかなんて無理に聞き出すつもりはありません!
      でもあたしは……ココロちゃんのこと、放っておけなくて……」

小衣「シャーロック……」

シャロ「あたしにできることなんてたかが知れてるのかもしれないけど、
      少しでもココロちゃんのためになりたくて……いてもたってもいられなくて……」

 こうして人の純粋な好意に触れるのは何年ぶりだろうか。
嬉しい、のだけど、その反面……、

シャロ「ココロちゃん……?」

 この10年間、色々な人に騙されてきた。
手酷く裏切るような相手こそ善人面して近づいてきた。
シャーロックの好意に甘えたい気持ちは正直ある。
でも、その好意を信じることが怖くて仕方がない。

60: 2011/01/16(日) 10:05:04.12
小衣「ここ、ろは……ココロは……」

シャロ「大丈夫だよ……」

 ぎゅうっと、私を抱きしめる力が強くなる。

シャロ「あたしはいつだってココロちゃんの味方だよ」

小衣「シャ……ロッ…ク……」

 涙がボロボロと零れだす。

小衣「嘘ついて……ごめっ……なさっ……」

シャロ「そんなこと気にしなくていいんだよ」

小衣「本当の私は……全然、駄目でぇ……」

 嗚咽で言葉が上手く紡げない。

シャロ「そうだ!」

 シャーロックが急に明るい声をあげた。
そして私を抱き締めていた手をほくと、正面に回り込んでくるっとこちらを向く。

シャロ「ね、ココロちゃん。今からあたしのお部屋に来ない?」

63: 2011/01/16(日) 10:20:26.46
小衣「いっ、今から……行ったりなんかして……いいの……?」

シャロ「うん。ココロちゃんさえよければ来てほしいな」

小衣「分かった……。じゃあ、行く……」

シャロ「よかったぁー!」

小衣「シャーロック……」

シャロ「なんですか?」

小衣「ありがとう……」

 シャーロック相手に素直にお礼を言えた自分に驚いた。
昔はどうしても憎まれ口ばかり叩いてしまったというのに、
こうなって初めて素直になれるなんて皮肉なものだ。

シャロ「はい!」

 シャーロックは嬉しそうに返事をすると、私の右手を引っ張ってきた。
伝わってくるぬくもりが心地いい。

シャロ「シャロの家はこっちですよー」

64: 2011/01/16(日) 10:43:48.18

 二人手を繋ぎながら歩く。
明日の仕事何時からだっけなー、もう休んじゃおうかなー……。

シャロ「私の家はここですよー」

 シャーロックが住んでいるのはそれなりに高級そうなマンションだった。

シャロ「7階っと」

 エレベーターに乗り、彼女が住んでいるらしい7階へ。
7階に上がるまでの間、狭い密室で二人きりというのは、なんだか少し落ち着かなかった。
少しして、エレベーターが止まる。

シャロ「さ、行きましょう」

小衣「う、うん」

 エレベーターを降りてから、数部屋の前を通り過ぎる。
と、シャーロックが立ち止まった。

シャロ「ここです。今鍵を開けるので待っていてくださいねー」

66: 2011/01/16(日) 10:54:46.14

 シャーロックの部屋は淡いピンクと白を中心にコーディネートされていた。

小衣「もしかしてこの部屋、カマボコをイメージしてるとか?」

シャロ「あったりー! すぐに当てちゃうなんてココロちゃん凄いね!」

小衣「だってアンタ……カマボコが好きだし」

シャロ「わあっ! あたしがカマボコ好きだってこと覚えててくれたんですか!?」

小衣「う、うん」

シャロ「なんか嬉しいです! ……あ、そこに腰かけていてくださいね。お茶入れてきますから」

 シャーロックは顎でソファーを指した。

67: 2011/01/16(日) 11:13:53.76

小衣「なんか本当にありがとね」

シャロ「何がですかー? あ、はい、お茶です」

 シャーロックは湯呑を私に手渡すと、すぐ隣に腰かけた。

小衣「上手く言葉にできないけど……ココロのこと、気にかけてくれて……」

シャロ「いいんですよー。だってあたし、ココロちゃんが大好きですから!」

小衣「シャーロック……」

シャーロックは邪念のない笑顔を浮かべる。
私もつられて笑顔になってしまった。

73: 2011/01/16(日) 13:14:14.04
シャロ「ココロちゃんは……」

小衣「ん?」

 シャーロックが珍しく口ごもった。
数秒の沈黙の後、意を決したような表情を浮かべて口を開く。

シャロ「ココロちゃんはあたしのこと好き……?」

 そう尋ねてきた彼女の顔は何故か赤らんでいた。
質問の意味を、なんとなく深読みしてしまう。

小衣「私は……、」

 私には別にそういう気があるわけではなくって。
考えすぎだとは思うけど、もしこの質問に深い意味があった場合、うかつに"はい”と答えるのはきっと危険で。
でも、絶対にシャーロックに見捨てられたくないという想いも持っていて。

小衣「好きよ。……友達として」

 考えた末に導き出した答えは、えらくひよったものになってしまった。

74: 2011/01/16(日) 13:28:53.20
シャロ「そっかぁ、ありがとうココロちゃん」

 どうにか質問をクリアできたかな?
とりあえず話題を転換しよう。

小衣「そうそう。話は変わるんだけど、今日ニュースでアンタ達のことやってたわよ」

シャロ「ココロちゃん見てくれたんですか!?」

小衣「ええ。アンタの夢……確か、立派なお爺ちゃんのような探偵になる、だったかしら?
     その夢、掴めたみたいね」

シャロ「あはは、私なんてまだまだですよー! それに……」

小衣「それに?」

シャロ「確かに昔のあたしの夢はココロちゃんの言うとおりでしたが、
      10年の内にあたしの夢は全然違うものになったんですよ」

78: 2011/01/16(日) 13:46:20.83
小衣「夢が変わった?」

シャロ「うん。夢だったはずの、立派な探偵になるって目標。
      これがいつの間にか、夢を叶える為の手段になっちゃってたんだ。
      ……あっ、これコーデリアさん達には内緒だよ?」

小衣「じゃあ今のアンタの夢って一体何なの?」

シャロ「もう叶ったよ」

 シャーロックがこちらに擦り寄ってきた。
肩と肩が触れ合う距離にまで接近する。

シャロ「ココロちゃんにもう一度会いたい、それが夢だったから」

小衣「へっ……?」

シャロ「ココロちゃんがいなくなっちゃってね、本当に悲しかったんだよ?
      あたし子供だったから、どうすればいいのかも分からず、毎日泣き晴らしてた」

 でもね……、と、言葉を繋ぐ。

シャロ「あたしが立派な探偵になったら、そしてそのニュースがココロちゃんの耳に届いたら、
     もしかしてココロちゃんの方から会いにきてくれないかなって、そう考えて……」

小衣「……」

シャロ「それからすっごく頑張ったんだよ。
      なんとかトイズを取り戻して、毎日ヨコハマ中を駆けずり回って……」

79: 2011/01/16(日) 14:18:34.39
( ;∀;)イイハナシダナー

86: 2011/01/16(日) 16:18:09.21
小衣「どうしてアンタはそんなにココロのこと……」

シャロ「さっきココロちゃんはあたしのこと友達として好きって言ってくれたよね」

小衣「う、うん」

シャロ「凄く嬉しかったよ。でもね、頭のいいココロちゃんなら薄々気付いてるかもしれないけど……」

 シャーロックがもたれかかってきた。
彼女の頭が、あたしの肩に置かれる。

シャロ「あたしの好きはココロちゃんと違うんだ」

小衣「違うって、それはその……」

シャロ「うん。恋愛的な意味で好きなんだよ」

小衣「いっ、いや、だけど! アンタ女でしょう!? おかしいじゃないそんなの!」

シャロ「おかしい、か。そうなのかもね」

 シャーロックは自嘲気味に笑ってみせる。

シャロ「分かってる。でも、好きだって気持ちは自分じゃどうしようもないよ。
      大事だった夢がどうでもよくなるぐらい、あたしはココロちゃんが好きなんだから」

90: 2011/01/16(日) 16:30:36.57
シャロ「やっぱりこういうのは気持ち悪い?」

小衣「……」

 けっして気持ち悪いということはなかった。
私が今でもシャーロックのことを友達として好いているからだろうか。
だけど、彼女の気持ちにこたえられる気もしない。

小衣「ご、ごめん、私は……」

シャロ「そっか……振られちゃった」

 シャーロックは小さく舌を出すと、私にもたれていた身体を起こした。
そして、

シャロ「うっ、ううっ……うううっ、うぁぁ……」

 大声で泣き始めた。

91: 2011/01/16(日) 16:38:45.43
シャロ「ごめっ……ココ…ちゃ……。泣くつもり……なかっ……けど……」

小衣「シャーロック……」

 考えてもみれば……。
今の話が本当なら、シャーロックは10年もココロのことを想い続けてくれていたということになる。

シャロ「う、ぐすっ、ううぅ……」

 15才から25才。
たぶん、普通の女が一番恋愛ごとに走る時期を、全部ココロの為に。
そう思うと、とてもこのまま泣かせておけなくなった。

95: 2011/01/16(日) 16:47:24.61
小衣「シャーロック……」

 今度は私の方からシャーロックを抱きしめる。
彼女は一瞬きょとんとした顔を浮かべると、すぐに顔を真っ赤にした。

シャロ「こ、ココロちゃん……?」

小衣「私もシャーロックのこと大好きよ」

シャロ「ココロ……ちゃん……。う、あぁぁ……」

 シャーロックは私の胸に顔をうずめた。

シャロ「ココロちゃん大好き……大好き……」

 私は……、同情心からこんなことをしている自分に、どうしようもない嫌悪感を募らせていた。
シャーロックはこんなにも真っ直ぐに向き合ってきてくれているのに、ココロは……。

98: 2011/01/16(日) 17:01:17.55
――――


シャロ「えへへっ、たくさん泣いたら疲れちゃった」

 私の膝の上にごろんと頭を乗せて、シャーロックがそう笑う。
膝枕ってする側も意外と心地いいものなんだなあ……。

シャロ「ね、ココロちゃん」

小衣「ん?」

シャロ「優しい嘘をついてくれてありがとね」

 ああ、そうだった。
そういえばコイツにはさっきも嘘を見破られたんだった。
全部お見通し、か。

小衣「ごめんねシャーロック」

シャロ「ううん、謝らなくていいよ。ただ……」

 顔を赤らめるシャーロック。

シャロ「もう少しだけ膝枕していてくれる?」

小衣「うん、そんなことでいいなら……」

101: 2011/01/16(日) 17:10:46.45
シャロ「ありgとねココロちゃん。……はぁー。それにしてもココロちゃんの膝枕は気持ちいいね……」

小衣「そんなの誰の膝だって一緒じゃない?」

シャロ「ううん。例えばコーデリアさんの膝枕とはまた感じが違うよ……」

 ……あれ?
コイツがコーデリアに膝枕してもらったって知って、なんだか少し胸が痛んだ。

シャロ「あのねココロちゃん。これはもしもの話なんだけどね」

小衣「ん?」

シャロ「もし、もしもだよ。ココロちゃんがよければ……あたしとルームシェアしない?」

小衣「ここで一緒に暮らすってこと?」

シャロ「ここでもいいし、ココロちゃんのとこでもいいし、どこか新しい部屋でも。
     なんだったら家賃はあたし一人が払ってもいいよ。だから……、もしよかったら……」

108: 2011/01/16(日) 17:22:55.07

 ルームシェア、か。
考えたこともなかったな。
でも……、すぐ近くに気軽に話せる相手がいるって環境は、私にとっても凄く有り難いかもしれない。

小衣「いいわよ、一緒に住みましょう。部屋はここでいいわ」

シャロ「ココロちゃん!」

小衣「あと家賃はちゃんと半額払うから。そこはきちんとしないと」

シャロ「大丈夫ですか? ここ月額12万しますよ?」

小衣「げげげ月額12万!? 半分にしても今の部屋の倍!?」

シャロ「あはは……、じゃあ3万でいいですよ」

小衣「ご、ごめん……」

シャロ「いいえー。あたしはココロちゃんが傍にいてくれるなら、それだけで満足です!」

112: 2011/01/16(日) 17:38:26.30
シャロ「ところでココロちゃん、今日はこれからどうしますか?
     服なら貸せますし、歯ブラシも旅行用のでよければ新品がありますけど」

 どうしようかな……。
このまま泊まっていきたい気持ちもあるけど、でもそうすると化粧が……。
これもシャーロックから借りる? いやでも、化粧って貸し借りするものじゃないのかな?
まあ私の部屋はすぐ近くだから、朝さっと戻ればそれでいっか。

小衣「じゃあここに泊まらせてもらうわ」

シャロ「わーい! おっとまーり、おっとまーり! それじゃあたし、お風呂のお湯はってきますね!」

小衣「……」

 シャーロックが立ち上がり、膝の上から頭の重みと温かみがなくなる。
なんだか妙に物足りなくて落ち着かなかった。

115: 2011/01/16(日) 17:56:29.21
――――


シャロ「入れてきましたー。10分ぐらい待っててくださいね」

小衣「うん、分かった」

シャロ「それにしても夢みたいです! こうしてココロちゃんが傍にいるなんて、シャロは幸せです~」

小衣「……アンタ私のどこがそんなにいいの?」

シャロ「全部ですよ。見た目も中身も、ちょっと強がりなとこも本当は優しいところも、全部全部」

 誰かに褒められるのなんて何年振りだろう……。
自尊心も何もかも枯れ切っていた筈なのに、シャーロックと話しているとだんだんと元気が湧いてくる。

小衣「なんか、アンタに会って救われたわ」

シャロ「はずみで惚れちゃったり?」

小衣「それはまだ」

シャロ「そっかー……。って、まだ!? まだってことは、もしかしていつかはメイビー!?」

小衣「ちょ、落ち着きなさいよ! ……分かんないわよそんなこと」

シャロ「そう、ですよね……。でも頭ごなしに否定されなかっただけでも嬉しかったよ」

117: 2011/01/16(日) 18:22:12.19
シャロ「さて、そろそろお湯も溜まったかな。ココロちゃん先に入ってきていいよ」

小衣「ありがとう。じゃあお言葉に甘えるとするわね」

シャロ「うん。いってらっしゃーい」

 えーと、風呂場はここ……かな?
そういえば服のサイズは合うのかしら。
私と違ってアイツは全然身長伸びてないようだけど……。
まあ寝巻ならなんとかなるか。

小衣「……って、うわっ、風呂でかっ!」

 足の伸ばせる浴槽があるなんて。

123: 2011/01/16(日) 18:51:16.77

 浴槽へ向けられている蛇口の栓を締め、代わりにシャワーを出す。

小衣「つめたっ!」

 うっかりして出初めの冷たい水を思い切り浴びてしまった。

「大丈夫ですかココロちゃーん?」

小衣「ええ。ちょっと水に当たっちゃっただけだから!」

「それならよかったですー」

 ……ん?
ちょっと待って、どうしてこんな近くからシャーロックの声が。

シャロ「それじゃあ、おじゃましまーす」

 ドアが開く音ともに、背中に風呂場の外の冷たい空気が流れ込んできた。
後ろに振り返ると、やはりと言うべきか、一糸まとわぬ姿のシャーロックがそこにいた。

小衣「しゃしゃシャーロック!?」

シャロ「一緒に入ろう、ココロちゃん!」

小衣「一緒にって……まあ、もう手遅れか」

129: 2011/01/16(日) 20:27:18.90
シャロ「しかしココロちゃん大人っぽくなりましたねー」

小衣「アンタが子供体型のまますぎるのよ!」

シャロ「あうぅー、それは気にしてるから言わないでくださいー」

 そう言ってシャーロックが頬を膨らませた。
本当に昔との変化が少ないなと改めて思う。

シャロ「こーころちゃん!」

 突然、シャーロックが抱きついてきた。
裸で同性に抱きつかれているというのに違和感は特に湧かない。

シャロ「ごめんね、騙すような形で二人でお風呂に入っちゃって」

小衣「はあーっ、今更言われてもね。つーかそうやって抱きついてるあたり、本当はあんま反省してないだろ」

シャロ「ばれちったー」

小衣「まったくもう……」

133: 2011/01/16(日) 20:41:36.88
シャロ「でもね、本当にココロちゃんが嫌ならいますぐにでも出ていくよ」

小衣「別に嫌って訳じゃないけど……」

シャロ「よかったー!」

 満面の笑みを浮かべるシャーロック。
子供の頃はなんとなく斜に構えて見て馬鹿にしていたその笑顔だけど、今改めて見ると……。

小衣「……」

シャロ「あれ? ココロちゃん顔が赤いよ?」

小衣「だっ、抱きつかれてるから暑っ苦しいのよ!」

シャロ「えーっ、本当ですか? 実はあたしに見とれていたとか!」

小衣「……」

 図星なので言い返せない。

シャロ「えっ、あれ? も、もしかして本当に?」

 恐らく本人も冗談のつもりで言ったのだろう。
しかし彼女が言ったことは紛れもない事実。
そのことに気づき、私に続きシャーロックまで赤面して黙りこくってしまった。

138: 2011/01/16(日) 21:02:50.35
小衣「ねえシャーロック……」

シャロ「うん……」

小衣「私さ、もっとアンタのこと好きになりたいな」

シャロ「好きになりたい……?」

小衣「そ。今でも好きだけどさ……、アンタがいうような好きに気持ちをシフトしていけたらなって」

シャロ「……」

小衣「だからちょっと顎を上げて」

シャロ「顎? こ、こうですか……?」

小衣「うん。で、目ぇつぶって」

シャロ「は、はい……」

141: 2011/01/16(日) 21:09:50.38
 私がキスしようとしている、シャーロックもそう悟ったのだろう。
少しこわばった表情を浮かべながらも大人しく指示に従い、唇を少し突き出してきた。
そんなシャーロックに向け、私は……、

小衣「なーんてね!」

シャロ「いたっ!?」

 デコピンをした。

シャロ「ひ、ひどいで―――んんっ!?」

 抗議の声を唇で塞ぐ。
キスの前にデコピンをしたのは、こんなロマンチックさの欠片もないキスの方が私達にはあっていると、そう感じたからだ。

シャロ「よかったんですか……? あたしなんかとこんな……」

小衣「いいんじゃないの? だって今、どきどきしてるし……」

シャロ「ど、どきどき……。そっか、ココロちゃん、あたし相手にどきどきしてくれてるんだ……」

 シャーロックは再び私に抱きついてきた。

シャロ「受け入れてくれてありがとう、ココロちゃん」

146: 2011/01/16(日) 21:22:12.64
 二人で抱きしめ合う。
成長した今の私からすると、シャーロックの小柄で華奢な体はとても頼りない。
でもその頼りなさが愛おしい。

小衣「なんなのかしらね。結局私もシャーロックのこと、知らず知らずのうちに意識してたってことなのかな」

シャロ「そっか……。今日ココロちゃんに会えて本当に良かったよ」

小衣「私もアンタと再会できてよかった」

シャロ「ところでココロちゃん」

小衣「ん?」

シャロ「もう一度……、怪盗を追いかける気はない?」

151: 2011/01/16(日) 21:39:00.04
シャロ「ココロちゃんが今何をしているのかは知らないけど……。
      多分、嘘をつくぐらいだから、現状に満足していないんだよね?」

小衣「そう、かもしれないわね……」

シャロ「だったらもう一度あたし達と頑張ってみない?
      G4として怪盗を追いかけていたころのココロちゃんは、やりがいを感じているように見えたよ」

小衣「無理よ。トイズもない、体力もない、若さを売りにできる時期も過ぎつつある。
     こんな私に怪盗を追いかけることなんて……」

シャロ「またまたー。天才美少女らしくない発言だよ、ココロちゃん」

小衣「天才……?」

 そうだ、自信を失って卑屈になってすっかり意識の外に出ていたけど……。
私はこれでもIQ13不可思議の天才だった。

小衣「なれるかな、アンタの力に?」

シャロ「はい! ぜひミルキィホームズの頭脳になってください」

小衣「分かった……。もう一度、頑張ってみる」

シャロ「そのいきです! よっ、天才美少女!」

小衣「ごめんシャーロック。気持ちは嬉しいけど流石にこの年だし美少女ってのは止めて」

シャロ「ええーっ。あたしあれ好きだったのになぁ、天才美少女明智小衣! っての」

156: 2011/01/16(日) 22:00:13.78
――――


小衣「ああーっ、のぼせたー……」

シャロ「あはは、ちょっと長湯しすぎたかな」

小衣「うう……考えてみれば怪盗云々の話は風呂出てからしてもよかったんじゃないの」

シャロ「さーて、髪乾かさないと」

小衣「誤魔化すなコラ」

  シャーロックは私の言葉を聞き流すと、洗面所から持ってきたドライヤーで髪を乾かし始めた。

小衣「……」

 今日は本当にいろいろなことがあったな。
少し疲れた。

小衣「ふあぁー」

 なんだか急激に眠くなってきた……。

157: 2011/01/16(日) 22:10:17.37
――――


 目が覚めて真っ先に感じたのは、誰かに抱きつかれているという感触だった。
寝起きの頭でも分かる、シャーロックだろう。
寝ている間にベッドまで運んでくれたのか、私はきちんと布団に寝かされていた。

小衣「ありがとうシャーロック」

シャロ「ココロちゃん? 気が付いたんですか?」

小衣「って、アンタ起きてたんだ」

シャロ「うん。ココロちゃんをギュっとしてたら、緊張して眠れなくって」

小衣「だったら抱きついたりしなきゃいいじゃない」

シャロ「えーっ。せっかくココロちゃんが傍にいるんだからこれぐらいしないと勿体ないよ」

160: 2011/01/16(日) 22:29:05.91
シャロ「ココロちゃんはさ、したこと、ある?」

小衣「し、したこと!? それってその、そういうことを?」

シャロ「うん。あたしはさ……まだなんだ。もう25なのに。引くよね、えへへ……」

小衣「んなことないって。私も似たようなもんだし……」

 私は人間不信気味だったから、必要以上に他人と関わることを避けていた。
その結果の未経験。
理由は格好悪いが……こうしてみると、これで良かったのかもしれない。

シャロ「ねえ……今からしてみる?」

小衣「今からっ!?」

シャロ「……なーんてね。今日はもう疲れたでしょ? このままゆっくり寝よう」

小衣「あ、そ、そうね」

 などと答えたものの、今度はこちらがどぎまぎしてしまってなかなか寝付けなかった。

171: 2011/01/16(日) 22:52:02.52

 そうこうしている内に、シャーロックがすやすやと寝息をたてはじめた。

小衣「シャーロック? 寝ちゃったの?」

シャロ「……」

 そっか、眠っちゃったんだ。
ということは……、今、彼女は完全に無防備な訳で……。

小衣「だ、駄目よ駄目よ! 寝ているシャーロックに何かするなんて!」

シャロ「……」

 でも……。
もっとシャーロックに触りたいという気持ちが、私の中で鎌首をもたげる。

小衣「ちょ、ちょっとだけなら……」

 私は誰にともなく言い訳をすると、シャーロックの頬に手を当てた。
すべすべとした感触が伝わってくる。

173: 2011/01/16(日) 23:09:49.82
小衣「……」

 もう少しぐらい……。
今度はもっと大胆に、シャーロックの着ているパジャマの首元から、そっと手を差し込んでみた。
薄い脂肪に指が触れる。

シャロ「……スケベ」

いきなりシャーロックが声を発したものだから、思わずビクッとなって手を引っ込めてしまった。

小衣「な、ななななっ!? ちち違うのよこれは!」

シャロ「何が違うの?」

小衣「そ、それはその……」

シャロ「ココロちゃん。あたし、自重しなくていいのかな」

小衣「え? 自重……?」

シャロ「あたし本当はもっとココロちゃんと触れ合いたかったんだよ。
     でもココロちゃんは疲れているようだったし、いきなり変なことしたら困らせちゃうかなって」

小衣「……」

シャロ「だけど……、ココロちゃんが求めてくれるなら、我慢する必要はない、よね……?」

181: 2011/01/16(日) 23:30:31.95
小衣「うん……私ももっとアンタに触れたい」

シャロ「ありがとうココロちゃん。大好きだよ」

 シャーロックの吐息が首筋にかかる。
扇情的な生温かさに背筋がぞくっとなった。
そうこうしている間にも、彼女はもぞもぞと身体を動かし、衣服を脱いでいく。

210: 2011/01/17(月) 12:40:15.34
――――


 翌朝。
一度短い睡眠をとっていたからか、シャーロックよりも早く目が覚めた。
私に抱きつきながら眠っている彼女の頭を軽く撫でる。


ヴー、ヴー……


 と、ベッド脇から携帯のバイブ音が聞こえてきた。
見ると、シャーロックのものと思しきピンクの携帯が光を放ちながら揺れている。
どうも電話がかかってきたようだ。

小衣「ちょっとシャーロック、起きなさい!」

シャロ「むにゃむにゃ……あと3分……」

小衣「んなベタなこと言ってないで!」

 大声を出して揺さぶっても目を覚ます気配が無い。
仕方ない、背面ディスプレイで名前を確認してみて、ミルキィホームズの誰かだったら代わりに出ておくか


知らない名前だったらそのまま携帯を放置して、もう一度シャーロックを起こしにかかろう。

211: 2011/01/17(月) 12:41:12.85
小衣「えーと、どれどれ……」

 ああ、なーんだ、あの高卒上司からか。





……えっ? 高卒……上司……?

212: 2011/01/17(月) 12:42:36.74

 どうしてアイツと高卒上司が知り合いなの……?

小衣「……」

 何か見てはいけないものを見てしまったような気がする。
でも……、気になる。
この二人にどういうつながりがあるのか、物凄く。
まさか男女の関係ということは……、ないわよね、昨晩ちゃんと血が出ていたし……。

シャロ「あれ? 電話ですかぁ……?」

小衣「あ、お、おはようシャーロック! そうみたいなの」

シャロ「そっかあ」

 シャーロックは携帯電話を確認すると、ベランダの方へと出ていった。
そしてそれから一分も経たない内に通話を終え、再び室内へと戻ってきた。

シャロ「間違い電話だったみたいですー」

小衣「そ、そうなんんだ。朝っぱらから迷惑な話よねー」

 間違い電話……、本当にそうなのか?
シャーロックは私に何かを隠している、そんな予感がした。

213: 2011/01/17(月) 12:44:06.53
小衣「そんじゃとりあえず、私は一旦自分の部屋に戻るわ」

シャロ「あ、その前に連絡先交換しようよ!」

小衣「そうね」

 赤外線機能を使い、アドレスと番号を交換する。

シャロ「ありがとうございます! そうそう、あと渡したい物が……」

 そう言って彼女はごそごそと鞄を探りだした。

シャロ「あったあった。はい、この部屋の合い鍵!
     同棲するんだからこれは渡しておかないとね!」

小衣「うん。ありがとう」

237: 2011/01/17(月) 20:56:06.78
――――




小衣「おはようございます……」

高卒上司「はざーっす」

 今日の高卒上司はいやに機嫌がよさそうだった。
軽薄そうなにやにやとした表情を浮かべ、パソコンと向き合っている。
机の上にはプルタブの開いた缶コーヒーが置かれていた。

高卒上司「あー、そういやっすね、明智さん。ちょっと話があるんですが」

 彼は缶コーヒーに口を付けつつ、私にそう話しかけてきた。
嫌だな……、また仕事押し付けられるのかな……。

238: 2011/01/17(月) 20:57:20.07
高卒上司「明智さんを雇う時に取り決めた契約。どんな内容だったか覚えてます?」

小衣「3か月ごとに互いの合意で雇用契約を更新する、とかなんとか……」

高卒上司「あちゃー、やっぱちゃんと契約書読んでなかったかー」

 高卒上司は大袈裟に顔をしかめた。
しかし口元は相変わらずにやにやしている。

小衣「何か間違っていましたか?」

高卒上司「確かに契約更新の合意を取る時期は、明智さんの言う通り3ヶ月ごとにやってきます」

小衣「ええ……」

高卒上司「でも明智さんとの契約には、こんな約束も盛り込まれてるんすよ。
      明智さんを首にするかどうか判断できる機会が、雇用者側に対し、契約更新の場とは別個に与えられる、ってね」

小衣「えっ!? そ、そんな規約どこにも……」

高卒上司「やー、そう言われてもね。そういう契約になってることは事実なんで」

 被雇用者を会社側が一方的に解雇できる機会を定めた契約?
そんなの、おかしい……。
労働法にも引っかかりそうな感じがする。
それは分かっているけど、シャーロックと違いコイツの前では、昔のような強気な自分になれない……。

239: 2011/01/17(月) 20:59:22.19
高卒上司「んでっすね。こちら側がそちらさんを解雇するかどうかを決められるタイミングってのが、
      ちょうど一月ごとに巡ってくることになってるんです」

小衣「一月……、きょ、今日がそのタイミングってことですか……?」

高卒上司「そうそう。で、雇用を続けるかどうかなんすけどね」

 ここまでくれば、何が言いたいのかは分かる。

高卒上司「いやー、明智さんには申し訳ないんすけど、ちょっと貴女ウチには向いてないと思うんでー」

小衣「ま、待って下さい! 頑張りますから首にしないでください!」

高卒上司「いやホントすみませんね。これはもう決定事項なんすよ」

 百歩譲って、こんな契約が認められるとしてもだ。
こんな土壇場になって契約打ち切りを宣告するなんてこと、許される筈が……。

高卒上司「何か言いたいことでも?」

小衣「い、いえ。ない……です……」

高卒上司「あー、給料なら安心してください。よく知らないっすけど、派遣元の会社から振り込まれる筈なんで」

240: 2011/01/17(月) 21:00:10.27
高卒上司「じゃあそういうことなんで、さっさと荷物まとめちゃってください」

小衣「……」

 せっかく久しぶりに雇ってもらえたのに、また首だなんて……。
これからどうしよう……。

高卒上司「あっれー? もしかして明智さん泣いてる?」

小衣「なっ、泣いてません……」

高卒上司「やっべ、ウケる! あ、写メ撮っていいすかー?」

小衣「止めてください……」

高卒上司「まあまあそう言わず! はい、チーズ」

 涙目の私をパシャパシャと撮り続ける高卒上司。
凄く悔しいのに、結局私には強く制止できない。

高卒上司「あっはっは、やっべ、笑いすぎて喉渇いたわ」

 高卒上司は机の上の缶コーヒーに手を伸ばし、ごくごくと喉を鳴らしてそれを飲んだ。

241: 2011/01/17(月) 21:01:45.11
小衣「……」

 改めて荷物を整理してみると、オフィスに置いてある私物はごく僅かしかなかった。
ものの10分ほどで全ての私物を鞄に詰め終える。

小衣「失礼します」

 私はそう言って高卒上司に頭を下げた。
しかし返事はない。
ああ、最後までこうか、そう思っていっそう気分を暗くした、その時、

高卒上司「あっつぅ!?」

 高卒上司が素っ頓狂な声を上げた。

242: 2011/01/17(月) 21:02:34.49
高卒上司「やべっ、熱っ!? はぁ!? なんだこれ!? ちょっ……」

 パニックに陥りながらも、口や喉を押さえ、辛そうな表情を浮かべる高卒上司。
予期せぬ事態に何が何だか分からなくなる。

小衣「だ、大丈夫ですか……?」

高卒上司「お、おぉぉ……」

 高卒上司は返事をする余裕も無さそうだった。
全身が大きく痙攣し始める。
彼は座っていた椅子から転げ落ち、勢いよく床に倒れ込んだ。
床に落ちた高卒上司は、なおも身体をがくがくと揺らし続け、呻き声をあげる。

高卒上司「あ……あがっ、げ、ぐぁぁ!」

 一際苦しそうな声を出すと、床中に吐瀉物をぶちまけた。
吐き終えてからも症状はますます悪化しているようで、吐瀉物が体に付着するのも気にせずに、ばたばたとのた打ち回っている。

243: 2011/01/17(月) 21:03:31.59
小衣「きゅ、救急車を呼ばないと……」

 私は携帯電話を取り出して119番を押した。
しかしそうやって助けを呼びながらも、頭の中の冷静な部分ではこう考えていた。
ああ、これはきっと手遅れだな、と。

高卒上司「い……き、が……」

 私が昔学んだ知識が確かなら……。
この症状は、トリカブトに含まれるアコニチンの急性中毒によるものだ。

244: 2011/01/17(月) 21:05:39.52
――――



 高卒上司は救急車が到着する前に氏亡した。
原因は、アコニチンの中毒からくる呼吸不全。
警官から聞いたところ、どうもコーヒーに混入されていたようだ。

 現場にいた人間は私と高卒上司のみ。
しかも私には、不当解雇されたという一応の殺害動機がある。
間違いなく自分が第一容疑者となるだろう、そう覚悟していたのだが……、

小衣「監視カメラ……?」

警察「ええ。防犯上の理由からか、あなたのお務めになっていた職場には防犯カメラがしかけられていたようです。
     そしてカメラに映された映像を検証したところ、あなたは怪しげな挙動を見せていませんでした」

 思わぬ要素に救われた形となった。
そのことは幸いだと言えるが……、拭いきれない大きな違和感が胸の内に湧く。

小衣「……」

 果たして、高卒と派遣だけで一つのオフィスを回すような会社が、
防犯カメラなどという高価な代物をわざわざ室内に設置するものだろうか。

245: 2011/01/17(月) 21:06:42.10

 そしてもう一つ大きな疑念が。
これは警察側も存分に頭を悩ませている点だと思うのだが、
高卒上司がコーヒーを口にしてから実際に氏亡するまでの間が空きすぎているのだ。

小衣「私が出社したのは……、9時少し手前」

 高卒上司がコーヒーを飲む姿は、出社してすぐに目撃している。
しかし高卒上司が実際に倒れたのは、それから約1時間後。
氏亡しない程度の微量なアコニチンしか窃取されていないのなら、それぐらい発症が遅くなることもあるのかもしれない。
だが、急性中毒を引き起こす程の量ともなると……。

シャロ「ココロちゃーん!!」

 唐突にシャーロックの声がした。
私が声に反応する前に、飛びつくような勢いで抱きつかれる。

246: 2011/01/17(月) 21:07:15.80
シャロ「心配したよココロちゃん!」

小衣「ど、どうしてアンタがここに!?」

シャロ「探偵のお仕事関係の調べ物をしに警察署にきたの!
     そしたら知り合いの刑事さんから、ココロちゃんが事件に巻き込まれたって聞いて、それで……」

小衣「そうなんだ……」

シャロ「そんなことよりココロちゃん、大丈夫なの? 氏体を見ちゃったんだよね? 気分は悪くない?」

小衣「ええ。警察時代に氏亡現場を見る機会はあったから、多少は免疫ついてたみたい」

 さすがに面識のある人物が氏亡するところは初めて見たが、
相手が相手なだけに、そういう面でのショックは少なかった。

247: 2011/01/17(月) 21:08:15.00
小衣「ところでシャーロック」

シャロ「ん?」

小衣「氏亡した人のことなんだけど……」

 私は思い切って、高卒上司のことを知らないかどうか尋ねてみた。

シャロ「あー、えーっと、聞き覚えはない……かな」

小衣「ま、そりゃそうか。そんな偶然そうそうないわよね」

 表面上そうお茶を濁すが、心の中には疑問符が浮かび上がる。
シャーロックは一体どうしてそんな嘘をつくのだろうか。

 二人の間には、時間が経つと名前を忘れてしまう程度の、薄いつながりしか存在しないのだと仮定する。
だとしても、つい数時間前に電話をかけてきた相手を存在ごと忘れるというのは、やはりおかしい。

シャロ「おーい、ココロちゃん、ココロちゃーん」

小衣「……あ、ごめん。考え事してた」

シャロ「もうっ、しっかりしてくださいよ!」

 間違いない、シャーロックは何かを知っている。

248: 2011/01/17(月) 21:10:41.15
小衣「ちょっとお願いがあるの。聞いてくれる?」

シャロ「あたしにできることならなんなりと!」

小衣「よかったら他のミルキィホームズのメンバーの連絡先を教えてくれないかしら」

シャロ「どうしてまた急に?」

 シャーロックがごそごそ鞄を探りながら聞いてきた。
もっともらしい理由を頭の中で築き上げる。

小衣「もしかしたら今後必要になる機会があるかもしれないから、忘れない内に聞いておこうって。
    それに、できればあの三人とは親睦も深めておきたいしね」

シャロ「おおっ、前向きなのはいいことです!
     それじゃ赤外線で送りますねー。まずはエリーさんから……」

 そうして私は三人分の連絡先を受け取った。
機会を見て、この三人にシャーロックのことを聞いてみるとしよう。

 いっそ大した情報が出てこないといいな。
シャーロックのことは信じたい……。
でも、今のままじゃどこか信じきれない……。

298: 2011/01/18(火) 20:47:49.53
――――


 話をしている内に、いつの間にやらお昼時になっていた。
そこで、今から二人で食事をしようということになった。
しかし昨日の飲みで私の財布はすっからかん。
とりあえずシャーロックに付き合ってもらい、ATMでお金を引き出そうと思ったのだが……、

小衣「な、何よこれ……」

 私の口座には今月分の給料が振り込まれていなかった。
契約がきちんと履行されていれば、既にもう給料は支払われている筈なのにだ。

シャロ「どうしたのココロちゃん?」

小衣「今月の給料が振り込まれてない……」

シャロ「お給料が……?」

 これはかなりまずい。
給料が入らないとすぐに生活が困窮する。

299: 2011/01/18(火) 20:49:11.80
小衣「ちょっと今から電話かけるから静かにしててね」

シャロ「うん」

 私は、携帯の電話帳を開き、派遣元の会社に連絡をしようと試みた。

機械音声『お客様のおかけになった電話番号は、現在使われておりません』

小衣「嘘でしょ……」

 そしてこの有様だ。
もしかして金を持ち逃げされたのだろうか……。

シャロ「どうしたのココロちゃん? 派遣会社に繋がらないの?」

小衣「うん……。どうしよう……、首になるわ、給料貰えないわで、生活の目処が立たない……」

シャロ「再就職先ならあるよ! ミルキィホームズ!」

300: 2011/01/18(火) 20:50:26.25
小衣「ミルキィホームズに?」

シャロ「ココロちゃん昨日言ったよね、もう一度頑張ってみるって」

小衣「確かに言ったけど、あれは半分その場の勢いだったし……」

シャロ「ココロちゃんならやれるって!」

小衣「……」

 やれるかどうかは分からないけど、確かにすぐに始められそうなことはこれしかない。

シャロ「ちゃんとお仕事に応じたお金は渡すから。ね?」

小衣「分かった……。それじゃあ私、アンタの好意に甘えさせてもらうわね」

シャロ「うん!」

 私がミルキィホームズの仲間になる、か……。
そんな展開になるなんて、10年前は思いもしなかったな。

301: 2011/01/18(火) 20:51:35.51

 ここまでしてもらって、なんだかシャーロックを疑うことがいっそう申し訳なくなってきた。
やっぱり変に探りをかけるのは止めようかな……。

 ……いや、でもちょっと待てよ。
よくよく考えてみるとシャーロックのあの言葉、おかしくないかしら。

小衣「シャーロック」

シャロ「ん?」

小衣「アンタ私が派遣やってること知ってたっけ?」

シャロ「派遣?」



『どうしたのココロちゃん? 派遣会社に繋がらないの?』


 さっきシャーロックがふと漏らしたこの一言と矛盾する答え。
本当は疑いたくないのに、彼女を疑う理由がまた増えてしまった。

302: 2011/01/18(火) 20:53:13.48
小衣「そっ、そうよね。私アンタに自分のこと何も話してなかったわよね……。
    こんなタイミングで言うのもなんだけど、実は今日まで派遣社員として働いてたのよ」

シャロ「覇権社員? なんだか凄く強そうです! なんつってー」

小衣「そりゃハケン違いだっつの! ……なんて、どうでもいっか。
    さて、さっさとお昼食べに行きましょう」

シャロ「はい! ちなみにココロちゃんは、やっぱり安めにすんだ方が嬉しいですか?」

小衣「そうね……、貯金も少ないし、その方がありがたいかな」

シャロ「それじゃあ予定を変更してうちでご飯を食べましょう!」

小衣「アンタん家で?」

シャロ「はい! あたしがココロちゃんに何か手料理を御馳走します!」

小衣「うーん……、そんなの悪くない?」

シャロ「いいからいいからー。遠慮は無し無し!」

303: 2011/01/18(火) 20:54:25.19
――――


シャロ「おまたせしました! カマボコご飯とカマボコの炒め物にカマボコスープです!」

小衣「アンタ本当にカマボコが好きなのね」

シャロ「もしかしてココロちゃんはカマボコ好きじゃなかった?」

小衣「うーん、好きでも嫌いでもないかな。……いただきまーす」

 まずはカマボコご飯から箸をつけることにした。
細かく切ったかまぼこ入りの、醤油やら何やらで味付けされたご飯みたいだけど……。

小衣「あっ、美味しい」

シャロ「気に入ってもらえてよかったー!」

小衣「アンタ料理なんてできんのね。結構意外」

シャロ「えへへ。じゃあ次はこれ試してください! はい、あーん」

 シャーロックは自分の箸でカマボコの炒め物をつまむと、それを私の口元へと運んできた。

307: 2011/01/18(火) 20:59:28.75
小衣「ちょっ、ちょっと!?」

シャロ「あーん」

小衣「……」

シャロ「あーん」

 なかなか押しが強い……。
恥ずかしい気持ちはあるが、ここは観念して口を開けるしかないか。

小衣「あーん……。うん、これもいけるわ」

シャロ「えへへ。ココロちゃんに気に入ってもらえてよかったです!」

 私のために料理を作ってくれ、美味しいと反応すると喜んでくれるシャーロック。
そんな彼女と接していると気持ちが暖かくはなるのは確かだけど……。
やはり胸の内に渦巻くモヤモヤとしたものを、今一つ拭いきれない。

シャロ「ねえ、ココロちゃん。一つ質問があるんだけどいいかな」

 シャーロックが箸を置き、真面目な顔でこっちを見てきた。
もしかして私が怪しんでいることがばれてしまったのだろうか。

小衣「なっ、何よ改まって?」

シャロ「あたし達ってさ……、恋人同士なのかな?」

308: 2011/01/18(火) 21:00:52.27
 このタイミングでくるとは予想していなかった質問だった。
だけど、きっといつかは向き合わなければならない問題だ。

小衣「お互い初めて同士で寝ていて……一緒に暮らすことになってて……」

シャロ「うん……」

小衣「恋人……なのかな?」

シャロ「そうだよね……、うん。恋人同士だよね!」

 シャーロックは目を輝かせて私の顔を覗き込んできた。
本当にココロのことを好いてくれてるんだなと嬉しくなる。
しかしその反面、それならどうして隠し事をしているんだろうという気持ちがいっそう増す。

小衣「シャーロック……。アンタ恋人相手に嘘をついたりなんてしないわよね?」

シャロ「あたしはココロちゃんのためになることしかしないよ!」

 シャーロックの返事は、質問に対する答えになっていない。
むしろ、相手のためになるならば嘘だって平気でつくと宣言しているようにさえとれる。
だけどもう一歩深く踏み込む勇気は、今の私には残っていなかった。

309: 2011/01/18(火) 21:03:09.46
――――



シャロ「さて、と。お昼も食べたことだし、そろそろミルキィホームズの活動をしてくるね」

小衣「あ、それなら私も!」

シャロ「今日はいいよ。ココロちゃん疲れてるでしょ?」

 確かに疲れていないといえば嘘になる。
私はシャーロックの気遣いに甘えることにした。

シャロ「それで、今日はちょっと美術館の警備を頼まれてて、遅くなるかもしれないんですけど……。
     ココロちゃん一人でお留守番できますか?」

小衣「子供扱いすんなっつの!」

シャロ「やだなー、冗談ですってー」

小衣「アンタの場合、本気で言ってそうだから始末が悪いのよねー」

シャロ「そーんなぁー。……おっと、なんておふざけしてる場合じゃありませんでした。
     ではでは、いってきまーす!」

小衣「いってらっしゃーい」

311: 2011/01/18(火) 21:05:58.69
 さて、これからどうしようかな。
だらだら昼寝でもして過ごすのもいいけれど……。

小衣「派遣会社のことでも調べてみようかしら」

 お金を持ち逃げするような会社なら、きっとネットでも騒がれているに違いない。
携帯でググってみよう。
少なくとも一件ぐらいは何か情報が引っかかる筈だ。
そう、考えていたのだが、

小衣「なんで一件も情報が出てこないのよ……」

 会社の持ちホームページどころか、被害者の書き込みすら見つからない。
検索ワードも色々と変えてみた。
「派遣 詐欺」、「派遣 持ち逃げ」、「派遣 夜逃げ」、などなど……。
しかしどうしても私が求めているような情報は見つからなかった。

小衣「どういうこと……?」

 ごくごく小規模の偽派遣会社がドロンしたというなら、
このように情報が一切出回らないこともあり得るかもしれない。
だが私は、トウキョウにあった派遣会社でヨコハマの職場を紹介された。
つまりこの派遣会社は、県外とのネットワークを保持できるだけの力を持っていたということになる。
そんな会社がネット上に何の痕跡も残さず消え去るなんて……。

 もしかして……派遣先もグルだったとか……?
最初からただ働きさせることが目的で……。
いや、それにしても、向こう側からすればリスクの割にリターンが少なすぎる。
そんな効率の悪い詐欺をする馬鹿はいないだろう。

313: 2011/01/18(火) 21:09:35.48
小衣「はあーっ、悔しいけど派遣のことはいったん諦めるか」

 手づまりだった。
私は大きく伸びをすると、ごろんとソファーに寝転んだ。

小衣「そういえばシャーロックって、ミルキィホームズの三人に私の連絡先を教えておいてくれたのかしら」

 うーん……。
私が見ている限りでは、そんなことしている素振りはなかったような。

小衣「一応挨拶メールでも送っておくか」


『明智小衣です。
  そっちにも話がいっているかもしれないけど、シャーロックから連絡先を教えてもらったわ。
  ちなみに私の番号は556-5656-○○○よ。
  昔は色々あったけど、よかったら仲よくしてちょうだい。
  それじゃあまた。今度機会があったら電話でもするわね』


小衣「こんなもんかな。送信、っと……」

314: 2011/01/18(火) 21:11:43.01
まだ書き溜め残ってるけど区切りが悪いからもうちょっと書いてから投下する

356: 2011/01/19(水) 17:50:49.43

 メールを送って数分後。
私の携帯に着信があった。
ディスプレイにはコーデリアの名前が表示されている。

小衣「もしもし」

コーデリア『もしもし明智さん? コーデリアよ。
        メールありがとう、さっそく登録しておいたわ。えーっと……、今から話せるかしら?』

小衣「こっちは大丈夫。つーかアンタの方こそ電話なんかしてていいの?
    美術館の警備があるんじゃ?」

コーデリア『シャロから聞いたのかしら? 確かにそういう依頼は引き受けているわ。
        でも美術館の警備は今日の夕方からだから、まだ時間はたっぷりあるわよ』

小衣「えっ……? 夕方から……?」

ユリデリア『そ。……あ、それで私から電話した理由なんだけどね。
        私としても明智さんとは、もっと濃厚に親密な関係なれたらなと思って』

『だ、駄目ですコーデリアさん! 浮気は……ダメー』

 受話器越しに小さく別の人物の声が聞こえてきた。
声色からしてエルキュールだろうか。

357: 2011/01/19(水) 17:52:28.87
コーデリア『じょ、冗談だってばエリー!』

『本当ですか……?』

工口デリア『もちろん! その証拠にほら、こんなところに手を……』

小衣「あのー、痴話喧嘩にしろ、お惚気にしろ、電話の後にしてもらえるとありがたいんだけど」

コーデリア『あっ……。おっ、おほん! 今のは何でもないわ、忘れてちょうだい!』

小衣「はぁ」

コーデリア『……さっきは変な言い方しちゃったけど、明智さんともっと仲良くなりたいと思ってるのは本当よ。
       もし何か困ったことがあったら、私でも他の三人でもいいから、遠慮なく相談してね』

小衣「困ったこと……」

コーデリア『ん!? 何々!? 何か悩みでもあるの!? お姉さんにまっかせなさい!』

小衣「実はシャーロックに関してアンタに聞きたいことがあるの」

コーデリア『うんうん』

小衣「アイツが男と一緒にいるところとか、見たことないかしら?」

358: 2011/01/19(水) 17:53:30.02
コーデリア『あらあら! そんなことが気になるなんて、もしかして明智さん、シャロのことを?』

 ここは肯定しておいた方がスムーズにいくだろう。
騙すようで申しわけないが、好きな相手に男の影が無いか案じる女を演じるとしよう。

小衣「うん……。それでその、実はさっき、シャーロックの携帯の背面ディスプレイに―――」

 私は、色々な部分をぼかしつつ、シャーロックに男から電話がかかってきたのを見たという話をした。

コーデリア『なるほど、高卒上司さんねぇ……』

小衣「何か心当たりはある?」

コーデリア『確かにシャロがそんな相手と電話しているところは私も見たことがあるわ。
        しかもその時も、わざわざ離れた位置へ移動してから電話に出ていた』

小衣「やっぱり……」

359: 2011/01/19(水) 17:54:36.91
コーデリア『でも安心して。恋人同士って感じの親しげな雰囲気じゃなかったから。
       むしろシャロにしてはえらく事務的な口調なのが印象的だったわ』

小衣「こんな質問しておいてあれだけど、どうしてシャロの電話での話しぶりまで知ってるの?」

コーデリア『えっ!?』

小衣「まさかトイズを使って電話を盗み聞きしたとか……」

コーデリア『そそそそんな筈ないじゃない! トイズを私的利用なんて、そんな探偵にあるまじき行為!
       ただ、ちょーっとお花畑に危機が迫っていないかを確かめるために、
       チラチラーッと声色をうかがっただけで、具体的な話の内容までは……』

 それって十分トイズを私的利用していることになるのでは、と思ったが、面倒なのでこれ以上突っ込むのは止めておいた。
とはいえこの場合、会話の内容まで把握しておいてくれた方が有り難かったのだが。

コーデリア『だってシャロったら、あれで意外と男性の知り合いが多いからなんだか心配で……」

小衣「シャーロックに男の知り合い?」

コーデリア『ええ。まあ、どの男性に対してもやたらそっけない話し方してたけどね。
       あの子もてやすいのかしら? 興味ない相手から一方的に言い寄られてるとか……。
       こっ、これは忌々しき事態だわ!』

361: 2011/01/19(水) 17:56:16.62
小衣「ちなみにどんな相手から電話がかかってきていたかは覚えてる?」

コーデリア『名前ぐらいなら。えーっと、うろ覚えだけど、確か―――』

小衣「そう……」


 コーデリアが羅列した名前の中に、聞き覚えのあるものが二つあった。
まず、ヨコハマの職場を紹介してきた派遣会社の社員。
そして、かつて私の会社がつぶれる原因を作った詐欺師の男。


 背筋がぞっとするのを感じた。
落ちこぼれたきっかけ。
ヨコハマに戻ってきた理由。
その両方の裏に、シャーロックの影がチラつくだなんて。
もしかして、全ての出来事の裏ではシャーロックが糸を引いて……。

362: 2011/01/19(水) 17:57:31.00

 いや、でも、シャーロックと私の再会。
これだけはまったくの偶然かしら……?

 しかし少し考えた末に、ここにも彼女が一枚噛んでいるかもしれないことに気が付く。
私には、嫌なこと――例えば残業など――があった日は、お酒でストレスを発散するという癖がある。
残業を指示した高卒上司とシャーロックの間に本当に繋がりがあったとすれば、
あの日私が飲みにいこうと思ったのも、彼女の目論見通りということに……。

小衣「そうそうコーデリア、昨日のお店にはよく行くの?」

コーデリア『いいえ、あれが初めてよ。シャロがいいお店を見つけたって言って連れてってくれたの。
       そのおかげで明智さんに会えたんだから万々歳よね!』

 やっぱりシャーロックの紹介か。

小衣「色々教えてくれてありがとう」

コーデリア『ううん。こんなことで良ければいつでも』

小衣「それじゃあまた。今度は直接会えるといいわね」

363: 2011/01/19(水) 18:00:53.29

 あの裏通りの飲み屋の存在は、2週間ぐらい前に郵便受けに入っていた“ビールのタダ券付きチラシ”を見て初めて知った。
こうやってタダ券が近所中に配られているのならさぞ混んでいるだろう。
そう思いながらも、タダの響きに釣られてお店を覗いてみると、店内は不気味なほどにガラガラで。
落ち着いて飲めるいいお店を見つけたぞと喜び、またこの店に訪れようと心に決めた訳だけど……。

 もしもタダ券付きチラシが私の家の郵便受けだけを狙って投入されていたとすれば?
それなら店内があそこまで空いていたのも納得できる。

『お金は多めに前払いするので、この券を持ってくる子がいたら、ビールを飲ませてあげてくれませんか?』

 こんな具合に店主に頼めば、一人に対してだけタダ券を発行させることも可能なんじゃなかろうか。
チェーン店ならまだしも、あの店は個人経営のようだったから、そこら辺の融通はききやすそうだ。
つまり、私があのお店を気に入るきっかけまで、つくられたものだった可能性が……







シャロ「真相は見えてきた? ココロちゃん」

 リビングの入口の方から、そんな声が聞こえてきた。

365: 2011/01/19(水) 18:02:07.03
小衣「シャー……、ロック……?」

シャロ「ごめんね。ココロちゃんがあたしのこと疑ってるようだったから、ちょっと試してみたの」

小衣「アンタ一体、私の見えないところで何をやってきたの……?」

シャロ「ぜーんぶ」

小衣「ぜ、全部……?」

シャロ「本当は隠し通すつもりだったんだけど……。
    でもここまで疑われちゃったのなら、いっそ正直に話しちゃおうと思う」

小衣「……」

シャロ「まず初めにこれだけは言っておくよ」

 シャーロックは私に歩み寄ってきた。
なんだか気圧されてしまい、私はまともに動けない。

シャロ「あたしはココロちゃんを愛してる。誰よりも、誰よりも、誰よりも。
     どの行動も、ココロちゃんを愛しているからこそのもの。そこだけは信じてね」

366: 2011/01/19(水) 18:03:13.09
――――


 昨日話した通り、ココロちゃんがいなくなってからのあたしはずっとずっと泣き続けてた。
心にぽっかり穴が空いたみたいになって、何もする気が起きなくて。
ああ、あたしココロちゃんのこと大好きだったんだなって、嫌が応にも認識させられた。
それで、これも話した通りなんだけど、有名な探偵になればココロちゃんにもう一度会えるかなって考えて。



「ここまでは全部ココロちゃんに話した内容が真実。だけどここから先が違うの」



 あたしね、実はとっくの昔に、ココロちゃんの居場所突き止めてたんだ。
その頃は……まだココロちゃんは、社長さんやってた。
すぐにでも会いにいこうとしたよ?
だけどあたしは寸前でそれを思いとどまった。

368: 2011/01/19(水) 18:05:41.93

 ココロちゃんさ、昔は上司の警視さんに気持ちを寄せてたよね。
だからココロちゃんが異性愛者だってことはあたしには分かってた。
普通に再会してもこの先両想いになれないことぐらい、よーく理解できていたんだよ。
そこでこう考えたの。



「これを機に、ココロちゃんから全てを奪えば……、頼れるのはあたしだけって状況を作れば……もしかしたら、って」



 探偵してると色々な人脈ができるんだよね。
その気になれば、それこそ危ない人とも通じることができる。
例えば……、詐欺師とか。

 そうしてココロちゃんの会社を潰した後は、しばらく大したことはしなかったよ。
ちょっと手回しして、あんまりいい仕事に就けなくしたり、そんな程度。
あ、ちなみに工作は全部男の人を介しておこなってたんだー。
これはね、少しでも異性愛が生じる可能性を失くすため。
どの程度効果があったかは分からないけど……ココロちゃん、今男の人が苦手だったりしない?

370: 2011/01/19(水) 18:10:05.17

 できるだけ早く会いたい気持ちはあったものの、ココロちゃんの心が強さを残してるうちは、
きっとあたしには頼ってくれないだろうということは確信していた。
それでまあ、凄く凄く辛かったけど、うんと耐えて、会社が潰れてから8年ぐらい待ったのかな。
そろそろヨコハマに呼び戻して再会していい時期かなって感じた。
それでね、つくったんだ、架空の派遣会社と派遣先を。

 偽派遣会社の方には、職に困っているココロちゃんに良い話を持ちかけるよう指示。
派遣先の高卒上司には、基本的には上司のふりをさせつつ、何かあればあたしの指揮に従わせてた。
偽オフィスにしかけたカメラは、何かトラブルが起きないか監視するためのもの。



「でもあの高卒上司ったらさぁ。あたしのココロちゃんにひどいことしたよね」



 仕事は上手くいったから報酬を弾む、なんて電話で言ったら、調子にのってくれちゃって……。
確かにココロちゃんに優しくするなとは言っておいたけど、あれはやり過ぎ。
ああいうのがアイツの素なんだろうね。
だから我慢しきれなくなって、アイツには飛び切りのボーナスあげたんだ。
氏んじゃうぐらいの過激なボーナス。

 え? どうやってアイツに毒を飲ませたかって?
そんなのトイズを使えば簡単だよ。
数ミリグラムの粉末なんて、あんな監視カメラには映らない。
アイツがココロちゃんを虐めている隙に、こっそり遠隔操作で缶コーヒーの中にポチャンとね。

 つまりココロちゃんが出社した前後の時間には、毒物はまだあの缶コーヒーには入っていなかった。
初めの内はコーヒーを飲んでも平気だったのはそういう理由。

372: 2011/01/19(水) 18:12:19.43

 あー、あと飲み屋さん。
ココロちゃんも勘付いていたようだけど、あそこにもちょっとだけ協力してもらったよ。
1万円出してね、このタダ券持ってきた人にはビール出してあげて下さいー、って。
どう? 推測通りだったかな?

 でもあそこいいお店だよね。
あたしの考えた通り、ココロちゃんの好みにはぴったりだったみたい。
ココロちゃんに残業させるよう高卒上司に指示を出したら、
ちゃんとその日の帰りにリピーターとしてあのお店に来てくれたもんね。
タイミングを合わせてあそこで仕事の打ち上げした甲斐があったよ。

 そうやって完全な偶然を装って再会すれば、何か少しぐらいボロを出しても平気だと思ってたんだ。
いわばこれが最後の保険のつもりだった。
だけどココロちゃんったら、こんなところにまで疑いの手をのばしちゃうんだもん。
びっくりしたよ。
さすがはココロちゃんだね。

373: 2011/01/19(水) 18:13:08.68
――――



シャロ「これがあたしのやってきたこと全て」

小衣「アンタ異常なんじゃない……?」

シャロ「そうかもね」

 シャーロックは私の方に手を伸ばしてきた。
思わず平手で弾いてしまう。

シャロ「……」

 弾かれた自分の手を悲しそうに眺めるその姿を見ていると、心が痛まないでもない。
だが、私がこれまでされてきたことを思えば、このぐらいの対応は当たり前だろう。

小衣「それじゃあね」

シャロ「どこに行くのココロちゃん?」

小衣「警察」

シャロ「……そりゃそうか。あたし、人を頃しちゃったもんね……」

376: 2011/01/19(水) 18:14:34.95

 私は玄関の扉に手をかけた。
と、後ろから涙を押し頃すような声がしてきた。

小衣「……」

少し迷ってから、私は一旦ドアノブにかけた手をゆっくりと降ろした。
そして後ろを振り向かないままシャーロックに声をかける。

小衣「アンタがトイズを使えば、今からでもリボンなり洋服なりで私のことを縛りあげられる。
    どうして何もせず、黙って私を見逃そうとしているの?」

シャロ「そんなことされたら……ココロちゃん嫌でしょ?」

377: 2011/01/19(水) 18:16:10.15
シャロ「今まで散々ひどいことしてきたのに何をいまさら、って思う?」

 黙って大きく一つ頷く。

シャロ「やっぱそうだよね」

小衣「当り前よ」

シャロ「でも……、本当はこんなの間違ってるってことには、ずっと前から気付いてた」

小衣「……」

シャロ「ココロちゃんが好きで好きで、自分の暴走が止められなくて、でも良心はじくじく痛んで。
     だから今、こうやって全てを打ち明けられてホッとしている自分もいるの」

小衣「何よそれ。バッカじゃない?」

シャロ「うん……だけど、あたし―――」









小衣「でも一番馬鹿なのは、そんなアンタを嫌いになれないこの私自身」

380: 2011/01/19(水) 18:19:05.80
小衣「私の人生の可能性を摘み取ったアンタが憎くてたまらない。
    だけどそれと同時に、このバカから離れたくないという気持ちも湧いてくる……」

シャロ「ココ……ロ……ちゃん……?」

小衣「一緒なのよアンタと……。理性じゃ何が正しいか分かってんのに、どうしても感情を割り切れない。
    シャーロックと一緒にいたい。シャーロックと離れたくない。そう強く感じてしまうの……」

シャロ「あたしねっ、あたし……」

 シャーロックは涙ながらに何かを言おうとしたが、途中で声がつまってしまった。
私はそんな彼女をそっと抱き締め、耳元でこう囁く。

小衣「嫌いだけど愛してるわ、シャーロック」

シャロ「……うんっ!」

 私は、モラルも憤りも何もかもを捨て、シャーロックを選び取った。

381: 2011/01/19(水) 18:21:02.38
――――



 坂を転がり落ちていくような、そんな人生だった。
背中を押したのがシャーロックなら、坂道を整備したのもまた彼女。
そして転がりに転がって、転がり果てた先にあったのも……。

シャロ「ココロちゃん……あたし嬉しいよ……」

小衣「私は最悪の気分。なんでこんな道を選んじゃったのかしら」

シャロ「もしかして後悔してますか……?」

小衣「まさか。だって大好きなアンタと一緒に入れるんだもの」

 もしかしたら最初に背中を押された時点で私の行く末は決まっていたのかもしれない。
そんなことを考えながら、私はシャーロックの服を脱がしにかかるのだった。

383: 2011/01/19(水) 18:23:10.87
おわり。読んでくれた人ありがとう!
ヤンデレが書きたかったけど、思ったより病み色が薄くなってしまった

高卒上司とかを電話帳に登録する際に偽名を使わなかったのは、
やっぱり成長したとはいえそこはシャロだから、詰めが甘かったってことで

391: 2011/01/19(水) 18:31:14.33
でも一人頃してるんだよなー

394: 2011/01/19(水) 18:45:37.46
乙!

396: 2011/01/19(水) 18:48:46.50

引用元: シャロ「小衣ちゃんころころー。って、ああっ! 下り坂!」