536: 2013/11/05(火) 01:13:34.86
すいませんお待たせしました! 本当に申し訳ない……
以下の番外編ですけど、ちょっどだけ更新したいと思います。
八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「その2だね」
続きを期待していた方はごめんなさい、もうちょっと待っていてください!

540: 2013/11/05(火) 01:23:57.18


番外編

八幡「やはり俺の休日は普通に終わらない。」





541: 2013/11/05(火) 01:25:17.50





休日。


学生であれば一週間に二日は与えられているその時間を、今になってありがたみを実感出来る。いや、俺だってまだ学生なんだが、半分社会人みたいなもんだからな。半分マンである。

それにプロデュース業をやりだしてからは、どうも休みが不定期だし、中々ゆっくり休む事もままならない。土日に休みを取れる事なんてザラだ。

だからこそ、久方ぶりの休みは貴重。そして今日はその久々の休日だ。


……休日、なのだが。









八幡「何故いる」

凛「え?」


543: 2013/11/05(火) 01:27:07.08


まるで訊かれる事が意外だという表情で言葉を漏らす、黒髪の美少女。

普段ならばあの小町ですらも介入を制限されている不可侵入区域。つまりは俺の部屋に、我が担当アイドル渋谷凛はいた。



凛「だって、プロデューサーがお休みだから、私も仕事無いし。今日はレッスンも入ってなかったから」

八幡「から?」

凛「そりゃ、遊びに来るよ」



なにその方程式。アイドルの法則?
やよいちゃんも当て嵌まるのなら全俺が泣く。


話す事はもう無いとばかりに、手元のケータイに視線を戻す凛。
いや、それで説明終わりなんかい。



今俺たちはこたつを挟んで丁度向かいに座っている。
察してはいるだろうが、俺の部屋である。

え? こたつがあるって事は冬なのかって? ナンノハナシカサッパリデスネ。


544: 2013/11/05(火) 01:28:57.07


こんな状況になったいきさつについては、面倒なので三行ですませる。


小町に起こされ
凛が来て
仕方がないのでお茶を出す。


ホントにこれだけだった。



八幡「……折角の休みだったんなら、友達と遊べば良かったんじゃねーの?」



当然の疑問を口にしながら、ノートパソコンを機動させる俺。建造はどうなったかな。



凛「卯月と未央はそれぞれ予定が入ってるんだってさ。加蓮は定期の検診で、奈緒は……なんかのイベントだってさ。詳しくは教えてくれなかったけど」

八幡「さいですか」



ケータイから目を離さずに答える凛。
たまにケータイの持ち手を替えては空いた方の手をこたつに入れている。

今気づいたが、そういえば凛ってガラケーだったんだな。今時珍しい。


545: 2013/11/05(火) 01:30:15.96



凛「そう言うプロデューサーは?」

八幡「は?」



いきなりの返しに、思わず変な上ずった声を出してしまう。
見ると、いつの間にか凛がこちらに顔を向けていた。



凛「プロデューサーは、その折角の休みなのに部屋に一人でいたけど」

八幡「……」

凛「……」

八幡「……やっぱ俺は金剛姉妹の中では、榛名が好きだな」

凛「何の話!?」



思わぬ答えに驚く凛。こういう所は由比ヶ浜っぽい。いや金剛姉妹の話じゃなくね?



八幡「あのな、俺たちもそう短い付き合いじゃないんだ。その質問が意味を為さない事ぐらい分かるだろう? それくらいは察してほしかったな」

凛「嫌な信頼だね……」


546: 2013/11/05(火) 01:32:55.44


思わず苦笑いを浮かべる凛。

しかしこれくらいで呆れて貰っては困る。
ぼっちの全ては語り尽くせない。



八幡「俺の担当アイドルなんだ。もっと覚えて貰わなくちゃならん事は沢山あるぞ」

凛「た、例えば?」



おそるおそる訊いてくる凛。そうだな、例えば……



八幡「『趣味は?』とかは訊くな」

凛「? 何で? 結構普通の質問だと思うけど」

八幡「ま、詳しくは原作小説7巻のぼーなすとらっく、もしくは限定版ドラマCDを聴いてくれ」

凛「宣伝だった!?」



7.5巻も好評発売中! 8巻が待ち遠しいね!



547: 2013/11/05(火) 01:34:50.41


そんなこんなで雑談しつつ時間を潰していると、不意に凛が小さく声を上げた。



凛「……あ」

八幡「どうかしたか?」



すると凛は持っていたケータイの画面を俺に向け、困ったように言う。



凛「電池切れ。最近直ぐに無くなるんだよね」



確かにケータイの画面は真っ暗で、何も表示されていない。
こうして見てみると、所々傷がついていて、長く使用していた事が伺える。



凛「そろそろ替え時かなー。周りもどんどんスマホになってくし」

八幡「今時じゃ、ガラケーの方が少ないもんな」



ちなみにガラケーはガラパゴスケータイの略らしい。
意味は……前になんかで見たけど忘れたな。


548: 2013/11/05(火) 01:36:21.11


凛「プロデューサーはiPhoneだよね? 5S?」

八幡「いや、普通の5。まだまだ使えるし、当分替える気は無いな」



ポケットから出し、凛に手渡す。

ちなみに色は白。今思えば、黒でも良かったかなーという気もする。
まぁ青色のカバー付けてるから別に良いんだけどね。

俺のiPhoneを手に取り眺めながら、やがて凛はぼそっと呟いた。



凛「……変えようかな」

八幡「え?」

凛「ケータイ、変えようかな」



言うや否や、こたつから出て立ち上がる凛。
俺がぽかーんとしながら見ていると、凛は身支度を整えながら、言ってきた。



凛「ほら、プロデューサーも行くよ」

八幡「は? 行くって……まさか、おい」

凛「うん」



私服用のダッフルコートを羽織ると、凛は笑いながら言った。



凛「ケータイショップ」




549: 2013/11/05(火) 01:37:29.52










家を出る時いつも以上に小町がうるさかったが、そこは俺。見事なステルスヒッキーを発動しての総スルーで何とかやり過ごした。

ただまぁ「デートなの!? プロデューサーと担当アイドルが休日に秘密のデートなのお兄ちゃん!?」とか言ってたせいで凛が終始顔真っ赤だったけどな。照れ凛かわいい。


そら俺だって女の子と二人きりでお出かけとか、何も思わないわけがない。だからこその無心。無我の境地である。You still have lots more to work on…



八幡「そういや、凛ってどこの会社使ってるんだ?」

凛「……プロデューサーと同じソフトバンクだよ。アドレス交換したのに覚えてないの?」


550: 2013/11/05(火) 01:38:54.26


俺が訊くと、あからさまに不機嫌な様子で答える凛。

そ、そうだったけか? けどアドレスなんて一回交換したらそう見ないからな。電話帳には名前しか表示されんし。



八幡「そ、そうか。んじゃ、俺と凛はタダともなわけだ。……一回も電話した事はないが」



実際、俺がケータイを買う時にソフバにしたのはこれが理由にある。
当時の俺は「え? 連絡先交換しただけで友達になれんの? なにそれスゴい」と思って疑わなかったからな。まず連絡先を交換する事が無いという罠。最初に気付けよ俺ェ……



凛「タダとも、ね……」



ぽつりと言葉を漏らした凛を見てみると、何やら真剣な表情で俯いている。

な、何か拙い事言ったか俺?



凛「……ねぇ、プロデューサー」

八幡「ん?」

凛「タダともって、恋人同士でも“タダとも”なのかな?」



551: 2013/11/05(火) 01:40:37.72



八幡「…………は?」



一瞬、発言の意味が分からなかった。
つまりはアレか? 恋人同士ならタダともじゃなくてタダカプじゃないか? という意味か?



凛「……っ……な、なんでもない。忘れて」



言った後、顔を赤くしたと思ったら早足で先に行ってしまう凛。

……いったい何なんだったのだろうか。





程なくして近所のケータイショップに着く。
ソフトバンクに来た事から、どうやら会社を変えるつもりは無いらしい。

店内に入ると、色とりどりのケータイが目に入る。
どれもスマホばかりで、やはりガラケーは少なかった。


552: 2013/11/05(火) 01:41:41.05


キョロキョロと辺りを見回す凛の横に立ち、訊いてみる。



八幡「何するかは決めてあるのか?」

凛「うん。一応ね」



やけに即答だな。
さっき機種変を決めたあたり、まだ考えてなかったと思ったんだが。


すると凛は、店内で一番スペースを取っている機種のコーナーまで歩いていく。
俺も使っている機種。ご存知iPhoneである。

やはり最近5Sが出た事もあってか、大々的に取り上げられているようだ。

そのコーナーの前で、ジーっと眺めている凛。



八幡「なんだ、お前もiPhoneにするのか?」

凛「うん。そうしよう、かな」


553: 2013/11/05(火) 01:43:47.87


なるほど。大方さっき俺と話をしていて決めたのだろう。それなら即決にも納得出来る。
しかしそれにしたって中々の行動力である。見習いたいものだ。



八幡「羨ましいな。まだ在庫あるっぽいし、丁度良かったな」

凛「え? 何が?」



きょとんとした顔で訊いてくる凛。いや何がって……



八幡「5Sにするんだろ? 今は売り切れも多いみたいだし、在庫あって良かったなって言ったんだよ」



さっきは5で充分とは言ったが、それでもやっぱり最新機種は羨ましいからな。後でどんな感じなのか感想でも聞こう。



凛「あー……」



しかし凛はと言うと、特に嬉しそうといった反応でもない。


554: 2013/11/05(火) 01:45:05.92


凛「私は、プロデューサーと同じのでも別に……」

八幡「あ?」

凛「何でもない!」



店内の音楽でよく聞き取れなかったが、とりあえず何でもないというのは分かった。



凛「あ、ねぇプロデューサー。これは?」



取り繕うように凛が指を指して問いかけてくる。
そこに配置されているのはiPhoneの中でもひときわカラフルなもの。



八幡「あぁ、5cだな。いわゆる廉価版だよ」

凛「廉価版?」

八幡「俺も詳しくは知らねぇけど、スペックは5と同じくらいで安く買えるらしい。あと、色がカラフル」



我ながら小学生並みの説明である。
いや持ってるわけじゃないんだから仕方ないだろ?


555: 2013/11/05(火) 01:46:19.49


凛「ふーん……あ、ホントだ。外側がプラスチックみたいなんだね」



ふむふむと眺め回しながら品定めしていく凛。
俺はてっきり5Sにするもんだと思っていたが、凛はそのつもりでもなかったようだ。



凛「……決めた。これにする」



そう言って手に持っていたのは、水色の5c。



八幡「いいのか? 5Sにしなくて」

凛「うん。色が可愛いし、それにプロデューサーと同じような感じなんでしょ?」



まぁ正確には違うがな。
大体は一緒らしい。……たぶん。



凛「なら、私はこれでいいよ」

八幡「……お前が良いなら、止めはしねぇよ」



青って所も、お前らしいしな。


556: 2013/11/05(火) 01:47:56.97



その後機種変の手続きを済ませ、新しいケータイを手に店を出る。
しかし思いつきでケータイ変えちゃうんだもんな……これが女子高生か。

あと、妙に受付から戻ってきた凛の顔が赤い。どうしたと言うのか。



凛「……受付の女の人がね」

八幡「おう」

凛「…………お連れの彼氏さんと、カップル割りはどうですかって」



おぅふ……
やってくれるぜ店員さん……!

そして言いながらも、更に顔を赤くしていく凛。
やべぇな、こりゃ俺も絶対赤くなってる!


何とも気恥ずかしくなってしまい、顔を背けつつ早足で歩いてしまう。
しかし凛が着いてくる気配も無いので、不振に思い振り返ろうとした時だった。


557: 2013/11/05(火) 01:49:38.39



『永い間 雨に打たれ過ぎたーー』



不意に、ケータイの着信が鳴る。

ポケットから取り出し画面を見ると、表示されているのは“渋谷凛”の文字。
電話には出ないまま、振り返る。

すると凛は、買ったばかりのiPhoneを耳に当てつつ、期待するような表情でこちらを見ていた。



八幡「……はぁ」



仕方がないので、出てやる。



八幡「……なんだ」

凛『もしもし、プロデューサー?』



受話器越しの凛の声と、目の前の凛の声が重なる。



八幡「この状況で俺じゃなかったらおかしいだろうが」

凛『あはは、確かにそうだね』


558: 2013/11/05(火) 01:51:10.20


楽しそうに笑う凛。
俺としては、ものスゴく恥ずかしいのだが。



八幡「ケータイ変えてはしゃいじゃってんのか? まぁ気持ちは分かるがな」



俺もsiriを使えるようになった時は一人でよく遊んだものだ。
同時に氏にたくもなったがな。



凛『いいじゃん、折角のタダともなんだし。それに……』



ちょっとだけ躊躇った後、微笑みながら言う。



凛『最初は、プロデューサーに電話したかったからさ』

八幡「……」



……こいつは、ホントにずるいよなぁ。



八幡「……ちっ」

凛「あ、ちょっ、何で切っちゃうの!?」

八幡「なんか悔しくなったから」


559: 2013/11/05(火) 01:53:45.08


顔が熱くなるのを誤摩化すように、足早にその場を後にする。
その横に凛が追いついて来たが、顔は向けない。向けられない。



凛「もう、まだ言いたい事あったのに」

八幡「まだあったのか……」



勘弁してくれ。
どれだけ俺のSAN値を削る気だ。



凛「さっきプロデューサーが言ってた、付き合ってく上で覚えていて貰いたい事。私にもあるんだ」

八幡「……一応、聞いておこうか」



果てしなく嫌な予感しかしないがな。
仕方ないので、一瞬だけ、顔を向けてやる。





凛「お休みの日にヒマな時は、私に連絡すること。……分かった?」



560: 2013/11/05(火) 01:55:49.24



八幡「…………おう」



俺がそう言うと、彼女は満足そうに微笑んだ。





隣を歩くこの少女。

この少女が、俺の担当アイドル。渋谷凛。
どこまでも真っ直ぐで、いつだって優しい。


だから、非常に癪だが、覚えていてやるか。
ほんとぉーーーにヒマな時は連絡してやるよ。



幸い、電話はタダみたいだしな。







終わり




564: 2013/11/05(火) 01:59:51.34
というわけで番外編でした!

今回は私の不用意な発言で期待を裏切ってしまい申し訳ありませんでした。
次の更新はいつになるかまだ分かりませんが、ちゃんと目処が立ってからお知らせするようにします!

感想などあれば、嬉しくなって調子に乗って頑張るかもしれないので、よろしくお願いします!

引用元: 八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「その2だね」