1: 2021/11/15(月) 21:30:04.714
国王「敵国の軍は?」

大臣「既に国境近くまで迫っています」

国王「我が軍にあの国とまともにやり合う力はない……どうすべきか……」

兵士「陛下!」

国王「なんだ」

兵士「“毒使い”を名乗る男が、陛下に謁見を申し出ておりまして」

国王「毒使いだと?」

兵士「私がいれば敵国などイチコロだ、などといってますが……」

国王「うむむ……極めて怪しいが、会ってみるか」

3: 2021/11/15(月) 21:33:51.986
毒使い「初めまして」

国王「え……!?(でかい!)」

国王「失礼だが、身長と体重は?」

毒使い「260cm220kgです。体脂肪は僅かに残してあるのみです」

国王「ずいぶん鍛えておるな……」

毒使い「私に弱点はありません。あるとすれば一つだけでしょう」

大臣「毒使いにしては、いささかマッチョすぎるような……」

毒使い「いえ、毒使いはこのぐらいの筋肉が必要不可欠なのです」

国王「どういうことかな?」

4: 2021/11/15(月) 21:36:26.638
毒使い「毒使いは、毒草を求めて山や森を歩き回ります。ゆえに強靭な足腰が必要です」

毒使い「さらに毒薬を調合するには薬草をすり鉢でする必要があります。これも力仕事です」

国王「それはそうだが……」

毒使い「私は毒使いになるために十年間、体を鍛え上げてきたのです!」

国王「そうなんだ……」

大臣「ずいぶん回り道したような……」

毒使い「回り道ではありません。近道です!」

大臣「ご、ごめんなさい」

国王「肝心の毒薬の知識は大丈夫なのだろうな?」

毒使い「……無論です!」

国王「間があったのが気になるのだが」

毒使い「たまたま息継ぎのタイミングだっただけです!」

国王「す、すまん」

5: 2021/11/15(月) 21:39:22.264
毒使い「ではさっそく毒を調合します」

国王「え、今から作るの!?」

毒使い「毒は鮮度が大事ですからね。すり鉢に毒草を入れて……いざ!」

ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリッ!

国王「う、うおおっ!?」

大臣「すごいスピード!」

毒使い「出来ました……完成です」

毒使い「戦争とは頭を潰せば終わるもの。この毒で敵国の王を毒頃すれば、我が国の勝利です」

国王「おお……!」

6: 2021/11/15(月) 21:42:18.897
国王「この毒はどのぐらい盛れば致氏量になるのだ?」

毒使い「茶碗一杯も食べさせれば、間違いなく氏ぬかと」

国王「結構多いな……」

大臣「バレないか?」

毒使い「なんですかさっきから! ケチばかりつけて! 私がこれほど一生懸命国を救おうとしてるのに!」

国王「あ、いや、すまん!」

大臣「そんなつもりはないんだけど……」

毒使い「分かって下さればよいのです」

7: 2021/11/15(月) 21:45:30.820
毒使い「では、敵国の王に毒を盛って参ります」

国王「う、うむ」

大臣「気をつけてな」

毒使い「ご安心を。すぐこの国に平和を取り戻してみせましょう」ズンズン

国王「……どうだろうか? 上手くいくだろうか?」

大臣「さあ、私にも予測不可能です……」

…………

……

8: 2021/11/15(月) 21:49:19.717
敵軍陣地――

毒使い「……」ズンズン

見張り「止まれ!」

毒使い「……」ピタッ

見張り「貴様……何者だ!」

毒使い「私は貴様らが攻め込もうとしてる国の毒使い。貴様らの王に毒を盛りにきた」

見張り「な……!?」

9: 2021/11/15(月) 21:52:36.856
見張り「ふざけるな。氏ねっ!」

ドスッ! ボキッ!

見張り「槍が……折れ……」

毒使い「十年鍛え上げた肉体に、そのようなものが通じるわけなかろう。どけ」

見張り「くっ!」ピピーッ

見張り「集まれーっ! 敵が来たぞーっ!」

毒使い「やれやれ、面倒なことになったものだ。私は毒を盛りにきただけだというのに」

10: 2021/11/15(月) 21:55:21.079
敵兵A「なんだこいつ!?」

敵兵B「でけえ……」

敵兵C「いくらデカかろうと多勢に無勢だ! みんなでかかれば!」

ウオオオオオオッ!

パキンッ! ボキッ! ベキッ!

敵兵A「ダメだ! 剣が折れる!」

敵兵B「槍も通じない!」

敵兵C「どうなってるんだ!? こいつの肉体は!?」

毒使い「通るぞ」ズンズン

11: 2021/11/15(月) 21:58:17.573
敵兵A「た、隊長ーッ!」

隊長「なんだ」

敵兵A「陣地に敵が現れ……」

隊長「向こうから来てくれたのか。さっさと蹴散らせ」

敵兵A「それが……誰も止められないんです!」

隊長「なにい!?」

敵兵A「ほら、もうすぐそこまで来てます!」



毒使い「……」ズンズン

13: 2021/11/15(月) 22:01:17.106
毒使い「……」ズンズン



隊長「なんだあれは……!?」

敵兵A「我が軍にもあれほどの体躯の兵はいませんよ。剣も槍も通じないんです」

隊長「こうなれば……」

敵兵A「どうするんです?」

14: 2021/11/15(月) 22:03:26.460
隊長「大砲を用意しろ」

敵兵A「大砲!? 相手は一人ですよ!?」

隊長「一人? あんなもん、“一頭”だろうが!」

敵兵A「た、たしかに……」

隊長「とにかく急げ! 指揮官を務める陛下のところまで行かせるわけにはいかん!」

敵兵A「分かりました!」

15: 2021/11/15(月) 22:06:22.698
毒使い「……む?」

隊長「止まれーっ!」

毒使い「……」

隊長「これが分かるだろ? 大砲だ。本来、城攻め用に使うものだ」

隊長「撃たれたくなくば、今すぐ止まるんだ!」

毒使い「そんなもので止まる私ではない」ズンズン

隊長「なっ!?」

敵兵A「どうしましょう!?」

隊長「火をつけろ! ぶっ放せ!」

敵兵A「わ、分かりました!」

16: 2021/11/15(月) 22:09:12.510
隊長「発射ァ!」

ドォンッ!





ドゴォォォォォンッ!!!





敵兵A「うわあっ!」

隊長「よし、木端微塵だ! それにしても恐ろしい奴だった……」

17: 2021/11/15(月) 22:13:06.713
モクモク…

敵兵A「た、隊長……」

隊長「なんだ」

敵兵A「人影が……」

隊長「……なんだと!?」

毒使い「ふぅ、腕でかばってなければ持ってきた毒が吹き飛んでしまうところだった」

隊長「ひっ……!」

うわぁぁぁぁぁ……! にげろぉぉぉぉぉ……!

20: 2021/11/15(月) 22:16:25.487
隊長「陛下! 陛下ーっ!」

敵国王「どうした、騒がしいぞ」

隊長「お逃げ下さい!」

敵国王「なぜだ? これから攻め込もうという時に……」

隊長「敵が……敵がすぐ近くまで迫っています! 誰も太刀打ちできません!」

敵国王「敵が……なにをバカな」

隊長「本当です! 大砲も効かないんです! すぐ逃げて……」

ズンズンズン

21: 2021/11/15(月) 22:19:27.110
毒使い「そこか、敵国の王よ」ズンズン

隊長「ひっ、来た!」

敵国王「な、なんだこいつは……」

隊長「く、くそぉぉぉぉぉっ!」

ベキッ!

隊長「剣が小枝のように……!」

敵国王「隊長の剣が通用しないとは……!」

毒使い「さあ、毒を盛らせてもらうぞ! 覚悟するがいい!」

敵国王「……!」

毒使い「む……!? き、貴様は……!?」

22: 2021/11/15(月) 22:22:27.573
毒使い「お、女……!?」

敵国王「……」

毒使い「くそっ、私の唯一の弱点……それは女なのだ! 女は私にとって毒なのだ!」

毒使い「私は自他ともに認めるフェミニスト……女に毒を盛ることはできん!」

隊長「自分でいうかね、そういうの」

敵国王(この男……なんて逞しさなの)

敵国王(私は女でありながら苛烈な政争を勝ち抜いて王位につき、軟弱な男たちを鼓舞し、屈服させるため侵略戦争を決意した)

敵国王(だけど、こんな逞しい男に出会ったら、私は……私は……!)

23: 2021/11/15(月) 22:25:10.269
毒使い(それにしてもこの王、なかなかの美女ではないか)

毒使い(いや、なかなかどころか私の好みといってよい! 惚れた!)

毒使い「おい、敵国の王よ!」

敵国王「は、はい!」

毒使い「結婚しようではないか!」

敵国王「喜んで!」

隊長「えええええ!?」

24: 2021/11/15(月) 22:28:43.672
大臣「陛下! 報告が入りました!」

国王「ど、どうなった?」

大臣「敵国の王に毒を盛りに行った毒使いが、敵国の王と結婚いたしました!」

国王「ど、どういうこと!?」

大臣「私にも分かりません! それで……敵国は撤退を開始したそうです!」

国王「……まあ、深くは追究しないでおこう。助かったんだから」

大臣「そうですね」

25: 2021/11/15(月) 22:31:44.281
敵国にて――

敵国王「今日から毒使いが我が夫となった!」

毒使い「皆さんよろしく」

敵国王「これからは二人で平和な国を築いていこうぞ!」

毒使い「うむ、毒など必要ない社会を築く! これこそが毒使いとしての責務!」





ワーワー… ワーワー… パチパチパチパチパチ…

26: 2021/11/15(月) 22:34:40.870
大臣「陛下、薬師が来ました。密かに回収した“毒使いが盛らずに終わった毒”を分析したそうです」

国王「どうだった?」

薬師「分析の結果、あれはたしかに毒でした」

国王「おお、そうだったのか。どの程度の?」

薬師「あれを茶碗一杯飲んだとしたら……軽い下痢が二、三日続く程度には」

国王「……」

大臣「……」

大臣「このこと、毒使いには?」

国王「気の毒だから、内緒にしておこう」






― 完 ―

27: 2021/11/15(月) 22:40:03.717

イイオウサマダナー

引用元: 毒使い(260cm220kg)「敵国の王に毒を盛って参ります」国王「う、うむ」