1: 2016/12/25(日) 00:31:07.07

出会ったのは汚い路地だった。
地べたに座るそいつは、ボロボロに汚れたギターを一本抱えて歌っていた。


ホームレスに見間違うほどの汚れた服とボサボサの長髪は
目を合わせたくないと思う容姿だった。


昴「どうしたんだ?」

ジュリア「いや……何でもない」




2: 2016/12/25(日) 00:32:57.68


少し歩いた所で昴に「何か気になってるのか?」と聞かれた。図星だった。


気になるなんてもんじゃない。
魂が共鳴しちまったんだ。
あの人の歌に。


あの場所で歌うホームレスの歌に。
悔しいけれど、マジで。



ジュリア「悪い……そうみたいなんだわ。ちょっと行ってくる」

昴「おー? もう暗いんだから気をつけろよー」




3: 2016/12/25(日) 00:38:20.86

駆け足で戻ると、さっき居た場所にはもう居なかった。
ホームレスみたいな見た目のくせに動きははえーんだな。


もっとこうホームレスってのは特にすることもなく、
その場にずっと居座っているような連中じゃなかったのか? 
あたしの偏見か?


「おかしいな……確かにこの辺だったんだけど」


息を切らしながら、そこら辺を探してみる。
でも特にそれらしき人影は見当たらなかった。
長い溜息をついてから昴の方に戻ることにする。



昴はとっくに帰っていたが。




4: 2016/12/25(日) 00:40:02.10

――。


昴「今日も、何か上手くいかないって感じだったか?」

ジュリア「ああー早くこの意味分からんスランプ抜け出したい」

昴「それよりも何か集中出来てないって感じだったな。困るんだよ。1人じゃないんだぞ?」


5: 2016/12/25(日) 00:40:57.24

ジュリア「ああ、すまん。……で、昨日なんで帰ったんだよ」

昴「はあ? 普通帰るだろ、あの流れは」

ジュリア「ちょっと探しちゃったじゃんか」

昴「ごめんって。で、探しものは見つかったのか?」


首を横に振る。
昴は短く「そっか」とだけ言った。


次の日のレッスンの帰り道、またあたしと昴は2人でいた。
昨日と同じ道を通って。



6: 2016/12/25(日) 00:43:12.01


昴「寒いし暗いし、早く帰ろうぜー」

ジュリア「だな。さっさと帰ろうぜ」


口ではそう言いながらも、
あのホームレスを探していた。

耳はどこかであの音楽が流れていないか
聞き耳を立てていた。


昴の話なんて聞かずに。


昴「――聞いてんのか? おいってば」

ジュリア「おー……あ、すまん」

7: 2016/12/25(日) 00:45:08.47


そして、見つけてしまった。



そのホームレスのおっさんは今日も居た。
昨日駆け足で戻ってきた時は居なかったのに。


今日もボサボサの髪の毛に、汚れた服。
汚いギターを抱えて歌っていた。


歌っている歌は……オリジナルか?
聞いたこと無い歌だ。


あたしは吸い込まれるようにホームレスの方に歩いて行く。


8: 2016/12/25(日) 00:47:12.94


ジュリア「昴、この曲、知ってるか?」

昴「ん? ……いや、分かんない」


そうじゃない。
知ってる曲だったらあんなに気にならない。


知らない曲で、自分の魂と共感したからこそ気になったんだ。
この曲はどういう過程で生まれ、
どういう心境の元で描かれ、
どんな生活をした人が歌うのか。


気になって、仕方がないんだ。



9: 2016/12/25(日) 00:49:02.28



あたし達2人は、昴は付き合わせたが、
そいつの一曲を終わるまで待っていた。


聞けば聞くほど惚れる歌だ。


別に歌声が言い訳じゃない。
ギターが神がかって上手いわけじゃない。
でも、それでも聞いてしまうんだ。


曲がやっと終わる。


ずっと聞いていたい気持ちが溢れていたが、
近寄りがたい風貌のその男に近づいていって聞いた。



10: 2016/12/25(日) 00:50:30.45



ジュリア「あの、その曲ってオリジナルですか?」

「……。ああ、そうだが」


少し疎ましく思ったのか、
あたしのことを見てから目を逸らした。


ジュリア「すごい、なんていうか、本当にあたしの魂に響いたんだ」

「響いて……、どうだった?」



11: 2016/12/25(日) 00:51:42.36



ジュリア「どう? あたしもあんたみたいな曲を作って皆の前で歌いたいって思った」

「……歌える場所を持っているのか。それは羨ましいな」


そう言うホームレスは別に羨ましくなんてなさそうだった。
自分にはここで十分だという顔をして、満足そうな顔をしていた。


ジュリア「あんたはなんでここで歌ってるんだ?」



12: 2016/12/25(日) 00:53:02.07


「……さあな。気持ちが良いからだ」

ジュリア「あたしもあんたの曲を聞いて、すごく気持ちが良かった」

「そうか。それは良かった。昔、氏んだ友人が作った曲だ。そいつも浮かばれる」



ホームレスは少し俯きながら、ギターを片付けはじめる。
手を動かしながら、こっちを振り向いて言った。




13: 2016/12/25(日) 00:55:41.98


「君もギターやるんだろう? これ、あげるよ」

ジュリア「ピック? いや、いらねーけど」

「ふっ、それもそうだな。ギター、大事にしなさい」

ジュリア「ん? ああ」


ホームレスのおっさんは、寂しそうな顔をした。
やっぱり受け取ってやれば良かったかな、と少しだけ後悔した。



14: 2016/12/25(日) 00:57:19.50


さっきこいつは氏んだ友人が作った曲だと言っていた。
……こいつもいつかどこかで音楽をやる仲間が一緒にいたんだな。


でも今は、こいつ1人になっちまった。


寂しそうだからとか、あたしの自己満足だからとか、そういうんじゃない。
純粋にこいつと音楽をやったらどうなるのかが気になる。


もう一度、こいつにだって夢を見る権利はあるはずだ。



15: 2016/12/25(日) 00:59:13.65


ジュリア「あのさあオッサン」

昴「ジュリア。それ以上は」


あたしの肩を掴み首を振る昴。
そうか。昴は怖いんだな。


昴は顔を少し青くして、
あたしの肩を掴む手は震えていた。


こんな風貌のおっさんをいきなり勧誘するなんて、
確かにちょっとどうかしてるのかもしれない。


でもこいつみたいに、こんないい音楽を作れる奴が怪しい奴なわけないじゃないか。



16: 2016/12/25(日) 01:00:35.83


ジュリア「昴、大丈夫だ。このオッサンみたいに良い曲作る奴に悪いヤツはいねえって」


それでも昴は首を振る。
「そうじゃない」と言った。


じゃあ何が不満なんだ。ホームレスだからか?
こんな身なりだからか?



17: 2016/12/25(日) 01:01:15.00


音楽を始めていいのは身なりの整った人間だけしかできないのか?
違うだろ。


誰が始めたって音を楽しめば音楽になるんだ。
それがギターだろうが、ドラムだろうが、ゴミ箱の蓋を叩く音だろうが、
手拍子だろうが、口笛だろうが、関係ない。



ジュリア「頼むよ、少し交渉してみるだけだって」

昴「違うんだよジュリア」



18: 2016/12/25(日) 01:02:03.07





昴「お前、さっきから誰と話てんだ……!?」



ジュリア「は?」





19: 2016/12/25(日) 01:02:44.63



振り返るとまだギターの片付けをしているだろうと思っていた
あのホームレスのおっさんはどこにも居なかった。



ジュリア「……は!? 違っ、居たんだよ!」

昴「……そこには最初から誰も居なかったよ」



20: 2016/12/25(日) 01:03:44.23


ジュリア「曲は!? 聞いただろ!?」

昴「オレはジュリアが何を言ってるのか分からないって答えただけだ」



後ずさりするあたしは昴の少し青ざめた顔を見る。
やめろよ。そんな顔で見るなよ。


やめてくれよ。頼むから。



21: 2016/12/25(日) 01:05:18.47


そんな中、手がポケットに辺り、中に違和感を感じた。
あたしはすぐに上着のポケットに手を突っ込み中を探る。



ジュリア「……オッサンの持ってたピックだ、これ」

昴「……ジュリアのピックでそんなのは初めて見た。言っちゃ悪いが何かだっせえな」



ピンクに金の文字で「GO FOR IT」(頑張れ)
その裏面には緑と赤で「Merry Xmas」と派手に書かれていた。



22: 2016/12/25(日) 01:06:32.79


だいたいの事情を話すと昴は



昴「ははーん、なるほど。そりゃきっとギターの神様だな」

ジュリア「マジかよ。キツいセンスしてんなぁ」


どういう訳か、
あたしはこの日からスランプは抜け出せたみたいだった。


終わり



引用元: 【ミリマス】ジュリア「路地裏のギタリスト」