1: 2016/12/27(火) 01:03:39.226
天と地の狭間で赤座あかりは悩んでいた

この世に生を受けたこと

恒星を廻る小さな惑星の上に

敢えなく誕生したこと

ちっぽけな存在

天使としての自分

赤座あかりというもの


赤座あかりは自分の存在がなんなのか

確かめたかった

2: 2016/12/27(火) 01:07:06.792
櫻子「哲学的な話?」

ダージリン香るテーブルで櫻子は聞いた

あかり「哲学的?」

櫻子「たとえば存在論とか実存主義」

あかり「そういうものではないよぉ」

櫻子「すると、酷く個人的な内容なわけだ」

あかり「おそらくねぇ」

櫻子「砂糖は?」

あかり「3つお願いだよぉ」

櫻子「3つ?」

あかり「あかりは紅茶に3つ入れないと飲めないんだよぉ」

櫻子「私は20個必要だよ」

4: 2016/12/27(火) 01:08:55.018
櫻子「話を戻すと」

あかり「うん」

櫻子「あかりちゃんの存在を」

あかり「うん」

櫻子「一星系にうまれた意味と」

あかり「そうだねぇ」

櫻子「天使としての特別性から考えたいんだね」

あかり「まったくもってその通りだよぉ」

5: 2016/12/27(火) 01:11:06.059
櫻子「それはとても難儀な話だね」

あかり「そうなのぉ?」

櫻子「そうだよ。だって」

あかり「だって?」

櫻子「宇宙の中の小さな恒星とそれよりも小さな惑星に」

あかり「うん」

櫻子「とても重要な存在がいるはずがないからだよ」

あかり「でもあかりは天使だよぉ」

櫻子「問題はそこだよ、あかりちゃん」

9: 2016/12/27(火) 01:15:08.055
櫻子「それはまるで紅茶の中に溶け込んだ無数の砂糖の粒子の中に」

櫻子「一粒の砂金が生まれるような話だよ」

あかり「それがあかりなんだよねぇ」

櫻子「その通り。つまり」

あかり「つまり?」

櫻子「この世界はあかりちゃんが思ってるよりも」

あかり「よりも?」

櫻子「とても小さいのかもしれないね。宇宙最小単位1プランクよりも」

12: 2016/12/27(火) 01:17:49.070
あかり「どういうことなの?」

櫻子「つまり宇宙は存在しないってことだね」

あかり「うん」

櫻子「この世界は砂糖の一粒の上に立ってるだけなんだよ」

あかり「砂糖の一粒?」

櫻子「そうだよ。その上に今認識してる宇宙というものが広がってるに過ぎない。そしてあかりちゃんはその砂糖の一粒なんだ」

17: 2016/12/27(火) 01:23:43.368
櫻子「そこが世界の場所であってあかりちゃんの存在の意味なんじゃないかな」

あかり「ふぇぇ。確かに言われてみればそんな気がするよぉ」

櫻子「紅茶と同じだよ、あかりちゃん」

あかり「紅茶?」

櫻子「私は紅茶に20個の砂糖を入れないと飲めないからね……一粒でも砂糖がなければそれは飲める紅茶じゃないのさ」

あかり「たしかに」

櫻子「それが紅茶でありあかりちゃんだよ」

あかり「そうだったんだねぇ」

櫻子「さぁ寒くなるから早く帰りな。…今日のお洋服可愛かったよ。あかりちゃんに似合うのはアティックローズだと昔から思ってたんだ」

あかり「ありがとうだよぉ」

18: 2016/12/27(火) 01:27:28.025
向日葵「それは容認できませんわね」

向日葵は水道水を飲みながらそう言った

赤座あかりちゃんは相手に失礼のない非常に文化的な言葉で

向日葵ちゃんの接待を辞退して聞いていた

あかり「砂糖が世界でそれがあかりってことじゃないのぉ?」

向日葵「矛盾が発生してしまいますわ」

あかり「矛盾?」

20: 2016/12/27(火) 01:30:16.528
向日葵「砂糖が世界なら」

あかり「うんうん」

向日葵「紅茶に溶けてしまいますわ!」

あかり「」

向日葵「」

あかり「」

向日葵「」

あかり「確かにだよぉ!」

それが世界の真実だった

23: 2016/12/27(火) 01:32:41.971
今や惑星は恒星の周りを廻ることで知られている

この宇宙

太陽系というシステム

果てしなく大きく見える他の惑星

たとえば木星や海王星は

何がために存在し

何がためにあかりちゃんの世界を構成しているのか

あかりちゃんは最早わからなくなってきた

25: 2016/12/27(火) 01:35:38.987
宇宙の膨張が限界点に達したとき

世界を繋ぐ4つの力は全てエネルギーへと昇華され

何者も存在しない虚無が生まれ

3つの空間次元は置き去りになり

時間は意味をなさない矢と化し

世界が無意味となるその日までの途上

赤座あかりちゃんは何故生まれたのか

27: 2016/12/27(火) 01:38:59.993
何がためにあるかわからない世界は

無目的にうねりながら突き進む

エンドのわからない場所へと向かって

天使の赤座あかりちゃんですら置き去りにしようと

加速する

世界に忘れ去られそうな砂糖の一粒

立脚のためにあった黄金の砂糖が今

己の存在を問うまでとなっていた

まりちゃん「可能性の地平が拡がっただけだよ、あかりお姉さん」

あかり「可能性の地平?」

29: 2016/12/27(火) 01:44:39.602
まりちゃん「この世界は他の存在なくして……つまり一つの存在のみで独立して自存出来ることが出来ないんだよ」

あかり「難しくてよくわかんないよぉ」

まりちゃん「黄金の砂糖は紅茶がないと黄金の砂糖足り得ないの」

あかり「………!!!」

まりちゃん「他と比較して……あるいは他の存在があって自分の認識が認識として機能し」

まりちゃん「そこから可能性の地平が生まれるの」

まりちゃん「あかりお姉さんが黄金の砂糖だったとしても」

まりちゃん「それは黄金の砂糖があるだけでは存在出来ないの」

あかり「」

まりちゃん「」

あかり「難しくてよくわかんないよぉ」

31: 2016/12/27(火) 01:48:21.130
木星も土星も宇宙も

そこにあるだけで天使の赤座あかりちゃんにとって意味のないものだけど

赤座あかりちゃんの存在を形作るのに

必要なものだった

尊い存在であろうと

尊いのみでは尊さは意味をなさない

尊さのないもの……たとえば宇宙とか

土星とか

嫌いな糞野郎とか

そういうのがいて

尊さは尊くある

34: 2016/12/27(火) 01:55:59.903
まりちゃん「だから世界は難儀なんだよ、あかりお姉さん」

あかり「あかりってば天使だけど天使なだけで済まされないんだねぇ」

まりちゃん「そうだよ、あかりお姉さん。だからただ今は踊ろう」

赤座あかりちゃんは手をとってワルツを踊り出した

優雅な身のこなしでまりちゃんは赤座あかりちゃんをリードする

まるで二つの惑星が軌道共鳴するかのように

二つの存在はワルツで一つとなる

36: 2016/12/27(火) 01:59:15.470
恒星の周りを惑星が廻るように

惑星が自転によって廻るように

原子の周りを電子が廻るように

ワルツは廻る

宇宙のワルツは

世界が止まらない限り廻るから

だから赤座あかりちゃんも廻るのだ

おわり

引用元: あかり「朝がこないよぉ」