1: 2010/12/28(火) 08:49:30.51
唯「という訳で、皆であずにゃんへのプレゼントを考えよう」

律「……いや、唯さぁ。一つ言いたいことがあるんだけど」

唯「どうしたの? りっちゃん」

律「さすがにこの時期は……色々とダメだろ」

唯「何で? 皆で一緒の大学行けるのも決まったし、卒業式も終わったし、あとは14日の放課後学校に潜入して渡すだけじゃん!」

律「いや、そうじゃなくてだな……」

唯「あっ! それとももう制服なおしちゃったとか? 気が早いなぁ、りっちゃんは。
  まぁ私服でも割と大丈夫だと思うよ、私は」

律「でもなくて……」

唯「もしかして、私の一人暮らしのための準備が終わってるかどうかの心配をしてくれてるの?
  本当、りっちゃんは優しいなぁ」

律「……いやな、唯。さすがに……13日にホワイトデーの話は遅すぎる、って私は言いたいんだ」

3: 2010/12/28(火) 08:51:19.12
唯「えぇ~? そんなことないよ~。
  だって皆もまだ渡すもの決まってないでしょ? だからこうして私の呼び出しに応じてくれたんでしょ?」

紬「え~っと……」

澪「悪いけど唯……私もムギも律も、もう全員用意してあるんだ……」

唯「……え? もしかして、私に内緒で皆で買いに行ったとか?」

律「そんな仲間はずれみたいなことする訳ないだろ……
  ただな、合格祝いも兼ねたバレンタイン貰って、梓のための曲の練習に追い込みかけてたって言ってもさ……時間はあっただろ?」

唯「え~? 練習で一杯一杯だったよぉ~。あずにゃんのいない時にバレないよう練習してたんだし」

澪「その練習でもムギのお菓子ばっか食ってたのは唯だろ……」

唯「りっちゃんもだよ」

律「私は食べながら何をあげるか考えてたからな」

唯「ズルイ~……」

律「いや、むしろ普通だと思うけど……」

4: 2010/12/28(火) 08:53:11.39
紬「そ、それよりも唯ちゃんは、梓ちゃんに何をあげたいとか考えてないの?」

唯「考えてないです!」フンス

律「威張るなよ」

澪「う~ん……でも今日丸一日使ったら、何か良いアイディアは出るかもしれないし、今から考えるだけ考えるか」

唯「あっ、そうだ! 皆は何をあげるつもりなのか教えてよ!」

律「えぇ~? でもソレを参考にしたら被っちゃうじゃん」

唯「でも皆だって、それぞれが何をあげるのか分かんないんだよね? 一人一人で考えて買いに行ったみたいだし。
  だったら、もしかしたらとっくに被っちゃってるかもよ?」

澪「確かに……そうかもしれないな」

紬「私たちがそれぞれあげる物が被ってないかどうか分かるものね」

唯「でしょ? それに私だって、被らないようにって参考に出来るでしょ」

5: 2010/12/28(火) 08:54:13.15
律「まぁ、私は普通に写真立てを買ったけどな」

唯「そんなのりっちゃんのキャラじゃない……」

律「お前は三年も一緒にいて私のキャラを把握してくれないのか……?」

唯「さすがに冗談だよ」

澪「でも写真立てか……律にしては中々良い選択じゃないか」

律「まぁな。ってか、私にしてはってさっきから二人共酷くね?」

紬「写真立てなら部室でも使ってもらえるし、梓ちゃんの部屋でも使ってもらえるものね」

律「そう言われるだろうと思ってな、実は部室用と梓の部屋用に二つ包装してもらってるんだ~」

唯「おぉ~……」

澪「すごい気が利いてるじゃないか……」

紬「さすがりっちゃんね~」

律「へへっ、褒めろ褒めろ」

6: 2010/12/28(火) 08:55:34.47
澪「私は、クッションを買ってあげたんだ」

紬「クッション?」

澪「そう。梓ってさ、強がってるだけで基本的には寂しがりやだからな。
  そうやって抱きつけるものがあったら落ち着くかな、と思って」

唯「なるほど……」

律「もしとっくに自分用のがあっても、部屋でならいくらあっても使ってもらえるもんな」

澪「そういうこと」

唯「澪ちゃん……なんだか梓ちゃんのお姉ちゃんみたいね」

澪「そうかな……?」テレテレ

7: 2010/12/28(火) 08:56:41.77
紬「私は紅茶の葉とティーセットにしてみたの~
  お菓子は軽音部の頃に沢山出してたからいらないかなって」

澪「ティーセットって……とっくに部室にあるんじゃないのか?」

紬「う~ん……確かに梓ちゃんの分とか、入ってくるかもしれない新入部員の分とかは置いたままだけど……
  これはね、梓ちゃん個人に、家で使ってもらうためのものなの」

唯「あずにゃんのためだけのってやつ?」

紬「そう。本当はご家族様の分も用意するべきなのかもしれないけど……そこまですると重いかなって」

律「あ~……確かにそれはあるかもなぁ~……」

紬「でしょ? それに、梓ちゃんにギターを教えてもらった時、代わりに紅茶の淹れ方を教えてあげてたから……」

澪「淹れるたびに思い出して欲しい、か」

紬「うん……思い出してもらえたら嬉しいな、って」

8: 2010/12/28(火) 08:58:34.62
澪「……なんか私たちのあげるものって全部、私たちのことを梓に覚えておいて欲しい、っていう想いが形になったようなもんばっかだな」

律「確かにな……もうコレだけで若干の重みがあるぐらいだし……」

紬「でも、それだけ梓ちゃんのことを私たちが好きって事だし……」

唯「あずにゃんのことが好きだから、あずにゃんに覚えておいてもらいたいんだよね」

澪「梓が私たちのことを忘れるわけも無いんだけどな」

律「スタジオでも会う約束してるから、当然なんだけどな」

紬「でも、放課後毎日会っていたことを覚えておいてほしいのよね……きっと、私たちは」

律「だな……」

唯「…………そうだ!」

9: 2010/12/28(火) 08:59:57.37
唯「お菓子を作ろう!」

律「は?」

澪「お菓子?」

唯「そう! いつもはムギちゃんの家の余り物だったけど、今度は私たちが手作りしたお菓子をあずにゃんにプレゼントするんだよ!」

紬「良いわね、それ!」

澪「でも、なんでさっきの会話からお菓子に繋がったんだ?」

唯「皆のものは、高校の頃の自分を忘れて欲しくないものだったでしょ?
  でもお菓子なら食べたらなくなるし、そういう意味では対になるかなって」

律「おぉ……さすがU&Iの作詞者……」

唯「えへへ~……」

10: 2010/12/28(火) 09:01:02.41
澪「でも皆でってことは、唯が梓に、個人的にあげるものがないってことだぞ?」

唯「そんなことないよ。皆で何を作るにせよ、私は私で何か別の物を作れば良いんだよ」

律「んまぁ、唯がそれで良いって言うんなら良いんだけど……私、そもそもの疑問が一つあるんだが?」

唯「なに?」

律「このメンバーの中で、誰がお菓子作りに詳しいんだ?」

唯澪紬「「「…………」」」

律「だよなぁ……」

紬「お、お料理はそれなりに出来るわよ?」

律「まぁ、ムギと澪はそうだろうし、私もそれなりだけど……」

唯「私だって! 最近は一人暮らしに備えて憂に教わってるよっ」フンス

律「……その辺りが不安要素だよなぁ……」

19: 2010/12/28(火) 09:16:17.47

律「でもま、今はその言葉を信用するしかないか……」

唯「まかせんさい! という訳で、お菓子作りが危ういんなら、お菓子作りの本を買って来れば良いんだよ!」

律「って本に頼るのかよっ!」

澪「でも実際、それしかないよな。お菓子作りって、分量が少し違うだけで味が変わるって言うし」

紬「そうね……やるからには本格的に、皆で一生懸命作りましょう!」

唯「おぉ!」

律「んじゃ、材料とか買出しに行くか。適当に分担していかないと、憂ちゃんが帰ってくる時間になってしまうしな」



常識的に考えてこの時期ならとっくに憂が軽音部に入ったの知ってるだろ…マジミスorz

12: 2010/12/28(火) 09:05:42.64
~~~よくじつ!~~~

律「とまぁそんなこんなで、それぞれがそれぞれのものを食べてもらえるよう、サイズを小さめにしたパンケーキを作ってきた訳だが……」

紬「うふふ」ニコニコ

澪「あぁ……」ドヨーン

唯「えへ~……」ポワポワ

律「……昨日失敗してまだ後悔しているヤツが一人いる訳だが……」

澪「だ、だって! せっかく梓に食べてもらえるから頑張ったのにまさか……!」

律「あぁ! しーっ! しーーっ!! 一応制服着てきたって言っても、私たちは卒業生だ!
  放課後っていってもこんなとこ先生に見つかったらややこしい事に――」

さわ子「なにやってんのよあなた達……」

律「――なるんだよなぁ、コレが」

13: 2010/12/28(火) 09:07:44.03
律「――……と言うわけなんです、すいません」

さわ子「なるほどね……ま、事情は分かったわ。それなら早く梓ちゃんに渡して、帰っちゃいなさい」

紬「はい、ありがとうございます、さわ子先生」

さわ子「別にお礼を言われる程のことじゃないわよ。
    三月が終わるまでは、まだあなた達はうちの生徒なんだもの。
    ちゃんと制服着て来てるんだから、特に咎める理由も無いものね」

律(良かった……昨日ムギが言った通り制服で来て……)

さわ子「でも、それならどうしてこんな部室前の階段で皆集まってるのよ。さっきも言ったけど、早く渡しに行けば良いじゃない。
    梓ちゃんもきっと、あなた達と部室で会えると喜ぶわよ」

律「いや~……そうしたいのは山々なんだけど……」

唯「じつはね、どうせだったら一人一人渡していこうかなって思って」

さわ子「あぁ……皆が一つずつ準備したの?」

唯「準備したんじゃなくて、手作りしたんだよ!」

さわ子「え……? そんなの梓ちゃんに食べさせて大丈夫なの?」

唯「酷いよさわちゃん!」ガーン

14: 2010/12/28(火) 09:09:37.50
さわ子「冗談よ。唯ちゃんの料理の腕が最低限食べれる程度なのは、風邪をひいた時に分かったもの」

唯「その言い方でもやっぱり酷いっ!」ガーン!

さわ子「それに、りっちゃんも何だかんだで料理が出来そうだし、澪ちゃんとムギちゃんに至っては心配する必要も無いし」

澪「っ!」ビクッ

さわ子「え?」

律「いや~……実はこの中で失敗したの、実は澪一人なんだよねぇ……」

さわ子「えぇ~……?」

澪「…………」

さわ子「あぁ~……まぁ、その、ね……ドンマイ、澪ちゃんっ」

15: 2010/12/28(火) 09:11:48.42
さわ子「っとあぁ! こんなところで油売ってる場合じゃなかったわぁ~」

律「うわ~……わざとらしいぃ~……」

唯「空気が悪くなったから逃げる気だね、さわちゃん」

さわ子「ひ、人聞きの悪いことを言わないで、唯ちゃん。私にも教師としての用事があるのよ」

紬「忙しそうですもんね、さわ子先生」

さわ子「そういう無垢に信用されると良心が痛むわ……」

紬「??」

さわ子「ま、ともかく、三月中はこの学校の生徒って言っても、用事が無いのに学校に来るのって本当はダメなことだから、早めに帰りなさいな」

唯律紬「「「は~い」」」

澪「……はい」

さわ子「……はぁ……そんなに落ち込まないの、澪ちゃん。
    あなたの作ったものなら、梓ちゃんだって喜んで食べてくれるわ。もっと自信を持ちなさい」

澪「……はいっ」

さわ子「うん、良い返事。それじゃあね、皆」

17: 2010/12/28(火) 09:12:55.02
澪「……なんか、久しぶりにさわ子先生に励まされたら、ちょっと元気出たかも」

紬「良かったね、澪ちゃん」

澪「うんっ」

律「でも、逃げたことに変わりは無いよな……」

唯「そうだね……珍しくちょうだいの一言も無かったもんね……」

澪「…………」

紬「…………」

律「……ごほん……さて、それじゃあ澪の元気も戻ったところで、早速実行に移そうと思うんだけど」

唯「あっ、それじゃあ作戦通り憂に連絡するね」

律「ああ。そうやって憂ちゃんと純ちゃんに部室から抜け出してもらって、梓を一人きりにしたところで……」

紬「まずは私が、ティーセットを持って突入ね!」

律「ああ、頼むぞ」

唯「連絡したよ~」

20: 2010/12/28(火) 09:18:36.59
憂「おねえちゃ~ん」タッタッタ

唯「あ、憂」

純「ちょ、ちょっと憂。なんで私までトイレに付き合わないと――って澪先輩!?」

澪「やあ」

律「いや、私たちもいるんだけどなぁ~……」

純「あっ、これはどうも、律先輩、ムギ先輩」

律「梓達の年代の後輩って、先輩に対する礼儀がなっていない気がする……」

紬「まあまあ」

21: 2010/12/28(火) 09:19:33.84
純「それで皆さん、どうかしたんですか?
  制服まで着てうちに来て……まだ持って帰ってない荷物でもあるんですか?」

澪「いや、そういう訳じゃないんだけど……」

唯「憂、説明してないの?」

憂「ごめんなさい。純ちゃんに説明するの忘れてて……」

唯「うっかり屋さんだなぁ~、憂は」

律「唯にだけは言われたくないと思うぞ?」

唯「酷いよ、りっちゃん」

澪「いや、前日になってホワイトデーのお返しとか言いだす辺り、説得力無いよ」

唯「み、澪ちゃんまで!?」

純「ホワイトデー、ですか?」

22: 2010/12/28(火) 09:20:49.04
律「ああ……その辺りの説明はしてやるよ。
  それよりもムギ、この様子だと梓が不審がるかもしれないし、早く行って来な」

紬「うん。それじゃあ先に行って来るわね」

タッタッタッタ…

純「……で、梓とムギ先輩を二人きりにして、何をするつもりなんですか?」

律「おおぅ……! 新しい放課後ティータイムのメンバーは怖いぜ……」

純「別に怖がらせてるつもりもありませんけど……その辺りのノリ、梓ほど付き合いが長くない私にされても困りますよ」

唯「純ちゃんは純ちゃんでいてくれたらそれで良いんだよ」

純「良いセリフのつもりなのかもしれませんけど、皆さんから見た私らしいって何……?」

唯「モフモフ可愛い!」

律「その場のノリで生きてる感じ……?」

澪「梓と憂ちゃんの友達、かな?」

純「やっぱり付き合いの短さってこういうところでくるよね……ちょっと悲しくなってきた……」

憂「まあまあ」

23: 2010/12/28(火) 09:25:18.98


純「――……えっとつまり、先輩方は梓にホワイトデーのお返しを渡そうと、そういうこと?」

唯「うん!」

純「なぁんだ……それだったら連れ出す前に言ってくれたら良かったのに」

憂「言ったら梓ちゃんにも聞かれちゃうでしょ?」

純「でも梓が驚くのって、一番最初に行ったムギ先輩だけじゃない? 後の皆さんはもう分かっちゃう訳ですし」

澪「まあ、そうなるな」

律「でもやっぱサプライズ的なことはしたくなるじゃん?」

純「そういうの好きそうですよね……この前スタジオで顔合わせした時も、梓を利用したサプライズでしたし」

24: 2010/12/28(火) 09:27:06.84
唯「あの時は皆で演奏できて楽しかったねぇ~」

律「って言うか、憂ちゃんは唯の世話があったから仕方ないにしても、純ちゃんは普通に梓と一緒に軽音部入ってくれても良かったじゃん」

澪「そうだよな。ちゃんとベースも弾けるから即戦力だったのに」

純「いやぁ~……あの頃は、その……はははっ」

律(笑って誤魔化した……)

純(さすがに、真面目に部活やってるように見えなかったとは、入った手前本人達を前にしては言えない……)

25: 2010/12/28(火) 09:32:18.79
純「そ、それよりもほら、ムギ先輩は梓に何をあげるつもりなんですか?」

唯「ティーセットだって」

純「ティーセットですか?」

憂「でも部室には私たちの分と、新入生が入ってきた時のための予備として、いくつかムギ先輩が置いて行ってくれてますよね?」

律「あぁ~……そうじゃなくて、梓の家で使ってもらうための物だって」

唯「前にあずにゃんにギターを教えてもらった時、紅茶の淹れ方とか教えたんだって」

純「へぇ~……」

憂「なんか素敵ですね、そういうの」

純「……そう言えば去年までの軽音部のお菓子とかお茶って、全部ムギ先輩の家から持ってきたものなんですよね?」

律「そうだぞ~! メチャクチャ美味しかったんだぞ!」

澪「最初はお茶が苦いって言ってたくせに……。
  ……でもよくよく考えてみると、私たちも結構図々しいことしてきたよな……」

唯「そうだねぇ~……ムギちゃんが構わないって言ってるからって、甘えすぎてたかもねぇ~」

26: 2010/12/28(火) 09:35:40.24
律「ん~……そう言われるとそうだな……こうなってくると、ムギにも何か送って上げた方が良いのかもな……」

純「そんな必要ないと思いますよ?」

唯澪律「「「え?」」」

純「え……っと……そこまで注目されるとは思わなかったんですけど……
  私は、そんなことしなくても良いかなぁ、って思っただけで……」

唯「純ちゃんはどうしてそう思うの?」

純「ん~……あんまり皆さんとは直接関わってきませんでしたし、梓から聞いてた話でしかないんですけど……
  ムギ先輩は、皆さんとの楽しい時間を過ごしていたんですよね? きっとその対価がお茶とかお菓子なんじゃないかなぁ……と」

律「でもさ、私たちだってムギと一緒にいて楽しかったぞ? その理論だと、まるでお茶やお菓子目当てでムギと仲良くなってたみたいじゃん」

純「そうじゃなくてですね……えっと……上手く言えないんですけど、
  だからと言ってお茶やお菓子に対してのお礼をいきなり渡したら、逆にまたムギ先輩に気を遣わせてしまうというか……
  むしろお礼を渡すことで、お茶やお菓子目当てだったって言ってるみたいになるって言うか……」

澪「……確かに……純ちゃんの言うことも一理あるかもな……」

純「あっ、分かってくれましたか?」

澪「なんとなくだけどな」

純(さすが澪先輩!!)

28: 2010/12/28(火) 09:38:19.87
唯「どういうこと? 澪ちゃん」

澪「たぶんムギは、私たちと楽しく過ごす時間のために、無意識に、無自覚にあのお茶とお菓子を持ってきてたんだと思う。
  私たちがムギのことをお金持ちって知っていても、ソレを日頃は意識してないのと同じでな」

律「あぁ~……なるほど。
  ってことはココでいきなりお礼だなんて言って何か渡したら、私たちがいきなりムギに『私ってばお金持ちなの~♪』って言われるようなもんか」

澪「似てないな、オイ」

唯「そんなのムギちゃんじゃない……」

律「悪かったな!」

唯「でも、私もムギちゃんに何かお礼をしたいよ」

憂「だったら、これから毎日少しずつお礼をしたら良いんだよ、お姉ちゃん

唯「? どういうこと?」

30: 2010/12/28(火) 09:39:51.99
憂「これから毎日、少しずつ、ムギ先輩にお礼を言うように……ちょっとずつ、感謝の気持ちを形にしていけば良いんだよ。
  えっと……まずはそうだなぁ……手始めに、これからのティータイムのお菓子をお姉ちゃんも持っていくとか」

唯「おぉ! 憂ってば天才!!」

澪「そうだな……そもそも日頃の感謝の気持ちを、一度きりのプレゼントでどうにかしようってのが虫の良い話しだもんな」

律「だな。ムギには積み重なってきた感謝の気持ちがあるし、少しずつ返していくのが正しい、か」

澪「私たちも後輩達と一緒に演奏するためにバイトとかするし、そのバイト代がお菓子代に多少消えたところで、問題ないさ」

律「本当の意味での対等は無理でも、せめて感謝の気持ちだけは対等にならないとな」

澪「おっ、今の律の言葉良いな。今度歌詞に使わせてもらうよ」

律「澪に使われると、甘々になるからご遠慮願いたいんだけどな……」

澪「なにおぅ!」

純(これが軽音部のノリか……何か気が付いたら置いていかれてるや……)

32: 2010/12/28(火) 09:41:04.01
~~~

ガラッ

梓「あっ、もう憂達ったらいきなり飛び出してどうしたの? 早く新入生歓迎会の練習しないと――」クルッ

紬「憂ちゃんでも純ちゃんでもなくて、ムギちゃんでしたーっ!」バッ!

梓「ってムギ先輩!? え? へっ!? え!? な、なんでこんなところに制服でいらっしゃるんでしょうかぁ!?」

紬「学校だもの。制服で来ないと怒られちゃう」

梓「あっ! ですよね! 学校に全裸で来れるはずありませんもんね!」

紬「……えっと……梓ちゃん? もしかして、結構パニくってる?」

梓「そんな! ムギ先輩の裸なんて想像してませんよ!?」

紬「ちょっとティーセット借りるわね。お茶を淹れるから落ち着きましょう」

33: 2010/12/28(火) 09:42:25.60
梓「はぁ~……すいません。いきなり取り乱してしまって……」

紬「ふふふ……別に良いわよ。梓ちゃんらしいところが見られたもの」

梓「アレは全然私らしくは無いんですけどね……。
  ……と、そんなことより、本当にいきなりどうしたんですか? って言うか、ムギ先輩一人ですか?」

紬「ううん。皆も下にいるわよ。
  ただちょっと、今日は特別な日だし、サプライズもしたかったから、一人ずつ梓ちゃんに会おうってことになって。
  憂ちゃんと純ちゃんにも席を外してもらったの」

梓「あっ……それで二人共いきなり……でも、特別な日って、一体なんですか?」

紬「あら? 忘れちゃったの、梓ちゃん。今日は私の誕生日よ」

梓「にゃっ!? そ、それは本当に失礼――」

紬「ふふっ、冗談よ」

梓「――……ですよね、慌ててから気付きました」カァッ///

紬「照れた梓ちゃんって、やっぱり可愛いわ」

梓「もぅ……からかわないで下さい……」///

34: 2010/12/28(火) 09:44:01.11
紬「本当の用事はコレ」

梓「? 何です? この箱。まるでプレゼントみたいですけど……」

紬「ええ。プレゼントだもの。中はティーセットよ。
  梓ちゃんの家で、梓ちゃん個人に使ってもらおうと思って」

梓「……本当に、今日は何の用事なんですか?
  そんな包装紙からして高そうなティーセット、私受け取れませんよ?」

紬「受け取って欲しいの。だってコレは、チョコレートのお返しだもの」

梓「チョコレ……? ……ってあぁ! 今日はそう言えば……!」

紬「そ。今日はホワイトデ~♪」

梓「なるほど……って、それでもこれは受け取れませんよ!
  私のは手作りチョコケーキが一つでしたし、ソレに対してこんな高そうなものは……!」

紬「気持ちに値段をつけるのは、私自身あまり好きじゃないのだけれど……
  梓ちゃんのケーキには、このティーセットの値段なんて目じゃないほどの価値があったのよ。
  少なくても、私の中ではね」

梓「ムギ先輩……」

紬「だって、私の大切な後輩の手作りなんだもの。合格祝いも兼ねた、とっても嬉しくて甘い、ね」

35: 2010/12/28(火) 09:44:49.61
紬「だから、気にせず受け取って頂戴」

梓「……じゃあ、遠慮なく……」

紬「はい♪」

梓「その……ありがとうございます。嬉しいです、ムギ先輩。
  ……私、ムギ先輩に教えてもらった紅茶の淹れ方、コレで練習します。
  だから……その……良かったら今度、機会があれば、飲んでもらえますか……?」

紬「えぇ、もちろん♪ 楽しみにしてるわね、梓ちゃん」

梓「っ! はいっ!」

36: 2010/12/28(火) 09:45:59.76
紬「あと、コレは皆で作ったケーキ」

梓「そこまでしてもらえるなんて……って、皆さんで作った割には小さいですね」

紬「ふふっ、皆で一つずつ作ったの。一人ずつ梓ちゃんに会うのは、こうやって一人一人でホワイトデーのお返しを渡すためなの。
  だからこの中には、私が作った一口サイズのケーキが一つ入ってるだけ」

梓「本当……何から何まで、ありがとうございます」

紬「お礼を言うのは私たちなのよ、梓ちゃん。だってコレは、バレンタインのお返しなんだもの」

梓「でもホワイトデーのプレゼントですよね? なら、貰う立場の私がお礼を言ってもおかしくはありませんよ」

紬「……確かにその通りね。梓ちゃんに一本取られちゃった」

37: 2010/12/28(火) 09:48:43.42
紬「じゃ、渡すものも渡したし、一本も取られたし、私はもう行くわね。澪ちゃん達を待たせるのも悪いから」ガタッ

梓「あっ、すいません。何のおもてなしも出来ませんで」

紬「ここは部室よ? そんなに気を遣うことも無いわよ」

梓「でも、せっかくムギ先輩が来てくれたんですし……もう、コレが部室で会う最後なんですし……」

紬「この前みたいにスタジオで会えるでしょ?」

梓「そうですけど……」

紬「……寂しい? 梓ちゃん」

梓「そ、そんなことありませんよ!?
  私だってもう軽音部の部長ですし、ムギ先輩にも沢山のものもらいましたし、大丈夫です!」

紬「……そう?」

梓「はいっ! 信じてくださいっ!」

38: 2010/12/28(火) 09:49:40.84
紬「……ふふっ、そうね。梓ちゃんなら大丈夫よね」

梓「はい!」

紬「でも、私が寂しくなっちゃった」

梓「え?」

紬「だから、抱きしめさせて」

梓「え、えぇ!?」///

紬「ねえ、お願い、あ・ず・さ・ちゃん♪」

梓(うぅ~……手を広げて満面の笑み浮かべて待ってる……
  っていうかもう、あの格好からしてキレイだし、いつもとは違う言葉遣いなのがもうさらに良すぎて……
  ああもう! 頭の中が色々と分からなくなってきたっ!)///

紬「なぁんて、梓ちゃんが混乱してる隙に――」

ギュッ

梓「にゃっ!?」

紬「――抱きしめちゃいました~♪」

40: 2010/12/28(火) 09:50:45.54
梓(ああぁぁぁ……! 相変わらずなムギ先輩のいいにおいが……っていうか胸に顔埋めるように抱きしめてきてるせいでとんでもなく柔らかいものがあるんですがコレは一体……! …………あ、限界)

梓「はにゃぁ~……」///

紬「あ、梓ちゃん!?」


~~~~~~


唯「あ、ムギちゃんおかえり~」

紬「ただいま、唯ちゃん」

澪「どうだった? 梓、喜んでくれたか?」

紬「えっと……梓ちゃん、顔を真っ赤にして倒れちゃった」

澪「…………え?」

42: 2010/12/28(火) 09:55:20.06
紬「ちょっと、色々とからかったり、ふざけたりしてたら……」

律「あぁ~……なるほどね」

律(ムギのやつたぶん、梓に抱きついたな……)

唯「大丈夫なの? あずにゃん」

紬「たぶん、大丈夫だとは思うけど……」

律「よしっ、じゃあ澪。様子見に行くついでに行って来い」

澪「ってえぇ!?」

律「どうせ次はお前だろ? そのまま梓の看病をしてこれば良いじゃないか」

澪「そ、それもそうか……そうだな、じゃあ行って来るよ」

律「おお、いってらっしゃ~い」

唯「澪ちゃん、あずにゃんをお願いねっ!」

澪「えっと……うん、任せて」

タッタッタッタ…

43: 2010/12/28(火) 09:58:32.28
律「……で、梓を強く抱きしめて、一体どうしたってんだ?」

紬「り、りっちゃん!? もしかして見てたの!?」

律「いや、見てはいないけど……っつか見れないけど……なぁんとなくそうだろうなぁ、って思っただけ」

紬「うぅ~……ごめんなさぁい」シュン…

憂純((か、可愛い……!!))

律「いや、別に責めてる訳じゃないし。ただ本当にふざけあってただけなのかな、って想って」

唯「そうだよね、あずにゃん可愛いから思わず抱きしめちゃうよね!」

律「いやいや、そんな話はしてないぞ……?」

唯「えぇ~? でも可愛いと抱きしめちゃうじゃん。こうやって」

ダキッ

純「ひわっ!?」

唯「ん~……やっぱり純ちゃんのモコモコは気持ちいい~」

純「ひいいいぃぃぃ~~~……ちょ、ちょっと皆さん、助けて下さ――」

紬「実はね、梓ちゃん、ちょっと寂しそうだったの」

純「――って助けてくれるはず無いですよね! ココにはストッパーの澪先輩はいませんしっ!」

44: 2010/12/28(火) 09:59:36.47
純「憂……は無理なのは知ってるし……」

憂「純ちゃん良いなぁ~……」

純「うぅ~……終わるまで待つしかないのか……」

律「あ~……ほら、唯。純ちゃんが困ってるぞ」

純「律先輩……! 実は良い人……!?」

律「実はってなんだよ。もう助けてやんねぇ~」

純「あぁ! 口は災いの元を自ら体現してしまった!」

唯「りっちゃんもほら、純ちゃんの頭、触ってみてよ。気持ち良いよ~」

律「いや、ソレはこの前スタジオで会った時、散々やったから」

唯「じゃあムギちゃんは?」

純「そうだ! ムギ先輩助けて――」

紬「私はいいわ~。二人のその姿を見てるだけで満足だもの~……」ウットリ

純「――まぁ、そんな気はしてましたよ。……はぁ……早く澪先輩戻って来ないかなぁ……」

45: 2010/12/28(火) 10:00:27.93
~~~~~~

ガラッ

澪「えっと……梓? 大丈夫か?」

梓「…………」グッタリ///

澪「あ……」

澪(机に突っ伏したままだ……本当に大丈夫なのかな?)

ガラッ…パタン

澪(顔も真っ赤だし……もしかして熱でも出してるのか……?)

澪「それなのに無理して、とか……?」

澪(梓のことだからな……倒れるまで無理して、なんてことはありえそうだ……。
  ……そうだ、熱を測れば……って、体温計なんか常備して無いし……額の熱さは……
  ダメだ。汗ばんでるし、何より手に伝わってくるこの熱さが私より低いのかどうかも分かんない……)

澪「……仕方が無い」

澪(梓には悪いけど、気絶してる間に額と額を合わせて体温を測らせてもらおう)

澪「…………」

澪(……なんだか、改めてそういうのするってなると、妙に緊張するな……)///

46: 2010/12/28(火) 10:01:42.26
澪(えっと……まずは上体を起こして……って重っ! 力が抜けた人って上半身だけでもこんなに重いのか……日頃ベース担いでるのに、案外難しいな……)

梓「…………」グッタリ///

澪(……とりあえず、椅子にもたれかけさせる形で上を向かせたし……後は額を合わせるだけだ。
  ……うん、別に、その……コレは、梓が風邪をひいてないかどうかを確認するためのものだから、別に緊張することも無い訳で……
  って誰に言い訳してるんだ! 私はっ!)///

梓「…………」///

澪(……なんか、こうやって見ると、梓って結構、小動物系で可愛いよな……私とは全然違う……じゃなくてっ!
  えっと、えっと……額と額を合わせるんだから……って、このままだと難しいな……ちょっと、もうちょっとだけ椅子を後ろに下げて、真正面に立てるようにして……)

澪「……よいしょっ、と」

澪(ふぅ……さて後は、梓の額に自分の額を当てて体温を……って、顔が近付いてくるとやっぱり緊張す――)///

梓「……ふぁ」パチ

澪「えっ?」

梓「…………」

澪「…………」

47: 2010/12/28(火) 10:02:35.57
梓「…………」

澪「…………えっと……」///

梓「にゅ、にゅわああぁぁぁ!! み、澪先輩どうして!?」///

澪「お、落ち着け梓! コレには深い訳が……」ワタワタ///

梓「さっきまでムギ先輩だったのに今目の前にいるのは澪先輩でしかもキ、キスをしようとしてきてて……」///

澪「だ、だから違うんだ梓! その、コレは、梓が顔を真っ赤にして倒れてたから、熱でも出したのかと思って……!」///

梓「た、倒れてた!? 私がですか!?」

澪「あ、ああ」///

梓(……ああ~……)

梓「そっか……私ムギ先輩に抱きしめられて、気絶しちゃってたんだ……」

48: 2010/12/28(火) 10:03:42.26
梓「すいません……どうも澪先輩に心配を掛けさせてしまったようで……」

澪「いや……私もその、早とちりしてしまったみたいで……ごめんなさい」

梓「そんな! 澪先輩が謝ることは無いんですよ!」

澪「でも、そもそもムギと話をしてたのは知ってる訳だし、熱を出してるかもしれないなんてのは早とちり以外に考えられない訳だし……
  って言うか、本当に熱を出してたんならムギが真っ先に知らせてくれたはずだもんな……」

梓「で、ですから気にしないで下さい! それに私だって、澪先輩にキスしてもらえたかもしれないという役得が――」

澪「え?」

梓「あっ……」///

49: 2010/12/28(火) 10:04:38.76
澪「えっと……その、あの……」///

梓「そ、それよりも澪先輩! 澪先輩もバレンタインのお返しですよね!?」///

澪「あ、ああ、そうだ。えっと……これなんだけど……」///

梓「えっと……なんですか? この紙袋」

澪「クッションだよ。割と大き目の」

梓「わぁ……! ありがとうございます!」

澪「絵柄は、割とありきたりなネコになっちゃったんだけど……」

梓「全然構いません! 私、ネコ大好きですから! 大切に使いますねっ!」

澪「ああ、ぜひ使ってくれ」

50: 2010/12/28(火) 10:05:22.90
澪「で、コッチがそれぞれで作ったプチケーキ」

梓「ありがとうございます。本当、何から何まで……」

澪「いや……あの頃は、文化祭が終わったって言っても、梓を一人きりにしてたようなものだしな。その贖罪もあるんだよ」

梓「贖罪って……そんな大げさな。それに皆さん、わざわざ部室で勉強してくれてたじゃないですか。
  私は、全然寂しくなかったですよ」

澪「そうか? むしろ邪魔だったんじゃないのか? 私たちがいたせいで、集中して練習できなかっただろ?」

梓「それよりも、一人でこの部屋にいるほうが、集中できませんでしたよ……」

澪「…………」

梓「……? どうかしましたか?」

澪「いや……そう言ってもらえると嬉しいなって思っただけだよ。ありがとう、梓」

51: 2010/12/28(火) 10:06:18.34
澪「ただ、その……こんな大げさなこと言っておいてなんだけど、実はちょっと失敗しちゃってな、そのケーキ」

梓「ちょっと、ですか?」

澪「いや、かなり……」

梓「かなり……?」

澪「じつは、全部……」

梓「全部!?」

澪「いや、さすがに全部は冗談だけど……でも本当、焦げたりとかしたから、もしかしたら苦いかも……」

梓「焦げたって……どれぐらいですか?」

澪「黒になる直前……なのが、少しだけ……どうもオーブンに入れてる時間が長かったみたいで……」

梓「なんだ……それだけなら大丈夫ですよ。まぁ、それ以上でも私は食べたでしょうけど」

52: 2010/12/28(火) 10:06:59.82
澪「その……おいしくなかったら、食べなくても良いからな?」

梓「食べますよ、絶対。それにおいしくない訳ないじゃないですか。
  澪先輩が作ったものですから」

澪「そんなこと無いさ。私なんて、よく失敗するし……」

梓「……ま、何と言われようとも食べるんですけどね」

澪「梓……ありがとう」

53: 2010/12/28(火) 10:07:47.65
澪「それじゃ、私ももう行くよ。次の律を待たせたらダメだからな」

梓「本当、ケーキと言いクッションと言い、ありがとうございます、澪先輩」

澪「でもこれって梓がくれたケーキのお礼だからな。改めてそうお礼を言われるほどのことでもないんだけど……」

梓「それでも、嬉しかったですから」

澪「そう言ってもらえると、私も嬉しいよ。……そうだ、梓」

梓「はい?」

澪「手、出してもらえるか?」

梓「手、ですか?」

ギュッ

梓「あ……」

澪「この手が……私たちを支えてくれてたんだな……」

梓「……何言ってるんですか。皆さんが、私を支えてくれてたんですよ」

澪「そうでもないさ。演奏の意味でも、他の意味でも……私たちは、梓のおかげだった部分が沢山あるんだよ」

54: 2010/12/28(火) 10:08:27.84
澪「本当に……ありがとうな、梓」

梓「澪先輩……」

ソッ

梓「あ……」

澪「それじゃあな、梓。また、次の合同練習の時、スタジオで」

梓「あっ……はい」

ガラガラッ……ガラガラ…パタン

梓「……あれ?」

梓(手の平に何か……)

梓「……飴……?」

梓(ミルク味、って……もしかして、ケーキが苦かった時のために……?)

梓「……本当、色々と不器用な人だなぁ……」クスッ

62: 2010/12/28(火) 10:57:56.49
~~~~~~

澪(う~……恥ずかしかった……梓と握手するだけなのに、さり気なくアメを渡すだけだったのに、なんでこんなに照れくさいんだろ……)///

律「おっ、澪おかえり~。で、どうだった?」

澪「え? 何が?」

律「いや、何がじゃなくて……梓の様子だよ。様子も見て来いって言っただろ」

澪「ああ~……大丈夫だったよ。梓は何も無かった。っていうか、ムギが抱きついたんだって?」

紬「うん……」

澪「それで照れてただけだよ。気にしなくて大丈夫」

唯「なぁんだ。澪が恥ずかしがったりするのと一緒か」

澪「なんだとはなんだ、なんだとは」

63: 2010/12/28(火) 10:58:41.33
澪「って言うか、さっきから唯はなんで純ちゃんに抱きついてるんだ?」

唯「頭が気持ち良いからだよ~」

澪「純ちゃんが困ってるだろ?」

純「み、澪先輩……!」

純(やっぱり澪先輩は天使だ……!)

唯「え~? そんなことないよ? ねえ純ちゃん?」

純「いえ、その……まぁさすがに、そろそろ離れて欲しいって言うか……」

澪「ほら、離れてやれよ」

唯「む~……じゃあ……澪ちゃんに抱きついてやる!」バッ

澪「あっ! ちょっ、やめろっ!」

律「なぁにやってんだか……」

64: 2010/12/28(火) 10:59:26.13
律「んじゃ、次は私が行って来るか」

唯「行ってらっしゃ~い」グググ…

澪「ああ……! ちゃんとして、来いよ……!」グググ…

律「分かってるよ。澪も、唯に抱きつかれたくなかったら頑張れよ」

タッタッタッタ…

唯「……澪ちゃん、私に抱きつかれるの、イヤ?」グググ…

澪「唯にじゃなくて、抱きつかれるのがイ・ヤ・だ!」グググ…

純「唯先輩の執念を見た……」

憂「ふふっ、お姉ちゃん可愛いなぁ……」ホワホワ

紬「本当ねぇ~……」ホワホワ

純(そしてこの二人は、どうしてこうも平然と眺めていられるのだろう……?)

65: 2010/12/28(火) 11:00:36.49
唯「む~……澪ちゃんったら強情だね?」パッ

澪「まあな」

唯「っと油断させておいて――」バッ!

澪「油断なんてしてないぞっ」ヒラリ

唯「あぁ……もぅ、澪ちゃんのいけず~……良いよ良いよ、ムギちゃんに慰めてもらうから~」ギュッ

紬「きゃっ、もう唯ちゃんたら~」

澪「何やってるんだか……」ハァ

純「……そう言えば澪先輩」

澪「ん? どうした、純ちゃん」

純「話変わっちゃいますけど、どうして軽音部の部長が律先輩だったんですか?
  澪先輩の方がしっかりしてそうなのに……」

66: 2010/12/28(火) 11:01:45.96
澪「ああ……ま、成りゆき、だな」

純「成りゆき、ですか?」

澪「ああ。私は部長だなんて目立つことはしたくなかったし、最初に部活を立ち上げたのが律だってのもあったしで、そのまま律が部長になったんだ。
  ま、最初から律自身、部長になりたがってたみたいだし、誰も不満は無かったよ」

純「へえ~……律先輩がそんなリーダーシップを……」

澪「……ま、私に気を遣って、率先してくれてるってのもあるんだろうけどな……」

純「?」

澪「それよりも純ちゃん、私も聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」

純「え? あっ、はい! 何でも聞いてください!
  不肖、この鈴木純、スリーサイズから昨日の晩ご飯まで、知り得る限りのことがお答えしましょうっ!」

澪「いや、何もそこまでしなくても良いんだけど……その、さ……最近の梓って、どうなんだ?」

67: 2010/12/28(火) 11:03:15.31
純「どうって……どういうことですか?」

澪「ああ、いや……なんか部活中、妙に気を張り詰め過ぎてないかな、って思って」

純「ああ……でも梓って、前からあんな感じじゃありませんでしたっけ?
  部活動のことには必氏になるっていうか……」

澪「う~ん……そんな感じとはまた違う気がするんだけどなぁ……」

純「澪先輩は梓を見て、何か違和感でもあったんですか?」

澪「まぁ、そういうことなんだけど……でもま、友人の純ちゃんが言うんなら、とりあえず律が戻ってくるまでは良いか……」

純「?」

68: 2010/12/28(火) 11:03:56.08
憂「あの、ムギ先輩……私も、お姉ちゃんと一緒に抱きしめてもらっても、良いですか?」///

紬「え?」

憂「ダメ、ですか……?」

紬「いいえ! ダメじゃないわ! むしろ私からお願いしたいところよ!
  さあ! どんと来て! 憂ちゃんっ!」

憂「っ! はいっ!」ダキッ///

純「……っていうか、あっちはあっちで何やら盛り上がってますね……」

澪「だな。……巻き込まれないうちに、ちょっと距離を置いておくよ」

純「あ、私もそうさせてもらいます」

69: 2010/12/28(火) 11:04:36.58
~~~~~~

バンッ!

律「あずさ~! 元気か~!?」

ビクッ

梓「ちょっ、律先輩! そんな乱暴に開けられたらビックリしますよっ」

律「いや~……梓を驚かせる方法がコレぐらいしか思いつかなくてな」

梓「無理に驚かせる必要も無いでしょうに……」

律「まあまあ、そう言うなって」

70: 2010/12/28(火) 11:05:39.21
律「それで早速だけど、コレがホワイトデーの贈り物。
  中身は写真立てが二つ入ってるから、好きなように使ってくれ」

梓「はぁ……ありがとうございます」

律「それと、コレは例のケーキな」

梓「……っていうか、なんで部室にも入らずに全部渡してくるんですか?」

律「いや、さっさと唯に出番を回そうかと思って。
  それとも何か? 梓は私とお話がしたい程寂しいのか~?」

梓「そ、そんな訳ありません! 律先輩なんてさっさと帰れば良いんです!」

律「うわひでぇ! ってそう言われると逆らいたくなるのが私! という訳でお邪魔しま~す」

梓「うえっ!?」

律「おいおい……この部室は客にお茶も出さないのか?」

梓「元部長のあなたがそういうのしてるところは見たことありません! 図々しい要求すぎますっ!」

律「いや、だっていつもムギがしてくれてたしな~……私がする必要もなかっただろ?」

梓「万一ムギ先輩がしてくれなくても、律先輩がしてくれていたとは思えません……」

律「そ、そんなことねぇよっ!?」

71: 2010/12/28(火) 11:06:39.56
律「ま、それはともかく……新しく部長になってみた感想はどうだ?」

梓「どうも何も、まだ部長になって一ヶ月も経ってませんし……特に何も」

律「そうか? なぁんか梓のことだから、はりきりまくってるもんだと思ったけど」

梓「確かにはりきって無いとは言いませんけど……新入生歓迎会も近いですし。
  でもそれって去年と一緒ですし……特にコレと言ってって程では……」

律「ふ~ん……ま、梓がそう言うならそうなんだろうけどさ……部活は楽しく、だぞ。
  なんせ音楽ってのは、音を楽しむものだからなっ」

梓「分かってますよ、それぐらい。改めて律先輩に言われるまでもありませんっ」プイッ

律「…………」

梓「……? なんですか、いきなり人の顔ジッと見て」

律「いや……やっぱ梓が部長で正解だわ、って思ってな。……頑張ってるよ、お前は」

ポンッ

梓「にゃっ!?」

72: 2010/12/28(火) 11:07:44.39
律「ああ……いきなり頭撫でられるのはイヤか?」ナデナデ

梓「いえ……そんなことは、ありませんけど……ただ律先輩らしくないなぁ、と思いまして」///

律「……確かに、こうやって改めてって感じで梓を褒めるのは、初めてかもしれないなぁ……」ナデナデ

梓「…………」///

律「でも、頑張ってるのは本当だし……頑張りすぎてるのも本当みたいだし……」ナデナデ

梓「そんな……頑張りすぎてるだなんて……確かに律先輩の頃に比べれば頑張ってるかもしれませんけど……」///

律「……ま、そういうことにしておくか」

スッ

梓「あ……」

律「そんな寂しそうな顔するなって。またいつだって会えるだろ?」

梓「でも……こうやって撫でてくれるのは、もうありませんよね?」

73: 2010/12/28(火) 11:08:50.51
律「なんだ~? 梓らしくも無い。そんなに私に甘えたいのか?」ニヤニヤ

梓「そ、そんなことありません! 勘違いしないでくださいっ!」

律「はははっ、そうだよ、それでこそ梓だよ。それじゃあな」

ガラッ…パタン

梓(全く……。……っていうか結局、部室には入ったけど席に座ることなく帰っちゃったな……相変わらず賑やかな人だなぁ、あの人も。
  にしたって……もうちょっと落ち着いても良いと思うんだけど。あとガサツなのも何とかした方が……
  って、何考えてるんだろ……私は……ちょっと、昔を引きずりすぎかな……?)

梓「…………」

梓(……それでも、もう少しだけ、律先輩と話をしたかったな……)

梓「……ってあれ? 純と憂のカバンが無くなってる……」

74: 2010/12/28(火) 11:09:58.34
~~~~~~

律「ただいま~……って、何してんだ? ムギと唯と憂ちゃんチーム対澪と純ちゃんチームみたいに対峙して」

唯「ふっふっふ……澪ちゃんと純ちゃんだけムギちゃんに抱きついてないからね……コレを機に抱きつかせようかと思って……」

律「……はぁ……なぁにバカなこと言ってんだよ。
  次は唯だろ? 早くしないと、梓が待ちくたびれて帰りだすぞ?」

唯「おぉ! そうだったね! それじゃあ行って来るよ! りっちゃん!」

律「ああ、行って来い行って来い。カバン、持って行くのを忘れるなよ」

唯「オーケーさぁ~!」

タッタッタッタ…

澪「……ふぅ……助かったよ、律」

純「ありがとうございます、律先輩」

律「いや、そんな大したことはしてねぇよ。
  っつか、マジでそろそろ下校時刻になりそうだしな」

紬「うぅ~……」

律「って、なんでムギはそんなに悲しそうなんだよ……」

78: 2010/12/28(火) 12:13:20.65
紬「だって……純ちゃんと澪ちゃんが、私に抱きつきたくないって言うから……
  もしかして私、嫌われてるのかなぁ、って」ウルウル

澪「そ、そんなこと無いぞ! ムギ!」

純「そ、そうですよ! 私、ムギ先輩のこと大好きですよっ!?」

紬「ホント!?」パァッ

澪純「「ホント、ホント」」

紬「じゃあ、抱きしめてくれる!?」

澪「えっと……それは恥ずかしいって言うか……」

紬「……やっぱり……」シュン

澪「……あぁもう! ムギ! こういう形ではこれっきりだからなっ!」

紬「えっ?」

ギュッ

紬「ふわっ!」///

澪「…………!」///

79: 2010/12/28(火) 12:14:19.73
サッ

澪「はい! 恥ずかしいからもうおしまいっ!」///

紬「ふぁ~……澪ちゃん、ありがとう」///

澪「お、お礼を言うのはおかしいだろっ」///

純「え、えっと……ムギ先輩! 失礼しますっ!」///

紬「えっ!?」

ギュッ

紬「あ……っ! 純ちゃんまで……!」///

純(うわぁ~……かなり恥ずかしい……!
  っていうか前に梓が言ってたみたいに、スゴイいいにおいがするし無性に柔らかい……!!)///

バッ

純「え、えと……ありがとうございました!」///

紬「い、いえ! こちらこそ! わざわざありがとうございましたっ!」///

律「……なぁにやってんだか」

律(ムギの冗談を冗談だって認識できない澪の真面目さと、ソレに乗せられただけの純ちゃん……ま、仲良きことは美しきかな、か)

80: 2010/12/28(火) 12:16:05.18
律「っと、そうだそうだ。憂ちゃんに純ちゃん、ちょっと二人に渡したいものがあるんだ」

憂「渡したいものですか?」

律「ああ。澪にムギ、渡してやってくれ」

澪「えっと……私たち三人と唯で作ったんだけど……コレ」ガサッ

憂「わぁ~……ありがとうございます!」

紬「純ちゃんもほら、コレ」

純「あ、ありがとうございます! でも、なんですか? コレ」

律「クッキーだよ」

純「……クッキー?」

紬「ええ。私たちの手作りの、ね」

憂「あ、だから昨日、甘い匂いが台所に残って……」

律「ああ~……やっぱ残ってたか。作り終わった後思い出したように換気してたんじゃ、匂いがなくならなかったか」

81: 2010/12/28(火) 12:17:04.83
純「でも、どうして……」

律「今日がホワイトデーだからだよ」

澪「あのケーキって、純ちゃんと憂ちゃんも協力して作ってくれたんだろ?
  だからさ、やっぱ二人にも何かあげないとな、って思って」

紬「梓ちゃん用のケーキ材料と一緒に、クッキー用の材料も一緒に買っておいたの」

澪「ちょっと、梓とは違って、手抜きみたいになっちゃって悪いけど……」

純「い、いえ! そんなことありません! 嬉しいですっ!」

律「そうか? ま、そうやって素直に喜んでもらえるなら、作ったかいがあったよ」

紬「なんせ二人はもう、私たち放課後ティータイムの後輩ですものね♪」

純「あっ……」

憂「嬉しいです……先輩方」

純(ああ……どうして私、この部活に去年から入ってなかったんだろ……色々と勿体無いことしたかもなぁ……)

83: 2010/12/28(火) 12:17:55.94
律「あ、それとコレ。純ちゃんと憂ちゃんのカバンな。楽器はちょっと悪いけど、持ち出せなかった」

純「さっきから持っていて気にはなってましたけど……」

憂「でも、どうしてですか?」

律「たぶん、唯の話が長くなるだろうからさ。先に帰ってた方が良いだろうと思って」

憂「え?」

澪「梓の様子が変だったらそうしようって、昨日の段階で話し合ってたんだ」

純「変って……今日はそんなことありませんよ?」

律「ま、確かに私たちの勘違いって可能性はあるけどさ」

紬「それでも、唯ちゃんだって梓ちゃんに、何かを残したいと思うの」

純「何かを残す?」

85: 2010/12/28(火) 12:19:51.17
澪「ああ。私たちはとっくに、梓に言いたいこと言ったからな。後は、唯だけなんだ」

紬「大学に行き始めたら、やっぱり今までみたいに、毎日は会えないからね」

律「私たちとは違って、唯は最後の最後まで、卒業式を終えるまで……梓へ歌を送るまで、そのことを考えないようにしてたからな。
  梓に何も、言えてないんだよ」

憂「でも、歌を梓ちゃんにあげたんですよね? ならそれで十分なんじゃ……」

律「歌は私たち全員の気持ちであって、唯個人の気持ちじゃない。
  ……憂ちゃんなら分かるだろ? 唯は、楽しいことが大好きで……その楽しさのためならどんな苦労も堪えられるけど、一度得た楽しいことを、中々手放さないって」

憂「それは……確かにそうかもしれませんけど……」

律「それが悪いことだって言ってるんじゃない。
  むしろ、そうやって手放さないように努力しているってのはスゴイことだと思うし、良いことだと思う。
  理解あるフリして諦めるよりか、往生際が悪いと罵られてもしがみ続けた方が、個人的にはな」

紬「それにそのおかげで私たちも、唯ちゃんと出会えたようななものだもの」

憂「……一緒にいて楽しいから手放したくない、そんな相手である和ちゃんを追いかけてくれたから、ですね」

紬「うん」

87: 2010/12/28(火) 12:24:14.83
律「ま、そういう訳だから……唯の話は長くなるだろうなってことで、カバンをちょっと拝借してきたんだ」

澪「先に皆で帰ってる方が良いだろうしな」

純「でも長くなるって……どうしてそう思うんですか?」

澪「どうして、か……」

律「ま、簡単に言うとだな……」

紬「唯ちゃんが梓ちゃんを励ますから、かな」

89: 2010/12/28(火) 12:26:12.34

~~~~~~

ガラッ

唯「あっずにゃ~ん!」

梓「あっ、唯先ぱ――ってやっぱり!?」

ガバッ

唯「ん~……久しぶりのあずにゃん分~♪」スリスリ

梓「は~……」

唯「ん? 今日は突き放さないんだね」

梓「まぁ……そうするだけ無駄だってのは分かりましたから」

唯「…………」

梓「……? どうかしたんですか?」

唯「ううん。何でもないよ。ただあずにゃんはやっぱり可愛いなぁ、って思って」

92: 2010/12/28(火) 13:28:26.49


唯「…………」

梓「…………」

唯「……どう?」

梓「……何と言うか……普通ですね」

唯「がーんっ!」

梓「いえそんな! マズいって言ってる訳じゃないんですよ!?
  ただその……唯先輩にしては珍しく普通だなって……いえむしろ普通の味に作れたことを誇りに思ってください!」

唯「うぅ……普通に作れて誇りに思えってことは、普段はおいしくないのを作ってるってことだよね……」

梓「…………」

唯「そこで無言で目を逸らされるのは辛いよあずにゃん!」

93: 2010/12/28(火) 13:30:54.46
唯「にしてもさ……こうやってあずにゃんと二人きりなのって久しぶりだね」

梓「確かにそうですね。ここ最近は、むしろ皆さんと会うこともあまりありませんでしたし」

唯「少し前までは、放課後になったら毎日会ってたのに……不思議なもんだねぇ……」

梓「いえ、何も不思議じゃありませんけど……」

唯「まぁ、確かにそうなんだろうけどさ……
  なんて言うのかな、こうやってあずにゃんと毎日会えなくなるってのを、昔は想像も出来なかったなって思って」

梓「……私は、そうでもありません」

唯「あずにゃん?」

梓「私は、文化祭が終わってからずっと、こうやって毎日会えなくなるんじゃないかってこと、ずっと考えてました。
  ……正直、怖いくらいでした」

唯「……そっか……本当に、あずにゃんには辛い思いをさせちゃってたんだね」

梓「…………」

唯「…………」

94: 2010/12/28(火) 13:34:30.40
唯「……ねえ、あずにゃん」

梓「はい?」

唯「今でもやっぱり、辛い?」

梓「……いえ、そんなことはありませんよ。今はもう、大丈夫です」

唯「本当に?」

梓「本当ですよ。皆さんが卒業して、憂や純が入部してくれて……
  新入生歓迎会で演奏して新しい仲間を作ろうって話をして……
  軽音部を盛り上げようって思ってて……
  そう考えてたら、辛いなんて思う暇、ありませんよ」

唯「……私たちはさ、あずにゃんに何かを残せたのかな?」

梓「もちろんですよ。私は皆さんから、沢山のものをもらえました。
  だから……大丈夫です」

唯「……本当に?」

梓「え?」

唯「本当にあずにゃんは、それで大丈夫なの?」

95: 2010/12/28(火) 13:38:08.27
唯「確かにあずにゃんは、皆から沢山のものを貰ったと思う。和ちゃんに支えて貰っている間にさ。
  ムギちゃんからも、澪ちゃんからも、りっちゃんからも。
  ソレが何なのか……受け取ったあずにゃんにしか分からないものなんだろうけど……」

梓(ムギ先輩からは、家族という言葉と私たちの絆……
  澪先輩からは、皆さんが私を好きだと想ってくれている気持ち……
  律先輩からは、軽音部という私たちの始まりの場所……
  そんな、私のことを大切に想ってくれている、あらやる言葉で形にした、
  私が大切に想われているということを自覚させてくれる気持ち……
  それが、皆さんがくれたもの……)

唯「……でもね、その貰ったものは、今のあずにゃんを支えてくれてる?」

梓「えっ……?」

唯「逆に、あずにゃんを傷つけてない?」

梓「どういう、意味ですか?」

唯「そのまんまの意味だよ。
  あずにゃんを支えるための、あずにゃんのための言葉が、逆にあずにゃんの身体に棘になって刺さってないかってこと」

梓「そんなこと……」

梓(無い、って言いきれるのだろうか……? 私は……?)

97: 2010/12/28(火) 13:44:09.59
唯「皆に色々と貰ったから、その期待に応えないといけない。
  もう自分は一人なんだから、皆から貰ったものを糧にして、頑張っていかないといけない。
  皆が沢山のものをくれたから、ソレを投げ出すだなんて裏切り行為、出来るはずが無い。
  皆のために、皆のために、皆のために……きっとあずにゃんは、そんな風に想ってるんじゃないのかな?」

梓「……どうして、そう思うんですか?」

唯「どうしても何も、ずっとあずにゃんを見てきたからだよ。
  ……ううん。皆を見てきたから、かな。
  皆がどんな気持ちであずにゃんに言葉を掛けて、今のあずにゃんがどう受け止めてしまっているのかが分かるんだよ」

梓「…………」

唯「……あずにゃん。皆はね、そうやってあずにゃんを傷つけるために、言葉を掛けたわけじゃない。
  色々なものをあげたんじゃない。
  ……って、あずにゃんなら言わなくても分かってるか」

梓「…………」

梓(……私は……)

98: 2010/12/28(火) 13:49:06.13
梓「私は……ムギ先輩に、軽音部は家族だって言われました」

唯「うん」

梓「家族で、皆さんが先に進むその輪の中に戻ってみせるって、約束しました」

唯「うん」

梓「だから……頑張らないといけないんです。
  お母さんのムギ先輩が、私なんかを、家族だって言ってくれたから。
  私にとっても戻りたい、大切で、大事な、家族の場所ですから」

唯「うん」

100: 2010/12/28(火) 13:53:29.21
梓「澪先輩は、私のことを頼りになる後輩だって言ってくれました。
  妹だとも言ってくれました。お姉ちゃんとも、呼ばせてくれました」

唯「うん」

梓「私のことを本当に頼ってもくれました。
  それに、私のことを好きだって気持ちを皆さんが持ってることを、教えてくれました」

唯「うん」

梓「だから……皆さんと一緒にいたいって、私は想い続けられるんです。
  皆さんが私のことを嫌いじゃないか、って不安がないから、
  皆さんのことが大好きな私は、その大好きな人たちの場所にずっといたいって、一途に想い続けられるんです」

唯「うん」

101: 2010/12/28(火) 14:01:13.08
梓「律先輩からは、軽音部の中には私がいないといけない、ってことを言われました。
  私に部長を継がせて、辛い思いをさせてしまうかもしれないって言いながら、私のことを大切だって言ってくれました」

唯「うん」

梓「私に気を遣ってくれましたし、私に軽音部の部長を継がせてもくれました。
  私に、軽音部を頼んできました」

唯「うん」

梓「だから……私はここを、何としても守らないといけないんです。
  新入生を入れて、軽音部を軽音部のまま残して、そして皆さんを安心させて――」

唯「それは違うよ、あずにゃん」

梓「…………え?」

唯「そんな、無理をさせたいんじゃないんだよ、皆。
  確かに、ソレがあずにゃんのためになるなら、私たちは応援するよ?
  でもさ、私たちを安心させて、って言うんなら、それは応援できない」
  
梓「……どうして、ですか?」

唯「だって今のあずにゃん……相当無理してるんだもん」

105: 2010/12/28(火) 14:11:59.29
唯「私たちはただ、あずにゃんが元気なだけで、安心できる。
  それなのに、私たちを安心させるために頑張るあずにゃんを応援したせいで、さらにあずにゃんが無理しちゃうんなら……
  あずにゃんが元気じゃなくなるんなら、やっぱり応援はできないよ」

梓「私は……! ……無理なんて、してません……」

唯「してるよ。それに気付けないほど、あずにゃんは無理してる」

梓「それじゃあ唯先輩は、軽音部が無くなっても良いんですか?」

唯「そうだね……あずにゃんが無理し続けるっていうんなら、悲しいけど、無くなっても良いかな」

梓「そんな……! そんなこと、言わないで下さい……!
  私はただ、軽音部があってくれればそれだけで……! それだけのために……!」

唯「それと一緒だよ」

梓「えっ……?」

唯「私もただ、あずにゃんがいてくれるだけで良いんだよ」

梓「じゃあ……じゃあ唯先輩は、私に何もするなって言いたいんですか?」

唯「ううん。そうじゃないよ」

梓「でも、そう言ってるように聞こえます!
  先輩達のために頑張りたい私を、否定しているように聞こえますっ!」

106: 2010/12/28(火) 14:13:43.00
唯「……そっか……確かに、そうかもしれないね。
  あずにゃんは貰った言葉を受け止めて、自分なりに頑張ろうとしてるだけだもんね」

梓「…………はい……」

唯「……だったら、私たちに心配かけさせないでよ」

梓「……え?」

唯「苦しそうにしないでよ。悲しそうにしないでよ。寂しそうにしないでよ。
  無理してる、って感じを出さないでよ。
  それだったら私も……こんなこと、言わないよ」

梓「な、なに言ってるんですか、唯先輩! 私は全然、苦しくもありませんし悲しくもありません!
  まして、寂しくもありませんし無理なんて全くしていませんっ!」

唯「…………」

梓「どうして……どうしてそんなに、私を責めるんですか……!
  私が軽音部のために頑張ったら、無理したら、ダメなんですか……!」」

唯「……別に、そんなつもりはないよ。
  だってそうやって頑張ってるあずにゃんを否定するなんて……私には、出来ないよ」

107: 2010/12/28(火) 14:17:06.21
唯「でもさ、ムギちゃんに言われたんだよね? 私たちは家族だって」

梓「……はい」

唯「澪ちゃんに言われたんだよね? 私たちはあずにゃんのことが好きだって」

梓「……はい」

唯「りっちゃんにも言われたんだよね? あずにゃんがいないと、私たちは放課後ティータイムじゃなくなるって」

梓「……はい」

唯「だったらさ……どうして、私たちに相談してくれないの?」

梓「それは……その……迷惑かな、って思いまして……」

唯「……本当に? 本当にそれだけなの? あずにゃん」

梓「……それと……私一人で頑張ってやった方が、皆さんへの、サプライズになるかと思いまして……
  ただ相談してやるよりも、もっともっと、喜んでもらえるかと、思いまして……」

唯「それで……それであずにゃんが壊れたら、私たちはイヤなんだよ……?」

梓「…………」

108: 2010/12/28(火) 14:24:46.15
唯「私たちはね、さっきも言ったけど、あずにゃんのためになることなら、なにがなんでも応援するんだよ?
  だって、家族だし、大好きだし、いてくれなくちゃイヤなんだもん。
  でもさ……少なくてもコレは、あずにゃんのためにならない。
  ただあずにゃんに、無理をさせるだけ。あずにゃんを壊しちゃうだけ。
  だから、応援できない」

梓「それじゃ……! それじゃあ私は、どうすれば……!」

唯「だからさ……相談すれば良かったんだよ。一人で背負い込まずにさ」

梓「でも――」

唯「私たちにサプライズしたかったんなら、憂や純ちゃんに相談すれば良かったんだよ。
  私たちじゃなくて、さ」

梓「あっ……」

唯「そうやって、皆で負担を分け合えば良かったんだよ。だって皆……放課後ティータイムっていう、仲間じゃない。
  まして憂と純ちゃんは、あずにゃんの大切な友達じゃん」

梓「……そうだ……私……一人で、勝手に……! 勝手に独りだって、思い込んで……!」

唯「……寂しかったんだね、あずにゃん。
  ……あずにゃんはさ、そうやって一人で頑張りすぎるところがあるからさ……妙に責任感じてね。
  私たちの言葉に、責任感じることも無いのに。
  ……でも、そうやって私たちを驚かせるために、喜ばせるためにっていうあずにゃんの気持ちは、本当に嬉しいよ」

111: 2010/12/28(火) 14:30:28.53
唯「ねえ、あずにゃん。ムギちゃんと約束したんだよね? 私たちの輪に戻るって。
  だったらさ、そのあずにゃんが無理して倒れちゃったら、戻れなく、なるじゃん」

梓「……はいっ……」

梓(ああ……私ってば……)

唯「澪ちゃんに言われて、私たちと一緒にいたいって、想ってくれたんだよね?
  だったら……一人で全てを背負い込んで、無理しようと、しないでよ……」

梓「……ごめん、なさい……」

梓(本当に、バカだ……)

唯「りっちゃん、から……言われたんだよ、ね? ……軽音部は、任せたって……!
  だから、何としても守るんだって、思ったんだよね……?
  だったら……! だったら! 私たちと一緒にいた時と同じで、皆に相談するって事を、忘れないでよ……!
  それが……! 軽音部じゃん……!」

梓「ごめんなさい……ゆいせんぱい……! ごめんなさい……っ!」

梓(唯先輩を泣かせて……心配掛けさせて……)

唯「ねえ、あずにゃん……! お願いだから……ぐすっ、お願いだから……!
  私たちから、離れないでよ……!
  ずっとずっと……一緒にいようよ……!
  いたいよ……! ずっと一緒にいたいんだよ……! あずにゃん……!」

梓(本当に……本当に、バカだ……!)

113: 2010/12/28(火) 14:31:54.11
唯「あずにゃん、私たちはね、ただ――」

~~~~~~

澪「梓はさ、たぶん、焦ってるんだよ」

純「焦ってる、ですか?」

紬「ええ。私たちがいなくなって、メンバーは憂ちゃんと純ちゃんだけ。
  ……もしこのまま新入生歓迎会で誰も後輩が入ってこなかったら、軽音部は解散しちゃうもの」

憂「それで……」

律「私が梓に軽音部を託しちまったせいだな……悪い」

純「そんな、律先輩のせいじゃ……!」

律「いや、私のせいだよ。
  私がちゃんと、軽音部が潰れても良いから、梓だけは潰れないでくれって言わなかったせいで……」

澪「そんなこと言い出したら、私だって悪い。
  軽音部の皆が梓のことを好きだって言って、梓にプレッシャーをかけてしまった」

紬「それなら私だって!
  軽音部は家族だなんて言って、家族としての家である軽音部を守って欲しいみたいなこと、言っちゃった……」

純「先輩方……」

憂「皆さん……」

115: 2010/12/28(火) 14:33:12.12
律「私たちはただ――」


澪律紬「「「――梓(ちゃん)がいてくれるだけで良いのに」」」
~~~~~~
唯「――あずにゃんがいてくれるだけで、良いんだよ!」


梓「ゆい、せんぱい……!」

唯「だから……! 一人で全部をしようとだなんて、思わないで……!
  一人で全部背負い込んで、辛くなって、離れちゃうなんて……
  そうやって、あずにゃんがいなくなるのは、私たちが……辛いから……!
  悲しいから! イヤだからっ!」

梓「はい……はい……! これからは、ちゃんと、そうします……!」

117: 2010/12/28(火) 14:35:16.24
~~~~~~

律「……って、二人共私の言葉を取ろうとするなよ~」

澪「だって、言いたいことはイヤってほど伝わってきたからな」

紬「そうね……それに私たちも、同じ気持ちなんだもの」

律「……ま、そりゃそうか……」

純「その、先輩方!」

律「ん?」

純「私も、梓を支えます!」

憂「純ちゃん……」

純「梓が焦ってるっていうんなら、手を引っ張って落ち着かせます!
  落ち込んだ時は、繋いだ手に力を込めます!
  ですから……! 皆さんが梓にあげた言葉を、無かったことにはしないで下さいっ!
  お願いします!」

119: 2010/12/28(火) 14:37:55.76
憂「わ、私も! 梓ちゃんを支えるから! 梓ちゃんと一緒にいるから!
  一緒に軽音部を盛り上げていくから……! だから――」

澪「……分かってるよ」

憂「――え?」

紬「……ありがとう、憂ちゃん。純ちゃん」

律「……本当、梓は良い友達に巡り会えてるよなぁ……」

澪「そんなこと言ったら、私たちは良い後輩に巡り会えてるよ」

紬「そうね」

律「……ま、アレだ。私たちも梓に頼りきってたって話だ」

澪「梓だって寂しいのに、私たちが勝手に梓に何かを残そうとして……」

紬「私たちが勝手に、梓ちゃんと離れ離れになるのを寂しがって……」

律「本当は、私たちが梓を支えないといけなかったのにな」

澪「私たちが梓に頼りきって、支えられていた」

紬「勝手に梓ちゃんは大丈夫だって思って……言葉を残して、梓ちゃんを焦らせて……」

律「本当……情けない先輩だよ」

122: 2010/12/28(火) 14:43:50.94
澪「でも、だからって、梓にあげた言葉を無かったことにはしないよ。
  だって何も残せなかったら……梓は軽音部を続けてくれていたかも、分からないからな」

紬「そうね……今は焦って無理してるんだとしても……私たちが何も残さなかったら……
  歌ですら、梓ちゃんに渡せてなかったら……きっと……」

律「梓には、さらに大きな負担になってただろうな……」

純「先輩方……」

憂「それじゃあ梓ちゃんは、どちらにしても苦しまないといけなかったってことですか? 先輩方が何かを残しても、何も残さなくても……」

律「ま、梓の性格を考えると、そうなってしまったんだよな、結果的に」

澪「私たちも今日、梓に会うまで気付けなかった。
  私たちの言葉が、軽音部に梓がい続けられる支えになって、同時に梓を縛り付けて苦しめることになってしまってる、ってことに」

紬「……もしかしたら唯ちゃんは、そうなることも分かってたのかも」

憂「え?」

126: 2010/12/28(火) 14:55:49.36
紬「私たちが、自分の中にある寂しさに向き合わず、梓ちゃんのためにって、梓ちゃんの未来のことも考えず何かを残して……
  それが梓ちゃんの負担になるって分かってたから……
  その時は大丈夫でも、後々梓ちゃんが無理しちゃうって事が分かってたから……
  今の今まで、何も言わなかったのかも」

律「なるほどな……確かに、唯ならありえそうだ」

澪「楽しいことをギリギリまで楽しみたい唯だからこそ、終わりがどうなるかも想像できるってことか……」

純「……唯先輩って、そんなにスゴイんですか?」

澪「ま、ソレを本能でやってのけてるってのが、唯のスゴイところだよ」

律「確かに少しは考えてるんだろうけど……基本的には、明るく楽しくが唯のモットーだろうからなぁ……」

紬「深く考えてたら、唯ちゃん自身が楽しめなくなっちゃうものね」

純「へぇ~……唯先輩ってそんなに……」

憂「すごいでしょ、お姉ちゃん」

純「確かに……というより皆さん、それぞれの人の事よく知ってますね」

127: 2010/12/28(火) 14:59:48.72
律「三年間の付き合いだからな。
  友達で、仲間で、バンドメンバーで……もう家族みたいなものだよ」

澪「これからは、憂ちゃんとも純ちゃんとも、そうなれるようにならないとな」

純「っ! はい! よろしくお願いしますっ!」

憂「わ、私も! よろしくお願いしますっ!」

紬「ああ……二人共初々しくて可愛いわぁ……」ウットリ

澪「もう二人共高校三年生なんだけどな……」

紬「でも、軽音部ではまだ一ヶ月も経ってないのよ?」

律「確かにそうなんだけど……初々しいは何か違うくないか?」

純(賑やかだな……私残り一年間、この部活に入って良かったかも……!)

129: 2010/12/28(火) 15:03:39.31
~~~~~~

帰り道


唯「ふぅ……なんかいっぱい泣いたら、お腹空いちゃったね!」

梓「なんなんですか、それ……まぁでも、確かにちょっとお腹は空きましたけど……」

唯「アイスでも食べて帰ろうか!?」

梓「は――……いえ、遠慮しておきます。
  私は帰ったら、皆さんがくれたケーキがありますから」

唯「ああ……そっかぁ~……じゃあ私も大人しく帰ろうっと」

梓「そうして下さい。憂が心配しますから」

130: 2010/12/28(火) 15:08:41.55
唯「……ねえ、あずにゃん。もう大丈夫?」

梓「……はい。今度の今度こそ、大丈夫です」

唯「ん……そうだね。確かに大丈夫みたい」

梓「……本当、唯先輩には敵いません」

唯「でも、あずにゃんが辛そうだったのは、皆気付いてたよ?」

梓「そうなんですか……皆さんにも、心配かけちゃったな……」

唯「皆気にして無いよ。これから先、もう無理さえしなかったら、それで良いんだよ」

梓「はい。これからは私、軽音部らしく、皆に相談することにします。
  だって私には、憂と純っていう、頼りになる友達が、二人もいますから」

唯「……ありがとね、あずにゃん」

梓「? 何がですか?」

唯(無理しないで。頑張りすぎないで。壊れないで。ずっとあずにゃんでい続けて……
  どれもこれも、皆みたいに上手く言葉には出来なかったけど……それでも、受け取ってくれて……。
  ……なぁんて言うのは、私のキャラじゃないか)

唯「ううん、何でもないよ、あずにゃん」

ギュッ

131: 2010/12/28(火) 15:10:34.84
梓「ちょっ、いきなり手を繋いできて一体――」

唯「どうもしないよ。でも、何となく握りたかったんだ」

梓「…………」

唯「……ダメ?」

梓「……今日だけですよ。今日だけ、私に『私はバカだ』って教えてくれたから、そのおれいです」

唯「あずにゃんはバカじゃないよ! 可愛いんだよっ!」

梓「それ、ちょっと日本語怪しくないですか?」

唯「え? そう?」

梓「…………」クスッ

唯「むい?」

梓「いえ、別に。ただこういうの、良いなぁ、って思いまして」

132: 2010/12/28(火) 15:15:22.43
梓(私、何を勝手に一人で寂しがってたんだろ……。無理して、寂しさを誤魔化してたんだろ……。
  ……私は独りじゃないのに、何を寂しがってたんだろ。
  こうやって隣を歩いてくれる先輩もいれば、私のことを妹のように想ってくれている先輩もいる。
  私に大切なものを守ってくれるよう託してくれた先輩もいて、私のことを家族のように大切だと言ってくれる先輩もいる。
  それなのに……これで独りだなんて言って……勘違いして……寂しがって……無理して……心配かけて……
  本当、バカみたい、私)

唯「あずにゃん」

梓「はい?」

唯「寂しくなるのは、仕方ないことなんだよ。突然一人にされたら、誰だって寂しいんだよ。だから、遠慮なく言ってね?」

梓「……はい」

唯「それに寂しいって思ってくれるって事は、それだけ私たちのこと好きって思ってくれてたってことだもんね。
  だから言ってくれるのは、とっても嬉しいから――」

梓「分かってますよ。私、皆さんのこと、好きですから。
  だから……遠慮せず、今度寂しくなったら、いつでも連絡します」

唯「――……うん、お願いね、あずにゃん」

134: 2010/12/28(火) 15:22:38.75
梓「それじゃあ唯先輩、ここで」

唯「うん。またね、あずにゃん。次はスタジオで」

梓「はい、また。今日はありがとうございました」

唯「ううん。私は、何もお礼を言われることはしてないよ」

梓「何言ってるんですか。ホワイトデー、くれたじゃないですか」

唯「おぉ! 忘れてたよ!」

梓「まったく……ま、唯先輩らしいですけどね」

唯「……ねえ、あずにゃん」

梓「はい?」

唯「……私、あずにゃんのこと、大好きだよっ」

梓「…………」

梓(本当……この人には、敵わないなぁ……)

梓「私も……私も大好きですよっ、唯先輩」ニコッ


終わり

139: 2010/12/28(火) 15:41:04.84
おまけ



プルルル…プルルル…ガチャッ

和『もしもし』

梓「あ、和先輩。今時間大丈夫ですか?」

和『あら、梓ちゃんから電話がくるなんて……先を越されちゃったわ』

梓「え?」

和『本当は今日あたり、梓ちゃんに電話でもかけようと思ってたところなのよ。
  あなた、私にまで気を遣ってる部分があるから、そろそろ無理しだしてるんじゃないのかな、って思って』

梓「……本当、先輩方には敵いませんね……」

和『あら、皆に何か言われたの?』

梓「直接言ってくれたのは唯先輩だけですけどね……でも、それが皆さんの優しさですから」

140: 2010/12/28(火) 15:43:29.52
和『で、無理してる、とでも言われたのかしら?』

梓「そこまでお見通しですか……最近会ってもいなかったじゃないですか」

和『最近会っても話してもいないから、よ。
  友達になったあの日から、私に気を遣っている可愛い後輩だもの。
  これだけ連絡がなければ、無理してることぐらい想像できるわ」

梓「さすがですね……」

和『さすがも何も、唯を始めとした軽音部の皆に気付かれていたんでしょ?
  別に梓ちゃんのことが好きなら、普通のことよ』

梓「それだと憂や純が私のことを好きじゃないってことになりそうですが……」

和『二人共、新しい部活で色々と緊張してて、自分のことで手が一杯なんでしょう。
  新入生歓迎会のことは、あなた一人で気負うことでも無いんだし。二人が緊張しててもおかしくはないわ。
  ……ま、その純って子と私は話したこともないから分からないけど』

141: 2010/12/28(火) 15:46:26.98
和『それで、今日はどうしたの? 唯たちに励まされたんなら、私に連絡しなくても良かったんじゃない?』

梓「いえ、あの……迷惑でしたか?」

和『迷惑じゃないわよ。さっきも言ったけど、どうせ私だって梓ちゃんに電話しようと思ってたんだもの。
  ただ、それよりも早くかけてきたってことは、何か用事があったんじゃないのかな、って思って」

梓「用事は……特に。ただ、前みたいに、ただお話がしたいなぁ、って想って」

和『……そう。良いわね、そういうの。
  後輩にそこまで慕われるの、悪い気はしないわ』

梓「ありがとうございます」

和『あ、そうそう。今日ホワイトデーだったでしょ?
  バレンタインの時憂からもらったケーキ、アレって梓ちゃんも手伝ってたのよね?」

梓「あ、はい」

和『そのお礼、憂に預けてあるから、明日にでももらって頂戴。その純ちゃんって子の分もあるから』

梓「……はいっ。ありがとうございます」

142: 2010/12/28(火) 15:48:59.29
和『それと……世間話の前に一つ、聞きたいことがあるんだけど』

梓「どうしたんですか?」

和『梓ちゃんは、軽音部に入って良かったって思えた?』

梓「…………」

和『私の大切な幼馴染はね……良かったって答えたわよ?』

梓「……そうですか……なら、私の答えも決まってます」



――最高に、幸せです



今度こそ終わり

145: 2010/12/28(火) 17:43:08.63
おつ

引用元: 唯「ホワイトデーだよ、みんな!」