1: 2013/01/03(木) 04:41:16.67
自らを脅かす存在などいるはずも無し、圧倒的な自負心を持ち備えた者。
何をしようとも、しまいとも、誰よりも速く、強大なる力が増大する者。
全てに勝利し、敗北を知らない者。何も恐れる必要などなし……否っっ!!
圧倒的退屈! 虚無感! 絶対王者だからこその感情が付きまとう。
大いなる力というのは、必ずしも全てを満たすものでは無い。
彼は願った。このつまらない日常を変えてくれる存在!! 何かを!!

勇次郎「……あぁ?」

可笑しいのは当たり前。昨晩、都内の最上級ホテルのスイートルームで眠っていたはず。
しかし、目が覚めればどうか。人の気配は無いが、どこかの商店街らしき場所で自分は存在している。

勇次郎何が起きてやがる……」

緻密な頭脳を持つ勇次郎であろうと、この状況を判断する事は難しく、思考に耽ろうとする。
と、そこで

男「はぁはぁ……」

男が走って来る。常人では考えられない程の危機感を持ちながら。

男(!? 鬼かっ!!……い、いや、違う)

男「お、おいあんた!! 逃げなくていいのか!! 血液型は!?」

勇次郎「……何故、貴様に言う必要がある」

男「はぁ!? こんな時に強情張ってる場合じゃ!! っくそ!! もう来やがった!!」

7: 2013/01/03(木) 05:02:51.54
数名の『男』がこちらへと向かってくる。顔に面を付け、身体は黒いコートで覆われ、
手には何かが装着されている。

男「や、やべぇ!! おいあんた!! 逃げ」

男の口が噤まれる。何故か。
このような危機的状況において、目の前の男は口角を上げていたからだ。

勇次郎(感じるぜ……紛うこと無き殺気ッッ!!)

そして、向こうに居る数人の一人が抜け出し、勇次郎へと迫る。

勇次郎(仕掛けられるのはいつぶりか……弱者ではあるが……その勇気、感謝ッッッ!!!!)

10メートル、5メートル、3メートル……1メートルと身体が触れ合う距離。

勇次郎「邪ッッッ!!!!」

男(っっ!?)

何が起こったのかは分からない。
気がついたら。首が落ちていた。
そして、面を付けた男の手にはワイヤーが握られていた。

10: 2013/01/03(木) 05:17:32.60
首なしの仮面の男は、首から血を噴き出しながら、ゆっくりと膝を付いて、その場に倒れた。

男「な、何が……」

向こうにいる男達も同様に身体の動きが止まっている。

勇次郎「どうした? かかって来ねぇのか?」

勇次郎がそう発すると、我に返ったのか。
向こうの男全員がズリズリと、1メートル程、後ずさりをし、踵を返した。

勇次郎「ッチ。まぁいい。テメェに聞きたい事がある」

男「あ、あんた一体……」

19: 2013/01/03(木) 05:38:21.74
――

勇次郎「クスクス。王様の命令でAB型の命が狙われていると……面白ぇ」

男「笑い事じゃねぇよ……こっちは殺されそうになってんだから……」

勇次郎「だが、腑に落ちねぇ点がある」

男「何だよ」

勇次郎「何故、AB型だけが狙われる。仮にも国の王だろう。何の理由も無しにやるとは到底思えぬ」

男「……王様は、AB型の稀少性をもっと高めたいらしい。王様自信がAB型だから、自分をもっと特別な存在にしたいんだと」

勇次郎「……ククク。成る程、形は違えど『力」を持ち合わせてはいるようだ」

勇次郎「食ってみてぇな……おい、その王とやらにはどこに行ったら会えるんだ?」

男「王様は、あの塔に居る」

男「最後まで生き残ってた人達には褒美が与えられ、王様にはその時に会えるらしい」

勇次郎「クスクス。まぁ、今から向かってもいいが、食い足りねぇ。存分に楽しませもらうとしよう」

22: 2013/01/03(木) 05:51:31.09
――

王「どうだ? 初日の状況は」

側近「はい。AB型、1000万人に対し、鬼は100万人」

側近「初日の成果は100万人といった所でしょうか」

王「はっはっは。結構結構。上出来じゃ」

側近「しかし、被害も出ています」

王「ん?」

側近「およそ1000人の鬼が氏亡しています」

王「そうでなくては面白くないわい。奴らの中にも手練はおるじゃろう。一方的なゲームはつまらんからの」

側近「……1つ、気になる情報が」

王「何だ」

側近「A区の鬼からの報告なのですが、こちらをご覧下さい」」

25: 2013/01/03(木) 06:02:47.94
王「ん……おっ。これはまたえらく強そうな男じゃの」

側近「えぇ。この男に注目して下さい」

王「…………んん? 何だこれは」

王「何が起こったのかさっぱり分からん。急に鬼の首が落ちたじゃないか」

側近「えぇ。私も色々な方法で調べてみたのですが、この男がどうやって鬼を殺害したのか分かりませんでした」

王「……まぁ、よい。恐らくはワイヤーか何か使ったんじゃろう。トラップか何かを予め仕掛けておいてな」

側近「……」

王「国王を喜ばすのは民の役目。明日が楽しみじゃのう」

30: 2013/01/03(木) 06:26:24.44
――

2日目。ウー、と人々を混乱に陥れるサイレンが町中に鳴り響く。
結果はまさにその通り、悲鳴、混乱、阿鼻叫喚、そこら中に響き渡っている。
もっとも、唯一の例外も存在したが。

男(……正直、ツイてる)

勇次郎「……」

横行闊歩する勇次郎の隣を常人が並ぶ。
勝手に付いて来た? いや、違う。強引に行おうとしても、身体が拒絶する。
許可を出した? それも違う。そんな事をする理由が無い。

何故。襲われるからこそ価値がある。そう! 相手が弱者だからこそ、この美意識は守らなければならない!!
つまり、弱者よりも弱いこの男を隣に置く事でその理屈は成立すると、そう考える。

男(こいつが何者なのかは知らないが、身体で分かる事がある。こいつは強者だと!)

勇次郎「……クク。さっそくおでましかい?」

男「えっ?」

まだ、サイレンから10分も経っていない。
まるで図ったかのように、同時に、4人。
東西南北、それぞれの方向から鬼が現れた。

34: 2013/01/03(木) 06:44:32.63
勇次郎「そこに伏せていろ」

疑問を持つ事無く、一切の発言する事無く、ただ従った。
何故なら、強者であると分かっているから。

勇次郎「ほう? 同時に来るか」

4人同時に図り合わせたように直進してきた。
偶然。いや、彼らは連絡を取り合っていた。
距離、速さ、タイミング、あらゆる要素が同じだったのだ。
また、それに加えて

男(えっ? な、ナイフ!?)

前日よりも明らかに殺傷能力が高い武器を手にしていた。
だが、勇次郎は臆するどころか、にやりと笑う。

勇次郎「昨日の奴よりは威圧感があるな……まぁ、3流以下もいいとこだが」

手と足の優位性は比べるまでも無い。それは射程においても同じだ。
右足を半歩下げ、機会を待つ。
鬼達は攻撃を加えるための予備動作を行う。

刹那、『軽く』地面を踏む。勇次郎の身体は2メートル程まで上昇し、静止した。
そのタイミングで、身体を回転させながら……

勇次郎「邪ッッッ!!!!」

鬼達の頭の位置で回し蹴りを放つ。
直立不動の氏体の足元には4つの首が転がっていた。

37: 2013/01/03(木) 06:55:41.87
男「ッッッッ!!!」

身体に衝撃が走る。
見た光景、にでは無い。
力の一端を目の当たりにしたからだ。

男「……凄い」

自然と漏れたその言葉は、まさに今の心情を表していた。

勇次郎「……おい。行くぞ」

男「あ、は、はい!」

自分の価値観を根底から覆す力。
圧倒的なカリスマ性。
男は思う。

王になるべきなのはこのような人物だと

39: 2013/01/03(木) 07:02:17.47
――

側近「……成る程。もういい。今日はもう終了だ」

側近「……」

側近「……人間じゃ無い、か……」

側近「……ふふふ」

45: 2013/01/03(木) 07:14:10.29
――

王「どうじゃ? 成果は」

側近「はい。2日目終了時で、AB型の人数は700万人以下へと減少しました」

王「ほほー。随分、順調じゃないか。昨日よりも100万人も多い」

王「何かしたのか?」

側近「はい。大した事はしていませんが、武器と人数の追加を」

王「これこれ、目標は全滅ではあるが、あんまり無茶はいかんぞ」

王「出来るか、出来ないかくらいが楽しいんじゃから」

側近「はっ。以後気を付けます」

48: 2013/01/03(木) 07:45:41.55
――

3日目

男(この人の傍に居れば安全。それは間違いない……でも、そろそろ国も異常性に気付くかもしれない……杞憂で済めばいいんだけど……)

不測の事態、というものは何に対しても存在する。この『リアル鬼ごっこ』においても例外ではない。
勿論、国がその事を想定してないはずが無い。
精鋭部隊はその内の1つだ。表、裏、あらゆる所から有能な人材を見つけ、厳選し、結成されている。
本来、使用される事のない物だが、機会ができてしまったのだ。使わない手はない。

勇次郎「……ほぉ」

上空から1人、右から更に1人。

男「っっっ!!」

男の身体は硬直して動けない。
そんな事はおかまいなしに、上空の男はナイフを、地上の男はワイヤーを用意している。
どうやら、2段構えで来るようだ。上空の男がナイフを切りつけようとする。地上の男はワイヤーで囲もうとする。

勇次郎は相手が反応するよりも速い動きで、バキバキと、骨が折れる音を鳴らしながら、男ごとナイフの制御件を握る。
そして、掴んだまま、地上の男の喉元へとナイフを突き立てた。

声にならない絶叫を鬼達はあげた。

55: 2013/01/03(木) 08:16:11.23
その光景を覗いていたのにも関わらず、臆せずこちらへ向かってくる者達がいる。
3人組だ。そして、通常の鬼とは違い、マスクも服装もバラバラだ。軍服を着ている者も居れば、ジャージ姿の者も居る。
しかし、血を浴びている。という点では皆同じだった。

キツネ面の男「どうする? 流石に1人ではきついぜ?」

軍服の男「確かに。殺されるのが目に見えるな」

キツネ面の男「だろぉ? おい、オッサン。どうする?」

老人「ふむ……まぁ、全員で掛かればええんじゃないか?」

軍服の男「了解した」

キツネ面の男「うい。じゃあ、それで」

およそ30メートル先に見える男達を勇次郎は睨んでいる。
警戒しているのではない。確かめているのだ。

勇次郎「……3人合わせて1流ってとこか……弱者にしては中々の戦力だ」

くすくすと、含み笑いをした後、何かが変わった。
目に見えている分には何も変わっていない。しかし、何か、勇次郎の周りの雰囲気が何か変わった。
緊張の糸はまだ切れていないと男は感じる。これが切れた時が合図であるとも感じた。
時間がゆっくりと流れている気がする。後、1秒後には最後の砂時計の粒が落ちるだろう。
0.8、0.9……1

ドンっ!! 激しい音と共に勇次郎の身体が消えた。

59: 2013/01/03(木) 08:42:28.36
3人の足が止まる。
勇次郎は射程範囲のギリギリで足を止めた。
あまりにもつまらないからだ。

キツネ面の男「……3人でもきつくねぇか?」

老人「だが、やるしかないだろう?」

軍服「うむ。そういう事だ」

勇次郎「クスクス。明らかな実力差が分かっていながらも戦う度胸。気に入ったぞ!!」

軍服「ふんっ!!」

その声と同時に右手でナイフを投げる。位置は心臓を外れる事無く狙っている。
と、次に素早い動きで、ポケットから銃を抜き、構える。
引き金に指を掛け、打った。

しかし、寸前、勇次郎はナイフの柄を掴み、銃口へと向かって投げた。
結果、衝突した両方は誰にも当たる事無く、消えて行った。

息つく暇も無く、キツネ面の男は拳を打つ。目的は別にある。
今まさに打とうとしている勇次郎の拳の軌道を変えるためだ。
先だしが功を奏してか、軍服の男に当たる直前で、腕に当てる事が出来た
が、その拳ははじき返され、勇次郎の拳は身体の中心へと深く刺さり、軍服の男は後ろへと吹き飛んだ。

61: 2013/01/03(木) 09:05:30.73
キツネ面の男「ちぃ!!!」

地面を強く蹴り、後方へと、距離を取ろうとする。
しかし、勇次郎の上段蹴りは既に男の頭蓋骨を捉えていた。
一瞬、時が止まり、ゴキッっと、鈍い音を立てて、またしても後方へと吹き飛んで行った。

老人「おっと、そこまでじゃよ」

片手には少し大きい位の拳銃を構えている。

老人「勘弁してほしいのぉ。一応、武術家名乗っておるのに」

勇次郎「ほう。そんなちっぽけなもんで俺を殺せるとでも?」

老人「この銃は特別製でな。まぁ、弾が爆薬だと思ってくれればいい」

勇次郎「……ククク。いいぞジジイ。乗ってやろうじゃねぇか」

そう言って、一歩、二歩と、下がる。

勇次郎「よーい、ドンだ」

老人「はて?」

勇次郎「合図はてめぇが決めていい。てめぇの決めた合図で打ってこい」

老人「……これはこれは……随分とまぁ……」

112: 2013/01/03(木) 15:53:53.04
勇次郎「……」

老人(どうやら本気のようだ……が、しかしっ!! その驕りっっ!! 弱点となりうるぞっっ!!!!)

思考よりも速く懐からもう一丁の拳銃を取り出し、引き金を……引いたっっっ!!!

ドンっ!!!

つもりだった。
走馬灯が駆け巡る。目の前、ほんの数センチの所にある拳はゆっくりと動き出し

メキャ

っと、低く、潰れる音を立て、老人の頭ごと、コンクリートへ突き刺した。

勇次郎「意識の引き金を捉えるのは命の取り合いにおいて、基本中の基本だ。覚えておけ」

勇次郎「グズグズするな。さっさと行くぞ」

男「あっ、はい!!」

男(やっぱりこの人凄ぇ!!! 誰が来ようと負ける気がしねぇ!)

屍を踏み越え進んでいく。
結局、この日はもう何も起こらず、終了のサイレンが鳴った。

116: 2013/01/03(木) 16:05:43.84
――

王「今日の成果は?」

側近「……」

王「おい、どうした?」

側近「……400万人以下と、一般人は後二日もあれば全滅できるでしょう」

王「その言いぶりだと、一般人じゃ無い者が居るみたいだな……だが、どんなに偉かろうが関係ないぞ? 王はただ1人なのじゃから」

側近「はっ。心得ています……が、です」

側近「仮に、王が二人居たとすればどうすればいいのでしょう?」

王「王が二人だと?……気にいらん。王というのは、頭であり、頂点である。そんな者が二つも居る集団は必ず破滅する。必ずな」

側近「……では」

王「かまわん。どんな手を使ってでも消し去れ」

側近「承知致しました」

119: 2013/01/03(木) 16:20:45.39
――

側近(確かにペースは良い……それもかなり)

側近(そもそも絶対数が減ってきているからな。当然の結果だ)

側近(例外を除けば、数の暴力は実証されている)

側近(……まてよ?)

側近(くくく……そうか。その手があったか)

側近「……あぁ、私だ」

その日、鬼達に命令が下された。
重い、重い、決断が下された時だった。

122: 2013/01/03(木) 16:27:58.37
4日目。

開始のサイレンが鳴る。
しかし、いつもと様子が違っていた。

男「…・・・何か違和感が……」

勇次郎(殺気を感じねぇ……どうなってやがる)

男「……静かだ」

その地区、いや、その都市は今日、誰しもが一滴の血も流さなかった。
しかし、それが幸か、と問われれば、それはまた別の話である。

123: 2013/01/03(木) 16:34:48.11
――

王「今、数はどのくらいじゃ?」

側近「4日目終了時にて、100万人以下、といった所でしょうか」

王「そうか……もうすぐじゃな……だが、あくまでも、ゲームだという事を忘れんでくれよ?」

側近「勿論です」

王「……ふふ。はたして、この王の前に現れる輩は居るのかのぉ?」

126: 2013/01/03(木) 16:50:59.29
――

5日目。

王の居るその都市で、サイレンは鳴らされなかった。
対象者はその事を終了だと、嬉き、泣きながら喜ぶ者もいたが、否
終わるわけも無く、必要が無かったからだ。

そうして、時間が過ぎ……



王「おい、一体どうなっとるんだ! 今日、サイレンが聞こえんかったぞ!」

側近「大丈夫です。全て作戦通りですから」

王「何ぃ? 作戦じゃと?」

側近「先程、この都市以外のAB型は全て排除されたとの報告を受けました」

王「ほう。そうなのか」

側近「はい。それで作戦というのは――」

130: 2013/01/03(木) 17:18:03.94
――

6日目。

喜びを感じずにはいられなかった。
口からは笑みをこぼさずにはいられなかった。
感じる。明確な殺意。隠す気すらない殺意をッッ!

勇次郎「おい、お前」

男「えっ? あ、はい」

勇次郎「どこかに隠れていろ。邪魔になる」

男「あ。わ、分かりました」

1つ1つが自分に向けられている殺気である。
弱者が強者である俺に対して、殺意を持っている。

勇次郎(いつぶりか。こんな刺激は……)

1つ1つは弱々しい……だがッッッ!!!

恐るべきはその数ッ! その戦力ッッ!!! 小国に匹敵するッッ!!!

133: 2013/01/03(木) 17:26:00.29
ピンポンパンポーン
いつもと違い、軽快な音が町中に響き渡る。
そして、ノイズ混じりの音声が聞こえてきた。

王「えー、諸君。今までよくぞ頑張ってくれた。よくやったと言いたい。どうやら、諸君ら以外の者達は全滅してしまったそうでな。

そこで! 諸君らには褒美をやりたい。1つ。この『リアル鬼ごっこ』は今日をもって最終日とする。1つ。今日の『リアル鬼ごっこ』は制限時間を30分とする。

どうじゃ? やる気が出てくるじゃろう? 生き残った者には褒美を与える。何でも好きな願いを1つ叶えてやろう……それでは。諸君らの幸運を祈っているぞ……」

ブツッ、と音声が切れた。と、すぐにウー、とサイレンが鳴り響く。

AB型の者、残り6千人。

対して

鬼の者、残り100万人。

6千人対100万人? 否

狩られる者と狩る者? 否

狩る者と、狩る者!!!

1対100万人という、空前絶後の戦いが、今まさに始まろうとしていた。

152: 2013/01/03(木) 18:46:59.48
足音が鳴り止まない。
叫喚もその音によって掻き消される程に。

そうして、30秒も経たないうちに、勇次郎の周りは鬼達で埋め尽くされてしまう。

勇次郎「クスクス……」

そう笑いながら、辺りを見渡す。

勇次郎「ざっと2千人って所か……何秒持つか……皆頃しにしてくれるッッッッ!!!!」

敵の距離はおよそ10メートル。どうやら、勇次郎の情報を事前に知らされているらしい。
しかし、それは知らされていなくても変わらなかっただろう。この光景を見たのならば

ゆらぁ

っと、周りの空間が歪んで見える。
両手を上空に掲げ、臨戦態勢に入る。

機会を窺おうとはせず、鬼達は一斉に飛びかかる。

勇次郎「ぬんッッッ!!!!!」

ただ、鬼の顔を殴りつけた。

首を不自然な方向に曲げながら、鬼は、後方の鬼達を巻き込みながら飛ぶ。
鬼は氏亡しながらも、なおかつ、弾丸の役目を果たし、10人の鬼達を殺傷させた。

162: 2013/01/03(木) 19:18:33.65
反応が速い事と、その中で動ける事は同義ではない。
人間は氏ぬ瞬間に今までの全ての記憶を巡るらしい。
勇次郎はコンスタントに自分の意志でそれを行える事が出来る。

かつ

その中で自由に動く事が出来る。
つまり、戦いおいて、勇次郎は時を止める事が出来るのだ。

勇次郎「へっ、止まって見えるぜ」

勇次郎「邪ッッッッ!!!!!」

その蹴りに鋭さは持たせなかった。
3人を薙ぎ倒しながら、そのまま後方の鬼達も同様に衝撃を受け、倒されていく。
20人以上が殺害されていた。

169: 2013/01/03(木) 20:14:55.84
2撃に掛かった時間、およそ0コンマ秒以下。
鬼達には何が起こったのか分からない。
ただ、勇次郎に畏怖心を抱いていた。

勇次郎「何だ? 来ねぇのか? ならっ、こっちから行かせてもらうぜッッッッ!!!」

勇次郎「ぬうぅぅぅぅん!!!!!!」

鬼の行列へと突っ込む。
両手を横に広げ、押す。

勇次郎「へっ、力比べだッッ!!」

1000人との、押し合い。

均衡を保つ間も無く、鬼達は後退していく。
間に挟まれている鬼達の何人かは圧迫されて氏亡した。

178: 2013/01/03(木) 20:53:51.14
血が潤う。
圧倒的戦力の差に、もやは鬼達には狩りという概念は存在していない。
今まで狩ってきた者達同様、自分も弱者になり下がってしまったのだ。

うわああああぁぁぁあ!!!!

何とか平常を装おうとしていた鬼達が叫び出す。

本物の鬼を見て、本当の恐怖を味わった。

しかし、次々と逃げ出す鬼達を勇次郎が見逃すわけも無く。

勇次郎「ッカ!!! たわけがッッッ!!!!」

繰り出される暴力の数々。
終わった頃には、20分が経ち、辺りは血の海。

人数にして、1万人強の鬼が氏亡していた。

184: 2013/01/03(木) 21:16:52.69
ウー、と終了の合図が鳴り響く。
しかし、喚起の声も安堵の声もあがる事は無かった。

「『リアル鬼ごっこ』終了です。鬼の皆さんは速やかに帰還してください」

機会的な音声がそう言い放つ。

「続いて、王様のお言葉です」

ブチっ。と音声が切れると。
またしても、軽快な音が鳴った後に、プツッ、とノイズ混じりの音声が入る。

王「いやー、おめでとうっ!! 生還者が『二人』とは!! 良く頑張ってくれたよ!!」

王「本当はもうちょっと時間が残ってたのだが、王様からの慈悲だ。遠慮無く受け取ってくれたまえ」

強い口調で労いの言葉を掛ける。

王「さて、諸君ら2人には褒美をやりたい。そこら中に待機してある車で塔まで来てほしい」

王「何でも1つ願いをかなえてやろう。では。待っておるぞ」

そうして、全てを言い終えた後、ブチっ、と音声が切れた。

186: 2013/01/03(木) 21:25:00.54
――

王「ふぅ……」

側近「お疲れ様です」

王「あぁ……しかし、あんな化け物が紛れておったとはな」

側近「申し訳ありません。私共も想定外でした」

王「よい。今まで見つからなかったのが不思議なくらいじゃ」

王「何せ、1人で1万人もの鬼を殺害しているのじゃから。たとえ、100万人全員で突っ込もうが、勝ち目はなかったじゃろう」

側近「……」

王「それに、おそらく、そいつではないじゃろう」

側近「……はい」

王「もうすぐだ……もうすぐ全てが終わる」

192: 2013/01/03(木) 21:46:08.12
――



王「よくぞ来てくれたな! 感謝するぞ!」

男「は、はい!」

勇次郎「……」

王「さて、願いを適える前に、君達の名前を聞いておきたい。名は? 何と申す」

男「お、男です!」

勇次郎「……名乗る必要はねぇ」

王「はっはっは!! 流石!! 強者だけの事はある!」

側近「……王様」

王「分かっておる。男君。まずは君の願いを適えよう。悪いが、そこの男について行ってくれ」

側近「こっちだ」

男は側近と一緒に、近くの部屋へと入る。
そして、すぐに

パァン!!

という銃声だけが静かな塔内へと響き渡った。

198: 2013/01/03(木) 22:03:06.64
勇次郎「……キサマ」

王「さて、名もなき男よ。君には本当の事を話そう」

勇次郎「何だと?」

王「まず、私について。何の才能も持ち合わせない私が、どうして一国の王になりえたと思う?」

勇次郎「……」

王「予知能力があったのさ」

勇次郎「予知能力だとぉ?」

王「うむ。頻度はばらばら、時間もばらばら。しかし、精度は完全。時たま頭に未来の映像が流れてくるのじゃよ」

王「この力に目覚めた私は着々と地位を上げ、ついには王になったのだ」

王「だが、王になったからこそ民の事を思わねばならん。人材は宝、とも言うしのぉ」

205: 2013/01/03(木) 22:28:19.22
勇次郎「で? それとこれと何の関係がある」

王「……1ヶ月程前からのぉ。不吉な物が見えるようになったのじゃ」

王「日に日に具体化し、とうとう正体を現した。何が見えたと思う?」

勇次郎「……」

王「40日後、この国だけでは無い、世界中のあらゆる場所から人々が氏滅したのじゃ」

王「更に日が経つと、その原因は日本」

王「そして、AB型の人間が犯人だと。そこまでは分かった」

王「しかし、そこから先がどうしても見えなかった。時間も迫ってきておる。なら、どうするか?」

王「そこで考えたのがこの『リアル鬼ごっこ』なんじゃよ」

勇次郎「ならば、てめぇはどうなる? 自分は絶対にやらぬとでも?」

王「勿論。私も最後には氏ぬさ」

勇次郎「ほぉ。俺はどうする? まだ残ってるぜ?」

王「はっはっは。いろいろ見ておったが、お主はやらんよ。いや、何者にも左右されないと言った方が正しいか」

208: 2013/01/03(木) 22:34:45.86
勇次郎「っけ。安心しな。俺ももうじき消える」

王「? どういう事じゃ?」

勇次郎「俺は元々この世界の人間じゃねぇからな」

王「……成る程。合点がいった、その化け物じみた強さはそういう事だったのか」

王「何故、こちらの世界に来れたのかも、その強さなら納得がいく」

勇次郎「ッケ」

王「おっと。そうだ、褒美をやらねばな。何か欲しい者は無いか?」

勇次郎「いらねぇ。欲しい者は自分で手に入れる」

王「つくづく、強者じゃの」

勇次郎「それに。そこそこ堪能する事が出来た。礼を言うぜジジィ」

そう言うと勇次郎は王を背に歩き出す。

自分が欲しているのは強者であり、それ以外は不純物なのだ。

この世界に対し、興味が失せたその時

213: 2013/01/03(木) 22:42:28.77
目に見えるのは真っ暗な空間。
外には薄暗い星空が見える。

勇次郎「戻って……きたか……」

現実と非現実を確認しながら、瞑想する。

勇次郎「……ククク。偶にはいいもんだな」

そう言って、あの世界で起こった事に耽り、もう一度目を閉じた








これにて完結ッッッッッ!!!!

215: 2013/01/03(木) 22:44:27.22

引用元: 範馬勇次郎「リアル鬼ごっこだぁ?」