1: 2021/12/13(月) 21:01:03.817
ガタンゴトン…

女上司「あっ……。終電……行っちゃったね」

女上司「よかったら――」

部下「ボク、駅に住んでるんで大丈夫です!」

女上司「え?」

部下「よかったら今夜は駅に泊まりませんか?」

女上司「え? え?」

部下「ご案内します。さあ、どうぞ!」

4: 2021/12/13(月) 21:04:35.837
部下「ただいまー」

駅長「おお、お帰り」

女上司(ちゃんと挨拶してる……)

部下「今日は会社の上司を連れてきたよ」

女上司「こ、こんばんは」

駅長「よくいらっしゃいました。まあ、ごゆっくり」

女上司「はい……」

6: 2021/12/13(月) 21:07:01.185
女上司「この様子だと、あなた本当に駅に住んでるの?」

部下「ええ、そうですよ。履歴書の住所も駅になってます」

女上司「え、ホント!?」

部下「はい、住所はこの『○×駅』になってます」

女上司「よくウチの会社入れたわね……」

部下「『駅に住んでるなんて珍しい! 採用!』って感じでした」

女上司「ウチの人事のやりそうなことだわ」

7: 2021/12/13(月) 21:10:07.669
部下「とりあえず、ベンチでくつろぎましょうか」

女上司「うん」

部下「このベンチが特にお気に入りでしてね。ひんやりした座り心地がたまりません」

女上司「へ、へぇ~」

部下「コーヒーでも飲みながら、仕事について語り合いましょう」

女上司「ありがとう」

部下「あの得意先のことなんですけど……」

女上司「あそこは手強いから……」

ペチャクチャ…

9: 2021/12/13(月) 21:13:06.530
部下「ところで、お腹すきません?」

女上司「そうだね……ちょっとすいたかも」

部下「じゃあ、用意してもらってきます」

女上司「用意?」

部下「キヨスクのおばちゃーん!」

おばちゃん「あいよ!」

女上司「こんな時間に勤務してるの!?」

10: 2021/12/13(月) 21:16:05.616
部下「ちょっと夜食を用意してくれない?」

おばちゃん「あいよ。おにぎりと味噌汁でいいかい?」

部下「うん、上等上等」

おばちゃん「すぐ作るから待っててね」

ニギニギ… コトコト…

女上司「キヨスクの中で調理してる……」

12: 2021/12/13(月) 21:19:33.761
おばちゃん「はい、できたよ!」

部下「ありがとう、おばちゃん!」

部下「さ、どうぞ。いただきまーす」モグッ

女上司「いただきます」ハム…

部下「どうですか?」

女上司「おいしい!」

おばちゃん「アハハッ、ありがとねえ」

14: 2021/12/13(月) 21:22:20.590
部下「寝ましょうか」

女上司「寝るって……まさかベンチで?」

部下「いえいえ、ちゃんと寝るためのスペースがありますよ」

女上司「ああ、そうなんだ。よかった……」

部下「それじゃ駅長、おやすみなさい!」

駅長「ああ、おやすみ」

女上司(ホントに駅に泊まることになっちゃった……)

15: 2021/12/13(月) 21:26:33.778
次の日――

ガタンゴトン…

部下(始発の音で目が覚める……)

部下「おはようございます」

女上司「おはよ~……」

部下「あ、もしかして低血圧ですか?」

女上司「まあね~……寝起きはこんな感じ……」

部下「さ、顔を洗って会社に行きましょう!」

女上司「は~い……」

16: 2021/12/13(月) 21:29:26.120
……

女上司「あー、今日も遅くなっちゃったね。ごめんね」

部下「仕方ないですよ、大きなプロジェクトを控えてますし」

部下「それに、ボクは駅に住んでますから」

女上司「そうだったね」

部下「よかったら、今日も寄りませんか?」

女上司「うん、寄らせてもらおうかな」

17: 2021/12/13(月) 21:32:01.428
部下「じゃ、今日はビールでも」カシュッ

女上司「ありがと」カシュッ

女上司「それじゃカンパーイ」

カチンッ

女上司「立ち入ったこと聞いちゃうようだけどさ……どうして駅に住んでるの?」

部下「えっと、それは……」

駅長「私から答えていいかね?」

部下「あ、はい。どうぞ!」

18: 2021/12/13(月) 21:35:50.372
駅長「彼は……赤ん坊の頃、駅のコインロッカーに捨てられてたんだ」

女上司「え……」

駅長「それを我々が拾って、育てることになった」

女上司「ちょっと待って下さい。駅長さんにもご自宅がありますよね。どうしてそこで育てなかったんですか?」

駅長「駅から出そうとすると、ものすごい勢いで泣いてねえ。警察や医者でもどうすることもできなかった」

駅長「出せないなら……じゃあ駅で育てればいいってことになってね」

駅長「駅の職員みんなで育てることになったんだ」

部下「学校も駅から通ったんですよ。先生も駅に家庭訪問に来て……」

女上司「よくテレビとかで話題にならなかったわね……」

19: 2021/12/13(月) 21:38:00.603
女上司「それで……ご両親は?」

部下「……」フルフル

部下「もう現れることはないでしょう。それは確信してます」

駅長「……」

女上司「いっとくけど、私が実はお母さんなんてオチはないからね!」

部下「分かってますよ! ボクたち、それほど年離れてないですし!」

女上司「ならいいんだけど」

女上司(こういう人生もあることは否定しない。だけど、ずっと駅に住んでていいのかな……)

20: 2021/12/13(月) 21:41:13.905
ある日――

女上司「あー、また終電がなくなる時刻になっちゃったね」

部下「そうですね」

女上司「あのさ、よかったら今日は私の家に来ない?」

部下「え……?」

女上司「たまには……駅以外のところに帰るのもいいかもよ?」

部下「そうですね! 今日はそうします!」

22: 2021/12/13(月) 21:44:24.769
女上司「ここが私の家よ」

部下「へぇ~、いいマンションですね」

女上司「さ、入って入って」

部下「お邪魔します」

女上司「くつろいでいいよ」

部下「は、はい」

女上司「あれ? もしかして緊張してる?」クスッ

部下「女性の部屋入るの初めてなんで……」

女上司「リラックスリラックス、こうやって足伸ばしていいのよ」

部下「遠慮なく……」

24: 2021/12/13(月) 21:46:49.786
女上司「チャーハン食べる?」

部下「あ、いただきます」

ジャー… ジャッジャッ

女上司「深夜に食べるチャーハンも乙なもんよ」

部下「おいしいです!」

女上司「ふふっ、ありがとう」

26: 2021/12/13(月) 21:49:16.106
女上司「私の部屋……駅と比べてどう?」

部下「どう、とは?」

女上司「ほら、居心地とか……」

部下「……」

部下「正直、とてもいいと思いました。ずっとここにいたいなぁ、と」

女上司「ありがと」

女上司「じゃ、寝ようか。お布団敷くね」

部下「はい……」

…………

……

27: 2021/12/13(月) 21:52:14.463
それ以来――

女上司「今日は早く帰れるね」

部下「そうですね」

部下「あの、よかったら……あなたの家に行ってもいいですか」

女上司「うん、いいよ!」

部下「それじゃ、駅長に電話します!」

部下「あ、もしもし! 今日は遅くなるから……」

28: 2021/12/13(月) 21:55:28.076
駅長「今日も帰りが遅くなるそうだ」

おばちゃん「おやおや。ということはそろそろかもしれないねえ」

駅長「うん……あいつも成長したもんだ」

おばちゃん「寂しいかい?」

駅長「そりゃ寂しいさ。ずっと親代わりだったんだもの」

駅長「だけど……嬉しさの方が勝るよ」

おばちゃん「フフッ、そうかい」

29: 2021/12/13(月) 21:58:32.846
スタスタ…

部下「ただいまー」

駅長「お帰り」

女上司「こんばんは、私も来ちゃいました」

駅長「どうぞどうぞ、いらっしゃい」

部下「駅長、今日は大事な話があります」

駅長「よろしい。駅長室で聞こうじゃないか」

30: 2021/12/13(月) 22:01:37.638
部下「駅長……ボクたち、結婚します!」

女上司「……」

部下「それを機に、ボクは駅を出て、この人のマンションで暮らそうと思います」

部下「よろしいですか?」

駅長「もちろんだとも!」

部下「駅長! ……いや、お父さん!」

駅長「父と呼んでくれるか。嬉しいよ」

女上司「ありがとうございます、お義父さん」

駅長「息子をよろしく頼みます……なんて。アッハッハ」

31: 2021/12/13(月) 22:04:14.583
駅長「それじゃ、新生活を送る二人に、駅長としてエールを送らせてもらおうかな」

部下「うん!」

女上司「お願いします」

駅長「新しい生活に……出発進行!」ビシッ








32: 2021/12/13(月) 22:05:18.299
駅長のそのセリフ言いたかっただけだろ

33: 2021/12/13(月) 22:07:18.288
ベタだけどこういうの足りなかったから嬉しい

35: 2021/12/13(月) 22:10:35.094

ちょっと駅に住みたくなった

引用元: 女上司「終電……行っちゃったね」部下「ボク、駅に住んでるんで大丈夫です!」