1: ◆c4YEJo22yk 2021/12/14(火) 19:39:24.32
☆283プロ事務所 / PM 8:00

結華「Pたんに質問です。人生最後の日に、あなたなら何をして過ごしますか?」

P「えっ!? どうしたんだよ急に」

結華「5、4、3、2、1……」

P「カ、カウントダウン!? 困ったな……うーん、アイドルのプロデュースをするかなあ」

結華「最後まで仕事する気!?」

P「咄嗟に出てきたのがこれだったんだよ。ところで、どうして急にそんな質問を?」

結華「今ね、これに答えてたの」

P「ああ、今度出演するトーク番組のアンケートか」

結華「そうそう。参考までにPたんならどう答えるかなーと思って」

P「ははは、面白くない回答で悪かったな」

結華「ほんとだよー。『最後までお仕事します』なんて喋ってもテレビ的には盛り上がらないんだから」

P「それなら、結華は何て書いたんだ?」

結華「高級焼肉を食べに行った後、回らないお寿司も食べる」

P「俗っぽいな!」



2: 2021/12/14(火) 19:41:52.06
結華「うーん……もっといい回答がないかなぁ」

P「ずいぶん悩んでるんだな。いつもはもっとスラスラ答えてる気がするのに」

結華「全然調子が出ないんだよ~。三峰のメンタルは今、絶賛落ち込み中だからねー……」

P「えっ、何かあったのか!?」

結華「うん……あ、でもね! 別にそこまで深刻な話じゃないの」

P「本当に?」

結華「本当だよ。ただ、気持ちの整理がつかない、みたいな感じで……」

P「詳しく話してくれないか? 結華の助けになりたいんだ」

結華「三峰的にもPたんに聞いて欲しいところなのですが、その前に……」

P「どうした?」

結華「今この場で話しても、Pたん以外に聞かれることはない、よね?」

P「安心してくれ。はづきさんが別室で仕事中だけど、声は届かないよ」

結華「オホン……じゃあ、言うね? 三峰が落ち込んでいる理由、それは――」

P「それは?」

結華「三峰が推していたアイドルが! なんと! 本日! 引退を発表したのです!!」

P「あー……」

3: 2021/12/14(火) 19:43:02.85
結華「はぁ……悲しい……」

P「ニュースになってたあの子、結華も好きだったんだな」

結華「うん、すっごく好き! まだ引退してほしくなかったなぁ……」

P「魅力的な子だったよな。でも、そこまで落ち込まなくてもあの子は――」

結華「……そう、分かってはいるよ? アイドルを引退するだけで、芸能界には残るって」

P「一時的な活動休止期間を経て、女優として再出発を予定」

結華「アイドルとして出来ることは全てやり切ったと言って、笑顔での引退」

P「……すごいことだよな。競争の激しいこの業界で、悔いを残さずに辞めるって」

結華「そうだよね、祝福してあげなきゃって頭では分かってるの。でも……」

P「うん」

結華「アイドルとしての彼女の姿を見ることは、もうないのかぁ……」

P「残念だよな」

結華「ほんとにね……。Pたーん、可哀そうな三峰を慰めてー……」

P「ははは、出来る限り力になるよ」

4: 2021/12/14(火) 19:44:17.80
結華「何かが終わるって、寂しいことだね」

P「うん。例えそれが前向きなことでも、やっぱり終わりは、終わりってだけで寂しいんだと思う」

結華「さよならは突然にやってくるんだね……」

P「……そうだな」

結華「ふぅ……ごめんね、何だかしんみりさせちゃって」

P「構わないよ。少しは気持ちが軽くなったか?」

結華「うん。アンケートの続き、答えるね」

P「おう、頑張れ! 次の質問は『好きな異性のタイプは?』だってさ」

結華「……悲しい時もそばにいて話を聞いてくれる人、かな」

P「へえ……じゃあ次の質問。『好きな映画のジャンルは何ですか?』」

結華「どんなジャンルも見ますが、最近見たアクション映画がお気に入りです!」

P「なるほどなるほど。では最後の質問です。『最近悲しかったことは?』」

結華「悲しかったこと――って、推しのアイドルの引退に決まってるじゃん! 思い出させないでよPたんっ!」

P「ち、違うって! 俺はアンケートを読み上げただけで……」

結華「ひどい人だなぁPたんは……。三峰はガラスのハートなんだから慎重に扱ってよね?」

P「ごめん、悪かったよ……」

5: 2021/12/14(火) 19:45:38.04
結華「この傷ついた心を癒すための方法は、たった一つ……」

P「ん?」

結華「それは、高級焼肉と回らないお寿司をご馳走することだけなのですっ……!」

P「結華、今日で人生を終わらせるつもりか?」

結華「あはは、冗談だって」

P「まったく……本気で落ち込んでるかと思って心配したじゃないか」

結華「あらら、Pたん騙されちゃった? いやー、三峰って演技派だからな~」

P「はいはい、その演技力はドラマで存分に発揮してくれ」

結華「りょうかーい。でも、ほんとにお腹は空いたなぁ」

P「そう言えば、夕飯がまだだったな」

結華「さきイカが食べたい……! 三峰、さきイカがないともう一歩も動けないっ……」

P「そんなものでいいのか!? 数秒前まで高級焼肉を望んでいた人間のセリフとは思えないんだが」

結華「……あと、お仕事は終わったけどまだ帰りたくない。Pたんと一緒にいたい……」

P「お、おう……」

P(好きなアイドルの引退でやっぱり落ち込んでるんだろうな。しばらく一緒にいてあげよう)

6: 2021/12/14(火) 19:47:04.82
結華「何か食べるもの、ないかなあ」

P「鮭とばならあるぞ」

結華「鮭とば? Pたん、鮭とばなんて好きだっけ?」

P「ああ、差し入れ用に買ったんだよ。ふゆっ……いやごめん、何でもない」

結華「ふゆ?」

P「今のは忘れてくれ。……ここには、酒のつまみみたいなものしかないなぁ」

結華「夕飯にはなりそうにないね~」

P「何か買ってこようか? どうせ俺も食べるから、その辺の店でテイクアウトして……」

結華「いやいやいや、プロデューサーだけに買いに行かせちゃうのは悪いでしょ」

P「別に構わないけど」

結華「その間、三峰を一人ぼっちにする気? 今すっごく寂しい気持ちなのに、Pたんひどい~」

P「……なら一緒に行くか? 外は寒そうだから、体調を崩さないようにしないと……」

結華「東北出身者の寒さ耐性をナメちゃだめだよー? 福島の十二月はこんなものじゃありませんから」

P「そうか、なら安心だな」

結華「うん! じゃあ、はづきちさんにも出かけるって伝えてくるね!」

7: 2021/12/14(火) 19:48:27.78
☆スーパーマーケット

P「てっきり外食チェーンにでも行くのかと思ってたけど」

結華「ふっふっふ……Pたんってあんまり自炊しないでしょ?」

P「まあ、時間がないからなぁ」

結華「そんなPたんにですね、今夜は三峰が手料理を振る舞おうと思うのですよっ」

P「手料理?」

結華「実は最近の三峰、料理にハマってまして……あっ、でも期待しすぎないでね。まだ練習中なので」

P「……結華の手料理か」

結華「な、何その微妙な反応!? もし迷惑だったらやめるけど……」

P「いや、迷惑なわけないだろ。嬉しくて思わず固まってたんだよ」

結華「ええー……ほんとに期待しないでよね? 三峰は素敵なシェフに憧れただけの一般人なんだから」

P「素敵なシェフ?」

結華「三峰、彼女の影響を受けて自炊に凝り始めちゃってさ~。あ、ちなみにその人『こがたん』って言うんだけどね」

P「あー、恋鐘の影響なんだ」

8: 2021/12/14(火) 19:49:40.45
結華「大切な人に手料理を作ってあげられるって、素敵じゃない?」

P「素敵だと思うよ。……結華にもいつか、大切な人ができるんだろうな」

結華「……」

P「結華?」

結華「大切な人はもうすぐそばにいるよ? アンティーカのみんなとか、あとは――」

P「なるほど! アンティーカのみんなに振る舞うつもりで腕を磨いてるのか」

結華「どうしてそこで言葉を遮るかなあ……まあ、いいけどね」

P「?」

結華「はい、今ので三峰はいじけちゃいました~。頑張ってご機嫌を取ってください」

P「ええっ!? お、お菓子でも買ってあげようか?」

結華「ポテチとチョコと、あとさきイカがあれば三峰は元に戻ります」

P「しょうがないな。最近仕事も頑張ってるから、おごるよ」

結華「ほんと? ありがとーPたん、愛してるっ!」

P「現金だなあ」

9: 2021/12/14(火) 19:50:52.20
☆帰り道

結華「雨、降らなかったね」

P「雨? ああ、予報では大降りになるって言ってたっけ」

結華「一応、折り畳み傘を持ってきてたんだけどなー」

P「準備がいいことで。……結華は、雨が好きなんだっけ?」

結華「うん、不思議と良い思い出になる日が多いから」

P「ジンクスみたいなものか」

結華「そだねー。そう言えば、プロデューサーと相合傘で歩いた日もあったっけ……ちゃんと覚えてる?」

P「もちろん覚えてるよ」

結華「さっすがPたんは担当アイドル思いだな~」

P「ははは、でも今日は傘に入れてもらう必要はなさそうだな。雲がかかってなくて、すごく月が綺麗だ」

結華「ほんとだっ。月が綺麗……ですね」

10: 2021/12/14(火) 19:52:06.74
P「夜空を見てるとさ、今年の夏のことを思い出すんだ」

結華「今年の夏?」

P「結華と二人で、花火を見たときのこと」

結華「ああ、あの時……車を止めて、寄り道した公園で」

P「結華が耳元で囁いたんだよな『……ぁいす……』ってさ。アイスが食べたかったんだっけ?」

結華「あ……あー! そうそう、急に食べたくなっちゃって~!」

P「何か顔が赤くないか?」

結華「そんなことないからっ。もう、Pたん! 女の子の顔を凝視しないの~」

P「ごめん、見すぎだったな」

結華「デリカシーがないと嫌われちゃうぞー? ……うひゃっ!?」

P「どうした結華? 急に変な声を出して」

結華「あ、足に何かが触れて……えっ、猫ちゃん!?」

11: 2021/12/14(火) 19:53:06.99
P「猫が結華にすり寄ってる……ずいぶん人に慣れてるみたいだな」

結華「でも首輪がないから野良なのかにゃ? 君、どこの子だにゃん?」

P「結華、ネコ語になってるぞ」

結華「今は結華じゃなくてゆいにゃんなので」

P「ゆいにゃん……? 冬優子がたまにそう呼ぶんだっけ?」

結華「そうなのです。可愛い猫ちゃんを前にして、三峰も猫になっちゃいました~」

P「大きい猫さんだことで」

結華「それにしてもこの猫ちゃん、本当に可愛いにゃあ~。抱っこしちゃおう」

P「ははは、喉を鳴らして喜んでるよ。人懐っこいなあ」

結華「Pたん、撫でてみてもいいよ?」

P「本当か? じゃあお言葉に甘えて……なでなで……」

結華「ふわぁ……って、なんで三峰を撫でるの!? そこは猫ちゃんでしょ!」

P「今は結華も猫だって言うから、つい……」

12: 2021/12/14(火) 19:54:22.04
結華「もうっ……びっくりしてネコ語が直っちゃったよ」

P「ごめんごめん、急にやってみたくなって」

結華「Pたんは唐突に悪ノリすることがあるからな~。そういうの、三峰くらいしか許してくれないよ?」

P「ああ、気を付けるよ」

結華「……」

P「……」

結華「……静か、だね」

P「そうだな」

結華「人生最後の日に何をして過ごしますか? って質問だけどさ」

P「……?」

結華「こうやってプロデューサーと二人で、何気ないことをして過ごすのも悪くないかな、って思うよ」

P「えっ? 最後の日なのに俺と一緒でいいのか?」

結華「うん、Pたんが相手なら…………って、ごめん。三峰、もしかして重い? 面倒くさい?」

P「前にも言っただろ、結華は面倒くさくなんてないよ」

結華「……ありがと」

13: 2021/12/14(火) 19:55:21.65
P「だけどさ、最後の日なんて想像したくないよな」

結華「想像したくないというより、想像がつかないよね~」

P「確かに。まだまだ地球の寿命は尽きそうにないし」

結華「三峰たちは若くて健康だし! ……プロデューサーも健康、だよね?」

P「もちろん。健康診断でもずっと異常なしだよ」

結華「良かった~。じゃあ安心だね」

P「おう! 俺、結華をトップアイドルにするまでは絶対に、ずっと、プロデューサーとしてバリバリ働くんだ!」

結華「Pた~ん……それはちょっと変なフラグっぽいかも」

P「こ、怖いこと言わないでくれよ」

結華「冗談冗談っ。……さて、猫ちゃんと離れるのは名残惜しいのですが」

P「そろそろ行かなくちゃな」

結華「バイバイ、可愛い猫ちゃん」

P「またどこかで会えたらいいな。…………あっ!」

結華「ダメ! そっちは危ない!!」

14: 2021/12/14(火) 19:56:19.08
結華(その時、急に走り出した猫が、赤信号の交差点を横切ろうとして――)

P「結華、やめろ!」

結華(思わず猫に駆け寄ろうとした私の手を、プロデューサーが引く――)

P「っ!」

結華(私の代わりに道路に飛び出した彼のすぐ先に、猛スピードの車が迫っていた……)


結華(――私はきっと、一生この光景を忘れないだろう)


結華「プロデューサーっ!! 逃げて!!」

結華(猫に手を伸ばすプロデューサー。けたたましいクラクションの音。ヘッドライトに照らされる、彼と一匹の猫……)

結華(激しい急ブレーキの音が辺りに響いて、そして――)

15: 2021/12/14(火) 19:57:02.88
☆283プロ事務所

はづき「プロデューサーさんと三峰さん、やけに遅いなあ……あら?」

――ガチャッ

結華「……戻りました」

はづき「三峰さん、どうしたんですか? 一人?」

結華「は、はい……」

はづき「あの……今にも泣き出しそうな顔してますけど……大丈夫ですか?」

結華「そ、そんな顔してました? あはは……ごめんなさい、はづきちさんっ」

はづき「い、いえ……」

結華「ちょっと給湯室、借りますね。夕ご飯、まだだったんで」

はづき「……はい」

16: 2021/12/14(火) 19:59:00.43
(数分後)

――ガチャッ

P「ただいま戻りましたっ! あの、結華は……」

はづき「お帰りなさいプロデューサーさん。三峰さんも少し前に戻りましたよ」

P「そ、そうですか……」

はづき「彼女、様子が変でしたよ。何があったんですか?」

P「実は、ちょっと口論になってしまったんです」

はづき「お二人がですか!?」

P「……はい」

はづき「珍しいですね。いつも兄妹みたいに仲が良いのに」

P「……」

はづき「詳しくお話を聞かせてもらっても?」

P「ええ。事務所へ戻る途中の話なんですけど――――」

17: 2021/12/14(火) 20:00:12.86
はづき「――――つまり、プロデューサーさんはもう少しで車に轢かれるところだったと」

P「はい。猫は無事だったんですが、車を運転していた方には本当に申し訳ない気持ちで……もう、平謝りしてきましたよ」

はづき「急に人が飛び出してきたわけですもんね」

P「軽率な行動でした……」

はづき「それで、三峰さんとはどうして口論に?」

P「結華が『プロデューサー、危険なことしないで! 氏んじゃうと思ったじゃん!』って怒るんですよ」

はづき「……」

P「でも、最初に飛び出そうとしたのは結華の方です。だから俺も『結華こそ、危険なことするな!』って……」

はづき「なるほど、二人とも感情的になってしまったと」

P「俺、きっと怖い顔で怒鳴ってました。結華が事故に遭うのなんて耐えられないから、それで……」

はづき「気持ちは分かりますよ。大切な人がいなくなるのって、怖いですよね」

P「……はい」

はづき「でも、プロデューサーさんにも反省してほしいです。三峰さんにとっても、その気持ちは同じだから」

P「……そうですよね」

はづき「三峰さんが怒ったのも、プロデューサーさんのことが大切だからですよ」

P「……俺、言葉を間違えました」

はづき「えっ?」

18: 2021/12/14(火) 20:01:12.18
P「怒っている結華に『不安にさせてごめん』って、まず謝るべきだったんです」

はづき「……」

P「その後で『でも、結華も危険なことをしないで』と諭せば良かった。そうすれば、喧嘩をせずに済んだのに……」

はづき「プロデューサーさん」

P「はい」

はづき「それ、今から言いに行けばいいんですよ。お二人とも、こうして同じ場所にいるんですから」

P「……そうですね」

はづき「お別れした後じゃ、もう言葉は届かなくなるんです。だから、伝えたいことは伝えられるうちに……ですよ?」

P「はづきさん……」

はづき「さてと、私はそろそろ帰りますねっ。家族も待ってると思うんで」

P「はい、お疲れ様です……あと、ありがとうございました! 俺はもう少し事務所に残ります」

はづき「ふふっ、ちゃんと仲直りしてくださいね~」

19: 2021/12/14(火) 20:02:05.88
☆給湯室

P「……ただいま」

結華「おかえりなさい、プロデューサー」

P「あのさ、結華」

結華「何も言わないで。……今、集中しているところだから」

P「料理中だったのか。隣、行ってもいい?」

結華「……うん」

P「それ、ダシを取ってるんだよな?」

結華「……削り節、にぼし、昆布を使ってるの。……シェフ三峰の手際、どうかな?」

P「……素晴らしい腕前ですね、料理長。……俺にも何か手伝えること、ある?」

結華「じゃあ、冷蔵庫にある長ネギとお肉を出しておいてもらえると……」

P「分かった、ここに置くよ」

結華「ありがとう。…………ねぇ、プロデューサー」

P「うん」

結華「さっきは本当に、すいませんでした」

20: 2021/12/14(火) 20:03:11.34
P「結華……」

結華「プロデューサーは、三峰の代わりに車に轢かれそうになりました。なのに、三峰は怒って……」

P「俺の方こそ、怒鳴っちゃってごめん。結華が事故に遭うと思って、怖かったんだ」

結華「……三峰も同じ気持ちでした。プロデューサーがいなくなっちゃうと思って、だから――」

P「……手が止まってるよ、シェフ。もうダシは取れたんじゃないか?」

結華「あっ、はい……」

P「良い匂いだな」

結華「うどんを作るの。味がしょんどる、美味しいやつを」

P(しょんどる……長崎弁で、味がしみてる、って意味だったな)

結華「それでね、Pたんと二人で『うまか~』って顔して、食べたいなって思ったの」

P「いいな、それ。幸せだと思う」

結華「だからまずは、仲直りしなきゃと思って……」

P「お互いに謝ったんだ。それで仲直りってことで、いいんじゃないかな」

結華「……そうだね。ありがとうPたん」

P「料理のやり方、俺にも教えてくれよ。一緒に作りたいからさ」

結華「うん…………よーし、三峰結華、通常営業に戻ります!」

P(いつもの明るい笑顔に戻ったな。良かった……)

21: 2021/12/14(火) 20:04:04.24
結華「肉とネギを一口サイズに切って、と」

P「見事な包丁捌き!」

結華「沸騰したダシに投入! しばらく火にかけますっ」

P「シェフ、あとは麺ですが……」

結華「小麦粉に水と塩を混ぜ、団子状の生地を作るっ! さらに数時間休ませ――」

P「ま、まさかの手打ちうどん!?」

結華「というのは冗談で、普通に冷凍うどんを使いましょう」

P「ですよね」

結華「あとはトッピングを用意してと……はいっ、出来上がり~っ!」

P「早い! しかもすごく美味しそうだな!」

結華「えへへ……簡単すぎるレシピだからね。ほら、冷めないうちに食べちゃおうよ」

P「そうだな。では早速……」

結華「いただきまーすっ」

P「いただきます!」

22: 2021/12/14(火) 20:05:04.77
結華「うん、まあ及第点じゃないかな」

P「及第点どころか、めちゃくちゃ美味しいよ、感動した」

結華「それは褒めすぎでしょ~。わざとらしいぞ、Pたんっ」

P「本気で言ってるんだよ。それに、大切な人の手料理だからすごく嬉しい」

結華「す、ストレートに言うなぁ、もう……」

P「伝えたいことは伝えられるうちに、と思ってな」

結華「ふーん……あ、天かすも乗せようよ」

P「ドバっと行こう、ドバっと!」

結華「カ口リー高めの罪の味! …………あっ」

P「どうしたんだ?」

結華「外から……雨の音がする」

P「本当だ、聞こえる。予報通りに降ってきたみたいだな」

結華「ふふっ……きっと今日も、思い出に残る日になるね」

P「あるいは、もうなってるかもしれないぞ」

結華「キザだなあ、Pたんは~」

23: 2021/12/14(火) 20:06:04.07
(数分後)

P「さて、結構遅い時間になっちゃったな」

結華「そうだねー」

P「片づけが終わったら、もう帰るか?」

結華「うーん……帰りたくない、って言ったらどうする?」

P「もうちょっと結華と一緒にいるかな。なんだか、そういう気分なんだ」

結華「えー、Pたん寂しくて話し相手を求めちゃってる感じ? ……それね、三峰的にはシンパシーかも」

P「そうなのか?」

結華「今日は色々あったからねー。推しのアイドルが引退したり、さっきPたんが事故に遭いそうになったり……」

P「……うん」

結華「さよならは突然なんだなって実感したの。だから、大切な人と過ごす時間を大事にしなくちゃ……みたいな?」

P「ははっ、それは俺にとってもシンパシーだ」

結華「え~、同じこと考えてたの!?」

P「そうだよ。……じゃあ、ソファの方に移動しようか」

結華「うん! テレビもつけようっ」

24: 2021/12/14(火) 20:07:05.59
P「面白い番組、やってるかな」

結華「お笑い、クイズ、動物、報道、ドラマ……」

P「何がいい?」

結華「三峰が気になるのはクイズかな~。あれっ、音量小さくない?」

P「音量が小さいと言うか、外がうるさいと言うか……」

結華「雨が強くなってきたね」

P「帰りは送っていくよ。こんな暴風雨の中を歩いて帰らせるわけにはいかないからな」

結華「あはは、暴風雨は言い過ぎでしょ~Pたん。ほら見てよ、大したことないって――」

P「待て結華っ。窓を開けると……」

結華「ひゃ~っ! あ、雨が吹き込んできた~っ!」

P「言い過ぎじゃなかっただろ?」

結華「あちゃー、濡れちゃったよ……」

P「大丈夫か、結華」

結華「うん……。ごめんっ、床にも雨水が……」

P「そんなこと気にしなくていいから。ほら、服が濡れたままだと風邪引くから、このタオル使って」

25: 2021/12/14(火) 20:08:03.93
結華「ありがとPたん。あー、もうシャツだけ着替えちゃおっかな……」

P「着替えを持ってるのか?」

結華「うん、ダンスレッスン用の服がそのナイロンバッグの中に――」

P「開けるぞ。えーと、シャツは……」

結華「もしもーし、Pたーん?」

P「ん?」

結華「勝手に見ないでもらいたいんですけどー。汗をかいたとき用に、替えの下着も入っているので……」

P「えっ!? ご、ごめん……そんなこと知らなくて!」

結華「ふーん、本当かなぁー」

P「ほ、本当だって!」

結華「下着、見た?」

P「見てないです! ……いやもう、本当にごめんなさい」

結華「…………ぷははっ、Pたん焦りすぎっ! いいよ、わざとじゃないって分かってるから」

P(許してくれるみたいだな、良かった……)

結華「こういう時のPたんって、すっごい真面目に謝るんだね~」

P「今のは完全に俺が悪かったからな」

結華「うん、デリカシーなさすぎっ! 相手が三峰じゃなかったら嫌われちゃうかもよ?」

P「以後気を付けます」

結華「じゃあ、ちょっと待っててね。着替えてくるから」

26: 2021/12/14(火) 20:09:13.64
(数分後)

P「――ふぅ、結華はまだ戻らないのかな…………おっ?」

結華「えへへ、びっくりした?」

P「急に照明が暗くなったけど……どうしたんだ?」

結華「こほんっ……『もう消灯時間過ぎたから、電気つけてると先生に怒られちゃうよ』」

P「う、うん?」

結華『テレビはつけててもバレないよね。なんだか、このまま朝まで起きていたい気分』

P「……」

結華「――なんてことをね、修学旅行の夜に友達と話したんだ」

P「そうなのか。突然再現されたから驚いたよ」

結華「あははっ。今日は何だか、そういう気分で……」

P「……特別だよな、修学旅行の夜って」

結華「暗闇の中でね、テレビの光だけが室内をぼんやりと照らしてたの」

P「ちょうど今みたいな感じか」

結華「うんっ。布団をかぶったまま、あれこれ語ったなあ」

P「分かる分かる、普段は話さないようなことまで話しちゃったりしてさ」

結華「不思議な空気だよね~。……ちなみに三峰は、今もそんな気持ちになっちゃってるけど」

P「えっ?」

27: 2021/12/14(火) 20:10:13.55
結華「やっぱり、さよならは突然だって思うと、話せるうちになるべく色々話したいって言うか……」

P「……そうだな。今日を最後に会えなくなることも、絶対ないとは言い切れないもんな」

結華「想像したくないけどね」

P「俺だってそうだよ。考えただけで胸が苦しくなってくる」

結華「とりあえず、さきイカを食べて落ち着こう……うん、メンタルが60回復したっ」

P「さきイカの効果すごいな!」

結華「そしてチャンネルは全く頭を使わなくてもいい番組へ」

P「意識が低い!」

結華「ついでにスーパーで買ってきたポテチも開けちゃおうっ」

P「いいのかなぁ……こんな、休日の甜花みたいな過ごし方してて……」

結華「今夜だけ特別だって。あと、てんちゃんに失礼だから」

P「ごめんごめん、冗談だよ」

28: 2021/12/14(火) 20:11:04.87
結華「……ところで、修学旅行の夜といえば定番だけど」

P「うん?」

結華「恋の話とか、しちゃう?」

P「おいおい、アイドルのタブーに踏み込むのか?」

結華「いや~、そもそも三峰は恋愛には馴染みがないので……。ここは、Pたんに語ってもらうということで!」

P「俺の恋愛事情なんて誰が興味あるんだよ……」

結華「三峰は興味あるよ? Pたんってモテそうなのに、妙に自己評価が低いところあるし」

P「うっ……自己評価とは痛いところを突くなぁ」

結華「ほら、三峰とPたんってさ、店員さんからカップルだと間違われたことがあるじゃん?」

P「ああ、衣装を買いに行ったときの話か」

結華「その時もPたんったら『俺なんかと恋人だと思われて、嫌じゃなかったか?』なんて弱気発言してたもんね~」

P「す、すみません……」

結華「まぁ、悪いことじゃないけど……Pたんって他人に気を遣いすぎちゃうタイプだよね」

P「ははは、じゃあ結華と似た者同士かもな」

結華「ちょっ!? 突然のカウンターはやめてよ……」

P「でも、俺はそういう所も含めて結華のことが好きだよ」

結華「も、もうっ……軽々しく好きとか言わないのっ」

29: 2021/12/14(火) 20:12:27.39
P「しかし恋の話かー……。俺も話すようなことは無いなぁ」

結華「ホントにー?」

P「うん。今は仕事が楽しくて充実してるから、それでいいんだよ」

結華「あははっ、プロデューサーってどこまでも真面目だよね~」

P「別に普通だと思うけど」

結華「……でも、そんな態度を取っておいて急に『実はずっと恋人がいたんだ』とか言い出したりして」

P「ないない」

結華「素敵な女性の部屋に招かれて、密室で二人きり……なんて経験もあんまりない感じ?」

P「あー、それはあるな」

結華「…………え」

P「結華?」

結華「あ、あー……えっと、元カノのこととか、話しちゃう流れ?」

P「いや、そうじゃなくて――」

結華「自分から話を振っておいてアレだけど……三峰的にはあんまり聞きたくないというか何というか……」

30: 2021/12/14(火) 20:13:25.86
P「違う違う、恋人とかじゃないよ」

結華「えっ、Pたんって付き合ってない人とそんなことするんだ……」

P「そんなジトッとした目で見ないでくれ! 部屋でただ雑談してただけだから!」

結華「ふーん、どうかなぁ……」 

P「風邪を引いて辛そうだったから、お見舞いに行ったんだよ」

結華「素敵な女性の部屋に?」

P「うん。だけど……その人は俺のことを恋愛対象として見てないんだ」

結華「いやいやいや、それは無理があるでしょ! 好きじゃないと部屋になんて入らせないって」

P「……」

結華「その人はPたんに気があるんだろうけど、Pたんはどうなの? ……そ、その人と……付き合いたいの?」

P「……いや、それはできない。……好きになっちゃいけない人だから」

結華「どういう意味?」

P「その人とは年齢も少し離れてるし、仕事上の節度は守らなきゃいけないし、何より俺の担当アイドルで――」

結華(あれっ? 風邪を引いてお見舞いに行って、部屋で雑談って……)

P「結華のこと、なんだけど……」

結華「~~っ!!」

31: 2021/12/14(火) 20:14:17.56
P「な、なんかゴメンな……」

結華「す、素敵な女性って三峰のこと!? あれっ、じゃあ……さっきまでの三峰の発言って……」


『好きじゃないと部屋になんて入らせないって』

『その人はPたんに気があるんだろうけど、Pたんはどうなの?』

『……そ、その人と……付き合いたいの?』


結華(ああああああああああああああああっ……!!)

P「ゆ、結華……大丈夫か?」

結華「Pたん……これは枕に顔をうずめて脚をバタバタさせちゃう案件だよ……」

P「お、俺は分かってるから! 結華は俺をプロデューサーとして信頼しているから部屋に入れてくれたんだよな!」

結華「……ん」

P「ほ、ほら! さきイカまだあるぞっ」

結華「……いただきます」

P「そろそろチャンネル変えようか、動物番組なんてどうだ?」

結華「……猫が出てるなら見る」

32: 2021/12/14(火) 20:15:23.43
(数十分後)

P「外の雨、少し弱まってきたみたいだな」

結華「うん……優しい音がする」

P「……初めて会った日も、雨だったな」

結華「えっ、どうしたの急に?」

P「結華との出会いを思い返してたんだ。雨宿りをしていたら、結華が同じ場所にやってきてさ」

結華「……懐かしいね」

P「運命的な瞬間だったなって、今でも感じるよ。結華と出会えて良かった」

結華「……や、やめてよー、改まってそんなこと言うのっ。三峰照れちゃうから~」

P「さよならは突然やってくるって、俺も思うんだ。だから……」

結華「?」

P「伝えられるうちに、何度でも気持ちを伝えたい。結華、アイドルになってくれてありがとう」

結華「……あ、あはは……Pたんはいつも真っ直ぐだよね。そういうの、ちょっと羨ましいかも……」

P「羨ましい?」

33: 2021/12/14(火) 20:16:29.07
結華「三峰もね、さよならは突然だって実感したよ。でもね、やっぱり――」

P「……」

結華「素直な気持ちを伝えるのが怖い……。伝えたら相手がどう思うのかを考えて、不安になっちゃう……」

P「……うん、分かるよ」

結華「だからいつも、わざと軽い調子で言いたいことを言ってみたりしてさ……ほんと、臆病者……」

P「だけど、出会った頃はそういう弱音も吐いてくれなかったよな」

結華「あー……そうだね」

P「だから、嬉しいよ。少しずつでも、本音を話してくれるようになって」

結華「ふふっ……三峰、Pたんに甘えすぎちゃってるかもね」

P「そんなことないよ。いくらでも頼ってくれていいし、何だって打ち明けてほしい」

結華「……本当に?」

P「ああ、本当だ」

結華「じゃあ……こいつ面倒だなって思われるのを自覚した上で……一つだけ、すっごく嫌な質問してもいい?」

P「もちろんだ、構わないよ」

34: 2021/12/14(火) 20:17:45.13
結華「三峰にとってのプロデューサーは一人だけど、プロデューサーはたくさんのアイドルを担当してるでしょ?」

P「うん、そうだな」

結華「その事実が時々、怖くなるの……。Pたんにとって三峰は、大勢のうちの一人でしかないのかなぁって……」

P「……」

結華「自分の代わりはいくらでもいるんだって考えちゃって、それで――」

P「結華! ……それは違うよ」

結華「……ごめんなさい。プロデューサーは真剣に仕事をしているだけなのに、こんなことを言って……」

P「俺の方こそ、そんなことを言わせてしまってごめん」

結華「謝らないで、Pたんは何も悪くないの。三峰の性格がアレすぎるだけで……」

P「結華……前にも言ったけど、軽んじるのはやめてほしいんだ」

結華「……」

P「うちの自慢のアイドルを……いや、違うな。俺の大切な人を、だ」

結華「プロデューサー……」

P「自分の代わりはいくらでもいるなんて、絶対に言わないでほしい」

結華「……ん」

35: 2021/12/14(火) 20:18:50.09
P「結華には好きなアイドルが何人もいるだろう?」

結華「えっ? ……うん、たくさんいるよ」

P「だけど、今日引退してしまった一人のアイドルのことが、どうしようもなく特別だったはずだ」

結華「……そうだね、すごく特別な存在だったよ……」

P「俺にとっての結華も同じだよ。担当アイドルがどれだけいても、結華は結華でしかないんだ」

結華「……!」

P「人は、誰かがいなくなった心の隙間を、他の誰かで埋め合わせたりなんてできないんだと思う」

結華「そっか……うん、そうなのかもしれないね……」

P「俺さ……休みの日でも、何をしていても、いつも頭の片隅では結華のことを考えてしまうんだ」

結華「そ、そこまでなの!?」

P「そのくらい結華のことを思ってるんだ。……結華の代わりなんていないってこと、理解してくれたか?」

結華「はい……自分を軽んじてしまってごめんなさい」

P「……ありがとう、分かってくれて」

36: 2021/12/14(火) 20:20:07.96
結華「ねぇ……三峰もPたんの真似をして、真正面から気持ちを伝えてみてもいい?」

P「えっ? ああ……」

結華「Pたん、ちょっとだけそっちに詰めるね」

P(結華が体を寄せてきて、服と服が触れ合うほどの距離に――)

結華「耳を貸して」

P「あ、ああ……」

結華「夏に花火を見ながら言いたかったことって、本当はね――」

P「……!」

結華「……ぁいす……」

P「えっ……アイス? いやー、今の季節には合わない気がするけど……」

結華「だ、だよねっ……!? あはは……」

P「耳元で変なことを言うからびっくりしたよ」

結華(やっぱり、勇気が出なくて小声になっちゃった。……本当に臆病だなぁ)

37: 2021/12/14(火) 20:21:16.81
P「アイスがない代わりに、このチョコでも食べるか?」

結華「あっ、それって……」

P「クッキー&クリーム。夏にこの味のアイスを食べてたし、好きなんだろ?」

結華「そ、そんなことまで覚えててくれたの!?」

P「当然っ。俺は結華のプロデューサーだし、一番最初のファンだからな!」

結華「わ~、Pたんドヤ顔だ~。…………あれっ」

P「どうした?」

結華「廊下の方で、何か物音が聞こえたような……」

P「事務所にはもう俺たちしかいないぞ。気のせいじゃないか?」

結華「そうだといいんだけどっ……もしかして、泥棒とか……」

P「――しっ、静かに! ……確かに、足音が聞こえる」

結華「!」

38: 2021/12/14(火) 20:22:23.61
P「慌てないで。まずは落ち着いて行動しよう」

結華「だ、大丈夫かな……」

P「大丈夫だ。何が起きても、俺が結華を守るから」

結華「う、うん……あの……」

P「どうした?」

結華「こ、怖いから……手を握ってても、いい?」

P「ああ、もちろんだ。俺のそばから離れないでいてくれ」

結華「は、はいっ……」

P(足音が近づいてくる。この部屋に来るつもりか……?)


――ガチャッ!


P「っ!? 誰かが入ってきて、急に明かりが……」

結華「うぅっ……怖いよ、Pたん……」

39: 2021/12/14(火) 20:23:25.42
はづき「あの、何をやってるんですか……?」

P「えっ……はづきさん!?」

結華「はづきちさん!? どうしてここに?」

はづき「大事な忘れ物をしてしまって、取りに来たんです。それよりも……」

P「?」

はづき「お二人とも、真っ暗の部屋で身を寄せ合って、一体何を――」

P「ち、違うんですよ! ただ電気を消してテレビを見ていただけです! なあ結華っ」

結華「そ、そうそう! それだけなんです!」

はづき「はぁ……仲直りできたようで良かったですけど、節度は守ってくださいね?」

P「……はい、肝に銘じます」

はづき「じゃあ、私は用事も済んだので帰ります。お二人は?」

P「俺たちもここを片付けたら帰ろうか、結華」

結華「……そうだね、もう日付けが変わっちゃいそう。ずいぶん話し込んじゃったみたい」

はづき「ふふっ、では私はお先に失礼しますね。お疲れさまでした~」

P、結華「はい、お疲れ様でした」

40: 2021/12/14(火) 20:25:15.68
(数分後)

P「さて、片付けも終わったな。俺たちも帰ろう」

結華「そうだね……あーあ、帰っちゃうのがなんだか惜しいなぁ」

P「……気持ちは分かるよ」

結華「今日だけで色々なことがあったんだもん。推しのアイドルが引退して、Pたんとスーパーで買い物して……」

P「猫を助けようとして、結華と口論になったけど仲直りして、二人でうどんを食べて……」

結華「明かりを消した部屋で話して、そして最後に……」

P「最後に?」

結華「泥棒が入ってきたかと思って怖かったけど……Pたんが守ってくれた」

P「ははは、大したことはできなかったけどな」

結華「そんなことないよ……すごく格好良かった。ありがとうPたん」

P「どういたしまして」

結華「あと数分で、日付けが変わっちゃうね」

P「……本当に、結華と色々なことを話せた日だったな。今日のうちに言い残したことはもうないよ」

結華「言い残したこと……か」

P「結華?」

41: 2021/12/14(火) 20:26:09.96
結華「そうだよね……やっぱり、言い残したことなんて無い方がいいよね」

P「ああ、そう思うよ」

結華「伝えたい言葉は、一緒にいられるうちに伝えなきゃ。だって……」

P「……さよならは突然に、だからな」

結華(素直に伝えることは勇気がいる。でも、伝えないままお別れなんて嫌だから――)

P「さて、そろそろ本当に帰らないと……」

結華「待って、Pたん! 最後に一つだけ聞いてほしいのっ」

P「うん?」

結華「花火の時も、さっきも、本当に言いたかったことは『アイス』じゃなくてっ……」

P「えっ、じゃあ何て……」

結華「……耳を、貸してっ。……私ね、ずっと前からあなたのことがっ……」

P「!」

結華「――ぁいすきっ!」


おわり

42: 2021/12/14(火) 20:27:03.65

引用元: 【シャニマス】結華「さよならはとつぜんに」【SS冬祭Pドル21】