1: 2013/10/27(日) 21:45:01.36
「唯ちゃん! 唯ちゃん! しっかりして!!」

あれ、誰かの声が聞える。

「唯ちゃん、すぐにお医者様が来てくれるから」

あぁ、そういえば私、階段から足を滑らせて……。

「ほら、もう来てくれた。……! こっちです!! こっちこっち!!」

あ、お医者さんが来てくれたんだ。

「はい……はい……。頭を強く打っているかもしれないので……」

私、どうなっちゃうんだろう。

「あの、私もついていっても……」

……。

「……そうですか。ではくれぐれもお願いします」

2: 2013/10/27(日) 21:45:47.03
▶病院

梓「まったく、どうなることかと思いました」

律「ほんとほんと」

澪「あぁ……」

唯「ごめんごめん。あれ、澪ちゃん顔色が悪いみたいだけど大丈夫」

律「あぁ、それはな。唯のことを心配して……」

澪「べ、別にずっと泣いてたわけじゃないぞ」

唯「澪ちゃんがツンデレさんだー」

澪「そ、そういうのじゃ!」

梓「でも、本当になんともなくてよかったです」

唯「うんうん。あのときはもう駄目かと――」

紬「いいえ、大問題だわ」

唯「ムギちゃん!?」

3: 2013/10/27(日) 21:46:19.20
紬「早急な対応が必要よ」

唯「え、だって擦り傷だけだったんじゃ」

紬「そうじゃなくて、念の為にやったこの血液検査の結果……」

梓「なにかあったんですか?」

紬「血糖値が糖尿病と判断される寸前なの」

唯・律・澪・梓「へっ」

紬「あぁ、私のせいかしら。唯ちゃんにいつもケーキを食べさせてたから……」

唯「そ、そんな大げさな」

紬「唯ちゃん。糖尿病って大変な病気なのよ。目が見えなくなったり、体が腐ったりするんだから」

唯「え、そんなの嫌だよ」

紬「唯ちゃん。明日から糖尿病対策ね。あ、憂ちゃんとも相談してこないと」

唯「憂と?」

紬「憂ちゃんはご両親に電話をかけにいったのよね。ちょっと探してくるわ」

唯「む、ムギちゃんの目が本気だよー」

4: 2013/10/27(日) 21:50:38.47
律・澪・梓「……」

唯「……」

律「ま、まぁいいんじゃないか。ムギに任せておけば」

澪「うんうん。血糖値が高いのはよくないからな」

唯「そんなぁ……あずにゃん。あずにゃんは助けてくれるよね」

梓「そうですね。血糖値が下がるまで抱きつき禁止です」

唯「う、うーいー」

ガラッ

憂「あ、お姉ちゃん」

唯「憂!」

憂「お姉ちゃん、しばらくはアイス禁止にするね」

唯「……」

律「そして唯は考えるのをやめた」

7: 2013/10/27(日) 21:53:25.31
▶翌日-放課後

紬「えっと、みんなにお願いがあるんだけど」

澪「なんだ、ムギ?」

紬「しばらく紅茶をやめようと思うの」

梓「やっぱり唯先輩絡みですか?」

紬「ええ、唯ちゃんはお砂糖の入った紅茶が好きだから」

律「なるほど。でも私達まで紅茶をやめる必要はないんじゃないか」

紬「やっぱり私達が飲んでると唯ちゃんも羨ましがっちゃうと思うの」

紬「ストレスを貯めるのは健康によくないし、甘いものに繋がっちゃうかもしれないから」

梓「そういうことなら協力するです」

澪「あぁ、私もいいぞ」

律「でもお茶がないと困らないか?」

紬「紅茶以外のお茶を用意するから」

律「それなら私もOKだ」

9: 2013/10/27(日) 21:53:57.73
ガラッ

唯「あれ、みんな来てる」

紬「いらっしゃい唯ちゃん。今日は紅茶じゃないけどいいかしら」

唯「あ、うん……仕方ないよね」

紬「ちょっとまってね」

▶5分後

紬「はい、どうぞ。みんなも」

唯「わぁ、かわいい湯のみ」

律「うん。あ、この匂いは」

澪「そば……」

梓「ですね」

10: 2013/10/27(日) 21:54:53.10
紬「ええ、そば茶をいれてみたの」

唯「芳ばしくて美味しいよ」

律「あぁ、でも、なんでそば茶なんだ?」

紬「蕎麦には血糖値を下げる効果があるの」

唯「え、じゃあ毎日蕎麦を食べてれば」

紬「う、うん。ご飯の代わりにちょびっとの十割蕎麦にするのはいいかも」

紬「でも基本はバランスよく食べないとダメよ」

唯「そのあたりは憂が面倒見てくれるから大丈夫だよ」

紬「そうね」

唯「……お菓子はなしかな?」

11: 2013/10/27(日) 21:55:43.12
紬「糖尿病に特に悪いのは塩分と糖分なんだけど、その両方がないお菓子って難しくて」

唯「やっぱりそっかぁ」

梓「そんなに気を落とさないでください唯先輩。私達も我慢しますから、ね」

律「えー」

澪「おまえも我慢しろ」ポカ

紬「あ、一応用意はしてあるの。気に入るかはわからないけど」

紬「はい、これ」

唯「これは……えびせんべい?」

紬「うん。薄味だから気に入るかはわからないけど」

唯「うんう。とっても美味しそうだよ。いただきまーす」

紬「どうかな?」

唯「うん。ちょっと味が薄いけど海老の風味があるから美味しいかも」モグモグ

律「あぁ、このお茶にも合うな」モグモグ

13: 2013/10/27(日) 21:56:17.00
梓「はいです」モグモグ

澪「なぁ、ムギ。これカ口リーはどれくらいだ?」

紬「えっと、結構低かったと思うけど、具体的な数字は覚えてないわ」

澪「そうか……ダイエット中のおやつにいいかなって思ったんだけど」

紬「ふふ、じゃあ調べておくわ」

澪「頼む」

唯「ふふ~ん」モグモグ

紬「気に入ってくれた?」

唯「うん。昨日ムギちゃんがすごい剣幕だったからお茶もお菓子もなくなるんだと思ってたけど……」

唯「こんな風に楽しめてご満悦なのです」

唯「ムギちゃん大好き」ダキッ

紬「もう、唯ちゃんったら」

15: 2013/10/27(日) 21:57:17.04
梓「あぁ、もう。えびせんのカスがムギ先輩にかかっちゃったじゃないですか」

唯「だって、あずにゃんは抱きつき禁止なんでしょ」

梓「そういう問題じゃ」

紬「血糖値が下がるまでは少し我慢が続くけど、大丈夫?」ナデナデ

唯「あ、うん///」

律「珍しく唯が照れてる」

澪「あぁ」

紬「うふふ、スタートダッシュは好調ね」

19: 2013/10/27(日) 22:00:06.17
▶唯の家

憂「はい、お姉ちゃん。デザートだよ」

唯「え、デザート!?」

憂「うん。アイスは食べさせてあげられないから、その代わりに、ね」

唯「これはシャーベット?」

憂「うん。林檎のシャーベットだよ」

唯「……美味しい」パクッ

憂「しばらくは辛いと思うけど、お姉ちゃん頑張ってね」

唯「ううん。そんなに辛くないよ。憂もムギちゃんも私のこと考えてくれてるし」

憂「そっかぁ」

唯「でもね、ケーキがずっと食べられないのは辛いかも」

20: 2013/10/27(日) 22:02:39.66
憂「血糖値が下がったら食べられるよ」

唯「でも食べたらまた血糖値が上がっちゃうでしょ?」

憂「うん。だから以前よりも控えめにね」

唯「……そうだよね」

憂「……あ、そうだ!」

唯「どうしたの憂?」

憂「沢山食べたいならそれだけ糖分を消費すればいいんだよ」

唯「えっと、消費?」

憂「うん。血中の糖分量を下げてあげればいいの」

唯「つまり運動しろってこと?」

憂「うん」

唯「運動かー」

憂「朝早く起きてウォーキングはじめる?」

21: 2013/10/27(日) 22:03:56.82
唯「早起きなんて無理だよー」

憂「……そうだね。じゃあ夜は……危ないし……」

唯「ちょっとムギちゃんに相談してみるよ」

憂「紬さんに?」

唯「うん。こういうときのムギちゃんは頼りになるんだよー」

23: 2013/10/27(日) 22:05:25.26
▶翌日-教室

唯「かくかくしかじかなわけです」

紬「憂ちゃんとそんな話をしたんだ?」

唯「うん」

紬「でも、運動してもそんなに意味はないんだけどね」

唯「そうなんだ?」

紬「うん。唯ちゃんは別に肥満体型じゃないし……」

紬「……」

紬「……でも筋肉がついて基礎代謝があがれば糖の分解量も増えるから、多少は多く食べても大丈夫かも」

紬「……」

紬「それほど大きな効果はでないけど、それでもいい?」

唯「ちょっとでも多くケーキを食べられるならやります!」

紬「ふふ、唯ちゃんは本当にケーキが好きねぇ」

24: 2013/10/27(日) 22:06:12.70
紬「じゃあ今日は学校が終わったら家に来て」

唯「えっと……でも憂が家で待ってるし」

紬「大丈夫、憂ちゃんにも来てもらうから」

唯「えっと、ムギちゃんの家に迷惑はかからない?」

紬「大丈夫。パーティーをやるわけじゃないんだから。家の庭は広いから、そこでジョギングしましょう」

唯「じゃあ、お願いします」

紬「ええ、お願いされたわ」

26: 2013/10/27(日) 22:06:46.24
▶放課後-紬の家

唯「ほぇ~。ムギちゃんの家って本当に広いんだねぇ」

紬「ええ、一周3kmあるのよー」

唯「うちの学校の周りが700mだから……」

憂「4倍以上あるね、お姉ちゃん」

紬「ここなら不審者も入ってこないし、夜でも安全に運動できるわ」

憂「紬さん、何から何までありがとうございます」

紬「ふふ、友達の健康のために庭を貸すぐらいは当然のことよー」

唯「じゃあさっそく歩こっか」

紬「あ、私は夜ご飯を作るから、唯ちゃんと憂ちゃんで歩いてくれる?」

憂「あの、夜ご飯は私に作らせてもらえませんか?」

紬「憂ちゃん?」

27: 2013/10/27(日) 22:09:23.47
憂「あの厨房を見たら、一度使って見たくなってしまって」

紬「そうなんだ。じゃあ斎藤に連絡しておくから、自由に使っていいわ。1時間ぐらいしたら戻るから」

憂「ありがとうございます」

唯「それじゃあいこっか、ムギちゃん」

紬「うん」

▶ジョギング中

唯「ちょっとペースが早くない?」ハァハァ

紬「有酸素運動にしたいから」ハァハァ

唯「有酸素運動?」ハァハァ

紬「ええ、軽い運動は無酸素運動。重い運動は有酸素運動って言われてるんだけど」ハァハァ

唯「う、うん」

28: 2013/10/27(日) 22:10:08.75
紬「脂肪を溶かして筋肉をつけるには有酸素運動がいいの」ハァハァ

唯「そ、そうなんだ」ハァハァ

紬「ダ、ダイエットしたいだけなら無酸素運動でもいいんだけど、筋肉をつけるためにやってるから」ハァハァ

唯「しゃ、しゃべりながら走るのって辛いね」ハァハァ

紬「……」コクン ハァハァ

唯「……」ハァハァ

紬「……」ハァハァ

………
……


紬「ふぅ、今日はこれくらいにしておきましょうか」

唯「ねぇ、ムギちゃん。これ続けて本当に意味があるのかな」

紬「思ったよりも辛かった?」

唯「……うん」

30: 2013/10/27(日) 22:11:08.85
紬「私はね、BMIは唯ちゃんより高いけど、血糖値は平常値なの。それはきっと筋肉が多いからだと思う」

唯「ムギちゃんはすっごく力持ちだもんね」

紬「だから唯ちゃんも筋肉をつければもっと食べても大丈夫になると思うの」

紬「個人差もあるから保障はできないんだけど……」

唯「いいよいいよ、保障なんてしてくれなくても」

紬「唯ちゃん……」

唯「そば茶とえびせんだって美味しかったしさ」

紬「うん……」

唯「そろそろ戻ろっか。憂が待ってると思うし」

32: 2013/10/27(日) 22:12:00.71
▶紬の部屋

唯「あれ、ムギちゃんの部屋なんだ」

紬「うん。食堂は広すぎて落ち着かないかと思って」

憂「お姉ちゃん、お疲れ様。はいタオル」

唯「あ、憂……なんだかいい匂いがするよぅ」

憂「あ、紬さんもお疲れ様です。どうぞ」

紬「ありがとう憂ちゃん」

憂「今日はほうれん草のお浸しと、おからハンバーグと、魚介とパプリカの炒めものを作ってみたよ」

唯「なんだかとっても美味しそうだけど、いいの?」

憂「うん。糖質はちゃんと計算してるし塩分も控えめだから大丈夫?」

紬「ふふふ、料理上手な妹さんがいる唯ちゃんが羨ましいわ」

唯「えっへん!」

▶その頃別室にて

菫「……!」

菫「なんだか急に料理の勉強をしなくちゃいけないような気がしてきました」

34: 2013/10/27(日) 22:14:51.60
▶1時間後再び紬の部屋

唯「ふぅ、美味しかった」

紬「ええ、私の分まで作ってくれてありがとう、憂ちゃん」

憂「そんな……場所も食材も貸してもらっていますし、当然のことです」

紬「そんなの関係ないわ。憂ちゃんは美味しい料理を食べさせてくれたんだもの」

憂「//」

唯「それじゃあそろそろ帰ろうかな」

紬「ええ、もういい時間だし、車を出させてもらうわ」

唯「いいの!?」

紬「ええ、もちろんよ」

唯「一度あの黒塗りの車に乗ってみたかったんだ」

憂「お姉ちゃん、良かったね」

35: 2013/10/27(日) 22:15:30.99
紬「じゃあ、そろそろ……」

憂「本当にありがとうございました、紬さん」

紬「気にしないで、毎日とはいかなくても、また来てちょうだい」

唯「うん。今度はお泊りセット持ってくるよ」

紬「え、お泊り!!?」

唯「うんっ! どうせならお風呂に入ってみたいし」

紬「うふふ、とっても楽しみだわ~」

憂「もうっ、お姉ちゃん……でもいっか」

唯「そうだよ憂。細かいこと気にしちゃ駄目だよ」

紬「それじゃあまたね、唯ちゃん」

唯「うん、またね、ムギちゃん」

37: 2013/10/27(日) 22:18:15.59
紬(それからも唯ちゃんは生活改善を続けた)

紬(唯ちゃんが大好きなケーキを食べさせてあげられないのは申し訳なかったけど、唯ちゃんはずっと我慢してくれた)

紬(いろんなお茶を試した、おからクッキーなども試してみた。三人でたこせんづくりにも挑戦した)

紬(週に二回ぐらいは私の家にきて運動した)

紬(憂ちゃんも含めて三人でジョギングしたりもした、菫も含めて四人でお風呂に入ったりもした)

紬(菫は唯ちゃんには他所他所しかったけど、憂ちゃんとはすぐに意気投合したみたいだ。最近は個人的に連絡をとってることも)

紬(そして一ヶ月後……)

38: 2013/10/27(日) 22:19:09.96
▶通学路-朝

唯「むーぎーちゃん!!」

紬「あ、唯ちゃん」

唯「えへへ、ムギちゃん。これ見て」

紬「あ、これ、健康診断の結果?」

唯「うんっ!」

紬「えっと……血糖値の値は……正常値になってる!!」

唯「うんうん。これも私の努力の賜物とでもいいましょうか」

紬「ええ、ええ、唯ちゃんが頑張ってくれたおかげだわ」

唯「えっ?」

紬「唯ちゃん?」

唯「そこはツッコミどころだと思うんだけどなー」

紬「ツッコミどころ?」

41: 2013/10/27(日) 22:20:10.28
唯「うん。こうやって血糖値を下げられたのは憂ちゃんとムギちゃん……」

唯「そしておやつとお茶を我慢してくれた澪ちゃんりっちゃんあずにゃんのおかげでしょ」

紬「ふふ、まわりがどんなに頑張っても、唯ちゃん自身が我慢してくれないと意味がないの」

紬「だから唯ちゃんの努力の賜物でいいのよ」

唯「……」

紬「唯ちゃん?」

唯「やっぱりムギちゃんは優しいなって」

紬「そうかしら」

唯「そうだよ」

紬「そっかぁ」

唯「ね、ムギちゃん。ムギちゃんってあれみたいだよね」

紬「あれ?」

唯「あの、CMでよくやってる、健康にいい……あれ、なんだっけ」

紬「?」

唯「お茶とかコーラとかのあれなんだけど……」

42: 2013/10/27(日) 22:20:40.35
紬「トクホ――特定保健用食品のことかしら?」

唯「うんうん。ムギちゃんはトクホみたい」

紬「あれは消費者庁の認可がないとつけられないのよ」

唯「じゃあ私が認可します。今日からムギちゃんはトクホのムギちゃんです!」

紬「トクホのムギちゃん?」

唯「うん。特定保健用ムギちゃん」

紬「……ふふっ」

唯「ムギちゃん?」

紬「じゃあこれからも唯ちゃんの健康管理を頑張らないといけないね」

唯「えっとね、それをお願いしたんだ」

紬「そうなの?」

唯「私さ、ついつい甘いモノを食べ過ぎちゃうからどうしても、ね」

唯「でも厳しくされるのも苦手だから、ムギちゃんみたいに甘々だったらなんとかできるかなーって」

紬「憂ちゃんじゃだめなのかしら?」

43: 2013/10/27(日) 22:21:46.78
唯「憂は妹だから別枠だよー」

紬「今日から唯ちゃんのトクホかぁ、頑張らなくっちゃ!」

唯「うん。これからもずっと私のことを見ててね」

紬「うん。これからずっと、唯ちゃんがお婆ちゃんになるまで、唯ちゃんのこと見てるから」

唯「なんだか照れるね//」

紬「そうだね//」

唯「じゃあそろそろいこっか」

紬「ええ」

紬(私達は手を繋いで歩きだす)

紬(これからも一緒にいられるように)

紬(この手の暖かさを失わないように)

紬(ずっとずっと唯ちゃんを見ていこう)

紬(そう心に誓った、ある日の朝のこと)


おしまいっ!

45: 2013/10/27(日) 22:23:30.47

こういうのもありだな

引用元: 唯「トクホのムギちゃん」