1: 2010/09/01(水) 21:01:22.12
古典の専門家から見れば色々と稚拙な文だろうが、とにかく狂言っぽくしてみたかった。
壱・『琵琶売』
壱・『琵琶売』
2: 2010/09/01(水) 21:02:21.77
律「これは軽音神楽衆が筆頭にて田井中律と申す者でござる。
本日は日柄もようござるによりて、我らが楽屋の塵払いをば致しており申す。
ソレ神楽衆一味、あれをばこちらに、これをばあちらに」
紬「洒乱羅、洒乱羅。サテ茶事が器の類、いずくにか置くべき」
唯「コレコレ律殿律殿」
律「ヤア何事ぢや」
唯「見よ。芥もくたの山くづせし跡より長持あらわれたり」
律「なんと長持。ようやつた唯、これぞ軽音神楽衆が重代の底宝にたがひあるまじ」
唯「なれば早う開けばや」
律「オウ開けよ開けよ。サテ中よりいでるは黄金(くがね)か珠か、はたまた瑠璃珊瑚」
(長持開ける)
唯「ムム、こは何と」
律「南蛮琵琶の古びたるがひとつのみとは。アアあぢきなきことかな」
本日は日柄もようござるによりて、我らが楽屋の塵払いをば致しており申す。
ソレ神楽衆一味、あれをばこちらに、これをばあちらに」
紬「洒乱羅、洒乱羅。サテ茶事が器の類、いずくにか置くべき」
唯「コレコレ律殿律殿」
律「ヤア何事ぢや」
唯「見よ。芥もくたの山くづせし跡より長持あらわれたり」
律「なんと長持。ようやつた唯、これぞ軽音神楽衆が重代の底宝にたがひあるまじ」
唯「なれば早う開けばや」
律「オウ開けよ開けよ。サテ中よりいでるは黄金(くがね)か珠か、はたまた瑠璃珊瑚」
(長持開ける)
唯「ムム、こは何と」
律「南蛮琵琶の古びたるがひとつのみとは。アアあぢきなきことかな」
3: 2010/09/01(水) 21:03:21.16
(さわ子、舞台入り)
さわ子「ヤイヤイ神楽衆、をるかやい」
神楽衆「ハアー御前に」
さわ子「ハテ目慣れぬ長持あり。中のもの、こち持て来」
唯「かしこまつてござる(琵琶差渡す)」
さわ子「サテ黴が香に昔の偲ばれることよ。
聞け、我かつて『氏障魔』一味にありて重鉄(おもがね)狂ひし時分、
これなるを獲物におらび猛りき。アアなつかしや。」
唯「ヘエ、されば御持ち帰りあれ。我らもおのおの、もちもの片付けてござる」
さわ子「マァ待て。一念、楽屋清めにつとむとは、まこと殊勝。
意気に報ひ、こは汝らに取らせるぞ。
店(たな)に売りて餅代ともせよ(琵琶かへし、退場)」
唯「オオ冥加々々。心得てござる」
(神楽衆、琵琶いだき舞台前方へ)
(そこに店者あらはる)
さわ子「ヤイヤイ神楽衆、をるかやい」
神楽衆「ハアー御前に」
さわ子「ハテ目慣れぬ長持あり。中のもの、こち持て来」
唯「かしこまつてござる(琵琶差渡す)」
さわ子「サテ黴が香に昔の偲ばれることよ。
聞け、我かつて『氏障魔』一味にありて重鉄(おもがね)狂ひし時分、
これなるを獲物におらび猛りき。アアなつかしや。」
唯「ヘエ、されば御持ち帰りあれ。我らもおのおの、もちもの片付けてござる」
さわ子「マァ待て。一念、楽屋清めにつとむとは、まこと殊勝。
意気に報ひ、こは汝らに取らせるぞ。
店(たな)に売りて餅代ともせよ(琵琶かへし、退場)」
唯「オオ冥加々々。心得てござる」
(神楽衆、琵琶いだき舞台前方へ)
(そこに店者あらはる)
4: 2010/09/01(水) 21:04:25.86
律「値のほど、あらためてくださいませ」
店者「(琵琶受け取り)あらためますゆえ、しばし待たれよ」
(琵琶さする)
店者「きはまりました。売り放つなら、五十万円にて承りたく」
紬「されば五十万円、しかと頂戴つかまつる」
律「待て待て、な無為に取らそ。
ハテこれなる古木屑に、かくも奇特の沽券あるは何ゆえか、由縁お聞かせ願いたく候」
店者「されば語らん、値のうちを。
こは遥か天竺沙羅双樹、遠珍(とおめづら)の木より削り出したるものにて。
張りたる弦を抑えるは、しろがね留具の艶光。
かくて仕上がりし玉の琵琶、瑕疵(かし)も少なければ見所すぐれたり」
律「ハア、せんずるところは」
店者「三国一の、値打ちもの(札と証文わたし、退場)」
律「されば五十万円、しかと頂戴つかまつる(札と証文、懐に入れる)」
店者「(琵琶受け取り)あらためますゆえ、しばし待たれよ」
(琵琶さする)
店者「きはまりました。売り放つなら、五十万円にて承りたく」
紬「されば五十万円、しかと頂戴つかまつる」
律「待て待て、な無為に取らそ。
ハテこれなる古木屑に、かくも奇特の沽券あるは何ゆえか、由縁お聞かせ願いたく候」
店者「されば語らん、値のうちを。
こは遥か天竺沙羅双樹、遠珍(とおめづら)の木より削り出したるものにて。
張りたる弦を抑えるは、しろがね留具の艶光。
かくて仕上がりし玉の琵琶、瑕疵(かし)も少なければ見所すぐれたり」
律「ハア、せんずるところは」
店者「三国一の、値打ちもの(札と証文わたし、退場)」
律「されば五十万円、しかと頂戴つかまつる(札と証文、懐に入れる)」
5: 2010/09/01(水) 21:05:01.58
(神楽衆、舞台奥へ)
律「しめたしめた。我ら五人連れなれば、勘定ひとり十万円ぢや」
唯「さほどの厚き束もて頬打たば、如何にをかしき心地やせん」
(さわ子、ふたたび舞台入り)
さわ子「ヤイヤイ神楽衆、神楽衆よ戻りたるか」
律「(うろたへて)オオさわ子殿。をられましたか」
さわ子「ハテいかなことぞ。戻りたるも声はせで、何故そのやうに隠れゐたるか」
律「イヤイヤ、ちと用のことありますれば」
さわ子「マア待て。値いかほどにありしか、まず聞かせよ」
律「ハテ、値とは」
さわ子「言ふもおろか。一定、あずけし琵琶が値なり」
律「ハハア琵琶が値。イヤよろしうござつた」
さわ子「よろしうとは、数えて如何に」
律「しめしましては、アアしめしましては一万円」
律「しめたしめた。我ら五人連れなれば、勘定ひとり十万円ぢや」
唯「さほどの厚き束もて頬打たば、如何にをかしき心地やせん」
(さわ子、ふたたび舞台入り)
さわ子「ヤイヤイ神楽衆、神楽衆よ戻りたるか」
律「(うろたへて)オオさわ子殿。をられましたか」
さわ子「ハテいかなことぞ。戻りたるも声はせで、何故そのやうに隠れゐたるか」
律「イヤイヤ、ちと用のことありますれば」
さわ子「マア待て。値いかほどにありしか、まず聞かせよ」
律「ハテ、値とは」
さわ子「言ふもおろか。一定、あずけし琵琶が値なり」
律「ハハア琵琶が値。イヤよろしうござつた」
さわ子「よろしうとは、数えて如何に」
律「しめしましては、アアしめしましては一万円」
6: 2010/09/01(水) 21:05:56.67
(神楽衆、おどろき惑ひたる気色)
神楽衆「律や律、ようもあだごと申したり」
さわ子「イヤなう、黴も生ひたれば安かるも是非なし」
律「エエ是非なきこと、是非なきこと」
さわ子「合点。ならば証文を見せよ」
律「ハテ証文とは」
さわ子「値のうち記せし文なり。よもや受け忘れたるとかや」
律「ア、イヤ、これに(懐より証文いだす)」
さわ子「しかに証文と見ゆ。いざ、こちへ進ぜよ」
律「ムム」
さわ子「サアサア如何した」
律「エエ御堪忍(口の中に証文入れる)」
神楽衆「律や律、ようもあだごと申したり」
さわ子「イヤなう、黴も生ひたれば安かるも是非なし」
律「エエ是非なきこと、是非なきこと」
さわ子「合点。ならば証文を見せよ」
律「ハテ証文とは」
さわ子「値のうち記せし文なり。よもや受け忘れたるとかや」
律「ア、イヤ、これに(懐より証文いだす)」
さわ子「しかに証文と見ゆ。いざ、こちへ進ぜよ」
律「ムム」
さわ子「サアサア如何した」
律「エエ御堪忍(口の中に証文入れる)」
7: 2010/09/01(水) 21:06:30.49
神楽衆「オオ律や律、ようも食ひたり」
さわ子「こはなんと。ヤイ出せ出せ」
律「出しませぬ」
神楽衆「ヤレ食へ、ソレ食へ。ヤンヤ、ヤンヤ」
さわ子「出せや出せ」
律「出しませぬ」
神楽衆「ヤレ食へ、ソレ食へ。ヤンヤ、ヤンヤ」
さわ子「おのれ(律を組み伏せ)、出さぬなら地獄は一定すみぞかし」
律「オオ魔王めきたる御換気、あなおそろしや(証文吐き、平伏)」
(神楽衆、律に並びて平伏)
さわ子「(証文見て)ヤアラ律、にくき奴め。真実五十万円なるぞ」
律「ハア平に、平に」
さわ子「こはなんと。ヤイ出せ出せ」
律「出しませぬ」
神楽衆「ヤレ食へ、ソレ食へ。ヤンヤ、ヤンヤ」
さわ子「出せや出せ」
律「出しませぬ」
神楽衆「ヤレ食へ、ソレ食へ。ヤンヤ、ヤンヤ」
さわ子「おのれ(律を組み伏せ)、出さぬなら地獄は一定すみぞかし」
律「オオ魔王めきたる御換気、あなおそろしや(証文吐き、平伏)」
(神楽衆、律に並びて平伏)
さわ子「(証文見て)ヤアラ律、にくき奴め。真実五十万円なるぞ」
律「ハア平に、平に」
8: 2010/09/01(水) 21:07:04.07
さわ子「まこと第一に申さば、一切あまさず与えたものを。
一万円と申したるがゆえ、つぶと一万円のみ取らす。心得よ」
律「ハハア心得ました」
唯「イヤお待ちあれ」
さわ子「さらさら、何をか言はむ」
唯「そ札束、蔵する前にひとつ御聞き入れあれかし」
さわ子「申せ」
唯「願わくば、我が頬をば打つてくだされ」
さわ子「いぶせき願いなるも、汝なれば聞き届けようぞ」
(さわ子、札束で唯打つ)
唯「オホーウ、ホーン(法悦境に至る気色)。六根清浄、六根清浄」
律「さても果報なる者よ」
一万円と申したるがゆえ、つぶと一万円のみ取らす。心得よ」
律「ハハア心得ました」
唯「イヤお待ちあれ」
さわ子「さらさら、何をか言はむ」
唯「そ札束、蔵する前にひとつ御聞き入れあれかし」
さわ子「申せ」
唯「願わくば、我が頬をば打つてくだされ」
さわ子「いぶせき願いなるも、汝なれば聞き届けようぞ」
(さわ子、札束で唯打つ)
唯「オホーウ、ホーン(法悦境に至る気色)。六根清浄、六根清浄」
律「さても果報なる者よ」
9: 2010/09/01(水) 21:08:26.52
とりあえず、ひとつできた。
10: 2010/09/01(水) 21:08:52.53
いとおかし
12: 2010/09/01(水) 21:12:19.27
弐・『眉沢庵』
13: 2010/09/01(水) 21:13:12.63
唯「御台に乗りたる固粥は、御供を選ばずぬくぬくと。
ひとつ、ふたつ、みつよつ、飯(いひ)の椀」
紬「唯殿は本日も気褄(けづま)うるはしくござる」
唯「なうなうむぎ殿」
紬「サテ何でしやう」
唯「むぎ殿が眉、太きこと出雲が社の御しめ縄にも似たり。こは如何したことぞ」
紬「さればその事にござる。げに申さば、我が眉は沢庵大根にてこしらへて候」
唯「ナニ沢庵」
紬「サア一切れ、つかまつれ」
唯「ムム、見事なる黄金色に食指動じまする。イザはばからず、箸をば付けん」
(紬が眉、箸にて取り外し食ふ)
唯「アラうまや、アラうまや」
(唯、小躍り)
ひとつ、ふたつ、みつよつ、飯(いひ)の椀」
紬「唯殿は本日も気褄(けづま)うるはしくござる」
唯「なうなうむぎ殿」
紬「サテ何でしやう」
唯「むぎ殿が眉、太きこと出雲が社の御しめ縄にも似たり。こは如何したことぞ」
紬「さればその事にござる。げに申さば、我が眉は沢庵大根にてこしらへて候」
唯「ナニ沢庵」
紬「サア一切れ、つかまつれ」
唯「ムム、見事なる黄金色に食指動じまする。イザはばからず、箸をば付けん」
(紬が眉、箸にて取り外し食ふ)
唯「アラうまや、アラうまや」
(唯、小躍り)
14: 2010/09/01(水) 21:14:24.92
(律、舞台入り)
律「ヤア唯ばかりが福しめるとは、ねたしうござる。
我にも一枚、振舞あるべし」
(律、残りたる眉を箸にて取り外し食ふ)
律「アラうまや、アラうまや」
(律、小躍り)
紬「されば聞きたまへ。我、ずいと両眉失はば、姿かたちおぼつかなくなりぬ。
今はただ解瑠がごと様にて、とろけ果つるのみ」
(紬、とろけるがごと倒れる)
唯「ヤヤむぎ殿が一大事」
律「早う代わる沢庵をば持て」
唯「イヤイヤ、いかでこの場に沢庵などあるべき」
律「エエ所詮なし。沢庵に似るもの、如何様にてもつかまつれ」
唯「サアサアこれにては如何」
律「ヤア唯ばかりが福しめるとは、ねたしうござる。
我にも一枚、振舞あるべし」
(律、残りたる眉を箸にて取り外し食ふ)
律「アラうまや、アラうまや」
(律、小躍り)
紬「されば聞きたまへ。我、ずいと両眉失はば、姿かたちおぼつかなくなりぬ。
今はただ解瑠がごと様にて、とろけ果つるのみ」
(紬、とろけるがごと倒れる)
唯「ヤヤむぎ殿が一大事」
律「早う代わる沢庵をば持て」
唯「イヤイヤ、いかでこの場に沢庵などあるべき」
律「エエ所詮なし。沢庵に似るもの、如何様にてもつかまつれ」
唯「サアサアこれにては如何」
15: 2010/09/01(水) 21:15:54.46
(唯、分度器もち出し紬が額に張る)
紬「(からだ起こし)事なきを得たり」
唯「アア安堵せり。さてもむぎ殿、お尋ねしたき旨、別にもあり」
紬「サテ何でしやう」
唯「沢庵あるひは分度器こしらへの眉ならば、上がり下がりは如何にするものか。
げにげに、ゆかしくおぼゆ」
紬「オオ、あれ見てくりやれ」
(紬、唯のうしろ指す。唯と律、つられ見る)
唯「何事ぞ」
(紬、唯律のまなこ逸れたる間に顔隠し、ひそやかに眉下げる)
紬「(からだ起こし)事なきを得たり」
唯「アア安堵せり。さてもむぎ殿、お尋ねしたき旨、別にもあり」
紬「サテ何でしやう」
唯「沢庵あるひは分度器こしらへの眉ならば、上がり下がりは如何にするものか。
げにげに、ゆかしくおぼゆ」
紬「オオ、あれ見てくりやれ」
(紬、唯のうしろ指す。唯と律、つられ見る)
唯「何事ぞ」
(紬、唯律のまなこ逸れたる間に顔隠し、ひそやかに眉下げる)
16: 2010/09/01(水) 21:16:29.98
唯「ヤア不可思議なり」
律「動くべからざる眉の、いつしか動きたるぞよ」
紬「洒乱羅、洒乱羅。秘するが花よ(逃げつつ退場)」
唯・律「待て待て、つまびらかに教えおくべし(追いつつ退場)」
律「動くべからざる眉の、いつしか動きたるぞよ」
紬「洒乱羅、洒乱羅。秘するが花よ(逃げつつ退場)」
唯・律「待て待て、つまびらかに教えおくべし(追いつつ退場)」
18: 2010/09/01(水) 21:18:06.84
あとひとつ、完成間近なやつがあるんで、しばし後にまた来る。
19: 2010/09/01(水) 21:51:14.80
参・『隠れ信心』
20: 2010/09/01(水) 21:51:57.36
和「これは桜高評定会議が頭目にて、真鍋和と申す者でござる。
神楽衆が愛努瑠として聞こえし秋山澪、何やら子細らしき面持ちにて参上せしゆえ、
イザ容体うかがはんと存ずる。
サテ澪、ゆるり入りしやれ」
澪「聞けや和。近ごろ我がまはりに、あやしき人の目しげくのぞきたる気配あり」
和「我が桜高に不埒の巣盗禍あるともおぼえず。サテ如何なることにや」
澪「オウオウ(袖で目元おさへる)」
和「何故に泣くぞ」
澪「神楽衆に談義せんと欲しても、皆ただひとへに戯(あざ)れるのみ。
まめまめしくいらへるは、ひとり汝のみなれば、まことありがたく感ずるぞ」
和「アレびんなきかな」
(恵、舞台入り)
恵「こは稀有なる客の来られたるかな」
神楽衆が愛努瑠として聞こえし秋山澪、何やら子細らしき面持ちにて参上せしゆえ、
イザ容体うかがはんと存ずる。
サテ澪、ゆるり入りしやれ」
澪「聞けや和。近ごろ我がまはりに、あやしき人の目しげくのぞきたる気配あり」
和「我が桜高に不埒の巣盗禍あるともおぼえず。サテ如何なることにや」
澪「オウオウ(袖で目元おさへる)」
和「何故に泣くぞ」
澪「神楽衆に談義せんと欲しても、皆ただひとへに戯(あざ)れるのみ。
まめまめしくいらへるは、ひとり汝のみなれば、まことありがたく感ずるぞ」
和「アレびんなきかな」
(恵、舞台入り)
恵「こは稀有なる客の来られたるかな」
21: 2010/09/01(水) 21:52:59.71
澪「ハテ和、かの人は如何なる御方にや」
和「我が先なる評定頭、曽我部恵殿に他ならず」
恵「ホホ、軽音神楽衆なれば、我を知らぬも詮無きことか」
澪「アイ許させられい」
恵「さらりと。サテ、澪殿が本日の御用は如何に」
和「ハハア、巣盗禍しのびて澪に付きまとふかとの疑ひ、これあり」
恵「ナニ巣盗禍とはゆゆしきことぞ。和殿、すぐさま検非違使所に渡り、これ漏らさず伝ふべし」
和「心得てござる」
澪「かくもねんごろの御心遣ひ、もつたいのうござる」
恵「礼に及ばず。桜高がおとめうち詫びなば、すなわち助くが所職なれば」
澪「オオ如来が慈悲にも比すべき取成。どこぞの神楽衆筆頭にも倣わせばや」
和「我が先なる評定頭、曽我部恵殿に他ならず」
恵「ホホ、軽音神楽衆なれば、我を知らぬも詮無きことか」
澪「アイ許させられい」
恵「さらりと。サテ、澪殿が本日の御用は如何に」
和「ハハア、巣盗禍しのびて澪に付きまとふかとの疑ひ、これあり」
恵「ナニ巣盗禍とはゆゆしきことぞ。和殿、すぐさま検非違使所に渡り、これ漏らさず伝ふべし」
和「心得てござる」
澪「かくもねんごろの御心遣ひ、もつたいのうござる」
恵「礼に及ばず。桜高がおとめうち詫びなば、すなわち助くが所職なれば」
澪「オオ如来が慈悲にも比すべき取成。どこぞの神楽衆筆頭にも倣わせばや」
23: 2010/09/01(水) 21:54:23.41
和「サア茶をひとつ(茶すすめる)」
恵「神楽衆の日ごろ振舞ひつるほどの豪奢には及ばねど、今はひとつ」
澪「(茶飲み)ヤアヤアなんの、甘露にござる」
和「して澪追ひまはすは、いずこの訳知らずやら」
恵「サテ、あるひは澪宗門が一徒やも」
澪「アア恐気のこと。忘ればや」
恵「世人の思ひ入れ、わけて深き御身なれば是非もなし」
澪「ヤレ奇得の評定頭殿なるかな、神楽衆が実(むざね)も真具(まつぶさ)に知られたるか」
和「しかに、細やかにすぎまする。
茶事こそ神楽衆が名物なることまで御存知とは、奇(あや)なるべし」
恵「イヤ、なべて和殿のかつて聞かせ示したることとおぼゆ」
和「イヤイヤ、申せし覚えはトントございませぬ」
恵「ハテ然様ぢやつたか。
されど神楽衆が高名、日の本六十六国にとどろきわたるものなれば、おのづ耳に入るも道理なるべし」
恵「神楽衆の日ごろ振舞ひつるほどの豪奢には及ばねど、今はひとつ」
澪「(茶飲み)ヤアヤアなんの、甘露にござる」
和「して澪追ひまはすは、いずこの訳知らずやら」
恵「サテ、あるひは澪宗門が一徒やも」
澪「アア恐気のこと。忘ればや」
恵「世人の思ひ入れ、わけて深き御身なれば是非もなし」
澪「ヤレ奇得の評定頭殿なるかな、神楽衆が実(むざね)も真具(まつぶさ)に知られたるか」
和「しかに、細やかにすぎまする。
茶事こそ神楽衆が名物なることまで御存知とは、奇(あや)なるべし」
恵「イヤ、なべて和殿のかつて聞かせ示したることとおぼゆ」
和「イヤイヤ、申せし覚えはトントございませぬ」
恵「ハテ然様ぢやつたか。
されど神楽衆が高名、日の本六十六国にとどろきわたるものなれば、おのづ耳に入るも道理なるべし」
24: 2010/09/01(水) 21:56:04.10
澪「ムム、ムム(疑わしき気色)」
恵「聞くべきは聞きつ。今はこれまで(去りつつ、紙おとす)」
和「待たれよ。なにやら散り落とされたるぞ(紙拾ふ)。
ヤヤ、こはなんと。澪宗門徒が証に他ならず」
恵「エエイかへせ、かへせ。ここ渡る半(なから)に拾ひ取りたるのみぞ」
和「イヤイヤ、ホレここに、曽我部恵と御名前しるされております」
恵「アア、さしつたり」
澪「さても危急存亡、評定頭殿まさに瀬戸際。
こは一番、正無事(まさなごと)などものし、治定はかるべき」
(澪、恵と和の間に割り入る)
澪「サテサテ皆様方、これより慮外なるをば申し上げます。
よも評定頭殿こそ巣盗禍の本体ならめとは、如何に」
(恵、泣きくづれる)
恵「聞くべきは聞きつ。今はこれまで(去りつつ、紙おとす)」
和「待たれよ。なにやら散り落とされたるぞ(紙拾ふ)。
ヤヤ、こはなんと。澪宗門徒が証に他ならず」
恵「エエイかへせ、かへせ。ここ渡る半(なから)に拾ひ取りたるのみぞ」
和「イヤイヤ、ホレここに、曽我部恵と御名前しるされております」
恵「アア、さしつたり」
澪「さても危急存亡、評定頭殿まさに瀬戸際。
こは一番、正無事(まさなごと)などものし、治定はかるべき」
(澪、恵と和の間に割り入る)
澪「サテサテ皆様方、これより慮外なるをば申し上げます。
よも評定頭殿こそ巣盗禍の本体ならめとは、如何に」
(恵、泣きくづれる)
25: 2010/09/01(水) 21:56:50.65
恵「ハアー許させられい、許させられい」
澪「オオ、そらごとより真の出たるぞ」
恵「オイオイ。
次の春来たれば、桜高より去るべき定めの我が身なり。
菩薩の化生としたひ念ずる澪殿との別れも近づき、いたみわぶに耐へがたし。
さればこそ、かくの愚か事におよびたるぞ」
澪「アア評定頭殿、なんとも思ひの他なるかな。
こに報ひ候わねば、我とても七生晴れぬ悔ひをば残しまする。
されば後、かならづ稽古場まで御越し願いたく候」
(澪去る)
恵「アアなさけなや。常に思ひかけし澪殿の、御腹立ちをこうむりたるぞ。
けだし神楽衆が兵(つはもの)ども集め、我を討たんとの御意趣か」
和「よもや。澪が本意は知らねど、今はただ稽古場へ急ぐのみ」
(恵、澪、舞台脇へ)
(澪、南蛮琵琶持ちて再び舞台入り)
澪「オオ、そらごとより真の出たるぞ」
恵「オイオイ。
次の春来たれば、桜高より去るべき定めの我が身なり。
菩薩の化生としたひ念ずる澪殿との別れも近づき、いたみわぶに耐へがたし。
さればこそ、かくの愚か事におよびたるぞ」
澪「アア評定頭殿、なんとも思ひの他なるかな。
こに報ひ候わねば、我とても七生晴れぬ悔ひをば残しまする。
されば後、かならづ稽古場まで御越し願いたく候」
(澪去る)
恵「アアなさけなや。常に思ひかけし澪殿の、御腹立ちをこうむりたるぞ。
けだし神楽衆が兵(つはもの)ども集め、我を討たんとの御意趣か」
和「よもや。澪が本意は知らねど、今はただ稽古場へ急ぐのみ」
(恵、澪、舞台脇へ)
(澪、南蛮琵琶持ちて再び舞台入り)
28: 2010/09/01(水) 21:58:44.65
澪「さても曽我部恵殿。
こたび、つつがなく勤め終えられましたること、まこと珍重好事と存じまする」
恵「ハテ、なんと申されたか」
和「恵殿の行く末、言祝ぎたく候となん」
恵「オオ、オオ」
澪「かくも深き御こころざし、我とても気色わろからず。
されば一念、得手もの神楽もて餞(はなむけ)となしたくござる」
恵「アア嬉しき日ぞ、嬉しき日ぞ」
澪「これより奏でまするは御存知、連節不破々々が刻。いざ、共に音声(おんぢやう)なさん」
恵「ヤンヤ」
和「ヤンヤ」
(澪、琵琶ならす)
こたび、つつがなく勤め終えられましたること、まこと珍重好事と存じまする」
恵「ハテ、なんと申されたか」
和「恵殿の行く末、言祝ぎたく候となん」
恵「オオ、オオ」
澪「かくも深き御こころざし、我とても気色わろからず。
されば一念、得手もの神楽もて餞(はなむけ)となしたくござる」
恵「アア嬉しき日ぞ、嬉しき日ぞ」
澪「これより奏でまするは御存知、連節不破々々が刻。いざ、共に音声(おんぢやう)なさん」
恵「ヤンヤ」
和「ヤンヤ」
(澪、琵琶ならす)
29: 2010/09/01(水) 21:59:40.99
澪「南無大黒天、縁結びの権現様よ」
恵「今生ひとたび一夜とて、契る便宜(びんぎ)もあれかしと」
和「言問ひあれば、おのづから」
澪「恋の情けも、深まりゆく」
恵「ヤレ不破々々が刻」
和「ソレ不破々々が刻」
澪「ヤツトコヤツトコ、アア不破々々が刻」
(三者、舞ひ謡ひつつ退場)
恵「今生ひとたび一夜とて、契る便宜(びんぎ)もあれかしと」
和「言問ひあれば、おのづから」
澪「恋の情けも、深まりゆく」
恵「ヤレ不破々々が刻」
和「ソレ不破々々が刻」
澪「ヤツトコヤツトコ、アア不破々々が刻」
(三者、舞ひ謡ひつつ退場)
36: 2010/09/01(水) 22:06:29.70
あーそうそう。
少し前に謡曲っぽいものも書いてスレ立てしたんだけど、すぐにdat落ちしてしもうた。
悔しかったんで、そっちも再度貼る。
少し前に謡曲っぽいものも書いてスレ立てしたんだけど、すぐにdat落ちしてしもうた。
悔しかったんで、そっちも再度貼る。
39: 2010/09/01(水) 22:07:34.10
謡曲『惑梓(まどひあずさ)』
『能本作者註文』にいわく、作者は「飛牡蠣」。
平成十九年、雲母能舞台にて初演。
好評を呼び、後の平成二十一年から二十二年にかけては、京都動画衆により機巧絵巻が作成された。
歴史上名高き「軽音物」の大流行が始まった契機である。
『能本作者註文』にいわく、作者は「飛牡蠣」。
平成十九年、雲母能舞台にて初演。
好評を呼び、後の平成二十一年から二十二年にかけては、京都動画衆により機巧絵巻が作成された。
歴史上名高き「軽音物」の大流行が始まった契機である。
41: 2010/09/01(水) 22:09:18.10
ワキ・ワキツレ四人一声
「汝が姿 見れば心の臓 どうどうめき
思ひはかれば 淡雪羹
ヤレ不破々々が刻 ソレ不破々々が刻
ワキ澪「かやうに連なりたるは、桜高が軽音神楽衆にて候。
わけて我は南蛮琵琶つかまつる者にて、名をば秋山澪と申し候」
ワキツレ唯「近頃あず猫が影も見えず。もの思ふべし」
ワキ澪「月に群雲、花にも嵐。さては限りの至れるか」
シテ、うしろめたしき気配にて舞台入り
ワキツレ律「さても梓。何故の懈怠ぞ。我ら一座日々これ稽古、おこたることの無きものを」
ワキツレ唯「待ちわびたる哉。待ちわびたる哉」
シテ、なおも顔ふせ黙る
「汝が姿 見れば心の臓 どうどうめき
思ひはかれば 淡雪羹
ヤレ不破々々が刻 ソレ不破々々が刻
ワキ澪「かやうに連なりたるは、桜高が軽音神楽衆にて候。
わけて我は南蛮琵琶つかまつる者にて、名をば秋山澪と申し候」
ワキツレ唯「近頃あず猫が影も見えず。もの思ふべし」
ワキ澪「月に群雲、花にも嵐。さては限りの至れるか」
シテ、うしろめたしき気配にて舞台入り
ワキツレ律「さても梓。何故の懈怠ぞ。我ら一座日々これ稽古、おこたることの無きものを」
ワキツレ唯「待ちわびたる哉。待ちわびたる哉」
シテ、なおも顔ふせ黙る
43: 2010/09/01(水) 22:10:07.95
ワキ澪「痛わしき様なり。何とてやあらむ」
ワキツレ律「さては岩にせかるる滝川の」
ワキツレ唯「或は峰にわかるる横雲の、今生の名残は御勘弁」
シテ梓「ならば答えん。なづみの霧、心にかかり、道に惑ひしが故にて候」
ワキ・ワキツレ四人一声
「あら何と」
シテ梓「それ軽音が一党に我の招かれし由、今はおぼつかなし。
初心に響きし歓迎の宴も、すでに遠し。
かのいみじき境地、羽化登仙の心持、御四人と共に御座候へば、
再び兆すこともあらむと思ひ定め、勤めに勤めてはべりおりしも、
露ほどの甲斐なく、あぢきなき限りにて候。
もはや十方浄土にも往生すべき縁なしやと」
シテ、面おほひて泣く
ワキツレ唯「あず猫あず猫、いとほしや」
ワキツレ律「さては岩にせかるる滝川の」
ワキツレ唯「或は峰にわかるる横雲の、今生の名残は御勘弁」
シテ梓「ならば答えん。なづみの霧、心にかかり、道に惑ひしが故にて候」
ワキ・ワキツレ四人一声
「あら何と」
シテ梓「それ軽音が一党に我の招かれし由、今はおぼつかなし。
初心に響きし歓迎の宴も、すでに遠し。
かのいみじき境地、羽化登仙の心持、御四人と共に御座候へば、
再び兆すこともあらむと思ひ定め、勤めに勤めてはべりおりしも、
露ほどの甲斐なく、あぢきなき限りにて候。
もはや十方浄土にも往生すべき縁なしやと」
シテ、面おほひて泣く
ワキツレ唯「あず猫あず猫、いとほしや」
45: 2010/09/01(水) 22:11:08.10
ワキツレ律「然り。
伯牙調べれば、鐘子期が感は必ず動じ、
鐘子期賛すれば、伯牙が情にあやまたず当たる。
されば我らは今知音、この場は一定、おとなふのみぞ」
ワキ・ワキツレ四人一声
「心得たり」
ワキ・ワキツレ四人、得物かまへ鳴らす
地謡「なんとも不思議の心地なり。
学を好まぬ唯殿に、本意なき思ひはたへざれど。
太鼓のはやる律殿の、勢いまことにうとけれど。
なれどこれなる四天王、そろわば奏でる三国一の、賑わひ和(にぎ)ぶ大神楽。
ひとえに天部の諸尊とて、聞かば舞ひ出す極みの音よ」
ワキ、シテに近づく
伯牙調べれば、鐘子期が感は必ず動じ、
鐘子期賛すれば、伯牙が情にあやまたず当たる。
されば我らは今知音、この場は一定、おとなふのみぞ」
ワキ・ワキツレ四人一声
「心得たり」
ワキ・ワキツレ四人、得物かまへ鳴らす
地謡「なんとも不思議の心地なり。
学を好まぬ唯殿に、本意なき思ひはたへざれど。
太鼓のはやる律殿の、勢いまことにうとけれど。
なれどこれなる四天王、そろわば奏でる三国一の、賑わひ和(にぎ)ぶ大神楽。
ひとえに天部の諸尊とて、聞かば舞ひ出す極みの音よ」
ワキ、シテに近づく
46: 2010/09/01(水) 22:11:43.97
ワキ澪「さても梓。汝かつて、我にこと問ひていわく、外番に出でざるは何の故かと」
シテ梓「然り」
ワキ澪「いざや答えん。この神楽衆と共だちおとなふ、そに勝る楽しみの知れぬがためなり。
我ら三世に一蓮托生、珠の緒と珠の緒つなぐ縁の紐いと太ければ、
南無諸天善神、一切の加護ありて我らが神楽も華やぐべしと」
シテ梓「心得て御座候」
ワキ澪「さても梓。貞盛に小烏丸、本多作左に蜻蛉切、汝が腕にも名物睦丹。
なれば共に楽しまん、いざ」
シテ梓「かしこまつて御座候。我が身の置き所、軽音神楽衆の他になし」
ワキツレ唯「よろづかたじけなし、あず猫や」
ワキ澪「うさ祓ひの茶事もあれ。稽古むつかしきこともあれ。
されど神楽衆の所作に無駄なく、全て芸道の血肉とこそなれ」
シテ梓「然り」
ワキ澪「いざや答えん。この神楽衆と共だちおとなふ、そに勝る楽しみの知れぬがためなり。
我ら三世に一蓮托生、珠の緒と珠の緒つなぐ縁の紐いと太ければ、
南無諸天善神、一切の加護ありて我らが神楽も華やぐべしと」
シテ梓「心得て御座候」
ワキ澪「さても梓。貞盛に小烏丸、本多作左に蜻蛉切、汝が腕にも名物睦丹。
なれば共に楽しまん、いざ」
シテ梓「かしこまつて御座候。我が身の置き所、軽音神楽衆の他になし」
ワキツレ唯「よろづかたじけなし、あず猫や」
ワキ澪「うさ祓ひの茶事もあれ。稽古むつかしきこともあれ。
されど神楽衆の所作に無駄なく、全て芸道の血肉とこそなれ」
48: 2010/09/01(水) 22:12:36.28
ワキツレ唯・律、あからさまに稽古の手やすむ
ワキツレ唯「やあ疲れたり」
ワキツレ律「向こう七日の物忌みあるべし」
シテ梓「澪殿が言、すずろに疑わしくおぼえ候」
ワキ澪「これはまた、かたはらいたし」
ワキツレ沢庵「我の出番なきまま果つるとは」
地謡「桜三月、菖蒲は五月、をとめの盛りは十六七。
咲きも咲いたる大輪の、いつつの花の行く末かたし。
後の世にまで数々の、物語をば残したる、軽音神楽衆のそもそもの、縁起はかくも目出度けれ。
縁起はかくも目出度けれ」
(了)
ワキツレ唯「やあ疲れたり」
ワキツレ律「向こう七日の物忌みあるべし」
シテ梓「澪殿が言、すずろに疑わしくおぼえ候」
ワキ澪「これはまた、かたはらいたし」
ワキツレ沢庵「我の出番なきまま果つるとは」
地謡「桜三月、菖蒲は五月、をとめの盛りは十六七。
咲きも咲いたる大輪の、いつつの花の行く末かたし。
後の世にまで数々の、物語をば残したる、軽音神楽衆のそもそもの、縁起はかくも目出度けれ。
縁起はかくも目出度けれ」
(了)
49: 2010/09/01(水) 22:14:13.43
>>42
どこからどう見ても、原作そのまんまじゃないか!
どこからどう見ても、原作そのまんまじゃないか!
51: 2010/09/01(水) 22:17:42.68
ああそうか、>>22は『清水』か。
今さら思い当たった。
ネタ切れたんで、これからまた何か考えねば。
今さら思い当たった。
ネタ切れたんで、これからまた何か考えねば。
52: 2010/09/01(水) 22:18:57.69
いとワロスw
53: 2010/09/01(水) 22:20:24.08
わろし!いとわろし!
54: 2010/09/01(水) 22:29:47.87
よし決めた。
古典的な狂言を、逆に現代SSっぽくアレンジしてみる。
古典的な狂言を、逆に現代SSっぽくアレンジしてみる。
62: 2010/09/02(木) 00:12:58.16
やっとできた。
保守してくれた人、ありがとう。
けど、色々とアレンジしすぎたせいで元ネタとは別ものになったかも。
読んでる途中で原典が分かったら偉い!
今狂言『御器被』
保守してくれた人、ありがとう。
けど、色々とアレンジしすぎたせいで元ネタとは別ものになったかも。
読んでる途中で原典が分かったら偉い!
今狂言『御器被』
64: 2010/09/02(木) 00:14:29.59
1年生の教室にて。
梓「あーあ、今日は掃除当番かー……
学祭ライヴも近いし、さっさと終わらせて練習に行かなくちゃ」
憂「あっ、梓ちゃん危ない! 蜂が飛んできたよ!」
梓「えっ?(髪を揺らしつつ、振り返る)」
純「おおー! ツインテールで蜂を叩き落した!」
梓「ふ……ふふーん、見たか! これぞ中野家に伝わる奥義です!」
憂「すごーい!」
純「……単なる偶然だったくせに」
梓「あーあ、今日は掃除当番かー……
学祭ライヴも近いし、さっさと終わらせて練習に行かなくちゃ」
憂「あっ、梓ちゃん危ない! 蜂が飛んできたよ!」
梓「えっ?(髪を揺らしつつ、振り返る)」
純「おおー! ツインテールで蜂を叩き落した!」
梓「ふ……ふふーん、見たか! これぞ中野家に伝わる奥義です!」
憂「すごーい!」
純「……単なる偶然だったくせに」
65: 2010/09/02(木) 00:15:20.74
部室にて。
紬「うーん……なかなか入ってきてくれないなあ」
澪「なにやってんだムギ? そんなところでうずくまって」
律「ふふふ、知りたいか?」
唯「ムギちゃんはねー、今朝ゴキブリホイホイを持ってきてくれたんだよ!」
澪「え」
律「それを部室にしかけておいたんだが……
放課後の今に至るまで、中はカラのまま」
紬「しょぼーん、だわ」
澪「ちょ、何考えてんだ! ゴキブリなんて捕まえて、どうするつもりなんだよ!」
紬「一度でいいから、こういう家庭的ガジェットで害虫を捕獲してみたいの!
と言うか、子どもの頃からゴキブリさんって一度も見たこと無いし」
紬「うーん……なかなか入ってきてくれないなあ」
澪「なにやってんだムギ? そんなところでうずくまって」
律「ふふふ、知りたいか?」
唯「ムギちゃんはねー、今朝ゴキブリホイホイを持ってきてくれたんだよ!」
澪「え」
律「それを部室にしかけておいたんだが……
放課後の今に至るまで、中はカラのまま」
紬「しょぼーん、だわ」
澪「ちょ、何考えてんだ! ゴキブリなんて捕まえて、どうするつもりなんだよ!」
紬「一度でいいから、こういう家庭的ガジェットで害虫を捕獲してみたいの!
と言うか、子どもの頃からゴキブリさんって一度も見たこと無いし」
66: 2010/09/02(木) 00:16:41.75
唯「実物をじっくり観察するのが、長年の夢なんだよねー」
紬「うふふー」
澪「ばっ、馬鹿! そんな悪い夢は捨てろ!」
律「(澪の耳元で)容器の蓋を開けると……黒光りするゴキちゃんがびっしり……」
澪「ひ、ひいいい!(気絶)」
紬「でも……流石は優良児そろいの桜高ね。
みんな毎日いっしょうけんめいお掃除してるから、ゴキブリなんて住んでないのかも(肩を落とす)」
律「そ、そんなに残念なのかよ」
唯「うんうん、ムギちゃんの気持ちよく分かるよ。
私も、うちに帰って冷蔵庫開けて、アイス入ってなかったら自頃したくなるもん」
律「軽いな、お前の命」
紬「ありがとう唯ちゃん。でも仕方ないわ、きっとこれも運命なのよ。
この度は、ご縁がなかったってことで」
律「虫相手に見合いでもする気だったのか」
紬「うふふー」
澪「ばっ、馬鹿! そんな悪い夢は捨てろ!」
律「(澪の耳元で)容器の蓋を開けると……黒光りするゴキちゃんがびっしり……」
澪「ひ、ひいいい!(気絶)」
紬「でも……流石は優良児そろいの桜高ね。
みんな毎日いっしょうけんめいお掃除してるから、ゴキブリなんて住んでないのかも(肩を落とす)」
律「そ、そんなに残念なのかよ」
唯「うんうん、ムギちゃんの気持ちよく分かるよ。
私も、うちに帰って冷蔵庫開けて、アイス入ってなかったら自頃したくなるもん」
律「軽いな、お前の命」
紬「ありがとう唯ちゃん。でも仕方ないわ、きっとこれも運命なのよ。
この度は、ご縁がなかったってことで」
律「虫相手に見合いでもする気だったのか」
67: 2010/09/02(木) 00:17:31.27
紬「じゃ、お茶の用意をするね。はあ……(深く溜め息)」
律「(ひそひそ声で)おい、唯」
唯「(ひそひそ声で)なんでありますか隊長」
律「うむ。我が隊で最も残念……じゃなくて優秀な唯隊員に、特別任務を与える」
唯「とと、特別任務! それはいったい!」
律「しいっ、声が大きい。いいか、あの紬の無念そうな顔を見ろ」
唯「マジかわいそうであります」
律「なんとかしてあげたい!とか思わないか?」
唯「思うであります」
律「じゃ、ゴキブリ捕まえてきて」
唯「はあ?」
律「(ひそひそ声で)おい、唯」
唯「(ひそひそ声で)なんでありますか隊長」
律「うむ。我が隊で最も残念……じゃなくて優秀な唯隊員に、特別任務を与える」
唯「とと、特別任務! それはいったい!」
律「しいっ、声が大きい。いいか、あの紬の無念そうな顔を見ろ」
唯「マジかわいそうであります」
律「なんとかしてあげたい!とか思わないか?」
唯「思うであります」
律「じゃ、ゴキブリ捕まえてきて」
唯「はあ?」
68: 2010/09/02(木) 00:18:13.22
律「で、こっそりホイホイの中に仕込んでおくんだ。
ムギ、きっと大喜びだぞー」
唯「ええー、めんどくさいー」
律「あまりの喜びに、明日からお菓子の量が倍増したりしてな」
唯「やる! 私がんばる!」
律「校内くまなく探せば、一匹ぐらい見つかるはずだ。
行け、戦え、唯隊員!」
唯「ラジャー! と、その前に」
律「まだ何か?」
唯「ゴキブリって、なに?」
律「はひ?」
唯「だから、ゴキブリってどんなの?」
ムギ、きっと大喜びだぞー」
唯「ええー、めんどくさいー」
律「あまりの喜びに、明日からお菓子の量が倍増したりしてな」
唯「やる! 私がんばる!」
律「校内くまなく探せば、一匹ぐらい見つかるはずだ。
行け、戦え、唯隊員!」
唯「ラジャー! と、その前に」
律「まだ何か?」
唯「ゴキブリって、なに?」
律「はひ?」
唯「だから、ゴキブリってどんなの?」
69: 2010/09/02(木) 00:18:44.60
律「お、お前……それはひょっとしてギャグで言っているのか?」
唯「ううん、本当に見たことないんだ」
律「むうう。にわかには信じがたいが……お前はウソだけはつかない奴だからな。
……バカだけど」
唯「えへへー、それほどでもー」
律「いいか、あのホイホイに描かれた絵をよく見ろ」
唯「お、なんか怪獣みたいなのがいるね」
律「だいたい、あんな感じの生き物だ」
唯「結構かわいいんだね」
律「いやいや、あれはかなりデフォルメされた姿だ。実物は恐いぞー。
いきなり飛び掛ってきたりする」
唯「ふむふむ、メモメモ」
唯「ううん、本当に見たことないんだ」
律「むうう。にわかには信じがたいが……お前はウソだけはつかない奴だからな。
……バカだけど」
唯「えへへー、それほどでもー」
律「いいか、あのホイホイに描かれた絵をよく見ろ」
唯「お、なんか怪獣みたいなのがいるね」
律「だいたい、あんな感じの生き物だ」
唯「結構かわいいんだね」
律「いやいや、あれはかなりデフォルメされた姿だ。実物は恐いぞー。
いきなり飛び掛ってきたりする」
唯「ふむふむ、メモメモ」
71: 2010/09/02(木) 00:20:06.82
律「とにかく全体的に黒っぽくて、2本の触覚がピンと伸びていて」
唯「で、おっかない生き物……っと」
律「そうそう。B級ホラー映画とかだと、しょっちゅう放射線を浴びて巨大化してる」
唯「よし、おおむね理解した! ちょっくら行ってくる!(部室から駆け出る)」
律「武運を祈ってるぞー……ククク、これで邪魔者は消えた」
紬「さあ、お茶が入りましたよー……って、あれ?
唯ちゃん、どこ行ったの?」
律「ん。ちょっと急用で、しばらく戻らないってさ」
紬「そうなの……今日のおやつ、新鮮なうちに食べてほしかったんだけど」
唯「で、おっかない生き物……っと」
律「そうそう。B級ホラー映画とかだと、しょっちゅう放射線を浴びて巨大化してる」
唯「よし、おおむね理解した! ちょっくら行ってくる!(部室から駆け出る)」
律「武運を祈ってるぞー……ククク、これで邪魔者は消えた」
紬「さあ、お茶が入りましたよー……って、あれ?
唯ちゃん、どこ行ったの?」
律「ん。ちょっと急用で、しばらく戻らないってさ」
紬「そうなの……今日のおやつ、新鮮なうちに食べてほしかったんだけど」
73: 2010/09/02(木) 00:21:11.00
律「でも澪は気絶したままだし、唯はいないし。なんとなく、梓も来ないような予感がするし」
紬「しかたないわ。三人の分は、りっちゃんが食べていいよ」
律「あー残念だなー申し訳ないなー。でも、食べずに残すよりはずっとマシだよねゲヘヘ」
紬「なんか、りっちゃん……計画通り!って顔してるけど」
律「めめめ滅相も」
紬「それじゃ、どうぞ!
今日のおやつは、アリゾナ州名物の芋虫入りキャンデーよ!」
律「ぐえ」
紬「わあー、舐めると舌がビリビリして面白い!
さ、りっちゃんも遠慮せず!
破片すら残さず、ぜーんぶバリバリと!」
律「策士、策に溺れるの巻」
紬「しかたないわ。三人の分は、りっちゃんが食べていいよ」
律「あー残念だなー申し訳ないなー。でも、食べずに残すよりはずっとマシだよねゲヘヘ」
紬「なんか、りっちゃん……計画通り!って顔してるけど」
律「めめめ滅相も」
紬「それじゃ、どうぞ!
今日のおやつは、アリゾナ州名物の芋虫入りキャンデーよ!」
律「ぐえ」
紬「わあー、舐めると舌がビリビリして面白い!
さ、りっちゃんも遠慮せず!
破片すら残さず、ぜーんぶバリバリと!」
律「策士、策に溺れるの巻」
74: 2010/09/02(木) 00:21:44.95
廊下にて。
唯「むむー、ゴブキリ、ゴブキリ……」
梓「はあ、何か思ったより時間かかっちゃったな
唯「うううう、ゴリゴリ、ゴリゴリどこにいる」
梓「あれ、唯先輩?どうしちゃったんですか、そんなところに這いつくばって」
唯「おお、あずにゃん。私は今、ムギちゃんの命を救うための重大な任務をこなしているのです」
梓「また謎な発言かましてるよ、この人。
て言うか、練習はどうしたんですか? 学祭、もうすぐなのに……」
唯「そんなことを気にするヒマがあったら、あずにゃんもゴブリンを探してよ!」
梓「ファンタジーRPGのザコ敵?」
唯「違うよ、ゴロツキだよ!」
唯「むむー、ゴブキリ、ゴブキリ……」
梓「はあ、何か思ったより時間かかっちゃったな
唯「うううう、ゴリゴリ、ゴリゴリどこにいる」
梓「あれ、唯先輩?どうしちゃったんですか、そんなところに這いつくばって」
唯「おお、あずにゃん。私は今、ムギちゃんの命を救うための重大な任務をこなしているのです」
梓「また謎な発言かましてるよ、この人。
て言うか、練習はどうしたんですか? 学祭、もうすぐなのに……」
唯「そんなことを気にするヒマがあったら、あずにゃんもゴブリンを探してよ!」
梓「ファンタジーRPGのザコ敵?」
唯「違うよ、ゴロツキだよ!」
75: 2010/09/02(木) 00:23:03.99
梓「だから、なんですかそれ」
唯「うんとねー、全体的に黒っぽくて、触覚が2本ピンコ勃ちしていて……はっ!」
梓「ちょ、いきなり顔近づけないでください!」
唯「く、黒い!」
梓「あ痛、おさげ引っ張らないで!」
唯「触覚が2本!」
梓「やめてってば! いいから、練習に行きますよ!」
唯「おわあ、怒って飛び掛ってきた! 恐い!」
梓「先輩のフリーダムさの方が、ずっと恐いです!」
唯「やったービンゴだ、間違いない!」
梓「いやいやいや、そこで喜ぶのは意味不明すぎます」
唯「うんとねー、全体的に黒っぽくて、触覚が2本ピンコ勃ちしていて……はっ!」
梓「ちょ、いきなり顔近づけないでください!」
唯「く、黒い!」
梓「あ痛、おさげ引っ張らないで!」
唯「触覚が2本!」
梓「やめてってば! いいから、練習に行きますよ!」
唯「おわあ、怒って飛び掛ってきた! 恐い!」
梓「先輩のフリーダムさの方が、ずっと恐いです!」
唯「やったービンゴだ、間違いない!」
梓「いやいやいや、そこで喜ぶのは意味不明すぎます」
76: 2010/09/02(木) 00:23:38.98
唯「いいからいいから、部室に行くよ!」
梓「え、やっと練習する気になったんですか?」
唯「練習でも何でもやってあげるから、とにかく今は部室に!
ムギちゃんのもとへ、今すぐゴー!」
梓「おおー! 珍しくやる気ですね、燃えてますね!」
唯「ふんす! これでお菓子倍増計画大成功だよ!」
梓「え、やっと練習する気になったんですか?」
唯「練習でも何でもやってあげるから、とにかく今は部室に!
ムギちゃんのもとへ、今すぐゴー!」
梓「おおー! 珍しくやる気ですね、燃えてますね!」
唯「ふんす! これでお菓子倍増計画大成功だよ!」
77: 2010/09/02(木) 00:24:11.87
部室にて。
梓「失礼しまーす」
唯「あれ、りっちゃんが息してない」
梓「澪先輩も瞳孔開きっぱなしですね。何事?」
紬「あら、唯ちゃん梓ちゃん。やっと帰って来たのね」
唯「おう、待たせたね!」
紬「ごめんなさい。遅くなるって聞いたから、おやつもう食べちゃった」
梓「あうう……」
唯「いいさいいさ、明日から通常の3倍食べさせてくれれば!
それよりも、これからムギちゃんの夢をかなえてあげるよ!」
紬「え?」
梓「失礼しまーす」
唯「あれ、りっちゃんが息してない」
梓「澪先輩も瞳孔開きっぱなしですね。何事?」
紬「あら、唯ちゃん梓ちゃん。やっと帰って来たのね」
唯「おう、待たせたね!」
紬「ごめんなさい。遅くなるって聞いたから、おやつもう食べちゃった」
梓「あうう……」
唯「いいさいいさ、明日から通常の3倍食べさせてくれれば!
それよりも、これからムギちゃんの夢をかなえてあげるよ!」
紬「え?」
78: 2010/09/02(木) 00:24:43.85
「さあ、あずにゃん……と見せかけて、実はごきにゃんだったそこのキミ!」
梓「はい?」
唯「このホイホイに入ってください!」
紬「え?」
梓「え?」
唯「……え?」
紬「ごめん、ちょっと何言ってるか分からない」
唯「いや、だから……ゴキブリを……ホイホイに……」
梓「ひどい! いつから私がゴキブリになったんですか!」
紬「見損なったわ唯ちゃん、後輩をいじめるなんて」
梓「はい?」
唯「このホイホイに入ってください!」
紬「え?」
梓「え?」
唯「……え?」
紬「ごめん、ちょっと何言ってるか分からない」
唯「いや、だから……ゴキブリを……ホイホイに……」
梓「ひどい! いつから私がゴキブリになったんですか!」
紬「見損なったわ唯ちゃん、後輩をいじめるなんて」
79: 2010/09/02(木) 00:25:24.70
唯「えええええええ!? そんな、私は、ただ」
紬「反省するまで、唯ちゃんだけおやつの量を半分にします!」
唯「ぎゃー! それだけは勘弁してくだせぇ!」
梓「……なんでもいいから、練習しましょうよぉ」
唯「おのれ、よくも騙したおったなごきにゃ……いや、あずにゃん?
あれ? ねえねえ、どっちが本当の正体なの?」
梓「いやだから、私に聞かれても」
(了)
紬「反省するまで、唯ちゃんだけおやつの量を半分にします!」
唯「ぎゃー! それだけは勘弁してくだせぇ!」
梓「……なんでもいいから、練習しましょうよぉ」
唯「おのれ、よくも騙したおったなごきにゃ……いや、あずにゃん?
あれ? ねえねえ、どっちが本当の正体なの?」
梓「いやだから、私に聞かれても」
(了)
80: 2010/09/02(木) 00:28:04.58
とりあえず、元ネタは『蝸牛』ね。
つーか何百年も前に書かれた原典の方が、こんなもの↑よりずっとカオス度数が高いってどうよ。
つーか何百年も前に書かれた原典の方が、こんなもの↑よりずっとカオス度数が高いってどうよ。
引用元: 狂言『軽音』
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