1: 2014/06/12(木) 00:05:06.25
そう言って律はゆっくりと立ち上がった。

「やめろ! 律!」

澪が慌てて後ろから押さえつけた。
それに紬も加わる。

「離せよ!」

律は拘束を解こうともがく。
その顔は怒りに歪んでいた。

「あの、私。変なこと言ったかな」

唯がおずおずと口を開いた。

2: 2014/06/12(木) 00:06:22.93
「変なこと言ったかな、だ?」

律が鬼の形相で唯の言葉を繰り返した。

「お前は自分の言葉に、責任も持てないのか!」

両腕の拘束は解けそうもないので、目の前の机を蹴りあげる。
があん!と大きな音がした。
「ひっ」と唯が小さな悲鳴を漏らした。

「律!」「律ちゃん!」

澪と紬がそれを制す。

「少し落ち着けって!
 平沢さんだって悪気があったわけじゃないだろ!」
「そうよ! だからやめて!」

律はギリギリと涙目の唯を睨み付けていたが、
「分かったよ」と体の力を抜いたので、
澪と紬の二人は安心して手を離した。

唯はボロボロと涙を流しながら、
しきりに「ごめんなさい」と謝っていた。

5: 2014/06/12(木) 00:07:34.44
「頼むから、今日のところは帰ってくれないかな」

律が窓の外を見ながら言った。
唯が一言「ごめんなさい」と謝ると、
そちらを一瞥して「ちっ」と舌打ちをした。

「ひっ! ご、ごめんなさい!
 お邪魔しました!」

うわずった声でそう言うと、
唯は荷物を掴み、パタパタと駆けていった。
澪と紬は黙ってその背中を見送ることしかできない。
律の後ろでバタン、と扉の閉まる音が聞こえた。

「ちっ、なんなんだよ。あいつは」

律の怒りはまだおさまっていないようだ。

「律」「律ちゃん」

二人はかける言葉も見つからず、
ただただ心配そうに律のことを見つめていた。

8: 2014/06/12(木) 00:09:05.50
翌日。
登校中に紬は唯の姿を認めた。

「おはよう、平沢さん」

肩を叩き、後ろから声をかける。
唯は「ひぃ!」と悲鳴を上げると、そのまま固まってしまった。
棒立ちのまま、ゆっくりとした動作で後ろを振り返る。

「あ、あのあの。えっとぉ」

紬の姿を視認しても、何の言葉も出ないようだった。
カタカタと震え、目には涙が浮かんでいる。

「忘れちゃった? 琴吹紬です。
 平沢唯ちゃん、おはよう」

にっこりと笑いながら言った。

「あの、こ、琴吹さん。お、おはようぅぅ」

唯は挨拶を返すと、ぎこちない笑顔を作った。

9: 2014/06/12(木) 00:11:14.83
「ムギでいいわよ」

紬は変わらず笑顔のまま言った。

「あの、ム、ムギちゃん。じゃあ、私も、唯ちゃんで、いいよ」

「うふふ」とムギが笑う。
「唯ちゃんでいいのね。じゃあそう呼ぶわ、唯ちゃん」

「あはは、自分で唯ちゃんって言っちゃった」

唯もつられて笑った。
緊張もだいぶ解けてきたようだ。
並んで歩きだすと、紬は少し申し訳なさそうな顔を作った。

「昨日はごめんなさいね。律ちゃんも悪い人じゃないと思うんだけど、
 好きなことに対してはすごく一生懸命な人だから」 

まだ出会って数日だが、律の人間的な魅力は理解しているつもりだ。
昨日が初対面であった唯にも、あまり悪い印象は持たれたくない。
紬にはそういった思いもあった。

「あー、昨日のこと」

唯は顔ごと上を向いて立ち止った。

11: 2014/06/12(木) 00:12:29.11
「どうしたの? 唯ちゃん」

数歩進んで後ろを振り返った紬が問いかける。
唯はその声で視線を戻すと、また歩き始めた。

「家に帰ってからもずっと考えてたんだけど、
 なんで怒られたのか今も分かってなくて」

唯は「えへへ」と困ったような笑みを浮かべて言った。
横に並んで歩きながら、紬は考える。
「んー」としばらく思案していたが、
うまい表現は浮かばなかった。

「唯ちゃん。唯ちゃんの好きなものって何?」

紬は例え話に持っていくことにした。

「好きなもの?」

唯がきょとんとした顔をする。
「うーん」としばらく唸った後に、言葉を続けた。

「アイスと、憂の作ったハンバーグかなぁ。
 憂っていうのは妹のことね。すっごくかわいいんだよぉ」

言って、うっとりとした顔を浮かべた。

13: 2014/06/12(木) 00:14:22.24
「じゃあ例えばなんだけど、
 憂ちゃんのハンバーグが、人に馬鹿にされたらどう思う?」

紬が言うと、唯は真剣な顔になった。

「憂のハンバーグを馬鹿にする人はいないと思うよ」

紬の目をまっすぐに見据えて言った。

「ごめんなさい。だから例えばの話よ」

両手を振って自らの発言をフォローする。
唯はぷいっと前を向いて歩いて行ってしまう。

「そんな”例えば”はないよ」

先程よりも歩くペースが速い。
怒らせてしまったのだろうか。
紬は後悔の色を顔に浮かべて、その後ろ姿を見送った。

15: 2014/06/12(木) 00:15:56.96
「平沢さん!」

唯は校門をくぐったところで、前を歩いていた人から声をかけられた。

「昨日はごめんな」

その人は謝ったけど、顔に全然見覚えが無い。
誰だっけ、この人。

「昨日ってなんだっけ?」

唯は言った。

「え」とその人は絶句する。
「あれ、昨日けいおん部に来てくれた平沢さんだよね?
 私、秋山だよ。秋山澪」

澪は自分のことを指さしながら言った。

「ああ、秋山さん」

唯はそう言ったきり、黙り込んでしまう。
二人はしばらく見つめ合った。

18: 2014/06/12(木) 00:17:49.98
「え、えーと。あの。昨日はごめんな」

澪は唯の反応が欲しくてもう一度謝った。

「うん、いいよぉ」

唯はにっこりと笑う。

「それじゃあね、秋山さん」

踵を返して下駄箱の方へ歩いて行った。

「あ、ああ。じゃあな」

澪は去っていく唯の背中を見つめた。
向こうからもごめんなさいとか、あってもいいんじゃないかな。
トラブル起こしたわけだし。
釈然としない思いを胸に抱えたまま、澪も下駄箱に向かって歩き出した。

20: 2014/06/12(木) 00:19:16.27
「どうしても、あと一人が見つからないなぁ」

律は座った椅子を後ろに傾けて、前後に揺らしながら言う。

「そうだな」

困ったような表情を浮かべた澪もそれに同調した。
紬は何か思案しているようで、
眉根を寄せてしきりに首をひねっている。

「ムギ、どうしたんだ」

律が問いかける。

「あのね」紬はようやく口を開いたが、
なかなか言葉が出てこないようだった。

律と澪は無言のまま続きを待った。
意を決したように、紬が顔を上げる。

「やっぱり、昨日の平沢さんを入れるべきだと思うのよ。
 残り1週間で他の部員を探すのは、いささか無謀だわ」

紬はそう言ったが、その表情は明るいものではなかった。

24: 2014/06/12(木) 00:21:52.61
「私は反対だね」

律がきっぱりと言う。

「わ、私も」

澪もやや控えめに紬の案を否定した。

「そう、よね」

紬の言葉には”仕方ないか”というニュアンスが込められていた。
3人は一様に俯いた。
外からは運動部の上げる声や鳥のさえずり、
工事現場の音などが響いてくる。
それらをBGMにして、時間は無為に過ぎていった。
そろそろ帰ろうか。
誰かがそう口を開きかけた。
そのとき。
ガリャリ。
部室のドアが音を奏でた。
新入部員か。
期待に胸を膨らませ、3人は一斉にドアの方へ向き直る。

「たのもー!」

意に反して、入ってきたのは唯であった。

26: 2014/06/12(木) 00:23:37.70
「何の用だよ」

律がぶすっとした顔で言った。
唯は部室をキョロキョロと見回すと、
紬と澪に笑顔で手を振った。

「ムギちゃん、秋山さん。やっほー」

二人は苦笑いであいさつを返した。

「何の用だって聞いてるんだけど」

律は明らかに苛立っていた。
唯を睨み付けると、昨日のことを思い出し、舌打ちをした。
よくぬけぬけと来れたもんだ。

「あれ、まだ怒ってるの」

唯がきょとんとした顔で言った。

「な」律は絶句する。
唯が何を言っているのかわからず、
ただただ呆然としていた。

27: 2014/06/12(木) 00:25:24.77
「最初の言葉が謝罪なら、許してやっても良かったけどな」

律が立ち上がった。

「律!」

澪が止めようとしてきたのを察知して、
律はそれを手で制し、首を振った。

「別に暴れたりしねーよ。
 ちょっとこいつが分からないだけだ」

後ろにいる唯を親指で示しながら言った。

「あのなぁ、謝りに来たんなら分かるんだけどさ。
 今日はいったい何しに来たんだよ」

律はため息をついた。
唯が首を傾げる。

「昨日謝ったじゃん。
 私はあなたが謝るの聞いてないけどなぁ」

唯は不思議なものを見るような顔をしていた。

29: 2014/06/12(木) 00:27:15.09
「謝る、だと?」

律は激昂した。

「私がか!?」

唯に掴みかかる。

「何するの!? 離して!!」

唯も抵抗するが、すぐに床に組み伏せられた。

「痛い! 痛いよ!」

律の下でもがく。

「なんで私が謝らなくちゃいけないんだ!!!」

そう言って律は自分の顔の横で拳を握った。
まずい。
呆然と成り行きを見ていた澪と紬は、弾かれたように席を立った。

「律!」「やめなさい!」

二人がかりで引きはがす。

「ふざけんな! 一発ぶん殴ってやる!」

律は二人に両脇を抱えられながらも暴れていた。

32: 2014/06/12(木) 00:29:30.05
唯がゆっくりと立ち上がった。

「おい、お前! ぶん殴ってやるからこいよ!」

律が叫ぶ。

「やめろって!」「律ちゃん!」

相当な怒りなのが分かる。
二人でようやく抑え込めるほどのすごい力だった。
唯がそこへ近づいてくる。
目の前まで来ると、律に平手打ちをはなった。
バチン!と乾いた音が響くとともに、律の顔が右を向いた。

「さっきの、痛かったよ」

唯は律を睨み付けていた。
澪と紬は唖然とした。

「何、してんだよ」

両脇を抱えられたままの律が、
ゆっくりと正面へ向き直ると、
バチン!とまた乾いた音が響いた。

37: 2014/06/12(木) 00:32:52.20
「ビンタだけど」

唯は睨み付けながら言う。
律の顔はまた右を向いていた。

「澪、ムギ。手を放せ」

律は右を向いたまま、静かに言った。
やや躊躇したが、二人は無言のまま手を放した。
拘束から解放されると、
ジンジンと痛む左頬にやおら手を当てた。

「ふざけんなよ、お前ぇぇぇえええ!!!!!」

律は自由になった体で、唯に突進した。
体当たりをして床に叩きつける。

「うぇ!」

唯の口から声が漏れた。
その上に馬乗りになる。

「お前、頃してやるよ」

真っ赤になった左頬をさすりながら、
律が震える声でそう言った。

41: 2014/06/12(木) 00:35:27.22
右の拳を唯の顔面に向けて振り下ろした。

「ひっ!」唯は悲鳴を上げて、反射的に顔を逸らす。
ガチン。と固い物同士がぶつかる音がした。

「痛っ!」顔を歪めたのは律だった。
唯が避けたせいで、板張りの床を殴ってしまったのだ。
苦悶の表情を浮かべたまま左手で右の手首を掴むと、
額のあたりまで持ち上げて、必氏に痛みに耐えていた。
皮膚が裂けて血がにじんでいる。

「いぎゃああああああああ!!!!!!!!!」

突然律が体を仰け反らせて絶叫を上げた。

「律!」異常を感じた澪が慌てて駆け寄ると、
唯が律の左の太ももに噛みついていた。
両腕で足を抱え上げ、
血走った目で白い肌に歯を食いこませている。

「お前! やめろ!」

澪が引きはがした時には、
律の太ももの肉が歯型状にめくれ上がっていた。

47: 2014/06/12(木) 00:37:27.05
「うあああああ……」

仰向けに倒れた律が、
両手で目のあたりから頭を抱え込むようにして呻いている。

「大丈夫か! 律!」

澪が声をかけるがただ呻くばかりで反応はない。

「とにかく、止血しないと!」

紬が慌てて救急箱を取りにいった。

「うわぁ。ぺっぺっ」

ようやく立ち上がった唯は、口のまわりが血塗れだった。
ポケットから取り出したティッシュで口を拭い始める。

「お前、何考えてるんだよ」

澪は呆然としながらも、唯を睨み付けた。

51: 2014/06/12(木) 00:40:48.27
「だって、その人が殴りかかってきたんでしょ。
 正当防衛だよ。せーとーぼーえー」

そう言ってまた唾を吐いた。

「口の中が気持ち悪いよぉ」

眉根を歪ませると、うぇーと舌を出す。
「お前!」我慢しきれずに澪が掴みかかった。

「いだっ!」

澪の体が深く沈みこむ。
唯が澪の髪の毛を両手でつかみ、全体重をかけたためだ。

「痛い痛い痛い痛い!!!!」

澪が悲鳴を上げながら体を上下させる。
唯は両手をブンブンと滅茶苦茶に振り回していた。

「やめてぇぇええええ!!!」

まるで踊っているかのように見える澪が、悲痛の叫びを上げる。
唯には耳などついていないのか、一向にやめる気配はない。
自分の頭の中からブチブチと音がするのを、澪は延々と聞かされ続けた。

55: 2014/06/12(木) 00:42:38.87
部室にガシャン、という音が響いた。
紬が救急箱を落とした音だ。

「唯ちゃん、何してるの」

紬は口元を押さえ、ガタガタと震えている。
目の前にはひどい惨状が広がっていた。
床に座り込んだ澪の髪の毛を、
唯が両手でつかんで引っ張り上げている。

「あ、ムギちゃん。もうちょっとで終わるから待っててね」

唯は笑顔でそう言うと、澪の顔面に自身の膝をめり込ませた。
もう意識が無いのか何の反応もない。
その横に倒れている律も血塗れだった。

「やめて! 唯ちゃん!」

紬ははぁはぁと肩で息をする。
唯がパッと手を放すと、澪がその場に崩れ落ちた。

「なんで? ムギちゃん」

満面の笑みを浮かべて、紬の方へ向き直った。

60: 2014/06/12(木) 00:44:01.66
「なんで、って」

紬はその答えを持ち合わせていなかった。
目の前にいる怪物を説得する術を。

「なんでもよ! なんでもいいからやめて!」

声の限りに叫ぶ。
なんとかして言葉を心に届かせないと。
紬は必氏だった。

「ムギちゃんは面白いこと言うなぁ」

唯はおなかを抱えて笑った。

「最初に仕掛けてきたのはこの人たちなんだよ?
 私は何も悪くないのに」

そう言うとまた、おなかを抱えた。

64: 2014/06/12(木) 00:45:15.70
「だからって、ここまですることないじゃない!」

紬は足元の救急箱の中身をかき集めると、律に駆け寄った。
とりあえず止血しないと。
太ももの出血がとにかくひどかった。
スカートのお尻の部分は血でぐっしょりと濡れていた。

「あー、私も指切っちゃったからお願いしてもいい?」

唯が横から手を出してくる。

「何を」言っているの。
紬はそう言いかけたが、小さく悲鳴を上げた。

見ると両手の指がズタズタになっていて、
激しく出血していた。
親指の付け根は肉がえぐれて骨が見えそうになっている。

「秋山さんにやられたんだよ、これ」

唯はそう言って困ったような笑みを浮かべた。

「髪の毛引っ張ってたらこんなんなっちゃったんだ。
 ひどいよね、秋山さん」

71: 2014/06/12(木) 00:47:30.07
紬は恐怖を感じた。
体中がガタガタと震えて立ち上がることすらできない。
自分の体を抱きしめるようにして、
ただただ震えていた。

「ねぇ、早く手当てしてよぉ」

唯が催促するが、
紬は首を振るばかりで体を動かすことができない。

「なんで、いじわるするの?」

唯の顔からスッと表情が消えた。

76: 2014/06/12(木) 00:48:24.98
「昔っからそうだよね。
 みんな私のいじわるばっかり!」

足元に転がっていた椅子を拾い上げると、
澪に叩きつけた。
体がぐにゃんと跳ねる。

「なんで! なんでいじわるばっかするの!」

次は律に振り下ろした。
澪と違って意識があるのか、呻き声が漏れる。

「なんでなのぉ!!!」

唯はゼェゼェと肩で息をしていた。
しばらくして呼吸が落ち着くと、紬の方へ向き直る。

「ねぇ、なんで?」

79: 2014/06/12(木) 00:49:33.60
「ごめんなさい。私にはどうすることもできなくて」

紬は病室のベッドに寝ている律に言った。
俯いたまま、目には涙をためている。
律は笑って、その謝罪を受けた。

「別にムギのせいじゃないよ。
 お前が先生たちを呼んできてくれたおかげで、
 私たち助かったんだし。なぁ?」

横で寝ている澪に同意を求めた。

「ああ。ムギのおかげで助かったよ」

澪はそう言ったが、悲しげな笑みを浮かべていた。
「そう」紬はさらに深く俯いた。

「まぁ、ムギにケガが無くて良かったよ」

律は包帯の巻かれた左の太ももを叩いて言った。
包帯が巻かれた先には、何もついていなかった。

85: 2014/06/12(木) 00:51:16.16
「ねぇ、なんで?」

唯が近づいてくる。

「こ、来ないでよ」

紬は後ずさった。

「なんで?」

唯が近づいてくる。

「いや」

紬は後ずさった。

「どうして?」

唯が近づいてくる。

「いやあああああ!!!!!」

紬は叫ぶと部室のドアに向かって駆け出した。

「なんでかな」

唯はそう呟くと、床に転がっている椅子を拾った。

89: 2014/06/12(木) 00:52:59.67
紬が数人の先生を引き連れて部室に戻ったとき、
もうそこは地獄絵図だった。

全身滅多打ちにされた二人が、
血塗れで倒れている。

澪はひどく髪の毛を引っ張られたせいだろうか。
頭皮が剥がれ、めくれ上がっていた。

律は頭をかばってそうなったのか、
両腕がおかしな方向に曲がっていた。
そして左の太ももに。
椅子の足が突き刺さっている。

二人とも氏んでいるかのように見えた。

その横で。
血塗れの唯が自分の指に絆創膏を貼っていた。
しかし貼るそばから剥がれていくのか、
床に血塗れの絆創膏が十数枚も散らばっている。
ふと顔を上げ紬を認めると、笑顔を浮かべた。

「あ、ムギちゃん。
 私不器用でうまく貼れないから、ムギちゃん貼ってくれる?」

92: 2014/06/12(木) 00:54:34.18
頭と足がムズムズしてきた

93: 2014/06/12(木) 00:54:55.54
「平沢さんね。中学に入学した頃から、
 ひどいいじめにあっていたそうなのよ」

山中先生が悲しげな顔でそう言った。

「それでちょっと体調を崩していたみたいで、
 高校入学と同時にようやく外に出れるようになったみたい。
 今はまた、同じ病院に入院しているそうよ」

「そう、なんですか」

紬は神妙に話に聞き入っていた。
思い出すと、恐怖でまた体が震えだした。
山中先生が紬を優しく抱きしめる。

「琴吹さん。もう大丈夫だから。ね?」

紬の目に涙が溢れた。

「はい。ありがとうございます」

まだ震えはおさまらなかった。

95: 2014/06/12(木) 00:56:59.33
「いつもサンキューな、ムギ」
「ありがとな」

紬が二人の病室にノートやプリント類を届けると、
律と澪はお礼を言った。

「ううん。もっと他に手伝えることがあったら言ってね」

にっこりと笑顔を作る。

「来年は、新入部員入るといいな」

律が言った。

「そうだな。もう廃部になっちゃったけど」

澪も続ける。

「かわいい新入生が入ったら、
 新しく部を作りましょうよ」

紬が笑顔で手を叩いた。

「けいおん部って、名前は変えようか」

律が言うと、病室は静寂に包まれた。

97: 2014/06/12(木) 00:58:49.36
「ま、まぁ、部の名前は新入生が入ってからでいいじゃないの」

紬が慌ててフォローする。

「私達だって、まだ入学したばかりなのよ?」

「そうだな」言って律は笑った。

「入学したと思ったら、また春休みに逆戻りなんてな」

澪が窓の外を見ながら言う。

「なぁ? せっかくの女子高生ライフだってのに、
 休みの日にゴロゴロしてるだけなんていけねーぜ」

律は不満そうな顔をして、同じく窓の外を見た。
紬もつられて窓の外を見る。
もう完全に散ってしまった桜が、
緑の葉をたたえて風に揺れていた。

終わり

98: 2014/06/12(木) 00:59:52.06
ってなんで俺くんが

100: 2014/06/12(木) 01:01:18.54
自分吐いていいですか

102: 2014/06/12(木) 01:01:56.69

同じ病院だったから最後にまた襲われるかと思った

105: 2014/06/12(木) 01:03:03.68
って何で俺くんが

120: 2014/06/12(木) 01:36:48.99
軽音楽が軽く無かったら重音楽だろwwwwww

引用元: 律「お前今なんて言った?軽い音楽だ?」