1: 2010/05/23(日) 08:13:02.99
【PM5:02】

「よし、ウ……」

「あ、澪~。今日ご飯あげた?」

「え?今週は唯が当ば……」

「ウノチェーーック!!んで私はこれであがりーっと。ほら早くカード引けよ澪」

「んなっ…!ず、ずるいぞ律!」

「あっ、私ウノあがり~」

「私もこれであがりです」

「ほほーう?て事は罰ゲームは澪とムギか~!」

「澪ちゃん、よろしくね」

「や、やり直し!もっかいやり直そうよぉ~…」

3: 2010/05/23(日) 08:19:58.69
【PM6:50 平沢唯】

唯「あ、できた」

弾けるようになる時って、なんでかわからないけど、突然、それでいて一瞬なんだよね。
やるじゃん私。

唯「おぉー!なんかいい感じだぁ!」

すごいすごい!私の指、動きまくり! ちょーっと頑張りすぎたせいか、指が痛むけど、気にしない気にしない。
さっそくあずにゃんに報告しないと!

唯「ケータイケータイっと」

ケータイの電話帳の一番上には澪ちゃんの名前。
あずにゃんは一番下。
澪ちゃんの名前を見た私の頭によぎるのは、今日の部活中の出来事。

あ~……そういえば今日、澪ちゃんとムギちゃん、楽しそうだったなぁ。

唯「ふふふ~……」

……あれ? 私、今日お菓子食べ損ねてるじゃん。
そっか。だから私は今、こんなにお腹が空いてるんだ。
ご飯まではもう少しかかりそうだし……あ、買い置きのお菓子の中にポッキーなかったっけ。
……ていうか!

唯「私もあれやりたいなぁ」

5: 2010/05/23(日) 08:26:33.46
【PM6:52  平沢憂】

こんばんは。平沢憂です。
今日も晩御飯の支度をしています。

冷蔵庫を開けると、思いの外ガラガラでした。

食材あんまりないなぁ。昨日頑張って作りすぎたかも。
とりあえず鯛のポワレと……昨日の残りものと……エノキとお豆腐があるからお味噌汁はこれで……。

憂「うん!いけるかな」

今夜のお姉ちゃんのお夕飯が決まりました。
今日は梓ちゃんが家に来るって約束だから、3人分です。

私はカチカチに凍った鯛の切り身をキッチンの端に置き、まな板の上に豆腐を乗せて、腕をまくり、包丁を手にとりました。

明日買い出しに行かないと。 えっと、明日は……○丁目のスーパーのお肉が安くなるから、そこにしよう。

唯「ういー!」

私が豆腐に包丁を入れようとした瞬間、お姉ちゃんがドアを勢いよく開けて入ってきました。

6: 2010/05/23(日) 08:29:06.64
憂「どうしたの?」

唯「ご飯まだー?」

憂「今から作るから、あと30分くらいしたら出来るよ。それまでちょっと待っててね」

私がそう言うと、お姉ちゃんは台所の棚を物色し始めました。

憂「なに探してるの?」

唯「んー……ポッキーってなかったっけ?」

ポッキー……?あったようななかったような。

憂「もう~、お姉ちゃん、もうすぐご飯だからお菓子は我慢して?」

お姉ちゃんは首を横に振りながら答えました。

唯「そうじゃなくて、ゲームだよゲーム」

憂「ゲーム?」

お姉ちゃんは時々変な事を言います。
もう17年も私はお姉ちゃんの妹をやってるから、ちょっとやそっとじゃ驚きません。
でもこの時ばかりは、私は素っ頓狂な声をあげてしまいました。

唯「ポッキーゲームしようよ憂」

憂「ご飯食べてか…………へぇっ?!」

7: 2010/05/23(日) 08:32:44.08
【PM6:52  真鍋 和】

和「あっ……お肉は明日○丁目のスーパーで買ったほうがお得ね……」

近所の大型スーパーで夕飯の食材を選んでいた私は、豚肉のパックをカートから置き場に戻した。

和(そうだ、せっかくだしお菓子も買っていこうかしら)

今日はいつもより宿題の量が多い。
お夜食に何かないと、さすがの私も集中力を切らしてしまうかもしれない。

和「えーと……イチゴイチゴ……っと」

昔から我が家のお菓子は、大抵唯の胃に入ってしまう。
そのせいか、無意識の内に私は唯の好みに合わせたお菓子選びをしていた。

和「あら?これ最後の一個かしら」

8: 2010/05/23(日) 08:35:37.21
陳列されたお菓子群の中でも、これは特に人気なのだろう。
横に置かれたスタンダードなチョコ味は大量に残っているのに、イチゴ味のそれはもう一個しかない。

人気に煽られて物を買うのはちょっと嫌だ。
でも、私から見てもこのお菓子はおいしそうだ。

ていうか私もこれは好きだ。

そう言えば、久しくこれを口にしていない。

うん。買おう。買うしかない。

和「イチゴ味のポッキーか……。久しぶりに見た気がする」

私はそのポッキーを手にとり、カートの中へポンと入れた。

唯に食べられる前に、これは私が食べないと。

レジに並びながら、珍しくお菓子に執着する自分に気づき、それを恥じた。

……やっぱり唯が遊びに来た時のために、これはとっておこう。ああ、でもそれだと勉強中に口が寂しくなる。
どうしたものかな……。

9: 2010/05/23(日) 08:38:03.27
【PM6:53  平沢唯】

なんでこんなに憂は驚いてるんだろう?

唯「だからポッキー探してるんだけどさぁ、ないかな~?」

憂「あ……お、お姉ちゃん、ポッ……ポッキーゲーム?」

唯「うん」

憂「わ……私と?」

唯「うん!」

あれはきっとスリル満点の、ドッキドキなゲームだよ。

唯「私だけ今日ポッキーゲームできなかったんだよ~。だからやろうよ憂」

11: 2010/05/23(日) 08:42:02.87
【PM6:53 秋山澪】

部屋で宿題をしようとノートを開いた私の頭に、またしてもあの光景が湯気の様にモヤモヤと浮かんできた。

律のしたり顔が私を苛立たせる。

もしババ抜きだったら、律が私のカードを引く癖を見抜いてしまうから勝負にならない。
だからウノにしてもらったけど……結局律の思う壺だったな……。

で、ドベ二人、私とムギの罰ゲームはポッキーゲーム。
そして私とムギがポッキーの両端をくわえて、食べ始めた瞬間、律は「どーん!」とかなんとか言って私の背中を押した。

そして私は勢い余ってムギとキ、キ……

澪「うわーっ!恥ずかしい恥ずかしい!」

私は頭の上あたりにふわふわ浮かんだ記憶をかき消そうと、両手をぶんぶんさせた。

13: 2010/05/23(日) 08:45:48.36
別にムギが嫌なんじゃなくて、というかムギの事は普通に好きだし、ああそれはもちろん友達としてで、とにかくそうじゃなくて、私はみんなの前でキ、キス……をした事が恥ずかしくて氏にそうだった。
というか氏にたい。

澪「うぅ……最悪だ……。もうお嫁にいけない……」

あの時、追い討ちをかけるように律は私とムギを冷やかした。
なにがヒューヒューだ。
古いんだよバカ律アホ律デコ律!

唯は目をキラキラさせながら私とムギを見て、
「ねえねえどうだった!?どんな感じなの!?」
としつこく聞いてきた。知るか!
あぁ、いや知ってるけど!そりゃ柔らかかったけどさ!

梓は私の視界の端で顔を赤くしながらもじもじしていた。
何も言わないというのも、それはそれで羞恥心を煽る。

ムギは照れくさそうに、ただ、うふふと笑っていた。
ぐっ……頬を赤らめるな!余計恥ずかしくなるだろ!

14: 2010/05/23(日) 08:48:19.63
で、私は感情飽和の容量オーバーでエンジン爆発、顔面火山で涙目になりながら、口に残ったポッキーを伏し目でモグモグするだけだった。

穴があったら入りたい。
自分で掘ってでも入りたい。
そしてモグラみたいにずっとその中で生きてやる。

澪「っあーーーっ!ダメだ!宿題なんてできない!」

私は立ち上がり、ジャージに着替え、財布とケータイ、それからiPodをひっつかんで部屋を出た。

澪母「あら?澪ちゃんどこ行くの?」

私が玄関でスニーカーを履いていると、ママが尋ねてきた。

澪「ちょっとランニングしてくる」

邪念を吹き飛ばすにはそれが一番だ。
ついでにダイエットにもなるし。

澪母「もう外暗いから気をつけてね」

ムギの唇の感触と、律のニヤケ面と、唯のキラキラ目と、梓の赤面と、私の恥と脂肪を消し去るべく、私は街灯の灯る住宅街を走り始めた。

16: 2010/05/23(日) 08:51:08.94
【PM6:54 平沢憂】

こんばんは。平沢憂です。

高校生ってなんだかすごい。
私も高校生だけど。

唯「ね、面白いと思うんだ~」

無垢。無邪気な笑顔。
お姉ちゃん可愛い。

ポッキーゲーム……?
ポッキーゲーム!?
お姉ちゃんと私が!?
どうしよう、嬉しい、恥ずかしい、嬉しい嬉しい、あぁ、もうなにがなんだか。

憂「う……うん。いいよ。やろう……私頑張る!」

OKしちゃった。
ポッキーゲーム。
お姉ちゃんとポッキーゲーム!
ご飯なんて作ってる場合じゃない。ていうか無理。今包丁なんて使ったら、手が震えて指がスパッていっちゃいそう。

唯「さっすが憂!……で、ポッキーってあるの?」

17: 2010/05/23(日) 08:53:07.52
憂「えっと……たしかあそこの棚に……あっ!」

そうだ、思い出した。私はお姉ちゃんが修学旅行に行ってる間、棚に買い置きしておいたポッキーを食べちゃっていたんだった……。
お姉ちゃんのバッグに入りきらなかったぶんでした。

……私の馬鹿!
なんであの時、全部食べちゃうかなぁ!
せっかくお姉ちゃんとポッ、ポッキーゲームできるのに!

憂「ご、ごめんお姉ちゃん……。私が食べちゃった……」

唯「ええ~?そっかぁ……。じゃあポッキーゲームできないね~」

そんな!まだ諦めないでお姉ちゃん!

憂「私、今から買ってくるよ!」

19: 2010/05/23(日) 08:56:02.26
【PM6:55  平沢唯】

唯「えっ?今から?」

憂「うん!すぐ買ってくるからちょっと待っててね!あ、お姉ちゃんも一緒に行く?行こう!」

いつになく真に迫った憂の顔。

唯「あぅ……しゅ、しゅくだい!宿題があるからお留守番してる!」

あ……とっさに断っちゃった……。

憂「わかった!じゃあ行ってくるね!」

言い出しっぺの私が言うのもどうかと思うけど……張り切ってるなぁ。
憂ですらこんな感じになっちゃうって事は、やっぱりポッキーゲームって楽しいんだ!

あ、そうだ。せっかくなら澪ちゃん達と同じのにしてもらおう。

唯「うい~、イチゴ味でお願い」

憂「イチゴ味だね。わかった!」

20: 2010/05/23(日) 08:59:33.51
【PM6:57  中野梓】

今日もロクに練習できなかった。
なんで私はこう……押しに弱いのかな……。

もうすぐ試験だから部活できなくなるし、今の内にちゃんと練習しておきたいんだけどな。
唯先輩なんてテスト終わる頃には全部忘れてそうだし。

梓「はぁ……。」

あ……もうすぐ憂との約束の時間だ。
私が宿題教えて!って頼んだのに、遅れたら悪いよね。
お夕飯もごちそうしてくれるって言ってたし。
そろそろ準備しないと。

ぶるっ。

梓「う……ん……。」

……と、その前にちょっとお手洗い……。

22: 2010/05/23(日) 09:02:53.55
【PM7:00  田井中律】

我ながら素晴らしい作戦だった。

ムギとチューしちゃった時の澪の顔を思い出しただけでも……

律「ぶふっ……!」

ダメだ。笑える。
マジで笑える。

写真に撮っておけばよかったぜ。

……とはいえ、私もうら若い乙女。目の前でキスシーンを見せられたとあってはさすがに多少の動揺もするわけで。

律「あー、もったいなかったなー。写真撮れれば澪をからかうには最高のネタになったのに」

よし、とりあえず澪にメールして追い討ちをかけてやろう。

律「えーっと……『ムギとの結婚式の仲人は私に任せろ♪』っと。メールそーぅしん!ポチッと」

ふっふっふ。

23: 2010/05/23(日) 09:06:31.76
【PM7:04 秋山澪】

澪「はっ、はっ、はっ……。ん?なんだ?メール?」

夜の街を駆ける私のポケットの中で、ケータイが振動した。

澪「律から?なんだ?……ムギとの結……」

……。

澪「うわあああああああ!うるさいうるさいうるさーいっ!!」

憎い!
ポッキーゲームが憎い!

澪「ふざけんなバカ律!」

私は声に出した事をそのまま律に送信してやった。

よし、走ろう。
吹き飛べ邪念。消え去れ懊悩。

24: 2010/05/23(日) 09:09:37.59
【PM7:09 琴吹紬】

教科書を開いても、なかなか宿題がはかどりません。

紬「はぁ……ドキドキして落ち着かない……」

あ、私がドキドキしてるのは、澪ちゃんとキスしちゃったからじゃないですよ?
もちろんあれもドキドキだったけど、それ以上にみんながポッキーゲームであわや……?!な所を見れたのが、私の心臓をとくとくと鳴らしているんです。

紬「楽しかったなぁ……うふふ……」

明日もあれやりたい……。
唯ちゃんは今回、ウノでずっと勝ってたからポッキーゲームするところを見れなかったし。

……でも澪ちゃんはちょっと可哀想だったかも……。

紬「うーん……」

私は携帯を開き、澪ちゃんに電話する事にしました。

25: 2010/05/23(日) 09:11:58.62
【PM7:10 秋山澪】

澪「はぁ、はぁ、はぁ……またケータイが……。」

どうせまた律だ。

無視無視!

ていうか何で私こんな事してるんだ?
夜中にジャージ着て走るなんて全然可愛くない……。

短距離走は得意だけど、長距離は苦手だし。

澪「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」

そうだ。

ポッキーゲームのせいだ。

ポッキーゲームさえなければ!
ポッキーさえなければ!
私は今頃!宿題をして!それからゆっくり詩を書けたんだ!

澪「……ポッキーなんて……ポッキーなんて……!」

ポッキーなんてこの世界から消してやる!

26: 2010/05/23(日) 09:15:30.18
【PM7:14 真鍋和】

唯には悪いけど、やっぱりこのイチゴポッキーは私が食べよう。
最近、甘いもの食べてなかったし、糖分は頭脳労働に良いって聞いた事があるし。

とりあえず早く帰ってご飯作らないと。

私は足早に弟達が待つ家に向かった。

ちょうど、最後の曲がり角に差し掛かったあたりで、私のよく知っている子が、エプロン姿でこちらに向かって走ってくるのが見えた。

和「……あら?あれは……」

27: 2010/05/23(日) 09:18:31.71
【PM7:15 平沢憂】

こんばんは。平沢憂です。
私は今、脇目も振らず、スーパーへと駆けています。
元々足は速いほうだけど、今日はいつになく視界を流れる景色が早く見えます。

ポッキー、早くポッキー買ってこないと!

憂「えへへ……」

……いつ以来かなぁ……。
確か幼稚園くらいの頃のクリスマスにお姉ちゃんが私のほっぺにチューしてくれたのが最後だったはず。

憂「はぁ、はぁ……!」

念のため言っておきますが、私が息を切らしてるのは単に走ってるからです。

憂「お姉ちゃんとチューできる……お姉ちゃんと……!」

間違えました。チューじゃなくてあくまでもポッキーゲームでした。

憂「ポッキーゲーム……ポッキーゲーム……!」

どうしよう、我慢しようとしても顔がほころんじゃう。

和「憂?どうしたの?そんなに急いで」

30: 2010/05/23(日) 09:22:53.41
【PM7:15 真鍋和】

私に呼び止められた憂は、立ち止まって……いや、その場で足踏みしながら返事をした。

憂「あ、和ちゃ……和さん!」

呼び方が素になるなんて、そんなに慌ててるのかしら?

和「別にさん付けじゃなくてもいいわよ。どうしたの?急いでるみたいだけど」

急いでる人を呼び止める私もどうかと思うけど。

憂「イチゴのポッキー買いに行くところなんです!それじゃあまた!」

和「えっ?ポッ……?あ、ちょっと憂?」

……行っちゃった。引き止めちゃって悪い事したかな。

和「あんなに急いでまで欲しいのなら、このポッキーあげればよかったな」

私は右手に持った買い物袋を見ながら呟いた。

……あれ?ていうかイチゴのポッキー、これが最後の一個だったような……。

31: 2010/05/23(日) 09:27:01.15
【PM7:18 琴吹紬】

紬「あれ?また出ないわ……」

私は何度も澪ちゃんに電話しましたが、澪ちゃんは中々出ません。

紬「うーん……どうしたんだろう」

宿題中?
お食事中?
お昼寝中?
あ、今はもう夜だからお昼寝ではないか。

紬「あとでまたかけ直そう」

私は携帯電話を置くと、机に向かいました。

でもやっぱり顔が綻んで、宿題は手に着きませんでした。

33: 2010/05/23(日) 09:30:13.48
【PM7:20 平沢唯】

グウウ。

唯「あ、また鳴った」

おなかすいた。
おなかすいたよー!

唯「うい~……早く~……」

すでに私の頭からはポッキーゲームの事はきれいサッパリ消えていた。

あ、そうだ。
さっきまで憂はご飯の支度してたから、もう出来てるのがあるかも!

そう思い、台所に行った私を絶望が襲う。

唯「……まだ何も作ってないかぁ……。」

とりあえず憂が帰ってくるまで待つしかないかなぁ。

36: 2010/05/23(日) 09:36:37.64
【PM7:22 中野梓】

梓「筆箱に……教科書に……うん、準備できた」

さっきトイレに行ったのはいいものの、お母さんが先に入っていたせいで、私は用を足す事が出来なかった。
そのため、私は先に憂の家に行く準備を済ませる事にした。

そろそろ出発しようかな。

梓「と、その前にトイレトイレ……」

私は部屋を出て、トイレのドアノブを回そうとしたけど、鍵がかかってるらしくドアは開いてくれなかった。

梓「あれ?お母さんまだ入ってるの?」

ドア越しにお母さんの声が聞こえた。

梓母「うん。もう少しかかるかも」

梓「もー。早くしてよ」

お母さん、いつも長いんだよなぁ。
トイレに雑誌持ち込むのやめてほしい……。

37: 2010/05/23(日) 09:42:42.22
【PM7:24 田井中律】

いやーやっぱ澪はいいリアクションしてくれるぜ。

今頃枕でも投げて怒ってんのかな?ぷくく。

律「さて、そんじゃちょっとフォローしてやりますかね。……ごめんごめん(笑)……っと。はい、送信」

私はケータイをベッドに放り投げると、床に寝転び、天井を見上げた。

あー……ポッキーゲーム面白かったなぁ……。

明日もやるべきだよなー。
でも私、今財布の中スッカスカだしなぁ。

律「そうだ!明日ムギにポッキー持ってきてもらおう!」

私はベッドに上がり、胡座をかくと、早速ムギに電話をかけた。

38: 2010/05/23(日) 09:47:21.21
【PM7;25 琴吹紬】

あら?電話……。
澪ちゃんかな?

私は振動する携帯電話を開きました。

紬「りっちゃん?」

なんだろう。

紬「もしもしりっちゃん?」

律「おームギー!今何してたー?」

……ごめんなさい。自分の部屋で回想にふけってニヤニヤしてました。

紬「えっと……宿題!」

40: 2010/05/23(日) 09:50:22.49
律「ふーん?じゃあ邪魔しちゃったかな」

紬「そんな事ないよ!どうしたの?」

律「いやー、今日さー、ポッキーゲームしたじゃん?」

ドキッ。

律「あれ明日もやらね?」

な、なんですって……!

紬「う、うん!やりたい!やりましょう!」

律「へへ、さっすがムギ!そうこなくちゃ。つーわけだからさ、明日のお菓子は今日私が持ってきたのと同じポッキーでよろしく!」

41: 2010/05/23(日) 09:52:37.85
紬「あっ……」

どうしよう。
ケーキならいくらでも余ってるけど、ポッキーなんて貰わないし、家にない……。

でも……!

紬「明日はポッキーね。わかりましたっす!」

律「はは、気合い入ってんなぁ。んじゃそーゆー事でよろしくー。」

そう言ってりっちゃんは電話を切りました。

さて、善は急げです。

紬「早速買いに行かないと!」

42: 2010/05/23(日) 09:56:13.11
【PM7:28 平沢憂】

こんばんは。平沢憂です。
スーパーに着きました。約30分。新記録です。

いつもはバスを使ってるんですけど、今日は慌ててたので走ってきちゃいました。

憂「お菓子コーナー……お菓子コーナー……」

さっそくお菓子コーナーへ向かいます。

憂「えーっと、ポッキーポッキー……。イチゴの……。」

あれ?

憂「売り切れ……?」

44: 2010/05/23(日) 09:58:50.55
うぅ、困ったなぁ……。

お姉ちゃんのリクエストはイチゴのポッキー。
普通のポッキーならいっぱいあるのに、今日に限って売り切れ……?

憂「あのっ!すいません店員さん!」

店員「はい?」

憂「イチゴのポッキーって在庫ないんですか?」

店員「あー……棚になかったら置いてないですね」

そ、そんなぁ……。

憂「そうですか……。ありがとうございます……」

うーん……仕方ないから普通のポッキー買っていこうかなぁ。
でも、お姉ちゃんはイチゴがいいって言ってたし……普通のだとテンション下がってポッキーゲームどころじゃなくなっちゃうかも……。

……よし、他のお店も探してみよう!

憂「待っててねお姉ちゃん!」

45: 2010/05/23(日) 10:02:46.15
【PM7:34 平沢唯】

だれだー!ポッキーゲームしたいなんて言ったのは!

唯「お腹すいたっ!」

もう限界!何か食べないと氏んじゃう!

唯「よし、作ろう。もう自分でご飯作っちゃおう」

私は冷蔵庫を開けた。

唯「……と言っても何作ればいいかわかんないよー……」

うい~……遅いよ~……。
ちょっと憂に電話してみよう。

唯「ピポパ……っと。」

ブブブブブブ。

唯「……」

居間のテーブルの上から、ケータイのバイブ音。

唯「もー!なんでケータイ忘れていっちゃうの~?!」

47: 2010/05/23(日) 10:05:38.29
【PM7:39 秋山澪】

澪「はぁ……はぁ……。よし……」

まずはこのコンビニだ。
ここにあるポッキーは私が買い占めてやる。
そうすれば、ポッキーゲームなんてふざけた遊びをする奴は減るはずだ。

店員「いらっしゃいませー」

私は脇目も振らず、お菓子の棚へ直行した。

澪「……けっこう種類あるんだな……」

ポッキー、メンズポッキー、極細ポッキー、アーモンド、クランチ……。
さすがにこれ全部を買い占めるのは……。

澪「仕方ない、つぶつぶイチゴだけにしておこう」

私はイチゴポッキーの箱を両手に抱え、レジへと持って行った。

48: 2010/05/23(日) 10:09:02.29
店員「ありがとうございましたー」

コンビニを出ると、夜風が心地良かった。

今の私、なかなかロック。
iPodのイヤホンからはベルベットアンダーグラウンドのサンデーモーニングが流れている。

もっともっと店を回って、ポッキーを日本の市場から消さないと。
それにはもっとテンションを上げる必要がある。
私はポケットのiPodを取り出すと、クイーンオブザストーンエイジの曲を選んだ。

「feel good of the summer」
ニコチン ヴァリウム ヴィコダイン マリファナ エクスタシー アルコール……。

あれ?これ私のときめきシュガーに似てない?

私は気を良くして、次の店に向かって走り出した。

51: 2010/05/23(日) 10:37:02.11
【PM7:42 琴吹紬】

息を弾ませながら、私はコンビニへと駆けています。

そう言えば、一人でコンビニに行くのは初めてかも。

さて、りっちゃんにポッキー頼まれたのはいいけど、どれくらい用意すればいいんだろう。

紬「いっぱいあるに越した事はないよね」

部室に常にストックしておけば、いつでもポッキーゲームできる。

よし、それでいきましょう。

紬「うーん、100個くらいあれば足りるかな……?」

52: 2010/05/23(日) 10:40:16.21
【PM7:43 中野梓】

梓「ちょっとお母さんまだー?」

梓母「ん、もうちょっと」

もう!いい加減にしてよ!
憂の家に行かなきゃいけないのに。

あ、そっか。
憂の家でトイレ借りればいいんだ。

梓「はぁ……もういいよ。私ちょっと出掛けてくるから」

梓母「あんまり遅くならないようにね」

どの口が言う……。

梓「はーい」

53: 2010/05/23(日) 10:43:21.35
【PM7:58】

澪「よし、ここも私が買い占めたぞ」

そのコンビニを出る頃には、私の両手はポッキーの入った袋で塞がっていた。

澪「ふぅ。とりあえずこの辺のポッキーは買い占めたな」

私はランニングしつつ、近所のスーパー、コンビニ、その他お菓子が売ってそうな店に片っ端から入り、イチゴのポッキーを独り占めしてやった。

ぐぅ。

ずっと走っていたせいか、小腹が空いてきた。
私は手に携えた袋に目をやった。

澪「……これだけあるんだし、一箱くらい空けて食べちゃおうかな」

今日はいっぱい走ったし、ちょっとくらい間食しても大丈夫大丈夫……。

ポリポリ。

澪「あ、おいしい……」

54: 2010/05/23(日) 10:45:02.53
【PM8:00 平沢憂】

憂「ま、また売り切れ……?」

こんばんは。平沢憂です。

コンビニ、スーパーを何件か回ってみたんですけど……どういうわけか、どこもイチゴのポッキーは売り切れでした。

憂「なんで今日に限って……」

はぁ……。
どうしよう。
早く買って帰らないと、お姉ちゃんの気が変わっちゃうかも……。

憂「次のお店、行かなきゃ!」

55: 2010/05/23(日) 10:49:28.12
【PM8:07 平沢唯】

もう無理だー!
お腹減って氏んじゃう!

唯「よし作ろう。もうなんでもいいから自分で作っちゃおう」

私は憂がまな板の上に放置していった包丁を手にとった。

……合宿の時は問題なく使えたし、私だって料理くらいできるはずだよね。

唯「よーし、やるぞー!」

早速お豆腐に包丁を入れる。

えーと、包丁を使う時は猫の手猫の手っと……。

唯「あう……ギー太弾きすぎて手がうまく動かな……」

ざっくり。

唯「痛いっ!!」

57: 2010/05/23(日) 10:52:56.22
私の指から流れる血が、まな板の上のお豆腐を赤く染め上げる。

唯「あ、あわわわ……絆創膏!絆創膏どこだっけ!?」

傷口からどくどくと流れる血が、その深さを物語る。

まいったね。
こりゃ餓氏する前に出血多量で氏んじゃうよ。
えっ……氏……や、やだ!
そんなのやだ!

唯「う、ういー!指怪我したー!助けて~!!」

返事はない。
そりゃそうだよね!
憂は今出かけてるんだし。

唯「あ、あわわわわわ……血が止まらないよぅ!」

もしかして絶体絶命のピンチってやつ!?

唯「だ、誰か!誰かたしゅけて~!ういー!和ちゃーん!」

はっ!和ちゃん!そうだ、和ちゃんに助けを求めよう!

私は廊下に点々と血の跡を作りながら、急いで家を出た。

59: 2010/05/23(日) 10:56:52.81
【PM8:09 中野梓】

憂の家への道中、見上げた夜空に星は瞬く。
点々と光るそれは、イチゴのポッキーのツブツブを思わせる。

唯先輩とポッキーゲームやらされなくて本当に良かった。
唯先輩の事だから、私とポッキーゲームする事になったらここぞとばかりにチューしてきたんだろうな。
抱きつくくらいならともかく、それは勘弁してほしい。

梓「あっ!?そっか、憂の家だから唯先輩もいるんだった!」

今日、憂の家に行くのは、宿題を教えてもらうため。
唯先輩、邪魔してこないといいけど……。

梓「……絶対邪魔してくるんだろうなぁ」

それを見越した上で、時間に余裕を持って行かないとダメだ。

私は小走りになった。

早く憂の家に行かなきゃ。
お腹空いてきたし、それに……トイレも早く借りたいし……。

61: 2010/05/23(日) 11:00:54.36
【PM8:14 琴吹紬】

紬「おかしいわ……。ここも売り切れ……」

三件目のお店も、イチゴのポッキーは売り切れでした。

そんなに人気あるのかしら?
それともポッキーゲームが流行ってるのかな?

紬「どうしよう……。斎藤に頼めば用意できるけど、あんまりそういう事はしたくないな……」

でも背に腹は変えられない。
私はりっちゃんに頼まれたんだもん。
期待を裏切るわけにはいかない!
澪ちゃんには申し訳ないけど、私もポッキーゲーム大好きだし!

紬「あ、そうだ……。澪ちゃんにさっき電話したの忘れてた……」

落ち込んでる(?)みたいだし、私が責任持ってフォローしてあげないと。

私は携帯をバッグから取り出し、澪ちゃんに電話をかけました。

62: 2010/05/23(日) 11:03:38.36
【PM8:15 秋山澪】

ポッキー……おいしいのはいいんだけど……これ食べてるとムギとチューした時の事思い出しちゃう。

澪「……柔らかかったな」

弾力があって、ちょっとしっとりしてて、自分の唇が溶けるような……あの時は私の視界は全部ムギで……ああいう感じなんだな、キスって。

澪「うぅぅ……」

あ、ダメだ。
また頭爆発しそう。

そもそもそれを忘れるためにランニングしてたのに、思い出してどうする。

不意に、携帯電話が鳴った。

両手に持った袋を地面に置き、私はポケットから携帯電話を取り出した。

64: 2010/05/23(日) 11:06:50.03
澪「ひっ!?」

画面にはムギの文字。

澪「ひいいいいい!!」

無理だ!
恥ずかしい!
今はムギと話せない!

いやでも電話かかってきてるし。
なんだ?
一体私に何の用があって?

いや別に用がなくてもムギとは電話する事あるけど、今は無理だ無理!

澪「あ……う、うぅーーーーーっ!」

私はとっさに携帯電話の電源を切ってしまった。

65: 2010/05/23(日) 11:09:20.02
【PM8:16 琴吹紬】

ツーツーツー。

星空の下、国道沿いの歩道で私は立ち尽くしました。

紬「えっ……ウソ……。今澪ちゃん電話切っちゃったの……?」

もしかして澪ちゃん、すっごく怒ってる……?

紬「どうしよう……どうしよう……!」

事故とはいえ、私がチューしちゃったから……?

りっちゃんごめんなさい!
ポッキーなんて探してる場合じゃないわ!
澪ちゃんに謝らないと!

紬「でも電話に出てくれないし、一体どうしたら……」

あ、私泣きそう……。

66: 2010/05/23(日) 11:13:02.92
【PM8:16 真鍋和】

夕飯を食べ終え、私は部屋に戻ると、早速教科書とノートを開いた。

和「さて、と。まずは英語からやろうかな」

私はスラスラと問題を解いていく。

こんなに宿題が出て、唯と律は大丈夫かしら。
……まぁ写させてって言ってくるんだろうけど。

ピーンポーン。

部屋の外にインターホンのベルの音が響いた。

和「誰かしら?」

まあこんな時間にウチに来るのなんて、宗教の勧誘か怠惰な幼なじみのどちらかだろうけど。

ピーンポーンピーンポーン。

訪問者はしつこくベルを鳴らし、私を急かした。

67: 2010/05/23(日) 11:15:01.78
和「はぁ……」

こんな時間にいきなり来て、呼び鈴を連打するのなんて唯以外にいない。

生憎ね、私もまだ宿題終わらせてないし、写させてあげる事はできないのよ。
最初から写させるつもりはないけれど。

ピーンポーン。

和「はいはい。今行くわ」

私は椅子から立ち上がり、部屋を出て、玄関のドアを開けた。

唯「の……和ちゃあああああん!」

そこには、顔も服も血まみれで泣きじゃくる唯が立っていた。

和「ど……どうしたの?!」

69: 2010/05/23(日) 11:18:12.93
【PM8:16 平沢憂】

こんばんは。平沢憂です。

憂「ここも売り切れ……。どうして……?」

私は肩を落として、お店を出ました。
他にお菓子売ってるような場所なんてあったかなぁ……。

けっこう遠くまで来ちゃったけど……ここまでしても買えないなんて、私はお姉ちゃんとチュー……じゃなくてポッキーゲームできない運命なのかな……。

憂「はぁ……」

溜め息は夜空にすうっと吸い込まれていきました。

「ひいいいいい!!」

突然聞こえてきた奇声も、夜空は平等に響かせてくれます。

憂「あれ?澪さん……?」

73: 2010/05/23(日) 11:22:27.31
【PM8:17 秋山澪】

よし、走るぞ。
走ってあの記憶を消そう。
私はスプリンターMIOだ。
今はアーティストじゃなくてアスリートだ。

ipodの曲を爆風スランプのランナーにセットして、ポッキーを口にくわえながら私はクラウチングスタートの姿勢をとり、足にぐっと力を入れた。

ポン。

そのとき、誰かが私の肩を叩いた。

澪「うわあああっ!?」

憂「あっ、すいません……。驚かせちゃいました……?」

へっ?な、なんだ。
憂ちゃんか……。

私はイヤホンを耳から外して挨拶をした。

澪「あ、あははは……。こんばんは憂ちゃん」

75: 2010/05/23(日) 11:25:48.50
憂「こんばんは。……あの、何してるんですか?」

今の私。
夜に街中で学校のジャージを着て、iPodを装着。
両手に買い物袋を持ちながら、ポッキーを口にくわえてクラウチングスタートの構え。

うん、どう見ても変人だ。
よくよく考えたらアーティストにもアスリートにも見えない。

澪「あ、ああ、えっと……だ、ダイエット中なんだ!ランニングだよ!」

憂「そ、そうですか」

うぅ……。

77: 2010/05/23(日) 11:29:16.45
憂「えっと……何買ったんですか?」

澪「えっ?」

憂「その……買い物袋、パンパンですけど」

澪「ああ、これはポッ……」

待てよ。

もし唯が家で今日の部活の事を……ポッキーゲームの事を話してたら、まずいんじゃないか?
私が大量にポッキーを買い込んでるってバレたら、まるで私が率先してゲームを楽しんでるエOチな子って憂ちゃんに思われちゃうんじゃないか!?

澪「あ、ああ。これは……な、何でもないよ」

私はさっと買い物袋を後ろに回して隠した。

澪「う、憂ちゃんこそどうしたの?こんな所で……」

憂「えっ?私ですか……?私はイチゴのポッ……」

イチゴのポッ……?
ポッ、何!?
今イチゴのポッキーって言おうとした!?

やっぱり唯は憂ちゃんに話したのか!?

78: 2010/05/23(日) 11:32:14.49
【PM8:19 平沢憂】

憂「私はイチゴのポッ……」

こんばんは。平沢憂です。

私はポッキーと言いかけて、言葉を引っ込めました。

ポッキーの事、澪さんに話して大丈夫なのかな?
妹とポッキーゲームなんて、お友達に知られたらお姉ちゃん恥ずかしくならないかな?
……ていうか私が恥ずかしいよぅ。

もしかしたらお姉ちゃんの事だから、部活で「私、憂とポッキーゲームしたい!」って話してるかもしれないし。

憂「あ、わ、私は……えぇっと……お夕飯の買い物で……」

澪「そ、そうなんだ。あは、あははは……」

憂「はい。え、えへへ……」

あれ?何か気まずい空気……?もしかしてバレてる?
ていうか、澪さんが口にくわえてるのってもしかして……。

81: 2010/05/23(日) 11:34:58.94
【PM8:20 秋山澪】

憂「あの……その、澪さんがくわえてるのって……」

うわっ!やばい!!
私今イチゴのポッキーくわえてるんだった!

澪「ポリポリポリポリゴクン」

私は急いでポッキーを噛み砕き、飲み込んだ。

さっきから憂ちゃんと私の間には、変な空気が流れている。
まさか唯は本当に話してしまったのか!?

澪「な、なんでもないよ!」

憂「もしかしてイチゴのポッキーですか?」

ひいいい!やっぱりバレてる!?

澪「え、えーっと……ポッキーというかなんていうか……その……」

83: 2010/05/23(日) 11:38:20.76
【PM8:21 平沢憂】

こんばんは。平沢憂です。

私は見ました。
澪さんがくわえていたのは、間違いなくイチゴのポッキーでした。

憂「あのっ!それどこに売ってたんですか!?」

澪「へっ?あ、ああ、あそこのコンビニだけど……」

やった!やっと見つけたよお姉ちゃん!

憂「ありがとうございます!じゃあ私はこれで!失礼します!」

澪「ちょ、ちょっと待って!」

憂「はい?」

澪「えっと、唯から……何か聞いた?」

憂「えっ?」

澪「いや、その……ポッキーがどうとか……」

お……お姉ちゃん……。やっぱり軽音部のみなさんに話しちゃってるんだね……。恥ずかしいよぅ……。

憂「は、はい……。まぁ……」

84: 2010/05/23(日) 11:43:21.24
【PM8:22 秋山澪】

終わった。

もう憂ちゃんの私の印象は、ふしだらな女の子になっちゃってるんだろうな……。
ははは……。

澪「き、聞いちゃったのか……」

憂「……はい」

ほら、その証拠に憂ちゃんは顔を赤らめている。

澪「……」

憂「……」

空気が重くのしかかる。
外したイヤホンからシャカシャカ流れる爆風スランプの声が、何とも不似合いだ。

85: 2010/05/23(日) 11:46:28.11
憂「あの、私そろそろ……。お姉ちゃんにお使い頼まれてるので……」

澪「あ、うん……」

そう言えばさっき憂ちゃんもイチゴのポッキーがどうとか……唯のお使いってそれの事かな?

ってまさか、唯の奴、明日もポッキーゲームやらせるつもりじゃないだろうな!?
冗談じゃないぞ!
あ、でも……。

憂「じゃあ、失礼します」

澪「うん。じゃあ……」

憂ちゃんは駆け足でコンビニへ向かっていった。

ごめんね憂ちゃん。
あそこのコンビニのイチゴポッキーも、私が買い占めたんだ。

とりあえず、これで明日はポッキーゲームなんてしなくて済みそうだ。

87: 2010/05/23(日) 11:52:20.29
【PM8:26 中野梓】

梓「着いた……」

憂の家は玄関まで煌々と灯りがついていた。

私は呼び鈴を鳴らした。

出てくるのは憂か、唯先輩か。
出来れば憂であってほしいなぁ。

梓「……」

梓「……」

あれ?誰も出てこない。

私はもう一度呼び鈴を鳴らした。

……やっぱり出てこない。
灯りはついてるから、中にいるはずなんだけど……ていうか今日行くって約束してたし。

もう一度私は呼び鈴を押した。

梓「う、憂……早く……!おしっこ漏れちゃう……」

89: 2010/05/23(日) 11:56:26.73
【PM8:30 田井中律】

部屋で漫画を読んでいて、ふと思い出した。

律「あーやっべ。今日宿題大量にあるんだっけ」

まあいつも通り澪に教えてもらえばいいか……。

あー!しまった!
さっき私がからかったから、あいつきっとヘソ曲げて教えてくれないぞ……。
さっきのフォローメールにも返信こないし。

律「はぁ……。自分でやるか……」

ブブブブブ。

私が教科書を開くと、ケータイが鳴った。

澪かっ!?グッドタイミング!

律「もしもーし!」

紬「……りっちゃん」

律「なんだムギかよ……」

紬「えっ……」

90: 2010/05/23(日) 11:59:00.51
【PM8:32 琴吹紬】

「なんだ」って……私嫌われてるのかしら……。
澪ちゃんとチューしちゃったから……?

律「おーいムギ~?」

紬「りっちゃん、私の事怒ってる……?」

律「へ?ああ、ごめんごめん。ちょうど澪に宿題教えてもらおっかなーと思ってたところだったからさ」

紬「ほっ……良かった……」

律「どした?ポッキー用意できなさそうとか?」

紬「あ、うん……。ポッキーはちょっと無理かも……」

律「そっかぁ。まぁ無理なら仕方ないよ。気にすんなー」

紬「うん、ありがとう。それと、澪ちゃんの事なんだけど……」

律「んー?」

91: 2010/05/23(日) 12:00:44.45
紬「私、澪ちゃんの事怒らせちゃったかも……」

律「へ?ムギが?澪を?なんで?」

紬「わかんないけど……もしかしたら今日の事で……。電話しても出てくれないの……」

律「あー、そういや私も澪からメール返って来ないなぁ」

紬「え?りっちゃんも?」

律「まあ明日になったら澪も機嫌直してるって」

紬「そんな!ダメだよ。ちゃんと謝ろう?」

93: 2010/05/23(日) 12:02:25.59
律「ええ~?」

紬「宿題、澪ちゃんに教えてもらいたいんでしょ?」

律「んーまぁね」

紬「一緒に謝りに行こう?」

りっちゃんは少し唸ってから答えました。

律「……そだな。わかったよ。じゃ、一緒に澪んち行くか。とりあえず私んちに今から来れる?」

紬「うん。実はもうりっちゃんちの前にいるの!」

律「メリーさんかお前は」

95: 2010/05/23(日) 12:04:46.06
【PM8:40 平沢唯】

唯「いやあ、お騒がせしました~」

和「全く……びっくりさせないでちょうだい」

和ちゃんは、私の手に絆創膏を貼りながら、溜め息をついた。

一時はどうなる事かと思ったけど、傷はそこまで深くなくて、とりあえず今日は応急処置をして、明日病院に行く事になったよ!わーい!

和「ほら、顔洗ってきなさい。それじゃまるで殺人犯みたいよ」

唯「クックック……今宵も私の血が騒ぐよ!」

和「バカ言ってないで早くして。私宿題したいんだから。着替えもここに置いとくわ」

唯「おー、ありがとう和ちゃん!」

グゥゥゥゥ。

唯「お?」

96: 2010/05/23(日) 12:08:01.47
【PM8:42 真鍋和】

唯「お?」

唯のお腹が鳴った。

和「……お腹空いてるの?」

唯「でへへ。実はまだ何も食べてないんだ~」

和「うーん……悪いけど、うちはもうお夕飯済ませちゃったし……」

唯「じゃあ和ちゃん、ウチに来てご飯作ってくれない?」

あの……宿題したいって言ったはずなんだけど。

97: 2010/05/23(日) 12:09:56.74
和「憂は?憂に作ってもらえばいいじゃない」

唯「それが、憂は私が頼んだポッキーを買いに行ったきり戻ってこないんだよ。ケータイも置いていっちゃったし」

ポッキー……?
そういえば私もポッキー買ってきたんだっけ。
……やれやれ、結局あのポッキーは唯が食べる運命にあったのね。

和「ポッキーなら買ってあるから、それで我慢しなさい」

唯「イチゴの?」

和「そう、イチゴの」

唯「でもそれだけじゃ足りないよ……」

98: 2010/05/23(日) 12:12:47.20
和「憂が帰ってくるまで我慢しなさい」

唯「そんなぁ!このままじゃ私、飢え氏にしちゃうよ!」

そう言って唯は私にしがみついた。

和「ちょ、ちょっと!私の服に血がついちゃうでしょ!?」

唯「おねげえしますだ~!おらもう3日も飯食ってないだよ~!氏にそうだ~!」

まぁ、血まみれで氏にそうって言われれば、確かに説得力はある。
3日食べてないっていうのは絶対嘘だけど。

和「はぁ……。仕方ないわね。じゃあすぐ行くからさっさと顔洗って服着替えて」

唯「ありがてえ……!じゃっ、すぐに準備してきます!」

101: 2010/05/23(日) 12:17:23.02
【PM8:43  田井中律】

私はカチューシャをつけ、部屋を出ると玄関のドアを開けた。

紬「りっちゃん……」

いつもニコニコしているムギが、珍しく泣きそうな顔をしながら立っていた。

ムギは喧嘩なんかしないだろうから、こういう時の対処を知らないんだろうなぁ。

律「おまたせ」

ムギは腹を空かせた時の唯みたいな顔で私を見ている。

律「ムギ~そんな顔すんなよ。さ、澪んち行こうぜ」

紬「うん……」

103: 2010/05/23(日) 12:20:18.24
【PM8:45  秋山澪】

憂ちゃんと別れた後、私はさらにお店を巡ってイチゴのポッキーを買い続けた。

お財布がスッカラカンになった時、ようやく私は冷静になった。

澪「……何やってんだ私」

大量の買い物袋は両手で抱えるのが精一杯で、この状態でのランニングはもう無理だった。

ていうか、どうすんだ。
この大量のイチゴポッキー……。

澪「もう帰ろう……」

私はトボトボと歩き始めた。
両手で抱えた買い物袋が視界を狭くする。

ポケットの中でケータイが震えた。
でも荷物で手が塞がっているため、出る事ができない。

ipodから流れるのは、坂本九の曲。
夜空を見上げると、いつの間にか星は曇に覆われて見えなくなっていた。

澪「今の私の気持ちとおんなじだな……」

104: 2010/05/23(日) 12:24:38.97
【PM8:50 平沢憂】

こんばんは。平沢憂です。

憂「ここもダメ……かぁ……」

澪さんに教えてもらったコンビニにも、その後に回ったお店にも、イチゴのポッキーは置いてませんでした。

憂「うぅ……。なんで売ってないの……」

泣きそうです。
でも泣きません。
泣いてる暇があったら、私はポッキーを探さないと……でも……

憂「もう……このへんのお店は全部回ったし……隣町に行くしか……」

ニャーオ。

私の目の前を、黒猫が横切りました。

猫……。

あっ!?梓ちゃんと約束してたの忘れてた!!

105: 2010/05/23(日) 12:28:41.83
どうしよう。
もう梓ちゃん、ウチについてるよね……。
お姉ちゃんがいるはずだから大丈夫かな。

憂「でもご飯作ってないし……」

そうだ、お姉ちゃんもきっとお腹空かせてるはず。

……謝ろう。
帰ってお姉ちゃんに謝ろう。
お姉ちゃん、ごめんね。
私、ポッキー買えなかったよ……。

憂「……っ。泣いちゃダメ……っ」

けっこう遠くまで来ちゃったから、家に帰るのには時間がかかりそうです。
その事がさらに私の気持ちを沈めました。

111: 2010/05/23(日) 13:01:51.62
【PM8:54 琴吹紬】

律「えっ?でかけた?」

澪ちゃんのお家についた私とりっちゃんが呼び鈴を鳴らすと、澪ちゃんのお母さんが出てきて、澪ちゃんは外出中だと教えてくれました。

律「まいったなー。どうする?」

紬「澪ちゃん、どこ行っちゃったんだろう。まだ電話にも出ないし」

嫌な予感がしました。

紬「……何か事件に巻き込まれてないといいけど」

律「ええ?ま、まさかそんな事は……」

りっちゃんの表情が曇りました。

紬「……捜しましょう!澪ちゃんを!」

律「う、うん」

重い曇の浮かんだ夜空が、私とりっちゃんの不安を煽りました。

112: 2010/05/23(日) 13:02:51.70
ちょっと休憩します
2時くらいに再開予定
ちなみに今ので書き溜め尽きたのでおもっくそ遅筆になります

123: 2010/05/23(日) 14:15:57.91
【PM9:00 真鍋和】

唯「おまたせー!さあいざんゆかん!我が城へ!」

顔を洗って私の服を着た唯が、洗面所から戻ってきた。
サイズ違いで丈の余った格好で歩く唯は、ちょっと可愛かった。

和「さっさと行きましょう」

唯「あ、イチゴのポッキー持った?」

全く、そういう事は忘れないのね。

和「持ってるわよ」

唯「えへへ~。じゃあいきませういきませう!」

125: 2010/05/23(日) 14:23:02.44
【PM9:03 中野梓】

ピンポーン。ピンポンピンポンピンポーン。

私は呼び鈴を連打する。
パニック映画でエレベーターのボタンを連打する主人公のように。

梓「なんっ……で……出ないのぉ……っ」

私は脚をもじもじさせながら、涙ぐんだ。

うぅ……我慢しすぎてお腹痛くなってきた。

ピーンポーン。

梓「お願いだから出てよぉっ……!!」

ていうかもしかして留守なの……?
憂がなにも言わずに約束を破るとは思えないけど……。

私は留守である事を確認するために、ドアノブをひねった。

ガチャリ。

梓「えっ?開いてる……?」

126: 2010/05/23(日) 14:29:44.45
梓「お、お邪魔しまーす……」

誰も答えない。
水を打ったように、この家は静まりかえっている。
あの姉妹がいるなら、もっと騒がしいはずだ。

梓「憂ー……唯せんぱーい……いないんですかー……?」

誰も答えない。

梓「うっ……も、漏れちゃう……」

勝手に入って大丈夫だろうか。

人様の家に無断で上がり込んで、トイレを拝借するなんて、人としてまずいよね……。

梓「あっ……?!」

しかし私の理性とは裏腹に、それはもう入り口まで迫っており、今にも氾濫しようとしている。

梓「も、もうダメ!お邪魔します!おトイレ借りますっ!」

私は猫だ。そう考えるんだ。
猫なら人の家に上がり込んで用を足しても、「あらあら困った子ねえ」とかその程度で済むはずだ。

131: 2010/05/23(日) 14:36:20.70
【PM9:05 秋山澪】

さっきから、私のポケットの中で、携帯電話は振動を続けている。

出たくても出られないんだよ……。
この両手いっぱいに抱えた大量のポッキーのせいで……。

澪「私一人じゃこんなに食べきれないな……」

誰かにあげようかな。

といっても、私、友達多くないし。

唯と律とムギはダメだ。絶対ポッキーゲームに使う。
梓と和なら……大丈夫かな。

ここからだと、梓の家が近いな……。

澪「よし、梓の家に行くか」

かくして私は梓の家へと進路をとった。

132: 2010/05/23(日) 14:42:18.03
【PM9:06 田井中律】

紬「ダメ、やっぱり出ないわ……」

律「うーん、私ならともかく、ムギの電話を澪が無視するとは考えられないな」

まさか澪……本当に何かの事件に巻き込まれたのか?
痴漢とかストーカーとか暴漢とか……もしかして誘拐!?

紬「りっちゃん、どうしよう……」

律「困ったな……。とりあえず唯と梓も呼んで一緒に探してみる?」

紬「うん!じゃあ私、唯ちゃんに連絡するね!」

律「おっけー!じゃあ私は梓に電話するよ」

134: 2010/05/23(日) 14:50:48.24
【PM9:07 中野梓】

平沢家の玄関にあがると、私はぎょっとした。

血痕だ。
廊下に点々と血痕がある。

梓「い、一体何が……!?……うっ、漏れる!」

とりあえず殺人現場は後回しにして、トイレに行かないと!!

……。

……。

快楽は鳴る。
私の耳の外から、耳の奥の奥から。
川のせせらぎもような音が外部から響き、キーンという鉄を打ったような音が私の中から聞こえてくる。

梓「はぁ~……危なかった……」

……っと、安心してる場合じゃなかった。
早くトイレから出て、家の外でお行儀よく待ってないと、不審な子に思われちゃう。
私は猫なんかじゃない。
ギターを弾く立派な女子高生、人間なんだから!

136: 2010/05/23(日) 14:57:36.88
梓「それにしても、あの血痕、一体なんなんだろう……?」

私はビデを浴びながら考えた。

もしかして、憂や唯先輩の気配がしないのは、本当に殺人がったとか……。

梓「ま、まさかね……」

でももし本当にそうだとしたら?
もしかしたら犯人はこの家の中にまだ潜んでいるかもしれない。
私がこのトイレのドアを開けたら、口封じに襲ってくるかもしれない。

私は身震いした。

私が襲われるとかそんな事より……憂と唯先輩の身に何かあったとしたらと思うと、私の身体はちぎれそうだった。

梓「憂……唯先輩……」

私はトイレの中で震えながら、二人の無事を祈った。

唯「ただいまー!」

あ、生きてました。

138: 2010/05/23(日) 15:03:08.33
【PM9:08  平沢唯】

唯「ただいまー!」

和「ちょっと唯!カギ開けっ放しだったの!?」

唯「おお!忘れてた!」

和「不用心よ。不審者が入ってたらどうするの?」

唯「ええ?大丈夫だよ~」

和「全く……。次からはちゃんと閉めなさいよ」

唯「はーい。……あっ!」

和「何よ今度は」

唯「和ちゃんちにケータイ忘れた!着替えた時に……」

まあでもあとで取りに行けばいいかぁ。

140: 2010/05/23(日) 15:07:12.94
【PM9:09 琴吹紬】

何度電話をかけても、唯ちゃんは電話に出ませんでした。

紬「りっちゃん、唯ちゃん出ないよ……」

律「まぁ唯は最初からあんまりアテにしてないし……」

紬「ねえりっちゃん、私、唯ちゃんにも嫌われてるのかな?」

律「いや、それはないだろ。あいつムギの事大好きだろ」

そうかな?どうかな?
そうだといいな。

紬「う、うん……」

律「んじゃ、私は梓にかけるぞ」

142: 2010/05/23(日) 15:15:52.72
【PM9:10 中野梓】

私はトイレの中で、息を頃した。

トイレのドア越しに聞こえてきた唯先輩と和先輩の話から察するに、どうやらあの血痕は唯先輩が指を切ったのが原因で出来たものらしい。

良かった。殺人事件なんてなかったんだ。
唯先輩も憂も無事なんだ。

しかし、殺人事件こそなかったものの、今この家では別の事件が……不審者侵入事件が起きている。

しかもその犯人は私だ。

梓「どうしよう……。留守中に家に上がり込んでトイレ使ってたなんて、唯先輩はともかく、和先輩に知られたら……」

この場はこのまま息を潜めて、隙を見てトイレから抜け出すしかない!
そして何食わぬ顔で呼び鈴を鳴らし、客としてもう一度この家に上がるんだ!
よし、それでいこう。

ブブブブブブ!

梓「にゃっ!?」

145: 2010/05/23(日) 15:20:44.03
【PM9:10 真鍋和】

唯の家で、早速唯の夕飯を作ろうとしていた私の耳に、妙な物音が聞こえてきた。

和「唯、今の聞こえた……?」

唯「うん……。なんだろう?」

和「まさか泥棒が入ってたんじゃ……」

唯「ええっ!?そ、そんな……怖いよ……」

和「私ちょっと見てくるわ……」

唯「き、気をつけて和ちゃん……」

私はキッチンをおそるおそる出た。
私はこの家の間取りをよく知っている。
物音がしたのは、恐らくトイレのほうだ。

147: 2010/05/23(日) 15:28:13.04
【PM9:11 田井中律】

律「あれー?梓も出ないなぁ」

紬「みんなどうしちゃったんだろう……」

律「全く、澪の一大事かもしれないってのに、何やってんだあいつらは」

仕方ない。
私とムギの二人で澪を捜すしかないな。

律「いや、待てよ。和なら頼りになるんじゃないか?」

紬「あっ!そうかも!じゃあ私、和ちゃんい電話す……あれ?携帯の電池切れちゃった」

律「ええ?じゃあ私が電話……って私ももう電池きれそうだ!」

紬「じゃ、直接和ちゃんのお家に行きましょう?」

律「まぁこっからなら歩いていけるし……行ってみるか」

148: 2010/05/23(日) 15:35:14.14
【PM9:12 中野梓】

もーーーーーっ!
何でこんな時に律先輩は電話なんてしてくるんだろう!

案の定、唯先輩と和先輩は私が上げた悲鳴に気づいてしまった。
そして今、和先輩はこっちに近づいて来ている。

どうしようどうしようどうしよう!!

ギシギシと、和先輩の足音が廊下に響く。

一歩、また一歩近づいてくる。

ゴクリ。
私は唾を飲み込む。
口の中はとっくに乾いているのに、喉は鳴った。

和「だ、誰かいるの……?」

ついに和先輩は、トイレの前で尋ねてきた。
しかしドアノブをひねらない限り、トイレのカギが閉まってるかどうかはわからないはず。
すなわち、中に誰かいるという事の確証は得られない!

こ、こうなったら……イチかバチか……!!

梓「にゃ、にゃーお……」

152: 2010/05/23(日) 15:44:36.90
【PM9:14 秋山澪】

澪「案外すぐ着いたな」

梓の家、到着。
ケータイで梓を呼び出したいところだけど、相変わらず私の両手はポッキーの入った袋で塞がっていたため、ケータイを取り出せない。

澪「梓いるかな?……って、ああっ!?」

しまった。
両手が使えないから、インターホンも鳴らせない。

澪「うーん……どうしよう」

ポストにポッキー入れておこうかな。

そうだ、そうしよう。
朝起きてポストを開けたら、ポッキーがいっぱいだったなんてサンタさんみたいでステキじゃないか?

澪「ふふふ、梓、喜ぶかな……」

私は梓の家のポストにポッキーを押し込むと、くるりと振り返り、次の目的地へと舵をとった。

澪「よし、次は和の家だ」

155: 2010/05/23(日) 15:50:38.79
【PM9:15 平沢唯】

まいった。
私が家のカギを閉め忘れたせいで、今この家には泥棒さんがいるかもしれないなんて。

うう……憂に怒られるよ……。
いやいやそういう次元じゃないって。
和ちゃんに何かあったらどうしよう……!

私は目を閉じて、お隣の神社の神サマ?に拝んだ。

唯「お願い和ちゃん……どうかご無事で……!」

和「唯」

唯「ふおっ!?」

和「何やってるの?」

唯「の、和ちゃんの無事を拝んでたんだよ……。どうだった……?」

和ちゃんは笑って答えた。その笑顔が、私を安心させた。

和「大丈夫。近所の猫だったわ」

158: 2010/05/23(日) 16:00:09.76
【PM9:20 中野梓】

梓「助かった……」

私は安堵の息を漏らした。

唯先輩に日頃猫の真似を強要されるのは嫌だったけど、それが役に立つ日が来るなんて思わなかった。

さて、とりあえずの危機は免れたものの、私が窮鼠である事にかわりはない。
追いつめられた鼠は猫をも噛むというが、ここで私がヤケを起こしたら犬のお巡りさんに捕まってしまう。

……まぁ捕まるっていうのは言い過ぎだけど、とりあえず和先輩に奇異の目で見られる事だけは確かだ。

しばらくここでじっとしているしかないのかなぁ……。

梓「ん?」

不意に、いい匂いがしてきた。トイレでいい匂いっていうのも変な話だけど。

そっか。和先輩がお夕飯を作っているんだ。

梓「……お腹空いたなぁ……」

159: 2010/05/23(日) 16:12:08.87
【PM9:26 平沢憂】

こんばんは。平沢憂です。

曇り空の下、私はまだ、家から離れた場所を歩いていました。

憂「うぅ……。すっかり遅くなっちゃったよぅ……」

梓ちゃんはとっくにウチに来てるはずで、お姉ちゃんもお腹を空かせて泣いてるかもしれない。
二人ともきっとカンカンだよね……。

連絡の一つでも入れる事が出来ればよかったんですが、私は家にケータイを置きっぱなしで来てしまったので、それも適いません。

急がなきゃ。
早く帰らなきゃ。

そうわかっていても、結局イチゴのポッキーを買えず、手ぶらのままな私の足は、ことさら歩みを遅めてしまうのでした。

160: 2010/05/23(日) 16:20:12.46
【PM9:32 真鍋和】

和「はい、出来たわよ」

私は冷蔵庫に入っていた残り物と、まな板の上に置いてあったお豆腐を使って簡単なメニューで唯のお夕飯を拵えてあげた。
鯛の切り身も置いてあったけど、それを使ってたら時間がかかってしまうので、冷凍庫に戻しておいた。
早く帰って宿題しないと。

唯「ありがとう、和ちゃん!いただきまーす」

和「じゃあ、私帰るわね」

唯「ええっ?せっかく来たのに?」

和「しゅ・く・だ・い!するって言ったでしょ?唯もそれ食べたら宿題やらないと終わらないよ。今日、いっぱい出たでしょ?」

唯「ぶーぶー!……あ、そうだ和ちゃん。ポッキー持ってきたんだよね?」

唯は時々変な事を言う。
私はもう15年以上唯の幼なじみをしているから、ちょっとやそっとじゃ怒らない。
でも、この時ばかりは私もカッとなってしまった。

唯「和ちゃん、ご飯食べ終わったらポッキーゲームしようよー」

和「いい加減にしなさい!するわけないでしょ!」

162: 2010/05/23(日) 16:26:46.23
【PM9:34 平沢唯】

和「いい加減にしなさい!するわけないでしょ!」

あう……。
怒られた……。

唯「ごめんなさい……」

和「全く!もう帰るからね!宿題もちゃんとやるんだよ」

さすがにこの状況で「写させて~」なんて言ったらまた怒られるよね……。

和「じゃ、憂によろしくね」

唯「……あっ、待って和ちゃん、お願いがあるんですけど……」

和ちゃんは怒りを通り越して呆れた顔をした。

よかった、いつもの和ちゃんだ。

163: 2010/05/23(日) 16:34:01.43
和「何?宿題なら自分でやらないと意味ないわよ。ていうか私もまだ終わってないんだから」

唯「……だよね」

和「それより、憂遅いわね。大丈夫かしら?」

そう言えば、ポッキー買いに行ったにしては遅いかも。
ケータイは家に置きっぱなしだから連絡もとれないし……。

唯「あっ……ケータイ……」

和「ケータイ?」

唯「ほら、私、和ちゃんの家にケータイ忘れてきちゃったから……」

和「そう言えばそうだったわね。もしかしたら公衆電話か何かで憂から連絡きてるんじゃない?」

唯「ど、どうしよう……」

164: 2010/05/23(日) 16:40:33.34
和「はぁ……。わかったわ。私が帰るついでに取りに行ってあげる。また戻ってくるからついでにはならないけど」

唯「ご迷惑おかけします……。あっ、でも私も一緒に行ったほうがいいかな?」

和「憂と入れ違いになったらまた面倒でしょ?すぐとってきてあげるから唯はここで待ってて」

本当に……何から何まで……。

唯「ありがとう和ちゃぁぁぁん……」

和「はいはい。じゃ、もう行くね」

そう言って和ちゃんはさっさと出て行った。

私は和ちゃんが作ってくれたお夕飯を完食し、食器を流し台の上に置き、一息ついた。

満腹になった私に、またしてもあの欲望が渦を巻いて私の身体の中をぐるぐるにした。

唯「ポッキーゲームしたいなぁ……」

166: 2010/05/23(日) 16:47:54.32
【PM9:38 秋山澪】

澪「着いた……。さすがに疲れたな……」

私はようやく和の家に着いた。
iPodのバッテリーが切れてからというもの、夜道はこれでもかというほど、私を怖がらせた。
ランニングをした上に、大荷物を持って歩き通しだったせいで、足もパンパンだ。

澪「でも、いい運動になったな」

体重計に乗るのが楽しみだ。

澪「さ、和の家のポストにもポッキーを入れてあげよう」

私は梓の家でしたのと同じように、和の家のポストにポッキーを詰め始めた。
しかし、中野家のとは違い、真鍋家のポストは入り口が狭いため、思うように押し込む事ができない。

澪「んしょっと……えいえい!」

私は半ば強引に、ポストの中へポッキーを一箱ずつぐいぐいと詰め込んでいった。

168: 2010/05/23(日) 16:53:39.10
【PM9:40 琴吹紬】

お願い!澪ちゃん、どうか無事でいて!

私の頭の中では、その言葉がずっと彷徨していました。

澪ちゃんに謝りたいのに……澪ちゃんの身に何かあったら、それもできなっちゃう。
そんなの絶対イヤ!

律「ちょっ……ムギ?顔色悪いぞ?」

紬「う、うん……。大丈夫……」

律「そんなに心配すんなって。まだ澪に何かあったって決まったわけじゃないんだしさ」

そう言いながらも、りっちゃんが不安なのは、さっきから繋いでいた手を通して私にも伝わっていました。

律「あ、ほら。もうすぐ和んちに着くぞ」

169: 2010/05/23(日) 17:01:30.28
和ちゃんに会ったからと言って、何かが解決するわけじゃないのはわかっていました。
でも、今の私とりっちゃんに出来るのは「和ちゃんに会う」という行動だけだったので、それに縋るしかなかったんだと思います。

紬「たしかこのあたりよね?」

律「うん。ほら、あそこ……あ?」

紬「え?」

突然、りっちゃんが立ち止まりました。
私はりっちゃんと手を繋いでいたため、前につんのめってしまいました。
私は何事かと思い、りっちゃんの視線の先にある和ちゃんの家のほうを見ました。

律「なんか……和んちの前で変な事してる人がいる……」

確かに、いる。
ポストに向かって何か……詰め込んでいる?
それも、一生懸命。

……ていうかあれは……。

律「あれ……澪だよな……」

172: 2010/05/23(日) 17:09:43.72
【PM9:41 平沢唯】

唯「うぅ~……ポッキーゲームしたいよぉ」

と言ってみたものの、ここにはポッキーはおろか、それをする相手すらいない。
和ちゃんにはガッツリ怒られちゃったし。
憂がポッキー持って帰ってくるのを待ってるしかないかぁ。

そう言えば、家に一人でいる事ってあんまりないかも。
いつもなら憂がいるし。

唯「でも、なーんか一人って感じがしないんだよね。なんでかな?」

ぶるっ。

唯「ん、おしっこおしっこ!」

私はトイレに駆けていき、ドアノブをひねった。

唯「あれ?開かない?」

私はガチャガチャとドアノブを回そうとしたが、どうやらカギがかかっているらしく、開く気配は全くなかった。

174: 2010/05/23(日) 17:15:53.09
【PM9:43 中野梓】

心臓の音が、外に聞こえていたらどうしよう。
いや、いまさらそれが聞こえたところで、事態は大して変わらないのかも。

唯「あれー?何でカギしまってるんだろう?」

唯先輩は、突然居間から出てきて、突然トイレのドアを開けようとしてきた。
唯先輩、不意打ちはやめて下さい。

唯「誰かいるのー?」

ガチャガチャと、何度も何度も唯先輩はドアノブを回そうとしている。

まずい。
これはどう誤魔化せばいいんだろう。

ていうか、いつか唯先輩がトイレを使うのなんてわかりきってた事だ。

何で私はここにこもってるなんてバカな作戦を立ててしまったんだろう……。

175: 2010/05/23(日) 17:22:29.03
唯「んー!開かない!やっぱり誰かいるのかなぁ」

そりゃカギかかってるんだから、いるに決まってるでしょう。
何を言ってるんですか唯先輩。

唯「お、おしっこ漏れちゃうよ……」

そう言えば数時間前、私も自分の家のトイレの前で、同じような事言っていた気がする。
親子揃ってトイレが長いなんて、なんか嫌だな……。

唯「ういー?」

へっ?

唯「憂、帰ってたの?入ってるの?」

どうやら唯先輩は、憂が入ってると思ったみたいだ。
これを利用しない手はない。
律先輩に倣って、声真似でこの場を切り抜けよう。

やってやるです!

梓「お、おねえちゃーん。もうちょっとかかりそうだよ~……」

唯「あれ?あずにゃん?」

あ、バレた。

181: 2010/05/23(日) 17:31:21.45
【PM9:45 田井中律】

とりあえず、澪は無事だったようだ。

いや、無事と言っていいのか?
今あいつは、和の家のポストに、大量の何かを必氏で詰め込んでいる。

紬「み、澪ちゃん……一体何やってるのかしら……?」

律「わかんね……」

私もムギも、ずっと澪を捜していた。
私たちはようやくその澪を見つける事ができた。
しかし、私とムギは澪に駆け寄って再会を喜び、抱き合うなんて事は出来ず、ただただその場に呆然と立ち尽くしていた。

マジで何やってんだあいつ。

紬「あ、もう終わったみたい……」

澪は一仕事終えたサラリーマンのように、清々しい顔をして、その場を去ろうとした。

律「よし、突撃するぞムギ」

182: 2010/05/23(日) 17:40:40.17
【PM9:46 平沢唯】

唯「わぁ!やっぱりあずにゃんだ!」

あずにゃんは今にも泣きだしそうな顔をして、トイレから出てきた。

梓「あ、あの……これはその……」

唯「あずにゃんゴメン!私おしっこ漏れそうだからトイレに入るね!」

梓「あっ、あの……」

私は急いで便座に座り、用を足した。

唯「いつからいたのー?」

私はあずにゃんに尋ねた。

梓「……唯先輩達が帰ってくる前からです」

唯「へー!全然気づかなかったよー」

梓「すいませんでした……。トイレに行くのが我慢できなくて、つい……。」

唯「そっかぁ」

梓「……ていうか」

梓「ドア閉めてから話しかけてくださいよ!丸見えなんですけど!?」

183: 2010/05/23(日) 17:48:32.81
唯「あ、ごめんごめん。でももう全部出たよー」

梓「もう……」

私は水を流すと、あずにゃんを居間に招き入れた。

唯「そう言えば、あずにゃんは憂と約束してたんだっけ?」

梓「はい……。でも、憂いないですよね?」

唯「うん。私がポッキー買ってきてって頼んだんだけど……遅いよねー」

梓「そう言えば唯先輩、今日ポッキー食べれてませんでしたね。……あれ?でも……」

あずにゃんはそこでキッチンの方に目を向けた。

梓「あそこにポッキーあるじゃないですか。イチゴの」

唯「えっ?」

本当だ。和ちゃんが置いていったのかな?
あ、私のケータイ渡しに来てくれるから、荷物はウチに置いてったのか。

ん?待てよ?イチゴのポッキーがあって……今目の前にはあずにゃんがいるって……この状況は……。

186: 2010/05/23(日) 17:53:27.94
【PM9:46 秋山澪】

和、喜んでくれるかな?

最初はポッキーが憎くて仕方なかったけど、今はこうして友達のために活用できてる。
やっぱりお菓子ってこういうものだよな。

澪「よし、そろそろ帰……」

律「みおー!」

え……。

紬「澪ちゃん、こんばんは」

げっ!ムギ!?やばい恥ずかしい!

律「なーにやってんだ?こんなところで」

うっ……何って……。

私……何やってたんだっけ。何でこんな事してたんだっけ……。

187: 2010/05/23(日) 17:57:12.35
紬「澪ちゃんごめんなさい……。私……」

澪「えっ?」

律「なんで電話に出なかったんだよ?心配してたんだぞ?」

澪「う……ご、ゴメン」

紬「でも良かった。澪ちゃんが無事で」

律「ところで、和んちのポストに入れてたのって……ん?これもしかして」

やばっ!!

紬「あら?イチゴのポッキー?」

188: 2010/05/23(日) 18:01:47.07
うわぁぁぁぁ!見るな見るな見るな!!

律「なんだよ、澪もポッキーゲームノリノリだったのか」

澪「ち、違う!」

紬「ちょうど私とりっちゃんも、明日もポッキーゲームしようって言ってたところなの!」

澪「違うって!ポッキーゲームなんて絶対したくない!これは幸せを運ぶためにだな……!」

律「ほほー。ムギとチューしたのがそんなに幸せだったのか」

紬「澪ちゃんたら……」

澪「ち、違うんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

189: 2010/05/23(日) 18:08:06.66
【PM9:50 真鍋和】

気が滅入る。
これから唯のケータイを渡して、それから家に帰って、宿題して……はぁ……明日は寝不足で一日大変になりそうね。

「ち、違うんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

何かしら、こんな夜中に大声出して……。
近所迷惑ね。

あれ?私の家の前に誰かいる。

澪と……律とムギ?

和「な、何やってるの?3人とも」

律「お、和」

ていうか……何コレ!?ポストの中に大量のポッキー!?
唯じゃあるまいし、何でこんな……。

律「ああ、それは澪がやったんだよ」

195: 2010/05/23(日) 18:18:03.48
和「え?澪が?」

澪「あ、いや……その……」

顔を真っ赤にして、澪は目を泳がしている。
何かワケありみたいだけど……あまり詮索しないほうがいいかしら?

和「……よくわかんないけど、これ片づけていいかしら」

澪「う、うん……」

律「なあ和、こんな時間にどこ行ってたんだ?生徒会長が夜遊び?」

人の家のポストにポッキー詰め込んで置いてよく言うわね……。

和「唯の家に行ってたのよ。指ケガしたりお腹空かせたりで、大変だったわ」

紬「私達も色々あったの。でもこうやって集まったのも、何かの縁よねきっと!」

和「そうかしら……」

律「つーかこのポッキーどうする?こんなに大量に誰が食べるんだよ」

あ……そう言えば、唯がイチゴのポッキー欲しがってたっけ……。
唯ならこれくらいあっても……。

196: 2010/05/23(日) 18:26:50.71
【PM9:56 中野梓】

ついさっきまでトイレに籠もっていた私にとって、鬼ヶ島にも等しかった平沢家の居間で、私と唯先輩はくつろいでいた。
実に人間らしく。

梓「へえ!見直しましたよ唯先輩!」

唯「えへへ~もっと誉めて!」

昨日までまるで弾けてなかったフレーズを、唯先輩は手にケガを負っているにも関わらず、華麗に演奏してみせた。

唯「本当はすぐにあずにゃんに報告したかったんだけどね、色々あって忘れちゃってたよ」

私も色々あったな……。
一時は人間捨てるところまで行ったけど……唯先輩が今こうしてちゃんとギターを弾いてくれてるから、まぁ……いいかな。

唯「……でね、ご褒美ってわけでもないんだけどぉ~……あずにゃんにお願いがあるんだ~」

あ、嫌な予感がする。
すっごく嫌な予感がする。

198: 2010/05/23(日) 18:32:39.58
【PM9:57 平沢憂】

こんばんは。平沢憂です。

ようやくお家に着きました。

私は今、自分の家の玄関のドアを開けるのを、躊躇っています。

憂「お姉ちゃん……私がポッキー持ってくるの楽しみにしてるんだろうなぁ……」

梓ちゃんも、約束忘れちゃってごめんね……。

憂「なんだか……情けなくて泣きそう……」

……ダメダメ!
泣いちゃダメ!
我慢しないと……!

憂「よし、入ろう……」

意を決して私がドアノブに手をかけた時、後ろから声がしました。

律「おーい、憂ちゃーん」

201: 2010/05/23(日) 18:39:40.59
【PM9:58 平沢唯】

梓「い、一回だけですからね!」

唯「うんうん!」

梓「絶対に変な事しないでくださいよ!?」

唯「わかってるよ~」

よしっ!ついに念願のポッキーゲームができるよ!
それもあずにゃんと!
頑張ってギー太弾いてあげて良かった!

私は和ちゃんが置いていったイチゴのポッキーを開封し、袋から一本だけ取り出すと、端っこを口にくわえた。

唯「準備おっけー!」

あずにゃんは顔を赤らめて

梓「うぅ……失礼します……」

と行って反対側の端っこをくわえた。
かわいいなぁあずにゃん!

ふっふっふ……一度始めちゃったらこっちのもんじゃーい!

204: 2010/05/23(日) 18:47:05.98
【PM9:59 平沢憂】

こんばんは!平沢憂です!

律さんに澪さん、紬さんに和ちゃ……和さんが、イチゴのポッキーを持ってきてくれました!
それも大量に!

私がいくら探しても見つけられなかったのに……どこでこんなに買ってきたんだろう?

憂「本当にありがとうございます!」

律「お礼なら澪に言いなよ。ぜーんぶ澪が買ってきたんだし」

澪「おい律!?」な、何言ってるんだ!違う!憂ちゃん、違うからね!」

なるほど、あの時澪さんが抱えてた買い物袋の中はこれだったのかな?

まぁいいや!
これだけあれば、何回でもお姉ちゃんとチュー……じゃなくてポッキーゲームが出来るし!

私はみなさんを家の中に招き入れました。
玄関には梓ちゃんの靴がありました。
やっぱりもう来てたんだ。謝らないと。

私は居間のドアを開けました。

207: 2010/05/23(日) 18:57:48.26
【PM10:00 秋山澪 田井中律 琴吹紬 真鍋和】

唯「あずにゃ~んムチュウウウウ~」

梓「んーッ!んーッ!」

唯「ぐえっ!ポッキーが喉に突っかかった!」

なんだろうこれは。
ぶかぶかの服を着てギターを抱えた少女が、トイレの芳香剤の匂いのする少女を押し倒し、唇を奪い、私達が渡すはずのイチゴのポッキーを喉に詰まらせている。

今日、私達は色んな苦難を乗り越えた末、この場にいる。

ポッキーを買いにあちこち走り回り、友達を捜してほうぼう歩き、ケガの手当をして夕飯を作った。

その結果、私達はここにたどり着いた。
何も得るモノもないこの場所に。


私達は、家に帰った後の自分を想像して、絶望した。
私達には、ただ大量の宿題が残されただけだった。

209: 2010/05/23(日) 19:00:01.79
【PM10:00 平沢憂】

こんばんは。平沢憂です。

唯「あずにゃ~んムチュウウウウ~」

梓「んーッ!んーッ!」








ごめんなさい。
やっぱり泣くのを我慢できそうにないです。

213: 2010/05/23(日) 19:08:57.01
【翌日 PM5:02】

「いやー、結局みんなで宿題分担してなんとかなったな」

「私宿題のことなんてすっかり忘れてたよ~」

「全く、和も呆れ果ててたぞ……」

「唯先輩、今日はとことん練習しますからね!」

「あう……まだ怒ってらっしゃる……」

「あ、そうだ澪。もうご飯あげたー?」

「だから今週は唯が当番だろ?」

「そうだったそうだった!でももうご飯なくなっちゃったよ」

「あら、じゃあ私持ってくるね」

「あ、大丈夫だよ~昨日もらったイチゴのポッキーがあるじゃん!」

「はーいトンちゃーん!ご飯だよ~」

おい、やめろ。


216: 2010/05/23(日) 19:11:40.75
おしまいです
支援&保守サンクス

217: 2010/05/23(日) 19:14:20.02


憂がちょいとかわいそうだけど

218: 2010/05/23(日) 19:14:31.02
>>1乙、面白かったwww

引用元: 唯「Pocky Games」