1: 2021/12/22(水) 20:45:30.205
男(今日もぼんやりと、町をぶらぶらふらふら……)

男「あー……金ねえなぁ」

男「ん?」

青年「ちょいと、そこのお父さん。いい店あるんだけど」

男「誰がお父さんだ!」

青年「こりゃ失礼しました。お兄さん、いい店あるんだけど」

男「どんな店?」

青年「美女とお酒を飲めちゃう店」

男「あー、そういう店かぁ」

3: 2021/12/22(水) 20:49:31.886
男「悪いけどさ、金ねんだわ」

青年「どのぐらい持ってます?」

男「とりあえず1000円札一枚」

青年「いいですよ、1000円ポッキリで! いかがです?」

男「えっ、1000円でいいの!?」

青年「出血流血大サービスです」

男「よっしゃ、行くわ!」

青年「一名様ごあんなーい!」

4: 2021/12/22(水) 20:52:35.979
青年「入って下さい」

男「よいしょと」

青年「あ、靴は脱いで下さい」

男「え、なんで?」

青年「靴を脱いだ状態で、ゆっくりくつろいで頂くのが当店のスタイルですから」

男「へえ、変わってんね。失礼しまーす」

5: 2021/12/22(水) 20:55:10.359
美女「いらっしゃいませ……」

男「おほっ!」

男(おしとやかで俺好みのいい女じゃないか! 本当にこんな女と飲めちゃうのか!?)

美女「日頃のことは忘れて、ゆっくりおくつろぎ下さい」

男「実際色々忘れてるけど……どうもありがと」

美女「なにか飲みます?」

男「とりあえず……ビールで」

美女「かしこまりました」

6: 2021/12/22(水) 20:58:32.683
美女「……」トクトク

美女「どうぞ」

男「いただきまーす」グビグビ

男「ぷはっ、うめー! いやー、あなたみたいな美女とお酒飲めて最高ですよ!」

美女「私こそ。ありがとうございます」クスッ

美女「よろしければ、もう一杯いかがです?」

男「飲みます飲みます!」

7: 2021/12/22(水) 21:01:51.068
青年「お客さん」

男「ん?」

青年「当店にはなんと、美女だけじゃなく少女もいましてね」ヒソヒソ

男「え、マジ?」

青年「興味あります?」

男「まあ……コホン。うん、あるかな。多少は」

青年「ちょっと呼んできますよ」

男(こんな店で少女が働いてていいのか……?)

9: 2021/12/22(水) 21:05:14.418
少女「いらっしゃいませー!」

男「マジかよ! まだ小学生ぐらいじゃん! 大丈夫なん?」

青年「特別に働かせてましてね」

男「へぇ~、警察に摘発されないように気を付けてね」

少女「ピーナッツどうぞ」

男「お、ありがとう」ポリポリ

美女「ビールもどうぞ」

男「どもども」グビグビ

10: 2021/12/22(水) 21:08:51.680
男「どうしてこの店を始めたの?」

美女「昔を……取り戻すためですかね」

男「あー、分かる分かる。もっと若い頃はきっと華やかな生活してたんでしょ。そんだけ美人だもん」

男「だから、俺が取り戻させてあげよう! チューしよ!」

美女「どうぞ」

男「え、マジ!? いや……さすがにやめとくわ。裏から怖い人出てきそうだし」

美女「そんなことありませんって」

男「こう見えても奥手なんでね、ハハ」

11: 2021/12/22(水) 21:11:21.297
男「ビール以外なんかないの?」

美女「えぇと、焼酎がありますけど」

男「焼酎、いいねえ! 持ってきて~!」

青年「ただいまお持ちします!」

少女「ポテチはいかがですか?」

男「悪いね~、お嬢ちゃん!」バリボリ

男(こんだけ至れり尽くせりで1000円ポッキリ? ありえないだろ! マジいい店~!)

――――

――

12: 2021/12/22(水) 21:14:35.018
男「うう……」

美女「お目覚めですか」

男「う、うん……」

美女「頭の方は? なにかお変わりは?」

男「すげー痛い……ガンガンする……二日酔いみたいだ」

美女「そうですか……」

男(なんだ、今ため息ついたけど……)

青年「ではあちらからお帰り下さい。ありがとうございましたー」

男「あーい……」

14: 2021/12/22(水) 21:18:20.291
男「……」

男(すっかり酔いも覚め……また町をぶらぶらさまよう……)

通行人A「落としたらそのショックでスマホのデータ消えちゃってさー」

通行人B「え、マジ? 大丈夫だった?」

通行人A「修理屋行ったら、なんとか復旧してもらえてさ……」

通行人B「よかったなー」

男(ふん、スマホなんて持てる身分でうらやましい限りだ。俺みたいな修理しようもない人間もいるのによ)

17: 2021/12/22(水) 21:21:46.647
青年「お、またお会いしましたね!」

男「おおっ、昨夜はどうも!」

青年「どうです? 今日も寄って行きませんか?」

男「寄りたい! といいたいとこなんだけど、お金が……」

青年「いくらあります?」

男「500円しかなくて……」

青年「いいでしょう、500円ポッキリでごあんなーい!」

男「マジで!? ひゃっほう!」

18: 2021/12/22(水) 21:23:55.908
美女「また来て下さってありがとうございます」ニコッ

男「いやいや、とんでもない。ビールをもらえるかな?」

美女「どうぞ」トクトク

男「うへへ、ありがと~!」グビグビ

少女「おつまみもどうぞ!」

男「うんうん」ポリポリ

青年「もっとお酒持ってきましょうか?」

男「もっと持ってこーい!」

20: 2021/12/22(水) 21:27:58.693
男「うううっ……頭いてえ……」

美女「どうですか、記憶の方は?」

男「えー? 全然覚えてないよ……何杯飲んだかなんてさっぱり……」

美女「そう……ですか」

男「なんかガッカリさせちゃってごめんね?」

青年「じゃ、気を付けてお帰り下さい」

男「おっとっと」フラフラ

青年「大丈夫ですか?」

男「君は優しいねえ。君のような子供を持った親は幸せだろうよ」

青年「どうもありがとうございます」

21: 2021/12/22(水) 21:29:59.186
――

男(今日もぶらぶら……ふらふら……終わってんな、俺……)

青年「どうもー!」

男「おお、またか」

青年「今日もどうです?」

男「悪いんだけど……」

青年「どうしました?」

男「もう金がないんだ。1円も持ってない」

青年「だったら――タダでいいですよ」

男「は?」

青年「タダポッキリ! さ、こちらへどうぞー!」

男(おいおい、これはどういうことだ!? いくらなんでもありえない!)

23: 2021/12/22(水) 21:32:09.169
美女「は~い、いらっしゃい」

少女「お待ちしてました~」

男「……!」

男「ねえ、ホントにタダでいいの!?」

青年「もちろんです。男に二言無し! 超大出血サービス!」

男(嘘だ……こんなの何かの罠に決まってる。たとえば酔い潰して、臓器や血液を奪うとか……これぞまさに大出血)

男(だけど、俺は正真正銘の一文無し。どうせこの先もう生きてはいけない)

男(だったら人生最後……この店でとことん豪遊するのが正解じゃないか!)

男(俺はあえて……罠に飛び込む!)

25: 2021/12/22(水) 21:35:21.084
男「飲むぞ~!」

美女「さあ、どうぞどうぞ!」

少女「おつまみもあるよ!」

青年「なんでしたら、カラオケもいかがです? マイクを用意してあります」

男(もう……どうにでもなれ!)

男「今夜は楽しむぞ~!」

イェーイ!

26: 2021/12/22(水) 21:38:08.311
男「うう……トイレはどこだ……」

美女「あちらです」

男「うぷ……あ、ありがと……」

男「うえええ……」ヨロヨロ…

少女「あ、あぶないっ!」

男「あっ……」ツルッ

ゴンッ!

――――

――

28: 2021/12/22(水) 21:41:09.262
男「……」

美女「大丈夫!?」

少女「しっかりして!」

青年「あ、目を覚ましたみたいだ!」

男「ん……」

美女「起きて! あなた!」

男「ああ……お前たち、どうしたんだ?」

美女「!」

29: 2021/12/22(水) 21:43:23.643
青年「今、“お前たち”って……」

少女「思い出したの!?」

男「思い出した……。閉じてた蓋が開いて、中身が全部飛び出してくるような感覚だよ……」

男「俺の妻に、息子に、娘じゃないか……。それにここは俺の家……」

美女「よかった……!」ガシッ

男「うおっ!」

30: 2021/12/22(水) 21:45:58.487
男「ええと、これはどういうことなんだ?」

青年「お父さんは会社の飲み会で、結構飲まされちゃって、頭を打ってしまった」

男「ああ、そんなこともあったような……」

青年「それで記憶をなくしてしまい、会社にも寄らず、ふらふら町をさまようようになった」

青年「とりあえず、会社には休職にしてもらったんだけど……」

美女「手の施しようがないから、お医者さんに相談したら……」

美女「『もう一度同じような状況を再現してみてはどうか』って言われて……」

男「それで俺にお酒を飲ませてたわけか」

男(スマホだけじゃない。人間だってちゃんと修理すれば戻るんだな)

31: 2021/12/22(水) 21:48:25.378
男「みんな、すまない。迷惑をかけた。ありがとう」

美女「いいのよ……だってあなたの妻なんだもの」

男「それにしても、やけに俺好みの女性だと思ってたら……そりゃそうだよ」

男「だって結婚相手なんだもの」

美女「あなたったら……大好き!」ガバッ

アッハッハッハ…

青年「いい年して、いちゃついちゃって……」

少女「ヒューヒュー!」

――――

――

33: 2021/12/22(水) 21:51:43.900
その後――

男「精密検査も異常なかったので、今日から復帰します」

上司「うむ、頑張ってくれたまえ!」

同僚「待ってたよ!」

OL「お帰りなさい!」

パチパチパチ…

男(ようし、今日から愛する家族のためバリバリ働くぞ!)

34: 2021/12/22(水) 21:55:36.920
男「今日は遅くなっちゃった……」

客引き「どうです? お客さん、ちょっと飲んでかない? サービスしちゃいますよ?」

男「……」

客引き「日頃の嫌なことをパーッと忘れちゃおう!」

男「やめておくよ。もう二度と忘れたくないものがあるんでね」







― 完 ―

37: 2021/12/22(水) 22:03:55.445

イイカゾクダナー

引用元: 男「えっ、1000円ポッキリで美女とお酒飲み放題だって!?」