1: 22/01/04(火)22:45:42
【ご注意】


文香、美波、美優「テ、テ、テレビを見るときは~♪部屋を明るくして離れてみてね♪」

2: 22/01/04(火)22:48:23
346プロダクションのとある一室。

ここは三船美優、新田美波、鷺沢文香のヴィジュアル特化ユニット【SunSetVenus(通称:SSV)】が事務所として使用している。

この部屋で事件が起こらないことは、基本的にない。

「美優さんのバカーーーーーー!!!」

文香の怒号が窓ガラスを揺らす。

涙目で顔を真っ赤にして憤慨する文香の前で、美優はひっくり返ってピクピクと痙攣していた。

至近距離で大声を食らって気絶しているのだ。

「ど、どうしたの、文香ちゃん!」

美波が文香を宥めながら事情を聴き出そうとする。

「み、美波さん……」

文香はぐすぐすと鼻を鳴らして嗚咽しながら話し始める。

「実は――」

事の始まりはつい先ほど。

3: 22/01/04(火)22:50:26
「えっ? 今なんて言いました?」

文香がゴミを見るような目で正座した美優を見下ろしている。

「えっと……杏ちゃんが『人のお金で食うご飯は最高だよ~』って言ってて……試してみたくなったというか…」

滝のような汗を流しながら目を逸らす美優。

「それで、ライブ衣装を安いところに発注して、浮いたお金で焼肉行ったんですか?」

「……はい」

「……美味しかったですか?」

「……はい。すごく…」

「そのせいで私がライブ中に……その…ぽ、ポ口リをしてしまったとしても?」

「………美味しかったです」

「美優さんのバカ――――!!!」

4: 22/01/04(火)22:52:32
「…というわけなんです」

話終わる頃には文香はだいぶ落ち着いていた。

「えぇ…」

美波はドン引きしつつ

「それは美優さんが悪いですね。100%、完全に、間違いなく」と言った。

「ですよね!??」

「ちょ、ちょっと待って!私も被害者なのよ!?」

復活した美優が慌てて言い訳する。

「私に変なことを吹き込んだのは杏ちゃんだし、それに衣装を安いところに発注したのは私の分も同じよ!ペラペラで布地もすごく少なかったんだから!」

「美優さんはだいたいいつもそんな格好になるじゃないですか……爆発とかで……」

文香の声はぞっとするほど冷たかった。

「うぐっ…文香ちゃん…的確に人のトラウマを……」

美優が胸を押さえて苦しがる。

「あ、一応美優さんにも恥じらいが残ってたんだ…」

意外そうに美波がつぶやく。

5: 22/01/04(火)22:54:34
「…とにかく、今回は許しません…」

あくまで冷たい態度を貫く文香に美優も反抗心が芽生えたようで

「文香ちゃんは怒りっぽすぎるのよ!」立ち上がって反論した。

「なっ…!私のどこが怒りっぽいと言うんですか!?」

「怒りっぽいじゃない!私のことすぐ怒鳴るし、なじるし、ボコボコにするし…」

「それは美優さんが蒔いた種でしょう?」

「た、確かに私も悪いけど……20%ぐらい…」

「100%中の100%ですよ!」

クワッと目を見開く文香。前髪に隠れてはいるがなかなかの迫力だった。

普段ならここで逃げ出したり土下座で許しを乞う美優だが、なぜか今日に限って強情で…

6: 22/01/04(火)22:56:15
「よしんば私が100%悪かったとしても、文香ちゃんの怒りっぽさは異常だわ!前は物静かだけど怒らせると怖いって感じのキャラだったのに、最近は完全にキレキャラじゃない!」

「美優さんが暴れ回るからですよ!もういいです、今日は帰ります!」

業を煮やした文香はついに事務所から出て行ってしまった。

「文香ちゃん!?み、美優さん、早く謝ってください!今回は……いえ、いつもですけど、美優さんが悪いですよ!」

焦った美波が美優を責めるが、美優はまだ納得がいっていない様子で……。

「でも、今回の件に関しては私はそんなに悪くないと思うんだけど……衣装が破れたのは業者のせいだし…」

ぶつくさと言いながら机の上に置いてあったスマートフォンを手に取った。そして誰かに連絡を取り始める。

7: 22/01/04(火)22:57:24
『もしもーし。どしたん?』

電話口に出た相手はかなり気怠げだった。

「杏ちゃぁ~ん!!助けてぇ~」

『え?なんで?嫌だけど』

即答である。

「そこをなんとかお願いしますぅ……」

『えぇ~』

「お礼に焼肉奢るからぁ……」

『よし、乗ろう』

「ありがとうございます……」

『で、何が欲しいんだい?』

「私に……謝り方を教えて下さい…」

8: 22/01/04(火)23:00:26
文香の怒りはまだ収まっていなかった。

怒りからか歩幅は広くなり、普段の倍のスピードで廊下を進んでいく。

だが、その速さがあだとなり、角から出てきた人影に気付けなかった。

ドンッ!

衝撃と共に視界が大きく揺れ、尻餅をつく。

「きゃっ……」

痛みを堪えつつ顔を上げるとそこにいたのは同じく尻もちをついた藤居朋だった。

「いたたたた…文香ちゃん大丈夫?」

「は、はい……すみません……急いでたもので……」

「あたしもごめんね。怪我はない?」

「はい……平気です……」

「えっ!?なんか元気なさそうだけど!?」

「あ、いえ…本当に大丈夫です……」

「う~ん……よかったら、話を聞かせてくれない?」

文香は迷った。

ユニットの内情を部外者の朋に話していいものかどうか……

だが、今の文香は一人でも多くの人間に悩みを打ち明けたい精神状態だったのだ。

「……内密にしていただけるなら…」

「任せて!口が堅いのは占い師の基本だよ」

小柄な朋が今日は特別逞しく見えた。

9: 22/01/04(火)23:02:58
屋外のカフェテラスに移動した文香は朋に今日起こったことの一部始終を話した。


「へぇ~…美優さん、意外とやんちゃなんだね」

「やんちゃというか……もう、ハチャメチャです…」

文香は深いため息をつき、紅茶を啜った。

「う~ん……でも、美優さんの言うことも一理あると思うな」

「えっ!?」

意外な一言に文香はカップを取り落としそうになった。

「あ、いや、美優さんが100%悪いのは変わらないんだけどさ。どーも、文香ちゃんの怒りが悪いものを引き寄せてる感じがするんだよねー」

「……どういうことでしょう?」

「考え方を変えてみようよ。美優さんに巻き込まれて酷い目に遭って、それで美優さんに対して怒ってるんでしょ?」

「……はい」

「そうじゃなくて、美優さんにを怒るから、文香ちゃんも巻き込まれて酷い目に遭うんじゃない?それでまた怒るからもっと巻き込まれて…そんな負のループ」

「………」

文香は体中を稲妻が走ったように感じた。

美優の巻き添えで大量のデンキウナギが入ったプールに落ちた時とはまた違う感覚だ。

怒りが不幸を呼び寄せている……

文香には覚えがあった。美優を叱って折檻するポジションになってからというもの、文香に降りかかる災難は強烈なものになり、回数も増している。

あまりの衝撃に彼女はティーカップを地面へ落としてしまった。

10: 22/01/04(火)23:04:26
「ちょ、文香ちゃん、大丈夫?」

「…朋さん!」

「は、はい!?」

文香は朋の手をガシッと掴むと目を輝かせた。

「まさに目から鱗…です。本当に……ありがとうございます」

「え、え~っと…よろこんでくれてよかっ…た?」

困惑気味の朋を置いてけぼりにして文香は席を立つ。

彼女は「お釣りは要りませんので」と1万円札を机に置き、足早にカフェテラスを後にした。

後ろから朋の声が聞こえるが文香の耳には入っていない。

(一刻も早く、この怒りを取り去る方法を考えなければ…)

寮に帰った文香は3連休を全て消費し、怒りを鎮める方法を研究した。

そして……

「……これです!」 後半へ続く

11: 22/01/04(火)23:06:42
新田美波は困惑していた。

SSVへ入ってからというものハチャメチャな日々が続き、もう動揺することなどほとんどないと思っていたのだが…

「カルシウム…カルシウム…」

LLサイズのジップロックに入った雑魚の干物をバリボリと頬張る親友をどう扱えばいいか、百戦錬磨の美波にも検討がつかなかった。

「えっと…文香、ちゃん?何食べてるの?」

「……小魚を干したものです…」

「な、何のために?」

「…カルシウムの補給のためです。美波ちゃんも…いかがですか?」

「え、いいの?」

「はい……寮にたくさんありますから……」

「たくさん…って、どのぐらい?」

「ひとまず50kg分購入しました…」

「ごじゅっ!?」

「……足りないでしょうか……?」

「いやいやいや!多すぎるわよ!!」

「あの人を相手にするのに、多すぎる…ということはないと思います…」

「あの人…?」

「文香ちゃん!」

ドアが勢いよく開き、『あの人』こと三船美優が現れた。

12: 22/01/04(火)23:09:04
「この前はごめんなさい!私が悪いのに、文香ちゃんを悪し様に言うなんて…どうかしていたわ」

美優は深々と頭を下げた。

「美優さん…頭をあげて下さい。美優さんの言う通り、私も少し怒りっぽくなっていたようです」

「あ、うん。そうでしょう?」

文香が一歩引くと、美優はすかさず一歩詰めた。

(あっ、これまた喧嘩になるやつだ…)

美波はバッグから高級耳栓を取り出した。だが、美波が想像したような爆音はいつまで経っても聞こえてこない。

「ふふっ……美波ちゃん、私は生まれ変わったんです。この小魚たちの…カルシウムパワーで!」

文香はまるで聖典を掲げる聖者ように両手でジップロックを持ち上げる。

(……文香ちゃんって、たまにアホになるよね…)

美波はもう何も言えなかった。

「文香ちゃん…成長したのね…」

美優の目尻に涙が浮かぶ。だが、急にキリッとした顔になり、

「でも、今のまま許されたんじゃ私の気が収まらないわ。文香ちゃん、私の誠意…受け取ってくれるかしら?」

「美優さん……勿論です」

文香も真剣な表情で頷いた。

「いきます!」

美優はそう言ってどこからか取り出した猫耳を装着すると


「許してニャン?」

と身体をくねらせて猫をまねたポーズを取った。

13: 22/01/04(火)23:09:23
同時刻。遠く離れた撮影現場にて…

「はっ!?またみくのアイデンティティの危機を感じたにゃ!」

14: 22/01/04(火)23:11:13
美優渾身の猫ポーズ謝罪を受けた文香は笑顔のままだったが、そのこめかみにはビキビキッと血管が浮かび上がる。

「しょ、少々…お待ちください」

文香はそう言ってジップロックを開くと、小魚を乱暴に掴んで口へ運ぶ。

バリッボリッバリッボリ

「カルシウム…カルシウム…」

咀嚼音と謎の呪文のみが室内に響く。

それが止むと、文香の顔は仏のように穏やかなものになり

「ありがとうございます、美優さん…それほど反省してくれるなんて…」

と美優のふざけた謝罪を難なく受け入れた。

(か、カルシウムの力ってすごい!)

美波が驚愕する。

15: 22/01/04(火)23:12:33
「さあ、これで仲直りですね」

文香が微笑む。

だが、美優は…

「じ、実は……まだ謝りたいことがあるの…」

と申し訳なさそうな顔をした。

「え?これ以上に何かあるのですか?」

「うん……」

「いいですよ、美優さん……全部吐き出してください。私は今、全ての罪を許せる気がするんです」

カルシウムによって聖母のような表情になった文香が両手を広げた。

「え、いいの?じゃあ、全部言うわね」

美優はケロッと表情を変えると淡々とこれまで隠してきた悪行を告白し始める。

「えっ!?どうなるのこれ!?」

美波は図らずも、突然始まった聖母vs悪魔の目撃者となってしまった。

16: 22/01/04(火)23:13:57
「まず、文香ちゃんのプリンを食べたのは私です」

「ふふっ、そんなことですか……許します」バリボリバリボリ

「あと、文香ちゃんが大好きな『牛乳パン』をこっそり食べたのも私なの……ごめんなさい」

「それは……仕方ありません。あれは人気商品ですから……それに、美波ちゃんが買ってきてくれましたし……」バリボリバリ

「それと……」

美優は次々に罪を告白していく。文香はその罪を許し、その度に小魚を食べていた。

(そっか…文香ちゃんが食べる小魚の量は、美優さんの罪の重さに比例してるんだ!)

なんだか楽しくなってきた美波であった。


「えっと…桃〇企画の時、文香ちゃんをう〇ちまみれにして冬の海に幽閉しましたけど…ごめんなさい、あれわざとです」

「ゆ、許します……」バリボリバリバリバリ

最初の方こそ神妙に罪を告白していた美優だが、その態度はだんだんと軽くなっていった。

17: 22/01/04(火)23:15:37
「脱出ショーのときも間違った番号を伝えて文香ちゃんを爆破しちゃいました……でも、これは本当に間違えただけなので仕方ないですよね?」

「……はい、仕方ないです……許します…」バリボリバリボリバリボリバリボリ

(文香ちゃんが小魚を食べるペースが上がってる……それにしても、美優さんの悪行の引き出しは一体どれだけあるの!?)

ゴクリ、と喉を鳴らす美波。


「それから……私がクイズに答えて、文香ちゃんが走るゲーム…名前は何だったかしら?忘れちゃったけど、あれも2問ぐらいはわざと間違えたのよね…文香ちゃんが運動不足になるといけないと思って」

「そ、そうなんです…ね……カルシウム…カルシウム…私のことを考えていただいて、ありがとうございます……」ボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリ

「いえいえ、年長として当然のことをしたまでです。そのあと結局、文香ちゃん、ローラーでぺったんこになっちゃいましたけど…あれもストレッチだと思えば良いんじゃないかな?」

「カルシウム…カルシウム…カルシウム…」バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ

「あっ!こ、小魚が!?もうやめて美優さん!文香ちゃんのカルシウムはゼロよ!もう勝負はついたのよ!」

美波の叫びもむなしく、美優は更に追い打ちをかける。

18: 22/01/04(火)23:18:38
「あっ、これはまだやってないんだけど、実は『他人のお金で食べるご飯は美味しいのか』検証企画第2弾を考えてて……今度はお寿司にしようかな?」

「カ、カル……カルゥ~…」

文香は必氏に怒りを堪えながらジップロックの小魚を掴もうとする。







「お寿司の話したらお魚が食べたくなったわね…文香ちゃん、少しちょうだい?」

先に手を突っ込んだ美優が残りの小魚を全て掴み、その口へ放り込んだ。

「ああ~~~~~~~~~~~~~!?」

美波が絶叫する。美優はきょとんとした顔で小魚を頬張っていた。

「へ、ヘイ、シ〇!カルシウムが切れるとどうなるの!?」

美波はスマートフォンを取り出しありったけの声で叫ぶ。

『すみません、意味が分かりません』

美波が狼狽する一方で、文香は実に穏やかな表情をしていた。

「ふ、文香…ちゃん?」

文香は一瞬だけ美波に笑顔を向けた。

まるで天使……でも、地上に破滅をもたらすタイプの天使だ。
美波はそう思った。

「美優さん……」

ゆらりと幽鬼のように立ち上がった文香。

「文香ちゃん、どうしたの?」美優が首をかしげる。

美波は素早く高級耳栓を装備し、対衝撃姿勢を取った。

19: 22/01/06(木)00:30:06
「バカーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

文香の怒声はビルの窓ガラスを全てカチ割り、コンクリートをビリビリと震わせる。

ドゴォォォォォォン!!!346プロダクションビルは粉々になって崩れ落ちた。

20: 22/01/06(木)00:37:17
「いたたたた……し、氏ぬかと思った…」

瓦礫の中から美波が這い出してくる。

「ああ…これで今年何回目だろう…」

崩壊したビルの残骸を見てぼそりと呟く。

「ぷはっ!」

近くに上半身だけ瓦礫に埋まっていた美優も何とか自力で脱出した。

「文香ちゃんは……?」

彼女は美波を見つけると、真っ先に文香の安否を尋ねる。

「あっ、あそこ!」

周囲を確認した美波は、瓦礫の上にポツンと立っている文香を見つけた。

「文香ちゃん!」

「え、あ、ちょ、美優さん!?」

美優は一目散に文香のもとへ走っていく。

「ふ、文香ちゃん…まだ怒ってる?」

恐る恐る文香の顔を覗き込んだ。当の文香は…

21: 22/01/06(木)00:40:34
「……素晴らしいです…怒りがない状態が、こんなに清々しいなんて…!」

その目は爛々と輝いていた。

風圧により前髪がオールバックになっていることで、美しい目の輝きがはっきりを見て取れる。

「文香ちゃん……いい顔になったわね」

「はい……今なら美優さんのこと、許せそうです……」

「本当?じゃあ……仲直り、して欲しいな…」

「もちろんですよ……私も、美優さんと仲直りしたいです…」

「文香ちゃん……!」

美優は感動のあまり、思わず文香に抱きついた。

「美優さぁん……!」文香も美優を抱きしめ返す。

22: 22/01/06(木)00:48:37
「よかった…仲直りできたみたい」

美波は目尻に溜まった涙をぬぐう。
それから周りの惨状を見渡して

「全然よくないけど…」

今度は別の涙が出てきた。

「すみません」

「はい、なんでしょうか?」

美波が振り向くと騒ぎを聞きつけてやってきた346署の警察官が立っていた。

「ビルが木っ端みじんになっていますが、なにがあったんでしょうか?」

「えーと…何からお話したらいいか……」

美波は事の顛末を全て説明しようとして……

「全部ディアブ〇スのせいです」

めんどくさくなってやめた。

23: 22/01/06(木)00:50:56
その後、346プロダクションビル再建のため、全アイドルに1週間のオフが与えられた。

「文香ちゃん、ヨガに行かない?心の平穏が得られるらしいわよ」

美優がパンフレットを読書中の文香に見せる。

「はい……行きたいと思います」

文香は微笑んで答えると、美波の方を見た。

「美波ちゃんも、ご一緒にどうですか?」

「いいですね、行きましょう!」

ヴィーナスたちの休暇は穏やかなものになりそうだった。

~完~

24: 22/01/06(木)14:14:28
おつおつ

引用元: 【モバマス】文香「カルシウムで耐えます」【地の文あり】