1: 2013/01/20(日) 23:36:50.88
魔王「ほう……どこに行ったか分かるか?」

側近「はっ。人間達が築いた巨大な王城に集結している模様です」

魔王「城下町で現在の勇者を排出した、あの国のか」

側近「攻略の指示は出しておりません。申し上げ難いですが、これは……」

魔王「魔族達の謀反か。人間と手を組むとはな……勇者にでもそそのかされたか」

側近「恐らく人間の王城で部隊を編成し、魔王城になだれ込んでくるつもりでしょう」

魔王「人間と魔族の両方を指揮するとはな……さすが勇者と言うべきか。尋常ではない」

4: 2013/01/20(日) 23:40:56.93
魔王「ほぼ全てと言っていたが、この城に残っている者は?」

側近「はっ。自分ともう一人……」

エルフ娘「わたしです!」

側近「王の間には入るなと言っただろう! 出て行くのだ」

魔王「いや、よい。確かお前は……」

エルフ娘「はい。1年前に、人間に襲われていたところを助けて頂いたエルフです」

魔王「長命であるエルフの肉を喰えば自らの寿命も延びる、などと勘違いした人間を粛清しただけだ」

5: 2013/01/20(日) 23:44:04.97
エルフ娘「魔王様が私の命を救ってくださったことは確かです」

側近「このエルフがどうしても魔王様に仕えたいというので、ここ魔王城の雑用をさせておりました」

魔王「なるほど……」

エルフ娘「わたしが戦って、今度は魔王様をお守りします!」

側近「ふん、エルフ如きが戦力になるものか」

エルフ娘「そ、そんなことありません! わたしだって……きゃっ!?」

側近「衝撃だと? まさか!?」

6: 2013/01/20(日) 23:48:26.54
側近「魔王様! 人間と魔族の混合部隊が魔王城の門を突破しました!」

エルフ娘「そんな……! 早すぎる……」

魔王「例の王城には、まだ多く魔族の気配を感じるが」

側近「はい。その十分の一程度の数が魔王城に」

魔王「功を焦ったか、あるいは斥候か」

側近「迂闊でした。十分の一とはいえ、これだけの数です……集中すれば気配を感じ取れたものを」

魔王「大方、エルフの奴らが気配を消す魔法でもかけたのだろう」

エルフ娘「……」

8: 2013/01/20(日) 23:54:14.96
側近「魔王様、どう致しましょう? この数ならば、まだなんとかなりそうですが」

魔王「しかし、敵がこれだけではないからな」

側近「ええ。機動力の高い順に、人間の王城から魔王城へ部隊を投入してくるでしょう」

魔王「波状攻撃というやつだな。消耗戦になれば、こちらの勝率は良くて五分五分か」

エルフ娘「わ、わたし、魔族達と話してきます! 『こんなのは間違ってる』って!」

魔王「無駄だ。攻め込んできた以上、奴らも後には引けんだろう」

エルフ娘「っ……」

9: 2013/01/20(日) 23:59:16.17
魔王「側近よ、魔王城に火を放て」

側近「……はっ。ただちに」

エルフ娘「ま、魔王様……」

魔王「何も心中するわけではない。時間稼ぎだ」

エルフ娘「でも!」

魔王「身支度を整えてこい。魔王城を廃棄し、脱出するぞ」

10: 2013/01/21(月) 00:03:21.43
側近「魔王様、城に火を放ちました」

魔王「よし、空からはどの程度の敵がいる?」

側近「鳥獣系の魔族が百ほどと、それ以外の魔族が二十から三十といったところでしょうか」

魔王「ふむ。やはり数は少ないな」

側近「ええ。自分一人で十分抑えきれましょう」

魔王「ああ」

側近「自分は屋上に上がり敵の目を引きつけます。魔王様はここから一階下の窓から密かに脱出してください」

魔王「わかった」

11: 2013/01/21(月) 00:09:21.73
エルフ娘「じゅ、準備できました!」

側近「遅いぞ、エルフ」

エルフ娘「すみません……」

魔王「エルフよ。私達は一つ下の階から脱出することになった」

エルフ娘「と、飛び降りるんですか?」

魔王「魔王城からある程度離れるまで飛ぶ。私にしっかり捕まっていろ」

エルフ娘「魔王様に? わかりました!」

側近「嬉しそうな顔をするんじゃない」

13: 2013/01/21(月) 00:14:08.39
魔王「では、頼むぞ」

側近「はっ」

エルフ娘「え? 側近さんは、どうして屋上へ向かっているんですか?」

魔王「む……そこまでは説明していなかったか」

側近「自分が囮になる。そうでなければ魔王様が敵に追跡されてしまうだろう」

エルフ娘「では、後にどこで合流するんです?」

側近「なに……?」

エルフ娘「それを決めないと、魔王様と私が無事に逃げた後に側近さんが迷子になっちゃうじゃないですか!」

14: 2013/01/21(月) 00:19:58.19
魔王「迷子、か……ックックック」

エルフ娘「えっと……わたし、何か変なこと言いましたか?」

魔王「側近よ、残念ながら氏ぬことはこの小娘が許さないそうだぞ」

側近「……先代魔王から仰せつかった『我が子を守れ』という命も今日で終わりかと考えていましたが」

エルフ娘「??」

側近「エルフよ」

エルフ娘「は、はい!」

15: 2013/01/21(月) 00:25:22.80
側近「合流地点は魔王様に伝えておる。時が来れば必ず会えるだろう」

魔王「……」

側近「しかし自分も既に老兵。会えるまでに少々時間がかかるかもしれん。気長に待てよ」

エルフ娘「わかりました!」

魔王「さあ、そろそろ時間が無くなってきたぞ」

側近「屋上へ向かいます。爆発音を合図に脱出してください。魔王様、お元気で」

魔王「ああ」

16: 2013/01/21(月) 00:32:32.62
獣魔族A「ゲッゲッゲ! 誰かと思えば魔王の付き人じゃねえか!」

鳥獣魔族B「爺は無理しないほうがいいゼ! あんな腰抜けを助けてる余裕は無ぇだろ!」

側近「貴様ら……魔王様への不敬罪だぞ!」

鳥獣魔族B「何言ってんだコイツ! 残ってんのはテメエだけだろうがよ!」

鳥獣魔族A「側近様が直々に刑を執行ってか! この数を見てみろよ!」

側近「衰えたとはいえ、貴様ら全てを消し飛ばす程度の力はある!」

17: 2013/01/21(月) 00:37:36.35
エルフ娘「あの音って……」

魔王「よし、脱出するぞ。掴まれ」

エルフ娘「は、はい!」

魔王「城の裏には殆ど敵がいないな。側近がしっかり引きつけてくれているようだ」

エルフ娘「うわあ……高い……。ところで、どこに向かっているんですか?」

魔王「いや、特に決めていない。あまり長く飛んでいると発見される危険があるのだが……」

18: 2013/01/21(月) 00:42:16.56
エルフ娘「でしたら、エルフの森へ入るのはいかがでしょう?」

魔王「エルフの集落がある場所か……」

エルフ娘「はい。あの森には結界が張ってあるので、エルフがいなければ入れません」

魔王「魔族や人間達からも守られるというわけか。しかし、森に入ってもエルフ達が迎えてくれるとは思えん」

エルフ娘「わたしが説得します! 同族ならきっと話を聞いてくれるはずです」

魔王「……とりあえず行ってみるか」

20: 2013/01/21(月) 00:52:03.72
エルフ娘「ここです」

魔王「これが結界か……なるほど、確かに強固だ。私でも壊すのは至難の業だな」

エルフ娘「結界の一部を開放しました。すぐ閉じちゃうので早く入ってください!」

魔王「あ、ああ」

エルフ娘「集落はこっちです」

21: 2013/01/21(月) 00:58:53.32
エルフ娘「た、ただいま!」

女エルフA「……? あ、貴女一年もどこに行ってたの! 集落の皆心配してたのよ!」

エルフ娘「う、うん。ちょっと色々あって……」

女エルフA「とにかく皆に知らせないと」

エルフ娘「ちょ、ちょっとその前に、紹介したい人がいるんだけど……」

魔王「……」

女エルフA「貴女の後ろにいるのって、まさか……!」

エルフ娘「シーッ! Aさん、お願い! 数日だけでいいから匿ってくれないかな」

女エルフA「一体何を考えているの……」

22: 2013/01/21(月) 01:06:40.38
女エルフA「この部屋をお使いなさい。食事は三食、決まった時間で扉の前に置きますのでご勝手に」

魔王「感謝する」

エルフ娘「わたしもこの部屋を使っちゃ駄目かな?」

女エルフA「駄目よ! 貴女は自分の家があるでしょう」

エルフ娘「お父さんもお母さんも氏んじゃったし、あの家に一人じゃ寂しいよ」

女エルフA「だったら、私と同じ部屋にしましょう。とにかくこの方と同じ部屋は駄目」

エルフ娘「……うん、わかった」

23: 2013/01/21(月) 01:14:32.37
女エルフA「外には決して出ないでください。匿いきれなくなるので」

魔王「心得ている」

女エルフA「……二時間後に、夕飯を持ってきますので」

魔王「いや、今日はいい。わたしはしばらく眠る」

女エルフA「そうですか。ほら、行きましょう」

エルフ娘「うん……」

24: 2013/01/21(月) 01:21:49.64
女エルフA「明日の明け方には、男達が魔王討伐から帰ってくるわ」

エルフ娘「え……?」

女エルフA「帰ってきたら集落の全員で魔王を、魔法で拘束して人間に渡す」

エルフ娘「どうして!」

女エルフA「一体どうしたの……? 本気で魔王を匿いたいなんて異常よ貴女」

エルフ娘「魔王様は人間に襲われたわたしを助けてくれたのよ? 魔王様よりも人間のほうが余程恐ろしいわ!」

25: 2013/01/21(月) 01:30:58.23
女エルフA「確かに人間は獰猛なところがある。だけど、それももうすぐ終わりよ。勇者様が言ってたもの」

エルフ娘「勇者様は何と……?」

女エルフA「魔王を討てば世界は良い方向へと変わる。魔族と人間が手を取り合う、良い時代が来るって」

エルフ娘「そんなの、魔王様は関係ないじゃない……。魔族も人間も、一人ひとりの考え方を改めれば良いだけなのに……」

女エルフA「貴女は若いから、少し真っ直ぐすぎるだけよ」

エルフ娘「……わたしも今日は晩御飯いらない。もう寝るね」

女エルフA「そうね……そうした方が良いわ。おやすみなさい」

26: 2013/01/21(月) 01:36:23.86
エルフ娘「……てください。起きてください!」

魔王「……む、どうした」

エルフ娘「明け方に、エルフの男達が魔王様を拘束すると……」

魔王「そうか……なかなかゆっくりはできんな」

エルフ娘「すぐに逃げましょう」

魔王「そうだな……」

27: 2013/01/21(月) 01:44:34.08
魔王「魔族に見つかれば敵の本隊に連絡されるのが早い。となればやはり人間の集落が隠れるのに適しているか」

エルフ「そうですね。人間は飛べないし足も速くありませんから」

魔王「確か、この森を出て西に行くと人間達の村があったな」

エルフ娘「はい」

魔王「とりあえず私はその村へ向かう」

エルフ娘「わかりました。しっかり掴まってますね」

魔王「何を言っている。お前はここに残るのだぞ」

29: 2013/01/21(月) 01:52:36.56
エルフ娘「どうしてですか!」

魔王「お前はここが故郷なのだろう。残らない理由が分からないが」

エルフ娘「人間から救ってもらったときに誓ったんです! わたしは氏ぬまで魔王様に仕えます!」

魔王「お前がいたところで、足手纏いにしかならん。私のことを思うのなら、素直に残れ」

エルフ娘「そ、そんなことを言っても無駄です。この森の結界は出るときもエルフが必要ですから」

魔王「ならば大火力で破壊しよう。至難の業だとは言ったが、不可能ではない」

エルフ娘「魔王様が結界の中でそんなことをして、集落ごと破壊するとは思えません」

魔王「……」

30: 2013/01/21(月) 02:05:12.26
エルフ娘「ほら、暗いけど見えてきましたよ!」

魔王「はしゃぐな。落ちるぞ」

エルフ娘「今度は……きっと、匿ってくれますよ! わたしが絶対説得します!」

魔王「同族ですら駄目だったのにか。そんな楽観的な考えだから人間に喰われかけるんだ」

エルフ娘「どうにかしてみせます……どんなことをしてでも」

魔王「……妙なことは考えるなよ」

31: 2013/01/21(月) 02:12:01.11
エルフ娘「着きましたね」

魔王「ああ……しかし様子がおかしい」

エルフ娘「え?」

魔王「人の気配が全くしない。生活感は確かにあるんだが……」

村人A「やっぱりエルフの薬は本物だべなー。ほい、逮捕っと!」

魔王「なっ!?」

32: 2013/01/21(月) 02:18:42.36
村人A「魔王が来るから気をつけろって文書がエルフが魔法で送ってきたんだっぺ」

村人B「ついでに薬と道具もだなー。薬は気配消しで、道具は手錠みたいだなー」

村長「悪いがその手錠は魔族の力を封じ込める代物らしい。魔王とはいえ二時間は動けんじゃろう」

エルフ娘「そんな……」

村人A「そのエルフも魔王の仲間だっぺか? こっちも逮捕するか?」

村人B「大人しくしておけば、命までは取らないんだなー」

34: 2013/01/21(月) 02:27:15.86
村人A「これだけベッピンなエルフなら、働く方法はいくらでもあるっぺ。うへへ」

エルフ娘「ひっ、触らないで! ……ううん、わたしが何でもするから、魔王様は!」

村人B「ふへへーどうしようかなー」

村長「討伐に出たエルフ達と集落のエルフ達が、こちらに向かっているそうだぞ。魔王よ」

魔王「そうか……ならばその娘には触らないほうがいい。同族に手を出したとなれば、貴様らがエルフに殺されるぞ」

村人B「むう、残念なんだなー」

村長「まあよい。何も無い村じゃが、しっかり休んでいくとよい。魔王よ……ほっほっほ」

エルフ娘「魔王様……」

35: 2013/01/21(月) 02:38:36.52
エルフ娘「こんなの酷いよ! 皆勘違いしてるのよ……!」

女エルフA「勘違いしているのは貴女よ。これで正しかったと思える日がいつか来るわ」

女エルフB「拘束完了。あとはお願いね」

男エルフA「ああ、わかった」

魔王「……」

エルフ娘「ちょ、ちょっと待って! ねえ! 魔王様を連れて行かないでよ!」

男エルフA「おい……、どうしてエルフが魔王を庇っているんだ?」

エルフ娘「だってわたしは魔王様に救われて……!」

36: 2013/01/21(月) 02:46:45.71
魔王「ックックックック……」

男エルフB「お、おい、笑ってるぞこいつ……」

男エルフA「何が可笑しい!」

魔王「いや、その小娘の言っていることが可笑しくて仕方無いんだよ」

エルフ娘「え……?」

魔王「一年前のことだがな。偶然目に止まったから犯してやったんだ。身も心もな。そのせいで狂って妄想ばかり口走りやがる」

女エルフA「なにを言って……!」

37: 2013/01/21(月) 02:50:29.51
エルフ娘「妄想なんかじゃない!」

魔王「私は魔族の王だぞ? 人間でも魔族でもない、半端者のエルフを助けるわけがないだろう」

女エルフA「やっぱりね……『魔王様に救われた』なんて妙だと思ったのよ」

魔王「救われたってのはあながち間違いじゃないかもしれんな。一年間も良い夢を見せたんだ」

男エルフA「貴様……!!」

魔王「どうした。貴様如きでは私に傷一つ付けられないぞ? さっさと勇者のところに連れてゆくがいい」

エルフ娘「い、いま魔王が言ったことは全部デタラメ! お願いだから皆信じないで!」

魔王「この期に及んで、まだ狂ったことを言うか……まあ、お仲間のエルフに慰めてもらえ。小娘」

男エルフA「黙れ! さっさと来い!」

38: 2013/01/21(月) 02:56:15.18
女エルフA「……帰りましょう」

エルフ娘「……きっと、魔王様がわたしに罪が及ばないようにわざとあんなことを言ったの」

女エルフA「貴女は疲れているのよ。身も……心も」

エルフ娘「魔王様は……悪くない……」

女エルフA「そうね、とにかく集落へ戻りましょう」

エルフ娘「まおうさまは……わる……く……」

女エルフ「……眠っちゃったか。この子には時間が必要ね……」

39: 2013/01/21(月) 03:05:20.33
勇者「やあ、お久しぶり。魔王」

魔王「私は貴様に会った覚えがない」

勇者「そうかも知れないね。僕はお前を一年ほど前に見たよ」

魔王「ほう……」

勇者「僕が勇者という天命を受けてすぐのことだった。この国周辺の魔物を倒していると、変な騒ぎ声が聞こえてね」

40: 2013/01/21(月) 03:12:31.81
勇者「その騒ぎ声の方向へ行くと人間を二人、お前が魔法で焼き頃してた」

魔王「……」

勇者「エルフが近くにいたことを考えると、きっとあの二人の人間はお前からエルフを助け出そうとしたんだろうね」

魔王「まあ、そう思うのならそうなんだろう」

勇者「その時の僕では、お前を倒すことがどう考えても不可能だった」

魔王「この拘束具が無ければ、今でも負ける気はしないぞ?」

勇者「……とにかく僕は、その時エルフを助けることができなかったんだ」

41: 2013/01/21(月) 03:17:33.70
勇者「僕は焼け焦げた二人の姿や、悲しむエルフの姿を脳に刻んでこれまで頑張ってきた。それがこの結果だ」

魔王「そうか。たった一年で私をこのザマにしたのだから大したものだ。それも自らの手を使わずに」

勇者「僕が魔王を倒すんじゃない。世界が魔王を倒すんだ。そうでなければ第二、第三とお前は現れるんだろう?」

魔王「まあ、その通りだ」

勇者「世界は変わる。人間と魔族が共存するんだ。その為に……」

魔王「その為に私を頃す、か?」

42: 2013/01/21(月) 03:22:25.60
勇者「そうじゃない。それでは意味がない」

魔王「だったらどうする?」

勇者「お前を説得する。お前が二度と悪事を働かないようにね」

魔王「説得だと? なんと甘い勇者だ。私が魔族の王だということを忘れているらしい」

勇者「お前が何を言おうと、絶対に説得するよ。僕は三ヶ月でお前の城にいるほぼ全ての魔族を説得できたんだ」

魔王「貴様は勇者よりも、王に向いているよ」

勇者「お前が説得に応じたら、この牢から出してあげるよ。変わる世界を見せてあげたいからね」

魔王「ならば私は一生、牢で暮らすことになりそうだ」

勇者「何十年かかってもやり遂げるよ」

魔王「好きにしろ。私は眠る」

43: 2013/01/21(月) 03:26:41.04
勇者「やあ、こんばんは」

魔王「毎日来るのか? 勇者様もお暇なことだ」

勇者「お前を説得できるまで勝利とは言えないからね」

魔王「好きにしろ」

勇者「悪いことをする気は無くなったかい?」

魔王「一日二日で変わるものか。この牢から出たらまず貴様を焼き頃してやる」

勇者「……」

45: 2013/01/21(月) 03:33:08.71
勇者「やあ、こんばんは」

魔王「正直言って、毎日お前の顔を見るのは気が重い。今日は帰れ」

勇者「そうか。じゃあまた明日くるよ」

魔王「やけに物分かりが良いのだな」

勇者「時間はたっぷりとあるからね。それじゃ」

魔王「……寝る」

46: 2013/01/21(月) 03:42:37.02
エルフ娘「……様! 魔王様! 起きてください」

魔王「私もついに幻覚が見えてきたか。たった三日でみっともない」

エルフ娘「ここから出ましょう! この牢はエルフが作ったものです。わたしなら開けることができます!」

魔王「幻覚ではないのか……よくここまで侵入できたな。お前もしつこいぞ。どうせ逃げても追っ手が来る」

エルフ娘「でも……!」

魔王「帰れ。お前まで牢屋行きに……」

勇者「ああ、ごめん。魔王、言い忘れてたことが……」

魔王「くそっ……」

47: 2013/01/21(月) 03:50:43.11
勇者「エルフ……? どうしてこんなところに」

エルフ娘「勇者様……!」

魔王「小娘! さっさと逃げろ!」

エルフ娘「逃げるなら魔王様と一緒にです!」

勇者「牢と拘束具を!? 何をするつもりだ」

エルフ娘「魔王様、早く走って!」

魔王「しかし、すぐに……」

エルフ娘「いいから走って!」

48: 2013/01/21(月) 03:55:47.24
勇者「あのエルフは……まさか、僕の勘違いだったのか……?」

衛兵「何事です! はっ……魔王の脱走!? すぐに追っ手を!」

勇者「いや、いい……」

衛兵「は……?」

勇者「様子を見よう。もしもう一度悪さをするようなら、再び牢屋に入れるだけだ」

49: 2013/01/21(月) 04:02:55.15
……十年経っても魔王が世に現れることは無く、王となった勇者が魔王氏亡宣言を出した。

それからは人間と魔族の共存に、誰もが違和感を覚えなくなった。

……さらに七十年後。

王「結局……魔王は……現れなかった……な……」

側近「どこかであのエルフの小娘と、静かに暮らしてらっしゃるのだろう」

王「しかし……君が……生きている……ことを……伝え……損ねてしま……った」

側近「気にしなくてよい。身体の再生に数年もかかった自分の責任だ」

王「私の……一人息子は……王の器……ではない……魔王に……私の役目を……託したかった……」

50: 2013/01/21(月) 04:08:28.56
側近「数年、様子を見るだろう。お前の息子が本当にどうしようもない者ならば、きっと魔王様は現れる」

王「なんと……」

側近「魔族と人間の混ざりあったこの世界は平和だが、混沌と紙一重だ」

王「ああ……もしも……息子が道を……外す……ようなら」

側近「その時は、再び魔王城を築く。……魔王様と一緒にな」

王「それと……エル……フの……小娘……だろう……? ハハ……ハ……」

側近「……」

王「結局……私は………負けたのだ……魔王…………に………………」

側近「……人間の王よ、安心して眠れ」

52: 2013/01/21(月) 04:12:43.43
……勇者の老衰による氏から二十年後。生前勇者が語った懸念通りの結果となった。

魔族は人間よりも下の存在だと新しい王は言う。

それに対して、魔族も人間も違和感を覚えなくなる時代が来た。

町娘A「今日は王様の誕生日パレードだから騒がしいねー」

商人A「こんなときこそ稼ぎ時じゃあ!」

女エルフC「あの王様、どうも好きになれないのよねー。どうしてだろう」

女エルフD「さあ、顔とかじゃない?」

鳥獣魔族C「パレードかぁ。オレもあそこにいる衛兵の仕事についてみてえなあー、給料いいんだろ?」

商人B「人間が時給2400、魔族が1500ってところらしいなー。俺は腕っ節弱いから無理だけど」

53: 2013/01/21(月) 04:14:36.44
女エルフE「本当にやるんですか?」

男A「それが私の役目であり、責任だ」

女エルフE「……わかりました。魔王城の跡で待ってますから、すぐ来てくださいよ」

男A「ああ、国王の首を持っていこう」

女エルフE「い、いや、本当に持ってこないでくださいよ……?」
                                        おわり

54: 2013/01/21(月) 04:16:09.41

引用元: 側近「魔王様! ほぼ全ての魔族が、城からいなくなりました!」