1: 2009/12/06(日) 09:26:39.80

さわ子「チョリース!」

さわ子「今日はピチピチのYシャツとタイトミニスカートとガーターベルトよ澪ちゃん!」

澪「いやだあああああああああ」ダダダダッ

さわ子「待ちなさい澪ちゃ~ん!」ダダダダッ

梓「……」

先生が新しい衣装を持ってくるといつも騒がしくなる。

唯「澪ちゃんなら絶対似合うよ~!」

確かに澪先輩ならすごく似合うだろう。
胸が大きくてスタイルいいし頭もよくて実は運動もそつなくこなす。
…スタイル以外は関係ないか。



4: 2009/12/06(日) 09:37:12.61
さわ子「ハアハア…そろそろ観念したらどうかしら?」

澪「い、嫌です!」

唯「そんなに嫌だったら私が着ちゃおうかなあ…」ソワソワ

律「いやあ唯には似合わないんじゃないか?」

唯「りっちゃんひどーい!」

ちょっとだけ同意してしまった。
来てみなければわからないかもしれないけど。

律「ムギのほうが似合うんじゃないか?」

ムギ先輩は似合いそう…



5: 2009/12/06(日) 09:39:49.13

唯「確かにムギちゃんのほうがスタイルいいからなぁ」

唯「あずにゃんはどう思う?」

梓「着てみないことにはなんとも…」

濁してみた。

唯「そっかー」

そうこうしているうちに澪先輩は着せ替えさせられていた。

さわ子「さすが澪ちゃん!似合うわね…」ゴクリ

紬「ええ…先生、指し棒はないんですか?」


6: 2009/12/06(日) 09:41:33.66

澪「うう……」

紬「もじもじしているところも尚良し…」

ぱつんぱつんな服のせいでボディラインが見えて非常に色っぽい。
やっぱり澪先輩に良く似合う。というかそのスタイルならなんでも似合う。

唯「やっぱりスタイルがいいのってうらやましいなあ…澪ちゃーん!」ガバッ

澪「うわあ!やめろぉ~」

唯「よいではないか~、おあ~ふかふかだあ」

澪「ひっ!?ドコ触ってるんだよ!」

唯先輩がいつも私にするように抱きついている。
いや…私にはあんなことしないか。胸ないし。


7: 2009/12/06(日) 09:45:57.53

律「どうした梓~唯が構ってくれなくて寂しいのかなぁ?」

梓「ち、違いますよ!」

唯「なんだって~ごめんよあずにゃぁ~ん!」ぎゅ~

唯「ああ、あずにゃんはちっちゃくてかわいいねえ。さすがけいおん部のマスコットだよ!
  ついでに猫耳をつけてあげよう~」

う…
いつも言われていることだけどちょっと悔しい。
私だって澪先輩みたいにスタイル良くなりたいのに。

唯先輩に可愛がってもらえるのは嫌じゃないけど…


8: 2009/12/06(日) 09:49:27.63

さわ子「さて、そろそろ次の衣装にチェンジよ澪ちゃん!」ジリ…

澪「え゛」ジリ…

澪「もうい゛や゛だあああああ」ダダダダッ

さわ子「もう諦めなさーい!」ダダダダッ

梓「また始まった…」

そのとき澪先輩を追いかける先生が何か落とした。
床に転がったそれはそら豆のように見えた。

唯「さわちゃん何か落ちたよ?」

さわ子「え?」


9: 2009/12/06(日) 09:53:24.88

唯「…豆?」

さわ子「ん?…ああ~そういえば」

さわ子「この前家に帰る途中で路上にいた占い師から貰ったのよ。
    それを植えて育てるとなんとかの実っていうのができるとか言ってたわね」

さわ子「それを食べるとスタイルが良くなるとか美容健康にいいとか言うから貰ってみたの。
    しんせいじゅの実…だったかしら?」

律「怪しすぎるだろそれ…それにさわちゃんには必要ないんじゃない?」

さわ子「そうなんだけどなんか面白そうだったから無理やり頂いてみたのよ」

唯「うわ~面白そう!」


10: 2009/12/06(日) 09:58:40.39

澪「いや、そんな名前の果物(?)聞いたことないしなんか怖いですよ…」

律「だよなあ。まあうちの部で欲しがる人なんて梓くらいだよな」

梓「なっ!そんなことないですっ」

ちょっと欲しかったけどつい言い返してしまった。
律先輩のからかい口調を聞くと条件反射で…こう…

さわ子「みんな夢がないわね~」

唯「私それ欲しいな!」

やっぱり唯先輩はふかふかが好きみたいだ。
どうしよう…今から欲しいって言ってみようか…

さわ子「じゃあ唯ちゃんにあげるわ」

唯「やった~!」

さわ子「さてと…じゃあそろそろ」ジリ…

澪「ひぃっ!」


11: 2009/12/06(日) 10:01:44.11

律「唯ー梓ーまたな~」
澪「また明日」
紬「またね」

唯「みんなバイバイ!」
梓「失礼します」

結局あのあと先生と澪先輩が騒いでいて、言い出せないまま部活が終わってしまった。
唯先輩と2人きりになったことだし切り出してみよう。

梓「先輩」

唯「ほい?」

梓「さっき先生から貰った種(?)のことなんですけど…私も気になってきちゃって」

唯「ん?あ~あれかあ。確かポケットにいれたはず…」

唯「…………あれ?」


14: 2009/12/06(日) 10:09:24.57

梓「……」

唯「おかしいなぁ…」

梓「…なくしちゃったんですか?」

唯「……う、めんぼくない。もしかしてあずにゃん欲しかったの?」

梓「え…いえそんなことないです」

ちょっと残念だけどなくしたなら仕方ない。
いまさら欲しかったなんて言って唯先輩に嫌な思いをさせることもないし…

唯「ごめんねあずにゃん…」

梓「いえ!気にしないで下さいちょっと言ってみただけですから!」

唯「そう…?ごめんね~あげようと思ったのに…」

梓「…いえ、いいですから」

……ばれてた?


16: 2009/12/06(日) 10:16:38.83

梓「失礼します」

唯「うん!バイバイあずにゃ…へっぷしっ!」

梓「……」

唯「ズビ…ごめんごめん。また明日ね!」

梓「はい」

しばらく唯先輩の後姿を見ているとまたくしゃみをした。
もうすぐ学園祭なのに風邪なんてひかないでくださいね、唯先輩。
私にとってはみなさんとの初ライブなんですから…


17: 2009/12/06(日) 10:20:29.59

梓「え…風邪?」

憂「うん…お姉ちゃん今朝から熱があって…」

梓「それで憂が看病してたから遅刻ぎりぎりになったのね」

憂「うん…心配だよう…」ソワソワ

梓「もうすぐ学園祭なのに…早く良くなるといいね」

憂「うん…」

唯先輩は期待を裏切らない。

……悪い意味で。


18: 2009/12/06(日) 10:28:01.50

梓「それじゃ私そろそろ部活に行くね」

憂「あ、お姉ちゃんのこと…」

梓「軽音部の人達には私が伝えておくよ」

憂「うん、ありがとう梓ちゃん。じゃあまたね」

梓「うん。また来週」

唯先輩…週明けには治ってるといいな。


20: 2009/12/06(日) 10:35:47.74

ガチャ

梓「こんにちゎ……」

部室の扉を開けると同時に挨拶したが誰もいなかった。
先輩たちはまだ来てないみたいだ。
とりあえずソファにカバンを置こうと思って歩き出したとき…

ゴリッ

梓「ん?」

何かを踏んだ。


21: 2009/12/06(日) 10:43:04.44

梓「これは…」

足を退かしてみると見覚えのあるやや小さいそら豆があった。
貰ったそばから落としていたとは…唯先輩らしいというかなんというか…

しゃがみ込んでソレを拾い上げる。
体重を乗せて踏んでしまったが、潰れていないし傷も付いていないみたいだ。
久しぶりに小柄な体型で良かったと思えた。

ガチャ

律「よーし今日も楽しいティータイムの始まりだぜ」

澪「練習もするんだからな!」

紬「ふふ」

律「あれ、何やってんだよ梓?」


23: 2009/12/06(日) 10:52:55.68

梓「あ、いえ、なんでもないです」

咄嗟にソレを握って隠す。

律「ほおぅ?な~んかいいことでもあったのかな~あずさちゃん?」

梓「え、何でですかっ何にもありませんよ」

律先輩がにやけ顔で聞いてくる。
それで気付いたが私は自然と笑みがこぼれていた。

律「んー?まあいっか。ムギ~お腹空いちゃったよ~」

律先輩の細かい事を気にしないところは長所でもあると思う。
お腹が空いていただけかもしれないけど…
他の先輩方も私の手の中にあるものに気付いていないようだ。

先輩方がカバンを置いて席につく間にこっそりとソレをポケットに仕舞った。


25: 2009/12/06(日) 10:59:20.41

律「まったく唯の奴たるんでるぞ」

澪「お前がうつしたんだろ」

律「エ?アタシ?」

紬「憂ちゃんの話だと症状も重いみたいね…」

梓「そうみたいです」

澪「学園祭までに良くなってくれるといいけど…」

澪「とりあえず…練習するか」


28: 2009/12/06(日) 11:07:34.94

律「じゃあねー梓」

梓「失礼します」

先輩方と別れてから唯先輩にメールをした。
風邪の具合のこと、学園祭のこと、そして今日拾ったソレのこと。

メールが帰ってきたのは夕食を食べた後だった。

ありがとうあずにゃん!学園祭までには頑張って治すからね!
あ、それと種(?)はあずにゃんにあげるよ!

こんな感じの内容だった。


29: 2009/12/06(日) 11:16:57.25
―――――――――――――――

――――――――――

―――――

憂「梓ちゃん帰ろ?」

梓「あ、ごめん。今日は用事があるから先に帰ってて」

純「土曜日も部活?」

梓「ううん。ちょっとね」

純「…あやしい」

憂「まあまあ…それじゃ梓ちゃんまたね」

梓「うん」


30: 2009/12/06(日) 11:20:19.30

今日は土曜日で部活もない。
私が学校に残った理由は…

梓「この辺にしようかな…」

唯先輩は私にくれるって言ったけど、唯先輩も欲しそうにしてたし…
そう考えた私は学校の校舎裏に植えることにした。
勝手に植えるのはあんまり良くないかもしれないけど、ここなら唯先輩にも見せらえる。
それに周りに草木も生えてるし1本増えたところで問題ないだろう。

手ごろな木の枝で穴を掘ってソレを埋めた。
そのあと大き目の石ころを3つ拾い集めてそれを目印にして完成。

梓「…よし。がっしり根付いてね」

お腹も空いてきたしそろそろ帰ろう。


32: 2009/12/06(日) 11:28:26.78

梓「おはよう」

憂「はあ、はあ、おはよー」

また遅刻ぎりぎりにやってきた憂に一応聞いてみる。

梓「もしかして唯先輩はまだ…」

憂「…うん。まだ熱が下がらなくて…」

梓「そっか」

唯先輩に見せようと思ったのにな…
と言っても植えたのは一昨日だしそんなすぐに芽は出ないだろうけど。

梓「…あ」


33: 2009/12/06(日) 11:36:40.48

憂「どうしたの?」

梓「あ、えっと、今日って宿題あったっけ?」

憂「うーん、今日は無かったはずだよ」

梓「そっか、ありがと」

大事なことを忘れていた。
植えたのはいいが水をやってない。土曜も日曜も。
何をやっているんだろう。部活に行く前に水をやりに行かないと。


…憂に言おうかとも思ったけどやめた。
先輩方にもだがなんとなく秘密にしておきたかった。
そのうち唯先輩が喋るかもしれないけど
なんとなく、唯先輩と二人の秘密にしようと思った。


…まだ唯先輩にも話してないけど。


34: 2009/12/06(日) 11:46:20.13

梓「うそ…」

放課後、ペットボトルに水を入れて校舎裏に向かった私は
自分の身長ほどの樹の前で呟いた。

梓「…場所間違えたかな…こっちだっけ?」

校舎裏に生えている木はどれも4メートル以上のものしかなかった。…土曜日までは。

梓「…新しく植えたのかな?」

よくよく考えてみればそれが一番しっくり来る。
たったの二日でこんなに成長することなんてありえない。

梓「でもこれじゃあ芽が出ないかもなあ…」

とりあえずその樹のまわりに水を撒いて部室に向かった。

樹の後ろには石ころが3つ並んでいた。


35: 2009/12/06(日) 11:56:12.19

律「ちょっと休憩しようぜ~」

澪「さっき休憩したばっかだろ」

律「う~ん、なんか疲れちゃって」

澪「……」

澪先輩はそれ以上反対しなかった。
今日の律先輩のドラムはパワーが足りない。
それに…

紬「実は私も今日は疲れちゃって…体育もないのにどうしてかしら」

梓「……」

実は私も…なんて言ったら今日の練習が終了してしまうので言わないことにした。


36: 2009/12/06(日) 12:03:23.78
律「はぁ~それじゃな~」

梓「はい、失礼します」

結局あの後ティータイムに入ってから練習を再開することはなかった。
澪先輩も口には出さなかったけど疲れた顔をしていた。
もしかして部員全員が風邪を引いたんじゃあ…
かくいう私も午後から少し調子が悪い。

今日は早く寝ることにしよう。


38: 2009/12/06(日) 12:12:46.49

次の日、目を覚ますと昨日まであった身体のダルさがなくなっていた。
よく寝たら治ったみたいだ。先輩方も良くなってるといいなあ。
そう思いながら登校する。

梓「…そうだ」

昨日の樹が気になったので、教室へ行く前に校舎裏に向かうことにした。
あれは別の木なんだろうけど、そうだとしてもあの周りに水を撒いておきたい。


39: 2009/12/06(日) 12:23:26.20

その樹は昨日よりも大きくなっており、なんと樹の実までもが付いていた。
まわりの木にはそんなもの付いていないし、そもそも葉は紅葉して冬の準備に取り掛かっている。

梓「…やっぱり、この樹だったんだ」

樹の実を見た私は、この樹を私が植えたものだと信じて疑わなかった。
水を撒き終えた後、樹の実をひとつもいで鞄に仕舞った。


その日の夜、私は樹の実を食べることにした。


40: 2009/12/06(日) 12:30:15.95

樹の実は朱色で表面がぶつぶつしていて、正直に言うと少し不気味だ。
コレを食べることとスタイルが良くなることを秤にかけてみる…

梓「一口だけなら…お腹壊したりしないよね」

妥協した。

包丁で二箇所に切り込みを入れて、くし型に切る。
切った感触はりんごに似ていたが中身は薄紫色をしていた。

舌を出して軽く触れてみる。
舌がヒリヒリするわけでもなく、むしろほのかな甘さが口の中に広がる。
これは…予想外に美味しいかもしれない。

梓「い…いただきます」シャリ

食感もりんごに似ていた。
味も悪くない…というかとても美味しい。
今まで食べたどんな果物よりも美味しいかもしれない。


41: 2009/12/06(日) 12:40:19.01

梓「あ…」

気が付いたら一切れ全部食べていた。
しまった…いくら美味しくてもお腹壊すかもしれないのに…

後悔し始めたその時


ドクンッ!!


梓「え…!?」

ボコッ!ボコッ!
そんな音が聞こえそうな勢いで私の身体が膨らんだ気がした。


42: 2009/12/06(日) 12:49:09.95

梓「はあ…はあ…」ブルブル

自分の身に何が起こったのか解らず、恐怖で身体が震えた。
震えを押さえるために背中を丸めて自分の腕を抱き寄せる。

だけど…
そのせいで胸の辺りが水ぶくれのように腫れていることがわかってしまった。
ブラウスで押さえられてパンパンになっていて、抱き寄せた腕が半分隠れている。
見たところ胸以外は腫れてないようだけど……


……え?


私は全身を確認してみた。
足はすらっとして腰もくびれている。
背を伸ばしてみるといつもより少し視界が高くなったような気がした。

梓「す、すごい………」

後姿も確認しようと身体をひねった時

ブチッ

と音がしてブラウスのボタンが飛んでしまった。


43: 2009/12/06(日) 12:57:01.80

梓「ほ、本当に効果があったんだ…」

この時は気が動転していて他の事を考える余裕もなくて
異常とも言える樹の実の効果に対してあまり疑問に思わなかった。
それに…嬉しかったし。

お風呂でまじまじと自分の身体を見たり、
鏡に向かってポーズをとったり、自分のスタイルの良さに興奮していた。


次の日の朝、やっぱりお父さんとお母さんに驚かれた。
が、何とごまかすことに成功した。
この異常事態をごまかせるとは…実は頭も良くなってたりして。
それからお母さんからブラウスを借りて着替えようとして気付いた。

梓「下着…どうしよう」


47: 2009/12/06(日) 13:03:50.01

梓「お母さんのブラウスでも胸の辺りがきつい…」

結局学校へ行く前に下着を買いに行いにいったので
3時間目の休み時間に合わせて登校した。
2時間分の授業をサボッてしまった…
いっそブラウスも買っておけばよかったかもしれない。

ブレザーとスカートはこれから育つだろうという希望的観測から
大き目のサイズを買っていたので少し窮屈に感じるが問題ない。

あ、どうせなら髪を解いて澪先輩みたいにすればよかったかも。
前の体型より似合うかもしれない。

そんなことを考えながら教室に入り、見知った姿に声をかける。

梓「憂~!純!おはよ」

憂「あっおはよー」
純「おはようってもう3時間目終わってるよ~」

憂純「……って、誰?」


49: 2009/12/06(日) 13:13:28.39

憂「ほんとに…」

純「梓なの…?」

梓「そうだよー」

当然だけど二人とも驚いている。
クラスメイトもこちらを気にしていた。

純「…昨日まであんなにちんちくりんだった梓が…私より(胸が)大きく…」

梓「私純より(背が)大きくなっちゃってたんだ」

純「べ、別に悔しくないもん!」


52: 2009/12/06(日) 13:17:51.69

律「あの~…どちら様?」

教室で憂達に言われたことと同じようなことを律先輩に言われた。
普通はそうなりますよね。
クラスでも軽い騒ぎが起こったし。

梓「いやだなあ、梓ですよ」

ニコニコしながら答える。

澪「う…うそだろ…?あ、もしかして梓のお姉さんとか?」

梓「私一人っ子ですよ」

律「どうしちゃったんだよ梓ー!!」


54: 2009/12/06(日) 13:26:07.11

梓「私だって成長期ですからね、成長しますよ」

まあ、成長期で片付けられるレベルではないのだけど、
もう少し律先輩をからかってみようかな…

律「いや…まさかあ……」ガクガク

澪「 」ブルブル

さわ子「チョリース!……あれ、この娘だれ?」

梓「やだなあ先生まで」

さわ子「あなた……いろいろ似合いそうねえ」


55: 2009/12/06(日) 13:35:07.52

――――――――

さわ子「じゃあ次はコレ着てみましょう!」

梓「まだやるんですか?」

と口では言うけど、今まではあまり似合わなかったような服も
バッチリ着こなせるようになったので内心楽しかった。

律「……こりゃー澪を超えてるかもなぁ」

紬「女の私でもドキッとするわね…」

律「…なあ梓ー、そろそろ本当のことを教えてくれよぅ」

そう言って席を立ち、私の元へ来ようとする律先輩。
私が話しかけようとしたその時…

律「あれ…?」

ドサッ

律先輩は倒れてしまった。


56: 2009/12/06(日) 13:43:16.43

梓「律先輩!?」

澪「律!大丈夫か!?」

律「あれー…どうしたんだろう私…」

さわ子「貧血かしら?保健室に連れて行ったほうがいいわね」

澪「そうします。ムギ、手伝ってくれ」

紬「はいっ」


保健の先生によると身体が衰弱しているらしい…
それに今日はそういう生徒がたくさん来たと言っていた。


57: 2009/12/06(日) 13:52:11.59

澪「律は私が送っていくよ…」

そう言って先輩方は帰って行った。
なんだか澪先輩も疲れているように見えたけど…

私は一晩寝たら治っていたし、むしろ今朝から調子がいい。
でも先輩方やクラスメイト、先生まで疲れた顔をしていた。


律先輩に澪先輩…大丈夫かなあ。


58: 2009/12/06(日) 14:00:54.64

次の日の昼休みにムギ先輩が私の教室へやってきた。

梓「え…律先輩と澪先輩が休み?」

紬「ええ…だから今日の部活はお休みにしようと思うの」

梓「そうですね…3人も休みじゃ仕方ないですよね」

梓「ムギ先輩も体調悪そうですけど大丈夫ですか?」

紬「…今日ゆっくり休めば多分大丈夫だと思うわ」

梓「そうですか」

ムギ先輩はそう言ったけど

午後の授業中に倒れてしまった。


64: 2009/12/06(日) 14:10:25.28

憂「それじゃまた明日ね」

梓「うん」

憂は最近授業が終わるとすぐに家に帰る。
先生から最近体調不良の生徒が増えているからと注意もあったし
きっと唯先輩が心配で仕方ないんだろう。

現に今日は空いてる机が目立った。
それに私のクラス以外も少なくない欠席者がいたらしい。
純も休みだったし…


65: 2009/12/06(日) 14:19:34.18

そして我らが軽音部は私以外みんなダウンしてしまった。
この分じゃ学園祭でライブは出来ないだろうな…

それともうひとつ嫌な予感がした。

予感というよりは嫌な考えが頭をよぎったのだが、
あまりにも突拍子のない考えだったし、証拠も無かったから
深く考えないことにした。

梓「…あ、帰る前に水やりに行かなきゃ」

校門に向かう途中で最近出来た日課を思い出した。


66: 2009/12/06(日) 14:25:54.46

梓「あ……」

ペットボトルに水を汲んでから校舎裏へ向かう。
そこには他のどの木よりも大きくなっているあの樹があった。
今日も成長してるだろうと思っていたので驚きは少なかった。

それよりも周りの草木に葉が一枚も付いていないことで
余計に際立ったあの樹を見て…言いようのない不安に駆られた。

確か回りの木には紅葉した葉がついていたはずなのに…
今はただの枯れ木にしか見えない。

あの樹が回りの草木から滋養を吸収してるようにしか見えなかった。

私は水の入ったペットボトルを鞄に仕舞った。
そもそも水遣り自体無意味かもしれないけど…
それでも水を撒く気にはなれなかった。


69: 2009/12/06(日) 14:34:36.96

梓「明日憂や先生に相談してみようかな…」

当然樹は切られるだろうし多分…いや絶対怒られるな…
唯先輩に見せたかったけど…しょうがないか。

樹を見上げると赤く熟れた実が昨日よりも増えていた。
一番低いところになっている実でも私の身長より2メートル近く高い所にあった。

梓「せめて樹の実だけでも…」

前回とった樹の実は冷蔵庫で保存しようかとも思ったが
家族に食べられるといろいろまずそうなので処分した。

これ以上成長されたら実が取れない高さになるかもしれない。
その前に樹を切られるかも。
どちらにしてもやるなら今しかない。


70: 2009/12/06(日) 14:41:40.72

あたりを見回してみるが当然高枝切りバサミもハシゴもない。
ついでに周りには誰もいない。

誰もいないなら…

私は鞄を置いて樹から数歩下がる。

梓「…よし」

もう一度人がいないか確認してから樹に向かって走り出す。

梓「よっ!」

左足を踏み込み樹へ向かってジャンプ。
さらに右足で樹を蹴りより高く飛び跳ねる。
その先にある樹の実へ左手を伸ばすとしっかり掴むことができた。

自分でもびっくりするくらいうまくいった。
これも樹の実のおかげなのだろうか。


家に帰り、自分の机の一番下の引き出しに樹の実を仕舞った。


73: 2009/12/06(日) 14:50:39.23

いつもより早く目が覚めた。

パジャマのままリビングへ向かう。

梓「おはよう」

 「…おはよう」

なんだかお父さんもお母さんも体調が悪そうだけど大丈夫かな。

それでも二人とも出かける支度をしているので私も学校へ行く準備に取り掛かる。
今日もお母さんのブラウスを借りた。近いうちに自分のブラウスを買いに行かなきゃ。

梓「いってきまーす」

いつもより早く家を出る。

少し迷ったが髪はいつも通り左右に結ぶことにした。


74: 2009/12/06(日) 14:57:04.29

梓「え…学校閉鎖…」

予鈴が鳴り、教室に入ってきた副担任は今日から学校閉鎖になるので帰るようにと話した。
なんでも欠席者が全校生徒の半数以上になってしまったらしい。
担任も休んでしまったそうだ。それにクラスの生徒は数えるほどしかいない。

梓「……」

憂「さっき学校に来たばっかりなのにね」

梓「あ、憂」

憂「でもしかたないよね。帰ろう梓ちゃん…」

梓「うん」

私が席を立とうとした時

突然憂が倒れた。


77: 2009/12/06(日) 15:06:23.10

梓「えっ…うい!?大丈夫?」

憂は起きない。

梓「ねえっ!憂が!」

そう言ってクラスを見回したが、誰も返事をしない。
残っているクラスメイトはみんな机に突っ伏している。

それにやけに静かだ。
他のクラスの生徒も帰り始めているはずだからこんなに無音なのはおかしい。
また言いようのない不安に駆られるが、そんなことより今は憂をなんとかしないと。

梓「ういっ!しっかりしてっ…」

そう憂に話しかけたとき

突然大きな音と共に激しい地震が起きた。


80: 2009/12/06(日) 15:13:25.15

梓「きゃあ!!」

ありえないくらいに校舎が震え、机と椅子が跳ねる。

憂を庇おうとするけどうまく歩くこともできず転んでしまう。

そのうち壁にひびが入り、校舎に潰されるのではと恐怖していると

下からも音がしてきた。

メキメキと何かが軋む音が近くなってきたと思ったら

床や壁を突き破ってすごい勢いで何か、樹のようなものが生えてきた。

梓「うわっ…!」

私は下から突き出てきた樹に跳ね飛ばされ、何か硬いものに頭をぶつけて

気を失った。


81: 2009/12/06(日) 15:21:46.45

梓「……う」

太陽の光が目に入る。

眩しい。

半分無意識で太陽から逃れるように寝返りを打とうとして

梓「……っ!」

痛みで目が覚めた。

梓「あ……え?」

頭と背中がすごく痛い。
どうしたのだろう。
寝惚け眼をこすって目を開けると
そこには樹があった。


83: 2009/12/06(日) 15:28:07.77

梓「……あ」

鈍痛で頭が冴えてきてようやく思い出した。

あたりは巨大な樹の根と瓦礫が散乱していて学校とは思えなかった。

太陽の光は私のいた部分だけに降り注いでいて、そこ以外は薄暗くなっている。

樹の根が入り組んでいるおかげなのか校舎の全壊は免れたようだ。

梓「痛ぅ……」

ゆっくり身体を起こしてからあたりを見回す。

梓「…………憂?」


84: 2009/12/06(日) 15:37:21.47

憂は教室の端で倒れていた。

梓「憂っ!大丈夫!?」

額から血が出ている。頭を打ったのだろうか。
それに加えて憂は地震が起きる前から倒れている。

梓「ねえ憂!起きてよ!」

憂「……ぁ、あずさちゃん…?」

梓「!」

よかった。 んでいなかった。けど…


85: 2009/12/06(日) 15:43:54.82

梓「大丈夫?」

憂「……ん」

弱々しく相槌をうつ。

……だめだ。

このままじゃいずれ憂は…

憂を助けなきゃ…

梓「憂!すぐに助けてあげるから少し待ってて!」

携帯を取り出す。
画面には13:10の表記、
左上には圏外の文字が表示されている。


人を呼びに行かなきゃ。

86: 2009/12/06(日) 15:53:46.09

校舎の中に動ける人はいなかった。
かろうじて見つけた先生も生徒も誰一人息をしていない。

学校の外へ助けを呼びにいかなければ。

なんとか校舎を抜け出して正門へ向かう。

そこには地面から突き出した根っこや崩れた塀、
その先には原型をとどめていない家が見えた。

太陽の光が少ないことが気になり空を見上げると

そこには巨大な樹があり、太陽はおろかこのあたりの空は樹に隠れて見えなくなっていた。

これはあの樹なのだろうか。あまりの高さ、大きさに樹の実を確認できない。

それよりも急がないと…

根をよけながらなんとか正門を出る。


87: 2009/12/06(日) 16:00:59.97

瓦礫と樹の根のせいで自分がどこを走っているのかわからなくなる。

それに学校の周りには人がいなかった。

車の中にいた人、瓦礫に埋まっていた人、崩れていない家にいた人

誰も息をしていなかった。

どうしようもなかった。

どうしようもなかったから根拠の無いものに妄信した。

学校にある巨大な樹があの樹だったら。
この数日、樹の実を食べた私だけが健康だったなら。

それなら…

私は家に向かって走り出した。


88: 2009/12/06(日) 16:03:43.68

最初は人の姿を見かけたら声をかけた。
でも誰も返事をしなかった。
もし生きていても私にはどうすることもできない。

そのうち話し掛けるのをやめた。

頭が痛い。背中も痛い。

でもそれどころじゃない。
早くしないと憂が…


89: 2009/12/06(日) 16:12:10.69

梓「はあ…はあ…」

ようやく家にたどり着いたが
半分崩れかけていて外からでもリビングやキッチンが見えた。

慎重に家の中へ入る。

本棚やタンスは倒れていたが
私の部屋自体は原型をとどめていた。

机の一番下の引き出しをあける。

梓「よかった…」

樹の実は無事だった。

次に台所へ向かい包丁を探す。
樹の実を4分の1切り出してタッパーに入れた。

 お父さん お母さんへ
 私は無事です。学校へ行っています。
 帰ったらこの果物を必ず食べてください。

急いでいるとはいえ質素な文になってしまった。
これで食べてくれるだろうか。

いや、そもそも…


91: 2009/12/06(日) 16:20:55.55

梓「はっ…はっ…」

鞄に残りの樹の実を入れてまた学校へ向かう。

お父さんとお母さんは無事だろうか…
無事だったとして家までたどり着いてくれるだろうか。

樹の根を避け、瓦礫の上を慎重に進む。

その時突然足元が揺れる。

梓「うわっ!」

また地震だ。さっきのよりは小さいからなんとか前に進める。

とにかく今は学校へ急ごう。


93: 2009/12/06(日) 16:28:40.50

梓「ぜえ…ぜえ…」

ようやく学校へ戻ってきた。
樹に隠れていない遠くの空は学校を出る時と同じ色をしている。
荒れ果てた道のりに苦労したがそんなに時間は経っていないようだ。

梓「はあ…はあ…うい…おきてる?」

憂「……」

梓「ねえ…憂、憂ってば!」

憂「……」

声を荒げるが反応は無い。

憂は息をしていなかった。

梓「嘘……」


95: 2009/12/06(日) 16:38:31.26

梓「そんな…」

涙で憂の顔が滲む。

梓「ういぃ…」

憂を抱きかかえると右手がだらりと落ちる。
今朝まで後ろで綺麗に結ばれていた髪は解けて顔を隠している。
それを手でどけて顔を覗いた時にハッとなる。


憂にそっくりなあの人は無事なのだろうか。


梓「憂…ごめんね、また戻ってくるから…」

そっと憂を寝かせて胸の辺りで手を組ませる。

私はまた走り出した。


97: 2009/12/06(日) 16:48:42.94

唯先輩の家には何回か行ったことがある。
目印が瓦礫に変わっていても何とかなるだろう。

こうして一人で走っていると嫌な事が頭に浮かぶ。
先輩のこともそうだけど、それ以外にも。
今週から今日までに起こった事を考えると…


梓「ぜえ…ぜえ……げほっげほっ」

暫くして唯先輩の家に着いた。

走りすぎて息がうまく出来ない。
頭と背中の痛みに加えて肺と横っ腹も痛い。
倒れこみそうになるのを我慢して唯先輩の家を見る。

先輩の家は1階が樹の根で埋まっていた。


101: 2009/12/06(日) 17:00:18.77

これじゃあ家に入れない。

梓「ゆ、唯先輩ーーー!」

擦れた声で叫んでみるが大きい声が出ない。

……だめか。

家に入れるところが無いか探そうとした時。


 「…あずにゃん?」


上から声がした。

梓「唯先ぱ……」

上を向いて先輩を呼ぼうとした時

再び地震が起きた。


102: 2009/12/06(日) 17:07:58.94

梓「うわあっ!」

  「おわっ!?」

今度のはかなり大きい。よろけて地面に手を付いた。
地面が盛り上がってそこから樹の根が出てくる。
樹の根は道路や家を突き破ってどんどん成長している。
私は瓦礫の下敷きにならないように必氏であたりを見回していた。


梓「……とまった」

暫くして地震は収まった。

梓「ふう……あ、唯先輩は!?」


唯「大丈夫ー?」


上を向くとバルコニーで手を振る唯先輩がいた。


104: 2009/12/06(日) 17:16:37.30

梓「唯先輩…無事だったんだ…」

唯「大丈夫そうだね、よかった~」

唯「…お?、これなら……」

唯先輩はいったん部屋に入ると暫くして玄関があった場所から出てきた。
どうやら今の地震で1階にあった根っこの位置がずれたみたい。

唯「いやあー助かった!今朝地震が起きたと思ったら1階が木で埋まってて外に出られないんだもん」

梓「そうでしたか…」

…あれ?

梓「先輩、身体は大丈夫なんですか?」


105: 2009/12/06(日) 17:25:31.65

唯「うん。怪我してないよ」

梓「それも大事ですけど身体がだるかったりしません?」

唯「うーん、だるいかな。風邪は治ったんだけどなあ」

症状は出てるけど軽いみたいだ。どうして…

梓「…って、風邪治ってたんですか」

唯「うん。ちょっと前に治ってたんだけど憂が今学校で変な病気がはやってるから
  もう暫く休んでたほうがいいって」

憂……やっぱり憂はしっかりしてるよ。

唯「あ、ところで…」

唯「どちら様…?」

梓「あずさですよ!」

唯「ほえ?」

…そうだ、唯先輩にはこの身体になってから初めて会ったんだった。


106: 2009/12/06(日) 17:35:04.31

唯「ほんとにあずにゃんなの…?」

梓「本当です」

唯「あずにゃん…こんなに立派になってしまって…」

なんだか残念そうに見えるけど気のせいだろうか。

梓「それで…先輩に話さなきゃいけないことがあって」

唯「まってあずにゃん。憂やみんなは大丈夫なの?」

梓「あ……そのことを含めて話があるんです」


108: 2009/12/06(日) 17:45:54.37

梓「えっと……」

私がなかなか言い出せないでいると
ここじゃあなんだし…と言って唯先輩は家に入れてくれた。

唯「ぼろぼろになっちゃってるけどとりあえず座って?」

梓「はい…」

唯先輩の家のリビング…ここにも樹の根が…

唯「……それであずにゃん、話って?」

梓「はい……」

唯先輩が私の向かいに座り真剣な顔でこちらを見ている。
憂のことが心配でしょうがないはずなのに、
それでも私が話すのをじっと待っていてくれる。
ここに来るまでに考えたこと、憂のこと、みんな話そう…


111: 2009/12/06(日) 17:53:50.04

梓「憂は……今朝の地震で…し、氏んで…」

唯「……え?」

梓「わ、私が人を捜しに行って帰って来た時には…もう…」

唯「それ、本当なの?」

語気を強めて聞いてくる。

梓「……は、はい」

唯先輩の頬に涙がつたう。

唯「そんな…いやだよ……今日まだういの顔見てないよ…」

先輩は泣きじゃくりながら憂のことを呟く。


115: 2009/12/06(日) 18:05:34.18

私もまた泣きたくなってきた。
でもここで泣いたらもうひとつの大事なことが言えなくなってしまう。

泣きじゃくる先輩を見ないようにして必氏に耐える。

先輩が落ち着くまで暫く待つことにした。


――――――――――


唯「……憂は、まだ学校にいるの?」

膝に顔を埋めたまま先輩が聞いてくる。

梓「あ…はい」

私が返事をすると唯先輩は黙って立ち上がった。


116: 2009/12/06(日) 18:15:12.23

梓「憂のところに行くんですか?」

唯「……うん。行かなきゃ」

梓「あの…唯先輩!」

梓「もうひとつ大事な話があるんです
  きっと唯先輩の命に関わることなんです」

唯「……え?」

梓「これだけは聞いていって下さい…お願いします」

唯「……うん」


118: 2009/12/06(日) 18:33:46.87

梓「…先輩はあの種のことを覚えていますか?」

唯「種?…あずにゃんにあげようとしたアレのこと?」

梓「はい、そうです」

梓「私はそれを校舎裏に埋めたんです」

梓「そしたら…嘘みたいな話なんですがたった数日で樹が生えてきて樹の実がなったんです」

梓「それでその実を食べたらこんな身体になってしまって」

梓「これがその実です…」

鞄から樹の実を取り出してテーブルに置く。

唯「…うん」

唯先輩は相槌をうつ。
この嘘みたいな話をちゃんと聞いている。
あまりのリアクションのなさに理解しているのか不安になったが話を進めた。


120: 2009/12/06(日) 18:41:38.62

梓「樹は毎日すごい勢いで成長を続けて実を作ってました」

梓「それと同時に今週の初めから学校で体調不良になる生徒が増えたんです」

梓「学校にいる人ほぼ全員がそうなったのに…私だけは平気だったんです」

梓「私だけあの実を食べたから…かもしれません」

梓「自分で考えてもおかしいと思うんですけど…辻褄が合うんです」

梓「校舎裏の草木も枯れてしまって…」

梓「そんな中であの樹と私だけが健康だったんです…」

梓「だから…憂にも食べさせようとしたけど…樹の実を持ってきた時にはもう…」


122: 2009/12/06(日) 18:51:47.20

この笑われるかもしれない考えを言葉にしている途中から身体が震えてきた。

気付いてしまったことがある…
今まで考えないようにしてきたことがある…
それを話さなければいけないから。

梓「…あの樹はまわりから生気を吸い取って成長してると思うんです」

梓「…だ、だから…あの樹の実にはいろんなものや人から吸い取った生気が…」

梓「それを食べてしまった私は…」

梓「わ、わたしは…みんなのい、いのちを食べて生きてるかもしれないんです……」

私は心の奥底にあった恐怖と不安と一緒に言葉にする。
言葉にして自分がしてきた事を改めて思い知る。
そんなものを憂やみんなに食べさせようとしていたんだ……

結果的に私のせいで憂が氏んでしまったことを唯先輩に話しながら思った。


……こんな私が生きていていい筈が無い。


125: 2009/12/06(日) 19:00:48.51

もうまともに唯先輩の顔を見られない。
怖くて俯くと涙がどんどん零れ落ちる。

唯「……」

何を言われても何をされても仕方ないと思っているけど
唯先輩は何も言わない。

梓「うっ…ぐすっ…本当に…すみませんでした……」

梓「やっぱり私……」

氏んだほうがいいに決まってる。
もはや何をやっても許されるはずが無い。

最後に憂にもう一度会って、その後学校の屋上から…

梓「……失礼します」

そう言って立ち上がろうとした時

今日何度目かの地震が起きた。


126: 2009/12/06(日) 19:09:55.09

今回の揺れはかなり大きい。
リビングに割り込んでいた根っこがうねるように動き、家がどんどん傾く。
家が軋む音が激しくなった時、私と唯先輩の間にあるテーブルを跳ね除けて
床から樹の根がすごい勢いで生えてきた。

唯「……っ!」

梓「ひっ!」

その根は天井を突き破って尚、下から生えてくる。

そして一瞬宙に浮いているような感覚。 

梓「えっ?」

自分が落ちてると気付いた。

私のいた場所は樹の根を境に崩れてしまい、私はどうすることも出来ずに…

最後に見たのは唯先輩が私を必氏に呼ぶ姿だった。


128: 2009/12/06(日) 19:23:56.72
―――――――――――――――

――――――――――

―――――

……んっ

ここは……?

うっ…体中が痛い……

起き上がることも出来ないや

私…氏んじゃうのかな

でもこれで…

……あれ?

これは…

これが憂やみんなを…

ごめんね、でも…………


129: 2009/12/06(日) 19:34:35.48

―――――――――――――――

――――――――――

―――――

……んっ

太陽の光が眩しくて目が覚める

それに…揺れてて寝心地があまりよろしくない

なんだろう…砂利の擦れる音が聞こえる

ボーっとしながら目を開ける

景色が動いているところを見ると

私はどうやらリアカーか何かで運ばれているらしい

敷布団は茶色で硬くてソレがすぐにダンボールだとわかった

……え?

逆に自分の置かれている状況がわからなくなる

なんで私運ばれてるの?


130: 2009/12/06(日) 19:44:43.46

  「あーっ!あずにゃん気がついた!?」

梓「はい……え、唯先輩?」

唯「よかった~あずにゃん全然起きないんだもん」

梓「全然って、どのくらい寝てたんですか?」

唯「う~ん…一週間かなあ…?」

梓「……え?」

一週間?どうして一週間も…

梓「と、とりあえず止めてください」

唯「うん」

唯先輩がリアカーを止める。

私は起き上がろうとしたが

梓「い゛たっ!?」

背中が痛くて起き上がれなかった。


133: 2009/12/06(日) 19:54:50.31

唯「あずにゃんもうちょっと寝てたほうがよ。結構ひどい怪我だったんだよ?」

梓「怪我?…………あ」

思い出した。確か唯先輩の家が崩れてそれで…

梓「生きてる…」

唯「そうだね~あずにゃんが氏ななくてほんとに良かったよ」

梓「そうじゃなくて!どうして先輩がまだ生きてるんですか!?」

唯「えぇ~私!?ひどいよあずにゃん!氏んでて当たり前みたいな…」


135: 2009/12/06(日) 20:00:59.25

梓「だって!あれから一週間も経ったのに…唯先輩体調悪かったんですよね!?」

唯「あ…もう治ったよ」

梓「え…?」

治ったって…もしかして…

梓「もしかしてあの樹は切られてなくなったんですか?」

唯「ううん。あの樹はまだあるよ」

じゃあ…やっぱり…

梓「…食べたんですか?」

唯「…………うん」


138: 2009/12/06(日) 20:07:43.29

梓「どうして!?私説明しましたよね?もしかしてちゃんと聞いてなかったんですか!?」

思わず怒鳴ってしまう。

唯「聞いてたよ。だから食べたんだよ」

梓「そんな……」

唯「あの地震の時ね、私氏にそうになっちゃって…でもちょうどあの実が手に届く所に
  落ちてたんだ。それで…」

梓「だって…あの実は他の生き物から生気を吸って…だから街もこんなにめちゃくちゃに
  なったんですよ?だから…私は…」

唯「氏のうと思った?」

梓「!?」


139: 2009/12/06(日) 20:15:10.35

唯「そうだよね…私も…何度も氏のうかと思ったよ。他の人たちが氏んでるのに
  その原因で生きてるなんて…」

梓「じゃあ、なんで…」

唯「あの時は氏にたくないーって思いと、
  私が氏んだらあずにゃんが一人になっちゃうと思って食べたんだ」

梓「……後悔してませんか?」

唯「それは……でも食べちゃったからにはこの命はムダに出来ないと思って。
  憂やみんなの命で生かされてるんだから」

梓「…強いんですね」

思ったことを口にしてみた。
憂を氏なせた原因でもある私のためにって…
唯先輩はこんなときでも唯先輩だった。

唯「そんなことないよ…いっぱい泣いたし」


140: 2009/12/06(日) 20:25:21.49

梓「それに…こんなことになったのは私のせいなのに。憂だって…」

唯「あずにゃんのせいじゃないよ。もともとあの種は私があげるって言ったんだし
  あずにゃんにあげなかったら私が育ててたよ」

梓「それでも…やっぱり…」

唯「氏んじゃだめだよ」

梓「え…」

思っていることを当てられた。

唯「もう私も食べちゃったんだからね?あずにゃんが勝手に氏んだら私が一人になっちゃうん

だよ?憂やみんなのことを思うんだったら…」

梓「唯先輩……」

私と唯先輩のどちらかが氏んだら独りになってしまう。それに……
唯先輩の言葉には先輩の失ったたくさんのものと、憂やみんなの命が詰まっている。
それはとても重くて、呪いのようにも感じる。


142: 2009/12/06(日) 20:34:02.63

梓「……わかりました」

今は生きよう。唯先輩の言葉はそう思わせた。

梓「ところで、ここはどこなんですか?」

唯「え~っと、南西かな?」

梓「……」

梓「とりあえず経緯を教えてもらえますか?」

唯「うん、えっと…」

唯「まず、私は実を食べてから寝ちゃったんだよね」

唯「起きたら次の日の朝になってて、怪我は痛かったけど動けるようになってたから
  あずにゃんを助けて看病してたんだよ」

氏にそうだったケガが…?あの実の効力がそんなにすごいとは思わなかった。

梓「あ、ありがとうございます」

唯「いいってことよ~」


144: 2009/12/06(日) 20:42:04.44

唯「それとあずにゃんが寝てる間にね、学校とあずにゃんやみんなの家に行ってみたんだ」

梓「……はい」

唯「あずにゃんの家は根っに潰されてて…誰もいなかった」

梓「……はい」

唯「りっちゃんと澪ちゃんとムギちゃんは……」

結局私と唯先輩以外誰も助からなかった。そんな話だった。
憂は平沢家に安置したそうだ。

唯「…あずにゃん、大丈夫?」

梓「はい、大丈夫です」

唯先輩だってその話から何日も経ってないのに…
それでも私を気遣ってくれる。
私だけ落ち込むわけにはいかない。


145: 2009/12/06(日) 20:50:08.31

――――――――――――――――

唯「それでテレビもラジオも壊れちゃってどうしよ~って思ってたら
  ヘリコプターが飛んできてね、あの樹に攻撃するから近隣住民は避難してくださいって」

梓「それで非難してきたわけですね」

唯「違うよ?」

梓「え」

唯「なんか飛行機がいっぱい飛んできて樹に攻撃してたけど駄目だったみたい」

唯「それからまたヘリコプターが飛んできて…」

唯「今度は核兵器を使う~みたいなこと言ってて」

梓「……え」


150: 2009/12/06(日) 20:58:38.32

唯「それで今度は流石にまずい!と思って逃げてきたんだよ」

梓「そうでしたか…」

梓「それでその攻撃の結果はどうなったんですか?」

唯「2日前の昼に攻撃するって言ってたのに爆発とかなんにもないんだよね、
  どうしたんだろ?」

梓「…唯先輩が寝てて気がつかなかったとか?」

唯「ひどいよあずにゃん!…それでも、ほら」

そう言って唯先輩が指差した先には少し霞掛かったあの樹が見える。
だいぶ離れているけど私が最後に見たときよりも大きくなってる。間違いない。
今までこの災厄の規模をちゃん考えたことはなかったけど…
私の知りうる知識の中では解決することが出来そうにない。


152: 2009/12/06(日) 21:06:12.36

唯「それでね」

梓「まだ続きがあるんですか?」

唯「そうだよ~ここからあずにゃん逃避行編が始まるんだから!」

梓「なんですかそれ…そういえばよくリアカーなんてありましたね」

言いながら年季の入った黄色いリアカーを良く見てみる。
結構大きくてその辺の車と同じくらいの大きさだ。

唯「最初はおんぶだったんだよ」

梓「ええっ!」

あの樹からの距離を見るとおそらく一県は越えているはず。


158: 2009/12/06(日) 21:29:25.80

唯「それでね」

梓「まだ続きがあるんですか?」

唯「そうだよ~ここからあずにゃん逃避行編が始まるんだから!」

梓「なんですかそれ…そういえばよくリアカーなんてありましたね」

言いながら年季の入った黄色いリアカーを良く見てみる。
結構大きくてその辺の車と同じくらいの大きさだ。

唯「最初はおんぶだったんだよ」

梓「ええっ!」

あの樹からの距離を見るとおそらく一県は越えているはず。


160: 2009/12/06(日) 21:38:16.75

さっきから気になっていたが唯先輩は背が伸びて大人っぽくなっている。
おそらく体力なんかも成長してる…あの実のせいだろう。
それでもおんぶとは…

梓「すごいですね唯先輩」

唯「家の車壊れてたし…そもそもあたし車運転できないし」

唯「さすがに大変でね、もうだめだ~って思ってたら道に倒れてるおじさんが声をかけてきた

の」

梓「…生きてる人がいたんですね」

唯「うん。それでそのおじさんが」

――――――――――――――――

 「嬢ちゃんコレつかいな…中に入ってるダンボールを出せばその子を乗せられるぜ」

唯「ありがと~!でもおじさんは?」

 「おじさんはいいんだ…ほれさっさと行きな…」



161: 2009/12/06(日) 21:42:13.17

――――――――――――――――

唯「それからはこれでずっとあずにゃんを運んでたんだ」

梓「そうですか。あ、でも核攻撃がなかったなら戻っても…」

唯「最初は私もそう思ったんだけどね、あの樹から離れたほうが調子がいいっていうか…」

確かに樹の中心にいるよりは少しでも離れていたほうがいいのかもしれない。


それに…戻ったところであそこにはもう何も無い。


唯「それからね~」

梓「まだあるんですか」


163: 2009/12/06(日) 22:04:27.91

――――――――――――――――

唯「…ということがあって今に至るわけです」

梓「……だいたいわかりました」

梓「唯先輩の話だとここって隣の県のそこそこ賑わってる町ですよね?」

唯「多分…」

大きいビルだったものの残骸が目に付く。
確かにこのあたりで間違いないけど…
瓦礫や砂だらけで街というよりは廃墟だ。

梓「これからどうするんですか?」

唯「そうだねえ……とりあえず……」

梓「とりあえず?」

唯「お腹減ったなあ」


165: 2009/12/06(日) 22:18:53.05

唯「コンビニがあってよかったね~!」モグモグ

梓「そうですね」モグモグ

誰もいないコンビニに入り、食料や必要なものをリアカーに乗せた。

これで何日かはもつだろう。

梓「……いや、そうじゃなくて」

唯「ほえ?」

梓「今日のお昼ご飯じゃなくて…もっと先のことですよ」

いつかは水も食料も尽きてしまう。

唯「うーん……とりあえず……」

梓「とりあえず?」

唯「頑張って生きる!」


166: 2009/12/06(日) 22:30:54.94

梓「……ふふ」

唯「あ、笑ったなぁ!」

梓「すいません…でも、そうですね…」

この先何度も罪の意識や氏なせてしまった人たちのことで苛まれるだろう。
まるごと全部夢だったらいいのになんて、この先ずっと思っていくのかな。
きっと唯先輩もそうなんだろう…
大人びた顔立ちになったのはあの実の所為だけじゃない。

あの樹はこれからも成長し続けるのだろう。一度根付いたらもはや手遅れ。
周りの植物を枯らし、その実が地球の栄養を全部吸ってしまうまで。

私たちに残された時間がどれだけあるのかわからないけれど。


それでも…


砂漠と化してゆくこの星のど真ん中に、唯先輩の墓を立てるまで



私は生きると決めた。



END

167: 2009/12/06(日) 22:33:01.33
乙。

結局樹はなんだったの?

168: 2009/12/06(日) 22:33:16.11
面白かった乙

175: 2009/12/06(日) 22:46:44.25
乙ー
後日談が気になるところ

引用元: 唯「レタス!」