1: 2019/01/29(火)19:15:43
アイドルマスターシンデレラガールズです。白菊ほたるのお話です。
2: 2019/01/29(火)19:16:42
私は不幸でした。なぜなら世界が終わってしまう事を知っていたからです。
物心ついた時には世界が終わってしまう事を知っていました。
世界が終わる日を何度も何度も夢で見たり、起きていても頭の中に何かの声が聞こえてきたりして。
私は否応なく世界が終わってしまう事を知ってしまいました。
私だけが知っているこの事実を私はみんなに訴えました。両親、友達、先生、道行く人など、挙げればキリがないほど多くの人に訴えました。
ですが、その誰もが私の言う事を信じてはくれませんでした。
最初の頃、両親に訴えた時は『そんな事はないよ。怖くないから、大丈夫だよ』と優しい声をかけてくれたのですが、私は世界が終わってしまう事が覆しようのない事実だと知っています。
両親が何度も私を優しく諭してくれましたが、私は何度も訴えました。次第に両親は私の話を真剣に聞いてはくれなくなりました。
友達や先生も、最初の頃は真剣に聞いてくれても私が繰り返し訴えるようになると、だんだんと聞いてくれなくなり、私を嘘つき呼ばわりや気味悪がって近づいてこなくなりました。
それでも世界が終わってしまう事を知っている私は一人でも多くの人にこの事実を伝えました。
それでも子供の言う事を信じてくれるような人は誰も居ませんでした。
物心ついた時には世界が終わってしまう事を知っていました。
世界が終わる日を何度も何度も夢で見たり、起きていても頭の中に何かの声が聞こえてきたりして。
私は否応なく世界が終わってしまう事を知ってしまいました。
私だけが知っているこの事実を私はみんなに訴えました。両親、友達、先生、道行く人など、挙げればキリがないほど多くの人に訴えました。
ですが、その誰もが私の言う事を信じてはくれませんでした。
最初の頃、両親に訴えた時は『そんな事はないよ。怖くないから、大丈夫だよ』と優しい声をかけてくれたのですが、私は世界が終わってしまう事が覆しようのない事実だと知っています。
両親が何度も私を優しく諭してくれましたが、私は何度も訴えました。次第に両親は私の話を真剣に聞いてはくれなくなりました。
友達や先生も、最初の頃は真剣に聞いてくれても私が繰り返し訴えるようになると、だんだんと聞いてくれなくなり、私を嘘つき呼ばわりや気味悪がって近づいてこなくなりました。
それでも世界が終わってしまう事を知っている私は一人でも多くの人にこの事実を伝えました。
それでも子供の言う事を信じてくれるような人は誰も居ませんでした。
3: 2019/01/29(火)19:17:08
私は次第に世界が終わってしまう事を伝えるのを止めました。だって誰も信じてくれないから。
ちっぽけな子供が道端で世界が終わると喚いても、誰も聞いてくれません。私はあまりにも無力でした。誰にも信じてもらえない私は不幸でした。
日々、世界の終わる日が近づいている事を感じていた私はある日テレビで『アイドル』と言うものを見ました。
テレビの中に居る『アイドル』は私よりもほんの少し大きいだけの子供でした。それなのに『アイドル』の言う事に大人達は耳を傾けていたのです。
無力な子供の言う事を大人は聞いてはくれません。ですが、『アイドル』と言う力を持った子供の言う事なら大人は聞いてくれます。
世界が終わってしまう日までもう長くはありません。それでも私は『世界が終わってしまう事を知ってしまった』責任を果たすべくアイドルを目指しました。
アイドルを目指す道のりは優しいものではありませんでした。厳しいレッスン、合格する事のないオーディション。
私はそれらを乗り越えてやっとアイドル事務所に所属できました。これでやっとみんなが世界が終わってしまう事を信じてくれると胸をなでおろしました。
ちっぽけな子供が道端で世界が終わると喚いても、誰も聞いてくれません。私はあまりにも無力でした。誰にも信じてもらえない私は不幸でした。
日々、世界の終わる日が近づいている事を感じていた私はある日テレビで『アイドル』と言うものを見ました。
テレビの中に居る『アイドル』は私よりもほんの少し大きいだけの子供でした。それなのに『アイドル』の言う事に大人達は耳を傾けていたのです。
無力な子供の言う事を大人は聞いてはくれません。ですが、『アイドル』と言う力を持った子供の言う事なら大人は聞いてくれます。
世界が終わってしまう日までもう長くはありません。それでも私は『世界が終わってしまう事を知ってしまった』責任を果たすべくアイドルを目指しました。
アイドルを目指す道のりは優しいものではありませんでした。厳しいレッスン、合格する事のないオーディション。
私はそれらを乗り越えてやっとアイドル事務所に所属できました。これでやっとみんなが世界が終わってしまう事を信じてくれると胸をなでおろしました。
4: 2019/01/29(火)19:17:35
……ですが、そうそう上手くはいきませんでした。まるで世界が終わってしまう事を伝えてはいけないと神様がイジワルしているのか、私が所属したアイドル事務所はわずか数カ月で倒産してしまいました。
それでも私はアイドルになるのを諦めませんでした。世界が終わってしまう事をみんなに伝えるために、新しい事務所に所属してアイドル活動を再開しました。
デビューイベントの日、私は集まってくれたファンの前で世界が終わってしまう事を教えるつもりでした。
……伝える事はできませんでしたが。
次に所属した事務所もまた私がデビューする事なく倒産してしまいました。
その後もまたいくつかの事務所を渡り歩いた私でしたが、どうやら世界が終わってしまう事を伝えようとすると周りに何か大きな不幸が起きるらしい事を知りました。
また事務所が倒産してしまい、もう為す術もなく心も折れて途方に暮れていた時でした。
一人のプロデューサーさんと出会い、私はまた別の事務所でアイドルをやる事になりました。
世界が終わってしまう日までもう半年も残されていない時の事でした。
不幸な私では誰かを救う事はできないと悟った頃でもあります。
それでも私はアイドルになるのを諦めませんでした。世界が終わってしまう事をみんなに伝えるために、新しい事務所に所属してアイドル活動を再開しました。
デビューイベントの日、私は集まってくれたファンの前で世界が終わってしまう事を教えるつもりでした。
……伝える事はできませんでしたが。
次に所属した事務所もまた私がデビューする事なく倒産してしまいました。
その後もまたいくつかの事務所を渡り歩いた私でしたが、どうやら世界が終わってしまう事を伝えようとすると周りに何か大きな不幸が起きるらしい事を知りました。
また事務所が倒産してしまい、もう為す術もなく心も折れて途方に暮れていた時でした。
一人のプロデューサーさんと出会い、私はまた別の事務所でアイドルをやる事になりました。
世界が終わってしまう日までもう半年も残されていない時の事でした。
不幸な私では誰かを救う事はできないと悟った頃でもあります。
5: 2019/01/29(火)19:18:21
◆
イベントのお仕事を終え、事務所に戻るや否やプロデューサーさんはパソコンに向かい始めました。私はソファでその様子をぼんやりと眺めていました。
「なぁほたる。本当に送っていかなくていいのか?」
「はい……。大丈夫です。だからもう少しだけ一緒に居てもいいですか?」
「まぁそりゃ構わんが……。見てても面白くないだろ?」
「そんな事ありません。……それに今日は一人になりたくない気分なんです」
プロデューサーさんが淹れてくれたココアの入ったマグカップを手でいじりながら、明日の事を考えます。もう来ることはない明日の事を。
「今日はって……。ほたるはまだ13歳なんだからちゃんと日付変わる前には寮に帰ろうな?」
プロデューサーさんが優しい声で諭してくれましたが、私はゆっくりと首を振りました。
「今日だけはどうしてもお願いします……。寮にも事務所に泊まるって連絡もしてあります」
世界が終わってしまう最後の日を一人で過ごすなら、少しでも楽しい思い出が残っている事務所で過ごしたいと言う私のささやかなワガママでした。
イベントのお仕事を終え、事務所に戻るや否やプロデューサーさんはパソコンに向かい始めました。私はソファでその様子をぼんやりと眺めていました。
「なぁほたる。本当に送っていかなくていいのか?」
「はい……。大丈夫です。だからもう少しだけ一緒に居てもいいですか?」
「まぁそりゃ構わんが……。見てても面白くないだろ?」
「そんな事ありません。……それに今日は一人になりたくない気分なんです」
プロデューサーさんが淹れてくれたココアの入ったマグカップを手でいじりながら、明日の事を考えます。もう来ることはない明日の事を。
「今日はって……。ほたるはまだ13歳なんだからちゃんと日付変わる前には寮に帰ろうな?」
プロデューサーさんが優しい声で諭してくれましたが、私はゆっくりと首を振りました。
「今日だけはどうしてもお願いします……。寮にも事務所に泊まるって連絡もしてあります」
世界が終わってしまう最後の日を一人で過ごすなら、少しでも楽しい思い出が残っている事務所で過ごしたいと言う私のささやかなワガママでした。
6: 2019/01/29(火)19:18:43
「うーん……仕方ないなぁ……。まぁどうせ俺も終電には間に合いそうにないしな。仲良くお泊まり会だな!」
優しく微笑んでくれるプロデューサーさんの顔を見るとなんだかホッとします。私に真剣に向き合ってくれるこの人に出会えたのは不幸な私の人生の中でもとても幸せな事なのかも知れません。
それからしばらくの間、プロデューサーさんが仕事をしている所を見つめていました。視界の端には時計を入れて。
カタカタとキーボードを叩く音と、カチカチと言うマウスをする音。そして時々聞こえるプロデューサーさんの『うーん……』と言う声。
疲れもあったのでしょう、私は次第にまどろみへと落ちて行きました。
遠くの方では時計の針がカチコチと時を刻んでいました。
優しく微笑んでくれるプロデューサーさんの顔を見るとなんだかホッとします。私に真剣に向き合ってくれるこの人に出会えたのは不幸な私の人生の中でもとても幸せな事なのかも知れません。
それからしばらくの間、プロデューサーさんが仕事をしている所を見つめていました。視界の端には時計を入れて。
カタカタとキーボードを叩く音と、カチカチと言うマウスをする音。そして時々聞こえるプロデューサーさんの『うーん……』と言う声。
疲れもあったのでしょう、私は次第にまどろみへと落ちて行きました。
遠くの方では時計の針がカチコチと時を刻んでいました。
7: 2019/01/29(火)19:19:25
◆
「……っ!?」
私が眠ってしまっていた事に気付いたのはもうすぐ日付が変わってしまう頃でした。
起き上がった拍子に私にかけられていた毛布が床に落ちました。きっとプロデューサーさんが風邪をひかないようにとかけてくれたのでしょう。
少し寝ぼけたままの頭で周りをキョロキョロと見渡すと、プロデューサーさんの姿が見えない事に気が付きました。
「……プロ……デューサー……さん?」
か細く弱く名前を呼びました。こんな声量では例え近くに居たとしても聞こえはしないでしょう。これが今の私に出せる精一杯の声量でした。
「んー? どうしたー? 起きたのかー?」
きっと偶然なのでしょうが、私が声をかけると給湯室の方からプロデューサーさんの声が聞こえました。
「あ、はい……!」
「おはよう。やっぱ疲れてたんだな、よく寝てたぞ」
コーヒーの入ったマグカップを持ったプロデューサーさんは空いてる手で私の頭を撫でてくれました。ニコニコと優しい笑顔を携えて。
「寒かっただろ? 一応毛布はかけておいたんだけど……」
「い、いえ! 大丈夫です! ……毛布ありがとうございます」
「気にすんな。俺の大切なアイドルに風邪なんて引かせるわけにはいかないからな」
歯を見せてニッと笑うプロデューサーさんにつられて私も笑ってしまいました。
あぁ、こんなにも私の事を大事にしてくれる人に出会えたなんて、私はなんて幸せなんだろう。
……でも、そんな幸せも長くは続きません。時計を見ると世界が終わってしまうまであと少ししかありませんでした。
「……っ!?」
私が眠ってしまっていた事に気付いたのはもうすぐ日付が変わってしまう頃でした。
起き上がった拍子に私にかけられていた毛布が床に落ちました。きっとプロデューサーさんが風邪をひかないようにとかけてくれたのでしょう。
少し寝ぼけたままの頭で周りをキョロキョロと見渡すと、プロデューサーさんの姿が見えない事に気が付きました。
「……プロ……デューサー……さん?」
か細く弱く名前を呼びました。こんな声量では例え近くに居たとしても聞こえはしないでしょう。これが今の私に出せる精一杯の声量でした。
「んー? どうしたー? 起きたのかー?」
きっと偶然なのでしょうが、私が声をかけると給湯室の方からプロデューサーさんの声が聞こえました。
「あ、はい……!」
「おはよう。やっぱ疲れてたんだな、よく寝てたぞ」
コーヒーの入ったマグカップを持ったプロデューサーさんは空いてる手で私の頭を撫でてくれました。ニコニコと優しい笑顔を携えて。
「寒かっただろ? 一応毛布はかけておいたんだけど……」
「い、いえ! 大丈夫です! ……毛布ありがとうございます」
「気にすんな。俺の大切なアイドルに風邪なんて引かせるわけにはいかないからな」
歯を見せてニッと笑うプロデューサーさんにつられて私も笑ってしまいました。
あぁ、こんなにも私の事を大事にしてくれる人に出会えたなんて、私はなんて幸せなんだろう。
……でも、そんな幸せも長くは続きません。時計を見ると世界が終わってしまうまであと少ししかありませんでした。
8: 2019/01/29(火)19:20:30
「……あの、プロデューサーさん」
「ん? どうした?」
どうせ終わってしまうなら、もうどうしようもないのなら。最期にこの人に伝えてみよう。私に真剣に向き合ってくれたこの人に。
「明日……世界が終わってしまうとしたらどうしますか?」
「急にどうした」
確かに急な質問かも知れません。プロデューサーさんは眉をハの字にして困った表情を浮かべていました。
「そうだな……」
私がどうやって説明をしようかと頭の中でぐるぐると考えていると、プロデューサーさんは私の前に椅子を持ってくると私の前に座りました。
「俺は明日世界が終わるとしてもほたるをプロデュースしたいな」
「……なんでですか? ……終わってしまうのに」
「それが俺の幸せだからな。ほたるをトップアイドルにしてやるのが今の俺の幸せなんだよ。もしも終わってしまうならほたると一緒に居て幸せなまま終わりたい」
そういうとプロデューサーさんは手を伸ばして私の頭を撫でてくれました。さっきよりも力強く。それでいて優しく。
「……っ……くぁ……ひっ……」
「ご、ごめん!? 嫌だったか!? 嫌だったよな!? すまん! だから泣かないでくれ!」
泣き出してしまった私を宥めようとプロデューサーさんがオロオロしています。
「ち、違うん……です……! わた……嬉しくて……」
不幸な私と一緒に居て『幸せ』と言ってくれる人が居るなんて。
「ん? どうした?」
どうせ終わってしまうなら、もうどうしようもないのなら。最期にこの人に伝えてみよう。私に真剣に向き合ってくれたこの人に。
「明日……世界が終わってしまうとしたらどうしますか?」
「急にどうした」
確かに急な質問かも知れません。プロデューサーさんは眉をハの字にして困った表情を浮かべていました。
「そうだな……」
私がどうやって説明をしようかと頭の中でぐるぐると考えていると、プロデューサーさんは私の前に椅子を持ってくると私の前に座りました。
「俺は明日世界が終わるとしてもほたるをプロデュースしたいな」
「……なんでですか? ……終わってしまうのに」
「それが俺の幸せだからな。ほたるをトップアイドルにしてやるのが今の俺の幸せなんだよ。もしも終わってしまうならほたると一緒に居て幸せなまま終わりたい」
そういうとプロデューサーさんは手を伸ばして私の頭を撫でてくれました。さっきよりも力強く。それでいて優しく。
「……っ……くぁ……ひっ……」
「ご、ごめん!? 嫌だったか!? 嫌だったよな!? すまん! だから泣かないでくれ!」
泣き出してしまった私を宥めようとプロデューサーさんがオロオロしています。
「ち、違うん……です……! わた……嬉しくて……」
不幸な私と一緒に居て『幸せ』と言ってくれる人が居るなんて。
9: 2019/01/29(火)19:20:54
嘘つき呼ばわりされたり、気味悪がられたりと。私と一緒に居て嫌な気持ちや不幸にしてしまう事は沢山ありました。
私と一緒に居るのが『幸せ』だと言ってもらえるのがこんなにも嬉しくて幸せなんだと言う事をようやく私は知りました。
涙が止まらないままプロデューサーさんに抱き着くと、プロデューサーさんは優しく私を抱きしめてくれました。
神様……。ワガママかも知れませんがこのままでもいいですか。
私と一緒に居て『幸せ』と言ってくれる人を、私の不幸に巻き込んでしまうワガママをどうか聞いてください。
私のさいごの幸せがいつまでも続きますように。
……時計の針が真上を向いて重なりました。
End
私と一緒に居るのが『幸せ』だと言ってもらえるのがこんなにも嬉しくて幸せなんだと言う事をようやく私は知りました。
涙が止まらないままプロデューサーさんに抱き着くと、プロデューサーさんは優しく私を抱きしめてくれました。
神様……。ワガママかも知れませんがこのままでもいいですか。
私と一緒に居て『幸せ』と言ってくれる人を、私の不幸に巻き込んでしまうワガママをどうか聞いてください。
私のさいごの幸せがいつまでも続きますように。
……時計の針が真上を向いて重なりました。
End
引用元: 白菊ほたる「不幸な私のさいごの幸せ」
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