1: 2014/09/11(木) 20:18:37.07
原作版ゲッターロボとまどかマギカのクロスの第三話です。


「まどマギでやる必要があるの?」の最たる内容ですが、自分がまどかとゲッターが好きと言う理由のみでクロスさせて見ました。

ノンビリいきますが、よろしければお付き合いください。

なお、地の文が多めになってしまいましたが、その手のが苦手な方はご注意ください。


<第一話>

ほむら「ゲッターロボ!」

<第二話>

ほむら「ゲッターロボ!」 第二話


ゲッターロボ VOL.1 [DVD]

2: 2014/09/11(木) 20:19:47.00
マミ 「・・・こ、ここは・・・?」

武蔵 「お。マミちゃん、気がついたか」

マミ 「武蔵お兄ちゃん・・・?え、わ・・・わた、し・・・?」


武蔵の腕の中で目を覚ましたマミは、未だ定まらない頭と目で状況を確認しようとした。

何とか上体を起こし、辺りを見回す。

ここは魔女の結界の中。自分は未だ、魔法少女の姿のまま。


マミ 「え・・・じゃ、じゃあ、どうしてお兄ちゃんが結界の中に?」


だんだんと頭がさえてくると同時に、幾つかの疑問が彼女の内に湧き上がってくる。

なぜ自分は武蔵の腕の中で気を失っていたのか。

そして、普通の人間に過ぎないはずの武蔵が、どうして魔女の結界の中に現れたのか。

3: 2014/09/11(木) 20:20:39.44
そういえば・・・


マミ 「お兄ちゃん、私を魔女から救ってくれた・・・」


あの出来事が夢でないのなら。

武蔵は魔女に食われる寸前の自分を救い、素手で魔女の突進を受け止めていた。

魔女が見えていたのだ。

自分の兄が、あの得体の知れない流竜馬とかいう男と同じように・・・

だが武蔵は


武蔵 「おう、お兄ちゃんだからな。妹の危機に駆けつけるのは当然じゃないかよ!」


マミの疑問になど意に介さず、ただにっこり笑うだけだった。

不思議な包容力と安心感を与えてくれる、そんな笑顔だった。

4: 2014/09/11(木) 20:21:53.70
武蔵 「ところで・・・ここからはどう出たらいいんだろうな?」

マミ 「え・・・」

武蔵 「俺の仲間が化け物の相手を引き受けてくれてな。俺には安全なところまで引くように言われて来た道を戻ってきたんだけど・・・」

武蔵 「ここ、入る事はできても出る事はできないんだな。結局ここで立ち往生していたってワケだ」

マミ 「あ、それだったら・・・」


結界の主である魔女が倒れれば、自然と元の空間に戻る事ができる。

マミがそう言おうとした矢先だった。

謎の爆音が結界の奥から聞こえてきたのは。


マミ 「な、なに、あの音・・・!こっちに向かって近づいてきている!?」

5: 2014/09/11(木) 20:23:16.45
武蔵 「・・・おお」

マミ 「お兄ちゃん・・・?」

武蔵 「この音、この振動。忘れるわけがねぇ。やったな、やったんだな竜馬・・・!」

マミ 「竜馬って・・・あの、流竜馬・・・?そ、それよりも、この音が何か、お兄ちゃんには分かっているの?」

武蔵 「ああ、心配しなくていいぜ、マミちゃん。仲間がここにやってくるのさ」

マミ 「仲間・・・流竜馬のこと?」

武蔵 「ああ。しかも、強大な力を取り戻してな!」

マミ 「・・・」


音のする方。結界の奥へと目を向ける。

響いてくる爆音はますます大きくなり、もはやマミの鼓膜を破らんとするかのよう。

たまらず耳を塞ぐ。

そうしながらも目だけは逸らさず、見つめ続けた結界の奥から。

ついにそれは姿を現した。

6: 2014/09/11(木) 20:24:15.47
猛スピードで突き進む巨体。

特徴的な突起のある頭部を持った、真紅の巨人。


マミ 「新手の魔女・・・?」

武蔵 「違う、ロボットだ!」

マミ 「ロボットって・・・」

武蔵 「ゲッターロボだっ!!」


ゲッターロボ 『うおおおおおっ、武蔵、伏せろおおおおおっ!!』


ロボットが雄叫びを上げる。


ゲッターロボ 『トマホークで結界の壁をぶち破る!!』


武蔵がマミを庇うように地に身を伏せる。

同時に彼らの頭上を飛び越えたロボットが、結界の壁に向かって手にした斧を振り下ろした!


ゲッターロボ 『ゲッターァァァアアアアア、トマホオオオオオオーーーーークッ!!!』

7: 2014/09/11(木) 20:27:14.86
・・・
・・・


柔らかい感触。

優しく気遣うような、そんな感覚に心地よさを感じながら、私は眠りの世界から現実へと引き戻された。

うっすらと目を開けると、そこには心配そうに私を覗き込む少女の顔。

目覚めた私と視線がかち合い、パッと顔をほころばせる。


まどか 「あ・・・ほむらちゃん、気がついた!」

ほむら 「ま、まどか・・・?」


ぼんやりとする頭で状況を把握しようとする。

まどかの手が、私の頭の上に乗っかっていた。心地よい感触の正体は、これか。

8: 2014/09/11(木) 20:34:08.17
ほむら 「鹿目さん、手・・・」

まどか 「うぇひっ、ごめん。もしかして邪魔だったかな」

ほむら 「そうじゃなくて、どうして手、頭の上に・・・」

まどか 「あ、うん。ほむらちゃん、苦しそうにしてたから。心配で、そのね。ついつい頭、撫でちゃってたの」

ほむら 「・・・鹿目さん」


まどかの優しさに触れ感動しながらも、なぜ彼女に頭を撫でられていたのか。

思い出そうと、はっきりとしかけてきた頭に鞭打ち記憶の糸を手繰る。

9: 2014/09/11(木) 20:35:36.97
確か私は・・・


魔女を倒そうと、お菓子の魔女の口の中に自ら飛び込んだんだった。

魔女の弱点を突き、内側から破壊するために。


ほむら 「だけれど・・・」


私を急に襲ったのは、謎の魔力消耗現象。

力が抜け、魔女の口の中から脱出する方法を失い・・・


ほむら 「っっ!!!」


はっとして、ソウルジェムを確認する。

だが、私の心配をよそに、ソウルジェムは一点の穢れも無く、美しく輝いていた。


ほむら 「どうして・・・?」


まるで狐につままれたよう。

10: 2014/09/11(木) 20:37:14.63
疑問に頭をひねる私に助け舟をよこす様に、まどかが語りかけてきた。


まどか 「マミさんがね、助けてくれたんだよ」

ほむら 「え・・・?」

まどか 「ソウルジェム、濁っちゃうと大変なことになっちゃうんでしょ?ほむらちゃんも、危なかったみたい」

ほむら 「巴さんが、私を・・・?」

まどか 「うん、グリーフシードって言ったかな。それを使って、ほむらちゃんを助けてくれたの」

ほむら 「・・・」


改めて辺りを見回してみる。

ここは・・・


ほむら 「巴マミの寝室・・・?」

11: 2014/09/11(木) 20:39:03.53
まどか 「すごい、よく分かったね。そうだよ、ここはマミさんの家の寝室」

ほむら 「どうして・・・」


そう、私は巴マミの寝室のベットに寝かされて、まどかの看病を受けていたのだ。

だけれどどうして、こんな状況に・・・


ほむら 「っ!巴マミ・・・まどか、巴さんは無事!?」

まどか 「あ、うん・・・元気だよ?」

ほむら 「そ、そう・・・」


ほっと胸をなでおろす。

でも、だったらなおさら状況が分からない。

私が倒れ、巴マミも戦闘力を失い。

だけど二人とも無事で、私は助けられマミのベットの上でまどかの看病を受けている。

なぜ、こんな事が起こりえるのか。

12: 2014/09/11(木) 20:40:58.03
ほむら 「あ・・・」


思い起こしたのは、気を失う直前。

私に語りかけてきた、謎の声のことだ。

あの声は確かに言った。私が望むのなら、力を貸すと。

朦朧とした意識下で聞こえた幻聴なのでは、とも思ったが、現に私は生きてここにこうしている。


ほむら 「力を、与えてくれた・・・?」


そう、私は望んだのだ。

後戻りはできないと直感を得ながらも、力が欲しいと。

そして私は再び意識を失い、気がついたらここにこうして寝かされていた。

13: 2014/09/11(木) 20:43:40.24
あの後・・・

私が決断したその後で、一体何が起こったのか。


まどか 「ほむらちゃん・・・?」


物思いに沈む私に、まどかが不安げな表情を浮かべた時だった。


こんこん。


部屋の外から扉が二度、叩かれたのは。


マミ (がちゃっ)「鹿目さん。暁美さんの様子はどう?・・・あら」

ほむら 「・・・」

まどか 「あ、マミさん。ほむらちゃん、さっき目が覚めたんですよ。だいじょうぶみたい。うぇひひっ」

14: 2014/09/11(木) 20:47:19.97
マミ 「・・・具合はいかが?」

ほむら 「おかげさまで。まどかから聞いたわ。お世話になったようで、その・・・ありがとう」

マミ 「ううん、礼を言うのは私のほうよ。聞いたの。お兄ちゃ・・・」

ほむら 「・・・」

まどか 「・・・?」

マミ 「こほん・・・兄から。あなたと流君、本当に私の身を案じて、あの場に来てくれたんだって。だから・・・」

マミ 「ひどい事を言って・・・縛っちゃったりして。本当にごめんなさい。そして、ありがとう」

ほむら 「い、いいえ・・・私はただ・・・」

まどか 「うぇひひっ」にこにこ


思いもかけぬマミからの謝罪を受け、動揺しまくりの私をまどかがニコニコと見つめている。

先ほどからの友好的な様子からすると、まどかもある程度のあらましは聞いているようね・・・

15: 2014/09/11(木) 20:50:43.86
マミ 「でもね・・・」


一転、マミの声音に陰が落ちる。


マミ 「私はそれでも、あなたの事を信用しきれてはいないのよ」

まどか 「ま、マミさん・・・?」

マミ 「どんな理由があったにせよ、あなたが私の大切な友達を傷つけた。その事実に変わりはないわ」

ほむら 「・・・」

マミ 「なぜ暁美さんがキュウべぇを目の敵にするのか。それをあなた自身の口から聞かない事には、私は納得できない。それに・・・」


言いよどみ、言葉を濁すマミ。


ほむら 「なに・・・?」

マミ 「兄にも・・・魔女が見えていたようだった。あなたと一緒にいた、流君と同じように」

ほむら 「あ・・・」


マミに竜馬の名を出されて、改めて気がつく。

竜馬は今、どこに?


ほむら 「あの、巴さん。流君は今どうしているの?」

16: 2014/09/11(木) 20:55:49.37
マミ 「居間で休んでもらっているわ」

ほむら 「彼を家に上げたの?」


意外だった。


マミ 「そこはほら、彼と兄は知り合いだったみたいだし、さ。それに、あんな事があって、流君だけ蚊帳の外になんて置けないでしょ」

ほむら 「あんなことって・・・?」

マミ 「それよりもよ。あなたはいったい何なの?キュウべぇを傷つけたと思ったら、私を助けに来たりして。一体何がしたいわけ?」

ほむら 「・・・言ったところで、あなたは納得してはくれないと思うのだけれど」

マミ 「・・・っ!」


私の一言に、マミの表情がたちまち険しくなる。

一瞬のうちに冷たく硬化してしまった部屋の空気に、おろおろしだすまどか。


まどか 「ほ、ほむらちゃんっ!ま・・・マミさん~」

マミ 「そう・・・なら好きになさい。今日の事はお互い貸し借りなし。これからの事は、互いに考えればいいことだわ」

ほむら 「・・・」

17: 2014/09/11(木) 20:58:54.34
マミ 「具合が良くなったのなら、起きてらっしゃい。食事くらいご馳走するから・・・」


がちゃっ・・・


マミ 「・・・暁美さん」


部屋から出ようとしたマミが足を止め、再び顔をこちらへ向けた。


マミ 「あなたと流君が乗っていたロボット、あれはいったい何なの?」

ほむら 「・・・え?」

マミ 「あれはあなたの魔法少女としての力の一つなのかしら?正直、私にはそうは見えなかったのだけど・・・」

ほむら (・・・私がロボットに乗っていた?)


謎の声のセリフが、頭の中に蘇る。

私に力を与えると言った、竜馬をリョウと呼ぶ、誰とも知れない声。


ほむら (あの声の主・・・流君の仲間?だとしたら・・・)


マミ 「兄もあのロボットのことを知っているようだった。何だか私一人、蚊帳の外にいるみたい・・・」

ほむら (間違いない・・・)

マミ 「兄も、そのロボットの名前、知っていたのよ」

ほむら 「・・・」

マミ・ほむら 「ゲッターロボ」

18: 2014/09/11(木) 21:00:42.04
マミがロボットの名を口にするのに被せ、私も声を重ねる。

図らずもはもって響いた二人の声に、まどかは目を白黒させている。

それはマミも同じ。

私もまた、自身が手に入れた力の正体に戸惑いを隠す事ができなかった。

19: 2014/09/11(木) 21:03:05.99
・・・
・・・


ゲッターの話は、ひとまずここまでだった。

そのあと。

起きてきた私を待っていたのは、竜馬や武蔵。そして巴マミの手による、心づくしの料理の数々。


ほむら 「なにごと・・・」

竜馬 「暁美、もう起きてきて平気なのか?身体の具合は・・・?」


慌てたように駆け寄ってくる竜馬に、不思議な安堵感を覚える。

無事でいてくれたという気持ちと、私の側にいてくれる事への安心感。


ほむら 「・・・あ、ええ。心配かけたかしら。だったら、ごめんなさい。もうすっかり平気だから」

竜馬 「そ、そうか・・・巴マミもソウルジェムを浄化すれば心配ないとは言っていたんだが、無事な姿を見るまでは、どうもな」

ほむら 「うん・・・」

竜馬 「・・・」

20: 2014/09/11(木) 21:03:53.15
ほむら 「あ、それはそうと、流君」

竜馬 「なんだ?」

ほむら (後で話があるわ)こそっ


彼にしか聞こえない声で囁いた私に、竜馬が頷いて答える。


ほむら 「それで・・・」


改めて、辺りを見回す。

テーブルの上に所狭しと並べられた料理の数々。

ホカホカと、美味しそうに湯気を立てているのを見せ付けられては、私のお腹も鳴ってしまいそうだ。

そういえば、レーション以外のまともな食事なんて、退院以来このかた、満足には取っていなかったものね。


ほむら 「これは一体、何が始まろうとしているの?」


湧き上がる唾をバレないように飲み込みつつ、平静を装って側のまどかに聞いてみる。


まどか 「うぇひひっ、パーティーだよ」

ほむら 「パーティー??」

21: 2014/09/11(木) 21:06:51.03
マミ 「あんな事があった後だけれど、せっかく昨日から料理の下ごしらえ頑張ったんだし、無駄にはしたくなかったから」


キッチンから、さらに追加の料理を運んできたマミが代わって答えた。


ほむら 「えっと、あの。もう少し分かるように説明してもらえると、ありがたいのだけれど・・・」

武蔵 「えへへへ・・・これは、俺の歓迎会なんだってさ」


マミは、今日はもともと帰国した武蔵の歓迎会を、まどかも交えた三人で行うつもりだったらしい。

そこに成り行き上、私と竜馬も呼ばれた形となってしまったということだった。


マミ 「暁美さん、食欲はある?この場にあなたがいるのも何かの縁、できれば兄の帰国を一緒に祝っていってもらいたいのだけど」

ほむら 「・・・私は別に、巴さんが良いと言うのなら」

22: 2014/09/11(木) 21:08:18.09
まどか 「そうだよ。ほむらちゃんもご馳走になって行こう!こんなにたくさんの料理、ほむらちゃんたちもいないと食べきれないもの」

武蔵 「まぁ、俺だったら一人で全部食える自信、あるけれどな」

まどか 「うぇひひっ」

竜馬 「お前は黙ってろよ、武蔵。ていうかさ、俺も一緒にご馳走になっちまっても良いものなのか?」

マミ 「もちろんよ。あなたにも助けられたのですもの、お礼もかねて。それに、兄とは面識もあるみたいだし、遠慮は不要よ」

竜馬 「そうか。じゃあ、お言葉に甘えて・・・」

マミ 「もっとも、どこで兄の知己となりえたのか・・・そこははなはだ疑問なのだけれど・・・」

竜馬 「こっちの世界的には、今日が初対面って事になるんだろうがな」

マミ 「え・・・」

ほむら 「流君」


竜馬のこぼした言葉に、私は慌てて釘を刺す。

まだまだ分からない事は多いのだ。不確定な事で、巴マミを惑わせるのは得策じゃない。

24: 2014/09/11(木) 21:09:13.58
武蔵 「難しい話は後だぜ。マミちゃん、腹減ったよ!もう食べちゃっても良いのかい」

マミ 「あ・・・うん。暁美さん、いずれ話はきっちりさせてもらうわよ。でも今は・・・」


マミ 「頂きましょっ!」


気持ちを切り替えたとでも言うように、今までの難しい表情から一転。

マミの顔に笑顔が広がる。

兄の帰国が嬉しくてたまらない。そんな気持ちを隠そうともしない、無邪気な少女の顔。


ほむら 「巴さん・・・」


こんなマミの表情は、はじめて見たかもしれない。

25: 2014/09/11(木) 21:12:42.51
>>23

参考になります!

26: 2014/09/11(木) 21:13:47.81
幼くして両親と氏に別れ、それから彼女は一人で孤独と戦ってきた。

マミが魔女化してしまった時間軸もある。

その時間軸で彼女のソウルジェムを曇らせてしまったものは、孤独感から来る精神との葛藤の敗北だった。


ほむら (孤独は、彼女の最大の敵だった・・・)


それがこの時間軸では、武蔵という兄が存在している。


ほむら (武蔵は、巴マミの孤独を払拭しうる存在であってくれるのかしら・・・)


そうであることを願う。

マミを先輩と慕うまどかのためにも、私の目的のためにも。

そしてなにより、彼女自身のためにも・・・


マミ 「どうしたの、暁美さん。お箸、進んでないようだけれど。お口に合わなかったかしら」

ほむら 「・・・ううん、そんなことないわ。頂いています。とっても美味しい」


言いながら、手元の料理を一口二口。

口に中に広がるのは、かつては良く口にした、懐かしい味だった。

27: 2014/09/11(木) 21:14:44.70
・・・
・・・


歓迎会が終わり・・・

私と竜馬。それにまどかの三人は、まどかの家への道を歩いていた。

日はとっくに暮れている。か弱いまどかを一人、家路につかせるのはあまりに心配だったから。


まどか 「何だかゴメンね。送ってもらっちゃって」

ほむら 「別に構わないわ。気にしないで」

まどか 「流君も、ありがとう」

竜馬 「おう」

まどか 「それと・・・ゴメンね」

ほむら 「・・・?どうしてそんなに、何度も謝るの?」

まどか 「えっと、ううん。これはさっきのとは違くて・・・あの・・・昨日、ね。私のこと、助けてくれたでしょ」

まどか 「それなのに私、あれからそっけない態度とっちゃって。悪かったなぁって・・・」

28: 2014/09/11(木) 21:16:15.28
ほむら (まどか・・・)


だって、それは仕方がない。

まどかを守るためとはいえ、目の前でキュウべぇを殺そうとしたのだ。

事情を知らないまどかが警戒するのは、至極当然の事だもの。


まどか 「でもね、私。考えてたんだ。初めてほむらちゃんと喋った時、そして、さやかちゃんと話してるほむらちゃんを見て、ね」

まどか 「ほむらちゃん、本当はとっても優しい子なんだって。だからね、キュウべぇにひどい事をしたのも、何か事情があっての事なんだろうなって」

ほむら 「鹿目さん・・・」

まどか 「ねぇ、ほむらちゃん。なんで、あんな事をしたの?私、本当のことを知りたいよ。だってほむらちゃんの事、悪くなんて思いたくないもの」


・・・泣きそうになってしまう。

だけれど。


ほむら 「・・・鹿目さん。あなたは知らなくて良い事よ」

まどか 「え・・・」

29: 2014/09/11(木) 21:17:07.98
ほむら 「唯一つだけ。キュウべぇの甘言には決して惑わされないで。今日、巴マミは危うく氏にかけた。魔法少女として生きるということは、こんな事が日常茶飯事に起こりえるという事よ」

まどか 「う、うん・・・あ、あの。だけれど、キュウべぇやマミさんはっ」

ほむら 「まどか」

まどか 「え・・・」

ほむら 「着いたわよ」


ずっと私の方を見ながら歩いていたので、気がつかなかったのだろう。

ここはすでに、まどかの家の前だった。


まどか 「あ・・・」

ほむら 「それじゃ、私たちはこれで。流君、行きましょ」

竜馬 「・・・ああ」

30: 2014/09/11(木) 21:18:38.89
まどか 「ほ、ほむらちゃん!」

ほむら 「・・・今日は楽しかった。じゃ、鹿目さん。また明日、学校でね」

まどか 「あ・・・う・・・」


まどかの返事も待たずに、きびすを返す私。

まどかも、追いすがってまで何かを言ってくることはなかった。


しばらく歩いたのち。

まどかの家がもう見えなくなった頃、竜馬がボソッと呟いた。


竜馬 「お前も辛いな」


私は、それにも何も応えなかった。

31: 2014/09/11(木) 21:20:20.58
・・・
・・・


まどかを家まで送り届けたあと、竜馬と私は私の部屋へと向かった。

向かい合わせで座り、まずは安物の紅茶で唇を湿らせる。


竜馬 「やっと、ゆっくりと話せるな」

ほむら 「そうね。できれば武蔵さんにも同席して欲しかったのだけれど」

竜馬 「しかたがねぇさ。今日は、再会を喜ぶ妹から引き離すなんて、酷なマネはしたくねぇ。しかも、あんな事のあった後だしな」

ほむら 「わかっているわ」

竜馬 「ま、必要な事は後で俺から、武蔵には伝えておくさ。それに、今まで俺が知りえたことは、分かる範囲で説明もしておいた」

32: 2014/09/11(木) 21:21:28.90
ほむら 「そう」

竜馬 「もっとも、巴マミが料理や暁美の様子見で側を離れた隙を突いてのことだ。随分と駆け足な説明になっちまったがな」

ほむら 「充分よ。疑問に思う事があれば聞いてくるでしょうし。・・・ところで」

竜馬 「なんだ?」

ほむら 「あなたの知っている武蔵さんに、妹や兄妹はいたの?」

竜馬 「聞いたことねぇな。あんな美人な妹がいたなら、絶対に自慢話の一つくらい聞かされていたはずさ」

ほむら 「ということは、流君と同じ、武蔵さんも。それどころか、巴マミまで・・・」

竜馬 「ああ。上手い具合にこの世界に入り込めるよう、過去が改変されているって事だな」

ほむら 「どこまでご都合主義的なのかしら」

33: 2014/09/11(木) 21:22:13.55
竜馬 「武蔵の、こっちに来てから今までの事は、次に会った時に詳しく聞くとしようぜ。だから、今は・・・」

ほむら 「ええ。今は私たちの知りえた事のすり合わせをしてしまいましょう」

竜馬 「じゃ、まずはお前の話から聞かせて貰おうか。お前が化け物に飲み込まれてしまった後の話だ」

ほむら 「ええ」


私は頷いた。

まず竜馬に伝えねばならないのは、あの声の事だ。


ほむら 「声が・・・聞こえたのよ」

竜馬 「声?」

ほむら 「そう。魔女にわざと飲まれ内部から攻撃しようとした直後、私は例の急激な魔力の消耗に襲われた」

竜馬 「ああ。らしいな。あの白い奴もそう言っていた」

ほむら 「逃れようにも魔力が尽きてしまっては、魔法少女は万事休すよ。そんな時、私に囁きかける声がね、頭に響いてきたの」

竜馬 「そいつは、なんて?」

34: 2014/09/11(木) 21:23:26.79
ほむら 「私に氏なれては困ると。あなたや武蔵さんをこの世界に呼び込んだ元凶だからって・・・」

竜馬 「・・・どういう事だ、それは、ちょいと聞き捨てならねぇな」

ほむら 「そいつは言った。私が望むなら力を貸すと。だから、私は望んだわ。力を・・・私はまどかを残して氏ぬわけにはいかないのだから」

竜馬 「・・・」

ほむら 「そして声の主はあなたの事を、こう呼んでいたのよ。リョウって・・・」

竜馬 「・・・!!」


竜馬の顔色が変わる。


ほむら 「心当たり、ある?」

竜馬 「・・・ある。いや、わからねぇ。だが、俺をリョウと呼ぶ奴なんざ、だいぶ限られている。そいつ、まさか・・・」

ほむら 「・・・」

35: 2014/09/11(木) 21:24:13.70
竜馬 「・・・とりあえず、暁美。続けてくれ」

ほむら 「続けるも何も、そこまでよ。力を望んだ私は、再び意識を失い、気がついたら巴マミの寝室に寝かされていた」

ほむら 「だから、あの後で何が起こったのかを私は知らない。だけれど、巴さんから聞いたわ。私、ロボットに乗っていたんでしょ?」

竜馬 「ああ・・・そうだ」

ほむら 「ゲッターロボに」

竜馬 「ああ・・・」

ほむら 「わかるわ。本能が告げてくる。謎の声が私に与えた力、それこそがゲッターロボなんだって」

竜馬 「・・・」

ほむら 「もう、後戻りできないんだって・・・」

竜馬 「・・・そうか。まさかお前が後釜とはな」

ほむら 「・・・?それって・・・」


竜馬の意味深な一言に思わず口を挟んでしまうが、彼は意に介した風もなく、話を先へと進めてしまう。


竜馬 「じゃあ、次は俺の話だな。きっかけはキュウべぇだったよ」

ほむら 「え・・・?」

36: 2014/09/11(木) 21:25:06.44
竜馬 「癪だがな。やつが俺にヒントを与えてくれたんだ。そして、俺も確信したぜ。ゲッターロボが今まで、どこにいたのか」

ほむら 「どこなの・・・?」

竜馬 「お前の便利なバックラーの中さ」

ほむら 「・・・」


私は驚かなかった。

今では分かる。これまでどころか、今この瞬間も。

ゲッターロボは私のバックラーの中に、その巨体を隠している事に。


竜馬 「あの時・・・」


竜馬は語りだした。

私が気を失った後、私の知りえなかった、あの空間で起こった事のあらましを。

37: 2014/09/11(木) 21:26:12.74
・・・
・・・


お前が化物に飲み込まれちまった後・・・

待てど暮らせど、その後の動きが何も無い。さすがに焦ったぜ。

お前を信じてはいたが、これは暁美にとって予期しない出来事が起こってるに違いないってな。

そんな時だ。どこからとも無く、あの白いのが現れたのは。

奴は明確にこそは言わなかったが、暗に俺にこう告げた。

暁美の変調は、俺とお前の共通点にあるのじゃないかってな。


ほむら 「流君との、共通点?それって・・・」


ああ、ゲッターだ。

そうとしか考えられなかった俺は、ゲッターは暁美とともにあると確信した。

今となっちゃ、考えの飛躍もはなはだしくも思う。だがな。

それで、正解だったんだよ。

38: 2014/09/11(木) 21:27:02.61
俺は呼びかけた。魔女の身体越しに、その中にいるお前に。

お前とともにいるであろう、ゲッターロボに。

・・・そして俺の声に応えて、ゲッターは姿を現した。


ほむら 「・・・どこから?」


魔女の身体の中からだ。

お前のバックラーに収まっていたゲッターが、魔女の中で顕現したのさ。

当然、ゲッターの巨体を化物が飲み込んでいられるはずも無い。

魔女の身体は四散し、後に残ったのはゲッターロボのみだったって訳さ。

39: 2014/09/11(木) 21:28:37.83
・・・
・・・


ほむら 「え・・・それじゃ、私はその時いったいどこにいたの?」

竜馬 「・・・ちゃっかり、ゲッターのコクピットに収まってたよ」

ほむら 「すでに、ゲッターのコクピット・・・操縦席に・・・」

竜馬 「ああ。前にも言ったと思うが、ゲッターロボは本来三人乗りだ」

ほむら 「ええ、聞いたわ」

竜馬 「ゲッターロボはもともと三機のロケットマシンでな。それが合体して一体のロボット、ゲッターが誕生する。つまり、ゲッターには三箇所のコクピットがあるってわけだ」

ほむら 「流君が乗るべき操縦席と、武蔵さんの席と・・・」

竜馬 「そう。そして、後一つ。お前はその中で気を失っていたんだよ、暁美」

ほむら 「ということは・・・そこって・・・」

竜馬 「ああ。もう一人の仲間・・・神隼人が乗っていた、ゲッター2の操縦席だ」

40: 2014/09/11(木) 21:30:30.45
ほむら 「ジン・・・ハヤト・・・」


初めて聞く名。

それなのに、なぜかとても懐かしい響き。

神隼人・・・


ほむら 「力を望んだ私が、かつては神という人の乗っていた操縦席に座っていた・・・」

竜馬 「そうだ」

ほむら 「不思議な感じ・・・ね、流君。何となくだけれど、私は思うの。私が聞いた、謎の声って、その神っていう人なんじゃないかって」

竜馬 「ああ、俺もご同様にそう思っていたところだ。だがな・・・」


彼が次に続けようとしている言葉は、何となく分かっていた。


竜馬 「奴はとうに氏んでいる」


予想通りだった。


ほむら 「さっき流君が言っていた、後釜ってそういう事ね」

竜馬 「ああ。隼人が暁美に語りかけ、自分がかつて座っていたコクピットを明け渡す。話の筋は通る」

ほむら 「でも、それが正しいとして、すでに氏んでしまった人が、どうやって私に話しかけてきたのかしら」

竜馬 「・・・わからねぇ。ともかく、今は話を先に進めるぜ」

41: 2014/09/11(木) 21:32:07.81
・・・
・・・


ゲッターが現れた後。

俺はゲッター2・・・ジャガー号のコクピットで気を失っているお前を発見した。

慌ててソウルジェムを確認したら、案の定だ。黒く濁りかかっている。

俺ではどうしようもない。ともかく、この場から脱出する事が先決だ。

そう考えた俺はゲッターに飛び乗り、結界の入り口まで急行したあと、入り口を破壊して現実世界へと帰還したって訳だ。


ほむら 「・・・わざわざ結界を破壊したの?」


ああ。

お前は気を失っている。巴マミも目は覚ましていたようだが、覚醒直後で本調子じゃない。

ゲッターで入り口をこじ開けるのが一番手っ取り早いと思ったんだ。


ほむら 「結界は魔女が氏んだら、程なく消滅するのだけれど。一緒に魔女を倒した時、見ていなかった?」


え・・・

あ、焦ってたんだよ、あの時は。

・・・そして、結界から出るのと同時だったぜ。ゲッターが跡形もなく、消えてしまったのは。

実際は、お前のバックラーの中に戻ったんだろうがな。

どうやらこっちの世界では、ゲッターは魔女の結界の中以外では活動できないらしい。

42: 2014/09/11(木) 21:33:39.80
・・・
・・・


竜馬 「と、こんなところだな。後は、鹿目から説明を受けただろ。俺たちは外で待っていた鹿目と合流。巴マミの家へと向かった」

ほむら 「巴さんからは、グリーフシードの施しを受けた上で、ね」

竜馬 「そういう言い方はよせよ。武蔵から色々聞いたんだろうがよ、お前のことを心底心配そうにしてたんだぜ」

ほむら 「・・・うん」

竜馬 「今日接してみて思ったが、良い奴みたいだな、巴マミ。出会って間もない鹿目も、すっかり心を開いているようだし」

ほむら 「・・・そんなの、言われなくたって知っているわ」

竜馬 「そうだったな。お前、巴マミのこと、けっこう好きなんだろう」

ほむら 「な、なによ、藪から棒に」

竜馬 「明るく振舞う巴マミを見ながら、お前まで笑顔を浮かべていたぜ。気づいていたか?」

ほむら 「・・・」

43: 2014/09/11(木) 21:34:30.79
竜馬 「暁美、お前も思ったよりは、良い奴だったんだな」

ほむら 「なによそれ、褒めてるの?けなしてるの?」

竜馬 「褒めてるんだよ。言葉は素直に受け取るもんだ。さて、それはともかくとして、だ」

ほむら 「なによ」

竜馬 「巴マミ・・・なんとか助力を得られるような運びに、話をもって行けないもんかなってな」

ほむら 「・・・そうね」


ある時は孤独に苛まされ。

またある時は、突きつけられた現実を受け入れられずに、暴走してしまう巴マミ。

なまじ実力があるだけに、そうなってしまっては非常に厄介な彼女だったけれど。

味方になってくれれば、これほど心強い相手はいないだろう。

そう、もしかしたら、この時間軸では・・・


竜馬 「暁美?」

ほむら 「この件については、後で考えをまとめておくわ」

竜馬 「ああ。じゃあ、残る懸念点は・・・」

ほむら 「私の、謎の魔力消耗現象、ね」

44: 2014/09/11(木) 21:35:51.52
竜馬 「そうだな。そいつのせいで、お前は満足に戦えないどころか、常に魔女化の危険にさらされ続けているって訳だからな」

ほむら 「たまったものではないわ。戦えない魔法少女なんて、いったいどんな存在意義があるっていうのよ・・・」

竜馬 「・・・解決策はともかく、原因はもしかしたら掴めたかも知れないぜ」

ほむら 「え・・・」


竜馬の意外な一言に、私の目が丸くなる。

当の本人でも見当のつかない事が、魔法少女ですらない竜馬に解明できるなんて、とても思えないのだけれど・・・


ほむら 「どういうことなの?詳しく話してくれないかしら」

竜馬 「それなんだが、武蔵も交えて明日にでも仕切りなおさないか。武蔵の今までのことも、聞いてみたいだろ?」

ほむら 「それは、まぁ・・・」

竜馬 「あくまでも仮説だ。あまり期待されすぎても困るが、まぁ・・・良い線ついてるとは思うぜ」

ほむら 「分かったわ。あなたの言うとおりにしましょう」


頷くと、竜馬は残った紅茶を一気に喉に流し込んで、立ち上がった。


竜馬 「じゃ、明日な」


そう言って出て行く竜馬を、私は後ろ髪を引かれる思いで見送ったのだった。

50: 2014/09/12(金) 21:03:31.67
・・・
・・・


翌日。

校門を潜った辺りで、登校してきたまどかとさやかと鉢合わせた。

爽やかな陽光に照らされて、一層映えるまどかの笑顔。

朝一番から素晴らしい物が見られたお陰で、何だか今日は良い事でも起こりそうな予感。



まどか 「おはよう、ほむらちゃん!」


手を振って駆けて来るまどか。今朝も元気ね。そんな無邪気な仕草もたまらない。

それとは対照的に、何だか美樹さやかの顔には生気が足りないよう。


さやか 「おはよ、暁美さん」

ほむら 「おはよう・・・」


にっこりと挨拶をしてくれたさやかだけれど、無理して作った笑顔である事は一目瞭然だ。

51: 2014/09/12(金) 21:05:44.08
彼女の作り笑いは、普段が元気なさやかなだけに、見ていて非常に痛々しい。

さやかが元気を失う原因といえば、大体は見当がつくのだけれど。

私は一応、まどかに探りを入れてみる。


ほむら 「鹿目さん、美樹さんはどうかしたの」(こそっ)

まどか 「あ・・・うん。やっぱりほむらちゃんにも分かっちゃう?」

ほむら 「ええ、お芝居下手よね。無理して普段通りにしようとしているのが、見え見えだわ」

まどか 「そっかぁ・・・うん、えっとね。さやかちゃん、私にも何も言ってくれないんだけれど、たぶん上条君の事だと思うんだ」


・・・やっぱり。

52: 2014/09/12(金) 21:08:34.26
まどか 「あ、上条君っていうのはね、今は入院してるんだけれど、さやかちゃんの幼馴染の男の子で・・・」


上条恭介。

さやかが魔法少女となる場合、彼女が望む願いは上条恭介の怪我の快癒、ただそれのみだった。

時間軸によって願いの内容が変わるまどかとは対照的で、それだけさやかの上条恭介に対する思いの深さがうかがえる。

将来を嘱望されたバイオリニストであり、美樹さやかの幼馴染にして想い人・・・

そして・・・


まどか 「・・・昨日の放課後も、さやかちゃん。お見舞いに行ったみたいなんだけど・・・」


人の恋路に口を出すほど野暮でもないし、暇でもないけれど・・・


まどか 「えっと、ほむらちゃん。聞いてる?」

ほむら 「あ、ええ・・・」

53: 2014/09/12(金) 21:10:46.45
さやか 「なになにー。なに二人でコソコソ話してるのよ。これは妖しい関係の匂いがしますなぁ」

まどか 「やだ、そんなんじゃないよ。うぇひひ」


彼女の様子からすると、昨日上条恭介の見舞いに行った場で、彼から何か言われたのだろう。

何を言われたのかは・・・大体想像がつく。

・・・私は上条恭介という男が、正直好きではなかった。


さやか 「どうしたのよ、難しい顔して」

ほむら 「いえ、べつに」

さやか 「お腹でも痛い?それとも何か、心配事でもあるの?」

ほむら 「まぁ・・・」


後者ね。とは、口に出しては言わなかったけれど。

さやかが上条恭介の事で思い悩んでいる時は、彼女から目を離せない。

なぜなら、ヤツがさやかの弱った心の隙を突きにやってくる可能性が高いのだから。

54: 2014/09/12(金) 21:17:52.98
・・・
・・・


教室。

二時間目も終ろうという頃になって、やっと竜馬が登校してきた。

遅刻をしておきながら、悠々と自分の席へと向かう姿は、さすが大物の風格だ。

・・・その面の皮、少しは分けて貰いたいくらい。

そして、時間は進んで昼休み。

何食わぬ顔で、彼は私に話しかけてくる。

・・・まったく。


竜馬 「よ」

ほむら 「今日はどうしたの?また、魔女の結界を探していたのかしら」

竜馬 「いや、魔女退治は少し休んだ方がいいだろう。戦う度に魔力が枯渇されたんじゃ、お互いたまったものではないしな」

ほむら 「そうね。じゃあ、今日はどうして遅れたの?悪目立ちはよしてって、言ってあったはずなのに」

竜馬 「そう言うなって。こっそり武蔵と会ってきたんだからよ」

ほむら 「あら・・・」

55: 2014/09/12(金) 21:19:51.77
竜馬 「巴マミのいない場で話したかったからな。今日の話し合いの段取りとかをさ。で、今晩。またお前の部屋でって事で詰めてきたんだが、問題ないよな?」

ほむら 「ええ、巴マミがあっさり外出を許してくれれば良いのだけれどね」

竜馬 「そこはそれだ。俺たちと会うってんじゃ警戒されるだろうからな。上手くごまかして来るように、念を押しておいたぜ」

ほむら 「さすが、ぬかりがないわね。じゃ、頃合を見て私の部屋へ。武蔵さんは流君が案内してきてくれるんでしょう?」

竜馬 「そりゃ構わないが、なんでわざわざ別行動なんだ?一緒に行けばいいじゃねぇか」

ほむら 「うん・・・」


わたしはちらりと、視線を動かす。

その先には、まどかと談笑する美樹さやか。

表面上は明るくふるまってはいる様だけれど・・・


竜馬 「鹿目がどうかしたか?」

ほむら 「いえ・・・まどかと一緒にいる子の方よ」

56: 2014/09/12(金) 21:24:09.56
竜馬 「えっと・・・なんつったかな。み・・・みき・・・?」

ほむら 「美樹さやか。まどかの親友よ。覚えてあげてね」

竜馬 「へぇへぇ」

ほむら 「かつて、私とともに魔女と戦った、魔法少女のひとりなんだから」

竜馬 「・・・!」

ほむら 「別の時間軸での話だけれどね。今はまだキュウべぇとも接触していないようだし、魔女の存在も知らない普通の女の子でしかないわ」

竜馬 「今はまだ・・・か」

ほむら 「ええ。彼女の心は今、おそらく不安定な状態にある。キュウべぇの甘言に取り込まれる危険性が高いの」

竜馬 「おそらくって、どういうことだ?確信を持てるわけじゃないって事か?」

57: 2014/09/12(金) 21:26:35.42
竜馬 「えっと・・・なんつったかな。み・・・みき・・・?」

ほむら 「美樹さやか。まどかの親友よ。覚えてあげてね」

竜馬 「へぇへぇ」

ほむら 「かつて、私とともに魔女と戦った、魔法少女のひとりなんだから」

竜馬 「・・・!」

ほむら 「別の時間軸での話だけれどね。今はまだキュウべぇとも接触していないようだし、魔女の存在も知らない普通の女の子でしかないわ」

竜馬 「今はまだ・・・か」

ほむら 「ええ。彼女の心は今、おそらく不安定な状態にある。キュウべぇの甘言に取り込まれる危険性が高いの」

竜馬 「おそらくって、どういうことだ?確信を持てるわけじゃないって事か?」

58: 2014/09/12(金) 21:29:26.41
ミスりました。申し訳ない・・・



ほむら 「今までの時間軸での経験則よ。美樹さやかはおそらく、放課後に病院へ向かうはず。入院している幼馴染の男の子を見舞いにね」

竜馬 「ふ・・・ん」


何かを察したのか、竜馬が幾分声を落とす。


竜馬 「・・・後でもつけるか?」

ほむら 「まさか。だって、クラスメイトなのよ」


軽く竜馬に笑って見せると、私は席を立ち、美樹さやかの元へと向かった。

まどかと話していたさやかが、私の気配に気がつき、顔をこちらへと向ける。

にこりと微笑んで迎えてくれたが、その笑顔に張り付いたわざとらしさが、私には不憫に感じられてならない。


さやか 「おや、暁美さんじゃないですか。私たちに何かご用ですかな」

ほむら 「ええ。美樹さんって、たしか上条恭介君の幼馴染だったわよね」

さやか 「え・・・そ、そうだけど、なんであんたが恭介の事を・・・」

59: 2014/09/12(金) 21:31:02.46
ほむら 「深い意味はないの。鹿目さんから聞いたのよ。あなたと上条君は仲が良いって・・・ね?」

まどか 「うぇひっ!?」

さやか 「そうなの、まどか?」

まどか 「う・・・うぇひひひ・・・え、ええと・・・うん・・・」

ほむら 「入院しているって、聞いたわ」

さやか 「うん、まぁ・・・ちょっと事故でね・・・」

ほむら 「それでね、このクラスで顔を合わせてないのは上条君だけだし、挨拶もかねて、一度お見舞いでも・・・と、思ったのよ」

さやか 「暁美さんが?恭介のお見舞いに?なんで・・・!?」

ほむら 「クラスメイトだもの、心配するのは当然でしょう。いけないかしら」

さやか 「いや、いけないとか、いけなくないとか、私からはそういうの、なんとも言えないけどさ・・・」

ほむら 「じゃ、良いのね。では、今日にでも早速。放課後、ご一緒させてもらうわね」

さやか 「・・・え、今日!?早速!?」

ほむら 「今日もお見舞い、行くんでしょ?鹿目さんから聞いたわよ」

まどか 「う・・・うぇひひひ・・・」(ひくひく)

60: 2014/09/12(金) 21:33:01.17
さやか 「まどか~・・・あんた、言わなくてもいい事を、人にぺらぺらと、まったく勘弁してよね」

まどか 「ご、ごめん」

さやか 「まぁ、いいわ。行きましょ、二人で」

ほむら 「ええ」

竜馬 「三人で、にしちゃくれねぇかな」


不意に後ろから声がかかる。

いつの間に側まで来ていたのか、竜馬が出し抜けに会話に加わってきたのだ。


ほむら 「ちょ・・・いきなりなに?」

さやか 「いやいや、あんたが言うな」


思わず本音の出た私に、さやかの冷静な突込みが入る。

正論過ぎて、ぐうの音も出ない・・・


竜馬 「俺が転校してきた時には、上条って奴はすでに入院していたからな。顔通しって事なら、俺が行かない理由はないだろ」

さやか 「そうね・・・分かったわ。じゃ、三人で行こうか。ただ、ちょっとなんて言うか・・・恭介ね、今はナーバスなの」

61: 2014/09/12(金) 21:35:16.44
さやか 「だから、今日はホント顔通しだけね。私も、すぐに帰るつもりだったし・・・」

竜馬 「了解だ。じゃ、放課後にな」

ほむら 「あ、流君・・・美樹さん、それじゃ後で。鹿目さんも、また」


用件だけ済むとさっさと自分の席に引き上げてしまった竜馬を、私も慌てて追う。

席に戻るなり机に突っ伏し、居眠りを決め込む彼に、私はため息を一つ。

まったく、どこまでフリーダムなのかしら。


ほむら 「流君、どういうつもり?」

竜馬 「なんだよ、暁美。昼飯後は眠くなっちまうんだ。ちょいと放っておいちゃくれねぇかな」

ほむら 「・・・できれば病院には、流君には来て欲しくないのだけれど」

竜馬 「なんでだよ」


突っ伏していた竜馬が、顔を上げて私を見た。

気性の激しさを現す、鋭い目。気の弱いものなら、彼に本気で睨まれたなら、それだけで腰を抜かしてしまうだろう。

そして私は知っている。

流竜馬という人間が、彼の放つ眼光そのままの男であるという事を。


ほむら 「会わせたくないのよ、上条恭介とあなたを」

62: 2014/09/12(金) 21:38:09.96
竜馬 「・・・言ってる意味がわからねぇ」

ほむら 「できれば今日は、夜まで別行動にしてもらえないかしら」

竜馬 「・・・上条恭介ってのが、美樹さやかが魔法少女化する上での、キーパーソンなんだろう。それくらい話の流れで、俺でもわかる」

ほむら 「ええ・・・」

竜馬 「上条と美樹に何らかのやり取りがあって、そこでできた弱みをキュウべぇに突かれる。暁美の心配事は、そんなところじゃねぇのか」

ほむら 「その通りよ」

竜馬 「・・・キュウべぇを美樹に近づけないためにも、人手は多いに越した事がないんじゃないのか?」

ほむら 「ええ・・・そうね、流君の言うとおりだわ・・・分かった、一緒に行きましょう。だけれど、一つだけ約束して」

竜馬 「改まって、なんなんだよ?」

ほむら 「流君は大人しくしていて。決して事を荒立てないように」

63: 2014/09/12(金) 21:39:53.12
竜馬 「・・・お前な。病院なんだろ、大人しくしているさ。俺を何だと思っているんだ」


再び机に突っ伏す竜馬。あとはもう、話しかけても返って来るのは寝息のみ。

はぁ・・・と小さな溜息一つを残し、私も自分の席へと戻る事にした。

腰を下ろした後、改めて隣の席の竜馬に目を向ける。

乱暴で口が悪くて、そして我が強い。

だけれど、一途で自分の信念には、ひたすらにまっすぐな男。

・・・

そんな彼から上条恭介は、一体どう見えるのだろう。

64: 2014/09/12(金) 21:43:11.22
・・・
・・・


放課後。

結局、午後の授業も居眠りし通しだった竜馬の耳を引っ張り、引きずる様に私は教室を出た。

さやかはお手洗いを済ませてくるとの事なので、先に校門前で待つことにしたのだ。


まどか 「ほむらちゃん!」


外履きに履き替えて玄関を出たところで、後ろからまどかに呼び止められた。

ちょっと怒っている様で、柔らかな頬をぷくっと膨らませながら、私を睨みつけている。


ほむら 「・・・怒った顔も可愛いのね、まどか(ほむぅ)」

まどか 「うぇひっ!?」

竜馬 「・・・おい、心の声が表に出てるぞ」

ほむら 「はっ・・・こ、こほん。な、何か用かしら、鹿目さん」

65: 2014/09/12(金) 21:46:10.98
まどか 「あ、うん・・・!さっきのあれ、ひどいよー!おかげで私、さやかちゃんに怒られちゃったんだからね!」

ほむら 「上条君のこと?事実を言っただけだけれど。まどかから聞いたって」

まどか 「そうだけど、さやかちゃんに直接言わなくったって・・・」

ほむら 「不愉快な思いをさせてしまったのなら、謝るわ。だけれど・・・」

まどか 「?」

ほむら 「私は目的のためなら、手段は選ばない・・・!」ふぁさっ!

まどか 「あ・・・あう・・・」

竜馬 「・・・」

ほむら (今の私、ちょっとかっこよかったんじゃないかしら)

竜馬 「・・・と、とりあえず、歩きながら話そうぜ、鹿目」

まどか 「う、うん」

ほむら 「・・・」


二人は私を置き去りに、校門の方へと連れ立って行ってしまった。


ほむら 「・・・あれ?」

66: 2014/09/12(金) 21:47:08.28
・・・
・・・


校門前。


まどか 「え・・・さやかちゃんの所にキュウべぇが・・・?」

ほむら 「今はまだ現れていないけれど、程なく彼女の前に姿を現す。その可能性が高いわ」

まどか 「え・・・て、いう事は・・・」

ほむら 「そう。あなたが知っているとおり、美樹さんは上条君のことで悩んでいる。そして・・・」

竜馬 「美樹さやかは魔法少女になる素養がある・・・らしいぜ」

まどか 「ほ、本当に?」

ほむら 「ええ、事実よ」

まどか 「ど、どうしてほむらちゃんに、そんな事が分かるの?」

ほむら 「・・・キュウべぇが美樹さんと接触するとしたら、上条君と会った直後、一番心が病んでいる時を狙ってくるはず」

まどか 「上条君と会って、心が病む・・・?なんで・・・?」

ほむら 「だから私たちは病院に行くの。そして、キュウべぇが美樹さんに近づこうとするなら、それを阻む」


まどかの疑問には敢えて答えず、私は事実のみ淡々と告げる。

疑問に対する答えを話した所で、今のまどかに信じてもらう事は、しょせん叶わないのだから。


ほむら 「そういう訳だから。利用するような真似して、悪かったわ」

67: 2014/09/12(金) 21:50:33.35
まどか 「・・・」

ほむら 「納得がいってないって顔ね」

まどか 「ねぇ・・・ほむらちゃん」

ほむら 「なに?」

まどか 「魔法少女になるのって、ほむらちゃんにとっては、そんなにいけないことなの?」

ほむら 「・・・」

まどか 「たしかに、危険な事だって言うのは分かるよ。マミさんだって、毎日命がけで戦ってる。昨日だって危なかったの聞いてるもん」

まどか 「だけどね、それはこの街のみんなを悪い魔女から守るためなんだよね?戦う事で、救われてる人がいるんだよね?」

ほむら 「・・・そうね」


力ないただの少女だった頃の私も、確かに救われたのだ。

他でもない、魔法少女となったまどかに。


まどか 「本当に叶えたい願いがあって、それで魔法少女になれば、マミさんも仲間が増えて、それだけ危険じゃなくなるって事だよね」

まどか 「・・・ねぇ、それってそんなにいけない事なのかな」


当然の疑問だった。

魔法少女を待ち受ける終末の真実さえ知らなければ、だれだってまどかと同じように考えるだろう。

68: 2014/09/12(金) 21:54:14.01
さて、何と言えばまどかは納得してくれるのか。


ほむら 「それは・・・」


私が考えを巡らせ、ほんの少しだけ逡巡していた時だった。


竜馬 「鹿目は、魔法少女になりたいのか?」


その間隙を突いてきたかの様に、竜馬が話に割り込んできたのは。


まどか 「え・・・う、うん。マミさんは素敵な人だし、こんな私でも力になれるなら、それはとても嬉しいなって」

竜馬 「じゃあ、それと引き換えに、どうしても叶えたい願いってのが、お前にはあるんだな?」

まどか 「え・・・」


戸惑いの表情を浮かべて、竜馬を見上げるまどか。

次の句が継げないのか、言葉を途切れさせたまま、口だけパクパクしている。

まるで・・・


竜馬 「まるで、自分の願いなんか、考えてもいなかったって顔してるぜ」


竜馬が私の考えを代弁するかのように、まどかに告げる。

69: 2014/09/12(金) 21:56:25.72
図星だったようで、まどかはうぐっと小さくうめいて、俯いてしまった。

まったく、自分の欲求に無頓着な所は、とってもまどからしいと言えるのだけれど。


まどか 「うぇひひ・・・、そこら辺は、あまり深く考えてなかったよ」

竜馬 「鷹揚と言うかなんと言うか、大物だと思うぜ、鹿目は」

まどか 「う、うぇひひひ・・・」


人を疑う事を知らないまどかは、竜馬の言うことを素直に受け取って、顔を赤めながら頭なんか掻いている。

それ、褒められた訳じゃないと思うわよ。


竜馬 「だがな・・・命がけって部分は、もっと深く考えた方が良い」

まどか 「え・・・」

竜馬 「実感として湧かないのは仕方がないがな、命がけで賭けた命は、賭けに負けりゃ二度と手元に戻ってくる事はねぇんだ。分かるよな?」

まどか 「え・・・う、うん」

竜馬 「お前が命を失って、残されて悲しむ奴はいないのか?」

まどか 「・・・え」

竜馬 「お前が真に望む事、お前の未来が絶たれ、残された者が泣き、それ等と引き換えにしてまで望む事があったのなら、俺から言う事は何もない」

70: 2014/09/12(金) 21:58:30.05
竜馬 「覚悟を決めた人間を引き止める言葉を、あいにく俺は知らないからな。だが、そうじゃないなら・・・」


竜馬が、ちらりと私へ視線を走らせる。が、すぐにまたまどかへと視線を戻すと、彼は言葉を続けた。


竜馬 「命がけって言葉を、軽々しく使うべきじゃない。お前を大切に思っている人のためにもな」

まどか 「う・・・」


大切な人を失いながらも、まさしく命がけで戦ってきたであろう竜馬の言葉は重たかった。

経験をともなった言葉の重さに、まどかは圧倒されて二の句もつけない。

そしてそれは、ともに聞いていた私も同様だった。


まどか 「・・・あぅ」

さやか 「やー、遅くなってゴメン。途中で仁美に捕まっちゃって、ちょっと話してきちゃった!」

まどか 「あ、さやかちゃん・・・」

竜馬・ほむら 「・・・」

さやか 「・・・どうしたのさ?なんだかおもたーい雰囲気なっちゃってるけど」

ほむら 「何でもないわ。さ、遅くなる前に行きましょう」

さやか 「う、うん・・・」


キュウべぇ 「・・・」

71: 2014/09/12(金) 22:00:50.48
・・・
・・・


病院。

私は竜馬の袖を引っ張り、まっすぐに上条恭介の病室へと向かおうとするさやかに背を向けた。


さやか 「あ、あれ・・・どこいくの、二人とも」

ほむら 「手ぶらで来ちゃったから。売店で何か買ってから行くわ」

さやか 「別に気を使わなくっても良いと思うけど」

ほむら 「そういうわけにもいかないでしょ。病室は聞いてるし、美樹さんは先に行ってて」

さやか 「あれ?私、恭介の病室がどこだか、教えてたっけ?」

ほむら 「鹿目さんから」

さやか 「ああ・・・」

まどか 「うぇひひひ・・・」


さやかからジト目で睨まれて、まどかの口から引きつった笑いが空しくこぼれる。

そう、まどかもさやかがキュウべぇと接触する可能性を聞き、心配して一緒について来ていたのだった。


さやか 「じゃ、まどか。私らは先に行ってよう?」

72: 2014/09/12(金) 22:02:49.13
ほむら 「二人とも、後でね。流君、行きましょ」

竜馬 「おう」


私たちは、まどかたちとは反対の方へと歩き始める。


竜馬 「で、これからどうするんだ?身を隠して、キュウべぇをとっ捕まえる算段でも図るのか?」

ほむら 「え・・・?」

竜馬 「え??」

ほむら 「話、聞いてなかったの?売店に行って、病室に差し入れる物を買うのよ」

竜馬 「はぁ・・・!?俺はまたてっきり、二人と離れたのも考えがあっての事だとばかり・・・」

ほむら 「キュウべぇから身を隠したって意味は無いわ。さやかの側にいるのが、彼女を守るのには一番確実よ」

竜馬 「じゃあ、何のために差し入れなんて・・・」

ほむら 「いや、礼儀というか、常識として・・・」

竜馬 「・・・」

ほむら 「私、何か変な事を言ったかしら」

竜馬 「俺さ、お前の事クールな二枚目ポジションだと思ってたんだけどさ」

ほむら 「・・・?」

竜馬 「かなり天然、入ってるのな」

ほむら 「そうかしら。自分じゃ分からないけれど・・・」

竜馬 「そりゃそうだろうぜ」

ほむら 「あ・・・売店があったわ。ちょっと買ってくるわね」

竜馬 「はいはい」

73: 2014/09/12(金) 22:04:21.25
・・・
・・・


上条恭介の病室前。

手に見舞い用の花束を抱え病室の前までやってくると、廊下でまどかがオロオロしていた。

室内に入るには入れないといった感じで、時々病室を覗き込んだりしながら、廊下をウロウロしている。


竜馬 「鹿目、ありゃ、なにやってるんだ?」

ほむら 「・・・だいたい、想像できるけれど・・・鹿目さん」

まどか 「あ・・・ほむらちゃん~~~」


まどかが、ホッとした顔で駆け寄ってきた。


竜馬 「どうしたんだ、お前。外で俺たちを待っててくれた・・・て様子じゃねぇよな」

まどか 「う、うん。じ、実は中でさやかちゃんと上条君が言い争いを・・・ていうか、上条君が一方的に・・・」

ほむら 「・・・まどかが一緒にいるのに?」

まどか 「うん・・・さやかちゃんに外で少し待っててって言われて。でも、心配だよ。あんな顔のさやかちゃん、見たことないもの」

74: 2014/09/12(金) 22:08:43.50
ほむら 「・・・上条恭介」


恥も外聞も既に捨てているのか。さやか以外の者の前でも醜態を晒すなんて。

・・・それだけ精神的に追い詰められているって事なんだろうけれど。

だけれど・・・


竜馬 「上条は美樹になんて言ったんだ?」

まどか 「それは・・・えっと・・・」

竜馬 「大丈夫だから、言ってみろ」

まどか 「えとその・・・今日は友達まで連れてきて、皆で僕を笑いに来たのかって・・・上条君、そんな事言う人じゃなかったのに・・・」

竜馬 「・・・」


竜馬の目つきが代わる。

75: 2014/09/12(金) 22:10:47.69
ギ口リと病室の扉をねめつける。

なんて目力。扉ごときは容易く眼力だけで破壊してしまいそうな迫力。

あの目つき。さすがの私も、全身が総毛立つのを抑えられない。

ああ、怖い。だから、ここには彼を連れてきたくなかったのだ・・・


まどか 「・・・っ」


普段はノンビリしているまどかも、さすがに様子の一変した竜馬に気がつき、思わず息を呑んでいる。

彼女まで怯えさせてどうするのよ。まどか、すっかり固まってしまっているじゃない。


ほむら 「ちょっと、流君」


私は慌てて、引き止めるように竜馬の腕を掴んだ。

76: 2014/09/12(金) 22:11:56.35
だが竜馬は、私の存在など意に介さぬかのように、視線を扉に据えたままで、こちらをチラリとも見ようとしない。


竜馬 「自分を笑いに来たと、そう美樹に言ったのか」

まどか 「う、うん・・・」

竜馬 「自分を本気で心配している奴に、そんな事を言ったのか」


ぎりっ・・・

竜馬の奥歯をかみ締める音が、私の耳にも届く。

怒りと憤り。その両者が寸分も隠れることなく、竜馬の顔を染め上げていた。


ほむら 「落ち着いて。顔、怖いから」

竜馬 「上条・・・男じゃねぇぜ」


竜馬が病室に向かって歩き出す。

バカ力の竜馬を生身の私が止められるわけもない。みっともなくズルズルと引きずられるままの私。


ほむら 「だからっ・・・(ずるずる)、今日は大人しくっ・・・(ずるずる)、しててって・・・(ずるずる)あぅ、最初に言ったでしょう!?」

77: 2014/09/12(金) 22:13:49.53
竜馬 「挨拶してくるだけだ」

ほむら 「挨拶しようって顔じゃないじゃない!」


思い切り踏ん張って抗ってみても、竜馬の手が扉の取っ手を掴むのを引き止める事が叶わない。


竜馬 「邪魔するぜ」

ほむら 「ああ、もうっ」


私の奮戦むなしく、竜馬は上条の病室の中へと消えて行ったのだった。

引きずられたまま成す術のない、非力な私もろとも、まどか一人だけを廊下に残して・・・


まどか 「あわわ・・・」

78: 2014/09/12(金) 22:15:18.77
・・・
・・・


まどか 「・・・え、えっと。私はこのまま、ここにいて良いのかなぁ」(ぽつーん)

まどか 「流君、すごく怒ってた様だけど、まさか乱暴な事しないよね・・・」

まどか 「ほむらちゃんだっているし・・・」

まどか 「・・・」

まどか 「・・・」

まどか 「うぇひぃ・・・やっぱり心配だよ・・・」

まどか 「・・・よしっ!ここはやっぱり、私も中に入っt
キュウべぇ 「まぁ、待ちなよ、まどか」

まどか 「うぇひっ?!び、びっくりしたぁ・・・キュウべぇ、いつからいたの??」

キュウべぇ 「ずっと側にいたよ。ただ、竜馬とほむらはどう言った訳か、僕の事を快く思っていないからね。身を潜めていたってワケさ」

まどか 「そ、そうなの・・・でも、そうしてここにいるの?」

キュウべぇ 「うん、君の友達の美樹さやかに用があってね」

まどか 「さやかちゃんに・・・え・・・そ、それって、まさか・・・」

79: 2014/09/12(金) 22:16:15.26
キュウべぇ 「そうだよ、まどか。僕はさやかに魔法少女になって欲しいってお願いしに来たんだ」

まどか 「さ、さやかちゃんが、魔法少女に・・・」

キュウべぇ 「彼女にはその素質と資格があるからね。そしてどうやら、命と引き換えにしても叶えたい願いが、今の彼女にはあるようだ」

まどか 「もしかして、上条君のこと・・・?」

キュウべぇ 「まぁ、実際の所は彼女と話してみないと始まらないけれどね。今は取り込んでるようだし・・・」

まどか 「・・・」

キュウべぇ 「今はこうして、様子を見ておくことにしよう。まどかはどうするんだい?」

まどか 「・・・」

キュウべぇ 「・・・まどか?」

まどか 「う、うぇひっ?」

キュウべぇ 「どうかしたのかい、まどか。なにか考え事でも?」

まどか 「う、うん・・・」

84: 2014/09/14(日) 00:10:00.33
再開します。

85: 2014/09/14(日) 00:11:50.53
・・・
・・・


竜馬 「邪魔するぜ」


いきなり扉を開け放って、鼻息荒く踏み込んできた厳つい男の姿を見て。

上条恭介は驚愕の表情を浮かべたまま、固まってしまった。

当然といえば当然の反応。


恭介 「な、何だ君は・・・」


やっと搾り出した、ちょっと間抜けな問いかけなど無視して、竜馬はズカズカとベットに迫る。

その上に臥している上条恭介を一点に見据えながら。


さやか 「え、なに?いったい何なの?」


ただならぬ竜馬の雰囲気を察したさやかが、慌てて竜馬とベットの間に割って入った。

その両の頬を、今しがたまで流されていたであろう涙で塗らしたまま、両手を広げて立ちふさがる。

その姿が、何と言うか・・・惨めでもあり、いじらしくもあって。


竜馬 「どけよ、美樹。挨拶ができないじゃねぇか」

さやか 「挨拶って・・・とても、そんな穏やかな雰囲気じゃないんですけど!?」

86: 2014/09/14(日) 00:14:08.78
恭介 「挨拶って、どういうこと?あ・・・見滝原の制服・・・?という事は・・・」

竜馬 「よう、お初にお目にかかるぜ、色男。俺は流竜馬。お前さんが入院してから転校してきた、ま、クラスメイトって奴だ」


大柄な竜馬が、さやかの頭越しに上条に声をかける。これじゃ、さやかの決氏の通せんぼもまったく意味を成さないわね。


恭介 「転校生?じゃ、君も?」


上条の視線が、今度は竜馬の脇に向けられる。

そこには、いまだ竜馬の腕を掴んで、大樹の蝉よろしくへばり付いていたままの私がいたのだ。


ほむら 「・・・っあ」


そういえば、ずっと竜馬の腕を掴んでいたままだった。

うかつだったわ・・・!

何だかこれじゃ、場もわきまえずに、病室に腕組んで入ってきたバカップルみたいじゃないの。

87: 2014/09/14(日) 00:16:47.20
ほむら (すすすっ・・・)


私はあくまで自然な動きで竜馬から距離をとると、努めて常と代わらない態度で上条へと言葉を返した。


ほむら 「流君と同じ、転校生の暁美ほむらよ。よろしくね」(ふぁさーっ)

恭介 「あ、よ・・・よろしく」


まどか (あ・・・取り繕った)

キュウべぇ (取り繕ったね)


ほむら (誤魔化せた。完璧だわ)ほむぅっ

さやか 「え、ええと・・・」


私の完璧な自己紹介のおかげで場が和んだためか、張り詰めていたさやかの気持ちも多少は解れたよう。

88: 2014/09/14(日) 00:18:03.79
そんな彼女の肩に、優しく手を置く竜馬。そっと、さやかを脇へと追いやる。


竜馬 「何を心配してるのか知らないが、さっきも言った通り自己紹介に来ただけだ。あと、暁美」

ほむら 「なに?」

竜馬 「せっかく買ってきた花、萎びる前に活けて来い。美樹、水場を案内してやってはくれないか」

さやか 「え・・・」

ほむら 「だけど、流君・・・」

竜馬 「外にいる鹿目も連れてな。それと・・・」


竜馬が声を落とし、私にだけ聞こえる声でボソッと言う。


竜馬 (美樹を便所にでも連れて行って、顔を洗わせてやれ。涙に濡れた女の顔なんざ、見たくねぇからな)

ほむら (柄でもない事を言うのね。私は、あなたたちを二人にはしたくないのだけれど)

竜馬 (俺がこいつに手を出すとでも?馬鹿を言え。俺が殴ったら、一撃であの世に送っちまう。そんなマネ、するかよ)

ほむら (・・・)


ほむら 「美樹さん、案内、お願いできるかしら」

さやか 「だけど、恭介が」

ほむら 「大丈夫だから」


私はさやかの手を取ると、部屋の外のまどかにも声をかけ病室を後にした。

89: 2014/09/14(日) 00:20:44.15
・・・
・・・


花を活ける前にトイレによって、さやかに顔を洗わせる。

さやかは自分が泣いていた事にも気がついていなかったようで、困ったような笑顔を浮かべながら洗面台へと向かった。

蛇口をひねりながらも、眠かっただの、あくびをたくさんし過ぎただのと、彼女の言い訳は途切れない。

側にいる者に、なにより親友のまどかに心配をかけたくないのだろう。その心根がいじましい。

そんな、優しいさやかに涙を流させた張本人・・・


まどか (きょろきょろ)

ほむら 「鹿目さん、どうかしたの?」

まどか 「あ、ううん。なんでもないよ。うぇひひ・・・」

ほむら 「そう・・・」

まどか (キュウべぇ、どこに行っちゃったんだろ。ほむらちゃん達が出てきたら、とたんにどこかへ消えちゃった・・・)


・・・上条恭介。

繰り返すようだが、私は彼の事が好きではない。

90: 2014/09/14(日) 00:22:44.47
さやかが魔法少女となった理由であり、その結果まどかを苦しめた遠因。

自分を想う少女の心につけ込んで、苦しさを発散させる捌け口とした男。

己の辛さにばかり敏感で、他人の心にはどこまでも鈍感で・・・

好感を持てる要素が、まったく見つけられない。

それが、私にとっての上条恭介だった。


ほむら 「惰弱な・・・」

さやか 「へ、なんか言った?」

ほむら 「いいえ、なにも」


夢が絶たれた。絶望の淵にいる。

そんな彼が投げやりになって、気心の知れた幼馴染に八つ当たりをしてしまう。

その程度の事、誰にだってあることじゃないのか。

はじめの内は、私だってそう思おうとしていた。

だけれど、さやかの願いによって復調した後の上条恭介は、怪我で打ちひしがれていた頃の彼と、なんら変わってはいなかった。

どこまでも人の心に鈍感で。見えているのは自分の望みと、自分に接してくる人の上っ面の薄っぺらい部分だけ。

・・・人のことを過剰に気にかけるまどかとは、まったく真逆の存在。

91: 2014/09/14(日) 00:23:57.67
ほむら 「・・・」

まどか 「さやかちゃん、はい、ハンカチ。ねぇ、もう平気?大丈夫なのかな?」

さやか 「んー、なにが?」

まどか 「なにがって・・・えっと・・・」

さやか 「あはっ、ありがとね。でも、ホントただ眠たかっただけだから。さやかちゃんはいつだって元気なのですよ!」

まどか 「・・・うん」

さやか 「お待たせ、暁美さん。そんじゃ、花を活けに行こっか」

ほむら 「どうして・・・」

さやか 「ん??」

ほむら 「なぜ、そこまであの男に入れ込んで・・・放っておけば、あなたはこれ以上悩む必要も無くなるというのに・・・」

さやか 「なっ!?」

まどか 「ほ、ほむらちゃん!?」

92: 2014/09/14(日) 00:27:40.83
さやか 「な、なにそれ・・・あんた、なに言っちゃってくれてるわけ?」

ほむら 「言葉の通りよ。上条恭介・・・美樹さんがそこまで入れ込むに値する男なのかしら」

さやか 「・・・???」

ほむら 「献身して悩んで、だけれど想いは届かずに気持ちばかり空回りさせて・・・美樹さんの気持ちを察する事もできない、あんな男のためになんて・・・」

さやか 「ちょっと!!」

ほむら 「あうっ、かはっ」


さやかに胸倉をつかまれ、壁に叩きつけられた。

したたかに背を打ち付けられ、込み上げてきた咳が呼吸を圧迫する。


さやか 「あんた、なんなの!?初対面のあんたに、恭介のなにが分かるっていうのよ!」

ほむら 「けほ・・・分かるのよ、私には。そしてこのままだと、あなたがどういう目にあうのかも・・・」

さやか 「なによそれ!!」

93: 2014/09/14(日) 00:31:20.22
まどか 「あわわ・・・ちょっと、さやかちゃんやめて、手を離して!ほむらちゃんも、何でそんなこと言うの~~~!!??」

ほむら 「美樹さん、これから何が起こって、どんな決断をする事になったとしても、あなたの心は彼には届かない・・・それどころか・・・」

さやか 「まだ言うかっ!!」


ぎりっ・・・

さやかの手に力がこもる。喉が締め付けられ、ますます息が苦しい・・・

だけど、私の口は止まらなかった。


ほむら 「う・・・ぐ・・・美樹さ、ん。あなただって薄々は感づいているんでしょう・・・?上条恭介が、どんな風にあなたを見ているのかを・・・」

さやか 「う、うるさいうるさい!」

ほむら 「見たくないのよ・・・あなたが苦しむ姿を・・・」

まどか 「さやかちゃん、やめて!ほむらちゃん、氏んじゃうよ!」

さやか 「転校生!なんだってのよ!仮にあんたの言う通りだとして、私のことなんて、あんたの知ったことじゃないじゃない!!」

ほむら 「・・・」


そう、知った事ではない。

94: 2014/09/14(日) 00:33:55.33
さやかはまどかが魔法少女化する際の重要なファクターで、それが故に守る必要があった。

さやかの去就や生き氏にが、まどかのメンタルにも大きな影響を及ぼす。だから、さやかから目を離せなかった。

それ以上でもそれ以下でもない。ただ、それだけのはずだった。

なのに・・・


ほむら 「仲間・・・”だった”・・・から・・・」

さやか 「え・・・?」


かつての時間軸においての。

気弱な私を気遣ってくれた。

手を差し伸べても届かない、思い人との事で悩んでいた。

自分の描く理想と、本心が望む願いとのギャップに、心を苛まれていった。

・・・最終的には魔女となって、かつての仲間に討たれて果てた。

そんな、様々なさやかの姿が、私の脳裏を駆け抜けていく。


さやか 「あんた、なに言ってるの・・・?」

ほむら 「う、ぐ・・・」

95: 2014/09/14(日) 00:36:35.70
まどかの事が一番だということは、今も昔も変わりがない。

だけれど。

それでも最初のうちは、さやかの事も救いたいと思っていた。ともに笑いあえる日が来ればよいと・・・

友達だったのだから。

共に戦った、仲間だったのだから。


ほむら 「いつからだったかしら・・・誰も未来を受け止められない・・・だから、私も誰にも頼らない・・・そう決めて・・・」

さやか 「・・・」

ほむら 「たった一人の、友達だけ、守る、事ができたら、それで、いいと・・・だけ、ど・・・」

さやか 「ワケのわからないことをっ!」

まどか 「さやかちゃん、いい加減にして!」

さやか 「ま、まどか・・・」

まどか 「手を離して、さやかちゃん!本当に頃しちゃう気!?」

さやか 「あ・・・ち、違う・・・私・・・」


さやかの腕から力が抜ける。

途端に肺腑の奥に流れ込んでくる新鮮な空気に耐え切れず、私は膝を折ると、その場で盛大に咳き込んでしまった。

96: 2014/09/14(日) 00:38:08.68
慌ててまどかが、私の背をさすりながら顔を覗きこんでくる。


まどか 「大丈夫、ほむらちゃん!」

ほむら 「こほっ・・・こほっ・・・へ、平気よ・・・」

まどか 「よ、良かった~~~」


心底ホッとした表情で、私の背をさすり続けてくれるまどか。


まどか 「だけど、ほむらちゃんもいけないんだよ。なんだってあんな、さやかちゃんが怒るようなことを言ったの?」

ほむら 「そ、それは・・・」


まどかに問われて、脳裏に浮かんだのは、あの男の顔。

流竜馬。

私の話を聞き、信じて、そして仲間と認めてくれた男。

そして、失った事もある故に、仲間の大切さを誰よりも知っている男。

そんな彼に・・・

流竜馬という男に、私は感化されてしまったんだろうか。


さやか 「ごめん・・・やりすぎた・・・」

ほむら 「美樹さん・・・」

97: 2014/09/14(日) 00:39:26.46
さやか 「暁美さんさ、あいつの事、恭介と会った事があるの?」

ほむら 「・・・ええ」


この時間軸では、今日が初対面だけれど。


さやか 「そっか・・・あえて、どこでとは聞かないよ。でも、さ。だとしても、私と恭介の事に関しては、横から口を挟まないで貰いたいな」

ほむら 「・・・」

さやか 「たしかにあんたの言うとおり、今の恭介は私にちょっと当りが強いけどさ、それも幼馴染の気安さから来ていることだと思うし」

ほむら 「だけど、それは・・・」

さやか 「あいつ、自分の夢が絶たれて、本当に辛い時なんだよ。私に鬱憤をぶつける事で、ちょっとでも楽になってくれるなら、私は役に立てて嬉しいんだ」

ほむら 「・・・」

さやか 「暁美さん、私のこと心配してくれたんでしょ。ありがとう。そして、ごめんね」

まどか 「さやかちゃん・・・」

98: 2014/09/14(日) 00:41:28.56
さやか 「さてと、この話はこれでおしまい。そろそろ病室もどろ?いい加減、遅すぎだって二人とも心配しているかも」

ほむら 「・・・ええ」


救いたいと思った。

だけれど、けっきょく私の言葉など、これまでと同様に美樹さやかの心には届かないのか・・・

このままでは、必ず。その追い詰められた心の隙間に、ヤツが忍び込もうと迫ってくる。

そして美樹さやかは100%、キュウべぇの甘言を受け入れて魔法少女になってしまうだろう。


ほむら (だけれど、彼女に対して私のできる事なんて、今までの時間軸通り、やっぱり何もないんだ・・・)


無力感に押し潰されそうになる。


キュウべぇ 「・・・」

99: 2014/09/14(日) 00:47:53.72
・・・
・・・


時間は少し逆戻り、ほむら達が出て行った直後の病室。


竜馬 「さてと、改めましてこんにちわ。転校生の流竜馬だ。て、そりゃさっき言ったか」

恭介 「う、うん、聞いたよ。僕は上条恭介。よ、よろしく・・・」

竜馬 「おう」

恭介 「・・・」

竜馬 「青っ白い顔してるな。飯、食えてるのか」

恭介 「最近はあまり食欲が無くてね。でも、さやかにうるさく言われてるし、最低限は一応、ね」

竜馬 「美樹にねぇ。そんな頻繁に見舞いに来てるのか、あいつ」

恭介 「・・・」

竜馬 「良いヤツだよな。あの年でそこまで甲斐甲斐しくできるなんて、そうできる事じゃないぜ」

恭介 「おかしなことを言うよね。同い年相手に・・・」

100: 2014/09/14(日) 00:51:28.94
竜馬 「おかしい?もしお前と美樹が逆の立場だとして、それを踏まえた上でなお、おかしいと言い切れるのか?」

恭介 「え・・・」

竜馬 「気にかけてもらって当然・・・心配されて当たり前」

恭介 「・・・」

竜馬 「一度そう思っちまうと、凄さってのはなかなか見えてこなくなるもんだからなぁ・・・」

恭介 「僕はそんな・・・あれはさやかが勝手にやってる事で・・・」

竜馬 「そうかい?だったらなおの事、気を利かせて世話を焼きに来てる女を泣かすようなマネなんざ止めときな」

恭介 「・・・っ」

竜馬 「男を下げるぜ」

101: 2014/09/14(日) 00:53:23.84
恭介 「な、何で君にそんな事を言われなきゃっ・・・!」

竜馬 「大切なものを、失ったんだってな」

恭介 「え、あ・・・う、うん」

竜馬 「俺もさ、掛け替えの無い者を無くした事があるんだ。それも、自分のミスでな」

恭介 「え・・・き、君も?」

竜馬 「おう、そりゃ荒れたぜ。暴れた暴れた。物にも当たったし、人にも当たった。あんまり度が過ぎたんで、投げ飛ばされちまってな」

恭介 「投げ飛ばされた!?」

竜馬 「仲間に柔道の強いのがいるんだがな。おもっくそブン投げられた。俺じゃなけりゃ、氏んでたかもな、あれは」

恭介 「は、はは・・・まさか」

竜馬 「大げさに言ってるんじゃねぇぞ?まぁ、それだけされる位、あの時の俺は手がつけられない馬鹿になってたってことだ。そんでな?」

恭介 「・・・」

竜馬 「体中痛くって、ぶっ倒れてるほか成す術無しって段になって、初めて色々考える余裕ができてさ・・・惨めだったぜ」

恭介 「惨めって、なにが・・・?」

102: 2014/09/14(日) 00:54:45.43
竜馬 「やり場の無い憤りを周りにぶつけてる時、俺はそんな負の感情を発散させているつもりだったんだ。だが、そんなの全然違うってな。分かったんだよ」

恭介 「・・・」

竜馬 「結局憤りは心の底に澱のように沈んだまま。暴れる以外にやりきれない、俺の弱さを周囲に見せつけただけだってことにな」

恭介 (どきっ)

竜馬 「荒れようが暴れようが、あいつはもう帰ってこねぇのにな・・・」

恭介 「え・・・あ、あの・・・もしかして、君が無くしたのって、まさか・・・」

竜馬 「友達だよ。掛け替えのない、な」

恭介 「・・・」

竜馬 「お前の腕、もう治らないのか?」

恭介 「うん・・・そう医者に言われたんだ。諦めろって」

竜馬 「辛いな」

103: 2014/09/14(日) 00:56:16.95
恭介 「僕の大切なものも、もう戻らないんだ・・・」

竜馬 「だとしても、今以上に自分を落とすなよ。自分から自分を惨めにする必要はねぇ」

恭介 「・・・え」

竜馬 「分かるぜ。お前、昨日はあまり眠れなかったんだろう?」

恭介 「・・・なんでそれを」

竜馬 「真っ暗な部屋の中で天井を見つめていると、色々と考えちまうんだよな。自分の言った事。それで傷つけた人の事。思い返して、あまりに惨めで氏にたくなる」

恭介 「・・・っ」

竜馬 「お前が無くした大切な物、失って一緒に悲しんでくれる女の事、少しは気にかけてやれ」

恭介 「う、うう・・・」

竜馬 「邪険にするんじゃなく、頼ってやれ。お前も美樹も、二人とも惨めにならないために」

恭介 「う・・・うあああああああ・・・」

104: 2014/09/14(日) 01:01:47.94
・・・
・・・


花を活けた花瓶を胸に抱え、私は病室の前まで戻ってきた。

並んで歩くさやかとまどかとは、トイレを出た後から会話一つ無い。

・・・空気が重い。

結局、私がやったのは、無駄にさやかを怒らせた事だけ。


ほむら (さやかの気持ちを上条恭介から逸らすことができたら、ヤツが付け入る隙を奪う事ができたのに・・・)


足取りも重く、病室の中へ入ろうとする。

・・・と。


さやか 「あれ??」

まどか 「どうかしたの、さやかちゃん」

さやか 「いやさ、なんか中から笑い声が・・・」

105: 2014/09/14(日) 01:03:37.93
ほむら 「え・・・そんなバカな」


竜馬を病院へ連れてきたくなかった理由。

それは竜馬の性格からして、上条恭介という男の事が絶対に受け入れがたいと考えたからだ。

二人を引き合わせれば、無用のトラブルを引き起こしかねない。

そんな懸念を捨てきれなかった。

だから本当は、一室に二人きりにさせるのも抵抗があったのだけれど・・・


ほむら (流君が手は出さないと言明したし、私はさやかと話がしたかったから、敢えて上条の事は彼に任せたのだけれど・・・)


まさか、その二人が談笑してるなんて・・・?

信じがたい気持ちを抑え、私は中から聞こえる声に耳を澄ませる。


恭介 「へぇ、流君は空手の達人なんだね!」

竜馬 「達人というか、まぁ、そこそこはいけるつもりだがな」

恭介 「空手って、面白いのかい?」

竜馬 「そうだな。身体は丈夫になるし、合法的に相手をぶっ飛ばせるし、面白いぜ」

恭介 「あははっ」

106: 2014/09/14(日) 01:07:59.91
竜馬 「武道の真髄は心技体を鍛える事だ。俺は好きで始めた空手ではなかったが、今ではやっておいて良かったと思ってるぜ」

恭介 「心技体か・・・うん。流君を見てると、とても納得できるよ」

竜馬 「そうか?」

恭介 「うん・・・僕も空手、できるかな。あ、でも、片手じゃやっぱり無理かなぁ・・・」

竜馬 「やる気があれば、ハンデがあろうが関係ないさ。実際に片腕の空手家ってのも、それなりにはいるしな」

恭介 「そうなんだ・・・なんか、すごいね」


まどか 「・・・」

ほむら 「・・・」

さやか 「・・・恭介が、笑ってる・・・」


さやかを先頭に病室に入る。

と、中では外から聞こえた声そのままの穏やかな雰囲気で、竜馬と上条が会話を楽しんでいた。

病室を出た時とは打って変わった様子に、一様に目が点の私たち。

一体、留守にしている間に、彼らに何が・・・??



さやか 「恭介・・・?」

恭介 「さやか。あ、みんなも・・・花、活けて来てくれたんだね。どうもありがとう」

107: 2014/09/14(日) 01:09:21.58
ほむら 「い、いいえ・・・これ、ここに置いておくわね」

竜馬 「よぉ、遅かったな。広い病院だし、迷子にでもなったか?」

ほむら 「そんなところかも。それより、ねぇ。これって一体・・・」

竜馬 「お、もうこんな時間か。けっこう話し込んじまったな。長居しすぎても悪いし、俺たちはそろそろ帰るか」

ほむら 「え、いや、ちょっと・・・」

竜馬 「鹿目も行こうぜ」

まどか 「うぇひっ?で、でも・・・」

竜馬 「大丈夫だから」

まどか 「・・・流君?う、うん」

さやか 「え、まどか達、もう行っちゃうの・・・?」


ワケが分からないと、不安を色濃くのぞかせた、困り顔のさやか。

すがる様にまどかを見ている。

108: 2014/09/14(日) 01:11:17.80
だが、そこはさすがの竜馬だ。さやかの様子になど、まったく頓着しない。


竜馬 「じゃーな、上条。今日は邪魔したな」

恭介 「ううん。空手の話、面白かったよ。また、聞かせにきてくれるかい?」

竜馬 「おう、それまでにたくさん食って、元気になっておけよ」


それだけ言うと、さっさと廊下へと消えてしまう竜馬。

放っておくわけにもいかず、私、そしてまどかも、追いかけるように後に続いた。

後に残されたのは、上条とさやかのふたりっきり。

118: 2014/09/16(火) 01:06:13.90
・・・
・・・


さやか 「・・・」

恭介 「・・・」

さやか 「あ、あはは・・・あいつら、何しに来たんだろうね。特に暁美さんとか。ほとんど、恭介と話してないじゃんねー」

恭介 「うん・・・」

さやか 「はは、は・・・はは」

恭介 「・・・」

さやか 「・・・恭介。流君と何を話してたの?すごく楽しそうだったけど」

恭介 「うん、彼がやっている空手の話とかね。僕には未知の世界だから、すごく新鮮な気持ちで聞くことができたよ」

さやか 「へ、へぇー・・・そっかぁ・・・な、なんかさ、なんかだよ・・・恭介が笑顔で人と話してるのって、すっごく久々に見た気がする・・・」

恭介 「そうかな・・・」

119: 2014/09/16(火) 01:07:07.34
さやか 「うん。恭介が楽しそうにしてると、私も嬉しい」

恭介 「さやか・・・」

さやか 「私じゃ、恭介をそんな笑顔になんて、してあげられないと思うから・・・」

恭介 「・・・っ」

さやか 「あはは、私、なに言ってるんだろ。さて、と。私も今日は帰るね。また来るかr
恭介 「さやかっ!」

さやか 「うぁ、びっくりした!どうしたのよ、急に大声なんか上げたりして」

恭介 「ごめん・・・でも、さやか。帰らないで、もう少し一緒にいて欲しいんだ」

さやか 「・・・え」

恭介 「さやかに、話したい事があるんだ。だ、だから・・・」

さやか 「恭介・・・?」


キュウべぇ 「・・・」

120: 2014/09/16(火) 01:08:20.72
・・・
・・・


病院から出て、しばらく歩いた所で。

聞きたくも無い、あの声に呼び止められた私たち。


キュウべぇ 「やぁ、みんな」


・・・インキュベーター。


ほむら 「何か用?こちらはお前には、話したいことなど無いのだけれど」

キュウべぇ 「あいかわらず、ほむらはつれないね。それはともかくとして、だ。・・・流竜馬」

竜馬 「あん?」

キュウべぇ 「君にはしてやられたよ。こうなってはもう、美樹さやかに魔法少女になってもらうのは、まず望みが無いだろうからね」


およそキュウべぇらしからぬ言葉に、私は耳を疑う。


ほむら 「え・・・それってどういう意味・・・?流君・・・?」

竜馬 「俺はただ、上条を放っておけなかっただけだ」

ほむら 「・・・?」

キュウべぇ 「君が何を考えての上での行動だったか。そんなのはどうでも良いんだよ。重要なのは、その結果だ」

121: 2014/09/16(火) 01:09:18.77
まどか 「さやかちゃんに魔法少女になるようにって、言えなかったの?」

キュウべぇ 「そうだよ、まどか。もう、彼女に話をを持ちかけた所で、意味が無くなっちゃったからね」

ほむら 「・・・分かるように説明しなさい」

キュウべぇ 「人というのは単純な生き物だよね。まったく理解に苦しむよ。あんなに悩んでいた上条恭介が、竜馬との会話ですっかり心を前向きに持ち直してしまった」

ほむら 「・・・!」


思わず竜馬に目が行く。

だが、当の竜馬は面白くなさそうに口を結んだまま、憮然とキュウべぇを見据えているのみ。


キュウべぇ 「恭介はさやかに言うだろう。これからも自分の側にいて、支えて欲しいと。こんな虫の良い提案こそ、今のさやかが最も望む願いに他ならない。ワケが分からないけれどね」

ほむら 「え、それって、美樹さんにとっての・・・」

キュウべぇ 「そうだよ。魔法少女の契約も無しに、さやかは最大の願いを叶えてしまった。こうなってはお手上げさ。彼女からは手を引かざるを得ない」

ほむら 「・・・!」

122: 2014/09/16(火) 01:10:45.31
キュウべぇ 「さやかの事は、諦めるとするよ」


幾多の時間軸を渡り歩いた私にとっても、これは初めてのパターンだった。

さやかの報われぬ思いの終止符は、さやかの魔女化か戦氏、あるいは失恋。いずれも彼女の望まない形でしか訪れなかったというのに。

それがこんな形で、さやかの心と命の両方を救う結果を向かえる事ができるだなんて・・・


ほむら 「流君、あなた・・・」


私は・・・

さやかに上条恭介との関わりを絶たせ、恋心を諦めさせる代わりに彼女の命を救いたいと思った。

そして、結果は失敗。ただ単にさやかの心象を悪くしただけに終ってしまった。

それなのに竜馬は、その両方を諦めさせる事なく、なおかつ上条恭介の心まで救って見せたのだ。


竜馬 「言ったろう?俺はヤツが放っておけなかった。かつての俺自身を見せ付けられているようでな」


そう言った竜馬の顔に一瞬だけ浮かんだのは、さっき病室の前で見せられた、あの凄まじいほどの怒気。

ああ・・・、そうだったんだ。

あの怒りは、上条恭介ではなく、彼に重ね合わせた過去の竜馬自身にこそ向けられたものだったんだ・・・

123: 2014/09/16(火) 01:11:40.83
竜馬 「だから自分の気の向くまま、やりたいようにやっただけさ」

ほむら 「・・・うん」


それなのに、私ときたら・・・

仲間とか言いながら、彼の心一つ斟酌してあげることができていなかっただなんて・・・


竜馬 「後はあいつら自身の問題だ。良い方向に舵が切れたと言うなら、それは上条や美樹自身の力だろうさ」

ほむら 「・・・」


敵わない。

それが今、この瞬間。私が竜馬に抱いた、偽らない気持ちだった。

124: 2014/09/16(火) 01:12:29.32
キュウべぇ 「さて・・・さやかはこんな事になっちゃったけれど、まどかは願いが決まったのかい?」

まどか 「・・・っ?」


不意にキュウべぇに矛先を向けられ、戸惑うまどか。

私の意識も、内省から一気に現実へと引き戻される。


まどか 「わ、私は」

ほむら 「インキュベーター!!」(ちゃきっ!)

キュウべぇ 「おっと、こんな所で銃なんか発砲しない方がいいよ。誰かに聞きつけられたら、君だって厄介ごとは背負い込みたくないだろう?」

ほむら 「・・・分かってるわ。だけど、まどかは契約させない。よけいな事は言わないで!」

キュウべぇ 「・・・分かったよ。僕もここで余計な時間を食ってる暇は無いのでね」

ほむら (・・・余計な、時間?)

キュウべぇ 「今日はこれで失礼するとするよ。じゃあね、まどか」


別れの挨拶を言い終わるやヤツは、まるで空間に溶け込むように、どこへともなく消えてしまった。

125: 2014/09/16(火) 01:13:15.31
どこからともなく現れて、いずこへかと消えてゆく。

まったく、神出鬼没とは良く言ったものだわ。

だけど、今日のあいつ・・・何だか不可解だ。

だって・・・


ほむら (さやかの事、あまりに引き際が良すぎる・・・余計な時間、と言ってたわね。およそ、あいつらしくもないセリフ)


だって、魔法少女の契約は、キュウべぇにとっては至上の命題なはず。

だというのに、こんなにもあっさり、さやかの前から姿を消すと宣言するとは。

騙そうとしているのか?

それとも、あいつ。なにか良からぬ悪巧みでもしているのかも知れない・・・

126: 2014/09/16(火) 01:13:49.31
茜色に染まった、夕餉れ時の空の下。

疑問を抱えたまま、私たちは再び歩き出す。

ふ、と。隣を歩くまどかを見る。

夕日を受けたまどかの顔は、ほんのり赤く照らされて、血色の良い肌が一層美しく映えていた。


まどか 「・・・ん?」


私の視線に気がついて、小首をかしげてこちらを見る。そんなしぐさも愛らしい。

この愛らしさを曇らせる要因の一つを、取り除く事ができた。

少しホッとする反面、釈然としない気持ちも残る。

なぜって・・・


ほむら (結局私は、さやかの事では何もできなかった・・・から・・・)


悔しいと思った。

127: 2014/09/16(火) 01:18:25.94
・・・
・・・


その日の夜。

竜馬に連れられて、武蔵が私の部屋へとやって来た。

一歩足を踏み入れて、ギョッとする武蔵。竜馬の時と似たような反応ね。


武蔵 「随分とへん・・・個性的な部屋に住んでるんだなぁ」

ほむら 「気を使ってくれなくても、自覚はしてるので。居住性よりも機能美を優先した結果よ」

武蔵 「そういうものなのか・・・」


素直に感心してくれる武蔵。

ひとまず二人を座らせて、私は定番となった安物の紅茶を出す。

マミの家とは違って、お茶請けは何もないけれど。

そう言うと、武蔵はニコニコしながら手持ちの鞄の中身をテーブルにぶちまけた。

中から出てきたのは、原色バリバリの袋に入った外国のお菓子の山。


竜馬 「なんだこりゃ・・・」

武蔵 「一応な、お土産にと思って。帰国する時に持ち帰った、ニューヨークで買ったお菓子だ!」

128: 2014/09/16(火) 01:19:17.67
ほむら 「たくさんあるのね。頂いて良いの?」

武蔵 「家にもたくさんあるからな、遠慮しないでいいぜ。これ食いながら、話を進めようか」

竜馬 「あいかわらず食い意地張ってるな。ていうか・・・ニューヨークか。お前、なんでそんなところにいたんだ?」

武蔵 「交換留学生制度って言う奴らしい。俺はニューヨークの高校に柔道の腕を見込まれて、一年を期限に渡米してたんだとさ」

竜馬 「と、言う事は・・・?」

武蔵 「ああ。気がついたら、そういう事になっていた。すでに帰国の段取りまで済んだ状態でな。しかも・・・」


武蔵が懐からスマホを出して、一枚の写真を表示させた。

そこに写ってるのは・・・


ほむら 「武蔵さんと・・・巴マミ・・・小さい頃の・・・」


両親と思われる男女の間に挟まって、笑顔で寄り添ってる仲睦まじい兄妹の姿であった。


武蔵 「可愛い妹つきで、だ」

129: 2014/09/16(火) 01:20:06.23
竜馬 「その写真は・・・?」

武蔵 「昨日、マミちゃんのアルバムから複写させてもらった。ガキの頃の俺も、一緒にバッチリ写っていたぜ」

ほむら 「・・・やっぱり武蔵さんも、この時間軸特有の立ち居地と役割を与えられていたのね」

武蔵 「昨日竜馬から、今いる世界が俺たちが元いた場所とは別の世界らしいって聞いてな。不思議なもんだぜ」

竜馬 「ああ、不可思議だ。なんせこっちの世界にはゲッターも恐竜帝国も存在しないんだからな。そんな所に何だって俺たちが・・・」

武蔵 「いや、そういう事じゃなくってさ」

竜馬 「・・・?」

ほむら 「・・・?」

武蔵 「昨日初めてマミちゃんに会った時、初めて見る顔のはずなのに、俺は確かに感じたんだよ」

竜馬 「感じたって、何をだよ?」

武蔵 「なんつったら良いのかな・・・家族に対する情?みたいなものを、さ」

ほむら 「え・・・」

130: 2014/09/16(火) 01:21:28.87
竜馬 「・・・武蔵、お前」

武蔵 「この子は確かに俺の妹だ、家族なんだって・・・記憶じゃなくって、もっと深い心の底の方で確信するような・・・」

竜馬 「・・・」

武蔵 「竜馬にはないのか?例えば、今一緒に住んでる家族に対して、そんな風に湧き上がった感情が心の奥から・・・」

竜馬 「ねぇな」


ぴしゃりと竜馬は言い捨てた。


武蔵 「そ、そうか。な、なぁ・・・竜馬」

竜馬 「なんだ?」

武蔵 「俺、妹なんかいなかったよな?マミなんて子、お前は知らないよな」

竜馬 「しらねぇな」

武蔵 「だ、だよなぁ・・・」

131: 2014/09/16(火) 01:27:03.27
竜馬 「武蔵。お前、こっちの世界に取り込まれ始めてるんじゃないのか?」

武蔵 「取り込まれるって、なんだよ・・・」

竜馬 「元からお前は順応性が高かったからな。ワケの分からない状況の中に置かれて、自分の心を守るために世界に順応しようとしてもおかしくはねぇ」

ほむら 「どういうこと?」

竜馬 「武蔵は昔から適応能力が抜群に高かったんだ。ゲッターロボのパイロットになった時だって、俺や隼人が無理やり乗せられたのに対して、武蔵は自ら望んで乗り込み、あっさり馴染んで見せたくらいだ」

ほむら 「そうだったのね」

武蔵 「人を単純みたいに言うなよ」

竜馬 「そうは言っちゃいねぇ。ただ、俺とお前は対極だって事を、今更ながら再認識させられたって事さ」

武蔵 「そうだったな。お前は出会った時から、常に何かに抵抗していた。反骨精神が服を着て歩いてるような奴だったからな」

竜馬 「のべつ幕なく抵抗してるわけじゃねぇぞ。だが、納得がいかない事にはとことん抗ってやるさ」

ほむら 「流君にとって、私たちの世界は納得がいかない場所だって事ね・・・」

132: 2014/09/16(火) 01:30:58.42
竜馬 「ゲッターもねぇ。恐竜帝国もいねぇ。そんな世界が、俺の居場所なはずはねぇ」

武蔵 「そういう反抗心が一切なくなった時、俺たちはこの世界の一部として定着してしまうのかもな」

竜馬 「冗談じゃねぇぜ。俺は必ず元の場所に帰る。その方法を必ず見つけ出してやる。俺には俺の世界で、やるべき事があるんだ」

ほむら 「・・・」


私だって紛れもなく、この世界の一部なのに。

竜馬に世界ごと、私も含めて否定されたように感じられて・・・

私の心に、言いようのない孤独感が押し寄せてくるのを抑えられない。

竜馬にとってこの世界は異質で、元の世界に返りたがっているというのは初めから分かっていた事の筈なのに・・・

それが、今になってどうして。


竜馬 「どうしかしたか?」

ほむら 「・・・別に何も」

竜馬 「・・・そうか?」


この感じ、あの時に似ている。

仲間と信じていた人たちに真実を話しても、受け入れてもらえず孤立してしまった。

あの時に抱いた、寂寥感に・・・

133: 2014/09/16(火) 01:32:32.62
次回へ続く!

139: 2014/09/21(日) 12:50:08.15
武蔵 「しかし・・・元の世界に戻るにしても、俺たちをこんな目に合わせたのは、一体なんなんだろうな」

竜馬 「さぁな。この世界の裏の裏まで知ってそうな事情通にとっても、こと俺たちに関しちゃ寝耳に水の異常事態だったようだしな」

武蔵 「誰だ、その事情通ってのは・・・」

ほむら 「巴マミの家で会わなかった?キュウべぇという、見た目だけは可愛らしい小動物なのだけど」

武蔵 「さぁ・・・?昨晩は俺とマミちゃんの二人きりだったけど」


・・・キュウべぇが巴マミの元へ戻っていない?

てっきりパーティーの時は、私や竜馬がいるから行方を眩ませていたと思っていたんだけれど・・・

先刻の口ぶりといい、あいつの事だ。

なにか良からぬ事を企んでいそうで気にかかる・・・


・・・それに。


キュウべぇだけじゃない。

・・・例の謎の声。

140: 2014/09/21(日) 12:52:01.42
私の窮地を救い、ゲッターという力を与えてくれた”彼”も、あれから一度も私に語りかけてこようとしない。


あの声の主・・・神隼人と思われる彼には、いくらでも聞きたいことがあるというのに。

特に、私こそ竜馬たちがこちらへ飛ばされた元凶だと語った、その事の真意を。




武蔵 「・・・それでこれから俺たち、どうしたら良いんだ?」

竜馬 「当座は暁美の活動に協力しようと思っている。魔女という化け物を倒しつつ、暁美の友達をも守るって具合にな」

武蔵 「ああ、その魔女とかいうの!俺みたいな普通の人間には、見えないのが本当なんだってな。随分とマミちゃんに聞かれたぜ」

竜馬 「普通の人間じゃなかったんだろ。お前も、俺もさ」

武蔵 「そういう事なのかなぁ。何で見えると聞かれても、皆目見当もつかないし、どうにも答えようがなくって弱ったよ」(ショボン)

竜馬 「・・・そんなことでションボリするなよ」

ほむら 「人が良いのね」

竜馬 「それだけが取り柄だな」

141: 2014/09/21(日) 12:55:19.48
武蔵 「聞こえてるんだよ。それで、ほむらちゃんが守りたい友達って?」

竜馬 「昨日の騒動でも逢っているだろ。鹿目まどかっていう俺たちのクラスメイトだ」

武蔵 「ああ、あのおっとりしてそうな子か。なるほど、守りたくなっちゃうタイプだな、確かに」

竜馬 「ゲッターロボが暁美の元にあった事から分かるように、暁美は俺たちが元の世界に戻るためのキーパーソン足り得るだろう。だから・・・」

武蔵 「魔女を倒し、鹿目って子を守りつつ、ほむらちゃんを中心に据えて、帰る方法を探るって寸法だな。了解だぜ」

ほむら 「え・・・」


図らずも、驚きの声が漏れてしまった。


武蔵 「ん?どうかしたかい?」

ほむら 「だって、そんなあっさり。私がまどかを守りたい理由とかも聞いていないでしょう?なのに、安請け合いをしてしまっても良いの・・・?」

武蔵 「安くはないさ。言ったろ?竜馬が認めた子なら、俺にとっても仲間だって。仲間だったら、つべこべ言わずに信じるんだよ」


そう言って、右手を差し出す武蔵。

142: 2014/09/21(日) 12:57:40.31
まっすぐに私に向かって突き出された彼の太い腕は、そのまま私へ向けられた信頼の現れとも取れてしまい・・・

思わずうろたえてしまう。

すがる様に竜馬に目を向けるが・・・


竜馬 「握ってやれ。武蔵は自分が認めた相手の為なら、命さえ惜しまない男だ。必ず力になってくれる」


そう言って、にやりと笑われただけ。

対する武蔵は、竜馬とは打って変わり、目を細めて人の良さそうな笑みでこちらを見ている。

同じ笑顔でこうも違うものかと、驚かされるほどに対照的な二人・・・


武蔵 「俺は難しい事を考えるのは苦手だから、仲間が歩む道を共に進むのが一番確実なのさ」

ほむら 「は、はぁ・・・」

武蔵 「聞きたいことができたら、その都度聞くし。だからほむらちゃんも気にせず、気楽に頼ってくれていいぜ!」

143: 2014/09/21(日) 12:58:32.90
ほむら 「・・・」


差し出された手を取りながら思う。

竜馬と武蔵。確かに対照的な二人だ。

だけど、根本のところでは二人は同質の存在なのだろう。

きっと、彼らの行動基準は、理屈じゃないんだ。

信じたいから信じる。放っておけないから放っておかない。

自分の心に、どこまでも正直に。


羨ましいと思った。

144: 2014/09/21(日) 12:59:53.24
二人に対して、私はどうだろうと考えさせられる。

まどかを守りたい。その一心で、私は数多の時間軸を渡り歩いてきた。

その一事だけは、誰にはばかることなく断言できる。私のまごう事なき真実の望みだと。

だけど、その他の事は?

私は真の望みのために、他の全てを偽って生きているんじゃないのか。

それは、そう。自分の心ですらも・・・


偽った心で発した言葉が、人の琴線に触れるはずがない。

だから、私の言葉はいつもさやかに届かなかったのだろう。

上条の心を開いた竜馬とは、まるで正反対に・・・


ほむら 「さやかを救いたいと思った心も、偽った気持ちだったのかしら・・・」

武蔵 「・・・え?」

145: 2014/09/21(日) 13:01:00.70
ほむら 「なんでもない。よろしくね、武蔵さん。私も、あなた達の力になれることがあれば、なんだって協力するわ」

武蔵 「ああ、期待してるからな!なんてったって、俺たちは仲間なんだから!」


仲間・・・

私も彼等と共に歩めたなら、もっと自分の心に正直に、物事を良い方向に進める事ができる様になれるだろうか?

もうずっと昔に諦めてしまった、かつての私がやろうとしていた事を。

再び掴もうと足掻いても、許されるだろうか。


ほむら 「・・・ええ、仲間だわ」


私は武蔵と、その横の竜馬に頷いて見せた。

そう、仲間。

それが例え、異なる世界から来た、一時だけのかりそめなのだとしても。

146: 2014/09/21(日) 13:01:56.89
・・・
・・・


次回予告


竜馬や武蔵に触発されたほむらは、大切な友達「鹿目まどか」と共に、かつての仲間をも救おうと決意する。

だがその前に、彼女には解決しなければいけない問題があった。

謎の魔力消耗現象。

その正体が、竜馬の口からついに明かされる。

そして、見滝原周辺に続々と現れる、謎の魔法少女たち。

キュウべぇの暗躍は、ほむらの戦いに新たな混迷をもたらすのだった。

はたしてキュウべぇの目論見はいかに!?


次回 ほむら「ゲッターロボ!」第四話にテレビスイッチオン!

147: 2014/09/21(日) 13:03:39.62
以上で第三話終了です。長々お付き合いいただき、ありがとうございました。

また4話においても、お目汚しを許していただければ幸いに思います。

161: 2014/11/02(日) 23:24:11.26
ようやく全部読み終わったけど面白すぎるでしょ
4話も楽しみにしてまっせ

隼人が氏んでるってのはこのssでの設定で
公式でそういう展開の作品は無いよね?
結構驚いたわ

引用元: ほむら「ゲッターロボ!」 第三話