444: 2015/02/26(木) 21:08:51.30
ほむら「ゲッターロボ!」 第六話

ほむら「ゲッターロボ!」 第五話
445: 2015/02/26(木) 21:09:23.07
ふ・・・と、目を覚ましたマミは、自分がソファーに寝かされていたのに気がつく。

かたわらに目をやれば、付きっ切りで自分を看ていたらしい武蔵が、うつらうつらと舟を漕いでいた。

・・・あれから、どれくらいの時間が経ったのだろう。

ほむらや武蔵たちから、過酷な現実を突きつけられた、あの時から・・・


マミ (・・・夢、だったんじゃないのかしら)


そうであれば、どれ程に気が楽な事だろう。

だけれど、テーブルに残されたままになっている物を目にしては、そんなささやかな願いも無残に砕かれてしまう。


マミ (暁美さんと作ったカレー・・・)


武蔵を起こさないように、そっと身体を起こす。
ゲッターロボ VOL.1 [DVD]
443: 2015/02/26(木) 21:08:10.52
再開します。

446: 2015/02/26(木) 21:10:49.60
ふわり、彼女にかけられていた物が、音も無く床に滑り落ちた。


マミ 「・・・?」


拾い上げると、それは薄い毛布。

マミを気遣った武蔵が、かけてくれたのだろう。


マミ (・・・お兄ちゃん)


兄であるのに兄ではない。

武蔵に告げられた言葉を思い出すと、胸が張り裂けそうになる。叫びそうになってしまう。

そんな欲求を懸命にこらえながら、武蔵の肩に毛布をそっとかける。

そうしてから、足音を頃しながらシンクへと向かうマミ。

喉が渇いた。無性に水が呑みたかった。

447: 2015/02/26(木) 21:11:41.11
・・・
・・・


マミ 「んっんっ・・・はぁっ・・・」


コップで二杯。流し込むように水を飲んだ。

渇いた身体が潤されてゆく感覚とともに、心も幾分か落ち着いてくる。

と、同時に。

別の動揺がマミの胸の中で頭をもたげてきた。

冷静になると同時に思い返される、自分の言動。そして、思考。


マミ 「わ、私・・・」


マミの背を一筋、冷たい汗が伝う。


マミ 「私はなんて、恐ろしいことを・・・」

448: 2015/02/26(木) 21:12:34.10
あの時。

武蔵にとって自分は実の妹ではなく、さらに自分たち魔法少女の身に降りかかる運命の結末を知った、あの瞬間。

動揺し、焦燥し、押し寄せる孤独感に心を壊されそうになりながらも。

どこかでマミは冷静で、これから自分が成すべきことを頭の片隅で計算していた。


マミ 「わ、私・・・暁美さんたちを・・・」


殺そうとしていた。


いずれ魔法少女は魔女になる運命を負わされていると、ほむらは言った。

無二の友と信じ、信頼もしていたキュウべぇに騙されていると。

そしてその事を、他ならない武蔵が肯定している。

マミにほむらの話を疑う理由は、もはや無かった。

・・・と、なれば。

449: 2015/02/26(木) 21:13:19.08
人に危害を及ぼす存在となる前に、自分を抹消しなければならない。

同じ立場にある、ほむらや杏子ももろ共に。


マミ 「・・・」


あの時、マミは計算していたのだ。

ほむらと杏子、どちらを先に頃すのがベストなのかを。

相手の不意をついて手強い方を先に頃し、返す刀でもう一人を屠る。

そうしてから自分も命を絶てば、少なくとも将来の魔女が3匹は減ると。


マミ 「ああっ・・・」


もしあの時。

あの場に武蔵という存在がいなかったなら・・・


マミ 「きっと私は、ためらいも無く二人を頃していた・・・」


かつてはともに戦った友達を。

わざわざ敵であった自分の所へ料理を習いに来た、クールを気取りながらもどこか憎めない、あの少女を・・・

450: 2015/02/26(木) 21:15:01.62
マミ 「私、どうしたら・・・」


涙が頬を伝い、雫となってシンクへと落ちる。

とめどなく、とめどなく。


マミ 「私、もう魔女なのかもしれない」


人の姿はしていても。

友達を平気で殺そうとする、自分の事を人だとは思えなかった。


マミ 「魔女になった私は、これからどうしたら良いの・・・っ!」

? 「氏ねば良い」


背後からかけられた声にギクリとして、振り返るマミ。

そこで彼女が見たものは、厳しい顔で自分を睨みすえる兄、武蔵の姿だった。


マミ 「お、お兄ちゃん・・・」

武蔵 「・・・」

451: 2015/02/26(木) 21:15:48.28
・・・
・・・


同時刻

ほむホーム


ほむら 「私、弱くなったのかしら」


常と変わらない竜馬の表情と、彼が煎れてくれた紅茶が、こわばった私の感情を暖かくほぐしてゆく。


竜馬 「と、言うと?」


竜馬も自分の紅茶をすすりながら、言葉少なに問い返してくる。

先ほどからの竜馬は、まるで波の穏やかな水面のようだった。

身体を預ければ、優しく包み込み全てを受け入れてくれる。そんな包容力を今の彼からは感じられる。

普段は火のように激しい竜馬の、意外な一面を見せ付けられた気分。


ほむら 「私、あなたのことがまだまだ理解しきれていなかったようだわ・・・」

452: 2015/02/26(木) 21:16:30.25
竜馬 「そりゃぁな。何だかんだで、出会ってから日が浅いんだ。そんな簡単に理解できるほど、簡単なもんじゃないだろうぜ」

ほむら 「流君のことが?」

竜馬 「人それぞれがって事さ」

ほむら 「かもね・・・だけど今、私はあなたに自分のことを理解して欲しいと、切に思っているわ」

竜馬 「ああ」

ほむら 「だけれど、理解してもらえる自信が無い。だって、私は私のことが自分でも分からなくなってしまっている・・・」

竜馬 「何がお前を、そこまで惑わしている?」

ほむら 「・・・」


多少逡巡して・・・

だけれども、意を決すると私は口を開いた。

彼に感じた包容力を、私の感覚を信じる事にした。

信じたいと、頼りたいと、思ったから。

453: 2015/02/26(木) 21:17:53.08
ほむら 「今までの時間軸で、私は色々とひどい事をしてきた」

竜馬 「・・・」

ほむら 「まどかを守るため。私の目的を果たすためだったら、多少の罪悪感と引き換えに、どんな非情な事だってやってこられたわ・・・」

竜馬 「・・・」

ほむら 「それでも、ソウルジェムを汚す事は無かった。自分のやっている事が私にとって正しい事だと信じていたから。心を強く保つ事ができたから」

竜馬 「・・・暁美、ソウルジェムを見せてみろ」


言われるままに、私は己のソウルジェムをさらす。

手を伸ばし受け取った竜馬は、一目見るなり、うっと小さく驚きの声を漏らした。

前の戦闘後にきれいに浄化したはずのソウルジェム・・・

それが、新たな戦闘を得ずして、すでに黒く濁りかけていたのだから、驚くのだって無理もない。


竜馬 「・・・お前」

ほむら 「今は、どうしてなのかしら・・・巴マミの悲しみ、佐倉杏子の苦悩を思うと、私の魂も醜く淀んでしまうの」

454: 2015/02/26(木) 21:19:09.29
竜馬 「暁美、とりえあず佐倉から預かっているグリーフシードで浄化しよう」


竜馬がグリーフシードを取りに席を立ったけれど、私は構わずに話を続ける。


ほむら 「私は弱い・・・こんな事じゃ、まどかを守る事だってままなりはしないわ・・・」

竜馬 「別にお前は、弱くないと思うがな」


部屋の向こうからは、竜馬の声だけが返って来る。


ほむら 「気休めはよしてよ」

竜馬 「俺が詭弁を弄するほど器用じゃないのは、知ってるだろう」

ほむら 「だったら・・・どうして私のこと、弱くないなんて思えるのよ・・・」

竜馬 「思うに・・・俺はお前の視野が広がったのが、暁美の心を曇らせている原因じゃないのかと、そう思うんだがな」

ほむら 「視野って。それ、どういうこと・・・?」

455: 2015/02/26(木) 21:23:25.14
竜馬 「お前、自分でも言っていたし、分かってるんだろうが、今までは、鹿目以外のものが目に入っていなかったんだろう」

ほむら 「・・・そう。だって私にとって、まどかは私の全てだったんだもの」


自分で言いながらも、私は胸の内に奇妙な感情の訪れを感じていた。


竜馬 「そう言い切れるのって、凄いよな。誇るに足るに充分な資格がある」

ほむら 「何を言っているのよ・・・」

竜馬 「十代もそこそこで、そこまで想うことができる相手を得られるというのは、並大抵の事じゃない。俺は、そんなお前を羨ましいとさえ思うぜ」

ほむら 「・・・ばか」

竜馬 「だが、それは今でもか?」


意外な問いかけに、私は目を丸くする。


ほむら 「そんなの、当然じゃない。今までも今も、これからもずっと、変わるわけがないわ」


言い返そうとした途端、先ほど抱いた感情が再び胸の奥、むくむくと頭をもたげてきた。

なんなんだろう、このモヤモヤした感情は。


ほむら 「変わるわけ、ないもの・・・」


自然、私の言葉も尻すぼみに、勢いが削がれてしまう。

456: 2015/02/26(木) 21:24:35.61
竜馬 「お前が鹿目の事を大切に思っていることは分かっているさ。だけれど、それだけか?」

ほむら 「・・・」

竜馬 「さっきお前は言ったな。俺に自分のことを理解して欲しいと、そう望んだな」

ほむら 「え、ええ・・・」

竜馬 「欲求は、自らを写す鏡だって言うぜ」

ほむら 「意味が分からない。もっと、分かるように言ってくれるかしら・・・」

竜馬 「お前も理解したいと、思っているはずだ。今では、な」

ほむら 「理解したいって、いったい何を・・・」

竜馬 「巴マミの事、佐倉杏子の事、美樹さやかの事・・・理解したいと、その心に寄り添おうと、そう考え始めているはずだ」

ほむら 「あっ・・・」

竜馬 「だから、あいつらの心の痛みが理解できる。我が事のように心を痛めることができる」

ほむら 「・・・」

竜馬 「仲間として、大切に考えているからだ」

457: 2015/02/26(木) 21:25:22.01
ほむら 「何でそんなこと、あなたに分かるの・・・よ・・・」


弱弱しく反論しながらも、私の心は彼の言うことをすでに肯定していた。

そう、先ほどから抱いていた感情の正体は、違和感。

竜馬の言うことが事実だと、私の心が証明してしまっていたのだ。


竜馬 「仲間を想う気持ちは、誰よりも理解できているつもりだぜ」


戻ってきた竜馬が、再び私の向かい側に腰を下ろす。

手には浄化を済ませた、ソウルジェム。


ほむら 「だけれど・・・私はまどかが一番大切で・・・それは唯一無二であるわけで・・・そうでなければ・・・」


今までの私の歩んできた道と、犠牲にしてきた全ての命を否定してしまう事になる。

だけれど竜馬は、そんな私の葛藤を笑い飛ばすように言い切った。


竜馬 「大切な物が一つだけだなんて、誰が決めたんだ?」

ほむら 「え・・・?」

竜馬 「大切な鹿目と、大切な仲間。それで良いじゃねぇか」

ほむら 「あ・・・」


目から鱗とは、まさのこの事だった。

458: 2015/02/26(木) 21:29:28.88
ほむら 「流君、わたし・・・」


青天の霹靂。

竜馬の言葉に、目の前の霧が晴れていくような感覚を覚える。


竜馬 「だから暁美。自分には、何も無いなんて言うなよ。お前は弱くなったわけじゃない」

ほむら 「・・・」

竜馬 「仲間を意識した者は強い。3台のゲットマシンが寄り添い、無敵のゲッターロボとなるようにな」

ほむら 「・・・」

竜馬 「今はまだ、自分の気持ちの変化に、心が戸惑ってしまっているんだろうが・・・暁美?」

ほむら 「あなたは・・・何を例えるのにも、ゲッターロボなのね」

竜馬 「お前の言葉じゃないが、俺にとってゲッターは唯一無二の存在だからな。・・・ほら」


竜馬が身を乗り出して、テーブル越しにソウルジェムを差し出してきた。

459: 2015/02/26(木) 21:30:09.24
ほむら 「ありがとう」


私の手の平にポンと納まったソウルジェムは、先ほどのくすんだ様相とはまるで別物の様に、眩い光を放っている。

何となくホッとした気持ちで眺めていると、私の頭に、そっと包み込むような感触が。


ほむら 「・・・?」


何だろうと目線をあげてみると、私の頭を包んでいたのは、竜馬の広くて大きな手の平だった。


ほむら 「え・・・」

竜馬 「・・・」


そのまま、くしゃくしゃっと無造作に、頭をこねくり回される。


ほむら 「ちょっ・・・なにっ?!」

竜馬 「お前も少し、俺の事を理解してくれよな」

ほむら 「なんのことよ!」

460: 2015/02/26(木) 21:31:21.49
竜馬 「俺にこんな役、やらせるんじゃねぇよ」

ほむら 「さっきから何を言って・・・」


その間も、私の頭はグルングルンと回され続けたまま。

うう、さすがに目が回ってきた・・・

もう我慢がならないと、竜馬の手を振り払おうとした、その時。

ポタリ、と。

テーブルの上に一滴、雫が落ちたのだ。


ほむら 「え・・・」


雫は、最初の一滴の後を追うように、二つ三つと滴り続け・・・

瞬く間にテーブルの上には、小さな水溜りがいくつも出来あがった。


ほむら 「どこから・・・??」


雫の出所を探って、私はすぐに気がつく。

頬を伝い、顎から零れ落ちる、その雫の正体に。


ほむら 「私、泣いて、たの・・・?」

461: 2015/02/26(木) 21:33:52.55
竜馬 「らしくねぇから、メソメソしてんなよ」

ほむら 「流君、あなた・・・」


私を、慰めようとしてくれている・・・?

ということは、この”グルングルン”は、もしかして私のこと、撫でているつもりなの?

そうと気がついて、改めて竜馬の顔を視線を戻すと。

どこか照れた風で、なんとも言えない表情で私を見ている。

ふだんはいかつい竜馬の、そんな様子が妙に滑稽で。


ほむら 「ぷっ、ふふっ・・・」


思わず私の口から、笑いが零れ落ちた。

462: 2015/02/26(木) 21:35:12.87
竜馬 「・・・泣くのか笑うのか、どっちかにしといたが良いぜ」

ほむら 「だって、おかしいんだもの」


言いながら私は、彼の腕を払いのけるために振り上げかけた手で、今はそっと竜馬の腕を掴む。

大きくて無骨で、だけれど私を慰めようとしてくれた、優しい竜馬の手。


ほむら 「もう平気。それに、この涙は悲しくて流したものじゃないから」

竜馬 「・・・そうか」


そう。私自身忘れかけていたけれど。

涙って、悲しいときや辛い時にばかり、流れるものじゃない。

自分が気づいていない自分自身のことを、竜馬は私に気づかせてくれた。

それはとりもなおさず、彼が私を理解してくれているという事だ。


ほむら (・・・初めてだわ)


誰も私を理解してくれなかった。私の言うことを、信じてくれる人はいなかった。

それは、ともに戦った、仲間だと信じていた人たちだけではなく。

私が誰よりも大切に思っている、まどかですらも・・・

463: 2015/02/26(木) 21:36:10.98
ほむら (それが、今)


ほむら 「流君・・・」

竜馬 「ん?」


私のすぐ側に。

私を理解してくれる人が、こうしていてくれる事が、とても。

嬉しくてたまらなかった。

涙くらい、頬を伝って落ちるのも当然というものだ。


ほむら 「ううん、リョウ・・・」

竜馬 「・・・」

ほむら 「ありがとう」

竜馬 「おう」

464: 2015/02/26(木) 21:44:30.15
私は言葉少なに、だけれど万感を込めた気持ちを竜馬に述べた。

初めて、彼の事を愛称で呼びながら。

彼ならそれで、私の気持ちを全て酌んでくれる事だろう。

そして、思う。

いつかマミや杏子たちとも、竜馬としたように、心を交感させることができたら良いなと。

そう、切に願える。

願える自分に、竜馬が気づかせてくれたのだ。

465: 2015/02/26(木) 21:45:23.65
・・・
・・・


翌朝。

学校に行くために、玄関から一歩を踏み出した私に。


? 「・・・よう」


不意にかけられた声。

そちらの方に顔を向けると、壁にもたれかかるようにして手を振っている人影が目に入った。


ほむら 「佐倉さん?」

杏子 「よ、朝っぱらから悪いな」

ほむら 「別に良いけれど、どうかしたの?」

杏子 「ああ、どうもこうもない、一大事だぜ。部屋に上げて欲しいんだけど、良いかい?」

ほむら 「私、これから学校に行くのだけれど・・・」

杏子 「そんなのんきな事、言ってる場合じゃない」


そう言う杏子の目は真剣だった。

466: 2015/02/26(木) 21:46:42.71
ほむら 「・・・良いわ、上がって」

杏子 「それと、流にも聞いて貰いたいんだけど、すぐ連絡を取ってくれるか?」

ほむら 「ああ、リョウだったら・・・」

竜馬 「呼んだか?」


私が名前を呼ぶのとほぼ同時に、竜馬がひょっこりと玄関先から顔を出した。

それをみた杏子の目が、なぜか点になっている・・・


杏子 「・・・え」

竜馬 「あれ、佐倉じゃねぇか。どうしたんだ、こんな朝っぱらから」

杏子 「・・・」

ほむら 「佐倉さん?」

杏子 「あは、あははは・・・そっか、そういう事か、いや、こりゃ参ったなぁ・・・」

ほむら 「え、え?佐倉さん??」

467: 2015/02/26(木) 21:47:20.54
杏子 「マミのあんなざまを目にした昨日の今日で、イチャコラよろしくやってたってわけかい・・・」

竜馬 「・・・?お前、なに言ってるんだ?」

杏子 「まぁ、あたしの知ったことじゃねぇさ。蓼食う虫も好き好きっていうもんな」

ほむら 「・・・何気にかなり失礼な事を言われてる気がするけれど、佐倉さん。何か誤解してない?」

杏子 「誤解もくそも、あんたらが何しようと、そっちの勝手だよ。好きにするが良いさ」

ほむら 「・・・」

杏子 「だがな、時と場合くらいは考えてくれ。ともに戦おうって、あたしやマミを巻き込んだのはそっちだって事、忘れるんじゃねぇぞ」

ほむら 「佐倉さん、ちょっと私の話も聞いて・・・」

竜馬 「まずは上がれ、佐倉。こんな玄関先じゃ、お前の用件だって腰をすえて話せないだろう」

杏子 「・・・ちっ」

468: 2015/02/26(木) 21:49:28.78
・・・
・・・


ほむら 「というわけで、昨夜は遅くなっちゃったし、リョウには泊まっていってもらっただけなの」

杏子 「・・・」

ほむら 「もちろん部屋は別々。そもそも、小さい子がいる前で、間違いなんて起こすはずがないじゃない」

ゆま 「ほえ??間違いってなーに??」

杏子 「まじ?」

竜馬 「まじだ」

杏子 「な、なーんだ、そうか。ちぇっ、まったく紛らわしい事してるんじゃねぇよ」

ほむら 「悪かったわね、期待に沿う事ができなくて」

杏子 「本当だぜ」

ゆま 「ねぇねぇ、なんの話ー?」

杏子 「ゆまは分からなくっていーの」

ゆま 「ふーん」

469: 2015/02/26(木) 21:51:03.00
竜馬 「ま、そう見られる分には、俺はまんざらでもねぇけどな」

ほむら 「何を言っているのよ」

杏子 「・・・」


竜馬の軽口に釘をさしている私を、杏子がなにやらジト目で見ている。


ほむら 「なにか言いたげだけど?」

杏子 「お宅らさ、昨日と雰囲気違ってるようなんですけど、ほんとのほんとに何にも無かったわけ?」

ほむら 「ええ、無いわ」

杏子 「・・・そっかぁ?」


まだ何か言いたげな素振りは残しながらも、杏子はここまでの話を切り上げるとペコリと一つ、頭を下げた。


杏子 「こっちの勘違いで不快な思いをさせちまったな。悪かったよ」

ほむら 「あ、うん・・・」


意外にも素直に非を認め頭を下げる杏子に、私は少々面食らってしまう。

470: 2015/02/26(木) 21:55:29.03
それは竜馬も同じようで・・・


竜馬 「一人で怒って一人で謝って、なんともあわただしい奴だな、お前は」


呆れた口調を隠しもしない。

だが、言われた杏子は涼しい顔だ。


杏子 「悪いと思ったら、すぐ謝っちまうんだよ。後に引いたら謝りづらくなるし、引け目にもなっちまうからな」

竜馬 「なるほど、だな。そういう考え、好ましいと思うぜ」

杏子 「おだてんなよ・・・さて、一区切りがついたところで、本題に行きたいんだが・・・良いかい?」


話題を切り替えた杏子の顔が、再び。

先ほど玄関前に現れた時のように、真剣な面構えへと変わる。

よほどの事が起こった。そのくらいは読み取る事ができる表情だった。


ほむら 「・・・わかった、話を聞くわ」

471: 2015/02/26(木) 21:56:38.96
杏子 「ああ。と、その前に。先に一つ確認しておきたい事があるんだけれど、お前らさ」

竜馬 「・・・?」

杏子 「あたしら同盟を結んだもの以外で、ゲッターロボの事を誰かに話したか?」

ほむら 「え・・・?」


質問の真意がつかめず、私と竜馬は思わず顔を見合わせてしまう。

そして互いに首を振る。どちらも誰にも、ゲッターの事なんか話していない。


ゆま 「ゆまだって、誰にも話してないよ」

杏子 「そっか。じゃあ、もう一つ。美国織莉子という名前に聞き覚えは?」

ほむら 「・・・っ!」

杏子 「こっちは心当たり、あるんだな」

ほむら 「どこで、その名前を?」

杏子 「会ったんだよ。昨日、直にな。お前と別れた後で、探し当てた魔女結界の中で・・・」

ほむら 「・・・」


美国織莉子・・・

私は確かに、その名前に覚えがある。

472: 2015/02/26(木) 22:00:29.16
心に底知れない闇を抱え込み、それとは対照的な純白のドレスに身を纏った魔法少女。

彼女と遭遇した時間軸は決して多くは無かったけれど・・・


ほむら 「と、言うことは、彼女が口にしたのね。ゲッターロボの名を」

杏子 「ああ。実際の所、名前以上に、どれだけの事を知ってるのかまでは分からなかったけれどな」

ほむら 「厄介だわ・・・」

竜馬 「何者なんだ、その美国織莉子とか言うのは。お前とも面識がある奴なのか?」

ほむら 「ええ。ただし、別の時間軸での事だけれど」

竜馬 「どんな奴なんだ?」

ほむら 「敵よ」

杏子 「・・・やっぱりな」


自分と同じ魔法少女を敵と言われても、杏子はさも当然な事を聞いたかのように、表情を動かさなかった。

感覚の鋭敏な杏子の事、織莉子と実際に会ったのなら、感じ取る何かがあったのだろう。


ほむら 「佐倉さん、あなたは彼女と遭遇して、よく無事で済んだわね」

473: 2015/02/26(木) 22:01:13.36
杏子 「ああ、あたしたちと事を構える気は無いようだぜ。今のところはな」

竜馬 「やがては敵対すると、そう言うのか?」

杏子 「はっきりとは言ってなかったけれどな。分かるんだよ、こっちに対する敵意がプンプン臭ってきやがった」

ほむら 「・・・」

竜馬 「暁美、かつての時間軸で出会った美国織莉子ってのは、どんな奴だったんだ?」

ほむら 「・・・一言で言えば、目的のためには手段を選ばない。そんな魔法少女だったわ」


そう、どこか私と似ている。

己の信念のためなら、大の虫を生かすために小の虫を頃す事をためらわない。

それは、例え自分の仲間であったとしても変わらなかった。

だから、始末におえないし、心底おそろしい。


ほむら 「・・・私が頃したけれど」

杏子 「・・・へぇ」

474: 2015/02/26(木) 22:02:02.73
ほむら 「仕方がなかった。彼女は目的の為に見滝原中学を魔女の結界に引きずり込んでまで、私の守るべき人を殺そうとしたのだから」

竜馬 (鹿目の事か・・・?)

ほむら 「そのため私たちは敵対して戦ったわ。辛くも勝利はできたけれど、あそこでもし情けをかけて逃がしていたら・・・」

竜馬 (待てよ・・・そいつはなぜ、人畜無害を絵に描いたような鹿目を殺そうと・・・?)

ほむら 「いずれ痛手を治した彼女は、再び目的を果たすために襲い掛かってきたに違いない。間違いなく、ね。だから・・・」

杏子 「中学校を結界にって、随分と無茶な話だな。氏んだんだろ、かなりさ」

ほむら 「ええ、何十人規模での氏者が出たはず」

杏子 「はず・・・?」

ほむら 「戦いの後、結局私は守りたい人を守りきれず、あの時間軸を捨てたのよ。だから、戦いの後のことは詳しく知らないの」

杏子 「その守りたい人って、誰の事だっけ?あたし、聞いてないよな?」

475: 2015/02/26(木) 22:02:38.64

ほむら 「・・・」


これは、杏子を仲間に誘ったときに、わざとぼかしていた事だった。

この事を突き詰めて説明していけば、最後はまどかがどうなるか。その事も余さず語らねばなくなるから。

それを知った時、杏子がはたしてどのような行動に出るか。

場合によっては、仲間から脱名されるばかりか、敵にさえ回ってしまうかも、と。

そんな懸念が払えなかったからだ。

だけれど、今は・・・


ほむら 「クラスメイトの鹿目まどかという少女。私は彼女を守るために、時間軸を遡行し続けている・・・」

竜馬 「暁美・・・」


良いのか?と、目で問いかけてくる竜馬に、私は微笑みながら頷きを一つ。


ほむら 「私の最も大切な人、まどかを守るため。私は戦い続けているの」

476: 2015/02/26(木) 22:03:40.14
杏子 「ふーん・・・人のため、か。好きじゃないけどな、そういう考え方。けっきょくは、身を滅ぼす種になるだけだと思うぜ」

ほむら 「ありがとう。だけれど、まどかを守るのは私のため。まどかのいない人生なんて、そんなの私が私でなくなってしまうもの」

杏子 「そこまで言いきるのかよ。いったい何者なんだい、その鹿目まどかっていう奴は」

ほむら 「いずれ・・・」

竜馬 「・・・?」

ほむら 「いずれ、最強最悪の魔女となって、見滝原はおろか、この世界を滅亡へと追いやる事になる存在・・・」

竜馬 「・・・え?」

杏子 「はぁっ!?」

竜馬 「なんだよ、それ。これは俺も初耳だぞ」

ほむら 「ごめんね、リョウ。言い難かったのよ。あのまどかがやがて、恐ろしい化け物になってしまうなんて、私以外に知る者なんて作りたくはなかった」

477: 2015/02/26(木) 22:05:30.37
竜馬 「最強最悪って・・・あの鹿目が、か。想像もつかないが・・・」

ほむら 「あなたはもう見ている」

竜馬 「・・・?」

ほむら 「リョウたちがこっちの世界に飛ばされた時、一番最初に巨大な化け物を目にしたはずよ」

竜馬 「あれって、ワルプルギスの夜とか言う奴じゃなかったのか!?」

ほむら 「違うわ。ワルプルギスは確かに強大な魔女。だけれど、魔女化したまどかには、足元にも及ばない」

竜馬 「あれが・・・あのでかい化け物が、鹿目だっていうのか・・・」


とても信じられないという表情で、口をつぐんでしまう竜馬。

今現在の、人としてのまどかを知るものなら、当然の反応だと思う。


杏子 「魔女になるって言うことは、その鹿目ってやつ、魔法少女なんだよな?」

ほむら 「いいえ、この時間軸ではまだ、ただの女の子に過ぎないわ。私の目的は、まどかをキュウべぇと契約させない事でもあるの」

杏子 「じゃあ、あんたが私に言っていた、ワルプルギスを倒したいって話は・・・」

ほむら 「多くの時間軸で、ワルプルギスの襲来はまどかがキュウべぇと契約する契機となってしまった。その芽を潰しておきたいのと・・・」

杏子 「・・・」

ほむら 「まどかが生まれ育ち、大切な人々とともに生きている見滝原を、私は守りたいと思っているから」

478: 2015/02/26(木) 22:06:41.52
杏子 「そっか」

ほむら 「黙っていてごめんなさい。リョウも・・・」

竜馬 「いやまぁ、言い難かったってのは理解できる。そこは気にしないで良い。だけれど、よくこの事、話す気になったな」

ほむら 「それは、もう・・・隠し事とか、しておきたくなかったから・・・」


仲間、だから。


杏子 「だけどさ、美国織莉子はどうして、まどかって奴が強大な魔女になるって知ってたんだ?さっきの話じゃ、過去の時間軸でも魔女化する前にまどかは殺されてしまったんだろ?」

ほむら 「それは・・・」

竜馬 「未来予知、か?」

ほむら 「・・・リョウ。冴えてるのね、どうして分かったの?」

竜馬 「鹿目の魔女化という未発生の事態を知っているとすれば、可能性は二つ。暁美のような時間遡行者であるのか、それとも未来を予め知ることができる者か・・・」

ほむら 「そうね」

竜馬 「美国織莉子は目的を果たす前に、暁美に殺されたんだろ。もし時間遡行が可能なら、目的失敗と判断した時点で、別の時間軸へ飛んで、再び活動すれば良い」

杏子 「そうか。そうしなかったのは、先のことは分かっても、時間を戻す術は持たないからだってことか・・・!」

479: 2015/02/26(木) 22:07:34.95
ほむら 「明察よ。美国織莉子は未来を見る力を持っている。かなり、限定的ではあるようだけれどね」

杏子 「だからあいつ、ワルプルギスの事も知っていたのか。すごいな、流。あんた、見た目以上に頭が切れる奴なんだな」

竜馬 「褒め言葉ととっておくぜ」

杏子 「そう思ってくれて良いよ。てことは、だ。今回も美国織莉子は、鹿目まどかの命を狙って動いている、と・・・?」

ほむら 「それは分からない・・・」


あいまいに答えながらも、私は内心でその可能性は低いと考えていた。

もし、かつての時間軸と同様に、まどかが最悪の魔女となる事を予知していたのなら・・・

あの時と同様、まどかの協力者を消すために、魔法少女狩りを行っていなければおかしいと考えたからだ。

それが、杏子を目の前にして、戦いを挑んでこなかったという。

そこから導き出せる答えは、ワルプルギスがもたらす惨禍までしか予知できていない、としか思えない。

・・・もちろん、確証は持てないけれど。

480: 2015/02/26(木) 22:09:03.31

ほむら 「・・・ただ、彼女がゲッターのことを知っていたとなると」

杏子 「そうか、ゲッターロボに関して、何かを予知したのかもしれないな」

ほむら 「問題は、予知で見たロボットの名前を、誰が具体的に教えたか、だけれど・・・」


先ほども言ったけれど、美国織莉子の未来予知はきわめて限定的で、予測できる範疇は美国織莉子本人ですら、コントロールしきれてはいなかったはず。

そんな彼女が、ゲッターロボという具体的な固有名詞を口にした。

・・・誰かが織莉子に教えたとしか、考えられない。


竜馬 「ここにいる、俺たちじゃない」

杏子 「マミや武蔵だとも考えられない」

ほむら 「となると、結論は一つ・・・」


私は部屋の隅。

日陰となって、朝の陽も当たらない暗がりを見つめる。


ほむら 「ねぇ・・・」


そこへ向かって、声をかける。

暗がりからは、先ほどまでは感じられなかった気配が一つ。

無機質で感情の感じられない、まるで置物のような気が発せられていた。

481: 2015/02/26(木) 22:10:49.64
ほむら 「お前ね?」


私は、その気配に向かって言う。

視線を向けたそこ、部屋の片隅の暗がりには。

まるで、光の当たらない闇から、白い影が浮き出てきたように・・・

あの忌まわしい生物が、こちらにあの赤いビードロような目を向けていたのだ。


竜馬 「こいつ、いつの間に入り込みやがった?」

ほむら 「キュウべぇ・・・」

キュウべぇ 「やぁ、みんな。久しぶりだね」


悪びれもせず、ぬけぬけと言いながら、トコトコと・・・

そいつは、私たちの方へと歩いてきた。

482: 2015/02/26(木) 22:14:01.61
・・・
・・・


氏ねば良い。

優しく、誰よりも慕う兄からかけられたのは、耳を疑うような非情な言葉だった。


マミ 「・・・え」


信じられない物を見る目で、マミは武蔵を見つめた。

だが、見据えられた武蔵は表情一つ崩すことなく、もう一度。

ゆっくりと、はっきりと。

聞き間違えなど起こりようもないほど、よく通る明瞭な声音で。


武蔵 「氏ねば良い、マミちゃん」


残酷な言葉を再び、マミへと突きつけたのだった。

483: 2015/02/26(木) 22:15:20.15
マミ 「ど、どうして・・・」


ショックのあまり、足に力が入らない。

マミはへたへたと、その場に腰をついてしまう。

手に持ったカップが床に転がり落ち、床に小さな水溜りを作る。

だが、今は武蔵もマミも、カップの事になど気にも留めない。

ただ、言葉もなく、互いに見つめ合うのみ。


マミ 「あ、あ・・・」


一度は冷静になりかけた理性が、再び崩壊して行く。

マミは言葉など知らない子供のように、意味の無いうめきを漏らしながら、今はただ。

惨めに震える以外になす術が無かった。

484: 2015/02/26(木) 22:16:12.76
武蔵 「・・・」


武蔵はそんなマミに近寄ると、自身も腰を落としてマミと同じ目線となった。

じっと見つめる武蔵。震えるマミの両肩に、手をかける。

マミの混乱と恐怖と絶望と、が。

震えとともに武蔵の心にまで伝わってくるようだ。


武蔵 「マミちゃん」


だが、武蔵はつとめて語調を強め、マミに語りかけた。


武蔵 「もし君が、まだ人間である友達を頃すというのなら、マミちゃんは自分が言うとおり、人の姿を借りた魔女に他ならない」

マミ 「・・・」

武蔵 「人には、取り返しがつかない事、してはいけない事というものが、確かにある」

マミ 「しては、いけない、事・・・」

武蔵 「君の心をいっとき支配した衝動は、実行に移したなら、まさしく取り返しがつかないことだった。分かるかい?」

マミ 「・・・あ、ぅ」


問われるまでもなかった。

485: 2015/02/26(木) 22:16:48.24
だけれど、マミは同時に思うのだ。


マミ 「だけれど、もし・・・もし、みんながこの先、魔女になってしまったら・・・人々に害をなす存在になってしまうのなら・・・」


今ここで、頃してしまった方が。

人として氏ねた方が、本人のためにも、どれだけ幸せかもしれない、と。

そんなことを考える自分に衝撃を受けたのも事実だが、だからと言って、この考え方自体を全否定する事もマミにはできなかった。


マミ 「だって・・・」


何故なら・・・


マミ 「だって私が魔女になってしまったら、お兄ちゃんは私から離れていってしまうでしょ?嫌いになってしまうでしょ?」


そんな思いと恐怖が、マミの胸を締め付けて、離さなかったから。

だが、武蔵はかぶりを振って言う。


武蔵 「俺は、どんな事が起こったって、マミちゃんを嫌いになるはずがない。離れられるはずがないじゃないか」

マミ 「だって、本当に・・・?」

486: 2015/02/26(木) 22:32:57.27
武蔵 「お袋と親父が氏んだ時、俺が両親に代わって君を守ると。そう、約束したじゃないか」

マミ 「え・・・、だって、それは・・・」

武蔵 「君の心が、もしくは存在そのものが魔女となってしまったなら、その時は君は氏ぬべきだ」

マミ 「・・・」

武蔵 「引導は、俺が渡してあげる。妹を頃すんだ。その時は、俺だって人ではいられない」

マミ 「お、お兄ちゃん・・・」

武蔵 「君が堕ちるなら、俺もともに堕ちよう。どこまでもどこまでも・・・俺はマミちゃんと共にあるよ」

マミ 「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ・・・」

武蔵 「だから、それまでは生きるんだ。人として、巴マミとして。若い命を、真っ赤に燃やし尽くして生きるんだ!」

マミ 「あああ、うああああああっ!」


武蔵にしがみつき、声を限りに泣きじゃくるマミ。

武蔵はマミをそっと抱きしめ、あとはかける言葉もなく、ただ優しく彼女の背をさすり続けていた。

そして思う。心の中で詫びる。

友に。命と背中を預けあった戦友に。


武蔵 (リョウ、すまん。俺はもう、こっちの世界の人間になりつつあるようだ・・・)

487: 2015/02/26(木) 22:38:55.79
・・・
・・・


ほむら 「お前が美国織莉子にゲッターロボの事を教えたのね」

キュウべぇ 「そうだよ」


ヤツは悪びれる風もなく、肯定して見せた。

まったく普段と変わらない態度、声音。感情が無いのだから、それは当たり前なのだけれど。

どこかのほほんとしているようにも見えて、こちらの心を無駄に逆立てる。


ほむら 「・・・よくも、ぬけぬけと」


いったい何を目的に・・・

そんな疑問を口に出そうとした時、不意に私の横を赤い影が横切った。


杏子 「キュウべぇ、てめぇ!」


赤い陰・・・杏子はキュウべぇに掴みかかると、奴を乱暴に壁へと叩き付けた。


キュウべぇ 「きゅっぷい」

杏子 「てめぇ、よくもあたしたちを・・・マミを騙し続けてくれたな!!」

488: 2015/02/26(木) 22:41:53.49
キュウべぇ 「何の事だい・・・?僕は何も嘘なんて・・・」

杏子 「うるせぇ!」


キュウべぇの喉元を掴んで壁に押し付けていた杏子が叫ぶ。

彼女の手に力が込められ、キュウべぇの首が締め付けられる。


キュウべぇ 「ぐ・・・君はいった、い、何を怒って、いるんだい・・・?まったく意味が・・・」

杏子 「わからねぇのか、そうかい。だったら、無理に分からなくてもいいぜ!」

キュウべぇ 「ぐ・・・ふっ・・・」

杏子 「このまま、首の骨をへし折ってやる!氏んじまえ!」


杏子の顔が怒りに歪む。

彼女がここまで感情をあらわにするなんて、かつての時間軸でもそう見られたことはなかった。

それだけ強かったんだろう・・・

自分が思い描いていた、巴マミの偶像。

それをぶち壊す原因を作った、キュウべぇへの怒りが。
 
なにはともあれ・・・


ほむら 「佐倉さん」


私は立ち上がると、キュウべぇを締め付けている杏子の手を取った。


ほむら 「こいつに個の概念は無い。頃しても、別のキュウべぇが現れるだけ。何も響かないわ」

杏子 「そうかよ。だがな、せめて目の前のこいつだけでもひねり殺さにゃ、あたしの気がおさまらねぇんだよ!」

489: 2015/02/26(木) 22:42:39.44
ほむら 「意味が無いといっているの。それに・・・」


視線で杏子に示す。

つられて杏子が顔を向けたそこでは・・・


ゆま 「・・・」


いきなりの杏子の剣幕に怯えたゆまが、竜馬にしがみつきながら必氏に泣くのを堪えていた。


杏子 「あ・・・っ」

竜馬 「そこまでにしておけ。それに、そいつには聞かなきゃならない事だって、あるだろう」

杏子 「・・・ちっ」


舌打ちをしながらも、杏子は私や竜馬の言う事に従ってくれた。

自由の身となったキュウべぇは、何事も無かったかのようにヒラっと床へと舞い降りる。


キュウべぇ 「やれやれ、いきなりでビックリしたよ」


と、感情のこもっていない声で、平然と喋るキュウべぇ。

いったい、どこをどうビックリしたのだろうか、問いただしたい話し方だった。


杏子 「・・・こいつ」

490: 2015/02/26(木) 22:44:13.80
ほむら 「佐倉さん、落ち着いて。お前も、これ以上人を挑発するような真似はしないで」

キュウべぇ 「そんなつもりは、無かったんだけれどね。気に障ったのなら謝るよ」

ほむら 「それで・・・」


キュウべぇの不遜な態度は、いつもの事。いちいち腹を立てたって、時間の無駄でしかない。

私は本題の話を再開した。


ほむら 「いったい、何のために、美国織莉子にゲッターロボの事を話したの?」

キュウべぇ 「取引さ。僕と織莉子たちとの、利害が一致したからね」

ほむら 「取引・・・?」

キュウべぇ 「織莉子の成そうとする事に、ゲッターロボは非常に有益な力となってくれるのでね、僕はその情報を提供したって訳だよ」

ほむら 「それでお前は、その見返りに何を得たというの?」

キュウべぇ 「さぁ・・・」


思わせぶりに、奴が話の腰を折る。


ほむら 「教えなさい」

キュウべぇ 「教える義理は無いと思うな。僕は最初、取引相手には竜馬を選んだんだけれどね」

ほむら 「え・・・?」

竜馬 「・・・」

491: 2015/02/26(木) 22:45:10.30
キュウべぇ 「すげなく断られてしまったんだよ。だから、替わりとして織莉子を選んだ。そうである以上、君たちに必要以上の事を教えてあげる謂れは無いんだよね」

ほむら 「取引って、どんな?」

竜馬 「知らん。だが、こいつが言うことだ。どうせ、ろくな事じゃないだろうぜ」

キュウべぇ 「ご想像にお任せするするさ。さて、他に話がないのなら、僕はそろそろ失礼させてもらうよ」

ほむら 「・・・」


これ以上、キュウべぇから何かを聞きだすことは不可能だろう。

そう思って私は、奴が去るのに任せるつもりでいたのだけれど。


杏子 「待てよ」


きびすを返し、暗がりへと戻ってゆくキュウべぇを呼び止めたのは、佐倉杏子だった。


キュウべぇ 「なんだい?」

杏子 「これだけは聞いておきたい」

キュウべぇ 「答えられる事だったら」

杏子 「お前、むやみやたらと魔法少女と契約をしているだろ」

ほむら 「え・・・?」

杏子 「風見野で、何人か。ろくに戦う事もできなかった魔法少女の氏体を見せられたぜ。ありゃ、何のつもりだ?」

キュウべぇ 「何のつもりも何も、僕は命をかけるに値する望みを持つ少女に、夢を叶える力を与えただけだよ。君たちの時と同じさ」

杏子 「美国織莉子は、そんな”バーゲン品”の魔法少女に用があるようだったぜ。お前ら、つるんで何を画策してやがるんだ?」

492: 2015/02/26(木) 22:45:55.33
キュウべぇ 「言ったろう?応える義理はないと」


それだけ言うとキュウべぇは、今度こそ暗がりの中へと帰ってしまった。

たちまち消えうせる奴の気配。陰から湧き出したように現れて、影の中に掻き消える。

本当に薄気味の悪い奴・・・


杏子 「ちっ・・・」

ほむら 「ねぇ、佐倉さん。今の話、どういうことなの?」

杏子 「どうもこうも、聞いた通りさ。キュウべぇの奴、むやみやたらと魔法少女を増やしてやがるぜ」


・・・そういえば。

佐倉杏子を仲間に誘ったあの時・・・


(杏子 「なぁ・・・見滝原で最近、見慣れない魔法少女とか・・・遭遇した事があるか?」 )


確か、そんな事を聞かれたっけ。


杏子 「ゆまと初めて会った時も、側に魔法少女の氏体が転がってた。たまたま一緒になっただけで、知り合いでもなんでもないって聞いてるけど、な?」

ゆま 「う、うん・・・」

493: 2015/02/26(木) 22:46:38.21
杏子 「そして、どうやら織莉子は、そんな急ごしらえの魔法少女たちに用があるらしい。何のためかは、分からなかったけれど・・・」

ほむら 「美国織莉子が、魔法少女を集めている・・・?」


あの、魔法少女狩りをやっていた、美国織莉子が?

・・・そんな、間逆なマネを?


竜馬 「どうやら、俺たちに明かされていない闇は、想像以上に深いようだな」


私の言葉を受けて呟いた竜馬の脇で。

いまだ怯えたままのゆまが、彼の足にしがみつきながら、ふるふる静かに震えていた。

494: 2015/02/26(木) 22:48:05.83
・・・
・・・


疑問と不安を胸に抱きつつも。

ワルプルギスの夜襲来の日は、刻一刻と迫ってくる。

時は待ってくれない。今は、成すべき事を成さなければならないのだ。

私たちはかねての決め事にしたがって、活動を開始した。

魔力をなるべく温存しながら、一個でも多くのグリーフシードを集めなければならない。

来るべき、決戦の日に備えて。


美国織莉子やキュウべぇの暗躍は気になるけれど、私たちは私たちの今日を必氏に生きなければならない。

私の望み、友達の未来、そして、まどかの全てを守るために。

495: 2015/02/26(木) 22:51:05.98
・・・
・・・


見滝原中学

2年の教室


ほむら (ワルプルギスの夜が来るまで、あと一週間。良い感じでグリーフシードも集まってきたし、順調だわ)

ほむら (美国織莉子の行動が、未だに掴めていないのが気になるけれど・・・このまま、何もなく終るはずもないし・・・)


気だるい雰囲気が支配する、朝の教室。

登校してから授業が始まるまでの、つかの間の時間。

自分の席に着席して考え事をしていた私の肩を、不意にポンと叩かれた。

少し驚いて顔を上げた私の前に立っていたのは、ひきつった笑顔の美樹さやか。


さやか 「お、おはよー」

ほむら 「おはよう、美樹さん」


彼女と会話を交わすのは、一緒に上条恭介の病室に行った時以来。

あの日さやかと仲違いをして以来、気まずくって・・・どちらからともなく、互いを避けるようにしていたから。

そんな彼女が、むこうから声をかけてきた。

・・・なにかあったのかしら?


ほむら 「私に何か用?」

496: 2015/02/26(木) 22:51:45.13
さやか 「う、うーん・・・」


言いよどむさやかの背後から、小さく「ほら、ほら」と急き立てるような声がする。


ほむら 「・・・?」


立ち上がり、さやかの背後を覗き込んでみると・・・


まどか 「あっ」

ほむら 「・・・」

まどか 「うぇひひ・・・見つかっちゃった」


さやかの背中に隠れるように、小さく身を屈めたまどかと目があったのだ。


ほむら 「鹿目さん・・・何をやっているの?」

まどか 「あ、いやぁ~・・・特に何をと言うわけじゃ~・・・」

ほむら 「・・・?」

さやか 「その、じつはさ・・・まどかに急かされちゃって。今すぐ行けって、背中を押されちゃったって訳でさ・・・」

ほむら 「よく分からないわ」

さやか 「そのね、あの、ねぇ・・・」

まどか 「さやかちゃん、ファイト!」


隠れるのを止めたまどかが、さやかの隣に立って何やら応援している。

さやかの方は、顔が真っ赤だ。

・・・これは、このシチュエーションはもしかして・・・っ!?


さやか 「あのね、暁美さん!」

ほむら 「ま、待って!」


私は慌てて、さやかの言葉をさえぎる。

ここから先を、彼女に言わせるわけにはいかない。

497: 2015/02/26(木) 22:53:42.37
さやか 「っ、な、なによ!人がせっかく決心して言おうとしてたのに!」

ほむら 「気持ちは嬉しい。だけれど私、あなたの想いに応えることはできないの」

まどか 「え、ほむらちゃん、そんな・・・」

さやか 「・・・」

ほむら 「だから、ごめんなさい」

さやか 「そ、そっかぁ。そうだよね・・・」


さやかが悲しそうに、ションボリと肩を落とし、床を見つめながら言う。

いつもの元気なさやかの姿を知ってる分、このように落胆されると、こちらも罪悪感を感じてしまう・・・

だけれど、まどかの前でいい加減なごまかしなんて、言えるわけない。


ほむら 「私には、心に決めた人がいるから・・・それにそれは、あなたも同じだったはず」

さやか 「へ・・・?」

まどか 「・・・うぇひ?」


さやかとまどか、なぜか目が点。

あれ、予想外の反応・・・

そして。


さやか 「暁美さん、なに言ってるのさ・・・」

まどか 「ほむらちゃん、まじめなお話してるのに、そういうボケはいけないと思うよ」


さやかには心底あきれた目で見られ、まどかにはお説教を喰らってしまった。

え、私・・・なにかボケちゃってたかしら?

498: 2015/02/26(木) 22:54:12.36
さやか 「私は、この前の病院での事を謝って、仲直りができたらなって思ってさ。こうして、言いに来ただけなんだけれど・・・」

まどか 「さやかちゃん、あれからずっと悩んでて。でも、なかなか謝るきっかけが見つけられないって言うから、こうして私がついて来たのに・・・」

ほむら 「え・・・あれ・・・?」

さやか 「て言うか、今、あっさり言えちゃったわ。もしかして暁美さん、私が言い出しやすいように、わざとボケてくれたの?」

ほむら 「あ、いや・・・」

まどか 「あれ、そうだったんだ!そうとはしらず、怒っちゃってごめんね、ほむらちゃん!」

ほむら 「う、ううん、気にしないで・・・」


今度は逆に感心されてしまった。

私はただ、どうしようもない勘違いをしただけなんだけれど・・・


竜馬 「詰めの甘さは天下一品だな」


私たちの様子を席から見ていた竜馬が漏らした一言を、私はあえて聞き逃す。

そして、まどかたちに一言、告げたのだった。


ほむら 「う、嘘も方便というでしょ」

499: 2015/02/26(木) 22:56:49.68
・・・
・・・


教室

お昼休み


楽しいお昼時。

教室のみんなは銘銘、学食に行ったり、仲の良いもの同士が集まったりとしながら、食事の準備に余念のない様子。

私はといえば、机を移動させて、一群の集まりに合流していた。

そのメンバーは、まどか、さやか、そして志筑仁美の三人。

そこに私を交えた四人でテーブルを囲み、食事をとることになってしまったのだ。


ほむら (なぜかといえば、朝にさやかが謝りに来てくれた時・・・)


けっきょく私のボケ(という事にしておこう)が原因で、満足に話ができない内に朝礼の時間になってしまったから。

だから話の続きは持ち越しという事で、お昼を一緒にとりながら・・・と、いう流れになってしまったというわけ。


ほむら (こうして、友達と学校で食事するなんて、いつ以来かしら・・・)


思い出せないくらい、昔の事になってしまった。

500: 2015/02/26(木) 23:03:59.66
もう、誰にも頼らない。そう思いつめてから、私は人との接触を必要最低限以上は取らないように心がけていたから。

だから、こういう場は本当に馴れない。成り行きで参加してしまったけれど、魔女との戦いよりよほど緊張してしまう。


まどか 「ほむらちゃん、こうして一緒にご飯食べるの、初めてだよね」

ほむら 「そ、そうね」

仁美 「あら・・・暁美さんのお弁当箱、可愛いですね。黒ネコさんのイラストがチャームポイントになっていて」


仁美が私のお弁当箱を指して、にっこり笑う。


ほむら 「あ、これは・・・知り合いの子供が選んでくれたの」


私の部屋には、余分な食器が用意していなかった。

だから先日、ゆまと一緒に必要な雑貨を買いに、街まで買い物に行ってきたのだ。

お弁当箱はその時、ゆまが見繕ってくれた。


ほむら 「何となく、この黒猫が私に似ているからと」

まどか 「へぇーぇ」


それに合わせて、今までは購買のパンで済ませていた昼食も、自分で作るように生活を切り替えた。

けっきょく、頼りにしていたマミからはカレーしか教わる事ができなかったけれど、野菜の切り方やご飯の炊き方などは、あの時に教わっていたし。

それ以外はネットなどを駆使して、自炊するようにしたのだ。

501: 2015/02/26(木) 23:06:18.11
やってみると、意外と楽しい。ゆまも喜んで食べてくれるし、お手伝いも率先してやってくれる。

今まで使命感だけで生きてきて、ほかの事に目が届いていなかった分、新たに開かれた世界は新鮮で、そして・・・


まどか 「そう言うのって、何だか良いねっ」

ほむら 「ええ、本当に・・・本当に素晴らしいものだと思えるわ」

まどか 「そっかぁ。じゃあ、私からも素晴らしいものを一つ。はいこれ。食べてねっ」


まどかが自分のお弁当箱から私のお弁当箱へと、卵焼きを一つ入れてくれた。


ほむら 「え、これって・・・?」

まどか 「初めて一緒にお昼を食べる記念のプレゼントだよっ」

ほむら 「あ、ありがとう・・・」

仁美 「ふふっ、あらあら」

さやか 「あ~~っ!」


それを目ざとく見つけて、身を乗り出してくるさやか。


さやか 「ちょっと!いいな~。まどかのパパさんの卵焼き絶品じゃん!さやかちゃんにも一つ、よこしなさいよ!」

まどか 「うぇひひ、だめだよー。私だって大好きなんだから、残りは私が食べちゃうの」

さやか 「むー、良いな良いな、暁美さん羨ましいな!」

仁美 「さやかさん、大人気ないですよ・・・」

さやか 「わかったわよ・・・暁美さん、私の代わりに絶品卵焼き、良く味わって食べるのよ!」

ほむら 「分かったわ・・・鹿目さん、ありがとう」

まどか 「うぇひひ、どういたしましてっ」


緊張するけれど・・・

こういうの、嫌いじゃないなって思った。

509: 2015/02/28(土) 23:16:56.93
再開します。

510: 2015/02/28(土) 23:17:52.37
・・・
・・・


ご飯を食べながら聞いたさやかの話では、上条恭介は現在、精力的にリハビリに精を出しているそうだ。

一時期は自暴自棄になりかけていた彼も、今ではすっかりと「本来の恭介(さやか曰く)」に戻って頑張っているのだという。


まどか 「それで、あの・・・これって、聞いちゃって良いのかな?」

さやか 「恭介の怪我の事だよね。足の方はともかく、腕の方はやっぱり厳しいみたいだよ」

まどか 「そ、そうなんだ・・・」

仁美 「・・・」

さやか 「だけどね、頑張ってる恭介を見ていると、私は思うし信じられるんだ」

ほむら 「なにを・・・?」

さやか 「奇跡も、魔法もあるんだって」

511: 2015/02/28(土) 23:19:18.79
ほむら 「え・・・」


驚いて、おもわずさやかを凝視してしまう私。

魔法少女の存在を知っているまどかも、目をまん丸にしてさやかを見つめている。

そんな視線に気がついて、彼女は頭をかきながら、苦笑まじりに言った。


さやか 「やだなー、何、その顔」

まどか 「だってさやかちゃん、今、魔法って・・・」

さやか 「なになにー、まどかまで。さやかちゃんが柄にもなくメルヘンな事を言ったからって、その反応はあんまりじゃない?」

ほむら 「じゃあ、魔法っていうのは・・・?」

さやか 「例えよ、物の例え。だけれどね、恭介はあんなに頑張ってるんだもん。奇跡だってなんだって、起こせるんじゃないかなって。私には、そう思えるんだ」

ほむら 「そう、そうだったの・・・」


安堵のため息を漏らしながら、私は平静を装って、さやかの言葉に相づちで応えた。

そう、この時間軸でのさやかにとって、キュウべぇとの契約がもたらす願いなんて、もはや何の意味もない。

その事は理解していても、やはり彼女の口から”魔法”の二文字が出ると、ドキリとしてしまう。

512: 2015/02/28(土) 23:20:41.84
ほむら 「やはりあなたは、美樹さやかなのね」


状況や立場が違っていても、彼女の本質は何も変わりはなしない。


さやか 「意味深なこと言うのね。どういう意味?」

ほむら 「あなたらしいって、そう思っただけ」

さやか 「?」


ひたむきなまでに一途で、普段は活発さに隠れて見えにくいけれど、本当はどこまでも女性的な優しさを持つ人。

それが悪い方に現れて、苦しめられた時間軸もあったけれど・・・

やっぱりさやかの本質を私は嫌いになれない。むしろ、好ましいとさえ思えてしまう。

513: 2015/02/28(土) 23:22:40.30
ほむら (さやかと上条恭介がこれからも行き続けていく見滝原の街・・・)


ふ、と仁美のほうを見ると、彼女は一連の会話に口を挟むこともなく、もくもくと食事を続けていた。

私は知っている。仁美も上条恭介の事を、以前から慕っていたという事を。

しかし、今さらさやかと恭介の間に割り込むことは不可能と知って、自分の想いを外に出さないように必氏なのだろう。


さやか 「ん、どしたの、仁美。黙りこくっちゃってさ」

仁美 「あ、別に何でも。込み入った話でしたので、立ち入るのもどうかと思って・・・」

さやか 「そんなこと、気にしないで良いのに。お、仁美のお弁当は今日も豪勢だね。それ、おいしそうだなー」

仁美 「さやかさんったら、相変わらずですのね。ふふっ、よろしければ、お一つどうぞ?」


そして、今までと変わらない態度で、さやかと接している。

彼女も辛いだろうな。

だけれど、どうにもならない事を態度に表して、周りを困惑させることは仁美の美意識に反する事なんだろう。

だから、いつも通りの自分を演じている。立派だと思う。


ほむら (そして志筑仁美が新しい望みを見出し、育んでいくはずの街・・・)


友達のためにも。この見滝原を守り通したい。

いや、まどか共々、この街も必ず守ってみせる。

まどかたちが食事を取る姿を眺めながら、私は決意も新たに、己に誓ったのだった。

514: 2015/02/28(土) 23:23:44.62

・・・
・・・


仁美 「浅ましい・・・」


学校からの帰り道。

今日も習い事があるからと嘘をついて、志筑仁美は独り。

まどかやさやかと別れて、自宅の近所にある公園のベンチでひとりごちていた。


仁美 「私ったら、どうしてあのような事を・・・」


考えてしまったのだろう・・・

いや、それは今でも。

考えまい考えまいと心に強く命じるほどに、嫌な思いが胸の内を黒く染める事に抗うことができない。

だからこその、自己嫌悪。

浅ましくて愚かしくて、消えて無くなってしまいたくなる。

515: 2015/02/28(土) 23:25:59.61
仁美 「ああ・・・」


落ち込んで、視線を足元に落とす。

すると、今までどうして気がつかなかったのだろう。

仁美の足元には、一匹の白い小動物が寄り添う様にたたずんでいた。


仁美 「あら・・・」


少し驚いたが、愛らしい動物が側によって来てくれた事は、生き物好きの仁美には素直に嬉しい出来事だった。

ささくれ立った心が慰められるようで、その事もありがたい。

だけれど・・・


仁美 「あなた・・・猫・・・とは、少し違うようだけれど・・・ウサギ・・・?とも、違うようだし」


まじまじ観察してみるが、その動物は仁美が知っているどの動物とも違って見えた。

実際に見たことはもちろん、図鑑やテレビでも見た記憶がない。


仁美 「まぁ、いいですわ」


深くは考えない事にして、仁美は動物をひょいと抱え上げ、自分の膝の上に載せる。

動物は嫌がるそぶりも見せず、仁美のなすがままに任されてくれた。

516: 2015/02/28(土) 23:28:04.01
仁美 「ふふ、大人しいですのね。ねぇ、あなた。私のことを慰めて下さってるの?」


答えを期待しない問いかけをしながら、優しく頭を撫でてやる。

動物は鳴き声一つあげずに、仁美の顔をじっと見つめている。

まるで、彼女の次の言葉を促しているかのように。


仁美 「・・・あのね、聞いてくださる?」


仁美は、ポツリポツリと、今の心境を語って聞かせた。

自分にはずっと昔から、慕っている男性がいたという事。

その人の側には、彼の幼馴染が寄り添っていて、今さら自分が立ち入る隙間などないという事。

それでも今までだったら、彼が幼馴染を女性として意識していなかった事が見て取れていた。

だから、いつかは自分にも彼の心をつかむ機会が訪れるのではないか。そんな淡い期待を持ち続けていたという事。

そして・・・今となってはその期待も、砂上の楼閣のように脆くも崩れ去ってしまったという事。

517: 2015/02/28(土) 23:31:00.81
仁美 「・・・今にして思えば」


想い人と幼馴染。

恭介のことを仁美が知るよりずっと前から見続け、密かな想いを胸に秘めつつ側にいたさやか。

そんな、さやかが抱く想いの大切さに気がついた恭介。

上条恭介と美樹さやかは、遠回りをしながらも、今。あるべき形に辿り着いただけなのに違いない。


仁美 「さやかさんは大切なお友達。人の心を思いやれる、とても素晴らしい女の子ですわ。だから・・・」


恭介にとって、これがベストな事なのだと。

そう、理性では分かっていた。

分かっていたはずなのに。


仁美 「私、最低ですわ・・・」


付け入る隙を、二人の破局を望んでしまう自分が確かにいた。

そうすれば、今のさやかのポジションに自分が入り込む自信がある。

そんな浅ましい事を考えてしまう自分に、仁美は大きなショックを受けていたのだ。

518: 2015/02/28(土) 23:32:19.60
仁美 「大切な人なのにっ、大好きなお友達なのにっ!二人の幸せを素直に受け入れてあげられないなんて・・・っ!」

? 「人は二面性を持つ生き物よ。そして、綺麗ごとだけでは生きて行けない」

仁美 「えっ!?」


一瞬、膝の上の小動物が喋ったのかと思った。

だけれど、そうではなく。

声は仁美の隣から、穏やかな風に乗って流れてきたのだ。

顔を上げて、隣に視線を向けると、そこにはいつからいたのか・・・

自分と同じ年頃の、目を奪われるように美しい少女が一人、腰を下ろしていた。


仁美 「え・・・あ、あなた、は・・・?」

? 「こんにちわ」

仁美 「こんにちわ・・・」

519: 2015/02/28(土) 23:33:58.56
? 「盗み聞きするつもりはなかったのだけれど・・・聞こえてしまったの。あなたの胸のうち、あなたの苦悩が」

仁美 「あっ・・・」


顔を赤くして俯く仁美。

はからずも、膝もとの動物と目が合ってしまう。


? 「ここで会ったのも、何かの縁。自己紹介をしましょう。私は美国織莉子・・・」

仁美 「美国さん・・・?」

織莉子 「織莉子で良いわ。私もあなたのことを名前で呼ばせていただくから」

仁美 「・・・」

織莉子 「志筑仁美さん?」

仁美 「っわ、私の名前を・・・!?」

織莉子 「ふふ、驚かせてしまったら、ごめんなさいね。私、少し前から、あなたの事を見ていたの」

仁美 「少し前って・・・」

織莉子 「数日前から。お友達になりたくって」

仁美 「・・・お友達に?私と?」

織莉子 「ええ。そして、見ていたから分かる。仁美さん、悩んでいるのね」

仁美 「・・・え、ええ」

520: 2015/02/28(土) 23:34:55.97
今、初めて会話を交わした相手。

無遠慮に踏み込んでくる態度に、普段の仁美であったら腹を立てて、この場を去っていただろう。

だけれど、疑心と自己嫌悪で心が弱っていた仁美には、優しい笑みを浮かべて自分に話しかけてくる、この少女・・・

美国織莉子の質問を振り切って、立ち上がる気持ちには、どうしてもなれなかった。


仁美 (不思議な人・・・人を惹きつけてやまない魅力のようなものがある・・・美国、織莉子さん・・・)


どうせ、まどかやさやかの誘いを断って、今日は暇なのだ。

なら、この人に思いの丈をぶつけてみるのも悪くない。仁美はそう思った。


仁美 「わ、私・・・」


誰かに聞いてもらいたかった。

もし、それで不愉快な思いをしたなら、その時はこの場を去り、それっきりにすれば何も問題はないのだから。

521: 2015/02/28(土) 23:41:57.90
・・・
・・・


織莉子 「そう・・・」

仁美 「・・・」


この人は、私の話を聞いて、どう思っただろう。

全てを語り終わった仁美は、織莉子が自分をどういう表情で見ているのか。

そのことを知るのが怖くて、膝上の動物から視線を外せずにいた。

・・・嫉妬と羨望に満ちた浅ましい心根を、さぞ卑しいと感じたのではないだろうか。

だけれど。


ふわっ


柔らかい感触が、身体を包む。

いつの間にか立ち上がった織莉子から、背中越しに抱きしめられたのだ。


仁美 「・・・っ!」

522: 2015/02/28(土) 23:49:54.71
織莉子 「辛かったのね」

仁美 「わた、私・・・」

織莉子 「誰にも言えず、誰にも語れず。心の痛みを表情にも出せず。大海に漕ぎ出した小船のように頼る術もなく、心細く・・・」

仁美 「・・・う、うぅ~~~」

織莉子 「泣きたい時は、泣いても良いの。辛い時は苦しみを隠すべきではないの」

仁美 「う・・・う・・・うぁ・・・」

織莉子 「そして、望んだものがあれば・・・それは自分に正直に望むべきなのよ」

仁美 「あああーーーーんっ」


人肌の温かみに心がほだされ、決壊した瞳からは涙が際限なくあふれて来る。

こらえ続けていた嗚咽は、心の膿を搾り出すように、胸の奥からいつまでも湧き上がってきた。

そんな仁美を、後は何も言わず。

織莉子は優しく抱きしめ続ける。

その様子を心底理解できないといった目で、膝もとの動物が見ているのを仁美は気がつかなかった。


キュウべぇ (まったく人というのは何世代を得ても、考えることは一緒なんだよね。 理解に苦しむよ・・・)

529: 2015/03/06(金) 21:00:00.79
・・・
・・・


翌日 朝

教室


志筑仁美が、学校を休んだ。

まどかやさやかと一緒に登校するための、いつもの待ち合わせ場所に現れなかったというのだ。


さやか 「仁美、どうしたんだろうね。風邪でもひいちゃったのかな」

まどか 「昨日はいつもと変わりなかったのにね。心配だよ」


なぜか私の席の前で、さやかとまどかが語り合っている。

一応私も、彼女たちの仲間として認められているという事だろうか。

ならばと、私も会話に加わってみた。


ほむら 「志筑さんから、何も連絡はなかったの?」


私の問いかけに、まどかが小首を傾げる。


まどか 「うん、なにも。仁美ちゃんが前に休んだ時は、メールで教えてくれたのに」

さやか 「だからよけいに心配なのよ。メールもできないくらいに具合が悪いとかさ」

530: 2015/03/06(金) 21:00:50.20
ほむら 「・・・」


私と仁美は、それほど親しかったわけではない。

かつての時間軸でも、必要以上の接触をしたことはなかった。

それでも、彼女の真面目でマメな性格は、傍から見ていてもよく伝わってきていた。

自分に何かがあって、友人が心配するのがわかっていて、連絡をおざなりにするような人ではなかったはず。


ほむら 「心配ね・・・」

まどか 「ほむらちゃんも心配だよね。どうしよう!電話、してみようかな」

さやか 「まぁ、待ちなって。本当に具合が悪いなら、寝ていてメールどころじゃないのかもしれないし」

ほむら 「そうね。まもなく先生も来るわ。休むのなら学校に連絡を入れているだろうし、少し待ちましょう」

まどか 「う、うん~・・・」

ほむら 「ほら、そろそろ予鈴が鳴るわ。二人とも、席に戻った方がいいわよ」


私に促され、二人はそれぞれの席へと戻っていった。

531: 2015/03/06(金) 21:03:52.04
それにしても、志筑仁美。彼女に一体何があったのか。


ほむら (単なる風邪なら良いのだけれど・・・)


・・・妙な胸騒ぎがするのは、どうしてだろう。


竜馬 「嫌な予感がするな」


まどか達が去った後、隣の席の竜馬が、声を落としながら話しかけてきた。


ほむら 「なにか、思い当る事でも?」

竜馬 「あるわけないだろ。志筑仁美とはほとんど話したこともないんだ。だがな、こういう時には臭ってきやがるんだよ」

ほむら 「臭い・・・?」

竜馬 「ああ、戦いの中で身に着けた嗅覚がな、嗅ぎつけやがるのさ。嫌な事件特有の臭いってやつを、さ」

ほむら (不安になるようなこと、言ってくれるわ)


だけれど、同じような思いを抱いてしまっている私には、竜馬の言う事を思い過ごしと聞き流すことはできなかった。

532: 2015/03/06(金) 21:05:46.86
・・・やがて。

朝のHR開始を告げるチャイムが、スピーカーから流れてきた。

だけれど、変ね。いつもならすぐにやって来るはずの先生が、今朝はなぜだか教室に姿を現さない。


中沢 「先生、遅いよな…?」


数分たって。

普段何かと和子先生の無茶な質問につき合わされている中沢君が、疑問の声を上げた。

それを皮切りに、静まり返っていた教室の中が、にわかに騒めきだす。


それから、さらに数分がたち、教室のざわめきが最高潮に達したころ。。

やっと先生が、教室へと姿を現した。

のだが・・・


和子 「皆さん、お早うございます」


教壇に立った先生の表情が、どことなく固い。

533: 2015/03/06(金) 21:06:43.85
和子 「遅くなってすみません。それと、もうこんな時間なので、朝のホームルームは中止にします。あと・・・」


先生が生徒たちの席に目を走らせる。見つめているのは・・・


ほむら (まどかと、さやか・・・?)


和子 「鹿目さん、それと美樹さん」

まどか 「は、はい」

和子 「二人には悪いのだけど、授業に使うプリントを運ぶお手伝いをして欲しいの。いいかしら」

さやか 「え、まぁ、そりゃ構わないですけど、なんで私ら・・・?」

和子 「ほかの皆さんは、先生が戻るまで自習をしていて下さい。以上」


先生は早々に話を切り上げると、まどか達を従えて、さっさと教室を出て行ってしまった。

それと同時に、再び喧騒に包まれる教室内。

534: 2015/03/06(金) 21:10:31.52
誰だって分かる。あまりにも不自然な、先生のあの態度。


竜馬 「何かがあったな」

ほむら 「ええ・・・」


ほむら (ということは、志筑仁美の身に何か?だから、仁美と親しい二人を連れだして、話を聞こうと・・・?)


いくら疑問に思っても、今は仮説をたてる以外になす術がない。

私には喧噪のなか、まどか達の帰りを待つ事しかできなかった。

535: 2015/03/06(金) 21:14:54.65
・・・
・・・


まどか 「仁美ちゃん、昨日から家に帰ってないんだって・・・」


一時間目も終わろうという時間になって戻って来た、まどかとさやか。

休憩時間になって事情を聴こうと、トイレに誘うふりをしてまどかを連れ出した私。

トイレまでの道すがら、人気が無い場所でまどかがコソリと話してくれた。


ほむら 「昨日から・・・?」

まどか 「うん。お家の人もなにも聞いないんだって・・・」

ほむら 「それで、まどか達が呼び出されたの?」

まどか 「うん。いつも私やさやかちゃんと一緒に帰ってるからって。だけど昨日は、仁美ちゃんとは別々に帰っちゃったし・・・」


語りながらも、まどかは今にも泣きだしてしまいそうだ。

536: 2015/03/06(金) 21:17:03.35
まどか 「仁美ちゃん、何かあったのかなぁ。昨日も一緒に帰っていたら、こんな事にならなかったのかなぁ」

ほむら 「まどか、自責の念に囚われているのなら、自分をあまり追い詰めないで」

まどか 「だって・・・」

ほむら 「友達だからって、いつだって一緒にいられるわけじゃない。彼女に何かがあったとしても、それはまどかのせいじゃないのだから」

まどか 「なにか・・・なにかって・・・」

ほむら 「もちろん、何もないことを私も祈ってはいるけれど・・・」


そうは言いながらも、あのしっかりとした志筑仁美が、家に何の連絡も入れずに行方知れずになるなんて、何事もないはずもない。

私は、そうも考えていた。

となれば、可能性としては・・・


ほむら (何らかの事件に巻き込まれたか・・・あるいは・・・)


魔女の結界に囚われたか・・・

537: 2015/03/06(金) 21:19:38.32
事実、こことは別の時間軸で、仁美は魔女に魅了され、危うく命を落としかけたことがあった。

その時は、間一髪のところをまどかと、魔法少女となったさやかに救われたのだけれど。

この時間軸でも、同じような出来事に遭遇していないとも限らないのだ。


まどか 「仁美ちゃん・・・仁美ちゃん・・・」ぐすぐす

ほむら (何にしても、放ってはおけないわね。もし志筑仁美の身に何かがあれば、まどかの心が持たない)


その弱みにキュウべぇが付け込んで来るかもしれない。

あいつに隙を見せるようなマネは、絶対に避けなければならないのだ。


ほむら 「まどか、心配しないで。志筑さんの事は、私も探してみるから」

まどか 「ほ、本当!?ほむらちゃん!」

ほむら 「ええ。だからあなたは普段通りに。だって彼女は、私にとっても大切な友人なのだから」


そう、今の私は、本心から思っているから。

538: 2015/03/06(金) 21:21:35.09
・・・
・・・


放課後。

私と竜馬は、学校から少し離れた公園へと向かった。

そこで杏子と合流し、魔女狩りに向かう手筈となっていたのだ。


ほむら 「ねぇ・・・」

竜馬 「ん・・・?」

ほむら 「志筑仁美の事、まどかから聞いたのだけれど・・・」


道すがら、私は竜馬に、まどかから聞いた一部始終を話して聞かせた。


竜馬 「家族に連絡も入れず、家に帰っていない、か。ちゃちな火遊びするようなタイプには見えなかったがな」

ほむら 「当然よ。彼女がそんないい加減な人なら、まどかが友人として認めるはずがない」

539: 2015/03/06(金) 21:23:53.42
竜馬 「てことは、だ。俺が嗅ぎ当てた悪い予感は、的中しちまったって、考えても良さそうだな」

ほむら 「ええ、あとは手遅れではない事を祈るだけだけれど・・・」


魔女の結界に囚われてしまったのなら、普通の人間にそこから抜け出す事は、まず不可能だ。

願うらくは、結界の中で身をひそめ、何とか命の火を繋いでいて欲しい。


ほむら 「私たちが、当たりの結界を引くまで、なんとか、なんとしても・・・」

竜馬 「・・・片端から結界を潰していかなくてはならないな」


魔女の結界か、使い魔のそれかを選り好みしている余裕はないという事だ。


竜馬 「魔力の温存を図ってきた俺たちには、少しばかり不利な事態だがな」

ほむら 「仕方がないわ。仁美に何かがあったら、不安定となったまどかの心に、あいつがつけ入ってくる危険がある」


まどかを守り通す最善の方法をとるための、魔力の温存だったのだ。

優先順位が変われば、採るべき方策が変わるのも当然と考えなくてはならない。


竜馬 「まぁ、可能な限り戦闘は俺が行う。お前は必要以上には魔力を使おうとするなよ」

ほむら 「ありがとう、リョウ。頼りにしているわ」

540: 2015/03/06(金) 21:27:31.10
・・・
・・・


ほむら 「・・・」


私はとある建物の前で立ち止まった。


竜馬 「どうした?」

ほむら 「この奥。そこの路地の間から、気配がする」

竜馬 「魔女の気配か?」

ほむら 「ええ、それともう一つ・・・」

竜馬 「魔法少女・・・?」

ほむら 「仲間以外の、ね」

竜馬 「・・・」


同じ魔法少女同士。なじみ深い仲間の気配なら、感じ間違うはずもない。

この奥から漂ってくるのは、今まで接したことのない気配。

それは、かつての時間軸で敵として渡り合った、美国織莉子や呉キリカの物とも明らかに異なる。


ほむら (そういえば、佐倉さんが言っていたわね・・・)


(杏子 「どうもこうも、聞いた通りさ。キュウべぇの奴、むやみやたらと魔法少女を増やしてやがるぜ」)


では、この先にいるのは、いまだ私が遭遇したことのない。

この時間軸特有の、新たな魔法少女というモノなのだろうか。

541: 2015/03/06(金) 21:28:47.91
竜馬 「で、どうするんだ?」

ほむら 「どうもこうも。美国織莉子の動きが気になる。ここにいる魔法少女が例の”バーゲン品”である可能性もあるわけだしね」

竜馬 「そうであれば、美国織莉子とやらと遭遇する機会が得られるかもしれない、か」

ほむら 「ええ」

竜馬 「奴が何者であれ、ゲッターのことを嗅ぎまわっているなら、捨て置くことはできない。何を目論んでいるのか、聞き出す必要があるだろう」

ほむら 「それに志筑仁美の件もあるわ。魔女の結界がそこにあるのに、見て見ぬふりはできない。行きましょう」

竜馬 「おう」


私たちは道を外れ、路地の中へと入っていった。

公園では杏子が待っているはずだけれど、仕方がない。

まずは、目の前の事象から対処する。

戦いの基本だもの。

542: 2015/03/06(金) 21:29:38.38
・・・
・・・


結界内


竜馬 「こりゃあ・・・」


結界に踏み込んでの、竜馬の第一声がそれだった。

あたりを見回すと、そこかしこに散乱しているのは使い魔たちの残骸の山。


竜馬 「派手にやってくれたもんだな。その、魔法少女さんとやらは」

ほむら 「ええ」


どうやら、よほどの手練れらしい。

杏子の話では、彼女が遭遇した”バーゲン品”は、戦う術もほとんど持たないような非力な子ばかりだったという事だけれど。

ここにいる魔法少女は、それとは別格の存在のようだ。

543: 2015/03/06(金) 21:31:01.22
竜馬 「だが・・・」


竜馬が使い魔の氏骸が折り重なった周囲を眺めながらつぶやく。


竜馬 「力はあるようだが、お前のように”慣れた”戦いをするやつではないようだな」

ほむら 「ええ、そうね」


同感だった。

むやみやたらと、手当たり次第に使い魔を頃しつくす、この戦い方。

きっと魔力の消耗具合は尋常ではないだろう。

このような戦い方を続けていては、ソウルジェムが持つはずがない。

と、すれば・・・


ほむら 「資質の高い、新人の魔法少女・・・」

竜馬 「危ういな」


この奥からは、魔女の気配。

新人がいきなり、魔女の相手をするのはリスクが高すぎる。

いくら見知らぬ相手とはいえ、すぐそこに救える命があるのなら、見捨てるわけにはいかなかった。


ほむら 「・・・先を急ぎましょう」

竜馬 「応!」


私たちは頷きあうと、使い魔の氏体を踏み砕きながら結界の奥へと駈け出した。

544: 2015/03/06(金) 21:38:19.75
・・・
・・・


結界を進むにつれ、強まっていく。

魔女の気配と、そして魔法少女の気配。


ほむら 「・・・?」


私は、かすかな違和感を得ていた。

魔法少女の、この気配。確かに初めて感じるものに違いない。

だけれど、どこかで接した事もあるような、そんな不思議な感覚。

これはいったい、どういうことなのだろう?


だが、ほどなくして私の疑問は解決される。

目の前に、明確な答えが示されたからだ。

545: 2015/03/06(金) 21:39:09.06
結界の最奥。

魔女の住処。

そこでは今まさに。

一人の魔法少女が、魔女に最後の一撃を繰り出したところだった。


魔女は住処いっぱいに断末魔の叫びを響かせると、その巨体を力なく横たえ息絶えた。

ほどなくその体は光の結晶となって四散し、後に残されたのはグリーフシード一つ。


? 「おもったより、手間取りましたわ・・・」


言いながら、ひょいっとグリーフシードを拾い上げたのは、先ほど魔女を倒した魔法少女だった。

手間取ったとは言いながら、声も表情にも疲れの色ひとつ表していない。

涼しい顔で、さっそくソウルジェムを浄化させている。

そんな彼女の姿を見て、私も竜馬も声を失っていた。

546: 2015/03/06(金) 21:40:08.50
? 「・・・あら?」


やがて。

ソウルジェムを浄化し終わった彼女が、こちらに顔を向けた。

怪訝な顔でこちらを見つめている魔法少女。

私は彼女の顔に、見覚えがあった。


ほむら 「な、なぜあなたが・・・」


私が、その一言だけを絞り出すように言うと、彼女も驚きの色を隠せないと言った声音で呟いた。


? 「暁美さんと・・・流さん・・・?なぜ、あなたたちがこのような所に・・・」

ほむら 「それは、それはこちらのセリフよ・・・!」


私は混乱していた。

なぜ、彼女が?理解ができなかった。

547: 2015/03/06(金) 21:41:13.41
確かに彼女の存在は、どの時間軸においても重要なポジションを占めてはいた。

だけれどそれは、あくまでまどかやさやかの友人としてのそれであり、魔法少女の資質とは別のところにあったはず。

それなのに、今こうして、現に。

彼女は魔法少女として、私たちの目の前に立っている。

そして、混乱しながらも、納得したことも一つ。

先ほどから心を支配していた違和感。

・・・なるほど、こういう事だったのね。

”魔法少女”としては、初めて感じる気配。

だけれど、同時にどこかで見知ったような、親近感をも抱かされていた。

その理由は、とっても単純。

私は魔法少女になる以前の、この気配の持ち主の事を、良く知っていたからだったのだ。

548: 2015/03/06(金) 21:43:47.75
ほむら 「なぜ、あなたがその姿で、ここにいるの!?」

? 「・・・」


私は、昨日も教室で話を交わしたばかりの。

あくまでも、私にとっては友人の一人という立ち位置に過ぎなかったはずの。

そんな、彼女の名を叫ぶ。


ほむら 「・・・志筑仁美!!」

仁美 「・・・」

549: 2015/03/06(金) 21:46:21.02

・・・
・・・


キュウべぇ 「志筑仁美。君の願いを叶えるのと引き換えに、君には魔法少女として魔女と戦ってもらうことになるけれど、それで良いんだね?」

仁美 「ええ。説明は織莉子さんからも聞きましたし、承知しましたわ」

キュウべぇ 「では、君はどんな願いで、その魂を輝かすのかい?」

仁美 「私の願いは・・・」


仁美 「                 」


織莉子 「・・・え?」

キュウべぇ 「・・・僕は、願いの内容に関しては干渉しない事にしているんだ。何を望むかは、君たち自身の問題なのだからね」

仁美 「・・・」

キュウべぇ 「だけれど、願いの強さは魔法少女の力量にも直接かかわってくる以上、敢えてもう一度だけ、聞かせてもらうよ」

仁美 「ええ」

キュウべぇ 「本当に、その望みが君の命を懸けるにふさわしい願い、なんだね?」

仁美 「間違いありまぜんわ。これは私が私らしくあるために、何よりふさわしい願い」

織莉子 「仁美さん、あなた・・・」


仁美 「この願いが叶うなら、私はこの命が尽きるとも、本望なのですわ」

550: 2015/03/06(金) 21:48:56.99
・・・
・・・


仁美 「なぜって・・・それは・・・暁美さん」

ほむら 「・・・」

仁美 「あなたも魔法少女だったと知って、今は驚いていますけれど、でも、だからこそ、あなたも分かっているんでしょう?」

ほむら 「なにを言ってるの・・・?」

仁美 「私が魔法少女として、なぜここにいるか。その理由なんて、とっても単純にして、明快」

ほむら 「・・・」

竜馬 「・・・」


仁美 「私が、私として、私らしくあるために、ですわ!」

551: 2015/03/06(金) 21:55:07.34
・・・
・・・


次回予告


魔法少女として、ほむらの前に姿を現した志筑仁美。

その背後には、彼女の運命の糸を操ろうとする、美国織莉子の影が見え隠れしていた。

一方そのころ、自宅療養中のマミと、見舞いに訪れたまどかへと忍び寄る、一つの影があった。

いよいよ満を持し、活動を開始した織莉子一党。

彼女たちがゲッターロボに向ける想いとは、いったい如何なる事なのか。


次回 ほむら「ゲッターロボ!」第七話にテレビスイッチオン!

552: 2015/03/06(金) 21:57:10.89
以上で第6話終了です。

もしよろしければ、次回もお付き合いいただけたら嬉しく思います。

553: 2015/03/06(金) 22:08:31.78
乙です

554: 2015/03/06(金) 23:36:58.73

仁美ちゃん、やってしまいましたなぁ

引用元: ほむら「ゲッターロボ!」 第三話