561: 2015/04/13(月) 19:39:01.49
ほむら「ゲッターロボ!」 第七話


ほむら「ゲッターロボ!」 第六話
562: 2015/04/13(月) 19:39:53.99
まどかは途方にくれながら、夕暮れに沈む街を一人、とぼとぼと歩いていた。

大切な友達が行方知れずなのに、じっとなんてしていられない。

そんな思いに突き動かされ、まどかは街へと繰り出していた。

向うは、仁美とよく立ち寄った場所の数々。


まどか 「仁美ちゃん・・・仁美ちゃんっ・・・!」


一緒にポテトをつつき合ったファーストフード店。

お気に入りのアクセサリーを探して回った、雑貨屋。

学校帰り、別れるのが惜しくて、暗くなるまでおしゃべりに花を咲かせた小さな公園。


まどかは思いつく限りの場所へと、足を運んだ。

そして、探す。なじみの深い、見慣れた、あの優しい笑顔の友人を。
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563: 2015/04/13(月) 19:41:12.93
だけれど・・・


まどか 「仁美ちゃん・・・」


毎日、学校に行きさえすれば見る事のできた、あの笑顔が。

今日は、どこを探しても見つけることができない。


まどか 「いったい、どこに行っちゃったの・・・」


まもなく日も落ちる。

まどかには、これ以上の心当たりは思いつかなかった。

564: 2015/04/13(月) 19:42:01.28
まどか 「・・・」


次第に闇色に染められつつある空を見ていると、考えたくもないのに嫌な方へ嫌な方へと、心が支配されそうになってしまう。

思い浮かぶのは、最悪の可能性の事ばかり。


まどか 「仁美ちゃんに限って、家出なんて考えられないし。仁美ちゃんしっかりしてるから、何かがあったらすぐにお家に連絡入れるだろうし・・・」


それができない状況に、巻き込まれている・・・?


まどか 「まさか・・・」


まどかの心が恐怖に震える。


まどか 「仁美ちゃん、もしかして魔女に・・・」


考えたくはなかった。が、そうだとすれば・・・

連絡が取れないのも、行方が分からないのも、すべての辻褄があってしまう。

565: 2015/04/13(月) 19:43:54.81
まどか 「・・・っ!」


たまらず、まどかは駆け出した。

なんとか、なんとかしないと!

だけれど、そのなんとかが分からない。

ほむらは言っていた。まどかは普段通りにしていろと。

だけれど、大切な友達の安否が定かでないのに、安穏としていられるようなまどかではなかった。


まどか 「・・・あっ!」


ふ、と。

まどかの脳裏に、ある人の姿が思い浮かぶ。

あの人なら、あの人だったら力を貸してくれる。そうに違いない!


まどか 「うんっ・・・!」


自分が次になすべきこと。

そのことを見据えたまどかは、一路、思い浮かべた人が住む場所へと、行き先を定めたのだった。

566: 2015/04/13(月) 19:48:31.37
まどか 「マミさん・・・!」


巴マミ。


まどか 「マミさん、マミさんっ・・・!」


彼女はここ一週間ほど、学校を欠席していた。

たちの悪い風邪にかかった。

まどかは、そう聞かされていた。

そんなマミから、数日前にメールが来ていたのだ。


「間もなく登校できそうです。学校で会ったら、よろしくね」


まどか (マミさん・・・!)


マミなら、話を聞いてくれる。

もし本当に仁美が魔女がらみの事件に巻き込まれているのなら、きっと力を貸してくれる。

仁美を助けてくれるだろう。

そんなマミに対する絶対的な信頼が、まどかの足を彼女の元へと向かわせてたのだ。


まどか (マミさん、マミさん助けて!)


? 「・・・」

567: 2015/04/13(月) 19:50:14.29
・・・
・・・


魔女の結界の中で。

私と竜馬は、一人の少女と対峙していた。

まどかとさやかのクラスメイト。

私の新しい友人。

昨日の下校時間に行方不明となった、話題の渦中にある人。


そんな彼女が、思いもかけない姿で私たちの前に姿を現したのだ。


ほむら 「志筑、さん・・・あなた・・・」

仁美 「・・・」


予想だにできなかった。

理解なんか、尚の事できなかった。


ほむら 「なぜ、あなたがその姿で、ここにいるの!?」


私は、今の私の疑問をそのまま、言葉に乗せて投げつける。

意味が解らなかった。

568: 2015/04/13(月) 19:51:17.76
仁美 「なぜって・・・決まっているでしょう」

ほむら 「・・・」

仁美 「私が、私として、私らしくあるために、ですわ!」

ほむら 「志筑さん・・・」


仁美の決然とした言い切りに、私は次の句を失ってしまう。

今の彼女からは、それ以上の問いかけを許さない。

そんな凄味が滲み出していたのだ。


・・・程なくして。

主をなくした魔女の結界は崩壊をはじめ、私たち3人は通常の空間へと吐き出された。

場所は、元の路地裏。


仁美 「暁美さん、変身を解いたらいかがです?いくら人通りが少ない路地とはいえ、誰かに見られたら目立ちますわよ」


いつの間にか普段の制服姿に戻っていた仁美が、涼しい顔で忠告してきた。


ほむら 「・・・」


私は言われたとおり変身を解くと、次から次へと湧き上がる疑問をひとまず心のうちにしまうことにした。

まずは優先するべきことがある。他の事は、それが済んでからだ。

569: 2015/04/13(月) 19:53:20.75
ほむら 「志筑さん。ひとまず、お家の方と学校に連絡を。無事な姿を見せてあげて。みんな、心配してるわ」


そう、まどかが心配している。

先のことはどうあれ、ひとまず今は仁美が無事であったこと。

その事を一刻も早く知らせ、彼女を安心させてあげたかった。

だけれど・・・


仁美 「それなのですけど・・・」


私の気持ちなどお構いなしに、仁美がもったいぶりながら言う。


仁美 「私、これから忙しくなりますの。いま連絡をしたところで、引き続き心配させてしまうだけだと思いますし・・・」

ほむら 「・・・え?」

仁美 「するべきことが終わったら、後始末は然るべく行いますわ。ですから、暁美さん。口出しは無用です」

ほむら 「なっ・・・」


なに、その言い方は・・・!

まるで他人事な言い様に、私は全身の血が逆流するのを感じた。

570: 2015/04/13(月) 19:55:20.19
口出しは無用ですって?ふざけたことを!


ほむら 「あなたがいなくなって、いったいどれだけの人に心配をかけているのか、わかっているの!?」


まどかの心を、どれほど痛めつけているのかを!


ほむら 「あなたが今、優先するべきなのは!心配している人たちを安心させることよっ!」

仁美 「・・・」


だけれど、私の叫びにも、仁美は表情を崩さない。


仁美 「・・・これ以上の問答は無駄。言ったでしょう、私は忙しいと」

ほむら 「あなたはっ」


仁美を想い、その瞳いっぱいに涙を浮かべながら、顔を曇らせていたまどかの姿が、私の脳裏に蘇る。

まどかを・・・私の大切な人を、あそこまで心配させておいて、どうして涼しい顔をしていられるのか!


ほむら 「志筑仁美っ!」

571: 2015/04/13(月) 19:56:37.52
竜馬 「待て、暁美」


今にも飛びかからん勢いの私を制するように、竜馬が一歩、前へ出る。


志筑 「流さん・・・」

竜馬 「志筑、お前、その口ぶり・・・言いくるめられているな」

ほむら 「え・・・?」

竜馬 「誰に、何を吹き込まれた?」

仁美 「吹き込まれたとは、人聞きの悪い。私は自分の判断で、良かれと思ったことを行動していますのよ」

ほむら 「それって、まさか・・・美国織莉子・・・?」

仁美 「あら・・・」


意外といった風に、私を見る仁美。

その表情だけで、答えは明白だった。


ほむら 「どうして・・・」

仁美 「・・・ごきげんよう」


これ以上、ここにいても益が無いとふんだのか。

仁美はきびすを返すと、路地の奥へと歩み去ろうと、その場を歩き去った。


ほむら 「あ、待って!」


慌てて引き留めようと、後を追う私たち。

だけれど・・・

仁美の後に続いて路地の角を曲がった私の目の前には、一枚の壁が行方を塞いでいるのみ。


ほむら 「行き止まり・・・」


撒かれてしまったのだ。

572: 2015/04/13(月) 19:59:55.95
・・・
・・・


路地を抜けた私たちは、仕方がなく当初の目的地だった公園へと足を向けた。

今ごろ公園では、連絡もなく待ちぼうけを食らわされている杏子が、イライラしながら私たちの訪れを待っていることだろう。

だけれど今は、杏子の苛立ちにまで気を配ってあげるほどの余裕はない。


仁美はなぜ、魔法少女になろうとしたのだろう。

美国織莉子とは、どのように知り合ったのか。

なにより、なぜ仁美が魔法少女になることができたのか・・・


次々と湧き上がる疑問に、思考を塞がれてしまっていたから。


竜馬 「おい」


そんな私の思索を断ち切るような無遠慮さで、隣を歩く竜馬が声をかけてきた。


573: 2015/04/13(月) 20:00:41.29
ほむら 「なに?」

竜馬 「暁美・・・どうして、志筑から目を離していた?」

ほむら 「え、どういうこと?」

竜馬 「鹿目のためにもと、美樹にはあれほど気を配っていたお前が、なぜ志筑の事はノーマークだったんだ?」

ほむら 「リョウ・・・」

竜馬 「なぜ、教えてくれなかったんだ。あいつも魔法少女になる恐れがあるという事を」


そういうこと・・・

確かに、この時間軸での志筑仁美しか知らない竜馬にとっては、それはもっともな疑問だった。

だけれどこの件に関しては、私だって竜馬と、そう立場は変わらない。

だから、私はかぶりを振って答える。


ほむら 「そうじゃないの、リョウ・・・彼女は、志筑仁美は・・・」

竜馬 「・・・?」

574: 2015/04/13(月) 20:03:05.39
・・・志筑仁美。

関わり合いこそ少なかったものの、私はあまたの時間軸で彼女を間近で見てきた。

それは仁美が、私が守るべき人、鹿目まどかと近しい友人であったから。

ゆえに、知っている。


ほむら 「私の知っている志筑仁美には、魔法少女としての適性なんて、ありはしなかった」


その事実を。


竜馬 「なに・・・?」


そう、それは間違いがない。

だって、まどかに付きまとっていたキュウべぇが側にいた時にだって、仁美には奴の姿が見えてはいなかったのだ。

魔法少女の適性を測る、一番のバロメーターはキュウべぇその物。

適性の無い者には、キュウべぇの存在を感じることができないのだから。

575: 2015/04/13(月) 20:04:06.00
竜馬 「しかし現に、志筑は魔法少女として俺たちの前に現れた・・・お前の言う事が真実なら、これはいったいどういう事なんだ?」

ほむら 「分からない、私が聞きたいくらいよ」

竜馬 「そうか・・・だったら、聞いてみればいいんじゃねぇか」

ほむら 「そうね」


私たちは後ろを振り返る。

・・・こいつは、いつだって、どこにだって存在する。

”いる”と思って視線を向けた先には、たいてい奴が、なにくわぬ顔で佇んでいたりするのだ。

今だって。

奴はいつからそうしていたのか、さも当り前な顔をして、私たちの後を歩いていた。


ほむら 「・・・」

キュウべぇ 「やぁ、ほむら。こんな所で会うとは奇遇だね」


私と目があったキュウべぇが、白々しい言葉をさらに白々しい口調で吐く。

いちいち癇に障るやつだけど、今はそんなことを気にしている時じゃない。


ほむら 「聞きたいことがある。杏子も交えて話がしたいわ。このままついて来て」

576: 2015/04/13(月) 20:06:18.43
・・・
・・・


マミ兄妹が住むマンションの部屋の前。

チャイムを鳴らしたまどかの前に姿を現したのは、兄である武蔵だった。


武蔵 「あれ、君は確か・・・」

まどか 「こ、こんばんわっ」


まどかがぴょこんと、頭を下げる。

扉を開けて、意外な訪問者を笑顔で迎えた武蔵だったが・・・


まどか 「鹿目まどかです。こんな時間に、突然すみません」


顔を上げたまどかを見て、その表情からすぐに、何事かが起こったであろうことを察したのだった。


武蔵 「どうしたんだい、まどかちゃん」

まどか 「じつは、マミさんにお話というか・・・お願いがあって。あの、マミさんのお風邪って、もう治ったんですか?」

武蔵 「・・・」

まどか 「?」

577: 2015/04/13(月) 20:07:51.21
武蔵 「少し、玄関で待っていてくれるかな。マミちゃんが起きてるかどうか、見てくるから」

まどか 「あ、はい。お願いします」


再び頭を下げたまどかを残し、武蔵は部屋の奥へと消えていった。


まどか 「マミさん、寝てたのか・・・やっぱりお風邪、治りきっていないのかな」


不安げに呟くまどか。あくまで独り言だったのだが・・・


? 「そうか。それは心配だよね」


予期せぬ返事があって、彼女は飛び上がらんばかりに驚いた。

慌てて声のした背後を振り返ると、そこには・・・


? 「やぁ、こんばんわ」


いつから、そこにいたのだろう。

見知らぬ少女が一人、自分と一緒に玄関の内に立っていたのだ。

578: 2015/04/13(月) 20:09:15.89
まどか 「え、え・・・いつの間に・・・ていうか、だ、誰・・・!?」

? 「ああ、ごめんごめん。驚かせたみたいだね。私は呉キリカ。君は?」


まどか 「あのっ、か、鹿目・・・鹿目まどか・・・です・・・」

キリカ 「まどかか。良い名前だね。まぁ、私が知っている、もっとも良い名前の人には、若干かなわないけれど」

まどか 「・・・」

キリカ 「私は巴マミの知り合いだよ。今日はちょっと用事があって、ここまで来たんだよね」

まどか 「あ、あー・・・そうだったんですか。びっくりしたぁ」


疑うことを知らないまどかは、キリカの一言で納得して笑顔を浮かべた。


キリカ (ま。知り合いって言うのは”未来形”だけれどね)


キリカが呟いた一言は、まどかの耳にまでは届かなかった。


まどか 「今、マミさんのお兄さんが、マミさんが起きてるかどうか見に行ってますよ」

キリカ 「うん、じゃあ、一緒に待とうか」

まどか 「はい・・・えっと、あの・・・、一つ聞いても良いですか?」

キリカ 「なにかな」

まどか 「どうして真冬でもないのに、コート着てるんですか?暑くないのかな・・・」

キリカ 「あー・・・単なるファッションだから、気にしないで良いよ。それに、見た目ほど暑くないしね」

まどか 「そうなんですかぁ」


キリカ (くふふ・・・素直な子だなぁ)

579: 2015/04/13(月) 20:13:10.02
・・・
・・・


マミの部屋


マミ 「え、鹿目さんが?」


武蔵からまどかの訪れを聞いたマミが、笑顔で顔を輝かせる。


武蔵 「会うかい?なにか、思い悩んでいる雰囲気だったけれど」

マミ 「もちろんよ。せっかく訪ねて来てくれた後輩を、追い返す事なんてできないでしょ」


言い切って、にっこりとほほ笑むマミ。

・・・長かったな。

マミの笑顔を感慨深げに見ながら、武蔵は思う。

長いといっても、実際の時間にしたら一週間程度でしかなかった。

だけれど武蔵には、現実以上の時間が、自分たち兄弟の間で流れていたことを実感していた。

580: 2015/04/13(月) 20:18:52.93
あの日。

マミがほむら達から真実を聞かされて、自暴自棄となった時から。

自分の運命を聞かされたマミが、今まで信じてきた生き方を突き崩されたのと同じように。

武蔵もまた。

新たな生き方。いまの自分が本当に守るべき物は何なのか、を悟らされた。

その事を噛みしめ、肯定し、受け入れる。

その事のみに費やした、とても密度の濃い一週間だったのだ。


武蔵 「じゃ、まどかちゃんを呼んでくるよ」

マミ 「ううん、いいわ。私が出迎える。だって可愛い、後輩なんだもの」


にっこり笑ったマミが、武蔵の前に立って部屋を出ていった。

マミの後姿を見て、武蔵は確信する。

俺たち兄妹は、もう大丈夫だ。この世界で、しっかりと生きていける、と。

ただ唯一、気がかりなこともある。

彼の戦友にして、背中を預けあってきた仲間に、自分の決意をどう説明するのか・・・


武蔵 (明日にでも、リョウに全てを話に行こう)


武蔵は心に決めた。

そして、確信する。

あいつだったら、俺の心を理解してくれるに違いない、と。

581: 2015/04/13(月) 20:20:40.95
・・・
・・・


公園


杏子 「あ、やっと来やがった!」


ベンチに腰を下ろしていた杏子が、私たちの姿を見つけて、眠気を押し頃した顔で食ってかかってきた。


杏子 「お前らな、いったいあたし等をどれだけ待たせれば気がすむのさ!」


そういう杏子の膝の上には、スヤスヤと寝息を立てている、ゆまの姿があった。

中学校からこの公園まで直接くる予定だった私たちに代わって、杏子が連れて来てくれていたのだ。


杏子 「見ろ。ゆまも待ちくたびれて、すっかり熟睡モードだ。邪魔くさいったら、ありゃしないぜ」


邪険に扱うそぶりを見せながらも、杏子はゆまの面倒を何くれとなく見てくれている。

口ではどうこう言ってはいても、やはり幼いゆまの事が気になって、捨ててはおけないのだろう。

杏子のこういう面倒見の良さは、どれだけの時間軸を隔てようとも、変わることはなかった。

582: 2015/04/13(月) 20:21:54.52
ほむら 「ごめんなさいね、佐倉さん。だけれど、それどころじゃなかったのよ」

杏子 「それどころじゃないって、いったい・・・あ」


ここで初めて、杏子は私たちの後をヒョコヒョコついて来た、あいつの存在に気が付いたのだった。


キュウべぇ 「やぁ、杏子」

杏子 「キュウべぇ・・・て、おい。いったい何があったんだ?」


この組み合わせに、ただならないものを感じ取った杏子が、詰め寄るように訪ねてくる。


ほむら 「・・・新しい魔法少女と会ったわ」

杏子 「・・・へぇ、そうかい」


杏子がギ口リと鋭い目で、キュウべぇをにらみつける。

583: 2015/04/13(月) 20:22:45.79
もっとも、どんな視線もどこ吹く風のキュウべぇは、まったく意に介さずノホホンほほんとした態度を崩さないけれど。


キュウべぇ 「なんだい、杏子」

杏子 「やっぱり見滝原でも、何やら企んでるようだな、お前。風見野でみたいに、ここをバーゲン品で溢れさせるつもりかよ」

キュウべぇ 「僕にも考えがあってやってることなんでね、企むとか人聞きが悪い言い方はやめてほしいな」

杏子 「ほざくなよ。お前は聞かれたことだけ答えりゃいいんだよ」

キュウべぇ 「まぁ・・・今日、ほむら達が会った魔法少女は、バーゲン品なんかじゃなかったけれどね」

杏子 「あん?」

ほむら 「・・・」

キュウべぇ 「予想もしなかったんだよ。あの子があそこまで有能だったなんてね。バーゲン品の山から見つけ出された、そうだね、言うなれば・・・」


キュウべぇ 「彼女の事は掘り出し物、と呼ぶべきだよね」


ほむら 「・・・っ!!」


私の友人を、物みたいに!

思わず銃を引き抜き、奴の脳天に風穴を開けてやりたい衝動に襲われる。

584: 2015/04/13(月) 20:23:45.77
だけれど・・・


竜馬 「落ち着け」

ほむら 「わ、わかってるわ、リョウ・・・」


竜馬に制されるまでもなく、分かってはいる。

ここでこいつ一匹頃したところで、まったく意味がないなんてことくらい。


杏子 「掘り出し物って、どういう意味だよ」

ほむら 「さっき会った魔法少女の名前は、志筑仁美・・・」

杏子 「え・・・?」

ほむら 「私やまどかのクラスメイトよ」

杏子 「な・・・」


一瞬絶句した後、疑問に満ちたまなざしを私に向けてくる杏子。

なにを言いたいのかは、手に取るようにわかった。

だって、少し前の竜馬と同じ顔をしているのだもの。

だから私も、竜馬にしたのと同じ説明を繰り返し、杏子に聞かせる。

585: 2015/04/13(月) 20:25:42.13
杏子 「適性がなかったのに、魔法少女に?そんなことがあり得るのか?」

ほむら 「ありえないから、驚いているのよ。それで、こいつに納得のいく答えを聞かせてもらおうと思って、ね」

竜馬 「ここまで連れてきたってわけだ」


三人の視線が一つに交わり、キュウべぇへと注がれる。


キュウべぇ 「ああ・・・、どうして志筑仁美に適性がないと言い切るのかと思ったら、暁美ほむら。君は・・・」

ほむら 「・・・」

キュウべぇ 「この時間軸の人間ではなかったんだね」

ほむら 「・・・白々しい」


私は今回の時間軸では、仲間たちに別の時間軸から来たことを秘密にしていない。

で、あれば。

どこにでも存在できるキュウべぇが、私たちの会話を通して、この事を知らないはずなどないのだ。

586: 2015/04/13(月) 20:26:34.99
キュウべぇ 「で、君がどれほどの時間を遡行してきたのかは知らないけれど、いずれの時間軸においても、志筑仁美が魔法少女となることはなかった。そう言うんだね」

ほむら 「それだけじゃない。さっきも言ったけれど、志筑仁美はお前を認識できていなかった。それはつまり、適性を持たないことの何よりの証拠」


だから、仁美のことはノーチェックだったのだ。


キュウべぇ 「・・・なるほどねぇ。ところでほむら」

ほむら 「・・・なに?」

キュウべぇ 「魔法少女の適性って、どうやって決まっていると思うかい?」

ほむら 「・・・え?」

キュウべぇ 「今までの時間軸において、君が見てきた志筑仁美には適性がなかった。その観察眼は正しいよ。僕も従来通りであるなら、彼女に声などかけはしなかっただろうから」

ほむら 「ど、どういうこと?」

キュウべぇ 「僕はね、今。この星に来て初めて、計画の立て直しに迫られているんだよ。僕の目的も、暁美ほむら。君は知っているんだろう?」

ほむら 「私たち魔法少女が絶望し、魔女になる際に発せられるエネルギーを回収すること・・・」

キュウべぇ 「そう・・・」


奴の話は続く・・・

587: 2015/04/13(月) 20:28:20.21
・・・
・・・


この宇宙を存続させるためのエネルギーを入手すること。それこそが、僕たちの唯一にして最大の目的だ。

だから、そのためにエネルギーの元となる魔法少女には、それなりに素質がある子を選ばなくては、効率が悪い。

なぜなら、せっかく魔法少女になってくれても、魔女となる前に戦氏されてしまっては、エネルギーを回収し損ねてしまう事になるからね。

君たち魔法少女には、程よく成長してもらって・・・

そして、程よく絶望してもらわなければ困るんだよ。


と、なると。


魔法少女となるべき人材は限られてくるよね。

実際、君たちや鹿目まどか、美樹さやかほどの素質を持った少女は、なかなかレアな存在なんだ。

誇って良いことだよ。

588: 2015/04/13(月) 20:29:33.55
・・・
・・・


杏子 「まだるっこしいな。イライラしてくる・・・」

ほむら 「まったくだわ。ねぇ、お前。いったい、何が言いたいの?」

キュウべぇ 「分からないかな」


キュウべぇが、やれやれとでも言うように首を振った。


キュウべぇ 「つまり、資質にさほど拘らなければ、魔法少女のなりては幾らでもいるという事だよ」

ほむら 「え・・・」


投げつけられたのは、予想外の言葉だった。

どういうこと?

理解ができない。


ほむら 「それって、どういう・・・意味・・・?」

キュウべぇ 「どうしたんだい、暁美ほむら。やけに察しが悪いじゃないか。君はもっと、頭の良い子だと思っていたんだけれど・・・」


おそらく・・・

私も本当は、奴の言うことを理解している。

だけれど、拒むのだ。

私の心が。

キュウべぇの言うことを認められない、信じたくない、と。

589: 2015/04/13(月) 20:30:59.07
しかし・・・


竜馬 「なるほど、質より量・・・て、わけか」

キュウべぇ 「一歩引いた立場の君は、さすがに冷静だね。そう、竜馬の言う通りだよ」

ほむら 「・・・っ!」


竜馬の言葉が、私の心に、受け入れがたい事柄が事実であることを認めさせてしまった。


キュウべぇ 「僕はね、計画を立て直すにあたって、今までの方針を転換させることにしたんだ」


それは、キュウべぇのさじ加減ひとつで、魔法少女になれるもなれないも決まってしまうという・・・


キュウべぇ 「今の僕にとって重要なのは、魔法少女の絶対数を増やすこと。それこそが、もっとも効率の良い方法へと変わったんでね」


厳然たる事実・・・!


キュウべぇ 「引き下げたんだよ、基準を。志筑仁美程度の資質でも、僕の存在を感じ取れるようにね」


ほむら 「こ、こいつ・・・!」

594: 2015/04/14(火) 22:30:35.67
・・・私は、見てきたのだ。

たくさんの少女たちが、魔法少女となって人生を狂わせた、そのなれの果てを。

その陰では、どれほどの涙が流されてきたのかも、私は知っていた。

だけれどそれは、資質を持った者がキュウべぇの甘言に踊らされた結果でもある、と。

あくまでも、自業自得であると。

そう思えればこそ、冷徹に自分を保つこともできていたのに・・・!


ほむら 「お前はいったい、どこまで私たちの命を弄べば気が済むの!?」

キュウべぇ 「・・・ほむら。君は何を怒っているのかい?まったく意味が分からないよ」

595: 2015/04/14(火) 22:31:46.68
ほむら 「けっきょく、魔法少女になるもならないも、全部がお前の手の平の上だったって、そういうわけね!?」

キュウべぇ 「それは責任転嫁が過ぎるんじゃないかな。僕は一度だって、強制的に契約を結んだことなんてないよ」

ほむら 「結ぶように、事を運んできたんじゃない!いま聞いた、資質の事だって・・・」

キュウべぇ 「選択の幅を広げただけさ」

ほむら 「・・・っ」ぎりっ


抑えがたい口惜しさから、私は無意識に唇を噛んでいた。

たちまち口の中に、生暖かい鉄の味が広がる。


キュウべぇ 「もっとも、さっきも言ったけれど、志筑仁美は嬉しい誤算だった」


口に入りきらなかった血は滴となって、足元にポタリポタリと滴り落ちていった。

だけれどキュウべぇは、私の様子などには、お構いなしに話しを続けている。

奴にとっては、私の憤りも、腸が煮えくり返るほどの怒りも、その他のどんな感情も・・・


キュウべぇ 「知っての通り、魔法少女の強さは、もともとの資質プラス、どのような願いでソウルジェムを輝かしたのか。その二点で決まる・・・」


指先ほどの興味も持ってはいないのだろう。

596: 2015/04/14(火) 22:33:03.12
キュウべぇ 「よほど想いが深かったのだろうね。資質面では大きく劣る仁美だけれど、想いの力だけで君たちにも迫る力を持つに至った」

ほむら (こいつ、頃してやろうか・・・)


胸に湧き上がってきた、先ほどとは比べ物にならないほどの、純粋な殺意。

目の前のこいつを頃したところで、何の意味もない。

そんな、理性では十分に理解している事実を、私の感情が否定する。

理屈なんか、どうでも良かった。今はただ、キュウべぇを血の海に沈めてやりたい。

刹那的な衝動に突き動かされるように、奴に向かって一歩を踏み出そうとした、その時。


ポン・・・と。


不意に肩を叩かれ、私はすんでのところで我に戻された。

597: 2015/04/14(火) 22:34:44.52
叩かれた肩越しに後ろを向くと、そこはいつの間にやってきたのだろう。

杏子が、複雑な表情で私を見ていた。


ほむら 「あ・・・」


呟く私に、杏子はただ首を横に振るのみ。


ゆま 「え・・・あれ・・・」


ベンチでは、いきなり膝枕を失ったゆまが、目覚めたばかりの寝ぼけ眼で、こちらを見ている。


ゆま 「きょーこ・・・あれ・・・あれぇ、どうしたの・・・?」

杏子 「なんでもねぇ。お前はそこで、少しおとなしく待ってろ」

ゆま 「う、うん・・・」

ほむら 「佐倉さん・・・」

598: 2015/04/14(火) 22:35:49.73
杏子 「ゆまの前で無茶をするなと、あたしを諭したあんたが、我を忘れてどうするのさ」


ちょっと、キュウべぇと話をさせろ。

そう言った杏子は、私の前に出てキュウべぇと対峙する形となった。


杏子 「今日、ずっと考えていた疑問が一つ解けたぜ。おかげで多少、すっきりした」

キュウべぇ 「へぇ、それはどんなことを考えていたんだい?」

杏子 「あたしは風見野で、何人かの魔法少女の氏にざまを見せられた。その中には、ちんけな使い魔に、なすすべなくやられちゃった奴もいてさ」

キュウべぇ 「・・・」

杏子 「ろくな資質もないやつを、何のサポートもなしに魔女の巣穴に放り込めば、ああなるのも当然だ。お前も酷なことをするよな」

キュウべぇ 「その頃は、まだ僕の計画の”実行者”が決まっていなかったのでね。増やした魔法少女を糾合できなかったのさ。やむを得ないよ」

竜馬 「その実行者とやらを、俺にやらせようとしたんだな。で、断った俺の代わりにお鉢が回ったのが、美国織莉子だった・・・」

キュウべぇ 「さぁ・・・」

599: 2015/04/14(火) 22:36:39.83
杏子 「まぁ、良い。それで志筑って奴だけれど。想いの力だけで、私たちに迫る力を身に着けた・・・そう言ったな」

キュウべぇ 「そうだよ、杏子」

杏子 「だから言ったのかい、彼女は掘り出し物だったと、さ」

キュウべぇ 「そうさ。仁美は、そこいらのバーゲン品とはわけが違う」

杏子 「だったらさ、一つ聞きたい。いったいどんな願いを叶えれば、そんな力が得られるって言うんだ?」

キュウべぇ 「そこはプライバシーの問題があるから、本来は教えられないのだけれど・・・」

杏子 「もったいぶってるんじゃねーよ。お前にとって、あたしたちのプライバシーなんか、知ったこっちゃないんだろう?」

キュウべぇ 「そういうわけでもないけれどね。だけれど、ま、良いか。特にほむらは仁美を本気で心配しているようだしね」

ほむら 「・・・」

キュウべぇ 「仁美と契約を交わしたのは、昨日のこと・・・」

600: 2015/04/14(火) 22:38:12.14
・・・
・・・


キュウべぇ 「志筑仁美。君の願いを叶えるのと引き換えに、君には魔法少女として魔女と戦ってもらうことになるけれど、それで良いんだね?」

仁美 「ええ。説明は織莉子さんからも聞きましたし、承知しましたわ」

キュウべぇ 「では、君はどんな願いで、その魂を輝かすのかい?」

仁美 「私の願いは・・・」


仁美 「私のお友達、美樹さやかさんと上条恭介くんが、この先も末永くお付き合いを続け、いつまでも二人で幸せに過ごしていくこと・・・」                 」


織莉子 「・・・え?」

仁美 「ですわ」

織莉子 「仁美さん、あなた・・・」

キュウべぇ 「・・・僕は、願いの内容に関しては干渉しない事にしているんだ。何を望むかは、君たち自身の問題なのだからね」

仁美 「・・・」

キュウべぇ 「だけれど、願いの強さは魔法少女の力量にも直接かかわってくる以上、敢えてもう一度だけ、聞かせてもらうよ」

仁美 「ええ」

キュウべぇ 「本当に、その望みが君の命を懸けるにふさわしい願い、なんだね?」

仁美 「間違いありまぜんわ」

601: 2015/04/14(火) 22:39:36.77
キュウべぇ 「もし君が望むのなら、君自身が上条恭介と添い遂げることも可能なんだよ?」

仁美 「そんなことを望んで、いったい何の意義がありますの?」

織莉子 「自分の恋情よりも、友情を取ろうというのかしら?その気持ち、とても美しいとは思うけれど、でも・・・」

仁美 「そうじゃありませんわ」

織莉子 「では、どういった意味なの?」

仁美 「・・・さやかさんが上条君の心の隙間を埋めて差し上げた。その時点で、私の失恋は確定なんです。それを魔法の力で覆そうなんて、そんなの私の美意識が許しませんわ」

織莉子 「・・・」

仁美 「だけれど・・・!」

織莉子 「・・・っ!?」

602: 2015/04/14(火) 22:40:32.70
だけれど、この先。もし、もしも!

万が一、お二人が破局して・・・

上条君が他の方と、お付き合いするようなことにでもなったら・・・

それだけは、絶対に認められませんわ!


私が負けを認めたのは、さやかさんだけ。

上条君が、他の方と契るような事でもあれば、私は二重に負けてしまうことになる。

認められない、そんなの認められるわけがない!


だから、お二人には終生まで添い遂げてもらわなければならないのです。

故に。

これは友情からくる願いなんかでは、決してありません。

どこまでも自分のための、利己的で身勝手な願い、なのですわ。

603: 2015/04/14(火) 22:41:32.54
織莉子 「あ、あなたは・・・」

仁美 「そ・れ・に・・・」

織莉子 「・・・?」


それに、近い将来。

お二人が正式にお付き合いを続ければ、ほどなく男女の関係となるでしょう?

その先に迎えるであろう、結婚。さらには出産、子育て・・・最終的には、神の御許に召されるまで。


仁美 「お二人の幸せな人生のイベントの節目には、私の願いが必ず介在することとなる・・・うふふっ」

織莉子 (ぞくっ)

仁美 「もし私が氏んでしまったとしても、私の想いは永久に消えず、お二人の人生とともに生き続けるんですのよ。素晴らしい、これはとても素晴らしいことなのですわ」

キュウべぇ 「・・・」

仁美 「ね、あなた方も、そう思うでしょう?こんな素晴らしい願い事、他にはありませんわ」

キュウべぇ 「・・・君の気持ちはわかったよ。では、その願いで、君のソウルジェムを輝かせるとしよう」

仁美 「ええ。これが私が私らしくあるために、何よりふさわしい願いなのですから・・・!」

604: 2015/04/14(火) 22:42:52.10
・・・
・・・


キュウべぇ 「これが仁美が望んだ願いさ。まったくもって、僕には理解できない内容だけれどね」

ほむら 「・・・」


キュウべぇの話を聞き終えた私は、言葉を失ってしまった。

あの子がまどかやさやか達の前で見せる笑顔の影で、そこまで懊悩していただなんて。

私、全然気が付いてあげられなかった。


キュウべぇ 「この時、そばにはもう一人、魔法少女がいたんだけれど・・・」

杏子 「美国織莉子だな」

キュウべぇ 「そう。この時ばかりは、珍しく彼女とも意見が合ってね。織莉子にも、仁美の願いは理解の範疇に収まらなかったらしい」

杏子 「へぇ、織莉子はなんて言っていたんだ?」

キュウべぇ 「女の執念は恐ろしいって」

ほむら 「・・・」

キュウべぇ 「そういうものなのかい?」

杏子 「知るかよ。あたしは分かってやれるほど、人を好きになったことがねぇ」

605: 2015/04/14(火) 22:43:52.67
キュウべぇ 「では、君はどうだい?暁美ほむら」

ほむら 「・・・」

竜馬 「暁美・・・大丈夫か?」

ほむら 「リョ、リョウ・・・」


私には分かる。

分かってあげられる。

仁美たちの立場を私とまどかに置き換えれば、簡単なことだった。

なのに、なのに私は・・・


ほむら 「また、また・・・また、私は理解してあげられなかった・・・」


私はどこまで、鈍感で人の心を見ることができないのだろう。


竜馬 「・・・」

606: 2015/04/14(火) 22:45:55.59

・・・
・・・


その後。

もう、魔女退治なんて心境ではなかった。

今日はもう、引き上げよう。

そう決まった私たちは、キュウべぇをその場に残して帰路へと就いた。

この後は、解散するのか、どうするのか。

そこは何も決めていなかったけれど、何とはなしに。

みんなの足は、自然と私の部屋へと向いていた。

特に話すことはない。これからの方針といっても、やることは変わらない。

明日からはまた、ワルプルギス戦に向けてグリーフシード集めに精を出すだけだ。

だけれど、一つだけ。

私の心を重くする問題があった。

志筑仁美の事だ。

607: 2015/04/14(火) 22:46:54.59
ほむら 「志筑さんの事だけれど・・・」


横を歩くリョウに問いかける。


ほむら 「まどかに、なんて言ったらいいのかしら」

竜馬 「・・・そうだな」


言ったきり、竜馬も口をつぐんでしまう。

すぐに答えがはじき出せるような問題ではない。当然のことだった。


ほむら 「まどか、きっと今もすごく心配してる。志筑さんが無事だったと、一刻も早く教えてあげたい・・・けれど・・・」


でも、彼女が魔法少女となってしまった事実は、どう話せばいいのか。

仁美とまどかは親しい友達だ。当然、何を願ってキュウべぇと契約したのか、まどかは知りたがるだろう。

それを知った時、まどかはさやかと上条恭介に、どんな感情を抱くのだろうか。


ほむら 「きっと、まどかは悲しむだろうと思うの」


あらゆることで。

そして私と同様。いえ、私以上に仁美と親しかったまどかだもの。

友達の苦しみに気が付いてあげられなかった、自分を責めてしまうのではないだろうか。

608: 2015/04/14(火) 22:47:44.97
ほむら 「そんな想い、まどかにはして欲しくないの」

杏子 「正直に、言っちまえよ」


私の後ろをゆまと並んで歩いていた杏子が、私たちの会話に割り込んできた。


杏子 「志筑仁美とまどかは友達同士なんだろ。黙っていて、いざばれてしまったら、却ってまどかを悲しませるんじゃないか」

ほむら 「それは・・・そうかもしれない、けど」


正論だけれど、そんな簡単な問題じゃない。


竜馬 「佐倉の言う通りだが、問題は伝え方だな」

ほむら 「そうよね・・・」


答えなんか、出るわけもなかった。

609: 2015/04/14(火) 22:49:16.18
沈んだ空気が、私たち一行の足取りをいっそう重くする。

けれども、歩みを止めなければ、いずれは目的地に着いてしまうもの。

気が付けば、私のマンションは、もうすぐ目の前に迫っていた。


ゆま 「あれ?」


今まで私たちの空気を読んで、ずっと静かにしていたゆまが、久しぶりに口を開いた。

何かに気が付いたのか、キョトンとした顔で、ある一点を指さしている。


杏子 「ゆま、どうした?」

ゆま 「お部屋の前に、だれかいるよ?」

ほむら 「え・・・?」


ゆまが指をさす方、私の住む部屋の玄関に・・・

確かに人影が一つ。ぽつねんと立っていた。

610: 2015/04/14(火) 22:51:09.33
あの影、見間違うはずもない。


ほむら 「え、まどか・・・!?」


私の声が届いたのだろう。人影は顔を上げて私たちを見ると、慌てたように駆け寄ってきた。


まどか 「ほ、ほむらちゃん!」


そのまま、まろぶように私の胸へと飛び込んでくる。


まどか 「ほむらちゃん、助けて・・・!私、私!」

ほむら 「お、落ち着いて、鹿目さん。いったい何が・・・」


言いかけて、思わず言葉を飲み込む私。

私にすがり付き、子犬のように小刻みに体を震わせているまどか。

こちらを見つめる瞳は、真っ赤に充血しているし、まぶたも腫れぼったい。

間違いない、泣きはらした後の顔・・・

611: 2015/04/14(火) 22:51:44.37
ほむら (ただ事じゃない・・・)

杏子 「おー、こいつがまどかかー・・・」

ゆま 「まどかかぁー」


もの珍しそうに、初めて見るまどかに無遠慮な視線を注ぐ杏子と、そのマネをするゆま。

だけれど、今はそんな二人にかまっている場合じゃない。


ほむら 「鹿目さん、助けてって?いったい、何があったの」

まどか 「ほむらちゃん、どうしよう・・・私の、私のせいで・・・っ!」


まどか 「マミさんがっ!!」

612: 2015/04/14(火) 22:54:51.09
・・・
・・・


数時間前

マミのマンション

玄関内


マミ 「鹿目さん、お待たせ。久しぶりね、心配かけちゃってたかし・・・ら・・・」

まどか 「ま、マミさん!実は相談が、というか。助けていただきたいことがあって!」

マミ 「落ち着いて。えっと、その・・・」

キリカ 「・・・」

マミ 「?」


マミは後ろへ振り向くと、後からついてきた武蔵に小声で尋ねた。


マミ 「お兄ちゃん。訪ねてきたのは、鹿目さんだけじゃなかったの?後ろに、コート姿の変な子がいるのだけれど・・・」

武蔵 「・・・いや、俺が、マミちゃんを呼びに戻った時には、確かにここにいたのは、まどかちゃん一人だったぜ」

マミ 「・・・」


マミが再びまどかたちの方へ向き直る。

怪訝な顔で見つめていると、それに気が付いたキリカが、にっこりと笑いながら、ひらひらと手を振ってきた。


キリカ 「こんばんわ」

マミ 「こんばんわ・・・あなた、どなた?」

まどか 「え・・・!?」

613: 2015/04/14(火) 22:58:34.30
マミ 「見ない顔だけれど、鹿目さんのお友達かしら?」

まどか 「え・・・え・・・?この人、マミさんの知り合いじゃないんですか?だって、さっき、私にそう言って・・・」

キリカ 「知り合いだよ。たった今、現在進行形で、ね」

まどか 「・・・!」


不意にキリカが動いた。

羽織っていたコートが宙に舞う。

その中から現れた姿は・・・


まどか 「え・・・」

マミ 「ま、魔法少女!?」

武蔵 「なっ!!」


それは一瞬の出来事だった。

614: 2015/04/14(火) 23:00:13.24
まどか 「っ?!」

キリカ 「おーと・・・動かないでもらおうか」


鞭のように伸びたキリカのしなやかな腕が、しなるようにまどかの首へと絡みついている。

まさに刹那的に、まどかはキリカに捕えられていたのだ。


まどか 「え?な、な、なんなの・・・!?」


突然の出来事に、事態が把握できないまどか。


まどか 「は、離して・・・」


なんとか身をよじって戒めから逃れようとするが、非力な彼女があらがえる相手ではない。

むしろ、身をよじればよじるほど、絡みついた腕は、まどかの首へと深く食い込んでゆくのだ。


まどか 「ん、あぁ・・・」


気管を圧迫され、息を吸い込むことすら、ままならない。


キリカ 「ほっそい首。簡単にちぎれちゃいそう」

まどか 「くる、し・・・」

615: 2015/04/14(火) 23:01:52.80
マミ 「ちょっと、なにをやってるの!その手を放して!」

武蔵 「こいつ・・・っ!」

キリカ 「おっと、動かないでもらうよ」


(ぎりぎり・・・ぎり・・・)


まどか 「うぁああ・・・あっ・・・」

キリカ 「巴マミも、そっちのお兄さんもね。じゃないと、力の加減が狂って、本当にこの子、くびちょんぱになっちゃうかもよ」


言いながらもキリカは、腕に込めた力を一切抜かない。

呼吸と血流をせき止められ、苦痛に喘ぐまどかの顔が、みるみると鬱血してゆく。


まどか 「あ・・・あ・・・」

マミ 「やめてっ!動かないから、だから止めて!鹿目さんが氏んでしまう!」


マミの悲鳴にも似た声が、玄関内に響き渡った。

それを聞いたキリカが、やっと少しだけ。

まどかを締め上げていた腕から力を抜いた。

とたんに流れ込んでくる新鮮な空気の波に、肺が耐え切れずに盛大に急き込んでしまうまどか。


まどか 「うっ、かはっ!!こほこほっ、こほっ・・・!!」

616: 2015/04/14(火) 23:02:50.95
キリカ 「動かない?ほんとだよ?私、約束を破る人は嫌いだからね」

マミ 「分かったから、鹿目さんから離れて!」

キリカ 「それはまだ、できない相談だよ」

マミ 「くっ・・・!私の名前を呼んだわね!という事は、私に用があるんでしょう!?」

キリカ 「ご名答」

マミ 「だったら、鹿目さんには用は無いはずよ!どうしてそんな、ひどいことをするのよ!」

キリカ 「だって、巴マミ。君は強い魔法少女なんだろ?」

マミ 「・・・!?」

キリカ 「私はそれ以上に強い魔法少女だけどさ。コトは可能なだけ、スムーズに運ばせる方が良いからってさ、私の大事な人が言っていたんだ」

マミ 「な、何が言いたいの・・・?」

キリカ 「要は、おとなしくついて来て欲しいんだよ。君に」

マミ 「そ、そのために鹿目さんを・・・」

キリカ 「拒んだり抵抗したりするの、大いに結構!ただし、その時はこの子がどうなるか。分かってると思うけど、試してみるかい!?」

まどか 「ま、まみさぁん・・・」

617: 2015/04/14(火) 23:03:52.35
マミ 「あなたについて、どこへ行けばいいの・・・?」

キリカ 「来れば分かるよ」

マミ 「言う通りにするから、まずは鹿目さんを解放して」

キリカ 「だから、それはできないって。人質がいなくても、君が言うことを聞いてくれるって保証はないんだからね」

マミ 「---------っ!!!」


マミは混乱していた。

冷静に物事を考えることが、できなくなっていたのだ。

今はただ、まどかを。

かわいらしくて明るくて、無邪気なまでに自分を慕ってくれる。

そんな後輩を助けなくてはいけない。

呉キリカと名乗った魔法少女の目的が、どこにあるのか。

自分が付いていった先に、いったい何が待ち受けているのか。

普段のマミであったなら、冷静に見すえることができるであろう、物後の先の先。

今は、最重要なそれらの事も、思考の外でしかなかった。


武蔵 (危険だな・・・)


兄である武蔵には、マミが現在どのような心境におかれているのかが、手に取るようにわかっていた。

618: 2015/04/14(火) 23:05:05.60
武蔵 (マミちゃん、まどかちゃんを助けたい一心で、周りが見えなくなっている。このままでは・・・)


意を決した武蔵が、一歩。

キリカの前へと足を踏み出した。


キリカ 「動くなって、言ってあったんだけどな」

武蔵 「俺が代わる」

キリカ 「?」

武蔵 「要は、魔法少女以外が人質となれば良いんだろ?俺はマミちゃんの兄だ。充分に人質の用は満たすはずだぜ」

まどか 「む、むさし、さん・・・・」

キリカ 「ふーん・・・」

武蔵 「・・・」


武蔵が、横に立つマミをちらりと見る。

マミも、若干ほっとした表情で武蔵を見返し、軽くうなづいた。

兄妹の間でのやり取りは、これだけで十分だった。


619: 2015/04/14(火) 23:06:05.36
キリカ 「ま、良いけれど。だけれど、変な気は起こさないことだね。ほんと、どうなっても知らないから」

武蔵 「分かってるさ」

キリカ 「巴マミにも、言ってるんだけれど?」

マミ 「ええ」


そして。

武蔵はまどかと入れ違いにキリカへ囚われる形となる。


武蔵 「あまり、良い気分じゃないな、こりゃ」

キリカ 「お互い様だよ。可愛い女の子の代わりが、こんな太ったお兄ちゃんじゃ、ね」

武蔵 「がっしりしていると言ってほしいもんだな」

キリカ 「はいはいっと。そんじゃ、そろそろ行こうか」


キリカがマミに外へ出るように促す。

おとなしく、それに従うマミ。キリカと囚われの武蔵も、後に続く。

残されるのは、解放されたまどかのみ。


まどか 「ま、マミさんっ!武蔵さんっ!!」

キリカ 「あ、そうそう。この事、ダレかに言っても良いよ。それで」


キリカは懐から一枚の紙を取り出すと、それをヒラリとまどかの足もとに放ってよこした。


キリカ 「そのダレかに、それ。見せてあげてよ。それで、君の役目はおしまい」

まどか 「え・・・」

620: 2015/04/14(火) 23:07:07.44
マミ 「・・・どういうつもり?」

キリカ 「そこから先は、私の大切な人から、全部話すよ。じゃあ、行こう」

まどか 「待ってっ!!」


立ち去ろうとする一行に、追いすがろうとするまどかだったが・・・


マミ 「鹿目さん。この子の言う通り、この事を暁美さんに・・・」


マミに制止され、その場に残される以外に成す術がなかった。

泣き出したい気持ちを懸命におさえ、足元の紙を拾い上げるまどか。

畳まれたそれを開いてみるとそこには・・・


「廃工場跡の魔女結界で待つ ゲッターロボへ」


それだけが書かれていた。


まどか 「ゲッターロボ・・・!?」


メモから顔を上げた時には、すでに。

まどかの前から三人の姿が、きれいに消え去った後だった。

627: 2015/04/17(金) 22:42:06.93
・・・
・・・


話を聞き終えた私は、たまらずまどかへと駆け寄った。

首元を確認すると、そこにはくっきりと赤く、キリカの腕の跡が残されていた。

苦しかったろうに、怖かっただろうに・・・

だけれど・・・


ほむら 「まどか・・・っ」

まどか 「っ」

ほむら 「無事で、無事で・・・本当によかった・・・!」


安堵から湧き上ってくる感情を抑えられず、私は思わずまどかに抱き付いていた。


まどか 「うぇひっ、ほむらちゃん!?」


たちまち全身を通して伝わってくる、暖かなまどかの温もり。

この暖かさが最悪の場合、呉キリカによって奪われていたかもしれなかったのだ。

628: 2015/04/17(金) 22:44:26.75
ほむら 「・・・」


私の体の表面が暖かな温もりで満たされるのと打って変わり、心の奥底からは怜悧な感情が湧き上がってくる。

それは例えようもない、怒り・・・だった。

まどかを怖がらせ、苦痛を与え、巴マミに言う事を聞かせるための道具として利用しようとした。

絶対に。絶対に、許されることじゃない!

呉キリカも、キリカの糸を操っている美国織莉子も。

絶対に許されない・・・!


まどか 「ほむらちゃん・・・」

ほむら 「・・・」


怒りに震える私の様子に気が付いたのか。

まどかがそっと、私の腰へと手をまわしてきた。

そのままキュッと、私の事を抱きしめる。


ほむら 「ほむっ!?」

629: 2015/04/17(金) 22:46:19.02
まどか 「ありがとね。私は大丈夫だよ」

ほむら 「ま、まどか・・・」

まどか 「だから、そんなに怖い顔をしないで?」


・・・やっぱり、まどかはすごい。

たったそれだけの事なのに。

沸き立った私の心には、凪いだ水面のような穏やかさが戻ってきた。


ほむら 「・・・うん」

まどか 「それで、これ・・・」


私から離れると、まどかは一枚の紙片を取り出した。

開いて、みんなに見えるように掲げる。


竜馬 「ゲッターロボ・・・」

まどか 「私には何のことか分からないけど、お願い!マミさんを助けて!」


まどかが、懇願するように私たちを見つめまわす。

630: 2015/04/17(金) 22:47:33.24
まどか 「マミさんも心配だし、マミさんのお兄さんが、私の身代わりに・・・もし、お兄さんに何かあったら、私」

竜馬 「大丈夫だ、鹿目」


竜馬がまどかの肩をポンッと一回、軽く叩いた。


竜馬 「巴マミは心配だが、武蔵の事は気にするな。俺たちにとっちゃ、この程度の修羅場なんざ慣れっこだ」

まどか 「流君・・・」

竜馬 「あいつは自分から鹿目の身代わりを買って出たんだろう?だったらお前が責任を感じる必要はない」

まどか 「え、でも・・・」

竜馬 「大丈夫なんだ。理屈抜きで、俺には分かる。絶対に平気だ。自分の身も、妹の事だって、武蔵は平然と守って見せる。奴はそんな男だ」

まどか 「う、うん、うん・・・!」


力押しの慰めだけれど、竜馬の理屈抜きの仲間に対する信頼感は、事情を知らないまどかをも納得させる説得力があった。


まどか 「お願い、流君・・・!」

竜馬 「任されたぜ」

杏子 「おい、早く行こうぜ。こうしている間にも、マミは・・・」

ほむら 「分かってる。鹿目さん、あなたは家に帰って」

まどか 「・・・」こくり


無言で一つ、頷いて見せるまどか。

631: 2015/04/17(金) 22:48:48.29
・・・よし。

美国織莉子。

この時間軸での彼女が、何を考え、何を狙って活動しているのかは知らないけれど。

このような強攻策をとってきた以上、私たちとの決着を今夜、つけるつもりなのだろう。


ほむら (のってやろうじゃないの)


私たちには目的のため、成すべき事がある。

織莉子たちに割く時間なんて、本当は無いのだ。

今夜、この時間軸での織莉子との関わりをすべて、終わらせてやろう。


まどか 「ほむらちゃん」


指定された場所に向かおうとする私を、まどかが遠慮気味に呼び止める。


まどか 「仁美ちゃんの事なんだけれど・・・」

ほむら 「巴マミの事は必ず私たちが助けるから、安心して」

まどか 「あ・・・うん」


まどかの問いをあえて無視して、私たちはその場を後にした。

おそらくこれから向かう場所には、志筑仁美も現れるに違いない。

その結果がどうなるのか、今の私には分からない。

だけれど・・・


ほむら (敵にまわるというのなら、打ち砕くのみだわ・・・)


それがたとえ、まどかの大切な・・・

そして、私が得た、新しい友達だっととしても。

632: 2015/04/17(金) 22:52:03.54
・・・
・・・


指定された廃工場に向かいながら、私は考えていた。

呉キリカが、最初に人質にしたのはまどかだった。

では、どうしてまどかは無事に解放されたのだろう。

殺そうと思えば、赤子の手をひねるよりも簡単に、まどかは血の海へと沈められていたはずだ。

だけれど、キリカはそうはせず、あっさりと武蔵との人質交換に応じたという。


ほむら (やっぱりだわ)


おそらくそうだろうとは踏んではいたが、今回の出来事が一つの仮定を確信させてくれた。

この時間軸での美国織莉子の未来予知は、まどかの正体にまでは届いていない。

633: 2015/04/17(金) 22:52:57.60
ほむら (考えようによっては、今夜は好機だ)


今は届いていなくても、この先いつか、織莉子の予知がまどかの正体を暴いてしまうとも限らない。

いや、きっと。おそらく遠からずの内に、その日はやって来るに違いないのだ。

だとしたら私は、まどかの身に危険が及ぶ事態となる、その前に。

不安の芽を摘んでしまわなければならない。

それは、つまり・・・


ほむら 「・・・」

杏子 「くそ、マミの野郎・・・」


思索に沈んでいた私の意識が、杏子のつぶやきで現実へと戻された。


杏子 「くそっ、くそ・・・」


吐き捨てるように、それだけを繰り返し続ける杏子。

634: 2015/04/17(金) 22:57:54.93
ほむら 「佐倉さん」

杏子 「マミの奴・・・あれから一週間もたつってのに、きっとまだ、腑抜けてやがったんだ。でなけりゃ、誰が相手だろうと、やすやすと言いなりになんて・・・」

ほむら 「・・・」

竜馬 「そうとも言えんだろう」

杏子 「なんだよ。その場にいなかったお前に、何が分かるってんだ」

竜馬 「まぁ、分からんが・・・」

杏子 「だったら、よけいな口、はさんでくるんじゃねぇよ」

ほむら 「ちょっと、佐倉さん。リョウにそんなこと言ったって、仕方がないでしょう」 

杏子 「・・・ちっ」

竜馬 「巴マミの事は分からないが、兄貴の事だったら、誰よりもよく知っているつもりだぜ」

杏子 「あん?」

竜馬 「武蔵の奴、おそらくはただ単に、鹿目の身代わりになっただけ・・・なんてことはないと思うんだがな」

ほむら 「それって、もしかして武蔵さんはわざと敵の手の内に乗ったって、そういう事?」

竜馬 「何の力もない女の子ひとり救えるんだ。悪い手じゃないだろう?」

ほむら 「ええ、おかげでまどかは助かった。だけれど・・・」

竜馬 「だが、武蔵だって馬鹿じゃない」

杏子 「?」

竜馬 「何の勝算もなく、ただ身代わりになんて手、仮に妹が腑抜ていたのなら、絶対にとらないはずさ」

杏子 「あ・・・」

竜馬 「敵さんは、武蔵という男の人となりを、何も理解していねぇ。そういうこった」

635: 2015/04/17(金) 23:02:26.89
・・・
・・・


廃工場跡

魔女の結界前。

キリカに自由と生殺与奪権を握られた武蔵は、大人しく指示に従って、この場所へとたどり着いた。

少し離れて、後ろからはマミも付いて来ている。

少しでもおかしな動きを見せたら、武蔵の命はない。

そう釘を刺されている以上、今のマミには唯々諾々とキリカの言うことに従う以外に成す術がなかった。

しかし、実のところマミは、そう現状を悲観してはいなかった。

むしろ、武蔵の機転によって、まどかを危険な目に会わせずに済んだことに心からホッとしていたほどだ。


マミ (お兄ちゃん・・・)


マミは武蔵を無条件に信頼していた。

636: 2015/04/17(金) 23:04:42.82
目の前の少女が仮にどれほどの手練れであろうと、自分と武蔵が揃っている以上、後れをとる事などありえないと確信していたのだ。

では、どうして反撃もせず、こんな人気のない場所まで、言いなりとなってついてきたのか。


マミ (この子を動かしている、頭となる者がいる)


キリカが言っていた”私の大切な人”。

その者こそが、人質をとってまで自分をこのような場所まで連れ出すように指示を出した、張本人に違いない。


マミ (その人を叩いてしまわない事には、問題は解決しないわ)


去り際にキリカが落していった紙切れ。

何が書いてあったのか窺い知ることはできなかったけれど、今ごろはそれを持って、まどかがほむら達の所へと走っているはずだった。


マミ (間もなく暁美さんたちが来てくれるに違いない。それまでに、何とかしてこの人たちの目的を探らないと・・・)


そんな事を考えている間も、新たな指示がキリカから飛ぶ。


キリカ 「さー、着いた着いた。さ、これから結界の中に入るよ」

637: 2015/04/17(金) 23:08:27.04
マミ 「・・・魔女退治でもするつもり?」

キリカ 「そうなるね。もっとも、魔女を倒すのは私たちじゃないけれど」

マミ 「・・・?」

キリカ 「それも含めて、答えはこの結界の中にある。私たちの目的、君たちに何をさせたいのか。知りたかったら、ほら。ちゃっちゃと入る」

マミ 「・・・」

武蔵 「今は、従おうぜ」


行こう、マミちゃん。この子の糸を操っている奴の面、拝ませてもらいに、さ。

そこで、目にもの見せてやろうぜ。


振り返った武蔵の目が、そう語りかけていた。

マミは頷く。

今の兄妹に、言葉など必要ではなかった。

638: 2015/04/17(金) 23:12:42.78
・・・
・・・


魔女結界の中。

キリカにせっつかれ、今は従うしかないマミたち兄妹は、ただ黙って奥へ奥へと足を運んでいた。

だが、マミはすぐにある違和感に気がつく。


マミ (おかしいわ・・・)


魔女の支配する結界内に無数に存在するはずの、使い魔の姿が一体も見当たらないのだ。

だが、目を凝らしてよく見ると、そこかしこに、何やらの残骸が散らばっているのにも気がつく。

マミは即座に、その残骸の正体を見抜いた。


マミ (・・・使い魔の・・・残骸)


それも、広範囲にわたって、おびただしい数が散乱している。


マミ (まさか、ここの使い魔って、もしかして・・・)


すべて、倒されてしまっている?

マミは自分が導き出した仮定に、背筋が凍りつくのを感じていた。

639: 2015/04/17(金) 23:14:37.73
その仮定が正しいのだとしたら、この結界に先に入り込んでいるであろう人物・・・

キリカの糸を操る人物とは、どれほどの手練れなのだろうか。


マミ (想像するだけで、恐ろしくなってしまうわね)


そのような人が、自分にどのような用があるというのだろう・・・

だけれど、そのことに関しては、いくら考えても答えなど出るはずもない。当人に確かめるほかに、知る術はないのだ。


マミ 「・・・」


マミの思索が五里霧中に迷い込んでいる間にも、一行の足取りはどんどんと結界の奥へと進んでゆく。


・・・やがて。


開けた場所へとたどり着く、マミたち一行。

どうやらここが、結界の主である魔女の住処のようだった。

だというのに・・・

640: 2015/04/17(金) 23:20:47.93
マミ 「・・・えっと」

武蔵 「どうした、マミちゃん」

マミ 「ここが、結界の最奥。魔女の住処だと思うんだけれど、いないのよ。肝心の住人が」

武蔵 「気配は?」

マミ 「気配は・・・感じる、けど。とっても微弱・・・と言うか、か細い・・・」


魔女の気配を探りながら話していたマミは、自分のセリフをヒントにして、あることに気がついた。


マミ 「氏にかけてる・・・」

武蔵 「だ、誰がだ!?」

マミ 「魔女よ・・・」

武蔵 「っ!?」

641: 2015/04/17(金) 23:34:25.84
マミ 「だから、襲いかかってこないんだわ」

キリカ 「正解。やはり君は目ざといよね」


だまって兄妹の会話を聞いていたキリカが、最後に答えを投げてよこした。


キリカ 「今は魔女ではなく、魔女の結界が必要なんだよ。頃してしまったら、結界も消滅してしまうからね。氏なない程度に、氏にかけてもらったのさ」


そう言って、ある場所を指さす。

そこにいたのは、一人の少女。

ドレスのような丈の長い服をまとい、優雅なたたずまいでこちらを見ている。

そして、少女の後ろには・・・


マミ 「魔女・・・」


重傷を負い、すでに抵抗力をなくした魔女が、静かに身を震わせながら横たわっていた。

放っておけば、ほどなく息絶えてしまうであろう魔女を、とどめも刺さずに首の皮一枚で生かしておいているのだ。


武蔵 「なんてことを・・・」

マミ 「いくら相手が魔女だからって、むごい・・・」

642: 2015/04/17(金) 23:37:11.53
キリカ 「へぇ、魔女を狩って生きている魔法少女のくせに、魔女に同情なんかしちゃうんだ?」

マミ 「無駄に苦しませるような、趣味の悪い遊びをして、喜んだりした覚えはないわよ」

キリカ 「別に遊んでるわけではないけどさ。意味があってやっていることだと、さっきも言っただろう。・・・あ、そうか」

マミ 「・・・?」

キリカ 「君は、あれだ。魔女の正体を知っているんだ。だから、そういう風に憐みの目で魔女を見られるんだね」

マミ 「・・・っ!」

武蔵 「お前!」

キリカ 「さて、これ以上の話の続きは、織莉子としてよ。もともと私は、織莉子いがいと話をするの、好きではないんだ」


激高したマミと武蔵をよそに、キリカは一方的に話を打ち切ると、向こうに立つ少女・・・織莉子に向かって手を振った。


キリカ 「織莉子!巴マミ、連れてきたよ!」

織莉子 「・・・」


キリカの呼びかけを合図に、織莉子がこちらへと歩を進めてきた。

しずしずと。穏やかな歩調で。

しかし、見た目の立ち振る舞いとは裏腹に、彼女が近づくにつれて感じられるのは、織莉子と呼ばれた少女から発せられる、ある種の圧力。

まるで重力が意志をもって、マミたちの上から圧し掛かってくるかのよう・・・

643: 2015/04/17(金) 23:40:18.04
武蔵 「ただものじゃないな・・・」

マミ 「ええ・・・」

武蔵 「あの子が、キリカ。君のボスっていうワケか」

キリカ 「違うよ。友達さ。私の大切な、ね」

武蔵 「そうかい」


武蔵がマミを後ろ目に、チラリと見る。

合図だ。

敵の親玉が出てきた。ここでこれまでの形勢を逆転させてもらおう。

武蔵の無言の問いかけを、マミは正確にキャッチしていた。

頷いて、武蔵が動くのを待つ。


マミ 「・・・」

武蔵 「今だっ!!」


武蔵が身を沈ませたのは、掛け声を発するのと同時だった。

644: 2015/04/17(金) 23:45:00.55

その幅の広い体躯からは想像もできない素早さでキリカの腕から逃れると、その腕をつかんでクルンと体を回転させる。

とたんに、ふわりと宙に放り投げられるキリカの身体。


キリカ 「え・・・!?」


何が起こったかを把握する前に、キリカはしたたかに地面に叩きつけられていた。


キリカ 「かはっ」


いきなりの事で、受け身をとる暇すらなかった。

叩きつけられたショックが背骨を軋ませ、呼吸をすることすらままならない。


キリカ 「くふっ、ど、どうして・・・」

武蔵 「俺をデブだと思って侮っていたんだろうが、東葉高校柔道部主将、巴武蔵をなめるなよ!」

キリカ 「こんなデブに・・・スピードで、私が、後れをとる、なんて・・・」

武蔵 「俺はあいにく、動けるデブなんだよ!」

キリカ 「反則だよ、それ・・・」

武蔵 「何とでも言え!さぁ、ここからは反撃の時間だ!」

652: 2015/04/21(火) 22:51:55.73
マミ 「お兄ちゃん、その子を押さえつけておいて!」

武蔵 「任せろ!力押しならなおの事、俺はだれにも後れをとらないぜ!」

マミ 「良かった、これで・・・」


心おきなく、変身できる!

マミはソウルジェムに意識を集中させると、魔法少女へと変身を遂げた。

すかさずマスケット銃を召還すると、その銃口を一点へと向ける。

標準の先にいるのは、仲間が倒されたにもかかわらず、平然とこちらへと歩み寄って来る美国織莉子。


マミ 「動かないで」

織莉子 「・・・」

マミ 「手荒な真似はしたくない。だけれど、あなたが言うことを聞いてくれなくては、この子に怪我をしてもらわなくちゃならなくなるかも知れないわ」

653: 2015/04/21(火) 22:53:53.50
織莉子 「あら、意外」


口ぶりとは裏腹に、まったく何の感情も表さない声で織莉子が言う。


織莉子 「あなたは人質をとるような卑劣な真似、嫌いなタイプだと思っていたのに」

マミ 「それをあなたが言うわけ?」

織莉子 「まぁ、それもそうね」

マミ 「私だって、好きなはずないじゃない。だけれど、私はここであなたたちに良いようにされる訳にはいかないの」

織莉子 「・・・」

マミ 「何がしたいのか、教えてもらいましょうか。そのためだったら私は、なんだってやって見せる」

織莉子 「一皮むけたみたいね、巴マミ。今まで通りの甘いあなたでいてくれた方が、こちらとしては組しやすかったのだけれど・・


話しながらも、織莉子の歩みは止まらない。

654: 2015/04/21(火) 22:55:15.69
マミ 「動かないでと言っているのに!」


マミは、一発。銃弾を放った。

狙うは織莉子の足もと。いきなり本人に命中させるつもりはない。

まずは威嚇を行うつもりだった。


織莉子 「・・・」


だけれど。

自分の足もとが銃痕にえぐられても、織莉子は平然としたまま、足を止めようともしない。


マミ 「え・・・」

織莉子 「あなたの弾は当たらない」

655: 2015/04/21(火) 22:57:19.14
マミ 「お、脅しじゃないのよ!」


もう一発、足もとに向けて撃つ。

だが、それに対しても織莉子は顔色一つ、変える事すらしなかった。


織莉子 「だから、言ってるでしょう。あなたの銃弾は、私には当たらない」

マミ 「ど、どうして・・・」

織莉子 「威嚇射撃は、もういいわ。さぁ、当てる気があるなら、本気でいらっしゃい」

マミ 「・・・っ!!」」


挑発に乗せられるように、マミは照準を織莉子の顔に定めた。

すでに両者の距離は指呼の間に迫っている。

狙って撃てば、絶対に外すはずがなかった。

656: 2015/04/21(火) 22:59:13.55
だが・・・


マミ 「っ!!」


静寂に包まれた結界内に、再び。銃声が響き渡る。

しかし・・・

マミの放った銃弾は、織莉子の頬すれすれをかすめただけで、彼女に顔に傷一つ付けることはなかった。


マミ 「・・・」


マミが愕然としている間にも距離を縮め続けた織莉子は、ついにマミの目の前までたどり着いてしまった。

その様子をキリカを抑え込みながらも見ていた武蔵が、あきれたような口調で言う。


武蔵 「あんた、氏ぬのが怖くないのか」

織莉子 「何度も言ったでしょう。巴マミの銃弾は、私には当たらない」

武蔵 「なぜ、そうと言いきれる?」

織莉子 「見えていたから。あらかじめ、ね」

武蔵 「・・・どういう意味d

織莉子 「それに・・・」

武蔵 「・・・?」

657: 2015/04/21(火) 23:00:44.11
武蔵 「・・・?」

織莉子 「同じ魔法少女を撃つのに、冷徹になり切れない。甘さを捨てても、優しさまでは捨てられない。巴マミはそんな人だと、分かっていたから」

武蔵 「あんたさ、本当に、何者なんだよ」

織莉子 「さあ・・・?」

武蔵 「まぁ、良いよ。マミちゃんがどうあれ、俺の手元に人質がいることは、依然変わりがないんだ。言う事は聞いてもらうぜ。俺は妹と違って、マミちゃんを守るためだったら何だってやれる男だ」

織莉子 「・・・」

キリカ 「くふっ・・・くふふっ」


数分続いた呼吸困難から解放されたキリカが、武蔵の下からこもった笑い声をあげた。


キリカ 「まさか、人質として連れてきたお兄さんが、ここまで戦えちゃうなんてね。人質交換は失敗だったかな。ふふふ」

武蔵 「何がおかしい・・・?」

キリカ 「妹が大切なら、さ。今すぐ私を放して、おとなしくしておいた方が身のためだと思うよ」

武蔵 「こいつ、まだそんな減らず口を・・・」

キリカ 「ねぇ、二人とも。君たちは、私たちに気をとられすぎて、注意力が、さ・・・さ・・・えーと、なんだっけ」

織莉子 「散漫」

キリカ 「そう、サンマンになりすぎちゃってたようだね」

658: 2015/04/21(火) 23:08:42.12
マミ 「え、ど・・・どういうこと!?」

キリカ 「周りに目を巡らせて、よく見てみるといいよ」

マミ 「え・・・?」


慌ててマミは、意識と視線を四方へと巡らす。

そして、あることに気がついて愕然としてしまった。

なぜ・・・なぜ今まで気がつかなかったのだろう。


マミ 「・・・お兄ちゃん。その子、放してあげて」

武蔵 「・・・理由は?」

マミ 「囲まれてる」

武蔵 「なんだって・・・?」


武蔵も顔を上げ、マミに倣って周囲を見回した。

そして、彼も気がつく。

結界内に散乱する遮蔽物の影という影から、こちらに狙いを定める幾つもの気配に。


キリカ 「君たちを狙う、多数の魔法少女。一斉攻撃の洗礼を無事乗り切る自信があるのなら、試してみるのも良いかもだけどさ」

武蔵 「参ったな」


武蔵にはお手上げというように両手を上げて、押さえ込んでいたキリカを解放するよりほかに、打てる手はなかった。

659: 2015/04/21(火) 23:10:45.80
・・・
・・・


指定された廃工場跡。

確かにそこに、魔女結界の入り口はあった。


杏子 「この中に、マミ達がいるんだな。よし、とっとと入ろうぜ」

ほむら 「待って」

杏子 「なんだよ、早いとこ行かないとマミが・・・」

ほむら 「冷静になって、少し落ち着いて。見て、入り口を」

杏子 「なんだってんだ・・・ん・・・?」

ゆま 「あー、誰かいるね・・・?」

ほむら 「ええ。さしずめ、私たちを導くための案内役といったところじゃないかしら」

竜馬 「敵も粋なことをしやがるな。しかも、あいつは・・・」

ほむら 「・・・ええ」

竜馬 「志筑仁美か・・・」

660: 2015/04/21(火) 23:13:02.24
杏子 「へぇ・・・あそこにいるのが、例の掘出し物って奴か」

ほむら 「その言い方はやめて。聞いていて、気分のいいものじゃない」

杏子 「知るかよ。お前のクラスメイトであれ、今はマミを誘らった奴の仲間なんだろう?敵に気をかけてやる言われはねぇよ」

ほむら 「・・・」


杏子の言い分も、もっともだ。

だから私は問答を切り上げ、皆の先頭に立って仁美へと、結界の入り口がある方へと向かうことにした。

あちらも、すでに私たちがやって来た事に気がついている。

声が届く範囲まで距離が縮まると、仁美は普段と変わらない柔らかい笑みを浮かべながら、ぺこりと一つ頭を下げた。


仁美 「お待ちしていましたわ、皆さん。暁美さん、流君。先ほどぶりですわね」

ほむら 「・・・」


普段と違う所があるとすれば、それは彼女が魔法少女の装いに身を包んでいるという、一点のみ。

その一点の違いが、とてつもなく大きいのだけれど・・・

661: 2015/04/21(火) 23:15:31.23
仁美 「そして、お初にお目にかかる方には、初めまして。志筑仁美と申します」

ゆま 「はわわ・・・千歳ゆまです」

杏子 「こらっ、なにやってんだ、ゆま!」


つられて頭を下げたゆまを、杏子が叱りつける。


杏子 「なに、相手のペースに呑まれてるんだよ。あいつは敵だ。名乗ってやる必要なんざねぇっての!」

ゆま 「きょーこ・・・ご、ごめんなさい」

竜馬 「お前たち、ゲッターを使って何をしようとしている・・・?と、聞いても、志筑は答えてはくれないんだろうな」

仁美 「・・・ふふ」

竜馬 「だったら、とっとと行こうぜ。お前についていった先に、俺の問いに答えられる奴が待っているんだろう」

仁美 「察しが早くて、助かりますわ。それにしても、びっくりしましたわ。あの方が言っていたロボットに関わっているのが、まさか私のクラスメイトだっただなんて」

ほむら 「こっちだってビックリよ。あなたともあろう人が、あんな手段を択ばないような女の仲間になっているだなんて」

仁美 「選べる手段が限られているのなら、もっとも効果的な方法を選択する。それのどこがいけない事ですの?」

662: 2015/04/21(火) 23:23:01.52
ほむら 「・・・美国織莉子がやろうとしていること、あなたはもう知っているのね?」

仁美 「ええ。私は私の大切な人が生きてゆく世界を、是が非でも守らなければならない。織莉子さんは、その指針を示してくれた、大切な人です」

ほむら 「・・・美樹さんや上条君の生きていく世界、ね」

仁美 「はい」

ほむら 「では、その中に鹿目さんは入っているの?」

仁美 「・・・なぜ、そこでまどかさんが出てくるんですの?」

ほむら 「答えて」

仁美 「まどかさんは大切なお友達。当然はいっているに決まっていますわ」

ほむら 「・・・」


あなたが盲信する美国織莉子がやろうとしている事は、最終的にはまどかの抹殺だというのに。

663: 2015/04/21(火) 23:24:34.53
真実を伝え、仁美の目を覚まさせてやりたい。

だけれど、現時点で織莉子とつるんでいる彼女に伝えられるはずもなく、そんなジレンマが狂おしいほどにじれったかった。


杏子 「グダグダ言ってるなよ。私はお前の能書きにつきあう気はねぇ!とっととマミの所へ連れていきやがれ!」

仁美 「分かりましたわ。では、ご案内します。さ、こちらへ」


仁美はきびすを返すと、すたすたと結界の中へとその姿を消してしまった。

私たちも、その後を追う。

仁美の背中の向こう・・・

その先にいるであろう、決着をつけるべき相手の元へと向かうために。

669: 2015/04/29(水) 23:15:37.23
・・・
・・・


仁美に導かれるままに、使い魔の残骸が散らばっている通路を進む私たち。


仁美 「あ、そうそう」


道半ばで、何かを思い出したようにつぶやいた仁美が、おもむろに私に向かって左手を差し出してきた。


ほむら 「?」

仁美 「暁美さん、手をつなぎましょう」

ほむら 「・・・」

竜馬 「へぇ・・・こっちのことは、全部リサーチ済みってわけか」

仁美 「ふふ、私と暁美さんはお友達同士ですもの。手をつなぐくらい、普通のことでしょう」

ほむら 「・・・そうね」


人質をとられている以上、従うほかにない。

私は言われるままに、その手を取る。

・・・これで私は、手持ちのカードを一枚、失ってしまった。

670: 2015/04/29(水) 23:16:39.33
仁美 「では、行きましょう」


再び歩き始める仁美に、手を引かれ並んで歩く私。

その様子を後ろから眺めていた杏子が、呆れたような声を上げた。


杏子 「はぁーん・・・?あいつら、何やってるんだ?仲良しごっこかよ」

竜馬 「そうじゃない。敵に先手を取られたのさ」

杏子 「あ、どういう意味だよ、それ」

竜馬 「暁美の強みである時間停止の魔法だがな、暁美が触れている相手の時間は止めることができないんだよ」

杏子 「・・・は?」

竜馬 「敵さん、こちらの手の内は、知り抜いているらしいぜ。もっとも、情報の提供先は分かりきっているけれどな」

杏子 「・・・キュウべぇの野郎」

竜馬 「なんにせよ、これで時間を止めて敵を倒すなり、巴マミを救うなりといった、もっとも簡単な手は封じられてしまった事になる。歯がゆいがな」

杏子 「・・・構わないさ。どのみち、マミのことは私が助け出すつもりだったんだ」


かつて助けられた借りは、ツケを付けて返す。

小さくつぶやいた杏子の声は、私や仁美の元までは届かなかった。

671: 2015/04/29(水) 23:19:48.72
・・・
・・・


ほどなくして私たちがたどり着いたのは、大きく開けた空間だった。

そこは結界の最奥。ここの主である魔女が住みかとしている空間だ。

本来ならば・・・という但し書きが、今は付け足されるのだろうけれど。


ゆま 「あ、あれ・・・」


震えた声で、一点を指さすゆま。

彼女が示したのは、魔女の住処のさらに一番奥。

そこで、静かに巨体を横たえている者だった。

その者こそ・・・


ほむら 「この結界の・・・魔女・・・」

672: 2015/04/29(水) 23:20:38.21
ゆま 「し、氏んでるの?」

ほむら 「いいえ、魔女が氏んでしまっては、この結界が存在できない。生きているわ」


かろうじて・・・と、最後に付け足すことを忘れない。


杏子 「痙攣してやがる。虫の息だな、ありゃ。おい、ずいぶんえげつない真似をするじゃないか」

仁美 「意味があってしていることです。とやかく言われる筋合いではありませんわ」

杏子 「なんだと!」

竜馬 「やめておけ」


今にも仁美に飛びかかりそうな杏子を、竜馬が制する。


竜馬 「それよりも今は、巴マミの安否を確認するほうが先だろう。おい、志筑。巴マミはどこにいる?」

仁美 「慌てなくても・・・」


にっこりと微笑んだ仁美が、横たわる魔女のほうを指さす。

先ほどは、魔女の陰に隠れていて気が付かなかったけれど。

そこには確かに、複数の人影がうごめいていた。

673: 2015/04/29(水) 23:24:06.94
そう、複数・・・

距離が遠くてまだはっきりとはしないけれど、かなりの人数がいるようだった。


ほむら 「あれは・・・」


その一群の人影も私たちの到来に気がついたようで、こちらへと向かって歩き始めていた。

やがて。

距離が縮まるにつれ、はっきりとしてくる一人一人のシルエット。

その先頭を歩かされている者こそ・・・


ゆま 「武蔵おにいちゃん!」


いち早く気が付いたゆまが叫んだとおり、間違いない。巴武蔵その人だ。

そして、その横には、兄に寄り添うように歩く、マミの姿も。


ほむら 「・・・っ!?」


そして、何より私を驚かせたものは。

武蔵とマミの背後。

巴兄妹に武器を突き付けながら、同じくこちらへと歩いてくる少女たちの姿だった。

674: 2015/04/29(水) 23:29:59.66
ほむら 「魔法少女・・・」

竜馬 「あれ、全てがか。ざっと10人ほどはいるようだぞ」

ほむら 「間違いない。彼女たちの中央にいるのが、美国織莉子と呉キリカ・・・」

竜馬 「他は・・・?」

ほむら 「あとは分からない。初めて見る顔ばかりだわ。あれが、彼女たちが・・・」

杏子 「キュウべぇが急ごしらえした”バーゲン品”ってわけか」

ほむら 「織莉子が魔法少女を集めていることは聞いていたけど、こんなにたくさん集めていたなんて・・・」

仁美 「あら、ここにいるのは、ほんの一部ですのよ」

ほむら 「なんですって・・・!?」

仁美 「あまり大ぜいで来ても、邪魔になるだけですもの。必要なだけ、選りすぐって招集されたんですのよ」

ほむら 「あなたたち、本当に何を企んでいるの・・・?」

仁美 「それは織莉子さんから聞いてくださいな」


そうこうしている間に、魔法少女の一群は、会話のできる距離まで近づいていた。

675: 2015/04/29(水) 23:34:55.30
彼女たちが足を止めるのを待って、まず口を開いたのは竜馬だ。


竜馬 「武蔵、お前は何をやっとるか」

武蔵 「すまない、リョウ。みんなも。まさか向こうさんが、こんなに大勢だとは思いもよらなかったんだよ」

竜馬 「言い訳なんざ、聞きたくもない。お前ならどんな状況でも、巴マミを守りながら、どうにかしてくれるもんだと期待していたんだがな」

武蔵 「まったくもって面目ない」

杏子 「お前もだぜ、マミ。巴マミともあろう奴が、こんなペーペー共に、なに後れを取ってやがるんだ」

マミ 「ご、ごめんなさい」


竜馬に続いて、マミに文句を投げかける杏子。

それぞれ旧知の間柄の人に叱られて、かわいそうに巴兄妹はそろって肩を落としてしまった。


ほむら 「リョウも佐倉さんも言い過ぎよ。いくら相手が新人の集まりでも、これだけの魔法少女に武器を突き付けられては、言うことを聞く以外にはないもの。それに・・・」

織莉子 「・・・」

ほむら 「的確な指示を出すブレーン役がいるのだもの。組織立って襲い掛かられたら、少数のこちらが不利なのは仕方のないことだわ」


言いながら、美国織莉子をにらみつける。

676: 2015/04/29(水) 23:37:50.11
だけれど彼女は涼しい顔。私の刺すような視線なんか、微笑でもって受け流してしまう。


織莉子 「ふふ、状況を的確に掴んでいるようね。はじめまして、暁美ほむらさん」

ほむら 「ええ、はじめまして。美国織莉子」

織莉子 「私のことをご存じなのね。過去の時間軸で、私と会ったことがあるのかしら」

ほむら 「・・・ええ」

織莉子 「では、私が何をしようとしているのかも、ご存じ?」

ほむら 「いいえ。私の知っている美国織莉子は、こんな風に徒党を組むようなやり方を好む人ではなかったわ」

織莉子 「そう・・・では、その時間軸では少数で動くことこそが、最も効率の良い方法だったのでしょうね」

ほむら 「・・・」

織莉子 「いいわ。私がやろうとしている事は、すぐに分かります」


織莉子が言うのと同時に、キリカがすっと動く。

マミの横まで来ると、彼女の喉元に長い爪のような武器を突き付けた。


マミ 「・・・っ」

677: 2015/04/29(水) 23:39:40.57
キリカ 「動かないでね。マミも、そっちのみんなも」

杏子 「マ、マミ!」

キリカ 「動くなと言ったよ。なんだったら、三枚おろしにされた彼女を見せられるのがご希望かな?」

武蔵 「よ、よせ!!やるなら、俺をやればいいだろう!」

キリカ 「言われなくても、巴マミの次に手を下されるのは、君だよ。太ったお兄さん」

杏子 「てめぇ・・・!ぶっ頃してやる!!」

ほむら 「落ち着いて、佐倉さん!相手をあまり刺激しないで!」

杏子 「く、くそ!くそぉ!!」

キリカ 「大人しくしてくれてたら、別に危害は加えないよ。今のところは、だけれどね」

ほむら 「くっ・・・、織莉子!美国織莉子っ!そちらの狙いは何なの!?人質を取るような卑怯な真似なんかしないで、とっとと要件を言えばいいじゃない!」

織莉子 「人質・・・そう、人質。分かっているじゃない、暁美ほむらさん」

ほむら 「・・・え?」

織莉子 「そう、この二人は人質。二人の安全と引き換えに、あなたたちからある物を譲り受けたくて、ここまでこうしてお連れしたのよ」

ほむら 「ある物・・・それって、まさか」

678: 2015/04/29(水) 23:41:13.95
竜馬 「・・・ゲッターか」


思わずリョウと顔を見合わせてしまう。

これまでの話の流れ。まどかに託されたメモ。

それらから類推される答えは、ただ一つ。


竜馬 「・・・ゲッターロボを手に入れて、お前は何を成そうというんだ?」

キリカ 「それはこっちの問題。面倒くさいなぁ。君たちは言われたとおりに、こっちに従っておけば良いんだよ」

織莉子 「・・・いいえ、本来のゲッターの所有者である彼女たちには、知っておくべき権利と義務があるわ」


挑発的にこちらの疑問を封じようとするキリカを制して、織莉子が静かに首を振る。


織莉子 「私には、未来が見える・・・」


動作と合わせるような静かな口調の織莉子。

自信や覚悟の現れなのか。私たちや呉キリカとは異質の落ち着き払った態度は、静謐なる圧力となって、私たちの頭上から覆いかぶさってくるようだ。

重く息苦しい空気が場を支配する。


織莉子 「そして垣間見た未来の見滝原は、地獄へと変わり果てていた」

ほむら 「・・・」

織莉子 「災厄をもたらしたのは、ワルプルギスの夜。最大規模の破壊をもたらす、魔女」

679: 2015/04/29(水) 23:50:29.49
ほむら 「知っているわ。だから私たちは、その悲劇を回避するために行動している」

織莉子 「そうね。ワルプルギスの夜の惨劇は回避できる。見滝原を壊滅の淵から救い上げたものは、一体の巨大なロボット・・・」

竜馬 「・・・」

武蔵 「・・・」

織莉子 「ゲッターロボ」

ほむら 「見たの?見たのね、ゲッターがワルプルギスの夜を倒すのを」

織莉子 「ええ」

ほむら 「そ、そう・・・」


倒せる。ゲッターはワルプルギスに勝つことができるのだ。

未来を予知できる美国織莉子が、そう断言しているのだから。

だとするのなら、見滝原の街を・・・まどかを今度こそ守り通せるかもしれない。

幾度も繰り返した時のはざまで、いくら成し得ようとしても成し得なかった宿願が、この時間軸で叶うかも知れないのだ。

・・・こんな状況じゃなかったら、飛び上がって喜びたいほどの情報を得ることができた。

だけれど、その宿願も希望も、このままでは織莉子たちに摘み取られてしまうかもしれない。


ほむら 「だったら・・・」


今はまだ、喜びに身を任せる時間ではないのだ。


ほむら 「どうしてこんな真似を?あなたたちがゲッターを求めなくても、ワルプルギスの夜は私たちが倒す。あなたが見た未来は、そのビジョンよ」

680: 2015/04/29(水) 23:52:24.90
織莉子 「そうかも知れない。だからこそ、今のうちのゲッターロボを譲り受けておかなければならないのよ」

ほむら 「・・・?」


・・・意味が分からない。

ゲッターが見滝原を救う未来を見て、それに乗っているのは私たちだということも、美国織莉子は認めている。

だったら、なぜ彼女はゲッターを欲する必要があるというのだろう。


織莉子 「私が見た未来のビジョンには、続きがあるわ」


続いて語られる織莉子の言葉が、その答えを提示してくれた。


織莉子 「ワルプルギスの消滅とともに、救われたかに見えた見滝原。だけれど・・・」

ほむら 「だけれど・・・?」

織莉子 「それは、本当の惨劇の始まりに過ぎなかったのよ・・・!」

ほむら 「・・・!」

杏子 「な、なんだよ、そのサンゲキって奴はさ・・・」

織莉子 「・・・ワルプルギスの脅威が去った直後・・・この見滝原は更なる脅威に曝されることになるわ。ワルプルギス程度、所詮は主賓の前の前座に過ぎなかったと思えるほどの、ね」

杏子 (ん・・・おいおい待てよ。それって、もしかして・・・)

竜馬 (暁美が言っていた、魔女となった鹿目のことを言っているのか?)

マミ 「え、なにそれ・・・私、そんなの知らない」

武蔵 「俺もだ。ほむらちゃんは、ワルプルギスから大切な人を守りたいがために、戦ってるんじゃなかったのか?」


このままキュウべぇの好きにさせていたら、まどかはどうなるか。

その説明を受けていない巴兄妹は、困惑した顔色を隠しもせずに、私を見ている。

681: 2015/04/29(水) 23:54:41.68
この場を切り抜けたら、二人にも真実を知ってもらわなくてはいけない。

けれど、それは後の話だ。

今は美国織莉子たちの前。そのことを話すわけにはいかない。


織莉子 「暁美さんは知っていたんじゃないの?いくつもの時間軸を渡り歩いてきた、あなただったら・・・」

ほむら 「いえ、知らないわ。私が守りたい人を守り切れなかった時点で、私は今までの時間軸を切り捨てて来たのだから」


そう、私が”知っている”ということを、悟らせてはいけない。


織莉子 「・・・ふーん、そう」

竜馬 「なんにしても、だ。ワルプルギス以上の脅威が現れるのなら、そいつも俺たちがゲッターで倒してしまえば良い。お前たちがゲッターを欲しがる理由にはならないな」

仁美 「それがですね、そういうわけにもいかないそうですのよ」

ほむら 「どういう意味・・・?」

織莉子 「・・・あなたが無責任なのかしら、暁美ほむらさん。それとも、一緒にゲッターロボに乗り込んでいた、流竜馬さん。あなたの意思・・・?」

ほむら 「何を言っているの・・・?」

竜馬 「抽象的な語り方をするんじゃねぇよ。分かるように話したらどうだ」

織莉子 「では・・・はっきりと言います」


織莉子はそこで、いったん言葉を切った。

少しうつむき加減となって、目をうっすらと閉じる。

その仕草は、何かを思い返しているかのようだった。

682: 2015/04/29(水) 23:58:42.00
織莉子 「・・・」


この間、ほんの数秒に過ぎない。

だけれど。

再び顔を上げた時、織莉子のまとう雰囲気は、それまでとは明らかに一変していた。


織莉子 「卑怯者」


抑揚なく、底冷えするような声で彼女は言った。

ゾクっと・・・

冬でもないのに、私の全身が寒気に覆われ、総毛だつのを感じる。


ほむら 「な、なんのことよ、一体・・・」


いきなりのあまりな言われように、私は何とか一言を返そうとしたのだけれど・・・

途中で言葉が、まるで形のある塊のように喉につかえてしまって、それ以上の声を発することができなくなってしまう。


ほむら 「うぐっ・・・」


違う・・・さっき感じたのは寒気なんかじゃない。

683: 2015/04/30(木) 00:06:12.34
私の本能が、織莉子の発する気配は危険なものだと教えてくれているのだ。

そして、そう感じているのは、私だけではないようで・・・


杏子 「・・・」

マミ 「あ・・・ぅ・・・」

ゆま 「う・・・うぐっ、うぇぇぇ・・・」


私の仲間たちは一様に、言葉を失い顔色を青ざめさせて、為す術もなく織莉子を見つめていた。

幼いゆまなどは、得体の知れない恐怖に耐えられずに、今にも声を上げて泣き出してしまいそうだ。


ほむら 「な、なんなの・・・私の心をここまで委縮させてしまうなんて、いったい織莉子は心の内に、何を抱えているというの・・・」

仁美 「・・・なぜ、彼女がゲッターロボを欲しがるのか。その理由を聞けば、暁美さんにも理解ができるはずですわ」

ほむら 「志筑さん・・・」

仁美 「彼女があなた方に抱いている感情は、怒り・・・いいえ、怒りでは生ぬるい。そう、その心に名前を付けるのなら、怒りよりももっと激しく、そして狂おしい・・・」

ほむら 「・・・」

仁美 「憤怒・・・とでも、呼ぶべきでしょうか」

684: 2015/04/30(木) 00:09:47.97

・・・憤怒。

なぜ、私たちにそのような激しい感情をぶつけてくるのか。

ぶつけられなければいけないのか。

疑問が頭の中で渦を巻いて、誰もが押し黙って織莉子の次の一言を待つしかない中で・・・


竜馬 「おい」


唐突に。

竜馬の臆する気配を見せない声が、静まり返った結界の中に反響した。


織莉子 「なに・・・?」


竜馬が一歩、織莉子の前へと進み出る。

そんな彼を織莉子は、まるで刃の切っ先のような鋭い眼差しでにらみつけた。

見つめられただけで、気の弱いものなら卒倒しそうな、人の心に深くえぐり込んでくるような視線。

だけれど、竜馬は全く意に介していないようで、普段と変わらない口調で、織莉子に話しかける。

685: 2015/04/30(木) 00:20:04.37
竜馬 「納得がいかねぇ」

織莉子 「・・・なにがかしら?」

竜馬 「俺は確かに人から褒められるような生き方をしてきたつもりはねぇ。数えきれない人をぶん殴ってきたし、戦いの中で人命を奪ってしまったことだってある」

織莉子 「・・・」

竜馬 「だがな、誓って言うが、ただ一点。人から卑怯者と後ろ指をさされるような真似だけは、決してしてこなかった。胸を張って断言させてもらうぜ」

織莉子 「ずいぶんな自信ね」

竜馬 「ああ。それにそれは俺だけじゃねぇ。武蔵や氏んだ隼人。ゲッターチーム全体の話だ。俺や仲間の中に、卑怯者なんざ存在しないのさ」

武蔵 「リョウ・・・」

竜馬 「何より、人質を取って俺たちのゲッターロボを力づくで奪い取ろうとしている連中の親玉に、卑怯者呼ばわりされるなんざ、道理が通らねぇだろうが」

キリカ 「おい、織莉子にあまりひどいこと言うなよ。私の堪忍袋の緒は、とびきり脆いんだぞ!」

織莉子 「・・・卑怯者を相手にするのに、こちらも卑怯な手を使う。理に適っているのではなくて?」

竜馬 「だったら聞かせろよ。俺たちを卑怯者と呼ぶ、その意味をな」

織莉子 「・・・」

仁美 「聞かせてあげたら良い。それを聞いて憤ったからこそ、私も織莉子さんたちに協力しようと決めたのです。他の皆さんだってそうでしょう?」

A子 「そうね」

B子 「言ってやりなよ、織莉子さん!」

C子 「そーだそーだ」


仁美の言葉に雷同するように、織莉子の取り巻きたちが一斉に声を上げる。

どうやら彼女たちにとって、私たちが卑怯者だということは、共通の認識のようだ。

そんな周囲の喧々囂々が鳴りやむのを待って・・・

織莉子が再び口を開いた。

どこか勿体つけたような、格下の者に教えを諭すような、そんな口調で。


織莉子 「ならば・・・教えて差し上げましょう。あなたたちがこれからなす事を。この街と、そこに住まう全ての人に対して、どれだけの許されざる所業を犯す事になるのかを、ね」

686: 2015/04/30(木) 00:22:42.16
・・・
・・・


次回予告


ほむら達のことを卑怯者と悪しざまに見下す美国織莉子。

彼女が垣間見た未来の世界で、いったいほむら達はどのような罪を犯したというのだろうか。

そして、織莉子に手を貸し、ほむら達と敵対したキュウべぇの真の目的とはいったい何か。


崩壊間近の魔女結界の中で、いくつもの謎が今、解き明かされようとしていた!


次回 ほむら「ゲッターロボ!」第八話にテレビスイッチオン!

688: 2015/04/30(木) 00:24:51.48
以上で第七話終了です。

随分と長くなってしまいましたが、おつきあい下さっている方には感謝の気持ちでいっぱいです。

もしよろしければ、次回もお目汚しをお許し下さい。

それではまた。

689: 2015/04/30(木) 00:25:19.78
乙です

引用元: ほむら「ゲッターロボ!」 第三話