145: 2015/10/27(火) 11:12:54.93
ほむら「ゲッターロボ!」第十一話


ほむら「ゲッターロボ!」第十話
146: 2015/10/27(火) 11:14:35.23
人の気配が絶えた、見滝原市の街はずれ。

人々が避難所へと退避し終え、動く者の見当たらない、そんな場所に、ただ一群。

危険をも顧みずに、集った者たちがいた。

言うまでもない、私を筆頭とした魔法少女たちと、竜馬と武蔵のゲッターチームだ。


ほむら 「いよいよだわ」


呟きながら見上げた、私の視線の先には。

耳障りな笑い声をけたたましく響かせながら、不気味な姿を空に浮かべる巨大な魔女の姿。


ほむら 「決着をつける」


それは何であろうか。問われるまでもない。


ほむら 「ワルプルギスの夜・・・!」
ゲッターロボ VOL.1 [DVD]
144: 2015/10/27(火) 11:12:22.74
小出しに再開します。

147: 2015/10/27(火) 11:16:51.43
私の側に集まり、同じく空を見つめていた面々が、口々に呟きあう。


竜馬 「あれが・・・最強最悪の魔女・・・」

武蔵 「なんて禍々しさなんだ」

マミ 「話には聞いていたけれど、あんなにも巨大だったなんて・・・」

ゆま 「こっ・・・怖い・・・」

杏子 「今さらおたおたしてるなよ。あたしたちがやるべき事は一つで、それは変わらない。やるしかないんだからさ」

ほむら 「佐倉さんの言う通りよ。手順は打ち合わせ通り。あとは・・・」


私はみんなの方に向き直ると、一人一人の顔を確認するように見つめた後で、こう言い切った。


ほむら 「勝つだけよ」

148: 2015/10/27(火) 11:19:33.04
竜馬 「言われるまでもねぇよ」


軽く笑いながら頷く竜馬に続いて、他のみんなもこくりと頷いてくれた。

そう、誰の覚悟も決まっている。

ただ、想像を絶する敵の姿を初めて見て、驚いてしまっただけなのだ。


マミ 「じゃあ、ワルプルギスは暁美さんたちに任せるわね。私たちは・・・」

ゆま 「敵の使い魔たちが街に近づかないように、やっつける役だね!」

杏子 「要はほむら達の露払いさ。わき役に徹するのは性分じゃないけれど、役割はきっちり務めるぜ」

ほむら 「わき役なんて、とんでもないわ」


私たちの目的は、見滝原市とそこの住む人々を守る事。

言語を絶する魔力に物を言わせ、無尽蔵に生み出されるワルプルギスの夜の使い魔たち。

そいつらが街の中心部・・・避難場所がある地区に到達する前にせん滅する。

とても重要な役割なのだ。主役もわき役もない。

149: 2015/10/27(火) 11:23:09.28
ほむら 「目の回るような忙しさだと思うけれど、何としてもやりきって」

杏子 「誰に向かって言ってんの?」


ふふんと、鼻で不敵に笑う杏子。


杏子 「あたしとマミのコンビに、ゆまの増援。無敵の鉄壁陣さ。まぁ、任せておきなよ。な?」

マミ 「そうね。こちらの心配より、そちらは自分たちの仕事をきちんとして?」

杏子 「だな。ワルプルギスを倒してしまわない限り、使い魔の数は減らないんだからさ」

マミ 「ま、そちらには兄もいるんだし、心配はしていないけれど」

ほむら 「ふふっ、そうね」


マミもすっかり調子を取り戻している。

こんなに心強いことは無い。

150: 2015/10/27(火) 11:26:49.16
武蔵 「それより、ほむらちゃん。ゲッターは呼び出せそうかい?」

ほむら 「あ、そうね。そちらは大丈夫みたい。問題ないわ」


今までゲッターは、魔女の結界内でしか呼び出す事ができなかった。

故に、結界を張らずに進行してくるワルプルギスに対し、その点が多少の気がかりだったのだ。

もっとも私には、きっと何の問題もないであろうことは、前から予測はついていたのだけれど。


武蔵 「呼び出す前から、分かるものなのかい?」

ほむら 「何となく、本能的にね」

杏子 「なんだよそれ、ずいぶんご都合主義的だな」

ほむら 「今さら。だってゲッターってそういうものじゃない?」

竜馬 「違いないな」

151: 2015/10/27(火) 11:31:14.30
マミ 「いずれにしても、ここら辺は間もなくワルプルギスの勢力圏に入る。だとすれば、魔女の結界にいるのも同じ」

ほむら 「ゲッターを呼び出せるのに、何の不思議もないということよ」

杏子 「はいはいっと。疑問に思った私がバカでしたー」

ゆま 「み、みんな見て・・・」


私たちの中で最も目の良いゆまが、震える声で一点を指さした。

その指先に目を凝らすと・・・


ほむら 「来た・・・」


使い魔の大群が整然と隊伍を組んで、行進するかのように侵攻してきているのが目に入った。

お話の時間はここまでだ。

152: 2015/10/27(火) 11:33:45.86

ほむら 「じゃあ、みんな。行きましょう」

杏子 「応っ!」

ゆま 「うん!」

マミ 「今夜は祝勝パーティーよ。腕によりをかけて、人数分の料理を用意してるんだから、みんな元気で今日の戦いを終なきゃダメだからね!」

ほむら 「分かってる・・・必ず・・・」


私はもう一度、みんなの顔を見回した。

誰の顔にも、不安の色は浮かんでいない。

ただ、必勝の信念に裏打ちされた、微笑があるのみ。

なにも憂うるものなどないのだ。


ほむら 「勝って、みんなで笑いあいましょう・・・!」

153: 2015/10/27(火) 11:38:01.18
・・・
・・・


避難所となった見滝原市内のとある小学校にて。

まどかは一人、廊下の窓から空を見上げていた。


まどか 「・・・」


彼女の目線の先には。

空に浮かび、恐ろしい姿をさらしている、異形の化け物があった。


まどか 「あれが・・・ワルプルギスの夜・・・」


ごく・・・

知らず知らずのうちに湧き出た生唾が、恐怖の吐息とともに彼女の喉の奥へと流れ落ちていった。

今はまだ、はるか向こうにいるワルプルギスの夜だったが、それでもこの避難場所から、その全貌がはっきりと見て取れる。

どれだけ巨大な化け物なのかが、まどかにも容易に理解できた。

154: 2015/10/27(火) 11:40:56.88
? 「まーどか」


不意の呼びかけに振り向くと、そこには一緒に避難していた美樹さやかの姿。


まどか 「さやかちゃん・・・」

さやか 「まどか、何してるの?体育館に戻らないと。パパさんたち、心配してるよ」

まどか 「ありがとう。わざわざ呼びに来てくれたんだね」

さやか 「うん、まぁ・・・」


さやかはまどかに歩み寄ると、その隣へと立った。


さやか 「窓の前で、何をしてるの?外に何かあった?」

155: 2015/10/27(火) 11:45:47.01
まどか 「うん・・・」


いわれて、まどかは再び窓の外へと視線を戻す。

・・・見上げる。

かなたの上空で異形をさらす、魔女の姿を。


さやか 「・・・?」


さやかもまどかの視線の先を追うように、窓の外へと目を向けた。

そして・・・


さやか 「っ!?」


彼女も、目の当たりにしたのだ。

・・・ワルプルギスの夜の、怨念に満ちた姿を。

156: 2015/10/27(火) 11:49:52.85
さやか 「・・・ひっ!?」


ありえない物を目にし、さやかは思わず息をのむ。


さやか 「あ、あう・・・え・・・?」


暗雲を従えるように浮かぶ巨大な化け物。

常軌を逸した存在を前に、さやかの思考が現状を認識しようとフルスピードで動き出す。

だけど・・・


さやか 「なにあれ、なにあれ、なによあれぇ・・・」


繰り言のように、同じ言葉を繰り返す以外に、さやかに為す術はなかった。

自分を納得させる答えを、自力で導きだす事ができなかったのだ。


157: 2015/10/27(火) 11:54:59.31
さやか 「・・・あっ」


ハッとして、さやかは隣にいる友人を見た。

何故まどかは、あんな意味不明の物体を見ていながら、こんなにも落ち着きはらっていられるのだろう。


さやか 「まどか、あんた・・・あれが何だか知ってるの!?」

まどか 「うん」


まどかは窓の外から視線をそらさずに、こくんとうなづきながら答えた。


さやか 「じゃ、じゃあ、なんなの、あれはっ!?」

まどか 「あ、そうか・・・」


何かを思い出したように呟くと、まどかはさやかへと向き直る。


まどか 「さやかちゃんには見えるんだよね、魔女」

さやか 「魔女!?」

158: 2015/10/27(火) 11:57:21.13
そうだった。以前にほむらから聞いたことがあったのだ。

さやかには魔法少女の素質があると。

だけれどさやかは、最大の望みを魔法少女の契約せずにかなえてしまい、キュウべぇは身を引かざるを得なくなったのだ。

だから、今でもさやかは人間のままでいられるわけなのだが。

それでも、さやかが魔法少女への高い適性を持っていることに変わりはない。


まどか 「うん、魔女。あそこにいるのはね、その中でも最強最悪の魔女なんだって」

さやか 「最強?最悪?」

まどか 「この異常気象もね、みんなあの魔女が引き起こしてるんだ」

さやか 「あんた、なに言ってるの・・・て言うか、あんなのが浮かんでるのに、なんでみんな、普通にしてるのよ」

まどか 「それはね、他の人には、見えていないから」

さやか 「・・・!?」

159: 2015/10/27(火) 12:02:00.64
まどか 「魔女ってね、一部の人にしか、その姿が見えないの。私やさやかちゃんは、その中の一人なんだって」

さやか 「え・・・え・・・?」

まどか 「だから、他の人には言わないでね。誰も信じてくれないし、騒ぎを大きくしちゃうだけだから」

さやか 「ど、どうして・・・」

まどか 「え?」

さやか 「どうしてまどか、そんな事を知ってるの・・・?」

まどか 「それは・・・」

さやか 「ううん、いい!詳しい事は後でも聞けるから!それよりも、ねぇ、あの化け物・・・」

まどか 「?」

さやか 「じょじょにだけど、こっちに向かってきてない!?」

まどか 「・・・」


それはそうだろう。ワルプルギスの夜は、この街を壊滅させようとやって来たのだ。

街の中心部である、こちらの方角へとやって来るのは、とても当然の事だった。

160: 2015/10/27(火) 12:04:19.10
さやか 「逃げなきゃ!」

まどか 「さやかちゃん」

さやか 「あんな良く分からない奴が来たら、ただじゃ済まないって事くらい、私だって分かるわよ!こんな所で、じっとなんてしていられないでしょ!」

まどか 「待って、さやかちゃん」

さやか 「それに私、行かなきゃ・・・」

まどか 「え・・・?」

さやか 「病院に行かなきゃ!」

まどか 「・・・上条君?」

さやか 「そうだよ!恭介を迎えに行かなきゃっ!」


上条の入院している病院は、この避難所よりもさらに街の中心部にある。

そこには、動く事のできな入院患者たちが多数、残されているのだ。

当然、さやかの想い人である上条恭介も・・・

161: 2015/10/27(火) 12:06:54.43
まどか 「落ち着いて、さやかちゃん」

さやか 「これが、落ち着いていられるか!」

まどか 「病院も指定避難場所になってるでしょ。安全だよ。さやかちゃんが今、外に出る方がぜったい危ないよ」

さやか 「なに言ってるの、まどか!あんな化け物がやって来るのに、避難場所も何もないでしょ!」

まどか 「だから、落ち着いて。大丈夫だから」

さやか 「何が大丈夫なの!?怖くないっていうの!?なんでまどかは、そんなに落ち着いていられるのよ!」

まどか 「私だって怖いよ・・・」


怖い。とても怖い。

恐ろしくないはずがない。

だけれど。


まどか 「怖いけど、不安じゃないから、かな」

さやか 「え・・・?」

162: 2015/10/27(火) 12:10:52.92
まどか 「さやかちゃん、大丈夫だから。私たちは、ぜったいに大丈夫なんだから」

さやか 「ど、どうして・・・?」

まどか 「守ってくれるんだ。私たちも、皆の事も・・・」

さやか 「守ってくれるって、いったい誰が・・・」

まどか 「私の・・・私たちの最高の友達が、だよ」

さやか 「私たちの・・・?それって、私も知ってる人って事?」

まどか 「うん」

さやか 「誰、それ・・・」

まどか 「・・・」

さやか 「・・・分かったよ。本当に大丈夫なのね?」

まどか 「うん。だってあの子が、約束してくれたから」

163: 2015/10/27(火) 12:13:02.79
さやか 「誰か知らないけれど、まどかはその人の事を信じているんだね。じゃあ・・・私も信じる」

まどか 「うん・・・」

さやか 「私は、その人を信じるまどかを信じる」

まどか 「さやかちゃん・・・」


その時。

遠くで、何かがはじけるような音が響いた。

続いて、ワルプルギスの体の所々で上がる爆炎と、いくつかの閃光。


さやか 「え、今のっていったい何・・・?」

まどか 「始まったんだ・・・」


まどかはそっと手を組むと、静かに目をつむった。


まどか (お願い、ほむらちゃん・・・!)


そう・・・

まどかの見守るその先で、まだ見ぬ未来を賭けた、ほむらの戦いが遂に始まったのだ!


まどか (勝って、私の元へ帰って来て・・・!)

164: 2015/10/27(火) 12:22:04.10
・・・
・・・


ほむら 「・・・」


私は、私の内にあるゲッターを現世へと顕在化させるため、意識をバックラーへと集中させていた。

・・・念じる。その想いが、ゲッターへと届いているのが分かる。


ほむら (心が・・・高ぶってくる!)


ゲッターに乗り込めるという喜びに、私の精神が歓喜の声をあげていた。

”その時”が目前に迫っていることが分かるから。


ほむら (今こそ・・・っ!)


機は熟した!

だから、私は叫ぶ。

声を・・・限りに!


ほむら 「出ろぉっ、ゲッターぁ!!」

165: 2015/10/27(火) 12:23:47.59
私の魂の呼びかけに応じ、バックラーから・・・

いいえ、私自身の中から、ゲッターロボが具現化してゆくのが分かる。

まばゆい光が周囲を包み、私の視界も白一色へと染められる。

そして・・・


ほむら 「・・・」


光が治まり、視界が回復した私がいた場所、そこは。


ほむら 「ジャガー号のコクピット・・・」


ゲッターの意思によるものか、はたまた魔法少女の力がなせる業なのか。

私はゲッターを呼び出すと同時に、そのコクピットへと座らされていたのだ。

166: 2015/10/27(火) 12:26:18.76
武蔵 『おおー、どうなってるんだ?乗り込む手間まで省けてしまうのが、この世界流なのか!?』


同じくコクピットに放り込まれていたらしい武蔵の感嘆の声が、スピーカー越しに聞こえてくる。

と、いうことは彼も・・・


竜馬 『おぜん立ては整ってるってわけか。ついでに今のゲッターの形態はゲッター1の状態だな。ちょうど良い』


武蔵のとは対照的に、どこか冷めた感のある竜馬の声も、スピーカーから流れてきた。

やっぱり。


竜馬 『敵は空の上だ。ほむら、このままゲッター1で、奴にしかけるぞ』

ほむら 「了解よ」

167: 2015/10/27(火) 12:28:22.79
竜馬 『よしっ、行くぜ!!』


竜馬の雄たけびを合図に、ゲッターがふわりと空へと浮かび上がる。

そして、そのまま加速。急激にかかるGに、私の体がシートに押し付けられる。

苦しい。だけれど、不思議とこの感覚、不快じゃない。


ほむら (いよいよだ。いよいよだ・・・!)


むしろ、ゲッターを呼び出すときに感じた歓喜が。

航空力学など無視してゲッターが加速するほどに、どんどんと。

どんどんどんどん・・・高まっていく。

168: 2015/10/27(火) 12:30:01.97
ほむら 「・・・」


ふと、モニター越しに地面に目を向けると。

こちらを見上げているマミたちの姿が、瞬く間に豆粒のように小さくなっていった。

仲間との決別だ。次に顔を会せるのは、この戦いに勝ったあと以外にはあり得ない。


ほむら (がんばって。私もがんばる)


ゲッターは征く。

強敵の待つ場所へと、無人の野を行くがごとくに。


ほむら 「待っていろ、ワルプルギス!お前のいるべき場所へと、私が送り返してあげるから!」

180: 2015/10/31(土) 13:09:49.99
・・・
・・・


マミ 「なんだか、あっけに取られてしまったわね」


瞬く間に暗雲の中へと消えていったゲッターを見送って、マミがポツリとつぶやいた。


杏子 「まぁ・・・今さらだけれどなぁ。あんなロボットが存在するって段階で、なぁ」

ゆま 「かっこいいよね!」

杏子 「お前は本当に、緊張感が足りないな」


言いながら、ゆまの頭を優しくなでる杏子。


ゆま 「えへへ・・・」

マミ 「なんだか佐倉さん、良いお姉さんね。しばらく会わないうちに、見違えちゃったのかしら」

杏子 「そんなことないさ。ただちょっと、守ってやりたい奴ができたって・・・それだけだよ」

マミ 「そっか」

ゆま 「・・・??」

181: 2015/10/31(土) 13:13:20.49
杏子 「あたしはあたしさ、あんたと出会ったころから変わらずにな」


言いながら、杏子が得物の槍を前に突き出すようにして構えた。

そうしながら、向かってくる使い魔たちの方へと視線を向ける。


杏子 「さっき、あいつらの手前、任せとけって言っちゃったけどさ」

マミ 「うん・・・?」

杏子 「・・・正直きついよな」


眼前に広がるのは、まるで壁とも見まがうほどに隙間なくひしめき合う、使い魔の群れ。


マミ 「うん。さすがにね、ここまでの大群勢だとは思わなかったから」

杏子 「だけど、ほむら達はもっとヤバい敵と戦わなくちゃならないんだ。だからあたしは・・・」

マミ 「分かってる」

杏子 「なにがさ」

マミ 「あなたのそういう、素直じゃないところ」

杏子 「・・・けっ」

182: 2015/10/31(土) 13:15:07.70
マミ 「私は案外、大丈夫じゃないかなって思ってる。勝てるわよ、きっと」

杏子 「そっちはえらく、楽天的になっちまったな」

マミ 「佐倉さんと一緒に戦えるんだもの。頼りにしているの。だから、ね」

杏子 「マミ・・・」

ゆま 「ゆまもがんばるよ!」

杏子 「ゆま・・・そうか、そうだよな。自分で言ったんだもんな、あたしたちの守りは鉄壁だって」

マミ 「そうよ」

杏子 「へへっ・・・じゃ、行こうか。あの頃みたいにさ!」

マミ 「ええ!」


マミの返事を合図として、二人の魔法少女は大挙して押し寄せる使い魔の群れへと突っ込んでいった。


ゆま 「わ、わわっ!」


少し遅れて、ゆまもそれに続く。

183: 2015/10/31(土) 13:17:42.89
マミ 「ティロ・ボレー!」


駆けながら、技の名を叫ぶマミ。

その呼びかけに応じて、彼女の背後に無数のマスケット銃が出現する。


マミ 「一気に減らすわよ!」


発射の合図とばかりに、腕を使い魔群の方向へと突き出すマミ。

とたんに響き渡る、あまたの射撃音。

瞬く間に使い魔たちは白煙に包まれ、砕かれた身体の破片が辺りに雨と飛び散った。

だが、さすがに大群だ。マミの攻撃だけで、全てを殲滅する事などできるはずがない。


杏子 「相変わらず、やるな!」


杏子は駆ける速度を上げると、まっしぐらに生き残った敵へと突っ込んでいった。

184: 2015/10/31(土) 13:19:41.39
杏子 「おらああああぁぁぁっ!!」


縦横無尽に、槍を振りまわす。

彼女が槍を一閃させるたび、一体、または複数の使い魔の身体が、もの言わぬ肉片へと変わり果ててゆく。


杏子 「お前ら、皆頃しだぜ!」


まさに鬼神のような戦いぶり。

煙る血しぶきの中、一体また一体と、杏子は使い魔を血祭りにあげていった。


マミ 「ああ、もう佐倉さんったら。あんなに深入りされちゃ、範囲攻撃ができないじゃないの」


ため息交じりのマミが、単体のマスケット銃を手に取り、使い魔の群れへと狙いを定める。

一発撃って、マスケット銃を捨てる。新たな銃で撃つ。それを繰り返す。

彼女の狙いは寸分たがわず、一発ごとに一体の使い魔を屠っていった。

185: 2015/10/31(土) 13:21:23.40
ゆま 「はぁはぁ・・・」


二人に追いついたゆまが、荒い息を弾ませながら、二人の戦いに目を凝らす。

ゆまは戦いに加わらない。彼女には彼女の役割があるから。

その時が来るまで、なるべく安全な所にいる事が、今のゆまの戦いだった。


ゆま 「・・・す、すごい」


それがマミと杏子の戦いを目の当たりにした、ゆまの偽らざる感想だった。

一糸乱れぬ二人の連携の前になす術もなく、使い魔たちは氏体の山と積まれていく。

まさに、鬼神も避ける戦いぶりだった。

だけれど・・・


ゆま 「な、なんで・・・?」


あれだけ戦っているのに。あんなにも使い魔を倒しているのに。


ゆま 「どうして、使い魔の数が減らないの!?」

186: 2015/10/31(土) 13:24:44.31
敵は倒しても倒しても、後から後からと押し寄せてくるのだ。


杏子 「さっきも言ったろ!こいつは私たちと使い魔の持久戦だ!」


ゆまの声を聞いた杏子が、戦いの手を止めずに、彼女の疑問に答える。


杏子 「ほむらたちがワルプルギスを倒さない限り、使い魔の数に弾切れはない!あたしたちは戦い続けるだけさ!」

マミ 「そうよ!私たちが力尽きるのが先か、ワルプルギスの夜が倒されるのが先か!だからゆまさん、あなたの助けがとっても重要なの、頼むわね!」

ゆま 「う、うん・・・!」


今さらながらに自分の存在意義の重さに、ゆまは覚悟と緊張をおりまぜた息を呑みこむ。

だけれど今のゆまは、よせられた期待に相応しい価値が、自分にある事を知っている。


ゆま 「分かってる・・・」


竜馬が、ほむらが、そして杏子が教えてくれたのだ。

期待には、必ず応えて見せる。


ゆま 「ゆま、がんばるよ!」

187: 2015/10/31(土) 13:28:43.78
・・・
・・・


ワルプルギスの夜へと向かって、まっしぐら。

私たちを乗せてゲッターは、猛スピードで空を駆けてゆく。

やがて、巨大で凶悪な敵の姿が、目の前へと迫ってきた。


武蔵 「・・・遠近感覚が狂いそうだ」

竜馬 「間近で見たら、こいつはバカでかいな」


驚きとも呆れともつかない声で、竜馬と武蔵が呟く。

無理もない。何度か奴とわたり合った事のある私でも、驚いている。


ほむら 「間近で見るワルプルギスは、こんなにも大きかったのね」


ゲッター1の大きさは、38メートル。

おおよそ12~3階建ての建物の高さに匹敵する。かなりの巨体だ。

だが、対する魔女の大きさはそれを凌駕していた。

それに・・・

深い青のドレスに身を包み、逆さまに空に浮かぶ、顔の上半分がない、その異形。

大きさを差し引いても、他の魔女と比べて異彩を放っている。


ほむら 「どれほどの絶望を身に宿したら、あんな姿になれるのかしら」

188: 2015/10/31(土) 13:30:36.77
竜馬 「考えていたって、仕方がないさ。今はやるだけだ。それより、ほむら」

ほむら 「なに?」

竜馬 「ソウルジェムの濁りに常に注意しておけよ。戦いに勝っても、お前が魔女化してしまっては、意味がない」

ほむら 「ありがとう、大丈夫よ」

武蔵 「じゃ、行こうぜ、二人とも!」

竜馬・ほむら 「応っ!」


ワルプルギスに突っ込みながら、トマホークを抜き放つゲッター1。

そのまま勢いを殺さず、敵の懐めがけて飛び込んでいく。

向こうも、私たちの存在に気がついたようだ。

目のない顔が、はりついた笑顔を崩さないままで、向かってくるゲッターの方へと向けられた。

待ち構えているのだ。


ほむら 「余裕ね。けど、その余裕・・・」

武蔵 「いつまで笑ったままでいられるのかなってな!」

竜馬 「奴に教えてやろうぜ、ゲッターの恐ろしさを、嫌というほどにな!」

ほむら 「ええ!」


竜馬 「うおおおおっ、喰らいやがれぇ!ゲッタァーっトマホォーーーークっ!!」

189: 2015/10/31(土) 13:37:35.66
・・・
・・・


杏子とマミたちの戦いは、間断なく続いていた。

倒しても倒しても、陸続として襲いかかってくる使い魔たち。


杏子 「本当に、キリがないな」


分かってはいた事だけれど、終わりの見えない戦いというものは想像以上に精神を消耗させる。

思わずぼやいてしまう杏子だった。


マミ 「それに・・・強いっ!」


杏子のぼやきを繋ぐように、マミが驚嘆の声を上げる。

だが、それも当然だった。

なにせ、最強最悪の魔女が産み出した使い魔なのだから。

通り一遍の使い魔とは、訳が違うのだ。


杏子 「もしかしたら、下手な魔女より、よほどやっかいかもしれないぜ」

マミ 「そうね・・・」


そんな奴らが、何十何百と押しよせてくるのだ。

街の中心部に入られてしまったら、どれほどの被害を及ぼすのか。想像だにできない。

190: 2015/10/31(土) 13:39:33.76

ゆま 「・・・」


その様子を、ゆまは黙ってみていた。

大好きな杏子と優しいマミが苦戦している。

自分も飛び込んで行って、二人と一緒に戦いたい。そんな欲求が、ゆまの小さな胸をいっぱいに満たす。

だけれど、彼女は必氏にこらえた。

飛び出しそうになる足を、懸命に地面へと縛り付けるように。


ゆま (今、ゆまが飛び出しちゃダメ。ゆまにはゆまの、やる事があるんだから!)


それにしても・・・


ゆま (やっぱり、きょーこもマミお姉ちゃんもすごい!)

191: 2015/10/31(土) 13:40:31.34
あれだけの強力な使い魔を多数相手にして、二人の戦いの手は一向に鈍る事がない。

技を繰り出し、突き、撃ち、屠る。

休むことなく、それを繰り返す。

杏子の後ろに使い魔が迫れば、マミが離れた場所から援護をし、マミの氏角から使い魔が襲いかかれば、杏子が突貫して敵を砕く。

一糸乱れぬコンビネーションとは、こういう事を言うのだろう。

今さらながらに、ゆまは二人の先輩魔法少女の実力を思い知らされていた。


ゆま (でも・・・ああ・・・)


それでも、物には限界というものがある。

圧倒的な物量が、じょじょに二人の身体に傷を刻んでゆく。

むろん、合間なく戦い続ける杏子たちに、自らの傷を修復する暇などあるはずもない。

192: 2015/10/31(土) 13:41:19.37
杏子 「そろそろだな・・・おい、マミ!」

マミ 「・・・分かってる。佐倉さん、少しの間だけお願い。がんばって!」

杏子 「任せときな!」


杏子に促されて、マミが敵の群れからゆまの待つ方へと駆けもどってきた。


ゆま 「あ、今だっ」


ゆまもマミへ向かって駆けだす。

今だった。この戦いの中で、ゆまが真価を発揮する時は。


マミ 「ゆまさんっ!」

ゆま 「うん!」


二人の距離が縮まる。頃合いと見た所で、ゆまは足を止めた。そして、意識を集中する。

マミがゆまの側へと到着した時には、すでに魔法発動の準備は完了していた。

193: 2015/10/31(土) 13:42:11.56
ゆま 「すぐ、痛いの飛んでくから!」


ゆまから魔法が解き放たれる。

暖かく淡い光が、すっぽりとマミの身体を包んだ。すると・・・


マミ 「すごい・・・瞬く間に傷が癒されていく・・・これが、ゆまさんの力・・・」


ものの数秒後には、使い魔から受けた傷がすべて完治していた。


ゆま 「これでだいじょうぶだよ!」

マミ 「ありがとう!次は佐倉さんもお願いね?」

ゆま 「うん!」


にこりと微笑みを交わし終え、マミは再び敵の群れの中へと戻っていった。

194: 2015/10/31(土) 13:45:01.34
ゆま (これが、ゆまの役目!)


実戦経験の乏しいゆま。マミたちと共に敵と戦ったところで、足手まといにしかならなかっただろう。

しかし彼女には、彼女にしかできない重要な役割を担える力が与えられていたのだ。


ゆま (仲間たちに、痛い思いはさせないよ!ゆまのこの、癒しの魔法で・・・!)


そして。

敵中に戻ったマミと入れ替わり、杏子がこちらへと駆けて来るのが見えた。

ゆまは再び、意識を集中する。


ゆま (ゆまは、みんなと一緒にいて良いんだ。ゆまにはここにいて良いだけの価値があるんだ・・・!)


その事を教えてくれたみんなに報いるためにも、自分にやれる事を精いっぱいやろう。

じょじょに大きくなってくる杏子の姿を見ながら、ゆまは決意を新たにしていた。


ゆま 「ゆまも、みんなと一緒にがんばるよ!」


そんな様子を少し離れた場所から・・・

眺めている、一群の人影があった。


? 「・・・危ういわね」

204: 2015/11/04(水) 11:51:57.26
・・・
・・・


竜馬 「トマホーク、ブーメラァアアンっ!」


竜馬の気合の一声と共に、唸りをあげてトマホークが宙を駆ける!

ワルプルギスの夜へと向かって。

そのそっ首を、一撃のもとに叩き落そうと・・・!

だけれど・・・


竜馬 「!?」


トマホークはワルプルギスに届く寸前、目に見えない壁にはじかれるように跳ね返されてしまった。


武蔵 「なんだと、バリアーか?!」

ほむら 「そうね、いわば魔法の障壁よ。ワルプルギスが魔力で張っているの」

竜馬 「味な真似を・・・早乙女研究所みたいなことをしやがるな」

ほむら 「感心してないで、ほら・・・来るわ!」


私たちを敵と認識したワルプルギスが、ゲッターに向かって攻撃を開始する。

205: 2015/11/04(水) 11:55:18.58
貼り付いた頬笑みをたたえる不気味な口から、巨大な火の玉が吐き出されたのだ。

ゲッターの身の丈ほどもあろうかという火の玉。それが、立て続けに何発も繰り出される。

まともに喰らったら、さしものゲッターだって、かなりのダメージを負うだろう事は避けられない。

だけれど竜馬は、器用に火の玉の間隙を潜り抜ける。


竜馬 「へ、そんな大ぶりな攻撃、喰らいやしないぜ!」


そうしながらゲッターは、なおもワルプルギスへの距離を縮めていった。


竜馬 「遠隔での攻撃が効かないなら、間近で強烈な一撃を見舞ってやるまでだ!」


そして・・・

ゲッターは、ワルプルギスを守る障壁の前まで辿り着く。

206: 2015/11/04(水) 12:04:38.27
遠目には分からなかったけれど、近くで見れば確かに空間に、魔法陣のような幕がかかっていることが肉眼でも見て取れた。

この膜の一枚向こうには、巨大な体をさらけ出して、不遜な敵が悠然と待ち受けているのだ。

それはまさに、ぜったい外しようのない的が浮かんでいるようなもの。


ほむら 「どうする?奴が障壁を張り替えるのを待つ?」


そう、障壁が一瞬でも消えてくれれば、超高火力の一撃を喰らわせてやる事ができるのだ。


武蔵 「そんな、いつの事かもわからないものを、悠長に待ってやる筋合いはないさ」

竜馬 「武蔵の言うとおりだ」

ほむら 「じゃあ・・・?」

竜馬 「押しとおるんだよ、俺たち流のやり方でな!」


竜馬がそう宣言するや否や、ゲッターがトマホークを構えて振り上げた。

207: 2015/11/04(水) 12:14:08.24
そして障壁へと向かって、渾身の力を込めて叩き込む。

しかし、ガインっと耳障りな音を辺りに響かせながら、トマホークはいとも簡単に弾かれてしまった。

それは、当然すぎるほどに当然の結果。


ほむら 「さっき、攻撃を弾かれたばかりじゃない。同じ事をしたって、意味ないわ」

竜馬 「お前はまだ、俺たちゲッターチームの戦い方が、飲み込め切れていないようだな」

ほむら 「じゃあ、どうするっていうの?」

竜馬 「押し通ると言ったろ、力押しでな!」


再びゲッターがトマホークを振りかざし、障壁に叩き込む。

弾かれる。

気にせず、また叩き込む。弾かれる。

叩き込む、弾かれる、叩き込む、叩き込む叩き込む叩き込むっ!!

叩 き 込 む っ !!!


竜馬 「うおおおおおっ、ゲッタートマホーク、乱れ斬りーーーーっ!!」

208: 2015/11/04(水) 12:17:17.26

ほむら 「・・・さ、さすがゲッター・・・というか、リョウね」


今までワルプルギスと戦うのに、どうすればこちらの被害が少なく勝てるのか。

効率の良い戦い方はないものか。

そんな事を考えながら戦い続けてきた私は、竜馬の取った戦法にじゃっかん引き気味。

でも、一見むちゃに見えるこの方法、確かに効果はあったようだ。


竜馬 「見ろよ」


竜馬に言われて目を凝らせば・・・

ゲッターの猛撃の前に、障壁には確かにひびが入り始めていたのだ。


ほむら 「す、すごい・・・」


正直、私は驚いた。


ほむら 「この世ならざる魔女の張った障壁を、物理的に破壊するだなんて・・・」

竜馬 「一点に集中した力ってのは、たとえ水滴のように些細なものでも、やがては岩をも穿つにいたる」

武蔵 「ましてや、こっちは無敵のゲッターロボの攻撃だぜ。壊せないものなどあるものか!」

209: 2015/11/04(水) 12:20:24.98
竜馬 「そういう事だ、おらぁっ!!!」


今や全体にひびが入り、すっかりボロボロになった障壁。

そこにゲッターが強烈な蹴りを見舞う。

たちまちガラスのように、障壁は微塵に砕け散ってしまった。


竜馬 「穿った!どうだ、押し通ったぜ!」


もはや、ゲッターとワルプルギスの間を隔てる物はない。

両者の距離は、すでに指呼の間。

だけれど、ワルプルギスもゲッターをこれ以上近づけさせたくないようだ。


ほむら 「気を付けて、奴が何かをしようとしている・・・」

竜馬 「なに・・・?」

210: 2015/11/04(水) 12:27:05.16
ワルプルギスが、その長い腕を静かに、さっと振った。

すると、周囲にそびえていたビルが4~5本。根元からへし折られ、宙に浮かびだしたのだ。

それはまさに、目を疑うような光景。

私はかつての戦いで幾度か目にしていたが、初めて見る竜馬と武蔵には、さすがに驚きの色を隠せない様子だった。


武蔵 「むちゃくちゃだ・・・」

ほむら 「気を付けて。奴はあのビル群を、ミサイルのように私たちにぶつけるつもりよ!」


私が警告の言葉を言う暇もあらばこそ、ワルプルギスが再び腕を一閃させる。

その動きに呼応して、ビル群が一挙にゲッターへと向かって、唸りをあげて襲いかかってきた。


武蔵 「距離が近すぎる!」


猛スピードで押しよせるビル群。避けきれない・・・!

仮にビルを一本避けられても、追撃してくる別のビルにぶつかってしまう。

面積が大きすぎるのだ。

211: 2015/11/04(水) 12:33:25.99
それに、ゲッター自身も大きすぎた。

かつての時間軸で生身で戦っていた頃は、飛び来るビルの上を走って、却ってワルプルギスへ近づく手段に利用したこともあったけれど。

巨大なゲッターでは、そんな芸当もできそうにない。


ほむら 「リョウっ!!」


思わず、叫んでしまう私。

だが、帰って来たのは、意外なほどに落ち着いた竜馬の声。


竜馬 「ほむら、グリーフシードを準備しておけ」


諭すように宥めるように、竜馬の声がスピーカーから流れて来る。


ほむら 「え・・・?」

竜馬 「お前の魔力、大量に使わせてもらうぞ。ここからが、お前を加えた新生ゲッターチームの真骨頂だ!」

ほむら 「う、うん・・・」


彼が何をするつもりなのかは分からない。

だけれど、一つゆるぎないもの。

それは、私の竜馬に対する信頼だ。全てを託す。戦う前から、決めていた事だもの。


ほむら 「分かったわ。どこまでもリョウについて行く・・・!」


私は頷くと、この日の為に貯めこんでいたグリーフシードの一つを、手に取ったのだった。

212: 2015/11/04(水) 12:35:21.58
・・・
・・・


見滝原市の街はずれ。

杏子やマミたちが戦っている場所から、やや街の中心部よりに。

4人の魔法少女の姿があった。

彼女たちは、空と地上。二か所で繰り広げられる戦いを固唾を呑んで見守っていた。

空の上、ゲッターとワルプルギスの戦いは始まったばかり。

対して地上の戦いは、開始されてからしばらく経っており、すでに熾烈を極めていた。


? 「佐倉杏子と巴マミ・・・・」


白いドレスに身を包んだ魔法少女が、感心したように呟く。

美国織莉子だ。


織莉子 「・・・さすがの強さね。それにと千歳ゆまのサポートも・・・」

213: 2015/11/04(水) 12:51:35.14
杏子たちと対した使い魔は、例外なくもの言わぬ骸へと変えられていく。

その手際、技量は見事という他はない。

だけれど・・・


織莉子 「多勢に無勢ね。あの二人は負けないまでも、壁の薄いところから使い魔に突破されるわよ」


事実、二人が防ぎきれない方向から、使い魔たちが街に向かって突出しようとしていた。

あわててそちらへの防戦を試みようとしているが、目の前の敵群だけで手が回らない。

圧倒的に、手が足りないのだ。

織莉子「私たちがいくしかないわね。良い?みんな」


白いドレスの少女が言いながら、後ろに控える三人に同意を求める。

214: 2015/11/04(水) 13:03:01.72
A子 「うんっ」

B子 「行こう!」

C子 「私たちの街を、あいつらの好きにさせてやんない!」


口々に賛同する三人の少女たち。

だけど、そのうちの一人が、不安な気持ちを隠せずに、言葉をつなげる。


A子 「でも・・・あの人たち、私たちを受け入れてくれるかな。一緒に戦ってくれるかな」

織莉子 「知った事ではないわ」


そんな、投げかけられた疑問を、織莉子が切って捨てるように流す。


織莉子 「私たちは私たちの戦いをするだけよ。私はこの街を守るため。あなたたちは生きるため。誰の指図も受けないわ」

A子 「う、うん・・・そうだよね」

織莉子 「じゃ、行きましょう!」


美国織莉子が走り出す。

今まさに、使い魔が突出しようとしている、激戦の場へと向かって。

その様子を、複雑な表情で見送る三人の少女。

215: 2015/11/04(水) 13:09:02.64
C子 「・・・この街は守りたいけどさ、なんで今さら、私たちがあの人の指図に従わなきゃいけないわけ?」

A子 「仕方がないよ。私たちは弱くて、自力じゃ生きていけなかったんだから」

B子 「・・・いつか強くなったら、その時は・・・」

A子 「やめようよ。今は、この戦いに勝つことだけ考えようよ」

B子 「うん・・・ごめんね」


三人は互いに頷きあうと、織莉子の後へと続いた。

釈然としない想いを抱きつつ、戦いの場に身を置かなければいけない不遇に不満を抱きながらも。

生きるために。

そして織莉子もまた。

自分に従っている少女たちの恭順が、表面的なものであることは十分承知していた。


織莉子 (当然ね。私は彼女たちを殺そうとしていたのだから)

216: 2015/11/04(水) 13:13:31.65
だけれど、それでも織莉子には、A子たちが必要だった。


織莉子(未来予知の能力を制御できない私では、いつ戦えない状態に陥ってしまうのか、自分でも分からない)


そこら辺の事は、予知では知らせてくれないのだ。なんとも不便な能力だった。


織莉子 (キリカ亡き今、私の指示とおりに戦ってくれる手駒が何としても必要・・・)


だからこの一週間、まったく使い物にならなかった三人の非力な魔法少女へ、面倒を見ながら戦いのイロハを一から教え込んだのだ。

自分の望みのために。そのために氏なせてしまった友達のためにも。

成し遂げなければいけない。なりふりなんて、構ってはいられなかった。


ゆま 「・・・え?!」


かけて来る織莉子に、一番最初に気がついたのは、千歳ゆまだった。

彼女は慌てて、杏子たちに大きな声で呼びかける。


ゆま 「きょ、きょーこ!マミお姉ちゃん!あの人が・・・あの、白い人がっ!!」

217: 2015/11/04(水) 13:20:44.33
ゆまの叫び声に振り向いた二人の目が、驚愕に大きく見開かれた。


杏子 「あ、あいつ・・・!」

マミ 「この期に及んで、何をしに来たの・・・!?」

杏子 「何を企んでやがる・・・?ゆまっ、気をつけろ!」

ゆま 「う、うええええ・・・!?」

杏子 「ちっ・・・!マミ、ここはあたしが食い止めるから、ゆまの側に!」

マミ 「ちょ、ちょっと、待って・・・あの人たち、使い魔の群れの方に・・・」

杏子 「!?」


見ると確かに、織莉子たちは杏子たちが食い止めきれなかった使い魔の一群へと、ひたすらに向かっているようだった。

そして。


織莉子 「B子さんとC子さんは、あちらの使い魔たちを!A子さんは私の補佐について!」

A子 「はいっ!」


テキパキと役割分担を済ませると、防衛戦の一翼を担い始めたのだ。


杏子 「な・・・なんだってんだ・・・?」

マミ 「考えるのは後にしましょう。なんにせよ、これで私たちは正面の敵だけに集中できる!」

杏子 「釈然としねぇなぁ・・・!」 

218: 2015/11/04(水) 13:23:23.99
・・・
・・・


そして数分ののち。

使い魔の進撃が、いったん途切れる。

何とか杏子たちは、敵の第一波を凌ぎ終える事ができたのだ。


杏子 「まったく、やれやれだぜ」


とはいえ、悠長に身体を休めている暇はない。

すでに敵の第二波がこちらへと進軍してくる様子が遠望できるのだ。

あと2、3分とせず、次の戦いへと突入しなくてはいけないだろう。


杏子 「だが、その前に・・・」


はっきりさせておかなくてはいけない事がある。

杏子は駆けだした。


マミ 「佐倉さん、どこへ!?」

杏子 「決まってるだろ!もう一つの敵の所へだよ!」

219: 2015/11/04(水) 13:25:19.35
マミ 「ちょ、ちょっと・・・もうっ!」


杏子の行き先は分かった。そんな危地へ、彼女一人でやるわけにはいかない。

やむなく、マミとゆまも後へと続く。


織莉子 「・・・」


そんな杏子たちの駆けて来る様子を、織莉子は逃げるわけでもなく、黙って待ち受けている。


杏子 「おい」

織莉子 「・・・」


目の前に杏子がやって来ても、織莉子にはまるで悪びれる様子すらない。

ただ静かな態度で、杏子や後ろのマミたちを迎えた。


織莉子 「何か御用?」

杏子 「御用?じゃねぇよ。お前いったい、何のつもりだ?」

織莉子 「何のつもりって、何が?私は見滝原の街を守りたい。だから、ここへ来たのよ」

杏子 「そういう事を言ってんじゃねぇよ。分かってんだろ・・・」

織莉子 「・・・」

220: 2015/11/04(水) 13:27:10.01
しばしの沈黙の後、相変わらず静かな調子で織莉子が口を開く。


織莉子 「予知がね、見えないのよ・・・」

杏子 「はぁ?」

織莉子 「私が行動を起こす決断の元となった、あの予知。ワルプルギスの倒れた後に、この街を覆う・・・更なる災厄のビジョンが、ね。見えなくなったの」

マミ 「それって・・・戦わずにゲッターが逃げたという、化け物のこと?」

杏子 「そういえば、そんな事も言ってたっけな。だけど見えないったって、お前の予知って自分じゃコントロールできないんだろ?」

織莉子 「ええ。だから、たまたま見えないだけなのかも知れない。けれど、私の運命だけでなく、この街の帰趨すら左右する重要な未来・・・まったく見なくなるというのも、理が通らない」

マミ 「じゃあ、なんだというの?」

織莉子 「私が気になっているのは、暁美ほむらが断言した一言。まさに、彼女の言葉通りになったのかも知れない、そう考えたのよ。つまり・・・」


織莉子 「未来が、変わったのかも・・・と」


杏子 「・・・」

マミ 「・・・」

ゆま 「・・・??」

221: 2015/11/04(水) 13:28:34.22
杏子 「け・・・だから、それを確認しに来たってわけか?恩着せかましく、あたし等の打ち損じた敵を倒しがてら、さ」

織莉子 「勘違いしないで。私の目的は、この街を守る事。未来が変わろうが変わるまいが、まずはワルプルギスの脅威を除くことは、元々の予定の内よ」

杏子 「だからって、一緒に戦えるか!お前、今まで自分が何をしてきたのか分かってるのかよ!」

マミ 「待って、佐倉さん」


いきり立つ杏子を、静かな口調でマミが諫める。


マミ 「大局を見ましょう。ここは力を合わせあうのが得策よ」

杏子 「マミ・・・?ふざけるな、あたしはごめんだ!誰がこんな奴と・・・」

マミ 「意地を張って負けてしまっては、意味がないでしょ」

杏子 「だからって、マミ!お前は許せるのかよ、こいつは自分の目的のために、どれだけの人の命を・・・」

マミ 「許せるはずがないでしょう」

杏子 「マミ・・・」


なおも食い下がろうとする杏子を、マミの毅然とした一言が制する。

222: 2015/11/04(水) 13:30:06.86
マミ 「美国さん。ここは一致協力して、敵に当たりましょう」

織莉子 「あなたは佐倉さんと違って、物分かりが良いのね」

マミ 「ただし、役割分担はしっかりしましょう。前線は私たちが担う。うち漏らした敵の始末は、あなた方にお願いしたいわ」

織莉子 「そばで戦うつもりはないと、そう言いたいのね」

マミ 「言ったでしょ?私はあなたの事をとうてい許せない。信用していないのよ」

織莉子 「・・・」

マミ 「変な真似をしたら、全力で潰すわ。使い魔と一緒にね。覚えておいて」

織莉子 「・・・ええ、承知したわ」

マミ 「佐倉さんも、それで良い?」

杏子 「あ、ああ・・・」

マミ 「じゃあ、持ち場に戻りましょ。もう次の敵が、そこまで来ているわ」


マミは織莉子たちに背を向けると、スタスタと元いた場所へと戻っていった。

杏子とゆまも、慌ててその後を追う。

残された織莉子たちは、黙ってその様子を見守る他はなかった。

223: 2015/11/04(水) 13:31:12.69
A子 「許してくれなかったね」

B子 「当然だよ。力を貸してくれるだけでも、もっけもんじゃない」

C子 「そうだね。今この場で、武器を突き付けられても、本当はおかしくなかったんだ」

A子 「うん・・・」

織莉子 「・・・」


これで良いと、織莉子は思った。

人からどう思われても、知った事ではない。さっき、A子たちにも言ったとおりだ。

そんな事よりも、今この場での協力が取り付けられただけで、彼女にとっては十分なのだ。

あとは、ゲッターがワルプルギスを倒した後、何が起こるのかを見極めるだけ。


織莉子 (もっとも、仮に新たな脅威が現れた所で、ゲッターを手にれられなかった私に打てる手なんてないのだけれど・・・)


それでもその時は、戦わなくてはいけないだろう。

だがそれも、まずは迫りくる使い魔を倒してからの話だ。


織莉子 「来たわ・・・行くわよ、みんな!」


織莉子はA子たちに指示を飛ばすと、率先して使い魔の群れへと向かって突き進んでいった。

232: 2015/11/08(日) 11:56:37.69
・・・
・・・


竜馬 「行くぞぉっ、ゲッタアァア・・・ビィーーーーームッ!!」


竜馬の叫びとともに、ゲッターの口に当たる部分から眩い光がほとばしる。

ゲッターロボの必殺技、ゲッタービームだ。

光は膨大な熱量をともなって空間を走り、迫り来るビルの一群を瞬く間に蒸発させてしまった。


ほむら 「すごい・・・」


私は、感嘆の呟きを漏らしていた。

すごい、の持つ意味は一つではない。

まずは純粋に、その威力。

ビームは複数のビルを粉砕した後も、その威力を弱めることなくワルプルギスへと向かって突き進んでいる。

そして、もう一つの意味は・・・


ほむら 「なんて魔力の消費量・・・あっという間にグリーフシード一個分のエネルギーが空だわ・・・」

233: 2015/11/08(日) 11:57:49.92
ゲッターを動かすだけでも、膨大に消費する魔力を抑える事は出来ない。

それに加えて、今の攻撃だ。長期戦になれば、いくらグリーフシードをため込んでいても、足りないだろう。


ほむら 「でも、そんな心配はないか・・・」


あんな攻撃を喰らえば、さしもの最強最悪の魔女だって、ただでは済まないに違いない・・・!


武蔵 「灰になりやがれ、ワルプルギスの夜!!」

竜馬 「・・・」

ほむら 「リョウ?どうかしたの・・・?」

竜馬 「今のゲッタービーム・・・いや、なんもない。それよりも、奴はどうなった!?」

ほむら 「もうすぐ、分かるわ」


私たちの期待に後押しされるように、今まさに・・・

ゲッタービームがワルプルギスの夜の身体へと直撃した!!

眩い光に包まれた後、たちまち白煙で覆われるワルプルギスの夜。


武蔵 「やったのか!?」

234: 2015/11/08(日) 12:00:01.38
ほむら 「・・・」


モニター越しに目を見張る。

けれど、煙越しのワルプルギスの姿は、ここからでは良く分からなかった。

煙が晴れるのを待つしかない。

私たちは固唾をのんで、その時が来るのを待った。


やがて・・・


ほむら 「リョウっ!!」


ゲッターのコクピットを震わすような叫び声を、私は思わず上げていた。

壁のように私たちとワルプルギスを隔てている白煙を突き破るように、突如として巨大な火の玉が現れたのだ。

白い壁から吐き出されたそれは、ゲッターへと一目散に向かって来る!

235: 2015/11/08(日) 12:02:06.98
竜馬 「こなくそっ!」

武蔵 「ダメだ、間に合わん!!」


二人の緊迫した声が、スピーカーから響いてくる。

次の瞬間・・・!


ほむら 「あ、あああああっ!!」


全身の骨も折れるばかりの強い衝撃が、私たちを襲った。

喰らったのだ。

ワルプルギスの夜の攻撃を、至近距離から・・・!

236: 2015/11/08(日) 12:11:16.84
ほむら 「う、ううっ・・・!」


すごかった。

もしシートベルトをしていなかったら、コクピット中の壁という壁に全身を弄ばれて、身体中の骨がバラバラになっていたに違いない。


ほむら 「そ、損害は・・・!?」


揺れが収まるのを待って、私はゲッターの破損個所を調べる。

そして・・・


ほむら 「あ・・・」


腕が・・・

ゲッターの利き腕である右手が・・・


ほむら 「右手が欠損している・・・!」

237: 2015/11/08(日) 12:12:46.22
竜馬 「やられた・・・慌てて回避したが、腕一本を持って行かれた・・・!」

武蔵 「とっさにボディーへの直撃を避けられただけ、もっけもんだ。だが・・・」

竜馬 「ああ。トマホークはもう使えないな」

ほむら 「そ、それに・・・奴が攻撃してきたということは・・・」

竜馬 「・・・」


火の玉に突き破られ、目の前の白煙がかき消されるように晴れてゆく。

はじめはシルエットにしか見えなかったワルプルギスの姿が、じょじょに明瞭になって、私たちの前へと曝されはじめる。

そして、私たちが見た物は・・・


ほむら 「嘘・・・」

武蔵 「ばかな、無傷だってのかよ!!」


攻撃を加える前といささかも変化のない、最強最悪の魔女の姿だったのだ・・・!

238: 2015/11/08(日) 12:16:42.13
武蔵 「ゲッター全力のビーム攻撃を受けても、奴からは命どころか、傷の一つもつけられなかったって言うのか・・・」

竜馬 「・・・」

武蔵 「奴は無敵なのかよ」

竜馬 「そうじゃない。効いてないはずがない」

武蔵 「・・・リョウ?」

竜馬 「武蔵、何か気がつかなかったか・・・さっきのゲッタービームだが・・・」

武蔵 「なにかって何が・・・?」

竜馬 「・・・いや、すまん。俺の気のせいかもしれん」

ほむら (リョウ・・・そういえばさっきも、何かを言いかけていたような・・・)

竜馬 「ともかく、ゲッタービームが効かないはずがないんだ。だとすれば、数・・・」

ほむら 「かず・・・?」

竜馬 「そうだ、数だ!奴が力尽きるまで、何度だって叩き込んでやるだけだ。もう一度やるぞ!」

ほむら 「・・・そうね」


確かに。

私たちには、勝つまでワルプルギスに攻撃を叩き込む以外に、進むべき道がない。

239: 2015/11/08(日) 12:21:08.04
問題は・・・


ほむら (私の魔力が持つかどうか・・・消耗戦・・・乗り越えられればいいけれど)


不安が木枯らしのように、私の心の中を吹きすぎていく。

だけれど、胸に迫るような重苦しい気持ちを、竜馬たちに悟らせてはいけない。

これは本来、私の戦いだったのだから。その私が不安がっている姿を、どうして竜馬たちに見せる事ができるだろう。


ほむら 「やってやりましょう、あいつが二度と立ち直れないほどに、徹底的に!」

竜馬 「ああ!」


再びゲッターがビームの発射準備に入る。

その間にもワルプルギスからは、間断なく火の玉の洗礼が浴びせられる。

が、もう喰らうわけにはいかない。再び攻撃を受けたら、次こそ致命傷となってしまうかも知れないのだ。


武蔵 「攻撃は竜馬に任せるんだ。俺たちは回避運動に注力しよう!」

ほむら 「わかったわ!」


三人そろって初めて、真価を発揮できるゲッターの力。

その真意は、各々の持ち回りを分担できることにあった。

今、竜馬はゲッター最大火力の一撃を、間違いなくワルプルギスに食らわすために集中している。

そのほかの事は、私と武蔵とで全力でサポートするんだ。


竜馬 「今度こそ・・・燃えて朽ちろ、ワルプルギス!!」


発射態勢の整ったゲッターから再び、ゲッタービームが放たれた!

240: 2015/11/08(日) 12:27:08.22
空気をつんざき雲を焦がしながら、ワルプルギスへ向かって光の矢のごとく驀進する!


ほむら 「今度こそ・・・!」


期待に目を見開いて、私はビームの行く先を注目する。

だけれど。


武蔵 「え・・・?」


武蔵の怪訝なつぶやきがスピーカーから漏れてきたのは、まだビームがワルプルギスへと届く前だった。

しかし、武蔵の不可解なささやきに疑問を抱く暇もなく、ビームはワルプルギスへと到着する。

先ほどと同様、盛大な激突音をともなって、閃光が辺りを真白に染め上げた。

再び煙で覆われたワルプルギスを見て、私は勝利を疑わなかった。

あのような攻撃を二度も喰らって、無事でいられるはずがないのだから。

でも・・・


ほむら 「あ・・・嘘・・・」


私の確信は、たちまち驚愕へと取って代わられる。

241: 2015/11/08(日) 12:30:05.13
煙が晴れて、再び私たちの前へと姿を現した奴の姿。それは・・・


ほむら 「また・・・またなの・・・無傷だなんて・・・またなのっ!?」


私は思わず、声を荒げていた。


ほむら 「ゲッタービームは、ゲッターロボ最強の攻撃ではなかったの?その最大火力の一撃を二度も受けて、なぜあいつは平然と存在していられるの!?」

武蔵 「・・・最大火力じゃなかったからだ」

ほむら 「!?」

武蔵 「そうだろう、リョウ。おそらく最初の攻撃の時も・・・」

竜馬 「気がついたか、武蔵。やはり、俺の気のせいではなかったんだな」

ほむら 「なに、どういうこと?まさか出力を絞ったとでもいうの?いったい、何のために・・・!?」

竜馬 「落ち着け。そんな事をするはずがないだろう。間違いなく、最大火力さ。メーターの上ではな」

ほむら 「・・・?」


私には、竜馬の言っている事の意味が分からない。

242: 2015/11/08(日) 12:34:12.49
ほむら 「分かるように言って・・・」

竜馬 「足りなかったんだよ、ゲッタービームを最大火力で発射するのにはな」

ほむら 「足りないって、何が・・・」

竜馬 「ほむら・・・お前と言う”ゲッター炉”の馬力がだ」

ほむら 「!?」


私の馬力が足らない・・・?それって・・・まさか・・・


ほむら 「だって・・・補充のエネルギーはたくさん・・・グリーフシードだってまだ余裕があるのよ・・・なのに・・・?」

竜馬 「そうじゃねぇ。もともとの入れ物の大きさの問題だったのさ。一度に貯めこめるエネルギーの量が、不足しちまってるんだ。」

ほむら 「・・・っ」

武蔵 「なんてこった。今日まで魔力を温存するあまり、魔女との戦いにゲッターを本気で戦わせてこなかったツケが、こんな形で現れるなんて・・・」

竜馬 「迂闊だった。この土壇場で、そんな根本的な事に気がつかされるとは・・・っ!」


待って・・・ちょっと待ってよ・・・


ほむら 「つまり私は、本来のゲッター炉の代わりにはならないという事?」

243: 2015/11/08(日) 12:37:53.27
竜馬 「並の魔女なら充分だったさ。だが、目の前のあいつ相手には・・・」

ほむら 「そんな事をいま言われたって!じゃあ、一体どうしたら良いというの!?」

竜馬 「・・・もう一人、魔法少女をゲッターに乗せる。お前ともう一人、二つのゲッター炉があればあるいは・・・」

ほむら 「そ、そうか・・・!」


竜馬の提示した打開案に、目の前の雲が晴れた心地がした。

だけれど、それって・・・

ちょ、ちょっと待って。


ほむら 「い、いや、だめよ、それは・・・!」


私の脳裏に、おぞましい過去がありありと蘇った。

もう一人の魔法少女をゲッターに乗せるとすれば、必然的にそれはマミか杏子・・・もしくはゆまということになる。

・・・なるのだけれど。


ほむら 「ゲッターに選ばれた以外の魔法少女を乗せたら、どうなるのか。まさか忘れたわけではないでしょう・・・?」

245: 2015/11/08(日) 12:42:35.87
そう、志筑仁美や呉キリカが、どのような最期を迎えねばならなかったのか。

なんど思い出しても胸が苦しくなる。あれと同じ事が、仲間たちで再現させてしまうかも知れないのだ。

そんな事は、ぜったいに認められないし、耐えられない。


竜馬 「・・分かっているさ。だが、他に手がない」

ほむら 「でも・・・っ、勝つために他の誰かを犠牲にするだなんて、そんなやり方じゃ・・・」


今までの・・・これまでの時間軸の自分がやって来た事と、何も変わらなくなってしまう。

そんな事、この時間軸では決して繰り返しちゃダメなんだ。


武蔵 「・・・ほむらちゃん」

竜馬 「今の火力のまま何度攻撃を加えたところで、あの化け物は倒せんぞ」

武蔵 「リョウ。もう一人、魔法少女がいればいいのか」


どこか思いつめた声で、武蔵が割って入ってきた。


ほむら 「・・・武蔵さん?」

247: 2015/11/08(日) 12:47:46.25
武蔵 「リョウ、ほんの少しの間で良い。ワルプルギスから距離を取ってくれ。攻撃が届かなくなるくらいまで」

竜馬 「しかし、そんな事をしていたら、奴がますます街へと近づいてしまうぞ」

武蔵 「全力のゲッタービームさえ撃てれば、それで勝負は決まるんだろう?なら、多少の時間のロスなんざ、問題ないはずだ」

竜馬 「武蔵。お前、何か考えが・・・まさか・・・」

武蔵 「頼むよ、リョウ」

竜馬 「・・・ああ、わかった」


竜馬が武蔵の言い分を聞き入れ、ゲッターはその場を急発進。

一時的に戦場から離脱した。


竜馬 「この辺りでいいだろう」


十分距離が取れたと判断した竜馬は、ゲッターを停止させる。


ほむら 「一体どうしたと言うの、武蔵さん。何か解決策でもあるというの?」


気ばかりが焦ってしまう私。

後方の戦場ではマミたちが、ゲッターの離脱など知らずに、今も戦い続けているのだから。

248: 2015/11/08(日) 12:50:17.65
武蔵 「・・・キュウべぇ、いるんだろ?」


だけど武蔵は、私の問いかけに答える代わりに、唐突にキュウべぇの名を呼んだ。


キュウべぇ 「呼んだかい?」


即座にイーグル号のコクピットから、スピーカーを介して流れて来る奴の声。

それはそう。今のキュウべぇには、私たちの側以外には居場所がないのだから。


竜馬 「お前、今までどこに隠れていたんだ?」

キュウべぇ 「好かれていないと分かっている以上、邪魔にならないように気配を消して、ね。ところで武蔵。僕に何か用なのかい?」


キュウべぇの質問に答えて発せられた武蔵の答えは、私には予想だにできない一言だった。


武蔵 「契約して、俺を”魔法少女”にしてくれ・・・!!」

264: 2015/11/15(日) 22:47:35.93

・・・
・・・


戦いは、まだ終わらない。

後から後からと沸いてくる使い魔を屠りながら、杏子は空を見上げて舌打ちをした。

ゲッターロボとワルプルギスの夜の戦い。

距離が遠く、ここからでは戦いの帰趨をうかがう事は不可能だった。


杏子 「まだかよ、ほむら・・・いい加減、しんどくなって来たぜ」


杏子の闘志は尽きてはいない。

しかし、終わりの見えない戦いというものは、想像以上に心と体のエネルギーを消耗させてしまう。

手持ちのグリーフシードだって無限にあるわけではない。焦りの気持ちが頭をもたげてくるのも、仕方がない事だった。

265: 2015/11/15(日) 22:49:08.74
マミ 「愚痴言わない。暁美さんたちだって、必氏に戦っているんだから」

杏子 「分かってるし、あたしたちはまだ良いさ。だけど、あっちは・・・」


杏子が顎でしゃくるように、示した先。

そこには、織莉子の指示に従って必氏に戦っている、A子たちの姿があった。


杏子 「ここから見ていたってわかるさ。そろそろ限界だ」

マミ 「ええ・・・」


確かに。

A子たちの戦いぶりには目を見張るほどの成長が見られた。

この一週間、どれほど想いで、あれだけの技量を身に着けたのか。

並大抵の苦労では済まなかったはずだ。

だけれど、所詮は”バーゲン品”の彼女たちでは、おのずと限界があった。

266: 2015/11/15(日) 22:50:40.38
杏子 「あいつらの壁、間もなく突き崩されるぞ」

マミ 「・・・」


A子 「ああっ!」


杏子 「あっ、ほら見ろ!」


杏子の懸念は、嬉しくもない事に的中してしまう。

使い魔の攻撃をかわし切れず、A子が地面にもんどりうって倒されてしまったのだ。


A子 「あ、あうう・・・」


身体を震わしたまま、起き上がる事ができないA子。

ここからでは詳しくは分からないが、かなりの痛手を負ったようだった。

だが、本来彼女を助けに入るべき織莉子たちも、自分たちの戦いに精いっぱいで手が回っていない。

このままでは、使い魔の餌食になるのも時間の問題だった。

267: 2015/11/15(日) 22:52:55.69
杏子 「・・・ゆまぁっ!!」


思わず、杏子は叫んでいた。

名を呼ばれたゆまは、一瞬で杏子の真意を理解すると、織莉子たちの方へと一目散に駆けだした。


マミ 「佐倉さん・・・あなた・・・」

杏子 「憐れんでるわけじゃねぇ。あんな奴ら、どうなったって良いのさ。あたしはただ、ほむらが・・・仲間が帰って来る場所を守りたいって、そう思ってるだけなんだ」

マミ 「・・・仲間。うん、そうね。分かってる・・・分かってるよ」

杏子 「・・・さて。ゆまが戻ってくるまで、おいそれと怪我なんかしてられないぞ?」

マミ 「ええ、心配は無用よ。私たちは私たちの戦いを続けましょう!」


そんな会話を交わしている間も、二人の手が休まる事はない。

ひっきりなしに襲い来る使い魔は、杏子たちに飛びかかるが最期、もれなく屠られ物言わぬ肉塊へと変えられていった。

彼女たちの足元には、使い魔の氏骸がいくつもの山を成して、散乱している。

まさに、凄惨な光景と言うほかはなかった。

268: 2015/11/15(日) 23:05:02.95
杏子 「おらぁっ!いい加減、腹いっぱいなんだよ!」


杏子の雄たけびの前には、使い魔の断末魔でさえもかき消されてしまう。

鬼気迫る戦いぶりとは、こういう事を言うのだろうか。

そして、織莉子たちの元へとたどり着いたゆまは、休む間もなく傷ついたA子の治療へと取り掛かっていた。


ゆま 「もう、痛くないよ?」

A子 「う・・・あなたは・・・ご、ごめんね。そして、ありがとう・・・」

ゆま 「ううん、お姉ちゃん達にもがんばってもらいたいから。だから、お礼なんていらないよ」

A子 「今日だけの事じゃなくて、この前の事も・・・助けてもらえる価値なんてないのに。だって私たち・・・」


まだ苦しい息の下から、なおも言葉を紡ごうとするA子。

だがゆまは、人差し指をA子の唇に、ふにっと押し付けて黙らせてしまった。

269: 2015/11/15(日) 23:15:37.47
A子 「むぐっ?」

ゆま 「ゆまはむずかしい事わからないから。でもね、助からなくっていい人なんていないんだよ」

A子 「けれど、だって・・・」

ゆま 「誰にだって価値があるの。みんな、ここにいて良いんだよ」

A子 「・・・っ」


込み上げて来るものに、思わず言葉を詰まらせてしまうA子。

だから、言葉で答える代わりに、彼女は一度大きく頷いた。


ゆま 「うん・・・っ」


それに対してゆまは、向日葵のような明るい顔で一度、にっこりと微笑んで見せたのだ。

270: 2015/11/15(日) 23:21:42.97
・・・
・・・


一瞬、耳を疑ってしまった。

武蔵は今、何を言ったのだろう、と。


ほむら 「武蔵さん、今・・・キュウべぇに契約してくれって・・・」


言ったの?

私がそう言い終わるのを待たずにスピーカーから返ってきたのは、、武蔵のやけに飄々とした声だった。


武蔵 「ほむらちゃん、俺は魔法少女になるよ」


どこか諦観した、そんな雰囲気を含んだ声。

だけれど・・・待って。

そんなのダメだ。認められない。


ほむら 「何を考えてるの!?私は誰も犠牲にしないで勝ちたい!そう思って戦ってきたのに・・・なのにあなたがそんな事を言ったら・・・っ!」

武蔵 「俺は犠牲になるだなんて、思っちゃいないよ」

ほむら 「・・・っ!」

271: 2015/11/15(日) 23:26:07.98
武蔵は分かっていないのだろうか。

魔法少女になるということが、どのような事なのか。

私や、他ならないマミの悩みや悲しみを見てきてなお、なぜそのような事が言えるのか。


ほむら 「正気なの・・・?魔法少女になれば、氏ぬまで魔女を狩り続けなくてはならなくなるのよ。そうしなければ生きていけないのだから」

武蔵 「良く知っているよ」

ほむら 「じゃあ、どうして?あなたの世界には魔女がいない。無事に帰れても、その先を生きてはいけない。そんな事も分からないの!?」

武蔵 「それは・・・」

ほむら 「リョウ、なぜ黙っているの?あなたからも何か言ってよ!」

竜馬 「・・・ほむら、武蔵の男気を酌んでやってくれ」

ほむら 「・・・え?」

竜馬 「武蔵は帰らない。この世界で、妹とともに果てるまで生き抜くつもりだ」

ほむら 「・・・っ」

272: 2015/11/15(日) 23:30:38.99
武蔵 「すまないな、リョウ」

竜馬 「まさか、キュウべぇと契約してまでとは思わなかったがな。妹と同じ境遇で生き抜きたい。だからだろ?」

武蔵 「ああ。このタイミングでとは思っていなかったが・・・どちらにせよ、前から決断していた事だ。だからな、ほむらちゃん」

ほむら 「・・・」

武蔵 「俺の生き様を今、ゲッターに刻み付ける。キュウべぇと契約するという形でだ」


武蔵が決意の言葉を述べる。

そこには、誰の否定も許さないという響きが込められていた。


ほむら 「武蔵さん・・・」

273: 2015/11/15(日) 23:33:49.90
男が・・・

数々の修羅場を潜り抜けてきた男が、そう言い切ったのだ。

それにさっき竜馬が武蔵の心を代弁していった一言。

妹と境遇を共にするため。


ほむら 「マミの・・・巴さんのために・・・なのね・・・」

武蔵 「そうだ」


きっとその気持ちは、一切の打算など差しはさむ余地のない、純粋な感情の現れなのだろう。

そう・・・それは私の、まどかに対する気持ちと同じ。

武蔵にとっての”まどか”こそは、巴マミなのだ。


ほむら 「・・・」


それが分かった今、どうして私にそれ以上の異を挟むことができるだろうか。

274: 2015/11/15(日) 23:37:01.28
武蔵 「心配してくれて、ありがとうな、ほむらちゃん」


私の沈黙の意味をくみ取った武蔵が、いつも通りの穏やかな口調で礼を言ってくれた。

そして・・・


武蔵 「一緒にゲッターを奮い立たせようぜ。てわけだ、キュウべぇ。契約、できるんだろう?」

キュウべぇ 「男性との契約は、僕が人類とかかわってきた悠久の歴史の中でも初めての事だ。断言はできない。けど、理屈では可能なはずだ」

武蔵 「可能なら、手っ取り早く頼むぜ。何せ、時間がないんだからな」

キュウべぇ 「・・・では、巴武蔵。君はどんな願いで、その魂を輝かせるのかい?」


キュウべぇが淡々と、契約を促す時のお決まりのセリフを言う。

それに対する武蔵の答えに、躊躇はなかった。きっと、前もって決めていた事なのだろう。


武蔵 「俺の願いは・・・」

竜馬 「・・・」

ほむら 「・・・」(ごくっ)


武蔵 「ゲッターと流竜馬を、あるべき場所へと帰す事だ!」

284: 2015/11/19(木) 00:01:36.23
竜馬 「・・・なんだと!む、武蔵っ!?」

ほむら 「え・・・」


武蔵の願いが、スピーカーを通してゲッターロボ全体に響き渡る。

その言葉の意味を理解する前に、私の魔法少女としての本能は、新たな仲間の誕生を鋭敏に感じ取っていた。

ベアー号から・・・武蔵のいる、その場所から。

魔法少女の存在感が波動となって、私の心を突き上げてきたのだ。


キュウべぇ 「契約は成立したよ」


ややあって、キュウべぇの呟くような声が聞こえてきた。

だけれど私には、キュウべぇの言葉なんか、聞く必要もなかったのだ。

だって、実感として、私には”分かる”のだから。

武蔵が、”魔法少女”となった、その事実が。

285: 2015/11/19(木) 00:02:44.05
竜馬 「武蔵・・・これがお前の言っていた、”考え”だったのか」

武蔵 「ああ、そうだ」

ほむら 「・・・」


今・・・

魔法少女 巴武蔵と言う、もう一人の”ゲッター炉”が誕生した。

それは、ゲッターロボへと流れ込むエネルギーの量が格段に増幅された事を意味する。

頭で理解するまでもない。ゲッターと繋がっている私には分かる。

今のゲッターのパワーは、私一人で支えていた時とは段違いであるということを。

そして・・・


武蔵 (ほむらちゃん)


不意に、魔法少女となった武蔵の声が、私の頭へと流れ込んできた。

286: 2015/11/19(木) 00:04:56.01
念話よりも、もっとはっきりとしたイメージをともなって。

それはきっと、ゲッターロボを介して私と武蔵が直結しているからなのだろう。


ほむら (武蔵さん・・・)


イメージの中の彼は、ヘルメットをかぶり、身体には剣道で使うような赤胴みたいなものを身に着けた、ちょっと奇妙な姿だった。


ほむら (その姿って・・・?)

武蔵 (魔法少女になったら、ほむらちゃんみたいにミニスカ姿になっちゃうんじゃないかと不安だったんだが、そうならずに済んで良かったよ)

ほむら (魔法少女の衣装は、本人が抱いているイメージや深層心理が反映されるらしいから・・・)

武蔵 (そうか。実はこの姿、元の世界でゲッターに乗っていた時にしていた格好に、よく似てるんだ。細かい所は、ちょいちょい違うけれどさ)

287: 2015/11/19(木) 00:06:59.18
ほむら (武蔵さん、私・・・)

武蔵 (ほむらちゃん、ごめん)

ほむら (え・・・?)

武蔵 (リョウの事。勝手に帰す事を願ってしまって。本当なら、君にも相談してから決めるつもりだったんだ。こんな事なら、もっと早く言っておくべきだったな)

ほむら (そんな・・・)


それは武蔵が謝る事じゃない。

竜馬自身が帰る事を望んでいるのだし、私がとやかく言えることではないのだから。


武蔵 (そうか・・・そう思ってくれているなら助かる。だけれどさ、ほむらちゃん・・・)

ほむら (・・・?)

武蔵 (とても、悲しそうな顔をしているから・・・)

ほむら (っ!)

288: 2015/11/19(木) 00:08:51.25
そうだった。

私が武蔵の姿を見ているという事は、向こうからも見えているという事。

迂闊だった。私の浮かない顔を見せてしまった。要らない心配をかけてしまった。

・・・だけど。


ほむら (・・・悲しくないはずないじゃない)


武蔵と直接つながってしまっている以上、とりつくろった嘘なんか通用するはずもない。

だから私は、本心を告げる。偽らざる本音を。


ほむら (でもね)


私には分かっているのだ。

それは、今まで竜馬と話を交わすたびに、なんども思い知らされたこと。


ほむら (結局、なるべくように、なるしかないのだって)


その事が、分かっているのだ・・・

289: 2015/11/19(木) 00:12:53.52
武蔵 (ほむらちゃん・・・)

ほむら (今はワルプルギスを倒す事だけ考えましょう。ゲッター炉が二つになったことで、グリーフシードの消費も激しくなる。だからね、次で決めるしかないわ)

武蔵 (あ、ああ!)


ゲッターと繋がっている私には、実感として分かってしまうのだ。

今のゲッターがフルパワーのゲッタービームを見舞えば、ワルプルギスといえども一たまりもないであろうことを。


ほむら 「・・・」


武蔵との邂逅を打ち切る。

かなり話し込んでいたようでいて、思念上のみのやり取りは、実は一瞬の出来事だった。

私は気を取り直すと、最後の攻撃に備え、キュウべぇに指示を出した。


ほむら 「キュウべぇ、跳躍で私の元へ来て。ここにあるグリーフシードを半分、武蔵さんの所へ運んでちょうだい」

キュウべぇ 「了解だよ」

ほむら 「リョウ。エネルギーの事は気にせず、最大出力でゲッタービームを。次の一撃は、奴を必ず沈める事ができるわ」

290: 2015/11/19(木) 00:15:03.30
竜馬 「・・・ほむら」


何かを言いたげに、私の名前を口にする竜馬。

だけれど彼は思いとどまるように、喉元まで出かかった言葉を呑みこんだようだった。

今の自分の気持ちを・・・本心を悟られないように。

ほむら 「リョウ・・・」


竜馬が何を言いたかったのか、私には何となく分かっていた。

だって、仲間なのだ。心を許しあった友達なのだ。

だけれど、私は何も言わない。黙ってリョウの次の言葉を待つ。

それがきっと、私たちにとっての最善だと信じるから。

291: 2015/11/19(木) 00:17:05.44
竜馬 「いや・・・」

ほむら 「・・・」

竜馬 「分かってるさ、ほむら。武蔵の決断、無駄にはしない」

ほむら 「ん・・・!」


竜馬の決意と、それを肯定する私の返事。

その二つを合図として、ゲッターは移動を開始した。

292: 2015/11/19(木) 00:20:08.31
・・・
・・・


時を置かずして、ゲッターロボは戦線へと復帰した。

再びワルプルギスの前へと躍り出たのだ。

キュウべぇによるグリーフシードの移動も済ませ、準備は万端ととのっていた。


ほむら 「待たせたわね、ワルプルギスの夜・・・」


聞こえるはずもないのに、私はモニターの向こうのワルプルギスに向かって、そう呟いていた。

思えば彼女との因縁も、もうずいぶんと長くなってしまった。

もっとも、この時間軸でのワルプルギスにとっては、これが私たちの初対面になるのだけれど。


ほむら 「かつてのあなたは・・・」


私は、決して返事のもたらされない問いかけを、ワルプルギスに向かって続ける。


ほむら 「いったい、何を願って魔法少女になったのかしら。

     そして、深い絶望の淵に追いやられ、あなたをその様な姿にするほどに、どれほど辛い想いをさせられたのか・・・

     きっと私には、想像もつかないほどの、悲しい目にあったのでしょうね・・・」

293: 2015/11/19(木) 00:21:29.66
ふ、と。

モニター上のワルプルギスと目が合ったような気がした。

ありえない。第一、彼女には目がないのだから。

だけれど私には、確かにワルプルギスの視線が私に向けられている、と。

そう感じたのだ。


ほむら 「・・・もう、終わりにしましょう。これ以上は苦しまないで、悲しまないで・・・」


笑みの貼り付いたワルプルギスの顔が、一瞬悲しみに歪んだように見えた。

きっと、気のせいじゃない。彼女は悲しみ続けているんだ。

私には分かる。だって目の前にいるのは、もしかしたら明日の自分の姿なのかもしれないのだから。

294: 2015/11/19(木) 00:22:29.30
ほむら 「リョウ、武蔵さん・・・」

武蔵 「ああ」

竜馬 「奴を苦しみの楔から、解き放ってやろうぜ」


ゲッターが攻撃態勢に入る。

それに気がついたワルプルギスも、迎撃のために攻撃態勢を取ろうとしていた。

再び火の玉の洗礼を、ゲッターに浴びせようというのだろう。

だけれど、私たちは意に介さない。


竜馬 「やるぜ・・・!」


竜馬がゲッタービームの発射準備に入った。

295: 2015/11/19(木) 00:25:05.55
とたんに、今までより強く、激しく。

私の体の中を、ゲッターエネルギーに変換された魔力が、駆け巡ってゆくのが感じられた。

それは堰を切って河口へと溢れ出ようとする激流のごとく、ゲッタービームの発射口へ猛烈な勢いで進んでゆく。


武蔵 「お、おお・・・これが、これがゲッターエネルギーの奔流・・・俺自身が、す、吸い込まれるようだ・・・!」

ほむら 「分かるわ、か・・・感じる・・・エネルギーが・・・私たちの魔力が・・・」


今、まさに。

一点に集中しようとしているのだ・・・!

296: 2015/11/19(木) 00:27:50.77
竜馬 「武蔵の想い、ほむらの宿願、共に戦っている仲間の未来・・・」


高ぶったエネルギーは周囲の空気を焼き、空間を陽炎の様に歪ませる。

その歪んだ景色の向こうのワルプルギスが火の玉を放つことも忘れ、怯んだようにこちらを凝視していた。

彼女の姿も、見納めだ。


竜馬 「すべてをこの一撃に乗せて、お前を撃つ!涅槃に帰れ、ワルプルギスの夜!!」


そして、竜馬は叫んだ。

私と出会ってから、最も激しく大きな声で。


竜馬 「ゲッタァアアアアア・・・ビィイイイィイーーーーーームっ!!!!」

297: 2015/11/19(木) 00:35:13.10
・・・
・・・


空に広がる眩い光を、皆は地上から見上げていた。


ほむらと因縁のあった者・・・


織莉子 「・・・あの光・・・ゲッターロボ、とうとうやったの!?」


ほむらと固い絆で結ばれた仲間。


杏子 「空が・・・まるで焼けてるようだぜ。なぁ、マミ・・・これって、ほむら達が・・・」

マミ 「ええ、間違いないと思う。先ほどまで感じていた、ワルプルギスの強大な念がかき消されるように、小さくなっていってるもの」

ゆま 「あ、ねぇ見て!使い魔たちが、勝手に倒れていくよ!!」


かつての時間軸ではほむらと敵対しながらも、ここでは友情を育む事ができた者。


さやか 「うぁ、まぶしっ!い、いったい何が起こったの、ねぇ・・・まどかぁ!」


そして・・・

ほむらがかけがえのない人だと思い、ほむらの事をかけがえのない人だと思ってくれている者・・・


まどか 「・・・ほむらちゃん」


皆がそれぞれの想いを抱きながら見守る先で。

ワルプルギスの夜は、その巨体を焼き尽くされ、灰となり果てていった。


今・・・


ほむらが願い続け、いくら手を伸ばしても届かなかった未来が・・・


ほむら 「・・・あ」


未来がすぐそこまで、やって来ているのだった。

298: 2015/11/19(木) 00:36:00.40
・・・
・・・


次回予告


一つの戦いの終わりは、同時に運命の仲間との別れでもあった。

あれほど望んだ未来が訪れた先に、あの人の姿はない。

だけれど、ほむらは知っている。

世界がどれだけ二人を隔てようと、もう二度と会う事ができなかろうと。

胸に刻んだ絆だけは、何者にも断ち切る事ができない、たった一つの真実なのだと。


次回 ほむら「ゲッターロボ! エピローグ」に、チャンネルスイッチオン!

300: 2015/11/19(木) 00:37:43.15
以上で十一話終了です。


次回でやっと完結、長々と付き合わせてしまった皆さん方には、感謝の言葉しかありません。

あと一話、もう少しだけお付き合いいただければ幸いです。

それではまた、次回で。

301: 2015/11/19(木) 00:38:19.70

いよいよ終わりか…

302: 2015/11/19(木) 00:40:38.28

303: 2015/11/19(木) 00:48:56.31
乙です

304: 2015/11/19(木) 09:20:22.33
大丈夫、ゲッターロボはGも真もネオもあるんだよ…

引用元: ほむら「ゲッターロボ!」第十話