1: 2011/04/30(土) 16:56:09.55
 良く寝た休日の朝は気持ちがいい。


 私は鏡を見た。いつも通り爆発している頭に軽く溜息をつくが、今日は
休日である。ここは休戦し、ヤツの思うまま爆発させておいてやるのが、
人情ってもんであろう。

 そして朝食に買い置きしていたドーナツを薄めのミルクコーヒーと共に
食する。うまい、うますぎる。ムフフ、これが私の生きる意味なのだ。

母「やっと起きたの純? もうお昼になるわよ」

純「はいよー、起きたのは八時。二度寝しただけ」

母「同じ事じゃない」

純「正論ですな」

4: 2011/04/30(土) 16:59:01.33
母「ホンマでっかの澤口先生?」

純「うん。似てるでしょ?」

母「あんた好きよね澤口先生」

純「ダンディですからな」

母「髪、酷いわよ」

純「分かってる」

母「親の前だからってだらしないわよ」

純「ふぁい」

6: 2011/04/30(土) 17:01:57.30
 私自慢のボンバーヘッド。それを放置する事は世間どころか肉親にさえ
許されない暴挙らしかった。こんなめんどくさい頭に産んでおいて、文句
つけるのは理不尽な気がするけど仕方ない。扶養家族はつらいよ。

 ……んん、こんなもんか。手強いが私の敵じゃなかったのであった。

 いつもの両サイドポンポンのヘアーセットが完了した。試行錯誤の結果、
私に似合い、かつボンバーを抑える一石二鳥な髪型。やっぱりこれだね。


 自分で言うのもなんだが私は割と要領がいい。人よりも特に秀でた所が
あるとは思ってないけど、無駄な事はせずピッタリと生きてるとは思う。
赤点も取った事ない。けれども、いつもスレスレっていうか、ギリギリで
生きてる感じ。それが私。

8: 2011/04/30(土) 17:05:02.89
 しかし手間をかけ折角セットしたくなると、どこかへ出かけたくなる。
私は無駄が嫌いなのだ。でもダラダラする事は好きだ。えっ、矛盾してる
って? 細かいことは気にしない、気にしない。


 とりあえず、憂に電話してみる事にする。彼女とはただの仲のいい友達
ではあるが、スキンシップ過多な所があり、抱きつかれると最高にハイな
気分ってヤツになれる。

 誤解のない様に申し上げると、私にはそのケはないのだが、彼女はその
幼顔に似合わずけしからんボディをしており、無邪気にそれを押し付けら
れると、理性がヤバイ。たまに襲い掛かりたくなる。


 ……よっし、いっちょもんでみっか。

9: 2011/04/30(土) 17:07:45.56
憂『はい、もしもし憂ですが』

 憂に電話をかける。彼女の明朗快活でハキハキした声を聞くと、私は
元気が出る。なんというか光のフォースを感じる。ごめん、自分でもなに
言ってるのか分からない。

純「ういー、暇ぁ? 今から遊び行っていい?」

憂『えぇっ、今から? ええと……』

純「あれ、なんか都合悪かった?」

憂『そうじゃないけど、多分大丈夫だと思うけど』

純「多分? じゃあいいの?」

憂『待って純ちゃんっ! 一応お姉ちゃんに確認とってみる』

10: 2011/04/30(土) 17:09:56.58
純「ちょ、ちょっと待って」


憂『お姉ちゃ~~ん、純ちゃん家に呼んでもいい~~!?』


純「憂……」

憂『いいって、純ちゃん! お姉ちゃん歓迎するって!』

純「ありがとう。でもどういう事だか説明して」

憂『あ、うん、そうだね』

純「全く、しっかりしてるようでどっか抜けてるよね、憂は」

憂『エヘヘ……ゴメンね?』

純「別に謝る事ないけど」

11: 2011/04/30(土) 17:13:07.45
憂『実は今日、梓ちゃんがお姉ちゃんにギター教えに来るんだよ』

純「ホーホー、なるほどねー」

憂『分かりましたか、ふくろう博士?』

純「私来たら、お邪魔虫ですよね?」

憂『そうだね、嬉しいなぁ』

純「どういう意味よ」

憂『だってそれなら、私が純ちゃんを独り占め出来るでしょ?』

純「ま、まぁ、手持ち無沙汰な憂の相手位してやれるか」

憂『アハハッ、そうしてくれる?』

13: 2011/04/30(土) 17:17:00.44
純「んー、じゃ気が向いたら行くわー」

憂『手薬煉引いて待ってるよ』

純「しかしまー、相変わらずシスコンですか?」

憂『う、うん、シスコンかも』

純「否定せずかっ」

憂『だって好きなんだもん』

純「でも将来とか、いつかは離れる時期が来るんだよ」


憂『将来かぁ……二人暮し出来たらいいなって』

14: 2011/04/30(土) 17:21:06.22
純「ふへぇー、それはないわぁ」

憂『あ、あるもんっ!』

純「ま、まァ、憂達ならありえなくはないかも」

憂『エヘヘッ』

純「でもさ、お姉ちゃんがお嫁に行ったらどうすんの?」

憂『おォッ、おおお姉ちゃんがお嫁に!?』

純「例え、例えばの話だって」


憂『……つ、ついてく』


純「えっ」

15: 2011/04/30(土) 17:23:54.49
憂『だってお姉ちゃんいなくなったら、私生きていけないかも知れない』

純「……」

憂『――な~んちゃって♪』

 なんという事でしょう。本人は冗談のつもりでしょうが、全く冗談に
聞こえません。これがシスコンの性なのでしょうか。

純「ちょっと思い詰めないでよっ、憂!」

憂『うん?』


純「一人が寂しくなったら私もいるでしょ? ねっ?」


憂『あ、ありがと純ちゃん』

 お母さん……この子、いつか間違いを起こさないか心配です。

24: 2011/04/30(土) 18:34:33.95
 ともあれ憂ん家へ向かう事にした私。憂と唯先輩に加え、梓もいると
なると、ツッコミのし甲斐があるというものだ。


 その道中の折、私は意外な人物と鉢合わせした。

 一際目を惹くポニーテールと巨乳を揺らして駆けて行く、我がアイドル
であり、学園のアイドルでもある、澪先輩のお姿。

 そりゃ、矢も盾もたまらず、これは声を掛けるのが、当然の振る舞いと
いえますでしょう。


純「澪先輩!!」

澪「えっ――うわァッ!?」

25: 2011/04/30(土) 18:37:04.67
 しかし澪先輩はイヤホンをつけていたらしく、私の声は届かず、あえず
に衝突してしまった。


 体格的に小さい私が景気よく吹っ飛ばされた……ものの、丁度澪先輩の
大いなる二つのエアバッグがクッションとなり、全く痛くはなかった。

 何とも言えない、ふわふわタイムな感触。これは不幸な……ウィヤ、
幸福な事故である。内心、いや実際、ほくそ笑んだ。自分の顔が相当ニヤ
けてるって、見なくても分かった。


澪「だっ、だだだっ、大丈夫ですかっ!?」


 澪先輩はそんな不純な私を気遣い、涙目になってるようにも見える。
逆に済まない気持ちになりますね、これは。

26: 2011/04/30(土) 18:40:23.46
純「全然平気です。澪先輩は?」

澪「わ、私は全然っ! 私の不注意だった! ゴメン!」

純「いえ、私が急に前に飛び出したのがいけなかったんです」

澪「本当? どっか痛むんだったら、無理しないで」

純「心配には及びませんよ、むしろ気持ちよかったですし」

澪「えっと……え?」

純「あ、あの、空を自由に飛べてるような感じだったんで?」

澪「良く分からないけど良かった?」

28: 2011/04/30(土) 18:42:48.39
純「所で私の事……」

澪「分かってる! 君はその、梓の友達の……す、すぎ」

純「そうです鈴木純です! 憶えて頂いてて光栄です!」

澪「あはは……す、鈴木さん。手貸すよ、ほら」

 澪先輩がそう言って、その白くて長くて綺麗な手を差し出した。

 思わず生唾をのみ握ってみると、やわらかいけど指はプニプニ、それで
いてじんわりと湿り気を帯びており、冷たくて気持ちがいい。


澪「あっ、ゴメンッ! 手汗ッ!」

29: 2011/04/30(土) 18:46:02.74
 むしろご褒美だというのにそんな事を言う澪先輩。かわいすぎる。私が
男なら惚れてまうやろ。いいえ、女でも。

純「いえっ! 好きですから!」

澪「は、はいっ!?」

純「汗ばんだ手の感触」

澪「えっ」

純「私乾燥肌なんで、潤ってて羨ましいです!」

澪「そ、そうなんだ……」(私に気を遣って……いい子だなぁ)

 澪先輩は黙って、私についた泥を優しくはたいてくれている。澪先輩が
私に何度も触れている。ああ、これを至福といわずして何と言う?

30: 2011/04/30(土) 18:49:40.22
 ああ、誰か時を止めて。そしてフォルダに保存して、いつでも楽しめる
ようにしてくれないかな。

 もしかしたら私、今までの人生最高のイベントを迎えているのかも知れ
ない。大袈裟でなく。


純「――あのぅ、その格好、ジョギングですか?」

 私がそう何となしに澪先輩に尋ねると、先輩は微笑んで、やんわりと
返答してくれた。

澪「うん。家で勉強してたんだけど」

純「あんまり家にこもりっきりじゃってヤツですね?」

澪「そうそう、気分転換って所」

31: 2011/04/30(土) 18:52:12.17
純「でも、イヤホンつけっぱで走るのは危ないですよ」

澪「面目ない。イヤホンつけていれば、知らない人から話かけられても
  無視できるから、癖で」

純「それってナンパとかですか?」

澪「あ、あははっ、そうなのかな?」

純「モテるのも大変だっ」

澪「モテるというか、絡まれやすいんだよ私」

純「ご謙遜を~」

澪「もう! あんまり先輩をからかうもんじゃないぞ!」

純「でもカッコいい人だったら付き合ったりとか、考えないんですか?」

32: 2011/04/30(土) 18:55:01.68
澪「ま、まだ高校生だし早いよ。興味ないし」

純「ホーホー、さすが澪先輩! ファンの事、考えていらっしゃる!」

澪「考えてるのは、自分の事だけど」

純「私ベースやってまして! 澪先輩に憧れてて!」

澪「へぇ、ベースを」

純「おこがましいですが、一度でいいから澪先輩とセッションできたら」

澪「いいよ。機会があったら、私もWベースってやってみたかったし」

純「本当ですかぁッ!?」

 澪先輩と競演できるなんて……こんなに嬉しい事はない。私は夢を叶え
る事ができるんだ。梓、いいよね。梓には唯先輩がいるもんね。

33: 2011/04/30(土) 18:58:30.65
澪「うん。所で鈴木さんってひょっとして、左利きの人?」

純「えっ、いやあの、左利きではないですけど」

澪「あ、ああ、そっか。そうだよね」

 澪先輩からの唐突な質問。しかし私はその期待に応える事は出来ず、
心なしか、澪先輩が残念そうだ。

 そこで私は間髪いれず、澪先輩に言い放った。


純「じゃあ今から私、左で練習しますっ!」


澪「え……えぇっ!? そっ、それはやめた方が!?」

35: 2011/04/30(土) 19:02:29.63
純「出来ますっ! 澪先輩に手取り足取りされれば何だって!」

澪「はいっ!?」

純「冗談です!」

澪「なんだ冗談か」

純「冗談じゃないです!」

澪「えぇっ!?」

純「ダメですか! 私じゃ澪先輩になれませんか!?」

澪「お、落ち着いて。右を左にかえるとかムチャだから」

36: 2011/04/30(土) 19:06:01.05
純「アドバイスですね?」

澪「う、うん」

純「ありがとうございます! ありがとうございます!」

澪「アハハッ、何だかおもしろい子だなぁ、鈴木さんって」

 澪先輩が私に笑いかけてくれるなら、いくらでも道化になりましょう。

純「あの――純。純って呼んでもらえませんか?」


澪「へっ? あ……えと、じゅ、純?」

純「はうぅぅっ!!」

37: 2011/04/30(土) 19:08:44.81
 何で私如きを呼び捨てする位で、ほのかに頬を赤らめてるんですか?
これが下級生が決めた、私女だけど抱かれてもいいランキン一位の実力、
噂の萌え萌えキュンってヤツですか?


 ありがとうございます、ありがとうございます。


澪「な、何で私に拝んでるの?」

純「澪先輩は女神様なので」

澪「やめてそういうの。ホントやめて」

純「程々にしておきます」

38: 2011/04/30(土) 19:12:24.75
澪「所で純は、何か用事があったんじゃない?」

純「いえっ、大した事は。ヒマなんで憂ん家行く所でしたんで」

澪「そっかー、構わせて悪かったな」

純「いえっ、出来ればずっと構いたい位で。純の心の相合傘、澪先輩には
  いつでも空いてますんで」

澪「それはさすがに私も困るぞ」

純「澪先輩が困ったら、私も困りますよ~」

澪「フフ、何だか純とは話し易いな」

純「本当ですか? 奇遇ですね、私も気が合うなって思い始めてました」

40: 2011/04/30(土) 19:16:25.11
澪「私なんかとしゃべっても、おもしろくないだろ?」

純「とんでもない。楽しくて仕方ないですよ」

澪「それは純が、勝手に盛り上げてくれてるからだよ」

純「澪先輩は人が良すぎるから、人のいい所ばかり目につくんですよ」

澪「純は私の事、美化しすぎてるんじゃないか?」

純「美しいものは美しいですから」

澪「調子いいんだから。どっかの誰かさんみたいだ」

純「澪先輩じゃなきゃ、こんなにはしゃぎませんよぉ~」

 すごい、澪先輩がこんなに私に話し掛けてきてくれてる。澪先輩の吐く
息が、私のと混ざり合っている。これは間接キスといっても差し支えある
まい。でへへ。

41: 2011/04/30(土) 19:19:46.95
澪「とにかく、憂ちゃんと約束あるんだろ? 行かなくちゃ」

純「はぁ、まぁ……澪先輩の家ってこの近くだったんですか?」

澪「う~ん、そうでもないな。結構走ってきたから」

純「じゃあ本当に偶然だったんですね」

澪「そのようですね」

純「あの、もしかしておヒマですかね?」

澪「ン~?」

純「一緒に憂の家行きませんか? 唯先輩と梓もいますし」

44: 2011/04/30(土) 19:23:32.26
澪「えっ? 突然私が行ったら迷惑じゃないかなぁ……」

純「そんな事ありませんよ、私も急だし」

澪「で、でも、ジャージだし恥ずかしい……」

純「全然カッコいいですよ。黒豹みたいで」

澪「そんな訳ないだろ、騙されないぞ」

純「ゴメンなさい。でもそんなの気にするような人達じゃないですよ」

澪「わ、分かってるさ私だって」

純「アハッ! じゃあ行きましょっ?」

48: 2011/04/30(土) 19:27:40.99
澪「ハー、全く強引だな」

純「うぅ……生意気でしたか?」

澪「勘違いするな。先輩の私が後輩に引っ張られてるってのがね?」

純「澪先輩、私っ……」


澪「もういいから。行くぞ」


純「……」

 澪先輩がそう言って私に微笑みかけ、私の手を引いた。身体中が熱く
なり、卒倒しそうになった。

50: 2011/04/30(土) 19:31:00.38
 しおらしくするなんて私らしくない。でも意識するなというのが無理。
どんだけカッコいいんですか、澪先輩は。

 ていうか何、このいいムード。これフラグ? フラグが立ったの?




















 とまあ、脳内シミュレーションでは、こういった展開になるのだが、
現実では私は澪先輩に声を掛けることすら出来ず、ただ見送るだけで
イベントは終了するのであった。

55: 2011/04/30(土) 19:54:03.34
澪「純、唯ん家ついたぞ」

純「――えっ? あ、ハイッ!」

 ……って、あれ? げ、現実? 現実だったのこれ? あまりにも妄想
爆発な展開で、リアリティがないんですが。

 ともあれ私は、憂の家に澪先輩を伴って到着した。これはちょっとした
サプライズと言えるのではないでしょうか。


憂「いらっしゃい、純ちゃんっ! 遅かった……あれっ、澪さん?」

澪「は、ははは、どうも憂ちゃん」

純「イヤー、実は途中で澪先輩とバッタリと合っちゃってぇ~!」

56: 2011/04/30(土) 19:59:51.29
憂「そうなんだ」

純「もし憂の家で遊ぶのに澪先輩もいたら、ポッキーゲームやツイスター
  で確実に盛り上がる事うけ合いでしょ。その際、密着する役得を考え
  れば、ナチュラルにムネタッチもありえるよね。とすれば、澪先輩の
  綺麗な黒髪を口に含み、堪能したとしても許されるかもという、年頃
  の少女らしい淡い期待を抱いても仕方ない。ていうか、例えその行為
  によって下心が見透かされ、澪先輩から汚物を見るかの様な蔑んだ目
  で罵倒されて唾を吐かれようとも、それはそれでご褒美じゃありませ
  んか。そこで私は足蹴にされてもすかさずスンスンする事を目標に、
  土下座で澪先輩の脚をロックし、お誘いしたという訳さぁ。ビックリ
  した?」

憂「へ、へぇ~」

 私はマシンガントークで捲くし立てた。憂は若干ひいているが、これは
照れ隠しである。彼女に澪先輩の事を説明するのが、何となくアガって
しまっていたのだ。

 いくら仏の憂相手とはいえ、私が予告もなく勝手に澪先輩を連れてきた
のは事実で、それを引け目に感じたフクザツな乙女心ってヤツだね。

58: 2011/04/30(土) 20:05:08.57
澪「えっ? なに言ってんだ?」

純「私にも分かりません」

憂「分かったよ、純ちゃん」

純「良かった」

澪「ゴメン。やっぱり突然で、迷惑だったよね?」

憂「そんな事! お姉ちゃん達も喜びますよ!」


唯「ふぁっ、純ちゃんと一緒に澪ちゃんもいる!」

梓「どうして澪先輩が!?」

 私達が玄関でもめていると、奥から唯先輩と梓もやってきた。やはり、
澪先輩に驚いている様子だ。ペロッ、これは私が空気になる予感。

59: 2011/04/30(土) 20:09:43.60
澪「やあ、唯、梓。純に誘われて来ちゃったんだ」

唯「歓迎だよ、澪ちゃん! 楽しんでって!」

梓「私も感激です!」

純「ぬははは、私の手柄だよ梓君」

憂(あれ澪先輩、今、純って呼び捨てだった?)

梓「でも澪先輩、いつの間に純と連絡とりあう仲になってたんです?」

澪「ああ、違うよ。これは単なる偶然というか」

純「福留っていうかデスティニー? なんちてなんちて!」

60: 2011/04/30(土) 20:15:52.46
唯「アラアラ、何だか澪ちゃん、純ちゃんとおでんの様ですねぇ?」

澪「意味が分からないぞ」

純「アツアツって事ですか? いやー照れる!」

梓「何バカみたいにはしゃいでるのよ」

純「おっ、妬いてますかぁ? 私の先輩ですってか? ジュワッチ!」

梓「その鶴のポーズは何なの?」

唯「何だか格ゲーっぽい! 純ちゃん後でゲームやろうよ!」

純「やりますか唯先輩!」

梓「唯先輩は私とギターの練習やるんでしょ!?」

62: 2011/04/30(土) 20:19:46.20
唯「分かってるよぉ。でも折角澪ちゃんと純ちゃんもいるんだし?」

梓「それとこれとは話が別です」

唯「ほえぇ、あずにゃんそんなに私と練習したいのー?」

梓「あ、当たり前です! 練習しなかったら私何の為に来たんですか!」

純「ふへー、耳がいてぇー、焼けるー」

澪「何も目的を持たず、ぶらりと来てすみません」

憂「熱血だね」

唯「コーチと呼ばせていただきます」

梓「な、なんなんですかもーっ!」

64: 2011/04/30(土) 20:27:29.43
 唯先輩にからかわれ、真っ赤になって照れる梓。素直ではないが顔には
出やすい。こういう所がカワイイヤツだ。

純「ほいじゃ、先生のお手並み拝見といきましょうか」

梓「ちょっ、純!」

澪「そうだな。私達は見学してるよ」

梓「澪先輩まで!?」

唯「あずにゃん、期待されてるね~」

純「唯先輩のカッコいい所も見たーいっ!」

唯「あははっ、そう? 緊張しますなぁ~、あずにゃん」

梓「全然そうは見えませんが」

67: 2011/04/30(土) 20:31:07.65
唯「よ~し、折角なんだし、二人でギターバトルしない!?」

梓「えっ……の、望む所ですよ!」

純「おおっ、何だかおもしろそう!」

澪「唯がやる気になるなんて!」

憂「頑張って、お姉ちゃん! 梓ちゃん!」

純「あれっ? これからって時に憂はどこ行くの?」

憂「私は今、みんなにお菓子作ってるから」

 そういえば憂はエプロンをしていて、仄かに甘い香りも漂わせている。
思い返せば私が憂の家に訪れた時、彼女は大体エプロン姿だった。

 全くいいお嫁さんになれるわ、この子は。むしろ、私が貰ってやりたい
くらいだ。

70: 2011/04/30(土) 20:37:30.98
純「何作ってるの?」

憂「ドーナツだけど?」

純「わああぁーっ! 私の大好物だ!」

 朝に食べたとはいえ憂の作るドーナツなら別。彼女が作るドーナツは、
プロ顔負けの絶品なのだ。

唯「私も! 私もっ!」

憂「エヘヘッ、張り切って作るからね!」

梓「憂のドーナツは本当おいしいんですよ、澪先輩」

澪「へぇー、でも私飛び込みなんだけどいいのかな?」

憂「全然! よろしかったらお土産にもどうぞ!」

 いつもの事だけど、どんだけ作るつもりだろうか。

71: 2011/04/30(土) 20:46:49.63
純「ねっ憂、私も手伝おっか?」

澪「それなら私も」

憂「あ、大丈夫です一人で。お姉ちゃん達の練習見てあげてて下さい」

純「でも私の大好物だし、もしかして私の為に?」

憂「アハハッ、たまたまドーナツの気分だったんだよー」

 確かに彼女がお菓子作りをするのは、日常茶飯事。別にうぬぼれでは
なく、ただの軽口だ。


 しかしこうもあっさり返されるのは、何だか悔しい。


 そうだ、私が来た目的。それは彼女の成長の確認ではなかったか。思い
出したら吉日、私は早速実行に移す事にした。

73: 2011/04/30(土) 20:54:28.15
純「でも憂、そんなにお菓子ばかり食べて太らない?」

澪「ハッ!? ふ、太っ!?」

憂「やだなぁ、平気だよ。常時食べてる訳じゃないもん」

純「ふぅん、確かめていい?」

憂「えっ……な、なに?」

 私はそれには答えず、やや強引に憂を抱きしめた。


憂「ひゃっ、純ちゃん! 急にどうしたの!?」


 憂は多少モゾモゾと暴れたが、それ程強い抵抗ではない。嫌がられては
いない様なので、私は憂の身体を、主に胸とお尻を中心に撫で回した。

74: 2011/04/30(土) 21:00:16.15
純「ホホー、なるほど太ってはいませんね。これは健康的な肉付きと言え
  ます。しかしこの触り心地、私とちょっと違う! やわらか過ぎる!
  掴んだ瞬間、指がニュッと吸収されてく感じ! おもしろい!」


憂「ダ、ダメッ、純ちゃん! みんなの前でっ!」


澪「あわわ……」

唯「ほぇ~」

梓「やめなよ純! 憂困ってんじゃん!」

 私の行動に、みんなが目を丸くして驚いている。思ったより憂の抵抗が
ないのと、憂の身体に触る気持ちよさの為、私は少々調子に乗り過ぎて
しまったみたいだ。

 別に彼女を傷つけたかった訳ではないので、私は照れ笑いをしながら
憂から離れ、素直に頭を下げる。

76: 2011/04/30(土) 21:05:45.41
純「ゴメンゴメン、最近憂の発育具合が気になってさぁ」

唯「純ちゃん、それでどうだったの?」

純「服の上からでも最高でした」

憂「もうっ……バカ」

唯「へぇ~、どれどれ~?」

憂「お、お姉ちゃん! めっ!」

唯「え~、純ちゃんばっかずるい~」

梓「ふ、二人共信じられません! ねっ、澪先輩?」

澪「あれっ、それで終わりなのか?」


梓「えっ」

79: 2011/04/30(土) 21:09:43.45
 さて一悶着あったものの、やはりお菓子作りはプロである憂に任せる事
にし、唯先輩と梓のギター披露会の見物と相成ったのであります。


 唯先輩は実に楽しげに演奏をする。ミスってもそれが愛嬌になって、逆
にいい味になるというか。これは見習いたいテクニックですね。

唯「ズギャギャーン!」

梓「口に出てますよ」

純「あはははっ!」

澪(ああ、私もやりたくなってきた……)

80: 2011/04/30(土) 21:14:56.09
 一方梓の演奏は安定しており、まるでCDのよう。プロみたいな熟練さを
感じさせた。

澪「梓はさすがだな」

唯「あずにゃん、やっぱりすごいなぁ」

梓「ま、まだまだです」

純「精進せいよ」

梓「……分かってるから。純に言われるとむかつくから」

 ハッキリ言えば、私はおろか唯先輩と比べても、梓の方がダントツで
上手い。そんな分かり切った事、わざわざ言うものか。

81: 2011/04/30(土) 21:19:40.23
 もっとも年下とはいえ、幼少からギターを嗜む梓と、高校生からギター
を始めた唯先輩では、経験値の差が圧倒的に違う。比較する方が間違って
いるのかも知れない。


唯「ね~ね~、純ちゃん。私はどうだった?」

純「カッコよかったですよ」

唯「えへへ……本当?」

純「本当ですよぉ」

唯「えぇ~、ハッキリ言ってもいいんだよ?」

純「私は唯先輩のギター、好きです」

唯「ふえぇ~、照れますなぁ」

82: 2011/04/30(土) 21:24:27.21
梓「調子に乗らないで下さい、また同じ所ミスしてるじゃないですか」

唯「うひゃぁ~、さすがあずにゃん! 手厳しい!」

澪「ハハハ、でも唯も良かったよ」

純「ですよね~」

唯「ワ~イ♪」

梓(わ、私だって本当は、唯先輩の良さは分かってるもん……)

純「フフッ」

 ウソではなかった。上手いのは梓だが、実際どちらを多く聴いていたい
かといえば、唯先輩の方だ。それほど唯先輩のギターには、得体の知れ
ない魅力があった。

 もっとも、私はシロウトだし、単に唯先輩の人柄に惹かれてしまってる
だけかも知れないが。

84: 2011/04/30(土) 21:32:16.65
唯「ねぇ、考えたんだけどさ、こうやって弾くとカッコよくない?」

 そう言って唯先輩は、マトリックス的なポーズでギターを構え、そして
そのままその場へ崩れ落ちるのだった。

梓「もう、そんなポーズで弾ける訳ないじゃないですか」

唯「イシシシ! 特訓だね、あずにゃん!」

梓「やりません! そんな事!」

唯「えぇ~、ぶぅ~ぶぅ~!」


純「なんだかんだ言っていいコンビだ」

澪「うんうん」

88: 2011/04/30(土) 21:37:28.93
唯「おおっ、お二人のお墨付きが出ました!」

梓「だから何ですか」

唯「ゆいあずだよ! ゆいあずー!」

梓「はいはい」


 口ではああ言ってるものの、梓は満更でもなく、表情は嬉しそうだ。

 ちょっと羨ましいかな。

純「……なんて、思ってないんだからね!」

澪「へっ?」

90: 2011/04/30(土) 21:44:33.16
純「あっ、違います! こっちはみおじゅんです!」

澪「どういう事なんだ?」

純「Wギター対Wベース、泥沼血みどろの戦いが今!」

唯「そんなっ! 何で私達が争わなきゃならないのっ!?」

純「しかし生憎エモノがないです。休戦しましょう」

唯「諦める事はないよ、純ちゃん!」

純「なんですと?」


唯「心のベースだよ! エアーでカモン!」

92: 2011/04/30(土) 21:48:52.06
純「そっか! やりましょう澪先輩!」

澪「えっ、む、無理無理無理! 絶対出来ない!」

梓「ていうか、やる必要ありませんから」

唯「あずにゃん! 絶対に負けられないんだよ!」

純「澪先輩、自分を信じて下さい!」


憂「ドーナツ出来ました! 皆さん一休みどうですか?」


 最終決戦へ向け、場が沸騰してきたその時、背後から憂が満面の笑みで
ドーナツを持って来た。

93: 2011/04/30(土) 21:51:37.89
 正直助かった。勢いで唯先輩に乗せられてみたものの、私は実際、そこ
までハジけられるキャラではないし。澪先輩や梓も、ホッと胸を撫で下ろ
している様子。


唯「わぁっ! ドーナツ、ドーナツ♪」


 唯先輩も先ほどの勢いはどこへやら、すっかりドーナツに心を奪われて
いる。いい意味で単純な人だ。

澪「憂ちゃん、ありがとう。いただきます」

憂「お飲み物は何にしますか?」

唯「私、牛乳!」

澪「じゃあコーヒーお願い、ミルク入りで」

94: 2011/04/30(土) 21:55:44.86
憂「すぐ用意しますね! 二人は?」

純「憂、今度こそ手伝うよ」

梓「私も」

憂「うん。じゃあお願いするね」

純「よし! トリオでがんばろーっ!」

梓「もうそういうノリいいから」

憂「アハハハッ」


 私達は力をあわせ、飲み物も配り終え、さてブレイク。ミルクコーヒー
と共に、憂のドーナツをいただく。

97: 2011/04/30(土) 21:59:56.34
 外はサクサク、中フワッで最高。私は思わず唸った。

純「憂は至福の一時を提供する天才だね~」

憂「あ、ありがとう、純ちゃん」

唯「はひふほいふは!」

憂「ありがとう、お姉ちゃん」

梓「甘さ控えめだし、つい食べ過ぎちゃうよ。本当おいしい」

澪「……」

憂「エヘヘッ……あれっ、澪さんはもういいんですか?」

 澪先輩は一個食べただけで、それから手をつけようとしなかった。それ
は控えめというより、何か我慢しているように思える。


澪「えっ、いやその、ドーナツはすごくおいしいんだけど、その……」

99: 2011/04/30(土) 22:04:09.26
唯「そういえば澪ちゃん、ジャージだね」

澪「今更かっ!」

梓「もしかして澪先輩、ダイエット中ですか?」

唯「エッホエッホしてたの?」

澪「うん……このままじゃマズいんだ。危険水準に突入してしまう」

純「えーっ! 澪先輩全然太ってないですって!」

 それなら私はどうなるって話だ。アウトか、ゲッツーなのか。

澪「そう見える? でも私、すごく太り易いんだ……憂ちゃんには悪い
  けど、油断したらホントやばいから」

101: 2011/04/30(土) 22:09:17.50
憂「大丈夫ですよ、澪さん。このドーナツ、実はおからなんです」

澪「おからっ!? あの食物繊維をたくさん含むという幻の食材ッ!!」

憂「幻ではないと思いますけど」

純「おからでこの味だったんだ……」

梓「一体どんな魔法を使ったというの……」

憂「やだ、大袈裟だよ梓ちゃん」

唯「おからはおかし!」


 憂すごすぎ……彼女はいつも私の予想より少し斜め上を行く。

102: 2011/04/30(土) 22:15:16.88
 私は何でもソツなくこなせるといえば聞こえはいいのだが、要するに
器用貧乏。

 その点、憂は何をやらせても標準以上、もしくはトップレベル。言うな
れば器用富豪。


 全くどういうステータス分けしたら、こんな風になるのだろう。

 私は憂の事を尊敬している。しかしそれは、彼女の才能に対してでは
なく、それだけの才能を持ちながら、嫌味ったらしさや、鼻につく所が
まるでないからだ。そこが憂の本当にすごい所だと思う。

澪「じゃ、じゃあ後一個だけ、いただこうかな」

純「あっ、澪先輩! 私が食べさせてあげますよ~」

澪「ちょっ、純! それ自分の食べかけのヤツじゃないか!」


憂「……」

104: 2011/04/30(土) 22:19:09.19
純「いいからいいから~」

唯「純ちゃんは澪ちゃんがホントに好きなんだねぇ」

梓「いいや純、あんたどうせ自分で食べきれなくなっただけでしょ?」

純「ぎくっ」

憂「な、なら私が食べるよ、それ!」

純「んっ、そう? ほんじゃ憂、あ~んして?」

憂「あ、あ~ん……」


純「やっぱ自分で食べるっ、はむ」

憂「えっ」

106: 2011/04/30(土) 22:26:08.30
 これはちょっとした悪戯心だった、その筈だったのに……憂の目に、
みるみる涙が溜まっていく。私は慌てた、予想だにしなかった事だった。


 恐らく、「もう~、純ちゃんたら! おちゃめ!」的なリアクションが
あると思っていたのに。


純「あのっ、憂、あのねっ――」


 どうしようこれどうすればいい? 動揺する私。しかし弁明のヒマさえ
与えられず、私は唐突に、憂に抱き締められていた。

純「う、憂?」

107: 2011/04/30(土) 22:34:45.98
 そして……その、憂が私に、いやらしい事をしてきたのだった。


 いや、行為自体は幼児の戯れ程度でしかなかったが、私はされる事に
耐性がなく、しかもそれが、工口とは無縁に思えた、高校生らしからぬ
無垢で純真な憂からである。

 私は自分が、顔を真っ赤にして狼狽しているのが、鏡を見るまでもなく
分かった。


純「わっ、わわわ……ういっ! ちょっとタンマッ!」

憂「ゴ、ゴメン……気持ち悪かったよね」

 私が憂を思わず突き放すと、憂は視線を落とし、謝罪した。しかしこれ
は、先ほど私が憂にしたのと同じ。気持ち悪いなんて事はない。


 むしろ憂にいじられて、私は、私は……

110: 2011/04/30(土) 22:44:37.79
純「あ、愛してるぞっ!! 憂ー!!」


 思わず口走ってしまっていた。

 みんなが呆気にとられてる中、憂はツンと顔をそむけ、吐き捨てた。

憂「な、何言ってんの……純ちゃんのバカ。知らないっ」

 そう言って憂は唯先輩の方へ逃げて行き、それから私に顔すら合わせ様
ともしなかった。何でそうなるの……まあ変な空気になりかけたし、これ
でよかったのかも知れない。


 憂は唯先輩が好きなんだし。


 あれっ、なんだろ。何かちょっと悲しいな。なんでだろ?

 おかしい、普通じゃないよこんなの。普通こそがアイディンティティー
の私が。私は平静を装った。何もとりえはないけど、これだけは得意なん
だよね。人よりも、少しだけ得意なんだ。多分ね。

112: 2011/04/30(土) 22:49:49.11
 その日は結局、憂とはぎこちないまま、軌道修正は出来なかった。私は
何もないフリをしていたが、憂は少し怒ってる感じのままだった。


 憂とこのままなんて嫌だ。翌日、私は努めていつもと変わらぬ私でいる
事を意識した。

憂「おはよー、純ちゃん」

純「あ、憂……うん」

 学校での憂は拍子抜けするほど平常通りだった。私の方が意識しすぎて
いただけかも知れないが。

 もしくは、憂が私のように、何もないフリをしているのかも知れない。
だとしたら上手だ、不気味なくらい自然だったもの。


 まあそれは、私の自意識過剰ってヤツだろうけどね。

113: 2011/04/30(土) 22:57:53.04
 それから数年後、私は憂と一緒に寮生活をしていた。憂や梓が唯先輩達
を追いかけるようにN女子大に進学し、私もそれに付き合ったのだ。

 なんだかんだ言って私は、振り回されるタイプの人間らしい。


憂「ねえ純ちゃん、今夜お姉ちゃんを夕食に呼ぼうと思ってるんだけど」

純「んー? 別にいいんじゃない」

憂「えへへ……ありがと」

純「いつもの事だしいいけどさ、いつまでお姉ちゃん子でいるんだか」

憂「あーっ、今日の純ちゃんはイジワルだ」

純「でもマジな話、唯先輩がお嫁に行ったらどうすんのよ?」


憂「えっ……そ、その時は純ちゃんが、私と一緒に暮らしてくれる?」



 おしまい。

114: 2011/04/30(土) 22:59:02.85
過程をふっとばし過ぎだろキンクリかよ

118: 2011/04/30(土) 23:19:19.62
俺達の戦いはこれからだ!乙!

引用元: 純「物好きだね、私みたいなヤツは百人位いるでしょうに」