1: 2011/09/03(土) 23:55:45.03
空が暗くなりかけた頃



田井中家の前に、浴衣姿の澪が立っていた。

澪(えいっ)

ピーンポーン

『はい?』

澪「あ、秋山澪です」

澪「えっと……りっちゃんをお迎えに来ました」

『あっ、はーい。今開けるから、待っててね』

澪「は、はい」

ガチャ

律母「いらっしゃーい」

2: 2011/09/03(土) 23:57:07.68
澪「こ、こんばんは」

律母「はい。こんばんは」

澪「あの、りっちゃんは……」

律母「あっ、ちょっと待ってね」



律母「りつー。澪ちゃんが来たわよー」

「もうすぐ行くー」

律母「早くしなさいよー」

「はーい」



律母「ごめんなさいね」

澪「い、いえ」

3: 2011/09/03(土) 23:58:11.10
律母「それにしても。澪ちゃんの浴衣姿、似合ってるわね」

澪「えっ」

律母「羨ましいわー。うんうん」

澪「あ、あの……」

律母「律にも着させてあげるべきだったかしらねぇ」

澪「えっ、りっちゃんは浴衣を着てないんですか?」

律母「ええ。あの娘ったら、私に浴衣は似合わないって言うから」

律母「だから、今日の服装も半袖半ズボンのスタイルなのよ」

澪「そうなんですか……」


ちなみに澪が着ている浴衣は、青い生地にアサガオの柄が入ったものだ。

4: 2011/09/03(土) 23:59:12.23
澪「りっちゃんは、どんな浴衣を持ってるんですか?」

律母「ん? えぇ、律のはね……」


その先を言おうとした時、二階から律が駆け降りて来る。


律「みーおちゃん、おまたせー!」

澪「あっ、りっちゃん」

律母「こら律。危ないでしょ」

律「だいじょーぶだよ」

律母「もう、本当にこの娘は……」

律「あー、澪ちゃん!」

澪「は、はい!」

5: 2011/09/04(日) 00:00:02.13
律「その浴衣!」

澪「こ、これ?」

律「すっごく、似合ってるよ!」

澪「ほんとに?」

律「うん!」

澪「あ、ありがとう」

澪は思わず照れた。

律「いいなー」

澪「あ、あんまり見ないでよー」

律「えへへ、ごめんごめん」





律「それじゃあ、おかーさん。いって来ます」

澪「いって来ます」

6: 2011/09/04(日) 00:00:38.26
律母「車には気をつけるのよ」

律「はーい」

律母「迷子にならないように、一緒に行動するのよ」

律「わかってるよー」

バタン!


律母(二人で行かせるの心配だけど)

律母(あの二人なら、大丈夫よね?)

律母「……」


律母(二人とも、楽しんでらっしゃいね)

7: 2011/09/04(日) 00:01:50.14
……

花火大会の会場に到着するなり、二人はかき氷を購入し、近くのベンチに座っていた食べていた。

律はレモン、澪はブルーハワイのかき氷だ。


律「おいひぃーね」

澪「うん」

律「澪ちゃんの、一口ちょーだい」

ひょい、ぱくっ

澪「あ」

律「おいしー! はい、澪ちゃんも」

澪「え?」

律「わたしの、一口あげる」

澪「あ、ありがとう」

ぱくっ

律「どう?」

澪「うん。おいしいよ」

律「よかった」

8: 2011/09/04(日) 00:03:11.71
……

かき氷を食べ終えた二人は、会話を弾ませながら夜店巡りをしていた。


律「えっ、澪ちゃんもう夏休みの宿題終わったの?」

澪「ドリルはね。でも、感想文と自由研究はまだだよ」

律「へー。わたしなんてさ、まだなんにも終わってないよ」

澪「だいじょーぶなの?」

律「だいじょーぶ、だいじょーぶ。まだ夏休みは半分あるから」

澪「そりゃ、そうだけど……」

律「夏休みの小学生は、毎日元気よく遊ばなきゃダメなんだよ。うんうん」

澪(それも、どうかと思うよ。りっちゃん)

律「それで、宿題はラスト一週間で終わらせるんだよ」

澪「いつもそうなの?」

律「うん」

澪(だ、だいじょーぶかなぁ)

9: 2011/09/04(日) 00:03:56.13
律「ねぇ、澪ちゃん」

澪「何?」

律「金魚すくいやろ」

澪「あっ、うん」



律「おじさん。金魚すくいやります」

「おっ、いらっしゃい。そっちのお嬢ちゃんと一緒にやるのかい?」

律「んー、どうする?」

澪「わたしはあとでいいよ。りっちゃん先にやって」

律「じゃあ、そうする」

「はいよ。じゃあ、網と容器ね」

律「ありがと」

「頑張りなよ」

律「はーい」

10: 2011/09/04(日) 00:05:43.14
澪「りっちゃん、がんばって」

律「まかせてー」


しかし、始めてみたはいいものの、思うように金魚が掬えなかった。

ようやく、一匹掬った時には、網は半分が破れた状態になっていた。


澪「もうちょっと」

律「あと少しで……やった!」

ビリッ

澪「あっ」

二匹目を掬って容器に入れる寸前、無情にも網は破けてしまった。

ポチャン

澪(あー)

11: 2011/09/04(日) 00:06:16.99
律「あー、終わっちゃった」

「残念だったね」

澪「りっちゃん……」

律「んー、ちまちましたのは苦手だなぁ」

「あはは。それじゃあ、金魚掬いは上手くならねぇぞ」

律「いいもん! 澪ちゃんががんばるから」

澪「ええー!」

「おっ、そうかい。じゃあ、そっちの黒髪のお嬢ちゃんが、仇をとるってワケだな」

律「そのとおり!」

澪「へ、へんにプレッシャーあたえないでよ」

律「澪ちゃんなら、だいじょーぶ」

澪「うぅー」

「はい。じゃあ、頑張ってね」

12: 2011/09/04(日) 00:06:57.95
律「がんばれ、澪ちゃん!」

澪(も、もう……どうなっても知らないよ)


しかし始めてみれば思いの他、金魚は掬えた。

律「おぉー」

網が破けるまで、五匹の金魚を掬うのに成功した。

澪「お、終わりました」

「すげぇーな。たいしたもんだ」

律「澪ちゃん、すごーい」

澪「ありがと」

「お嬢ちゃん達、掬った金魚はいるかい?」

澪「どうする?」

律「うーん。これから花火みるからなぁ……わたしは、いらないや」

律「おじさん。すくった金魚、水槽に戻しといてよ」

「そうかい?」

13: 2011/09/04(日) 00:08:26.75
律「澪ちゃんはどうする?」

澪「うんと、わたしもいいです」

「うん、分かった」

掬われた金魚を水槽に戻す。

律「じゃあ、おじさん。わたしたち、もう行くね」

「おう。花火、楽しんで来なよ」

澪「はい」

律「次来たら、いっぱいすくってやる」

「あはは。また、来年な」

二人「はーい」


金魚屋を後にする。

その後、二人は綿菓子や射的、型抜きをしたりして楽しんだ。


そして、そろそろ花火の打ち上げ時刻となった。

14: 2011/09/04(日) 00:09:20.09
……

二人はなんとか、見やすいポジションを確保した。

律「人が多くなって来たね」

澪「うん」

律「澪ちゃん。手、出して」

澪「どうして?」

律「いいから」

利き手の左手を出すと、律は自分の右手を出しギュッと握った。

澪「へっ」

律「こうしてれば、迷子にならなくていいよ」

澪「う、うん」

律「ぜーったい、はなさないから安心して」

澪「うん!」

澪(なんだろ。きんちょーする)


そして、周囲が静かくなった途端、空に花火が打ち上げられた。

15: 2011/09/04(日) 00:10:01.00
「おおー!」

周囲から歓声が上がる。

それを見ていた二人も、同じように歓声を上げた。

律「きれー」

澪「うん」


そこから夜空に何十発、何百発の花火が打ち上げられる。

その度、歓声は大きくなる。

二人はというと、完全に花火に魅了されていた。


その目は、とても輝いていた。

16: 2011/09/04(日) 00:11:11.07
律「ねぇ」

澪「ん?」

律「花火、見に来てよかったね」

澪「そだね」

二人はお互いを顔を見て、微笑み合った。

そして、手は握られたまま肩を寄せ合い、二人は花火を堪能した。




花火が全て打ち上げられるまで、その手が離れることはなかった。

17: 2011/09/04(日) 00:11:47.78
……

花火大会が終了すると、二人は会場を後にした。


律「いやー、楽しかった」

澪「花火、すごかったね」

律「また、来年も一緒に来ようね」

澪「うん。あっ、でも」

律「何?」

澪「来年は、りっちゃんも一緒に浴衣を着て来るんだよ」

律「えっ、どうして?」

19: 2011/09/04(日) 00:12:43.74
澪「おばさんから聞いたよ」

澪「ほんとは、りっちゃんに浴衣を着せたかったって」

律「おかーさん……」

澪「だから、来年は一緒に浴衣を着て、花火みよーね」

律「うーん。考えとく」

澪「どうして?」

律「だって、わたしに浴衣なんて似合わないし」

澪「そんなことないよ」

律「えー、黄色に百合の花が入った浴衣だよ。かわいくないよー」

澪「かわいいよ。ぜーったい、似合う」

律「よせやい」

20: 2011/09/04(日) 00:15:46.29
澪「りっちゃん」

律「んー、じゃあ」

律「わたしが大きくなったら、澪ちゃんと一緒に浴衣着て花火見に行く!」

澪「ほんとに?」

律「ほんとほんと! だから、それまで待っててよ」

澪「わたし、ちゃんと待つからね」

律「うん」

澪「じゃあ」

小指を出す。

律「ん?」

澪「約束」

律「わかった!」




「ゆびきりげんまん うそついたら はりせんぼんのーます ゆびきった!」





「約束だよ!」







澪(うーん。遅いなぁ)

21: 2011/09/04(日) 00:17:03.29
公園の入口で、澪はある人を待っていた。

澪(荷物置いたらすぐ来るって言ったのに)

澪「……バカ律」


「おーい、みおー」


澪(あっ、来た)

澪「遅いぞ」

律「わりぃ、わりぃ」

律「携帯の電池が少なくなってたから、ちょっと充電してた」

澪「ちゃんと、確認しとけよ」

律「分かってますよ」

澪「じゃあ、行こっか」

律「おう! 唯達が待ってるからな」



律「それにしてもさ」

澪「何?」

22: 2011/09/04(日) 00:18:59.90
律「澪以外と花火大会行くの、始めてじゃね?」

澪「そうだっけ?」

律「そうだよ。大概、友達はみんな田舎に帰ってていないしな」

律「中学の時も、去年までそうだったじゃないか」

澪「あぁ、そうだな」

律「始めて二人で行ったの、小四の時だっけ」

澪「うん」

律「あんとき、澪はアサガオの柄の浴衣着てたっけ」

澪「そうそう……って、あぁ!」

律「どした?」

澪「花火大会で思い出したけど」

澪「律はいつになったら私との約束を実行するんだ?」

律「約束?」

23: 2011/09/04(日) 00:20:47.14
澪「大きくなったら、私と一緒に浴衣を着て、花火に行くって」

律「あー……そんな約束……した、かな?」

澪「したよ。ちゃんと、指切りまでしたし」

律「はてな?」

澪「よく思い出してみろ」

律「んー。りっちゃんの記憶だと、そんな約束した覚えはありません!」

澪(嘘だ。絶対、覚えてる)

律「大体さ、私の浴衣姿なんてみたい奴いるの?」

澪「いるんじゃないのか?」

澪(今、お前の隣に)

律「ふーん。物好きだなぁ、そいつは」

澪「悪かったな」

律「な、なんだよー」

澪「……なんでもないよ」

澪(物好き、か)

25: 2011/09/04(日) 00:23:18.99
澪「あっ、メール」

律「誰からだ?」

澪「唯から……って、もうみんな待ってるみたいだ」

律「げっ、んじゃ急ぐか!」

澪「そ、そうだな!」




澪(結局、今年の夏も律との約束は果たされず、か)

澪(なぁ律、いつになったら、私との約束を果たしてくれるんだ?)


律「ん、なんだよ?」

澪「ふふっ、なんでもない」

律「変な澪」

澪「さっ、急ぐぞ」

律「ま、待てよ!」


澪(私はいつまでも、待ってるからな)





 わたしは大きくなったら、りっちゃんといっしょにゆかたを着て、花火を見に行きたいです。

 そしていつまでも、りっちゃんと仲良しでいたいです。





おしまい

27: 2011/09/04(日) 00:26:04.83
短いですが、これで終了です


駆け足過ぎて、全然纏まっていなくて、申し訳ないです。





次回以降、また頑張ります。



依頼の方は、後で出して置きます。



次回からは、トリつけてやります。

それでは台風が来てますが、おやすみなさい

29: 2011/09/04(日) 00:50:13.86
面白かった
乙!

引用元: 澪「約束だよ」