1: 2011/09/09(金) 18:37:34.98

梓「…何これ……手紙?」



いつもと同じように登校して靴箱を開けると、そこには一通の手紙が入れられていた。



憂「あ、ほんとだ」

梓「誰からだろう……」


表に差出人の名前はない。ただ、『中野梓さんへ』と書かれているだけだ。


純「…もしかして、ラブレターじゃない?」

梓「なっ!?」

憂「梓ちゃんモテモテだね!」

梓「な、なに言ってるのよ純! 女子高だよ?」


また純が変なことを言い出した。

4: 2011/09/09(金) 18:41:38.12

純「澪先輩のファンクラブだってあるんだし、あり得なくもないでしょ?」

梓「……ど、どうせクラスの友達とかだよ。きっとそう!」ガサガサ

そう自分に言い聞かせ、手紙の封を開けて中身を確認する。

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中野梓さんへ
 急にお手紙なんて出してごめんなさい。

あなたのことがずっと前から好きでした。
真剣にギターをひいたり、
友だちや先輩と楽しそうにしているあなたが、
可愛くてかっこよくて、見ているといつも胸がドキドキします。

わたしも女の子だけど、あなたのことが本気で好きです。
わたしの恋人になってくれませんか?

今日の放課後18時に校舎裏で待ってます。そのときにお返事を聞かせてください。
-ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー-----------------

梓「あ…あ…////」カァ

憂「きゃ~////」ドキドキ

純「ほらほらほら! 私の言った通りでしょ?」

心臓がドクドク音を立てるのが嫌と言うほど分かる。

8: 2011/09/09(金) 18:45:37.92

その後予鈴が鳴り、ホームルームに遅れないように私たちは教室に移動した。
そして休み時間になり、手紙の話を再開する。


純「で、どうするの梓?」

梓「どうするって……どんな人かも分からないし……」

憂「匿名だったもんね」


好意を向けられてうれしい反面、相手の顔も名前も分からなくて、困った気持ちでいる。

それに私は……


10: 2011/09/09(金) 18:49:01.74

純「まぁ、どうせ断るんでしょ? 梓にはもう好きな人がいるみたいだし」

梓「そ…そんなのいないよ!////」


純「バレバレなんですけど~」ニヤニヤ

憂「そうだよ?梓ちゃん」ニコニコ


憂にもバレてる? 普段態度に出ちゃってるのかな……


純「私も憂も応援してるからね。がんばれ~」

梓「うぅ……////」

13: 2011/09/09(金) 18:52:15.31





梓「それじゃ、お先に失礼します」ペコリ


澪「うん。また明日」

紬「りっちゃんと唯ちゃんも早退しちゃったし、寂しいわぁ」

澪「仕方ないさ」

バタン

放課後18時前に、前もって早退することを伝えていた私は、
澪先輩とムギ先輩を残して部室を出た。
唯先輩と律先輩も、私より少し前に用事があるとかで早退していた。
私は手紙のことで頭がいっぱいで、そのことはあまり気に留めなかった。


梓「向こうはもう来てるかな……」スタスタ


相手には悪いけど断ろう……だって私はあの人のことが……

15: 2011/09/09(金) 18:55:38.63

梓「あ……あそこにいる人かな…」


校舎裏に着くと、一人の女子生徒の後姿が目に入った。
やっぱり既に来ていたらしい。私は彼女に近付いて声をかける。


?「……」

梓「あの……」


あれ……? あの後姿……


?「……」クルッ

梓「っ!!」


振り返ったその人が誰か分かった瞬間、
心臓のドキドキがそれまでとは比べ物にならない程大きくなった。

だってその人はまさに、私が密かに思いを寄せている人だったから。

22: 2011/09/09(金) 18:58:32.45

梓「………唯先輩……?」


唯「あずにゃん……」ニコッ

梓「あ、あ…あの手紙は……唯先輩…が…?」

唯「うん…そうだよ。えへへ……」

梓(え……ええええええ!!//////)カァァ


唯先輩が私のことを……?いつから?
いつも抱きついたりしてきたのってそういう事!?

ということは……私と唯先輩は………両想い?


唯「……」ニコニコ

どうしようどうしよう……そうだ、返事を伝えなきゃ……
しかし余りの緊張で震えて、上手く声が出せない。

梓「あの…手紙の……返事ですけど…その………私でよければ…その…///」ボソッ

唯「……?」

あれ、……聞こえなかったのかな?
そう思って、もう一度伝えようとすると、先に唯先輩に言葉をかけられた。

27: 2011/09/09(金) 19:01:42.82

唯「えへへ……ごめんね?」ニコッ

梓「……え?」


ごめんね? どういう意味……?

そう思っていると、校舎の陰から一人の生徒が出てきた。
その人も、私がよく知っている人だった。


梓「…律先輩……」

律「あ~ずさ。引っ掛かった?」ニコニコ


そう言って笑っている。その表情は、いつも部でみんなにイタズラをする時と同じだった。

今の律先輩の言葉と、唯先輩の謝罪……そこから分かることは一つ……


梓「ドッキリ……」

34: 2011/09/09(金) 19:05:21.01

律「いや~ごめんな? 唯がどうしてもって言うからさ!」

唯「あずにゃん、騙してごめんね?」ニコッ

梓「……」


……なーんだ……あのラブレターも全部嘘だったのか……

そりゃそうだよね……唯先輩が私のことを……だなんてさ……


梓「…ヒック……」ポロポロ

唯「!!」

律「梓…!?」


梓「……」ダッ

律「お、おい!」

唯「あずにゃん!まって!」

38: 2011/09/09(金) 19:08:49.22

私はその場から走って逃げだした。
そのまま校門に向かうと、下校中の澪先輩とムギ先輩と鉢合わせた。
私は出来るだけ顔を背けて、2人の横を走り去る。


梓「…ウグッ…ヒック…」ダッ

澪「え…梓!?」

紬「梓ちゃん!」


唯「あずにゃん…!」ダッ

律「…ハァ…ハァ…」

紬「唯ちゃん、りっちゃん…早退したんじゃ…」

律「あぁ……うん…」

澪「一体どういうことなんだ? 今、梓泣いてたぞ?」

律「…その……実は…」

43: 2011/09/09(金) 19:12:01.01





その後、家にまっすぐ帰った私は、枕に顔を埋めて泣きじゃくっていた。

梓「…ヒック…グスッ…」ポロポロ

冗談の告白に、本気でドキドキしちゃって……両想いだなんて喜んで……そんな訳ないのに…

恥ずかしい……悲しい……


ピンポーン

梓「……」

……今は家に私しかいない。
私は涙を拭いて、玄関に向かった。

50: 2011/09/09(金) 19:16:02.61
ガチャ

梓「はい……」

唯「あ、あずにゃん……」


予想通り、唯先輩だった。
いきなり泣き出した私を気遣って、追いかけてきたんだろう。


梓「……唯先輩」

唯「あの、ごめんね……さっきの……」

梓「……」

唯「わ、わたし、そんなにあずにゃんが傷つくなんて思ってなくて……本当にごめんなさい」

梓「……」

唯「それとね、これは私が言い出したの。りっちゃんは私に頼まれただけで…!」

梓「……いいですよ、気にしてませんから」

唯「で…でも、わたしあんなイタズラであずにゃんの気持ちを……」


梓「……何勘違いしてるんですか?」

57: 2011/09/09(金) 19:19:30.29

唯「えっ……」

梓「唯先輩たちに完全に騙されちゃったのが悔しかっただけで、初めから傷付いてなんていませんし……」

唯「……」

 
梓「別に先輩に嘘の告白されたからってなんとも思いません。
  ……元々、軽音部の先輩ってだけで……唯先輩のことなんて……好きでも何でもないんですから」

唯「……っ!」ズキン

梓「用件はそれだけですか? これから宿題しなきゃいけないので」

唯「……うん……」

梓「それじゃ……」

バタン

唯「……あずにゃん……」


その後、律先輩も謝りに来たが、気にしてないと言って、すぐに帰ってもらった。

64: 2011/09/09(金) 19:22:52.04

………………………………

あずにゃんにラブレターのイタズラをしてから数日がたった。
あの日以来、部活でのあずにゃんは今までとほとんど同じ様子だったが、
明らかにわたしとは距離を置いている。

私も拒否されるのが怖くて、あずにゃんに抱きついたりは一度もしていない。


唯「バチがあたったのかな……」グスッ


あずにゃんのかわいい反応が見たくて、あんなことをやってしまった。
そのせいで、あずにゃんに嫌われてしまった。……いや、初めから嫌われてたのか。

『元々、軽音部の先輩ってだけで……唯先輩のことなんて……好きでも何でもないんですから』

あの言葉を聞いてから、わたしの心の中にはずっとよく分からない気持ちが湧き上がっていた。

68: 2011/09/09(金) 19:26:10.49

唯「……」スタスタ

梓「……」スタスタ


学校からの帰り道、二人きりになったわたし達には重い沈黙が訪れていた。
少し前までなら、あずにゃんとの楽しい時間だったのに、今はただ苦しい。



唯「…あ……」

梓「……」

気づくと、あの河原の前に来ていた。
あずにゃんと演芸大会の練習をした思い出の場所。
あの時も、あずにゃんは私と居るのが嫌で仕方なかったのかな……

71: 2011/09/09(金) 19:29:22.43

唯「あずにゃん……」


梓「……何ですか?唯先輩」

唯「ちょっといいかな? 話したいことがあるんだ……」

梓「……いいですけど」


そして私たちは河原のそばの芝生に腰を下ろした。


唯「ここ、覚えてる?ゆいあず結成した場所だよね……」

梓「……はい」

唯「私のわがままで、試験があるのにギターの練習まで……あずにゃんに付き合わせちゃって……」

梓「……」

唯「ごめんね……好きでもない私のために……」

梓「っ……」フルフル

唯「でも……わたし、そんな優しいあずにゃんが大好き。あずにゃんがわたしのこと好きじゃなくても」

74: 2011/09/09(金) 19:32:32.57

梓「…エグッ…ヒック…」ポロポロ

唯「あ、あずにゃん!? どうしたの?」オロオロ


突然泣きだしてしまったあずにゃんに声をかける。どうしよう……またこの子を泣かせてしまった。


梓「……本当ですよ……試験期間中に、演芸大会の練習なんて……常識で考えられません」グスッ


そうだよね……あずにゃんに迷惑かけちゃって、本当に駄目な先輩……


梓「でも……」

唯「……?」


梓「……お世話になってる近所のおばあさんの為に……そこまで一生懸命になって……
  唯先輩のそんなところが……私は……好きです…」

唯「え……」


好き? あずにゃんがわたしのことを……
わたし、あずにゃんに嫌われてたんじゃ……?

75: 2011/09/09(金) 19:36:03.40

梓「……私があの日泣いちゃったのは……ドッキリに引っ掛かったからじゃないんです……」

唯「……」

梓「あそこで待ってたのが……他の誰でもなくて、唯先輩だったから……」

唯「わたしだったから……?」


梓「私は……唯先輩のことが……そういう意味で好きなんです……」ジワッ

唯「……!」


あずにゃんが……わたしを……


梓「だからあの日……唯先輩の告白が嘘だと分かって…
  それがショックで……本気にして喜んでた自分がみじめで……」グスッ

唯「……」

梓「もし……私が告白を本気にしてて……唯先輩をそういう目で
  見てるって知られたら……唯先輩に拒絶されると思って、怖くて……」ポロポロ

そっか……だから……

77: 2011/09/09(金) 19:39:32.20

梓「できるだけ今まで通りにしようとしたんですけど……上手くいかなくて……」グスッ


辛い思いさせちゃったんだね……


梓「……もう…限界です……これ以上……唯先輩を嫌いなフリなんてできません……」

唯「……あずにゃん……」


梓「すみません。こんなこと言ってしまって……
  私は気持ちを伝えられれば……それでいいですから……」


それでいい……? 待ってよ……わたしはよくないよ? 
だってわたしは……


梓「それじゃ……さようなら、唯先輩……」スッ

唯「待って!!」ギュッ

わたしは立ち去ろうとしたあずにゃんにとび付き、両手で抱きしめる。

83: 2011/09/09(金) 19:43:20.18

梓「いやっ……離してください!」バタバタ


あずにゃんは普段よりもずっと強い力で抵抗する。
それでも私は、あずにゃんに行って欲しくなくて、必氏にひきとめた。


唯「ごめんね、傷つけちゃったね……」ポロポロ

梓「唯先輩……?」


自分のしてしまったことの重大さを実感して、後悔から涙が溢れる。
あずにゃんは、突然泣き出した私を見て驚いた顔をしている。


唯「ねぇ、あずにゃん……聞いてくれる? わたしの気持ち」

梓「……?」


唯「あずにゃんに嫌われちゃったと思った時から……
  ずっともやもやしてて……その気持ちが何なのか……今はっきり気づいたんだ」

梓「……」


あずにゃんに伝えたい。わたしの気持ち……

86: 2011/09/09(金) 19:46:37.19

唯「わたし……あずにゃんのことが好きだって……あずにゃんの『好き』と同じ意味の好き」

梓「っ……!」ピクッ

唯「今度は嘘なんかじゃないよ。これがわたしの本当の気持ち……」

梓「………」


唯「あずにゃん……」

そう言って、わたしはあずにゃんの顔を覗き込んだ。



梓「……そんなの信じられません」



唯「えっ……」

しかし、あずにゃんの口から出てきたのは、拒絶の言葉だった。

88: 2011/09/09(金) 19:50:18.25

梓「…ただ私に同情して言ってるだけじゃないんですか? 嘘で傷つけた負い目もあって……」

唯「ち、違う……」

梓「それとも、軽音部の空気が悪くなるのが嫌だからですか?
  だったら心配しないで下さい。今まで通り接しますから。ただの先輩後輩として」


唯「そんな……」

梓「だからもういいんです。離してください。
  ……無理して嘘の気持ちで接してもらっても辛いだけですから……」

唯「あずにゃん……嘘じゃないよ? わたし、本気であずにゃんのこと……」ジワッ

梓「……」

91: 2011/09/09(金) 19:54:12.91

信じられないのも当然かも知れない。同じ人に一度騙されて相当辛い思いをしたのだから。
でも、わたしはすぐにあずにゃんに信じてもらえる方法を思いついた。

唯「……あずにゃん。こっち向いて? 嘘じゃないって……証明するから」

梓「……?」



 チュッ

わたしは、あずにゃんの唇に自分のそれを重ねた。



梓「……!?」


あずにゃん、すごい驚いた顔してる……驚いた顔もかわいいな。
それでいてギターを弾く時はすごくかっこよくて……いつも見てるだけでドキドキして……

……なんだ。わたし、気付かなかっただけで……ずっと前からあずにゃんのこと好きだったんだ。

97: 2011/09/09(金) 19:57:20.89

梓「ゆ、唯せんぱ……んっ……」

唯「んっ…ちゅっ……好き。すきすきすき……あずにゃん大好き……」


ちゅっちゅっちゅっ……

いつの間にか夢中になってしまい、初めの目的も忘れて何度も何度もあずにゃんに口づける。


梓「……ぷはっ……! 唯……先輩……苦しい…/////」ハァハァ

唯「っ……はぁ…はぁ……////」ドキドキ


あずにゃんの抗議の声で我に返り、彼女から唇を離した。




あずにゃん、顔真っ赤だね。ふふっ……わたしの顔も今こんなになってるのかな?

100: 2011/09/09(金) 20:00:30.76

しばらく時間をおいて落ち着きを取り戻した後、
わたしはあずにゃんに話しかけた。


唯「わたし、あずにゃんのこと本気で好きだよ」

梓「唯先輩……」

唯「……信じてくれる?」

梓「……はい……すみません。疑ったりして……」ジワ

唯「ううん、いいよ……」


唯「わたし、あずにゃんのこと愛してる。……ただの先輩と後輩なんて嫌だよ」ギュ

梓「…唯…先輩……」グスッ

唯「私の恋人になってくれる?」


梓「……はい…」ポロポロ

いっぱい泣かせちゃってごめんね?

102: 2011/09/09(金) 20:03:41.61

………………………………

翌日、軽音部の先輩達や憂と純に、私と唯先輩のことをすべて報告した。
みんな前から私の気持ちには気づいてたみたいで、私たちの新しい関係をとても喜んでくれた。

梓「みなさん、ご心配をおかけしてすみませんでした」

紬「ううん、気にしないで。梓ちゃんが元気になってくれてよかったわ~」

澪「梓は悪くないよ」チラッ

律「…ホントにごめんな?梓……」

澪「全く……」

梓「いいんです。律先輩は頼まれただけですし……」

そのおかげで……


律「そ、そうだよな! それに、二人がこうなったのも私のおかげみたいなもんだし……」

澪「調子に乗るな!」ゴツン

律「いだっ……!」


久しぶりの軽音部の居心地のいい雰囲気にほっとする。
もう二度とこんな気持ちで軽音部にいられることは無いと思ってたのに……

104: 2011/09/09(金) 20:06:52.30

唯「あーずにゃん♪」ギュウッ

梓「きゃっ!?」


そんなことを考えていると、唯先輩が抱きついてきた。あぁ、幸せ……じゃなくて!


梓「ちょ、ちょっと唯先輩? みんなの前で……」ドキドキ

唯「え? 今までだってやってたでしょ?」

梓「それは、そうですけど……」


恋人同士だとなんか感じが違うというか……


唯「えへへ…でしょ? ん~」チュー

梓「きっ、キスは前からやってません!/////」グイッ

唯「あ~ん……照れなくてもいいのに~」スリスリ

梓「照れてません! もう……


なにも先輩たちの前で……二人きりの時ならいくらでも……

105: 2011/09/09(金) 20:10:08.28

紬「別に私たちの前でも気にしなくていいのよ?二人きりの時みたいに♪」ニコニコ

梓「!? こ、心の中を読まないで下さいよ!」

紬「え?」


律「……梓、声に出してたぞ…」

梓「え……」

澪「れ、練習もあるから……できれば二人きりの時にして欲しいな……/////」

梓「っ……/////」カアッ

唯「あずにゃーーーん! 分かったよ! ……ちゅーは二人きりの時にね♪////」ボソッ



梓「……う…うあぁぁぁぁぁーーー//////」



おしまい

106: 2011/09/09(金) 20:10:10.55
実はここまで全てがドッキリだったんだろ?

107: 2011/09/09(金) 20:12:56.89
乙!話は王道だけどそれが逆に良かった

引用元: 梓「…何勘違いしてるんですか?」