1: 2012/05/06(日) 20:52:53.97 ID:pcEuJl7po
晶「お前ら本当に付き合ってんのか?」
ブシツケに、トートツに晶ちゃんは言ってきた。
私の部屋で、いつも通り私にお説教しながら、そのついでに、みたいな感じで。
唯「私とりっちゃん?」
晶「ああ。ぶっちゃけお前ら、恋人らしいこと何もしてねーし」
唯「しつれーな。デートぐらいするし!」
晶「ほー、いつしたんだ?」
唯「今週末の日曜!」
晶「……今日は金曜だな」
2: 2012/05/06(日) 20:53:47.25 ID:pcEuJl7po
◆◆
唯「……というわけでりっちゃん、日曜日にデートすることになりました」
律「……デートするのはいいとして、何故その話の流れで未来の予定をでっち上げるんだ」
唯「わたしは未来に生きる女なんだよ……」
律「そうか……」
あ、フツーに呆れてる……
いや、うん、そうだよね、見栄っぱりなところあるよね私。りっちゃんなら見慣れてるはずだよね。
治さないとなーとは思ってるんだけどね……なかなか難しいのです。
律「しかしそうか、晶、そんなに私達のこと疑ってるのか」
唯「疑ってる…のかな? よくわかんないけど」
律「私にも尋ねてきたことあったんだよ。「ホントに付き合ってんのか?」って」
唯「私の時とほぼ同じ質問だね」
律「まぁ適当に「唯は私の嫁」って返したけど」
唯「オトコマエだね」
やっかいなことに、「りっちゃんならフツーに言いかねない」ってイメージが私の中にもあったりするからあまりそういうのじゃトキメかなかったりもするんだよね……
なんて言うのかな、本当にりっちゃんをオトコマエと思ってるわけじゃなくて、りっちゃんなら日頃のおふざけの延長でそれくらいのことは言いそうじゃん? なんてったって隊員だし……
3: 2012/05/06(日) 20:54:22.16 ID:pcEuJl7po
唯「というわけで! 恋人らしいことをしようよ!」
律「……うーん……」
唯「……どしたの?」
律「……いや、あのさ。私の経験上、そういうのって空回りしてロクなことにならない気がするんだ」
唯「……経験?」
律「……スマン、マンガの知識だ」
りっちゃん、私の見栄っぱり癖がうつったのかな。
それはそれでちょっと恋人っぽいけど!
律「まぁ、ものは試しだ。とりあえず日曜にデートはしよう」
唯「うん」
律「ただし、明日を使って『お互いの理想のデートプラン』を考える。それを交互に実行する。それでどうだ?」
唯「……どゆこと?」
律「私は、そんなに急ぐことはないと思ってる。けど唯は晶に言われて少し焦った。……見栄を張ったってことは、そういうことだろ?」
唯「……そう、なのかな」
よく、わかんない。
ただなんとなく、そう問われるってことは周囲から『認められてない』ような気がした……のかも。
晶ちゃんにそんなつもりはきっとないけど、晶ちゃんのズバズバ言う物言いには時々色々考えさせられるんだよね。
そういうところをフォローするために三人組なのかな、とも最初は思ったけど、中学時代は晶ちゃんもキャラ違ったらしいから普通に腐れ縁なんじゃないかな。
……あっ、晶ちゃん達のことはどうでもいいや。どうでもよくはないけど、とにかく今は私達のこと。
唯「よーするに、お互いの理想の恋人像、そしてデート像を実行してみよう、ってこと?」
律「そゆこと。それでどっちが私達に合ってるか考える」
唯「ふむふむ」
律「こういう問題はちゃんとお互いに正面から向き合うべきだと思うんだ。二人が納得できるまで」
唯「恋人だから?」
律「そう。言ってしまえばこういう話をしている時点で恋人っぽいとも言えるけど」
唯「まぁ確かに、私達が二人揃ってるのにマジメなお話しかしてないなんて珍しい光景だから説得力はあるよね」
律「自分で言うかっ」
唯「でへへ」
……でも、自分で言っておいてなんだけど、私自身もどうしたいのかはよくわかってなかったりもする。
見栄を張りたくなる程度には思うところがあった…んだと思うけど、「じゃあどんな風にしたいのか」っていうのは全然わかんない。
なんせ私達、付き合った経緯がヒジョーにアレなキッカケなものでそういうマジメなお話には縁がないのです。
4: 2012/05/06(日) 20:55:00.16 ID:pcEuJl7po
~~~
むかしむかし。
紬「好みのタイプとかある?」
唯「んー、りっちゃんみたいに一緒にいて楽しい人かなぁ」
律「そーだなー、確かに唯みたいなやつが恋人だったら毎日楽しいだろうなー」
澪「んじゃ付き合えば?」
紬「それがいい それがいいと言いました まるっ」
唯律「そーだねー」
~~~
……以上。
うん、我ながらヒドい話だったとは思うよ。
でもね、少なくとも今は恋人になれてよかったって思ってる。恋人同士になって新しい一面を発見した、とかじゃないけど、それでも恋人同士なんだからりっちゃんと私はずっと一緒にいられるんだ。
この関係が続く限り一緒にいられて、一緒に笑ってられる。それなら恋人であることが嬉しくないはずないよ。
……それでも、やっぱり私はどこかに不満があったのかな?
晶ちゃんに言われて見栄を張り、りっちゃんに「恋人らしいことをしよう」って言うくらいには、恋人らしさが欲しかったのかな?
……わかんない。わかんないけど、今はとにかく、珍しく頭を働かせて日曜のデートの段取りを考えよう。
「正面から向き合おう」ってりっちゃんは言ったんだから。私もウジウジ悩むよりは考えてること全部ぶつけてみよう、このデートプランに。
5: 2012/05/06(日) 20:55:39.92 ID:pcEuJl7po
◆◆
そうしてマンガのデートシーンとかを参考にして、どうにか私のデートプランは完成したんだけど。
律「じゃーんけんぽんっ!」グー
唯「ぽんっ!」チョキ
律「よぉーし、私の勝ちー! 先攻もーらいっ!」
唯「うわーーん」
と、私のデートプランは後攻になってしまいました……。残念。
ということでまず先にりっちゃんのデート計画から。きっと普段の私達らしい、本当に「遊び」だけを重視したようなプランなんだろうなー。
律「よーっし、まずはゲーセンだー!」
唯「ビックリするほど予想通りだよ!」
律「近場にあるゲーセンが悪い! いっくぞー!」
唯「うえぇ……」
ってテンション低い風に見せてみたけど、まぁ、やっぱり私もゲーセンは好きなんだよね。
自動ドアが開いた瞬間にいろんな音が耳に入ってきて、キラキラした筐体を見てるとどーしてもテンションが上がっちゃう。
律「まぁまずは手軽に、ドラマーの本領発揮で音ゲーやりますか!」
唯「デートなんだから、りっちゃんがカッコイイとこ見せてくれるんだよね?」
律「……お、おう。任せなさい」
唯「………」ジトー
律「……いや、前にムギと来たときは散々なスコアだったんだ……」
正直、私もそんなに期待しないで振ったんだけどね。でもせっかくだからあえてプレッシャーをかけてみよう。
っていうかりっちゃん、デート中に他の女の子の話を出すのはいただけないんじゃない? といってもムギちゃんなら別にいいんだけどね。
唯「はいはいお金入れて、やってみせてよー」
律「おー……あまり期待するなよ……」
チャリーンチャリーン
ジャジャーン
ピロリン♪ ←選曲
…
……
ガシャーン ←ゲームオーバー
律「………」
唯「………」
律「……一緒にやろう……」
唯「そうだね……」
ガシャーン
律「……難しいだろ?」
唯「でもりっちゃん一人のときより長持ちしたよ」
律「でも一曲もクリアできなかったぞ」
唯「……そうだね」
……なんで現役軽音部員の大学生が音ゲーにコテンパンにされてるんだろ……
唯「自信無くすね……」
6: 2012/05/06(日) 20:56:41.02 ID:pcEuJl7po
律「……ふっふっふ」
唯「……?」
律「なぁに、これもプランのうち。無くしたものは次で取り返せ! 愛を取り戻せ!」
唯「おおっ、りっちゃんのくせに順番までちゃんと考えてたんだ!」
律「もちろんよ! 褒めろ、崇めろ、讃えろー!」
唯「ははぁーっ!! 神様仏様田井中様ぁー!」
律「そして「りっちゃんのくせに」って発言を取り消せ」
唯「ごめんね」
◆
律「というわけでUFOキャッチャーでどうだ! これなら唯は得意だろ!」
唯「ふふーん、まぁね。そこそこ自信はあるよ!」
律「よーし、ならば1000円でどちらが多く景品を取れるか勝負だ!」
唯「ふっふっふ……その勝負、挑んだことを後悔してからじゃ遅いよ…?」
律「ふっ、唯こそ吐いた唾は飲み込めないことを知っているかな…?」
それでもこの勝負、私に絶対的に利がある…!
かつてアームがゆるゆるだと評判のあのお店で、ぬいぐるみを200円で一つ手に入れたことのあるこの私に!
唯「いざ……」
律「勝負ッ!!」
◆
……そして。
唯「ぬいぐるみ3個!」
律「時計1個!」
唯「……時計?」
律「どうせ数では勝てないと思って、値打ちで勝負に出た!」
なるほど……。りっちゃん、意外と抜け目ない。
数で見れば私の圧勝だけど、時計は実用性があるし取るまでのワクワク感も含めて1000円ならきっと安い買い物だと思うし。
はたしてこの勝負、どっちの勝ち…?
7: 2012/05/06(日) 20:57:07.77 ID:pcEuJl7po
唯「……って、どうやって勝敗決めるの?」
律「考えてなかった☆」
唯「ですよねー!」
律「いや正直、こんなん取れると思ってなかったからなー。取れなければどう見ても負けなんだけど、取れてしまったからさぁ大変」
唯「……引き分けにしとく?」
律「そーだなー。ほれ、あげる」
唯「…へ?」
そう言ってりっちゃんは取れた時計を私に差し出してきた。使わないの?
律「取れると思ってなかったってことは、取っても使い道に困るってことだ!」
唯「なるほど一理ある…! だったら私もこのぬいぐるみ全部あげよう!」
律「え、いやいいよ全部は、さすがに」
唯「実を言うともう持ってるんだよねコレ。持ってるから狙いをつけやすかったのだー!」
律「まじかよ! あっでも確かに言われてみれば最近唯の部屋で見た記憶あるぞコレ!」
唯「使い道に困っていたのは私も一緒だったのです。ちょうど良かったね!」
律「それって結局お互い1000円無駄にしたようなもんじゃねーか!!」
唯「そんな勝負を吹っかけてきたのはりっちゃんだよ!」
律「正直すまんかった!!」
唯「よろしい!」
8: 2012/05/06(日) 20:57:42.88 ID:pcEuJl7po
◆
……そんなこんなでデートらしさなんてカケラもない楽しいゲーセン荒らしをして、りっちゃんが「次はコンビニで何か買おう」みたいなことを言った。
コンビニの商品は高いけどゲーセンよりは安いし、なにより学生といったらコンビニにふらっと寄るものだよね。理由はわかんないけど。
高校時代もそういうことは何回かやってきたし、りっちゃんらしいといえばりっちゃんらしい。相変わらずデートらしさはないけど。
律「おっ、からあげクン増量中だぞ唯!」
唯「まじですか! それぞれ違うの買って食べ比べしようよりっちゃん!」
律「いつもより一回多く食べ比べできるわけだな!」
唯「テンションあがるね!!」
律「あ、カレー味……まさかまだあるとは」
唯「……私は普通の買うから、りっちゃんはそれね」
律「黄色=カレーって決めたヤツを私は許さない! 絶対にだ!」
今はあんまり関係ないと思うよ、それ。
9: 2012/05/06(日) 20:58:05.00 ID:pcEuJl7po
◆
律「……んじゃ、次は唯のプランな」
つまようじに差したからあげを私に差し出しながら、りっちゃんが言う。
私はもちろんそれを受け取らないでかぶりつく。
唯「おいひぃ。……んー、りっちゃんもうネタ切れなの?」
律「ネタって言うなよ! でも結構時間くっちゃったからさ、そろそろ、と思って」
唯「うーん……」
手で触れてみれば、ポケットに入れたメモ紙の感触はちゃんとあるんだけど。でもどうにもそれを広げる気になれなかった。
土曜日を丸々使って真剣に考えたこのデートプランが劣ってるなんて思わない。ただ、必要ないんじゃないかな、って思う。
だってやっぱり、りっちゃんと一緒にいるだけで楽しいってわかっちゃったから。
恋人らしいことを何もしないのは、恋人同士として間違っているかもしれないけど。恋人らしいことを詰め込んだ私のデートプランのほうが恋人同士としては正解なのかもしれないけど。
それでも、私とりっちゃんの関係としてはこれでもいいんじゃないかなって、私は思っちゃったから。
今がちゃんと楽しいんだから、急ぐ必要はないって思っちゃったから。
焦らなくても、急がなくても、きっと恋人らしいことに一歩踏み出すタイミングがそのうち来るんじゃないかな。
きっとあの時りっちゃんが言ったのはこういうことだったんだ。
唯「……ちゃんと、りっちゃんはわかってたんだね」
律「ん? 何が?」
私の差し出したからあげに、りっちゃんがかぶりつく。
唯「……こんな毎日が何よりも楽しい、ってこと、だよ」
律「……元々、楽しくいたいから私達は一緒にいるんだしな」
唯「そうだよねぇ」
そうだよね、元々それで始まった関係だもんね。
こういうカップルも世界に一組くらいはいてもいいんじゃないかな。
律「……おいしいな」
唯「そうだねぇ、からあげクン」
律「また、一緒に食べような」
唯「うん」
律「……約束だぞ、ゆい」
唯「うん」
律「絶対に、絶対に、何年経っても、一緒に食べよう」
唯「……?」
律「ずっと、ずっと一緒に楽しく居よう」
唯「………」
律「……約束だ」
唯「………うん、絶対ね」
10: 2012/05/06(日) 20:58:30.77 ID:pcEuJl7po
おわれ
12: 2012/05/06(日) 23:35:12.31 ID:vQcGb6mro
ほのぼのした
乙
乙
引用元: 律「コイビト・・・?」
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