3: 2014/12/25(木) 22:34:56.24 ID:3N1cFezU0
咲「もう淡ちゃんなんて知らない!」

淡「あっそ。好きにすれば?」

咲「言われなくてもそうするよ!」


喧嘩なんて日常茶飯事って思っても、

さすがにクリスマス直前ってのは・・・ちょっと複雑

やっぱり特別な日は一緒にいたいって思うけど、

それもちょっと無理っぽい

4: 2014/12/25(木) 22:37:08.20 ID:3N1cFezU0
何も言えないままその日になって、

一人でいたくなくて思わず外へ出てきてしまったけど・・・

咲「・・・家にいておけば良かった」

周りを見渡せば幸せそうな恋人たちや家族連れ、

もしくは慌しく帰る父親らしき人の姿

対称的に、クリスマスイブに一人きりな自分

咲「ちょっとさびしい・・・」

そう思わずにはいられなかった――――


5: 2014/12/25(木) 22:40:01.08 ID:3N1cFezU0


――――――――


淡「まったく、咲のバカ!」

つい先日喧嘩別れをしたまま何の連絡もなく、

気づけばクリスマスイブ当日になっていた

淡「何で・・・何も連絡してこないのよ・・・」

ぽつりと呟く淡の言葉を聞く者は誰もいない

淡「・・・はぁ」

ひとつため息を吐くと、クローゼットからコートを取り出して

袖を通しながら部屋を出て行く

淡「仕方ないから、今回は私の方から折れてあげるよ・・・咲」

6: 2014/12/25(木) 22:43:46.79 ID:3N1cFezU0
タクシーに乗り込み、そっと目を閉じる

浮かんでくるのは拗ねたような顔をした咲の姿

口を尖らせながら、でもどこか嬉しそうなその姿

淡「まぁ、笑顔で迎えてくれるワケないしね」

早く会いたい

喧嘩別れをしてからメールもしてないし、声もきいていない

淡「・・・足りないんだよ。咲が」

出会う前と、出会ってから

付き合う前と、付き合いはじめてから

まるで世界は変わったように思えてならない

今までと何ら変わりない筈なのに・・・足りないと感じる

7: 2014/12/25(木) 22:46:29.79 ID:3N1cFezU0
淡「素直になれないのは私も同じか・・・」

自嘲気味に笑いながら、再び会ったときの咲の反応を想像して

今度は優しげな笑みを浮かべるのだった



咲の家へ向かう途中、車窓から外を眺めていた淡はその姿を見つける

遠目からでも誰だか分かる

間違いようのない、たった一人の姿

淡「・・・咲?こんな所で何を・・・」

買い物をしているようにも見えず、ただじっとショーウインドウを眺めている

白い息を吐く咲を見て、淡は車を止めさせて咲のいる所へと急ぎ歩いた

8: 2014/12/25(木) 22:50:20.33 ID:3N1cFezU0
歩いていた筈なのに、いつの間にか早足へと変わり・・・

いつの間にか淡は走り出していた

コートの前をとめる余裕もなく、マフラーもなく

冷たい風を感じながら淡は走った

そして息をきらせて咲の元まで辿りつく

後ろに立ち、どう声をかけるかと迷っていると

耳に届いた小さな声

咲「・・・さむ・・・」

その声に誘われるように淡はコートを広げ、

後ろから咲の身体を包み込んだ

9: 2014/12/25(木) 22:54:38.64 ID:3N1cFezU0
咲「・・・淡ちゃん?」

自分の名前を呼ばれただけなのに、

その声は胸にしっかりと染み入る

たった数日・・・されど数日

久しぶりに触れた咲の体温

その冷え切った身体を早く温めてあげたいと、

ただひたすらコートごと咲をぎゅっと抱きしめた

10: 2014/12/25(木) 23:00:59.36 ID:3N1cFezU0


――――――――


咲「サンタ、かぁ・・・」

街中の至る所にいるサンタや、ディスプレイの中にあるサンタを見てはため息をつく

ショーウインドウの中にもツリーやトナカイ、沢山のプレゼントが山のように置かれてあった

サンタなんて、本当はいないのに

咲「もし本当にいるなら、欲しいプレゼントがあるんだけどな」

いないんだから、無理だろうけど

そんな事を考えている自分に笑ってしまう

咲「・・・淡ちゃん」

もし願い事を叶えてくれるなら、恋人に会わせてほしい

声には出さず、そう願った

11: 2014/12/25(木) 23:04:01.69 ID:3N1cFezU0
ショーウインドウに映る一人きりの自分の姿に再びため息を吐く

外の気温のせいでなく・・・寒かった

吐く息は白く、薄着でなおかつ手袋をしていない手は指先が冷たくなっていた

咲「・・・さむ・・・」

はぁ、と指に息を吹きかけたその瞬間

不意に暖かくなった背中

驚いて顔を上げる

ショーウインドウに映っていたのは恋人の姿

咲「・・・淡ちゃん?」

淡「他に誰に見えるの?」

12: 2014/12/25(木) 23:06:26.46 ID:3N1cFezU0
咲「淡ちゃん・・・」

冷えた自分の身体をコートで包んでくれている

優しく抱きしめるその腕が嬉しい

すぐ傍に感じる温もりが・・・愛しい

咲(これって、もしかしてサンタさんのプレゼント?)

まさか――――ううん、そういうことにしておこう

淡「・・・何やってんの。こんな寒い日に薄着で」

咲「あ、うん・・・ちょっと散歩」

淡「散歩?」

咲「うん。誰かさんと喧嘩してたから、気晴らしに散歩」

淡「・・・悪かったね。咲」

咲「ううん。私もごめん」

13: 2014/12/25(木) 23:09:39.66 ID:3N1cFezU0
淡「・・・咲」

咲「ん・・・」

自然と重なる唇

どうせ周りも恋人たちばかり

自分たちの世界に入っている周囲の人間が気づく筈もない

もし気づいたとしても、クリスマスだからと気にしないだろう

ショーウインドウを向いていた身体を反転させ、淡の首に腕を回す

深く深くお互いの唇を貪り合う

咲「・・・はぁ」

やがて離れた唇はすっかり熱くなっていた

淡「いこっか」

咲「どこへ?」

淡「私の家」

14: 2014/12/25(木) 23:14:19.57 ID:3N1cFezU0
咲の腰へと手を回し、淡は歩きはじめる

淡「ところでどの位外にいたの?指だってこんなに冷えてるじゃん」

咲「えっと・・・2時間くらい?」

淡「バカ!さっさと電話してきなさいよ」

咲「喧嘩してたのに?」

淡「それでもだよ!咲が一人でうろついてる方が心配だからね」

咲「淡ちゃ・・・、ん・・・」

咲が何かを言おうとする前に、再びその唇を塞ぐ。

咲「・・・淡ちゃんのバカ」

淡「バカなのは私だけ?」

咲「ううん。私もバカだね」

そう言って笑う咲の冷たい手を取り、淡はその指に唇をよせた

15: 2014/12/25(木) 23:21:33.27 ID:3N1cFezU0
咲「んぁ・・・」

淡「・・・そんな色っぽい声出さないでよ」

今すぐ襲いたくなるでしょ、と耳元で囁かれ咲は頬を染める

咲「・・・いいよ。淡ちゃんの家に着いたら、いくらでも」

ぼそりと呟いて淡に身を寄せる

淡「言ったね。覚悟しといてよ」

咲「そっちこそ」

言い合いながらも、やがて繋がれた互いの手は

家に着くまでしっかりと握られたままだった


――――――――

16: 2014/12/25(木) 23:24:08.90 ID:3N1cFezU0
特別な夜は、最高の場所で

・・・なんて言っても結局はいつもと同じ淡の部屋で、淡のベッドで

でも変わらないなら、ずっと変わらないならそれでもいいかと思った

淡「・・・咲」

咲「なに?淡ちゃん」

真っ白なシーツが乱れたベッドの上で

お互いそっと囁いた

淡咲「「メリークリスマス」」

何度も繰り返した濃厚な口付けではなく、軽く触れるだけのキスを交わす

17: 2014/12/25(木) 23:34:24.54 ID:3N1cFezU0
特別なその日

けれどそれは何か欲しいわけでも、して欲しいわけでもない

ただ、大切な人が傍にいてくれれば

それだけで十分――――そう思う咲だった


咲「・・・でもさすがに身体が辛いんだけど」

淡「咲は体力なさすぎ」

咲「悪かったね」

淡「まあ問題ないでしょ。どうせ学校も部活も休みだし」

咲「そうだけど・・・、明日はお姉ちゃんとお買い物にいく約束があるし・・・」

18: 2014/12/25(木) 23:37:11.84 ID:3N1cFezU0
ぼそっと呟く咲を、淡は自分の胸へと引き寄せる

淡「明日のことなんて考えないでよ」

咲「・・・何?淡ちゃんのことだけ考えてろって?」

淡「そうだよ」

当然のように頷く淡に、らしいなぁと笑う

明日のことではなく、今だけを

もし出来れば、また次の年も。その次の年もずっと

隣でこの温もりを感じていられますように

声には出さず、そう願った咲は温かな恋人の腕の中で眠りにおちた



次の日、目を覚ました時に再び懲りもせず喧嘩をする二人

それもまた日常


カン!

20: 2014/12/25(木) 23:49:39.36 ID:cK095IYRO
乙 ケンカするほど仲が良いって言うからね

21: 2014/12/25(木) 23:56:58.98 ID:BlNaMADr0
乙です
とてもすばらでした

引用元: 咲「淡ちゃんのバカ!」淡「そっちこそ!」