3: 2019/04/15(月) 19:32:40.06 ID:48lY+OmuO
田中琴葉は隠密する


時は戦国、諸処の藩主は日本全土を我が物にしようと各地で小競り合いを行っていた。

戦乱のこの時代を制するために、何よりも重要なものは『情報』 自国への進攻を事前に察知出来ればそれ相応の対処が出来、隣国の手薄を察知出来れば即座に攻め落とすことも可能。

情報を制す者は戦いを制す。 各国はこぞって優秀な密偵を育て、彼らを各地に派遣するのだった。

密偵、闇夜に紛れ暗がりに生き、下手した者は闇に氏ぬ、武勲も与えられぬ影の者。

そう、その者たちの名は

「私たち、セクシーギルティ!」

違う。

「ちょっと、ウチらのチーム名『虎威☆美慈音』に決めたじゃ~ん」

「えー、そうだったノ?」

『虎威☆美慈音』も初めて聞いたのだが。

「もう二人とも、ふざけてないで真面目に!」

これはそんな影の者たちの誰にも知られない戦いの記録である。

4: 2019/04/15(月) 19:33:31.60 ID:48lY+OmuO
彼女たちは南無湖藩の3人組密偵、自称『虎威☆美慈音』

コミュ力の恵美、ダンスをやっているエレナ、とにかくもう凄い田中琴葉の3人から成る、各国に名を轟かせている最強密偵チームである(密偵なのに各国に名が知れ渡っていて大丈夫なのだろうか)

生まれた時は違えど最後まで生き残った者が使命を果たす、という桃園の誓いをファミレスで交わした彼女らは固い絆で結ばれており、その抜群のチームワークにより数々の情報を敵国から盗み出してきた。

彼女らに目を付けられたら最後、これまでの課金額やSNSを始めたばかりの堅苦しく初々しい過去まで全てが白日の元に晒されてしまうだろう。

南無湖藩では彼女らの噂は有名であり、あまりの人気から幾度となく絵物語化、2,5次元舞台化されてきた。

グッズはもちろん大人気、DXドリンクバー、DX光るサンバ衣装、DXカチューシャなどは何度もリニューアルされ再販されるほどの大人気商品、町の子ども達がもらって嬉しいプレゼントランキングの常連である。

とにかく、クールでミステリアス、そして少しダークな密偵というものはいつだって人々の関心を引くのである。 見つめる猫の目。

5: 2019/04/15(月) 19:34:13.99 ID:48lY+OmuO
そんな彼女たちの今回のターゲットは南無湖藩の隣国、佐竹藩.(さたけはんピリオド)
屈強なSUMOUレスラー達により数々の戦を制して来た武道派の国である。 あと石高が凄い。

田中琴葉たちは数日ほど前から佐竹藩.に忍び込み国の情勢を探っていた。 取り合えず石高が凄かった。

現在はその凄い石高から繰り出される粟米湯と米煎餅が美味しい茶屋で作戦会議中である。

パリパリパリパリ

ポリポリポリポリ

バリバリバリバリダー

……残念ながら有意義な会議は行われていなかった。 田中琴葉はあまりの米煎餅の美味しさからこれが会議だということを忘れすっかり煎餅バリバリに耽っていた。

これは美味しい。 なんと美味しいのだ。 食べ瓦版の評価が星0,5なので期待していなかったのだが、この美味しさはもっと世の中に知られるべきだろう。 そうだ、せっかくだし今日の虎威☆美慈音公式瓦版にこのお店のことを書こうか、いやでもそんなことを事務所に無許可でやっていいのだろうか、お店に急にお客さんが押し寄せて迷惑になったりしないだろうか…… などと田中琴葉は考えながら煎餅をバリバリしていた。

ちなみに虎威☆美慈音公式瓦版の読者ランキングは密偵部門では1位なものの、全体では1005位なので田中琴葉の心配は杞憂である。 更に言えば佐竹藩.の石高は凄い。

6: 2019/04/15(月) 19:34:56.03 ID:48lY+OmuO
田中琴葉が自分のプロフィールの好物欄をアイスから煎餅に変えようか悩んでいる頃、いい感じに日が沈んできた。 影の者たちの時間である。

そろそろ店を出て、虎威☆美慈音公式バトルスーツに着替えてミッションを始める頃合いだ。

「ねぇ恵美、エレナ 私…… 公式プロフィールの好みの欄変えちゃっていいかな? このお煎餅本当に美味しくて、私は煎餅に出会うために生まれたんじゃないかなって、でももしかしたらこの気持ちは一過性のものかもしれないし、もちろんそんな軽い気持ちじゃないんだけど、でもそんなにプロフィールをいきなりコロコロ変えたら軽い女なのかって思われちゃいそうで…… 好みをふたつにすることも考えたんだけど、それはそれでどっちつかずだって思われそうで…… ねぇどうしたらいいと思う!?」

まずは茶屋から出て準備した方がいいと思う。

ちなみに恵美のインスタグラムとダンスをやっているエレナのティックトックのフォロワー数は10億人くらい居る。 後日恵美とエレナがこのお店を紹介したところこのお店はミシュラン☆32を獲得した。

7: 2019/04/15(月) 19:35:48.15 ID:48lY+OmuO
気を取り直して、田中琴葉たちは虎威☆美慈音公式バトルスーツに着替え、闇を切り裂き目的地へと向かっていた。

今回の目的は佐竹藩.の中心に位置する名城 風雲たけし城の最上階にあるというとっておきの大スキャンダルだ。

その秘密が解放されれば、この戦国の時代のパワーバランスは大きく揺らぐと言われている、それだけの大きな価値を持った秘密である。

とはいえ、相手はあの悪魔城ドラキュラや、あき竹城と並ぶ日本3大名城のひとつである風雲たけし城である。 虎威☆美慈音の3人と言えども苦戦は免れない。

そこで3人はとっておきの"必殺フォーメーション"を用いていた。 その必殺フォーメーションとはダンスをやっているエレナを先鋒、恵美を中鋒、田中琴葉を殿として縦一列となる"trinity union"である。

まずはダンスをやっているエレナが敵を蹴散らし、もし打ち漏らしがあったとして恵美が即座にカバーする、そして万が一にでもふたりを退けたとしても一番後方にはあの田中琴葉が構えるという最強のフォーメーション、彼女たちはこれまで出くわした数々の難所をこのフォーメーションを使って乗り越えてきた。 縦一列となるので交通ルールも守れる究極のフォーメーションである。

8: 2019/04/15(月) 19:39:32.80 ID:48lY+OmuO
今日はここまで、毎日この辺の時間に更新します。
いつものノリで最後までがんばります! むんっ!

13: 2019/04/16(火) 18:35:26.40 ID:oW5yaniDO
そうして3人は数々の敵を退け何とか城内に忍び込むことに成功した。 幸運にも強敵と遭遇しなかったのが大きい。 レッドアリーマーとかあくまのきしとかとエンカウントしてたら流石にヤバかった。

レッドアリーマーは本当にヤバい。 こっちは縦横にしか動けないのに何故かあいつは斜めにフワフワ軌道してくる。 一人だけステキャン出来るみたいなものである。 しかも遠距離攻撃してくるし、たいまつトラップもあるし。

あくまのきしもヤバい。 ドムドーラに行くまでの段階で既に大変で、町のモンスターにひーひー言ってるところなのに何故か急に出てきてめちゃくちゃ強くてラダトームに返された。 当時小学生だった筆者はその余りの無慈悲さに泣いてゲームを投げたと言われている。

とにかく運が良かった。 それもこれもダンスをやっているエレナが出撃前に幸運の舞いを行ったことが幸いしたのだろう。 やはりダンスこそ絶対正義。 ダンスさえやっていればスポーツ万能で成績優秀眉目秀麗で同性異性問わずモテモテになれる。 これを読んでる方も是非踊りながら読んで欲しい。

城の中はかなり複雑な構成になっており、下手に動き回れば迷い余計な体力を消費した上に敵に囲まれるのがオチである。 よって田中琴葉たちはまずは城の入り口付近にある宝箱から城のパンフレットを入手することにした。

「うへ~ 複雑~」

「見て! ワープポイントがあるヨ!」

「ここがここに繋がって……」

どうでもいいが、ダンジョンの奥深くにマップがあるRPGはとても性格が悪いと思う。 何度も挑戦と撤退を繰り返して、最早脳内マップが完成した後にマップが手に入るのは何とも性格が悪い。 もっと入り口付近に置いてくれ。

更にどうでもいいが、洞窟のような自然のダンジョンならまだしも、明らかに人が住んでるような人工のダンジョンが複雑なのはいったいどんなポンコツ建築士の設計なのだろうか。 筆者ならシルフカンパニーには絶対出社したくない。

14: 2019/04/16(火) 18:36:18.38 ID:oW5yaniDO
そんなこんなで田中琴葉たちは2Fに続く階段がある広間へたどり着いた(上に続く階段が一個しかない、災害時の避難経路が考えられていない欠陥建築である)

「っ! 敵だヨっ」

「敵!?」

ダンスをやっているエレナがその驚異的第六感で敵の存在を察知する。 しかし敵との遭遇は『エンカウントなし』をつけている田中琴葉たちにはあり得ないはず。 それなのに敵が現れるということはつまり…… この戦い、険しいものになりそうである……

田中琴葉たちは背中合わせになり周囲を見渡す。 最も危険なのは氏角からの不意打ち、それを回避するためのフォーメーションである。

しかし、その"刺客"は隠れもせずに悠々と2Fから階段で降りてくる。 一見すると田中琴葉たちと年端の変わらない少女、しかし彼女がただ者ではないことは、彼女の発する静かながら強大なオーラによりすぐに察せられる。

「まさか貴女…… 『お庭番衆四天王』!」

「おや、ばれていましたか」

説明しよう。 『お庭番衆四天王』とは佐竹藩.の誇る精鋭ガーデニスト達で、普段は風雲たけし城のお庭でティーパーティーをしている超エリートである。 メンバーは加入と卒業を繰り返し現在は4人組らしく、まともに戦えばあの田中琴葉と言えども苦戦は免れられないだろう……

15: 2019/04/16(火) 18:37:06.03 ID:oW5yaniDO
(くっ…… 想定外だった…… まさかこんなところで出くわすなんて……)

とはいえ、田中琴葉にはまだ余裕があった。 いくらお庭番衆四天王とはいえ相手はひとり。 こちらは3人居るのだ。 全員で戦えば勝てない相手ではない。 3人の連携によりこのお庭番衆四天王の…… えっと……

「ちなみに私の名前は真壁瑞希です。 お庭番衆四天王最強の戦士です」

そう、空気の読める瑞希を倒せばいい。 そう田中琴葉は考えた。

「みんな落ち着いて、ここはフォーメーションFで

「メグミ、コトハ、ふたりは先に行って! ここはワタシが引き受けるヨー!」

「えっ」

なんと予想外。 ダンスをやっているエレナが前に出てこの場を引き受けるというのだ。 『ここは俺に任せてお前は先に行け!』である。 1人1殺、NARUTOのサスケ奪還編である。

田中琴葉の額に汗が垂れる。 いくらエレナがダンスをやっているとはいえ、瑞希の実力は未知数。 最悪のパターンだって考えられる。

それにそもそも1人1殺はおかしくないだろうか? お庭番衆四天王は4人組(もしかしたら君麻呂も居るかも)なのだ。 それに対してこっちは3人組。 3-4はマイナス1、作戦として破綻している。 何としてでもこのダンスをやっているエレナの暴挙を止めなくては。

16: 2019/04/16(火) 18:37:35.36 ID:oW5yaniDO
「あのねエレナここは

「琴葉、行こう」

恵美に肩ポンされる。 何かここはエレナに任せる雰囲気らしい。

「メグミとコトハの邪魔はさせない……!」

「1対1ですか、面白い」

いや面白いじゃないってば。 3vs1でボコボコにしたいんだって。

田中琴葉がSPスキル『空気破壊』(マジ・レス)を発動させようとしたその瞬間。

「土遁、『崖崩れの術!』」

瑞希の忍術により突如として室内に崖が現れ、ダンスをやっているエレナなのにバランスを崩し崖から落下してしまった!

「エレナーっ!」

「メグミ! コトハ! 後は任せたヨ!」

一瞬にしてダンスをやっているエレナと瑞希は崖下に落下してしまった。 その行方を追うのは不可能だろう。

まぁ崖に落ちたら仕方ない。 崖から落ちてしまったのだから流石にこれは仕方ない。 諦めて上に登った方がいい。 その方が合流出来る可能性も上がる。

「行こう、琴葉」

「…… うん」

(頑張って…… エレナ)

田中琴葉はダンスをやっているエレナに心の中でエールを送り、ついでにツムツムでニンジンを送り、2Fへの階段を駆け上がった。

20: 2019/04/17(水) 18:20:58.03 ID:v+1TZergO
たけし城2F


「ここは……」

次に田中琴葉たちが辿り着いたのは、今までの純和風な装飾とは180度真逆のファンシーな部屋。

ポップカラーを中心とした色とりどりの部屋には大きなクマや知育ブロックなどが置いてあり、ある種『託児スペース』のような印象を受ける。

どちらにしろ、この部屋に何らかの罠があると考えていいだろう。 田中琴葉たちは警戒を強める。

「よく来たね! お姉ちゃんたち!」

部屋の奥から現れたのは、ふわふわとした栗毛と威勢の良いポーズをした少…… 幼女だった。 おそらく彼女もお庭番衆四天王のひとりだろう。

田中琴葉は戦闘姿勢を取る。 幼女を力で制圧するのは少し気がひけるが、相手はお庭番衆四天王のひとり、いくら幼女とはいえ油断は出来ない。

「お姉ちゃん達がここを通りたければ、お庭番衆四天王の中で最強の戦士の桃子と遊んでもらうよ!」

先の瑞希のように何らかの忍術が飛んでくるかもしれないと身構える田中琴葉。

「遊ぶって…… 何でさ」

「もちろんあれ!」

幼女が指差した先にあったのは……!

「プリチャンだよ!」

21: 2019/04/17(水) 18:21:47.78 ID:v+1TZergO
説明しよう。 プリチャンとは全国のアミューズメントショップで大好評稼働中の、ステキなコーデにお着がえしてライブ番組がオンエアーできちゃうゲーム! キラキラかがやくキラチケをゲットしよう!
テレビアニメも大絶賛放送中。 テレビ東京系列にて日曜日朝10時から他にて放送中、4月から第二シーズンもスタート。 新しいプリチャンアイドルたちと一緒にキラッと輝く番組、やってみよう!

「ふふん、桃子はコーデ沢山持ってるからね、絶対負けないよ」

そう言って幼女はがさごそとファイルを取り出し目の前に広げ始めた。

「わ~かわいい!」

「でしょ? お姉ちゃんたちにもフォロチケあげる」

「えぇっ!? くれるの?」

「フォロチケはこうやって渡すものなんだよ 知らないの?」

「へ~」

ちなみにフォロチケはゲームやってようがやってまいが同僚のプリチャンアイドルから会う度に凄い量貰える。 アイマスPの名刺より貰える。 いやマジで。

22: 2019/04/17(水) 18:22:30.78 ID:v+1TZergO
「あれ? なんでこのカードは『いく』って書いてあるの?」

「それはね、育って子と交換したキラチケで…… あっ、べ 別にそういうんじゃなくて、桃子が余らせてたのと育がどうしても交換して欲しいって言ったからで、何か特別な意味があるわけじゃないから!」

「カワイイ」

「かわいい」

可愛い。

「ほ、ほら! 早くプリチャン始めるよ! どっちからやるの!」

「それならアタシから…… あっ、でもアタシキラチケ持ってない……」

「えー、仕方ないなぁもう。 桃子が特別に貸してあげるから」

「えーホントー!?」

田中琴葉は思った。 今夢中になってるこの幼女を後ろからガッ! っとしてしまえば簡単に倒せるのではないかと。

田中琴葉は悩んだ。 いくらお庭番衆四天王のひとりとはいえ、幼女を後ろからガッ! するのは流石に酷いんじゃないかと。

田中琴葉は決断した。 私たちは影の世界に生きる密偵、そのような甘さは命取りとなる。 仕留められる時に仕留めなければこちらがやられると。

23: 2019/04/17(水) 18:23:05.50 ID:v+1TZergO
田中琴葉がその辺にあった幼女のファイルの尖った部分を振り下ろそうと構えたところ、恵美が何やらこちらに向けてパクパクと口を動かしている。 何か伝えようとしているのだろうか。

「えっ? なになに聞こえない」

田中琴葉には読唇術の心得はなかった。

恵美は一瞬プルプルと震えた後、怒濤のように言葉を吐き出した。

「後で絶対に追い付くからここは俺に任せて先に行け! この戦いが終わったら結婚しよう! くっ……こんな時に脛の古傷が…… 少し眠らせてくれ…… そういえば今日は子どもが誕生日なんだよ 大丈夫だデータによれば俺の勝率は99,7%だ こんな奴俺ひとりで十分だ こうなったら"アレ"を使うしかない…… だが攻撃的はこちらの方が上だ! 桑島法子」

なんて奴だ。 この短時間で何個氏亡フラグを積み重ねるんだこの女は。 そして桑島法子さんに謝りなさい(ごめんなさい)

「恵美……」

何か恵美が色々言ってたことの内『先に行け』ということだけは理解した田中琴葉だが、やはり恵美をひとりで戦わせるのは不安が残る。

田中琴葉は部屋を出る直前、恵美に向けて告げた。

「お前を頃す」

よし、これで大丈夫だ。 これで安心して恵美にあの幼女の相手を任せられる。

田中琴葉は先を急いだ。

30: 2019/04/18(木) 20:36:32.94 ID:p4kstMPf0
たけし城 4F


満身創痍となった田中琴葉は重い足取りで4Fへと歩みを進めた。 "あの"田中琴葉がこのような無様を晒すなどにわかには信じがたいことだが、3Fのお庭番衆四天王の三番手、レッドアリーマーとの戦いはそれほど熾烈を極めるものだったのだ。

四天王の三番手と言えば、どうにもパッとしないイメージがあるのが普通だろう。 何かこう、ステータス異常とかデバフとか使ってくるのが面倒だけど、普通にボコボコにしたら勝てそうなイメージ。 その裏をかいたまさかのレッドアリーマーである。

3Fにたどり着いた瞬間の奇襲、こちらの攻撃をまるで児戯と嘲笑うかのような回避能力、そして逃げ回る田中琴葉を執拗に追いかけるその姿は無慈悲な赤い殺人鬼そのものだった。

田中琴葉は偶然にも鎧を見つけたため、魔法で勝つことは出来た。 あのタイミングで鎧を見つけられたのは幸運としか言いようがない。 たいまつじゃなくて本当に良かった。

自らがボロボロな田中琴葉、だがこんな状況でも仲間想いの田中琴葉は置いてきてしまった仲間のことを考えていた。

31: 2019/04/18(木) 20:37:04.81 ID:p4kstMPf0
1Fで出会った瑞希と名乗る者、土の無い場所であのレベルの土遁を使えるほどの手練れ相手ではいくらエレナがダンスをやっているとはいえ苦戦は必氏。 更に瑞希が使うのはただの土遁ではない、崖なのだ。

崖なのだ。

崖なのだ。 間違いなくトップクラスの土遁の使い手だ。

そして2Fで出会った幼女。 プリチャンを相当やり込んでいたようだし、恵美が危ない。 幼女に泣かされているかもしれない。

ふたりの無事を思う田中琴葉はラインを開きメッセージを送った(ここ、大事な伏線です)

『ふたりとも、大丈夫ですか?
ふたりのことが心配でラインを送りました。 大丈夫って言うかもしれないけど、私はいつだって恵美とエレナのことを想うと心配で、寿命が縮まる思いをしてるんだよ!
それもこれも、ふたりのこと大事な親友だと思ってるから…… 恵美、エレナ、私と出会ってくれて本当にありがとう。
ふたりが産まれてきてくれたこと、私と出会って、こうしてチームを組んだこと、全部全部が私にとって特別な奇跡で、かけがえのないものだと思ってる。
…… なんて、少し恥ずかしいな。 でも今送ってることは全部私の本当の気持ち。 ふたりとも、大好きだよ』

32: 2019/04/18(木) 20:37:40.88 ID:p4kstMPf0
とにかく、今の状態では敵と戦うのは困難、出来る限り戦闘は避けなければ……

田中琴葉が忍び足を始めた瞬間、ドでかい声が城内に響き渡った。

「密偵! そこまでだぁーーー!!!」

ふすまを蹴飛ばし、敵が現れ
「わたしの名前は高坂海美! お庭番衆四天王最強の戦士! わたしが来たからにはお前たち密偵の好きにはさせないよっ!」

いきなり現れた高坂海
「ふふっ、ここまでみずきんと桃子とレッドありりんを上手くかわしてきたみたいだけど、わたしはそうはいかないよ!」

レッドありりんってなんだよ。

田中琴葉は構える。 敵と出会ってしまった己の不幸を呪っても何にもならない。 今はこの状況を乗りきることを考えなくては。

最悪の場合、『アレ』を使うしかないのかもしれない、例えそれを使うことで自分が"自分"でなくなるとしても……

田中琴葉は相手を見据える。 腕を組みまっすぐ構えるその姿はまさしく"強者"そのもの。 もしかしたらレッドアリーマー以上の強敵かもしれない。

「そういえば名前聞いてなかったね、なんて言うの」

「田中琴葉」

「オッケー、それじゃ琴葉は今からわたしと『地獄の三番勝負』をしてもらうよ!」

33: 2019/04/18(木) 20:38:24.71 ID:p4kstMPf0
「『地獄の三番勝負』……?」

まずいことになった。 消耗した田中琴葉は短期決戦を仕掛けるつもりだったのに、なんと三番勝負をするらしい。 勘弁して欲しい。

そもそもボスを倒した後にまたボスはないんじゃないかと思う。 スカルミリョーネかよお前らは。 せめてルビガンテみたいに回復してくれ。

「それじゃ行くよ! 最初の勝負は……!」

田中琴葉はファイティングポーズを取る。 もう最悪不意打ちの顔面ワンパンで片付けよう。

「マリオカート(SFC版)!」

何が地獄の三番勝負だ。

34: 2019/04/18(木) 20:38:52.50 ID:p4kstMPf0
「わたしマリカー得意なんだよね~」

着々と準備を進める海美、田中琴葉も手伝おうとしたが、コードの類が苦手な田中琴葉は『琴葉はお客さんなんだからそこに座ってて』とポテチを出された。

「よし! 準備完了! 特別に琴葉に1P2P選ばせてあげるよ」

田中琴葉は驚愕した。 1Pコントローラーに明らかにベタベタした跡がある。 間違いない、この高坂海美とかいう女、ポテチ食いながらマリカーをしていたのだ。

なんという重罪だ。 ポテチ食いながらファミコンをやるなんて…… コーラもセットだったらより許せない。

こんな女に負けるわけににはいかない。 田中琴葉はそう強く意気込み若干埃かぶった2Pコンを取った(お客さん用のコントローラーってちょっと埃被るよね)

「わたしピーチ選ぶね! 女子力高そう!」

「それじゃあ私はクッパにするわ」

田中琴葉は内心ほくそ笑んだ。 この女初心者か、マリカーSFCはドンキークッパ一択だと言うのに。

「コースどこにする?」

「どこでも大丈夫」

「じゃあキノコカップで」

普通に仲良しそうに見えるが、あくまでも地獄の三番勝負中である。

35: 2019/04/18(木) 20:39:29.83 ID:p4kstMPf0
「よーし行くよー!」

キノコカップ第一コース マリオサーキット1
コース名に聞き覚えがなくとも『トゥートゥルルトゥートゥットゥトゥトゥ,トゥトゥットゥ トゥトゥトゥットゥ↑ トゥトゥトゥットゥ↓ トゥトゥトゥットゥ↑ トゥトゥトゥットゥ↓ トゥトゥトゥトゥトゥー トゥトゥトゥトゥトゥ トゥトゥトゥトゥートゥルルル トゥートゥットゥ』と書けば多くの方に伝わると思われる。

田中琴葉は圧倒的な1位を独走していた。 SFCのマリカーは重量級でスタダ決めた後は普通に走っていればそれだけで勝てるチョロいゲームだ。 赤こうらを当てられたところで問題はない。 普通に追い抜かせばよい。

しかもこの高坂海美とかいう女、3位ではないか。 CPUにすら勝てないとは『マリカー得意』とはなんだったのか。 小学生がよく言う『俺スマブラ世界一強いよ』だろうか。

とはいえ田中琴葉はそこで手を抜いたりする女ではない。 ライオンは兎を狩る時も全力を尽くす。 田中琴葉は燃え上がる獅子となり目の前の敵を全力でねじ伏せるのだ!(まぁ目の前にカートは居ないけど)

「うー! 早いね琴葉! でも最後まで諦めないよ!」

隣ででかい声がしているが、この差なら敗けはない。 『勝ったな、風呂入ってくる』と田中琴葉が思ったその瞬間

「わあああああ ここで急カーブー!?」

「ゴッ」

海美の突然のタックルにより田中琴葉は大きく吹き飛ばされ、隣の部屋まで飛んでしまった!

なんと! この高坂海美とかいう女、レースゲームで曲がる時体も曲がるタイプだったのだ! お庭番衆四天王のひとりである海美のタックルは凄まじい破壊力で、田中琴葉は先ほどの戦いから引きずっているダメージと合わせて身動き出来ない、マリカーの続きも出来ないほどの状態となってしまった!

「あれ? いつの間にか1位だやったー!」

田中琴葉が動けずにいるうちに海美は田中琴葉(とCPU)を抜かして1位でフィニッシュを決めていた。

つまり、地獄の三番勝負 第一試合『マリオカート(SFC版)』は田中琴葉の負けである……

37: 2019/04/19(金) 19:19:13.97 ID:k5ryBs3kO
「第一試合はわたしの勝ち。 ふふふ、このまま次も勝っちゃうからね!」

田中琴葉はダメージを受けた体を引きずり元の部屋へと戻り、海美と再び会いまみえる。

油断がなかったと言えば嘘になる。 だが田中琴葉は☆32取得したくらいの状態でありほぼ勝利を確信していたところでのこの盤外戦術である。

いや、勝負が終わった今から考えれば最初に海美がリードを許したのもこちらを油断させるための罠かもしれない。

この高坂海美とかいう女、第一印象と反してなんという知将だろうか。 水属性で知将ということで、さしずめ知性の青き泉と言ったところだろうか(もしかしたら、しんしんと降りつもる清き心かもしれないし、叡知の光かもしれないし、澄みわたる海のプリンセスかもしれない)

やはりお庭番衆四天王の一角、そう簡単に勝てる相手ではないということである。 これで田中琴葉はもう一度も負けられなくなってしまった。

田中琴葉は考えた。 このままでは負けてしまうかもしれない…… と

しかし田中琴葉は動じない。 何故ならば田中琴葉はこの地獄の三番勝負のルールの裏 つまり"必勝法"に既に気付いていたのである。 流石田中琴葉である、虎威☆美慈音の魔の参謀と恐れられているだけのことはある。

田中琴葉の気付いたルールの裏とは、『このゲームには敗北者へのペナルティが存在していない』ということである。 この地獄の三番勝負に負けたとしても別に氏ぬ訳ではない。 むしろ勝利に喜んでいる相手の隙をついてシャイニングウィザードを叩き込めば実質こちらの勝利である。

汚いと後ろ指指されるかもしれない。 だがこれは影に生きる者たちの宿命である。 勝つためには手段など選んでいられないのである。

「それじゃあ第二勝負は~」

とはいえ勝負に勝つに越したことはない。 ここから二連勝すればいい。 それだけである。

「田中琴葉ゲーム!」

38: 2019/04/19(金) 19:19:55.83 ID:k5ryBs3kO
「た、田中琴葉ゲーム……?」

何と、田中琴葉はいつの間にやらゲームの題名となるほどの知名度となっているようだった。

やれやれ、これだから有名人っていうのは大変だ。 隣国に来てすらこの扱い、プライベートなど存在しない。 とはいえこれは自らが選んだ道、そこから逃げるなど許されない。 自分はこの宿命と一生付き合っていかねばならない。 そう田中琴葉は気持ちを新たにしていた。

で、田中琴葉ゲームって何。

「琴葉は田中琴葉ゲームやったことある?」

「ううん、せんだみつおゲームならあるんだけど」

「何それ?」

せんだみつおゲームを知らないのか? これだから平成生まれは……

「それじゃあルール説明するね」

その後海美の要領を得ない説明が続いたが、要約すると以下のようなものだった。

・ゲームはターン制、交互にターンを行う
・ターンプレイヤーは『た・な・か・こ・と・は』の内、任意の箇所まで宣言することが出来る
・宣言された文字の合計が30になった場合、また30を越えた場合その時点でそのプレイヤーの負け

つまり、よくある24を言ったら負けゲームの派生のようなものだった。

ちなみに、このルール的に6文字だったら田中琴葉じゃなくてもいい。 高坂海美ゲームでもいいし、せんだみつおゲームでもいい。

39: 2019/04/19(金) 19:20:22.15 ID:k5ryBs3kO
田中琴葉は笑っていた。 知将田中琴葉は一瞬にしてこのゲームの『本質』を理解していた。

このゲーム、1~6の数字を任意に加算出来るということは、相手の宣言に合わせて常に7数字を進められるということ。 相手が『た』ならこちらは『たなかことは』、相手が『たなか』ならこちらは『たなかこ』

つまり、このゲーム先攻を取って『た』を宣言した時点で勝利が確定する。 1文字目を取ればその後相手に合わせて7文字ずつ進めれば、自分が29文字目を宣言してそれで勝利だ。

「それじゃあまずは先攻後攻を決めよっか」

来た。 ここがこのゲーム一番大事なところ、このゲームは先攻が絶対勝つ遊戯王みたいなゲームなのだ。 だからこそ何としてでも先攻を取らねば。

いったいどのような方法で先攻を決めるのか、体力自慢の海美のことだから『最終コーナーを先に曲がりきった方』かもしれない。

田中琴葉はゆっくりと体をほぐし始めた。 これで急にヨーイドンアグロのケアが出来る。

「うん、先攻は琴葉に譲るよ! さっきはわたしが勝ったからね!」

「えっ?」

いいの?

「さあ~ どっからでもかかってこい!」

田中琴葉は少し考える。 何故先攻を譲った? このゲームは先攻が勝つゲームなのに……

「えーと、それじゃあ『た』」

もしかして相手は誘発を握っているのか? と警戒しつつも田中琴葉は定石の『た』から入った。

中略

「負けた~~~!!!」

地獄の三番勝負 第二試合『田中琴葉ゲーム』 勝者田中琴葉

41: 2019/04/30(火) 23:13:29.34 ID:QDlshoUt0
「ふふふ、まさか地獄の三番勝負でわたしが追い詰められるなんてね、こんなドキドキする勝負久しぶりだよ!」

2度の激戦を経たにも関わらず、海美には疲労の色など全く見えず、それどころか恍惚の笑みを浮かべていた。

汗を拭う田中琴葉。 対峙する田中琴葉もまた海美と同様に高揚感からダイヤモンドスマイルを浮かべている。

最早ふたりは密偵とお庭番衆四天王という立場を忘れ、お互いを純粋にライバル、強敵と書いてともと呼ぶとして捉えていた。

しかしこの勝負も後一戦で終わり、田中琴葉は全身全霊で海美に望まんという気概を新たにする……!

「最後の勝負はこれ! 『あっち向いてホイ』!」

「っ……!」

田中琴葉は絶句する。 なんとげに恐ろしや…… まさかあの『あっち向いてホイ』をやるなどと……

『あっち向いてホイ』 遥か遠くの極東の地では東西に別れた決戦に使われると言われる競技。 これが地獄の三番勝負の最終戦に相応しい、凄まじい戦いになるであろうことは明白。

田中琴葉はひとつ深呼吸する。 これが最後の休符、ここからは何があっても気を抜かない。 正真正銘の最終決戦……!

42: 2019/04/30(火) 23:13:56.23 ID:QDlshoUt0
「さーいしょはグー」「じゃーんけーん」

と、ここで一旦ブレイク。 皆様はじゃんけんで勝てる可能性が50%だと思っていないだろうか?(あいこという事象があるから33%とかそういう話ではない)

じゃんけんは言ってしまえば究極の後出し対決だ。 相手の出す手を刹那に見切り、相手の手に対して勝てる手を導き出し、勝利する。 思考と反射の融合。

敵の挙動を見切り、後の先を取る。 それは戦いも同じ。 そう、つまり達人同士のじゃんけんは武器を使用しない戦いなのである。

「ぽぉー……」

海美が手を出す瞬間、それ実時間にすれば一瞬かもしれないが、田中琴葉にとっては永遠とも感じられる。 それほどの強烈な集中(支配眼とか光風とかを想像して欲しい)

海美の手は握られたまま、これはグーか? いや判断するにはまだ早い。 グー偽装チョキの可能性もある。

田中琴葉は手を握ったまま相手の挙動をギリギリまで見定める。 海美が手を変えたその瞬間こそが勝機。 奴の反応速度を越えろ。

「ん」

ふたりの出した手は両方ともグー。 初手グーミラーは互いが動きを見切ることに徹した場合によくある展開だ。

勝ててなくとも負けていない。 まだまだ勝負はわからない。

「やるね……」

田中琴葉は無言の同意を返す。 やはり相手は佐竹藩.最強の刺客。 一筋縄ではいかない相手のようだ。

「あーいこーでー」「じゃーんけーん」

あいこになった後に仕切り直す時になんて言うか事前に決めておかないとグダグダになることがよくある。 それは達人レベルでも同じなのだ。

43: 2019/04/30(火) 23:14:31.98 ID:QDlshoUt0
「それじゃあ行くよ……!」

『あいこになった時はあいこでしょと言う』という協定を結び、ふたりは再び臨戦態勢となる。

「さーいしょはグー」「じゃーんけーん」

田中琴葉は決めていた。 今度は攻める、と。

攻める、すなわち決め打ちパーだ。 あらかじめ出す手を決めておくことにより思考を最低限にし、その分野性的勘を最大限発揮するワイルドスタイル、それが決め打ちパーだ。

決め打ちパーの利点、それはゴリラグーに対しての圧倒的勝率。 なんと決め打ちパーはゴリラグーに対して10:0で有利がつくのだ!

シェア3割という圧倒的使用率を誇るゴリラグーに対して100%勝利出来るパーの有用性は最早語るまでもあるまい。 それを軸に戦っていくのが決め打ちパーなのだ。

インテリジェンスチョキには負けてしまうが、これまでのメリットを考えれば些細な問題であろう。

「パー!」「グー!」

勝った! 田中琴葉が勝った! 我らが田中琴葉の勝利だ! 流石田中琴葉! 勝率50%と言われるじゃんけんであっても田中琴葉の明晰な頭脳と大胆な反応速度にかかればそれは100%も同然!

田中琴葉は勝利の感動に打ち震え、思わず小躍りを舞う。 その動きはまるで下界に舞い降りた天女かと見紛うほどのもの。

44: 2019/04/30(火) 23:15:17.52 ID:QDlshoUt0
と、喜びもほどほどにしておこう。 なんといってもこれはただのじゃんけんではなく、ジャン拳でもなく、『あっちむいてホイ』なのだ。 じゃんけんで勝った上で更にもうワンセクションが必要なのである。

あっちむいてホイのあっちむいてホイパート(ややこしいね) これにもまた"必勝法"は存在する。 単なる1/4を当てるゲームではないのだ。

まず、大前提として動物は動くものを自然と目で追ってしまう性質が存在する。 その動物性本能に従ってしまえばあっちむいてホイは必敗。

だが人間には理性が存在する。 単に指を指すだけでは勝てないのだ。

そのために重要となるのがフェイントである。 指をほんの少し動かすことで相手の意識を縛り勝つ! そのゆらりと動く指はまるで陽炎のよう、そうこの技の名前は『揺ラギ噴出ス爆炎ノ不氏鳥(バーニング・フェニックス)』!

田中琴葉はこの『揺ラギ噴出ス爆炎ノ不氏鳥(バーニング・フェニックス)』を用いることにより数々の難敵を撃破してきた。 そう忘れもしない、小学校4年生の時、給食の時間でプリンを勝ち取ったあの時も田中琴葉はこの『揺ラギ噴出ス爆炎ノ不氏鳥(バーニング・フェニックス)』を使っていた。

「あっち向いて……」

もちろん、あっち向いてホイの時の掛け声はあっち向いてホイである。 田中琴葉はあくまでも普通の子である。 そこら辺の常識を弁えない厨二病キャラと同一視しないでいただこうか。

「ホイっ!」

田中琴葉が指差したのは…… 左! そして海美が向いた方は…… 右(田中琴葉から見たら左)

つまり……

「か、勝った…… 勝った! 勝った! やったー!」

田中琴葉の勝利である……!

45: 2019/04/30(火) 23:15:45.18 ID:QDlshoUt0
「あー、負けちゃったかー! くやしー!」

海美は地団駄を繰り返し、悔しさを全身で表現する。 それだけ海美にとってこの戦いは重大なものだったのだ。

「よし、じゃあわたしに勝ったんだし、先に行っていいよ!」

潔く道を譲る海美。 誇り高きお庭番衆四天王である高坂海美は負けたからといって言い訳もせず、敗戦を無かったことにするために襲いかかることもないのである。

田中琴葉は道を進み、そして少し振り替える。

「今度は…… 違う形で勝負しましょう。 恵美とエレナと一緒に…… スマブラで!」

そう。 この戦いを共にした田中琴葉と海美は最早友なのである! ゲームは人と人の絆を結ぶ素晴らしいものなのだ!

でもスマブラはやめとけ。

「いいね! それならみずきんと桃子とレッドありりんとみんなで一緒にやろう!」

「う……? うん!」

田中琴葉は一瞬困惑したが、取り合えず返事を返し、先へと進んだ。 田中琴葉は知らなかったようだが最近のスマブラは最大8人で対戦出来る。

46: 2019/04/30(火) 23:16:41.14 ID:QDlshoUt0
たけし城 最上階


「確かここに…… あった!」

田中琴葉は最上階にて、今回の目当てである秘宝が入った宝箱を発見する。 当然宝箱には厳重な鍵がかけられているが、田中琴葉はアバカムを唱えあっさり秘宝を奪取し、城を後にした。

* * *

田中琴葉は城から離れた、やや開けた夜営地にて腰をつく。 ここは恵美とダンスをやっているエレナと決めた落ち合いの地、もし作戦行動中に別れてしまっても朝日が昇る前にはここで落ち合う予定。

しかし待てど暮らせど人の気配はない。 ラインに既読も付いていない。

田中琴葉は待った。 本当は田中琴葉は気付いているのだ。 これは『そういうこと』だと。 作戦行動中の行方不明、この世界ではありふれたこと、ただふたりが密偵として未熟だったそれだけのこと。

それでも田中琴葉は待った。 今までずっと3人一緒だった。 みんなで協力して困難に立ち向かって、任務が終わればみんなでファミレスに行って、これからもずっとそういう日は続くと信じていた。

ひとりで恵美とダンスをやっているエレナを待つ時間は何故だか長く感じた。 待っている間にふたりのSNSを見てこれまでのことを振り返っていた。

密偵として、任務中は感情を出さないと決めていた。 何があっても冷静さは失ってはいけないと。 手に持ったこれを持ち帰るまでは、自分は闇を生きる密偵。

田中琴葉は手に持ったそれを地へ置く。 草むらにうずくまり顔を伏せる。

震える肩。 漏れる声。 気にしない、誰にも見られてないし誰にも聞こえないし、今の彼女は『ただの田中琴葉』なのだから。

47: 2019/04/30(火) 23:17:10.67 ID:QDlshoUt0
空気が澄み、鳥の羽ばたきが鳴り、夜が少しずつ朝ぼらける。 田中琴葉は再び立ち上がる。

国に帰ったらもう仕事は辞めよう、こんな仕事をしていたって何にもならないのだから。

田中琴葉は気持ちを新たにして秘宝を手に、代わりのものをその場に残してその場を後に……

「っ!」

木々の揺れる音がした。 何者かが近付いている。 考えられる可能性はひとつ、佐竹藩.の追っ手。

そして、このタイミングで放たれる追っ手はおそらく……

田中琴葉は身を伏せる。 今の自分にとって最重要ミッションはこの手に持った秘宝を持ち帰ること、そんなことはわかっている。

だがそれでも、田中琴葉に逃げる選択肢は無かった。 親友ふたりがそんなことを望んでいるはずはないだけれども、田中琴葉はそんな綺麗事で割り切れるような人間ではない。

(恵美、エレナ…… もしかしたらすぐにまた3人一緒になるかもね)

田中琴葉は身構える、勝っても負けてもこれが最後の戦い!

48: 2019/04/30(火) 23:17:37.87 ID:QDlshoUt0
「コトハーっ!」

木々の間から飛び出したのは、見慣れた虎威☆美慈音専用バトルスーツに身を包んだ若緑色の髪の少女、そして少し遅れて来たやや派手目な少女。 そうダンスをやっているエレナと恵美だ!

ふたりは氏んでなどいなかった! お庭番衆四天王との戦いを制し、ここまで戻ってきたのだ!

「遅れちゃってゴメンね~ 何か桃子が『もっかいやろ! もう一回!』ってしつこくて~」

「アレ? コトハ泣いてるノ?」

「あ~ もしかしてアタシ達が帰ってこないから心配してた?」

「そうだよ…… そうだよ……! ふたりとも…… また会えてよかった……っ」

「ふふっ、アタシ達は琴葉を置いてたったりしないよ」

「ワタシ達はいつまでも一緒だヨ!」

「めぐみぃ…… えれなっ!」

3人は固い抱擁を交わす。 そうこの3人はこの3人でなくてはならない! 南無湖藩の誇る最強ユニット! 3人の絆はこれからも未来永劫不滅なのだ!



どっとはらい

49: 2019/04/30(火) 23:18:53.13 ID:QDlshoUt0
明日とか言ってめちゃ遅くなりましたが、何とか令和までに終わりです。
おまけ編を頑張って令和終わるまでに書きます。

引用元: 田中琴葉は隠密する