2: ◆3feiQFueVc 2014/12/25(木) 23:14:46.81 ID:fxq5lADfo
クリスマスについて考えていた。
去年のこの日、あの子と出会ったことを。
去年のこの日、あの子と出会ったことを。
3: 2014/12/25(木) 23:21:56.57 ID:fxq5lADfo
モロッコでは、あまりクリスマスを祝う習慣がない。
だから、実際に見るのは初めてだった。
もちろん、知識として知ってはいたけれど。
パーティのプランナーを任されて、手慣れた笑みを浮かべた私は多分、困っていたんだと思う。
そんなときに、テレビにあの子が映っているのを見た。
星宮いちご。小さくて、細くて、砂糖菓子のような子。
飴細工のように、強い子。
そう、もちろん、知識として知ってはいたけれど。
眼を奪われたのが、テレビの情報バラエティ番組だなんてね。
だから、実際に見るのは初めてだった。
もちろん、知識として知ってはいたけれど。
パーティのプランナーを任されて、手慣れた笑みを浮かべた私は多分、困っていたんだと思う。
そんなときに、テレビにあの子が映っているのを見た。
星宮いちご。小さくて、細くて、砂糖菓子のような子。
飴細工のように、強い子。
そう、もちろん、知識として知ってはいたけれど。
眼を奪われたのが、テレビの情報バラエティ番組だなんてね。
4: 2014/12/25(木) 23:28:41.85 ID:fxq5lADfo
きいちゃんが察しが良くて助かった。
私だって、いちごちゃんに会いたいから一緒にパーティをしよう、なんて言いたくなかったから。
お仕事はお仕事。ちゃんとやらなきゃ。だよね。
でも、私はどうしても、彼女を見てみたかった。
彼女は、私がドレスとアクセで武装して、こわごわ飛ぶ空を、楽しそうに飛ぶのだ。
彼女は、私が威容に恐れを生す扉を、身一つで、開いて。
美しく笑う。
――クリスマスパーティは、二校合同で開催されるはこびとなった。
私だって、いちごちゃんに会いたいから一緒にパーティをしよう、なんて言いたくなかったから。
お仕事はお仕事。ちゃんとやらなきゃ。だよね。
でも、私はどうしても、彼女を見てみたかった。
彼女は、私がドレスとアクセで武装して、こわごわ飛ぶ空を、楽しそうに飛ぶのだ。
彼女は、私が威容に恐れを生す扉を、身一つで、開いて。
美しく笑う。
――クリスマスパーティは、二校合同で開催されるはこびとなった。
5: 2014/12/25(木) 23:35:44.49 ID:fxq5lADfo
私の服は、勇者の鎧。
私の服は、妖精の翅。
私の服は――秘密の鍵。
自由の扉。
私の服は、新しい扉を開いて、着る人を自由に羽ばたける空へ誘う。
そんな夢。
私の服は、新しい鍵孔を開けて。私の大切な人たちを連れて行く。
……そんな、夢。
かつて、私に服飾を教えてくれた人を、私のアクセサリが連れ去ってしまった。
私の翼。私の鍵。
私を痛め、私を閉ざす。
私の服は、妖精の翅。
私の服は――秘密の鍵。
自由の扉。
私の服は、新しい扉を開いて、着る人を自由に羽ばたける空へ誘う。
そんな夢。
私の服は、新しい鍵孔を開けて。私の大切な人たちを連れて行く。
……そんな、夢。
かつて、私に服飾を教えてくれた人を、私のアクセサリが連れ去ってしまった。
私の翼。私の鍵。
私を痛め、私を閉ざす。
6: 2014/12/25(木) 23:40:38.79 ID:fxq5lADfo
自由な空から降りられないままでいた私には、
彼女の姿は、瞳を灼くようだった。
身を捧げるように、その髪に触れて。
手慣れた笑みで、覆い隠す。
「……あ、触っちゃった」
「風沢、そらちゃん。やっと会えた」
「初めて会った気がしない……あなたのこと、ずっと見てたから」
彼女の姿は、瞳を灼くようだった。
身を捧げるように、その髪に触れて。
手慣れた笑みで、覆い隠す。
「……あ、触っちゃった」
「風沢、そらちゃん。やっと会えた」
「初めて会った気がしない……あなたのこと、ずっと見てたから」
7: 2014/12/25(木) 23:48:06.85 ID:fxq5lADfo
ああ、ああ、認めよう。
私は、この少女にどうしようもなく嫉妬していた。
どうしようもなく惹かれていた。
呪いのように作り続けたアクセサリで縛り、泉の深くに沈めたはずの情動に、私は翻弄されていた。
星宮、いちご。
……それが、去年の話。
私は、この少女にどうしようもなく嫉妬していた。
どうしようもなく惹かれていた。
呪いのように作り続けたアクセサリで縛り、泉の深くに沈めたはずの情動に、私は翻弄されていた。
星宮、いちご。
……それが、去年の話。
8: 2014/12/25(木) 23:57:44.09 ID:fxq5lADfo
――そして今年。今日。今このとき。
「……?」
いちごちゃんが、私の眼の前で、不思議そうに小首を傾げた。
気の迷いだったの。
今年も、祝福の夜をあなたと過ごしたい、だなんて。
私なら意味もなく言いそうでしょう?
……本当なら送信するつもりもなかったのに。
打ち込むだけ打ち込んで、ひとりで笑い飛ばすはずだったのに。
それがまさか、まさかそんな、
本当に来ちゃうなんて。
「……メリークリスマス、いちごちゃん」
「うん。メリークリスマス。そらちゃん」
「……?」
いちごちゃんが、私の眼の前で、不思議そうに小首を傾げた。
気の迷いだったの。
今年も、祝福の夜をあなたと過ごしたい、だなんて。
私なら意味もなく言いそうでしょう?
……本当なら送信するつもりもなかったのに。
打ち込むだけ打ち込んで、ひとりで笑い飛ばすはずだったのに。
それがまさか、まさかそんな、
本当に来ちゃうなんて。
「……メリークリスマス、いちごちゃん」
「うん。メリークリスマス。そらちゃん」
9: 2014/12/26(金) 00:13:01.58 ID:Ut8VQ/e0o
「……ごめんね、急に呼び出したりして」
「ううん。私も……」
「うん」
「……なんでもない。寒いねー」
「そうね」
もしかしたら、眠るところだったのかもしれない。
彼女はこの季節には薄着なよそおいで、ふつりあいなマフラーがぱたぱたとあどけなく揺れていた。
「よかったら、これ羽織ってて。……私の部屋、来てくれる?」
「いいの? ふふっ。お邪魔します」
ああ。誰か。これが何の罰なのか、教えて。
「ううん。私も……」
「うん」
「……なんでもない。寒いねー」
「そうね」
もしかしたら、眠るところだったのかもしれない。
彼女はこの季節には薄着なよそおいで、ふつりあいなマフラーがぱたぱたとあどけなく揺れていた。
「よかったら、これ羽織ってて。……私の部屋、来てくれる?」
「いいの? ふふっ。お邪魔します」
ああ。誰か。これが何の罰なのか、教えて。
10: 2014/12/26(金) 00:18:56.16 ID:Ut8VQ/e0o
seeyou nextday
14: 2014/12/31(水) 21:00:25.69 ID:iKhrD77ro
「どうしてだろう」
わかっては、いるのだけど……。
「上手な言葉が、見つからないわ」
「そっか」
子供のような体温が、理性を溶かしていく。
「私と同じだね」
「ん?」
「私も、そらちゃんに会いたいなって思ってたから」
わかっては、いるのだけど……。
「上手な言葉が、見つからないわ」
「そっか」
子供のような体温が、理性を溶かしていく。
「私と同じだね」
「ん?」
「私も、そらちゃんに会いたいなって思ってたから」
15: 2014/12/31(水) 21:06:54.43 ID:iKhrD77ro
「…………」
抱き合ったまま、脈を数える。
なんて心地いいのだろう。
欲しがれば欲しがるだけ、思えば思うだけ、私の空は広く、無辺に、広陵に。荒涼と。
標もなく、ただ羽を動かして、どちらが上かもわからずに。
溺れるように、飛んでいた。
空に、無謬の空に、陽が射した。
熱くて、灼けてしまいそうなほどのそれは。
抗い難く、狂おしく私を魅了した。
抱き合ったまま、脈を数える。
なんて心地いいのだろう。
欲しがれば欲しがるだけ、思えば思うだけ、私の空は広く、無辺に、広陵に。荒涼と。
標もなく、ただ羽を動かして、どちらが上かもわからずに。
溺れるように、飛んでいた。
空に、無謬の空に、陽が射した。
熱くて、灼けてしまいそうなほどのそれは。
抗い難く、狂おしく私を魅了した。
16: 2014/12/31(水) 21:12:37.44 ID:iKhrD77ro
だから、確かめずにはいられない。
答えのあろうはずもない、言葉で。
「いちごちゃんは、いなくなったりしない?」
「……えっと……」
彼女は、私の肩の上で苦笑する。見えないけれど、きっとそう。
「ふふ。いきなりアメリカに行っちゃったんだっけ」
「うん……でもね、」
「そうだよね……いちごちゃんは、ひとりじゃなかったんだよね……だから、帰って来た。帰って来れた」
「……そらちゃんは、ひとりじゃないよ」
「そうかな」
「そうだよ。みんな、いるよ」
「……うん」
小さな手が、ぷにぷにした子供みたいな手が、髪を梳く。私は、頭を抱き寄せられるまま、甘い匂いの中に沈んだ。
「私もいるよ。ひとりじゃないよ」
「うん」
答えのあろうはずもない、言葉で。
「いちごちゃんは、いなくなったりしない?」
「……えっと……」
彼女は、私の肩の上で苦笑する。見えないけれど、きっとそう。
「ふふ。いきなりアメリカに行っちゃったんだっけ」
「うん……でもね、」
「そうだよね……いちごちゃんは、ひとりじゃなかったんだよね……だから、帰って来た。帰って来れた」
「……そらちゃんは、ひとりじゃないよ」
「そうかな」
「そうだよ。みんな、いるよ」
「……うん」
小さな手が、ぷにぷにした子供みたいな手が、髪を梳く。私は、頭を抱き寄せられるまま、甘い匂いの中に沈んだ。
「私もいるよ。ひとりじゃないよ」
「うん」
17: 2014/12/31(水) 21:39:59.27 ID:iKhrD77ro
――少し。甘えすぎてしまった。
「ごめんね。ケーキも、七面鳥もないけれど」
「私も。全部食べちゃった」
「……ねえ」
「うん?」
「えっと……私、こういうの、初めてだから……重かったら、言ってほしいんだけど」
「うん」
「あの……」
「……」
「ぷ、ぷれぜんと。あるの」
瞳が輝く。本当にわかりやすい。感情を隠さない。喜びも。悲しみも。全身に溢れて。
「ボヘミアンスカイの新作アクセ……いちごちゃんに、もらって欲しいな」
「すごい……これ、そらちゃんの?」
「うん……私が以前、ある人にもらった髪飾りを元に作ったの。カードにはしてないから、それひとつきり」
「ごめんね。ケーキも、七面鳥もないけれど」
「私も。全部食べちゃった」
「……ねえ」
「うん?」
「えっと……私、こういうの、初めてだから……重かったら、言ってほしいんだけど」
「うん」
「あの……」
「……」
「ぷ、ぷれぜんと。あるの」
瞳が輝く。本当にわかりやすい。感情を隠さない。喜びも。悲しみも。全身に溢れて。
「ボヘミアンスカイの新作アクセ……いちごちゃんに、もらって欲しいな」
「すごい……これ、そらちゃんの?」
「うん……私が以前、ある人にもらった髪飾りを元に作ったの。カードにはしてないから、それひとつきり」
18: 2014/12/31(水) 21:45:01.24 ID:iKhrD77ro
「嬉しい……」
「そう? 重くない?」
「うん。軽いよ」
そう言って、箱を上下させて見せる。
「……そっか。良かった」
「でも、私何も……」
「いいよ……急に呼び出しちゃったんだから」
「んー……でも……」
顎に手を当てて、一生懸命考えている。
「……じゃあ、えっと……あのね」
「うん」
「来年のクリスマスに、いちごちゃんからのプレゼントが欲しいな」
「うん?」
……そうだよね、持って回った言い回しは、通じないよね。
深呼吸して。
「そう? 重くない?」
「うん。軽いよ」
そう言って、箱を上下させて見せる。
「……そっか。良かった」
「でも、私何も……」
「いいよ……急に呼び出しちゃったんだから」
「んー……でも……」
顎に手を当てて、一生懸命考えている。
「……じゃあ、えっと……あのね」
「うん」
「来年のクリスマスに、いちごちゃんからのプレゼントが欲しいな」
「うん?」
……そうだよね、持って回った言い回しは、通じないよね。
深呼吸して。
19: 2014/12/31(水) 21:47:51.61 ID:iKhrD77ro
「来年も、その次の年も、あなたといたいの。星宮、いちごちゃん」
「……私も。私も、二年先にも、三年先にも、あなたのところに帰って来たい。風沢そらちゃん」
良かった。ちゃんと言えた。
21: 2014/12/31(水) 22:14:00.12 ID:7K3lE9Yso
乙
引用元: 【アイカツ!】風沢そら「聖夜の星」
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