14: 2017/02/27(月) 19:41:38.72 ID:Q61ryPN30



【女吸血鬼「いつまで君のことを覚えていられるかな……?」】



15: 2017/02/27(月) 20:15:15.45 ID:Q61ryPN30

少女「はやく起きてください……もうとっくに日が暮れましたよ……吸血鬼さま……」


女吸血鬼「ん? くぁあ~。……そうかい」

女吸血鬼「君、つかぬことをきくが……人間は起きている間何をしている?」


少女「あっ! ついに人間の生活に興味を持ちはじめたんですね!」

少女「いいですよ! 不肖この少女、吸血鬼さまの気になること、頭から尻尾揺りかごから冥府まで、なんでも教えますよ!」キラリーン


女吸血鬼「…………」

女吸血鬼「で? 私の質問の答えは、どうしたんだね?」


少女「ああっはいっ!」

少女「ええっとですね……男は村の外にいって狩りを、女は家で洗濯裁縫、子供は畑や田んぼの手入れですね」


女吸血鬼「つまり生産的に過ごしていると?」


少女「そうですね。生きてくために必要ですから」


女吸血鬼「ふむ……。では私はなんだ? 言ってみろ。人間か、私は?」


少女「は? 嫌ですね、吸血鬼でも痴呆ってあるんですか?」


女吸血鬼「……」ピクッ

女吸血鬼「……そうだな……私は吸血鬼だ」


女吸血鬼「……そう、私は吸血鬼である」


少女「……そうですね。爪先から頭の先まで純吸血鬼ですね」


女吸血鬼「そうだそうだ。いいか君、この私が自身の種族について忘れると言うことは一切ない!」


少女「……名前は?」


女吸血鬼「は?」


少女「自分の名前です……言えるでしょ? ……言えますよね?」


女吸血鬼「………………」

女吸血鬼「……ァ、――ノ……二世だ!」モゴモゴ


少女「はい? そんな噛みきれないものを食べているんじゃなんですから言葉をモゴモゴさせないでください。……ひょっとして……入れ歯が必要ですか?」


女吸血鬼「…………」ブチッ


女吸血鬼「なんたら、なんたらーノ二世だ! ……ふんっ」


少女「なんたらって……覚えてないじゃないですか……!」


女吸血鬼「ええい! そんなことはどうでもいいのだ」

16: 2017/02/27(月) 20:27:43.02 ID:Q61ryPN30

女吸血鬼「あれだ……! 吸血鬼になるときに名前を捨ててきたのだよ! 私は!」

女吸血鬼「ともかく、いま! 大事なことは、私が吸血鬼だということだ!」


少女「はぁ……」


女吸血鬼「君、吸血鬼が氏に物狂いで生きるために何か活動していると思うか?」


少女「血を吸――」


女吸血鬼「そう、無い! 無いのだ!」


少女「――? いや、ですから……吸血――」


女吸血鬼「な・い・の・だ!」

女吸血鬼「吸血鬼は優雅であり、気まぐれであり、恐怖の象徴なのだ!」


女吸血鬼「そんな私がだ! なんだ、学者だかなんだかの小娘に起こされなあかんのだ!」


少女「つまり……ここまで散々声を荒げたのは……」


女吸血鬼「そう。私はもう一度眠りにつかせてもらう!」


少女「……正直、目……覚めましたよね?」


女吸血鬼「…………うむ」

17: 2017/02/27(月) 20:34:25.50 ID:Q61ryPN30
少女「一回……おちつきましょう……?」


女吸血鬼「……そうだな……うむ……」


女吸血鬼「…………」


少女「…………」


女吸血鬼「…………」


少女「……落ち着きました……?」


女吸血鬼「…………」


少女「……? 吸血鬼さま? …………?」


女吸血鬼「……くぅ……くぅ……」スヤスヤ


少女「いや、なに二度寝してるんですか! 起きて! 起きてください!」

少女「起きて、私に研究されてください!」ユサユサ


女吸血鬼「ママぁ……あと五分……」


少女「誰がママだ?! あと、ベタだな、おい!」

18: 2017/02/27(月) 21:04:58.45 ID:Q61ryPN30
――――――
――――
――



女吸血鬼「……今回のことは私が寝ぼけていたということで……」


少女「はい……私も吸血鬼さまに不敬な言葉使いを……大変失礼しました……」


女吸血鬼「いいんだ、いいんだ。……忘れてさえくれれば」



女吸血鬼「さて、本題に入ろうか。君、昨日の続きでいいのかね?」


少女「はい。まだまだありますよ」パサァ

少女「ではこのカード、裏に何がかかれているか、分かりますか?」


女吸血鬼「分からない。どうやら私には透視の力はないようだ」


少女「そうですね。次、じゃあ……このカードを手を使わずに動かしてください」


女吸血鬼「同じく無理だ。念動の才能もない」


女吸血鬼「……なあ君、本当にこんな不毛なこと今晩も一晩中続けるのか?」


少女「そうですよ。何かあるはずなんです、吸血鬼の隠された力が」


少女「だってそうですよね。日光に弱い、十字架がだめ、銀のナイフで即氏、流水に勝てない、ニンニクアレルギー」

少女「そんな弱点の多い吸血鬼の力が、不老不氏(笑)と夜目がきく(爆氏)だけですよ!」


少女「そんなわけないじゃないですか!」


女吸血鬼「……君……バカにしてるだろ……?」


少女「いいえ、まさかそんな滅相もない」


少女「ただそんなに多くの弱点があるのなら、不老不氏(笑)なんてあってないようなものだと思いますけどね」


女吸血鬼「君…………まあいい……で、そう思ったから、私には何かしらプラスになる能力があると思った訳だ」


少女「ええそうです、さすが聡明でいらっしゃいますね、吸血鬼さまは」


女吸血鬼「……まあ暇潰しになるからいいか……で、次のは?」


少女「そうですね――」


女吸血鬼「――――ほうほう」


19: 2017/03/02(木) 16:25:34.37 ID:+/5mbZAU0
――数年後


女「吸血鬼さま、起きて……あれ?」


女吸血鬼「今日は遅かったね、君」


女「吸血鬼さまの起きるのが早いんですよ」


女吸血鬼「そうかい……まあそんな些末事はどうでもいいことだろう」

女吸血鬼「君から譲ってもらった茶をだそう」


女「おねがいしますね」


女吸血鬼「ふむ……そういえば覚えているかい、君がここに通い始めた頃のこと」

女吸血鬼「なんだったか……吸血鬼には何か知られていない力が隠されてるとかなんとか言って色々なことをしたね」


女「……結局すぐ試すことを思い付かなくなって……」


女吸血鬼「そうそう。君はそうして世間話の相手兼、ときどき検査調査の間柄になったんだけっか」


女「早いものですね……あ、ミルクありますか?」


女吸血鬼「ふむ、あるにはあるがもう少しできれるな……申し訳ないが次はミルクを持ってきてくれ」


女「はい。と、ありがとうございます」


女吸血鬼「うむ。熱いからな、気をつけて飲めよ」

20: 2017/03/02(木) 16:49:15.85 ID:+/5mbZAU0
女吸血鬼「ところで、君……最近こっちに来る頻度が上がったんじゃないかね」


女「そうですか?」


女吸血鬼「ああ、前は――君が少女だったころは――週に2日3日顔を出す程度だったが……」

女吸血鬼「ここ最近はほとんど毎日だぞ」


女「……居心地がいいんでしょうね、きっと」

女「吸血鬼さまはどうなんですか?」

女「ずっと一人だったでしょう、寂しくなかったんですか?」


女吸血鬼「そうでもない。何せ君たちの村が近くにあるからね」

女吸血鬼「定期的に君のような物好きが来たものさ」


女「物好き……ですか……?」


女吸血鬼「そうだね。わざわざ何が出るか分からない夜の森を抜けてここまで来るんだ」

女吸血鬼「これを物好きと言わずになんと言えばいいか、私は分からないな」


女吸血鬼「それに――」


女「それに、なんです?」


女吸血鬼「寂しさ、という感情が分からなくなるくらい、長く、生きすぎた」


女吸血鬼「寂しさだけじゃない。覚えたことよりも、忘れたことの方が多いくらいだ」


女「…………」

女「それでも――」


女吸血鬼「それでも、なんだい?」


女「……私のことは覚えていてくれますよね……?」


女吸血鬼「――…………」

女吸血鬼「どう……だろうね……」

女吸血鬼「なにせ自分の名前を忘れたくらいだ」


女「……」

21: 2017/03/02(木) 17:31:25.90 ID:+/5mbZAU0
――――
――


女「……こんばんは」


女吸血鬼「おや、ひさしぶりだね君」

女吸血鬼「あんな話をしたんだ、もう来てくれないと思ったよ」


女「そうですね、暗にお前のこと忘れるからと言われて、正直悲しかったですよ」


女吸血鬼「すまないね……軽率な発言だった」


女「ええ、本当に軽率……」ピトッ


女吸血鬼「……? どうしたんだね、君。そんなにくっついて……」


女「たいした理由はありませんよ。ただ、忘れてほしくないからです」


女「私が吸血鬼さまの近くにいたということを……」


女吸血鬼「……そうかい」


女吸血鬼「……君は――」


女吸血鬼「君は……随分と年をとったな……」


女「あらひどい。まだ30手前ですよ、私」

女「でも、そうですね、確かに年をとりました。もう少女とは口が割けても名乗れない」


女「……吸血鬼さまは変わりませんね。出会ったころのままです」


女吸血鬼「不老不氏だからね。数多くのバッドステータスに埋もれた唯一……いや二つある長所の内の一つだ」

女吸血鬼「これがなければとっくに自頃していたところだよ、私は」


女「……自殺?」


女吸血鬼「気が狂うくらう長く生きているということさ」

22: 2017/03/02(木) 18:00:59.48 ID:+/5mbZAU0
女吸血鬼「おっといけない、またも軽率なことをいってしまったよ。失敬失敬。忘れてくれ」


女「……」


女吸血鬼「――おや? よく見ると君、指が綺麗だな」


女「え? 指、ですか?」


女吸血鬼「うむ、指だ」スルリ

女吸血鬼「長くて、白くて、ふむ……」ギュ


女吸血鬼「――絡ませがいのある指だ」


女「……あまり日に焼けませんから……だから白いんです」


女吸血鬼「私と一緒だな」


女「……吸血鬼さまの指も綺麗ですよ……」


女吸血鬼「ありがとう」フッ

23: 2017/03/02(木) 18:16:00.55 ID:+/5mbZAU0
――――
――


女「吸血鬼さま……起きてください……」


女吸血鬼「もう、少し……」ムニャムニャ


女「もう……吸血鬼さまったら……」

女「――!」ハッ


女「……」イソイソ


女吸血鬼「……くぅ……くぅ」スヤスヤ



――数時間後



女吸血鬼「んっ……ふわぁ、よく寝た~~っ……」

女吸血鬼「……ん? なんだこれ――」


女「あっ、起きましたか?」


女吸血鬼「……棺桶のなかは狭いんだけどな……」


女「けど、二人寝転がれる広さはありますよ?」


女吸血鬼「ぎゅうぎゅうだけどな」


女吸血鬼「ほら、出るから……動くな」


女「いいじゃないですか。もう少し一緒に入ってましょうよ」


女吸血鬼「……まあ、君がいいのなら」


女「ふふ……」ギュウッ


女吸血鬼「君はいい匂いがするな」ギュウ~


女「吸血鬼さまこそいい匂いですよ」

24: 2017/03/02(木) 22:29:12.72 ID:+/5mbZAU0
女吸血鬼「ふはっ、いい年こいた大人二人が何をやってるんだって話だな」


女「……私は、好きですよ。こういうの」


女吸血鬼「そうかい……」

女吸血鬼「じゃあ、もう少しこのままでいようか」


女「眠っちゃうかもしれません……」


女吸血鬼「いいのだよ、君……」

女吸血鬼「夜は長いのだからな、少しの間眠ってもなんら問題はない」


女「はい……」


25: 2017/03/02(木) 22:39:08.37 ID:+/5mbZAU0
女「クゥ……クゥ……」スヤスヤ


女吸血鬼「まさか本当に寝るとはな……」クスッ

女吸血鬼「狭いというのに良く寝れるものだ」ナデナデ


女吸血鬼「……大きくなったな。なめた口を利かなくなったのは大人になった証か否か……」

女吸血鬼「そのくせ甘ったれなところは変わらない」フフッ

女吸血鬼「……」


女吸血鬼「この子も、すぐ……」


女吸血鬼「…………」ナデナデ

26: 2017/03/02(木) 23:12:19.37 ID:+/5mbZAU0

――数日後


女吸血鬼「――」ムクリ


女吸血鬼「――――」キョロキョロ


女吸血鬼「……今日もいないか」ハァ


女吸血鬼「最近来ないな、あの子……」


女吸血鬼「……事故にでもあったか……? いや事故じゃなくとも怪我をしたのかもしれない……」


女吸血鬼「大丈夫か……?」ソワソワ


女吸血鬼「――ん? あれは……」


女「……久しぶりです、吸血鬼さま……」


女吸血鬼「まったくだ。どうしたんだね、君。心なしかやつれて見えるぞ」


女「身内に不幸がありまして、回るような忙しさをなんとか身一つで回しまして……」

女「やっと落ち着いたので、こちらに来たしだいです」


女吸血鬼「そうか……それは……災難だったな……」


女「いえ…………あの申し訳ありません、忙しさにかまけて顔も出せずに……」

女「心配しましたか……?」


女吸血鬼「……そうだな、心配した。それに謝る必要はない」

女吸血鬼「身内が氏んだんだ。私のことよりそちらを優先するのは当然のことだよ……」


女「……父だったんです」


女吸血鬼「そうか……」

女吸血鬼「……話を聞こうか? 思うところがあるのだろう」


女「……父は私にとって唯一の肉親だったんです」

女「学者としても尊敬していたし、男手ひとつで私を育ててくれたことにすごく感謝もしています」


女「それに吸血鬼さまのことを教えてくれたのは父だったんです」


女吸血鬼「……ということは昔君のお父さんと会ったことがあるんだろうな、覚えてないけど……」


女「ええ、父も一度あっただけだけと言っていました」

27: 2017/03/03(金) 08:36:01.61 ID:D0i1iU+T0
女吸血鬼「ふぅん……」

女吸血鬼「……寂しいかい?」


女「はい……」


女吸血鬼「……」

女吸血鬼「あーあれだ、君。前にも言ったが夜は長い」

女吸血鬼「君の寂しさをまぎらわすにはちょうどいい」


女吸血鬼「思い出話でも何でもいい……話そうか」

女吸血鬼「誰かと何か話したくてここに来たんだろう?」


女「ありがとう、ございます……」


女吸血鬼「感謝はいらないよ、君」

28: 2017/03/03(金) 09:16:14.54 ID:D0i1iU+T0
……


女「――――ということがあったんです」


女吸血鬼「そうかそうか。それは可笑しいな」ケラケラ


女「……ふぅ……ありがとうございますね、吸血鬼さま」


女吸血鬼「君はさっきから感謝してばかりだな」

女吸血鬼「もちろんその言葉を受けとるのはいささかでなく嬉しいのだが……」


女「……吸血鬼さまは……」


女吸血鬼「なんだい? 私としては話せる身の上なんか無いぞ、全部忘れてしまったからね」


女「年を取ったから?」


女吸血鬼「そうだそうだ……悲しいがそんなものだ」


女「不老不氏って悲しいですね……」


女吸血鬼「まあ望んでなるものじゃないな……」


女「……」

女「私は――」


女吸血鬼「……君、外に出ようか」

29: 2017/03/04(土) 19:03:48.49 ID:TH3KD0540
――外


女吸血鬼「ふむ、私には涼しいくらいなんだがどうかね、君?」


女「そうですね……寒くは、ないです」


女吸血鬼「そうか」


女吸血鬼「……君、こちらにおいで」


女「なんですか……?」

女「――うわっ!?」ビクッ


女「これって……?」


女吸血鬼「私の眷属……こうもりだよ」


女「……多く、ないですか……?」ウジャウジャ


女吸血鬼「これだけいないと……できないからな」


女「なにを……って、きゃあっ!」グワッ


女吸血鬼「間違っても、手を放すなよ……」グイッ、タッタッタ


女「そんな――こうもりの上を歩くなんて無理です!」


女吸血鬼「昔な……それこそ人類が衰退する前の映像作品に、こんなシーンがあった……こうもりではなくてカラスだったが……だから大丈夫だよ!」


女「そんな無茶苦茶なっ!!!」


30: 2017/03/04(土) 19:23:54.79 ID:TH3KD0540

女吸血鬼「ふふっ、どうだい空に近づいた感想は?」


女「氏んじゃいますって、へたしたら……」


女吸血鬼「そうはならないよ、君。私がいるからね」

女吸血鬼「そんなことはさておき……ほら――」


女「はい? ぁ…………」

女「星が綺麗……」


女吸血鬼「良いだろう……ここまで空に近いと手が届きそうで……」


女「はい……」


女吸血鬼「星の海。あの中の一つに君のお父様が要るかもしれない……」


女「父が……?」


女吸血鬼「ああ、人は氏んだら星になるんだ……」


女「そう、なんですか……? ……そうなんでしょうね…………」

女「…………」ヒトッ


女吸血鬼「…………」シン

31: 2017/03/04(土) 19:38:47.05 ID:TH3KD0540

女「……ありがとうございました、吸血鬼さま」


女吸血鬼「お別れの言葉は言えたかい?」


女「はい……」


女「――」

女「吸血鬼さまは、こういうこと何度もしているんですよね……?」


女吸血鬼「こういうこと?」


女「氏んだ人とのお別れ……」


女吸血鬼「ん……ああ……あるな、私が大好きだった人とも、私を大好きだった人とも……」


女「それは……悲しくないんですか?」


女吸血鬼「不老不氏だもの、こればかりはしょうがない……」

女吸血鬼「それにだね、愛した誰かの顔ももう覚えていないし、愛してくれた人の言葉も覚えていない」

女吸血鬼「覚えていない事をどう悲しむのかというのが本音だよ……」


女「……それは悲しいことですよ……」


女吸血鬼「そうなのか……君が言うのなら、そうなのだろうな……」


32: 2017/03/04(土) 20:18:01.21 ID:TH3KD0540
女「吸血鬼さま……私は……不老不氏というものに憧れていました……」


女吸血鬼「……そうじゃないかとはうっすらと思っていたよ」


女「それが吸血鬼を調べている第一の理由です……」


女吸血鬼「ということは、私が付き合わされたあの実験は……」


女「第二理由ですよ。だってもし吸血鬼になれても、あんなに弱点が多いだけだったら生きづらいじゃないですか」


女吸血鬼「まあ、そうだな……中々に不便な体だと日々難儀しているよ」


女「……それに不老不氏だと最後には一人ぼっちになってしまう」


女「ねえ、吸血鬼さま――私を――」


女吸血鬼「馬鹿なことを言うんじゃないよ、君っ――! その言葉の先は一時の感情に任せて言っていい台詞ではない!」


女「何でですか?! 吸血鬼さま……あなたのことが好きなんです! あなたを一人にはさせたくない! 悲しい思いにも――」


女吸血鬼「……望んでなるものじゃないんだよ、不老不氏なんて――! 吸血鬼になんて――!!」

女吸血鬼「分からないようだから、はっきりと言おう」

女吸血鬼「――私は君を眷属にする気はない!」


女「……」

女「……私もいつかあの星々の中に入ってしまいます……」


女吸血鬼「そうだろうな、君は人間なのだから……」


女「私がそうなっても吸血鬼さまは覚えていてくれますか……?」


女吸血鬼「………………」


女吸血鬼「私は――」

女吸血鬼「――昔、今までで一番愛し愛された人と似たような約束をしたことがある……」


女「はい……」


女吸血鬼「……私はな……その人がどんな名前で、どんな顔をしていたか……まったく思い出せないんだ」


女「…………」ウルッ

女「……ひっ……すん、うぇえ……ん」ポロポロ


女吸血鬼「……地上におりようか」


女「……ひっく……ひっく……は、ぃ……」コクン

33: 2017/03/04(土) 20:36:06.90 ID:TH3KD0540
――――――
――――
――



女吸血鬼 (あの夜以来、あの子は来なくなった)


女吸血鬼 (これでよかった、これが一番いい結果だ)


女吸血鬼「はぁ――」


女吸血鬼 (窓から身を投げ出し空を見上げる)


女吸血鬼 (まぶしい星の海が目に痛い程突き刺さる)


女吸血鬼 (あの中をあの子のお父様は漂っているのだろう……)


女吸血鬼 (ひょっとしたらもうあの子がいるかもしれない。そう思えるほど時間感覚が狂っていた)


女吸血鬼「……私は……」


女吸血鬼 (あの夜がどれくらい前のことだったか思い出そうとして、止めた)


女吸血鬼 (代わりに星空を睨み付け――)


女吸血鬼「いつまで君の事を覚えていられるかな……?」


女吸血鬼 (誰ともなしに私は呟き、星を見るのに飽きたため窓をそっと閉めて、出涸らしの紅茶を飲むためカップを探した)

34: 2017/03/04(土) 20:40:05.39 ID:TH3KD0540

>>14-33

【女吸血鬼「いつまで君の事を覚えていられるかな……?」】 おわり

引用元: メイド「私の嫌いな貴方様」