1: 2017/06/01(木) 11:36:06 ID:LPWk6GNE


もし、この世界が一つの物語だったなら。
俺は、巨人を見上げる民衆の一人になりたかったなと。

解散式の夜、エレン.イェーガーはそう云った。



【858年】


ズーン……パラパラパラ……

ガラガラガラ


衛生兵A「輸血の用意を!それと、ガーゼが足りません!!早く補給してください!!」

サムエル「了解!」ガサゴソ

ズゥゥーン……

サムエル「……っと、と」グラッ

2: 2017/06/01(木) 11:36:36 ID:LPWk6GNE
衛生兵B「班長!補給終わったら、傷口の縫合お願いします!!」アセアセ

サムエル「お前でやれ!訓練兵団で習っただろ!?」

衛生兵B「でっ、できません!習ってません!!」ブンブン

サムエル「できないじゃない、やれ!!繕いものと同じだ!!
     ……ああくそっ、片足の人間をこき使いやがって!!」バタバタ


俺が怒鳴りながら指示を出す間も、次から次へと負傷した兵士が運びこまれてくる。
この野戦病院は、さながら小さな地獄だ。

バターンッ


衛生兵D「ヤクソン班長!!」

サムエル「次はなんだ!!」

衛生兵D「マーレのっ…マーレの先遣隊が突撃してきました!」

サムエル「防衛班はどうした!」

衛生兵D「それがっ…敵の勢いが強く、押されています!このままじゃ、シガンシナ区が…!」


調査兵団がなんてザマだ。リヴァイ兵長が現役だったら削がれてんぞ。
これだから、立体起動が必修じゃなくなったゆとり世代は……。

3: 2017/06/01(木) 11:37:22 ID:LPWk6GNE

サムエル「俺の対人用立体起動を持ってこい」

衛生兵D「危険です!それに、班長にもしものことがあったら…」

サムエル「黙れ!ここの防衛は衛生班の仕事だ!!お前はさっさと俺の班を集合させろ!!」ゴスッ


尻を蹴飛ばすと、若い衛生兵は半泣きで駆けていく。
俺はそのあいだに、散弾銃を装備した立体起動装置をつけて、
義足がすっぽ抜けないようベルトをギリギリと締め上げる。


衛生兵D「救命衛生第一班、集合しました!!」ビシッ

サムエル「よし、全員立体起動に移れ!マーレ先遣隊の背後に回りこむぞ!!」バシュッ!

全員  「「「「了解!!」」」」


塹壕から走り出た俺たちは、星空の下を飛んでいく。

バシュッ、ゴオオ…

4: 2017/06/01(木) 11:38:05 ID:LPWk6GNE
サムエル(……マーレ人はエルディア人に比べて骨が弱い。だから、立体起動装置は
     俺たちエルディア人しか使えない)パシュッ

サムエル(これも、壁の外に出てから知ったことの一つだ)ギュルルル


バアンッ!

ワイヤーを巻きとって接近する俺に、岩場のすきまから銃弾が飛んできた。


サムエル 「いたぞ、先遣隊だ!総員、戦闘に入れ!」ガッ


俺は撃った敵兵のヘルメットにアンカーを突き刺して、体を回転させる。

敵兵A 「ぐっ……」バタンッ

チュインッ、チリッ

そのまま散弾銃を構えた俺の頬とワイヤーを、銃弾がかすめる。


敵兵B 「自由の翼……エルディアの調査兵団だ!」

敵兵C 「ひるむな!撃てぇ!!ワイヤーを狙え!!」

5: 2017/06/01(木) 11:38:52 ID:LPWk6GNE
ガガガガガッ!!


衛生兵A「うおおおおお!!」ギュルルル

ザクッ!

衛生兵A「よっしゃあ、討伐数10!」グッ

衛生兵B「おいおい、俺の補佐も忘れんじゃねえぞ!」ギャハハ

敵兵B 「くそ、撤退だ!てった……」ザクッ

衛生兵B「氏ね、マーレの二等民が!!エルディアの力を思い知「やめろ!」班長……」シュン


こいつ、エルディア至上主義者だったのか。
マリア奪還後からこういううるさい奴が増えたな…。


サムエル「お前らに聞きたいことがある。レベリオとの通信が途絶えているのはどういう事だ?
     戦闘はどうなった?」

敵兵C 「ひっ…」ガタガタ

サムエル「軍用鳩が還ってこない。だからお前らから聞くしかないんだ。答えろ」

6: 2017/06/01(木) 11:39:43 ID:LPWk6GNE
敵兵D 「あ、悪魔の末裔め……俺たちマーレは屈しないぞ、最後の一人になるま」ザシュッ!


ギュルルル…ストンッ


衛生兵C「ヤクソン班長、ご無事ですか!」ポタポタ

サムエル「……俺は平気だ、それより索敵の報告を」

衛生兵C「周囲に敵の隊はありませんでした!」

サムエル「よし、帰還するぞ」

衛生兵C「はっ!」ビシィッ

サムエル(あーあ……これなら、巨人と闘ってりゃよかった時代の兵士の方が、気が楽だったろうなあ)

7: 2017/06/01(木) 11:40:13 ID:LPWk6GNE
【二日後】


バタバタバタ…バンッ


衛生兵A「ヤクソン班長、精鋭部隊が到着したとのことです!」

サムエル「やっとか……レベリオ収容区の解放は無事に終わったのか?」

衛生兵A「ええ。"超大型"がやってくれたそうで。マーレ軍の飛行艦をグシャーッ!って!!
     いやあ、僕も見たかったなあ」キラキラ

サムエル「……そうか」(アルミン……)


カツーンッカツーンッ


衛生兵A「そういえばヤクソン班長って、あの"104期"なんですよね」

サムエル「ああ、生き残ってるのはもう俺を含めて5、6人しかいないけどな」

衛生兵A「じゃあ今日は、久しぶりの同窓会ですか?」

サムエル「バカ言うな、この非常事態に」ガチャッ


俺が入ると、整列していた衛生兵たちがザッと敬礼する。
その中で、ひときわ美しい黒髪をなびかせた彼女と目が合った。

8: 2017/06/01(木) 11:40:57 ID:LPWk6GNE
ミカサ 「ひさしぶり、サムエル」

アルミン「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃって」

サムエル「気にするな。お前らが無事で何よりだよ。ミカサ、アルミン」

ミカサ 「…ふふっ、サシャじゃなくてがっかりした?」

サムエル「何を期待してんだ首席様」

ミカサ 「サシャは無事。一足先にトロスト区へ帰った」

サムエル「よかった……」ホッ

アルミン「……」ゴホン

ミカサ 「……あ、いけない。またアルミンにお説教されてしまう。
     ええと…"エルディア軍調査兵団戦闘分隊長、ミカサ.アッカーマン以下15名、
     ウォール.マリアシガンシナ基地へ帰還いたしました!"」ビシッ

ミカサ 「……これで、合ってる?」オズオズ

サムエル「……」

アルミン「……」

サムエル「……ぷっ!…あっはっはっは!!」

9: 2017/06/01(木) 11:41:27 ID:LPWk6GNE
ミカサ 「!?」

アルミン「はははっ……ミカサ、君って本当に……いや、ごめ…あはははは!」

ミカサ 「わ、笑わないで!私は、真剣に……」


◆◆◆◆


サムエル「なあミカサ、悪かったって。別にバカにしたわけじゃないんだから」

ミカサ 「……」むすー

サムエル「えーと、その……俺たち、同期だろ。だから堅っ苦しいのやられると
     なんか変な感じするっつーか、だから」

ミカサ 「……それならそうと、言えばいい」

サムエル「はい、ごめんなさい」ニコニコ

ミカサ 「許す」


俺たちは連れ立って、シガンシナ基地の中を歩いていた。
(アルミンはハンジ団長に会いに行った)

そういえば、訓練兵団の頃も、エレンとは仲良くやってたけど…ミカサとは班も違ったし、
こうして二人で話すのは初めてな気がする。

10: 2017/06/01(木) 11:42:39 ID:LPWk6GNE
ミカサ 「……ウォール.マリアを奪還してから、色々なことがあった」

サムエル「……そうだな」

ミカサ 「まさか、巨人が同じ人間だったなんて……考えたこともなかった。
     心の整理がつかないまま、調査兵団はエルディア軍として再編されて……
     4年後に、マーレとの戦争が始まった」

サムエル「半年目にパラディ島を制圧……さらに大陸まで侵攻した俺たちエルディア人は、
     ついにレベリオ収容区を解放して、同胞たちと感涙の再会……ってか。
     胸クソ悪くなる話だよな」

ミカサ 「でも、そうしなきゃエルディア人が滅ぼされてしまう。
     よくないことだけど、やらなくちゃいけない」

サムエル「……」

ミカサ 「……」


俺たちはしばらく、黙って花壇を眺めていた。

ミカサ 「サムエル、実はもう一つ、悪い知らせがあるの」

サムエル「……なんだ?」

11: 2017/06/01(木) 11:43:13 ID:LPWk6GNE
ミカサ 「エレンが、もうすぐ氏ぬ」




サムエル「……はっ?」

ミカサ 「私と一緒に来てほしい。そこでエレンが待ってる。
     仲間たちへ最期の言葉を伝えるために」

ミカサ 「お願い、サムエル。あなたも一緒に、エレンの命が消えるのを見届けてほしい」


ざあっと風が吹いて、舞い上がった花びらがミカサの顔を覆い隠す。
だから俺に分かったのは、手をとったミカサの声が震えていることだけだった。

12: 2017/06/01(木) 11:43:46 ID:LPWk6GNE
【現在公開可能な情報】


サムエル.リンケ=ヤクソン

23歳。調査兵団戦闘支援分隊、救命衛生第一班班長。
従軍医師は厳密には兵士ではないため、赤い十字マークの腕章をつける決まりになっている。
サシャは大恩人。上位10名以外の104期生唯一の生き残り。


調査兵団

エルディア人たちの軍隊として、憲兵団と合体し再編される。
一方、駐屯兵団は独立を保っており、居住地区の最終防衛ラインを担当している。
訓練兵団も存続。しかし、現在は対巨人より対人のための訓練を主とする。


立体起動装置

現在は、軽量化と共にマシンガンの装備された対人用が主流。
ワイヤーは銃撃でもなかなか壊れず、また、マーレ人の骨格では使いこなせない。
しかし、エルディアは大型兵器の進歩に乏しいため、
立体起動をもってしても、戦況は五分五分といったところである。

14: 2017/06/01(木) 14:24:38 ID:4iQW6JEc
【数日後】


レベリオでの勝利は、確実にエルディア軍の士気を上げている。
このまま一気にマーレを攻め落とすのも不可能ではないだろう。


ガタガタ…


ハンジ 「だからこそ、ここでエレンに氏なれちゃ困るんだけどね。ほんとは」

サムエル「は、はあ」

ハンジ 「エレンはやっぱり、エルディア人たちの英雄なわけだよ。
     あ、"進撃の巨人"はね。マリア奪還からパラディ制圧まで、よく闘ってくれたかおおっとお!!」グラッ

ハンジ 「いやあ、石畳って馬車には優しくないね。で、どこまで話したっけ?
     ああ、エレンの氏が及ぼす影響についてだね」

サムエル「俺は巨人に疎いのですが……心配はいらないのでは?その、巨人の力は、継承できるんでしたよね」

ハンジ 「うん。あ、もしかして継承のやり方も知ってる感じ?」

俺がうなずくと、ハンジ団長は「そっか」と目を伏せた。

15: 2017/06/01(木) 14:25:13 ID:4iQW6JEc
サムエル「……もう、進撃の巨人の継承者は決まってるんですか?」

ハンジ 「それについては、本人から聞いた方がいいと思うよ。
     エレンも、最後は友達と過ごしたいって希望していたからね」

ガタンッ…


ハンジ 「さあ、着いたよ。降りて」

サムエル「ここは……」


きっと王都の地下あたりだろうという予想に反して、
連れてこられたのは白壁の立派な城だった。広々とした庭園や、青いとんがり屋根は、
まるで童話から抜け出たみたいな風情だ。


ハンジ 「旧調査兵団本部。懐かしいなあ、エレンは初めての壁画調査に行く前も、ここにいてさ。
     よく訪ねて行ったもんだよ」

サムエル「ここがエレンの終の棲家ですか」

ハンジ 「いいとこでしょ?ちょっと中は暗いけど」ギィィ…

16: 2017/06/01(木) 14:26:09 ID:4iQW6JEc
カツーン…カツーン…


サムエル「あの、団長」

ハンジ 「んー?」

サムエル「さっきからだいぶ階段を下りている気がするのですが。なぜエレンはこんな場所に?」

ハンジ 「まあ、念のため……ね」ガチャッ

連れてこられたのは、地下牢のような場所だった。
といっても、檻は取り外されて、なかなか快適そうだ。

エレン 「サムエル!来てくれたんだな!」ガタッ

サムエル「エレン……」

エレン 「何しみったれた顔してんだよ、俺はこのとおりまだ元気だぜ!」バシバシ

17: 2017/06/01(木) 14:26:43 ID:4iQW6JEc
俺の背中を叩く手は、全然痛くなかった。
エレンの顔には血管が浮き出ていて、血色も悪い。
もう長くはない、というのは本当らしい。


エレン 「しっかし、お前が生き残るとは思わなかったなあ」

サムエル「俺もな。座っていいか?」

エレン 「おう。久しぶりに会ったんだし、昔話としゃれこもうぜ」

ハンジ 「んじゃ、私はちょっと上で用事があるから。ゆっくりしていってね」


カンカンカン…

団長の足音が完全に聞こえなくなると、エレンは「フーッ」と息を吐く。


エレン 「なんつーか、いざこうやって向き合ってみるとさ。何喋っていいのか
     分かんねえな」

サムエル「そうだな。まあ、ジャンたちもすぐ来るからよ。それまでテキトーに
     ヒマつぶそうぜ。つーかエレン、お前よく俺のこと覚えてたな」

エレン 「忘れるわけないだろ!同じ固定砲整備班だったし、仲良くやってたじゃねーか!
     ……あの後、20人ちょい生き残ったのは知ってたけど、ビックリしたぜ。
     名簿見たらお前しかいねえんだもんな」

18: 2017/06/01(木) 14:27:18 ID:4iQW6JEc
サムエル「まあ、俺は前衛に出ないからな、なんたって従軍医師だし」

エレン 「医師?」

サムエル「あ、そういやエレンは医者の息子だっけ」

エレン 「そうだけど。??なんでお前……」

サムエル「ああ、サシャが俺の足にアンカー突き刺して助けてくれたのは覚えてるか?」

エレン 「ありゃ強烈だった。一生忘れねえ光景だよ」

サムエル「そのあと兵団病院に運びこまれたんだけどな、怪我人が多すぎたもんだから、俺は
     後回しにされたんだ。ごった返してる中で消毒も忘れられて、そのうち足がグジョグジョに膿んできて」

エレン 「げっ…聞いてるだけで痛くなってきた」

サムエル「結局、切り落とすことになって」カポッ

19: 2017/06/01(木) 14:27:49 ID:4iQW6JEc

エレン 「あー!見せんな、見せんな!」

サムエル「……で、当然兵士には戻れないってことだったんだけど、やっぱサシャに助けてもらった
     恩は返したいって思ってな。エルミハ区の王立医学校を出て、ちょうど再編されたばっかの
     調査兵団に潜りこんで、今に至る……ってわけだ」カポッ

エレン 「……お前も、苦労したんだな」

サムエル「よせよ。お前に比べれば楽だ」

エレン 「……いや、改めて気づかされた感じだ。皆、俺の知らない所でそれぞれの闘いをしてたんだな」


ガチャッ…カンカンカンカン


サシャ 「エレーーン!ケーキ持ってきましたよー!!」

ジャン 「よおエレン、氏んでないかと思ってヒヤヒヤしてたぜ」ニタッ

ミカサ 「ジャン……悪気がないのは分かるけど、さすがに今日は」

20: 2017/06/01(木) 14:28:23 ID:4iQW6JEc
ジャン 「わ、悪かったよ。ただ…予定変わって会えなかったら、どうしよう……って」モゴモゴ

ミカサ 「ならいい」

エレン 「お前ら…」

ミカサ 「それはそうと、サムエル、来てくれてありがとう」

サムエル「約束したからな」

ミカサ 「でも……大丈夫?シガンシナはあなた以外に医師がいないんでしょう?」

サムエル「今日一日くらいは、ヒヨッコ衛生兵で回せるさ」

サシャ 「あ、サムエルも来てたんですか!?前に会ったのがたしか、医学校いたころだから……
     ごめんなさい!手紙も全然出せなくて……」アワアワ

サムエル「いや、仕方ないだろ。バタバタしてたし」

サシャ 「それはそうと…」ダラァ


大きなケーキを抱えたサシャは、もう食べたそうにヨダレを垂らしてる。
それを見たジャンは「エレン、皿出してやれよ」とあきらめた。

21: 2017/06/01(木) 14:28:57 ID:4iQW6JEc
エレン 「ヒストリアは?」

サシャ 「ちょっと……出られないそうです」

エレン 「そっか。大変だもんな、女王様は」

サシャ 「……何か、伝えておいてほしいこと、ありませんか?」

エレン 「じゃあ……"元気でな。それと、ありがとう"って」

ミカサ 「分かった。絶対に伝える。シャンパンを注ごう。サシャが飢えた奇行種みたいになってる」



エレン 「美味そうなケーキだなあ!サシャが焼いたのか?」

サシャ 「私とミカサの力作です!エレンの大好きなプラリネ入りですよ!」ガツガツ

ジャン 「がっつくな!俺らの分がなくなるだろーが!」

サシャ 「大丈夫です!大きめに焼きましたから!」

サムエル「ほんとだ、どう見ても10人前はあるぞこのケーキ」モグモグ

22: 2017/06/01(木) 14:29:29 ID:4iQW6JEc
ミカサ 「ちなみにプラリネは私の自信作」モグモグ

エレン 「ミカサ、俺が好きだって言ったの覚えてたのか?」

ミカサ 「家族だから、当然」ゴックン


しばらくおしゃべりしながらのティータイムを楽しむ。
ふいに、エレンがフォークを置いて呟いた。


エレン 「……訓練兵の頃はさ、こんなでっかいケーキ食えるなんて想像もしてなかったな」

ジャン 「砂糖もバターも、貴重品だったからな」グビッ「……ふう。このカルバドスも、昔はお貴族サマの専売品だったしな」

エレン 「……マーレとの戦争に勝ったおかげで、今……こんな美味いケーキが食えるのか」

サムエル「つまり、お前のおかげだ。ありがとな、エレン」

エレン 「……」

23: 2017/06/01(木) 14:30:01 ID:4iQW6JEc
じっとケーキを見つめて、エレンは少し悲しそうな顔をした。


ジャン 「おい、何しみったれた顔してんだよ。俺らは感謝してんだぞ」

サシャ 「そうですよ!エレンが闘ってくれなきゃ私、飢え氏にしてたかもしれません!」

サムエル「壁の外に行けるようになったのも、お前のおかげだぞ。お前が、自分の夢をエルディア人
     みんなに分けてやったんだ」

ジャン 「砂の平原、氷の大地、炎の山……全部、お前のおかげで見れた。すげえよ、お前は」

ミカサ 「そう。あなたは英雄。私たちにとっても、エルディア人にとっても。
     マーレ人がいくらあなたを恨んでも、私たちは誇りに思う」

ミカサ 「きっと……あの三人も、そうだった」

エレン 「……!」

エレン 「そう……か。そう…だよな。お前らがそう言ってくれるなら、俺……
     氏んでも、幸せかもしれねえな」

ガチャッ

24: 2017/06/01(木) 14:30:38 ID:4iQW6JEc
リヴァイ「エレン……時間だ」


その言葉に、俺たちの背筋が自然と伸びる。
エレンはフォークを置くと、「じゃあ、行くか」と風呂にでも行くみたいな
軽口で立ち上がった。


ジャン 「向こう行ったら、マルコによろしくな。コニーには……"マリア防衛戦では、助けらんなくて悪かった"って」

エレン 「コニーは…お前のこと恨んだりはしねえよ。あいつ、バカだけどいい奴だからな。
     そっか。マルコにも久々に会えるのか……楽しみだな」シンミリ

サシャ 「ミーナに伝えておいてください、"貸してもらった髪留め、なくしちゃってごめんなさい"って」

エレン 「それはお前が自分で言えよ」デコピンッ

サムエル「トーマスとナックと、あとミリウスにも。俺たちは元気でやってるって言っといてくれよ。
     バカ夫婦は思いっきりからかってやれ」ハハハ

エレン 「ああ」グッ

25: 2017/06/01(木) 14:31:39 ID:4iQW6JEc
カツーン…カツーン…

地下牢を出て、長い廊下を歩く。
その間、俺たちもエレンも無言で、前を歩くリヴァイ兵長の背中を見つめていた。


エレン 「今、思い出してんだけどさ。解散式の夜に、俺……こんなこと言っただろ」

エレン 「もし……もし、この世界が一つの物語だったんなら……
     俺は英雄じゃなくて、巨人を見上げる民衆の一人に、なりたかったな……って」

ミカサ 「エレン……」

エレン 「やっと、その夢が叶うんだ。俺は、ただのエレン.イェーガーに戻れる。
     ……人間として、氏ねる」

26: 2017/06/01(木) 14:32:12 ID:4iQW6JEc
カツンッ


俺たちは、鉄で出来た重い扉の前で止まった。
このために取りつけたものらしく、壁に比べて扉だけ新しい。


リヴァイ「……おい、別れは済ませたか?」

ミカサ 「私は、最後まで一緒に」

ジャン 「俺もだ」

サシャ 「私も行きます」

リヴァイ「……お前は?」

サムエル「……」

サムエル「当然。仲間だからな」


ギィィ…


元は大広間だったそこに、一人の小さな女の子が立っている。
その背後に立ってたうすらヒゲのおっさんが進み出て、エレンの首に十字架をかけた。

27: 2017/06/01(木) 14:32:55 ID:4iQW6JEc
エレン 「……じゃあな、皆」

ミカサ 「……エレン」

エレン 「生まれ変わったら、また会いに行くよ」


それだけ言うと、エレンはくるっと背中を向ける。


サムエル「生まれ変わったら……また」

跪いたエレンを見下ろして、もう一度呟く。


サムエル(お前にまた会えるその日が、待ち遠しい)




29: 2017/06/03(土) 22:01:09 ID:DVMxxtXc
乙です!

引用元: サムエル「二千年後まで、さようなら」