1: 2008/06/02(月) 22:00:49.26 ID:sbHZy2pX0
――桜田家。

家の中で3体の人形達が駆け回っている。

金糸雀「今度は翠星石が鬼かしらー」

翠星石「し、してやられたですぅ」

翠星石と蒼星石と金糸雀。彼女達は鬼ごっこをしている。

金糸雀「ちゃんと10秒数えてから動くかしらー」

翠星石「わかってるですよっ。くぅ、金糸雀にタッチされるなんて不覚ですぅ」
ローゼンメイデン 愛蔵版 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
3: 2008/06/02(月) 22:03:14.64 ID:sbHZy2pX0
――7、8、9、10。

翠星石「よし、10秒たったです」

翠星石は走り出す。

廊下の向こうに人影。蒼星石だ。

どうやら大きな鏡のある部屋の入り口に立っているようだ。

翠星石「しめしめ。こちらに気付いてないですぅ」

翠星石は足音を立てないように慎重に近づいていく。

7: 2008/06/02(月) 22:05:52.25 ID:sbHZy2pX0
翠星石「っ?」

翠星石は思わず歩みを止める。

翠星石(蒼星石……?)

部屋の入り口から鏡の方を見つめ続ける蒼星石。

なぜかその口元が、にやりとつりあがる。

翠星石(なんで笑ってるですか?)

翠星石は思い切って蒼星石に聞くことにする。

8: 2008/06/02(月) 22:07:56.39 ID:sbHZy2pX0
翠星石「ターッチ! ですぅ」

蒼星石「っ!? ああ……翠星石か」

翠星石「どうしたです? 鏡の方をみてにやにやして」

蒼星石「いいや。別になんでもないよ」

翠星石「? そうですか。あ、蒼星石が鬼ですよ」

蒼星石「え? ……そうだった。鬼ごっこをやってたんだったね」

9: 2008/06/02(月) 22:09:56.09 ID:sbHZy2pX0
翠星石「そうですよ。ほら、ぼーっとしてないで10秒数えるですよ」

蒼星石「うん……。わかったよ」

翠星石はその場を駆け出す。

翠星石(ここ数日蒼星石の様子が変ですぅ)

翠星石(思い出してみると真紅が動かなくなった日の朝から変になったような気がするです)

翠星石(やっぱり……。まだあの事を……)

10: 2008/06/02(月) 22:12:16.75 ID:sbHZy2pX0
――有栖川大学病院。

めぐ「からたちの花が咲いたよ」

めぐ「白い白い花が咲いたよ」

柿崎めぐは天井を見上げながら歌っていた。

部屋の窓に黒い影。

水銀燈「また歌ってるのね」

水銀燈が窓の外を飛んでいた。

11: 2008/06/02(月) 22:14:36.61 ID:sbHZy2pX0
めぐ「あら水銀燈。こんにちは」

めぐは窓を開ける。

水銀燈「ありがと」

水銀燈は中に入るとめぐのベッドに腰を下ろす。

めぐ「この歌飽きちゃった?」

水銀燈「別に。ただ、いつも同じのばかり歌ってると思ってね」

めぐ「ふふ。からたちのとげは痛いよ」

めぐ「青い青い針のとげだよ」

15: 2008/06/02(月) 22:17:41.34 ID:sbHZy2pX0
めぐ「ねえ水銀燈」

水銀燈「なぁにめぐ」

めぐ「私ね、最近思うの」

水銀燈「思うって何を?」

めぐ「こうして生きてるのも、悪くはないなぁって」

めぐの変化に水銀燈は目をぱちくりとさせる。

水銀燈「意外ね。あなたからそんな言葉がでてくるなんて」

めぐ「これも水銀燈のおかげかしら」

19: 2008/06/02(月) 22:20:30.13 ID:sbHZy2pX0
水銀燈「私のおかげ……?」

めぐ「ええ。あなたとこうやって過ごす日々」

めぐ「なんだか幸せな気持ちになってくるのよ」

めぐ「あなたと話してると、とても楽しい」

めぐ「あなたに歌を聞いてもらえると、とても嬉しい」

水銀燈「めぐ……」

めぐ「私は誰にも必要とされてないわ」

22: 2008/06/02(月) 22:23:19.26 ID:sbHZy2pX0
めぐ「パパもママも私のことは見放しちゃったし」

めぐ「私のことを必要としている人なんてこの世には1人もいないわ」

めぐ「そして私も、誰かを必要とする気持ちがなくなったわ」

めぐ「でも、今は違うの」

めぐ「私は今、あなたを必要としているわ」

めぐ「私にはあなたが必要。私にはあなたとすごす時間が必要。そう考えるようになったわ」

水銀燈「私が……必要?」

25: 2008/06/02(月) 22:25:40.61 ID:sbHZy2pX0
めぐ「それから、氏ぬのが少し恐くなったわ」

めぐ「あなたとすごす平穏を終わらせたくないと、思うようになったの」

水銀燈「っ!」

水銀燈がピクリと身体を震わせる。

水銀燈「また……またあれが……」

めぐ「水銀燈!? どうしたの?」

水銀燈「どうして……離れないの……どうして」

水銀燈はベッドから立ち上がる。

そして窓の外へと飛んでいってしまった。

26: 2008/06/02(月) 22:28:06.25 ID:sbHZy2pX0
めぐ「どうしたのかしら水銀燈……」

めぐ「ここ数日元気もぜんぜんないし……」

めぐは水銀燈が飛んでいった方向をただ見つめ続ける。

水銀燈「また……思い出した……」

水銀燈の呼吸は荒い。

水銀燈「もう……何度目なのよ」

水銀燈「あの光景が頭に浮かぶのは……」

29: 2008/06/02(月) 22:29:29.94 ID:sbHZy2pX0
――数日前。

水銀燈は蒼星石と戦った。

アリスゲームとは違う、蒼星石の願いをかけた戦い。

――平穏。彼女はそれを望んでいた。

蒼星石は水銀燈を組み伏せ、願いをかなえることができた。

しかし、戦いのダメージによって動かなくなってしまった。

31: 2008/06/02(月) 22:31:10.77 ID:sbHZy2pX0
その時の光景が、水銀燈の頭から離れなかった。

ふとしたきっかけですぐに思い浮かんでしまう。

彼女も最初の頃は平気だった。

だが、1日に何十回もその光景が頭に浮かぶ。それが何日も続く。

精神が磨り減るのも時間の問題だった。

彼女は考える。もしかして私は罪悪感を感じているのではないか、と。

しかし、即座に否定。この私が薔薇乙女の1体を動かなくしただけで罪悪感を感じるわけがない、と。

33: 2008/06/02(月) 22:33:35.10 ID:sbHZy2pX0
じゃあ何故あの光景が頭から離れない?

内側の自分が問いかける。

しかし答えはわからない。

水銀燈「どうなっているのよ」

水銀燈「真紅が動かなくなったことにも関係してるのかしら」

再び自問。

否定。自分は真紅を憎んでいた。敵対していた。ならばむしろ喜ばしいはず。

水銀燈「……」

水銀燈「平穏……ね」

34: 2008/06/02(月) 22:35:51.90 ID:sbHZy2pX0
水銀燈は流れるがままに空を飛んでいく。

水銀燈「あれは……」

水銀灯の視界にうつる建物。

桜田家だった。

水銀燈「真紅のマスターの家だったわね」

他のドールたちはいつもあの家で集まっていた。

真紅や蒼星石がいなくなってどうしているのか。

水銀燈はそれが気になり、様子を見る事にした。

35: 2008/06/02(月) 22:38:12.62 ID:sbHZy2pX0
水銀燈「姉妹の気配が3つ。翠星石と金糸雀と雛苺かしらね」

水銀燈「……? 違うわ。真紅が動かなくなったってことは雛苺も動かなくなっているはず」

水銀燈「蒼星石も動かない。じゃあ……3体目の気配は誰なの……?」

加速。水銀燈は急いで桜田家へと向かう。

桜田家の庭に降り立つ。中から見られぬようこっそりと窓に近づく。

水銀燈「あれは……蒼星石っ!?」

リビングには翠星石と金糸雀と一緒に、動かなくなったはずの蒼星石がいた。

38: 2008/06/02(月) 22:40:25.39 ID:sbHZy2pX0
水銀燈「なぜあの子が動いているの……」

水銀燈の頭の中にまたあの光景が浮かび上がる。

身体からローザミスティカが抜け、動かなくなる蒼星石の姿。

水銀燈「ローザミスティカは取らなかったけど、身体から出た以上復活することなんてないはずよぉ……」

水銀燈は蒼星石の姿を食い入るように見る。

するとこちらに気付いたのか蒼星石がこちらに振り向く。そして、

水銀燈「っ!」

水銀燈を見て、にやりと笑った。

39: 2008/06/02(月) 22:43:03.19 ID:sbHZy2pX0
水銀燈は混乱していた。だが、

水銀燈「あの子達にも私の気配がわかるはず」

それに気付くと、慌ててその場から水銀燈は飛びだつ。

すこしは冷静になった。

だがまったくもって彼女は理解できなかった。

水銀燈「自分で確認するしかないわね」

水銀燈「メイメイ。明日の朝、nのフィールドで待つ。と蒼星石に伝えて頂戴」

42: 2008/06/02(月) 22:45:04.22 ID:sbHZy2pX0
――20時。桜田家。

金糸雀と蒼星石は自分のマスターの家へと戻っていった。

翠星石は2階のジュンの部屋へと向かう。

翠星石「ジュンに話さなきゃです」

コンコン。小さな手で扉をノックする。

ジュン「んー?」

翠星石「翠星石です」

ジュン「入っていいぞ」

45: 2008/06/02(月) 22:48:28.24 ID:sbHZy2pX0
真紅が動かなくなってから、ジュンは前よりもいっそう勉強に励むようになった。

今までの遅れを取り戻すため、早く学校に復帰するため。

彼は信じている。真紅は必ず戻ってくると。

彼は決めた。真紅が戻ってきた時に、成長した自分を見せて惚れ直させてやると。

その目標を動力源に、ジュンは朝から晩まで勉強に励んでいた。

ジュン「どうしたんだ?」

翠星石「相談があるです」

ジュン「珍しいな。言ってみろよ」

47: 2008/06/02(月) 22:50:31.51 ID:sbHZy2pX0
翠星石「最近蒼星石の様子がおかしいのです」

ジュン「蒼星石が? どんな風に?」

ジュンは勉強のために部屋に篭りっきりだったため、

真紅が動かなくなってから他のドールとの交流が少なくなっていた。

その為蒼星石の変化に気付かなかった。

翠星石「なんだか前より物静かになって雰囲気も変わったです」

翠星石「他にも1人で鏡を見てにやにやしていたり……」

ジュン「うーん……」

50: 2008/06/02(月) 22:53:09.08 ID:sbHZy2pX0
ジュン「確かに前よりも雰囲気が静かな感じになったな」

翠星石「どうしちゃったんですかね……」

ジュン「やっぱり真紅のこと引きずってるのかな」

翠星石「そうかもしれないですね」

ジュン「かなり責任感じてたからな」

翠星石「あんまり気負いすぎないで欲しいです」

ジュン「よし! わかった」

53: 2008/06/02(月) 22:55:38.53 ID:sbHZy2pX0
ジュン「明日あたり、僕から蒼星石に話を聞いてみる」

翠星石「ジュン!」

ジュン「蒼星石の言い分は真紅が動かなくなった後いくらでも聞くって言ったしな」

翠星石「そうですね。頼りにしてるですよ」

ジュン「ああ。任せろ」

翠星石「安心したですぅ。じゃあ翠星石は下に戻るですぅ」

翠星石は扉を開ける。

翠星石「ありがとうです。これからも頼りにしてるですよ」

ジュン「ああ」

翠星石は下へと戻っていった。

56: 2008/06/02(月) 22:58:12.60 ID:sbHZy2pX0
――翌朝。

水銀燈は教会で目を覚ます。

水銀燈「さてと。んんー」

起き上がり軽く伸びをする。

水銀燈「nのフィールドにいかないと」

メイメイはしっかりと蒼星石に伝言を伝えてくれた、きっと彼女は来る。

水銀燈はそう信じてnのフィールドへと向かう。

57: 2008/06/02(月) 23:00:53.82 ID:sbHZy2pX0
nのフィールドを飛ぶ。

そして目の前に人影が見えてくる。

水銀燈「あら、約束通りきてくれたのね」

蒼星石が立っていた。

水銀燈は蒼星石の前に降り立つ。

水銀燈「戦う気はないの。今日はあなたに話があるわぁ」

蒼星石は何も言わない。

60: 2008/06/02(月) 23:03:28.90 ID:sbHZy2pX0
水銀燈「単刀直入に聞くわぁ」

水銀燈は目つきを鋭くさせる。

水銀燈「あなた、どうしてまだ動いているの?」

蒼星石は何も言わない。

水銀燈「なんとか言ったらどうなの?」

にやり、と蒼星石が笑う。

口元だけが別人のような違和感のある笑み。

蒼星石「さぁ……どうしてだろうね」

61: 2008/06/02(月) 23:06:38.36 ID:sbHZy2pX0
水銀燈「答えなさいっ」

水銀燈は叫ぶ。

蒼星石はにやにやと笑うだけ。

水銀燈「戦うつもりはなかったけど、これ以上はぐらかす気なら」

水銀燈は羽を広げる。

水銀燈「力ずくで吐かせるわよ」

蒼星石「物騒なことはやめましょう……黒薔薇のお姉さま」

突如、蒼星石の声色が変わる。

63: 2008/06/02(月) 23:09:25.91 ID:sbHZy2pX0
水銀燈「っ!?」

蒼星石「驚いてる……お姉さま」

水銀燈「あなた、何者?」

蒼星石「……誰だと思う? ……ふふ」

水銀燈「まさか、薔薇乙女だなんて言わないでしょうねぇ」

水銀燈は相手はまだ見ぬ第7ドールなのではないかと予想していた。

蒼星石「まさかのまさか……と言ったら?」

66: 2008/06/02(月) 23:13:06.23 ID:sbHZy2pX0
蒼星石、否蒼星石の姿をした何者かは不適に笑い続ける。

蒼星石「黒薔薇のお姉さま……あなたはどうするつもり……?」

水銀燈「そうねぇ……ふふ」

相手につられたのか、水銀燈も笑い出す。

水銀燈「あなたと蒼星石のローザミスティカを奪いとって」

表情が一変。

水銀燈「ジャンクにしてわげるわぁっ!」

蒼星石の姿をした何者かを睨みつける。

68: 2008/06/02(月) 23:16:54.30 ID:sbHZy2pX0
――草笛家。

みつ「今日も仕事仕事ーっと」

みつは仕事に行く準備をしていた。

みつ「あー、今日は雨かー。モチベーション下がっちゃうわー」

金糸雀「みっちゃん。今日は何時くらいに帰ってくるのかしら?」

みつ「今日は早く帰れると思うわ」

みつはニコッと笑う。

みつ「今夜はひさびさに一緒にお夕飯食べましょうか」

74: 2008/06/02(月) 23:19:45.76 ID:sbHZy2pX0

みつは最近仕事が忙しく、帰ってくるのが遅いため

金糸雀は桜田家で夕飯を食べる事が多くなっていた

金糸雀「ほんとかしら?」

みつ「ほんとよー」

金糸雀「やったかしらー。今夜が楽しみなのかしらー」

金糸雀は久々に大好きなマスターと夕飯が食べれることになり大喜びする。

みつ「ああん。カナかーわーいーいー。抱きしめたーい」

みつ「けどそんなことしてたら遅刻しちゃうっ。いってきまーす」

75: 2008/06/02(月) 23:21:53.38 ID:sbHZy2pX0
みつは大急ぎで自宅を出て行った。

金糸雀「カナも翠星石のところに行くかしら」

金糸雀は傘を持ってベランダにでる。

金糸雀「そういえば雨降ってたの忘れてたかしら」

部屋に戻る。

金糸雀「今日はnのフィールド経由ね」

金糸雀は鏡の中へと飛び込んだ。

78: 2008/06/02(月) 23:24:45.17 ID:sbHZy2pX0
nのフィールド内を進んで行く。

金糸雀「あれは……!」

蒼星石が前方にいた。

蒼星石「また後で会いましょう……お姉さま」

金糸雀「?」

蒼星石は誰もいない空間で何かを言っていた。

それは独り言ではなく誰かに語りかけるような。

金糸雀は不信に思いながらも声をかける。

80: 2008/06/02(月) 23:28:42.05 ID:sbHZy2pX0
金糸雀「蒼星石ー。何してるかしらー?」

蒼星石「っ!? やあ金糸雀。なんでもないよ」

一瞬動揺したように見えたがすぐにいつものように返事をする。

金糸雀「? まあいいわ。一緒に行きましょ」

蒼星石「うん。……いこうか」

金糸雀(蒼星石どうかしたのかしら)

金糸雀(頭脳派のカナには何かあるようにしか見えないかしら)

金糸雀(後で翠星石にも言ってみようかしら)

83: 2008/06/02(月) 23:32:10.80 ID:sbHZy2pX0
その日ものりは学校。ジュンは部屋で勉強。ドールたちは1階で遊んでいた。

――昼過ぎ。

翠星石「ふぅ……なんだか喉が渇いてきたですぅ」

金糸雀「カナもかしら」

蒼星石「何か飲み物を入れてくるよ」

蒼星石はそういうとキッチンへと向かっていった。

金糸雀(今なら翠星石に今朝の事を……)

金糸雀「ねえ翠星石」

85: 2008/06/02(月) 23:34:50.22 ID:sbHZy2pX0
翠星石「なんですか」

金糸雀「ちょっと蒼星石のことで聞いて欲しい事があるかしら」

金糸雀は今朝nのフィールドで見た事を話す。

翠星石「金糸雀も気付いてしまったですか。蒼星石がおかしいことに」

金糸雀「あの子どうしちゃったのかしら」

翠星石「原因は翠星石にもよくわからんです」

翠星石「でも、ジュンが今日蒼星石と話をするのでジュンに任せるつもりです」

金糸雀「心配かしら……」

87: 2008/06/02(月) 23:37:55.85 ID:sbHZy2pX0
蒼星石「おまたせ」

蒼星石がジュースの入ったコップをトレイに乗せて持ってくる。

翠星石「この話はここで終わりです。ありがとです蒼星石」

金糸雀「わかったかしら。いただきまーす」

蒼星石「どういたしまして……ふふ」

翠星石(ジュン……たのむですよ……)

89: 2008/06/02(月) 23:40:19.37 ID:sbHZy2pX0
――夜。

金糸雀「今夜はみっちゃんとご飯だからカナは帰るわ」

翠星石「また明日です金糸雀」

蒼星石「僕も帰るよ」

ジュン「蒼星石、ちょっとまってくれ」

蒼星石「ジュン……君?」

ジュン「話があるんだ。部屋まで来てくれるか」

蒼星石「……うん、いいよ」

92: 2008/06/02(月) 23:44:51.78 ID:sbHZy2pX0
ジュンは自室に蒼星石を招くとイスに腰をかける。

ジュン「座ってくれ」

ベッドを指差して言う。

蒼星石「うん」

ジュン「なぁお前」

ジュン「真紅が動かなくなったこと、まだ引きずってるのか?」

蒼星石はにやりと笑う。

94: 2008/06/02(月) 23:48:22.67 ID:sbHZy2pX0
ジュン「っ!?」

蒼星石「引きずる? ……いったいなんのこと……?」

ジュン「どうゆうことだ?」

ジュン「最近様子がおかしいぞ」

蒼星石「おかしい? 僕が……?」

ジュン「ああ。翠星石も心配してる」

蒼星石「ふふ……。ふふふ……」

ジュン「何でそこで笑う?」

97: 2008/06/02(月) 23:51:24.58 ID:sbHZy2pX0
蒼星石「だっておかしいもの……」

蒼星石「私はだあれ……? 私は蒼星石……?」

ジュン「お前……蒼星石じゃない……?」

蒼星石「ふふ。あなたには眠ってもらわないと。……レンピカ」

レンピカがジュンの頭上をくるくると回る。

ジュン「しまっ……――」

ジュンは眠りに落ちる。

100: 2008/06/02(月) 23:55:22.02 ID:sbHZy2pX0
蒼星石「あなたも、盾ぐらいにはなるでしょう……」

持ってきた鞄の中から鏡を取り出す。

蒼星石「もち歩いててよかった……」

ジュンの首根っこを掴む。

そして蒼星石の姿をした何かはジュンを連れて鏡の中へと消えていった。

101: 2008/06/02(月) 23:58:39.38 ID:sbHZy2pX0
――。

金糸雀はnのフィールドを飛んでいた。

金糸雀「みっちゃんとのご飯。楽しみかしら」

???「おーい」

遠くから声が聞こえる。

金糸雀「誰かしら」

金糸雀は立ち止まると声の方を向く。

蒼星石「おーい」

金糸雀「蒼星石?」

103: 2008/06/03(火) 00:01:23.07 ID:eO9ffduM0
蒼星石「やっと追いついた……」

金糸雀「ジュンとお話してたんじゃなかったかしら?」

蒼星石「うん。それはもうすんだよ。それより」

蒼星石「僕は君に大事な用があるんだ」

金糸雀「大事な用? なにかしら」

蒼星石「朝見られたくないとこを見られちゃったからね」

蒼星石「予定よりも早いけれど……」

声色が突如変わる。

蒼星石「あなたを始末します。……お姉さま」

107: 2008/06/03(火) 00:04:22.16 ID:eO9ffduM0
――。

翠星石「思ったより話が長いですね」

翠星石はリビングで2人の話が終わるのをずっと待っていた。

翠星石「うぅ……気になるですぅ」

翠星石「翠星石も関係ないってわけじゃないですし」

翠星石「聞き耳立てても大丈夫ですよね」

翠星石は2階へと上っていく。

ジュンの部屋の前につくと、扉に耳を当てる。

翠星石「っ? ……おかしいです」

翠星石「2人の声が、まったく聞こえないです」

109: 2008/06/03(火) 00:06:39.63 ID:eO9ffduM0
――。

ジュン「うぅ……」

ジュン「……ここはいったいどこだ?」

ジュンが四方が水晶に囲まれた場所で目を覚ます。

ジュン「ここも、nのフィールドなのか……?」

ジュンは周りを見回す。

しかし水晶が壁のようにあるだけで他には何も見当たらない。

110: 2008/06/03(火) 00:09:46.47 ID:eO9ffduM0
ジュン「あいつ……あいつはいったい何なんだ」

ジュンは蒼星石の姿をした何者かについて考える。

しかし何も思い浮かばない。

ジュン「僕にはわからないことばっかりだ」

ジュン「まずは脱出する事だけを考えなきゃ……」

ジュンは立ち上がり、空間内を歩き始めた。

112: 2008/06/03(火) 00:13:44.60 ID:eO9ffduM0
ジュン「駄目だ。出口が無い」

ジュンは空間内をうろうろするがあるのは透明な水晶だけだった。

ジュン「やばいな……。ん? あれは……?」

水晶の向こうに黒い人影が見える。

ジュンはその人影がみえる水晶のところへ走り出す。

ジュン「お、お前はっ」

人影がジュンの声に気付き、こちらを見る。

ジュン「水銀燈っ!」

114: 2008/06/03(火) 00:16:44.70 ID:eO9ffduM0
今夜の投下はこれで終わりです

前作とはガラッと雰囲気を変えてみたつもり
視点移動多くて読みづらいだろうけど簡便

209: 2008/06/03(火) 21:29:22.36 ID:eO9ffduM0
――。

水銀燈「……ここは」

水銀燈は周りが水晶で囲まれた空間で目を覚ます。

水銀燈「私……負けたんだったわね」

水銀燈「蒼星石に……いや」

水銀燈「第7ドールに」

213: 2008/06/03(火) 21:33:24.44 ID:eO9ffduM0
――時間は10時間ほど前に遡る。

水銀燈は蒼星石の姿をした何ものかと対峙していた。

水銀燈「あなた、第7ドールなんでしょう? 名乗りなさいよ」

雪華綺晶「私の名前は……雪華綺晶」

水銀燈「雪華綺晶ねぇ。あなた、なぜ蒼星石の姿をしてるのかしら?」

雪華綺晶「私の器として……乗っ取ったから」

水銀燈「器……?」

雪華綺晶「私には……実体がない」

216: 2008/06/03(火) 21:37:16.09 ID:eO9ffduM0
水銀燈「実体がないってどういうこと?」

雪華綺晶「第7ドールは幻の中にしか存在し得ない」

雪華綺晶「何故なら私もまた幻……」

雪華綺晶「物質世界に存在を縛られてしまう事自体がアリスへの枷となってしまう不要の形骸なのか」

雪華綺晶「お父様はそう考えて私を作った……」

雪華綺晶「だから私には実体がない」

水銀燈「なるほどね」

218: 2008/06/03(火) 21:41:20.69 ID:eO9ffduM0
雪華綺晶「でも私もアリスには届かなかった」

雪華綺晶「私にはまだ足りないものがある……」

雪華綺晶「だから私には、それを補うための器が必要だった……」

水銀燈「それで蒼星石の身体を乗っ取ったわけねぇ」

雪華綺晶「こうして器を手に入れられたのも、黒薔薇のお姉さま。あなたのおかげ」

水銀燈「っ!」

フラッシュバック。

あの時の映像が頭に浮かぶ。

221: 2008/06/03(火) 21:46:16.87 ID:eO9ffduM0
雪華綺晶「私としては……無駄な争いは避けたい」

水銀燈「……へぇ、そう」

雪華綺晶「やぁよ私は。不快だもの。今ここでジャンクにしてあげる」

水銀燈は羽を広げる。

雪華綺晶「そう……。レンピカ」

雪華綺晶は庭師の鋏を取り出す。

水銀燈「その器で戦うってことは、蒼星石と戦闘スタイルは変わらないのね」

勝った。水銀燈はそう思っていた。

225: 2008/06/03(火) 21:50:09.05 ID:eO9ffduM0
黒い羽の嵐が雪華綺晶を襲う。

だがそれらを鋏でいとも簡単にふせぐ。

雪華綺晶「甘く見ない方がいい……」

水銀燈「こしゃくなっ」

雪華綺晶「今の私には蒼星石のローザミスティカもある」

雪華綺晶「これくらいの攻撃なら、難なく避けれる」

雪華綺晶は距離を詰めてくる。

230: 2008/06/03(火) 21:53:46.15 ID:eO9ffduM0
水銀燈「それがどうしたのぉ?」

羽で目の前に壁を作る。

雪華綺晶「こんなもの」

鋏で一閃。壁は一瞬で崩れ去る。

雪華綺晶「っ? いない」

水銀燈「かかったわねぇ」

水銀燈は壁を利用し距離をとった。

水銀燈「くらいなさい」

232: 2008/06/03(火) 21:57:13.82 ID:eO9ffduM0
さっき以上の勢いで羽を飛ばす。

雪華綺晶「くっ……」

水銀燈「まだまだぁ」

今度は羽に火がつく。

これにより鋏で防ぐリスクが高くなり、

雪華綺晶は避けることに専念する。

水銀燈「いつまでも避けれると思わないことねぇ」

激しい勢いの攻撃。

水銀燈は容赦をしない。

234: 2008/06/03(火) 22:00:39.58 ID:eO9ffduM0
水銀燈「ジャンクよ。ジャンクになりなさぁい……っ」

水銀燈の頭の中に映像が流れ込む。

――。

めぐ「はぁ……はぁ……うぅっ」

看護師「めぐちゃんっ? ドクター めぐちゃんの容態が」

めぐ(苦しい……私氏ぬの……)

めぐ(もっと水銀燈と話したりしたかったのに……)

めぐ(あの平穏な時間をもう一度……)

めぐ(氏にたく……ない)

235: 2008/06/03(火) 22:03:49.91 ID:eO9ffduM0
水銀燈「っ……!」

水銀燈の容赦ない攻撃のせいで、めぐは大量の力を吸い取られていた。

めぐと指輪の契約で繋がっているためにその様子が水銀燈の頭に流れ込む。

水銀燈(めぐっ……)

羽から炎が消え、勢いが弱まる。

雪華綺晶「ふふ……」

雪華綺晶はにやりと笑う。

そして羽をかいくぐりまた距離を詰めてきた。

236: 2008/06/03(火) 22:05:40.68 ID:eO9ffduM0
水銀燈の目の前に雪華綺晶が接近。

蒼星石を倒した時のような一転集中させた羽で迎え撃つ。

だが羽があたる直前、雪華綺晶の身体、正確には蒼星石の身体が下へ落下し羽が外れる。

水銀燈「えっ?」

その時、後ろから茨が飛び出し水銀燈の身体に巻きついた。

雪華綺晶「つかまえたぁ……」

雪華綺晶の本体が現れる。

水銀燈「くぅ……あなた、本体はなかったんじゃなかったの?」

237: 2008/06/03(火) 22:08:17.85 ID:eO9ffduM0
雪華綺晶「nのフィールド内でなら姿はあるわ……」

水銀燈「そんなっ……くっ」

雪華綺晶「ここで倒すのもいいけれど……」

雪華綺晶「あなたにも強力してもらいたい……」

雪華綺晶は落ちた蒼星石の身体に入りなおすと、

鋏を持って水銀灯のところへ戻ってくる。

雪華綺晶「少し……眠っていて」

鋏で腹部を強打。水銀燈は気を失う。

雪華綺晶「扉は何もないところにも隠れている……」

何も無い空間に穴が開く。

雪華綺晶はそこに水銀燈を投げ込む。

雪華綺晶「また後で会いましょう。……お姉さま」

240: 2008/06/03(火) 22:11:09.81 ID:eO9ffduM0
――。

――――。

――――――――。

水銀燈「めぐは……大丈夫かしらね」

水銀燈「何よ……。私もこの平穏が続く事を望んでたんじゃない」

水銀燈「あの光景が頭にはなれないのも、なんとなくわかったわ」

水銀燈「どうして……あの時蒼星石と戦ってしまったんでしょうね」

水銀燈「ごめんなさいね……蒼星石」

241: 2008/06/03(火) 22:14:46.33 ID:eO9ffduM0
水銀燈「私は……まだ動いている」

水銀燈「私は……まだ戦える」

水銀燈「この平穏を守るためにも……私は戦わなきゃ」

水銀燈の中で大きくなる雪華綺晶を止めるという義務。

水銀燈「私だって……めぐともっとお喋りしたいもの」

水銀燈「私だって……めぐの歌をもっと聴きたいもの」

水銀燈「それに……」

蒼星石の顔を思い浮かべる。

水銀燈「けじめを……とらなきゃ」

244: 2008/06/03(火) 22:18:21.71 ID:eO9ffduM0
水銀燈は立ち上がる。

周りを見回す。四方が水晶に囲まれている。

水銀燈「さて、ここから出ないとねぇ」

しかし脱出方法が浮かばない。

水銀燈「困ったわ……」

その時水晶の向こうから声が聞こえる。

ジュン「お、お前はっ」

振り返る。

ジュン「水銀燈っ!」

真紅の元マスターであり翠星石の現マスター。

桜田ジュンが、水晶の向こうにいた。

248: 2008/06/03(火) 22:22:00.33 ID:eO9ffduM0
水銀燈「真紅のマスターの人間じゃない」

ジュン「水銀燈、なんでお前がここに? まさか蒼星石に……」

水銀燈「人間、あいつの正体は知ってるのかしら?」

ジュン「蒼星石じゃないことはわかるけど」

水銀燈「あれは薔薇乙女第7ドール、雪華綺晶」

ジュン「第7ドール!?」

水銀燈「ええ、そうよ」

250: 2008/06/03(火) 22:25:18.38 ID:eO9ffduM0
ジュン「じゃあなんで蒼星石の姿を! 本物の蒼星石はどうなってるんだ?」

水銀燈「っ!」

本物の蒼星石。その言葉が水銀燈の胸に突き刺さる。

しかし、水銀燈は覚悟が出来ていた。

戦う覚悟。そして罪を受け入れる覚悟が。

水銀燈「人間、今から全てを話すわ」

水銀燈は話した。

自分が何故ここにいるのかという事。

そして、蒼星石は自分が倒したという事を。

252: 2008/06/03(火) 22:29:03.44 ID:eO9ffduM0
ジュン「そんなっ……」

水銀燈「言い訳するつもりはないわ。悪いのは私」

ジュン「なんで、なんでだ」

水銀燈「私にもわからない。なぜあそこで戦ってしまったのか……」

水銀燈「あなたが私を恨んでもかまわない。でも、けじめはとるわ」

ジュン「けじめ?」

水銀燈「今みんなが望んでるのは平穏が続く事」

水銀燈「雪華綺晶はそれを妨害するいわば敵」

水銀燈「私は彼女を止めるわ。何があっても、この平穏を守るために」

254: 2008/06/03(火) 22:31:05.37 ID:eO9ffduM0
ジュン「……わかった」

ジュン「今はもう蒼星石のことは言わない」

ジュンの目に力がこもる。

ジュン「雪華綺晶を止めるのが最優先事項だ」

水銀燈「ありがとう人間」

ジュン「それと僕の名前は桜田ジュンだ。名前で呼んでくれ」

水銀燈「わかったわぁジュン」

262: 2008/06/03(火) 22:56:48.47 ID:eO9ffduM0
ジュン「まずはここから脱出しないと」

水銀燈「何かいいアイデアあるぅ?」

ジュン「駄目だ。何にも思いつかない。そっちは?」

水銀燈「同じよ。思いつかないわ」

2人は考え続ける。

水銀燈「っ!」

水銀燈は何かを思いついたかのようにはっとする。

水銀燈「これなら……これなら脱出だけじゃなくてめぐも……」

ジュン「どうした?」

水銀燈「……ジュン、大事なお願いがあるわ」

263: 2008/06/03(火) 22:59:23.48 ID:eO9ffduM0
――。

金糸雀「蒼星石じゃ……ない?」

蒼星石「私はだあれ……? ふふ……」

金糸雀(考えるのよ金糸雀。あれは蒼星石の姿をした別の存在かしら)

金糸雀はその場から全速力で飛びたつ。

金糸雀(まずは翠星石に知らせなきゃ……)

蒼星石もそれを追いかける。

264: 2008/06/03(火) 23:01:12.71 ID:eO9ffduM0
それはまさに鬼ごっこのようだった。

金糸雀(追いつかれる……かしらっ)

蒼星石が徐々に迫り来る。

金糸雀(こうなったら……)

金糸雀は突如後ろに振り返る。

その手には武器のヴァイオリンが。

金糸雀「攻撃のワルツ!」

衝撃波が蒼星石を襲う。

266: 2008/06/03(火) 23:03:52.55 ID:eO9ffduM0
蒼星石「くぅっ」

蒼星石は遥か後方へと吹き飛ぶ。

金糸雀「よし、この隙に」

金糸雀は全速力で桜田家へ向かう。

蒼星石「……くっ」

忌々しげに前方を見る。

そして立ち上がると桜田家へと向かっていく。

268: 2008/06/03(火) 23:05:17.48 ID:eO9ffduM0
――。

翠星石「どうなってるですか」

翠星石は考える。

翠星石「これは……突入するしかないです!」

ドアノブに手をかける。

翠星石「やーっ!」

思い切り扉を開ける。

翠星石「……え?」

部屋の中はもぬけの殻だった。

269: 2008/06/03(火) 23:07:28.67 ID:eO9ffduM0
金糸雀「翠星石っ!」

1階から金糸雀の声が聞こえる。

翠星石「金糸雀?」

翠星石は急いで1階へと向かう。

翠星石「どうしたですか金糸雀」

金糸雀「蒼星石は様子がおかしいんじゃなかったかしら」

翠星石「どういうことです?」

金糸雀「あれは……蒼星石なんかじゃないわ」

270: 2008/06/03(火) 23:09:16.98 ID:eO9ffduM0
翠星石「もしかして、蒼星石と会ったですか?」

金糸雀「ええ、あったわ。nのフィールドで」

翠星石「ジュンは? ジュンはいたですか?」

金糸雀「蒼星石だけだったかしら」

翠星石「そんな。じゃあジュンは……」

金糸雀「そんなことより時間が無いかしら。早く逃げないと」

のり「ただいまー」

272: 2008/06/03(火) 23:11:43.38 ID:eO9ffduM0
翠星石「のりが帰ってきたです」

金糸雀「やばいかしら」

翠星石「……金糸雀。のりをつれて逃げるです」

金糸雀「翠星石はどうするの!?」

翠星石「蒼星石には翠星石が話をつけるです」

金糸雀「でも、あれは蒼星石なんかじゃ……」

翠星石「大丈夫です。翠星石が正体を暴いてやるですぅ」

金糸雀「戦闘になったらどうするの?」

翠星石「その時は……真紅のローザミスティカを使うです」

275: 2008/06/03(火) 23:13:50.73 ID:eO9ffduM0
真紅と雛苺が動かなくなり、そのローザミスティカは体内から出た。

現時点では誰もローザミスティカを使うことなく、鞄の中に保管していた。

真紅のはジュンの部屋。雛苺のは巴の部屋だ。

金糸雀「っ!?」

翠星石「この平穏をまもるためです」

金糸雀「わかったかしら」

翠星石「じゃあ早く行くです! ほら、気配が近づいてきてるですから」

金糸雀は走り出す。

278: 2008/06/03(火) 23:15:32.25 ID:eO9ffduM0
のり「今日は花丸ハンバーグよぅ……ってあれぇ」

金糸雀はのりの手を引っ張って玄関へ向かう。

金糸雀「逃げるかしら!」

のり「え? ええ? えええ?」

2人は桜田家を出て走り出した。

翠星石「行ったですね」

鏡が歪む。そして、

蒼星石が現れた。

280: 2008/06/03(火) 23:17:49.94 ID:eO9ffduM0
蒼星石「やぁ翠星石。金糸雀はどこかな?」

翠星石「単刀直入に聞くです。お前は誰ですか?」

蒼星石はその言葉を聞きにやりと笑うと

声色を変えて言った。

蒼星石「なんだ……金糸雀から聞いたの」

翠星石「っ!?」

蒼星石「私の計画がどんどん狂っていく……」

翠星石「いいから名乗れです!」

282: 2008/06/03(火) 23:19:28.66 ID:eO9ffduM0
雪華綺晶「私は薔薇乙女第7ドール、雪華綺晶」

翠星石「第7ドール!? 目覚めてたんですね」

翠星石「ジュンと本物の蒼星石はどこにやったですか?」

雪華綺晶「あなたのマスターは私が預かった……。蒼星石は知らない」

翠星石「どういうことです?」

雪華綺晶「私はただ空っぽの器に入っただけ……」

翠星石「っ!? 空っぽの器?」

283: 2008/06/03(火) 23:21:58.10 ID:eO9ffduM0
雪華綺晶「そう……。魂の抜け落ちた器に私は入ってるだけ……」

翠星石「じゃあ……蒼星石は誰かにやられたってことですか……?」

雪華綺晶「誰がやったか知りたい……?」

翠星石「お、教えろです!」

雪華綺晶「条件がある」

翠星石「なんです?」

雪華綺晶「真紅の身体とローザミスティカ。……それをくれたら」

翠星石「なっ……そんなん無理に決まってるです」

284: 2008/06/03(火) 23:23:44.86 ID:eO9ffduM0
雪華綺晶「そう……」

雪華綺晶「なら蒼星石を倒した人は教えないし」

雪華綺晶「あなたはここで動かなくなる」

翠星石「まさかっ」

雪華綺晶「あなたのローザミスティカと真紅のローザミスティカ……両方もらう」

翠星石「させねーです」

雪華綺晶「レンピカ」

雪華綺晶は庭師の鋏を取り出す。

285: 2008/06/03(火) 23:25:22.47 ID:eO9ffduM0
それと同時に翠星石は2階へ向かって走り出す。

雪華綺晶「逃がさない……」

翠星石「真紅の鞄を……っ」

翠星石はジュンの部屋につくとクローゼットを開ける。

雪華綺晶「その鞄の中にローザミスティカがあったのね……」

雪華綺晶は自分でも取れるチャンスは充分あったと悔やむ。

翠星石「スィドリーム」

翠星石は庭師の如雨露を取り出す。

286: 2008/06/03(火) 23:27:33.78 ID:eO9ffduM0
雪華綺晶「ここで戦うの……?」

翠星石「……」

翠星石は何も言わない。

雪華綺晶「……? これは」

いつの間にか部屋中に霧が充満していた。

視界が白く濁る。

翠星石「っ」

翠星石は霧に紛れて雪華綺晶の横をすり抜け、

ジュンの部屋から飛び出す。真紅の鞄を持って。

288: 2008/06/03(火) 23:29:56.23 ID:eO9ffduM0
翠星石は1階の鏡の部屋へ行く。

そしてnのフィールドへと入っていく。

少し遅れて雪華綺晶も鏡の部屋に来る。

雪華綺晶「どうして……うまくいかない」

その言葉には、物静かな雰囲気の中に怒りも感じられた。

そして彼女もnのフィールドへと入っていく。

翠星石「これからどうすれば……」

翠星石「ジュン……助けて……」

翠星石は不安に押しつぶされそうだった。

291: 2008/06/03(火) 23:31:57.29 ID:eO9ffduM0
――。

金糸雀とのりは夜道を走っている。

金糸雀(逃げる場所をさがさなきゃ……のりが安全な場所を……)

のり「カナちゃん、どういうことぉ?」

金糸雀「今は聞かないで。カナと翠星石を信じて欲しいかしら」

金糸雀(そうだ、ヒナのマスターだったっていう巴の家に……)

金糸雀(あそこに行けばヒナのローザミスティカもある……)

金糸雀「のり! 巴の家はどこかしら? そこへ行くわ」

のり「こっちよ」

金糸雀はある決意をこめて巴の家へと向かった。

293: 2008/06/03(火) 23:33:23.67 ID:eO9ffduM0
――。

巴母「巴さーん、お客さんよー」

巴「はーい、今行きます」

巴は玄関へと向かう。

のり「こんな時間にごめんね巴ちゃん」

金糸雀「申し訳ないかしら」

巴「どうしたんですか?」

金糸雀「わけあってのりを匿ってほしいかしら」

巴「? 事情はわからないけど、とりあえず上がって」

295: 2008/06/03(火) 23:35:19.64 ID:eO9ffduM0
――巴の部屋。

金糸雀「とにかく、カナが戻ってくるまでのりを匿っててほしいかしら」

巴「いいけど、どうして」

金糸雀「詳しくは言えないけど……カナ達は戦わなければいけない。この平穏を守る為に」

金糸雀「巻き添えにしないためにもお願いかしら」

巴「……わかったわ」

のり「た、戦い?」

金糸雀「ええ。けど大丈夫。カナも翠星石も、ちゃんともどってくるわ」

297: 2008/06/03(火) 23:37:55.58 ID:eO9ffduM0
金糸雀「それと巴」

巴「なに?」

金糸雀「ヒナのローザミスティカはどこかしら」

巴「鞄の中だけど……」

金糸雀「貰って……いいかしら」

巴「どうして?」

金糸雀「戦いに、勝つためかしら」

298: 2008/06/03(火) 23:39:41.55 ID:eO9ffduM0
金糸雀「その為に使うことを、ヒナが許してくれるかはわからないわ」

金糸雀「でもカナはこの平穏を守りたい」

金糸雀「カナはヒナや真紅がいつか戻ってくると信じてる」

金糸雀「戻ってきた時にこの平穏で迎えてあげるためにも、カナは戦わなきゃいけないかしら」

金糸雀「だから……」

巴「私からは何も言う権利は無いわ」

そういって巴は鞄をもってくる。

巴「使うのはあなたの自由よ。私はそれを咎めない」

巴「雛苺だって、きっとそうよ」

金糸雀「巴……。ありがとう、ありがとうかしら」

299: 2008/06/03(火) 23:41:38.64 ID:eO9ffduM0
金糸雀は鞄を開ける。

中には動かなくなった雛苺とローザミスティカ、そして人工精霊のベリーベルが入っていた。

金糸雀「ヒナ……力を貸して」

金糸雀はローザミスティカを手に取る。

そして自らに取り込んだ。

金糸雀「力が溢れてくる……。これがローザミスティカ」

金糸雀「これなら……これならいける」

金糸雀は立ち上がる。

金糸雀「じゃあ、行ってくるかしら」

そういうと、金糸雀は部屋の鏡からnのフィールドへと消えていった。

301: 2008/06/03(火) 23:43:56.42 ID:eO9ffduM0
――。

翠星石「追いつかれる……ですっ」

雪華綺晶は翠星石を追いかける。

その速度は翠星石よりも速く、今にも追いついてしまいそうだった。

翠星石「こうなったら……。覚悟を決めるです」

翠星石は逃げるのをやめる。

雪華綺晶「さあ……戦いましょう」

翠星石「いいですよ。翠星石も腹をくくったです」

翠星石は鞄を開ける。中には真紅の身体とローザミスティカ、人工精霊のホーリエが入っている。

翠星石「真紅……あなたの力を借りるですよ」

302: 2008/06/03(火) 23:46:18.26 ID:eO9ffduM0
翠星石はローザミスティカを手に取る。

そして自らの身体に取り込んだ。

翠星石「さあ来いです雪華綺晶。翠星石が相手してやるですよ」

雪華綺晶「やっかいになった……」

雪華綺晶は鋏を構える。

それにあわせて翠星石も如雨露を構えた。

雪華綺晶「手加減はしないわ……お姉さま」

翠星石「それはこっちのセリフですぅ」

304: 2008/06/03(火) 23:49:18.69 ID:eO9ffduM0
激突。

鋏と如雨露がぶつかり合う。

接近戦ではやはり蒼星石の身体をもつ雪華綺晶が上回る。

翠星石は吹き飛ばされる。

翠星石「くぅ……接近戦なんてするもんじゃねーですぅ」

翠星石はそのまま距離をとると、地面から巨大な木の枝を鞭のように飛び出させる。

それらを雪華綺晶に向けて攻撃する。

雪華綺晶「そんな大雑把な攻撃……あたらない」

それらを全て避け、翠星石に接近してくる。

305: 2008/06/03(火) 23:51:30.97 ID:eO9ffduM0
翠星石「や、やばいです」

翠星石は如雨露を一振りする。

霧が周りを包み込み、視界を悪くする。

雪華綺晶「また霧……」

霧に紛れて鞭のようにしなる木の枝が雪華綺晶を襲う。

避けきれないのか鋏を使ってガードをする。

雪華綺晶「しゃらくさい……」

翠星石の攻撃は止まらない。

306: 2008/06/03(火) 23:53:22.25 ID:eO9ffduM0
翠星石「まだまだいきますよ」

木の枝の数をどんどん増やしていく。

雪華綺晶「痛っ」

木の枝が一本、右足に当たる。

そこで動きが鈍り、徐々に他の枝も当たるようになる。

雪華綺晶「霧さえなければ……」

そして、

翠星石「もらったですっ」

木の枝が雪華綺晶の身体を縛り付けた。

309: 2008/06/03(火) 23:56:24.37 ID:eO9ffduM0
雪華綺晶「動けない……」

雪華綺晶の動きが封じられる。

翠星石「くらえですっ」

翠星石は如雨露で雪華綺晶に一撃を加えようとする。だが、

翠星石「っ!」

当たる直前、翠星石は動きを止める。

翠星石「できない……です」

310: 2008/06/03(火) 23:59:31.23 ID:eO9ffduM0
翠星石「蒼星石の姿をしてるなんて……ずるいですよ」

翠星石「たとえ敵でも倒せないです……」

翠星石は震えながらうつむき、涙を堪える。

その時、雪華綺晶がにやぁと笑う。

雪華綺晶「甘い……」

雪華綺晶は自らを縛っていた木の枝を鋏で切り裂く。

翠星石「あっ……」

そして鋏をバットのように振るい翠星石に直撃させた。

314: 2008/06/04(水) 00:01:55.72 ID:EvUjNZq+0
翠星石「きゃぁっ」

翠星石は思い切り地面へと叩き落される。

雪華綺晶「これで……おしまい」

鋏を構えて翠星石のところまで全力で飛ぶ。

翠星石「いや……」

当たれば突き刺さり砕けるであろうほどの速さで雪華綺晶は飛ぶ。

翠星石(ジュン、のり、金糸雀。ごめんなさいです……)

金糸雀「攻撃のワルツ!」

318: 2008/06/04(水) 00:04:05.65 ID:EvUjNZq+0
衝撃波が雪華綺晶に直撃する。

翠星石に当たる寸前。まさに間一髪だった。

金糸雀「間に合ったかしら」

翠星石「金糸雀!」

金糸雀「大丈夫かしら翠星石。助けにきたわ」

翠星石「ありがとうです金糸雀」

金糸雀「さっきのでだいぶダメージを受けてるでしょ? 下がっててかしら」

翠星石「大丈夫ですぅ」

翠星石は立ち上がるがその表情は辛そうだ。

321: 2008/06/04(水) 00:06:37.96 ID:EvUjNZq+0
金糸雀「いいから下がってて」

翠星石「でもっ」

金糸雀「あなたはカナが守ってあげるわ」

翠星石「金糸雀……?」

金糸雀「真紅と約束したの」

金糸雀「私は第2ドール金糸雀。あなたのお姉さん」

金糸雀「姉としてあなたを守るって。だから任せてほしいかしら」

翠星石「……しかたねーです。好意に甘えて翠星石はちょっと休んでるです」

金糸雀「おりこうね翠星石」

323: 2008/06/04(水) 00:09:04.29 ID:EvUjNZq+0
吹き飛ばされた雪華綺晶が戻ってくる。

雪華綺晶「あなたの技……風かしら。……やっかいね」

金糸雀「翠星石には手はださせないかしら」

雪華綺晶「ふふ……。守りきれるかしらね……」

金糸雀「それで、あなたは結局何者かしら?」

雪華綺晶「私は第7ドール雪華綺晶……」

金糸雀「どうして蒼星石の姿をしているかは知らないけれど」

金糸雀「妹に負けるわけにはいかないかしら」

金糸雀はヴァイオリンを構える。

324: 2008/06/04(水) 00:11:30.18 ID:EvUjNZq+0
金糸雀「さぁ、かかってくるかしら」

雪華綺晶は物凄い速さで飛ぶ。

フィールド内を縦横無尽の飛び回り、狙いをつけさせないようにしながら距離を詰める。

金糸雀「沈黙のレクイエム」

金糸雀の周りに強い風が吹く。

雪華綺晶を狙うのではなく、自らの壁のように放出するため、

本人を狙わずとも動きを抑えることに成功していた。

雪華綺晶「こんなもの……」

しかし、雪華綺晶は止まらない。

327: 2008/06/04(水) 00:14:16.27 ID:EvUjNZq+0
金糸雀「クレッシェンド!」

風の勢いがさらに強くなる。

雪華綺晶「近寄れない……」

金糸雀「守ってばかりってわけにもいかないかしら」

金糸雀「終わりのないカノン!」

音符の形をした衝撃波が動きの鈍った雪華綺晶を襲う。

雪華綺晶「くぅっ」

間一髪で避ける。

雪華綺晶「相性が悪い……」

雪華綺晶「でも……弱点はわかった……」

328: 2008/06/04(水) 00:16:48.36 ID:EvUjNZq+0
金糸雀の猛攻は続く。

雪華綺晶はひたすら避け続ける。

蒼星石の身体を使い、蒼星石と同じ戦闘スタイルで戦っているせいで

遠距離攻撃がメインの金糸雀との相性は悪かった。

突如雪華綺晶は動きを止める。

そして鋏の刃を開き、自らの首にあてる。

翠星石「やめるですぅっ」

金糸雀「どういうことかしら?」

翠星石「あれは……正真正銘蒼星石の身体なのです」

金糸雀「えっ!?」

331: 2008/06/04(水) 00:18:55.74 ID:EvUjNZq+0
翠星石「蒼星石は誰かに倒されて……空になった身体に雪華綺晶が入ってるのです」

金糸雀「そんな……」

金糸雀は攻撃の手を止める。

金糸雀「蒼星石の魂はどうなったの?」

翠星石「……どこか遠くへ……いってしまったです」

金糸雀「蒼星石……」

雪華綺晶「ふふ……」

突如茨がヴァイオリンめげてて伸びてくる。

金糸雀「しまった……っ」

茨はヴァイオリンに絡みつき、棘のせいで弦が全て切れてしまった。

334: 2008/06/04(水) 00:22:41.65 ID:EvUjNZq+0
雪華綺晶「これであなたは攻撃手段を失った……」

金糸雀「卑怯……者っ」

雪華綺晶「さぁ……続けましょう……」

雪華綺晶が鋏をもって接近してくる。

金糸雀はヴァイオリンを手放し、弓を構える。

雪華綺晶「そんなもので」

鋏を一閃。弓で防御。

バキッ

金糸雀「ああっ」

翠星石「金糸雀ーっ」

336: 2008/06/04(水) 00:25:22.74 ID:EvUjNZq+0
翠星石が木の枝を2本、雪華綺晶に向けて伸ばす。

翠星石の顔に苦痛の表情が浮かぶ。今の彼女にはそれが限界のようだ。

雪華綺晶「こざかしい……」

しかしそれをなんなく鋏で切断する。そして鋏での一撃。

金糸雀「ぐぅっ」

思い切り吹き飛ぶ金糸雀。

金糸雀「いいの……貰っちゃったかしら」

翠星石は金糸雀のもとに駆け寄る。

339: 2008/06/04(水) 00:27:35.70 ID:EvUjNZq+0
金糸雀「大丈夫よ翠星石……」

金糸雀は胴を押さえながらも立ち上がる。

金糸雀「守らなきゃ……」

金糸雀「蒼星石は守れなかったけど」

金糸雀「平穏と……翠星石は……絶対に守ってみせるかしら」

翠星石「無理するんじゃねーです金糸雀。翠星石に任せて休むですっ」

金糸雀「あなただってまだダメージが残ってるでしょう? カナが守るから……」

雪華綺晶「2人まとまってて都合がいい……。まとめてとどめをさしてあげる……」

341: 2008/06/04(水) 00:29:39.20 ID:EvUjNZq+0
翠星石と金糸雀の身体に茨が巻きつく。

雪華綺晶「ふふふ……」

雪華綺晶の不適な笑み。

鋏の刃を開き、2人のところへと歩み寄る。

雪華綺晶「これで……おしまい」

翠星石(こんなところで……ジュンッ……)

その時、黒い嵐が雪華綺晶を襲う。

雪華綺晶「こ、これは……くぅっ」

雪華綺晶に嵐は直撃。大きなダメージを与える。

???「なぁに? 面白そうなことしてこの私だけ仲間はずれだなんて」

上空から黒い人影が大きな羽を羽ばたかせながら現れる。

???「不快ねぇ。ジャンクにしてほしいのかしら」

――黒衣の天使が、舞い降りた。

433: 2008/06/04(水) 21:04:40.03 ID:EvUjNZq+0
翠・金「水銀燈っ!」

水銀燈「なぁにあなた達。そんなみっともない格好して」

水銀燈は羽を数本飛ばし、2人を縛っていた茨を切る。

金糸雀「ありがとうかしら」

翠星石「まさか水銀燈に助けてもらえるとは思わなかったです」

水銀燈「助ける? 勘違いしないでちょうだい」

水銀燈「私は面白そうな遊びに混ざりにきただけよ」

水銀燈「スリルがあって楽しそうじゃなぁい」

そういって水銀燈は雪華綺晶を睨みつける。

435: 2008/06/04(水) 21:07:32.08 ID:EvUjNZq+0
雪華綺晶「まさかあそこから脱出するなんて……」

悔しそうな表情の雪華綺晶。

水銀燈「あなた、この私をなめすぎじゃなぁい?」

水銀燈「私は薔薇乙女第1ドール水銀燈よぉ。あんな水晶の壁、どうってことないわ」

雪華綺晶「さすがは黒薔薇のお姉さま……。予想以上ね」

水銀燈「さてと。それじゃあ今朝の続きとでもいこうかしらぁ」

黒い羽を広げ、それらを飛ばす。

それはまさに全てを巻き込む漆黒の嵐。

翠星石「くぅ……すごい威力ですぅ」

436: 2008/06/04(水) 21:11:16.03 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「ほらほらほらぁ」

雪華綺晶「くぅ……こざかしい」

雪華綺晶はそれらを必氏に避け続ける。

紙一重の攻防。

水銀燈「らちがあかないわねぇ」

水銀燈「もうちょっとペースあげるわよぉ」

さっき以上の勢いで羽が飛ばされる。

漆黒の嵐どころではない。荒れ狂う暴風羽とでもいうべきか。

雪華綺晶「うざい……」

441: 2008/06/04(水) 21:15:14.31 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「どうしたのかしらぁ? さっきから避けてばっかりねぇ」

余裕の表情の水銀燈。

雪華綺晶「この程度……猿でも避けれる」

水銀燈「言うじゃなぁい」

雪華綺晶は強気な発言をするが、鋏で防がなければならないほどに追い詰められていた。

しかし、雪華綺晶は決して焦ってはいなかった。

雪華綺晶「そんなに力を使いすぎていいの……?」

前に雪華綺晶と水銀燈が戦った時、

水銀燈はマスターであるめぐの力を使いすぎて

病弱な彼女を追い詰めてしまっていた。

444: 2008/06/04(水) 21:18:32.40 ID:EvUjNZq+0
雪華綺晶はそのことに気付いていた。

だから長期戦に持ち込めば水銀燈も力を使えないとふんでいた。

しかし、

水銀燈「力? ふふふ。残念ねぇ」

攻撃の勢いは止まらない。

雪華綺晶「っ!?」

水銀燈「今の私には溢れるくらいの力があるわぁ」

雪華綺晶「どういうこと……?」

???「こういうことだよ」

また1人、この戦いの場に何者かが現れる。

雪華綺晶「なぜお前が……!?」

445: 2008/06/04(水) 21:21:32.35 ID:EvUjNZq+0
翠星石「……い、いままでどこにいたですかチビ」

翠星石は涙を流しながらその人物の方を見る。

金糸雀「いなくなってたんじゃなかったかしら……?」

???「僕だって戦える。この平穏を守るために」

翠星石「……ジュンッ!」

現れたのは翠星石のマスター、桜田ジュンだった。

彼の指輪が物凄い輝きを帯びている。

雪華綺晶「まさか……」

翠星石「どうして……指輪のサイズが大きく……?」

446: 2008/06/04(水) 21:24:15.46 ID:EvUjNZq+0
ジュンについている契約の指輪が、

真紅と契約していた頃と同じ大きさになっていた。

水銀燈「遅いじゃない。待ちくたびれちゃったわぁ」

水銀燈「マスター」

翠星石「どういうことです!?」

ジュン「簡単な話だよ。僕と水銀燈は契約をした。それだけさ」

水銀燈「もうめぐの心配もすることはないわぁ」

ジュン「ああ。好きなだけ使え水銀燈!」

雪華綺晶「どうして……こんなにもうまくいかない……」

448: 2008/06/04(水) 21:27:31.86 ID:EvUjNZq+0
――時は戻り。

水銀燈「……ジュン、大事なお願いがあるわ」

ジュン「なんだ?」

水銀燈「私と、契約して頂戴」

ジュン「……よく聞こえなかった。もっかい」

水銀燈「私と、契約して頂戴」

ジュン「本気……か?」

水銀燈「ええ、本気よぉ」

ジュン「お前、ちゃんとマスターいるんだろ?」

449: 2008/06/04(水) 21:30:28.87 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「ええ。いるわよぉ」

ジュン「じゃあどうして?」

水銀燈「あなたには、きちんと話しておくべきね」

水銀燈「私のマスター、めぐは病気を患っているのよ」

ジュン「病気……?」

水銀燈「だから、私が力を使いすぎると、あの子の容態はいっきに悪くなってしまう」

ジュン「じゃあなんで契約なんかしたんだよ」

水銀燈「それが、あの子の願いだったの」

450: 2008/06/04(水) 21:33:27.30 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「まだ出会ったばかりの頃。あの子は氏にたがっていたわ」

ジュン「氏にたがる?」

水銀燈「自分は両親に見捨てられた。世界の誰も自分を必要としていない」

水銀燈「あの子はそう思っていたわ」

水銀燈「私が契約の話をした時、あの子はとても食いついたわ」

水銀燈「私の力を使って。誰かの為に氏にたいから。彼女はそう言ったのよ」

ジュン「なんなんだよそれ」

水銀燈「私も同意して、契約をしたわ」

451: 2008/06/04(水) 21:36:56.08 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「だけど、力を使うのはどうしても躊躇われたわ」

ジュン「どうして?」

水銀燈「いつのまにか……あの子と過ごす平穏が好きになっていたのよ」

水銀燈「まあそれも無意識でのことだったんだけれどね」

水銀燈「だからその気持ちに気付かずに、私は蒼星石と戦ってしまった……」

ジュン「水銀燈……」

水銀燈「最近、めぐにも大きな変化が現れたのよ」

ジュン「大きな変化?」

水銀燈「あの子は私に言ったの。氏にたくないって」

452: 2008/06/04(水) 21:41:04.45 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「私と過ごす平穏が自分には必要だって」

水銀燈「そこまで言われて、私はあの子の力を使うなんで無理なのよ」

水銀燈「私も、めぐには氏んで欲しくない」

水銀燈「けれど、私には戦う力が必要なのよ。めぐの望んだ平穏を守るために」

水銀燈「お願いジュン。私と契約して頂戴」

ジュン「……」

ジュンは水銀燈の意外な一面を見て言葉を失っていた。

453: 2008/06/04(水) 21:44:40.23 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「ちょっと、聞いてるのぉ?」

ジュン「……ん、ああごめん」

水銀燈「まったくもう」

ジュン「お前、いいやつじゃないか。見直したよ」

水銀燈「なっ……何言ってんのよ! ジャンクにされたいのっ?」

ジュン「ちょ、ジャンクは勘弁してくれ」

水銀燈「生意気いうからよまったく」

ジュン「契約すれば、ここからも脱出できるか?」

水銀燈「もちろんよぉ。私を誰だと思っているの?」

454: 2008/06/04(水) 21:49:46.38 ID:EvUjNZq+0
ジュン「わかった。契約する」

水銀燈「お利口ね。じゃあ、ちょっと待ってなさい」

水銀燈は羽を広げる。

水銀燈(羽を一転集中させれば、水晶に小さな穴くらいは開けれるはず)

黒い羽を一転集中。槍のように水晶へと飛ばす。

そして水銀燈とジュンを遮る水晶に腕一本程度の穴が開いた。

水銀燈「この指輪をつけて……」

穴の中に手を伸ばし、指輪をジュンへと手渡す。

455: 2008/06/04(水) 21:53:58.75 ID:EvUjNZq+0
ジュン「つけるぞ」

ジュンが指輪をはめる。そして眩い光。

ジュンの指輪が2人分の契約の証として大きくなる。

水銀燈「これで契約終了よ。マスター」

ジュン「じゃあ早速ここを出るぞ」

水銀燈「ええ」

水銀燈はもう一度羽を広げる。

水銀燈「ああ……みなぎってくるわ」

水銀燈の中にジュンの力が流れ込む。

458: 2008/06/04(水) 21:56:17.19 ID:EvUjNZq+0
水銀燈(契約したせいかしら。流れる力の中にジュンの強い意志を感じるわ)

水銀燈(この戦いを終わらせるための、強い意志が)

水銀燈「心強いマスターね」

水銀燈は羽を飛ばす。その量、勢いはさきほどの比ではない。

ジュン「す、すごい」

パキィィンッ。

ジュンと水銀燈を遮っていた水晶は完全に砕けちる。

しかし羽の勢いは止まらない。

459: 2008/06/04(水) 21:59:58.77 ID:EvUjNZq+0
その羽は竜の形をとって、更に奥にある水晶の壁に激突する。

水晶はいとも簡単に崩れ去った。

ジュン「これが……水銀燈の力……」

今まで真紅はこんなすごいやつと戦っていたのか、とジュンは思う。

水銀燈「これで出口はできたわね」

ジュン「ああ。早く行こう。みんなが危ない」

水銀燈「わかってるわよ」

水銀燈はものすごい速さで飛んでいく。

ジュン「ちょ、速いぞ! 置いてくな!」

ジュンもその後を全力で追っていった。

460: 2008/06/04(水) 22:01:54.29 ID:EvUjNZq+0
――。

翠星石「す、すごいですぅ」

金糸雀「かしら」

勝負は完全に水銀燈が優勢だった。

黒い羽は湯水のように溢れ出て雪華綺晶に襲い掛かる。

水銀燈「そろそろ諦めたらぁ?」

余裕の表情を浮かべる水銀燈。

水銀燈「蒼星石の身体とローザミスティカをこちらに引き渡すというのなら」

水銀燈「ジャンクにするのだけは特別になしにしてあげるけどぉ?」

雪華綺晶「馬鹿言わないで……お姉さま」

462: 2008/06/04(水) 22:04:36.31 ID:EvUjNZq+0
雪華綺晶は避けながらも距離を縮めようとする。

水銀燈「しゃらくさいわねぇ」

水銀燈は羽の勢いを止めずに接近を阻止する。

その時、雪華綺晶の身体が突如地面に落ちる。

水銀燈「馬鹿ねぇ」

水銀燈は身を翻して上昇する。

するとさっきまで水銀燈がいた場所に無数の茨が現れていた。

水銀燈「その戦法はもう聞かないわぁ」

水銀燈は上空から雪華綺晶の本体を見下す。

463: 2008/06/04(水) 22:06:47.30 ID:EvUjNZq+0
雪華綺晶「ふふふ……」

避けられたにもかかわらず雪華綺晶はにやにやと笑う。

水銀燈「何がおかしいのぉ?」

ジュン「水銀燈っ! 後ろっ!」

ジュンが叫ぶ。だが間に合わない。

水銀燈「ぐぅっ……」

蒼星石「ごめんね水銀燈」

動かないはずの蒼星石が、水銀燈に一撃を加えた。

464: 2008/06/04(水) 22:09:36.10 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「ど……どういうこと?」

蒼星石から雪華綺晶が抜けた今、蒼星石の身体を動かす事はできないはず。

水銀燈はそう考えていた。

雪華綺晶「ただ蒼星石の身体を操っているだけ……」

水銀燈「それもあなたの能力ってこと」

水銀燈「ふん。上等じゃなぁい。これくらいでやっとフェアなんじゃないの?」

水銀燈は体勢を整える。

水銀燈「きなさい。まとめてジャンクにしてあげるわ」

467: 2008/06/04(水) 22:12:16.94 ID:EvUjNZq+0
蒼星石と雪華綺晶が二手に分かれて攻めてくる。

水銀燈「はぁっ」

右翼からの羽を蒼星石に、左翼からの羽を雪華綺晶めがけて飛ばす。

量、威力は先ほどより半減しているため、2体とも苦戦することなく避ける。

一方水銀燈も上手い具合に距離をとる。まさに一進一退の攻防。

水銀燈(らちがあかない……)

雪華綺晶「ほらほら……全然あたらない……ふふ」

余裕の表情を見せる雪華綺晶。

ジュン「くそ……なんとかしないと」

ジュンは地上で悔しそうに戦いの様子を見ていた。

469: 2008/06/04(水) 22:15:53.36 ID:EvUjNZq+0
ジュン(僕だって力を与える以外のことはできるはずだ……)

ジュンはこの状況を打開する方法を考える。

ジュン(この2対1の状況をなんとかしないと)

ジュン(考えろ桜田ジュン!)

ひたすら上空での戦いを見る。

ジュン「っ! あの動きは……」

ジュンは雪華綺晶を見る。

雪華綺晶は戦いながら指をしきりに動かしている。

ジュン「そうかっ」

470: 2008/06/04(水) 22:19:02.67 ID:EvUjNZq+0
133
翠星石「ジュン、何か気付いたですか?」

ジュン「ああ。雪華綺晶の指をみてくれ」

金糸雀「なんだかしきりに動かしてるかしら」

ジュン「僕はあの指で蒼星石を操っているとみた」

ジュン「つまり、雪華綺晶の本体を叩けば蒼星石も動かなくなるはず」

翠星石「なるほどですぅ」

金糸雀「頭脳派のカナよりも先に気付くなんてちっこいくせにやるかしら」

ジュン「ちっこいはよけいだ! お前ら、身体は大丈夫か?」

471: 2008/06/04(水) 22:23:27.30 ID:EvUjNZq+0
翠星石「だいぶ回復してきたですぅ」

金糸雀「2、3発くらいなら攻撃できるかしら」

ジュン「よし、ならOKだ。今から僕の指示通りに動いて欲しい」

翠星石「合点了解です」

金糸雀「わかったかしら」

ジュン「じゃあ作戦を説明するぞ。まず――」

水銀燈(きついわね……。ジュン達は……)

水銀燈(あの子達でなにかしてくれるみたいね)

水銀燈(今はあの子達を信じて戦い続けなきゃ)

475: 2008/06/04(水) 22:27:18.22 ID:EvUjNZq+0
上空での戦いはいまだ続く。

互いのクリーンヒットはまだない。

だが水銀燈と他の2体の距離がちゃくちゃくと縮みつつある。

水銀燈「まずいわね……」

雪華綺晶「あれ……今弱音を吐いた……ふふ。吐いた吐いた……」

水銀燈「うるさいわねぇっ」

水銀燈は思わず蒼星石に飛ばしていた羽までも雪華綺晶に飛ばす。

雪華綺晶「ふふ……」

雪華綺晶は自分の前方に茨を張り巡らせて防御する。

蒼星石「隙ができたね」

476: 2008/06/04(水) 22:28:21.45 ID:EvUjNZq+0
>>474
正直書いてて俺も思った
清麿かっこいいよ清麿

478: 2008/06/04(水) 22:30:55.07 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「しまったっ」

つまらない挑発にのった、と水銀燈は思った。

しかしもう手遅れ。蒼星石が眼前に迫る。

水銀燈「こんなとこで……」

蒼星石の鋏が振りかざされる。

その時、真下から突風が吹き蒼星石は遥か上空に吹き飛ぶ。

金糸雀「ギリギリセーフかしら」

水銀燈の真下では金糸雀が得意げに笑っていた。

水銀燈「私に当たってたらどうするのよまったく」

金糸雀「頭脳派のカナは緻密な計算をもとに攻撃するから心配後無用かしら」

479: 2008/06/04(水) 22:33:33.19 ID:EvUjNZq+0
雪華綺晶「くっ……」

雪華綺晶は指を動かし蒼星石の体勢を整えようとする。

翠星石「させねーですよ!」

木の枝が雪華綺晶向けて飛んでくる。

そして両手に絡みつき動きを封じる。

翠星石「これで操る事はできねーです」

翠星石「ついでに動く事もできなくしてやったですよ」

雪華綺晶「なぜ……なぜうまくいかないのっ……」

483: 2008/06/04(水) 22:37:28.51 ID:EvUjNZq+0
――。

ジュン「まず金糸雀。お前は気付かれないようにそっと地上から水銀燈の後を追ってくれ」

ジュン「そして蒼星石が水銀燈に近距離から攻撃を加える瞬間に風で真上に飛ばして欲しい」

金糸雀「どうして攻撃の瞬間だけなのかしら? それと雪華綺晶の場合は?」

ジュン「攻撃の瞬間なら意識が敵である水銀燈にいくはず。つまりこちらの命中率はぐんと上がる」

ジュン「それと、雪華綺晶が近接攻撃をすることはまずないと思う。近接攻撃なら庭師の鋏の方が強力だ。かならず蒼星石で攻撃する」

金糸雀「なるほど……かしら」

ジュン「そしたら蒼星石の体勢を整えるために雪華綺晶が指を動かすはず。そこで翠星石の出番だ」

翠星石「何をすればいいですか?」

ジュン「世界樹の木の枝で両腕を縛りつけるんだ。指一本動かせないほどにね」

翠星石「うまくいくですかね?」

ジュン「ああ、あいつは蒼星石に意識が行くだろう。いけるはずだ」

翠星石「わかったです」

487: 2008/06/04(水) 22:47:07.21 ID:EvUjNZq+0
――。

翠星石「ほら、蒼星石が落ちてくるですよ」

ジュン「まかせろっ」

ジュンは落ちてくる蒼星石をキャッチする。

ジュン「おおっと……結構重いな」

ジュン「こっちは無事だ。あと任せたぞ」

水銀燈「これでお終いねぇ」

水銀燈が動けなくなっている雪華綺晶の目の前にくる。

雪華綺晶「くっ……ここまで……ね」

雪華綺晶はどうしてこうなってしまったのだろうと、悔やむ。

488: 2008/06/04(水) 22:49:38.81 ID:EvUjNZq+0
雪華綺晶は他のドールと違うやり方でアリスに孵化しようとしていた。

全てのマスターの力を吸い取って己の糧にするという方法だ。

しかし、7体のドールの内3体。真紅、雛苺、蒼星石が動かなくなってしまった。

よって3人分のマスターの力が減る事になった。(実質ジュンを抜いて2人。巴をカウントしないとなると1人)

これでは足りなくなるかもしれない。雪華綺晶はそう考えた。

そして全員のローゼミスティカを奪うという正攻法へと作戦を転じた。

蒼星石のふりをして内部から奪っていく。

完璧な作戦のはずだった。アリスになれるはずだった。

しかし、雪華綺晶は今、敗北寸前だった。

489: 2008/06/04(水) 22:52:13.47 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「さあ、ジャンクにしてあげるわ」

ジュン「待ってくれ水銀燈」

水銀燈「なぁにジュン」

ジュン「僕からそいつに話をさせてくれ」

水銀燈「? わかったわぁ」

雪華綺晶「なんのよう……?」

ジュン「ものは相談だ。蒼星石のローザミスティカをこっちに渡して」

ジュン「金輪際僕達に手を出さないと約束するなら、とどめはささない」

翠星石「ジュン……」

ジュン「それでいいよな? 水銀燈」

水銀燈「……わかったわ」

493: 2008/06/04(水) 22:55:31.29 ID:EvUjNZq+0
ジュン「どうだ?」

雪華綺晶「いや……よ」

ジュン「なにっ?」

雪華綺晶「もしそっちの条件を飲んだら……お父様を裏切る事になるもの」

ジュン「どういうことだ?」

雪華綺晶「あなたの条件を飲むということは姉妹間の争いがなくなるということ……」

雪華綺晶「つまりアリスゲームは行われず……アリスは生まれない」

ジュン「っ!」

翠星石と金糸雀はうつむいてしまう。

だが水銀燈は違った。

494: 2008/06/04(水) 22:58:04.54 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「そうね。確かにお父様を裏切る事になるわね」

水銀燈は思う。まるであの時とは立場が逆ね、と。

数日前は雪華綺晶が水銀燈、水銀燈が蒼星石の立場にいたのだ。

水銀燈(蒼星石が今の私を見たらどう思うでしょうね)

雪華綺晶「じゃあ……なぜ?」

水銀燈「じゃあ私達が平穏を望むようになったのはなぜだかわかる?」

雪華綺晶「……?」

水銀燈「人を、好きになる心があるからよ」

496: 2008/06/04(水) 23:00:24.93 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「私達はそれぞれが好きになった人間とともに過ごす平穏を、望んでいる」

水銀燈「好きになった人が望む平穏を守ることを、望んでいる」

水銀燈「人を好きになるという心を私達の中に作り出したのは誰?」

雪華綺晶「お父……様?」

水銀燈「そうよ。お父様が作り出したもののせいで、お父様の願いは後回しにされることになるわね」

水銀燈「それって、自業自得だと思わなぁい?」

雪華綺晶「それでも……あなたは愛に縛られるくらいお父様を愛しているはず……」

水銀燈「そうね。でも、お父様のほかにも愛すべき人はいるのよ」

水銀燈はめぐの顔を思い浮かべる。

498: 2008/06/04(水) 23:03:25.34 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「私にはそれらの人達を天秤にかけられない」

水銀燈「愛に優劣なんてないのよ……きっと」

水銀燈「だからお父様には待ってもらうことにするわ。自分でまいた種ってことでね」

雪華綺晶「わからない……わからない……」

雪華綺晶「人を好きになる心……? わからないわ……」

水銀燈「あなた、マスターはいるんでしょう?」

雪華綺晶「マスターだって利用するためのもの……。私にはわからない……」

水銀燈「そう……」

503: 2008/06/04(水) 23:06:39.33 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「それで、どうするの?」

雪華綺晶「……」

水銀燈「黙ってちゃわからないわ」

雪華綺晶「……わかったわ。条件をのむ……」

水銀燈「おりこうね。まずは蒼星石のローザミスティカをよこしなさい」

雪華綺晶は自らの胸から蒼星石のローザミスティカを取り出す。

そして水銀燈へと手渡した。

水銀燈「それで、これはどうすればいいのかしら?」

翠星石「蒼星石のローザミスティカは翠星石が――」

ジュン「水銀燈。お前が持っててくれないか?」

506: 2008/06/04(水) 23:09:24.30 ID:EvUjNZq+0
翠星石「なっ……ジュン! どういうことです?」

水銀燈「そうよ、なぜ私なの?」

ジュン「お前は、背負うべきなんだ」

ジュンは翠星石と金糸雀に水銀燈が蒼星石を倒した事を話す。

翠星石「そんな……。じゃあなおさらです! 水銀燈になんか持たせられねーです!」

ジュン「水銀燈には全ての罪を受け入れる覚悟がある」

ジュン「だったら、ローザミスティカも託すべきだと思うんだ」

ジュン「水銀燈は蒼星石の望んだ平穏をこれからも守る。その誓いの証として」

水銀燈「ジュン……」

510: 2008/06/04(水) 23:12:09.91 ID:EvUjNZq+0
ジュン「分かったか水銀燈。このローザミスティカはお前の罪の形だと思ってくれ」

水銀燈「ええ。私は全てを……受け入れるわ」

ジュン「翠星石、金糸雀。いいよな?」

金糸雀「カナはなんとも言える立場じゃないかしら」

翠星石「ジュンがそこまでいうならしょうがねーです……。水銀燈っ!」

水銀燈「なぁに?」

翠星石「そのローザミスティカの意味、そして蒼星石の願い。絶対に忘れるんじゃねーですよ」

水銀燈「ええ。忘れない。誓うわ。お父様の名にかけて」

ジュン「これでよし」

515: 2008/06/04(水) 23:15:38.52 ID:EvUjNZq+0
ジュン「じゃあ雪華綺晶。お前は金輪際僕達には手を出すな。いいな?」

雪華綺晶「わかったわ……」

水銀燈「じゃあ行きなさい」

雪華綺晶「はい……お姉さま」

その言葉にジュンは違和感を感じる。

ジュン(なんだ……この嫌な感じ)

そして水銀燈の方を振り向いてみる。

ジュン「っ!? 水銀燈っ! 危――」

水銀燈「ぐうぅっっっ」

水銀燈の身体が弓のように反り返る。

その後ろで蒼星石が鋏を水銀燈の背中に突き刺していた。

524: 2008/06/04(水) 23:18:33.99 ID:EvUjNZq+0
ジュン「まさかっ」

ジュンは雪華綺晶の方に振り向く。

雪華綺晶「ふふ……ふふふ……ふふふふ」

雪華綺晶が指を動かしながら笑っていた。

翠星石「蒼星石っ」

翠星石は蒼星石の身体を取り押さえる。

水銀燈「くぅぅ……よくもやったわねぇ」

水銀燈の表情は怒りに染まっていた。

ジュン「あいつ……」

ジュンも拳を握り締め、怒りに震えている。

525: 2008/06/04(水) 23:21:05.39 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「許さない……許さないわ……」

水銀燈は立ち上がると羽を広げる。

水銀燈「あなたは私達の想いを裏切ったわ……」

水銀燈「それはつまり、蒼星石の願いも裏切ったということ……」

水銀燈は宙に舞う。

水銀燈「最初の罪滅ぼしよ。お前を……ジャンクにしてやるわ!」

羽が、雪華綺晶に向かって飛ぶ。

それらは次第に勢いを増し、炎を纏い、雪華綺晶を赤と黒で埋め尽くす。

雪華綺晶「ふふ……きかなぁい……きかなぁい」

526: 2008/06/04(水) 23:23:41.09 ID:EvUjNZq+0
雪華綺晶「私は幻でできている……そんな物理的なものでは……とどめをさせない」

水銀燈「それでも……体内にローザミスティカはあるんでしょう?」

雪華綺晶「……っ?」

水銀燈「昔からよくいうじゃなぁい?」

水銀燈「下手な鉄砲数撃ちゃあたるってねぇ」

雪華綺晶「まさか……」

水銀燈「これだけ撃てばあなたのローザミスティカに当たるでしょうねぇ」

雪華綺晶「くっ……」

雪華綺晶は逃げるように飛び出す。

527: 2008/06/04(水) 23:26:27.00 ID:EvUjNZq+0
翠星石「逃がさないですよ」

木の枝が雪華綺晶の身体に巻きつく。

雪華綺晶「そんなっ……」

水銀燈「ジャンクになりなさぁい!」

荒れ狂う赤と黒。雪華綺晶の悲鳴が響く。

水銀燈は攻撃を止める。

水銀燈「これで……お終いね」

雪華綺晶の身体はゆらゆらと揺れ、形を保つのが精一杯のようだ。

水銀燈は雪華綺晶の目の前に来る。

水銀燈「じゃあね。なかなかスリルのある遊びだったわぁ」

胸に光るローザミスティカを奪い取った。

530: 2008/06/04(水) 23:29:22.42 ID:EvUjNZq+0
雪華綺晶「お父……さ…おと……――」

雪華綺晶は溶けるように消えていった。

ジュン「終わった……のか」

翠星石「ですね……」

金糸雀「かしら……」

ジュン「そうだ……水銀燈っ」

ジュンは水銀燈のもとへと駆け寄る。

水銀燈はよほど大変だったのかその場で座っている。

ジュン「おい、さっきの攻撃は大丈夫だったのか!?」

536: 2008/06/04(水) 23:31:43.15 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「あんなものへでもないわ。私を馬鹿にしないで頂戴」

ジュン「よかった……」

水銀燈「別にあなたが私を心配する必要はないでしょう?」

ジュン「え? そ、それは……」

水銀燈「ま、いいわ」

水銀燈は立ち上がる。

水銀燈「かっこよかったわよ、あなた」

そしてジュンの頬に軽い口付け。

ジュン「な、なあっ! お前っ」

水銀燈「ふふ。ウブな子ね」

ジュン「ち、違うぞこのっ」

水銀燈「ふふっ」

538: 2008/06/04(水) 23:33:25.39 ID:EvUjNZq+0
――何も無い空虚な空間。

真紅「なにかしら。無性に腹が立ってきたのだわ」

雛苺「うぃー? どうしたの真紅?」

真紅「あーイライラするっ!」

雛苺「真紅?」

真紅「水銀燈のやつをジャンクにしてやりたい気分だわっ! キィーッ」

雛苺「真紅っ!?」

540: 2008/06/04(水) 23:35:02.27 ID:EvUjNZq+0
翠星石「なっ……水銀燈のやつなにしやがるですか! 翠星石でもほっぺにちゅーはしたことないですのに!」

金糸雀「もし真紅が見てたら発狂しそうな瞬間かしらー……」

水銀燈「じゃあ私はこれでいくわ」

水銀燈は羽を羽ばたかせ宙を舞う。

水銀燈「また機会があったら会いましょう」

ジュン「うん。それじゃあ」

翠星石「ほっぺにちゅー……ほっぺにちゅー……むー……」

金糸雀「バイバイかしらー」

水銀燈は遠くへと飛んで行き、見えなくなった。

541: 2008/06/04(水) 23:37:42.92 ID:EvUjNZq+0
――翌日。

平穏が、戻ってきた。

蒼星石までもを失った。

しかし、彼らはめげなかった。

翠星石と金糸雀は家の中を駆け回り、

ジュンはひたすら勉強に励む。

夜になればのりお手製の晩御飯。

はなまるハンバーグがおなかを満たす。

何気ない日常。

平穏が、戻ってきた。

545: 2008/06/04(水) 23:40:29.24 ID:EvUjNZq+0
――有栖川大学病院。

水銀燈「めぐ」

窓の外から水銀燈が姿を現す。

めぐ「あら水銀燈。こんにちは」

水銀燈「具合はどう?」

めぐ「私の容態が悪くなったの、知ってたのね」

水銀燈「まぁね」

めぐ「心配してくれてありがと。水銀燈」

水銀燈「ええ」

めぐはぽかーんと口をあける。

548: 2008/06/04(水) 23:42:49.49 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「……何よ?」

めぐ「まさか水銀燈がそんな素直な返事をするとは思わなくて……」

水銀燈「どういう意味?」

めぐ「馬鹿じゃないのぉ? 誰が心配何かするのよ、なーんてこと言われると思ったから」

水銀燈「あら、あなたの中じゃ私はとても性悪な人形みたいね」

めぐ「あはは。怒らないでね水銀燈」

水銀燈「……」

水銀燈は無言で微笑む。

めぐ「……? どうしたの?」

550: 2008/06/04(水) 23:45:23.82 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「ねえ、めぐ」

めぐ「なあに?」

水銀燈「あなた、まだ生きたいって思ってる?」

めぐ「うん。あなたと過ごせるならまだ生きていたいわ」

水銀燈「そう。じゃああなたに言わなきゃね」

めぐ「何を?」

水銀燈「まあお説教みたいなものね」

めぐ「お説教? やだよそんなの」

水銀燈「いいから聞きなさい」

554: 2008/06/04(水) 23:49:15.00 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「あなたは自分の命をもっと大切にしなければいけない」

水銀燈「あなたは世界から、そして誰からも必要とされてない。そう言ったわよね」

めぐ「うん。そうね」

水銀燈「確かにあなたは誰にも必要とされてないかもしれない」

めぐ「む。ダイレクトにいわれるとちょっとヘコむわ」

水銀燈「だからと言って受身の立場じゃ駄目なのよ」

水銀燈「病人だからって言い訳してはいけない。自分から誰かの為になることをするのよ」

めぐ「私にできることなんてないわ」

水銀燈「いいえ、きっとあるわ。自分でそれを探しなさい」

556: 2008/06/04(水) 23:51:55.15 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「それと……」

水銀燈「あなたは私と過ごす平穏が好きだから生きたい。そうも言ったわね?」

めぐ「うん」

水銀燈「もっと周りと関わりを持ちなさい」

水銀燈「私以外にも、いっしょにこの平穏を過ごしたいと思える人をみつけるのよ」

めぐ「無理よ。こんなところにいたんじゃ無理」

水銀燈「諦めが早いわめぐ。そうねぇ。まずは父親とちゃんと話し合ったりしてみなさい」

めぐ「っ! いやっ。それだけはいやっ!」

水銀燈「あなたはそれだけ嫌ってるみたいだけど、どこかに誤解が生じてる場合だってあるかもしれないわ」

水銀燈「あなたの肉親なのよ。しっかり話し合うべきよ。それに……」

559: 2008/06/04(水) 23:54:19.56 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「父親と会えるってこと、もっと幸せだと思いなさい」

めぐ「だって……」

水銀燈「父親に会いたくても会えない。そんな子だってたくさんいるのよ」

めぐ「水銀燈……」

水銀燈「いいことめぐ。今いったこと、忘れないで」

水銀燈はそう言うと窓辺に立つ。

水銀燈「最後に……」

めぐ「何?」

水銀燈「めぐ。生きることってね、戦うことなのよ」

めぐ「戦う……こと?」

564: 2008/06/04(水) 23:56:29.16 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「そう、戦うこと」

水銀燈「私、まだめぐが戦っているところ、見た事ないわ」

めぐ「で、でも現に今こうして生きてるわ」

水銀燈「そういうことじゃないのよ」

水銀燈「めぐの戦う姿。見てみたかったわ」

めぐ「水銀燈……」

水銀燈「それじゃあ、私はいくわぁ」

めぐ「待って、水銀燈!」

568: 2008/06/04(水) 23:59:15.22 ID:EvUjNZq+0
水銀燈「なぁに?」

めぐ「いなくなったり……しないわよね?」

水銀燈「……だいじょうぶよめぐ」

めぐ「よかった。なんだか水銀燈がいなくなりそうな気がして……」

水銀燈「ふふ……」

水銀燈は優しく微笑む。

水銀燈「それじゃあね……めぐ」

水銀燈は大空へと羽ばたいていった。

572: 2008/06/05(木) 00:03:03.72 ID:X9WKJVia0
――桜田家。

ジュン「えっと……ここはhave+過去分詞で……」

机に向かい勉強に励んでいる。

ジュン「あー、勉強する時だとこのでかい指輪が邪魔だな」

ジュン「学校行った時もどうやってこの指輪をごまかせばいいか……」

ジュンはペンを置き、指輪を見る。

ジュン「そういや、水銀燈とはまだ契約しっぱなしだったな」

ジュン「あいつ……何してるんだろうな……」

水銀燈のことを頭に思い浮かべる。

水銀燈と見えない何かで繋がる。そんな感覚がジュンの中にうまれる。

573: 2008/06/05(木) 00:04:55.78 ID:X9WKJVia0
ジュン「なんだ……力がどんどん弱まるのを感じるぞ……」

ジュン「まさか水銀燈……」

嫌な予感が頭をよぎる。

そして次に蒼星石が水銀燈を鋏で穿った瞬間がフラシュバックする。

ジュン「くそっ……!」

ジュンがイスから立ち上がると、部屋から飛び出る。

翠星石「……? ジュンお出かけですか?」

しかしジュンは答えず、玄関を飛び出した。

580: 2008/06/05(木) 00:07:37.26 ID:X9WKJVia0
――教会。

水銀燈は教会の中にある長椅子にもたれかかる。

水銀燈「……これで、この世界ともお別れね」

水銀燈は自らの背中に触れる。

そこには穴が開いていた。

蒼星石の一撃によって穿たれた穴だ。

水銀燈「もろいわね……」

水銀燈はその穴をせいで、もうじき動かなくなってしまう。

めぐへのお説教も、もう会えないからだった。

587: 2008/06/05(木) 00:10:07.87 ID:X9WKJVia0
水銀燈「なんだかんだで、私はアリスにはなれなかったわね……」

水銀燈「お父様にも……会えなかった」

水銀燈「でも……この時代で目覚めてよかったわ」

めぐの顔を思い浮かべる。

水銀燈「あの子……戦ってくれるかしら……」

水銀燈「信じてあげなきゃね……」

水銀燈「頑張ってめぐ……私の……」

593: 2008/06/05(木) 00:12:57.00 ID:X9WKJVia0
ジュンは指輪の感覚を頼りに走り続ける。

引きこもっていたせいで体力はないが、それでも走るのをやめない。

やがて、寂れた教会の前にたどり着いた。

ジュンは扉を開ける。

中には長椅子がたくさん並んでおり、人1人簡単に隠れられるような作りになっている。

ジュンは水銀燈を探す。

ジュン「……っ」

そして見つけた。

長椅子に横たわり、動かなくなった黒衣の人形を――。

597: 2008/06/05(木) 00:15:19.43 ID:X9WKJVia0
ジュン「そんな……」

気付けば指輪は元のサイズに戻っていた。

ジュン「おい、水銀燈っ! なんとか言えよ! おいっ」

黒衣の人形を抱きかかえる。しかしその人形はうんともすんとも言わない。

ジュン「くそっ……くそっ……」

もう少し早く気付けば。ジュンは後悔する。

ジュン「くそっ……くそっ……くそくそくそっ!」

自分はなんて無力なのだろう、と己を責める。

ジュン「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

そして叶わない思いを叫び声として、吐き出した。

601: 2008/06/05(木) 00:17:47.64 ID:X9WKJVia0
ジュン「これで4体だ……」

真紅。雛苺。蒼星石。水銀燈。

ジュン「僕は……なんなんだ……!」

涙を流す。そして心の中にある決意。

ジュン「絶対……呼び戻してやる」

――待ってるだけじゃ駄目だ。自分から行動しろ。

ジュン「お前らの魂を……必ず」

――勝手に戻ってくるのを待つだけなど、罪深いだけの怠慢。

ジュン「僕がこの手で、お前らを呼び戻してやるからなっ……!」

ジュン「だから……待ってろ……」

少年は誓う。

乙女達の魂を現世に呼び戻すと。

少年は誓う。

かつて皆がいた、本当の平穏を呼び戻すと。

――END

606: 2008/06/05(木) 00:19:19.07 ID:X9WKJVia0
そしてここでエピローグ

前回みたいに全てをぶち壊すような展開ではないのであしからず

609: 2008/06/05(木) 00:20:39.42 ID:X9WKJVia0
エピローグ

――有栖川大学病院。

コンコン。

扉をノックする音。しかしめぐは答えない。

コンコン。

めぐ(どうせパパよ……)

???「すいません、起きてますか?」

聞き覚えの無い少年の声。

めぐは戸惑いつつも答える。

めぐ「どうぞ……」

扉が開き、1人のメガネをかけた少年が中に入ってきた。

613: 2008/06/05(木) 00:22:37.01 ID:X9WKJVia0
その少年は大きな鞄を持っていた。

めぐ(あの鞄どこかで……)

少年「柿崎めぐさん……ですよね」

めぐ「はい……そうですけど。どなたですか?」

ジュン「僕、桜田ジュンって言います。初めまして」

ジュンと名乗る少年はお辞儀をする。

めぐはそれにあわせて頭を下げる。

めぐ「いったい私になんの用ですか?」

ジュン「この鞄のことです」

615: 2008/06/05(木) 00:23:06.96 ID:X9WKJVia0
>>612
続きはお前に任せた

619: 2008/06/05(木) 00:25:11.63 ID:X9WKJVia0
ジュンはベッドの上についているテーブルに鞄を乗せる。

ジュン「開けてみてください」

めぐは一瞬躊躇するも、鞄に手をかける。

そして鞄を開ける。

めぐ「……っ!」

鞄の中に入っていたのは黒衣の人形。

めぐ「水銀燈っ! どうしたの?」

しかし鞄の中でうずくまる人形は何も言わない。

めぐ「ねえ、何か言ってよ水銀燈っ」

622: 2008/06/05(木) 00:27:55.56 ID:X9WKJVia0
ジュン「彼女、水銀燈は……動かなくなりました」

めぐ「……どういうこと?」

ジュン「彼女の背中を見てください」

めぐは言われたとおり背中を見る。

そこには直径5センチほどの穴が開いていた。

めぐ「これは……」

ジュン「彼女は戦い……そしてこの背中の傷を負って、動かなくなりました」

めぐ「どういうこと? ねえどういうことなの? 戦いって何? なんで水銀燈がこんな目にあわなくちゃならないの?」

ジュン「水銀燈は……あなたのために戦ったんです」

625: 2008/06/05(木) 00:29:53.28 ID:X9WKJVia0
めぐ「私の……ため?」

ジュン「はい。あなたを、あなたの望んだ平穏を守るため、水銀燈は戦いました」

ジュン「そして平穏を守った代償として、彼女は……」

めぐ「なんで……う……うわああああああああああああああああああああ」

めぐは水銀燈を抱きしめながら泣きじゃくる。

ジュンはその姿を目に焼き付けるように見る。

ジュン「彼女の魂はどこか遠くへ行ってしまいました」

めぐ「どこか遠く……?」

628: 2008/06/05(木) 00:31:32.25 ID:X9WKJVia0
ジュン「はい。僕達じゃたどり着けないような、遠い、遠い場所に」

めぐ「そんな……」

ジュン「でも、僕は彼女の魂を呼び戻すつもりです」

めぐ「できるの?」

ジュン「わかりません。けど、やらなきゃいけない」

ジュン「水銀燈の他にも、あと3体のドールが動かなくなりました」

めぐ「他にも、いるのね……」

ジュン「僕はそれらの魂をすべて取り戻すと決めました」

631: 2008/06/05(木) 00:33:56.36 ID:X9WKJVia0
ジュン「今日あなたのところにきたのは、絶対に逃げないと覚悟するためです」

めぐ「それってどういうこと?」

ジュン「僕は絶対に彼女達の魂を取り戻したい。しかし、それは苦しく、困難な道かもしれない」

ジュン「でも、それでも逃げないように、覚悟がいるんです」

めぐ「覚悟……?」

ジュン「めぐさん。僕はあなたに誓う。水銀燈の魂を取り戻すと」

めぐ「信じて……いいの?」

ジュン「はい。信じてください」

634: 2008/06/05(木) 00:36:37.48 ID:X9WKJVia0
めぐ「わかったわ。あなたを信じる」

ジュン「ありがとうございます」

めぐ「水銀燈はまかせたわ」

ジュン「はい。それと……僕からあなたにお願いがあります」

めぐ「なあに?」

ジュン「どれだけ時間がかかるかわからない。でも、水銀燈が元に戻るまで、あなたは生きていてください」

めぐ「……え?」

ジュン「水銀燈の名にかけて誓って欲しい。彼女が戻るまで生き続けると」

真剣な眼差しで、ジュンはめぐを見つめる。

638: 2008/06/05(木) 00:40:54.04 ID:X9WKJVia0
めぐ「生き……続ける」

ジュン「そうです。水銀燈だってきっと、あなたにもう一度会いたいはずです」

数秒間、めぐはうつむき、

めぐ「……わかったわ。私は生きる。誓うわ」

そう言っためぐの顔はすがすがしいものだった。

ジュン「ありがとう……ございます」

ジュンは手を差し出す。めぐはそれを握り返す。

2人はこの誓いを胸に刻み、

困難な道を、歩き続ける。

全てが、元に戻ると信じて。

愛する乙女を取り戻すための、

――薔薇の誓い。

――END

640: 2008/06/05(木) 00:42:34.57 ID:YGp1zm5j0
乙!

642: 2008/06/05(木) 00:42:53.33 ID:X9WKJVia0
これで終わりです
見てくれた人、保守してくれたひと
どうもありがとう!

苦手な戦闘シーンで苦戦したり
きらきーの雰囲気出すのに苦労したけど
なんとか終われたよ

あときらきーの能力は原作みて俺が勝手に想像しました

687: 2008/06/05(木) 00:56:48.83 ID:X9WKJVia0
>>686
下の穴ですね、わかります

692: 2008/06/05(木) 01:02:28.44 ID:X9WKJVia0
じゃあ次回は俺の練習もかねて
小説風にかくよ

それじゃ

731: 2008/06/05(木) 16:25:19.69 ID:X9WKJVia0
まだ残ってたか

気まぐれでオマケでも


看護師「めぐちゃん、検温の時間よ。あら?何やってるの?」

めぐ「内職ってやつかしら?」

看護師「へえ。どうしていきなり内職なんてしだしたの?」

めぐ「これで稼いだお金を、恵まれない子供達のために募金しようと思って」

看護師「あらまぁ。めぐちゃん偉くなったわねぇ」

めぐ「誰も私を必要とはしてくれない」

めぐ「けれど、私から誰かのためにできることはあるんだもの」

めぐは窓から空を見る。

めぐ(ねえ水銀燈……)

めぐ(私、戦ってるよ)

めぐ(私、一生懸命生きてるよ)

引用元: 翠星石「最近蒼星石の様子がおかしいですぅ」