2: 2022/03/11(金) 23:02:40.208 ID:86JidUSR0
勇者「って何だよそれ」

神官「はい。咀嚼スキルとは、噛めば噛むほど強くなるスキルでございます」

勇者「意味が分からん」

神官「まあまあ、ものは試しです。どうぞこちらをお召し上がりください」

勇者「…………グミ?」

神官「はい。こちらは選ばれし勇者のみが噛むことのできるという伝説のグミ『エクスハリボー』です」

勇者「えぇ……」

3: 2022/03/11(金) 23:03:12.757 ID:86JidUSR0
神官「普通の人間では噛み切れず、歯が欠け、アゴが外れると伝えられているこのグミ。しかし咀嚼スキルを持つ勇者様であれば、これを食べることで聖なる力を手にすることが出来るはずです!」

勇者「賞味期限大丈夫なのかそれ」

神官「はい。劣化防止の神聖魔法が掛かっておりますので」

勇者「そうか。じゃ、食ってみるか」アーン

勇者「……」モグモグ

神官「……い、いかがでしょうか」

勇者「いや、普通のグミの味しかしないけど……」モグモグ

神官「お、おお……!」

4: 2022/03/11(金) 23:03:54.406 ID:86JidUSR0
勇者「…………」ゴクン

神官「お  め  で  と  う  ご  ざ  い  ま  す!!!!!!!!!!!」

勇者「うおっ!?」ビクッ

神官「まさか本当にエクスハリボーを完食してしまうとは!!!!! これぞまさに伝説の勇者の再来!!!!! 私、感涙でございます!!!!!!」ダバー

勇者「急に大声出すな! 喉詰まらせたらどうすんだ!」

神官「ハッ! こ、こうしてはおられません! 急ぎ王様にご報告し、謁見のお許しを頂かなければッッッ!!!」ダダダダダダッ

勇者「え、ちょっと待っ……おーーーーーい!?」

5: 2022/03/11(金) 23:04:37.091 ID:86JidUSR0
[王城]

王様「そなたが伝説の咀嚼勇者か」

勇者「はい。あの、咀嚼勇者じゃなくて普通に勇者って呼んでくれませんかね。嫌なんで」

王様「うむ。……で、咀嚼勇者よ」

勇者「聞けよ」

王様「そなたは今の我が国をどう思う?」

勇者「へ? えーっと……良い国だと思いますよ。飯は美味いし、最近は大きな戦争もないので、まあ平和っていうか」

王様「そう。平和だ。当代の王家の類稀なる治世によって、現在の我が国は歴史上最も豊かで平和な時代を迎えている」

勇者「自慢っすか」

6: 2022/03/11(金) 23:05:29.256 ID:86JidUSR0
王様「そして、あまりにも平和であるが故に────我が国は今、未曾有の危機に瀕している」

勇者「……危機、ですか。それはどのような?」

王様「うむ。我が国の生活水準の向上に伴い、国民の食生活は大きく変化した。硬い黒パンは柔らかい白パンに変わり、簡単に噛み切れる肉料理や甘い菓子なども大量に、安価で生産する事が可能となった」

勇者「ああ、分かりますよ。噴水前通りに新しく出来たケーキ屋とか、美味しいって評判ですからね」

王様「そうだ。そして、そのような食事が貴族から庶民まで広く親しまれるようになった結果として────」





王様「我が国の民のアゴは、とても弱くなってしまった」

勇者「……………………はい?」

8: 2022/03/11(金) 23:06:40.316 ID:86JidUSR0
王様「これは、極めて深刻な問題である。故に早急に解決せねばならん」

勇者「はあ」

王様「分かるな、咀嚼勇者よ。我が国にはそなたの力が必要なのだ」

勇者「……えっと、そんなにヤバい話なんですか? それ」

王様「ヤバいどころの話ではないわッッッ!!!」クワッ

勇者「」ビクッ

王様「国民のアゴが弱るということは、国民の命が失われる事と同義である!! 我が国は今、存亡の機に直面しているのだッ!!」

勇者「んな大袈裟な」

王様「大袈裟ではない。国営研究機関の調査によると、人間の咬合力は摂食のみならず、運動能力や脳機能にも密接に関わっているのだ。現在の試算では、このままのペースで国民のアゴが弱り続けたならば、今後10年以内に国民の約90%がその知性を失い、自力で歩行する事も困難になると予想されている」

勇者「えぇぇ……」

9: 2022/03/11(金) 23:07:30.424 ID:86JidUSR0
王様「そうなれば、我が国は滅亡するほかない。人口の大半を失っては、たとえ周辺国に攻め込まれずとも国家の存続は絶望的である。そのような事態は何としてでも回避せねばならん。故に……」

勇者「俺の力が、必要というわけですか」

王様「その通りだ。咀嚼勇者よ」

勇者「しかし……こう言ってはなんですが、俺は咀嚼することしか能がない勇者です。いや自分でも何言ってんだかよく分からないですが、ともかくこんな俺がこの国を救うだなんて、大それた事が出来るとは到底思えないのですが」

王様「まあ待て、そう結論を早まるな。話はまだ終わっておらん」

勇者「し、失礼しました」

王様「うむ。……無論、我々王家もただ手をこまねいていた訳ではない。国民のアゴの力を強めるため、食事の際に噛む回数を増やすことや、硬い食べ物の販売・購入を奨励する施策を進めている。そしてそれは一定の成果を上げている。だが」

10: 2022/03/11(金) 23:08:35.399 ID:86JidUSR0
王様「これらの施策を妨害し、国家滅亡の時を早めんとする悪しき勢力が存在するのだ」

勇者「悪しき勢力……ですか」

王様「うむ。彼奴らは元々、我が国において『美味しく食べながら噛む力を強くする食品』を研究・販売する一企業であった」

王様「しかしいつの頃からか、彼奴らは研究の成果を秘匿し、ごく一部の人間にのみアゴの力を高める食品を提供するようになった。そして鍛え上げられた強靭なアゴによって、アゴを強くする食品を生産する企業や研究機関を次々と破壊し、国民がアゴの力を鍛える機会を奪っているのだ」

王様「このような卑劣な行い、断じて許す事はできない。故に咀嚼勇者よ。そなたには彼奴ら────《悪の軍団》ユーファ味覚党の企みをその伝説のアゴで咀嚼し、阻止して欲しいのだ」

勇者「ごめんなさいちょっと意味分かんないです」

12: 2022/03/11(金) 23:09:41.645 ID:86JidUSR0
王様「案ずるな。彼奴らの拠点の位置は既に特定している。直ぐにでも乗り込む事が出来るぞ」

勇者「いやそうじゃなくて」

王様「噂では、ユーファ味覚党には特に強力なアゴをもつ三人の幹部が居るらしい。其奴らを全て咀嚼することが出来たならば、ユーファ味覚党の野望は潰えるであろう。期待しているぞ咀嚼勇者よ」

勇者「あの、話を」

王様「それでは任せたぞ咀嚼勇者よ。全ては明日の輝かしいアゴのために!」

勇者「…………一回滅んだほうがいいんじゃないかなこの国」

14: 2022/03/11(金) 23:11:24.160 ID:86JidUSR0
Part1 終了です。ちょっと休憩

次は Part2 刺激のクース です。

15: 2022/03/11(金) 23:13:59.363 ID:86JidUSR0
[ユーファ味覚党のアジト]


ヒュォオ……


勇者「ここが《悪の軍団》ユーファ覚党のアジトか……雰囲気あるなあ」

勇者「そもそも、俺は一体何をどうすれば良いんだ。咀嚼? 咀嚼ってなんだよ」

勇者「まあ、ここまで来たら怖気付いても仕方ない。腹括って突入するか! たのもー!」ガチャッ


ギギィ……


勇者「! こ、これは…………」



ズンチャッ♪ ズンチャッ♪ ズンチャッ♪ ズンチャッ♪


キラキラキラキラ……☆



勇者「…………ディ、ディスコ? いやダンスホールか?」

16: 2022/03/11(金) 23:14:42.134 ID:86JidUSR0
勇者「なんだこれ。外の雰囲気と全然違うじゃねぇか。ミラーボールまで回ってるし…………どゆこと?」



??「レディーース アーーンド ジェンットルメーーーン!!」シュバッ

勇者「!?」ビクッ




??「ウェルカム トゥザ シゲキマーーーックス ダンスショーーー!!」クルクルクルクル…

勇者「え、なになになに!? 誰!?」


シュタッ


??「────ハブ ア ナイスタイム☆」バチンッ

勇者「」ビクッ

17: 2022/03/11(金) 23:15:24.598 ID:86JidUSR0
??「やあ! 咀嚼勇者クンだね? ボクの刺激的なダンスホールへようこそ! 歓迎するヨッ☆」キランッ

勇者「お、お前は……?」

??「ボクはユーファ味覚党のNo.3《刺激のクース》!」

クース「気軽にクースって呼んでくれると嬉しいカナッ☆」キュピーン

勇者「ナンバースリー……! お前が噂の幹部ってやつか!」

クース「フフフ、そんなに情熱的に見つめてくるなんて……刺激的ダネッ☆」キランッ

勇者「ええい、黙れ! お前らのせいで俺はこんな所まで来る羽目になったんだ!」

18: 2022/03/11(金) 23:16:26.362 ID:86JidUSR0
勇者「未だに何が何だかよく分からんが、とにかくこの国の平和の為に、勇者の力でアレをああしてなんか良い感じにお前を倒してやる!!」ズビシッ!

クース「ワオ! とんでもない見切り発車だね! でも話が早いのは嫌いじゃないヨッ☆ それじゃあ、対戦方法はボクが決めちゃってもいいかな?」

勇者「すまん! 助かる!」

クース「オッケー☆ それじゃあ咀嚼勇者クン、今からキミとボクの咀嚼力を競い合うゲームをしよう!」

勇者「ゲーム? いやそれより咀嚼力って?」

クース「咀嚼力とは物を食べる力のことダヨッ☆」キランッ

勇者「いやそれは分かるんだけどそうじゃなくて」

19: 2022/03/11(金) 23:17:42.524 ID:86JidUSR0
クース「ルールは簡単! これからボクが用意するグミを二人で交互に食べて、先にギブアップした方が負け!」

勇者「グミ?」

クース「おっと、もちろんただのグミじゃないよ? ボクのグミは食べれば食べるほど、どんどん刺激的な味になるスペシャルなグミなのサッ☆」キランッ

勇者「……なんか嫌な予感がするな。どんな味なんだそれ」

クース「それは食べてみてのお楽しみ。それじゃあ、用意はいいかい? ────ゲームスタートッ☆」パチンッ



ドサドサドサッ



勇者「うおっ! どっから出てきた!?」

クース「ヒ・ミ・ツ☆ それじゃ、先手はボクが貰うね? あー……んっ」パクッ

20: 2022/03/11(金) 23:18:52.136 ID:86JidUSR0
クース「……」モグモグ

クース「ん〜〜〜〜っ♪ 美味しい! ナイスシゲキッ☆」キランッ

勇者「お、おう」

クース「次はキミの番だよ。咀嚼勇者クン☆」

勇者「ああ……」パクッ

勇者「…………」モグモグ



勇者「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!?」ガクンッ



クース「アハハッ☆ ボクの刺激的なグミのお味はいかがかな?」

勇者「(すっっっっっっっっぱ!!? なんだこれ!? 刺激的ってそういう意味かよ!)」プルプル

21: 2022/03/11(金) 23:20:32.663 ID:86JidUSR0
クース「どう? まさかもうギブアップしちゃうのかな? ボクはそれでも構わないけどネッ☆」

勇者「(だ、大丈夫だ……驚きはしたけど、このぐらいならまだ全然耐えられる。イケる)」モグモグ…

勇者「…………」ゴクン

勇者「…………た、大したことねぇなあ? 程よい歯ごたえがあってちょっぴり刺激的な味がする、普通に美味しいグミだったぜ? ご馳走様」ダラダラ

クース「ふふっ、痩せ我慢だね。刺激的だけど、その余裕がいつまで持つカナッ☆」パクッ

クース「んん〜〜〜〜っ♪ ナイスシゲキッ☆」キランッ

勇者「(落ち着け……ペースに呑まれるな。このグミはたしかに刺激的だが、食べられない味じゃない)」パクッ

22: 2022/03/11(金) 23:21:36.195 ID:86JidUSR0
勇者「(むしろ慣れてくれば美味しい。そう思い込みながら食べれば────ガッ!!!?)」モグモ…



勇者「く5ぁせhvi*\7じこ2jkk!!!?!!?」ビクンビクンビクン

クース「アハハハハハハッ☆ 言ったよね? ボクのグミは食べれば食べるほど、どんどん刺激的な味になるってサッ☆」

勇者「(じょ、冗談じゃねぇ! なんなんだこの味はッ!? さっきとは比べものにならないほどのすっぱさ!! 舌を滅多刺しにされるような刺激で咀嚼する余裕が全くない!!)」ガクガク

クース「2個目のグミは刺激2倍! よーく噛んで味わってネッ☆」

23: 2022/03/11(金) 23:22:29.751 ID:86JidUSR0
勇者「(あ、あまりのすっぱさに大量のよだれが出て、ようやくなんとか噛めるレベルになってきた……これでまだ2個目なら、3個目は一体どれほどの刺激になるというんだっ!?)」モグモグ

クース「フフフ……☆」

勇者「(それになにより、こいつのこの余裕! 俺と同じ刺激2倍のグミを食べたのに、どうしてそんなに平然としていられるんだ!? ────ハッ!? まさか!)」ゴクン





勇者「味覚がないのか!?」

クース「いやあるよ!!? 急に何を言いだすのさ!」

勇者「あ、そうか。すまん」

24: 2022/03/11(金) 23:23:47.978 ID:86JidUSR0
クース「ふふっ。キミの言いたいことは分かるよ。『どうして刺激2倍のグミを食べたのに、そんなに平気そうな顔をしてるんだ』……でしょ?」

勇者「……ああ」

クース「なに、簡単な話さ。刺激2倍のグミなんて、ボクにとってはもう大した刺激じゃない……それだけのことダヨッ☆」キランッ

勇者「なっ……!?」

クース「アハハッ☆ 絶望させちゃったかな? でも仕方ないよ。普段から柔らかい食べ物ばかり食べてるアゴの弱い人間と違って、ボクは毎日この刺激的なグミだけを食べているからね。キミとボクとでは、アゴの地力があまりにも違い過ぎるのサッ☆」キランッ

勇者「……」

25: 2022/03/11(金) 23:24:45.340 ID:86JidUSR0
クース「咀嚼勇者の力だって、所詮はただの付け焼き刃。噛むということの本当の価値を知らない君では、絶対に、ぜぇ〜〜〜〜ったいにボクには勝てないのサッ☆」ビシッ

勇者「……」

クース「…………どうやら、反論する気も起きないみたいだね。ちょっとイジメすぎちゃったかな? ごっめんねぇ! ボクのアゴが、あまりにも強すぎちゃってサッ☆」

勇者「……食べろ」

クース「ん?」





勇者「グミ以外も食べろッ!!! 栄養が偏るだろうがッッッ!!!!!」クワッ!

クース「!!?!?」ビクッ

26: 2022/03/11(金) 23:26:01.703 ID:86JidUSR0
勇者「アゴの力うんぬん以前に、そんな食生活してたら病気になるだろうが!! 野菜を食え!! 肉を食え!! 米もパンも食えッ!!! 適度に!! 食えッッ!!」ズビシッ!

クース「え? え?」オロオロ

勇者「ゼロかイチしかないのかお前らは! 柔らかいものだけ、硬いものだけ食うんじゃなくて、どっちもバランス良く食えば済む話だろうが! 脳みそ空っぽなのか!?」

クース「いや、あの、キミは」

勇者「ああん!!?」ギロッ

クース「ボクのアゴに恐れをなして、絶望していたんじゃなかったのかな……?」

勇者「相変わらず意味わかんねぇ言い回しだな……。確かに、お前の刺激味への耐性は異常だ。このままじゃ、お前に勝てるビジョンがまるで見えねぇよ」

27: 2022/03/11(金) 23:26:46.562 ID:86JidUSR0
勇者「……だけど。俺にだって、譲れないものはある」

クース「……譲れないもの、って?」

勇者「どれだけ絶望的な状況下でも、決して捨てることの出来ないもの。お前からすればちっぽけなものに見えるかもしれないが、それでも俺にとっては何よりも大事で、護るべきものだ」

クース「……」

勇者「だから俺は、絶対に諦める訳にはいかない。何故なら……もしここで戦いを諦め、お前への敗北を認めてしまったならば、俺は────」








勇者「『咀嚼勇者』とかいうクソダッセェあだ名つけられた挙げ句、敵の幹部一人すら倒すことが出来ず瞬殺されたクソ雑魚無能勇者というめっちゃくちゃ恥ずかしい存在になってしまうからだッッッ!!!!!!!」クワッッッ!!!

クース「想像以上にちっぽけな理由だったね!!?!?」

28: 2022/03/11(金) 23:27:53.278 ID:86JidUSR0
勇者「ハァ……ハァ……」

クース「……まあでも。その潔さ、刺激的で嫌いじゃないヨッ☆」キランッ

勇者「うっせぇ……そもそも、俺は最初から乗り気じゃなかったんだ。咀嚼勇者とか意味わかんねぇし、でも負けるのは気に食わねぇし、だからさっさとこのゲームを……オイ、何笑ってんだお前」

クース「いや、なんだかおかしくってね。今まで、アゴを妬まれることはあっても、グミ以外を食べろなんて言われたことは無かったからさ」クスクス

勇者「むしろそっちの方が異常だと思う」

29: 2022/03/11(金) 23:28:49.632 ID:86JidUSR0
クース「……かもね。ま、お陰で気分がスッキリしたよ。そして悪かったね、キミを煽るような真似をして」

勇者「? どうした急に」

クース「実を言うとキミを試していたんだ。この先に進む資格があるのか、《彼女》を救うことの出来る力があるのか……それを確かめるために、ね」

勇者「は? 彼女? 救う? 一体何を」

クース「おっと! 詳しい話はゲームが終わってからにしよう。いずれにせよ、ここでキミがボクに勝てなければ今の話は無かったことになるのだからね」

勇者「……分かった。さっさとしろ」

30: 2022/03/11(金) 23:29:54.147 ID:86JidUSR0
クース「オッケー☆ それじゃ、ボクをこんなにも愉快な気持ちにしてくれたキミに敬意を表して────本気で潰してあげよう」

勇者「ッ!!」



ゴゴゴ……



クース「フフフ……☆」スッ

勇者「お、お前、一体何を…………まさかッ!!?」

クース「そう、そのまさかさ。行くよ────刺激MAX、5個一気食い!!」パクッ!



ジュウウッ……



クース「んぐっ、んんんんんん〜〜〜〜〜〜!」プルプル

勇者「バ、バカな……ひとつ食べるだけでも恐ろしいのに、5個一気食いだと!!?」ゾクッ

31: 2022/03/11(金) 23:30:43.408 ID:86JidUSR0
勇者「いやそれよりも! この何かが溶け出しているような音は一体なんだ!? ────ハッ! まさかッッッ!!?」バッ




クース「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」ジュウウッ…

勇者「やっぱり! クースの口の中が溶け出している!」

勇者「ひとつ食べるごとに刺激味が倍になるグミを5個まとめて食べたとなれば、その刺激レベルは実に2の5乗……いや、既に2個食べているから6乗! 64倍だ!!」

勇者「そこまでの刺激レベルになると、それはもはやただのすっぱいグミではない! 強酸レベルの刺激をもたらす超劇物グミだ! 決して人間が口にして良いものではない!」

勇者「どれだけアゴの力が強かろうと無意味! グミに触れた口内のあらゆる箇所がたちまち化学的な火傷を負い、咀嚼出来ないどころか、その激痛から意識すら失いかねない!」

32: 2022/03/11(金) 23:31:47.795 ID:86JidUSR0
勇者「いくら刺激味に耐性があるとはいえ、自殺行為だ! 一体何を考えて────いや!?」



クース「んんんん〜〜〜〜〜ッッッ♪♪♪」モグモグ

勇者「そ、咀嚼している……だと!? あり得ない! 何が起こっている!?」

クース「ん〜〜〜〜〜ッ♪♪ ナイスシゲキッ☆」モグモグ

勇者「…………はっ!? そ、そうか! そうだったのか!」

33: 2022/03/11(金) 23:32:50.446 ID:86JidUSR0
勇者「咀嚼とは、ただ食べ物を噛み締めるだけの行為にあらず! それは胃や腸などで行われる食べ物の消化活動における第一の工程! 口内で行われる消化の働きは主に二つ! 噛み締めによる食べ物の分割と、消化酵素を含む『唾液』の分泌!!」

クース「…………」モグモグ

勇者「そう、クースは幾多の咀嚼によって唾液が分泌されやすいように口内環境を整え! そして更なる咀嚼によって大量の唾液を分泌し、刺激味グミから溶け出る強酸を瞬く間に希釈・嚥下することにより、口内粘膜が強酸に侵されることなく、咀嚼することを可能としたのだ!!! 先ほどの何かが溶け出るような音は、口内が焼けている音ではなく、強酸の希釈による発熱反応の音だったのだ!!」

クース「…………」ゴクン

勇者「なんということだ……! 理屈の上では説明がつくとはいえ、それを可能とするためにどれだけの唾液が必要になるというんだ!? 一歩間違えれば命に関わる劇物刺激味グミを、何の躊躇いもなく口に放り込む胆力ッッ!! 恐ろしい……なんて恐ろしい敵なんだ、クース……ッッ!!!」ゾクッ

クース「……そう。これがボクの切り札、奥義『ナイアガラの唾液』サッ☆」キランッ

34: 2022/03/11(金) 23:33:48.466 ID:86JidUSR0
クース「これは、ボクがこの超刺激MAXグミを完食するために編み出したアゴ奥義であり、そして」

クース「キミがボクに勝利するために身に付けなくてはならないアゴ奥義でもある」

勇者「俺が……その技を……?」

クース「ああ。このゲームのルールを覚えているかい?」

勇者「……刺激味グミを、交互に食べる」

クース「そう。そしてボクは今、奥義を用いて5個の刺激味グミを一度に完食した。つまり」

クース「キミがボクに勝つためにはこの奥義を身に付けて、5個の刺激味グミを食べる必要がある」

勇者「う、嘘だろ……お前……そんなに俺を頃したいのか……?」

35: 2022/03/11(金) 23:34:35.699 ID:86JidUSR0
クース「あははっ。大袈裟だなあ。正直に言うと、ボクはキミのこと、結構買っているんだよ」

クース「キミは咀嚼勇者であるだけでなく、あのエクスハリボーをも完食し、このゲームでも、圧倒的アドバンテージをもつはずのボクに奥義を使わせるまで追い縋ってきた」

クース「だからキミは間違いなく、ボクなんかよりずっと、アゴ奥義の適性がある。必ず奥義『ナイアガラの滝』を習得し、誰よりも上手く使いこなすことが出来るだろう……このボク、《刺激のクース》が保証するヨッ☆」

勇者「……信じられないな」

クース「頼む。キミしかいないんだ。この先の《彼》を倒し、そして《彼女》を救うことが出来るのは……」

勇者「……」

36: 2022/03/11(金) 23:35:58.841 ID:86JidUSR0
クース「それとも……まさか、ここで敗北を認めてしまうというのかい?」

勇者「……」ピクッ

クース「ああ、いいんだ。誰だって命は惜しいからね。仕方ないサッ☆ ここで尻尾を巻いて逃げ出した所で、誰も責めやしない。ボクも責めない」

勇者「……そうかよ」

クース「そうだね。それで、もしかしたら君が言っていた通り、無能勇者だなんて馬鹿にされたり、恥をかかされるなんてことも、ほんのちょっとはあるかもしれない」

勇者「……うるせぇな」

クース「だけど、気にする必要はないサッ☆ 人間の興味なんてそう長くはもたないし、みんな直ぐに忘れるよ。ボクも、キミもね」

勇者「…………」

37: 2022/03/11(金) 23:36:36.952 ID:86JidUSR0
クース「だけど…………きっと。ううん、絶対に。そうはならない。そうだよね?」

勇者「……そうだな。ここまで言われて、黙ってる訳にはいかない」

クース「ふふふ。そう。そうだよね。キミという人間は……今日出会ったばかりで、まだ色々と知らないことも多いけど……それでも、ひとつだけ分かることがある」

勇者「ああ、そうだ。俺ってやつはめんどくさがりで臆病で、他人の目ばかり気にして、自分の命さえあればそれでいいっていうしょうもないやつだ。……だけど」



クース「キミはとっても────」

勇者「俺はかなり────」








勇者&クース「「負けず嫌いなんだ(よネッ☆)」」

38: 2022/03/11(金) 23:38:02.824 ID:86JidUSR0
クース「くくく……アハハハハッ☆ そう、それでこそだよ、伝説の咀嚼勇者クン!」

勇者「うっせぇ。そのあだ名で呼ぶな」

クース「さてさて……とはいえ、腐っても奥義だ。いくら素質のあるキミとはいえ、修得には相応の時間がかかるだろうからね。だから少し練習を」

勇者「いや、いい」

クース「お?」

勇者「覚悟は出来ている。こんなクソゲーさっさと終わらせるぞ」

クース「お、おおお? 良い、良いよ。良いじゃないか! さっきまでのウジウジ悩んでいたキミより、ずぅーーーっと刺激的だネッ☆」キランッ

勇者「いや自分の命が掛かってるんだから至極真っ当な悩みだったろうが!!」

39: 2022/03/11(金) 23:39:30.632 ID:86JidUSR0
クース「アハハッ☆ これは一本取られたヨッ☆」キランッ

勇者「ったく……さっさと始めるぞ」スッ

クース「オッケー☆ あ、そうそう。もしキミが5個完食したら、次のターンでボクはギブアップするよ。それでキミの勝ちだね。安心して! このままどちらかが氏ぬまで続けるとか、そんな意地悪なことは、しな…………え?」サーッ

勇者「……」アーン

クース「ちょ、ちょちょちょちょっとぉっ!!? 何やってんのさぁ!!?」ガシッ

勇者「何って、食べようとしてるんだが」

クース「食べるって、何個!!?」

勇者「え? 10個」

クース「10個ぉ!? 同時に!? バカなんじゃないのかな!? 冗談抜きで本当に氏ぬよキミ!!?」

40: 2022/03/11(金) 23:40:32.791 ID:86JidUSR0
勇者「だって、そうしないとお前に勝てないだろ。5個食ったって引き分けじゃねぇか」

クース「は?」

勇者「俺はお前に勝つんだよ。それも、圧倒的にな」

クース「なっ……キ、キミは……焚き付けたボクが、こんなことを言うのもあれだけど……キミってやつはホントに……」クラッ

勇者「ハッ! 残念だったな。お前の思い通りになんかしてやらねぇよ」

クース「いや……もう何も言うまいさ。分かった。ボクはもう止めないよ。……本当に、大丈夫なんだよね?」

勇者「くどいな。いけるっての」

41: 2022/03/11(金) 23:41:11.492 ID:86JidUSR0
クース「だが、どうするつもりだい? ボクだって、6個以上の刺激味グミを同時に食べるようとしてみたことはある。だが、無理なんだ。いかに早く咀嚼しようと、唾液を大量に分泌しようと、最初に口に入れてから奥義が発動するまで僅かな時間がかかる。そのタイムラグがある限り、同時に食べられる数は5個が限界だったんだ。6個以上はどうしても間に合わず、そしてボクはこのタイムラグを無くすことが出来なかった。キミは一体どうやって……」

勇者「簡単だ。こうふれふぁいい」ダバー

クース「え? 何を……えええええ!!?」ビクッ



勇者「あー…………」ダババー

クース「勇者クンの口から大量の唾液が流れ出ている!? こ、これはまさに、ナイアガラの……ハッ! そ、そうか! そういうことなんだね!?」

42: 2022/03/11(金) 23:42:12.533 ID:86JidUSR0
勇者「あぇー……」ダボー

クース「ボクはずっと、人間の消化活動の始まりは口であると考えていた! しかしそれは間違いだったのさ! より広義の意味では、人間の消化活動は食べ物が口に入る前から始まっているんだ! それは例えば料理! 食材を小さく切り分けたり、柔らかく煮るといった工程はまさに、口よりも前の消化活動であるといえるんだよ!」

勇者「あぅぁー……」ジャバー

クース「そう! つまり、口に入れてから奥義を発動するのが間に合わないならば、口に入れる前から発動すればいい! 実際に食べ物を咀嚼せずとも、食べ物を視界に入れるだけで唾液が分泌されるというパブロフの犬の原理を応用すれば、『ナイアガラの唾液』による消化活動の前処理を行える。これを新たなる奥義『ナイアガラの涎滝』と名付けようじゃないか!」

勇者「んぇー……」ドパパー

クース「ああ、しかしなぜ! ボクは今までこれほど単純な事実に気が付かなかったのか! もっと早く気付いていれば…………いや、違う! もし仮にボクがこれに気付いたとしても、『ナイアガラの涎滝』を使うことは不可能だった! これは正真正銘、咀嚼勇者クン専用の奥義だったんだ! なぜなら!」

43: 2022/03/11(金) 23:42:51.582 ID:86JidUSR0
勇者「るぉー……」ダプーン

クース「見たまえ、このアホ面を! 恥も外聞もかなぐり捨てた、見るに耐えない醜態を! いくらゲームに勝つためとはいえ、ここまで酷い顔をする羞恥に耐えられる人間が居るだろうか! いや、居ない! ……そう、勇者君を除いてはねッ! つまり、この新奥義『ナイアガラの涎滝』とはッ!! 勝利の為にそれ以外のあらゆる物を捨てることの出来る」

勇者「…………」ゲシッゲシッ

クース「まさに勇者クンのような変態にのみ許された禁断の……イタッ!? 痛いよ勇者クン! どうしてボクを蹴るのさっ!?」

勇者「どうしてはこっちのセリフだ! 人が喋れねぇのを良いことに好き勝手言いやがって!!」ゲシッゲシッ

クース「イタッ、痛い! やめて! ゴメンってば!」

勇者「チッ……次はないぞ」

44: 2022/03/11(金) 23:44:01.014 ID:86JidUSR0
クース「イテテ……それで、勇者クン」

勇者「あ?」

クース「『ナイアガラの涎滝』による前処理は終わったのかい?」

勇者「……ああ。後は食うだけだな」

クース「ワオ☆ それじゃ、早速食べちゃいなよ! それで正真正銘、文句なしの大勝利サッ☆」キランッ

勇者「いや、まあ。そうなんだが…………」

クース「どうしたんだい?」

勇者「いや、その……………………なんか、食欲が失せてしまったというか……」

クース「…………まあ確かに。見た目がね。キミの涎でデロデロになってるしね」

勇者「…………」

45: 2022/03/11(金) 23:44:51.104 ID:86JidUSR0
クース「とはいえ、流石にそこは自己責任というか。この状態にして『食べません』は流石にボクも、怒るよ?」

勇者「分かってるよ! 食べる……ちゃんと食べるから。待ってろ」スッ



モグモグ…モグモグ…



勇者「…………」

クース「……おいしいかい?」

勇者「……ッ!」ギロッ

クース「ご、ごめん」

46: 2022/03/11(金) 23:45:36.792 ID:86JidUSR0
モグモグ…モグモグ…………ゴクン



勇者「……ごちそうさまです」

クース「……」

勇者「クース」

クース「うん」





勇者「この奥義は────封印する」

クース「そうだね。ボクもそれが良いと思う」

47: 2022/03/11(金) 23:46:30.338 ID:86JidUSR0
勇者「…………」

クース「ま、まあ色々紆余曲折あったけど、結果としてはキミの大勝利! 新奥義は別としても、『ナイアガラの唾液』だけでも十分有用だし、これでキミも立派なアゴ奥義マスターさ! 誇りたまえヨッ☆」キランッ

勇者「1ミリも嬉しくねぇ」

クース「まあまあ、元気だしてヨッ☆ これからキミには更に後二人、幹部の相手をしてもらわなきゃいけないんだからサッ☆」キランッ

勇者「ああ……そういやそんな話だったな」

クース「おっと。まさか忘れてた、なんて言わないよね?」

勇者「そもそもまだ大した内容聞いてないしな。……確か、ゲームが終わったら詳しく説明してくれるんだったよな?」

48: 2022/03/11(金) 23:47:39.337 ID:86JidUSR0
クース「そうだね。そのつもりだったけど……ヤーメタッ☆」キランッ

勇者「は?」

クース「やっぱり、《彼》や《彼女》についてはボクの口から伝えるんじゃなくて、キミの目で直接見てほしいナッ☆ 先入観無しでね!」

勇者「はあ」

クース「さっき救ってくれとかなんとか言ったけど、結局それってボクのエゴだしね。キミがもし、《彼女》を見て、咀嚼勇者として倒すべきだと判断したなら、そうしてくれて構わないヨッ☆」キランッ

49: 2022/03/11(金) 23:48:29.146 ID:86JidUSR0
勇者「……ああ、分かったよ。前向きに検討しておく」

クース「ウン☆」キランッ

勇者「だから……期待せずに待っとけ」

クース「! ア、アハハッ☆  ……ありがとね」

勇者「おう」

クース「…………よしっ! それじゃ、最後に勇者クンに餞別をあげヨウッ☆ 役に立つかは分からないけど、持ってて損は無いはずサッ☆」パチンッ


トサッ


勇者「うおっと。餞別? ……ってこれ、さっきの刺激味グミじゃねぇか!」

50: 2022/03/11(金) 23:49:38.018 ID:86JidUSR0
クース「アハハッ☆ いやー、実を言うとね…………さっきのキミのあれを見たせいで、しばらくこのグミを食べられそうにないんだ」

勇者「お、おう。なんかすまん」

クース「キミのせいだからね? 責任とって持っていってくれよ?」ジトー

勇者「分かった分かった! ありがたく貰っておくから」

クース「それでいいヨッ☆ 一応、10分以上の間隔をあけて食べれば、普通の刺激的な味のグミとしても楽しめるからネッ☆」キランッ

勇者「ああ。覚えておくよ。じゃあな」

クース「まったネー☆」キランッ

51: 2022/03/11(金) 23:52:01.052 ID:86JidUSR0
Part2は以上です。10分休憩したら投稿を再開します。

次はPart3 ニン・ザ・メッシー です。

53: 2022/03/12(土) 00:02:14.940 ID:9EUoV+fe0
[ユーファ味覚党のアジト2階]


勇者「ここが2階……武家屋敷? 下のダンスホールと随分テイストが違うな」キョロキョロ

勇者「なんか、こういう板張りの廊下を土足で歩くの、変な罪悪感があるな……一応、ドロとかはちゃんと落としてあるけど、大丈夫かな」



ベベン



勇者「お?」ピクッ



ベン…ベン…ベンベンベンベンベン…



勇者「なんだこれ、三味線? いや、琵琶か?」

54: 2022/03/12(土) 00:02:58.588 ID:9EUoV+fe0
勇者「てか、どっから聞こえてるんだこれ。襖だらけでなんも分からん」キョロキョロ




……ベベンッ




勇者「あ、止まった。何なんだ一体」

勇者「クースが言ってた《彼》とやらの仕業……か?」






────この世に日向の場所あれば。

勇者「うおっ!?」ビクッ

55: 2022/03/12(土) 00:03:54.999 ID:9EUoV+fe0
────この世に日陰の場所もあり。

勇者「え、なに!? 誰!?」キョロキョロ



────昼はリーマン夜は父。平日、休日、装束切り替え。

勇者「《彼》か? 《彼》なのか!? いや《彼》って誰だよ!」



────立てど座れど忙しなく。たまの休暇は家族サービス。

勇者「せめて名前くらいは聞いとくんだった……。っていうか、どこに居るんだ? これ」



────今日も今日とて残業、出張。移動、休憩、ほっと一息。

勇者「……上か? 上なのか?」ジーッ

56: 2022/03/12(土) 00:04:44.045 ID:9EUoV+fe0
────そんな心の隙をつき。鳴るはスマホと腹の虫。

勇者「いや、横か!? ……分からん!」バンッ



────時間も足りぬ腹も足りぬと。焦る貴方のいつものおやつ。

勇者「じゃあ下か。……ん?」



────梅に葡萄にコーラに苺。素材のうまみをぎゅっと濃縮。

勇者「なんかここ切れ目あるな……」ジーッ

57: 2022/03/12(土) 00:05:45.678 ID:9EUoV+fe0
────ひと口サイズの兵糧となりて。そっとお側に参ります。



バカッ



勇者「あ」



シュバッ!  スタッ




??「現代忍者の小腹を満たす、刹那の至福────《ニン・ザ・メッシー》此処に見参!」シャッキーン

58: 2022/03/12(土) 00:06:56.723 ID:9EUoV+fe0
勇者「…………」

??「…………」

勇者「…………」

??「……いや、リアクションは!?」ガビーン

勇者「えっいるの!?」ビクッ

??「いるでござるよ! せっかく拙者がこう、割と凝った登場をしたのに、これでは色々と台無しではこざらぬか!?」ウワーン

勇者「えっ、いや。なんかすまん。まあ、最初の方はどっから来るか分からなくてドキドキしたし、武家屋敷の雰囲気も結構……」

??「あ、もう大丈夫でござる。過ぎた話でござるので」ケロッ

勇者「いや切り替え速いな!?」

??「それが拙者の美徳でござるからな!」

59: 2022/03/12(土) 00:07:43.815 ID:9EUoV+fe0
勇者「はあ……。で、ニンザメッシーだっけ?」

??「そう! 拙者こそユーファ味覚党が次席、人呼んで《ニン・ザ・メッシー》!」

ニンザ「ニンザ、でも忍者、でもお好きに呼んで欲しいでござる」

勇者「じゃあメッシで」

ニンザ「それはちょっと語弊があるのでやめて欲しいでござる!」

勇者「チッ……で、ニンザ」

ニンザ「舌打ち!?」

60: 2022/03/12(土) 00:08:46.917 ID:9EUoV+fe0
勇者「お前が、クースが言っていた《彼》ってやつで間違いな?」

ニンザ「……ほほう? ただあやつを打ち破るのみならず、そのようなことまで……なるほどなるほど」

勇者「……」

ニンザ「もしやお主、近頃巷で話題の咀嚼勇者ではござらぬかな?」

勇者「ああ、そうだ。……いや、俺のあだ名ってそんなに話題になってんの!? 最悪なんだが!?」

ニンザ「そして、お主はあやつのアゴ奥義を身に付け、何事かを託された……そうでござるな?」

勇者「……ああ。まあ、な」

61: 2022/03/12(土) 00:09:48.297 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「はっはっは! 結構結構! いやまっこと、あっぱれでござるなぁ! あの面妖なアゴ奥義を身に付けるとは、さぞかし苦労されたでござろう! いやはや、まさに────僥倖でござる」ニヤッ

勇者「!」ピクッ

ニンザ「であれば是非も無し! お主には拙者のアゴ奥義も伝授した上で、是非とも拙者を打ち破って頂きたくござ候!」

勇者「お前もなんか変な技使うのか」

ニンザ「変とは失敬でござるな! ……ま、直ぐに分かるでござるよ。拙者のアゴ奥義はあやつのものほど珍妙ではござらぬが、しかし更に高難度かつ奥の深い奥義! 斯様に油断していては、奥義習得はおろか、拙者を打ち破ることすら叶わんでござるよ?」

62: 2022/03/12(土) 00:10:32.948 ID:9EUoV+fe0
勇者「分かってるよ。全力で挑ませてもらう」

ニンザ「結構! 話が早いのは良い事でござるな!」

勇者「ああ、クースの奴にも言われたな」

ニンザ「ハッハッハ! いやあ、お主とは気が合いそうでござるな! このような出会いでなければ……いや、それは言わない御約束でござるな」

勇者「……」

ニンザ「では早速、これから行うアゴ遊戯を説明するでござる。準備は良いでござるな?」

勇者「ああ。いつでも来い!」

63: 2022/03/12(土) 00:11:46.375 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「承知したでござる! これより始めまするは、我が流派に代々伝わる由緒正しきアゴ遊戯……その名も『刹那の咀嚼 三本勝負』でござる!」シャキーン

勇者「刹那の咀嚼」

ニンザ「このアゴ遊戯では、拙者が用意する特製のグミを如何に素早く咀嚼し、完食出来るかを競うでござる! 勝負は三回! その全てで拙者よりも早く完食出来たならば、晴れてこの勝負の勝者となり────我がアゴ奥義の免許皆伝と相成るでござる!」

勇者「今度は早食いか……味は?」

ニンザ「あ、拙者のグミはあやつのグミのような劇物ではないゆえ、安心なされよ」

勇者「そ、そうか。よかった」ホッ

ニンザ「拙者のグミは非常に美味かつ、良き歯ごたえのグミでござる。楽しみにするでござるよ」

勇者「歯ごたえか。大事なんだな」

ニンザ「大事でござるな」ウンウン

64: 2022/03/12(土) 00:12:30.698 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「ではよきところで────『刹那の咀嚼 三本勝負』! 一本目ぇ! いざ……参るッ!!」



ニンザ「ニン! ニンニンニンニンニニンッ!!」シュバババッ



ドロンッ



勇者「おお! 印を結んで、グミの入った升を……どっから出したんだ?」

ニンズ「それは秘密でござる! では、始めぇッ!」

65: 2022/03/12(土) 00:13:21.626 ID:9EUoV+fe0
勇者「よし。まあつってもただの早食いだし、とにかく
素早く咀嚼すれば勝てるだろ」パクッ


勇者「(ふむ……小粒のグミにぎゅっと濃縮された甘みと旨味。程よくハードな歯応えもあって……うん普通に美味いな。やっぱクースのグミが異常だったんだな。ちょっと安心した)」モグモグ


勇者「(さて、ニンザの様子は────何ィッ!?)」ビクッ





ニンザニンザニンザ「「「…………」」」モグモグ

勇者「(ふ、増えているッ!! ニンザが三人に増えているだとぉッッ!!?)」

66: 2022/03/12(土) 00:14:24.059 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「驚いているようでござるな?」ニヤッ

勇者「(なっ! さらにもう一人……いや、この気迫! こいつが『本体』か!!)」ゴクン

ニンザ「そう! これぞ、ニンザ流アゴ奥義────『アゴ分身』でござる!」シャキーン

勇者「(ア、『アゴ分身』だとぉッッ!? いやアゴ以外も分身しているが!!? なんなんだこの技はッ!?)」パクッ

ニンザ「いかに速く咀嚼しようとも、身体はひとつ、アゴもひとつ。ならば更に速く咀嚼するにはどうすればいいか……その答えが、この『アゴ分身』でござるッ!」

勇者「(た……確かにッッッ!!! 人間のアゴはひとつしかない!! それをどれだけ速く動かしたところで、複数のアゴによる消費量には到底敵わないッッ!! 当然の理屈だッッ!!)」モグモグ

67: 2022/03/12(土) 00:15:13.906 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「三人の拙者による高速のグミ摂食。そして、拙者はまだ二度の分身を残している……その意味が分かるでござるな?」ニヤッ

勇者「(何ッ!? まさか……まだ、増えるというのかッッ!!? 今ですら三人のニンザ、略してサンニンザの咀嚼スピードに追いつくのに精一杯だというのに、その上さらにアゴが増えるとなれば、俺は……こいつに、勝てないッッッ!!?)」ゴクン

ニンザ「ようやく理解できたでござるな。そう、この『アゴ分身』に対抗するためには、お主もまた『アゴ分身』を習得し、己のアゴを増やすしかないのでござる!」

勇者「(くッ!! こいつの言う通りだ! この勝負に勝つためには、グミを同時並行的に咀嚼する複数のアゴが必須!! 戦いの中で『アゴ分身』を習得しなければならないッッ!! ……だが、可能なのか? こいつの『アゴ分身』はあまりにも非現実的過ぎる! 残像ですらない、真に実体をもつ自分の分身を生み出すなどという芸当は、もはや空想科学ですら説明の付かない超常の現象ッッ!!! それこそ時空を捻じ曲げでもしない限り、実現不可能ッッ!!!)」パクッ

68: 2022/03/12(土) 00:16:50.946 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「さあ、どうするでござるか? この程度の勝負に勝てないようでは、この先に進む事など夢のまた夢でござるよ?」

勇者「(どうすればいい!? いくら咀嚼勇者のアゴが強力だとはいえ、時空を捻じ曲げるなど絶対に不可能だ!! そんなこと…………絶対? はっ!! そうか! そういうことだったのかッ!! 俺が今考えるべきなのは、実現不可能だとか、非現実的だとか、そんなチャチな戯言ではない!! 俺はそもそも、前提条件から間違えていたんだッッ!!)」モグモグ

ニンザ「まあ、仕方ないでござるな。この『アゴ分身』はまさに秘伝中の秘伝。一度見た程度では、習得はおろかその原理を理解することすら困難でござる」

勇者「(アゴ奥義が非現実的すぎる……そんなものは今更だッ!! だってそうだろう!? さっきのクースの奥義だって、なんか色々とめちゃくちゃだったし、勢いと流れで誤魔化されたが十分非現実的だった!! だがしかし!! 俺はそれを習得出来たし、なんなら新奥義を編み出すことすら出来た!! で、あるならばッッ!! 間違っているのは己の常識!! 『アゴは増えない』、そんな間違った常識を、俺は真っ先に、咀嚼しなければならなかったんだッッ!!!)」ゴクン

69: 2022/03/12(土) 00:17:49.224 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「だから落ち込む必要は無いでござる。たとえここで敗北を喫したとしても、それはお主が弱かったという訳ではござらん。お主はニンザ流の深奥に到達出来なかった……ただ、それだけのことでござる」

勇者「(そう、もっと速く。一人分で足りなければ二人分、更に三人分…………相手のアゴ数を上回る速度で咀嚼すればいい!! そんなあまりにも単純な理屈!! それだけをただひたすら信じて、噛んで、噛むんだ!!)」パクッ

ニンザ「なっ……まだ諦めないでござるか。お主が『アゴ分身』を習得出来ないことは十分に理解できたはず。ならば何故! まだ戦い続けるのでござるか!? ……ハッ!!! こ、これはッッ!!?」

勇者「(速く! もっと速く! 噛め! 噛むんだッッ!! 音も、光も置き去りにする、超高速の咀嚼ッッ!! それこそが、奥義『アゴ分身』……いや、新奥義『アゴ武神』だッッッ!!!!)」モモモモモモモモモモモッ

ニンザ「は、速いッ!! しかもこれは、『アゴ分身』ではないでござるッッ!!! こんな奥義、見たことないでござる!! 一体、何が起こってるでござるかッッッ!!?!?」

70: 2022/03/12(土) 00:18:45.228 ID:9EUoV+fe0
勇者「…………ッッ!!!」モモモモモモモモモモモモモ



勇者「…………」ゴクン

ニンザ「あ、ああ……!! あれだけあった拙者のグミが、一瞬にして……」ガタガタ

勇者「……ふう。ごちそーさん」

ニンザ「あ、あり得ないでござるッッ!! お主、一体何をしたでござるか!? というか『アゴ分身』を習得するという話はどこへ行ったでござるか!!? また無視でござるかッッ!!?」

勇者「はははっ! あり得ない……ねぇ。まさかお前の口からその言葉を聞くとはな」

ニンザ「…………何がおかしいでござる」

71: 2022/03/12(土) 00:19:32.608 ID:9EUoV+fe0
勇者「だって、お前が俺に教えてくれたんだぜ? このゲームの攻略法を、『アゴ分身』をも上回る咀嚼をする方法をな」

ニンザ「ええい! 焦らすなでござる!! お主は一体、如何様にして!! あれほどの速度で拙者のグミを食したでござるかッッ!!?」

勇者「なに、簡単な話だ。俺は今────」








勇者「常識を咀嚼し」

ニンザ「?」


勇者「音を咀嚼し」

ニンザ「??」


勇者「そして────音を咀嚼した音すらも咀嚼した」

ニンザ「???」


勇者「それだけだ。意外と簡単だろう?」

ニンザ「???????????」

72: 2022/03/12(土) 00:20:26.693 ID:9EUoV+fe0
勇者「ま、お前ならわざわざ言わなくても、すぐに理解出来ただろうけどな」

ニンザ「いや無理でござるよ???? 今の説明で理解できるのはお主が狂人だということだけでござる」

勇者「そうか? ま、とにかくこれで一勝だな」

ニンザ「…….はっ! そ、そうでござるな。初戦は訳も分からず負けてしまったでござるが、次はそう簡単にはいかないでござるよ!」シュババババッ



ドロンッ



ニンザ「お主の奥義、この勝負で見極めるでござる────『刹那の咀嚼 三本勝負』! 二本目ぇ! いざ……参るッ!!」

73: 2022/03/12(土) 00:21:41.085 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「まずは『アゴ分身』ッ!! アゴ追加でござる!」シャッキーン



ジュウニンザ「「「「「「ニンニンニンッ!!」」」」」」ダダダダダダッ



勇者「何ィッ!? ニンザが……さらに十人追加だとぉ!? てかどっから走ってきた!?」

ニンザ「ふっふっふ。流石のお主もこれには勝てぬでござろう! さあ、今度こそ観念するでござる! ……では、始めぇッ!!」

74: 2022/03/12(土) 00:22:27.568 ID:9EUoV+fe0
勇者「……ふっ。いいね、そうこなくっちゃな。それでこそ、戦い甲斐があるってもんだッ!!」スッ

ニンザ「(来る……! 今度は決して目を逸らさず……そのふざけた奥義の種、見破ってみせるでござるよ!!)」カッッッ!!

勇者「いくぜ────奥義『アゴ武神』ッッッ!!!」パクッ

ニンザ「!」




勇者「…………」モモモモモモモモモモモモモ

ニンザ「は…………速いッッ!! まさか本当に、アゴの速さだけで押し切るつもりでござるか!!?」

76: 2022/03/12(土) 00:23:59.443 ID:9EUoV+fe0
勇者「…………」モモモモ─モモモモモモモ…

ニンザ「くっ、確かに強力な奥義でござる……だが、まだこの速さであれば『アゴ分身』の方が速いでござる!」チラッ

ジュウサンニンザ「「「「「「…………」」」」」」モグモグモグモグ

ニンザ「よしっ! やはりこちらが優勢でござる! このまま一気に勝負を付け…………え?」ピクッ

勇者「…………」モモ──モモモモ─モモモ…

ニンザ「な、なんでござるか、この違和感は。何かが、何かがおかしいでござる。一体…………はっ」

77: 2022/03/12(土) 00:24:45.869 ID:9EUoV+fe0
勇者「…………」モ───モモ───…

ニンザ「こ、これは……音が……!」ワナワナ






勇者「…………」────…

ニンザ「咀嚼音が────消えたでござる!?」



勇者「…………」────…

ニンザ「そんな……まさか、本当に音まで咀嚼したでござるか? ありえない……ありえないでござるッッ!!」

78: 2022/03/12(土) 00:25:44.372 ID:9EUoV+fe0
勇者「…………」────…

ニンザ「たとえ音を超える速さで咀嚼したとしても、咀嚼音そのものが消える事はありえないでござる!! そもそも、ただ速く咀嚼するだけであれば音を消す必要はないはずでござろう!? 一体お主は何を…………音? ハッ! もしや!!?」

勇者「…………」────…

ニンザ「ソニックブームでござるか!!? アゴの動きを極限まで加速させた場合、音速を超えた咀嚼によって強烈な衝撃波が発生ッッ!! それによってアゴが崩壊ッッ!! さらには全身が破壊され、咀嚼不能状態に陥るでござる!! その物理的速度限界を超えるためにお主はッ!! 音を、消しているということでござるかッッ!!!?」

勇者「…………」────…

ニンザ「しかし、どうやってそのような事を……まさか本当に、音を咀嚼したとでも言うでござるか!?」

79: 2022/03/12(土) 00:26:48.004 ID:9EUoV+fe0
勇者「…………」────…

ニンザ「…………いや、待つでござる。こやつは先ほど、なんと申していた? 確か、『音を咀嚼した音すらも咀嚼した』……そう言っていたでござる。この言葉が意味するものは────ハッ!? まさか!! そ、そういうことでござるかぁッッ!!?」

勇者「…………」────…

ニンザ「ノイズキャンセリングッッ!!! 先に発生したソニックブームに、後から逆位相のソニックブームを衝突させ!! 打ち消しているのでござるなッッ!? いやしかし、その打ち消す咀嚼によってもまたソニックブームが発生する…………つまり!!」

勇者「…………」────…

ニンザ「ソニックブームを打ち消す咀嚼のソニックブームを次の咀嚼で打ち消すッッ!! 斯様なノイズキャンセリングの連鎖反応でもって、この綱渡りのような奥義を成立させているという事でござる!! それはまさしく、ソニックブームの自転車操業ッッ!!! 一度でも失敗すればその余波で本人はおろか周囲にいる拙者たちまで氏にかねないという、途方もなく凶悪で傍迷惑なアゴ奥義ッッッ!!!! いや本当に、何をしているでござるか!!?!?」

80: 2022/03/12(土) 00:28:20.526 ID:9EUoV+fe0
勇者「…………」────…

ニンザ「ぐっ……!! しかし、この奥義。成立させるためにはあまりにも精密なアゴ操作が必要でござる。単なる力業ではない、緻密に制御された咀嚼技術。それを難なくこなしてみせるとは…………認めざるを得ないでござるな。伝説の咀嚼勇者の力は、本物でござると」

勇者「…………」ゴクン


勇者「ごちそーさん。俺の勝ちだな」

ニンザ「っ…………そう、でござるな。完敗でござる」

勇者「それじゃ、さっさと三回戦もやっちゃおうぜ。今の俺なら、秒間一万個のグミを食える自信がある」

ニンザ「ははは…………それはまた。お主なら、本当にやれてしまいそうなのが怖いでござるなあ」

81: 2022/03/12(土) 00:29:14.919 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「しかし、その必要はないでござる」

ニンザ「どれだけアゴを増やそうとも」

ニンザ「アゴひとつ分の速さを超えて咀嚼することは不可能」

ニンザ「お主の早さには到底およばぬ」

ニンザ「故に最後の勝負においても、こちらに勝ちの目はあらず」

ニンザ「この後に及んで戦い続け、生き恥を晒す意味もなし」

ニンザ「よって此度の三本勝負、拙者の────いや」




ジュウヨニンザ「「「「「「拙者たちの、負けでござる」」」」」

勇者「うおっ!? 急にハモんな! ビビるだろうが!」ビクッ

82: 2022/03/12(土) 00:30:00.862 ID:9EUoV+fe0
勇者「え? ってか……拙者『たち』?」

ニンザ「そうでござる。実は拙者たち、分身ではなく」

ニンザ「顔が似てるだけの別人でござる」

ニンザ「正確には、百つ子でござるな」

ニンザ「あと八十人くらい、裏でスタンバイしてるでござるよ」

勇者「え? え?」

ニンザ「つまり────アゴ奥義『アゴ分身』なんてもの、最初から無かったんでござる! いやあ、騙してすまんでござる!」

勇者「は……はああああああああ!!!?!? なんだよそれ!!! 勝たせる気ゼロじゃねぇか!!」

83: 2022/03/12(土) 00:30:59.674 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「しかしお主は勝ったでござる」

ニンザ「誠にあっぱれでござるな!」

勇者「いや、そうじゃねぇだろ! ちゃんと説明しろ!」

ニンザ「説明もなにも、お察しの通りでござるよ」

ニンザ「拙者たちはお主を勝たせるつもりなど、微塵もなかったでござる」

ニンザ「拙者たちはクースほど甘くはない故、生半可な覚悟でこの先に進もうとする者を完膚なきまでに叩きのめし」

ニンザ「二度と此処に来れぬように、心をへし折るつもりだったのでござる。はっはっは!」

勇者「いや怖っ!!」

84: 2022/03/12(土) 00:31:46.057 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「いやいや、お互い様でござるよ」

ニンザ「拙者たちも、お主のアゴ奥義が失敗したらと思うと、恐怖で冷や汗が止まらなかったでござる」

ニンザ「むしろイカれ具合でいえばお主の方が上でござろう」

ニンザ「然り! あんな危険な奥義、使う者の気が知れんでござるな!」

ジュウヨニンザ「「「「「「はっはっはっはっは!!」」」」」」

勇者「うっせぇハモんな!! 結果的に上手く行ったんだから別に良いだろうが!!」

85: 2022/03/12(土) 00:32:53.225 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「それもそうでござるな!」

ニンザ「終わりよければすべてよし! 至言でござる!」

ニンザ「ささっ、過ぎた事は水に流して、どうぞ先へ進むでござる!」スッ

勇者「相変わらず切り替え早いな……いいのか?」

ニンザ「何がでござる?」

勇者「お前ら、俺を追い返したかったんじゃないのか?」

86: 2022/03/12(土) 00:33:56.480 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「はっはっは! それこそ過去の話でござるよ!」

ニンザ「お主は拙者たちに力を示したでござる」

ニンザ「小細工でしか戦えぬ拙者達とは違う、真の咀嚼力を見せてくれたでござる」

ニンザ「なればこそ、むしろこちらから御頼み申す」

ニンザ「この先へと進み、《彼女》に会って欲しいでござる」

勇者「……ああ。最初からそのつもりだ」

87: 2022/03/12(土) 00:35:09.130 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「かたじけないでござる」

ニンザ「ただし、決して油断なさらぬよう」

ニンザ「たとえ拙者たちが百人束になろうとも、《彼女》の足元にも及ばぬのもまた事実」

ニンザ「拙者達を倒せぬならば、これより先に進む事は不可能……それだけは、嘘ではないでござるからな」

勇者「……分かった。忠告ありがとよ」

ニンザ「礼には及ばんでござる! では、また会える日まで────」




ジュウヨニンザ「「「「「「さらばでござる! ドロン!」」」」」」



ダダダダダダッ…



勇者「……そこは普通に走ってくんだな」

88: 2022/03/12(土) 00:36:18.236 ID:9EUoV+fe0
Part3 は以上です。10分休憩したら、投稿〜再開します。

次は Part4 ぷち代 です。

89: 2022/03/12(土) 00:45:33.541 ID:9EUoV+fe0
[ユーファ味覚党のアジト最上階]


勇者「ついに、ここまで来たな」


勇者「……巨大な扉。この先に、《彼女》が居るのか」


勇者「…………」ゴクリ


勇者「……よし、行くぞ!」



ギギィィ……



バタンッ






??「────あらぁ? まさか、本当に来ちゃったの?」


勇者「ッ!!」ゾクッ

90: 2022/03/12(土) 00:46:14.509 ID:9EUoV+fe0
??「クースもニンザも一体何をしてるのかしら。ほんっと、使えないゴミ共……いやグミ共ね」


勇者「お前が、あいつらの言っていた……」


??「ん? あー、そうね。自己紹介くらいはしてあげようかしら。どうせ無意味だろうけど」


勇者「…………」




??「アタシはユーファ味覚党の党首にして、あまねくアゴの頂点に立つ女────《ぷち代》」


ぷち代「悪いけど、さっさと帰ってもらうわ。有象無象のアゴ弱者を相手にするほど、アタシは暇じゃないもの」

92: 2022/03/12(土) 00:47:21.261 ID:9EUoV+fe0
勇者「……そうか。俺は…………《咀嚼勇者》。お前らの野望を阻止し、この国を救う勇者だ」

ぷち代「咀嚼勇者ぁ? それって名前なの?」

勇者「いや、あだ名だ。断じて名前じゃない」

ぷち代「ふぅん……なんかダッサいあだ名ねぇ」

勇者「俺もそう思う」

ぷち代「ま、なんでもいいわ。興味ないし、どうせすぐに忘れちゃうから」

勇者「…………」

93: 2022/03/12(土) 00:48:18.234 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「じゃ、時間も惜しいしさっさと────終わらせましょう」パンッ!



ゴゴゴ……ッ!!



勇者「うおっ!? いきなりかよ!」ビクッ

ぷち代「ひとつ、教えてあげるわ。あなたが倒したあのグミ共は所詮ただの雑魚。かつてアタシに挑み、敗れ、その軍門に降った負けアゴでしかない」

ぷち代「つまり、あなたはまだ本当のアゴを知らない。紛い物のアゴを超えた程度で、良い気にならないで欲しいわ。この勘違いアゴ」

勇者「マズいな……何を言ってんだかさっぱり分からん」

94: 2022/03/12(土) 00:49:22.385 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「そう。なら、もっと分かりやすく言ってあげるわ」

ぷち代「あなたはこれから、決して消える事のない敗北の烙印をそのアゴに刻まれるの。この────」




……ズズン




ぷち代「『決闘 無限咀嚼地獄』によってね!!」

勇者「無限咀嚼地獄」

95: 2022/03/12(土) 00:50:27.086 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「これは真の咀嚼力を持つ者のみが許される、究極の決闘。食べ物を食べ、消化し、血肉に変えるという、咀嚼の本質に特化した戦いよ」

ぷち代「勝利条件は、相手よりも多く食べること。……どう? これ以上なくシンプルで、分かりやすいでしょう?」

勇者「ああ。確かに……単純過ぎて、恐ろしいくらいだ」

ぷち代「……」

勇者「確認するが……制限時間は無いんだな?」

ぷち代「ええ、そうね。制限時間は無し。あらゆる規則の存在しない、ルール無用の戦いよ」

96: 2022/03/12(土) 00:51:21.825 ID:9EUoV+fe0
勇者「…………」

ぷち代「ふふっ。どうやら、あなたみたいな貧弱なアゴでも理解出来たみたいね? この決闘が……いかに恐ろしい戦いなのかを」

勇者「……ああ」

ぷち代「さ、もう十分時間はあげたし、始めましょうか。この────最高で最悪な、狂乱の宴をね!!」バサッ

勇者「!!」


勇者「いきなり服を脱いだ……何故? いや、これはッ!!」





ぷち代「ふふっ。これがアタシの決闘衣装よ。驚いたかしら?」

勇者「陸上競技のユニフォーム!! しかもセパレートタイプだとぉッ!?」

97: 2022/03/12(土) 00:52:38.235 ID:9EUoV+fe0
勇者「バカなッ!! 今は冬だぞ!? このクッソ寒い時期にそんな格好をして、腹でも壊したらどうするつもりだ!?」

ぷち代「うっさいわね……アタシはそんなにヤワじゃないわよ。この衣装の意味はすぐに分かるわ」

勇者「くッ……仕方ない、今は悩むよりもまず、ひとつでも多くのグミを、この富士山ばりにてんこ盛りのグミをとにかく食べるんだ!」パクッ


勇者「…………」モグモグ


勇者「(なるほど……今までのグミの中ではもっとも柔らかい。噛めば噛むほどやわらかくなり、ミルキーかつフレッシュな甘さが少しずつ、口内に溶けて広がっていく。さらにこの小さくぷちっとしたグミが良いアクセントとなっていて、非常においしい…………いや、っていうか)」ゴクン

98: 2022/03/12(土) 00:53:41.048 ID:9EUoV+fe0
勇者「これソフトキャンディじゃねぇか!!! グミじゃねぇのかよ!?」

ぷち代「あら? アタシは別に、グミだなんてひと言も言ってないけど?」

勇者「いや、そうだけども!」

ぷち代「それに、グミならちゃんと入ってるじゃない。ぷちぷちグミ入りソフトキャンディ……とっても美味しくて、素敵だとは思わない?」

勇者「それは、まあ……確かに、美味いのは認めるけど」

ぷち代「ふふっ。なら問題ないわね」

99: 2022/03/12(土) 00:55:00.216 ID:9EUoV+fe0
勇者「つーか、お前は食べなくていいのかよ。一応決闘なんだろ?」

ぷち代「一応じゃないけど。これは早食い競争じゃないのよ? 急いで食べるなんてナンセンス。それに、多少の遅れなんて何の意味もないし」

勇者「……」

ぷち代「ま、でもそうね。そろそろ、アタシの本気を見せてあげる」

ぷち代「ユーファ味覚党の党首にして、この世で最も強く美しいアゴ。その真の力を存分に味わって────絶望しなさい」スッ

勇者「ッ!」ゾクッ

100: 2022/03/12(土) 00:55:57.861 ID:9EUoV+fe0
ガササッ



ぷち代「あむっ」パクッ

勇者「なっ……」

ぷち代「はむはむはむっ」パクパクパク

勇者「お、お前……!」ガタガタ





ぷち代「ふももももももももっ……」パクパクパクパクパクパク

勇者「いっぺんにどんだけのソフトキャンディを食べるつもりなんだッ!?」

101: 2022/03/12(土) 00:57:03.372 ID:9EUoV+fe0
 
ぷち代「ふぉーお! ひっふひひふぁへふぉ!」ドヤァ

勇者「くっ、リスかハムスターみてぇな顔しやがって。何言ってんだか全然分からんぞ!!」

ぷち代「んふふ」

勇者「だが、あれだけ大見得を切った割に、やることが一気食い……? 確かにこれだけの量を食べられるのは驚異だが、この程度なら今までの二人の方がよっぽど……」

ぷち代「ふぁいいっへんふぉお。あふぁひおおーひはふぉれふぁあお」ムッ

勇者「!」

103: 2022/03/12(土) 00:58:14.688 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「いへふぁふぁい……っ!」ゴゴゴ

勇者「な、何をするつも────」

ぷち代「アフォふぉーひッッ!!」






ぷち代「《えんふぁおへっほー》ッッ!!!」カッ

勇者「なんて???」

104: 2022/03/12(土) 00:59:38.053 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「れろろろろろろ……」モグモグ

勇者「噛んで……いや、舐めている……? それも、もの凄い速さで……! これは……ハッ!!」


シューーッ…


ぷち代「るろろろろろろ……」モグモグ

勇者「全身から湯気が出て……膨らんだ頬がみるみる内に小さくなっていくッッ!!? な、なんだこの現象は!! 噛むことと舐めること、その組み合わせに一体どんな意味があるというんだ!! ……いや!? そ、そうかッッ!!」

ぷち代「らるるるるるる……」モグモグ

勇者「これはただのグミでもソフトキャンディでもない!! ぷちぷちグミ入りソフトキャンディ!! これを食べるためには、グミを噛む行為とキャンディを舐める行為、それらの高度な組み合わせが必要!! たとえどれだけ早く噛んだとしても、舌で舐め溶かすまでは決して飲み込むことが出来ない!! 故に、その卓越した舌技によってソフトキャンディを素早く溶かし、極めて高速な消化吸収を実現しているのかッッ!!!」

105: 2022/03/12(土) 01:01:07.342 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「るれれれれれれ……」モグモグ

勇者「それだけではない!! 噛む行為によってアゴから脳へと刺激を伝達ッ!! 脳内細胞を活性化し、各消化器官の活動レベルを引き上げるとともに、大量のインスリンを分泌ッ!! 胃腸での吸収によって血中に取り込まれた糖分を、インスリンの働きによってあらゆる筋肉、細胞に投下ッ!!! さらに咀嚼によって高められた代謝によって、摂取したエネルギーを即座に熱量に変換ッッ!!! 体外へと放出しているのだッッ!!!」

ぷち代「れるるるるるる……」モグモグ

勇者「彼女の全身から立ち上る大量の湯気がその証ッ!! 肌面積の多い陸上競技のセパレートユニフォームは、体表からの放熱の効率を高め、オーバーヒートを抑制するための極めて理に適った装備だったのだッッ!! この咀嚼はもはや、ただのアゴによる咀嚼ではない!! 全身のありとあらゆる細胞をもって行う、真の咀嚼────彼女自身がひとつの大きなアゴとなって、このソフトキャンディの山脈を丸ごと咀嚼しているのだッッ!!!!」

106: 2022/03/12(土) 01:02:15.083 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「…………」ゴクン

勇者「な、なんということだ……ッ!! これはまさに、あらゆるソフトキャンディを融かし呑み込む、アゴの灼熱地獄ッッッ!!! これほどの奥義を完成させるために、一体、どれほどの修練を重ねてきたというんだ……ッッ!!?」ゾクッ

ぷち代「……そう。これこそがアタシのアゴ奥義《閻魔の舌法》。あまねくアゴの頂点に立つ究極のアゴ。それを体現する至高の絶技」シューーッ…

107: 2022/03/12(土) 01:03:14.679 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「アタシの舌技を目にしたアゴは、そのアゴ力差を嫌でも理解し、アゴを屈する事になる。故に『舌法』。これは、あなたのような思い上がったアゴにアゴの程を叩き込み、二度と起き上がれなくするための残酷な処刑アゴよ」

勇者「あ……あああ……ッ!!」ガタガタ

ぷち代「理解出来たかしら? あなたは私に勝つことがら出来ない……どころか、その足元にすら遠く及ばないの」

勇者「…………ああ、そうだ。お前はあれほど大量のソフトキャンディを食べた……にも関わらず、その身体は食べる前と何も変わっていない。それはつまり……ッ!!」

ぷち代「そう。アタシの咀嚼可能量は────無限大」

108: 2022/03/12(土) 01:04:56.256 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「アタシの奥義は咀嚼したグミやソフトキャンディを100%の効率で即座に熱量に変換し、体外へと放出する。あなたがどれだけソフトキャンディを食べようと、その咀嚼量に限界がある以上、アタシに追いつくことは不可能よ」

勇者「ざっけんな!! そんなの……端から勝負になってねぇじゃねぇか……ッ!!」

ぷち代「ふふっ。そうよ、これは勝負じゃない。あなたにアゴの格の違いを教えるための処刑アゴ。あなたが負けを認めない限り永遠に続く『無限地獄』よ」

勇者「無限……地獄……くそっ!」

ぷち代「さあ、どうするの? これでもまだ続ける? アタシはそれでも構わないけど。あなたのアゴが壊れるそのときまで、アタシは咀嚼し続けるわ。ずっと、ずーっと……ね」

109: 2022/03/12(土) 01:05:58.842 ID:9EUoV+fe0
勇者「…………」

ぷち代「言っておくけど、アタシのアゴ奥義を真似しようだなんて考えない方が良いわよ? 舌技はともかく、インスリンの分泌量なんて一朝一夕で増やせるものじゃない。アタシはこの奥義を極めるために何億、何兆という咀嚼を積み重ねてきた……あなたのようなポッと出のアゴとはアゴのステージが違うのよ」

勇者「……ひとつ、聞いてもいいか」

ぷち代「何? 命乞いでも──」



勇者「お前は何故、グミやソフトキャンディを食べる?」

ぷち代「え?」

110: 2022/03/12(土) 01:06:54.015 ID:9EUoV+fe0
勇者「何のためにそれらを咀嚼し、味わい、自らの糧とするんだ?」

ぷち代「いきなり何言って」

勇者「答えろ」

ぷち代「それは…………そんなの、決まってるじゃない」



ぷち代「────復讐のためよ」

111: 2022/03/12(土) 01:07:57.414 ID:9EUoV+fe0
勇者「……復讐、か」

ぷち代「ええ、そうよ」

勇者「……」

ぷち代「あなたは知らないでしょうね。この国がかつて、アタシたちに何をしたのか。この国の王族や貴族が、どれだけ腐ったアゴ弱者なのかを」

勇者「……」

ぷち代「アタシたちだって、最初から《悪の軍団》だったわけじゃない。むしろ、この国の人々のアゴを救うため、食べるだけでアゴを強くする食品を開発しようと、日夜研究開発に取り組んでいた……そんな時期もあったわ」

112: 2022/03/12(土) 01:09:38.956 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「だけど、裏切られた」

勇者「……」

ぷち代「柔らかい肉やケーキといった、アゴ弱な食べ物。それらが生み出す利益に目が眩んでいた王族や貴族は、アタシ達の開発した商品に見向きもしなかった。それどころか、あろうことかアタシたちに圧力を掛けて潰そうとしてきたの……市場から、アタシたちの商品を締め出すためにね」

ぷち代「年々減って行く売上、R&D予算の縮小、相次ぐ社員のリストラ…………正直、倒産しなかったのが奇跡なくらいだわ」

ぷち代「なのに、国民のアゴ弱化が深刻化してきた途端、あっさり手のひらを返して『我々に協力
しろ』だなんて、アゴで使おうとしてきた」



ぷち代「…………ふざけんじゃないわよ。アタシたちは、あんたたちの都合の良いアゴなんかじゃないッッ!!」バンッ!

勇者「……」

113: 2022/03/12(土) 01:11:04.546 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「…………だからアタシは、アタシたちユーファ味覚党は、この国を滅ぼすことにした。アゴ弱者に汚染され、腐り切ったこの国を一度まっさらに破壊して、真にアゴを大切にする、アゴのユートビアを作ると決めたの」

勇者「……」

ぷち代「そのための復讐よ。商品開発の過程で鍛えられたアタシのアゴを、さらに磨き上げて習得したアゴ奥義。これに勝てるアゴは存在しない。この、アゴ弱国家にはね……だから、目障りな個人や組織は片っ端から潰して、アゴ弱者達の再起をことごとく妨げてきた」

勇者「……」

ぷち代「それはあなたも例外じゃないわ。咀嚼勇者だがなんだか知らないけど、アタシの無限大の咀嚼量の前じゃそんなの誤差アゴでしかない。どんな努力も抵抗も、結局は無意味で、無価値…………きっと、そうなってしまう」

勇者「……」

114: 2022/03/12(土) 01:12:32.420 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「……その上で、もう一度聞くわ。あなた、まだ私に勝てると思ってる? これほどの絶望的な状況に陥ってもなお、咀嚼し続けるつもりなの?」

勇者「……ああ。悪いが、俺は超が付くほどの負けず嫌いみたいでな」

ぷち代「…………そう」

勇者「この勝負──何としてでも勝たせてもらう」

ぷち代「哀れね……己の無力さを悟りながらも、決して諦めることが許されない、勇者としての宿命。この国のアゴ弱者共は、あなたでさえも使い捨てアゴにする気なのよ」

勇者「……確かに、始まりはそうだった。咀嚼勇者の汚名を託され、ここへやって来たのは国の命令だ。ぶっちゃけやりたくなかったし、さっさと帰りたいとすら思っていた。……だけど」

115: 2022/03/12(土) 01:13:19.090 ID:9EUoV+fe0
勇者「俺はここでいくつもの試練を咀嚼し、乗り越え、ここまでやってきた。その過程で手に入れた大切なもの、想い……それらを背負って今、俺はここに立っている」

勇者「だから、俺は絶対にお前を倒し、この戦いを終わらせてみせる。……この決意は、紛れもない俺自身の意志だ」

ぷち代「…………ふん」

勇者「そして、宣言しよう。ぷち代」

ぷち代「なに?」

勇者「お前は、この戦いにおけるもっとも重要な事実を見落としている。そして、その事実こそが────俺を勝利へと導く」

116: 2022/03/12(土) 01:14:04.319 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「…………ふふっ。それは負け惜しみ? それとも、恐怖でアゴがおかしくなった?」

勇者「いや、アゴは確かだ」

ぷち代「そう……なら、教えてくれる? あなたがそこまで言う、アタシの見落としている重要な事実とは、一体何?」

勇者「ああ、いいだろう。よく聞いておけ。お前がこの勝負において見落としている、何よりも大切な事実…………それは」






勇者「グミやソフトキャンディは、戦うための道具じゃない────美味しく、楽しく、食べるための物だということだ」

117: 2022/03/12(土) 01:15:03.502 ID:9EUoV+fe0
 
ぷち代「…………」



ぷち代「…………」



ぷち代「…………はは」


ぷち代「今さら何を……言い出すかと思えば…………それだけ?」

118: 2022/03/12(土) 01:15:50.548 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「…………」


ぷち代「ホント、くだらない…………パッカじゃないの」


ぷち代「グミやソフトキャンディは戦うための道具じゃない…………美味しく食べるためのもの……ですって?」


ぷち代「そんなのは…………そんな……ことは……」








ぷち代「────アタシが一番、よく分かってるわよッッッ!!!!!」ドンッッ!!!!

119: 2022/03/12(土) 01:16:48.322 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「ええ、そうよ!! 全くもってその通りだわ!! グミやソフトキャンディは楽しく食べるもの!! 当然よ!! 元々、そのために作ったものなんだから!!」

勇者「……」

ぷち代「そんなこと、私が気付いていなかったと思う!? 馬鹿にしないでッ!! アタシが今までどんな思いで!! この子たちを美味しく食べて欲しいだなんて、それを誰よりも望んでいたのは…………!」

勇者「……」

ぷち代「でも、もう遅いのよ! アタシは復讐のために、この子たちを食べ物じゃなく、戦いのための道具にしてしまった。アタシのアゴは、汚れてしまったの。取り返しのつかないほどに。だからもう……戻ることは出来ない」

勇者「……」

120: 2022/03/12(土) 01:17:37.547 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「……あなたってホントにひどいアゴね。今さらこんなつらいこと思い出させて、アタシの心を揺さぶって……」

勇者「……」

ぷち代「説得でもするつもりだった? けど、おあいにく様。アタシはもう、覚悟を決めてるの。だからあなたの言葉なんてこれっぽっちも──」

勇者「好きなんだな。本当に」

ぷち代「え?」

121: 2022/03/12(土) 01:19:23.235 ID:9EUoV+fe0
勇者「お前も、クースもニンザも、みんなそうだ。口では色々言いつつも、自分たちのグミやソフトキャンディを食べるときは常に笑顔で、幸せそうだった」

ぷち代「な、なにを」

勇者「俺がお前らのグミやソフトキャンディを食べて、美味しいと言って、味や食感を誉めたとき……とても誇らしげで、嬉しそうな顔をしていた」

ぷち代「なに、言って……」

勇者「アゴ奥義だってそうだ。いくら戦うためとはいえ、何百、何千、何万ものグミやソフトキャンディを食べてアゴを鍛えるなんて、愛がなけりゃ出来はしない」

ぷち代「……」

122: 2022/03/12(土) 01:20:35.738 ID:9EUoV+fe0
勇者「……なあ。本当は、復讐なんてするつもりなかったんじゃないのか。自分たちが作ったグミやソフトキャンディをみんなに食べて欲しい。ただ美味しいって、そう言って欲しかっただけじゃないのか」

ぷち代「……」

勇者「この部屋の扉に鍵が掛かっていなかったのは、誰かがここまでやってきて、お前を倒し、この望まぬ復讐劇を止めてくれる────それを、期待していたからじゃないのか?」

ぷち代「……うるさい」

勇者「……」

ぷち代「なにも……知らないくせに」

123: 2022/03/12(土) 01:21:28.116 ID:9EUoV+fe0
勇者「ああ、そうだな。俺にはお前らの事情も気持ちも分からんし、理解するつもりもない」

ぷち代「……」

勇者「だけど……お前らがそうやって、『救って欲しい』と。不器用な態度で示してんなら、無視するわけにはいかねぇだろ」

ぷち代「……ダメよ。アタシは、もう」

勇者「受け入れ難いのは分かってる。維持を張って、臆病になって……いろんなしがらみが、お前を縛り付けているんだろうな」

ぷち代「……」

124: 2022/03/12(土) 01:22:09.348 ID:9EUoV+fe0
勇者「だから、俺は咀嚼しなきゃならない。《咀嚼勇者》として、この国だけじゃなく、お前たちも救うためにな」

ぷち代「咀嚼って……なにを?」

勇者「決まってるだろ。この勝負における一番の要は、お前自身の想いだ。だから」






勇者「俺がお前の────『心』を咀嚼してやるよ」

ぷち代「っ!!!」ドキッ

125: 2022/03/12(土) 01:23:15.754 ID:9EUoV+fe0
勇者「……」

ぷち代「…………驚いた。あなた、よくそんなセリフ真顔で言えるわね」

勇者「言うな。俺は今必氏に羞恥を抑え込んでいる」

ぷち代「ふふっ。随分と情熱的で、素敵なアプローチだったわよ?」ニヤッ

勇者「やめろ!!」

ぷち代「……だけど、ダメね。どれだけ言葉を重ねようとも、所詮はアタシに勝てないアゴ弱者の戯れ言。そんなものじゃ、アタシの気持ちを変えることは出来ない」


ぷち代「……まあ、でも」

126: 2022/03/12(土) 01:24:53.688 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「もし、あなたに何かしらの秘策があって」チラッ


ぷち代「この私を超えるほどの咀嚼力を見せつけて」チラッ


ぷち代「私に負けを認めさせる……本当にそんなことが出来たなら、そのときは私も、考えを改める必要があるわね?」チラッチラッチラッ

勇者「いやめっちゃ分かりやすいなお前」

ぷち代「い、いいからっ! 出来るの!? 出来ないの!?」

127: 2022/03/12(土) 01:26:01.497 ID:9EUoV+fe0
勇者「はいはい。それじゃ、お望み通り見せてやるよ。俺の……全身全霊の咀嚼をな」



ガササッ



勇者「行くぜッ! 最終アゴ奥義────《サンライト・ジョー》ッッッ!!!」パクッ

ぷち代「!!!」



ジュッ




ぷち代「────えっ?」

128: 2022/03/12(土) 01:26:53.204 ID:9EUoV+fe0
勇者「はい次」パクッ



ジュッ



ぷち代「ちょっ……!」

勇者「はい次」パクッ


ジュッ


ぷち代「ま、待って」

勇者「はい次」パクッ

ジュッ

勇者「はい次」パクッ

ジュッ

勇者「はい次」パクッ
ジュッ
勇者「はい次」パクッ
ジュッ
勇者「はい次」パクッ
ジュッ
勇者「はい次」パクッ
ジュッ
勇者「はいつ──」

ぷち代「待ちなさいってば!!!!」ガシッ

129: 2022/03/12(土) 01:27:48.488 ID:9EUoV+fe0
勇者「なんだよ」

ぷち代「それはこっちのセリフよ!! あなた一体何をしてるの!?」

勇者「何って……咀嚼だが?」

ぷち代「咀嚼!? 嘘言わないでよ!! あなたのアゴ、全く動いていないじゃない!!」

勇者「いや、動いてるぞ。よく見てみろ」

ぷち代「何言って────ああッ!!?」



────…



ぷち代「う、動いてるッ!! 無音かつあまりにも高速で動いていたから、一見止まっているように見えたけど……確かに! あなたのアゴは今ッ!! 動いているッ!!!」

130: 2022/03/12(土) 01:28:51.185 ID:9EUoV+fe0
勇者「な? だから言っただろ」────…

ぷち代「す、すごい……! これだけでも分かる。あなたの、卓越したアゴ操作技術……ッ!」

ぷち代「だけど、それだけじゃまだ説明が付かない。さっきの、あの何かが一瞬にして焼き切れるような音は一体……?」

勇者「分からなかったか? ならもう一度」パクッ


ジュッ


ぷち代「ッッッ!!?!?」ビクッ!!

勇者「どうだ?」────…

131: 2022/03/12(土) 01:30:16.230 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「そ、そんな……まさか。ありえない……! ……けど、そうとしか、説明が付かない……ッ!」ガタガタ

勇者「…………」パクッ ジュッ

ぷち代「かッ……核融合ッッッ!!!!! 音速を超え、光に迫る速度で行われる咀嚼!! それによって生じる極高温の熱によってもたらされる、口腔内の唾液のプラズマ化!! そしてそれらのプラズマをソニックブームで圧縮することによって始まる、唾液の核融合反応ッッッ!!! そこから生じる膨大な熱量でもって、口に入れたソフトキャンディを一瞬で溶かし、消失させているというのねッ!!?」

132: 2022/03/12(土) 01:31:13.081 ID:9EUoV+fe0
勇者「…………」パクッ ジュッ

ぷち代「それはまさに、アゴに包まれた一口サイズの太陽ッ!! 故に陽光! だからサンライト! 口に含んだ瞬間に咀嚼が完了するという、理論上最速のアゴ!! その咀嚼効率──SPS(Sosyaku Per Second)はアタシの《閻魔の舌法》の比じゃないわ!!」

勇者「…………」パクッ ジュッ

ぷち代「……だけど、まだひとつ、理解出来ないことがるわ。これほどの熱量、全てを使い切るのは不可能なはず。咀嚼に使用されなかった余剰分の熱は膨大で、それが口腔内の粘膜を焼き焦がしていてもおかしくない。しかし、実際にはそうなっていない。一体どのようにして、アゴ太陽の熱からアゴを保護しているというの……!?」

133: 2022/03/12(土) 01:32:58.171 ID:9EUoV+fe0
勇者「ふっ。それは……こいつの力だよ」────…

ぷち代「え? ……そ、それは! クースの超刺激味グミ!? どんなに冷酷な拷問官でも使用を躊躇するという、史上最悪の劇物グミが、どうしてここに……!?」ゾゾゾッ

勇者「マジかよ。あいつなんてもん人に食わせてんだ」────…

ぷち代「いや……そ、そういうこと? つまりあなたは、その強酸グミの強烈な酸味をあえて口に含むことで、唾液の分泌量を更にブーストしているというの!? そして、その唾液で舌やアゴをコーティングし、核融合反応の熱量が直接触れないようにプロテクトしている……そういうことだったのねッ!?」

勇者「そう。これこそが改良版アゴ奥義────《ナイアガラの涎瀑布》だ」────…

135: 2022/03/12(土) 01:34:25.832 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「か、完璧……完璧だわ。速度も安全性もこれ以上ないほどに高められた、まさにアゴの中のアゴ……。まさか、アタシのアゴ奥義以上に完成されたアゴがこの世に存在したなんて……」フラフラ

勇者「どうだ。流石のお前も、このSPSには追い付けまい。この勝負、俺の──」

ぷち代「勝ちだ。…………とでも言うつもり?」

勇者「……」

ぷち代「忘れたの? この決闘で競うのは、食べる速さじゃない。量よ。どれだけ精巧なアゴを持とうと、無限大の量のソフトキャンディを咀嚼出来なければ、戦いの土俵にすら立てないのよ。なにせこの勝負は、どちらかが負けを認めるまで永遠に続くのだから……」

勇者「いや、違うな」

ぷち代「え?」

136: 2022/03/12(土) 01:35:28.199 ID:9EUoV+fe0
勇者「この決闘は、無限には続かない。明確な終わりが存在する」

ぷち代「……はぁ? 何言ってるの? 私は無限に咀嚼できるのよ。終わる訳ないじゃない」

勇者「いや、終わる。確かに、お前の咀嚼量は無限大……だが、ソフトキャンディの方はどうかな?」

ぷち代「! ま、まさか……!」

勇者「無限に食べられる食品……そんなものは存在しない。どんなものにも必ず、上限がある。このソフトキャンディの山を食べ尽くしたなら、決闘は続行不可能。その時点でより多く食べた方の勝ち……これが、もう一つの勝利条件だ」

137: 2022/03/12(土) 01:36:15.524 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「正気なの!? 確かに、このソフトキャンディは本当の意味で無限ではない……けど! それでも十分過ぎるほどの量を用意してあるのよ!? それこそ、あなたの体重の何十倍にもなる量を!! それを一気に摂取なんてしたら……!」

勇者「ああ、そうだな。俺はこの戦いが終わったら────」







勇者「糖尿病になるだろうな」

ぷち代「いやそれで済む訳ないでしょ!!!? 氏ぬわよ!!!?!?」

139: 2022/03/12(土) 01:37:06.324 ID:9EUoV+fe0
勇者「え? 氏ぬの?」

ぷち代「当たり前でしょうが!! あなたはアタシと違って、インスリンの分泌量も代謝速度も常人レベルなのよ!? そんな身体でその奥義を使い続けたら、エネルギー摂取量が消費量を上回って、そのまま限界を超えて氏ぬわよ!?」

勇者「そっか……まあ別に」スッ

ぷち代「よくないッ!! なおも食おうとするな!! サイコパスなの!!?」ガシッ

勇者「いやそんなこと言われても、食わんと勝てんし……」グググ…

141: 2022/03/12(土) 01:38:07.022 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「負けず嫌いにも程があるでしょ!!? やめてよね!! このままだと私は自分の部屋で赤の他人がソフトキャンディ食べ続けて破裂する自殺ショーを観ることになるのよ!? なによその地獄!! おかしいでしょ!!?」グググ…

勇者「お前が地獄の決闘だって言ったんだろ」グググ…

ぷち代「そういう意味の地獄じゃ、ないッ!!!」グググ…

勇者「…………はあ。分かったよ。一旦食うのはやめてやる」

ぷち代「はぁ……はぁ……ほんとにもう──」






勇者「とみせかけて食うッッッ!!!!!!」シュバババババババ

ぷち代「い、いやぁあああああッッッ!!!?」

142: 2022/03/12(土) 01:39:12.530 ID:9EUoV+fe0
勇者「はい次はい次はい次はい次はい次はい次はい次」ジュジュジュジュジュジュジュッ

ぷち代「ちょっ!? 待って!! やめっ、やめてぇぇええええッッッ!!!!」

勇者「はい次はい次はい次はい次はい次はい次はい次」ジュジュジュジュジュジュジュッ

ぷち代「分かった!! 分かったからぁっ!! 私の負け!! 負けでいいからぁ!! だからやめてぇぇええッッ!!!!!」ビェェエエン




勇者「……本当だな?」ピタッ

ぷち代「ふぇっ?」ビクッ

143: 2022/03/12(土) 01:40:09.441 ID:9EUoV+fe0
勇者「二言はないな?」

ぷち代「え……あ、えっと、その。今のは言葉のあやというか……!」アセアセ

勇者「なるほど?」パクッ ジュッ

ぷち代「嘘ですごめんなさいッ!!!! アタシの負けです!!! 調子乗ってすみませんでしたぁ!!!!」ドゲザーッ

勇者「ならばよし」

144: 2022/03/12(土) 01:41:26.995 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「ぐすっ……うぅ……こんなのってないわよぉ……」シクシク

勇者「何はともあれ、これで俺の勝ちだな。ぷち代」

ぷち代「もういいわよそれでぇ……」シクシク

勇者「じゃ、復讐もやめてくれるな?」

ぷち代「…………」

勇者「ぷち代?」

ぷち代「…………やっぱり、納得行かない」ムスッ

145: 2022/03/12(土) 01:43:31.184 ID:9EUoV+fe0
勇者「おいおい、勘弁してくれよ。これ以上なにをしろってんだ」

ぷち代「…………」

勇者「仕方ない。もう百個くらい食って……」スッ

ぷち代「それはもういいから!!! ……そうじゃなくて、えっと」

勇者「なんだよ」

ぷち代「……………………ユウハ」

勇者「ん?」

ぷち代「布丁有玻(ぷちょう ゆうは)。……アタシの名前よ」

勇者「え? ぷち代が名前じゃなかったのか?」

ぷち代「そんな訳ないでしょ!? どんな名前よ!! ぷち代はあだ名!!」

勇者「お、おう。すまん」

146: 2022/03/12(土) 01:44:51.015 ID:9EUoV+fe0
ぷち代「だから……えっと、その…………ユウハって、呼んでくれてもいいわ。そうしたら、復讐をやめてあげても──」

勇者「え? 急に距離詰めてくるじゃん。どうした?」

ぷち代「〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!」ゲシッゲシッゲシッ!!!

勇者「いたっ!? 痛い痛い!! ごめん!! からかってごめんって!! ユウハ!」

ぷち代「…………」ピタッ

147: 2022/03/12(土) 01:45:38.806 ID:9EUoV+fe0
勇者「ユウハ? あー、えっと……ユウハ。これでいいか?」

ぷち代「…………」



ユウハ「しょ、しょうがないわねぇ……! まあ、及第点くらいは? あげてもいいかなー……なんて」ニヨニヨ

勇者「あ、うん。すごく分かりやすい反応をありがとう」

ユウハ「うっさいわね! そこは気付かないフリしなさいよ!」

勇者「いやー無理」

ユウハ「あ、あなたねぇ……!」ヒクヒク

148: 2022/03/12(土) 01:46:50.264 ID:9EUoV+fe0
勇者「はいはい。それで? 復讐はもういいのか?」

ユウハ「……そうね。なんか、どうでもよくなっちゃったわ」

勇者「そうか。ならいいけど」

ユウハ「色々と疲れたけど、気分はすっきりしてるし……ほんと、どうしてあそこまで復讐したがってたのか、我ながら不思議に思うくらいよ」

勇者「……まあ、復讐っつーか、お前は最初から……」

ユウハ「なに?」

勇者「……いや別に」

ユウハ「ふぅん?」

勇者「……」

149: 2022/03/12(土) 01:47:42.376 ID:9EUoV+fe0
ユウハ「……まあ、でもそうね。もしかしたら、アタシはあなたに、ソフトキャンディと一緒に────」




ユウハ「アタシの『心』まで、咀嚼されちゃったってことなのかもね?」




勇者「…………」

ユウハ「…………なんか言いなさいよ」

勇者「…………いや、そのっ……すま、ん……っ!」プルプル

ユウハ「笑うなぁーーーっ!! あなたの言ったセリフでしょうが!!!」

150: 2022/03/12(土) 01:48:48.870 ID:9EUoV+fe0
Part4 は以上です。10分休憩したら投稿を再開します。

次は Last Part エピローグ です。

151: 2022/03/12(土) 01:58:22.452 ID:9EUoV+fe0
[王城]

王様「咀嚼勇者よ。よくぞ戻った」

勇者「うす」

王様「して、首尾は如何に? ユーファ味覚党の幹部らを討伐し、その野望を阻止することは出来たのか?」

勇者「そうですね。出来たといえば出来たというか……まあ少なくとも、復讐とかはもうしてこないと思いますよ」

王様「ふむ。復讐とな?」

勇者「あー、その辺は話すと長くなるんで、あとで報告書提出するんで、それ読んどいてください」

王様「ふむ。まあ、いいだろう」

152: 2022/03/12(土) 01:59:03.638 ID:9EUoV+fe0
勇者「それで……これは俺の独断なんで、どんなお叱りでも受ける覚悟ではありますが……」

王様「なんだ。申してみよ」

勇者「倒した幹部3人ですが……改心したみたいなんで仲間にしちゃいました」

王様「なんと!」

勇者「あ、正確には2人と100人です」

王様「な、なんと?」

153: 2022/03/12(土) 02:01:00.515 ID:9EUoV+fe0
勇者「まあ、その辺も詳しくは報告書に……。で、そいつらなんですが、結構使えますし、その、投獄はずに、出来れば執行猶予くらいで許して頂けると助かりますというか……」

王様「良かろう。ユーファ味覚党の元幹部は全員、無罪放免とする。拠点の取り潰しも保留としよう」

勇者「え? いいんですか? そこまでは……」

王様「構わん。今の我が国は深刻なアゴ不足なのだ。アゴの強い人材を遊ばせる余裕は、ましてや投獄している余裕はないのだよ。使える者は使わねばならん」

勇者「そうですか」

王様「そもそも、其奴らを留め置ける牢屋など存在せぬからな……。ならば、そなたの側に置いておく方がよほど安全だといえるのだ」

勇者「あー……なるほど」

154: 2022/03/12(土) 02:01:46.771 ID:9EUoV+fe0
王様「うむ。ではその元幹部らとも協力し、今後も咀嚼勇者としての活動に励むがいい」

勇者「かしこまりました……って、え? 『今後も』?」

王様「うむ」

勇者「ユーファ味覚党の幹部を倒したら終わりじゃなかったんですか……?」

王様「何を言っておる。彼奴らは所詮、この国に巣食うアゴ悪のほんの一部に過ぎん。彼奴らの他にも、《新興宗教》ノーベールの教祖 『沢豆噛亀(さわず かめかめ)』、《堕ちた神》 Hurry Bone(ハリーボーン)が産みし邪龍『シュネッケー』、《愚連隊》武龍盆(ブリュウボン)の特攻隊長『フィット=チーネン』など……悪しき勢力は未だ数多く存在しておる」

勇者「嘘だろ……まだそんなに居んのかよ」

155: 2022/03/12(土) 02:03:35.067 ID:9EUoV+fe0
王様「それらの勢力を全て打ち倒し、我が国を真に救った暁には、そなたの名は伝説の咀嚼勇者として、我が国の歴史に未来永劫刻まれるであろう!」

勇者「いや刻まなくていいです。ほんと勘弁してください」

王様「そうか? まあ、当人が望むのであれば……。誠に、当代の咀嚼勇者は謙虚であるな」

勇者「ハハハ……」

王様「では、咀嚼勇者よ。我が国救済の任、受けてくれるな?」

勇者「……まあ、乗り掛かった船ですし。謹んで拝命いたします」チッ

王様「うむ! 期待しておるぞ。伝説の咀嚼勇者よ!」

勇者「…………やっぱマジで一回滅んだ方がいんじゃないかなこの国」

156: 2022/03/12(土) 02:04:33.772 ID:9EUoV+fe0
[噴水前通り]


勇者「……」テクテク


「おおーーい! 咀嚼勇者どのーーっ!!」


勇者「お?」

ニンザ「こちら! こちらでござるよ!」ブンブン

勇者「おぉ、ニンザか。どうしたこんな所で」

157: 2022/03/12(土) 02:05:37.697 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「はっはっは! いやなに、こちらの店のケーキが非常に美味であるとの評判を耳にしたため、幹部一同で賞味に参った次第でござる」

勇者「へー。まあ美味いって評判だよな。ここのケーキ」

ニンザ「全くもってその通りでござ候! 拙者、これほど美味なケーキを食べたのは初めてでござる!」パクパク

勇者「そうか。でも、良いのか?」

ニンザ「何がでござるか?」

158: 2022/03/12(土) 02:06:29.433 ID:9EUoV+fe0
勇者「いやなんか、ほら、お前らって柔らかい食べ物を憎んでたような……」

ニンザ「過ぎた話は気にするなでござる! 美味いものは美味いでござる!」

勇者「切り替え早いな!」

ニンザ「それが拙者の美徳でござるからな!」

勇者「……まあお前らしいっちゃらしいけどさ」

159: 2022/03/12(土) 02:07:15.037 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「はっはっは! ……それに、当の本人があの様子でござるからな」チラッ

勇者「ん?」





ユウハ「おふぁわひっ!!」バッ

勇者「うおっ!?」ビクッ



ユウハ「はむはむはむはむはむはむっ!」モモモモモモモモ

勇者「いや、そこに居たのかよ! 皿の山で見えんかったわ!」

ユウハ「!」

160: 2022/03/12(土) 02:08:12.568 ID:9EUoV+fe0
ユウハ「んーふぁ!」パアアッ

勇者「お、おう」

ユウハ「おふぉはっはふぁふぁい! まっへふぁふぉお!」

勇者「いや何言ってんだか全然分からん。飲み込んでから喋れ」

ユウハ「むっ」

161: 2022/03/12(土) 02:08:45.402 ID:9EUoV+fe0
ユウハ「…………」モッモッモッモッ


ユウハ「…………」ゴクン


ユウハ「…………遅かったじゃない! 待ってたのよ!」

勇者「いや、特に待ち合わせした覚えはないけど」

ユウハ「バカね! こういうときは黙って『ううん、今来た所だよ』って言うのよ!」

勇者「それもなんか変じゃないか?」

ユウハ「あら? そ、そう?」

162: 2022/03/12(土) 02:09:45.720 ID:9EUoV+fe0
勇者「てかお前どんだけ食うんだよ……いや、クースの分も入ってるのか?」チラッ

クース「あ、気付いてたんだね。ちなみにボクは一皿しか食べてないヨッ☆」キラッ

勇者「お前も皿に埋もれてたしな……そしてユウハ、食い過ぎ」

ユウハ「え? 普通の量でしょ」キョトン

勇者「どこが!?」

163: 2022/03/12(土) 02:10:50.188 ID:9EUoV+fe0
クース「アハハッ☆ ぷち代は燃費の悪い体質だからね。たくさん食べないとすぐにお腹が空いてしまうのサッ☆」

ユウハ「まあね。そのおかげでアゴ奥義も使えるし、美味しいものもいっぱい食べられるのよ!」ドヤァ

勇者「すごいポジティブ」

ユウハ「ふふん!」

クース「キミが言ってくれた話を他の二人にしたら、とても感銘を受けたみたいでね。これからみんなでグルメ巡りをすることになったのサッ☆」キランッ

勇者「ん? なんか言ったっけか俺」

164: 2022/03/12(土) 02:11:44.581 ID:9EUoV+fe0
クース「ほら、キミが言ったんじゃないか。『グミ以外も食べろ』って」

勇者「いや、それかよ!? 普通のことすぎて完全に忘れてたわ!」

クース「そうだね。でも、二人にとってはそうじゃなかったってことサッ☆ ……もちろん、ボクにとってもね」

ニンザ「いやあ、何事も極端は良くないでござるな! ほどほどが一番でござる!」

ユウハ「次は何を食べようかしらね! お肉? 果物もいいわね!」

勇者「まあ、お前らがそれでいいなら俺は別に構わないけど……」

165: 2022/03/12(土) 02:14:14.543 ID:9EUoV+fe0
ニンザ「それで、王城では何を話してきたでござるか? 何か褒美でも賜ったでござるかな?」

勇者「いや、褒美とかは無かったな。……ってかそう考えると俺ってタダ働きじゃないか? なんかすげぇムカついてきた。やっぱ滅ぼそうかなこの国」

クース「まあまあ……それで、キングにはなんて言われたんだい?」

勇者「ああ……実は、お前らみたいなのがまだこの国にたくさん居るみたいでな……非常に不本意ではあるが、そいつらを咀嚼勇者として倒しに行くことになった」



ガタンッ



ユウハ「そ、そんな……!」サーッ

勇者「ユウハ?」

166: 2022/03/12(土) 02:15:20.913 ID:9EUoV+fe0
ユウハ「それじゃあ、アタシの『国内一周グルメツアー』は……お預け……?」

勇者「いや別に無理について来なくてもいいぞ?」

ユウハ「むっ」

勇者「お前らはお前らでやりたいことあるだろうし、なんなら王様に頼んで別行動を────」

ユウハ「何言ってんのよ! まさか、本気で置いていくつもりじゃないでしょうね!」ダンッ

ニンザ「そうでござる! 拙者達、受けた恩は必ず返す所存でござるよ!」ニンッ

クース「アハハッ☆ そういうわけで、ボクたちも連れて行ってもらえるカナッ☆」キランッ

勇者「え? いや、でも。その……本当にいいのか?」

ユウハ「……なによ。みなまで言わせるつもり?」ジロッ

勇者「………………はぁ。好きにしろ」

ユウハ「!」パアアッ

167: 2022/03/12(土) 02:16:18.419 ID:9EUoV+fe0
クース「それじゃ、今後の方針も決まったことだし、改めて自己紹介しようかナッ☆」キランッ

勇者「自己紹介?」

クース「ぷち代はキミに名前を教えたんだろう? なら、ボクたちも教えるのが道理というものさ! 今後の関係のためにもネッ☆」キランッ

ニンザ「そうでござるな! ついでに、咀嚼勇者殿の名前も教えて欲しいでござる!」

ユウハ「あ、それアタシも気になる!」

勇者「ああ。そういえば、まだ俺の名前は言ってなかったな」

168: 2022/03/12(土) 02:17:20.247 ID:9EUoV+fe0
クース「じゃあまずはボクから。ボクの名前はクスリ。茂木楠理(しげき くすり)だよ。クースでもクスリでも、好きな方で呼んでネッ☆」キランッ

ニンザ「拙者の名は仁寺屋召之介(にんじや めしのすけ)! 仁寺屋百兄弟の長男でござる! 時折ほかの兄弟と入れ替わるため、ニンジヤかニンザで呼んで欲しいでござる」

ユウハ「アタシはユウハ。ま、アタシはもう先に教えちゃったし、特に言うこともないわよね。ぷち代じゃなくて、ユウハって呼んでちょうだい」

勇者「ああ。じゃ、最後は俺だな。────俺の名前は、ナビス」





ナビス「那比須 巧太郎(なびす こうたろう)だ。これからよろしくな。クース。ニンザ。ユウハ」


-完-

169: 2022/03/12(土) 02:17:35.971 ID:9EUoV+fe0
以上です。最後までお付き合い頂きありがとうございました。

食べ物は良く噛んで食べようね。

171: 2022/03/12(土) 02:24:12.700 ID:9EUoV+fe0
>>170
ひとまずはこれで完結です。
一応残りの敵の設定も考えてあるので、気が向いたら続く……かも?

172: 2022/03/12(土) 02:25:19.560 ID:rlb9Gf++0
ちょっとコンビニ行ってくる

引用元: 【SS】勇者「咀嚼スキル?」