1: 2010/08/01(日) 19:24:36.29 ID:2xzpPlUr0
憂「しんこん!」
こんにちは私は中野(旧姓:平沢)憂です。
私はこないだ梓ちゃんと結婚しました。
でもごはんが毎日タイヤキなので家出をすることにしました。
出て行くとき腹いせに梓ちゃんに「実家に帰らせていただきます」と叫びながら5時間じっくり煮た力作のあんこをぶっかけてきました。
そしたら梓ちゃんは「熱ドゥフ!」とか言いながら目をビカビカさせました。
鼻水みたいなのが耳から垂れていたように思います。
その様子がグロくてトラウマになりそうだったのでムカついたので、
「てめータイヤキくせぇんだよ!」
という台詞を残して家を出ました。
こんにちは私は中野(旧姓:平沢)憂です。
私はこないだ梓ちゃんと結婚しました。
でもごはんが毎日タイヤキなので家出をすることにしました。
出て行くとき腹いせに梓ちゃんに「実家に帰らせていただきます」と叫びながら5時間じっくり煮た力作のあんこをぶっかけてきました。
そしたら梓ちゃんは「熱ドゥフ!」とか言いながら目をビカビカさせました。
鼻水みたいなのが耳から垂れていたように思います。
その様子がグロくてトラウマになりそうだったのでムカついたので、
「てめータイヤキくせぇんだよ!」
という台詞を残して家を出ました。
2: 2010/08/01(日) 19:30:29.19 ID:2xzpPlUr0
さてはてしかし家出といってもうちまでは遠いのです。歩いていくなんてとんでもありません。
それにうちに行ってもお姉ちゃんが入れてくれないかもしれないのません。
いいえ絶対入れてくれないでしょう。
それどころかザリガニの足を体中に刺してくるかもしれません。
仕方ないので私は適当に北へ進むことにしました。
しばらく森の中を歩いていると声をかけてくる人がいました。
「こんなところでどうしたの、憂タン」
お姉ちゃんの知り合いの澪さんでした。
「澪さん! 梓ちゃんったらひどいんです……」
4: 2010/08/01(日) 19:34:34.47 ID:2xzpPlUr0
私は勢いあまって澪さんにもたれかかりました。
すると澪さんが頬をそめながら、
「いけません、奥さん……」
とか言ったので、
「そんなつもりはないですよ」
と返事をして十分な距離を取りました。
澪さんが残念そうに「そうか」と呟いて物欲しそうな顔をしましたが気づかないふりをしました。
「なにがあったの? 梓との性生活のことカナ?」
「しょうがと
ねぎって合いますよね」
「縦読み?」
とりあえず私は事情を話してみることにしました。
こんな人でも愚痴聞きマシーンくらいにはなるでしょう。
「実は梓ちゃんがタイヤキなんです」
「どのくらい?」
「7コーンくらい」
「うーん、そうか。タイヤキ好きなのは知っていたけど、そこまで重症なのか」
5: 2010/08/01(日) 19:38:40.90 ID:2xzpPlUr0
澪さんは「ふむむ」と唸ったあとにポンと手を叩きました。
ニヤリと笑った顔がアルマジロに似ていると思いました。
「いいことを思いついた」
「なんですか?」
「まず私が覆面をするんだ。そして憂タンはスク水に着替える。それから私が憂タンを襲うんだよ。そして梓に脅迫状を出す。梓が来たら私に襲われている憂タンを助けさせる。そうすれば二人の愛は復活するし私は憂タンを堪能できる」
「いいえ、私は愛を復活させたいんじゃなくて、梓ちゃんのタイヤキをやめさせたいんです」
おうふくビンタしながら言うと澪さんはまた残念そうに「そうか」と呟きました。
「入信しません」
「そうか」
私はこれ以上この人の相手をしていても仕方ないと判断してさらに北へ向かいました。
するとまた知り合いに遭遇しました。
「こんにちは、和さん」
「こんにちは憂。どうしたの?」
「梓ちゃんタイヤキ」
6: 2010/08/01(日) 19:43:47.02 ID:2xzpPlUr0
私が事情を話すと和さんは眉間に皺を寄せました。
「あの子のタイヤキは治らないわ」
「ですよね」
「ええ。それより私と踊りませんかシャル憂ダンス」
「ん?」
和さんの差し出した手を内巻きに捻ろうとしたとき私は懐かしい匂いを感じました。
「どうしたの憂」
「いいえ別に」
私は改めて和さんの手を捻りました。
「ギャフン」
「もっと?」
「もっと!」
それから和さんの手を5分程度捻らされました。
しかしどうしてこうもまともな人がいないのでしょう。
「あーあ、もうなんか嫌になっちゃった。なんで梓ちゃんなんかと結婚したんだろ」
7: 2010/08/01(日) 19:48:40.21 ID:2xzpPlUr0
そう呟いた瞬間さっき匂いを感じた方向にある木の陰からなにかが飛び出しました。
「憂ぃぃぃぃぅいいいうぃぃ!」
ドパーンと現れたのはあんこまみれの梓ちゃんでした。
和さんはびっくりして腰を抜かして「グパグパ」言っていました。
「戻って来て憂! 私に気に入らないところがあれば直すから」
「だからタイヤキだってば」
そう言うと梓ちゃんは触覚をぷるぷる震わせました。
「ごめんね憂、私ぜんぜん気が付かなくて……。もうタイヤキばっかりはやめるから! タイヤキ作り24時間強要なんてしないから!」
「なんて言われてももう遅いよ。私の心は……」
すると急に抱きしめられました。あんこくせぇ。
8: 2010/08/01(日) 19:52:53.04 ID:2xzpPlUr0
「だから、後悔してるなんて言わないで! 愛してるの! あずにゃん憂がそばにいなきゃ氏んじゃうんだよー!」
必氏に叫ぶあんこまみれの梓ちゃんに胸が痛みました。
だから私は持っていた残りのあんこを梓ちゃんに再びぶっかけました。
「あんこプレイ!」
家出したときと違って適温だったからか梓ちゃんは今度は嬉しそうに悶えました。
「帰ろうか」
「うんっ!」
二人ともあんこにまみれたまま手を繋いで帰りました。
それから私たちはとっても仲良く暮らししました。
食事もタイヤキとタコヤキを交互に食べることで決着がつきました。
みんな幸せです。
ただひとつ純ちゃんが密猟者に撃たれてじゅうたんにされたことを除いては。
終わり
10: 2010/08/01(日) 19:56:09.45 ID:2xzpPlUr0
律「卒業が待ち遠しい!」
今日はテスト期間で部活のない日だ。
でも、もしかしたら、けいおん部のみんなはそんなことをおかまいなしに、というか知らなくて、練習に行ってしまうかもしれない。
そう気づいたのは日直を終えて職員室に日誌を出しに行ったときだった。
みんなに確認しようにも、今日は携帯電話を家に忘れてしまったし、どうしたものかと迷っていると、ちょうどりっちゃんが廊下を歩いていた。
「どうしたんだムギ」
「あ、あのね」
りっちゃんに会えた時点で、あとの心配は唯ちゃんくらいになったから、まあほぼ大丈夫といってもいいのかもしれないけれど、一応話してみた。
11: 2010/08/01(日) 20:00:04.56 ID:2xzpPlUr0
「あーたしかにそれはありえるな! 唯なんかテストのこと忘れてそう」
「でも、見つかったらまずいわ……部活停止になっちゃうかも。見回りの先生も出るみたいだし。部室にいるだけでも、まずいらしいの」
そう言うと、りっちゃんは目をかっぴらいて叫んだ。
「そ、そりゃ大変だ!」
そんなりっちゃんが面白くて、思わず笑みがこぼれる。
「ふふ。なので私ちょっと部室を見てくるわ」
「ああ、じゃあ私も行く!」
「え?」
「一応私の部長だからさ、部活が停止になったりするのはなんとしてでも阻止しないと!」
りっちゃんがドンと胸を張った。
「そういえばムギはテスト勉強どうだ?」
「うーん……どうかしら」
「私はまた澪頼みだよ、へへっ」
「それなら私も協力するわ。一緒に勉強すればお互い補えると思う」
「でもレベル違いすぎて足手まといじゃないか?」
12: 2010/08/01(日) 20:04:36.77 ID:2xzpPlUr0
気を遣ってもらうのはありがたいけれど、澪ちゃん相手なら気にしないのに、と思うとなんだか寂しいものがあった。
「そんなことない! 楽しみながらやれば、勉強もはかどるもの」
「そ、そか!」
「りっちゃんといると、いつも楽しいから。だから一緒にいたいの」
冗談めかして笑いながらりっちゃんの顔をのぞき込むと、これでもかというほどにきらきらした瞳にあてられた。
「そうか! なんか嬉しいぞー! ムギは本当にいい奴だな!」
「ふふふ」
冗談は、だと思われなかったのかもしれない。
でも、いい奴だなんて言われるとなんだかこそばゆい。
以前はこんなに気安く付き合える友達なんていなかった。
もちろん中学校のときも友達はいたけれど、じゃれあったり、小突きあったり、一緒になにかを成し遂げたいって思ったり、そんなのは初めて。
それもりっちゃんの存在が大きいのだと思う。
13: 2010/08/01(日) 20:08:08.43 ID:2xzpPlUr0
部室の前まで行っても、誰の気配もしなかった。
誰かがいればワイワイしているはずだから、少し離れた場所からでも、中にいればすぐにわかる。
しかし代わりにドアの前にいたのは、とんでもないものだった。
「え……これ……」
そう言ったまま、言葉の続きが出ない。
隣でりっちゃんも絶句して固まっているのがわかった。
二本の煙草はまだ火がついたままで、紫煙がくらりくらり、ゆらめいている。
けいおん部員のじゃない、なんて声に出さなくても二人ともわかっている。
誰がなんの目的で、こんなことをしたのか。
ここは教室からは少し離れているし、あまり人の来ない場所だから、たまたま選ばれただけなのかもしれない。
けいおん部への嫌がらせだなんて、考えたくはない。
「とりあえず、片付けましょうか……」
あれこれ考えていても仕方がない。
そんなことより、誰かにこれを見られることのほうが問題だ。
「ああ、そうだな……と、んんっ?」
14: 2010/08/01(日) 20:11:59.70 ID:2xzpPlUr0
りっちゃんがピクッと身体を震わせた。
何事かとりっちゃんの顔を見ていると、後方から微かに足音が聞こえる。
「もしかして、見回り?」
いまここで教師に見つかるのは、非常にまずい。
煙草をいますぐ拾ったとしても、何をしているのか尋問されていたら、匂いでばれてしまう。
かといって走って逃げたりでもしたら目立つし、余計に疑われる。
「あ、部室の中なら!」
いくら見回りでも、わざわざ部室のスペアキーを持って来てはいないだろう。
そもそも気配がなければ、この場を立ち去るはず。
「でも大丈夫か?」
「早く、りっちゃん! 足音おおきくなってきてる……」
「仕方ねー!」
そう言うとりっちゃんは部室の鍵を開けた。
私は急いで煙草を拾い、りっちゃんの背中を押し込みながら中に入った。
「鍵、閉めたほうがいいかしら」
「そうだな……この状況で入って来られたら、」
16: 2010/08/01(日) 20:15:57.29 ID:2xzpPlUr0
拾った煙草をティッシュペーパーに包みながら思う。
もしかしたら、見回りの教師がスペアキーを持っているということも考えられる。その場合かなりまずい。
部室にいることだけでも良くないのに、煙草を持っているなんて。
かといって、本来閉まっているはずの鍵が閉まっていないのも不自然だ。
そうこう考えているうちに、足音が迫ってくる。
「棚の中……は無理、よね」
「そりゃいくらなんでも無理だろ」
「あ、ソファんところに隠れるとか」
「あーもうどこでもいい!」
瞬間、星が見えた。
りっちゃんは私の腕を掴んで、そのままずるりとソファの裏へ滑り込んだ。
驚いて口を開きそうになったけれど、ちょうど部室の前で足音がしたので、慌てて噤んだ。
危なかった。りっちゃんの機敏な動きと判断力がありがたい。
見回りの教師はどうやらドアの前で立ち止まったようだ。
私は息を潜めた。
ガチャガチャとドアノブを回す音の後、沈黙が漂う。
問題なしと判断したのだろうか。
りっちゃんがため息を吐いたのがわかった。
そこで私は、はたと気づいた。私とりっちゃんの距離が、ものすごく近いことに。
もしかしたら、見回りの教師がスペアキーを持っているということも考えられる。その場合かなりまずい。
部室にいることだけでも良くないのに、煙草を持っているなんて。
かといって、本来閉まっているはずの鍵が閉まっていないのも不自然だ。
そうこう考えているうちに、足音が迫ってくる。
「棚の中……は無理、よね」
「そりゃいくらなんでも無理だろ」
「あ、ソファんところに隠れるとか」
「あーもうどこでもいい!」
瞬間、星が見えた。
りっちゃんは私の腕を掴んで、そのままずるりとソファの裏へ滑り込んだ。
驚いて口を開きそうになったけれど、ちょうど部室の前で足音がしたので、慌てて噤んだ。
危なかった。りっちゃんの機敏な動きと判断力がありがたい。
見回りの教師はどうやらドアの前で立ち止まったようだ。
私は息を潜めた。
ガチャガチャとドアノブを回す音の後、沈黙が漂う。
問題なしと判断したのだろうか。
りっちゃんがため息を吐いたのがわかった。
そこで私は、はたと気づいた。私とりっちゃんの距離が、ものすごく近いことに。
17: 2010/08/01(日) 20:19:18.02 ID:2xzpPlUr0
いや、近いなどというものではない。これは、密着状態といってもいい。
思わず恥ずかしくなって、身をよじるようにもぞりと動いた。
「っ!」
りっちゃんの息を飲む音が耳元を擽った。
ゆっくりと顔を見ると、驚いたような表情が間近に見える。
それから、どちらからともなく目を伏せた。
けれど、下を向いたら向いたで、触れ合っている肩や脚が視界に入って、なんだかその部分の体温を意識してしまって、どうしたらいいのかわからない。
「行ったか……?」
すごくすごく小さな声で、りっちゃんが呟いた。それだけの刺激でも、動揺してしまう。
うるさい動悸が収まるよう祈りつつ、私も呟いた。
「どう、かなぁ」
音はしないけれど、ここからではドアの前に人がいるかどうかなんてわからない。
「とりあえず出るか」
「え」
「狭いだろ?」
りっちゃんのほうを向く勇気がなくて、表情はわからなかったけれど、声色は困ったような申し訳ないような雰囲気だった。
18: 2010/08/01(日) 20:21:58.74 ID:2xzpPlUr0
「ごめん、ここまで狭いとは思わず引っ張り込んで」
「や、そんな、仕方ないし……」
「でも、ち、近すぎるし、さっきからムギ、なんか不機嫌そうだし」
「ううん、そんなことないわ!」
そんなつもりはなかったので、驚いた。
「しっ、声がでかい」
「んく、……ふ? んーっ」
ばし、と、りっちゃんの手で塞がれた口は、声どころか息を吐くことさえ困難だ。
私は思わずりっちゃんの手をぎゅっと掴んだ。
密着状態で手を握る。それが何を意味するかなんて考えていなかった。
「む、ムギ……いったい何をー……」
りっちゃんが、目を見開いて、一瞬、凍り付いたような表情をした。
見たこともないような。
「え……?」
「って、ああっ!! そ、そっか口か! ご、ごめんっ!」
りっちゃんは、私が苦しがっていることに気づいて、慌てて口から手を離してくれた。
19: 2010/08/01(日) 20:25:40.61 ID:2xzpPlUr0
でも――さっきの、りっちゃんの反応。
いったい何を、は、明らかに手を握ったことに対する抗議だ。
普段ならば、スキンシップに拒否の反応なんて示さないりっちゃんが、このときこの場では拒否をした。
「ごめんね、苦しくて、つい、手を握っちゃったの……」
りっちゃんの手に触れてしまった左手がなんだか心許なくて、右手で包んで隠した。
初めて見た拒絶の表情が、頭から離れない。
変な気分。
「いや、私が」
りっちゃんは謝ろうとするけれど、私は言葉を遮った。
この不安定な気持ちを抑えられなくて、言ってしまった。
「でも意外だったわ。りっちゃんってそうこと気にしないかなって思ってたから」
「へ?」
「女の子同士で抱き合ったりとか……けいおん部では珍しくないし、唯ちゃんたちとはよくしてるから」
「え、あ……いや、ちがっ、さっきのは私の勘違いというか自意識過剰というか。わ、忘れてくれっ」
顔を赤くするりっちゃんが可笑しいけれど、なんだか複雑な気持ちでもある。
意識をされたこと、そして拒否されたこと。
「ううん、いいの。私とみんなとは違うし……それに、勘違いでも、同性から迫られたなんて思ったら、嫌よね」
「いやいやいや、だから」
「私が普段からそういうこと言っているからかしら? 自業自得よね。ごめんね」
いったい何を、は、明らかに手を握ったことに対する抗議だ。
普段ならば、スキンシップに拒否の反応なんて示さないりっちゃんが、このときこの場では拒否をした。
「ごめんね、苦しくて、つい、手を握っちゃったの……」
りっちゃんの手に触れてしまった左手がなんだか心許なくて、右手で包んで隠した。
初めて見た拒絶の表情が、頭から離れない。
変な気分。
「いや、私が」
りっちゃんは謝ろうとするけれど、私は言葉を遮った。
この不安定な気持ちを抑えられなくて、言ってしまった。
「でも意外だったわ。りっちゃんってそうこと気にしないかなって思ってたから」
「へ?」
「女の子同士で抱き合ったりとか……けいおん部では珍しくないし、唯ちゃんたちとはよくしてるから」
「え、あ……いや、ちがっ、さっきのは私の勘違いというか自意識過剰というか。わ、忘れてくれっ」
顔を赤くするりっちゃんが可笑しいけれど、なんだか複雑な気持ちでもある。
意識をされたこと、そして拒否されたこと。
「ううん、いいの。私とみんなとは違うし……それに、勘違いでも、同性から迫られたなんて思ったら、嫌よね」
「いやいやいや、だから」
「私が普段からそういうこと言っているからかしら? 自業自得よね。ごめんね」
21: 2010/08/01(日) 20:29:55.84 ID:2xzpPlUr0
できるだけ明るく、笑いながら言ったつもりだった。
やっぱり私はどこか違うのか、みんなとは本当の友達になれないのか、なんて、考えたくないことが頭をぐるぐる駆け巡る。
「でも、なんだかちょっとショック、だわ……なんて」
「……ムギ」
笑っていた口元が、固まった。
りっちゃんが真剣な瞳でこちらを見ている。
私の両手が、りっちゃんの両手に握られている。
「私は、他の誰も唯も関係なくて……例えば今の手握ったのでも、他の誰かならなんとも思なかったと思う、んだ」
ゆらゆら揺れる瞳に、ぼうっとした顔の自分が映っているのが見えて、なぜだか心臓が痛い。
りっちゃんが何を言おうとしているのかわからない。けれど、困らせてしまっている、のかもしれない。
「私は……お、お前が……っ」
「!」
両手が離された、と思ったら、今度は身体全体が拘束された。
息を飲む。頭の中が真っ白になる。
――りっちゃんに、抱きしめられている。
23: 2010/08/01(日) 20:33:34.27 ID:2xzpPlUr0
「り、りっちゃ……ん」
「紬」
「え?」
……なまえ? と言いかけたところで、いきなり引きはがされた。
りっちゃんは下を向いていて、なにを考えているのかわからない。
「ごめん、私、部屋出るわ」
「え?」
「これ以上近くにいると、なんか、何しちゃうかわかんないんだ」
りっちゃんはすくっと立った。
見回りだとか、ばれるとか、そういうことはすっかり忘れていた。
もっとも、足音なんてとっくに消えてから、ずっとここに隠れている必要などなかったのかもしれない。
けれど、そんなことはどうでもよかった。
今の状況に思考が追いつかない。
りっちゃんの言っていることの意味がわからない。
「私、最低だ。情けないよ……」
24: 2010/08/01(日) 20:36:46.25 ID:2xzpPlUr0
それでも私は、呟く彼女が立ち去るのをそのまま見ているわけにはいかなかった。
今りっちゃんがこんなに悲しい顔をしているのは、自分のせいだ。
細かい理由はわからないけれど、私がこうさせてしまった。
それがひどく痛かった。
「行かないで」
振り払われるかもしれない、と思いながら、背中にしがみついた。
「最低なんかじゃないわ。私は……」
私はりっちゃんにたくさんのものをもらった。りっちゃんのおかげで笑顔になれた。
でも、さっきのは――さっきの切ないような悲しいような複雑な気持ちは、私のわがままだ。
たくさん大切なものをもらったのに、よけいなものまで望みすぎた私の。
しかし、りっちゃんの考えていたことは、私には全く予想のつかないものだった。
「だ、だ、だめだ。放してくれ。私は、ほんと、変なんだ。ムギに変なことしちゃいそうなんだ!」
「え……?」
変なこと。
「え……っ」
25: 2010/08/01(日) 20:41:23.29 ID:2xzpPlUr0
その言葉を聞いて、今までのりっちゃんの行動を思い返して、考えた。
そして、やっと意味に思い当たった。
拒否された理由。何しちゃうかわからない、の意味は。
「え……え、えええ……?」
顔が熱い。身体も。そういえばりっちゃんにしがみついたままだ。
理解ができた今、こうして抱きついたままでいるのは、いけない? おかしい? のかもしれない。
でも、今放すべきではないと思った。
「あの、あの……えっと、うわあ」
どうしたらいいのかわからない。
でもこのまま放したら、別れたら、私がどう思おうと、りっちゃんは自己嫌悪だとか私に対する罪悪感だとかに苛まれるだろう。
今までみたいにはいられないかもしれない。それは絶対に嫌だ。
「放せ、放してくれ、本当にいま私おかしいから!」
「いやよ! だって」
暴れるりっちゃんの腰を、必氏で抱き留めた。
「私、嫌じゃないもの! りっちゃんに、なにされても! りっちゃんが悲しい顔したり、自分を責めるほうが嫌なの。だから」
「ばっ、バカ! なんてこと言うんだよ!」
「えっ……あ」
26: 2010/08/01(日) 20:43:27.00 ID:2xzpPlUr0
つい勢いで大胆なことを言ってしまった。
思わず出た言葉だけれど、でも、嘘ではない。本心だ。
「だから、こっち向いて? どこにも行かないで。笑ってほしいの」
一息に言い切って、りっちゃんを止めていた両手を放した。
私の言葉は、気持ちは伝わったのだろうかと、不安だった。
すると、りっちゃんはゆっくりとこちらを向いた。
ほっとしたのもつかの間、身体に衝撃が起きた。
ぼふ?
「りっちゃん?」
「ムギが、言ったんだぞ」
ソファの上に押し倒されていた。
「なにをされてもいいって……」
「ええっ!?」
29: 2010/08/01(日) 20:47:59.17 ID:2xzpPlUr0
まさかまさかまさか。
嘘だ冗談だ。こんなこと、りっちゃんが言うはずない。するはずない。
でも、りっちゃんは冗談でこんなことするような子じゃない。
「ほ、本気なの……?」
「私はおかしいって言っただろ、お前になにをするかわからないって」
「えぇっ? あのでも、ここ部室だし学校……というかもうそんな問題でもなくて、わ、わたし、こんな」
「好きな子にあんなこと言われて正気でいられる奴がいるかぁーっ」
「す、き……?」
びっくりして、呟いた。
その瞬間、りっちゃんの顔がぼっと赤くなった。
そして、視線をそらして、ささやくように言った。
「じゃなかったら、こんなことするはずないだろ」
「う、う……」
私相手に性的な衝動を感じたのだと言われて、もちろん驚いた。
けれどまさかそこに感情がついてくるなんて、願うことさえしていなかった。
対象外としてしか見てもらえないよりは、一時でも欲情された、それだけでもいいと思っていた……のだと思う、先ほどまでの私は。
――なんだ、私はりっちゃんが好きなんだ。
31: 2010/08/01(日) 20:52:42.50 ID:2xzpPlUr0
私は一切の抵抗をやめた。いや、違う。できなくなってしまった。
意識が遠のく。りっちゃんの顔が近づいてくる。
どきどきどきどき。
心臓が壊れるんじゃないかしら。
ああ、もうどうでもいい。
「紬……」
吐息が首筋を擽る。
そういえば、さっきから名前で呼ばれてる、なんて思ったときだった。
ガチャガチャと、ドアノブを回す音がした。
「っ!?」
「な、なに…っ?」
まさかまた見回りがきたのか。
こんな時間をおいて?
というかこんなところを見られたら完全にアウトだ。
テスト期間に、部室で、女同士とはいえソファーで抱き合い。
停学か、へたすると退学になる、かも。
一瞬、暗い未来が脳裏に浮かんだ。
32: 2010/08/01(日) 20:57:28.14 ID:2xzpPlUr0
けれど、ドアの外から聞こえた声は、聞き覚えのあるものだった。
「閉まってるみたい」
「それはそうだよ、お姉ちゃん。みなさんだってテスト期間くらいわかってるって」
唯ちゃんに、憂ちゃんだ。
「なんだ、あいつらかぁー」
「は、は……よかったわ」
でも安心するのは早かった。
唯ちゃんが合鍵を持っているということなんて、すっかり頭から抜けていた。
「ほんとはテスト期間は入っちゃいけないんだよ?」
「ううう~、でも今回は絶対に赤点取れないんだよぉ」
「今度からはワークブックを部室に置いたりしちゃ駄目だよ、お姉ちゃん!」
鍵を開ける音がする。
ドアが開いてしまう。
33: 2010/08/01(日) 21:01:31.12 ID:2xzpPlUr0
「あれ、ムギちゃん? なにやってるの? ムギちゃんもワーク忘れたの?」
「ううん、あのね、ちょっと掃除をしていたの」
「鍵を閉めて?」
「だって、見回りの先生がいるかもしれないから」
「っていうかなんで掃除を?」
「いつもはする時間ないから」
誤魔化し笑いをすると、唯ちゃんは「そうなんだー」と呟いた。
憂ちゃんは無表情だ。
「二人はどうしたの?」
「ワークとかを置き忘ちゃったんだぁ」
「そうなんだ。でも偉いわ。ちゃんと勉強するのね」
「うん! 前みたいにみんなに迷惑かけちゃいけないからさ」
「うふふ、私も頑張らないと」
饒舌な唯ちゃんとは逆に、さっきから憂ちゃんは何も言わない。黙ってソファのほうを見ている。
ドキリとした。
「う、憂ちゃん?」
「え……はい」
「どうしたの?」
「いえ、なんでもないです。……ところで、ここ、他に誰もいないですよね?」
「えぇっ!?」
34: 2010/08/01(日) 21:05:28.06 ID:2xzpPlUr0
思い切り動揺してしまった私に気づいたのか気づかなかったのか、憂ちゃんは苦笑いした。
「……変なこと言ってごめんなさい、忘れてください」
「? ええ……」
「なになに、ホラーな話!? 今度澪ちゃんに聞かせてあげよ~」
「あ、ところで、紬さん」
「うん?」
「髪と服、乱れてますよ?」
「えっ!?」
憂ちゃんの言葉に、私とりっちゃんは思わず声を上げてしまった。
やっぱり、憂ちゃんはなにか気づいてるのかもしれない。恐るべし最強の妹。
唯ちゃんはその言葉を聞いて「憂ったらそんなとこばっかみてヤラシーぞ、うりうり」なんて笑っていた。
私もかなりドキドキしていたけれど、ソファーの後ろに隠れていたりっちゃんはもっとドキドキだったと思う。
終わり
35: 2010/08/01(日) 21:09:14.07 ID:2xzpPlUr0
梓「私の恋もホッチキス」
とある日曜日。
ちょっとしたライブがあって、まあまあ成功して、みんなで浮かれて、そのまま打ち上げと称して夕飯を食べに行くことになった。
ふつうのファミレスだったけど、みんな良い気分になって盛り上がって、ついつい長居したら、あたりは真っ暗。
どうしよう、今日、自転車じゃないのに。
ちなみに私の家はここからけっこう遠い。
とある日曜日。
ちょっとしたライブがあって、まあまあ成功して、みんなで浮かれて、そのまま打ち上げと称して夕飯を食べに行くことになった。
ふつうのファミレスだったけど、みんな良い気分になって盛り上がって、ついつい長居したら、あたりは真っ暗。
どうしよう、今日、自転車じゃないのに。
ちなみに私の家はここからけっこう遠い。
36: 2010/08/01(日) 21:12:26.17 ID:2xzpPlUr0
「澪、梓を後ろに乗せてけよ」
実は昔ちょーっとこわい目に遭ったことがあるので、夜道は苦手だ。
沈んでいたらムギ先輩が「梓ちゃんどうしたの?」と訊いてきてくれた。
「あ、ええーと……」
「ああ、もう遅いし徒歩では危ないわよね。うちの車を呼びましょうか?」
「いや、そんな、大丈夫です」
なにせムギ先輩のお宅とは反対方向なので、私は断った。
それに先輩自身が電車で帰ろうとしているのに、私のために車を呼んでもらうのは、さすがに悪い。
そんな様子を見ていた律先輩の口から出た言葉が、さっきのだ。
「澪が送っていけよ、ここからなら方向同じだろ?」
私とムギ先輩以外はみんな自転車で来ている。
律先輩の言葉に、唯先輩が「そうだねー」と頷いた。
いつもなら家の近い律先輩と澪先輩は一緒のはずだけれど、今日は律先輩は平沢家にお泊まりらしい。
なんでも「明日の朝は憂ちゃんのご飯と味噌汁で目覚めたい」んだとか。
37: 2010/08/01(日) 21:15:35.87 ID:2xzpPlUr0
それにしてもこの状況。
ちょっと前の私だったら、心から喜んでうきうきとしていただろうと思う。
けれど今は複雑な心境だった。
「おい澪、なに一人で帰ろうとしてんだよ!」
そろりそろりとその場を立ち去ろうとする、澪先輩。
私の好きな人。
澪先輩は律先輩の声にビクリと身体を硬直させ、振り向いた。
ぎこちない表情。困っている。
「い、いやでも、まずいんじゃないか? 二人乗りは。補導とかされるかもだし」
「平気だろ、このへん交番もないし」
「そういう問題か!?」
「なんだよ澪、嫌なのかよ」
多分嫌なんだろうと思う。もちろん澪先輩は口に出したりなんかしないけれど。
「そうじゃなくて……お、女の子同士で二人乗りとか変だろ? 恋人でもないのに」
「はぁ!? 澪、お前ちょっとおかしいぞ。どうしたんだよ」
38: 2010/08/01(日) 21:19:35.25 ID:2xzpPlUr0
ぺしぺし、と澪先輩の頬を叩く律先輩。
さすがにさっきの言い訳は私もおかしいと思う。
「なんだ澪、初めての二人乗りは好きな人とじゃまきゃ、はぁと! とか考えちゃってんのか?」
にやにや笑う律先輩の言葉に、ムギ先輩が目を輝かせた。
「まあ! それなら梓ちゃんが初めてになって……そこから……恋いが……ぁあ」
「おーい、帰ってこーい」
勝手なことを言ってるみんなに、やめてくれと思いながら澪先輩のほうを見た。
やっぱり困っている。
いつもの澪先輩なら、きっとこんなこと言わないで、なにも考えず一緒に帰ってくれた。
でも、今は違う。
なぜって、数日前、私が澪先輩に告白したからだ。
39: 2010/08/01(日) 21:22:25.01 ID:2xzpPlUr0
「ま、まあまあ、みんなぁ。とりあえず、もう遅いからさっ。
えーっと……澪ちゃん、あずにゃんのこと、送ってくれるよね?」
唯先輩が、澪先輩の顔を覗き込んだ。
でも口をあんぐり開けたまま挙動不審にぎくしゃく手を動かす澪先輩を見て、唯先輩は眉根を下げた。
「ひ、一人で帰るから平気です! それではまた明日!」
勇んで歩き出すけれど、ムギ先輩に止められた。
「待って梓ちゃん、もう暗いし、澪ちゃんと二人で帰ったほうがいいわ」
「う……いや、でも」
思わず下を向くと、律先輩に背中を押された。
澪先輩のほうに倒れかかってしまう。
「みおー、送り狼になるなよ!」
意味をわかって言っているのだろうか。
なんだかもう面倒だしみじめな気持ちになってきたので、私は澪先輩の服の裾を引っ張った。
「みんなから見えなくなるまでで、いいです」
「あ、ああ……え、でも」
「このままじゃ、他の先輩方も帰れないですから」
無理矢理澪先輩の背中を押して、歩き出す。
とりあえず先輩方にバイバイだ。ムギ先輩は心配そうな顔をしているけれど。
40: 2010/08/01(日) 21:26:23.75 ID:2xzpPlUr0
自転車を押しながら、ギクシャクとロボットのように歩く澪先輩を見て、ため息を吐いた。
「もう、忘れていいです」
「えっ!?」
「……告白のこと」
こんなふうになると思わなかった――わけじゃないけれど、でも実際なったら、ものすごくつらい。しんどい。
多少きまずくなるくらいは、もちろん覚悟の上だった。
それでも伝えたいと思った。言わないでいることが苦しくて。
でもやっぱり言うべきじゃなかった。こんなの、一人で悩んでいるよりもつらすぎる。
だってあの日から澪先輩は私に笑ってくれない。
澪先輩の笑顔を、いつも、一番近くで見ていたい。
そう思って告白したのに、これじゃあ全然反対だ。
「というか、忘れてください……ってかんじです」
小さく呟いた。
いっそなかったことにできるなら、そうなりたい。どんなに片思いが苦しくても、今より、へいきだ。
でも、澪先輩は意外なことを言った。
41: 2010/08/01(日) 21:29:44.91 ID:2xzpPlUr0
「あ、そうか……そうだよな、私なんか、な。ただの気の迷いだよな」
「はぁ!?」
え、なに。
「幻滅、するよな。うまい対処もできないし。先輩らしくきりっとしいることも、無理だ。
ただ意識してしまってあたふたするだけで……梓に、変な態度をとってた」
なに言ってるの、この人。
「忘れる……できるかわからないけど、梓がそうしてほしいなら、努力する」
「……ばっかじゃないの! です!」
思わず叫んだ。
だって、止まらなかった。
「私は……わたしはそんな理由で忘れてって言ったんじゃない! そんな軽い気持ちなら、言わないです……女の人になんて、告白できません……」
42: 2010/08/01(日) 21:32:15.54 ID:2xzpPlUr0
――澪先輩が好きです。友情や憧れなんかじゃなく、女の人として。
そう言ったとき、澪先輩は驚いた顔をしていた。
それ以外は、何を考えているのかわからなかった。
別にいい返事がもらえるなんて思ってたほど脳天気じゃない。
もし断られても、好きでいる権利くらいはあるよね? そんなふうに考えてた。
でも、結局澪先輩は何も言わないで固まったままで――沈黙がつらくて、私は逃げた。
言い逃げをした。
明日になれば、なにか言ってくるかも。それがいいことでも、悪いことでも、受け止める覚悟をしていなきゃ。
それとも、なにもなかったふりをされるかな。そうしたらどうしよう。
そんな不安を抱えたまま、何日も日が過ぎた。
でも、澪先輩はずっと変わらないまま。ぎくしゃくと、私を避けて、何日も何日も。
痛かった。
「嫌いなら、嫌いって言えばいいじゃないですか。困るなら、迷惑だって言えば……そしたら」
そうしたら、あきらめられるだろうか?
それはわからない。
それでも、はっきり言われたほうがいい。
「でも、もう、いいや。わかったからいいです……」
43: 2010/08/01(日) 21:36:45.07 ID:2xzpPlUr0
なにやってるんだろう、澪先輩を困らせて。これじゃあ、ただ振り回しただけだ。嫌われても仕方がない。
でも澪先輩は私の腕を掴んで、真剣な瞳で言った。
「嫌いじゃない。迷惑でも、ない」
「! 後輩、だから……嫌いなんて言えないですよね」
「いや、そうじゃなくっ、だから――」
だから。
そう呟いた澪先輩の眉間には、しわが寄っていた。なにか、苦しいような、そんな顔。
「困ったには困ったけど、迷惑だからじゃない……迷惑じゃ、なかったから、なんだ」
「……え?」
「私は女だし、こんな気持ちは、抱いたらいけないんだ。抱いても、伝えたりしちゃいけないんだ、なのに」
澪先輩は髪をかきむしった。
「ああっ、私はなにを言ってるんだ! もう……」
「……」
私は、夜の道路の真ん中を、ぼう然と立ちつくした。
澪先輩は、何を言っているの。これは現実なの。
「呆れるだろ……? ここ数日、こんなことばかり考えていた」
「え……ぁ……」
うまく声が出ない。息が、できない。
澪先輩の瞳が、夜の闇にきらりと光る。くらくらする。
44: 2010/08/01(日) 21:42:07.97 ID:2xzpPlUr0
「けど、もう、言ってしまった。梓にバレた。一線を越えたこれから先は、もう何をしても同じだって、そう思わない、か?」
「へ……、は?」
「ごめん、私ここ最近お前のことばかり考えてちょっとおかしくなってるみたいなんだ」
そう言って、澪先輩は私に、キスをした。あまりに自然な動作で。
はっと気づけば、そこは私の家の前。なんて大胆な犯行。
いや、そんなことはどうでもいい。
それよりも、私のファーストキスだ。いくらなんでも急すぎる。こんなのって、ない。
「本当に悩んだんだ、これくらい許してくれ」
じゃあ、気をつけろよ、と言って澪先輩は去った。家の前でなにを気をつけろというのか。
突然キスしてくる不埒な先輩に気をつけろって?それならばもう遅い。
結局、律先輩が言っていたとおりになってしまったじゃないか。
とんだ送り狼だ。
それによく考えてみれば、はっきりと好きだとは言われていない。
それでいてキスはするなんて、本当に女の子の気持ちがわかっていない。
いつも、あんなに乙女チックな歌詞を書いているのに。
なんなんだ、あの人。
もう、なんなんだ!
好きだ!
「へ……、は?」
「ごめん、私ここ最近お前のことばかり考えてちょっとおかしくなってるみたいなんだ」
そう言って、澪先輩は私に、キスをした。あまりに自然な動作で。
はっと気づけば、そこは私の家の前。なんて大胆な犯行。
いや、そんなことはどうでもいい。
それよりも、私のファーストキスだ。いくらなんでも急すぎる。こんなのって、ない。
「本当に悩んだんだ、これくらい許してくれ」
じゃあ、気をつけろよ、と言って澪先輩は去った。家の前でなにを気をつけろというのか。
突然キスしてくる不埒な先輩に気をつけろって?それならばもう遅い。
結局、律先輩が言っていたとおりになってしまったじゃないか。
とんだ送り狼だ。
それによく考えてみれば、はっきりと好きだとは言われていない。
それでいてキスはするなんて、本当に女の子の気持ちがわかっていない。
いつも、あんなに乙女チックな歌詞を書いているのに。
なんなんだ、あの人。
もう、なんなんだ!
好きだ!
45: 2010/08/01(日) 21:46:04.15 ID:2xzpPlUr0
翌日、月曜日。
一限目が始まっている時間なのに私はまだベッドの中にいた。
昨日のことをいろいろと考えていると、憂と純から「どうしたの」というメールが来た。
なんて返そうか迷っていると、唯先輩からもメール。
憂経由で伝わったのかも。
「ふむ……」
とりあえず憂には『三限あたりから出る』と返信。純にはまあ、憂から伝えてもらえばいいだろう。
それから、唯先輩にはこう送った。
『送り狼さんに遭ったので、しばらく動けないってムギ先輩と律先輩に伝えておいてください』
目を輝かせて澪先輩に詰め寄るムギ先輩、驚く律先輩、首を傾げる唯先輩、いろいろな場面が脳裏に浮かぶ。
そして、困惑する愛しいあの人も。
ふああ、とあくびをして私はベッドから出た。
今日も部活が楽しみだ!
終わり
46: 2010/08/01(日) 21:48:51.43 ID:2xzpPlUr0
唯「本当にあった悲しい話」
47: 2010/08/01(日) 21:49:56.83 ID:2xzpPlUr0
!ぱそこん!
パソコンの授業にて
律「あー、だりー……ワードとか表とか意味わかんねーよぉ」
律「もうっ」ズダダダダダ
ああああああああああああああああああああああ
あああああああああああ
↑『A』キー押しっぱなし
唯「!」
唯「りっちゃんなにやってるの!? ダメじゃん!」
律「ん? あ、わけわかんなくてダルいからさー」
律「ていうか、そんな怒るなよ。唯だってサボってんだろ?」
パソコンの授業にて
律「あー、だりー……ワードとか表とか意味わかんねーよぉ」
律「もうっ」ズダダダダダ
ああああああああああああああああああああああ
あああああああああああ
↑『A』キー押しっぱなし
唯「!」
唯「りっちゃんなにやってるの!? ダメじゃん!」
律「ん? あ、わけわかんなくてダルいからさー」
律「ていうか、そんな怒るなよ。唯だってサボってんだろ?」
48: 2010/08/01(日) 21:53:30.59 ID:2xzpPlUr0
唯「怒るよ! いま地球は大変なんだよ!?」
唯「それなのに、こんなにインクを無駄遣いして!!!!」
律「」
律「え?」
律「あのな唯、パソコンの画面はインクではできていないんだ」
唯「えー? じゃあなんで色がつくの?」
律「だから光のなんとかだってこないだ情報の授業で習っただろ」
律「私も詳しいことはわかんないけどさ」
律「ていうかどっからインクが来てるんだよ」
唯「え? よくパソコン用のインクって売ってるよ?」
律「それはプリンターのだろ。プリンターのないパソコンだってあるじゃん!」
49: 2010/08/01(日) 21:56:12.53 ID:2xzpPlUr0
唯「えーーーーー、うーーーーん」
唯「りっちゃん間違ってるよ。やっぱインクだよ」
律「」
律「!」
律「じゃあさ、テレビはなんで色がつくんだよ?」
律「仕組みは同じようなもんだろ? でも家ではインクの補充なんてしないじゃん」
唯「……」
唯「そ、それは憂が多分見えないとこでしてるんだよ」
律「なんかもういいや……」
けど、次の情報のテストで唯が100点を取ったので、私は唯を殴りました。
50: 2010/08/01(日) 21:57:31.21 ID:2xzpPlUr0
!にく!
唯「最近ね、料理を始めたんだー。憂に任せきりじゃ悪いと思って」
澪「へー、偉いな」
唯「でもね、本とか見て作るんだけどね、困ることがあって」
澪「なに?」
唯「お肉がね、どれを買ったらいいかわかんないんだー」
澪「?」
澪「でも本に書いてあるだろ? 部位とかそういうこと?」
唯「よくわかんないけど、ビーフとかって本には書いてあって、でもスーパー行くとそんなのないんだよ」
澪「??」
澪「いや、牛肉はだいたい置いてあると思うけど……」
唯「牛肉はあったよ」
澪「???」
澪「ならそれ買えばいいだろ? あ、本の部位のがなかったってこと?」
唯「えー? なんでビーフなのに牛肉買っちゃうの? 違うじゃん」
澪「」
51: 2010/08/01(日) 21:59:47.30 ID:2xzpPlUr0
澪「え? ちょっと待て……よくわかんないんだけど」
澪「まさか唯はビーフが牛肉だって知らないとか」
澪「なーんて、それはないよな、まさか」
唯「??????」
澪「あばばばば」
澪「じゃあビーフってなんの肉だと思ってたんだよ!?」
唯「えっよくわかんないけど……ロースとかの仲間じゃないの?」
澪「」
澪「ポークは?」
唯「? なんか聞いたことある」
澪「……。じゃあチキンは?」
唯「鶏肉だよ。そのくらいわかるよ、馬鹿にしないで!」プンスカ
澪「」
53: 2010/08/01(日) 22:01:39.68 ID:2xzpPlUr0
澪「じゃあチキンがどの鳥の肉は知ってる?」
唯「えっ」
唯「鳥ならなんでもいいんだよ!」
澪「……。ニワトリだよ」
唯「!?」
唯「うっそだー! だってあんなにもさもさしてるのに……」
唯「澪ちゃん、騙そうたってそうはいかないよ! 料理に関してはもう澪ちゃんより詳しいんだから!」フンス
澪「」
ていうか、よく今まで何の動物の肉かわかんないもんを食べてられたよなーと思いました。
54: 2010/08/01(日) 22:04:10.42 ID:2xzpPlUr0
!せんがん!
朝、廊下にて
唯「あ、あずにゃん! おっはっぽ~」
梓「おはようございま……っ!?」
梓「ゆ、唯先輩、目やにが……!」
唯「ふえー? あ、ああほんとだー」ヒョイポイ
梓「もう、ちゃんとよく見て顔洗わなくちゃだめじゃないですかー」ササッヨケッ
唯「えー、でも目やには寝てからできるものだからさー、仕方ないよ」
梓「?」
梓「だって、朝、顔洗えばそんなの……」
梓「ま、まさか顔洗ってない……!?」
唯「え?」
唯「ゆうべお風呂のときにちゃんと洗ったよ?」
梓「ゆ、ゆうべ!? じゃあ今朝は……」
唯「朝は洗わないよ」
唯「ていうかあずにゃん洗ってるのー?」
朝、廊下にて
唯「あ、あずにゃん! おっはっぽ~」
梓「おはようございま……っ!?」
梓「ゆ、唯先輩、目やにが……!」
唯「ふえー? あ、ああほんとだー」ヒョイポイ
梓「もう、ちゃんとよく見て顔洗わなくちゃだめじゃないですかー」ササッヨケッ
唯「えー、でも目やには寝てからできるものだからさー、仕方ないよ」
梓「?」
梓「だって、朝、顔洗えばそんなの……」
梓「ま、まさか顔洗ってない……!?」
唯「え?」
唯「ゆうべお風呂のときにちゃんと洗ったよ?」
梓「ゆ、ゆうべ!? じゃあ今朝は……」
唯「朝は洗わないよ」
唯「ていうかあずにゃん洗ってるのー?」
55: 2010/08/01(日) 22:09:11.06 ID:2xzpPlUr0
梓「あ、当たり前です!」
梓「私だけじゃなくてみんなそうです!」
唯「えー? そんなことないと思うけどなあ」
梓「ていうか憂は注意しないんですか!? 憂は洗ってるでしょ!?」
唯「わかんないよ、朝は自分のことで精一杯だから」
唯「でも私が洗ってないんだから洗わないんじゃないのかなぁ」
梓「どうして自分基準なんですか!」
梓「と、とにかく明日からは絶対にちゃんと洗ってきてくださいね!」
梓「そうじゃないと抱きついてほっぺスリスリは禁止です!」
唯「ううーわかったよ」
授業中
梓「!」ブルルルルルルブルブル
梓(ん? 唯先輩からメールだ。なんだろう。あとでいいかな)
梓(あ、でもけいおん部の一斉送信になってる。なにか急用かも)パカ
56: 2010/08/01(日) 22:11:39.49 ID:2xzpPlUr0
From:唯先輩
Sub:みんなたすけてー(ToT)/~~
____________________________
あずにゃんが顔洗えってうるさ
いんだー(+_+)
洗わなきゃハグ×だってー!
どうしたら洗わないでもバレな
いかなあ☆
____________________________
梓「……」
その後憂に確認したら、憂は当たり前だけど洗っているということだったので、これからは唯先輩も監視するよう薦めました。
57: 2010/08/01(日) 22:14:04.47 ID:VRsDYsl30
!いたずら!
唯「あ、ねえムギちゃん見て見て~」ケイタイパカ
紬「え? なに? かわいい画像かなにか?」
唯「んっふっふ、そうだよかわいい画像だよ~」
唯「ほら! 憂の鼻わりばしー!」ジャーン!!!
紬「!!?」
紬「えっ、なにこれ、鼻と口の間に割り箸が……」
唯「そう、こうすると喋れなくなるんだよ!」エッヘン!
紬「痛そう……」
唯「そんなに痛がってなかったから大丈夫だと思うよ?」
紬「……」
紬「な、なんでこんなにひどいことをするの!?」
唯「えっ、でもこれ寝てる間にやったんだよ~?」
紬「もっとひどいわ! 唯ちゃん、どうして……」
唯「あ、ねえムギちゃん見て見て~」ケイタイパカ
紬「え? なに? かわいい画像かなにか?」
唯「んっふっふ、そうだよかわいい画像だよ~」
唯「ほら! 憂の鼻わりばしー!」ジャーン!!!
紬「!!?」
紬「えっ、なにこれ、鼻と口の間に割り箸が……」
唯「そう、こうすると喋れなくなるんだよ!」エッヘン!
紬「痛そう……」
唯「そんなに痛がってなかったから大丈夫だと思うよ?」
紬「……」
紬「な、なんでこんなにひどいことをするの!?」
唯「えっ、でもこれ寝てる間にやったんだよ~?」
紬「もっとひどいわ! 唯ちゃん、どうして……」
58: 2010/08/01(日) 22:16:11.15 ID:VRsDYsl30
唯「でも憂全然起きなかったから大丈夫だよ」
紬「そういう問題じゃないわ。寝ている人にこんなことしたらダメよ」
唯「えー、確かに起こしちゃったら可哀想だけどさ、でもちゃんと寝たままだったから大丈夫だよ」
紬「なんかヒドイの論点が違う」
唯「ていうかコレ憂に見せたら爆笑してたよ」
紬「!?」
唯「あ、そうそうこんなのもある。手足の指ぜんぶにとんがりコーン!」
唯「朝起きたとき、憂ってば怪人になった~!? って叫んだんだよぉ」
紬「」
りっちゃん話したら「私も弟によくする」と言われたので、ひとりっこの私には兄弟の感覚ってわからんなと思いました。
※でも憂ちゃんのように笑って済まさせるケースは超稀だそうです。
59: 2010/08/01(日) 22:18:41.93 ID:VRsDYsl30
!まさかのうらぎり!
梓「ってことがあってさ」
純「え? 朝は顔洗わないでしょ?」
梓「」
梓「きたねぇ近寄るな」
純「汚くないよ! 昨日お風呂で洗ったよ!」
梓「朝起きてまた洗えよ!」
純「寝てるだけだから汚くねーんだよ!」
梓「そのホッペのヨダレあとをどうにかしてから言え」
終わり
引用元: 唯「詰め合わせだよ」
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