1: 2010/09/12(日) 20:33:07.17 ID:jIh+vsM00


中野家

梓「あ、電話。純からだ」

梓「何だろ、こんな時間に」

ガチャ

純『あ、梓? 夏祭り行かない?』

梓「えー、もう受験生だよ、私たち。もう少しまじめに勉強して……」

2: 2010/09/12(日) 20:34:09.30 ID:jIh+vsM00
純『高校生最後の夏なんだからさ、存分に遊ばないと!』

梓「……まあ、そうかもしれないけど」

純『勉強ばっかに根詰めてたら、頭がパンクしちゃうよ。ね?』

梓「……たまにはいいかも、ね」

純『でしょ? じゃあ決まり! 神社で待ってるねー』

3: 2010/09/12(日) 20:34:52.40 ID:jIh+vsM00
梓「ああ、神社のお祭りね」

純『うん』

梓「わかった。行くから待っててね」

純『了解!』

プッ

梓「じゃあ、着替えようかな……ジャージ姿で行くのもアレだしね」

4: 2010/09/12(日) 20:35:36.54 ID:jIh+vsM00
三十分後

神社  境内

梓「お待たせ」

純「やほー、梓。来ないかと思ったよ」

梓「まさか。一度した約束は、守るたちなのよ。私」

純「えへ、よかったー」

梓「あれ、純一人だけ?」

5: 2010/09/12(日) 20:36:07.25 ID:jIh+vsM00
純「うん。そだよ」

梓「憂は?」

純「唯先輩と一緒にいちゃいちゃしてるって」

梓「ああ、明日で唯先輩、帰っちゃうからね」

純「うん」

6: 2010/09/12(日) 20:37:07.07 ID:jIh+vsM00
梓「もう、来年までは会えないのかな……唯先輩達と」

純「今生の別れじゃあるまいし。大学寮に帰るだけでしょ」

梓「ま、そうなんだけどね」

純「じゃあ、行こうよ。お祭り」

梓「何か、純と二人だけっての初めてな気がする」

7: 2010/09/12(日) 20:38:06.32 ID:jIh+vsM00
純「そうだっけ?」

梓「うん。あまり覚えない」

純「言われて見るとそうかも」

梓「でしょ?」

純「いっつも憂がいたからね」

梓「うん」

10: 2010/09/12(日) 20:39:03.29 ID:jIh+vsM00
純「ま、いいじゃんいいじゃん。二人っきりってのもテンション上がらない?」

梓「上がるね」

純「夏祭りってさ、すごく興奮するんだよね」

梓「わかる気がする」

純「周りの喧騒っての? そういうのに囲まれてるとさ、テンションだだ上がりでさ」

11: 2010/09/12(日) 20:40:00.63 ID:jIh+vsM00
梓「うんうん」

純「やる気みたいのがみなぎってくるの!」

梓「あるある!」

純「あ、早く行かないと!」

梓「うん。行こっか!」

12: 2010/09/12(日) 20:41:04.11 ID:jIh+vsM00
夏祭り会場

純「うわー、人で一杯」

梓「人に酔いそうだね」

梓「なんか、お金とか落としそう」

梓「純、気をつけてね」

13: 2010/09/12(日) 20:41:50.71 ID:jIh+vsM00
純「うん、大丈夫だって。あ、金魚すくいしない?」

梓「うん。いいね」

純「おッちゃん、網ちょうだい!」

屋台の主人「あいよ」

純「よーし、五匹とるぞ!」

14: 2010/09/12(日) 20:42:24.29 ID:jIh+vsM00
数秒後

純「……網破れた」

梓「純、金魚すくいへタだねえ」

純「ち、違うよ! 今回は手元が狂ったんだよ!」

純「次こそは!」

15: 2010/09/12(日) 20:43:05.25 ID:jIh+vsM00
数秒後

純「また破けた……」

梓「はは。私にやらせて。もっとうまく出来るよ」

純「な、じゃあやってみてよ!」

梓「いいよ、驚かないでね?」

17: 2010/09/12(日) 20:43:59.12 ID:jIh+vsM00
数秒後

梓「こういうのが出来ても、将来生きていけないわけで」

純「ほーら、やっぱり出来なかったじゃん」

梓「いや、私は別に? こういうところで才能が開花しても嬉しくないし?」

純「負け惜しみにしか聞こえないよ」

19: 2010/09/12(日) 20:44:50.33 ID:jIh+vsM00
梓「いや、そういうんじゃなくてね。実際問題……」

純「わかったから、次行くよ」

梓「次何するの?」

純「射的でもしよっか」

梓「あ、射的は得意なんだ!」

20: 2010/09/12(日) 20:45:26.57 ID:jIh+vsM00
射的終了後

梓「へへーん。どうよ! キャラメル二個!」

梓「あれ? 純は何もないの?」

純「くぅ! 何も言い返せない!」

梓「へへー、射的は得意なんだ」

22: 2010/09/12(日) 20:46:17.16 ID:jIh+vsM00
純「おかしい、銃身が曲がってたのよ、あれ」

梓「負けを認めなさい、純」

純「悔しい! マジで!」

純「じゃ、じゃあさ、型抜きしようよ! あれなら負けないよ!」

梓「いいけど、泣かないことね!」

24: 2010/09/12(日) 20:47:02.04 ID:jIh+vsM00
型抜き終了後

純「嘘だ……あと一センチくらいだったのに……なんであそこで割れる?」

梓「経験の差ね」

純「くー! 悔しい!」

梓「まあまあ、負けて悔しいのはわかるから」

純「うー! うー!」

26: 2010/09/12(日) 20:47:49.73 ID:jIh+vsM00
梓「あ、りんごアメ食べない?」

純「……いいけど」

梓「じゃ、買おうよ」

純「うん」

純「りんごアメ、二つください」

28: 2010/09/12(日) 20:48:29.46 ID:jIh+vsM00
屋台のおっさん「600円ね」

純(一個300円? 高すぎない?)

純「はい、600円」

屋台のおっさん「毎度」

純「はい、どうぞ」

梓「ありがと、純」

29: 2010/09/12(日) 20:49:15.34 ID:jIh+vsM00
純「うーん、甘すぎる」

梓「それがいいんじゃない」

純「私辛党なんだよね」

梓「え? いらないならちょーだい!」

純「やだよ! 私のだもん!」

梓「えー! けちー」

30: 2010/09/12(日) 20:49:59.75 ID:jIh+vsM00
純「それはそうと、次何する?」

梓「くじ引きとか?」

純「あれってはずれしかはいってないんだよ。一回もあたったことないもん」

梓「うーん、じゃあ食べまくる?」

純「いいね! そうしよっか」

31: 2010/09/12(日) 20:50:56.91 ID:jIh+vsM00
梓「まずは焼きとうもろこしね」

純「その後は焼き鳥、綿アメ!」

梓「焼きそば、チョコバナナ!」

純「いいねえ、じゃあ、早速買いに行こうよ!」

梓「うん!」

32: 2010/09/12(日) 20:51:51.19 ID:jIh+vsM00
数分後

純「全部買ったけど……どこで食べよっか」

梓「あ、あそこの石段のところでいいんじゃない?」

純「あ、そうだね。そこにしよっか」

梓「じゃあ、早く行こう。溶けちゃうよ、チョコ」

33: 2010/09/12(日) 20:53:04.30 ID:jIh+vsM00
石段

梓「食べきれるかな?」

純「大丈夫だよ! 明日から頭にカ口リー使うんだから。今のうちに蓄えないと!」

梓「そうだね。では」

純梓「いただきまーす!」

34: 2010/09/12(日) 20:54:01.64 ID:jIh+vsM00
純「うーん、やっぱり綿アメおいしい!」

梓「辛党じゃなかったの?」

純「綿アメは別格だよ」

梓「ふーん、あ、焼きとうもろこし美味しい」

純「去年唯先輩さ、リスみたいにそれ、食べてなかった?」

梓「ああ、げっ歯類みたいにね」

36: 2010/09/12(日) 20:55:11.94 ID:jIh+vsM00
純「あれは笑ったな~」

梓「あれ、憂直伝の食べ方らしいよ」

純「へー、平沢家ではあーやって焼きとうもろこし食べるんだ」

梓「うん。憂がやってる姿想像したらおっかしくてさー」

純「あー、確かに」

37: 2010/09/12(日) 20:56:03.30 ID:jIh+vsM00
梓「実際、あーやって食べる方が難しいよね」

純「だね」

純「チョコバナナは……普通だなぁ」

梓「あ、焼き鳥はうまい! いいね、このタレ」

純「あ、本当だ。すごい美味!」

38: 2010/09/12(日) 20:57:00.43 ID:jIh+vsM00
梓「憂も誘えばよかったねー」

純「本当だね」

梓「憂と一緒に食べたら、あの食べ方見れたかな?」

純「あー、みれたかもね。つくづく惜しいことをした!」

梓「来年は誘おうね!」

純「うん。来年は――」

39: 2010/09/12(日) 20:58:04.13 ID:jIh+vsM00
純(来年、か)

純(私たち、大学生になってるんだ)

純(想像できないなぁ)

純(来年、また来れるかな?)

梓「――どうしたの? 純」

純「ううん。なんでもない」

40: 2010/09/12(日) 20:59:01.52 ID:jIh+vsM00
梓「あ! 花火!」

純「え? どこどこ?」

梓「向こう向こう! ほら!」

純「あ、本当だ!」

梓「行ってみようよ、あっち!」

純「え、ちょっとまっt――

41: 2010/09/12(日) 21:00:01.34 ID:jIh+vsM00
純が制止するより早く、梓は純の手を引いて走り出していた。

梓「早く早く!」

純「わかったから! 手を離して!」

梓「あ、ごめんごめん」

純「もー、せっかちだなぁ」

梓「えへへ」

42: 2010/09/12(日) 21:00:47.48 ID:jIh+vsM00
純「歩いていこうよ。なくなるわけでもないし、ここからでも見えるし」

梓「そうしよっか」

純「あー、でもいきなり引っ張られるんで驚いたよ」

梓「どっか怪我した?」

純「ううん。大丈夫」

梓「よかった」

44: 2010/09/12(日) 21:01:32.51 ID:jIh+vsM00
けたましい音を立てて、花火が燃え盛る。

赤、青、緑。様々な色の花が、夜空を彩る。

梓「綺麗だね」

純「うん、とても」

自然に感想がもれる。

梓「でも、花火って何か寂しくならない?」

45: 2010/09/12(日) 21:02:24.61 ID:jIh+vsM00
純「え?」

梓「すぐに終わっちゃうところとかさ、何か寂しいな」

純「あー、わかるかもしれない」

梓「ま、だから綺麗なんだけどね。一瞬で終わっちゃうから」

純「――だよね」

46: 2010/09/12(日) 21:03:14.21 ID:jIh+vsM00
梓「夏、終わっちゃうね」

純「そんな感じがするね」

梓「あーあ、本格的に受験勉強やらないとなー」

純「悪夢のような日々だね」

梓「まったく」

48: 2010/09/12(日) 21:04:00.69 ID:jIh+vsM00
純「ま、それで大学は入れるんなら、お安いものなのかな?」

梓「落ちたら悲惨だね」

純「浪人は嫌だなー」

梓「なのにお祭りなんか行ってるんだからね」

純「ま、今日くらいは休んでもいいんじゃない?」

49: 2010/09/12(日) 21:05:02.44 ID:jIh+vsM00
純「明日から本気出すし」

梓「明日もそれ言わないでよ」

純「どんどん上乗せしてくんだ」

梓「いまに破産するよ」

純「そうかな?」

梓「多分ね」

50: 2010/09/12(日) 21:05:58.75 ID:jIh+vsM00
純「でもさー、不安になってくるなー。受かるかどうか」

梓「いくら勉強しても、そればかりはね」

純「もー、大学も義務教育にして欲しいな」

梓「だったら楽だよね」

純「でしょ? 将来偉くなって、大学も義務教育にするんだ!」

51: 2010/09/12(日) 21:06:52.83 ID:jIh+vsM00
梓「応援してるよ」

純「私が偉くなって……そのときは、梓を秘書にしてあげるね」

梓「夢のような話だね」

純「まあね、確かに」

でもさ、と純は語を継ぐ。

53: 2010/09/12(日) 21:07:46.07 ID:jIh+vsM00
純「子供のうちしか、夢は見られないんだよ」

純「今のうちに夢見といた方が得じゃない?」

梓「あと二年しか、夢を見られないのかー」

純「大人になったら、今度は夢を叶えるんだ」

梓「なるほどー」

54: 2010/09/12(日) 21:08:42.29 ID:jIh+vsM00
純「あ、花火もクライマックスに近づいてきたね」

梓「本当だ。どんどん大きくなってるからね」

純「あーあ、もう終わっちゃうよ。私の安息」

梓「まあね。でもさ、受験終わったら毎日がパラダイスじゃない?」

純「まだ半年もあるよ……」

梓「あ、本当だ」

55: 2010/09/12(日) 21:09:13.21 ID:jIh+vsM00
数十分後

梓「花火、終わったねー」

純「うん。帰ろうか」

梓「うん。帰ろう」

二人は神社を出た。

57: 2010/09/12(日) 21:10:00.92 ID:jIh+vsM00
純「お祭りの騒がしさがさ、まだ耳に残ってるよ」

梓「うん。いきなり静かになったから、耳がきーんってなる」

純「耳鳴りみたいだね」

梓「そうだね」

純「明日には直ってるだろうけどさ」

58: 2010/09/12(日) 21:10:55.41 ID:jIh+vsM00
静寂に包まれた夜の道は、なんだかとても気味が悪い。

純「なんか、怖くなってきちゃった」

梓「不気味だよね」

純「ねえ、手繋がない?」

梓「うん。繋ごっか」

59: 2010/09/12(日) 21:11:57.67 ID:jIh+vsM00
純「あー。手、繋いでると何か安心するよ」

梓「確かにね」

純「明日で、唯先輩たちともお別れかぁ」

梓「しんみりとする話題、ふってこないでよ」

純「でもさ、むなしくない?」

60: 2010/09/12(日) 21:13:18.15 ID:jIh+vsM00
梓「うん、むなしいって言うか、寂しいかな?」

純「あーあ、これといったこと何も出来なかったなー」

梓「そうかな? 楽しんでくれたと思うよ」

純「そうかな?」

梓「そうだよ。それにさ」

61: 2010/09/12(日) 21:14:04.66 ID:jIh+vsM00
純「何?」

梓「唯先輩達にとって、私達と再開できたことが何よりも嬉しいんだと思うよ」

純「……うん」

純「そうかもね」

梓はつい、と空を見上げる。

溢れんばかりの星空。

62: 2010/09/12(日) 21:14:59.76 ID:jIh+vsM00
梓「夏っぽい夜空だね」

純「あ、本当だ」

梓「あ、あれ火星じゃない?」

純「あの赤いの?」

梓「うん」

純「ああ、火星だね」

梓「何か、イイね」

純「うん。何かね」

64: 2010/09/12(日) 21:16:35.18 ID:jIh+vsM00
梓「――ねえ、純」

純「何? 梓」

梓「来年も、また来ようね」

純「今度は、皆で」

梓「うん。皆で――」

空を見ながら二人は、ゆっくりと歩いていく。

より長く一緒にいられるよう、ゆっくりと歩いていく。

梓の手の暖かさに、純はひたっていたかった。
                               終わり

引用元: 梓「夏祭り」