1: 2014/06/29(日)09:48:49 ID:aCJSzO3US
第1話
~ラダトーム城~
大臣「陛下! 陛下!」バタバタバタトビラバーン
王「どうした、騒々しい」
大臣「姫様が救出されましたぞ!」
王「何だと!?」ガタッ
大臣「今度の勇者殿は強いですなぁ……」ウンウン
王「これは……いよいよ不味いな……」
大臣「姫様が助かったと言うのに、何て事を!」
王「や、姫が助かったのは良いんだ。
良かった良かった」
大臣「では何が」
王「勇者殿だよ」
大臣「あ……」
~ラダトーム城~
大臣「陛下! 陛下!」バタバタバタトビラバーン
王「どうした、騒々しい」
大臣「姫様が救出されましたぞ!」
王「何だと!?」ガタッ
大臣「今度の勇者殿は強いですなぁ……」ウンウン
王「これは……いよいよ不味いな……」
大臣「姫様が助かったと言うのに、何て事を!」
王「や、姫が助かったのは良いんだ。
良かった良かった」
大臣「では何が」
王「勇者殿だよ」
大臣「あ……」
9: 2014/06/29(日)09:57:25 ID:aCJSzO3US
王「護衛のドラゴンも倒したんだろう?
どれだけ強くなるのか……」
大臣「最初はスライムに殺されかけてたのにwww」
王「笑い事じゃない。
万に一つ、このまま竜王を討ち取ってみろ」
大臣「恩賞の領地は、どうされますか」
王「それを悩んでおるのだ。。
人間同士の戦争では無いからな、領地を獲得できる訳じゃない」
大臣「今までの勇者殿は文句を言いませんでしたからなぁ」
王「氏人に与えるのは名誉だけで充分だからな」
大臣「更に我々が宣伝しまくった所為で
民衆の勇者人気は凄まじい事になっておりますぞ」
王「そう言う事だ。
勇者殿をぞんざいに扱ってみろ、今度は我々が求心力を失う」
大臣「……」
王「……」
大臣「ま、まぁ、まだ氏なないと決まった訳ではないですし」
王「それもそうなんだが……
これってフラグ立ってないか?」
大臣「取り敢えず来週には各領主との会談があります。
そこで話し合ってみましょう」
11: 2014/06/29(日)10:00:48 ID:aCJSzO3US
ゾーマ軍がアレフガルドを恐怖の底に突き落としてから、長い長い時間が経った。
アレフガルド全土が平和に慣れ切った頃、新たな脅威が人々を襲う。
竜王に率いられた、新たな侵略部隊であった。
しかし、平和に慣れたとは言え、アレフガルド人民と国軍は頑強に抵抗した。
侵略直後の大規模な会戦により、両軍は大きな損害を被る。
これにより両軍の間に奇妙な休戦期間が訪れた。
両軍は来たるべき決戦の為に、兵力の復旧を試みる。
特にアレフガルド軍は、各河川に兵力を集中させる手法で以て、竜王軍の大規模な作戦行動を封じ込めた。
こうして、両軍が、しのぎを削って作り上げた危うい膠着状態。
その中で今、一人の「勇者」が頭角を現し始めた。
15: 2014/06/29(日)10:06:15 ID:aCJSzO3US
第2話
~一週間後 ラダトーム城~
国王「さて、今日、皆さんに集まって頂いたのは、他でも無い」
領主A「勇者殿の事ですな」
国王「左様」
領主B「我が領民も、勇者殿を神の様に崇めておりまする」
大臣「ちょっと煽り過ぎましたかね」
領主C「何を呑気な。
このままでは我々の権威に関わりますぞ」
領主A「国軍は何をやっているのか、と、
口にせずとも人民の顔に浮かんでおります」
領主B「しかし、まさか、ドラゴンを倒すとは……
本物のロトの末裔なのでは?w」
領主C「本物だろうが偽物だろうが関係無い。
国王陛下、竜王は我々の軍で打ち破らねばならんのですぞ」
~一週間後 ラダトーム城~
国王「さて、今日、皆さんに集まって頂いたのは、他でも無い」
領主A「勇者殿の事ですな」
国王「左様」
領主B「我が領民も、勇者殿を神の様に崇めておりまする」
大臣「ちょっと煽り過ぎましたかね」
領主C「何を呑気な。
このままでは我々の権威に関わりますぞ」
領主A「国軍は何をやっているのか、と、
口にせずとも人民の顔に浮かんでおります」
領主B「しかし、まさか、ドラゴンを倒すとは……
本物のロトの末裔なのでは?w」
領主C「本物だろうが偽物だろうが関係無い。
国王陛下、竜王は我々の軍で打ち破らねばならんのですぞ」
16: 2014/06/29(日)10:08:43 ID:aCJSzO3US
国王「……分かっておる。分かっておるが、」
領主A「が?」
大臣「我々も捕捉するのに精一杯なのです」
領主B「こちらからの指示は?」
大臣「元々が正規兵では無い故、命令系統が無く……」
領主C「全く話になりませんな!」
王「何か案は無いだろうか、知恵を御借りしたい」
領主A,B,C「……」
伝令「こっ、国王陛下!」バタバタバタトビラバーン
大臣「何事であるか! 場を弁えい!」
国王(お前もやったけどな)
伝令「しっ、失礼しました! 報告します!」
領主A,B,C(あっ、これアカンやつや)
24: 2014/06/29(日)10:12:14 ID:aCJSzO3US
伝令「勇者殿がメルキドへ入城を果たしたそうです!」
国王「な……っ!?」
大臣「メルキドだとう? あの城塞都市にか!
ゴーレムは、ゴーレムは、どうした!?」
伝令「ゆっ、勇者殿の手により破壊された模様!」
領主A「そんな馬鹿な……」
領主B「やっぱ本物かも分からんね」
領主C「本物だとしても、あのゴーレムを破壊しただと?
総勢700を超える大攻城部隊を返り討ちにした、あのゴーレムだぞ?」
伝令「笛吹いたら寝た、との報告です!」
兵士長「伝説の、妖精の笛か……」
大臣「何か言ったか、兵士長」
兵士長「いえ、何も」
国王「しかし、ゴーレムを失ったのは大きな痛手だ。
メルキドの駐留部隊は殆ど引き抜いてしまっている……」
領主A「抽出できる予備兵力は?」
領主B「メルキドが落ちては、我々に勝ち目は無くなる」
領主C「どうされるのです、国王陛下!」
28: 2014/06/29(日)10:13:47 ID:aCJSzO3US
大臣「予備兵力が無い訳では無い。
第一兵団がラダトーム城に駐留している。
しかし、それは来たるべき決戦に向けて温存してある精鋭部隊。
メルキドへの道中や、防衛戦で消耗してしまっては……」
国王「背に腹は代えられん。
第一兵団をメルキドへ送る」
大臣「陛下!?
決戦を放棄するおつもりですか!?」
国王「馬鹿を言うな!
私だって温存しておきたい!
しかし今! メルキド人民が危機に瀕している!
我々が選択した作戦の結果だ!
メルキドから部隊を取り上げ、
ゴーレムを取り上げ、
決戦兵力の温存の為に見頃しにするのか!?
そんな決戦に何の意味がある!?」
大臣,領主A,B,C「……」
国王「……幸いにして、近衛師団も健在だ。
状況によっては此処を空にしてでも決戦兵力は抽出する。
……大臣、早速手配を」
大臣「……は、畏まりました」
国王「折角御集まり頂いたのに、私も席を外さねばならなくなりました。
申し訳無いですが、これにて失礼します」ガタッ
大臣「陛下、第一兵団到着までの期間だけでも、
勇者殿をメルキド駐留部隊に編入しては如何でしょうか」
国王「そうしたい所だが、駐留部隊の面子もある。
編入では無く街を離れぬよう伝えておけ」
大臣「は、畏まりました」
国王「全く、大した勇者殿だ……」
第一兵団がラダトーム城に駐留している。
しかし、それは来たるべき決戦に向けて温存してある精鋭部隊。
メルキドへの道中や、防衛戦で消耗してしまっては……」
国王「背に腹は代えられん。
第一兵団をメルキドへ送る」
大臣「陛下!?
決戦を放棄するおつもりですか!?」
国王「馬鹿を言うな!
私だって温存しておきたい!
しかし今! メルキド人民が危機に瀕している!
我々が選択した作戦の結果だ!
メルキドから部隊を取り上げ、
ゴーレムを取り上げ、
決戦兵力の温存の為に見頃しにするのか!?
そんな決戦に何の意味がある!?」
大臣,領主A,B,C「……」
国王「……幸いにして、近衛師団も健在だ。
状況によっては此処を空にしてでも決戦兵力は抽出する。
……大臣、早速手配を」
大臣「……は、畏まりました」
国王「折角御集まり頂いたのに、私も席を外さねばならなくなりました。
申し訳無いですが、これにて失礼します」ガタッ
大臣「陛下、第一兵団到着までの期間だけでも、
勇者殿をメルキド駐留部隊に編入しては如何でしょうか」
国王「そうしたい所だが、駐留部隊の面子もある。
編入では無く街を離れぬよう伝えておけ」
大臣「は、畏まりました」
国王「全く、大した勇者殿だ……」
29: 2014/06/29(日)10:14:29 ID:aCJSzO3US
>>27
みたいです!
ふっかつのじゅもんをまちがえたのかと思いました!
みたいです!
ふっかつのじゅもんをまちがえたのかと思いました!
30: 2014/06/29(日)10:16:26 ID:aCJSzO3US
37: 2014/06/29(日)10:21:31 ID:aCJSzO3US
第3話
~竜王城~
竜王「ゴーレムが勇者に破壊された?」
大魔道「は、左様で」
竜王「貴様等が落とせなかったメルキドを、
たった一人で落としたのか」フン
大魔道,氏神の騎士「……」
竜王「しかし、これでメルキドがガラ空きになる」
氏神の騎士「是非とも私めにメルキド攻略の機会を!」
竜王「ゴーレムが居らずとも、勇者が居るぞ?
貴様等がメルキド攻略戦で失った兵力を忘れたか?」
氏神の騎士「」ビクッ
大魔道「ドラゴン300、鎧の騎士300、ストーンマン100……」ガクガク
竜王「そうだ。
どんな手段を用いたのかは分からんし、
ゴーレム自体が限界だったかも知れない。
我々の攻撃により損傷が蓄積していたかも知れない。
しかし、いずれにせよ、たった一人の人間によって、ゴーレムは破壊された。
その勇者が居るメルキドを攻略するとな?」
氏神の騎士「……」
竜王「さりとて放置する訳にはいかん。
此処で見失えば捕捉する事すら困難になる。
……大魔道」
大魔道「は」
~竜王城~
竜王「ゴーレムが勇者に破壊された?」
大魔道「は、左様で」
竜王「貴様等が落とせなかったメルキドを、
たった一人で落としたのか」フン
大魔道,氏神の騎士「……」
竜王「しかし、これでメルキドがガラ空きになる」
氏神の騎士「是非とも私めにメルキド攻略の機会を!」
竜王「ゴーレムが居らずとも、勇者が居るぞ?
貴様等がメルキド攻略戦で失った兵力を忘れたか?」
氏神の騎士「」ビクッ
大魔道「ドラゴン300、鎧の騎士300、ストーンマン100……」ガクガク
竜王「そうだ。
どんな手段を用いたのかは分からんし、
ゴーレム自体が限界だったかも知れない。
我々の攻撃により損傷が蓄積していたかも知れない。
しかし、いずれにせよ、たった一人の人間によって、ゴーレムは破壊された。
その勇者が居るメルキドを攻略するとな?」
氏神の騎士「……」
竜王「さりとて放置する訳にはいかん。
此処で見失えば捕捉する事すら困難になる。
……大魔道」
大魔道「は」
41: 2014/06/29(日)10:25:39 ID:aCJSzO3US
竜王「悪魔の騎士は、ドムドーラか?」
大魔道「はい。
強襲部隊の再編を終え、当該地域の哨戒を再開しております」
竜王「例の鎧を餌に、
勇者をドムドーラに誘い出せ。
悪魔の騎士に、汚名を濯ぐ機会を与える」
氏神の騎士「私めにも、どうか……!」
竜王「ならん」
氏神の騎士「……」
竜王「影、氏神の騎士両名は、
スターキメラの偵察部隊と合同で出撃、
ラダトーム城よりメルキドに向かう兵団の足を止めよ」
氏神の騎士「足止め、で御座いますか?」
竜王「不満そうだな?」ニヤリ
氏神の騎士「い、いえ、そんな事は……」
竜王「恐らく、
決戦の為に温存していた予備兵力だ。
最精鋭の、第一兵団」
氏神の騎士「!」
竜王「分かるだろう、彼等も苦しいが、
我々も兵を失い過ぎた。
各地でアレフガルド軍と睨み合っている。
機動的に運用し、且つ大規模な攻撃を仕掛けられる程の兵力は抽出できない。
……分かるな?」
氏神の騎士「は、御意に」
竜王「では、直ちに掛かれ」
大魔道,氏神の騎士「はっ!」
大魔道「はい。
強襲部隊の再編を終え、当該地域の哨戒を再開しております」
竜王「例の鎧を餌に、
勇者をドムドーラに誘い出せ。
悪魔の騎士に、汚名を濯ぐ機会を与える」
氏神の騎士「私めにも、どうか……!」
竜王「ならん」
氏神の騎士「……」
竜王「影、氏神の騎士両名は、
スターキメラの偵察部隊と合同で出撃、
ラダトーム城よりメルキドに向かう兵団の足を止めよ」
氏神の騎士「足止め、で御座いますか?」
竜王「不満そうだな?」ニヤリ
氏神の騎士「い、いえ、そんな事は……」
竜王「恐らく、
決戦の為に温存していた予備兵力だ。
最精鋭の、第一兵団」
氏神の騎士「!」
竜王「分かるだろう、彼等も苦しいが、
我々も兵を失い過ぎた。
各地でアレフガルド軍と睨み合っている。
機動的に運用し、且つ大規模な攻撃を仕掛けられる程の兵力は抽出できない。
……分かるな?」
氏神の騎士「は、御意に」
竜王「では、直ちに掛かれ」
大魔道,氏神の騎士「はっ!」
45: 2014/06/29(日)10:33:44 ID:aCJSzO3US
第4話
~ラダトーム城~
国王「第一兵団の状況はどうだ」
大臣「は、余り芳しくない様です。
スターキメラ率いる偵察部隊により散発的な攻撃を受け、
思った様に進軍速度が上がらないとか」
国王「消耗は?」
大臣「目立った被害は無い様です。
影、氏神の両騎士の部隊も戦闘に参加しているとの報告もありますが……」
国王「六魔将の三人を投入して足止めか?」
大臣「彼等も苦しいのでしょう」
国王「それは、そうだろう。
しかし、足止めして時間を稼いで……
何が狙いだ、竜王め……」
大臣「如何に時間が掛かろうとも、
兵力の消耗さえ無ければメルキド防衛は果たせます」
伝令「陛下!」バタバタバタトビラバーン
大臣「陛下の御前に、騒々しいぞ!」
国王(聞きたくないなぁ……)
~ラダトーム城~
国王「第一兵団の状況はどうだ」
大臣「は、余り芳しくない様です。
スターキメラ率いる偵察部隊により散発的な攻撃を受け、
思った様に進軍速度が上がらないとか」
国王「消耗は?」
大臣「目立った被害は無い様です。
影、氏神の両騎士の部隊も戦闘に参加しているとの報告もありますが……」
国王「六魔将の三人を投入して足止めか?」
大臣「彼等も苦しいのでしょう」
国王「それは、そうだろう。
しかし、足止めして時間を稼いで……
何が狙いだ、竜王め……」
大臣「如何に時間が掛かろうとも、
兵力の消耗さえ無ければメルキド防衛は果たせます」
伝令「陛下!」バタバタバタトビラバーン
大臣「陛下の御前に、騒々しいぞ!」
国王(聞きたくないなぁ……)
46: 2014/06/29(日)10:35:36 ID:aCJSzO3US
伝令「報告致します!
勇者殿がメルキドを出立!」
国王「」
大臣「兵団到着まで待機との指示は、どうなっとる!?」
伝令「それが……ゴーレムを破壊してしまった事について、
メルキド人民の風当たりが強く、それに堪え兼ねた様で……
大臣「」
国王「して、何処に向かったのか?」
伝令「ドムドーラ、との報告です!」
大臣「ドムドーラだとぅ?」
国王「悪魔の騎士率いる強襲部隊の前進基地じゃないか。
何が目的だ?」
伝令「そこまでは……」
兵士長「伝説の、ロトの鎧か……」
大臣「何か言ったか、兵士長」
兵士長「いえ、何も」
勇者殿がメルキドを出立!」
国王「」
大臣「兵団到着まで待機との指示は、どうなっとる!?」
伝令「それが……ゴーレムを破壊してしまった事について、
メルキド人民の風当たりが強く、それに堪え兼ねた様で……
大臣「」
国王「して、何処に向かったのか?」
伝令「ドムドーラ、との報告です!」
大臣「ドムドーラだとぅ?」
国王「悪魔の騎士率いる強襲部隊の前進基地じゃないか。
何が目的だ?」
伝令「そこまでは……」
兵士長「伝説の、ロトの鎧か……」
大臣「何か言ったか、兵士長」
兵士長「いえ、何も」
47: 2014/06/29(日)10:37:27 ID:aCJSzO3US
国王「これは不味いな……
まさか竜王め、これが狙いか?」
大臣「……!
いえ、陛下、これはチャンスですぞ!」
国王「どう言う事か?」
大臣「勇者殿が強襲部隊を攻撃し、
壊滅ともなれば当該地域の脅威は大きく低下します。
つまり兵団の到着が多少遅れても問題無い訳です」
国王「ふむ」
大臣「もし勇者殿が強襲部隊に返り討ちに遭えば、
それは大変残念な事です。
しかし単騎で敵の根拠地を攻撃した名誉を讃えるべきでしょう」ドヤァ
国王「大臣よ……」ゴゴゴ
大臣「はい?」
国王「御主も悪よのう」パアァ
大臣「いえいえ、国王陛下程では御座いません」パアァ
国王「さて、今日は良く寝れそうだ」
大臣「良き事です。
どうぞ、ごゆっくり御休みなさいませ」
49: 2014/06/29(日)10:41:19 ID:aCJSzO3US
第5話
~リムルダール近郊
混成攻撃部隊野戦司令部~
影の騎士「ドムドーラが、落ちた……」
氏神の騎士「悪魔の騎士め、先に逝きやがって……
畜生……」
スターキメラ「再編直後とは言え、
たった一人の人間相手に……」
氏神の騎士「ええい! アレフガルドの勇者は化け物か!?」ドンッ
大魔道「その件について、
作戦の一部を変更するとの陛下の指示だ」
影の騎士「大魔道殿、来ておったのか」
大魔道「あぁ。
両軍共に上へ下への大騒ぎ。
御陰で此の私が使い走りと言う訳だ」
スターキメラ「それは災難な事だ。
して、陛下は何と仰せなのか」
~リムルダール近郊
混成攻撃部隊野戦司令部~
影の騎士「ドムドーラが、落ちた……」
氏神の騎士「悪魔の騎士め、先に逝きやがって……
畜生……」
スターキメラ「再編直後とは言え、
たった一人の人間相手に……」
氏神の騎士「ええい! アレフガルドの勇者は化け物か!?」ドンッ
大魔道「その件について、
作戦の一部を変更するとの陛下の指示だ」
影の騎士「大魔道殿、来ておったのか」
大魔道「あぁ。
両軍共に上へ下への大騒ぎ。
御陰で此の私が使い走りと言う訳だ」
スターキメラ「それは災難な事だ。
して、陛下は何と仰せなのか」
50: 2014/06/29(日)10:43:20 ID:aCJSzO3US
大魔道「あぁ。
陛下の親衛隊からドラゴン主戦部隊を預かり、
ドムドーラへ進出せよ、との命令だ」
氏神の騎士「ドラゴン主戦部隊だと!?
決戦の為に温存してあったのでは無いのか?」
大魔道「温存どころか再編成も半ばだ。
しかし、陛下は決断なされた。
アレフガルド軍が予備兵力をメルキドに差し向けた様に、な」
氏神の騎士「……」
大魔道「スターキメラ殿は、
偵察部隊を率いてドムドーラ近郊へ急行。
強襲部隊の残存兵力結集を支援し、主戦部隊到着まで、これを援護せよ」
スターキメラ「承知した。
では、この作戦は中止と言う事だな?」
影の騎士「いや、作戦は継続される。
違うか、大魔道殿?」
大魔道「……その通りだ」
スターキメラ「何だと?」
52: 2014/06/29(日)10:45:18 ID:aCJSzO3US
大魔道「作戦の一部を変更する、と言った筈だ。
……影の騎士殿は、残余の兵力を以って作戦を継続せよ」
氏神の騎士「冗談では無い!」
スターキメラ「陛下は何を御考えだ……」
影の騎士「さっき大魔道殿が仰ったろう。
陛下は決断なさったのだ」
スターキメラ「ならば私の部隊を残して……」
影の騎士「ならん」
スターキメラ「何?」
影の騎士「今や貴公の兵力は、単なる偵察部隊では無い。
集中して運用可能な、貴重な機動兵力だ。
こんな所で擦り潰しては、陛下に申し訳が立たない」
氏神の騎士「だからと言って……」
スターキメラ「……」
影の騎士「ギガンテス殿も悪魔の騎士殿も、きっと立派に逝った事だろう。
我輩も同じ、陛下に御身を捧げておる。
貴公等とて同じであろ?」
スターキメラ「……そうか
……そうだな」
54: 2014/06/29(日)10:49:12 ID:aCJSzO3US
影の騎士「これは、陛下に賜った、我輩の晴れ舞台だ。
影に生まれて影に生きた我輩が、斯様な晴れ舞台に立てるのだ。
逝かせてくれ」
大魔道「氏ぬまで戦え、と言う命では無い。
陛下も、そんな事は望んでおらん」
影の騎士「はは、分かっておる。無駄氏にするつもりはない。
しかし、遅かれ早かれ、同じ場所に行くのだ。
ならば立派に戦って、立派に逝きたい。
ギガンテス殿や、悪魔の騎士殿も、待っておる」
氏神の騎士「影の騎士よ」
影の騎士「何だ」
氏神の騎士「……いや、何でも無い」
氏神の騎士「貴公の、武運長久を祈る」
影の騎士「貴公等もな」
影の騎士「また、会おう」
58: 2014/06/29(日)10:55:17 ID:aCJSzO3US
第6話
~ラダトーム城~
国王「ドムドーラを陥落せしめたものの」
大臣「第一兵団は度重なる攻撃を受けて、
進軍は遅延」
国王「その間に竜王軍が、ドムドーラへ、
ドラゴン主戦部隊を展開」
大臣「強襲部隊の残存兵力と合流、
ドムドーラを拠点に再編成中」
国王「……」
大臣「悪魔の騎士に続いて、
影の騎士を討ち取った事は朗報と言えますが……」
国王「何が朗報か。
第一兵団のメルキド入城が間に合わねば、どうなっていた事か」
大臣「間一髪でした」
国王「あれだけの戦力で第一兵団の足を止め続けたのだ。
敵将ながら大したものだ」
大臣「そしてメルキド方面は再び睨み合いですな」
国王「あぁ、恐らくは彼等にとっての第一兵団だ。
これで両軍とも決戦兵力を動かせない」
60: 2014/06/29(日)10:58:49 ID:aCJSzO3US
大臣「しかし、気懸かりなのが、勇者殿です。
ドムドーラ陥落後の足取りが掴めません」
国王「あぁ、いつだって彼が気懸かりだ」
大臣「このまま竜王城へ乗り込むつもりでしょうか?」
国王「そうだとしても、橋の問題をどうする。
リムルダールと竜王城の間の橋は、
先の会戦後に竜王軍が破壊したままだ」
大臣「工兵を投入するにしても、
敵前での架橋作業となります」
国王「例え架橋が成功したとして、だ。
その後を、どうする。
幾ら竜王城がガラ空きだとしても、親衛隊の強さは桁違いだ」
大臣「再び橋を破壊でもされれば、後は包囲殲滅されるのみ」ブルッ
国王「いずれにせよ手詰まりだ。
竜王軍も、我々も、勇者殿も、な」
伝令「陛下、御報告です」コンコン
大臣「うむ、入れ」
国王(今日は静かだな。これは良い報告だな!)
62: 2014/06/29(日)11:04:52 ID:aCJSzO3US
伝令「失礼します。
勇者殿をリムルダール近郊にて確認、との報告です」
大臣「ふむ、矢張り竜王城を目指して……?」
国王「だとして、泳いで渡るつもりか?」ハハッ
伝令「なお、未確認の情報ですが、」
大臣「?」
伝令「勇者殿は竜王城への架橋に成功、攻城を開始したとの報告もあります」
国王「」
大臣「ちょ、ちょっと待て。
架橋に成功、だと?」
伝令「何か、ネックレスみたいなのを持ち上げたら、
橋が架かったとの報告です。
……未確認の情報ではありますが」
兵士長「伝説の、虹の雫か……!」
大臣「何か言ったか、兵士長」
兵士長「いえ、何も」
勇者殿をリムルダール近郊にて確認、との報告です」
大臣「ふむ、矢張り竜王城を目指して……?」
国王「だとして、泳いで渡るつもりか?」ハハッ
伝令「なお、未確認の情報ですが、」
大臣「?」
伝令「勇者殿は竜王城への架橋に成功、攻城を開始したとの報告もあります」
国王「」
大臣「ちょ、ちょっと待て。
架橋に成功、だと?」
伝令「何か、ネックレスみたいなのを持ち上げたら、
橋が架かったとの報告です。
……未確認の情報ではありますが」
兵士長「伝説の、虹の雫か……!」
大臣「何か言ったか、兵士長」
兵士長「いえ、何も」
63: 2014/06/29(日)11:06:12 ID:aCJSzO3US
国王「何と……何と、言う事だ」
大臣「へ、陛下……」
国王「事此処に至って、
我々は完全に主導権を失った。
我々だけでは無い、竜王軍も同じだ」
大臣「……」
国王「双方が睨み合って動けない中、
たった一人の人間だけが自由に、かつ不規則に、
アレフガルド全土を飛び回っている」
大臣「まるで、破壊神の様です」
国王「最早、我々は、勇者殿の動きを見守るしかない」
国王「しかし、これで終わりには出来ない」
国王「彼が勝とうが負けようが、
私には、この国を治める義務がある」
国王「例え、どんな汚い手を使っても、だ」
69: 2014/06/29(日)11:12:07 ID:aCJSzO3US
第7話
~竜王城 地下一階~
勇者「ノリで此処まで来てしまった」ドーン
勇者(思えば、あの『勇者急募』の貼紙が
全ての始まりだったんだよな)テクテク
勇者(身寄りも無ければ仕事も無くて、
魔物の討伐で日銭を稼いで)テクテク
勇者(でも出自も分からないから、
国軍にも雇って貰えなくて)テクテク
勇者(仕方無く、勇者として雇って貰った)テクテク
勇者(とは言え、前金は数泊分の宿代のみ)テクテク
勇者(先輩方は全員
『立派に戦って名誉の戦氏を遂げた』らしい)テクテク
勇者(俺も、そうなる筈だったのにな)テクテク
勇者(姫様を助けて、連れ帰った時の、
王様の顔が忘れられない)テクテク
勇者(姫様も俺も、生きて還ってしまったのか、
とでも言わんばかりの表情だった)テクテク
勇者(俺の考え過ぎかも知れないが、
あれ以来、城には帰っていない)テクテク
~竜王城 地下一階~
勇者「ノリで此処まで来てしまった」ドーン
勇者(思えば、あの『勇者急募』の貼紙が
全ての始まりだったんだよな)テクテク
勇者(身寄りも無ければ仕事も無くて、
魔物の討伐で日銭を稼いで)テクテク
勇者(でも出自も分からないから、
国軍にも雇って貰えなくて)テクテク
勇者(仕方無く、勇者として雇って貰った)テクテク
勇者(とは言え、前金は数泊分の宿代のみ)テクテク
勇者(先輩方は全員
『立派に戦って名誉の戦氏を遂げた』らしい)テクテク
勇者(俺も、そうなる筈だったのにな)テクテク
勇者(姫様を助けて、連れ帰った時の、
王様の顔が忘れられない)テクテク
勇者(姫様も俺も、生きて還ってしまったのか、
とでも言わんばかりの表情だった)テクテク
勇者(俺の考え過ぎかも知れないが、
あれ以来、城には帰っていない)テクテク
70: 2014/06/29(日)11:13:39 ID:aCJSzO3US
勇者「それにしても」テクテク
勇者(気味が悪い位、静かだな)テクテク
勇者(気味が悪いと言えば、
あの玉座の裏の隠し階段)テクテク
勇者(気味が悪いと言うか、
趣味が悪いと言うか、性格が悪いと言うか)テクテク
勇者(他人ん家の箪笥を勝手に開ける
俺じゃなければ見付けられなかったね)テクテク
ドラゴン「がおー!」ガオー
勇者「むっ」ザシュッ
ドラゴン「ぐああああ」グアアアアバタン
勇者「知らん間に強くなってしまったなぁ」
勇者「お、宝箱だ」ギィ
勇者「何か凄い剣だ」キラキラ
兵士長(伝説の、ロトの剣か……)
勇者(コイツ、脳内に直接……!)
76: 2014/06/29(日)11:20:16 ID:aCJSzO3US
~竜王城 地下七階~
勇者「いったい地下何階まであるんだ……」テクテク
勇者(一旦出直すか?
でも出直す間に警備が強化されても困るしな……)テクテク
????「止まれ、人間」
勇者「!? 誰だ!」バットウ!
????「竜王陛下親衛隊隊長、ダースドラゴンである」
勇者「驚いたな、ドラゴンが話せるのか」
ダース「齢を重ねた竜は、萬に通じる。
人語を話すなど、造作も無い」
勇者「それはそれは、結構な事だ。
で、その年寄り竜が何の用だ」
ダース「親衛隊隊長、と言っただろう?
陛下に仇為す貴様を野放しには出来ない」
勇者「……よく擦れ違わなかったな?」
ダース「……何?」
勇者「忠義に厚い老竜が、たった一人の人間を迎え撃つ。
この、迷宮の様な城内で?」
ダース「何が言いたい」
勇者「竜王は、すぐ近くだな」ニヤリ
ダース「……賢しいな。
それを知った所で、
貴様は此処で屍を晒す運命よ!」
ダースドラゴンが あらわれた!
勇者「いったい地下何階まであるんだ……」テクテク
勇者(一旦出直すか?
でも出直す間に警備が強化されても困るしな……)テクテク
????「止まれ、人間」
勇者「!? 誰だ!」バットウ!
????「竜王陛下親衛隊隊長、ダースドラゴンである」
勇者「驚いたな、ドラゴンが話せるのか」
ダース「齢を重ねた竜は、萬に通じる。
人語を話すなど、造作も無い」
勇者「それはそれは、結構な事だ。
で、その年寄り竜が何の用だ」
ダース「親衛隊隊長、と言っただろう?
陛下に仇為す貴様を野放しには出来ない」
勇者「……よく擦れ違わなかったな?」
ダース「……何?」
勇者「忠義に厚い老竜が、たった一人の人間を迎え撃つ。
この、迷宮の様な城内で?」
ダース「何が言いたい」
勇者「竜王は、すぐ近くだな」ニヤリ
ダース「……賢しいな。
それを知った所で、
貴様は此処で屍を晒す運命よ!」
ダースドラゴンが あらわれた!
78: 2014/06/29(日)11:25:40 ID:aCJSzO3US
第8話
一瞬の睨み合いの後、ダースドラゴンの両脚が床を蹴る。
通常のドラゴンより二周りも大きい身体に比して、その動きは俊敏だった。
しかし、どんな生き物も着地の瞬間は無防備だ。丸太の様な尻尾を凌ぎ――捉えた。
勇者が逸る。
刹那、迸った紅蓮の炎が壁を染める。
「くっ!」
堪らず、勇者が動きを止める半秒。
炎の中から暗黒の塊が飛び出す。鋼鉄よりも鋭い牙が、勇者の頭のあった空間を噛み砕く。
仰け反った勇者は無理な姿勢で横に薙ぐが、老竜の左前脚が違わず受け止める。反動で以って、距離を取るダースドラゴンと、二歩三歩と後ずさる勇者。
ダースドラゴンの強靱な後脚は、着地と同時に、其の身体を既に跳躍させていた。勇者の喉元を、再び歯牙が襲う。楯が間に合わない。老竜の顎が剣に喰らい付く。並の剣であれば微塵に砕けていたであろうが、今の彼が振るうのは、しなやかさと逞しさを備えた名剣だった。
だが、安堵する間は与えられない。視界の左で何かが動く。掲げた楯が抉られる感触を確かめる間も無く、右。ダースドラゴンの左前脚、鉄を穿つ爪が勇者の眉間を貫かんと迫る。
一瞬の睨み合いの後、ダースドラゴンの両脚が床を蹴る。
通常のドラゴンより二周りも大きい身体に比して、その動きは俊敏だった。
しかし、どんな生き物も着地の瞬間は無防備だ。丸太の様な尻尾を凌ぎ――捉えた。
勇者が逸る。
刹那、迸った紅蓮の炎が壁を染める。
「くっ!」
堪らず、勇者が動きを止める半秒。
炎の中から暗黒の塊が飛び出す。鋼鉄よりも鋭い牙が、勇者の頭のあった空間を噛み砕く。
仰け反った勇者は無理な姿勢で横に薙ぐが、老竜の左前脚が違わず受け止める。反動で以って、距離を取るダースドラゴンと、二歩三歩と後ずさる勇者。
ダースドラゴンの強靱な後脚は、着地と同時に、其の身体を既に跳躍させていた。勇者の喉元を、再び歯牙が襲う。楯が間に合わない。老竜の顎が剣に喰らい付く。並の剣であれば微塵に砕けていたであろうが、今の彼が振るうのは、しなやかさと逞しさを備えた名剣だった。
だが、安堵する間は与えられない。視界の左で何かが動く。掲げた楯が抉られる感触を確かめる間も無く、右。ダースドラゴンの左前脚、鉄を穿つ爪が勇者の眉間を貫かんと迫る。
81: 2014/06/29(日)11:28:51 ID:aCJSzO3US
「ベギラマ!」
剣を解放した勇者の右手が即座にしなり、圧倒的な炎の奔流が左前脚を呑み込む。まさかの不意打ちに驚いたダースドラゴンが後ろへ跳ぶ。
「詠唱も印も破棄するとは、やるな、貴様」
感心した様子で老竜が言う。
しかし、言葉とは裏腹に、炎を操る竜の鱗は殆どダメージを通していない様だ。詠唱も印も破棄して、威力が下がっていれば尚更である。
「それに、思い切りも良い」
剣と同時に、そう吐き棄てる。
「大事なのは、剣じゃないんでね」
言いながら炎の剣を抜き放つ勇者。
「準備の良い事だ」
呆れた調子でダースドラゴンが言う。声に付く表情は、人間と全く変わらない。
「御褒めに預かり光栄だ。根っからの貧乏性でな」
剣を解放した勇者の右手が即座にしなり、圧倒的な炎の奔流が左前脚を呑み込む。まさかの不意打ちに驚いたダースドラゴンが後ろへ跳ぶ。
「詠唱も印も破棄するとは、やるな、貴様」
感心した様子で老竜が言う。
しかし、言葉とは裏腹に、炎を操る竜の鱗は殆どダメージを通していない様だ。詠唱も印も破棄して、威力が下がっていれば尚更である。
「それに、思い切りも良い」
剣と同時に、そう吐き棄てる。
「大事なのは、剣じゃないんでね」
言いながら炎の剣を抜き放つ勇者。
「準備の良い事だ」
呆れた調子でダースドラゴンが言う。声に付く表情は、人間と全く変わらない。
「御褒めに預かり光栄だ。根っからの貧乏性でな」
84: 2014/06/29(日)11:31:45 ID:aCJSzO3US
――食うに困って魔物退治で日銭を稼いだ日々。
――“勇者”として志願し、幾つもの氏線を潜った日々。
いや、何を考えているんだ俺は。
気付いた時には、ダースドラゴンの爪が眼前に在った。
右、左、右。剣で凌ぐのが精一杯だ。
「どうした、動きが鈍くなったぞ?」
何の為に生まれて、何をして生きるのか。
――姫を連れ帰った時の、王の、あの眼。
左、右。リズムを狂わせる大きい踏み込みに、姿勢を乱されつつも左側――ダースドラゴンの右半身――へ滑り込む。
右脇腹が完全に空白だ。逆袈裟の剣が吸い込まれて行く。
衝撃。老竜の硬い脇腹を裂いた感触は、確かにあった。
だが、勇者は壁に叩き付けられた。爪や牙の鋭さとは違う、純粋な力の塊だ。
襲って来たものが尻尾だと解った時には、彼は既に肺の中の空気を押し出されていた。
呼吸が出来ない。幾度と無く吸気を試みて、吐かねば吸えない事に気付く。
「私の身体に傷を付けた人間は久し振りだ」
脇腹から血液の滴る侭に、ダースドラゴンが呟く。
「頑張ったな。しかし、此処までだ」
――此処まで、か。まぁ、良く頑張ったよな。
咳き込んだ唾に血が混じっている。
――王の、あの眼。
嫌だなぁ。どうせ氏ぬなら、綺麗な記憶を持って逝きたい。
あぁ、でも、そんなものないか。
「眼が虚ろだな。……せめて苦しまずに逝かせてやる」
86: 2014/06/29(日)11:36:09 ID:aCJSzO3US
――ローラは、
「覚悟」
三度、老竜が牙を剥く。
――ローラは、常に、
あぁ、あった。
姫の声。笑顔。
――ローラは、常に、勇者様と、
抱き上げた、華奢な身体。
ふ、と笑みが零れる。
ダースドラゴンは気付いていない。右手に力が戻る。
――ローラは、常に、勇者様と、共に在ります――
何が起こったのか、ダースドラゴンは理解できなかった。
自らの牙は、項垂れる勇者の喉笛を噛み千切った。筈だった。
瞬きよりも短い時間が過ぎた今、炎を模した剣が、己の口から生えている。喉の奥が燃える様に熱い。
やっとの想いで剣を引き抜くと、背後で乾いた音が鳴る。一度は手放した剣を拾い上げた勇者が立っていた。
何故だ。何故だ。何故だ。何度自問しても、答えは一つだった。
勇者の動きが、ダースドラゴンの反応を凌駕した。単純にして、明快な回答。
認めぬ。認めぬ。認めぬ。
「舐めるなァ!」
煉獄を思わせる火炎が、地下の湿った空気を灼く。
全てを灰にする炎は、しかし、標的を捉えてはいなかった。
「俺にも、綺麗な思い出が、あったんだ」
彼の剣が、強固な鱗の隙間に潜り込んだ。
102: 2014/06/29(日)11:55:23 ID:aCJSzO3US
第9話
ダースドラゴンを やっつけた!
勇者「覚悟」チャキ
竜王「やめてやって、くれないか」
勇者「!?」
ダース「へ、陛下……!」
勇者「陛下って事は……お前が竜王か」
竜王「如何にも、儂が竜王だ。
よくぞここまで辿り着いたな、人間」
勇者「……」
竜王「いや、勇者、か?」ニヤリ
勇者「どちらでも同じだ。
散々人間を頃して来たお前が、部下の命を助けろと?」
竜王「そうだ。人間も部下も沢山頃した。
だから、せめて、目の前の部下を助けたい」
ダース「陛下、私に構わず……」
勇者「黙ってろ。
……断る、と言ったら?」
竜王「貴様の目的は、ダースの首か?
それとも儂の首か?
ダースの首を刎ねた瞬間、儂は貴様を消し炭に出来る。
それ位の力は持っているつもりだ」ニヤリ
ダースドラゴンを やっつけた!
勇者「覚悟」チャキ
竜王「やめてやって、くれないか」
勇者「!?」
ダース「へ、陛下……!」
勇者「陛下って事は……お前が竜王か」
竜王「如何にも、儂が竜王だ。
よくぞここまで辿り着いたな、人間」
勇者「……」
竜王「いや、勇者、か?」ニヤリ
勇者「どちらでも同じだ。
散々人間を頃して来たお前が、部下の命を助けろと?」
竜王「そうだ。人間も部下も沢山頃した。
だから、せめて、目の前の部下を助けたい」
ダース「陛下、私に構わず……」
勇者「黙ってろ。
……断る、と言ったら?」
竜王「貴様の目的は、ダースの首か?
それとも儂の首か?
ダースの首を刎ねた瞬間、儂は貴様を消し炭に出来る。
それ位の力は持っているつもりだ」ニヤリ
104: 2014/06/29(日)11:57:07 ID:aCJSzO3US
勇者「……チッ」
ダース「陛下……」
竜王「御苦労だったな、ダース。
下がって傷の手当を受けなさい」
勇者「さて、御望み通り部下の首は繋げておいた。
次は、お前だ」
竜王「やれやれ、恐い事だ。
血気盛んな若者、と言う奴か。」
勇者「黙れ、覚悟しろ」
竜王「まぁ、待て」
勇者「何だ、命乞いか?」
竜王「命など、とうに諦めておる。
それでも最後に、やらなければならない事があってな」
勇者「面倒だ、斬る」
105: 2014/06/29(日)11:57:59 ID:aCJSzO3US
りゅうおう「せかいの はんぶんを きさまに やろう」
勇者「……は?」
竜王「聞こえなかったか?
世界の半分を、貴様に渡そうと言ったのだ」
勇者「……性質の悪い命乞いだ。
世界の半分を譲ってまで、自分を逃がせと言うのか!」
竜王「そうでは無い」
竜王「和平だ」
勇者「何?」
竜王「和平の為に儂の首が必要だと言うのであれば、
喜んで差し出そう。
しかし今、儂の首を落とせば、全軍が混乱する。
疲弊しているとは言え、我が軍は精強だ。
アレフガルド全土は灰塵と帰すだろう」
勇者「国軍が、黙っているとでも?」
竜王「黙ってはいないだろう。
しかしアレフガルド軍も同じく疲弊している。
特に決戦兵力をメルキドに割かねばならなくなったのは痛手だったろうな」
107: 2014/06/29(日)12:00:07 ID:aCJSzO3US
勇者「メルキド……? どう言う事だ?」
竜王「む、知らなかったのか?
貴様がゴーレムを破壊した御陰で、ラダトーム城に温存していた決戦兵力を、
メルキド防衛に当てねばならなくなったのだ」
勇者「何……だと……」
竜王「我が軍も貴様には多くの損害を出したが、ね。
それでも貴様は恐らく、王や領主達から、
快く思われては、いないだろうよ」
勇者(王の、あの眼……クソッ)
竜王「ここで儂の首を討ち取ったとしよう。
それで、どうなる?」
竜王「勇者に約束された莫大な恩賞……
貴様等の文化で言えば、
爵位を授けて領地を与える、と言った所か」
竜王「しかし、アレフガルドも、
儂から領地を獲得できる訳では無い。
領主が貴様に領地を譲るか? 誰も譲らないだろうな」
勇者「爵位も領地も要らない、
食うに困らない金、いや、仕事があれば充分だ」
竜王「例え、それが貴様の本心だとしても、
王や周りは疑心暗鬼になる事だろうよ。
そもそも、これだけの戦闘能力を発揮して見せたのだ。
兵士職にして城に置くには危険過ぎる。
さりとて、貴様が武力を以って誰かの領地を奪わないと誰も信じ切れない」
109: 2014/06/29(日)12:02:57 ID:aCJSzO3US
勇者「……そんな」
竜王「全く、不憫な事だ。
他の先輩勇者と同じく、
ラダトーム近郊で氏んでいた方が幸せだったかも知れんな」
勇者「……」
竜王「そこで、だ。
和平の特使になって貰いたい」
勇者「……お前が、俺を騙す可能性は?」
竜王「それは勿論、無いとは言えない」
勇者「それでも、信じろと?」
竜王「貴様次第だ」
勇者「……」
竜王「……」
勇者「…………」
竜王「…………」
勇者「……分かった、信じてやる」フン
ゆうしゃ「はい」ピッ
110: 2014/06/29(日)12:04:41 ID:aCJSzO3US
竜王「有難い……宜しく頼む」ニコー
勇者「」
竜王「どうした、そんなに驚いて」
勇者「いや、そんな顔で笑うんだな、と思って」
竜王「可笑しいか?」
勇者「意外だっただけだ。
それより、和平交渉の内容にまで責任は持てないぞ」
竜王「案ずるな。それは儂の仕事だ。
どんな結果になろうと、貴様の安全は保障しよう」
勇者「密約か」
竜王「人聞きが悪いなw
貴様が儂を信じた、その代償だ。
……友情の印、とでも言って貰おう」
勇者「友情?」
竜王「あぁ」
勇者「俺と、お前の?」
竜王「……可笑しいか?」
111: 2014/06/29(日)12:06:15 ID:aCJSzO3US
勇者「そりゃ可笑しいさ。
初めて出来た友達が、敵の総大将なんてな」
竜王「奇遇だな、儂も同じだ」
勇者「それなら、その……
友情、とやらに賭けて、信じてやる」
竜王「」ニコー
勇者「……何だか不思議だ。
お前が、そんなに悪い奴に思えない」
竜王「フフン、嬉しい事を言ってくれるな」
勇者「……」
竜王「だが、儂は悪い奴だ。
人間も部下も、多くの命を奪った」
勇者「それを、仕舞いにするんだろう?
竜王「あぁ、そうだ」
勇者「それで? いつ出発する?」
竜王「色々と準備もある。出発は明後日にさせてくれ。
寝床も準備させよう」
勇者「いや、部屋の隅で充分だ」
竜王「何を言うか、浴場と寝間着も準備させるぞ。
人間の友人同士は寝間着で語り合うものだろう?」ワクワク
勇者「頼むから準備してくれるか」
竜王「むぅ」
117: 2014/06/29(日)12:15:01 ID:aCJSzO3US
第10話
~翌日 竜王城~
勇者(昨晩は余り寝れなかった)
勇者(今まで命を狙っていた同士だから、)
勇者(とかでは無くて)
勇者(竜王に今までの経緯を
根掘り葉掘り訊かれていたからだ)
竜王「ダース、傷の具合は如何か」
勇者(おや、会議……と言うより作戦の発令か)
ダース「良好です。
明日には完全に回復できるでしょう」
竜王「良かった。
明日は忙しくなる。安静になさい」
ダース「はっ……」
竜王「大魔道よ、済まないな」
大魔道「……いえ、陛下の御心なれば」
119: 2014/06/29(日)12:17:03 ID:aCJSzO3US
大魔道「……いえ、陛下の御心なれば」
竜王「交渉が決裂した場合、
直ちに全軍を以って攻撃を行うよう。
但し、」
大魔道「?」
竜王「儂の為では無い。
全員が、自らの為に……生きる為に、戦え」
大魔道「……御意の侭に」
竜王「ダースよ、貴様に頼みがある」
ダース「……御身は陛下の為に御座います。
何なりと御申し付け下さい」
竜王「ゴニョゴニョゴニョゴニョ」
ダース「何ですと! 私が、あの者を!」
勇者(……?)
竜王「嫌か?」
ダース「……いえ、陛下の御心なれば」
竜王「済まないな、貴様にしか頼めない」
ダース「例え命に代えても遂行します」
勇者(部屋の隅で良いとは言ったけど、
こんなものまで見せるとはね)
勇者(まぁ、それだけ本気なのか)
勇者(裏で工作できない訳じゃないが、
それを疑っても仕方が無い)
勇者(それにしても、竜王討伐に発ってからこっち、
休み無しだったからな。
ゆっくりさせて貰えるのは良いが……)
120: 2014/06/29(日)12:20:12 ID:aCJSzO3US
竜王「暇そうだな」
勇者「あ、あぁ、そりゃあな。
突然、こうも暇だと持て余す」
竜王「ならば話でもするか?」ワクワク
勇者「明日の準備は済んだのか?」
竜王「済んだぞ!」
竜王「……大体」ボソッ
勇者「聞こえてんだよ」
竜王「ええい、喧しいわ!
儂が話すと言えば、話をするんだ!」
勇者「馬鹿いえ。
明日しくじったら目も当てらんねえよ」
竜王「むぅ」
勇者「……準備が済んだら、幾らでも話してやるよ。
だから、先に済ませて来い」
121: 2014/06/29(日)12:20:31 ID:aCJSzO3US
竜王「!」パアァ
竜王「承知した!」
勇者「変な奴だ」フッ
竜王「あ!」クルッ
勇者「な、何だよ」ビクッ
竜王「一つ頼みがあるんだが……」
勇者「どうした」
竜王「総てが終わった暁に、其の剣を貰えないだろうか」
竜王「……友情の印に」ボソッ
勇者(だから聞こえてるつーの)
勇者「この剣は元々この城で拾ったもんだ。
欲しいなら、返すのは構わない。
無論、総てが終わった後だがな」
竜王「本当か! 有り難い!」パアァ
勇者「やっぱ変な奴だ」
123: 2014/06/29(日)12:25:09 ID:aCJSzO3US
第11話
~翌日 ラダトーム城~
国王「勇者殿が竜王城へ入って三日か」
大臣「続報は有りません」
国王「さ、さしもの勇者殿も、
りゅ、竜王には、か、敵わなかったかな」
大臣「陛下、そーゆーこと言ってると、」
扉コンコン
国王「ヒィッ」ビクッ
大臣(言わんこっちゃない)
国王「コホン……入りなさい」
伝令「失礼します」トビラバタン
大臣「勇者殿の続報か?」
伝令「え、えぇ、続報、と言えば、続報です」
国王「不明瞭な報告は避けるように」
伝令「し、失礼しました。
勇者殿が、御帰還です」
国王,大臣「!」ガタガタッ
伝令「しかも、竜王と一緒に」
国王,大臣「」
124: 2014/06/29(日)12:27:15 ID:aCJSzO3US
大臣「勇者殿!」
勇者「あ、大臣。
御無沙汰振りで御座います」
大臣「挨拶なぞ要らん!
大義であった、と言いたい所だが……」チラッ
大臣「これは一体、どう言う事かね?」
竜王「」ニコー&ペコッ
勇者「は、竜王軍の総司令官より和平の申し出を受けました。
これを一方的に破棄するは国軍、
引いてはアレフガルドの権威に傷すると考え、
これの執り成しを試みた所存です」
国王「竜王城に入って三日、漸く姿を現したと思えば和平の仲介だと?」
勇者「陛下、御無沙汰振りで御座います」
国王「貴様が竜王の術中に無いと、
そもそも貴様が竜王の密偵で無いと、
どうして証明できる?」
勇者「……」
国王「沈黙か。
……衛兵、勇者殿は御疲れの様だ。
地下の御部屋に案内して差し上げろ」
衛兵A「はっ、直ちに!」
勇者「お、御待ち下さい、国王陛下!
私は竜王の密偵などでは……」
衛兵B「五月蝿い!
ちょっと手柄を立てたからと調子に乗るな!」
125: 2014/06/29(日)12:29:46 ID:aCJSzO3US
竜王「いやはや、アレフガルド王、
英雄に対しての扱いが厳し過ぎやしないかね?」
国王「英雄?
恥ずべき売国奴か密偵の間違いだろう?」
竜王「彼は、違うよ」
国王「信じられんな。
貴様の密偵だったとすれば、彼の快進撃にも説明が付く」
姫「御父様!」
竜王「これはこれは姫様、御機嫌麗しゅう」ニコー&ペコッ
姫「!」ビクッ
姫「……」スカートクイッ
国王「ローラ、下がっていなさい」
姫「勇者様が還って来たと聞きました!
どちらへやったのですか!?」
国王「ローラ、良く御聞き。
お前を助けた勇者様は、竜王の密偵だった。
……この意味が、分かるね」
姫「そんな……嘘よ……」
竜王「そう、貴女の言う通り。
国王は嘘を言っている」
姫「!?」
126: 2014/06/29(日)12:30:59 ID:aCJSzO3US
竜王「姫様、国王は勇者の事を疎ましく思っていたんだ。
自分達の権威と、権益を守る為にね」
国王「……」
姫「御父様!?」
竜王「国を守る、御父様には其の義務が御有りだ。
そして国を守る為には、
権威と権益も守らなければならない」
国王「……」
竜王「そして、其の為には、
手柄を立ててしまった勇者様は、邪魔だ」
国王「掛かれっ!」
ドスドスドスッ
姫「!?」
竜王「ぐふっ」トケツ
国王「そして、貴様を殺せば、総てが丸く納まる。
……総てが、な」
竜王「……」
国王「さて、姫は部屋に戻っていなさい」
姫「……」グッ
127: 2014/06/29(日)12:32:30 ID:aCJSzO3US
竜王「交渉は、決裂かな?」
国王「!?」
竜王「なァ? 国王陛下あァ?」
国王「さっ、最精鋭の近衛師団だぞ!?
掛かれ! 掛かれぇっ!」
竜王「ダアアァァス!」
天井ドゴォ!
国王,大臣,姫,近衛師団兵士「!?」
ダース「御前に」
竜王「残念ながら、交渉は決裂した。
……手筈通り頼む」
ダース「御意に」
竜王「済まない。
……信じて、みたかったのだ」
姫「……」ジッ
竜王「……ん?」
竜王「……」フッ
竜王(勇者と、共に行くかね?)
姫「……」
128: 2014/06/29(日)12:34:19 ID:aCJSzO3US
国王「姫! 下がりなさい!
竜王め! 勇者のみならず、姫まで誑かすか!」
竜王(どうする!)
姫「……」コクッ
竜王「承知した」ニヤリ
姫「御父様、失礼します。
今まで妾の子の私を育ててくれた事、
感謝しております」
竜王(ほぅ)
国王「何を、馬鹿な……!」
ダース「陛下?」
竜王「姫様も御連れしろ、丁重にな」
ダース「御意に」フワッ
大臣「にっ、逃がすな! 追ええぇぇ!」
国王「竜王、貴様……」
竜王「そう恐い顔をするなよ、国王」
国王「一度ならず二度までもっ!」
129: 2014/06/29(日)12:36:04 ID:aCJSzO3US
竜王「さぁ、国王。
最後に一つ教えてくれ」
国王「ふざけるな!」
竜王「勇者が儂の首を討ち取ったとして、
どうするつもりだった?
彼は食うに困らぬ仕事があれば充分だと言っていたぞ?」
国王「はっ! そんなもの信じられるか!」
竜王「では、どうする?
今の様に牢に幽閉するのか?」
国王「知れた事よ!
爵位も領地も、くれてやるつもりだったわ!」
竜王「……何?」ビクッ
国王「但し、それはアレフガルドの外の事だがな!」
竜王「国外、追放……!?」
国王「人聞きの悪い事を言うなよ。
好きに国を作らせてやるのだ!
我ながら名案だろう!?」
竜王「……許さぬ」ボソッ
国王「さぁ、近衛師団よ!
竜王を始末せよ!」
131: 2014/06/29(日)12:38:49 ID:aCJSzO3US
竜王「許さぬぞ、貴様等!」グオォ!
近衛師団兵士A「りゅ、竜王の身体が……!?」
近衛師団兵士B「巨大な竜の姿に……!」
近衛師団兵士C「何て……何て化け物だ……!」
兵士長「伝説の、竜王の真の姿か……」
大臣「何か言ったか! 兵士長!」
兵士長「いえ! 何も!」
国王「な、何を見ておる!
掛かれ! 掛かれぇっ!」
りゅうおうは はげしいほのおを はきだした!
へいしAは しんでしまった!
へいしBは しんでしまった!
へいしCは しんでしまった!
へいしちょうは しんでしまった!
143: 2014/06/29(日)12:47:34 ID:aCJSzO3US
兵士長に対する突っ込みが少なくて、滑ってるのかと心配してました!
彼の氏は残念ですが、反応が多くて嬉しいです!
彼の氏は残念ですが、反応が多くて嬉しいです!
145: 2014/06/29(日)12:48:34 ID:aCJSzO3US
第12話
~同時刻
アレフガルド北端上空~
勇者「ダース! どう言うつもりだ!」
ダース「暴れないでくれ。
人を載せて飛ぶのは慣れていない」
勇者「そう言えば……!
お前、飛べるのか?」
ダース「言っただろう。
齢を重ねた竜は、萬に通じる」ドヤァ
姫「あぁっ、ラダトームが……」
ダース「交渉は、決裂した。
国王は、陛下を攻撃したのだ」
勇者「そうだとして、お前が何故、俺を助ける?」
ダース「陛下の御心なれば」
勇者「しかも、姫まで……
こんな事に巻き込んで、済まない」
姫「いえ、これは私の選んだ事」
勇者「姫?」
姫「そもそも私は妾の子。
あの城に居て良い存在では無いのです」
勇者「そんな……」
姫「貴男に助けられて、城に還った……
あの時の、御父様の眼……」
勇者「……!」
姫「いえ、やめましょう。
私は私の意志で、貴男と共に在るのです」
147: 2014/06/29(日)12:50:45 ID:aCJSzO3US
ダース「さぁ、悪いが此の辺りで下りるぞ」
勇者「此処は……?」
ダース「古い言葉で、ローレシアと呼ばれる地だ」
姫「ローレシア……」
ダース「小規模ながら、人の集落も有る。
勿論、アレフガルドに比べれば未開だがな。
生きていく事は、可能だろう」
勇者「……行くのか?」
ダース「あぁ。
陛下が、魔将達が、部下達が戦っている」
姫「……」
勇者「……有難う、な。
頃し掛けた俺を恨んでいるだろうに」
ダース「いや、不思議と恨みの感情は無いのだ。
陛下が貴様には心を開いた……
それだけで、充分だ」
勇者「竜王にも、有難うと伝えてくれ。
それと……これを」チャキッ
ダース「これは……?」
勇者「竜王に頼まれていた、友情の印だ。
総ては終わっていないが……渡しておいてくれ」
ダース「承知した。では、もう行くぞ」
149: 2014/06/29(日)12:52:21 ID:aCJSzO3US
勇者「もう一つ伝えてくれ」
ダース「……何だ」
勇者「総てが……本当に総てが終わったら、また会いに行く。
それまで、待っていてくれ」
ダース「しかと、伝えよう」
勇者「達者でな……と言うのも変だが」
ダース「あぁ、不思議な気持ちだ。
こう言うのを名残惜しいと言うのだろう」
勇者「齢を重ねた竜にも、分からない事があるんだな?」ニヤリ
ダース「……相変わらずの減らず口だ」フン
勇者「冗談だよ」
ダース「私も冗談だ。
……さて、本当に、行くとする」
勇者「あぁ」
ダース「貴様も達者でな、友人よ」フワッ
勇者「何?」
ダース「何でも無い」
ダース「然らば!」
150: 2014/06/29(日)12:55:01 ID:aCJSzO3US
其の日、ラダトーム城は炎に包まれた。
立ち昇る黒煙を狼煙として、両軍の最後の戦いが全土で始まった。
重なる断末魔の隙間に、哀惜の慟哭が響く。
それは、人のものとも、竜のものとも知れぬ侭、天と地を覆い尽くした。
160: 2014/06/29(日)13:04:58 ID:aCJSzO3US
第13話
~百年後 竜王城~
竜王「あれから百年、か……」
竜王(あの戦いで、皆が氏んだ……。
ダースも、魔将達も、兵士も、人間も……)
竜王(アレフガルド全土は瞬く間に荒廃した)
竜王(儂自身、総ての力を使い果たした)
竜王(生きているだけ……いや、)
竜王「氏んでないだけ、だな」
ロトの剣「……」
竜王(こんなものに縋って、
あんな約束に縋って、未だに氏んでいない)
竜王(竜人の儂は兎も角、
人ならば、とっくに氏んでいる事だろうよ)
竜王(此処数年、
怪しげな邪教信仰の連中が力を付けている、らしい)
竜王(奴なら、どうするかな)フフッ
162: 2014/06/29(日)13:06:12 ID:aCJSzO3US
ガタッ
竜王「!?」
竜王(気の所為……?)
ガヤガヤドカドカ
竜王(いや違う! 誰か来る誰か来る!)アセアセ
ガヤガヤドカドカ
竜王(複数……? 三人、か……?)
竜王(メッチャチカイメッチャチカイ! ヤバイヤバイヤバイ!)
トビラバーン
竜王「わっ、我が城に何の用だ!
儂は竜王の曾孫であるぞ!」
竜王(しまった、たかだか百年で曾孫は盛り過ぎた)
????「竜王の、曾孫だって!?」
竜王「!!!」
竜王(勇者!? いや、こんな若い筈は……)
164: 2014/06/29(日)13:07:58 ID:aCJSzO3US
????「御初に御目に掛かります。
私はローレシアの王子」
竜王(ローレシアだと!?
つまり勇者の……子孫か!)
ローレシア王子「此方はサマルトリアの王子」
サマルトリア王子「ども」ペコッ
ローレシア王子「此方はムーンブルクの王女」
ムーンブルク王女「御会い出来て光栄です」スカートクイッ
竜王(おおお! 矢張り勇者の子孫か!
緑は兎も角、桃色は姫の生き写しだ!)
竜王「し、して、王子達は、何故斯様な場所へ?
曾祖父が悪行の限りを尽くして以来、
我が一族は細々と生き長らえておるのですが……」
ローレシア王子「私達は、
邪教信仰集団の野望を挫く為に旅をしております」
サマルトリア王子「ローレシアと、
分家したサマルトリアとムーンブルクの三国には言い伝えがあります」
竜王「言い伝え……?」
竜王(それよりも分家だと? 発展させ過ぎだろう勇者よ!)
165: 2014/06/29(日)13:10:10 ID:aCJSzO3US
ムーンブルク王女「世界の危機に旅立つ時、竜の王の城を訪ねよ、と」
竜王「……!」
ローレシア王子「初代ローレシア王の口癖だったと聞いております。
竜の王が、必ずや力になるだろう、と」
竜王(あやつめ……)
サマルトリア王子「僕達は奴等の野望を阻止するんだ!
力を貸して下さい!」
竜王「曾祖父の代以降、儂の一族は力を失ってしまった……
儂が、直接、何かを手伝う事は、出来ない」
サマルトリア王子「そんな……」
ムーンブルク王女「無理を言ってはいけないわ。
……陛下、失礼しました」
竜王「あぁ、いや、少し待ち給え。
直接の手伝いは出来ないが……持って行きなさい」
ローレシア王子「これは?」
竜王「世界の総てを記した、地図だ。
曾祖父の頃の測量だが、精度は高い筈だ」
サマルトリア王子「有難う御座います!」
ムーンブルク王女「この様に貴重な物を……」
竜王「構わないさ。
君達の役に立つのであれば、儂も嬉しい。
それと……」
166: 2014/06/29(日)13:12:23 ID:aCJSzO3US
ローレシア王子「?」
竜王「これも、持って行きなさい」チャキッ
サマルトリア王子「伝説の、ロトの剣……!」
ムーンブルク王女「何か言った?」
サマルトリア王子「いや、何も」
竜王「アレフガルドに現れた勇者が、
曾祖父を討ち取った時に用いた剣だと聞いている。
君が使うのに、相応しかろう」
ローレシア王子「これが、ロトの剣……」
竜王「さぁ、もう行きなさい。
君達ならば、必ずや、邪教の集団を、打ち倒す事が出来よう」
サマルトリア王子「えぇ! 絶対に打ち倒して見せます!」
竜王「任せたよ」
ムーンブルク王女「其の暁には、必ずや御報告に上がりますわ」ニコッ
竜王「はは、有難う。楽しみに待っているよ」
169: 2014/06/29(日)13:14:53 ID:aCJSzO3US
ローレシア王子「……陛下、不思議な気持ちです」
竜王「何が、だね?」ドキッ
ローレシア王子「初めて御会いした筈なのに、初めてと言う気がしません。
とても懐かしい、旧い友人に会えた様な……」
竜王「……」
サマルトリア王子「何を言ってんのさ! 竜王の曾孫さんに失礼だよ?」
竜王「いや、良いんだ。
実は、私も同じ事を思っていた」
竜王「今日は、会いに来てくれて有難う」
竜王「さ、急ぐ旅なんだろう?
此処から君達の活躍を祈っているよ」
171: 2014/06/29(日)13:17:30 ID:aCJSzO3US
勇者は、忘れてなどいなかった。
彼は立派に約束を果たしてくれた。
友情の印は、百年の時を経て、彼自身の手に戻った。
きっと彼等は、世界を覆う闇を祓ってくれるだろう。
儂の唯一の友人だからな。
そう呟こうとしたが、既に喉は声を発してくれなかった。
此の日の為に、今日の為に、
――彼に約束を果たさせる為に、
儂の命は続いて来たのだ。
こんな儂でも、
神に、
精霊に、
祈って良いだろうか――?
彼等に、
御加護の、
あらん事を――
祈りを捧げんと竜王が瞼を閉じる。
その瞳が、二度と光を見る事は無かった。
《完》
彼は立派に約束を果たしてくれた。
友情の印は、百年の時を経て、彼自身の手に戻った。
きっと彼等は、世界を覆う闇を祓ってくれるだろう。
儂の唯一の友人だからな。
そう呟こうとしたが、既に喉は声を発してくれなかった。
此の日の為に、今日の為に、
――彼に約束を果たさせる為に、
儂の命は続いて来たのだ。
こんな儂でも、
神に、
精霊に、
祈って良いだろうか――?
彼等に、
御加護の、
あらん事を――
祈りを捧げんと竜王が瞼を閉じる。
その瞳が、二度と光を見る事は無かった。
《完》
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります