1: 2022/03/20(日) 00:17:32.78 ID:Detj3tPm.net
千砂都がLiella!メンバーの作るご飯を食べるだけのssとなります。
キャラの性格や口調、誤字脱字等のミス、食べ方に対する違和感や登場する食材の好き嫌い等があるかもしれません。
中華の料理名はカタカナ読みとピンイン(声調記号なし)を書き添えてあります。

2: 2022/03/20(日) 00:18:51.95 ID:Detj3tPm.net
澁谷かのんのトルティーリャ・デ・パタータ(スペイン式ジャガイモ入りオムレツ)と、パン・コン・トマテ(トマトペースト付きトースト)風

澁谷家・朝

かのん「ふわぁ……よく寝た……」

千砂都「おはよ、かのんちゃん」

かのん「おはよう、ちぃちゃん……うぃーっす♡」ユビキス

千砂都「うぃーっす♡」ユビキス

かのん「ちぃちゃん、昨夜はよく眠れた?」

千砂都「うん、おかげさまでぐっすりだったよ」

かのん「そっか、それじゃあおはようのちゅー……の前に、顔を洗って歯を磨いてくるね」

千砂都「うん」

3: 2022/03/20(日) 00:19:49.67 ID:Detj3tPm.net
かのん「ふー、さっぱりした……それじゃあ改めて」ちゅっ♡

千砂都「えへへ♡」

かのん「よーし、それじゃあ朝ご飯にしよっかな……と」

千砂都「ふふ、かのんちゃんってば……髪をとかさないとくしゃくしゃだよ? 私がとかしてあげるね」

かのん「ありがと、ちぃちゃん」

千砂都「気にしない気にしない♪」

4: 2022/03/20(日) 00:21:06.68 ID:Detj3tPm.net
澁谷家・一階

かのん「では改めて朝ご飯にしますか」

千砂都「待ってました」

ありあ「おはよ、お姉ちゃん……千砂都さんも」

かのん「おはよう」

千砂都「おはよう、ありあちゃん」

かのん母「かのん、いくら学校がお休みだからって起きるのが遅いわよ……お皿は自分で洗いなさいよ?」

かのん「分かってまーす」

千砂都「ごめんなさい、かのんちゃんと一緒におしゃべりしていたらつい遅くなっちゃって」

かのん母「いいのよ、千砂都ちゃんはお客様なんだから……何か飲み物でも用意しましょうか?」

5: 2022/03/20(日) 00:21:38.37 ID:Detj3tPm.net
かのん「もう、お母さんは余計なことしなくていいってば……ちぃちゃん、飲み物はホットチョコレート(ココア)でいいかな?」

千砂都「うん」

かのん「分かった……お母さん、厨房借りるね。 冷蔵庫の食材、使ってもいい?」

かのん母「いいけど、使った分はリストから消しておきなさいよ?」

かのん「はーい」

6: 2022/03/20(日) 00:22:34.18 ID:Detj3tPm.net
かのん「さて……と」

…さっとエプロンを着けると厨房に入り、冷蔵庫を開けて少し考えてから具材をいくつか取り出す……選んだのは卵が数個にトマトとタマネギが一つずつ、ニンニクひとかけ、それから収納スペースにしまってあるジャガイモをいくつか…

かのん「ちぃちゃん、ちょっと待っててね」

千砂都「……何か手伝おうか?」

かのん「大丈夫、私がちぃちゃんに作ってあげたいから」

千砂都「それじゃあ楽しみに待ってるね」定位置になっている、入り口から入ってすぐのテーブル席につき、頬杖をついてかのんの様子をにこにこと眺めている……

かのん「うん、そうして?」

7: 2022/03/20(日) 00:27:20.40 ID:Detj3tPm.net
かのん「わ、水冷た……っ」

…皮についている土を落とそうと蛇口をひねり、冷たい水に思わず手を引っ込める……ジャガイモは食感が楽しめるよう皮をむいて厚めにカットし、タマネギは風味が出やすいよう横に薄くスライスする……フライパンに軽くオリーブオイルをひくと、同じように薄く切ったニンニクを入れてゆっくりと温め、風味をオイルに移していく……それからジャガイモとタマネギを入れて火を通し、軽く塩こしょうで味付けをする…

かのん「よし、それじゃあ……と」

…調理台の角で「コン、コンッ……!」と卵にひびを入れると片手で小さいボウルに割り入れ、それから菜箸で卵白を切るようにして手際よく混ぜていく…

千砂都「かのんちゃんは相変わらず手際がいいね」

かのん「そうかなぁ……ちぃちゃんに比べたら私なんてまだまだだよ」

8: 2022/03/20(日) 00:28:33.35 ID:Detj3tPm.net
千砂都「そんなことないと思うけどな」

かのん「そう? ちぃちゃんにそう言ってもらえると嬉しいな」

…カウンター越しに話をしている間にジャガイモも火が通って、表面がけば立ったようなホクホクした感じになってくる……それを見たかのんはフライパンの鍋肌にまんべんなく具材を広げると、ほんのひとつまみだけ塩を利かせた卵液を流し込む……同時に火を弱火に落とすとふたをしてタイマーをかけ、もう一品にとりかかる…

9: 2022/03/20(日) 00:29:19.42 ID:Detj3tPm.net
かのん「えーと、トマトは湯むきにして……と」

…皮目に切れ込みを入れ、ヘタの部分から串を刺したトマトをお湯にひたすと、すぐ氷水で冷やす……つるりとむけたトマトを四つ割りにすると種とゼリーの部分を取り除き、果肉の部分だけをミキサーにかけ、ジュースよりは濃度のあるペースト状にする…

かのん「このくらいかな……」

…トマトペーストを小鉢に空けると塩、こしょう、それからにんにくを漬け込んであるガラス瓶のオリーブオイルを少し加えてさっと混ぜる……出来たペーストを小さじから手の甲に垂らすと、ぺろりとひと舐めした…

千砂都「どう?」

かのん「うん、いい味。 後はトーストに添えて……はい、お待たせ」

10: 2022/03/20(日) 00:30:07.94 ID:Detj3tPm.net
千砂都「ううん、ちっとも待ってないよ……それにかのんちゃんとお話していればすぐだもんね」

かのん「改めてそう言われるとなんだか恥ずかしいかも……///」

ありあ「うわ、お姉ちゃんが照れてる……!?」

かのん母「初めて見たわ!?」

かのん「うっさいなぁ、もう……あっち行ってて!」

かのん母「はいはい、私たちがいたらお熱い二人の邪魔ですね……ありあ、部屋に行きましょう」

ありあ「はーい」

11: 2022/03/20(日) 00:31:08.63 ID:Detj3tPm.net
かのん「……もうっ、すぐああやってからかうんだから!」

千砂都「あははっ、かのんちゃんってばお母さんたちと仲がいいんだね」

かのん「いつもあんな感じだけどね……それより冷める前に食べよう?」

千砂都「そうだね……いただきます」

かのん「はい、めしあがれ」

…四角いトーストは台形になるよう斜めに切って、そこにトマトペーストがかけてあり、丸っこいマグカップではホットチョコレートが湯気を立てている…

千砂都「あむっ……」

…ほどよく焼けてさくっと歯切れの良いトーストに、甘酸っぱい風味のトマトペーストにがよく合う……熟しきっていないトマトに感じる青い味も、ペーストにしてうまく調味すると、むしろさわやかな風味をかもしだしておいしい…

千砂都「ん、美味しいね……トマトがさっぱりしてて、夏によさそうな味」

かのん「そうだよね。スペインだと『トマトの季節に料理下手はいない』って言うくらいトマトが美味しいから、この「パン・コン・トマテ」も軽食なんかでよく食べるんだって。もとはカタルーニャの郷土料理らしくて、本当はトーストしたパンに自分でニンニクとトマトを擦りつけるらしいんだけど……面倒くさいし手が汚れちゃうから、私はミキサーにかけちゃうんだ」

千砂都「かのんちゃんは物知りだねぇ」

かのん「ううん、私も聞きかじっただけだし……///」頬を赤らめ照れていると、キッチンタイマーが鳴った……

12: 2022/03/20(日) 00:31:56.39 ID:Detj3tPm.net
かのん「はいはい、今行きますよー……っと」

千砂都「ふふっ、かのんちゃんってばタイマーにお返事してる」

かのん「い、言わないでよ……恥ずかしいから///」

千砂都「私は可愛いと思うよ?」

かのん「……と、とにかく出来たよ///」

…皿でふたをするようにしてフライパンをひっくり返すと、フライパンの形通りに焼き上がった厚手のオムレツが現れた……表面はこんがりと焼き目がつき、ほかほかと湯気を立てている……ナイフでケーキのようにカットして皿に盛ると、断面から具材のジャガイモやタマネギが顔を出す…

千砂都「わぁ、すごく美味しそう……このお料理は何て言うの?」

かのん「レシピは適当だけど、一応は「トルティーリャ・デ・パタータ」……パタータはジャガイモっていう意味だから、ジャガイモ入りオムレツかな」

13: 2022/03/20(日) 00:34:01.34 ID:Detj3tPm.net
千砂都「へぇ……ところでトルティーリャって「トルティーヤ」のこと? てっきりメキシコ料理で出てくる、トウモロコシ粉の薄いパンみたいなのだと思ってたよ」

かのん「あぁ、そうだよね……スペイン語って方言みたいなのがすごく多くって、国によって名前は同じでも、意味する物はぜんぜん違うんだ」

千砂都「そうなんだ、知らなかった」

かのん「うん。特に「LL」の発音はスペインの中でも地域ごとに違ってて、「リャ」行の音になったり「ジャ」行になったり「ヤ」行になったりするんだけど……お店でこれを「トルティーリャです」って出すと「え、トルティーヤでしょ?」って笑う人がいるんだよね……」

千砂都「まぁ知らないとそうかもね」

かのん「だからって笑うことはないじゃん……ばーか、スペインならこれが「トルティーリャ」だっての。パエリアのときはちゃんと「パエーリャ」って言うくせに」

千砂都「まぁまぁ……でもそっか、スペイン語だったらLiella!も「リエリャ」だったり「リエヤ」だったり「リエジャ」だったりするんだね」

かのん「そういうことになるね」

14: 2022/03/20(日) 00:34:59.33 ID:Detj3tPm.net
千砂都「なるほどねぇ……それじゃあ「トルティーリャ」いただきます」

かのん「うん、食べて食べて」

千砂都「んむ、んむ……うん、塩気もちょうど良いし、ジャガイモもほくほくしてて美味しいよ♪」

…ナイフで一口大に切って口へ運ぶと、しっかりと焼き上がった卵とほくほくのジャガイモ、それにしんなりするまで火が通って甘味のでているタマネギが控え目な塩気とあいまって実においしい…

かのん「よかった、卵って塩が利きやすいし「しょっぱかったらどうしよう」って、いっつも恐る恐るなんだよね……だから、ちぃちゃんがおいしいって言ってくれてよかったよ」

千砂都「もう、そんなに心配しなくても大丈夫だって」

15: 2022/03/20(日) 00:35:57.87 ID:Detj3tPm.net
かのん「そう言ってくれて嬉しいな……ありがと、ちぃちゃん///」

千砂都「どういたしまして……ココアも美味しいねぇ」

…濃厚でムースのようなホットチョコレートをひとすすりして、ほっと満足そうなため息をつく…

かのん「うん、スペインの朝食っていうとチュロスとチョコラーテ(ホットチョコレート)だけってことが多いみたいだから……朝からチュロスを揚げるのは面倒だし、飲み物だけ真似してみたんだ」

千砂都「スペインの人って朝はあんまり食べないんだね?」

かのん「そうみたい。だから間食の時間があったりするのかも……うーん、甘くて美味しい♪」

16: 2022/03/20(日) 00:37:12.96 ID:Detj3tPm.net
食後

千砂都「……ふー、美味しかった……朝からこんなに美味しいものを食べて優雅な時間を過ごしちゃったら、なんにもやる気が起きなくなっちゃうねぇ」

かのん「たしかに……でも今日はダンスの練習をするつもりだし、頑張らなきゃ」

千砂都「お、かのんちゃんは偉いね……それじゃあ私も家に戻って、着替えてくるね」

かのん「それじゃあまた後で」

千砂都「うん、後でね」

かのん「……よし、それじゃあちぃちゃんが戻ってくる前にお皿を洗っちゃおう……っと」

17: 2022/03/20(日) 00:38:25.72 ID:Detj3tPm.net
唐可可の白切鶏(バイチィエジー)と餛飩(ワンタン)麺

千砂都「はい、練習おしまい……クゥクゥちゃん、よく頑張ったね」

可可「ぜぇ……はぁ……謝謝、千砂都」

千砂都「どういたしまして。 それに初めの頃に比べて動けるようになってきたの、自分でも感じるんじゃないかな?」

可可「ハイ……たしかに前より踊れるようになっている感じがありマス。 でもクゥクゥはもっとダンスが踊れるようになりタイ。 練習は大変デスガ、サニパのお二人に負けないくらい踊れるよう頑張りマス!」

18: 2022/03/20(日) 00:43:11.70 ID:Detj3tPm.net
千砂都「そうそう、その意気だよ……って、今日は冷えるね。 汗が引いたらとたんに寒くなってきちゃった」

可可「たしかに今日はずいぶん冷えマス……千砂都、よかったらクゥクゥの家で暖まっていってはどうデスカ。 良かったらお昼もごちそうシマス」

千砂都「うーん、そうだねぇ……分かった、せっかくだからそうさせてもらおうかな♪」

可可「分かりまシタ」

20: 2022/03/20(日) 00:46:33.16 ID:Detj3tPm.net
可可ルーム

千砂都「お邪魔しまーす」

可可「どうぞどうぞ……熱烈歓迎デス、好きなところに座って下サイ」

千砂都「うん」

…手を洗うと「何はトモアレ」と部屋の暖房を入れ、それから台所に行ってやかんと中華鍋に水を汲んで火にかける……お湯が沸くまでの間に食器棚のマグカップを二つとお茶の缶を取り出すと、背中越しに茶葉をすくう乾いた音がした……しばらくすると、マグカップを手に戻ってきた可可…

可可「……では、粗茶デスガ」マグカップをコトリと置いた……

千砂都「あははっ、クゥクゥちゃんってばそんな言葉どこで覚えたの?」

可可「テレビのドラマで覚えまシタ」

千砂都「それでかぁ……この間はお侍さんみたいなしゃべり方をしてたし、一体何かと思ったよ」

21: 2022/03/20(日) 00:50:33.93 ID:Detj3tPm.net
可可「クゥクゥの家では日本語もしゃべっていましたガ、ほとんどは普通話(標準中国語)や上海話でしたノデ……勉強も兼ねて色々な番組を見ていマス」

千砂都「なるほどね」

…相づちをうちながら中国独特のふたがついた陶器のマグカップを受け取ると、そのふたを取った……するとカップの中にはもう一段、茶葉の入った茶こしのような陶器のパーツが入っている…

千砂都「えーと、この茶こしはどうすればいいのかな?」

可可「あ……このカップではこういう風にして下サイ」台所から戻ってくるとふたをひっくり返し、そこに茶こしの部分を置いた……

千砂都「あぁ、なるほど」

可可「ゴメンナサイ、説明してませんデシタ。 昔はお湯を注いでお代わりが出来るよう茶葉をそのままカップに入れて、ふたをずらして飲んだそうデスガ……茶こしがついていればうっかり葉っぱを飲むこともないですし、このほうが便利デス」

千砂都「なるほど……うーん、良い香りだねぇ」

…淡い金色をしたお茶を一口すすると、口の中にふんわりと甘く香ばしい香りが広がる…

可可「これは……日本語では何というか忘れましたガ……普通話で言う「茉莉花茶」(mo li hua cha)デス。お口に合いますカ?」

千砂都「うん、美味しいよ……ところで「ムーリーフゥアチャー」って、ジャスミン茶のことで合ってる?」

可可「それそれ、ジャスミン茶デス♪」

千砂都「やっぱり。 香りがジャスミンだし、そうかなとは思ったんだよね……温かくして飲むと冷たいよりも香りが広がるし、これもけっこう好きだよ」

22: 2022/03/20(日) 00:51:40.58 ID:Detj3tPm.net
可可「それは良かったデス……それでは、ちょっと待っていて下サイ」

…台所に戻った可可は切り株型のまな板と中華包丁を用意し、同時に半身の鶏肉をお湯が入った中華鍋に入れ、火加減を調節するとふたをした…

可可「あとはしばらく待つばかりデス」戻ってくるとお茶をひとすすりした……

千砂都「そっか……作ってるのは蒸し鶏?」

可可「んー……似ているようデスガ、あれは「白切鶏」(bai que ji)という料理デス。 鶏はただ蒸すとパサパサになるノデ、下味をつけて軽く蒸し煮にするような料理だと教わりまシタ」

千砂都「なるほどねぇ……」

23: 2022/03/20(日) 00:54:18.75 ID:Detj3tPm.net
可可「あ、そろそろゆだる頃合いデス……ちょっと待ってて下サイ」

…ふたたび台所に立つと、長ネギをみじん切りにし始めた……舞台の大道具さえ作ってしまう器用な可可だけあって「トトトト……ッ」と軽い断続音とともに、あっという間にネギを刻んでいく……それを小鍋に入れるとサラダ油と一緒に火にかけ、軽く泡立つような音がするまで温め、味付けに少し塩を加える…

千砂都「お、ネギのいい匂い……こういういい匂いを嗅ぐとお腹が空いてくるね」

可可「お待たせシマシタ、千砂都。白切鶏デス」

…クリーム色がかっていている皮とほとんど白に近い薄桃色をした鶏肉が、黄色い縁取りに桃の花と飾り模様をあしらった大皿に盛られ、その上からたっぷりとネギ油がかけてある…

千砂都「これはおいしそうだねぇ。 それじゃあ、いただきまーす……んむ」

24: 2022/03/20(日) 00:55:27.98 ID:Detj3tPm.net
可可「美味しいデスカ?」

千砂都「うん、おいしいよ。 しっとりしてて、ネギ油の風味も利いてるね」

可可「好! 良かったデス! ではクゥクゥも……あむっ」

…ふっくらと仕上がった鶏肉ともっちりしていて味の濃い皮、それによく合う刻みネギたっぷりのネギ油……あっさりしているだけに飽きのこない、何にでも合いそうな味をしている…

千砂都「んー……このネギ油もおいしいけど、さっぱりとポン酢で食べたり、逆に濃いめの醤油ダレなんかも合いそうだね」

可可「千砂都の考える通り、「白切鶏」は地域によってタレの味が違いマス。上海ではたいてい甘めの醤油ダレなのデスガ、今回は長ネギが安かったのでネギ油にしまシタ……それと鶏ではなくてアヒルで作ると、もっと食べごたえのある味になりマス」

千砂都「アヒルかぁ……でも日本だとなかなか手に入らないもんね」

可可「ハイ。それから夏の暑いときは冷ましておいたこの鶏に胡麻ダレをかけて、きゅうりを添えレバ……」

千砂都「棒棒鶏だ」

可可「ソウデス」

千砂都「うーん、それもいいねぇ……でも、鍋の茹で汁はどうするの?」

25: 2022/03/20(日) 00:56:10.67 ID:Detj3tPm.net
可可「ふふーん、千砂都はいいところに目を付けまシタ」

千砂都「というと?」

可可「……ちょっと待ってて下サイ」

千砂都「うん」

可可「今持って行きマス……あちちっ」

千砂都「大丈夫?」

可可「大丈夫デス、ちょっと器が熱くテ……さぁ、どうぞ♪」

26: 2022/03/20(日) 00:57:50.01 ID:Detj3tPm.net
千砂都「わぁ、美味しそうなワンタン麺」

…綺麗な金色のスープとほっそりした麺、それに半透明のワンタンが丸っこい腰張型の白いラーメンどんぶりに入っている…

可可「残った茹で汁には鶏の味がたっぷり沁みだしているノデ、これを使わないのはモッタイナイというものデス」

千砂都「それでワンタン麺かぁ……寒い日にはいいかもね」

可可「ハイ。ちょっとお塩を入れて、ショウガと長ネギの青い所と一緒に煮ながらアクをすくい取って、そこに茹でた麺と餛飩(hun tun)を入れれば、あっという間に餛飩麺の出来上がりデス……でも日本では「饂飩」は「うどん」のことだったノデ、クゥクゥは最初ちょっとこんがらがってしまいマシタ」

27: 2022/03/20(日) 01:02:00.88 ID:Detj3tPm.net
千砂都「たしかに日本ではワンタンを「餛飩」じゃなくて「雲呑」って書くよね……イメージにはぴったりだけど、どこから来たんだろう?」

可可「クゥクゥにもよく分かりませんガ、どうやら日本に伝わった時にうどんとごっちゃになってしまったみたいデス。あと「雲呑」は広東の言い方だそうデス」

千砂都「なるほど……それにしても茹で汁も余さず使えて、おまけにもうひと品出来ちゃうなんていいねぇ……ふー、ふーっ」レンゲで淡い金色のスープをひとすすりする……

千砂都「……うん、美味しい♪」

…滋味豊かなあっさりとしたスープは鶏のうまみがたっぷり沁みだしていて、ショウガの爽やかな香りと上品な塩味がついている…

可可「美味しいデスカ」

千砂都「美味しいよ……温かいものがあると気分までほっとするね」

28: 2022/03/20(日) 01:07:14.62 ID:Detj3tPm.net
可可「ハイ、やっぱりこういう日は温かい料理に限りマス」

千砂都「そうだねぇ……す、すぅ……っ」

…ふーふーと軽く冷ましてから、細い真っ直ぐな中華麺をひとすすりする……白っぽい中華麺には鶏のスープがほどよく絡み、細麺ながら案外コシがあって舌触りもいい…

可可「ずず……っ」

千砂都「うん、ワンタンも美味しそう……♪」

可可「本当なら作りたての方が美味しいデスガ、これは冷蔵庫に入れておいた作り置きを茹でたものデス」

千砂都「そっか、茹でないでおけば数日くらいは保存できるもんね……ちゅるっ♪」

…スープの中で浮雲のようにゆらゆらしているワンタンをレンゲに載せて、スープと一緒につるりと飲み込む……中にはひき肉と刻んだシイタケが入っていて、噛むとしみ込んだスープと肉の汁気があふれてくる…

千砂都「はふっ……ごくんっ」

可可「美味しいデスカ?」

千砂都「うん、つるっとしてて美味しいよ」

可可「ソウデスカ、遠慮せずどんどん食べて下サイ」

千砂都「じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらおうかな……♪」次第に体の芯から温まってくると、袖をまくって額の汗を拭った……

29: 2022/03/20(日) 01:14:01.33 ID:Detj3tPm.net
可可「ずず……」

千砂都「ずずず……っ」

…二人はもくもくと麺をたぐり、スープを飲み、ワンタンをすする……時々お茶で喉をうるおしながら、ただただ黙って箸とレンゲを動かす…

可可「ずず……ずーっ」

千砂都「ずずーっ……ぷはぁ、ごちそうさま」最後の一滴までスープを飲み干すと「チリン……」と透明な響きをたてて、レンゲが器の中に転がった……

可可「……おそまつさまデシタ」

千砂都「はぁぁ、美味しかったぁ……お腹の中からすっかり暖まったよ♪」

可可「それは良かったデス」

食後

千砂都「……それじゃあまたね」

可可「ハイ、また明日」

千砂都「うん、またね……それから美味しいご飯をごちそうさま」

可可「いえいえ、食べたくなったらまたいつでも来て下サイ♪」

千砂都「うん、ありがと」

31: 2022/03/20(日) 01:20:29.19 ID:Detj3tPm.net
平安名すみれのトルコ風サバのサンドウィッチ

平安名家

すみれ「……これなんていいんじゃない?」

千砂都「うーん、こっちの色のほうがいいんじゃないかなぁ」

…ダンス衣装のカタログを相手に、数種類の候補からどれを選ぶか悩んでいる千砂都と、横からのぞき込みつつアドバイスをしているすみれ…

すみれ「違うわね、この平安名すみれの見立てではこっちの方が断然似合うわよ」

千砂都「そっか……ならこっちかな♪」

すみれ「ちょっと!」

千砂都「あははっ、冗談だってば……すみれちゃんのセンスを信じるよ」

すみれ「もう、最初からそう言いなさいよ」

千砂都「ごめんごめん」

すみれ「……それにしてもいっつもかのんちゃんかのんちゃんのあんたが私に衣装選びを頼むなんて、一体どういう風の吹き回しよ?」

千砂都「そう? 別にそこまでじゃないと思うけど……しいて言うならジュリエットにとってのロメオとか、その程度だと思うけどな」

すみれ「その程度って……相変わらずあんたは重いのよ」

千砂都「まぁまぁ。さてと……どーちーらーにーしようかな、まるの神様の言うとおり……よし、こっちにしようっと♪」上に着るウェアと合うハーフパンツを選び出すと、カタログを閉じた…

32: 2022/03/20(日) 01:21:10.61 ID:Detj3tPm.net
すみれ「決まった?」

千砂都「うん、決まったよ」

すみれ「良かったわね……って、もうこんな時間じゃない。お昼にでもしようかしら」

千砂都「それじゃあ私はおいとまさせてもらうね」

すみれ「なに、このあと用事でもあるの?」

千砂都「ううん、別にないけど?」

すみれ「ならそんなに急がなくたっていいじゃない。うちでお昼でも食べていったら? 残り物でよければ……だけど」

千砂都「でも、急にお呼ばれしちゃっていいの?」

すみれ「いいわよ。親は先にお昼を済ませちゃったみたいだし、妹はお出かけしてるから……一人でお昼ってのは味気ないじゃない?」

33: 2022/03/20(日) 01:21:49.47 ID:Detj3tPm.net
千砂都「それじゃあお願いしちゃおうかな」

すみれ「分かったわ。 そうと決まったら何か用意しなくちゃならないわね……っと」

千砂都「じゃあお皿でも並べておくね」

すみれ「いいわよ、私がやるし……さてと、何があるかしら」

千砂都「何か作れそう?」

すみれ「ええ。買っておいたバゲットが一本あるから、サンドウィッチでも作ろうと思って……って、ハムがないじゃない」

千砂都「ありゃ」

すみれ「まったく仕方ないわね、なにか具材になりそうなものは……あったわよ」

34: 2022/03/20(日) 01:25:49.02 ID:Detj3tPm.net
千砂都「ねえ、すみれちゃん……」

すみれ「なによ」

千砂都「……これ、焼きサバだよね?」

すみれ「焼きサバよ」

千砂都「でも、さっきサンドウィッチにしようって言ってたような……」

すみれ「分かってるわよ、まぁ見てなさいっての」トマト、レタス、タマネギ……それからピクルスの瓶やマヨネーズを次々と用意していく……

…トマトは五ミリ幅程度で横にスライスし、レタスはさっと洗ったものを適当な大きさにちぎる……玉ねぎは向こう側が透けるほどの薄さでスライスすると氷水にさらし、ピクルスは輪切りにする……バゲットは四つに切ると横腹から半分に割って、軽くトースターにかける…

千砂都「ここまではいいけど……焼きサバかぁ」

すみれ「焼きサバの何がいけないのよ、トルコあたりじゃ「サバのサンドウィッチ」って料理もあるのよ」

千砂都「たしか「バルック・エクメク」だっけ? イスタンブールの名物だよね」

すみれ「それよ、よく知ってるじゃない」

35: 2022/03/20(日) 01:26:27.37 ID:Detj3tPm.net
千砂都「そっか……ちなみにすみれちゃん、トルコって行ったこと……」

すみれ「ないったらないけど……なに、現地に行かないと作っちゃいけないわけ?」

千砂都「……そんなことないYO♪」

すみれ「ラップにすれば何でもごまかせるわけじゃないのよ」

千砂都「はい」

36: 2022/03/20(日) 01:27:19.86 ID:Detj3tPm.net
すみれ「ま、焼きサバだと生臭かったりして好き嫌いが出やすいでしょうから……ここは食べやすいようにアレンジするわ」

…焼きサバの身をフォークで粗めのフレーク状にほぐしながら小骨を取り、マヨネーズとレモン汁を加えて軽く和えると焼き上がったバゲットに盛り、粗挽きこしょうを振る……そこへ水気を切ったレタス、トマト、ピクルスを載せて、バゲットの上半分をかぶせてサンドウィッチにする…

すみれ「はい、おまちどう」

千砂都「早かったね」

すみれ「ふふーん、こういう手際の良さもショウビジネスには大事だもの」

千砂都「さすがすみれちゃん♪」

すみれ「お世辞はいいから食べてみなさいよ」

37: 2022/03/20(日) 01:29:46.87 ID:Detj3tPm.net
千砂都「それじゃあ、いただきまーす……ぱくっ」

すみれ「どう?」

千砂都「ん……んんっ……」

すみれ「どうったらどうなのよ?」

千砂都「美味しい……!」

すみれ「でしょう?」

千砂都「うん、焼きサバもマヨで和えてあるからパサパサしてないし、レモンが利いてるからさっぱりしてて……むしろ白身魚のフライみたいな感じかな」

…皮はパリッと、中はふわふわに焼けたバゲットにシャキシャキしたレタス、タマネギ、みずみずしく甘酸っぱいトマトとピクルス、そして意外とパンに合う焼きサバのほぐし身……味付けもレモンとマヨネーズに加えた黒こしょうがいいアクセントになっている…

すみれ「だから言ったでしょうが……自分で言うのもなんだけど、美味しいわねこれ」サンドウィッチにかぶりつくと、しみじみとつぶやいた……

千砂都「そうだねぇ、これなら屋台くらい開けるんじゃないかな」

すみれ「そう?」

千砂都「うん、開けると思うよ」

すみれ「そこまで言われるとは思ってなかったわ……ありがと」

38: 2022/03/20(日) 01:36:08.93 ID:Detj3tPm.net
千砂都「ねぇ、すみれちゃん……これってマヨネーズもいいけど、サウザンアイランド・ドレッシングやオーロラソースでも美味しいんじゃないかな?」

すみれ「言われてみればそうかもしれないわね……ちょっと待ってて」冷蔵庫からオレンジ色のサウザンアイランド・ドレッシングが入った瓶を持ってきた……

千砂都「おぉ、あったねぇ♪」

すみれ「どうせだからやってみようじゃない……んっ」バゲットの上半分をどけるとサウザンアイランド・ドレッシングをさっとかけ、皿の上にこぼれ落ちたタマネギスライスをひょいとつまんでのせ直すともう一度サンドウィッチの形に戻し、改めて一口かじった……

千砂都「どう?」

すみれ「……これもいいわね。ちょっと味が濃いから、より魚っぽさが消えるっていうか……これなら魚嫌いの人にも良さそうね」

千砂都「ちょっと味見してもいいかな?」

すみれ「いいわよ、ほら」

千砂都「あむっ……うん、これもいいね♪」

39: 2022/03/20(日) 01:38:55.54 ID:Detj3tPm.net
すみれ「これで分かったでしょう、サバだってやり方次第でパンにも合うんだから♪」

千砂都「そうだね……ところですみれちゃんは良かったの?」

すみれ「なにがよ」

千砂都「いや……さっき味見する時すみれちゃんの食べかけに口を付けちゃったけど、よく考えたら間接キスだなぁ、って」

すみれ「……なんで早く言わないのよ」

千砂都「いや、だって今気付いたから」

すみれ「だったら黙っておきなさいよ……言われると意識しちゃうでしょうが///」

千砂都「へぇ、意識するってことは脈アリってことでいいのかな?」ちょっと意地悪な表情を浮かべ、下から見上げるようにしてすみれの顔をのぞき込む……

すみれ「バカなこと言ってないで、食べ終わったならとっとと帰りなさい」

千砂都「はーい、ごちそうさまでした♪」すみれに手を振ると、ランニングしながら帰っていった……

すみれ「……間接キス、ね」唇を指先でなぞると、ふとパンを口に運んでいる時の千砂都と、ふっくらした桃色の唇を思い起こした……

すみれ「千砂都の唇……柔らかそうだったわよね……///」

すみれ「あー、やめやめ……とっととお皿でも洗っちゃいましょう」

40: 2022/03/20(日) 01:40:50.31 ID:Detj3tPm.net
葉月恋のちらし寿司とはまぐりの潮汁

ひな祭り当日・葉月邸

恋「おはようございます、千砂都さん」

千砂都「おはよう恋ちゃん、うぃーっす♪」

恋「うぃーっす、です……どうぞ上がって下さい」

千砂都「ありがと……わ、立派なおひな様だね」

…居間に飾られているのは五段構えのひな人形で、男雛と女雛をはじめ三人官女、左大臣と右大臣、五人囃子に従者の三人……そして甘い香りの花が咲いている薄紅色の梅の枝に、赤白緑のひし餅、ぼんぼりの飾りが左右を彩っている…

恋「ええ、毎年この時期になるとサヤさんと一緒にひな人形を飾ることにしているのですが……今年はぜひLiella!の皆さんと一緒に過ごしたかったものですから///」

千砂都「そっか「今日はひな祭りだからどうぞいらして下さい」って、そういうことだったんだ」

恋「はい。毎年のようにサヤさんと二人きりと言うのも悪くはないのですが、せっかくかのんさんたちともお友達になれたのですし、今年はにぎやかなひな祭りを過ごしたいと思いまして」

千砂都「なるほどね……でも、それじゃあどうしてこっそり私のことだけ先に呼んだの?」

恋「ええ、そのことなのですが……」

41: 2022/03/20(日) 01:42:18.15 ID:Detj3tPm.net
千砂都「……なるほど、ホワイトデーのお返しになにをあげたらかのんちゃんが喜んでくれるか……ねぇ」

恋「はい、私も色々と悩んだもののいい考えが浮かばなかったものですから……かのんさんの幼馴染みである千砂都さんなら、どのようなものなら喜んでくれるか見当がつくと思いまして」

千砂都「そうだねぇ……ちなみに恋ちゃんはどんなものを考えてるの?」

恋「はい、例えばこうしたクッキーを焼こうかと……」付せんを貼ったお菓子の本と、几帳面にポイントやコツを書き込んであるノートを広げてみせた……

千砂都「うんうん、なるほど……」

恋「……どうでしょうか?」

千砂都「うん、これでいいと思う。 それにかのんちゃんのことだから、サプライズでお返しをあげたらきっとすごく驚くと思うよ」

恋「そうですね、きっと口ごもってしまったり……」

千砂都「顔を真っ赤にして「あ、ありがと……///」みたいな感じでね」

恋「……あるいは「え、ホワイトデーのお返し!? そんな、ホントにもらっちゃっていいの!?」なんて驚かれたり」

千砂都「あははっ、かのんちゃんならありそうだね……とにかく、大事なのは恋ちゃんの気持ちなんだから、きっとこれで大丈夫だよ♪」

恋「分かりました、ありがとうございます。それではお礼ではないですが……」

42: 2022/03/20(日) 01:45:37.67 ID:Detj3tPm.net
ダイニングルーム

サヤ「どうぞお召し上がり下さい」

千砂都「ありがとうございます……でも恋ちゃん、私だけ先にいただいちゃっていいの?」

恋「まぁまぁ、かのんさんたちが来たらまた改めてお出ししますから……味見程度に食べてみて下さい」

…ダイニングルームにはお客様用らしい綺麗な伊万里のお皿と、朱漆の吸い物椀が用意されている……中央には寿司桶に入ったちらし寿司が鎮座していて、好きなだけよそえるようにとしゃもじが添えてある…

千砂都「それじゃあほんの少しだけ……いただきます、と♪」軽く手を合わせると、ほっそりした黒漆の箸を手に取った……

43: 2022/03/20(日) 01:47:15.25 ID:Detj3tPm.net
千砂都「はむっ……」

…ちらし寿司はあっさりした寿司酢を利かせたところへ、甘めに味を付けたにんじん、しいたけ、かんぴょうの煮しめを刻んでさっと混ぜてあり、そこに穴を桃色に染めて薄く切ったレンコンの酢漬け、甘い錦糸卵、生麩、桜でんぶ、それに緑色も鮮やかな絹さやと、春らしい色とりどりの飾り付けがされている……粒立ちのいい米と煮しめからしみ出す甘めの味わいが口の中に広がって、最後はすっきりとした寿司酢で口の中がさっぱりする…

恋「……いかがですか?」

千砂都「味もちょうどいいし、具材もいっぱい入ってて美味しいよ♪」

…シャキシャキとした歯ざわりのいい酢漬けのレンコンに、甘くふわっとした錦糸卵、青もみじの色と形をしているもちもちの生麩に、ほろほろとした桜でんぶがしっとりとした酢飯と上手く合わさっている…

恋「そうですか、良かったです♪」恋は千砂都が一口めを飲み込むまでじっと眺めていたが、感想を聞いてぱっと晴れ渡るような笑顔を見せた……

サヤ「……毎年ひな祭りのちらし寿司は恋様が作っているので、嵐様の感想が聞きたかったのですよ」

恋「もう、サヤさん……それは言わない約束ではないですか///」

サヤ「失礼しました、つい口が滑ってしまいまして♪」

千砂都「そっか、それで味を見てほしかったんだ……大丈夫、とっても美味しいから心配はいらないよ♪」

恋「もう、千砂都さんまで私をからかって……///」

44: 2022/03/20(日) 01:48:39.10 ID:Detj3tPm.net
千砂都「あははっ、ごめんごめん……じゃあ次はお汁でもいただこうかな」

…浅めで口の広い吸い物椀を開けると、中には口を開いたはまぐりと手まり麩、薬味の三つ葉が入っている…

千砂都「あ、はまぐりの潮汁だ……やっぱりひな祭りには欠かせないよね」

恋「ええ、冷めないうちにどうぞ」

千砂都「うん、そうするね……ずずっ」

…わずかに青白いような色合いを帯びている潮汁は、はまぐりからしみだした出汁のおかげもあって、わずかな塩で充分に味が付いている…

恋「しょっぱくないですか?」

千砂都「ううん、ちょうどいいよ……それに本物のはまぐりだね」

…椀に沈んでいるのは、綺麗なクリーム色の殻につるりとしてふっくらと柔らかなピンク色の身をした本物のはまぐりで、外来種ながらすっかり食卓のお馴染みになったホンビノス貝ではなかった…

恋「はい、せっかくのひな祭りですから」

千砂都「いやぁ、本物のはまぐりだなんて粋だねぇ……♪」

45: 2022/03/20(日) 01:50:07.48 ID:Detj3tPm.net
恋「くすくすっ……千砂都さんってば、江戸っ子みたいです」

千砂都「あははっ、確かに……ホンビノスだってもちろん美味しいけど、お汁にしたりするとちょっと身が固いし、殻が黒っぽくてはまぐりほど見た目がよくないんだよね」

サヤ「そうですね。クラムチャウダーの「クラム」といえばホンビノスのことですし、値段が安くてたくさん採れるので、千葉県の一部ではブランド化してすっかり定着しましたが……せめてひな祭りの時だけは本物にしませんと」

千砂都「うんうん、やっぱり旬の時期には旬のものを食べないとね……ずず」

46: 2022/03/20(日) 01:51:10.20 ID:Detj3tPm.net
千砂都「それじゃあ身の方もいただいちゃおうかな……んっ?」

…数時間ほど砂抜きをしてあるはまぐりは泥や砂が残っている事もなく、むっちりと柔らかで肉厚な身が、太い貝柱でしっかりと殻にくっついている……お上品ではないけれども、ここは殻をつまみ上げて身をすすろうと千砂都が考えて箸で触れた矢先、綺麗に身が離れた…

サヤ「……はまぐりはなかなか身が取れませんから、鍋の中で口を開けてから貝柱を切っておきました」

千砂都「さすがサヤさん、仕事が丁寧ですね……はむっ」

…ぷっくりとしたはまぐりはつるっとした舌触りと、かみ締めるたびにあふれてくる汁気があって、一つでも充分な存在感がある…

千砂都「うーん、美味しいね」

47: 2022/03/20(日) 01:55:44.53 ID:Detj3tPm.net
恋「美味しそうに食べてくれて私も嬉しいです……お代わりはどうですか?」

千砂都「いや、美味しいけどそんなに食べたら味見じゃなくなっちゃうし……またみんなが来てからにしよう?」

恋「それもそうですね」

…レンコンの食感や甘い錦糸卵の組み合わせを楽しみつつ、皿にくっついたご飯粒を一つ一つ箸でつまむと、最後に潮汁の椀を傾けて余さず飲み干した…

千砂都「ぷはぁ……見た目も綺麗だし、本当に美味しかったよ♪」

恋「それはよかったです……ひなあられもありますから、後で一緒に食べましょう♪」

千砂都「そうだね……あ、かのんちゃんたちが来たのかな」玄関の呼び鈴が鳴り、サヤが応対に出る……

恋「そのようですね……では、くれぐれもホワイトデーのことは内緒にして下さいね?」

千砂都「大丈夫。せっかくのサプライズだもん、ちゃんと内緒にしておくよ♪」

恋「ありがとうございます……はーい、今行きます」

千砂都「それじゃあ私もお出迎えに行かないと……っと、その前に」

千砂都「……ごちそうさまでした」


おしまい

48: 2022/03/20(日) 01:58:06.45 ID:Detj3tPm.net
あとがき

本当はひな祭りの前後に書きたかったのですが、だいぶ遅れてしまいました。
そのうちに他のLiellaメンバーでも書く予定です。

51: 2022/03/20(日) 02:00:34.62 ID:r2DQoAV3.net
乙カレー🤟

引用元: 千砂都のグルメ