6: 2022/02/09(水) 21:03:04.85 ID:WSArLTtN.net
果林「ええ。たまにはそういう気分転換も良いんじゃ無いかと思うの」

侑「いやぁ、今は私そんな気分じゃ無いです…」

歩夢「そうです!そんな気分じゃないですっ!」

歩夢「私、そんな気分になることはこれまでもこれからも絶対無いです!」

しずく「まあまあ、そう言わずに」

歩夢「そう言うよ!」

エマ「みんなでお話ししようってだけだよ〜」

せつ菜「そうです!ただの単純な話題としてですよ!」

歩夢「それが怖い話でさえなければ私も心から嬉しいんだけど…」

7: 2022/02/09(水) 21:07:12.95 ID:WSArLTtN.net
歩夢「どうして唐突にこんな話題になってるの!?」

歩夢「侑ちゃんももっと拒否して!拒否!」

侑「歩夢のこと知ってるでしょ…」

歩夢「そうそう!」

歩夢「私が怖いの嫌いってみんなも知ってるよね!」

侑「もしかしてみんなで私に喧嘩売ってるのかな?」

歩夢「!?」

歩夢「そこまで言ってとまでは思ってないよ!?」

9: 2022/02/09(水) 21:11:12.73 ID:WSArLTtN.net
理奈「これにはちゃんと理由があるの」

侑「どんな?」

愛「部員募集的な?」

歩夢「はぁ?」

彼方「怖い話をしてると寄ってくるって言うよねえ〜」

せつ菜「そこを捕まえて部員を増やすんです!」

歩夢「いやいや、おかしいよね!?」

歩夢「幽霊じゃどんなに頑張っても部員になれないよ!?」

歩夢「お話しも出来ないしライブも無理だよ!?」

愛「これが本当の幽霊部員ってね」

歩夢「やかましいよ!」

11: 2022/02/09(水) 21:15:02.16 ID:WSArLTtN.net
歩夢「ううっ…怖い話はイヤだよぉ…」

侑「歩夢、怖い話だと逃げちゃいそうですけど…」

歩夢「逃げはしないよ…」

歩夢「侑ちゃんは私を何だと思ってるの?」

かすみ「むしろ怖がって侑先輩にくっつくんじゃないですかね?」

歩夢「ちょっと!かすみちゃん!?」

侑「…!」

侑「ふふふっ、それなら私も参加しようかな!」

歩夢「!?」

14: 2022/02/09(水) 21:19:21.20 ID:WSArLTtN.net
果林「じゃあ10人で一つずつ話し…」

歩夢「私は絶対話しませんよ!」

果林「…ごめんなさい、そんなに睨まないで頂戴」

果林「9人で一つずつ話していきましょう」

せつ菜「はいっ!テンションが上がって来ますね!!!」

歩夢「うぅ…侑ちゃん、みんなを止めてよぉ」

侑「ねえ、本当にくると思う?」

エマ「うん。きっとね」

歩夢「えぇ!?まさかの追い討ち」

歩夢「もうっ、本当に幽霊さんが来たら困るよ!」

15: 2022/02/09(水) 21:23:33.58 ID:WSArLTtN.net
かすみ「もしかして怖いんですかぁ?」

歩夢「さっきからそう言ってるもん!」

侑「あはは、そんなのあり得ないね。私はやるよ」

侑「ふふっそれにね」

侑「歩夢のハグも楽しみたいから」

侑「幽霊が来たら歩夢は間違いなく私に凄い勢いで抱きついてくれるもん」

歩夢「///もうっ、何言うの侑ちゃん」

しずく「凄い自信ですね…」

侑「だって歩夢が一番好きなのは私だからね」


果林「うふふ、そうこなくっちゃ」

果林「じゃあ言い出しっぺの私から話すわね?」

17: 2022/02/09(水) 21:26:49.38 ID:WSArLTtN.net
あれは今から数年前

私は道に迷ってきさらぎ駅って所に行った話しを…
エマ?なぁにその表情は、うそうそ冗談よ

安心して、私だって怖い体験くらいしっかりあるんだから
私が今から話すのは地元にいた時、八丈島であった出来事よ

19: 2022/02/09(水) 21:30:22.05 ID:WSArLTtN.net
私が中学3年の夏に、級友とキャンプをしようって話になったの

卒業したらみんな進路がバラバラになっちゃうから最後の思い出作りにって

両親からは危ないからやめろって言われたのだけれど、生意気盛りの小娘達がそんな忠告受け入れるわけが無いわよね

夏休みに友達の家に泊まるって嘘をついて家を出て、友達と山に登ったの

21: 2022/02/09(水) 21:33:46.80 ID:WSArLTtN.net
仲の良い6人の友達と中ノ郷って場所にある大きな農場の裏山にテントを張って、さあこれから遊ぶぞってなった時にね友達の1人に電話がかかって来たの

ご両親から妹さんが熱を出したから看病してくれって内容だったみたい

その娘、彼方レベルに妹さんを可愛がる娘で…彼方、そこ張り合おうとする場所じゃ無いわよ…

まぁ、早く帰らなきゃって急いで荷物を纏め始めたの

24: 2022/02/09(水) 21:37:46.83 ID:WSArLTtN.net
1人帰らなきゃいけなくなったものだから次の機会にしようかって話にもなったんだけれど、帰る子が自分を気にせず楽しんでって言ってくれたの

また次の機会に絶対参加するからってね

結局私たちはお言葉に甘えて6人で川釣りや水泳やら色々遊んだ後、暗くなる前にテントに戻ったわ

テントからは夕日と岬が綺麗に見えたのを今でも鮮明に覚えてる

念の為にテントの入り口に防犯ブザーをセットしてね。お菓子を食べたりキャイキャイ雑談しているうちに夜が更けてきて、そろそろ寝ようってなったの

流石に夏のテントは蒸し暑かったわね、みんな暑い暑い〜って騒いで

だけど、疲れから1人、また1人と眠りに入って静かになっていく

26: 2022/02/09(水) 21:41:01.52 ID:WSArLTtN.net
灯りは仄かな豆電球の小さな灯り
聞こえるのはリーンリーンって虫の声だけ
これが心地良くって
私もそろそろ寝付けそうって時にね。聞こえてきたの
リーンリーン



リーンリーン



リーンリーン



リーンリーンャン



リーンャンリーンシャン

鈴の音が
最初は気のせいかと思うくらいだった

でもねそれがどんどん大きくなっていくの

27: 2022/02/09(水) 21:44:04.49 ID:WSArLTtN.net
リーンャンリーンシャン



リーンシャンリーンシャン



シャンシャンシャンシャン


シャンシャンシャンシャンシャン

シャンシャンシャンシャンシャンシャンシャン

いいえ、正しく言うと音が大きくなっているっていうのは間違いね




近づいて来てるのよ。

28: 2022/02/09(水) 21:47:33.60 ID:WSArLTtN.net
シャンシャンシャンシャン
シャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャン
シャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャン
シャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャン

流石に私も怖くなって暑いのも忘れて寝袋に包まったわ
背中に流れる汗は暑さのせいなのか恐怖のせいなのか、それすらもわからなかった

うるさく響いてたそれは唐突に止んだわ
でも、それは私の恐怖を更に大きくしたの
だって、それは通り過ぎてくれるのを祈ってた私をバカにするように

テントの前で止まったんだから

30: 2022/02/09(水) 21:51:30.15 ID:WSArLTtN.net
恐怖に染まりそうな中、どこか冷静な頭でみんなを起こすべきか考えていたら誰かが突然「キャアーっ!」って大声を上げたの

それで全員慌てて起きちゃった

悲鳴に少し救われたわね、大勢の友人が起きるってだけで安心できるんだもの

これ幸いとどうしたの?って言いながら電気を付けたら

悲鳴を上げた子が、テントの中に…誰かが沢山そこにいるって隅っこを指差して、涙目でガタガタと震えてたの

勿論その子が指差した場所には誰も居なかったわよ?

そもそも防犯の為に入り口には防犯ブザーをつけていたんだから、誰かが入ってくるならその音がしないのはおかしいしね

31: 2022/02/09(水) 21:55:13.67 ID:WSArLTtN.net
「やっぱりお盆だから・・・」って誰かが小さく呟いてね

私その日がお盆だってやっと気がついて、昔お婆ちゃんが話してくれたことをふと思い出したの

「中ノ郷には昔から七人の坊さんという話が伝わっていて、お盆の時期の晩に外を歩いていると坊さんが何処からか現れて、出会った人に災いを起こす」って話よ

昔、八丈島に七人のお坊さんが流刑になった時、大変な飢饉でとても流刑者を受け入れることができなかったの。結局お坊さん達は中ノ郷集落の外れの岬で命を落としたんですって

それから毎年お盆になると七人のお坊さんが集落に現れて、人々に災いをおこす。仲間だと思われるからその時期に七人連れは危ないって

その時誰かが言った言葉が今でも耳に残ってるわ
「私たちが山でキャンプをしてたから、きっとお坊さんが来て人数を数えていたんだ」

32: 2022/02/09(水) 21:58:06.84 ID:WSArLTtN.net
さて、もし途中で1人帰っていなかったら私達はどうなっていたのかしらね?

因みに先に1人帰った娘の妹さんはお姉さんが帰ってくるなり元気になったそうよ

不思議な事もあるものね



これで私の怖い話はおしまい

42: 2022/02/10(木) 00:12:14.32 ID:g3V4hxM4.net
>>41
何それ…怖い…知らない…

このss描き終わったら過去作も貼った方が良いのでしょうか?
因みに怖いホラーは無いです

46: 2022/02/10(木) 21:11:44.86 ID:g3V4hxM4.net
エマ「次は私に話させて」

私はスイスの森で体験したことを話すよ〜

私ね、実家にいた時は嬉しい時や嫌なことがあったら森の中で歌を歌うようにしてたんだ

嬉しい時はそれを動物さんと分ける為に
悲しい時はそれを自然の中で慰めてもらう為に

47: 2022/02/10(木) 21:17:55.26 ID:g3V4hxM4.net
それでね、私が中学に入ったくらいの時かな?

ある日テストで良い点を取れた私は、森のいつもは入らないくらい奥でねスクールアイドルの歌を歌ってたの

えへへ、あの時はまだ上手に歌えないのが恥ずかしくって、他の人に聞かれたくなかったんだぁ

あの時はまだ日本に留学するとまでは思ってなかったんだけど、それでも練習したくなっちゃったの

だって、動画の中の彼女たちが遠くにいる筈なのにすっごく輝いて見えたんだもん

この感情、せつ菜ちゃんならわかるでしょ?

48: 2022/02/10(木) 21:21:47.27 ID:g3V4hxM4.net
片言の…ううんそれよりも下手な日本語で歌ってね、1時間くらいかな?

喉が疲れちゃったしそろそろ帰ろうかなって思った時、木の影に普段見ないような格好をした人を見たんだ

どんな格好って?

ふふふ、改めて言葉にするとちょっと変だけどね


ガスマスクを付けた兵隊さん

50: 2022/02/10(木) 21:26:01.97 ID:g3V4hxM4.net
その変な人は両手に花束を抱えて歩いてたんだ

おかしいなって思って声をかけようとした時ね、その人が普通の人じゃ無いって気が付いたの

見るからに普通じゃ無いでしょってツッコミは野暮だよ?かすみちゃん

コホン…

どうして普通じゃないって気が付いたのかって?

そんなのすぐに気がつくよ

だって、その人木を当たり前みたいにすり抜けながら前に前に進んでたんだもん

52: 2022/02/10(木) 21:30:47.21 ID:g3V4hxM4.net
しきりに地面を見ながら進んでたから何かを探してたんだと思う

でもね幽霊が目の前にいるっていうのにその時は不思議と怖くはなくって、その人を見てただ悲しい気持ちになったの

凄く、凄く悲しい気持ちに
どうしてだろうね?

目から無意識な内に溢れた涙を拭った一瞬の間にその人は居なくなっちゃった

それから私はあの場所には行けてないんだけど
あの人はきっと今もそれを探してるんだと思う

晴れの日も
雨の日も
雪の日も
きっと今も探してるんだと思う

あの森の中、一人で
何か大切な物を

いつか私がスイスに帰ったら、あの森であの人に歌を届けたいと思ってるの

心を込めた私の歌を


オチが無くてごめんね〜私のはこれで終わりだよ

53: 2022/02/10(木) 21:35:17.61 ID:g3V4hxM4.net
彼方「おっ、じゃあ三年生の流れだから次は彼方ちゃんがいくよ〜」


夢って不思議だよね~
例えば予知夢ってあるでしょ?
未来を夢に見て、ピッタリ当てるって話
夢があるよねぇ〜

彼方ちゃんがそんな能力を持てるなら、遥ちゃんの危険を事前に何だって対処しちゃうよ

54: 2022/02/10(木) 21:38:22.08 ID:g3V4hxM4.net
でもさ、人って日本だけでも1億人以上いるんだよ?

夢を見るのが10人に1人だとして1千万人が毎日夢を見るの

そんなにいるなら毎日1人は何らかの災害の夢を見ていてもおかしく無いし、運悪く実際に災害が起きる日と悪夢が重なるってことはあり得る…っていうかあって当然だよね?

それが予知夢の正体なんじゃ無いかなって彼方ちゃんは思うんだ~

夢なんて脳の作り出す幻なんだからね

でもさ、どうしても怖くなっちゃう夢ってあるよね~?
今からするこれはそんなお話です

56: 2022/02/10(木) 21:43:59.73 ID:g3V4hxM4.net
それは遥ちゃんとおデートしたいつも通りの休日だったんだ~

動物園に二人で行ってね

行きも帰りも駅の改札口で、手を繋いだままじゃ私がタッチできないよーって遥ちゃんからどんな動物よりも可愛い笑顔で言われちゃった時以外はずっと手を握ってた位ラブラブだったよ

その時のお写真見る?今は遠慮するって?話題がズレてるって?そんなぁ~

まあ、その後家に帰ってからお料理して、お風呂に入った後勉強してから1日のことを振り返って幸せな気持ちですやぴしたのさ。

57: 2022/02/10(木) 21:49:11.37 ID:g3V4hxM4.net
夢を見たんだ

夢の中でね、彼方ちゃんは遥ちゃんに右手を引かれて綺麗な花が沢山咲いてる川辺を歩いてるんだ~

どこ行くのって聞いてもいつも通りの笑顔で

「あと少し」

としか返してくれない

彼方ちゃん位の睡眠のプロになるとこれは夢なんだなって解るんだけど、折角遥ちゃんのいる夢なんだから楽しもうって思ったんだ

どこに向かってるのか気になったしね

58: 2022/02/10(木) 21:53:18.00 ID:g3V4hxM4.net
でもね、沢山歩いてるのに全然着かない

道はどんどん歩きにくくなっていくし、何か遥ちゃんに話しかけても

「あと少し」

としか返ってこないんだ~

退屈だから遥ちゃんを見つめながら歩いてたんだけど、ちょっとだけ違和感があったんだよね~

でも何がおかしいのかなって考えながら、顎に左手を当てた時に気がついたの

いつも遥ちゃんは彼方ちゃんの左手を握るのに変だなって

60: 2022/02/10(木) 21:56:33.89 ID:g3V4hxM4.net
勿論、遥ちゃんが私の右手を握る事が無い訳じゃ無いんだよ?

でもね

一つの違和感を見つけたら色々と見つかるものなんだ

だってさ、いくら何でもおかしいもん

いつも通りの笑顔っていっても、そこから全く表情が動かないのはね

61: 2022/02/10(木) 22:00:38.85 ID:g3V4hxM4.net
同時に私達は今まで気が付いてなかった事がおかしいくらいどんどん暗い道に進んでたって事に気が付いた

流石に怖くなって引き返そうとするんだけど、前に連れて行かれるの

「あと少し」

むしろ、どんどん足早になっていって手を払おうとしても凄く強い力で振りほどけなくて

「あと少し」

起きろ起きろって強く思ってるのに全然起きれなくて

「あと少し」

せめて頑張って止まろうとしても無駄で

「あと少し」

ほとんど真っ暗闇になった時に


「お姉ちゃん」

62: 2022/02/10(木) 22:06:13.85 ID:g3V4hxM4.net
って遥ちゃんの声で目が覚めたんだ

私はベッドの上だった

荒い息で呼吸を整える私に、寝坊するなんて珍しいね…大丈夫?って遥ちゃんが声をかけてくれたんだけど

私はそれどころじゃなかったんだよね


えっ、結局それはただの変な夢じゃないのって?
それは無いと思うな
だってね



起きた時、私の耳元で確かに聞こえたんだ

「あと少しだったのに」

って


これで私の話は終わりだよ〜

64: 2022/02/10(木) 22:10:24.16 ID:g3V4hxM4.net
歩夢「ひぃっ!?」

侑「っ…!?」

かすみ「侑先輩?どうかしたんですか?」

侑「…いや、何でもないよ」

果林「あら?怖がってもらえてるなら私嬉しいわ」

侑「怖く無いですよ!」

愛「これで3年生の分は終わりだね」

エマ「こういうお話をするの初めてだから緊張しちゃったよ」

果林「あら?私は結構楽しかったわ」

彼方「彼方ちゃんはまた思い出して怖くなっちゃったよぉ〜」

彼方「今日も遥ちゃんと一緒に寝ないと〜」

しずく「…彼方さんが毎日何らかの理由を付けて一緒に寝たがるって遥さんから連絡が来てますよ?」

彼方「本当に怖いんだって!」

かすみ「本音は?」

彼方「…恐怖1割欲望9割」

理奈「うわぁ…」

彼方「いやいや、本当に心底怖い体験するとこうなるって!」

かすみ「いやぁ…かすみんも怖い体験はしましたけど、そんなにはなってないですよ」

彼方「むうっ!そんなに言うなら次はかすみちゃんの怖い話を聞かせてよぉ〜」

84: 2022/02/12(土) 23:40:47.71 ID:l8FrjupR.net
かすみ「勿論良いですよ!」

かすみ「では、これからかすみんがとっておきの」

しずく「その前に少し良い?」

かすみ「?どしたのしず子」

理奈「果林さんって中学の時には島を出てたんじゃ…?」

果林「うふふ、昔話したことを覚えててくれて嬉しいわ」

果林「怖い話をする時は一部だけ話を変えた方が良いのよ」

かすみ「どうしてですかぁ?」

彼方「だって、もしかしたら今もそれが自分を探してるかもしれないんだからね」

かすみ「え゛え゛っ!?」

エマ「みんなも気をつけてね〜」

86: 2022/02/12(土) 23:50:14.20 ID:l8FrjupR.net
かすみんはぁ~中学生の時廃墟を探検した時のお話ですっ

廃墟っていうからには遠く離れた場所を想像すると思うんですけど、そうじゃないんです

かすみんの通ってた中学校のまあまあ近く、自転車で30分位の場所に廃墟があったんですね

三階建てで立派な木造の建物なんですけど、嘘かホントか先輩が言うには100年以上前からそこにあるって話の上に何とっ!森の中にあるんですよ

87: 2022/02/12(土) 23:57:53.45 ID:l8FrjupR.net
それだけならまあよくある廃墟なのかもしれませんが、そこは一味違いますよぉ〜

驚く事に全部の窓に板が打ち付けられてて、中を全く覗けないようになっていたんです

中にいる化け物を封印してるんだーって地元で噂になるような建物でしたね

中学生って好奇心が強いじゃないですか
ある夏の日、学校で前の日にやってたホラー番組の感想を数人のお友達と話してる内にどういう話の流れかあの廃墟に入ってみようって話になりました

それで、折角なのでしっかりと肝試ししようってなったので早速その日の夜に行く事にしたんです

忘れないようにコンビニで懐中電灯を買ってからその友達達と夜までカラオケで遊んで、日が落ちる頃にそこへ向かったんです

88: 2022/02/13(日) 00:04:46.91 ID:pcOn8cWR.net
不気味なくらい静かな森を虫にキャーキャー言いながら友達と進んで、やっとのことで廃墟に辿り着きました

気のせいでしょうけど、その建物の前に立つと夏だと言うのにヒヤリとした空気が流れていて…
それでもかすみんに逃げ帰るなんて選択肢はありませんでした

だって友達に怖がりだなんて思われたくありませんからね

入り口には鍵がかかっていなかったのでかすみん達はそのまま中に入りました

えへへ、ドアが開くギィィーって音に凄くビックリして、友達に茶化されちゃいましたね

中は予想通りすっごく暗かったので、懐中電灯の明かりだけが頼りでした

でも、想像とは違って存外綺麗でしたね。寧ろ少し綺麗すぎるくらいで思わず玄関で靴を脱いじゃったくらいです

90: 2022/02/13(日) 00:11:05.02 ID:pcOn8cWR.net
もしかしたら今も誰かがここを使ってるのかもって急に不安になったんですが、ここまで来てそのまま引き返すのもなんだか悔しいじゃないですか

だから、軽く見てすぐに帰る事にしたんです


中を見てビックリしましたね

板がついてるのは窓だけだと思ってたんですが、家の中では壁中に板が打ち付けられていたんです

それはもう異様な雰囲気でした

93: 2022/02/13(日) 00:20:30.51 ID:pcOn8cWR.net
二階、三階もそうでしたね
壁中に板がついてて壁本体が見えなくなってました

それに、なんだか不快感があるんですよね。なんというか誰かにずっと見られている感覚とでもいうんですかね?

まあ何かが出る訳でもないですし、怖さはあっても危機感はありません

恐怖を打ち消すように友達と何にも出なかったねーって話しながら帰ろうと階段を降りてたら

プッン
と何の前触れも無く急に懐中電灯の明かりが消えたんですよ

それと同時に

ガラン
って大きな音が家の中に響きました

94: 2022/02/13(日) 00:27:41.28 ID:pcOn8cWR.net
それまで重なってた恐怖が爆発してもうパニックです

恐怖心が爆発してみんな「ギャー」って可愛さのかけらもない悲鳴を上げながら、星の光を頼りに我先にと玄関へ急ぎました

みんなが先に出た後、私は月明かりを頼りに慌てて靴を履いていました 

いくら何でもあの森を靴無しで歩く自信はありませんでしたし、まさか本当に何か起きるわけが無いって楽観的な感情もありましたから

靴が足にはまってもう出られるって思った時、私は気がついたんです

いえ、気が付いてしまったんです

95: 2022/02/13(日) 00:34:32.72 ID:pcOn8cWR.net
懐中電灯の灯りはない

窓はさっき見たように全て塞がれている

あれ?なら、どこにも光源になる物はないよね?

じゃあ何処からこの光が来てるんだろう

って

どうしてだか無性にそれが気になって、家から出る寸前。扉を半開けにした姿勢のまま後ろを振り返っちゃったんです


目が合いました

壁に幾重にも重なる板の隙間の奥から

僅かに光りを放つ無数の冷たい目がジーッと私を見ていました

98: 2022/02/13(日) 00:38:45.90 ID:pcOn8cWR.net
気がつくとかすみんは家で寝ていました

友達が連れ帰ってくれたのかと思って次の日、学校でお礼を言ったんです

でも、返ってきた返事は何のこと?って

一緒にあそこに行ったでしょって昨日のことを話しても

えー、そんな場所行く訳ないでしょ
夏だからって怖いこと言わないでよ

って笑われちゃったんです

確かに普通に考えたらあんな所行くわけがありません

だって、私達は無力な中学生なんですから

それを乗り越えてそこへ行ったとしても、誰かが使ってるかもって思った時点で帰る良識くらい当時の私にだってあります

99: 2022/02/13(日) 00:42:19.33 ID:pcOn8cWR.net
でも、確かに私はそこに行ったんです

だって、私の部屋には確かにあったんですよ

明かりのつかない買ったばかりの懐中電灯が


これでかすみんの話はおしまいですっ!

101: 2022/02/13(日) 00:52:14.91 ID:pcOn8cWR.net
カチッ
プッン
「「「「「「「「「きゃーっ」」」」」」」」」

歩夢「あっ、ごめんね。私がもたれてた壁のスイッチ押しちゃったみたい…」

カチッ
かすみ「あ゛あ゛〜っ…ビックリしたぁ…」

かすみ「あの時のフラッシュバックで気を失うかと思いましたよぉ〜」

果林「うふふ、すぐに明かりがついたんだから良いじゃない」

愛「いやぁ…みんなで悲鳴を上げちゃったね…」

璃奈「心臓が止まっちゃうかと思った…」

歩夢「ごめんねぇ…みんなぁ…」

侑「…」

せつ菜「侑さん?大丈夫ですか?」

侑「うん?ああ、大丈夫だよ。ごめんね、心配させちゃって」

エマ「きっ…気を取り直して、次は誰が話そっか」

しずく「では、皆さん今はビックリして話せそうに無さそうなので、次は私が話させていただきますね」

128: 2022/02/18(金) 21:04:49.47 ID:RLRopxnO.net
しずく「では、私の体験をお話しさせていただきます。演劇活動中に起こった出来事を」


突然ですが皆さんは劇場というものをどう思いますか?

時間潰しに行く場所?
デートスポット?
気分転換に行く場所?

勿論多くの答えがあるでしょうね

こういった答えも含めて、私は劇場を人が持つ感情の全てが詰まっている場所だと思っています

例えばある時は人が笑い

ある時は泣き

またある時は怒り

そしてある時は誰かを愛する

人生で感じる最も激しい感情が、1日に何度も何度も繰り返される

129: 2022/02/18(金) 21:10:30.87 ID:RLRopxnO.net
確かにそれは演技です

どんなに本物に近づけようと努力しても結局は作り物でしかありません

ですがそれを演じて、見て生まれる感情は本物なんです

そんな場所だからこそ、何かあるのかもしれませんね

130: 2022/02/18(金) 21:14:03.91 ID:RLRopxnO.net
汗ばむ様な夏の日のこと

私達はここからやや離れた古く小さな劇場で演劇をすることになりました

演目はあのロミ子とジュリエット
幼い頃から大好きな演目です

そこで私はロミ子を演じさせていただく事になっていました
そう、皆さんご存知の通り主役の一人です

132: 2022/02/18(金) 21:39:37.05 ID:RLRopxnO.net
当然普通であれば一年生には任せられない役でしょう

目的としては小さい場で大きな役を任せることで次の世代に経験を積ませたいということだったのではないかと思います

自分で言うのもアレですが、私は部長に目を掛けていただいていますしね

ですが、小さな劇場とはいえそれでもまだ未熟な私が先輩達を差し置いて演じるには分不相応な役です

何度練習しても理想のロミ子になれない私は役を勝ち取った喜びがそのまま反転して、焦りを感じていました

そして、そのまま本番を迎えてしまったのですから内心穏やかではいられません

133: 2022/02/18(金) 21:45:48.71 ID:RLRopxnO.net
その日…本番の日も私は平気な顔を作りながら、内心は緊張に押しつぶされてしまいそうでした

準備の為、その劇場の倉庫から荷物を運び出す作業も私の気を逸らしてはくれませんでした

そして時は来ました

不安を抱えながら、それでも私は堂々と舞台に上がります

舞台の上に私自身がいてはいけません
不安や緊張は隠し通さなければいけないのです

134: 2022/02/18(金) 21:52:03.05 ID:RLRopxnO.net
そんな不安定な精神状態で演じていたのに不思議なものですよね
今までにないくらい役に入れているんですから

幸運にも私自身の不安感がロミ子の焦燥感とマッチする事が良い役作りに繋がったのではないか?
そんな自己分析を出来るくらいの余裕が生まれました

ですが劇が終盤になった時、終わりが見えてきた事で気が抜けてしまったんでしょうかね?

大切な場面で台詞がとんでしまったんです

まさか、あり得ない
台本を読み込む私にとって言葉が出てこないなんてことは練習中…いいえこれまでの役者人生で一度もありません

しかも自分の好きな演目でなんて

どう対処したら良いのかパニックになって、嫌な汗が背中をじっとりと伝います

136: 2022/02/18(金) 22:01:07.46 ID:RLRopxnO.net
大きな失敗を今まで経験した事がないということが仇になりました

化粧をしていなければきっと真っ青な顔を観客に見せてしまっていた事でしょう

どうしよう…どうしよう…

さっき言った通り、これは私の大好きな演目です

普段であれば寝起きであってもそのまま台詞を返せる自信があります
冷静になれさえすればすぐに台詞が出てくる筈なんです

なのに動悸は早まって、頭は霞がかかったように働かなくなっていって

時間ばかりが過ぎていきます
といってもそれは数秒でしかありません。ですが壇上の数秒が持つ力は大きいんです

観客の皆さんも、もうすぐ異変に気がついてしまうことでしょう

涙が溢れてしまいそうな目で無意味だと理解しつつも助けを求めながらバレない様に周囲を見回していると

助けがありました

137: 2022/02/18(金) 22:07:09.40 ID:RLRopxnO.net
舞台袖で大きなホワイトボードを出してくれている方がいたんです

観客席からは見えない様に、それでいて舞台の上からは目立つ様に

そこに書いてある文字が私の目に入ります


ああ、そうだ
その台詞だ!


一言分かればそこからは湧き上がる様に続いて言葉が出てきます

失敗のリスクを乗り越えられた安心感から普段以上の力を出せて…

気がつくと私は小さな劇場とは思えない万雷の拍手に包まれていました

あの方のおかげで私は舞台を成功させる事が出来たんです

138: 2022/02/18(金) 22:14:41.13 ID:RLRopxnO.net
すいませんでした 
幕が降りた後、舞台袖に戻ると同時に頭を下げました

しかし、皆は

何を言ってるの?


困惑しつつも

あの方にお礼を言いたいのですが、だれでしょうか?
そう言うと更に混乱したように

えっ?何のこと?
って

他に舞台の上にいた人も、舞台袖にいた人も私が何を言っているのか理解していないようでした

私も救世主の顔はホワイトボードに隠れており見れていなかったので、誰が助けてくれたのかまでかはわかりません

賛辞の声を浴び、納得いかないながらも
こういう時のフォローとして失敗に触れないようにしてるのかな?

そう考え大して気にしませんでした

139: 2022/02/18(金) 22:18:22.50 ID:RLRopxnO.net
皆が打ち上げの準備に入った為、誰もいない劇場内の倉庫で道具を纏めていた時です

「いい演技だったよ」

私の耳に称賛の声が聞こえました

先輩の誰かが入ってきたのかな?

そう思ってお礼を言いながら振り返った私の目に人は入らず、そこにはただロッカーがあるだけでした

疲れているし気のせいかな?

まさか褒められる幻聴だなんてと苦笑しながら元の向きに戻ろうとした時、目に入ったものがあります

ロッカーの上には重い埃を被った古そうな大きいホワイトボードがありました

140: 2022/02/18(金) 22:22:45.20 ID:RLRopxnO.net
劇場とは

人が笑い
泣き
怒り
恋をする

そんな場所

確かにそれは演技です
ですが、その中にある感情は本物なんです


これで私の話は終わりにしましょう

162: 2022/02/26(土) 21:45:35.01 ID:3NgGhKbM.net
璃奈「3年生、1年生って続いてるから次は私が話すね」

小学生の頃のお話だよ

私は小さい頃家にいることが多かった

家族は留守にしてる事が多くって話し相手もいなかった

だからゲームばっかりやってたの。

…話の入り口でそんなに暗くならないで。今はみんな…うん。みんながいるからあんまり寂しくないよ

ありがとう

164: 2022/02/26(土) 21:50:42.55 ID:3NgGhKbM.net
コホン…話を戻すね

昔も寂しくない訳では決して無かったけど、1人でも遊べる道具があって助かった

RPG
FPS
弾幕ゲーム

色々な種類

孤独を埋めたくって始めたのに気が付けばゲーム自体を好きになってた

結果それが今では特技になって、友達との会話の材料にもなってるよ

ふふ、歩夢さんとクソゲーについて語り合ったりね

さて、今まで色々な種類のゲームをプレイしてきたんだけど私には一つ忘れられないことがあるの

他のゲームの事は忘れても、きっとこれだけは忘れられない

165: 2022/02/26(土) 21:54:24.09 ID:3NgGhKbM.net
それは凄く面白いゲームって訳じゃなかった

だからといってつまらないゲームでもなかった

ゲーム自体は何の変哲もないRPG

中古で買った古くって、ストーリーもシステムも平凡なゲーム

要領削減の為に平仮名しか使えなかったけどそれも古いものなら当たり前の作りでね

普通なら記憶の片隅にすら残らないだろうなってくらい特徴の無いゲーム

プレイする前にデータは消しちゃったけど、前の持ち主さんも途中で投げたんだろうなって思うくらい中途半端な所で止まってた

166: 2022/02/26(土) 21:58:03.91 ID:3NgGhKbM.net
それでもプレイをしていた理由はそのゲームがキャラクターに名前を付けられるゲームでね

主人公を私の名前に

仲間の名前を『おとうさん』『おかあさん』にしてプレイしてたから

投げ出したら可哀想でしょ?

それに少しでも家族で出かけてる気分を味わっていたかったんだ

…ごめん、今のは私が悪かったね。冗談だからそんなに暗くならないで

168: 2022/02/26(土) 22:04:32.51 ID:3NgGhKbM.net
さて、そのゲームの終盤が見えてきた頃

まあ要するにラスボスのダンジョンに入った所だったかな?

それは珍しく両親共家にいる休日の朝の事

休日と言ってもお父さんもお母さんも朝から仕事で外出しなきゃいけないみたいで忙しそうにしてたから、私は部屋で大人しくゲームをしてたの

でもね、その時は少し変な事が起こったんだ

長いダンジョンを進んでいる時

『おとうさん』『おかあさん』のHPバーの上で、急に無いはずの状態異常が出たんだ

事故

って
そのゲームにはまひ、やけど、こおりの3種類しか無いはずだった

そもそもこんなのが状態異常なんて、それもファンタジー世界で唐突に出てくるなんておかしいよね?

169: 2022/02/26(土) 22:11:29.65 ID:3NgGhKbM.net
なんだろう?って思いながら、それでもプレイを続けようとしてたんだけど『おとうさん』『おかあさん』のHPが凄い勢いで減っていったの

バグかなって思いながら回復アイテムを使ってみたんだけど『これは使えません』
って表示されるだけで効果がなくってね

『おかあさん』は途中で止まったんだけど『おとうさん』のは止まらなくって…

すぐ0になっちゃった

事故って出てた状態異常は

氏亡

って表記に変わったよ

みんなも察してると思うけどこんなの普段なら戦闘不能になっても出てこない

170: 2022/02/26(土) 22:15:09.16 ID:5fSoYJxa.net
復活アイテムを使っても

『このキャラクターには使えません』

って出てね

仕方ないからもう一つの復活手段の教会に行くことにしたの

勿体無いなと思いながら終わりも間近なダンジョンから出て、近くの教会に向かって進んでね

そこで神父さんに話しかけたら急に画面が真っ暗になってこう出てきたの

171: 2022/02/26(土) 22:19:25.84 ID:5fSoYJxa.net
『おとうさんはしんでしまいました』
ピッ
『おとうさんはしんでしまいました』
ピッ
『おとうさんはしんでしまいました』
ピッ
『おとうさんはしんでしまいました』

ピッ
『おとうさんはしんでしまいました』

って

それがずっと続いて

私はテレビの電源を切った。怖かったから

だけど画面は変わってくれない

ならば大元から消そうと私は恐る恐る近付いて、震える手でテレビのコンセントを抜いた

それでも信じられないことに画面は変わってくれない

173: 2022/02/26(土) 22:23:07.80 ID:5fSoYJxa.net
応答がないならまだわかるよ

画面が変わらないのは古いテレビだとあり得ることだから

だけど、電源は入ってない筈なのにボタンを押すと

ピッ
『お父さんは氏んでしまいました』

174: 2022/02/26(土) 22:25:47.14 ID:5fSoYJxa.net
恐怖に耐えきれなくなって目を閉じながらボタンを何度も何度も押す

ピッ
何度も
ピッ
何度も
ピッ
ピッ
ピッ
ピッ


「貴女のお父さんは氏んでしまいます」

175: 2022/02/26(土) 22:29:25.78 ID:5fSoYJxa.net
ビックリして目を開けるとテレビの画面は真っ暗になってた

その時
「そろそろ行こうか」

居間からお父さんとお母さんの声が聞こえてきた

嫌な予感がした私は慌ててそこに行って二人を引き止めた

普段大人しい私の必氏な様子にお父さんもお母さんも戸惑ってたみたいだけどそれが10分も続くと

「いい加減にしなさい」

とうとうお母さんが怒って私をお父さんから引き剥がしたの
慌てた様子で外に出ようと扉に手を当てて…

176: 2022/02/26(土) 22:33:02.90 ID:5fSoYJxa.net
その時ね

居間でついたままになってたテレビからニュースの速報が入ってきたの

『速報です。たった今入ってきた情報によりますと〇〇県〇市の〇〇道で玉突き事故がありました。現在被害状況は分かっておりませんが悲惨な状況が…』
って

近所の道路の名前だななんて思ってると

「これ…今日通るはずだった道だ…」


思わず出てきたような誰に聞かせる気もなく発したであろうお父さんの呟きが、静かに私の耳に入ってきた

184: 2022/02/27(日) 20:41:21.16 ID:VQSVnXLL.net
歩夢「怖かったね…」

侑「…」
侑「…歩夢ぅ!」

ギュッ

歩夢「!?」
歩夢「えっ侑ちゃん!?」

愛「あはは、ゆうゆの方が歩夢に抱きついちゃってるじゃん」

璃奈「微笑ましい」

侑「仕方ないでしょ!」

歩夢「あはは…」

185: 2022/02/27(日) 20:48:39.37 ID:xsw4IwjY.net
かすみ「そんなに怖がってもらえるならかすみんもとっておきを出した甲斐があるってものです」

果林「うーん、しずくと璃奈の話しは良い話しだったとも思えるんだけど…」

歩夢「かすみちゃんのお話しはなんだか放っておいちゃいけないって気がするよ」

かすみ「…もう解決したお話しですよ!かすみんはあそこにはもう近付いてすらいませんからっ!」

彼方「それもそうだよね〜」

エマ「危ない場所はもう近づいちゃダメだからね!」

かすみ「わかってますよぉ」

歩夢「何かあったら私が助けるからね!」

しずく「歩夢さんも怖がりなんじゃ…?」

歩夢「しずくちゃん!?」

エマ「うふふ、無理しちゃダメだよ〜?」

歩夢「もうっ、エマさんまで!?」 

侑「あはは」
侑「…でもね、歩夢っていざって時にはすごい勇気があるんだよ」

かすみ「…なら余計に助けを求める訳にはいきませんよ」ボソ

歩夢「かすみちゃん?」
かすみ「何でもありませんっ!」

かすみ「次行きましょう、次!」

せつな「では流れ的に私達2年生が話す番ですね!!」

187: 2022/02/27(日) 21:08:35.32 ID:my4SI2Hz.net
愛「おっ!じゃあ次は愛さんが行こうかな」


愛さんはねぇ、友達と旅行に行った時の話しだよ

友達達と夏休み海に行った時

海といってもこの辺りじゃないよ?

緑豊かな森の近くの空気が美味しい場所

1日遊んで、旅館に泊まってね

海の幸舌鼓を打って広いお風呂に入って…明日は何しようかなって話しながら寝たんだ

こんなに幸せな気持ちで寝むるならずっと起きれないんじゃないかなってくらい幸せな入眠だった

でもね、次の日なんだか目が覚めたんだ

外はまだ薄暗くって、出たら涼しくって気持ちいいだろうなぁなんて思ってる内になんだか無性に走りたくなっちゃった

その気持ちを抑えきれなくなって、軽く準備体操をしてからまだ夢の中にいる友達達に書置きを残してから外に出たんだ

188: 2022/02/27(日) 21:20:58.31 ID:my4SI2Hz.net
どこを走ろうかなーなんて思ってる内に足は昨日遊んでた海沿いに向かってた

そこは見晴らしが良くって昼の賑わいとは打って変わって人気の無い、走るには絶好の場所だった

早朝の海風は想像よりずっと気持ち良くってね

30分位はジョギングをしてたかな?

岬を走ってるとふと、その先端に優しい顔をしたお地蔵様が見えたんだ

その前には火の灯った真っ直ぐで長い綺麗なロウソクが穏やかに灯ってて、それを見たらなんだか凄く安心…幸せな気持ちになってさ

お祈りしようと思わず近づいてたんだけど、ギリギリの所で気がついて青い顔になりながらすぐUターンして宿に戻ったよ

190: 2022/02/27(日) 21:27:51.72 ID:hGCOtYCp.net
友達が起きてからそんな長距離歩きたく無いよ〜って文句を言うその子達とそこに行ったんだけど、そこにお地蔵様は無かった

ううん。正しく言うならお地蔵様の居た岬の先端自体が無かったんだ

あそこから落ちてたらきっと私でも…


これで愛さんの話は終わりだよ

193: 2022/02/27(日) 21:41:54.11 ID:hGCOtYCp.net
解説
考えたい人はまだ読まないで下さいね






人気の無い海で30分程度走った後ということは蝋燭には少なくとも30分以上火が灯っている筈
それなのに長く、綺麗に真っ直ぐなのはおかしい

愛さんは頭の回転が早いのでそれが普通では無いと気が付き難を逃れた

完全オリジナルなんで粗があっても許してね

212: 2022/03/06(日) 17:13:11.39 ID:US5k7a51.net
せつ菜「テンションが上がって来たので次は私が行きますね!!うぉおおおーー!!!」

私は夜中にアニメを見ていた時の出来事を語らせてもらいます!

あれは!!!…えっ!この声じゃ怖くならないって!!

…仕方ありません カチャリ

今は菜々モードで行きますね

皆さんご存知の通り私の両親はいわゆるオタク趣味に否定的な人です

なので堂々とアニメを見るわけにいかないのですが、その日はどうしてもリアルタイムで大好きを楽しみたい作品がありまして

213: 2022/03/06(日) 17:17:40.64 ID:US5k7a51.net
放送日が楽しみすぎて番組表も覚えてしまったくらいですよ
かすみさん!何ですかその表情は!

私の記憶力を舐めないでくださいね
その時間は

1チャンネルは教育番組
2チャンネルは放送中止
3チャンネルは通販
4チャンネルは歌番組
5チャンネルはバラエティ番組
6チャンネルは見てないアニメ
7チャンネルはドラマ
8チャンネルもドラマ
そして9チャンネルが私の見たいアニメでした

このアニメは漫画が原作でして、アニメ化は嬉しい反面元となった作品の出来が良すぎるが故に正直原作越えは難しいと観る前は思っていたのですが、見てみるとその評価は良い意味で変えざるを得ませんでした
原作者監修の補完エピソードもあって、特にヒロインと主人公である少女の出会いの補足なんてもう最高でs

215: 2022/03/06(日) 17:24:30.67 ID:US5k7a51.net
こほん、失礼しました
兎に角、とっても楽しみにしていたアニメなんです

大きな画面の中で動く彼女達を早く観たいって思いを抱いてしまう程に

なのでリアルタイムに大画面見ることにしたんです

といっても、私の部屋にテレビはありません

リスクを承知の上で私は居間にあるテレビで観ることを決意したのです

その夜いつものように勉強してから仮眠をとって…携帯のアラーム時間をうっかり1時間間違えていたのですが、丁度放送されるくらいの時間には自然と目が覚めました

それだけ楽しみだったんです

216: 2022/03/06(日) 17:31:54.63 ID:US5k7a51.net
両親の寝静まった夜足音を消しながら部屋を出て、バレないようにリビングを真っ暗にしながらテレビをつけました

音は最小限にして万が一親と鉢合わせた時の対策もありましたよ
私の近くにテレビのリモコンを置いてすぐ消せるようにするのは当然です

テーブルにはコップに水を入れて、あたかもたった今水を飲みに出てきた感を出していました

そこまでするなら部屋の明かりもつけて良いのでは?
って思われるでしょうが、そうするとお手洗いのために親が起きた場合であっても明かりを消すため部屋まで出てきてしまう可能性が高いんですよね…

217: 2022/03/06(日) 17:38:18.88 ID:US5k7a51.net
まあ、そんな訳で真っ暗闇の中アニメを見ていたんです

大きな声で応援したい気持ちを抑えながら観ていると

バンッ

何処かから物音がしたんですよね
両親が起きたのかと思い慌ててテレビの電源を切り暗闇の中息を潜めていたのですが、どうやら誰も動いている様子はない

お手洗いに起きただけなのかと思い安心してリモコンに手を伸ばしたその時

勝手にテレビがついたんですよ。

218: 2022/03/06(日) 17:47:46.03 ID:US5k7a51.net
勿論リモコンには触れてすらいません
ボタンをうっかり押したりもしてませんし、音声認識も設定していません
ひとりでについたんです

それだけじゃありません
テレビのチャンネルが勝手に変わっていったんです

あれ?って思いながらリモコンを手に取りアニメに戻そうとしても操作出来なくて

これは少しおかしいと思った時にはもう遅かったです

気がつくと全く体が動かなくなっていました

これが金縛りかぁ

恐怖の中にはそんな少しの感動すらありました
全く肉体が動かない中、そうして現実逃避をしていないと恐怖に呑み込まれてしまいそうでしたから

動けない内に番組はどんどん変えられています

219: 2022/03/06(日) 17:51:14.50 ID:US5k7a51.net
テレビを向いたまま体を動かせずにいたので、どんな番組なのか目に入ってくるんですよね

歌番組
放送中止
ドラマ
歌番組

バラエティ番組
教育番組
歌番組
暗転して同じ番組
放送中止
暗転して同じく放送中止

バラエティ番組
教育番組
歌番組
暗転して同じ番組
放送中止
暗転して同じく放送中止

バラエティ番組
教育番組
歌番組
暗転して同じ番組
放送中止
暗転して同じく放送中止
通販番組

220: 2022/03/06(日) 17:57:58.67 ID:US5k7a51.net
という感じにね

…何か気がつきませんか?

私は気がつきました
気がついてしまいました 

自分の記憶力を褒めてあげたかったですが、悲しいかな気がついたところで意味はありません

逃げ出したいのに、足は勝手にテレビに向かって動きます

バラエティ番組

教育番組

バラエティ番組

教育番組

バラエティ番組

教育番組

バラエティ番組
教育番組

バラエティ番組
教育番組

バラエティ番組
教育番組

助けを呼ぶ声を出したいのに出せない

徐々に体がテレビに近づきます
テレビに映る人は皆、私を招くように手を動かしていました

221: 2022/03/06(日) 18:08:20.90 ID:US5k7a51.net
もうダメだ
そう思った時

ジリリリリ

ポケットに入れていたスマホから音が響き渡ります
目覚ましに設定していたアラーム音です

音に驚くと同時に身体を動かせるようになりました

目覚ましの時間設定を間違えた事が奇しくも私を救ったんです

慌てながらおぼつかない足取りで部屋に戻って、震えながら布団を被りました

やっと寝付けた翌朝は母の困惑したような声で目が覚めたんです

菜々〜、これ何〜

母の声がするリビングに向かうと
テーブルの上にたった数時間放置していたコップの中の水は真っ黒になっていました

あの日から私は深夜のリビングに近づいていません

これで私の話を終わります

250: 2022/03/13(日) 21:57:31.99 ID:WO1Lzw7q.net
侑 「次は私かな?」

私は音楽室で体験した事を話すね

みんなも知っての通り私って普通科から音楽科に入ったでしょ?

これからみんなの力になれるって嬉しさや頑張るぞって気持ちでいっぱいだったんだ

でも当然だけど現実はそんな思いだけじゃどうにもならない

251: 2022/03/13(日) 22:06:11.07 ID:WO1Lzw7q.net
最近始めたばかりの私が一年生の頃…いや、もっと昔から音楽に触れてきた人達と並ぼうって思ったら生半可な努力じゃダメなんだ

毎日が学びと落ち込みの連続だよ

ただでさえ周回遅れの私が少しでも周りについていく為
いや、ちがうね。さらに差を付けられないようにする為だけでも人一倍の練習が必要だった

252: 2022/03/13(日) 22:12:49.28 ID:WO1Lzw7q.net
沢山の楽器に囲まれながら
その日はテストに向けて1人音楽室に残って遅くまでピアノを練習して…

歩夢はもう知ってるけど、実は私の部屋にも練習用のピアノはあるんだよね

だけど本番に向けて本格的なピアノを使いたかったんだ

少しでも本番に近い環境でやりたかったしピアノの鍵盤の幅、何より音が全く違うからね

音楽って不思議な物で、ほんの少しの誤差でも聞き手にとっては大きな違いになっちゃうんだ

だから私は指の動き一つ一つに感情を込めて何回も何回も繰り返し同じ曲を弾いていた

でも、やっぱり上手くいかないんだよね
それに焦りながら弾くと音は歪になっていく

負の連鎖だよ

253: 2022/03/13(日) 22:19:05.80 ID:WO1Lzw7q.net
音楽室の外からはどこかの部活関係なのかな?談笑の笑い声が聞こえて来た

1人で弾いてると
ふと音が響く

ピアノの音

それはあって当然なんだけどあるはずのない音

だって響いたのはわたしが触れていないキーの音だったんだから

勿論音楽室には私1人だけ

そこに音が鳴る
それは曲を奏で始めた

254: 2022/03/13(日) 22:23:52.40 ID:WO1Lzw7q.net
私にはわかった

自分の才能不足にストレスを感じていた私には最早馴染み深い

それはイライラしてる時の演奏だった
自分の実力を嘆きながら弾いている音だ

ピアノの音だけじゃない
バイオリンの音がした
チェロの音がした
フルートの音がした

苛立つように乱暴な音を出しながらそれぞれが別々の曲を狂ったリズムで奏でていた

耳に入るだけで頭が割れてしまいそうな、おかしくなっちゃいそうな気持ちになる

255: 2022/03/13(日) 22:30:59.56 ID:WO1Lzw7q.net
このままこれを聞いていちゃダメだ

感情より先に本能がそう言った

椅子から転げ落ちながらやっとの思いでドアに走るけど、どうしてか扉が開かない

どうしよう
どうしよう
どうしよう

そうだ、さっきから外で聞こえる笑い声の主に助けを求めよう

そう思って声を出そうとして…

あれ?音楽室って普通は防音になってるよね?

それもこの学校みたいに設備の整ってる場所なら尚更

じゃあさっきからずっと聞こえて来るこの声はどこから…

聞こえる笑い声が大きくなる

気が付いた
それは外から聞こえているんじゃなかった




ずっと室内にいたんだ

256: 2022/03/13(日) 22:35:42.27 ID:WO1Lzw7q.net
色々な音やリズムが秩序なく混ざり合った狂気的な空間に笑い声が混ざって…

とうとう気を失いそうになった時
ガラッ

「侑ちゃ〜ん、せつ菜ちゃんから音楽室の鍵を借りたって聞いたんだけどまだ練習してたの?」
「もう遅いから一緒に帰ろう」 

「歩夢?」
「歩夢ぅーーーっ!」


「きゃっ!?」
「ゆ…侑ちゃんっ…どうしたのぉっ?」

歩夢が部屋に入って来ると同時にその音は嘘のように止んだ

257: 2022/03/13(日) 22:43:31.04 ID:WO1Lzw7q.net
私にはなんとなくだけどわかったよ

成功する人の影にはきっと、それ以上に挫折した人がいるんだろうね

何十、何百の敗者の上に勝者がある
だからこそ価値があるし
だからこそそこに届かない人のやるせない気持ちもある


その夜は私の部屋で歩夢と一緒に練習して、そのまま泊まってもらったんだ
テストは見事に合格を取れたよ!

歩夢のことを想いながら弾いてたら凄く優しい音だって高評価を貰えてね

やっぱり大好きな幼馴染がいると色々と助かるね
歩夢、大好きだよ

これで私の話はおしまいっ

259: 2022/03/13(日) 22:47:25.40 ID:WO1Lzw7q.net
かすみ「…って、最後はただの惚気話じゃないですか!」

せつ菜「いいじゃないですか!大好きな気持ち!!」

しずく「そうですよ、素敵です!」

愛「うんうん、好きな想いはスキップせずにちゃんと伝えなきゃ」

エマ「あら^〜キマシタワーだよ〜」

果林「…だれ?エマに変な言葉教えたの」

彼方「幸せだね〜今日は良い夢見れちゃいそう〜」

璃奈「眼福…耳福?」

歩夢「もうっ、侑ちゃん///」
歩夢「みんなまで茶化さないでよぉ」

260: 2022/03/13(日) 22:59:13.02 ID:WO1Lzw7q.net
侑「…ねぇ、歩夢」

歩夢「///」スー ハー
歩夢「何?侑ちゃん」

侑「どうして私の記憶に歩夢のいない日があるのかな?」

歩夢「…もうっ、冗談でもストーカーさんみたいなこと言わないでよ」

侑「あはは」

侑「ううん、残念だけど冗談じゃないんだ」

かすみ「どういうことですか?」

侑「どうしてだろうね、どうして誰も違和感を感じてないんだろう」

璃奈「違和感?」

侑「ねえ、歩夢」
侑「歩夢って昨日はどこにいたの?」
歩夢「…」
歩夢「昨日は…そうっ!おばあちゃんのお家に…」
侑「じゃあ一昨日は?」
侑「先月は?」

侑「どうしてここ数ヶ月分歩夢の記憶がないの?」

歩夢「…」

280: 2022/03/20(日) 19:16:11.86 ID:pkaCSafG.net
侑「一人でいると時々匂いがした
みんなといる時も、その優しい声が聞こえる気がした」

でも、苦しい程に会いたいって思ってるのに会えない
いつも私が困ってたらすぐに声を掛けてくれてた歩夢が、こんなに辛い思いをしてる私の前に出てきてくれない

どんなに探しても、探しても、探しても

歩夢の家
私の家
幼稚園
小学校
中学校
虹学
部室
みんなと遊びに行った場所
2人で遊びに行った場所

病院

そして最後の別れを済ました場所


どんなに探しても記憶の中にしか見つからない

281: 2022/03/20(日) 19:23:12.26 ID:pkaCSafG.net
でもね、今日は違った

彼方さんの話が終わった後からね、いつもよりはっきりその声が聞こえる気がした

かすみちゃんの話の後、部屋の電気のスイッチがオフになってから慌てたように再びオンになるのを私は見た
誰も触ってなかったのにね

そして、一年生みんなの話が終わった頃からね
可愛い幼馴染がいた

まるで今日も最初から居たみたいに
ずっと続いていた日常の続きみたいに自然に

283: 2022/03/20(日) 19:36:06.18 ID:pkaCSafG.net
そのことに誰も違和感を感じてないみたいだったけど
人生の半分以上歩夢と過ごしてきた私だからかな?
今会えてるのは普通じゃないんだって理解できちゃうんだ

こうして抱きしめてるとわかるよ 

この感触
この匂い
この声
表情

間違いなく歩夢だよ

284: 2022/03/20(日) 19:45:16.39 ID:pkaCSafG.net
ねえ、歩夢
実は私もその記憶がハッキリしないんだ

頭にモヤがかかったみたいにそこを思い出せないんだけど
私は何かがあったって事を忘れない

あの日からずっとそれを忘れられなかったんだ
不自然さにはどうしても気がついちゃうよ

ねぇ、歩夢
私はいつから演奏を楽しめなくなっちゃったんだろうね?
歩夢はいつから私の側に居なかったんだっけ?

…これを聞いたらきっと私は後悔する
でもね、聞かなかったらもっと後悔するって思うんだ

285: 2022/03/20(日) 19:51:58.13 ID:pkaCSafG.net
歩夢「…」

歩夢「ごめんね」

歩夢「少しだけ私にお話の時間をくれないかな?」

すぅー
はぁー

怖い話かはわからないけど、最後にわたしが話すね

286: 2022/03/20(日) 20:02:15.10 ID:pkaCSafG.net
『怖い話をしてると寄ってくる』よく言う話だよね?
でもね、それって本当は少し違うんだ

勿論話に興味を持って、自分に気がついて欲しくて近づく子もいるんだろうけどそれが1番の理由じゃないの

実は怖いお話をしてるとね、そこが霊界に近くなっちゃってね

こわい話をするから寄ってくる
っていうよりかは

波長が近くなるから今まで存在を知れなかったけど元々いた子を見れるようになった

って認識が正しいんだ

人が存在を信じると同時にね、幽霊の力も強くなるの
神様は信仰する人が多い程力を増すって言うでしょ?

それと似た感じかな

287: 2022/03/20(日) 20:09:20.69 ID:pkaCSafG.net
世界が近くなって、同時に幽霊の力が増す
特定の個人に対する思いが強いなら尚更ね

今日のは本当に偶然だったんだ
怖い話をしようってみんなが提案してくれたのも
侑ちゃんがそれを受けてくれたのも

みんなが私を想ってくれていたのも


…だからこうしてまた会えた

みんなの私に関する記憶を少しいじっちゃったのはごめんね
事故に関する記憶だけを朧げにさせちゃった

だってみんなに気がついてもらえてるってわかったら
もう一度だけ、前みたいな日常を味わいたくなっちゃったから…

本当なら誰も違和感に気がつかないまま最後の1日を終えるつもりだったの

侑ちゃんが私をここまで想ってくれていたのは予想外だったよ
それがとっても嬉しい

288: 2022/03/20(日) 20:25:48.10 ID:pkaCSafG.net
1人の女の子の話をさせて

みんなを大好きな女の子の話を

会えなくなってからも会おうとして
話せなくなっても会話に混ざりたがる
そんな女の子の話を

あの日、その子は1人で歩いてたんだ

理由は…ふふっ、もうみんなにバレちゃってるよね?

そう。その子はサプライズパーティーを開こうとしてたんだ

侑ちゃんがピアノのテストを合格できたお祝いと
みんなへの感謝を改めて伝えたかったから

普段ならお礼を改まって言うなんて恥ずかしいけど、ついでってことにしちゃえばいけるかなって思ってね

1人で準備してたんだ

290: 2022/03/20(日) 20:38:48.97 ID:pkaCSafG.net
その買い物に行った帰り道、大きな荷物をよいしょって運んでいるとね

悲鳴が聞こえたの
なんだろうって見てみると
光る物を持った人が子供に馬乗りになってたんだ

人通りのあるいつも通りの風景で見た、いつも通りじゃ無い光景

通り魔なんだって頭に浮かぶ前に

慌てて荷物をほっぽり出してそこに近づいて無我夢中で取り押さえようとして

…あはは

結果はみんなも知っての通り

達成感はあったよ。子供を助けられたんだからね

痛みなんか忘れさせてくれるくらい嬉しさもあった

でもね、その後には後悔が残ったの

291: 2022/03/20(日) 20:48:08.73 ID:pkaCSafG.net
私が傷つくだけならまだ耐えられた
私だけが何か言われるなら耐えられた

でも、そうじゃなかったんだよね

私の前でみんなが、両親が、ファンの子が泣いてるのを見てやっと自分1人の人生じゃ無いんだって気がついたの

動画サイトにあの時の動画が上げられて、みんなにも迷惑かけちゃったよね?

学校に押し寄せるマスコミ
ネットの心無い書き込み

友達がいなくなった傷の癒えないまま瘡蓋を剥がされちゃう痛み。それをみんなに何度も与えちゃったのはあの日、何も考えずに飛び出した私のせいだよ

本当にごめんね

293: 2022/03/20(日) 20:55:01.42 ID:pkaCSafG.net
あの日から私はみんなの側に居たんだよ?
ずっとずっと何度も話しかけようとした

でも、それは届かなかった
謝罪も何も伝えられない
会話に混ざろうとしても混ざれない

独り言になっても良いからって会話に口を挟んだりしてたけど、時々悲しくなっちゃった

今日私がみんなの記憶を少しいじってでも昔みたいに接したいって思ったのはね

もうすぐ私が成仏しなきゃだからなの

ふふっ、そんな顔しないでよみんな

…通りがかりの巫女さんにね、言われたんだ

「そのままじゃ悪霊になってまうよ?」
って

294: 2022/03/20(日) 21:01:40.77 ID:pkaCSafG.net
それまでは気が付かない振りをしていたんだけど
肉体の保護の無い魂は現世にいるだけで少しずつ歪んでいっちゃうの

現に私の心はね、少しずつ変わってきちゃってるんだ


みんなを連れて行きたい


そんな考えが悪意なく不意に浮かぶ頻度も多くなってる

296: 2022/03/20(日) 21:09:10.14 ID:pkaCSafG.net
だから明日にでも行かなきゃって思ってたんだ
最後にこうして会えたのは神様が私にくれたご褒美なんだと思う

そして、侑ちゃんが違和感に気が付いてくれたのはきっとこれを言わせてくれる為

だから改めて言うよ
みんな、本当にごめんね

それと、ずっと言いたかった事を言わせて

ありがとう
本当にありがとう
こんなんじゃ伝わらないくらい沢山のありがとうを

みんな、私を気になんてしないで自由に生きて
私を呪いにしないで

可愛いも
演劇も
人との繋がりも
助っ人も
大好きな気持ちも
モデルも
優しさも
頑張り屋さんも

それ以外も全部、全部、全部応援してるから

298: 2022/03/20(日) 21:15:07.64 ID:pkaCSafG.net
侑ちゃん、

好きなように生きてね
音楽を続けるのも、辞めるのも私は侑ちゃんの好きにして欲しい
ただ、わたしは侑ちゃんの作る曲が大好きだよ

侑「…その言い方は卑怯じゃ無い?」

ふふ、ごめんね

ねえ、侑ちゃん
長い長い輪廻の中でまた幼馴染になれたら
その時は…

299: 2022/03/20(日) 21:23:49.21 ID:pkaCSafG.net
視界が白く染まっていく

眩しく輝く視界

光の中で彼女は笑みを浮かべていた
これが別れじゃ無いんだって言うみたいに

だから私もみんなも涙を堪えて笑顔で手を振る

そして全てが白く染まって…

300: 2022/03/20(日) 21:33:19.20 ID:pkaCSafG.net
目が覚めると私達は部室に居た

机に突っ伏して寝ていた私達はその日そのまま何も言わずに解散した

あれが本当のことだったのかは聞くまでもない

皆の頬に流れる涙と

それぞれの肩にかかっていた懐かしい匂いの残るブランケットが言葉を不要としていたから

言葉は無くてもみんな影の取れた良い顔をしていた
明日からはきっと前みたいに自然な同好会に戻れるだろうって、そう思う

私は決意した
これからも音楽を続けようって

そして、納得出来る曲ができたらいつか歩夢に伝えるんだ
この曲は愛する貴女のために作ったんだよ
ってね

301: 2022/03/20(日) 21:39:50.11 ID:pkaCSafG.net
今年も私はあの夢を見る

みんな心配させたくないからあの日は言わなかった
言える訳がない

毎年、季節毎に一回私は何故かそこにいる

あの廃墟に

解決なんてしていない
解決方はきっと無い

その壁を覆う板は毎年少しずつ剥がれてきている

今年はきっとあの板が落ちる

私にはどうしてかそんな確信があった

もし、そこの全てと目が合ったら私はどうなってしまうのだろう?

303: 2022/03/20(日) 21:47:37.00 ID:pkaCSafG.net
そう思いながらそれでも私はそこへ足を踏み入れた

抵抗は無駄だ。逃げたいと足掻こうが涙を流そうが、私の体は操られているかのようにそこへ向かう

最早見慣れた光景が私の目に入る

壁一面の板

その隙間から幾多の目が私を覗く
それだけで全身には怖気が走る

板はキーキーと力無く揺れて
揺れて
揺れて
ガタン
とうとう落ちた

304: 2022/03/20(日) 21:51:54.77 ID:pkaCSafG.net
予想通りになってこんなに嬉しくないことは無い
さらに嬉しくないことに

ガタン
ガタン
ガタン
ガタン

一つ落ちるとそれに呼応するように全面の板が落ちる
砂の城が崩れるように呆気なく

305: 2022/03/20(日) 21:58:09.08 ID:pkaCSafG.net
目が合った

生理的嫌悪感を齎す夥しい目の群れ

息苦しさに初めて、自分が呼吸を忘れていたことに気がつく

それは涙を流していた
怒りを露わにしていた
悲しそうな色を湛えていた
喜びだけはそこに無かった

喜び以外の全ての感情がそこにあった

同じ形のものが二つとないそれらからは一つの共通した感情が伝わってくる

嫉妬だ

自由でいられる私への
何にも囚われていない私への

それが私に近づいてくる
いいや、違う

私が近付いているんだ
私の目が壁に近づいているんだ

嫌だ、嫌だ!嫌だ!!

助けを求めようにも声は出ない

目が動いている
目だけが動いている
目だけが動かされている

306: 2022/03/20(日) 22:02:09.93 ID:pkaCSafG.net
『何かあったら私が助けるからね!』

脳裏にふと、言葉が蘇る

あの日、夢と現実の狭間で出会えた尊敬する人の言葉

私の…
いいや

世界で一番可愛いかすみんがライバルだと胸を張って言える優しくって可愛い

大好きな先輩がくれた言葉だ

307: 2022/03/20(日) 22:07:10.50 ID:pkaCSafG.net
ならば
震える声で呼ぼう

あの人の名前を

無駄でも良い

無駄だったとしても、その名前を呼ぶだけで少しは穏やかな心で最後を迎えられるだろうから

「あ…あゆむ…せん…ぱい…」
「助けて」

風が強く吹く

「おめーか?くせーのは」
かすみ「えっ…?」

308: 2022/03/20(日) 22:12:50.60 ID:pkaCSafG.net
「かすみちゃんに手を出すなら」
「殴られても文句言えねぇよなぁ」

そこには彼女はいた

デフォルメめされたように小柄な姿
彼女なら言わないであろう言葉遣い

だけれど見間違いようは無い
だけれど聞き間違いようは無い

かすみ「歩夢…先輩…?」

「ふんっ!」
歩夢先輩がそれに手を触れるとまるでギャグ漫画のように呆気なく
私を長年悩ませていたそれは砕けながら遠く遠く吹っ飛んでいった

歩夢「ふふふ、前に言ったでしょ?信じる人が多い程幽霊は力を増すの」

歩夢「スクールアイドルはある意味では信仰を集めている存在」

歩夢「それは時代が少し違えば神と言われるような存在に近いんだ」

歩夢「単純に人口が増えた上に配信で見てくれる人の多い今の時代、強い力を持てるのは当然だよね」

歩夢「それに私は最後がアレだったおかげで人によっては変に神聖視されちゃってるところがあるから…」

歩夢「こうしてほんの少しだけならこっちに来れるみたい」

歩夢「ここでのことはすぐ忘れちゃうと思うけど」

歩夢「安心して、みんな私が守るから!」

歩夢「…侑ちゃんがこっちに来ちゃうまでだけどね」

309: 2022/03/20(日) 22:18:20.28 ID:pkaCSafG.net
かすみ「歩夢先輩っ!」
かすみ「あれ?」
かすみ「私…」

どんな夢を見ていたのか忘れちゃいましたけど、何だか今日のかすみんは調子が凄く良いです!

長年抱えていた不安から解放されたような感覚
スキップをしたくなるくらい気分が良い

よーーしっ

かすみ「今日も頑張りますよぉーー!」
…これじゃせつ菜先輩みたいですね

キャラ被りはNGです

312: 2022/03/20(日) 22:24:20.68 ID:pkaCSafG.net
電話の着信音で目が覚める
幼馴染からのモーニングコールだ

のそのそと起き上がりながら時計を確認して…

「…ああっ!?もうこんな時間!?」

柔らかく全身を包み込むベッドから慌てて飛び上がる

『遥彼方へと夢に誘う』がキャッチコピーのベッド
看板に偽り無くって疲れはすっかり取れるんだけど、夢が深すぎるのが玉に瑕

着信履歴は4つ、その全てが今朝幼馴染のかけてきてくれたものだ

「絶対待たせちゃってるよお」

急いで制服に袖を通す

313: 2022/03/20(日) 22:26:39.78 ID:pkaCSafG.net
『ペンギンの赤ちゃんですよ〜可愛いですねぇ〜』
『当番組は自然に優しくファッションを楽しめ!エカマリンの提供でお送りしております』

『では、CMです』

毎朝のようにテレビから流れる映像を横目で見ながら朝食をかき込む

『大女優中須しずく婦婦での出演作!キューティージョーズ今夜放送!』

「行ってきま〜す」

『ドキュメンタリー生涯独身を貫き、1人の女性に対する曲のみを作り続けた天才作曲家高咲ゆ』

314: 2022/03/20(日) 22:30:42.27 ID:pkaCSafG.net
踵を踏みながらつんのめるように外に出ると

「…おはようっ!」
頬を膨らませた可愛らしい幼馴染が部屋の前で私を待っていてくれた

「おはようっ!!ごめんっ!遅くなっちゃった」

「ううん、いいよ。寝坊助さんなのを忘れてたわたしが悪いんだもん」

「本当にごめんね」

「ふふっ、冗談だよ。でも、ギリギリだから走っていこう」
「あわわっ、待って待ってぇ〜」

手を堅く結んで私達は学校へ急ぐ
離さないように強く

315: 2022/03/20(日) 22:37:08.07 ID:pkaCSafG.net
今日は一限目から社会だ
音楽科でも一般的な事は学ばなければいけないのが辛いところ…

「今からおよそ150年前、2035年の5月に天王寺I社の発明した同性間での妊娠を可能にする薬によって中川大臣の大好き法の可決を後押しする形となり…」

そんなの知ってるよ、両親から何回も聞いたし自分でも調べた

中川大臣は私が尊敬する人だ
だって彼女の制定してくれた法のおかげで私がいて、そして…

チャイムと同時に私は学校の中庭へ行き、ほぼ同時にやって来た彼女と話す

316: 2022/03/20(日) 22:40:42.06 ID:pkaCSafG.net
「どう?間に合った?」

「何とかね〜」

「授業内容はどう?」

「社会だったよ」
「中川大臣の大好き法」
「昔2人で一緒に調べたから全然簡単だったよ」

「…っ///」

あっ、照れてる
本当に可愛いなぁ

「あの日から私の気持ちは全く変わってないよ」

「うっ…うん、私も…だよ」

はじめて会った日、幼稚園に上がる前に一目惚れして、幼稚園に入ってからはなんと普段控えめなあの子から告白してくれた。まぁ、お互いに一目惚れしてたんだね

317: 2022/03/20(日) 22:44:51.50 ID:pkaCSafG.net
あの日から私は音楽を学んでいる。彼女を可愛く彩る為に

幼い日から勉強会しているとは言っても作曲も演奏も簡単じゃ無い
課題の一曲を作るだけでもまだヒーヒー言っているもん

でも、彼女を輝かせるための曲は何故だか無数に湧いてくる。変な話だけどまるで予め何十年も構想していたかのように

「今日もわたしの曲を聞いてくれるかな?」
「愛する貴女の為に作ったんだ」

手を差し出しながら言葉が口を出てくる
我ながらキザなセリフだと思う
でも

「…はいっ、喜んで」

手を取りはにかみながらそう答えてくれる可憐な彼女の為の言葉としては、キザなくらいで良いのかもしれない

「今日も放課後はスクールアイドルだね!」

「うんっ、後輩も出来たし頑張るよ〜」

こうして平凡でいてかけがえの無い一日はいつも通り過ぎていく
堅く握った手はもう二度と離さない



318: 2022/03/20(日) 22:56:29.55 ID:dwMo91Fu.net
おつ
最後に生まれ変わって結ばれてよかったね

319: 2022/03/20(日) 22:59:11.41 ID:isWRF1yv.net
長編乙
悲しい展開から希望のあるラストになるのもホラーっぽくて良かった

323: 2022/03/20(日) 23:42:52.16 ID:pkaCSafG.net
代行、コメント、保守等ありがとうございました

構想は出来てても手直しすると色々と粗がありすぎて時間かかっちゃいますね

長々とお付き合いありがとうございました!

今度も大体構想出来てるもの(ホラーじゃない)を書きますので機会があれば読んでくださいね!!

引用元: 歩夢・侑「怖い話?」