4: 2022/03/20(日) 22:50:11.44 ID:NpHAxiOI.net
菜々「……よし、できた……! これをSNSに投稿して……ふふ、今日も世界を(萌えで)救ってしまいましたッ!」

 別のSNSで投降した作品の宣伝をして、私はPCを閉じました。

 『夢小説』……物語の登場人物に自らの名前を当てはめる形で書かれた創作物のことを指します。

 正式には『ドリーム小説』と呼ぶそうです。

 最近は男性物の夢小説もあるようですが、夢小説は主に女性向け。

 その内容はキャラクターとの恋愛話が多く、まさに『ドリーム』の名にふさわしい物となっています。名前の由来もそのままとのことです。

 しかし、夢小説で描かれるのはキャラクターとの恋愛話だけではありません。

 夢小説には少数ですが、アイドルや声優さんなどの物もあります。いわゆる、『ナマモノジャンル』というものです。

 ナマモノジャンルには私たちスクールアイドルも入れられます。

7: 2022/03/20(日) 22:55:44.25 ID:NpHAxiOI.net
 元々は大好きなアニメのSSを漁っていた際に、ドリーム小説を知り、「作品の中に入る込めるなんてすばらしい!」と読んでしまいました。

 その後、たまたま関連リストに出てきた出演声優のSSからナマモノというジャンルを知り、そして――――――スクールアイドルのドリーム小説の存在も知りました。

 スクールアイドルもこのような作品を書かれるまでになったのかと、興味本位で、自分の名前で調べ、少ないながらも自分がモデルの作品が書かれているという事実に驚きつつも、喜びました。

 ……R18を入れての検索は絶対にできませんが……。

 そして、もちろん自分の作品があるということは、他のメンバーの物もあるわけで……。

せつ菜「いえ、これは……あくまで興味本位で……学校の生徒会長としては学園の生徒がどのような作品にされているのか把握する義務があるわけで……」

 そうです、これは生徒会長としての義務なのです。

 私は自分に言い訳をしながらSNSで検索をします。

 そして―――――――

10: 2022/03/20(日) 23:01:46.90 ID:NpHAxiOI.net
せつ菜「あ、ありました……歩夢さんの夢小説……!」

 SNSで検索してしまった歩夢さんの名前。

 案の定、SSは出てきました。出てきてしまいました。

せつ菜「しかし、少ない……いえ、歩夢さんはまだスクールアイドルになって間もないからないだけで……」

 そもそもでナマモノジャンルというものが限りなく黒に近いグレーですし……。

 スクールアイドルでこういうことを考えるもの本来はあまりよろしくないのですが、しかし――――――

12: 2022/03/20(日) 23:06:03.34 ID:NpHAxiOI.net
せつ菜「自分の大好きに、嘘はつけません……!」

 髪を結い、目薬、コーヒーを準備して、私は執筆にとりかかります。

 夢がないのなら、私が夢を作ればいいじゃないですか!

せつ菜「うぉおおおおおおおおおお!」

 文字を打ち、文章を紡ぐ。

 歩夢さんとの夢(妄想)を文字に起こしてゆく。

 文字に起こすと、あれもこれもと詰め込みたくなりますが、それは端書にとどめ、今書いている話に集中します。

16: 2022/03/20(日) 23:12:52.28 ID:NpHAxiOI.net
 あ、けど、歩夢さんとこの流れでこういうこともしたいですね……。

 私は手を止めて、思考をまとめながらコーヒーに口をつけました。

せつ菜「……にがっ……」

 口に広がった苦みに、思わず顔をしかめます。

 私もかっこよくブラックコーヒーを飲みたいものですが、やはり苦いです……。

 けど、そのおかげで、気が引き締まりました。

 やはり今考えてたパターンは削って、今回はこのまま書き終えます。

せつ菜「このままラストまで書ききりますよぉおおおおおおお! うぉおおおおおおお!」

 お父さんもお母さんも起きているので、実際には小声ですが、雄叫びを上げながら文字を打ち続けます。

19: 2022/03/20(日) 23:18:35.23 ID:NpHAxiOI.net
 そして、キーボードを叩くこと2時間――――――

せつ菜「か、書けました……!これが私の歩夢さん夢小説です!」

 2000文字ですが、私の大好きを詰め込んだSSです!

 あとは校閲して、誤字脱字をチェックして……。

 よし、大丈夫ですね。

 あとは……概要とタグを編集し――――――

せつ菜「投稿、完了です!」

 私が初めて書いたSS。

 歩夢さんとただ買い物デートし、お揃いのアクセサリーを買うだけの短い話ですが、それでも、私の夢を詰め込んだSSです。

せつ菜「けど、これだけじゃ満足できません。さっき没にしたシーンを中心に、次はこんなシチュエーションで、歩夢さんにこんなことを言って頂きたいですね……」

22: 2022/03/20(日) 23:29:00.16 ID:NpHAxiOI.net
 私はそのままSNSをとじて、Wordを開きます。

 そして、その後も私はSSを書き続けました。

 昔、何かのドラマで言ってました。

 女性が求めるのは、『特別』。

「愛してるよ」などの特別な言葉だけが欲しい、と。

 歩夢さんはこんな言葉を言ってくれるだろうか。

 歩夢さんはこう微笑んでくれるだろうか。

 歩夢さんから、この言葉が欲しい。

 その欲望をSSにしてゆきます。

23: 2022/03/20(日) 23:33:40.53 ID:NpHAxiOI.net
せつ菜「歩夢さん……歩夢さん……」

 私は毎日毎日SSを書き続けました。練習が終われば誰よりも早く部室から、飛び出し、PCを起動します。

 そして、書き続ければSSを書く速度も文章力も上がるわけで、どんどんSSが量産できるようになりました。

 休憩時間も、ノートを開き、SSのネタを書き貯めて、それをもとに夢小説を書き続けました。

せつ菜「皆さん! お先に失礼します!」

 今日の部活は柔軟などの調整が中心だったので、いつもより早く終わりました。

 今から帰れば、SSをたくさん書けます。

25: 2022/03/20(日) 23:40:21.65 ID:NpHAxiOI.net
 私は着替えを素早く済まし、部室を後にしました。

 私が去った後の部室での会話を私は知りません。

侑「せつ菜ちゃん、今日も急いで帰ったね」

彼方「そうだねぇ……最近彼方ちゃんより忙しそうだよぉ~」

エマ「せつ菜ちゃんお勉強とか頑張ってるもんね~。侑ちゃんも今日は音楽科の補修頑張ってるし、わたしたちも見習わないと。ね、果林ちゃん」

果林「え、ええ。そうね、エマ……」(目そらし)

歩夢「けど、せつ菜ちゃん……大丈夫かなぁ。……あれ?」

歩夢(これ、せつ菜ちゃんのノート?)

26: 2022/03/20(日) 23:43:19.16 ID:NpHAxiOI.net
――――――
――――
―― 

 そして、家に着いた私は今日も今日とてPCを開きます。

 最近はSNSの方でもブックマークが増えており、書くことも楽しくなってきました。

 着替えを手早く済ませ、机に向かいます。

せつ菜「次はどんな歩夢さんを書きましょうか……? えっと、ネタ帳は……あれ?」

 カバンをひっくり返し、教科書やノートを一冊一冊確認しながらネタ帳を探しますが、どこにもありません。

せつ菜「もしかして、学校に……?」

 どうしましょうか……? 

 ネタ帳が無くても書けなくもないのですが、その時その時で思いついた最高のネタを書き貯めてあるので、あれがあった方がより私の書きたいものが書けると思います。

 それに、あれは見られてはいけないものです。禁書目録です。

27: 2022/03/20(日) 23:48:51.23 ID:NpHAxiOI.net
 ちらりと、時計を確認します。

 今から急げば、最終下校時刻までに学校に着くでしょう。

せつ菜「お母さん! 学校に忘れ物をしたので取りに行ってきます!」

 私は家を飛び出し、学校へ急ぎました。

 幸いまだ昇降口は空いていたので、そのまま部室へ。

 そして、部室の鍵を開けようと鍵を刺しました。

 鍵を回したのですが、手ごたえがありません。

 おかしいですね……。

28: 2022/03/20(日) 23:53:41.47 ID:NpHAxiOI.net
 私は反対に鍵を回しました。

 ガチャリと、鍵のかかる音がしました。

 ……鍵を閉め忘れたのでしょうか?

 改めて鍵を開けて、私は部室のドアを開けました。

 そして、部室の中に入り、私は絶望しました。

 部室の中には――――――歩夢さんが居ました。

30: 2022/03/21(月) 00:02:46.42 ID:bIY1L+c5.net
 ソファーに座りながら、驚いた様子でこちらを見ている。

 そして……その手には、私のネタ帳が握られていました。

 私は顔から血の気が引きました。

 あのネタ帳はいわば私の性癖の塊です。

 それをよりによって、その夢(妄想)の本人に見られてしまいました。

 私の顔は羞恥に染まりました。

 身を翻し、その場から逃げ出そうとしましたが、後ろから声をかけられます。

歩夢「待って、せつ菜ちゃん!」

31: 2022/03/21(月) 00:08:02.88 ID:bIY1L+c5.net
 歩夢さんの声で立ち止まり、恐る恐る私は振り返ります。

歩夢「せつ菜ちゃん、こっちに来て。お話したいな。……ダメ?」

 少し不安そうな瞳で私を見つめる歩夢さん。

 ……ズルいです。

 今すぐ逃げ出したいはずなのに、そんなふうに言われたら、そんな目で見られたら断れないじゃないですか……。

 自らの隣をポンポンと叩く歩夢さん

 私は歩夢さんの導くままに、横に座りました。

 座ったのですが、私はそのまま歩夢さんと顔を合わせられず、下を向いていました。

 すると、隣に居る歩夢さんから、小さく微笑んだ声が聞こえてきました。

32: 2022/03/21(月) 00:14:33.09 ID:bIY1L+c5.net
歩夢「いつものせつ菜ちゃんからはこんな姿想像できないね」

せつ菜「うぅ……ごめんなさい……」

歩夢「……何が?」

せつ菜「いえ……その……」

 私は消えそうな声で、ネタ帳と言いました。

歩夢「このノート? うん。びっくりしちゃった……」

せつ菜「本当にごめんなさい」

 私は再び、今度はしっかりと頭も下げて謝罪をします。

 こんな妄想をしてたと知られたんです。

 嫌われても、仕方がありません。

 しかし、歩夢さんからの返答は、私の予想外の物でした。

歩夢「ううん、謝ることないよ。本当にびっくりしただけだだもん。けど――――――」

せつ菜「けど?」

34: 2022/03/21(月) 00:21:01.01 ID:bIY1L+c5.net
歩夢「なんで、相手が私なの?」

せつ菜「」

 言葉を、失ってしまいました。

 本当に拒絶されると思っていたところにこの質問だったのです。こんなこと、聞かれるとは露とも思ってなかったのです。

せつ菜「えっと……その……」

歩夢「ねえ、何でなのかな?」

 歩夢さんは、私の顔を覗き込みながら、首を傾げました。

 後で思うと、この時、歩夢さんの顔も赤く染まっていた気がします。が、この時の私がそのことに気付くことができませんでした。

35: 2022/03/21(月) 00:26:06.04 ID:bIY1L+c5.net
せつ菜「あの……その……歩夢さんは、私の推しなので……」

 どうしても、歩夢さんに言うとなると、羞恥心で、声が小さくなってしまいます。

歩夢「え?」

 歩夢さんは私に顔をさらに近付けました。

 これ以上の羞恥に耐え切れなくなった私の中で何かが吹っ切れました。

せつ菜「歩夢さんを推してるからです!」

 大きな声を出してしまった私に、歩夢さんは目を見張り少し飛び退きました。

せつ菜「推しとの夢を見て、何が悪いんですか!」

36: 2022/03/21(月) 00:34:47.02 ID:bIY1L+c5.net
 私の言葉に、歩夢さんは我に返り、少し困惑した様子で、私に問いました。

歩夢「えっと……念のため確認するけど、推しって……せつ菜ちゃんは私のこと好きってこと?」

せつ菜「当たり前じゃないですか! 私は歩夢さんのことが大好きなんです!」

 真っ赤に染まった歩夢さんに、私ははっきり言い切りました。

歩夢「大好きなんだ。そっかぁ……」

 歩夢さんはその言葉を聞くと、少し恥ずかしそうに俯いた。

 同時に、歩夢さんからは、堪えられないのか、どことなく嬉しそうに、かすかに口角を上げているのが隣に座る私からも見えました。

 そして、歩夢さんは噛み締めるように再び「大好きなんだぁ」と呟いた。

 ……あれ? 冷静になると、私、すごいこと言ってしまったのでは?

39: 2022/03/21(月) 00:42:14.88 ID:bIY1L+c5.net
 私は一度どこかに行った羞恥心に再び押しつぶされそうになりながら、俯きます。

 そのまま……少し無言の時間が続きました。

歩夢「ねえ、せつ菜ちゃん……」

せつ菜「は、はい!」

歩夢「妄想だけで……いいの?」

せつ菜「……え?」

41: 2022/03/21(月) 00:48:44.24 ID:bIY1L+c5.net
歩夢「もう一度聞くね? せつ菜ちゃん、夢のままで……いいの? 私、ここにいるよ?」

 そう言って、歩夢さんは私の頬に手を添え、耳元に口を近付けました。

歩夢「~~~~~~」

 そのセリフは、私がネタ帳に書いた――――――。

 驚いて歩夢さんの方を向くと、至近距離で、目が合いました。

 そして――――――

 どさりと、私のネタ帳が床に落ちる音が、静かに部室に響き、そのまま消えるのでした。

42: 2022/03/21(月) 00:51:01.82 ID:bIY1L+c5.net
私の投降は以上です。

短いスレでしたがありがとうございました。

53: 2022/03/21(月) 02:30:37.88 ID:LNcxg4OV.net
良いね

引用元: せつ菜「推しの夢を見て、何が悪いんですか!」