1: 2010/07/17(土) 19:10:58.95 ID:EhQN6Cov0
ーキーンコーンカーンコーン

放課後のチャイムが鳴った。

私は少しだけ足早に音楽室へ向かった。
理由は簡単、先輩がたと久々に会えるのだ。

夏休み中は先輩がたは勉強で忙しく、なかなか会えなかった。
ましてみんなで演奏なんてかなり久しぶりだ。

私は普段から一人で練習してたけど先輩がたはどうだろうか。
勉強で忙しくて練習なんかできてないかもしれない。

あ、唯先輩は勉強サボってギター弾いてそうだなぁ。

とにかく、早くみんなに会いたいのだ。

3: 2010/07/17(土) 19:15:33.42 ID:EhQN6Cov0
音楽室の前まで来た。

中からはムギ先輩と唯先輩の声がした。
もう二人は来ているらしい。

ふと、『音楽室』と書かれた札が無いことに気付いた。

近くに落ちてるか探してみたが見つからなかった。

こんな何もない廊下に落ちてないのだから誰かが持って行ったのかもしれない。
落っこちて壊れたから直してるのかもしれない。

特に大変なことでもないので気にしないことにした。

4: 2010/07/17(土) 19:21:36.22 ID:EhQN6Cov0
ガラッ

梓「こんにちは~」

紬「梓ちゃん久しぶり~」

音楽室のドアを開けるといつも通りテーブルに5人分のケーキと紅茶が鎮座していた。
いつもと違うのは律先輩と澪先輩がいないことだ。

二人がいないだけなのに、なんだか音楽室が広く感じる。

唯「あ~ずにゃ~~~~ん!!」

唯先輩がいつも通り飛びついてきた。いや、時間が空いていた分勢いが強い気がする。

梓「やめてくださいよ、唯先輩」

唯「いいじゃ~ん、減るもんじゃないし~」

梓「私のほっぺがすり減りそうです!」

紬「あらあら」

いつも通り。久々のいつも通りだ。

5: 2010/07/17(土) 19:27:46.98 ID:EhQN6Cov0
梓「そういえば律先輩と澪先輩は?」

紬「澪ちゃんが日直で、りっちゃんは澪ちゃんと一緒に来るって」

唯「あずにゃ~ん」

梓「唯先輩、そろそろ離れてください!」

唯「まだ二人とも来ないし~、それまで離さない~」

梓「続きは練習の後にしてください!」

別に唯先輩にべたべたされるのが嫌なわけじゃない。
むしろ、唯先輩といると癒されるというかなんというか…

でもさすがに恥ずかしいしかった。

唯「…れんしゅう?」

6: 2010/07/17(土) 19:35:01.52 ID:EhQN6Cov0
唯先輩が不思議そうな顔をしている。私何か変なこと言っただろうか。

唯「練習って何するの?もしかして、あずにゃんケーキ作るの!?」

梓「違います、練習って言ったらバンドの練習に決まってるじゃないですか」

唯「…ばんど?」

唯先輩は私をからかっているのだろうか。
しかし唯先輩の表情は本当に何も知らないような、曇りのない疑問の表情だった。

梓「とぼけないでください、バンドはバンドです、唯先輩はギター練習してましたか?」

なにかがおかしい。

唯「ぎたーって何?」

7: 2010/07/17(土) 19:41:34.23 ID:EhQN6Cov0
梓「え…何を言って…」

唯「ムギちゃんムギちゃん!ぎたーってなぁに?」

紬「ぎたー?私は分からないわ…」

ムギ先輩まで…二人で打ち合わせをして私をからかっているのだろうか。
この二人にこんな演技力があったのは意外だ。

唯「ねぇねぇあずにゃん、ぎたーって何?」

紬「ぎたーって私知らないの!教えて!」

唯先輩は不思議そうな顔でこちらを見ている。
ムギ先輩は興味しんしんな顔でこちらを見ている。

天然な二人にしては迫真の演技だと思った。
でも、なにかがおかしい。

8: 2010/07/17(土) 19:51:21.25 ID:EhQN6Cov0
梓「ギターならその辺に…」

…無い。ギターどころが楽器がすべて無い。
何か部屋が物足りないと思っていたが、ドラムセットもキーボードも見当たらない。

梓「ムギ先輩…キーボードは…?」

紬「きーぼ…?」

もしかして…

梓「唯先輩!ドラムはどうしたんですか!?」

唯「…どらむ?」

二人は音楽の記憶を失くしてしまったのだろうか…

梓「二人ともふざけないでください!さすがにこれはいたずらとしては悪質すぎます!」

唯「…あ、あずにゃんがなんで怒ってるのか分からないけど、私達がなにかしたんならごめん…」

紬「…ご、ごめんなさい」

10: 2010/07/17(土) 19:56:00.25 ID:EhQN6Cov0
しばらく沈黙が続いた。

沈黙を破ったのは律先輩の空気を読まないほど元気な声だった。

律「よーみんなー!…って、えっなにこの空気」

澪「みんなどうしたんだ?」

唯「あ、あのね…私達があずにゃんを傷つけちゃって…それで…」

梓「唯先輩…もういいんです…」

私が悪いのだ。二人の事情も考えず怒鳴ってしまったのだから。

律「なんだよー、私にもわかるように説明してくれよー」

澪「お前は空気を読め!」
ドスッ

いつも通り、澪先輩が律先輩にチョップを入れる。

12: 2010/07/17(土) 20:01:17.29 ID:EhQN6Cov0
律「いってー、いいじゃんかよー、部長の私が部員の事情を知らなくてどうする」

澪「こんなときだけ部長面するな」

律「だいたい澪ちゃんだって知りたいんじゃないの~?」

澪「うっ…」

澪先輩、落ちやすすぎです。

唯先輩とムギ先輩は状況が状況だし、私が説明しよう。

梓「ちょっとお二人、近くにきてください」

唯先輩とムギ先輩には、自分たちが記憶を失くしていることは秘密にしたほうがいいだろう。

梓「実は唯先輩もムギ先輩も音楽に関する記憶がないんです…」

律「?…おい梓、おんがくってなんだ?」

…意外な言葉。いや、聞きたくなかった言葉だ。

梓「澪せん…」

澪先輩は見るからに心配そうな顔でこっちを見ているので、聞くのは諦めた。

どうやら、少なくとも先輩がた全員には音楽に関する記憶はないらしい。
でも、楽器の知識ならまだしも音楽っていう単語まで記憶にないとは…

13: 2010/07/17(土) 20:11:30.81 ID:EhQN6Cov0
ふと、気になることがあった。

じゃあ、みんな何部のつもりなんだろうか。
少なくとも軽音部ではないのだろう。

梓「律先輩…変なこと聞きますが…ここって何部でしたっけ?」

律「…本当に変なこと聞くなぁ、私達はティータイム部だろう」

ティータイム部?茶道部じゃなくて?聞いたことがない。

澪「梓…今日のお前なんか変だぞ?」

変なのはみんなだ。

律「さー、今日のケーキは何かなー?」

唯「…お話もういいの?」

律「ああ、よくわからんしな」

こんなのおかしい。

紬「今日のケーキはねぇ…」

そうだ。憂や純はまともかもしれない!
でもなんて聞けばいいのだろう。

突然「音楽って知ってる?」なんて送って、知っていたら恥ずかしい。
4人とも、全部演技だったりなんかしたら目も当てられない。

14: 2010/07/17(土) 20:19:40.88 ID:EhQN6Cov0
結局憂と純には「○○って知ってる?バンドの名前なんだけど」というような内容のメールを送った。

これで「バンドって何?」のようなメールが帰ってきたら…
世界から音楽というものが消えたのかもしれない。

私はケーキを食べながらメールを待った。
いつもと違ってケーキも紅茶もおいしく感じない。

自分だけが異常な空間に投げ出された孤独感、みんなと演奏できない寂しさがそうさせるのだろう。

絶望は私が思っているより早く訪れた。

「ごめん、メールの意味がわからなかった」
憂も純も、だいたいこのようなメールをすぐに帰してきたのだ。

16: 2010/07/17(土) 20:27:46.66 ID:EhQN6Cov0
どうやらこの世界には音楽は存在していないようだ。
おかしいのは私だけだったのだ。

唯「…にゃん!あずにゃん!」

梓「あ、唯先輩…」

気がつけばみんなが私を見ている。
私が異常だからだろう。みんなにとってはいつも通りの日常なのに、私が非日常だからだろう。

唯「あずにゃん、大丈夫?保健室行く?」

唯先輩がとても心配そうに私を見ている。
そんな目で見ないでください…私からすれば、私の頭は正常なんです…

唯「具合悪いの?悩みでもあるの?」

…唯先輩に限って、私を異常者として見ているはずはなかった。
唯先輩は私がボーっとしてたり、暗い顔したりしているから心配してくれていたのだ。

唯「何でも私に話して!私でよければ力になるよ!」

17: 2010/07/17(土) 20:34:21.65 ID:EhQN6Cov0
梓「唯先輩…」

この人になら話してもいいと思った。

律「そうだぞ、梓の悩みはみんなの悩みだ!」

いや、唯先輩だけじゃない。

紬「私も力になるわ!」

みんなになら…

澪「力にはなれないかもしれないけど、話すだけでもすっきりするぞ」

みんなになら話せる気がする。

梓「実は…」

19: 2010/07/17(土) 20:42:59.49 ID:EhQN6Cov0
澪「それって…梓だけパラレルワールドに迷い込んだんじゃないか?」

唯「ぱられる…?」

澪「おんなじ見た目なんだけど、ちょっと違う世界のこと」

紬「うわー!なんか素敵ー!」

律「ムギ…梓は本当に悩んでるんだぞ」

先輩がたはとっても優しい。
音楽のおの字も知らないのに、私の話を信じてくれて、原因まで考えてくれている。

唯「実はまだあずにゃんの夢の中なんじゃない?」

澪「そうだとしたら私達は梓の夢の中の住人ってことになるな」

律「んじゃあ梓が目を覚ましたら私達は消えるのかもー…」

澪「ひぃ!!…怖いこと言うな!」

紬「梓ちゃん、痛い?」

ムギ先輩が私のほっぺをつねる。もちろん、痛い。っていうかムギ先輩痛いです。

梓「いたいれふ…はなひてくらはい…」

20: 2010/07/17(土) 20:46:39.98 ID:EhQN6Cov0

律「だいたい夢とかパラレルワールドとか、そうだったとしてどうするんだ?」

澪「確かに…」

唯「寝れば治るかも!」

梓「風邪じゃあるまいし、そんな簡単に治ったら苦労しないですよ」

紬「はい、ベッド~」

梓「なんでベッドがあるんですか!」

どうやら機材が無い分色々とムギ先輩が快適に過ごせるグッズを持ち込んでいるようだ。

唯「あずにゃん、寝た~?」

梓「こんな時間から寝れませんし、みんなに見られてるとなおさら寝れません!」

律「残念だなー、梓の寝顔の写真でも撮ろうかと思ってたのにー」
スパーンッ

澪先輩の突っ込みが入った。こんな状況なのに、なんだか笑いが込み上げてきた。

梓「アハハ、音楽が無くてもいつも通りですね」

そう、音楽が無くなったという事実さえなければいつも通りなのだ。
…普段練習してないしなぁ。

21: 2010/07/17(土) 20:54:45.27 ID:EhQN6Cov0
唯「そうだ!こういうときは和ちゃんに聞こう!」

澪「さすがに和でも解決できないだろう…」

でも、物は試しと唯先輩は和先輩を連れてきた。

和「唯の言ってることがよくわからないから説明してくれないかしら…」

やっぱり唯先輩は状況を把握しきれていないようだ。
いや、ここにいる誰もが状況を理解できてはいないのだろう。

和「…なるほど、普通に考えたら梓ちゃんの記憶が間違ってるってことになるわね…」

唯「あずにゃんはそうじゃないって言ってるよー」

和「とりあえず梓ちゃんがおかしいと思った最初のタイミングを知りたいわ、ヒントになるかも」

律「さすが…冷静だな」

梓「最初に…」

最初に気付いたのは唯先輩に不思議そうな顔をされた時だ。

梓「唯先輩が私の言ったことが通じなくて…」

22: 2010/07/17(土) 20:59:40.18 ID:EhQN6Cov0
和「その前に、他に何かなかった?」

そういえば…音楽室の札が無かったのはもしかするとこの世界には「音楽」が無いからだったんじゃ…

梓「この部屋の…名前が無くなってました」

和「名前?」

梓「『音楽室』って書いた札が無くなってたんです。普段はドアの上に…」

和「でも今はドアの上にはちゃんと『多目的室』って書いてあるわよ」

紬「もしかしてその時にパラレルワールドに?」

唯「じゃあ今すぐ書きかえれば戻るかもしれないね!」

梓「や、やってみます」

『多目的室』と書かれた札を回収し、早速『音楽室』と私が手書きした札を入れてみた。

私が『音楽室』と書いている時、澪先輩とムギ先輩は興味しんしんだった。
音を楽しむって書くのはロマンチックだな、と澪先輩はつぶやいていた。

24: 2010/07/17(土) 21:07:13.43 ID:EhQN6Cov0
梓「…どうですか?」

唯「わかんない~」

澪「駄目だ、やっぱり音楽っていうのは分からない」

和「違う世界に入るときと出る時では方法が違うのかも」

律「とりあえず迷宮入りかー」

紬「大丈夫、きっといつかヒントが見つかるわ」

まぁ、こんな簡単な方法でパラレルワールドに飛ばされるんだったら、世の中今の私と同じ状態の人だらけになってしまう。
何か他にいつもと違うところは無かっただろうか…

梓「…そういえば」

26: 2010/07/17(土) 21:13:53.58 ID:EhQN6Cov0
そういえば、私は今日はギターを持ってきていなかった。
何故持ってきていないのかを考えても分からない。

単に忘れただけかもしれない。
いや、あんな大きいもの唯先輩じゃないんだから忘れるわけがない。

でも放課後には私はみんなと演奏するのを楽しみにしていた。
ということは…

梓「もしかしたら、放課後にこの世界の私と元々いた世界の私が入れ替わったのかも…」

今日の朝に入れ替わったのだったらギターを探しているはずだ。
授業中に入れ替わったとしても、放課後になった瞬間に気付くはずだ。

とすれば、私が音楽室に向かっている最中に世界が変わったのではないか。

27: 2010/07/17(土) 21:19:10.78 ID:EhQN6Cov0
唯「放課後に変わったんだったら明日の放課後になったら戻れるのかな?」

梓「そんな簡単なものでしょうか…」

和「でも今はヒントもないし、寝たら治るっていうのも試してないんでしょう?」

今現在の元に戻る可能性は二つ。寝るか、放課後になるか。

もしかするともっと世界が変わってしまうかもしれない。
でも今はそれに賭けるしかなかった。

28: 2010/07/17(土) 21:27:32.20 ID:EhQN6Cov0
家に帰る途中、本屋さんに寄った。
音楽に関する本は一切なかった。

楽器屋さんはファミレスになっていた。

家に帰ると、当然のように私の部屋にギターは無かった。

音楽雑誌やらスコアやら、音楽に関係するものは何もなかった。
テレビの音楽番組も、全てバラエティ番組にすり替わっていた

この世界には本当に音楽が無い。
そう実感すると急に涙が出てきた。

ブー、ブー
携帯のバイブ音。今気付いたが携帯から着信音が無くなっていた。

梓「唯先輩から…メール?」

29: 2010/07/17(土) 21:36:03.80 ID:EhQN6Cov0
唯「あずにゃん、元気出して!私は元気だよ!ほら、ギー太だよ~」

ギー太!?ギー太は唯先輩の愛用のギター…もしかして…
添付画像を見る。

…大きなテディベアの画像が映った。

梓「私、何期待してたんだろ…」

ここまで徹底的に音楽が無いこの世界に、ギターのギー太がいるはずなかった。

でも、唯先輩のメールは嬉しかった。
落ち込んでいるときに励ましのメールをくれるだけで、ものすごい元気が出た。

梓「よし!寝よう!明日になったら音楽は復活する!」

30: 2010/07/17(土) 21:44:59.41 ID:EhQN6Cov0
朝、目が覚めると私はすぐに部屋を見まわした。

ギターは無かった。

どうやら寝ることでは元に戻らないらしい。
でもまだだ。

梓「放課後まで…頑張ってやる!」

朝のテレビは音楽の無い分司会者がものすごく喋っていた。
それでもなんだか物足りない気がする。

朝の占いは最悪の運勢、占いなんて当たらないものだ。

32: 2010/07/17(土) 21:53:06.75 ID:EhQN6Cov0
学校に着いて気がついた。
チャイムが無いらしい。代わりに録音されている校内放送が時間を教えてくれた。

…変な感じ。っていうかスピーカーはあるんだ。
どうやら音楽目的ではない音の出る物はあるようだ。

まぁ、音はあるのだから当然だろう。

せめて音楽が無くても、歌ぐらいは無いのだろうか。
ふと、鼻歌を口ずさんでみた。

純「梓、変な音出してどうしたの?」

梓「いや、何でもない…」

今日は鳥も歌っていなかった。

34: 2010/07/17(土) 22:02:10.08 ID:EhQN6Cov0
とりあえず今日は乗り切った。

といっても、世界は音楽が無いことを除けば同じなのだ。
そうそう苦労することは無い。

ー放課後をお知らせします

これがこの世界のチャイム。

私は少しだけ足早に音楽室へ向かった。
世界が戻ったかどうか知りたかったのだ。

36: 2010/07/17(土) 22:08:19.08 ID:EhQN6Cov0
音楽室の前まで来た。

中からは先輩がた4人の声がした。
もうみんな来ているらしい。

ふと、ドアの上を見た。
そこには『多目的室』と書かれた札があった。

ガラッ

唯「あ~ずにゃ~~ん!!」

唯先輩がいつも通り飛びついてきた。いや、気を使っているのか勢いが弱い気がする。

澪「…どうだった?」

梓「駄目でした…」

ふと、テーブルの上に目が行った。
ケーキと紅茶が無いのだ。

梓「ムギ先輩、ケーキは?」

珍しいこともあるものだ。これが元の世界であればいいのに。

38: 2010/07/17(土) 22:13:53.91 ID:EhQN6Cov0
ここで聞きたくない台詞を聞くことになろうとは思っていなかった。

紬「ケーキ?どうして学校でケーキなの?」

もしかして…

梓「律先輩!ここは何部ですか!?」

律「飼育部だけど…ってまさかまた変わったのか!?」

飼育部…確かにトンちゃんがいるけど…
と思ったら部屋には知らない住人が何匹かいた。

39: 2010/07/17(土) 22:20:41.49 ID:EhQN6Cov0
律「昨日はティータイム部だったのか」

紬「なんかよくわからないけど素敵ねー!」

澪「ムギ、今梓は大変なんだぞ」

唯「大丈夫だよあずにゃん!今日こそ原因を見つけようよ!」

なんだか唯先輩がいつもより若干しっかりしてる気がする。
3年間飼育部だったおかげで責任感が養われているのかもしれない。

しかし、飼育部とは…せめて生物部とかもっと高校生らしいネーミングがあったろうに…

40: 2010/07/17(土) 22:28:00.18 ID:EhQN6Cov0
唯「今日はどうだった?いつ変わったとか分かる?」

梓「今日はさっぱり…昨日ほど世界全体に変化のあるようなことじゃないですし…」

それに、昨日変化したものを確認するので精いっぱいだったのだ。

律「じゃあ今日はいろいろ試してみようぜ」

澪「じゃあ私は図書室でパラレルワールドとかの本を調べてくるよ」

紬「私は…みんなに協力してもらうわ」

澪先輩は図書室へ向かい、ムギ先輩は使用人(?)と電話している。

唯先輩と律先輩は色々考えているがどれも何とも言えない案だ。

唯「猫耳をつけたらもしかすると!」

梓「無いです」

律「思いっきり頭ぶつければいいんじゃないか?」

梓「それは記憶喪失とかじゃないんですか?」

41: 2010/07/17(土) 22:36:15.45 ID:EhQN6Cov0
一応色々試してはみたがおかげで私の体はボロボロだ。

3人そろっても全く良い知恵が出ないのは状況が異常すぎるからなのか。
それともメンツの問題なのか…

と、ムギ先輩が電話を終えたようだった。

律「ずいぶん電話してたなー」

紬「色々と関係ありそうな人の話を聞いてきてもらってたの」

唯「で、なんかいい情報あった?」

紬「さすがにダメみたい…今までそんなこと聞いたこともないって…」

梓「信じてすらくれてないのかもですね…」

先輩がたは優しいから信じてくれているが、普通の人だったら私が痛い子だとしか思わないだろう。

42: 2010/07/17(土) 22:46:09.45 ID:EhQN6Cov0
澪先輩の帰りを待っている間、私の知らない動物たちの説明をしてもらっていた。

唯「トンちゃんは元々いたんだよね?こっちは金魚のエンちゃんでー、こっちはハムスターのアンちゃん

、それと…」

飼育部といっても増えていたのは魚や小動物だった。
ムギ先輩が変な動物をいっぱい連れてきてるんじゃないかと思ったがそんなことはなかったようだ。

増えた動物にも昨日のギー太のような今までとの繋がりのようなものもなく、普通の名前だった。

澪「遅くなった、すまん」

澪先輩は5冊ほど本を借りてきていた。

澪「この3冊はSF小説と漫画、主人公が最後に元の世界に戻れるやつだな」

律「あとの2冊はオカルトの本か?」

澪「ああ、中身は…あ、あえて見てないんだが…参考になると思って」

律「怖くて見てないだけだろ~」

澪「言うなー!」
ガスッ

律「あいたー…本の角で殴るなよなー」

43: 2010/07/17(土) 22:55:10.38 ID:EhQN6Cov0
唯「ほー、面白いねこの漫画!」

澪「ほらほら、勝手に楽しむな、今は解決策を考えるのが先だろ」

紬「うーん、やっぱり別世界に来た目的を果たすとか、別世界に来ちゃった方法を見つけるとかみたいね



律「って言ってもどうして来たのかもどうやって来たのかも分からないんだろー」

梓「…すみません」

唯「あずにゃんが謝ることじゃないよ」

梓「でもタイミングはやっぱり放課後で合ってたみたいです」

澪「どうして分かったんだ?」

梓「元いた世界では放課後になるとチャイムっていう…音楽が鳴ってたんです、昨日はそれを聞いてるん

です」

律「なるほどー、んじゃ後は放課後に何したら世界が変わるのかが分かればいいんだな」

唯「それかあずにゃんがここで何かしなきゃならないかだね!」

47: 2010/07/17(土) 23:03:58.77 ID:EhQN6Cov0
今日はだいぶ手がかりが掴めた様な気がする。

紬「じゃあ明日は私も本を探してみる」

唯「あずにゃん!ファイトだよ!」

澪「…この小説読んでて良い詩が浮かんだ」

律「ここは応援する流れだろうがー!」

そうか、音楽が無くても詩はあるのか。
…結局みんな自由だな。良かった、私がみんなの負担になってなくて。

梓「みなさん、ありがとうございます!」

48: 2010/07/17(土) 23:09:17.98 ID:EhQN6Cov0
家に帰る途中、楽器屋さんだったファミレスがペットショップになっていたことに気付いた。
そうか、ムギ先輩の家の会社の系列が変わっているのか。

となると今回はただうちの部活が変わっただけじゃないのかも…

家に帰るとすぐにテレビをつけた。
今日の変化は分からなかったが、だいぶこの世界にも慣れてきたような気がする。

もし、もうあの世界に戻れないのなら…
いや、考えないようにしよう。

梓「きっと…きっと大丈夫だよね!」

50: 2010/07/17(土) 23:15:33.48 ID:EhQN6Cov0
世界が変わって2回目の朝、ギターはもちろん無かった。
でもその程度じゃもうめげない。今日こそは何か、放課後にある何かを見つけるんだ。

テレビをつける。
昨日と変わらない世界だ、今のところは。

学校でも目立った変化はなく、安心して過ごすことができた気がする。

51: 2010/07/17(土) 23:20:20.05 ID:EhQN6Cov0
多目的室の前まで来た。

中からは先輩がた4人と先生の声がした。
ドアの上には『多目的室』と書かれた札があった。

ガラッ

律「おー梓、今ちょうどさわちゃんが来たところでな」

さわ子「梓ちゃん、大変そうね」

先生はこの世界では美術の先生らしい。いろいろあって飼育部の顧問になったらしい。

…なにか違和感がある。なにかが足りないような…

52: 2010/07/17(土) 23:28:36.32 ID:EhQN6Cov0
唯先輩のほうを見る。

唯「…な、何?梓ちゃん?」

唯先輩はいつも通り飛びついては来なかった。それに今梓ちゃんって…

梓「私唯先輩に何かしましたっけ…?」

澪「唯は本当に梓が苦手だな」

紬「おんなじ部員なんだから仲良くすればいいのにー」

嘘だ…唯先輩が私を嫌っている…?どういうこと?

54: 2010/07/17(土) 23:35:20.03 ID:EhQN6Cov0
梓「昨日の世界までは…唯先輩は私のこと可愛がってくれたんです…」

みんなが信じられないという顔をする。
特に唯先輩は勝手にキャラを作られたと思ったようで涙目だ。

心なしか唯先輩の性格も違う気がする。
おとなしい小動物のようだ。

さわ子「それって本当なの?妄想じゃなくて?」

澪「先生!」

さわ子「私だって信じたいけど…そんなことにわかには信じられないわ」

55: 2010/07/17(土) 23:43:34.99 ID:EhQN6Cov0
梓「いえ、いいんです…本当に私がおかしいだけかもしれないんですから…」

紬「でも唯ちゃんが梓ちゃんと仲良くしてる世界は見てみたいわ」

そうか…今までそんなに恵まれた環境に私はいたのか…

いつも私に飛びついてベタベタしてきた唯先輩。
いつも私のことをあずにゃんと呼んで可愛がってくれた唯先輩。
私に励ましのメールを送ってくれた唯先輩。

あの唯先輩はもういない。

56: 2010/07/17(土) 23:49:23.93 ID:EhQN6Cov0
律「おーい梓―、大丈夫かー」

あまりのショックにボーっとしていた。

梓「…大丈夫です」

そう言ってから自分の目に涙が溢れていることに気がついた。
こんな顔じゃあ信憑性がないな。

澪「ほら、唯も梓と仲良くしろ」

唯「…やだよー、梓ちゃん怖いもん…」

この世界の私は唯先輩にいったい何をしたのだろうか…

58: 2010/07/17(土) 23:56:56.37 ID:EhQN6Cov0
紬「今日は解決策がありそうな本をたくさん持ってきたの」

そういえば昨日そんなことを言っていた気がする。

紬「それに今日はケーキを持ってきたの!梓ちゃんが言ってて素敵だなーと思って」

みんなの分のケーキが机に鎮座した。
その時だけあの世界に戻ったような気がして涙が出てきた。

梓「…グスッ、う…うわぁぁぁぁん」

紬「ど、どうしたの?」

梓「…いえ…前の世界のことを思い出して…嬉しくて…」

60: 2010/07/18(日) 00:00:46.88 ID:IIbniHJC0
私達はケーキを食べた後、早速本を読んで調べてみることにした。

さわ子「おもしろそうね、私も混ぜて」

律「何言ってんだよ、さわちゃんは最初っから強制参加だぜ」

紬「おー、かっこいいー!」

澪「唯、お前も手伝ってくれないか?」

唯「…みんながやるなら…私もやる」

澪「じゃあみんなで頑張ろう!」

61: 2010/07/18(日) 00:08:13.30 ID:IIbniHJC0
昨日読んだ本のような内容も多かったが、バッドエンドのものも多かった。
バッドエンドを見ると自分の未来を考えてしまい、へこんだ。

でもそんな時は先輩がたが励ましてくれた。

律「あんまり無理すんなよー」

澪「ほらこれ、こんなのどうだ?」

少年少女が力を合わせて異世界から帰る話。
その話では敵のボスを倒すことで元の世界に戻ることができていた。

梓「こんなの参考になりませんよ、ただのファンタジーじゃないですか」

律「いや、もしかしたら誰かが梓にいたずらしてる可能性もあるなぁ」

澪「その人を説得できれば…ってことか」

梓「そんな…私人から恨まれるようなことしてないですよ!」

64: 2010/07/18(日) 00:13:43.77 ID:IIbniHJC0
たくさん本を読んだが、昨日から進展したとは思えなかった。

律「これは周辺調査しかないかなー」

梓「周辺捜査?」

律「梓を恨んでるやつとかいないか調査するんだよ」

梓「それは…私を恨んでいる人がいてもいなくても嫌すぎます…」

私を恨んでいる人か…いたらやだな…

66: 2010/07/18(日) 00:23:32.26 ID:IIbniHJC0
今日は諦めて飼育部の活動に戻ることにした。
考えてみたら飼育部の活動は初めてだ。

活動と言ってもほとんどすることはなく、生き物を眺めているだけのような気がするが。
でもこんな部活だからこそ、みんな手伝ってくれるのかもしれない。

一応成長日誌のようなものを書いてはいるが、その活動のほとんどは雑談に費やされた。
ある意味いつもと変わらない気がする…

唯先輩は黙々とトンちゃん達に餌をあげている。

やはり唯先輩は別人のようだ。
まさか本当に別人ではないだろうか。

さわ子「もう遅いからそろそろ帰りなさーい」

もう外は暗くなってきていた。

67: 2010/07/18(日) 00:32:38.14 ID:IIbniHJC0
帰りは先輩がたと一緒だったが、唯先輩だけ先に帰ってしまった。
みんなが止めようとしたが唯先輩は「用事がある」と言って走って行ってしまった。

律「実は唯が犯人なんじゃないのか」

澪「な、お前は何を言うんだ!」
ガスッ

律「…いてて…でもさー、唯なら梓のこと恨んでそうじゃないか」

紬「でも梓ちゃんの話だと前の世界では唯ちゃんと仲良かったんでしょ?」

梓「そういえば、どうしてこの世界の私は唯先輩に嫌われているんですか?」

澪「そういえばそうだよな、梓が入ってから急に唯も人が変わったみたいになって…」

律「理由とかじゃなくて本能、って感じかな?」

梓「それじゃあ解決しようがないですね…」

むしろ今日は解決すべき問題が増えてしまったような気がする…

70: 2010/07/18(日) 00:41:01.71 ID:IIbniHJC0
今日はペットショップは別の店にはなっていなかった。
まぁ、飼育部のままだったのだからそうなのだろう。

家に帰るとすぐにテレビをつけた。
今日の変化は唯先輩以外は無かったようだ。

しかし、唯先輩が変わってしまったのは正直きつかった。
今までの思い出が頭をよぎって、一人でまた泣いてしまった。

今日はよく泣く日だ。

71: 2010/07/18(日) 00:46:37.08 ID:IIbniHJC0
泣き疲れて寝てしまっていたようで、気が付いたら外は明るかった。

今日は何が無くなってしまうのだろうか。
そう思うと学校へ行くのが辛くなった。

でもここで学校へ行かなかったら問題は解決しない。
それに、先輩がたが…

…唯先輩とはちゃんと話して仲良くなろう。

天気予報は快晴だった。占いの運勢は吉。
今日は何かいいことがありそうだ。

72: 2010/07/18(日) 00:52:36.95 ID:IIbniHJC0
ー昼休みをお知らせします

相変わらずチャイムじゃないのは慣れない。

憂「梓ちゃん、ちょっといい?」

純「ん?何々なんの話?」

憂「ごめんね、梓ちゃんと二人だけで話したい内容なんだ」

純「ふーん、じゃあその話が終わったら一緒にご飯食べよ」

梓「うん、わかった」

憂の話しって何だろう…
純がいるとまずい話なのかな…

もしかして…

76: 2010/07/18(日) 01:00:20.77 ID:IIbniHJC0

憂「梓ちゃん、変なこと聞いていい?」

梓「うん」

憂「梓ちゃんは冬って知ってる?」

梓「ふゆ…?」

予想だにしていない言葉。
憂の口から知らない単語が出てきた。

憂「そっか…梓ちゃんはまた別の世界なんだね…」

78: 2010/07/18(日) 01:10:15.42 ID:IIbniHJC0
梓「憂、それってどういうこと?」

憂「梓ちゃんのことはお姉ちゃんから聞いてたから知ってたの」

梓「あの唯先輩が?」

憂「今の世界のお姉ちゃんじゃなくて、前の世界のお姉ちゃんからね」

梓「前の世界って…憂、もしかして…」

憂「私も…違う世界から来たの」

79: 2010/07/18(日) 01:19:33.80 ID:IIbniHJC0
梓「じゃあ…」

憂「…でも梓ちゃんと私では元が違う世界みたい」

それで憂は私の知らない単語を…

憂「ちなみに冬っていうのは季節の一つで、秋と春の間にあるの」

憂「…とっても寒いんだけど、そのかわりにみんなと一緒にいて心はあったかいの」

憂「マフラーを一緒に巻いたり…手袋をプレゼントしたり…」

憂の目には涙が滲んでいたような気がする。
でも、私にはそんな憂にかける言葉は思いつかなかった。

80: 2010/07/18(日) 01:23:57.69 ID:IIbniHJC0
どうやら憂は今日の朝この世界に着いたらしい。
唯先輩にたまたま私のことを聞いたら、ちょっとムッとして家を出て行ってしまったらしい。

あと憂は唯先輩や他の人に迷惑をかけないようにずっと我慢していたようだ。
すぐさま相談した私って図々しいんだろうか…

憂と情報交換をしたが、私が知っていて憂が知らないものは音楽だけだった。
逆に私が知らなくて憂が知ってるものはたくさんあった。

今までは自分の元いた世界が完璧な世界だと思っていたが、そんなことはなかったようだ。

憂のほうが私よりずっとつらかっただろう。
私は同じ立場の人が他にいてホッとした半面、自分の心の弱さを実感した。

82: 2010/07/18(日) 01:30:30.71 ID:IIbniHJC0
梓「憂もみんなに相談しよう!」

憂「うん!」

…と後ろから人影が現れた。

純「なーにこそこそしてんのかと思ったらなんかすごいこと話してるじゃん」

梓「純、聞いてたの!?」

純「だっていつまでたっても戻ってこないし、おなか減ったんだもん」

憂「純ちゃんの登場、かっこよかった」

憂がクスッと笑った。私も純もつられて笑った。
なんで初めからこの二人にも相談しなかったのだろうか。

84: 2010/07/18(日) 01:39:12.84 ID:IIbniHJC0
ー放課後をお知らせします

放課後、私達は多目的室へと向かった。

ガラッ
ドアを開けても誰もいなかった。

純「まぁ今日はうちらが終わるの早かったしねぇ…」

生き物達はちゃんといる。
少なくとも部活はあるのだろう。

憂「私の元いた世界ではお姉ちゃん達は書道部だったんだよ」

書道部…失礼な話だがあの先輩がたが書道なんて想像ができない。

純「さっきから元いた世界とか言ってるけどそれって何なの?」

純にはまだ十分に事情を説明できてはいなかった。

憂「私達は気が付いたらあるはずの物が無かったり、人間関係が変わってたりしてるの」

純「大変そうだね」

85: 2010/07/18(日) 01:48:56.29 ID:IIbniHJC0
ガラッ

澪「お、梓、今日は早かったな」

律「それに憂と…」

純「澪先輩!私鈴木純って言います!発表会のときからのファンなんです!」

澪「…ええ!」

紬「あらあら」

どうやら飼育部で飼育してる動物たちの発表をしてみたところ、
澪先輩の人気が出てしまったらしい。

その辺は微妙に他の世界とリンクしているのだろうか。

86: 2010/07/18(日) 01:56:46.25 ID:IIbniHJC0
唯先輩はしぶしぶ入ってきた。

梓「唯先輩!」

唯「…」

梓「どうして私を避けるんですか、私は唯先輩と仲良くしたいです」

唯「…憂」

憂「私はお姉ちゃんがどうして梓ちゃんを嫌ってるのか分からないけど…」

憂「私はお姉ちゃんと梓ちゃんが仲良くしてるほうがいい」

唯先輩は周りをぐるりと見た。
この部屋にいる全員がうなずいていた。

87: 2010/07/18(日) 02:04:33.49 ID:IIbniHJC0
唯先輩は突然泣き出した。

唯「…今までごめんね、梓ちゃん…本当は私も仲良くしたかったんだけど…」

唯「私はドジで梓ちゃんはできる子だから…その…どう接していいか…」

澪「なんだ、そんなことか」

唯「あと…入ったばっかりの時に真面目に飼育しろって怒鳴られて…」

梓「…そんなことしてたのか、この世界の私…もう怒鳴ったりしないですよ」

唯「こんな私でも…仲良くできる?」

梓「もちろんです、学校で会うのはあとちょっとですけどこれからも仲良くしましょう!」

唯「…うん、分かった、梓ちゃ…」

梓「ただし、許す条件があります!」

唯「…え」

梓「私のことはあずにゃんって呼んでください」

唯「…?…あ、うん!分かった、あずにゃん!」

『あずにゃん』…この言葉が聞きたかった。
私は今日も泣いてしまった。

88: 2010/07/18(日) 02:10:18.16 ID:IIbniHJC0
紬「それで…憂ちゃんも梓ちゃんと同じなの?」

憂「はい、この世界での私は知りませんけど、少なくともこの私は半年ぐらい前から…」

唯「憂も相談してくれればよかったのに…」

梓「憂も唯先輩に迷惑かけたくなかったんですよ」

律「でも唯も憂の変化に気付けよなー」

唯「ごめん」

やっぱりこの世界の唯先輩はちょっとよわよわしい。
でもそんな唯先輩をちょっと可愛いと思ってしまった。

89: 2010/07/18(日) 02:15:55.68 ID:IIbniHJC0
澪「それで、憂は何か元の世界に戻る方法とかは知ってるか」

律「知ってたらこの世界に来てないんじゃないか?」

憂「いえ、知ってるとも知ってないとも言えない感じですけど…」

憂はこの半年で、何かを掴んでいるらしい。

憂「私は朝の5時に世界が変わるらしいんですけど…
その時に『戻りたい』って考えてたら世界は変わります」

律「それだけでいいのかよ!?」

唯「そういえば最近憂の起きるのが早かったような…」

憂「でも世界が変わるだけで、どんな世界になるかは分からないし…
梓ちゃんがやっても上手くいくかも分からないし」

梓「でも、試してみる価値はあるね!」

意外と世界なんて簡単な作りをしているのかもしれない。
むしろ難しく考えすぎていたのかも…

91: 2010/07/18(日) 02:25:08.64 ID:IIbniHJC0
今日の飼育部は憂と純も一緒に活動した。
…といっても雑談ばっかりだが。

でも、唯先輩がこんな提案をした。
唯「今年も…飼育部で出し物しようよ」

飼育部の出し物…全く想像がつかないんですけど…

梓「去年の出し物は何だったんですか?」

紬「去年は飼育してる子たちを私達が紹介しながら律ちゃんと澪ちゃんで漫才をやって…」

律「そのとき澪がコケてパンツを…」
ドスッ

92: 2010/07/18(日) 02:30:30.14 ID:IIbniHJC0
梓「じゃあ、今年はお茶会をしましょう!可愛い動物を楽しむカフェみたいな!」

憂「面白そう!」

紬「素敵ねー、じゃあ家から食器とか持ってこないと」

唯「私も…あ、あずにゃんに賛成!」

律「じゃあもう反対しても多数決で決まりだなー」

澪「まぁ、私達も賛成なんだけどな!」

純「澪先輩のメイド服が見れるなら…」
バシッ

純は澪先輩に新たなトラウマを植えつけかねないので自重してもらおう。

93: 2010/07/18(日) 02:37:09.82 ID:IIbniHJC0
…といっても元の世界に戻ろうとすれば、飼育部じゃない世界に行ってしまうのかもしれない。
また別のトラブルを抱えた世界になってしまうかもしれない。

憂「どうしたの?梓ちゃん」

梓「いや…憂は…元の世界に戻りたい?」

憂「もちろん、梓ちゃんもそうなんでしょ?」

梓「わからない…こんなにうまくいってるんだったら…この世界も悪くは無いのかなって…」

憂「…そっか」

憂は私の言葉に何を思ったのだろうか。
彼女の笑顔が何を語っていたのかは分からなかった。

95: 2010/07/18(日) 02:42:26.84 ID:IIbniHJC0
正直、ここで元に戻らないのは逃げでしかない。
必ず同じ世界に戻れるわけじゃないんだから、今の世界に残るのが一番安全なだけだ。

私だって音楽がしたい。
でも憂は半年経った今でも元の世界には戻れていないのだ。

梓「憂…私、どうしよう…」

96: 2010/07/18(日) 02:47:50.21 ID:IIbniHJC0
純「行きなよ!」

意外な人物からの台詞にちょっと驚いた。

純「よくわかんないけど私は梓がどんなことになっても協力するよ!
だから賭けてみなよ!」

梓「なんか今日の純、無駄にかっこいい」

純「…無駄には余計じゃない!?」

憂「ある程度は世界同士でリンクがあるし、この世界であったいいことも他の世界で残ってるかもよ」

97: 2010/07/18(日) 02:50:33.42 ID:IIbniHJC0
次の日、放課後は憂と純の3人で迎えた。

私は強く「戻りたい」と思い続けた。

こんなのでいいのかと思うような行為だが、今は信じるしかない。

ーキーンコーンカーンコーン

98: 2010/07/18(日) 02:55:21.77 ID:IIbniHJC0
チャイムの音が鳴った。
音楽が戻った!?

梓「憂!音楽が戻った!」

憂「おめでとう、これで私もいつか元の世界に戻れるって自信がついたよ」

純「やったじゃん!早速先輩に報告しなきゃ!」

梓「澪先輩目的なの?」

純「…ばれたか」

この世界の昨日の私は、また違うものを探していたらしい。
憂も昨日の憂とは違うようだった。

でも、私が満足しているのだから、きっと他の世界の私も満足しているのではないだろうか。

99: 2010/07/18(日) 03:00:04.42 ID:IIbniHJC0
私は少しだけ足早に音楽室へ向かった。
理由は簡単、みんなで演奏をするためだ。

音楽室の前まで来た。

中からは先輩がた4人の声がした。
もうみんな来ているらしい。

ふと、ドアの上を見た。
そこには『音楽室』と書かれた札があった。

ガラッ

梓「こんにちは~」

音楽室のドアを開けるといつも通りテーブルに5人分のケーキと紅茶が鎮座していた。

唯「あ~ずにゃ~~~~ん!!」

唯先輩がいつも通り飛びついてきた。いや、時間が空いていた分勢いが強い気がする。

紬「あらあら」

100: 2010/07/18(日) 03:05:19.09 ID:IIbniHJC0
先輩がたにも私が満足いく結果になったこと、前までの世界のことなどを伝えた。

唯「別の私がすみませんねぇ、あの子も悪い子じゃないんです」

律「お前は別の世界の唯を一人もみてないだろ」

澪「もしかするとその世界の梓を救うのが梓のパラレルワールドでの目標だったのかもな」

梓「どうでしょう…まだ本当に元の世界なのかはわかりませんし」

でも、元の世界だろうが違おうが…
音楽があって、みんなでお茶して、唯先輩と仲良しなこの世界を私は選ぶ。

101: 2010/07/18(日) 03:09:28.90 ID:IIbniHJC0
梓「…って、お茶してないで練習しますよ!」

唯「怒鳴らないって言ったじゃ~ん」

梓「あー、それってこの世界でも有効なんですか…」

律「それに梓~、お前今日ギター持ってきてないぞ」

梓「あっ…」

純「教室にも無かったしね」

紬「今日はゆっくりお話しましょう」

唯「すぐにギター弾きたいんだったらギー太をちょっとだけ使ってもいいよ!」

梓「…はい!」

唯「…でも本当にちょっとだけだからねー」

梓「分かってますよ…」

私はこの世界で生きていく、どんなことがあろうとも。

終わり

102: 2010/07/18(日) 03:10:29.99 ID:t8Zu1GIX0
乙!面白かった

104: 2010/07/18(日) 03:11:08.43 ID:A4pwP3Ia0
もうちょっと続けてほしかったが・・・

乙!

106: 2010/07/18(日) 03:15:38.15 ID:IIbniHJC0
読んでくださった方ありがとうございます
思いつきでふと「音楽が無かったら」って考えてたらこんなんなってしまいました
文章も酷いし、グダグダですみませんでした

あと、元々の最終回は梓が元の世界に戻らずに、憂と二人で「変化した世界でも住めば都だよね!」
って感じでした

引用元: 唯「ぎたーって何?」