裕子「おはよーございまーす！」ﾊﾞﾝｯ!!

まゆ「おはようございます裕子さん。いつも元気ですねえ」

裕子「おはようございますまゆちゃん！へいパス！」ｼｭｯ

まゆ「へ？」ｷｮﾄﾝ



[ﾊﾟｲﾅｯﾌﾟﾙ]　ひゅーん……



まゆ「おうふっ!? 」ﾄﾞｽｯ

裕子「ナイスキャッチ！さすがまゆちゃん！」ﾆｺｯ



まゆ「あ、あなたねえ……」ｹﾎｯ、ｹﾎｯ

堀裕子（16）

―――



加蓮「おはよー」ｶﾞﾁｬ



まゆ「まゆが受け止める事が出来たからよかったものの、非常識にもほどがあります。
　　　そもそも食べ物は大事にしないと……」ｶﾞﾐｶﾞﾐ

裕子「ついパッションのノリで…… さいきっく反省……」ｾｲｻﾞ

加蓮「何やってんの？」ｷｮﾄﾝ

まゆ「ああ、おはようございます加蓮さん。裕子さんがまゆにそこのパイナップルを
　　　投げつけてきたんですよ」ﾌﾟﾝﾌﾟﾝ

裕子「な、投げつけたわけじゃありませんよ！私はちゃんとまゆちゃんの目を見て、
　　　声をかけて、茜ちゃんに教わったラグビーパスの要領でまゆちゃんがソフトに
　　　キャッチ出来るように力を加減して……」ｱｾｱｾ

加蓮「なんか理解するのめんどくさそうだからいいや。要するに裕子がパイナップル
　　　持って来たんだね？」

裕子「そうです！そういう事です！さすが加蓮ちゃん！」

まゆ「ちょっと加蓮さん、まゆがどれだけ痛い思いしたか…… ああ、もういいです。
　　　話をまとめるとそういうことですから……」ﾊｱ…

加蓮「で、どうしたのこの大きなパイナップル。仕事で使うの？」ﾏｼﾞﾏｼﾞ

裕子「親戚がデビューのお祝いに送ってくれたんです。でも私1人じゃ多すぎるから
　　　レッスン前のおやつにみんなで食べようと思いまして」ﾆｺｯ

加蓮「ふーん。ところでさ裕子、ひとつ聞きたいんだけど」

裕子「なんですか？」

加蓮「裕子はパイナップル切ったことあるの？」

裕子「ありません！」ｷｯﾊﾟﾘ

加蓮「まゆは？」

まゆ「ありませんねえ。普段の料理は缶詰のパイナップルを使ってますから」

加蓮「アタシもないんだけど。ということはこの3人は誰も切れないんだね」

裕子「ええ!? じゃあ食べられないじゃないですか!? 」ｶﾞｰﾝ!!

まゆ「そうなりますねえ。そもそも簡単に切れるものじゃありませんよこれ」

加蓮「昔アタシが入院してた時に、お見舞いでたまに丸ごとのパイナップルをもらって
　　　お母さんが困ってたよ。バナナやりんごだったらすぐ食べられるけど、メロンや
　　　パイナップルは切るのが大変だからね」

まゆ「見栄えは良いし美味しいですけど、もらう側としては困りますねえ」

裕子「ううぅ、それは盲点でした……」ｶﾞｯｸﾘ

加蓮「まぁ、まだ食べられないと決まったわけじゃないでしょ。凛と奈緒は無理として、
　　　ウチには料理好きが沢山いるしその子達が来たら頼んでみたら？」

まゆ「あっさり切り捨てられた凛さんと奈緒さんが気の毒な気がしますけど……」

加蓮「じゃあまゆはあの二人がパイナップル切れると思う？」

まゆ「おそらく無理でしょうねえ。ですがパイナップルはカット済みのものや缶の方が
　　　普及してますし、響子さんやかな子さんでも無理かもしれませんよ」

裕子「そんなぁ～、今日のおやつはパイナップルって決めてたのに……」

加蓮「どうしても諦められないんだったら自分で切るか、サイキックでパイナップルを
　　　切れる人が来るように念じたら？」

＊＊＊



裕子「あの～、ちひろさ～ん……」ｵｿﾙｵｿﾙ



ちひろ「はい、先日はどうもすみませんでした。北条もあれからすっかり回復しまして
　　　　いつでも再収録に臨めます。いえ！アイドルの体調管理はウチの仕事ですから
　　　　そちらには何の責任もありません！はい、はい。では北条とプロデューサーに
　　　　伝えておきます。それでは来週よろしくお願いします」ﾍﾟｺﾍﾟｺ

裕子（うわ、すごく忙しそう…… パイナップル切って下さいなんて言えません……）

ちひろ「ふう、次はスタジオの確保を……あ、裕子ちゃんどうしましたか？」

裕子「い、いえ、大した用事じゃないので……」ｽｺﾞｽｺﾞ

ちひろ「あ、裕子ちゃん。先週スタジオで収録した『目指せ！シンデレラNo.1』ですが
　　　　来週加蓮ちゃんと録り直しになると思いますのでお願いしますね」ｻﾗﾘ

裕子「え!? あんなに頑張ったのに何がダメだったんですか!? 」ｷﾞｮｯ!!

ちひろ「それが原因はよくわかりませんが、裕子ちゃんの音源だけ音がぐにゃぐにゃに
　　　　歪んでいたそうです。機材は故障してないし、スタッフさん達も編集で何とか
　　　　しようと頑張ってくれたそうですけど、いっそ最初から録りなおした方が早い
　　　　だろうって話になりまして」ﾎﾟﾘﾎﾟﾘ



裕子「スプーンは曲がらなかったのに…… さいきっくダブルショック……」ｶﾞｯｸﾘ

―――



裕子「……」ｽﾞｰﾝ…



加蓮（ちひろさんのところから戻って来てからすごく落ち込んでるんだけど、そんなに
　　　パイナップルが食べたかったのかな……）ﾋｿﾋｿ

まゆ（ちひろさんはまゆが事務所に来た時からとても忙しそうでしたけど、断られたのが
　　　そんなにショックだったんですかねえ……）ﾋｿﾋｿ

裕子「ぐすっ…… 録り直しかあ……」ﾎﾛﾘ



加蓮・まゆ「「 !? 」」ｷﾞｮｯ!!

加蓮（ちょ、ちょっと！裕子泣いてるじゃん！どういうこと!? ）ｱｾｱｾ

まゆ（加蓮さんのせいじゃないですか？加蓮さんこの前の収録中に倒れて録り直しに
　　　なったんでしょう？それでスケジュール調整が難航してるとか……）ｼﾞﾛﾘ

加蓮（ア、アタシのせいなの!? ）ﾋﾞｸｯ!!

裕子「はぁ…… パイナップル……」ｲｼﾞｲｼﾞ

加蓮「……ああもう！わかったわよ！」ｶﾞﾀｯ!!

裕子「え……？」

加蓮「そのパイナップル貸しなさい！アタシが切ってあげる！」

まゆ「クールな加蓮さんらしくないですねえ。安請け合いするのはよくないですよ」

裕子「い、いいんですか……？」

加蓮「パイナップルくらい切れないでトップアイドルになれるか！アタシもソロで
　　　CDデビューしたんだし、ホンキ出したらこれくらい……」ｸﾞｯ

裕子「加蓮ちゃん…… カッコいいです！」ｷﾗｷﾗ



　ﾋﾟﾎﾟﾊﾟ



裕子「へ？」

加蓮「あ、もしもしお母さん？ちょっと教えて欲しいんだけどさ……」

裕子「おかあさ―――――ん!? 」ｽﾞｺｰ

まゆ「まぁ、それが現実的ですねえ。さすが加蓮さんです」ｸｽ

＊＊＊



～パイナップルの切り方（by加蓮ママ）～



① 切りやすいように上の葉をねじってちぎる
② 上と下をカットする。皮が堅いので注意するように
③ 底を下にして立て、皮と身の間に包丁を入れて上から下に削ぐように皮を剥く
④ 身に残った皮のブツブツを丁寧に取り除く
⑤ 身を4つにカットして、中心の硬い芯を切り取る
⑥ 食べやすい大きさにカットしておわり。Pさんにいい所見せてあげなさい♪

まゆ「最後のはなんですかあ……？」ｲﾗｯ

加蓮「お、お母さんが勘違いしてるだけだから！それじゃさっさとやるよ！」ｶｱｱ

裕子「ええと、確か最初は上の葉を取るんですよね……？」ﾏｼﾞﾏｼﾞ

加蓮「上の部分と一緒に切っちゃってもいいみたいだけど、そっちの方が全体が見えて
　　　やりやすくなるらしいよ。じゃあ葉っぱとっちゃうね」ｶﾞｼｯ

裕子「お、お願いします……」ｵｿﾙｵｿﾙ

加蓮「せーのっ！ふんっ！ぐぬぬぬぬぬ……」ｷﾞｭｳｳｳｳｳ…

加蓮「かった～い！しかもチクチク痛いしなによこれ！全然とれないじゃん！」ﾑｷｰ!!

裕子「あ、加蓮ちゃん爪が……」

[ﾈｲﾙ]　ﾎﾞﾛ…

加蓮「」

―――



加蓮「なーいーちゃーてーもいーいー……？」ｽﾞｰﾝ…　（BGM：『薄荷』）



裕子「だ、大丈夫ですよ加蓮ちゃん！また塗ればいいじゃないですか！」ｱｾｱｾ

まゆ「やる気あるんですかあなた。ネイルが剥がれたくらいで落ち込むなら、最初から
　　　料理をするのはやめた方がいいですよお」ﾊｱ…

裕子「そ、そんな言い方しなくても……」

まゆ「仕方ありませんねえ。まゆがやってあげますよ」

裕子「い、いいんですか!? 」ｷﾞｮｯ!!

まゆ「これでもプロフィール欄に趣味が料理と書いてますから、これくらい出来ないと
　　　ウソになってしまいます。今回は特別ですよお？」ﾆｯｺﾘ

裕子「ありがとうございますまゆちゃん…… 」ｳﾙｳﾙ

まゆ「加蓮さんのお母様のおかげで、切り方は大体イメージ出来ました。皮が堅いのが
　　　心配ですが、よく研いだ包丁で力を入れて切れば大丈夫でしょう……」ｷﾞﾗﾘ

裕子（包丁を持ったまゆちゃん、ちょっと怖いかも……）ｿﾞｸｯ

まゆ「ではいきます。葉ごと上部を一気に切り落としますねえ……」ﾋﾟﾀ

まゆ「すうぅぅぅぅぅ…… はあぁぁぁぁぁ……」



裕子「……」ﾄﾞｷﾄﾞｷ

まゆ「ふ ん ぬ っ っ っ !! !! !! !! !! !! 」ﾀﾞｧｧｧﾝｯ!!　　　　　　　P「戻りました～」ｶﾞﾁｬ



まゆ「」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　P「お、おう」



裕子「」

P「…………あ～、何て言うかだなまゆ」ﾎﾟﾘﾎﾟﾘ

まゆ「あ、あの、ちがうんです、これはその……」

P「威勢がいいのは結構だが、とりあえずケガはするなよ？」

まゆ「」

[ﾊﾟｲﾅｯﾌﾟﾙの葉]　ﾎﾟﾄｯ

―――



まゆ「えぶりでいどりーむ……」ｽﾞｰﾝ…　（BGM：『エヴリデイドリーム』）



裕子「さいきっく今見たこと忘れろ～！」ﾎﾟｶﾎﾟｶ!!

P「うお!? なんだよいきなり。俺が何をしたっていうんだよ？」ﾄﾞｳﾄﾞｳ

裕子「プロデューサーのせいで、まゆちゃんがさいきっく現実逃避したまま戻ってこない
　　　じゃないですか！加蓮ちゃんも落ち込んだままだしどうしてくれるんですか!? 」

加蓮「」ｽﾞｰﾝ…

P「百歩譲ってまゆのことはまだ心当たりがあるが、加蓮は一体どうしたんだ？ていうか
　　そもそもどうして事務所でパイナップル切ってるんだよ？」

裕子「うるさーい！代わりにプロデューサーが切ってくださーい！」ｳｶﾞｰ!!

P「すまん、俺パイナップル苦手なんだ。口の中がちくちくするからな」ﾋﾟｼｬﾘ

裕子「うわーん！プロデューサーの役立たずー！」ﾀﾞｯ

P「んなっ!? 」ｸﾞｻｯ

　ﾀｯﾀｯﾀｯﾀｯﾀｯ……



ちひろ「お帰りなさいプロデューサーさん。裕子ちゃんが走って出て行きましたけど、
　　　　どうかしたんですか？」ｽﾀｽﾀ

P「ちひろさん…… 俺って役立たずですか……？」ｽﾞｰﾝ…

ちひろ「へ？」ｷｮﾄﾝ

＊＊＊



裕子（最低だ私って…… 自分がパイナップルを切れないからってプロデューサーに
　　　八つ当たりして、加蓮ちゃんとまゆちゃんにまで迷惑かけて……）ﾀｯﾀｯﾀｯ…

裕子（でもこのままだったら、私のせいで2人は二度と立ち直れなくなっちゃいます。
　　　そうなれば2人はこのまま引退しちゃうかも……）ｸﾞｽｯ…

裕子「誰か…… 誰か助けてくださあああああああい!! 」ｳﾜｰﾝ!!

裕子「あっ……」ﾄﾞﾝｯ!!

真奈美「おっと失礼、大丈夫かい？」ｶﾞｼｯ

早苗「どうしたのユッコちゃん？ちゃんと前見ないと危ないわよ」ｽﾀｽﾀ

菜々「あれ？ユッコちゃん泣いてます？何かあったんですか？」ｷｮﾄﾝ

裕子「ぎばざん……」ｼﾞﾜ…

真奈美「どうしたんだい？ゆっくりでいいから話してごらん」ﾆｺｯ

裕子「うわあああああんきばさあああああん!! たすけてくださあああああい!! 」ﾀﾞｷｯ!!

真奈美「……ふむ。どうやら只事ではないみたいだな。一体何があったのか知らないが、
　　　　太陽のように天真爛漫なエスパーユッコに涙は似合わないよ。私が君の笑顔を
　　　　必ず取り戻してやるから、安心して全て任せたまえ」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

早苗（真奈美ちゃんっていちいちカッコつけないと氏ぬ病気なのかしら？）ﾋｿﾋｿ

菜々（タ○シード仮面みたいですね）ﾋｿﾋｿ

＊＊＊



―夜・都内居酒屋にて―



レナ「で、結局あんたがパイナップル切って解決したのね？」ｸﾞﾋﾞｯ

真奈美「ああ。理由はよくわからないが、裕子達のアイドル生命は救われたらしい。
　　　　P君と早苗さん達のフォローの甲斐もあって、3人共パイナップルを食べて
　　　　元気にレッスンに行ったよ」

夏美「もうすっかり料理人ねあんた。パイナップルのカットなら私も出来るけど」

レナ「え!? 夏美ちゃんも出来るの!? 」ｷﾞｮｯ!!



夏美「何ですかその反応は。CA時代に空港側の手伝いで、お客さんにパイナップルを
　　　配ったことがあります。コツをつかめばそれほど難しくありませんよ？」ｸﾞﾋﾞｯ

レナ「へ、へえ、スッチーさんってそんなこともするのね……」ｸﾞﾋﾞｯ

真奈美「……レナ、お前もしかして」

レナ「き、切れるわよパイナップルくらい！ウソじゃないわよ！」ｱｾｱｾ

夏美「パイナップル柄のトランプを『切った』なんてオチじゃないでしょうね？」

レナ「全然うまくないわよ！ついでにトランプ投げで切ったわけでもないから！」ｸﾞﾜｯ!!

真奈美「それはそれで普通に切るよりすごいと思うが」ｸﾞﾋﾞｯ

麻理菜「お待たせ。遅くなってごめんね」ｶﾞﾗｯ



夏美「あ、麻理菜さんこっちですよ！」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝ

レナ（ほ、助かったわ……）

真奈美「仕事でサーフィンに行ってたそうだな。海の様子はどうだったんだい？」

麻理菜「まだちょっと早かったけど十分楽しめたわ。あ、そうそうお土産があるのよ。
　　　　こっちもちょっと早いんだけど……」ｺﾞｿｺﾞｿ



麻理菜「はい、パイナップル」ﾄﾞｽﾝ



レナ「」

真奈美「さすが麻理菜さんだ。波だけじゃなくて場の空気もよく読めている」ﾌﾌｯ

麻理菜「え？なんの話？」ｷｮﾄﾝ

夏美「何でもありませんよ。二次会は真奈美のマンションで、このパイナップルを使って
　　　ピニャ・コラーダでも作りましょうか。カットお願いしますねレナさん♪」ﾎﾟﾝ

レナ「え、ええそうね、まかせなさい……」ﾀﾞﾗﾀﾞﾗ



おわり

　ここまで。ラストのオチでパイナップルを使ったお酒を探していたら、ぴにゃの語源と
思われるカクテルが出て来て思わず噴き出しました。しかしラム酒とココナッツミルクと
パイナップルジュースで割った酒がなぜあんな緑色になるんだ？
　ちなみにパイナップルのカットはめんどくさいだけで、そこまで難しくありません。
まゆや加蓮みたいなことにはならないと思うのでぜひお試しください。では

乙だコレ