1: 2014/05/22(木) 21:25:47.42 ID:cFziFq5Zo

『亜美っ、宿題やったの!? 手伝わないかんねっ』

 うるさいなぁ、ちゃんとやってるよ!

『亜美、レッスン遅れちゃうっしょ! 早く起きてよ!』

 ……んー、眠いし寝かせてよ、うるさいな。

『亜美!』

 あー、もう! 真美は黙っててよ!
 いつからそんなお姉ちゃんぶるようになったのさ!

2: 2014/05/22(木) 21:26:13.20 ID:cFziFq5Zo

亜美「……って、ことがあって」

春香「あはは、そうなんだ……まぁ、真美もきっとお姉ちゃんっぽいことがしたいんだよ」

亜美「そうかなぁ? 最近はほんっとに偉そうなんだよ!」

春香「真美はきっと亜美が大好きなんだね……あ、クッキー食べる?」


3: 2014/05/22(木) 21:26:39.50 ID:cFziFq5Zo

亜美「うんっ、欲しい!」

 真美が亜美のことを好きとか、そんなわけないっしょ?
 あんなにグチグチ言ってくるんだもん、イジメようと思ってるんだよ!

亜美「おいしいよ、はるるん!」

春香「えへへ、良かった! シナモンクッキーなんだ」

 はるるんの笑顔、本当に綺麗だなー。見てて元気になるっていうか、そんな感じ?

4: 2014/05/22(木) 21:27:19.23 ID:cFziFq5Zo

亜美「……あーあ、はるるんが亜美のお姉ちゃんだったら良いのに」

春香「えっ? ……亜美が妹かぁ、可愛げないなぁ」

亜美「なにおう!」

春香「冗談だよっ、冗談!」

5: 2014/05/22(木) 21:28:07.24 ID:cFziFq5Zo

 ソファから立ち上がったはるるんが、「それじゃあ、お仕事行ってきます!」って言った。

亜美「頑張ってね、はるるん!」

春香「うん、ありがとう! ……それじゃあ小鳥さん、行ってきます。
   って、プロデューサーさん! 待ってください~っ!」

ガチャン

亜美「……はぅ」

6: 2014/05/22(木) 21:28:50.37 ID:cFziFq5Zo

小鳥「亜美ちゃん」

 突然ピヨちゃんに呼ばれると、なんかビックリしちゃうYO!

亜美「わぁ! ……な、なんだいきなりびっくりした、ピヨちゃんかぁ」

小鳥「さっき、春香ちゃんがお姉ちゃんだったら良いのにー、とか言ってたわよね?」

7: 2014/05/22(木) 21:29:26.77 ID:cFziFq5Zo

亜美「聞いてたの? もう、盗み聞きは良くないよ!」

小鳥「ま、まあまあ……実はね、こんなスイッチがあるの」

亜美「ん? ……へぇボタンみたいだね」

小鳥「実はね、それ……『取り替えスイッチ』って言うのよ」

亜美「へ?」

8: 2014/05/22(木) 21:29:52.42 ID:cFziFq5Zo

 『取り替えスイッチ』。名前通りに考えると、なにかを取り替えられるボタン。

亜美「意味分かんないよ、ピヨちゃん」

小鳥「例えばね、誰かをお姉ちゃんと取り替えたい、って思いながらそれを押すと、本当に取り替えられるのよ?」

亜美「そ、そんなわけないっしょ! 大体、そんなのピンポイントすぎるし」

小鳥「亜美ちゃんの場合は、たまたま真美ちゃんなだけ。親、友達、恋人……知らない人とも変えられる」

9: 2014/05/22(木) 21:30:24.49 ID:cFziFq5Zo

亜美「なんだか……怪しいね」

 まじまじとボタンを見てみる。おもちゃみたいに透き通ってるけど……。

亜美「ピヨちゃん、亜美のことからかってるの?」

小鳥「まさか!」

 ピヨちゃんはわざとらしく驚きのポーズを見せた。

10: 2014/05/22(木) 21:31:10.41 ID:cFziFq5Zo

小鳥「どうしても真美ちゃんが鬱陶しい、って時に使ってみるといいんじゃないかしら」

亜美「んじゃあ、一応もらっとくけど……」

小鳥「ふふっ、頑張ってね」

亜美「うん……?」

すごくわざとらしいピヨちゃんの笑顔が、ちょっとだけ気味が悪かった。

11: 2014/05/22(木) 21:31:45.90 ID:cFziFq5Zo

――

真美「亜美、またベッドで先に寝てるし!」

亜美「なーにー……? 亜美疲れてるんだけど」

真美「ほら、宿題終わってないでしょ! ちゃんとやんなきゃ、りっちゃんに怒られるよ!」

 まただ。真美がお姉ちゃんぶって、亜美を叱る。
 部屋も別々にしてくれないかな。

亜美「……ねえ、真美」

12: 2014/05/22(木) 21:32:37.14 ID:cFziFq5Zo

真美「なに?」

亜美「亜美ね、いい加減にウンザリしてるんだ」

真美「え?」

亜美「毎回毎回、偉そうにお姉ちゃんぶってさ! 急にどうしちゃったの!?」

真美「それは、その……真美はお姉ちゃんだし、ちゃんとしなきゃ、って!」

14: 2014/05/22(木) 21:33:11.98 ID:cFziFq5Zo

亜美「双子なのにお姉ちゃんも妹もないっしょ!?」

真美「あるよっ!」

亜美「ま、真美のバカっ! 出てって!」

真美「いいよ、亜美と一緒の部屋なんかいたくもないし!」

 偉そうな真美なんか、だいっきらい……。
 大きな音でドアを閉める真美に、もっとイライラする。

15: 2014/05/22(木) 21:34:05.12 ID:cFziFq5Zo

『どうしても真美ちゃんが鬱陶しい、って時に……』

亜美「……!」

 ベッドに持ってきていた『取り替えスイッチ』を取り出して、

亜美「……亜美のお姉ちゃんに、真美なんかいらない。はるるんにして」

 ゆっくりと、押してみた。

16: 2014/05/22(木) 21:34:45.51 ID:cFziFq5Zo

亜美「…………ん?」

 なーんにも、変わった気がしない。

亜美「……なーんだ、おもちゃか」

 分かってたけど、なんかくやしい。

亜美「つまんないの」

17: 2014/05/22(木) 21:35:37.57 ID:cFziFq5Zo

亜美「はるるーん」

 って、試しに大声で呼んでみる。
 来るわけないけど、このスイッチを捨てるまえ、に……って、え?

春香「どうしたの、亜美? 呼んだよね?」

 ドアを開けて入ってきたのは、リボンにピンクのワンピースで、いつもお菓子の匂いがする、

18: 2014/05/22(木) 21:36:32.24 ID:cFziFq5Zo

亜美「はる、るん……?」

春香「そうだけど……『お姉ちゃん』って呼びなさいっ!」

亜美「あっ、ごめ……ごめん、”お姉ちゃん”」

 え、なんでウチにいるの? はるるんのおうちってここじゃない、よね?

19: 2014/05/22(木) 21:37:37.46 ID:cFziFq5Zo

亜美「ねえ、はる……お姉ちゃん」

春香「ん、なあに?」

亜美「真美は?」

 はるるんはキョトン、として。

春香「真美、って誰?」

20: 2014/05/22(木) 21:38:06.15 ID:cFziFq5Zo

亜美「真美……双海真美。亜美の双子のお姉ちゃん」

春香「……もしかして、寝ぼけちゃってる? 亜美は双子じゃないし、お姉ちゃんは私だよ?」

亜美「……そ、そうだよねー! ごめんごめん!」

春香「変な亜美」

21: 2014/05/22(木) 21:38:48.34 ID:cFziFq5Zo

春香「それじゃあ、私はキッチンに戻るからね」

亜美「う、うんっ、ありがとね!」

 はるるんがドアを閉めて、階段を下りる音が聞こえる。

亜美「ほ、本当に効果があったんだ……これ」

 亜美はちょっと怖くなって、スイッチをベッドの下のスペースに投げ込んだ。

22: 2014/05/22(木) 21:39:21.10 ID:cFziFq5Zo

 ――――
 ――

春香「亜美、お風呂わいたから入っちゃって」

亜美「う、うん」

春香「……どうか、した?」

亜美「そ、その、えっと……は、お姉ちゃん!」

23: 2014/05/22(木) 21:41:21.25 ID:cFziFq5Zo

春香「ん?」

亜美「お、お風呂一緒に入ろっ!」

 な、なに言ってるんだろ亜美!?
 はるるんはまたキョトン、って顔してるし……。

春香「うん、じゃあ久しぶりにそうしよっか」

亜美「ほえ!?」

24: 2014/05/22(木) 21:41:57.92 ID:cFziFq5Zo

カポーン

春香「久しぶりだね、こうやって入るの」

亜美「そ、そう、だね」

 はるるんとふたりで湯船に入るには狭いから、
 亜美ははるるんの上に座って、おなかの近くを抱きしめられてる感じで。

亜美(スッ、ゴク、キンチョーするよぉ!)

春香「亜美、竜宮小町の活動はどう?」

25: 2014/05/22(木) 21:42:27.25 ID:cFziFq5Zo

亜美「え? うん、楽しいよ」

春香「えへへ、なら良かった。アイドル事務所に、亜美を無理やり誘っちゃったから、私結構気にしてて」

亜美「そんなの気にしないで! 亜美、今めっちゃ楽しいからさ!」

春香「うん、ありがとっ」

26: 2014/05/22(木) 21:43:09.93 ID:cFziFq5Zo

春香「あっ、そうだ。亜美!」

亜美「ん、なあに?」

春香「明日の夜、事務所のみんなに持っていくクッキーを焼こうと思うんだけど、手伝ってくれないかな?」

亜美「うん、いいよ!」

27: 2014/05/22(木) 21:43:57.68 ID:cFziFq5Zo

春香「ありがとうね、亜美。こしょこしょ」

亜美「あっ、あははっ! はるるん、おなかくすぐらないでっ、あはは!」

春香「はるるんじゃないでしょー! お姉ちゃんって呼びなさい!」

亜美「あはは、ごめん、ごめんねお姉ちゃん! あっははは!」

 姉妹だったら、一緒にお風呂なんて普通だよね!

28: 2014/05/22(木) 21:44:43.58 ID:cFziFq5Zo

 はるるんが亜美のお姉ちゃんになってから、今までイライラしてた毎日がすごく楽しくなって。
 例えば、お買い物。

亜美「クッキーの材料って、こんなに揃ってるんだねぇ」

春香「亜美も見たことあるでしょ?」

亜美「そ、そうだね! ……あっ、これ作ろうよ! ココア味のクッキーにはもってこいなんだって」

29: 2014/05/22(木) 21:45:27.16 ID:cFziFq5Zo

春香「えー……作ったこと無いんだけどな」

亜美「ダメ?」

春香「……しょうがないなー。それじゃあ、2種類作ってみよっか」

亜美「やったー!」

30: 2014/05/22(木) 21:46:18.27 ID:cFziFq5Zo

 例えば、お仕事。

P「お疲れ様、春香、亜美。今日もディレクターさんが『双海姉妹はかわいいね』って褒めてくれたぞ。頑張ったな!」

春香「ありがとうございます、プロデューサーさんっ」

亜美「兄ちゃん、ありがと!」

31: 2014/05/22(木) 21:47:13.75 ID:cFziFq5Zo

P「これ、俺から2人へのご褒美だ! 他のみんなには内緒だからな」

 兄ちゃんは「しーっ」のポーズ。

亜美「兄ちゃん、これ!」

春香「すごく混んでるケーキ屋さんのチョコレートケーキじゃないですか!」

P「ちょっと並んできたんだ」

32: 2014/05/22(木) 21:47:56.40 ID:cFziFq5Zo

亜美「美味しそうだよー! お姉ちゃん、今食べよっ」

春香「こらっ、お行儀悪いよ!」

亜美「ちぇー」

P「ふたりは本当に仲が良いな」

春香「当たり前ですよ、姉妹ですから!」

34: 2014/05/22(木) 21:48:46.60 ID:cFziFq5Zo

 例えば、お菓子作り。

春香「亜美、どう? 混ざってる?」

亜美「ちゃんと混ざってるよーん」

春香「……うん、大丈夫だね。それじゃあ、そっちの型を持ってきてくれない?」

亜美「はーい!」

35: 2014/05/22(木) 21:49:28.57 ID:cFziFq5Zo

 真美とは出来なかったり、思わなかったことがお姉ちゃんと出来てて。
 こんなお姉ちゃん、最高だよっ!

春香「それじゃあ、おやすみ。亜美」

亜美「おやすみ、お姉ちゃん!」

 二段ベッドの上の段に寝るのも、もちろんお姉ちゃん。
 ああ、亜美の今の気持ちを一言にするなら、『幸せ』しかないっしょ!

36: 2014/05/22(木) 21:50:41.21 ID:cFziFq5Zo

 ――だと思ってたんだけど、幸せって長くは続かないんだね。

亜美「お姉ちゃん、土曜日の映画はさっ」

春香「あー……ごめんね、亜美。その日はラジオの収録があって」

亜美「そ、そっか、お仕事……だよね。頑張ってね!」

春香「ごめんね、亜美っ! 絶対埋め合わせはするから!」

38: 2014/05/22(木) 21:51:21.50 ID:cFziFq5Zo

 別の日も。

春香『ごめん、亜美……お仕事長引いちゃって、今日は事務所に戻れそうにないかな』

亜美「えっ……そうなの?」

春香『うん、だから悪いんだけど、先に帰っててくれないかな?』

亜美「わ、わかった……それじゃあ、電話切るね」

春香『ごめんね、今度なんでもするからっ』

39: 2014/05/22(木) 21:52:28.83 ID:cFziFq5Zo

 お姉ちゃんの仕事、プライベート、どんどん亜美と噛み合わなくなっていって。
 ラジオの収録、終わらない撮影、千早お姉ちゃんとお買い物、兄ちゃんとデート……。

亜美「……さみしいよ」

 これなら、いっつも亜美を叱ってた真美が居てくれた方がいいのに。

亜美「……ねえ、ピヨちゃん」

40: 2014/05/22(木) 21:52:56.73 ID:cFziFq5Zo

 事務所には亜美とピヨちゃんしか居なかった。ソファを離れて、近くによってみる。

小鳥「どうしたの?」

亜美「あのさ、真美を元に戻したいんだけど、どうすればいいのかな」

 ピヨちゃんはキーボードを打つ手を止めて、キョトンとした顔で亜美を見た。

41: 2014/05/22(木) 21:53:23.49 ID:cFziFq5Zo

小鳥「亜美ちゃんは面白いことを言うのね、元に戻したいなんて」

亜美「本気で言ってるの! お姉ちゃん、最近ずっと遊んでくれないし」

小鳥「そのスイッチで取り替えられた人は、もうどこにも居ないの。元に戻せないのよね」

亜美「……へ?」

42: 2014/05/22(木) 21:54:04.47 ID:cFziFq5Zo

 ピヨちゃんは笑いながら、

小鳥「取り替えって言っているけど……春香ちゃんのおうちに真美ちゃんが居るなら、真美ちゃんはこの事務所に居るはずよね?」

亜美「そ、そうだけど」

小鳥「取り替えた後、いらなくなった人を消すのがそのスイッチ」

亜美「消す、って……!」

43: 2014/05/22(木) 21:54:52.24 ID:cFziFq5Zo


小鳥「だって、いらないんでしょう? 真美ちゃんのこと」



44: 2014/05/22(木) 21:55:35.82 ID:cFziFq5Zo

 ピヨちゃんは立ち上がって、給湯室の方に歩き出した。
 着いて行く。

亜美「な、なんでそんなこと言うの……っ」

小鳥「実際、そうだったのよね? 春香ちゃんが亜美ちゃんのお姉さんになって、楽しかったんでしょう?」

亜美「楽しかった、けど」

小鳥「だったら、少し構ってくれないぐらいで、すぐに戻そうなんて考えちゃダメよ」

45: 2014/05/22(木) 21:56:33.04 ID:cFziFq5Zo

亜美「で、でも」

小鳥「……そうだ、あのスイッチね」

亜美「え?」

小鳥「自分が他人に成り代わることも出来るのよ」

亜美「他人に……?」

46: 2014/05/22(木) 21:57:34.20 ID:cFziFq5Zo

 ピヨちゃんは湯のみにお茶を注いでいった。

小鳥「ええ。765プロの事務員って、誰だっけ」

亜美「何言ってるの、ピヨちゃんでしょ?」

小鳥「私?」

亜美「うん。オトナシコトリ」

47: 2014/05/22(木) 21:58:37.98 ID:cFziFq5Zo

小鳥「本当に?」

亜美「……何が」

小鳥「本当に、765プロの事務員って、最初からオトナシコトリさんだった?」

亜美「え……」

 ピヨちゃんが亜美にゆっくりと近づいてきた。

48: 2014/05/22(木) 21:59:05.43 ID:cFziFq5Zo

小鳥「別の人だったんじゃないかしら」

 言われてみれば……なんか、思い出した気がする。
 ロングヘアーだった? 髪の色は黒、茶色、それとも赤色?

亜美「な、なんでだろ……知らない人の記憶が」

小鳥「ふふっ、あのスイッチを誰かに使ってもらうために、自分で使ってみたのよ」

49: 2014/05/22(木) 21:59:49.63 ID:cFziFq5Zo

亜美「……なに、それ」

小鳥「亜美ちゃんにだけ、教えてあげる。私の本当の仕事は――」

亜美「っ!」

 とてつもなく怖くなって、走って事務所を飛び出した。
 走って、走って、誰も追ってこないことをカクニンして、電車に乗って。

50: 2014/05/22(木) 22:00:19.93 ID:cFziFq5Zo

亜美「はぁっ……はぁっ……!」

 家の近くの駅に着いたら、全速力で走って。

亜美母「あら、おかえりな……って、なにか急いでるの?」

 家についたら、階段を駆け上がって、部屋のベッドの下を見る。

亜美「あ……った……!」

51: 2014/05/22(木) 22:01:36.22 ID:cFziFq5Zo

 『取り替えスイッチ』が転がっていたのを、大慌てで取り出した。

亜美「返してっ、真美を返して!」

 何回もスイッチを押しても、何も起きない。

亜美「真美が居なきゃダメだよっ」

52: 2014/05/22(木) 22:02:39.85 ID:cFziFq5Zo

 連打しても、真美は帰ってこなくて。
 泣きながら放り出した。

亜美「かえしてよ……っ」

 自分勝手だって分かってるけど、やっぱりお姉ちゃんは真美じゃなきゃダメだよ!

「……亜美」

53: 2014/05/22(木) 22:03:23.44 ID:cFziFq5Zo

亜美「ま……まみ!?」

 真美の声がした……と思って、ドアの方向を見る。
 お姉ち……はるるんと取り替えた時と変わらない服と、姿。

亜美「久し振りだね、真美……おかえりっ」

 思わず抱きついちゃった。

54: 2014/05/22(木) 22:04:00.07 ID:cFziFq5Zo

亜美「会いたかった、やっぱり亜美のお姉ちゃんは真美じゃなきゃね」

 嬉しい。また会えた、なんでかは分からないけど……もしかして、これって番組のドッキリだったのかな。

亜美「真美、これってドッキリだったのかな? 亜美、カンペキに引っかかっちゃってさ」

真美「……亜美、あのね」

亜美「え……?」

55: 2014/05/22(木) 22:04:28.87 ID:cFziFq5Zo

 背筋が凍りつく声に、抱きついてた腕を離した。

真美「真美、亜美のこと大好きだったの」

亜美「”だった”って、どうして過去形……」

真美「亜美は真美のこと、大嫌いなんだよね?」

亜美「なに、それ」

56: 2014/05/22(木) 22:04:57.67 ID:cFziFq5Zo

真美「だって、それで消したっしょ?」

亜美「け、消しちゃったのは、そう、だけど……」

真美「だからね、真美も亜美のこと、キライになっちゃった」

亜美「……え?」

57: 2014/05/22(木) 22:05:55.08 ID:cFziFq5Zo

 真美が持っているのは、亜美がさっきまで押し続けてたものによく似てる。

亜美「もしかして、それ」

真美「亜美が居なかったら、真美もお姉ちゃんっぽくしなくて済むしさ」

亜美「や、やめてっ! 押さないで!」

 目の前で真美は、あのスイッチに手をかけた。

真美「亜美じゃなくて、やよいっちが妹だったらいいなぁ」

58: 2014/05/22(木) 22:06:43.17 ID:cFziFq5Zo

亜美「待って!」

真美「それじゃあね、亜美」

亜美「い、いっ……」

 叫ぶ声も、もう出てこなかった。

真美「……真美の妹に、亜美なんかいーらない」

59: 2014/05/22(木) 22:08:15.72 ID:cFziFq5Zo

真美「なーんて、ね」

亜美「え……?」

 真美はスイッチをベッドの方に放り投げた。

真美「このスイッチね、消されちゃった人は、消した人と同化できるの」

亜美「ど、うか?」

真美「そう、乗り移るみたいな。亜美がはるるんと仲良くしてるのを見て、メッチャ寂しくなったけど……」

60: 2014/05/22(木) 22:08:51.96 ID:cFziFq5Zo

亜美「……ごめ」

真美「でも、やっぱり真美が必要だって言ってくれて嬉しかった。だから、許すことにしたよ」

亜美「ごめん、真美」

真美「うん。やっぱり真美、甘いなぁ」

亜美「えっ?」

61: 2014/05/22(木) 22:11:02.47 ID:cFziFq5Zo

真美「消されかけたのに許しちゃうなんて、さ」

亜美「……うん」

真美「亜美が不満なことがあったら、なんでも言って?」

亜美「不満なんか、もう無いよ」

真美「……そう?」

62: 2014/05/22(木) 22:13:56.40 ID:cFziFq5Zo

亜美「気づいたんだ。叱ってくれたり、遊んでくれる真美がさ」

真美「え?」

亜美「やっぱり一番のお姉ちゃんで、家族なんだなーって」

真美「……亜美っ」

亜美「ひゃあ!」

63: 2014/05/22(木) 22:15:10.72 ID:cFziFq5Zo

真美「……ところで、亜美」

亜美「ん?」

真美「そのスイッチ、どうするの?」

亜美「えーっと……」

 亜美の手元には、まだスイッチがあった。

64: 2014/05/22(木) 22:18:07.34 ID:cFziFq5Zo

亜美「捨てるよ。こんなスイッチ、もういらないもん」

真美「それじゃあ、真美がさっきのと合わせて、ふたつ捨てとくよ」

亜美「任せちゃっていいの?」

真美「うん。だから、渡して?」

亜美「分かった」

 真美がベッドに投げたスイッチを拾って、ふたつとも亜美に渡した。

65: 2014/05/22(木) 22:19:28.14 ID:cFziFq5Zo

真美「それじゃあ、お風呂でも入ろっか」

亜美「そうだね、久しぶりにふたりで! 亜美、掃除してくるっ」

真美「よろしく頼むよー、チミ」

 真美はずっと、亜美を見ていたような気がする。
 あの視線、なんだったんだろう?

66: 2014/05/22(木) 22:21:00.80 ID:cFziFq5Zo
 「世にも奇妙なアイドルマスター」リスペクトでした。
 お読みいただき、ありがとうございました。お疲れ様でした。

68: 2014/05/22(木) 23:40:29.48 ID:o6wGijobo
乙おつ

引用元: 亜美「取り替えスイッチ?」