1: 2015/05/10(日) 01:04:42.66 ID:2+qdr/eL0
……
-ラケル博士の研究室
ラケル「ケーイーサーンハ……」
コンコン
『博士ーいますかー?』
ラケル「!」
ラケル「ん、んんっ……」
ラケル「……はい。どなたですか……?」
ナナ『あ、ラケル博士ー?』
ラケル「ナナですか……」
ガチャッ
ナナ「開いたっえと、失礼しまーす」
ラケル「……なにかありましたか?」
ナナ「あ、いやー特になにっていうんじゃないんですけど……」
ラケル「ふふ……とりあえず、立ち話もなんでしょう。こっちへいらっしゃい……?」
ナナ「あ、はーい」
ポスッ
ラケル「お茶を出しましょうか……」
ナナ「いいですよそんな! 長居しませんから!」
2: 2015/05/10(日) 01:05:52.37 ID:2+qdr/eL0
ラケル「そうですか……。……それで、どうしたんですか? 何か身体に異常でも? この間のメディカルチェックでは問題は見られませんでしたが……生れながら体内に偏食因子を持つあなたは」
ナナ「ああっええと! そーいうのじゃなくってー」
ラケル「? ……では」
ナナ「はい! これ!」
ラケル「これは……」
ナナ「おでんパン!!」
ラケル「……」
ナナ「です!」
ラケル「……これを、…………私に?」
ナナ「はい! そうです!!」
ラケル「……ふふ、ありがとう、ナナ。けれど」
ナナ「ラケル博士、最近ずっと忙しそうだったでしょ?」
ラケル「……そうですね。神機兵の件も煮詰まってきましたし」
ナナ「だから、研究とかに没頭しすぎて、あんまり食事を摂れてないんじゃないかと思って……」
ラケル「確かに……栄養の摂取を疎かにしてしまうことはあります……」
ナナ「でしょ!? ラケル博士、ただでさえ栄養足りてなさそうなんだもん!」ボイン
ラケル「……」ペターン
3: 2015/05/10(日) 01:06:40.73 ID:2+qdr/eL0
ナナ「肌が白くてキレイなのは憧れるけど、細すぎだよー。私達のメディカルチェックもいいけど、ちゃんと自分の身体も大事にして下さいね?」
ラケル「ふふ……心配してくれていたのですね……」
ナナ「いやーそんなー当然ですよーこれぐらいーえへへ」
ラケル「では、この……おでんパン? は、いただいておいて、後ほど」
ナナ「あー! そう言ってると、また食べるの忘れちゃいますよ?」
ラケル「それは……」
ナナ「じー……」ジー
ラケル「……」
ナナ「……」ジー
4: 2015/05/10(日) 01:07:18.03 ID:2+qdr/eL0
ラケル「ぁむっ」パクッ
ナナ「おおっ!」
ラケル「……」モグモグ
ナナ「どうですか!?」
ラケル「……」ゴクン
ラケル「これは……」
ラケル「意外とおいしいですね」
ナナ「あー! 今、意外とって言ったぁー!」
ラケル「ふふっ……」
5: 2015/05/10(日) 01:08:12.63 ID:2+qdr/eL0
ナナ「ねーラケル博士、おでんパンはね、ナナのお母さん直伝なんだ」
ラケル「ナナのお母様……ナナを一人守っていたゴッドイーター……とても強い方だったのでしょうね」
ナナ「うん! その上、優しくて、かっこよくって……」
ラケル「……」
ナナ「大好きだったんだ。お母さんのこと……」
ラケル「……」
ナナ「……でも、ラケル博士のことも…………」
ナナ「本当の、お母さんみたいに思ってるよ!」
ラケル「……!」
ナナ「え、えへへ……なんか、恥ずかしいや」
ラケル「……ありがとう。本当に」
ナナ「ほんとは……最近、博士……元気ないように見えたから、だから、改めて気持ちを伝えて、おでんパン食べてもらおう……って」
ラケル「ナナ……」
ナナ「……泣かない、怒らない、おでんパン食べる!」
ナナ「お母さんとの約束。寂しくなったら、おでんパン食べて、元気になるの。だから博士も……」
ラケル「わかりました……おでんパン食べて、元気になります」
ナナ「! えへへっ……そ、それだけ! じゃ、じゃあっ失礼しましたーっ!」
ガチャッ バタン
ダダダダダダ……
6: 2015/05/10(日) 01:08:49.96 ID:2+qdr/eL0
ラケル「…………」
ラケル「……寂しくなったら、おでんパン」
ラケル「空腹でもないときに暴食していたから、きっとあんなふうに……」
ラケル「……」ペターン
ラケル「……今度の衣装は少し露出を増やして、胸を10%……いえ、20%ぐらい増」ピッ……ピッ……
ガチャッ
ラケル「!?」ガバァッ!
ロミオ「ラケル博士ー! ……あれ? なんでモニターに覆いかぶさって……」
ラケル「…………ロミオ? 他人の部屋に入るときには、まずノックをなさい……?」
ロミオ「あっ、す、すみませんっ」
ラケル「いえ……鍵をかけ忘れていた私も悪いのですから……」ピッ……
7: 2015/05/10(日) 01:09:40.28 ID:2+qdr/eL0
ラケル「……それで、何の用ですか?」
ロミオ「へへっ実はさー……じゃーん!!」
ラケル「これは……」
ロミオ「葦原ユノのサイン! もらっちゃったんだー!」
ラケル「まぁ……それは、よかったですね」
ロミオ「けど、ただ自慢しに来たってわけじゃないんだ」
ラケル「……?」
ロミオ「これは、博士にあげようと思って」
ラケル「私に……? いいのですか? あなたの宝物では……」
ロミオ「もちろん自分用にも、もらってます!」
ラケル「……」
ロミオ「これは、博士にあげようと思ってサインしてもらったんだ。だから……はい!」
ラケル「……ユノの、CD」
ロミオ「ユノさんの歌声ってさー澄み渡ってて、心の奥まで溶かしてくれるっていうか」
ラケル「……」
ロミオ「そんじょそこらの歌手やアイドルとは違うっていうか、誰にも真似できない、すごい……癒しの力! みたいなのがあると思うんですよ!」
ラケル「……確かに、彼女の歌声は、フェンリル内外で高く評価されていますね」
ロミオ「そう! だからさ……ラケル博士にも、これで癒されて欲しいって思ったんだ」
ラケル「ロミオ……」
ロミオ「ユノさんの綺麗な歌声なら、きっと研究の邪魔にもならないって思うし、むしろすっきりして頭も回るっていうか……あっ! お、オレが一番邪魔してますよね! すみませんっ」
ラケル「そんなことは……ふふ、ありがとう、ロミオ」
ロミオ「はいっ、それじゃオレ、これで!」
ガチャッ バタン
8: 2015/05/10(日) 01:10:29.06 ID:2+qdr/eL0
ラケル「澄み渡る歌声……」
ラケル「オンッナッノコハ……」
ラケル「んんっ……あーあー……」
ラケル「おんっなっのこは☆こいっのきかい♪」
ラケル「けーいーさー」
ロミオ「あとさー博士」ガチャッ
ラケル「ノックゥゥ!!!」
ロミオ「へっ!? あぁっすみません!!」
ラケル「……こほん。それで、」
ロミオ「一つ言い忘れててさ……。博士、いつもオレ達のこと、裏から支えてくれて……ありがとうございます! それだけでっす! 今度こそほんとに、失礼しましたぁ!」
ガチャッ バタン
タッタッタッタッ……
9: 2015/05/10(日) 01:11:34.43 ID:2+qdr/eL0
ラケル「……ふぅ」
カチャン
ラケル「さて……」
ピッ……カチカチ
ラケル「心に響く歌……もっとしめやかな方が……? それとも……」ピッ……
コンコン
ラケル「……はい」
ギル『ブラッド隊所属、ギルバート・マクレインです。入室許可を頂けますか』
ラケル「もちろん……構いませんよ」
ガチャッ
ギル「失礼します。……博士、その」
ラケル「あなたがここに来るのは、珍しいですね……。なにか?」
ギル「……上官頃しのギル。そんな風に呼ばれて、厄介者扱いだった俺を拾って下さって……そして、ブラッドの仲間達に会わせてくれて、本当に感謝してます……」
ラケル「……」
ギル「ここは……ブラッドは俺に、なくしてた……なくしたと思っていた、家族を……取り戻させてくれた。だから、」
10: 2015/05/10(日) 01:12:11.57 ID:2+qdr/eL0
ギル「……これを、博士に」
ラケル「これは……髪飾り、ですか?」
ギル「いつもその格好だし、そういうの、あまりつけないかとも思ったんだが……他に思いつかなかった。その……女性へのプレゼントなら、装飾品が一番だと聞いて」
ラケル「ふふ……うれしいですよ、ギル」
ギル「……そう、ですか。そりゃよかった」
ラケル「これは、アラガミ素材から作ったものでしょう?」
ギル「! ……バレたか。いや、そりゃそうか」
ラケル「綺麗ですね……あなたがこれを?」
ギル「はい。他に、作れるものもなくて」
ラケル「とても器用なのですね……気に入りました。大事に使わせてもらいます」
ギル「……どうも。俺はこれで」
ラケル「ふふっ……あなたなら、神機の整備……いいえ、その製作や改造も、向いているかもしれません」
ギル「俺が……?」
ラケル「そうなったら、神機兵の技術スタッフに招き入れたい……これはそのぐらい、完成度の高いものです」
ギル「ただの髪飾りですよ」
ラケル「けれど、素材はアラガミのもの。……それをこうまで上手く加工するのは、才能なしにはできません」
ギル「……考えておきます。それじゃ……」
ガチャ……バタン
11: 2015/05/10(日) 01:12:53.01 ID:2+qdr/eL0
ラケル「……」
カポッ……スッ
ラケル「…………私には、やはり似合わない」
ラケル「……次の衣装では、髪型にも、もっと工夫をしてみようかしら……?」
コンコン
ジュリ『フェンリル極致化技術開発局ブラッド隊隊長、ジュリウス・ヴィスコンティです』
シエル『同じくブラッド隊、シエル・アランソン』
ラケル「……入りなさい」
ガチャッ
ジュリ「失礼致します」
シエル「失礼します」
ラケル「……どうしたのですか? 作戦に、何か問題でも?」
ジュリ「いえ、今日は、私用で立ち入らせて頂きました」
ラケル「私用……?」
シエル「あの……ラケル博士。これを」
ラケル「これは…………ケーキ?」
シエル「はい。チョコレートケーキ……中でも、ザッハトルテと言うものだそうです。材料のカカオや杏を手に入れるのに苦労しましたが……」
ジュリ「シエル! 余計なことは言うな」
シエル「! す、すみません隊長」
ラケル「まぁ……二人がこれを?」
ジュリ「はい」
ラケル「……料理など、できたのですね」
シエル「いえ、ムツミさんに手伝ってもらったので」
ジュリ「シエル!」
シエル「す、すみません!」
ラケル「……ふふ、いいのよジュリウス。二人共、頑張ってくれたのね」
12: 2015/05/10(日) 01:13:50.27 ID:2+qdr/eL0
ジュリ「……たいした苦労では」
ラケル「けれど……どうして急に改まって……」
ジュリ「それは、これまで育てて頂いた恩義、そして今のブラッド隊での日頃の感謝を」
ラケル「……?」
シエル「隊長、ここは素直に話した方がよろしいのでは?」
ジュリ「しかし……」
ラケル「あらあら、私に隠し事……?」
ジュリ「……実は」
シエル「母の日、です」
ラケル「母の……日?」
シエル「はい。本当は、誕生日にお祝いをと思ったのですが、博士の生年月日はフェンリルのデータベースに記載されておらず、また、ご本人から聞いたこともなかったので……」
ラケル「……そうでしたか。しかし、母の日とは」
シエル「知らないのですか……?」
ジュリ「こらシエル!」
ラケル「いいのよジュリウス」
シエル「母の日とは、子供が母親に、普段なかなか伝えられない感謝を伝える日です。過去、世界各地にあった風習で、極東では今でも残っている文化であり」
ジュリ「んん! ごほん!」
シエル「はっ……! ……と、とにかく、今日は、母の日というもので、私達も、ブラッド隊、そしてマグノリア・コンパスの母親であるラケル博士に……みんなで感謝を伝えようと……」
13: 2015/05/10(日) 01:15:11.06 ID:2+qdr/eL0
ラケル「そうだったのですね……それで……」
ジュリ「本当は、博士を庭園か極東のラウンジにでも呼んで、パーティーでも開こうかという話もあったのだが……」
シエル「そう頻繁に物資を消耗できないということと、お忙しそうなので、わざわざご足労頂いて、長時間とどまらせるのは不可能だろう、と」
ジュリ「そこで、各個で贈物を用意。それを順次すみやかに渡し、感謝の意を伝える。という作戦をとったのです」
ラケル「ふふ……うふふふ」
シエル「……?」
ジュリ「博士?」
ラケル「いえ、ごめんなさい……あなたたちが、あんまり可愛らしいものだから」
シエル「なっなにか、おかしかったでしょうか?」
ラケル「おかしいなんてことはないわ……シエル。私はあなたやジュリウス……みんなの気持ちがとっても嬉しい……こんないい子達に、……本当の、母のように慕われるなんて…………」
ジュリ(……? 気のせいか? レースごし、なにか……雫が)
14: 2015/05/10(日) 01:15:46.46 ID:2+qdr/eL0
ラケル「でも…………まだ一人、ブラッド隊の中で……顔を見ていない子がいるのだけれど……」
ジュリ「副隊長は、何やらよく分からないことを言って、夜に赴くと。確か……母として慕っているだけでないので、我慢できない、奇襲をかけるなどと」
シエル「隊長!!」
ジュリ「な、なんだシエル」
シエル「言ってしまっては奇襲になりません!」
ジュリ「む……そうだな。しかし、もし妙なことを考えているのならば、事前に知らせておいたほうが……」
シエル「副隊長が博士に危害を加えるなんてこと、ありえません」
ジュリ「……そう、だな。すまないシエル。私のミスだった」
ラケル「……」
ジュリ「……お邪魔をしてしまったようで、すみません。では、我々はこれで」
シエル「失礼しました」
ラケル「えぇ……二人共、ありがとう。みんなにも、そう伝えておいて?」
ジュリ「はい。では」
ガチャッ……バタン
15: 2015/05/10(日) 01:17:08.83 ID:2+qdr/eL0
ラケル「奇襲……?」
ラケル「あの子が…………私を?」
ラケル「今日は、より丹念に体を洗っていただくよう、お姉さまにお願いしておこうかしら……」
ラケル「あとは……勝負、下着? ……パジャマはどうすれば。いつものアバドン柄のものでは子供っぽいかしら」
ラケル「っ……それ以前に、部屋の、片付け……」
ラケル「自室はほとんど寝に帰るだけだから、本や実験道具をテキトウに放り込んだままだわ……」
16: 2015/05/10(日) 01:17:53.01 ID:2+qdr/eL0
??「なにをそんなに、そわそわしてるの?」
ラケル「……落ち着かなくもなるわ。こんなこと……初めてですもの」
??「初めて?」
ラケル「……他人から……好意を、…………異性としての好意を寄せられること」
??「ふぅん? クジョーは?」
ラケル「あれは違います。あれは……自分より哀れなものを見て、自分を慰めているだけ……私を自分より弱いと思って、内心では見下している」
ラケル「……女だから、ハンデを負っているからと……情けをかけるのが、哀れむのが好きなのです。そんな自分より弱いものを……慰み物にしようというのです」
??「そうかな? むしろ、支配されたがっているようにも見えるけど」
ラケル「……とにかく、私はあの人が嫌いです」
??「うわ、本音出たよ」
ラケル「……けど、あの子なら」
??「ほんとにそうかな? あの子だって、本当の私を見てくれてはいないよ」
ラケル「それは……」
??「それに、そんなこと必要ないんだよ。私には。つがいを得なくたって……私は、新たなる世界……その全ての母になるんだから」
ラケル「……」
??「今の世界で、こんな私を、本当の私を知って、愛してくれる人なんていないよ」
??「陰湿で、異質で、姉にも嫌われ、結果ハンデまで負って」
??「こんな体にした、姉を、父を憎んで、利用して、頃して」
??「こんな気味の悪い私を、好きになる人なんて、こんな気持ち悪い……人間でもアラガミでもない存在を受け入れてくれる人なんて、」
「「いるわけがない」」
17: 2015/05/10(日) 01:18:25.21 ID:2+qdr/eL0
ラケル「……分かっています。わかって……」
ピッ……ピッ、カチカチ
ラケル「こんな虚像に踊らせ、歌わせ……愛された虚像を見て、満たされたふりをしても」
ラケル「偽物の家族に、偽物の愛情を注いでも……」
ラケル「なにも…………」
「だから……私が愛を得るには……」
「世界を憎む私が、本物の愛情を知るには……」
「世界を壊して」
「喰らい尽して」
「新しい世界を産む他ない」
さぁ…………始めましょう……?
世界の終末と……
再生を…………
END
18: 2015/05/10(日) 01:20:13.66 ID:2+qdr/eL0
ここまで読んで下さった方は、本当に有難うございます。
では。
20: 2015/05/10(日) 01:23:26.82 ID:2+qdr/eL0
次回予告(嘘)
「? ……プロデュースしたい……? ふふ、不思議な口説き文句ですね」
「え……? 本気で?」
「…………どうしてそれを、あなたが……知って」
「………………シプレではなく……? 私自身、を……?」
「私が、アイドル……!?」
ラケル「次回、THE IDOL E@TER。新アイドル、ラケル・クラウディウスの荒ぶる神がごとき活躍を……どうぞみなさま…………」
ラケル「しるぶぷれ♪」
19: 2015/05/10(日) 01:22:41.81 ID:AcT2N6mAO
おつー
九条博士かわいそす
九条博士かわいそす
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