2: 2012/01/28(土) 11:43:53.79 ID:gGqDF+1S0
 掃除も早く終わったし、今日は私が一番乗りかな?

 誰も居ないと思っていたのに、音楽室の扉を開けると椅子の上には鞄が1つ置いてありました。


梓 (これはムギ先輩の鞄だよね?……でも姿が見えないけど、どこに居るんだろ?)


 辺りを見渡すと準備室の奥にあるソファーに人影が……
 覗き込むとそこには気持ちよさそうに寝ているムギ先輩が居ました。


梓 (ムギ先輩の寝顔って初めてみたけど可愛い~!)


 しゃがみこんでムギ先輩の顔を見ている所に他の先輩方が入ってきました。


律 「おぃ~っす!」

唯 「あ、あずにゃん! 今日は早いんだね」

澪 「ん? 梓、何してるんだ?」

梓 「シ~~~~! 今ムギ先輩が寝てるんです、静かにしないと起きちゃいますよ」


 私は先輩方に声を出さないようにして静かに近付くように言いました。



3: 2012/01/28(土) 11:47:13.52 ID:gGqDF+1S0


律 「なんだムギ、真っ先に教室を出たからもうお茶の用意は出来てると思って来たのに……寝てるのかよ」

唯 「ムギちゃん可愛い~~、ほっぺプニプニしたくなっちゃうね」

梓 「唯先輩ダメですよ! せっかく気持ちよく寝てるんですから! 今日は私がお茶の用意をしますから起こさないようにして下さいよ」

紬 (ん……)

梓 「ほら! 先輩方が騒がしいから!」

紬 (うふふ……ゲル状がいいの……)

梓 「………………」

律 「ブッ! 何だ今の寝言!」

澪 (クク……クククク……)

唯 「ムギちゃん楽しそう……いったいどんな夢みてるんだろ?」

梓 「もう! これ以上騒ぐと本当に起きちゃいますから向こうに行きましょう!」


 私達は準備室の扉を閉めて、隣の部屋へと移動しました。



4: 2012/01/28(土) 11:50:25.58 ID:gGqDF+1S0


律 「それにしてもムギの奴、笑いながら『ゲル状がいいの』って、どんな夢見たらそんなセリフが出るんだよ」

唯 「ムギちゃんいつもみんなとお茶を飲んでる時みたいな笑顔だったから、お茶会の夢じゃないのかなぁ?」

澪 「お茶会でゲルって……」

唯 「だからぁ……」














【あら、唯ちゃん今日は早いのね】

【うん、ムギちゃんの持ってくるお菓子が待ち遠しくて授業を途中で抜け出して来ちゃった】

【あらあら】

【ねぇねぇ、今日はどんなお菓子なの?】

【今日は生プリンと生ババロアと特製苺ショートケーキよ】

【わ~い! でもプリンの『生』って何?】

【普通のプリンよりも口溶けが良くて美味しいのよ~】

【へぇ~そうなんだ、じゃあこのショートケーキって何が特製なの? 外見はいつもと同じように見えるけど?】

【これはねぇ、生地もクリームも全く新しい食感でド口リとしてるのよ、だから今日は飲み物も特別でトロミがある葛湯にしてみたのぉ♪】

【何だか今日はグチョグチョの物ばっかりなんだね……】

【何言ってるのよ唯ちゃんこれが美味しいんだから】

【そうかなぁ?】

【うふふ……ゲル状がいいのよ♪】














律 「食べたくねぇ~!」

梓 「嫌なお茶会ですね……」 


5: 2012/01/28(土) 11:56:48.78 ID:gGqDF+1S0

唯 「じゃあ律ちゃんはどんな夢だと思うのよぉ」

律 「そうだな、ムギって女の子が好きだろ? だから……」














【澪ちゃん……みんな遅いわね】

【あぁ、律と唯はテストの成績の事で職員室に呼ばれてたからな、もう少し掛かるんじゃないか?】

【そう……梓ちゃんは今日風邪でお休みだし……】

【そうなんだ】

【ねぇ澪ちゃん】

【どうしたムギ?】

【部室で2人きりになるのなんて初めてね……】

【そう言えばそうだな……改めて言われると何だか照れるな】

【澪ちゃん……みんなには内緒のお話があるんだけど……】

【ん? 悩み事でもあるのか? 私でよかったら相談にのるぞ】

【実は……私、ずっと前から澪ちゃんの事が好きで……】

【え!? それってお友達として好きって事だよな?】

【ううん……愛してるの……】

【ムギ……】

【澪ちゃんが律ちゃんと仲良くしてるのを見るだけで胸が痛くなって……もう我慢できないのよ】

【ちょ……ムギ落ち着け!】

【ダメよ! 今日は琴吹家特製のこのローションを使って!】

【何だよそれ! そんなドロドロなの気持ち悪い!】

【うふふ……このゲル状がいいのよ♪ すぐ気持ち良くなるわ】














澪 「な・ん・だ・そ・れ・は!」

律 「イテイテイテッ!」


 さすがは澪先輩! スタッカートの効いた切れのあるチョップ!

6: 2012/01/28(土) 12:04:39.65 ID:gGqDF+1S0

律 「ん~……結構いい線いってたと思うんだけどな」

澪 「どこがだ!」

梓 「って言うか律先輩は変な雑誌とか読みすぎですよ!」

律 「じゃあ梓はどう思うんだよ」

梓 「そうですね、ムギ先輩の家はお金持ちだから私達とは違う感性があると思うんです……だから」














【今日も何か良い物が出てないかしらね?】

『テレフォンショッピング~! 今日ご紹介の商品は、ほんの少し塗るだけでお肌が赤ちゃんのようにきめ細かく若返る魔法の化粧水です!』

【こ……これは絶対に買わないと……斉藤!】

【はい、お嬢様】

【この化粧水が欲しいの】

【かしこまりました、一時間だけお待ち下さい】

【ダメ! 今すぐ欲しいの! 30分しか待てないわ】

【分かりました……メイド部隊! 直ちにヘリを用意して各地へ飛びなさい!】


 30分後


【お嬢様、関東地方にある化粧水を全て集めて大浴場の湯船に満たしておきました、明日以降、中部地方、近畿地方と順次集めさせ琴吹家に運ぶよう手筈は整っております】

【ありがとう斉藤】

【もったいないお言葉です】


 化粧水が満たされた湯船にゆっくりと入る紬。


【お嬢様、如何でしょうか?】

【この全身を包み込む感触がたまらないわ】

【満足して頂けて光栄です】

【うふふふ~♪ このゲル状がいいのぉ~♪】














律 「そんな事あるか~!って否定しきれないのが怖いな……」

7: 2012/01/28(土) 12:07:43.14 ID:gGqDF+1S0

唯 「私もゲル風呂入りた~い」

律 「ゲル風呂って……何か響きが汚いぞ」

澪 「ん~……」

梓 「澪先輩、何を唸ってるんですか?」

澪 「ムギの幸せそうな顔を見たら食べ物とか化粧水とか、そんな物欲的な事じゃないような気がするんだよな」

8: 2012/01/28(土) 12:14:46.78 ID:gGqDF+1S0

梓 「じゃあどんな夢だと思うんです?」

澪 「そうだな……」














【どうして? どうしてなの!】

【ごめん……僕は……】


 空港で見詰め合う紬と青年。


【どうして私を連れて行ってくれないの!】

【紬は琴吹家の一人娘……それに引き換え僕は才能の無いただの画家……】

【それが何だって言うのよ……私……】

【僕には紬を幸せにする力なんて無いんだよ】

【ばか! ゲルジョーのばか! あなたと一緒になる事以外に私が幸せになれる事があると思ってるの!】

【紬……】

【どうして言ってくれないの?! 私、ゲルジョーが着いて来て欲しいって言えば琴吹家を捨ててもいいのに……何もかも捨ててあなたの国に行ってもいいのに……】

【僕だって紬と離れたくなんかない……】

【だったらもう置いていくなんて言わないで、お願いだから私も一緒に……】

【辛い思いをさせるかもしれないよ……】

【あなたと一緒なら……ゲルジョーが傍に居てくれたら、どんな場所でも私は幸せだもの】


 2人は強く抱きしめ合い口づけを交わした。
 この人とは絶対に離れない、そう心に決めた紬の顔にはもう涙はなかった。


【本当にいいんだね……今ならまだお父さんが決めた婚約者が……】


 紬は人差し指を彼の唇に当て、その言葉をさえぎった。
 そして満面の笑顔で彼を見つめ答えた。


【うふふ……私はゲルジョーがいいの♪ 他の誰でもないゲルジョーの傍に居たいの♪】














律 「どこの国の人間なんだよそいつは!!」


9: 2012/01/28(土) 12:18:22.16 ID:gGqDF+1S0

梓 (ククク……ゲルジョーって……ククク……)

唯 「どうしたんだい梓、具合でも悪いのかい? このゲルジョーに話してごらん!」

梓 「あはははははは、唯先輩止めてください……笑いすぎてお腹痛いです」

律 「それにしても澪の頭の中は相変わらず甘々だな」

澪 「なんだよそれ……ばかにしてるのか?」


 みんなの話が盛り上がって声が大きくなってきたのか、ムギ先輩が起きてきちゃいました。


紬 「あら……みんな来てたの? すぐお茶の用意するから待っててね♪」

律 「ムギ! お茶はあとでいいからちょっと聞かせてくれないか?」

紬 「え? 何を?」

律 「ゲル状って何だ?」

紬 「ゲル状? 律ちゃん何の事言ってるの?」

律 「何って……ムギ、何かこうゲルゲルっとした夢見たんじゃないのか?」

澪 「ゲルゲルって……」

紬 「ん~……良く分からないわ、ごめんなさいね」

律 「忘れたって言うのか? このモヤモヤした気持ちはどうしてくれるんだよ! ムギ! もう一度寝ろ! 寝て同じ夢を見るんだ!」

紬 「律ちゃん、そんな無茶言わないでよ」

梓 「そうですよ、ムギ先輩が悪い訳じゃないんですから」

唯 「もう画家のゲルジョーさんでいいじゃない」

律 「それだけは却下だ!」

10: 2012/01/28(土) 12:24:22.06 ID:gGqDF+1S0
 

 翌日の放課後は先輩方と打ち合わせをしてワザと遅れて行く事にしました。
 私達は部室の外からムギ先輩の行動を見張って眠るのを待っていました。


律 「今日はムギが寝言を言ったらすぐに起こして夢の内容を聞くぞ!」

唯 「おぉ~!」


 暫くするとムギ先輩はソファーに腰掛け、ウトウトし始めました。


律 「よ~し、静かに静かに……」

唯 「ムギちゃんの寝顔ってやっぱり可愛いよねぇ~」

澪 「みんなで取り囲んで同級生の寝顔を見つめてるって、変な状況だな……」

梓 「あ! ムギ先輩が何か言いそうですよ!」

紬 (うふふふ……タクアン……)

澪 「………………」

唯 「………………」

梓 「新しい謎が1つ増えちゃいましたね……」

律 「………………」







               - おしまい -

11: 2012/01/28(土) 12:31:47.40 ID:dOy7eYD4o

謎のまま終わるなwwww

引用元: 紬 「ゲル状がいいのぉ♪」