律　「まずは最初の言葉だけど、ハンデとして唯が決めていいよ」

唯　「うぅ～……バカにしてぇ……じゃあ最初は『けいおん』から！」

律　「……」

唯　「どうしたのりっちゃん？　『ん』だよ、早く言ってよ」

律　「あのな唯……『しりとり』のルール知ってるか？　いきなり『ん』って何なんだよ！」

唯　「え？　何かおかしい？」

律　「最初から『ん』で終わられたらどう続けるんだよ！」

唯　「チャド共和国の『ンジャメナ』とかカメルーンの『ンゴウンラル』とかナイジェリアの『ングル』とか他にもいっぱいあるけど……あぁ～……もしかしてりっちゃん『ん』で始まる言葉全然知らなかったんだぁ」

律　「そ……そんな訳ないだろ！　全部知ってるけど、しりとりは『ん』で終わったら負けってルールだから注意してるんじゃないか」

唯　「ほんとかなぁ～」

律　「くっ……少しは手加減しようと思ってたけど、もう容赦しないからな！」

唯　「私だって本気で行くからね」

律　「じゃあ最初は『平沢唯(ひらさわゆい)』からでいいな」

唯　「いいよぉ～、じゃあ私は『烏賊(いか)』ね」

律　（ふふっ……まんまと策略に引っ掛かったな）「じゃあ私は童謡で有名な『かごめかごめ』で」

唯　「んじゃ私の好きな『目玉焼き(めだまやき)』♪」

律　「『金太郎飴(きんたろうあめ)』でどうだ！」

唯　「楽勝楽勝♪『メトロノーム』でどう？」

律　「ん～……『村雨(むらさめ)』」

唯　『メモ』

律　『もち米』

唯　『めがね』

律　『狙い目(ねらいめ)』

唯　『メディア』

律　『雨(あめ)』

唯　『目覚まし時計』

律　『煎り米(いりごめ)』

唯　「……」

律　「どうしたんだよ唯？　『め』だぞぉ！」

唯　（ふぅ～ん……そう言う作戦なんだ……だったら）「じゃあ私は『目』で……次はりっちゃんが『め』だよ」

律　「ぶふっ……それで反撃のつもりか？　じゃあ私は植物の『芽』な」

唯　「う……いいもん……そんな攻撃くらいで私負けないもん！　『メールアドレス』」

律　「おっ……開き直ったな、だったら遠慮せず『スルメ』でどうだ！」

唯　『メス』

律　『雀(すずめ)』

唯　『メドレー』

律　『レバニラ炒め』

唯　『目薬(めぐすり)』

律　『りんご飴』

唯　『メイド』

律　『泥亀(どろがめ)』

唯　「め……め……『メキシコ』」

律　「ふふふ……なかなかしぶといな『コンソメ』でどうだ」

唯　「う～……『メイク』」

律　『クレオメ』

唯　「ちょっと待って！　『クレオメ』って何よ」

律　「え？　南アフリカ原産の植物だけど、もしかして知らないとか？」

唯　「そ……そんな事ないもん……ちゃんと知ってるよ～だ」

律　「じゃあ次も『め』だからな」

唯　「分かってるよぉ……んと……『芽キャベツ』」

律　『継ぎ目(つぎめ)』

唯　『明治神宮(めいじじんぐう)』

律　『裏目(うらめ)』

唯　『メカ』

律　『亀(かめ)』

唯　『名誉(めいよ)』

律　『欲目(よくめ)』

唯　『雌蕊(めしべ)』

律　『紅雀(べにすずめ)』

唯　「うぅ……」

律　「唯、そろそろギブアップしたらどうだ？」

唯　「絶対に嫌！」

律　「じゃあ『め』だぞ、早く早く」

唯　「分かってるもん……えっと『冥王星(めいおうせい)』」

律　『石目(いしめ)』

唯　『メゾネット』

律　『虎鮫(とらざめ)』

唯　『名画(めいが)』

律　『学問のススメ』

唯　『名刺(めいし)』

律　『潮目(しおめ)』

唯　『目板鰈(めいたがれい)』

律　『戒め(いましめ)』

唯　『眩暈(めまい)』

律　『一本締め(いっぽんじめ)』

唯　『名湯(めいとう)』

律　『梅(うめ)』

唯　『夫婦(めおと)』

律　『咎め(とがめ)』

唯　『名物(めいぶつ)』

律　『月極め(つきぎめ)』

唯　『女神様(めがみさま)』

律　『馬篭(まごめ)』

唯　「えっと……えっと……『メビウスの輪』」

律　（ふふ……もう少しで終わるな……）『わたあめ』

唯　（絶対に諦めないもん！）『名所(めいしょ)』

律　『横目(よこめ)』

唯　『目出し帽(めだしぼう)』

律　『憂き目(うきめ)』

唯　『メッキ』

律　『極め(きわめ)』

唯　『迷彩服(めいさいふく)』

律　『久留米(くるめ)』

唯　『迷宮(めいきゅう)』

律　『海亀(うみがめ)』

唯　『命日(めいにち)』

律　『千歳飴(ちとせあめ)』

唯　『メデゥーサ』

律　『境目(さかいめ)』

唯　『名月(めいげつ)』

律　『爪(つめ)』

唯　『メリーゴーランド』

律　『奴智鮫(どちざめ)』

唯　「……そんな鮫、本当に居るの？」

律　「嘘だと思うなら調べてみてもいいんだぞ」

唯　「居るならいい……『メザシ』」

律　『白髪染め(しらがぞめ)』

唯　『明細書(めいさいしょ)』

律　『寄り目(よりめ)』

唯　『メジャー』

律　『役目(やくめ)』

唯　『メコン川』

律　『わかめ』

唯　『メロディ』

律　『活け締め(いけじめ)』

唯　『姪(めい)』

律　『石亀(いしがめ)』

唯　『名水(めいすい)』

律　『岩梅(いわうめ)』

唯　『名医(めいい)』

律　『糸若布(いとわかめ)』

唯　『目尻(めじり)』

律　『陸亀(りくがめ)』

唯　『面積(めんせき)』

律　『肌理(きめ)』

唯　『目張り鮓(めはりすし)』

律　『白梅(しらうめ)』

唯　『目力(めぢから)』

律　『蘭学事始(らんがくことはじめ)』

唯　「……」

律　「どうした唯？」

唯　「よく分かんないけどちゃんとある言葉なんでしょ？　だったら何でもない……」

梓　「遅くなってスミマセン、日直の仕事が思った以上に手間取っちゃって……ってどうしたんですか唯先輩！　涙なんか浮かべて！」

唯　「なんでもない……りっちゃんと『しりとり』してただけだから……」

梓　「『しりとり』？　『しりとり』で遊んでるだけで涙なんか浮かべる筈ないじゃないですか！　本当の事を言って下さい！」

律　「本当なんだって、唯が負けそうになったからちょっとベソ掻いてただけで」

唯　「ベソなんか掻いてない！　まだ終わってないもん！」

梓　「ちょ……唯先輩……そんな熱くならなくても」

律　「いいや、これは『しりとりクィーン』の称号を掛けた女と女の真剣勝負なんだ！」

唯　「う……うぅ……『メトロ』」

律　『蝋描き染め(ろうかきぞめ)』

唯　『メレンゲ』

律　『外記政始《げきのまつりごとはじめ》』

唯　『名曲(めいきょく)』

律　『久慈目(くじめ)』

唯　「うぅ……」

梓　「唯先輩ひょっとして……ずっと律先輩に『め』で返されてたんですか？」

唯　「うん……」

梓　「はぁ……典型的なハメパターンですね……それで何個くらい答えてたんです？」

唯　「……５０個以上……」

梓　「！！！！」

律　「もうそろそろ限界だろ？　諦めて降参したらどうだ？」

唯　「嫌！　降参なんて絶対に嫌！」

梓　「って……唯先輩どこに電話してるんですか？」

憂　【もしもしお姉ちゃん？】

唯　「う～い～……『め』が……『め』が……」

憂　【ちょっとお姉ちゃん！　目がどうしたの？！】

唯　「『め』が無くなっちゃったよぉ」

憂　【えぇえぇえぇえええ！！！】

梓　「ちょっと唯先輩！　そんな言い方したら絶対に憂が勘違いして！」

憂　「お姉ちゃん大丈夫なの？！」

梓　「……ほら、来ちゃった……」

憂　「お姉ちゃんいったい何があったの？！　目は大丈夫なの？！」

梓　「憂、落ち着いて！　実はカクカクシカジカで……だからそんな大袈裟に騒ぐ事じゃ……」

憂　「許さない……」

梓　「え？！　ちょ……憂……え～？！！」

憂　「お姉ちゃんを悲しませる人は誰であろうと許さない！　続きは私がします！」

律　「べ……別にいいよ、唯が５０個以上答えてるからもう無いと思うし」

憂　「もしお姉ちゃんが言ってる単語だったら教えてください、言い直しますから」

律　「わかった、じゃあ『久慈目(くじめ)』からな」

憂　『メイエルホリド』

律　「はぁ？　何だそれ？　梓知ってるか？」

梓　「いえ……知りませんけど、ちょっと待って下さい、今携帯で調べてみますから」

憂　「ロシアの演劇の演出家ですよ」

梓　「ほんとだ……ちゃんと書いてありますよ」

律　「外国の演出家の名前なのか……さすが憂ちゃんってとこだな……梓、次から難しい単語が出てきたらすぐに調べてくれないか？　無い時だけ教えてくれればいいから」

梓　「はい、分かりました」

律　「じゃあ私の番だな……ど……ど……『胴締め(どうじめ)』

憂　『面心立方格子《めんしんりっぽうこうし》』

律　（何だそりゃ？　でも梓が何も言わないって事は辞書に載ってる言葉なんだな……）「えっと『〆(しめ)』」

憂　『目白酸漿(めじろほおずき)』

律　『効き目(ききめ)』

憂　『明窓浄机(めいそうじょうき)』

律　「くっ……『霧雨(きりさめ)』」

憂　『滅鬼積鬼(めっきしゃっき)』

律　『聞き納め(ききおさめ)』

憂　『芽鹿尾菜(めひじき)』

律　（逆に『き』攻めかよ……）『興醒め(きょうざめ)』

憂　「どうしたんです律さん？　不安そうな表情になってますけど……心配しなくても特定の文字で攻めるなんて事しませんから……『明夷待語録(めいいたいごろく)』

律　（まだまだ余裕って事か……）『美し女(くわしめ)』

憂　「なかなか頑張りますね、じゃあ『名臣言行録(めいしんげんこうろく)』

唯　「憂、凄い凄い！」

憂　「えへへ、お姉ちゃんは安心して見ててね」

律　『櫛目(くしめ)』

憂　『迷津慈航(めいしんじこう)』

律　「……『薄目(うすめ)』」

憂　『鳴禽類(めいきんるい)』

律　『色目(いろめ)』

憂　『面形天蛾(めんがたすずめ)』

律　『恵みの雨』

憂　『免疫血清(めんえきけっせい)』

律　（どこまで続くんだよ……）『諫め(いさめ)』

憂　『面角一定の法則《めんかくいっていのほうそく》』

律　『嚔(くさめ)』

憂　『目塞き編み笠(めせきあみがさ)』

律　『賽の目(さいのめ)』

憂　『雌阿寒岳(めあかんだけ)』

律　『毛染め(けぞめ)』

憂　『明六雑誌(めいろくざっし)』

律　『撞木鮫(しゅもくざめ)』

唯　「憂～♪　がんばれぇ～♪」

紬　「遅くなってごめんなさいね、さわ子先生のお話が長引いちゃって……って、あら？　憂ちゃん……唯ちゃんに何か用事でもあったの？」

澪　「何だこの雰囲気は？　盛り上がってると言うかピリピリしてると言うか……いったい何をしてたらこんな空気になるんだ？」

梓　「えっと……実はカクカクシカジカと言う訳で……」

澪　「『しりとり』で意地になるって……律、お前は小学生か！」

紬　「私『しりとり』って初めて見た～♪」

澪　「いや……私は『初めてしりとりを見る人』を初めて見たよ……」

律　「とにかくそう言う事だから邪魔はしないでくれ」

憂　「じゃあ私の番ですね……『命数法(めいすうほう)』

律　『歌会始(うたかいはじめ)』

憂　『迷惑行為防止条例《めいわくこういぼうしじょうれい》』

律　『怒り爪(いかりつめ)』

憂　『明鏡止水(めいきょうしすい)』

律　『斎女(いつきめ)』

憂　『明暗順応(めいあんじゅんのう)』

律　『氏女(うじめ)』

憂　『明正天皇(めいせいてんのう)』

澪　「なぁ梓……何て言うか、凄いしりとりだな……」

梓　「えぇ、憂はあえて簡単な『明治天皇』を言わない事で律先輩に余裕を見せ付けてプレッシャーを掛けてるんですよ」

紬　「真剣な表情のりっちゃんと憂ちゃん……す・て・き」

澪　「えっと……自分の世界に行っちゃったムギは置いといて……さっきから梓は何を調べてるんだ？」

梓　「これですか？　これは憂が言う言葉が難しすぎるから本当に辞書に載ってる単語なのか調べてるんですよ」

澪　「なるほど、確かに憂ちゃんの言う単語って聞いた事ないものが多いしな」

梓　「と言う事で澪先輩も審判手伝ってください」

律　『魚の目(うおのめ)』

憂　『メシェ天体(てんたい)』

律　『射目(いめ)』

憂　『メモリーカード』

律　『土留(どどめ)』

憂　『メモリースロット』

律　『通り雨(とおりあめ)』

憂　『メモリーオーバーレイ』

律　『家雀(いえすずめ)』

憂　『メモリースティック』

律　『糞真面目(くそまじめ)』

憂　『メモリーモジュール』

澪　「ちょっと待って憂ちゃん！　その『メモリー○○』って言うのは少しずるいような気がするんだけど」

憂　「そうですか？　だったら別に言い替えても構いませんよ……じゃあ『メルカトル図法(ずほう)』で」

律　『牛込(うしごめ)』

憂　『メソポタミア文明(ぶんめい)』

律　『伊賀専女(いがとうめ)』

憂　『メタクリル樹脂(じゅし)』

律　『仕事納め(しごとおさめ)』

憂　『メチルメタンスルフォネート』

澪　「なぁ梓……憂ちゃんの言ってるのって何語なんだ？」

梓　「さぁ？　とにかく調べてみましょう」

律　『綴じ目(とじめ)』

憂　『メフメットパシャソコロビXチ橋(はし)』

律　（どこの橋なんだよそれ！）『姑(しゅうとめ)』

憂　『メタンハイドレート』

律　『取り決め(とりきめ)』

憂　『メソトリウム』

律　『娘(むすめ)』

憂　『メタボリックシンドローム』

律　『群雀(むれすずめ)』

憂　『メタスタビリティー』

律　『一味の雨(いちみのあめ)』

憂　『メラニン色素(しきそ)』

律　『総元締め(そうもとじめ)』

憂　『メゾソプラノ』

律　『鋸鮫(のこぎりざめ)』

憂　『瞑座(めいざ)』

律　（えっと……『ざ』……『ざ』で始まって『め』で終わる言葉……何か無いか……もっと考えろ）

澪　「……なぁ律……『しりとり』なんだから別に『め』で返さなくても普通に『ざ』で始まる言葉を言えばいいんじゃないのか？」

律　「駄目なんだよ！　これはもうそんな単純な事じゃなくて『め』で返せるか、そして『め』で答えられるかって言う意地なんだ！」

梓　「それってもう『しりとり』じゃないような気がしますけど……」

律　（何か無いか？……『ざ』……『ざ』……）

紬　『ザーネトルテフロッケン』

律　「え？？」

憂　「紬さん？？」

紬　「あら、『ん』が付いちゃったから私の負けね♪」

律　「ちょ……ムギ！　何を言ってるんだよ」

紬　「負けた罰としてお茶を淹れるから少しだけ待っててくれるかしら♪」

唯　「罰って……ムギちゃんいつもお茶淹れてくれてるじゃない……それより『ザーネトルテフロッケン』って何？」

紬　「うふふ、今日持ってきてるお菓子の名前よ♪　さぁ、みんなで仲良く食べましょ♪」

梓　「賛成ですぅ！」

澪　「よし！　『しりとり』はムギの負けで終わりだな！」

律　「そ……そんな中途半端な」

紬　「たくさんあるから憂ちゃんも食べて行ってね」

唯　「わぁ～いムギちゃんありがとう！　憂、一緒に食べよ」

憂　「う……うん」

梓　「ちょっと唯先輩！　一人で何個も取らないでくださいよ！」

唯　「いいじゃないのよぉ」

律　「…………」

澪　「どうした律？」

律　「あははは、まぁいいか！　よ～し、私も食べるぞ！」

紬　「はい、りっちゃんどうぞ♪」

律　『うめ～！』

唯　「め……め……『めんたいこ』」

澪　「いい加減にしろ！ また始める気か！」ポカッ！

唯　「いったぁ～い」

律　「あははははは」




　と言う事で放課後ティータイムは今日も平和でした。






　　　　　　　　　　　　　　　　　　　－　おしまい　－