3: 2012/02/22(水) 20:31:08.13 ID:6LNlu6290

#平沢家:朝

ジリリリリリリリリ!・・・ピタッ

憂「う、うーーん」ノビッ

・・・

うん、今日もいい天気。
平沢憂、高校三年生の春です!

憂「日々は たからばこ~♪」パパッ

憂「えがおっの たからばこ~♪」ニギニギ

・・・おにぎりできた!
おべんと箱に詰めてっと。

5: 2012/02/22(水) 20:32:07.92 ID:6LNlu6290

憂「・・・あれ?」

気がつくと目の前に、二人分のおにぎり。
お姉ちゃんが大学生になって家を出た今でも、時々お姉ちゃんの分のお弁当まで作っちゃいます。

憂「えへへ・・・だいじょうぶ、だいじょうぶ♪」

憂「ちょっと間違えちゃっただけだよー♪」テキパキ

作り過ぎた分は、お夕飯にしちゃおっか。
たまには失敗もするけれど、私は元気、だいじょうぶ。


6: 2012/02/22(水) 20:32:57.98 ID:6LNlu6290

・・・

#お昼

梓「憂のお弁当、相変わらずすごいよね」

憂「そうかなぁ。ふつうだと思うよ」

純「・・・」モグモグ

梓「唯先輩のお世話がなくてもちゃんと自炊してるんだもん、偉いよ」

純「卵焼きもーらい!」ヒョイパクッ

憂「ふふ、いいよー。召し上がれ♪」

梓「それに引き替え、純ときたら・・・」

8: 2012/02/22(水) 20:33:48.33 ID:6LNlu6290

純「なによ~、私はこうやって生きていくんだから、いいの」モグモグ

純「うん、うまいっ!」

憂「ふふっ。梓ちゃんにも、はいどうぞ」

梓「あ、ありがと・・・」

梓「うん、おいしいね」

憂「えへへ、ありがと~♪」

純「でもちょっと、味付け変わった?」モグモグ

梓「あ、ほんとだ」モグモグ

10: 2012/02/22(水) 20:34:40.32 ID:6LNlu6290

憂「え? そうかな?」

純「うーん・・・前より薄味になったような」

梓「そだね。あ、おいしいのはおいしいんだよ?」

憂「え? あ、うん・・・」


特に味付けを変えた覚えはないんだけどな。
もしかして、今までは、お姉ちゃんの好みに合わせてたから・・・って。おっと、いけない。
おいしいって言ってくれてるんだから、だいじょうぶ、だいじょうぶ・・・だよね?


11: 2012/02/22(水) 20:35:31.62 ID:6LNlu6290

純「それよりさ、土曜日の映画、何観るか決めた?」

梓「うーん、まだ」

純「じゃこれこれ、これにしようよ、インディ・ジューン8!」

憂「アクションものだねー」

純「うら若き乙女にして双子星アルガスの生き残りインディ・ジューンが、悪の人造生命体と・・・」

梓「いやいや! もうちょっと落ち着いた映画にしようよ。私たち女子高生だよ?」

純「ええー、もうすぐ受験が近づいてくるとさあ、映画も観れなくなるじゃん」

純「その前にぱーっと楽しい映画観ようよ、ぱーっと!」

12: 2012/02/22(水) 20:36:43.08 ID:6LNlu6290

梓「一応受験生の自覚はあるんだね」

梓「憂、何か見たいのあった?」

憂「・・・これ、前に軽音部の皆さんと観た映画の、続編だよね」

純「へえ・・・ああーそれ、テレビでもやってたよね、私も見たよ」

梓「最後のシーンが感動的だったよね、唯先輩とか泣いちゃって」

憂「うん・・・お姉ちゃんすぐ主人公の気持ちになりきっちゃうから//」

純「なぜ照れた」

梓「憂に泣きついて大変だったんだよ・・・」

憂「えへへぇ、あの時のお姉ちゃん、可愛かったなぁ」

13: 2012/02/22(水) 20:38:01.68 ID:6LNlu6290

梓「あ、じゃあさ、この映画にしよっか? 憂も観たいでしょ?」

憂「私は、二人が観たい映画ならなんでもいいよ」

純「あー、私もいいよそれで」

梓「じゃ、これに決まりだね」

純「それより、軽音部ってみんなして映画観に行ったりしてたわけ?」

梓「このときはたまたま憂の家に集まってる時に、そういう話になったんだよ」

純「澪先輩も一緒に・・・いいなぁ軽音部!」

憂「純ちゃんも、今は軽音部じゃない」

梓「そうだよ、純も1年の時に入っておけばよかったんだよ」

純「いいの!私は過去を振り返らない女!今を生きるの!」

14: 2012/02/22(水) 20:38:57.02 ID:6LNlu6290

純「梓と憂がいれば私は満足なんだから!ふんっ」

憂「純ちゃん・・・//」

梓「純・・・恥ずかしいよ、それ」

ヒソヒソ・・・カーワイイ

ナカイイワネー ケイオンブ

純「へ? ひっ」

梓憂純「//」


15: 2012/02/22(水) 20:40:13.91 ID:6LNlu6290

#平沢家

夕飯の前に、お姉ちゃんの部屋のお掃除をしておこうかな。
休みに帰ってきて自分の部屋に埃が積もってたら悲しいもんね。

この前は机を拭いたし、今日は棚の周辺を片付けよう。
所々抜かれて寂しくなった本棚・・・あれ、この漫画。


憂「あ、これって・・・」


小さい頃、お姉ちゃんと一緒に読んだ漫画だ。
ひとつの漫画を、お姉ちゃんとおでこをくっつけて覗きこむように読んだんだ。

ちょうどこの巻の悲しいシーンで、お姉ちゃんが泣き出しちゃったんだっけ・・・。

16: 2012/02/22(水) 20:41:15.60 ID:6LNlu6290


ゆい『わぁぁん』

うい『お、おねぇちゃん、だいじょうぶだよ』ナデナデ

ゆい『うぅ、ういぃ、かわいそうだよーー』グスグス

うい『だいじょうぶ、だいじょうぶだからね、お姉ちゃん!』ナデナデ


17: 2012/02/22(水) 20:42:24.11 ID:6LNlu6290

久しぶりに手にとってぱらぱらとページをめくる。
懐かしいなあ。ストーリーは、今となっては子ども向けの少し幼く感じるお話だ。
っと・・・私の目から、涙が抑える間もなくこぼれた。


憂「あれ?」


慌ててハンカチを当てたけど、喉の奥からしゃくり上げてしまって止まらない。
どうしてこんな、子ども向けの漫画で・・・。
おかしいな。お姉ちゃんと読んだ時は平気だったのに。


憂「お、お姉ちゃん・・・私、わからないよ・・・」


19: 2012/02/22(水) 20:43:50.02 ID:6LNlu6290

#映画館

梓「憂、ほら、もうすぐ始まるよ?」

憂「え? あ、うん」

純「何かぼーっとしてること多いよね、最近の憂って。平気?」

憂「うん、だいじょうぶだよ。映画楽しみだね」


カアサーン! カアサーン!
ニイサン、ボクニツカマッテ!!
サヨーナラーー!!


20: 2012/02/22(水) 20:44:41.86 ID:6LNlu6290

純「ふあ・・・けっこう良かったね」

梓「純、はんぶん寝てたじゃない、まったく・・・」

憂「う・・・ふぇ」グスッ

梓「へ・・・憂?」

憂「ふえええ・・・あ、ずさちゃああ」

純「な・・・号泣? そんなに!?」

梓「ちょ、なんで? 憂」

純「ほ、ほら。とにかく顔拭いて」フキフキ

憂「ひっく、ひっく・・・あ、ありあと・・・ずんちゃ」グスッ

純「ずんちゃん・・・」ズーン

純「憂がこんなに泣くなんて。そんなに感動する話だったけ?」

梓「・・・前は平気だったし、いくら何でもこんなの変だよ・・・」

純「だね。憂、ちょっと泣きすぎ。ほんとに平気なの?」

憂「う、うん。らいじょうぶだよ」ズズッ


21: 2012/02/22(水) 20:46:25.43 ID:6LNlu6290

#部室

梓「ねえ、純」

純「んー?」ガサゴソ

梓「最近の憂、やっぱりどこか変だよね?」

純「そだねー。梓、ポテチ食べる?」バリッ


はぁ・・・純に聞いたのが間違いだった。
憂は、授業は真面目に受けてるし、宿題もちゃんとやってきてる。
純じゃないんだから、当然か・・・。

いつも笑顔で、これまで私が心配することなんて何もなかった。
だけど最近の憂は、どこかズレてる気がしてる。
お弁当がやけに薄味だったり、
今まで平気だった映画で号泣してみたり・・・。


22: 2012/02/22(水) 20:47:50.78 ID:6LNlu6290

梓「憂、寂しいんじゃないかな・・・唯先輩がいなくて」

純「んー。まあ、そうなんじゃない? あ、うすしおおいしい」パリパリ

梓「もう、真面目に考えてよ純」

純「ほっといても平気だって。憂なんだから」

梓「こんな時に力になるのが、友達でしょ?」

純「梓はさー、何でも真面目に考えすぎなんだよ」

う、純のくせに痛いところをついてきた。
でも、憂が何か悩んでるなら、私がなんとかしてあげたい・・・憂の友達なんだから。
憂の様子がおかしいとしたら、原因はやっぱり、唯先輩の不在しか考えられない。


23: 2012/02/22(水) 20:49:08.14 ID:6LNlu6290

#帰り道

唯先輩・・・いや、先輩方の不在で寂しいのは、私だって同じ。
2年の頃の私はずっとずっと、先輩方が卒業して1人になった時のことばかり考えていた。
そんな私を、憂はいつだって励ましてくれた。


『だいじょうぶだよ! 梓ちゃん』


唯先輩が何か隠し事をしてるんじゃないか、と疑心暗鬼になった時も。


『お姉ちゃんなら、だいじょうぶだよ!』


24: 2012/02/22(水) 20:50:42.91 ID:6LNlu6290

だいじょうぶ、だいじょうぶ、って、何かのおまじないみたいに。
そんな言葉、以前に誰かから聞いたことがある。


『だいじょうぶ。あずにゃんは、あずにゃんだよ』


・・・唯先輩? ・・・・・・そっか、なんで気が付かなかったんだろう。
唯先輩は、憂に頼り切りだった訳じゃない。
唯先輩も、憂のことを支えてたんだ。


今になって考えると、唯先輩と憂って、ほんとに似てる。
ううん、外見はもちろんだけど・・・どんな時もニコニコ笑っていて、周りの人まで明るくして、
優しくて・・・暖かくて。要領がいいところもあるけど、どこか不器用なところまでそっくりなんだ。


26: 2012/02/22(水) 20:52:43.09 ID:6LNlu6290

憂はいつも笑っていて、感情をむき出しにするような子じゃない。
だけど、そこが憂の不器用なところ。
完璧に見えても本当は、唯先輩が修学旅行で帰ってこない、って思っただけで
泣き出しちゃうほどの、お姉ちゃんっ子なんだ。
だいじょうぶなわけ・・・ないじゃない。平気じゃない時だって、あるよね。

誰だー、憂のこと、「完璧超人」なんて呼んだのは。
純のバーカ! ・・・私のバーカ。

でも私・・・唯先輩の代わりになれるのかな。
憂を支えてあげること、できるのかな・・・。




ニャー

梓「あ、猫・・・」




27: 2012/02/22(水) 20:53:51.99 ID:6LNlu6290

ニャーニャー

梓「・・・おいで?」スッ

フウーーーッ!

梓「ひい」ビクッ

シャーーーッ!!

梓「・・・ご、ごめん」タタッ

梓「・・・」トタトタ

梓「・・・ちがう」ピタッ

これじゃ、だめなんだ。


28: 2012/02/22(水) 20:54:54.49 ID:6LNlu6290

ニャーーフウウーーッ!

梓「・・・だいじょうぶ」スッ

フウウウウーーーーーッ!!

梓「キミも、こわいんだよね?」

梓「・・・だいじょうぶ。こわくない。だいじょうぶ。」

フウ・・・

梓「おいで?」ニコッ

ミャア・・・

梓「だいじょうぶ・・・」ナデナデ

ミャアア


29: 2012/02/22(水) 20:55:41.29 ID:6LNlu6290

・・・あのとき、先輩たちが、私に勇気をくれたんだ。
そして、私が先輩たちから受け取った勇気には、ちゃんとカタチがある。
私が貰ったカタチのある勇気を、憂にも・・・。


30: 2012/02/22(水) 20:56:54.71 ID:6LNlu6290

・・・

純「へえ、HTTの曲やるの?」

梓「やるの?って、私と純でやるんだよ? 憂はまだ楽器ないんだから」

純「やるのはいいけど、ギターとベースだよ? 私たち」

梓「ちゃんと二人で弾けるようにアレンジしてきたよ」

純「どれどれ・・・ん? この選曲・・・ふうん」ニヤニヤ

梓「も、もう! 純はデリカシーなさすぎだよ」

純「あはは、いやぁ。梓は友達思いだよねー。わかったわかった、協力するよ」

梓「・・・よろしく」

31: 2012/02/22(水) 20:57:51.08 ID:6LNlu6290

・・・

憂「梓ちゃんと純ちゃんのセッション?」

梓「憂、まだ何の楽器やるか決めてないんでしょ?」

憂「うん。キーボードも楽しいんだけど、他の楽器も試してみたくて・・・」

梓「別に、バンドのバランスとかは気にしなくていいんだからね?」

梓「私たちの練習にもなるし、憂の楽器選びにも、役に立つんじゃないかと思うんだ」

憂「わかった。ありがとう、梓ちゃん」


32: 2012/02/22(水) 20:58:39.79 ID:6LNlu6290

・・・

ジャガジャカジャンジャン ジャカジャン


卒業は終わりじゃない
これからも仲間だから
大好きって言うなら
大大好きって返すよ
忘れ物もうないよね
ずっと永遠に一緒だよ


ジャジャジャカジャン...

33: 2012/02/22(水) 20:59:33.28 ID:6LNlu6290

パチパチパチパチ

憂「二人とも、すっごくよかったよ!」

梓「憂! この曲はね、先輩たちが私に送ってくれた曲なの」

憂「うん。すてきなプレゼントだよね」

梓「あ、あのねっ。私たちは・・・音楽でつながってるのっ!」

憂「梓ちゃん?」

梓「だからね、私は先輩たちがいなくても、1人ぼっちなんかじゃなくてっ」

憂「・・・梓ちゃん」ギュッ

梓「ふあっ・・・えぇ?」

34: 2012/02/22(水) 21:00:28.55 ID:6LNlu6290

憂「私や純ちゃんもそばにいるから、だいじょうぶだよ、梓ちゃん」ニコッ

梓「あ、ありがとっ・・・って。そうじゃない、そうだけど、そうじゃなくって!」

純「プーッ」クスクス

梓「純~!」

純「あははっ・・・ごめんごめん。・・・あのさ、憂にもあるんじゃないの? 大事な曲」

憂「え? それって・・・」

梓「ねえ、憂、憂も一緒に演奏しよ」


35: 2012/02/22(水) 21:01:28.82 ID:6LNlu6290

憂「でも私、楽器ないから」

純「じゃーん。ほら、さわ子先生のギター」

梓「先生にお願いして、借りておいたんだ」

憂「純ちゃん、梓ちゃん・・・」

梓「唯先輩のパート・・・弾けるよね、憂」

憂「うん、お姉ちゃんと一緒に練習してたから、たぶん」

純「よし、じゃあ軽ーく合わせてみますか!」


36: 2012/02/22(水) 21:02:45.59 ID:6LNlu6290

キミの胸に届くかな
今は自信ないけれど
笑わないでどうか聴いて
思いを歌に込めたから


お姉ちゃんが歌うこの曲・・・聴く度に、力をもらってた。
だけど、こうやって自分で演奏するのは初めて。

私の頼りないギターを、梓ちゃんのリズムが支えてくれる。
純ちゃんのベースが、力強さを与えてくれる。
私ひとりじゃ作れない音が、カタチになっていく。
梓ちゃんと、純ちゃんと、3人でひとつの音楽ができていく。

音の向こうから・・・お姉ちゃんの笑顔が、見えた。
こんなにふうに楽しかったの? お姉ちゃん。
だからいつも、笑っていたの? お姉ちゃん。



37: 2012/02/22(水) 21:05:58.17 ID:6LNlu6290

憂「梓ちゃん、純ちゃん・・・ありがとう!」


私も本気でやってみようかな・・・ギター。
お姉ちゃんみたいに・・・私も夢中になれるかな?



純「あーー、おなか減った!」

梓「ふふっ。純も頑張ったね」

憂「二人ともホントにありがとう! ケーキ作ってきたから、食べてね」

純「おぉ、待ってました、ティータイム!」

憂「今日のお菓子は、バナナチョコシフォンケーキだよ♪」ジャーン

純「うわぁっ、美味しそう~。いやぁ、軽音部、って感じするよねぇ」

梓「す、すごいね、憂・・・ムギ先輩のお菓子に負けてないかも」


38: 2012/02/22(水) 21:07:22.54 ID:6LNlu6290

憂「えへへ、二人に喜んで貰おうと思って、頑張ったんだぁ」

純「おいしい! ココアとチョコがベストマッチ」パクパク

梓「バナナの中にもチョコチップが・・・なにこれ、お、おいしい!」モグモグ

憂「・・・ほ、ほんと? 味付け変じゃない?」

純「バナナのモチモチした食感に、サクサクのチョコチップ。もう最高だよー!」

梓「うん、舌がとろけそう」

憂「純ちゃんは甘いものが大好き、梓ちゃんはバナナが大好きだから」ニコニコ

梓「憂・・・私たち二人の好みに合わせて作ったんだ・・・」

純「・・・ねえ、憂~」

憂「なあに?純ちゃん」


39: 2012/02/22(水) 21:08:19.75 ID:6LNlu6290

純「今週末、憂の家に泊まりに行っていい? うち両親出かけてていないんだー」

憂「もちろん! 大歓迎だよ、純ちゃん」

純「・・・何かおいしいもの食べたいなぁ、なんて」テヘッ

憂「分かった! 考えておくね」ニコニコ

梓「はぁ・・・純、憂に甘えるのもいい加減にしなさいよ」

純「梓は来ないの?」

梓「え? 私がなんで・・・」

憂「・・・梓ちゃん、来てくれないの?」ウルウル

梓「う・・・お邪魔、します」

純「ふふん、それでよろしい」

憂「わぁい、ありがとう!」

梓「なんで純が威張るのよ。憂も、お礼言うところ!?」


40: 2012/02/22(水) 21:09:25.29 ID:6LNlu6290

・・・

#週末:平沢家


ピンポーン

憂「いらっしゃい、梓ちゃん! 純ちゃん!」

梓「お邪魔します。憂、これ、プリン。私と純からだよ」

憂「わあ、ありがとう! ごはん終わったら、みんなで食べようね」

純「おお、さすが憂、片付いてるねー、うちとは大違い」

憂「純ちゃんは、掃除しないの?」


41: 2012/02/22(水) 21:10:12.62 ID:6LNlu6290

純「うち? あー、汚れたらする、よ?」

梓「純の部屋が目に浮かぶ・・・」

純「それよりさー、今日の晩ごはんだけど」

憂「うん! 純ちゃんのリクエストに応えて、お鍋の用意してあるよ」

純「おぉ、さすが憂!」

梓「もう春なのに、お鍋って」

純「梓は分かってないなー。親睦を深めるには、お鍋がいちばんなの!」

梓「純が食べたいだけでしょ」

純「梓ー、目閉じて」


42: 2012/02/22(水) 21:11:15.92 ID:6LNlu6290

梓「?」

純「ほら! グツグツ煮えるお鍋の音。お肉と野菜のおいしそうな香りのハーモニー」

梓「!?」

純「耳元で憂のあまーいささやきが・・・『梓ちゃん、お鍋できたよ~(はぁと)』」

憂「ちょ、純ちゃん!?」

梓「ぐっ・・・!」

純「ほらぁ。梓は食べたくないのー?」

梓「たっ・・・食べたいっ・・・よ」

憂「ふふっ。春ならではのお鍋にしたから、きっと楽しめると思うよ」


43: 2012/02/22(水) 21:12:37.39 ID:6LNlu6290

・・・

純「うわっ・・・何これ? シチュー?」

憂「ううん、豆乳鍋にしてみたんだぁ」

梓「も、もしかして、マシュマロ豆乳鍋!?」

純「な、何それ?」

梓「軽音部の黒歴史、唯先輩のご所望品だよ・・・」

憂「あはは、今日のは、湯葉とキャベツの豆乳鍋だよ」

梓「・・・ほっ」


44: 2012/02/22(水) 21:14:21.60 ID:6LNlu6290

憂「マシュマロ豆乳鍋は、まだ甘さの重ね方に工夫の余地があるんだよね・・・」ブツブツ

梓「研究してらっしゃる!?」

純「よく分からないけど、早く食べたいっ!」

憂「はーい。まずは、湯葉を豆乳で煮込みます」グツグツグツ

憂「お待たせしましたー、お塩とオリーブ油で食べてね」コトッ

純「はふっ、はふっ。これうまぁぁああ」

梓「湯葉、トロトロだね」

憂「えへへ。そしたら、だし汁を加えて・・・」



45: 2012/02/22(水) 21:16:04.32 ID:6LNlu6290

憂「鶏肉と春キャベツをたっぷり加えて煮えたら、お好みの薬味でどうぞ♪」

純「おぉぉ、一度で二回楽しめる鍋だよ、これ」

梓「憂、すごすぎでしょ」

憂「それで、最後の〆は、おうどん用意してあるんだけど・・・」

純「おおっ、いいねー鍋の〆はうどんだよね、さすが憂分かってる!」

憂「その前に・・・」

憂「ね、今日の私の味付け、どうかな・・・おかしくない?」

純「・・・」

梓「味付け? おいしかったよ?」

憂「えっと、もっと詳しく」ジィー

46: 2012/02/22(水) 21:16:51.83 ID:6LNlu6290

梓「憂、もしかしてこのあいだの卵焼きのこと、まだ気にしてるの?」

憂「できたらお願い!」

純「ん~、まぁ強いて言うなら、私はもうちょっと辛いほうが好みかな」

憂「あ、そっか・・・」シュン

純「・・・」

梓「え、え、落ち込むところ? 好みでしょそんなの」

憂「ご、ごめん、何でもないの。おうどん、味付けしちゃうね」

純「ちょっと待った!」

憂梓「?」

47: 2012/02/22(水) 21:17:38.51 ID:6LNlu6290

純「その味付け、私にやらせて、憂」

憂「え、う、うん。わかった」

梓「純の味付け?・・・不安しか感じないよ」

純「失礼な。こういうのは豪快でいいの!」パパッ

梓「あ!そんなに唐辛子入れたら」

純「さ、憂、味見してみて」

憂「う、うん・・・」パク

純「それ、どう? 思った通りでいいから言ってみて?」

憂「ごめん。ちょっと辛いかも」


49: 2012/02/22(水) 21:18:33.34 ID:6LNlu6290

純「そこだぁ!」ビシィ!

梓「まーたなんか始まった」

純「私の味付けは、憂には辛い。辛いと思ったのが憂の舌で、憂の味なの」

憂「純ちゃん・・・」

純「お弁当。いつもより少ーし、薄味だったね?」

憂「うん、なんだかわからなくなっちゃったの・・・」

憂「今までは、お姉ちゃんが喜んでくれる味にしようって考えてたけど・・・」

憂「私の好きな味って、どんな味なんだろう・・・」

純「気にしすぎないの」デコピン!

憂「あいたぁ」

50: 2012/02/22(水) 21:20:08.03 ID:6LNlu6290

純「お姉ちゃんや、私たちの好きな味に合わせるのもいいよ」

純「おいしいって言われたら、嬉しいだろうさ」

純「だけど、憂はもっと、憂自身の個性も、好みも、大切にしてよね」


まったく妬けるなぁ。
いや、世話は焼けない憂だけど、どんだけお姉ちゃん好きなのよ。
少なくとも、優等生で、まじめで、いつも他人を思いやって明るく元気に振る舞う憂だけど、
そのリズムを微妙に狂わせてしまうくらいには、お姉ちゃんっ子なんだ。


純「憂・・・お姉ちゃんがいなくて寂しいなら、私たちをもっと頼ってよ」

憂「純ちゃん・・・」

51: 2012/02/22(水) 21:21:45.99 ID:6LNlu6290

純「頼りないかもしれないけどさ、寂しいときにそばにいてあげることくらい、出来るから」


目に涙をいっぱい湛えて私を見る憂、可愛すぎでしょ。
それにしても、憂のお姉ちゃんなんなの?
この子に自分を好きになる魔法でもかけたんじゃないだろうか。

純「はぁ・・・まいった、降参」

純「私たちじゃ、やっぱりね、唯先輩にはなれない。すごいよね」

梓「純・・・」

純「だってさ。しっかり者の憂のお弁当の味付けが、ガタガタ揺れ出しちゃうんだよ? すごいよ」


52: 2012/02/22(水) 21:23:17.04 ID:6LNlu6290

純「だけどっ」

純「それでも、憂が自分の味を見失うのは、私は悲しいし・・・」

純「私は寂しい! 私は憂の友達だっ!」ビシッ!

憂「純ちゃん・・・」

純「ねぇ、梓はどう?」

梓「・・・憂。憂は、お姉ちゃんが自分を置いて行っちゃったって思ってる?」

憂「そんなこと・・・お姉ちゃんはいつだって私を見守ってくれるし、私に力をくれてるよ」


54: 2012/02/22(水) 21:24:34.41 ID:6LNlu6290

梓「うん。唯先輩も今、憂と離れて1人で頑張ってるんだよね。・・・憂は、唯先輩のこと心配?」

憂「ううん。軽音部の皆さんが一緒だから・・・」

憂「皆さんのこと信じてる。だから、お姉ちゃんはだいじょうぶだって」

梓「憂・・・唯先輩に、澪先輩や律先輩、ムギ先輩がいるように」ギュッ

梓「憂には私たちがいるよ」ギューッ

憂「梓ちゃん・・・」

純「そうだ、憂。もっと私たちを頼れっ!」ギューッ

純「唯先輩にはなれないけど、もしも憂が迷ってたら、いくらでもブーブー言ってあげる」

55: 2012/02/22(水) 21:25:26.79 ID:6LNlu6290

梓「私と純だって、憂を支えられる・・・ううん。絶対絶対、支えるから!」

純「だから、憂は、もっと自分を信じてあげてよね」

憂「じゅ、じゅんちゃ・・・あずざちゃあ・・・」グスッ

梓「えぇっ? う、憂、泣かないで!」

憂「だ、だって、二人とも、私のために演奏してくれて」

憂「今日もまた、だいじなことを教えてくれて。ふえぇ・・・」

純「やばぃ、梓手伝え。よしよし憂」ギュー

梓「う、憂、ほらっ//」ギュー

憂「純ちゃ~ん、梓ちゃ~ん」グスグス


58: 2012/02/22(水) 21:26:49.96 ID:6LNlu6290

唯先輩だって、きっと寂しさに耐えてる。
たぶん、それを他の先輩方が支えてるんだ・・・。
憂のことだって、私と純が支えるから・・・唯先輩、安心しててください。


ヴヴヴヴヴ!


純「ケータイ・・・誰の?」

梓「私じゃないよ?」

憂「あ、私の・・・! お姉ちゃんからメールだ」

憂「・・・・・・」パァアアア

純「お姉ちゃん、なんて?」


59: 2012/02/22(水) 21:27:58.43 ID:6LNlu6290

憂「・・・はい」スッ

梓「いいの? ・・・えぇと」


唯『ういー、元気? ういのごはんが食べたいよー!(泣) こんどの連休には帰るね。 ゆい』


梓「はぁ・・・唯先輩。こういう人だった」ガクッ

60: 2012/02/22(水) 21:28:58.22 ID:6LNlu6290

憂「えへへぇ」ニコニコ

純「んもう、私と梓の努力を返せっ! 何この仲良し姉妹!?」

憂「ふふっ、二人とも、だーいすきだよ!」ギュギュー


お姉ちゃんがいなくって、やっぱり少し寂しい毎日です。
だけど、私には、お姉ちゃんの魔法と・・・大切な友達がいるから、だいじょうぶ。
私のなんということのない日々は、笑顔の宝箱。
一緒に探したいな。みんなで見つけたいな。笑顔になること。分けあう素敵なものを。


【おわり】


61: 2012/02/22(水) 21:30:03.55 ID:6LNlu6290


#エピローグ(はじまり)


ゆい「・・・」スゥスゥ

ガタンッ

ゆい「・・・んん・・・うい?」

うい「・・・おねえちゃ」

ゆい「ねむれないの?」

うい「うん・・・」

ゆい「ん、おいで?」

ゆい「よしよし」ギュー

63: 2012/02/22(水) 21:30:51.84 ID:6LNlu6290

ゆい「ふふ、もうだいじょうぶだからね~」ナデナデ

ゆい「だいじょうぶ♪」

ゆい「だいじょうぶったら、だいじょうぶ♪」

ゆい「だいじょうぶったら、だいじょうぶ♪」

ゆい「だいじょうぶったら、だいじょうぶだよ~♪」

ゆい「だいじょうぶ~」

ゆい「だいじょーぶ・・・」

うい「・・・」スウスウ

ゆい「えへ・・・ふわぁぁ」

ゆいうい「・・・」スウスウ

【おしまい】


読んでくれてありがとうございました。
憂ちゃん、誕生日おめでとう!

64: 2012/02/22(水) 21:32:42.77 ID:t3Yfc+Wy0
乙です
憂おめでとー

引用元: 憂「なんということのない日々」