1: 2012/06/23(土) 23:23:25.14 ID:HHsuSaJ10
直(学園祭は菫の努力と憂先輩の才能のおかげでなんとかなった)

直(でも……)

―――
さわ子『手が三本ないと叩けない』
さわ子『指が六本ないと弾けない』
―――

直(このままじゃ駄目だよね…)

梓「あ、直、なに暗い顔してるの?」

直「あ、梓先輩……もう部室には来ないんじゃ…?」

梓「かわいい後輩のことが気になったの」

直「そうですか。ちょっと作曲のことで…」

梓「直はよくやってくれたと思うよ」

直「このままじゃ駄目です…。
  来年になったら新入部員を集めて菫と二人で後輩を引っ張っていかなきゃならない。私がこんなんじゃ……」

梓「うーん。その向上心は立派なんだけど、私は作曲を教えられないの。
  どうしてもって言うなら、先代軽音部の作曲者を紹介してあげようか?」

4: 2012/06/23(土) 23:26:13.69 ID:HHsuSaJ10
>琴吹家正門前
直(梓先輩にもらった地図によると…ここだよね)

直(ここが入り口……お城みたいなゴツいドアがついてる……どんだけ…)

直(インターホン押さなきゃ)ピンポーン


斎藤「どちらさまですか?」

直「あ、あの奥田直と言います…琴吹紬さんはご在宅ですか?」

斎藤「今確認して参りますので少々お待ち下さい…」


トントン
斎藤「お嬢様、失礼します」

斎藤「奥田直という方がお嬢様にお会いしたいと言っておりますが」

紬「奥田直……あぁ、菫の友達ね。」

斎藤「ほう、菫の友人ですか」

紬「丁重にお通ししてあげて」

斎藤「はっ、畏まりました」

8: 2012/06/23(土) 23:31:19.23 ID:HHsuSaJ10
直(あ、スーツのおじいさんが出てきた)

斎藤「ようこそ琴吹家へ、執事の斎藤と申します」

直「斎藤さん…?」

斎藤「はい、菫の祖父でございます」

直「菫のお爺ちゃん…」

斎藤「左様でございます」

直(優しそうな人だな…)

斎藤「紬お嬢様がお待ちです、こちらへどうぞ」

10: 2012/06/23(土) 23:34:42.68 ID:HHsuSaJ10
直(結構歩いたのにまだ建物の玄関に着かない)

直(庭が広い…)

直(や、やっとついた……)

直(へ、ドアが自動で開いた!?)

紬「あなたが直ちゃんね。いらっしゃい。歓迎するわ」

直「琴吹紬さん?」

紬「ええ、そうよ」

直(綺麗な人。菫と同じ金色の髪…でも菫よりふんわりした髪。いかにもお嬢様って感じ)

紬「じゃあとりあえず私の部屋にきて。斎藤、お茶とお菓子をお願いできるかしら」

斎藤「はっ」

直(……でも眉毛は太い。なんで剃らないんだろう)

12: 2012/06/23(土) 23:38:56.06 ID:HHsuSaJ10
___
紬「ふぅん。じゃあ直ちゃんは私に作曲を教わりにきたのね」

直「はい」

紬「学園祭のステージでやってた曲良かったと思うんだけどな」

直「あの曲はさわ子先生に手直ししてもらいました
  最初は手が3本ないと叩けなかったり、指が6本ないと弾けなかったり」

紬「そうなの。ねぇ、今日は楽譜もってきた?」

直「譜面はもってきてません。…これなら」

紬「パソコンで曲作りしてるのね。開いて見せてくれる?」

直「はい」カチカチ

紬「ふむふむ。ひと通り目を通すからちょっと待っててね」

15: 2012/06/23(土) 23:41:08.29 ID:HHsuSaJ10
紬「これは…なかなか凄いね」

直(どういう意味で凄いんだろ)

紬「遊びが全くないのね。ここまで理詰めで曲を作ってる子は珍しい…。
  そもそもこれだけ理詰めでやれる子なんてそうはいないでしょうけど」

直「そうなんですか?」

紬「そう。これはちょっとした才能よ!」

直(褒められちゃった///)

紬「でも確かに…演奏するのが難しい部分が多いわね」

直(やっぱり…)

17: 2012/06/23(土) 23:44:15.24 ID:HHsuSaJ10
紬「例えばこのギターの譜面をちょっと弾いてみるね」

>紬、ギター演奏中

直(結構上手いけど、梓先輩や憂先輩ほどじゃない…)

紬「いくつか弾き辛そうな部分があったのがわかった?」

直「はい」

紬「弾けないことはないけど、上手く演奏するには相当な技量が必要ね。
  私が作曲するならここはもっとシンプルにするかな。練習に時間がかかる割に効果が薄いの」

18: 2012/06/23(土) 23:45:42.50 ID:HHsuSaJ10
直「費用対効果の観点から…ですか」

紬「難しい言葉を知ってるのね。そのとおりよ。
  でも直ちゃんの場合、たぶんそれ以前の問題ね。
  ギターやドラムに対する想像力が足りてないんじゃないかな」

直「想像力?」

紬「そう。想像力。曲を作るとき、実際に演奏したらどんな感じになるか思い浮かべながらやるの
  そうすれば極端に弾きにくい作曲をしてしまうことは少ないと思うわ」

直「私もそれはやってます…でも」

紬「うまく頭に描けないのかな?」

直「はい」

20: 2012/06/23(土) 23:49:46.02 ID:HHsuSaJ10
紬「私は弦楽器もやってたからいろんな楽器について簡単に理解できてしまったけど、
  直ちゃんは楽器弾いてないものね……」

直「やっぱり私じゃ…」

紬「そんなことないわ。
  ねぇ、直ちゃん最初から完璧な曲作りをしたい?」

直「どういうこと…?」

紬「最初は自分の理論通りに曲を作ってみて。
  それを菫達に見せてどこが良くてどこが悪いか聞いてみるの。
  最終的にいい曲ができればバンドとしては問題ないんだから!」

直「それじゃ駄目なんです…」

21: 2012/06/23(土) 23:51:49.53 ID:HHsuSaJ10
紬「なにかあるの?」

直「ドラムだけだったらそれでもいいですけど…。
  新入部員の一年生を引っ張っていくためには最初から弾きやすい曲を書かないと…」

紬「そっか…
  梓ちゃん達ももう卒業なんだ……」

直「……」

紬「あ、ボーっとしちゃってごめなさい。
  そうね。じゃあドラムパートは菫と相談して決めるとして、ギターをちょっと練習してみたらどうかしら?」

直「ギターの練習?」

23: 2012/06/23(土) 23:53:48.19 ID:HHsuSaJ10
_11
紬「そう。ギターの練習」

直「でもギターなんてそんなに簡単には……」

紬「さっき私が弾いたのを聞いてどうだった?」

直「上手でした…梓先輩や憂先輩ほどじゃないけど」

紬「素直ね。私はギターを高校3年生から始めたの。梓ちゃんに教えてもらってね」

直「あの梓先輩に…?」

直(この人にギターを教えるなんて梓先輩結構凄いんだ……)

紬「そう。流石にこれぐらい弾けるようになるには結構時間がかかるだろうけど、
  一ヶ月ぐらい練習するだけでもギターへの理解はかなり深まるわ。
  私もギターを弾くようになってから作曲の幅が広がったの」

直「でも私、楽器弾くセンスありません…」

紬「弾けるようになるのが目的じゃないから大丈夫よ。気楽に、あくまで気楽に練習すればいいの!」

直「でも、独学で大丈夫でしょうか?」

24: 2012/06/23(土) 23:55:53.78 ID:HHsuSaJ10
紬「うーん……」

直(悩んでる…)

紬「私が教えてもいいんだけど、たまにしか会えないし……」

直(そうだよね。この人に教えてもらえたら嬉しいけど)

紬「梓ちゃんと憂ちゃんに頼んでみたらどうかしら」

直「でもふたりとも受験が……」

紬「二人とも…特に憂ちゃんは絶対大丈夫よ。N女子大なんて目を瞑ってても入れるぐらい賢いから
  梓ちゃんも多分大丈夫だわ……。
  ねぇ、梓ちゃんたちは部活が終わってから部室に来なくなった?」

25: 2012/06/23(土) 23:57:20.52 ID:HHsuSaJ10
直「いいえ、ちょくちょく来てくれます」

紬「そう。じゃあみんな直ちゃんと菫のことが気になってるのよ。
  きっと教えて欲しいって言ったら喜んで教えてくれるわよ。
  でも純ちゃんに甘え過ぎちゃだめよ」

直「なぜですか?」

紬「私の恋人だから」

直「え? えええぇぇぇぇぇぇ!!」

31: 2012/06/24(日) 00:02:08.83 ID:02xciG/m0

紬「なんて嘘。純ちゃんは成績があまり良くないけど面倒見は凄くいいから、
  後輩にベースを教えて勉強が捗らず受験失敗、ってことになりかねないかな、って…」

直「はぁ」

直(冗談が唐突すぎるよ…)

紬「うふふ。直ちゃんがあんまりにもかわいいからからかっちゃった」

直(かわいいって……///)

紬「さて、折角だから楽曲の添削をしてあげるわ。しばらく斎藤とでもお話していてくれる?」

紬「斎藤!」

斎藤「ハッ」

直(一瞬であらわれた。待機してたのかな)

紬「しばらく直ちゃんののお相手をして差し上げて」

斎藤「畏まりました。では直様、こちらへ」

33: 2012/06/24(日) 00:03:51.44 ID:jwsbvXVH0
直「菫の紅茶より美味しい……」

斎藤「ははは。菫にお茶の入れ方を押したのは私ですから」

直(お爺ちゃんに教えてもらってたんだ…)

斎藤「この前は菫が直様のお家に世話になったそうで…」

直「あ、はい。でも弟達には菫の料理のほうが評判が良くて、むしろ私のほうが世話になったような」

斎藤「実は…菫には親友と言えるような友だちがおりません」

直「紬先輩は?」

斎藤「お嬢様とは姉妹のように育ってきましたから」

直(あの人がお姉ちゃんか…いいな)

斎藤「それで直様、よろしければ今後とも菫と仲良くしてやってください」

直「は、はい」

斎藤「ハハ、なぁに、普通に付き合ってくれればいいのですよ」

34: 2012/06/24(日) 00:05:35.99 ID:02xciG/m0
紬「ふぅ。出来たわ」

直「あ、紬先輩」

紬「印刷して、赤ペンをいれさせてもらったわ」

直(うわっ…赤が多い)

紬「ただ、全部を全部鵜呑みにしないでね。
  直ちゃんには直ちゃんの良さがあるんだから、譲れない部分はそのままにすればいいのよ」

直「はい。ちょっと読ませてもらっていいですか」

紬「ええ」

直(あ、ここ削ったんだ。でもそうするとちょっと物足りなく……あぁ、その分ドラムで盛り上げるようになってる)

直(これは『ノリをよくするため』…? そうか。弾いててノリノリになれるようにいじってあるんだ)

直(すごい。演奏する人のことを考えた上で、高い完成度を保ってる……)

35: 2012/06/24(日) 00:06:18.76 ID:02xciG/m0
直「紬先輩!!!!!!」

紬「は、はいっ!?」

直「弟子にしてください!!」

紬「で、弟子…?」

直「はい。紬先輩の作曲技術に感銘しました。是非とも弟子入りさせて下さい!」

紬「え、ええ。いいわよ」

直「ありがとうございます!!」

紬「直ちゃん、そんな大きな声も出せたのね。びっくりしちゃった」

直「あ、すいません。私ったら」

紬「うふふ。真っ赤になっちゃってかわいい」

直(またかわいいって言われた///)

紬「それじゃあちょっと相談があるんだけど……」

37: 2012/06/24(日) 00:07:22.42 ID:jwsbvXVH0
梓「なーおっ!」

直「きゃっ。……梓先輩ですか。そうだギター教えてくれませんか」

梓「ギターを? いいけど、どうしたの??」

直「紬先輩に梓先輩に習ったらいいんじゃないかって言われました。作曲の幅を広げるために」

梓「ムギ先輩が……いいよ。受験勉強はまだ余裕あるし」

直「それにしても梓先輩って結構凄い人なんですね。見なおしました」

梓「直…突然どうしたの?」

直「紬先輩にギターを教えたの、梓先輩だって聞きました」

梓「そうだよ。でも先輩は物覚えよかったから。そんなに教えること多くなかったんだけどね」

直「そうなんですか」

梓「そういえば去年の今頃だったか。ムギ先輩が「かまってー」って抱きついてきたんだよ」

直「あの紬先輩が?」

梓「うん。あのムギ先輩が」

直(私の知らない紬先輩……見てみたい)

40: 2012/06/24(日) 00:09:07.81 ID:jwsbvXVH0
梓「ムギ先輩かぁ、先輩たちともまた一緒に演奏したいな」

直「あ、紬先輩が言ってたんですけど、わかばガールズと放課後ティータイムで一緒に演奏してみないかって」

梓「いいね。でも私達受験があるから…」

直「だから受験が終わってから大学入学までの時期にやらないかって」

梓「それなら大丈夫だね。あ、でも純によく勉強するように言っておかないと…」

直(ムギ先輩と同じこと言ってる…)

直「それで……そのとき紬先輩と私が一緒に作った曲をやらないかって」

梓「うん。それ、いいね。それにしても直、ムギ先輩とすっかり仲良くなれたみたいだね」

41: 2012/06/24(日) 00:10:09.97 ID:jwsbvXVH0
直「ええ、なんたって紬先輩の弟子になりましたから」

梓「ええー?」

直「週一ぐらいで会って作曲を教えてもらうことにしたんです」

梓「直いいなー。私もちょっと教えてもらいたいぐらいだよ」

直「梓先輩は受験ですよね…」

梓「そうだね。でもこういうのっていいよね」

直「なにがですか?」

梓「ムギ先輩と直って面識なかったよね。それでもちゃんと仲良くなって、技術が伝えられてく」

直「……」

梓「私たちはけいおん部を通して繋がってるんだなーって」

直「……梓先輩、ちょっとクサイです…」

梓「酷っ」

おしまいっ!

44: 2012/06/24(日) 00:11:46.44 ID:GXZTT+VG0
乙!

引用元: 紬「作曲同盟」