1: 2015/05/23(土) 03:33:27.60 ID:BC4o31sk0
夜間哨戒中。
サーニャ「星が綺麗」
満天の星空、思わず手を伸ばせば届いてしまいそうなほどの満月の下で。
今夜も彼女は任務である夜間飛行に出ていた。
ネウロイという存在がなければこの夜空を余すことなく独り占めできたであろう。
荘厳な景色に自然とため息が漏れてしまうが、気を引き締めて任務にあたる彼女であった。
そんな時である――
2: 2015/05/23(土) 03:36:52.55 ID:BC4o31sk0
ワレナニサマノツモリヤ! ボケェ!
サーニャ「ラジオ……?」
サーニャは夜間哨戒中、自身の固有魔法と魔導針を使って他所のナイトウィッチと交信したり、ラジオを聴いたりすることがあった。
今夜も例外ではなく、こうしてラジオの電波を受信して聴いていたのだが……
ナーンモスルマエカラハナビシノウシロニコソコソカクレヨウトシクサリヤガッテコラァ!!
サーニャ「扶桑の言葉かな……?」
聞きなれない言語、怒声、勢い。
言葉は扶桑のものだと思われたが、こんなところまで電波が届くなんて……
サーニャはそう思った。
3: 2015/05/23(土) 03:44:39.51 ID:BC4o31sk0
ドウオトシマエツケルンジャコラァ、ユビツメルンカ? コラァ!
サーニャ「怖い……」
サーニャはネウロイとの戦いの中である程度は恐怖に対して耐性がついたと思っていたが、聞いたこともない言語、その怒声に物怖じしてしまった。人間のものなのにも関わらず、こちらの方が怖いとさえ感じた。
サーニャ「でも…… どこか気持ちいい……」
こんなこと感じてしまうなんて、いけない…… サーニャはそう思ったが、聴いているうちにその怒声がどこか気持ちいいものに思えてきて、ついつい耳を澄ましてしまう。
どこか自分の内に溜まった鬱憤を代わりに晴らしてくれているような…… そんな風にも思えた。
普段は優しく、大人しく、引っ込み思案なサーニャである。
ラジオ放送から聞こえる異国の言葉、その怒声はそんな彼女の日頃の鬱憤をまるで川の流れのように流していった。
いつしかサーニャは任務中なのにも関わらずその放送に聞き入っていた……
4: 2015/05/23(土) 03:49:07.44 ID:BC4o31sk0
以上、ラジオドラマ、ア――トレイジでした。
サーニャ「ア○トレイジ――?」
もしかしたら自分にはあの勢いが必要なのかもしれない。
サーニャは放送を聴き終えてからそんな風に思った。
あの放送のような勢いが自分にあれば…… そうすればみんなにも迷惑はかけないだろう。
つまり、あの放送をお手本にすれば引っ込み思案が直せる。
真面目なサーニャの真面目さは、今この時指針を狂わせた――
5: 2015/05/23(土) 04:01:30.58 ID:BC4o31sk0
翌朝、帰還後。
サーニャ「――もう駄目」ボフン
エイラ「ウェッ―― ってサーニャ、もうしょうがないナ」
ありふれたいつもの平和な日常。
サーニャはこうしていつも、夜勤を終えると夢と現実の世界を行ったり来たり…… そして同部屋のエイラが眠るベッドへ間違って入り込んでしまう。対するエイラは苦笑を浮かべつつもサーニャを労ってそのまま寝かせてやるのだ。
これは最早いつもの約束事になりつつある光景であった。
エイラ「もう、今日だけだからナ――」
6: 2015/05/23(土) 04:17:10.65 ID:BC4o31sk0
それから数週間後。
エイラ「サーニャ、サーニャ♪」
エイラは任務を終えるとさっそくサーニャがいるであろう自室へと向かっていた。
時刻は正午近く。
任務中の話をどうやって面白おかしく伝えてあげようか、エイラはそのことで頭が一杯だった。
エイラ「サーニャ、聞いてくれよ!」
そして自室の扉を開けた時であった。
最初目に映ったのはいつも通りサーニャがベッドに腰掛けている後姿。
いつもの服装…… 正午近くであるが、サーニャは夜勤終わりに一眠りしてからもう起きていたようであった。
8: 2015/05/23(土) 04:23:02.19 ID:BC4o31sk0
エイラ「聞いてよサーニャ、宮藤のやつがナー」
さて、疲れたサーニャを癒してやるんダ!
エイラはそう思っていつも通り彼女の後姿へ声を掛ける。
いつも通り…… 今日もいつも通りの平和な時間になるはずだった。
9: 2015/05/23(土) 04:31:05.58 ID:BC4o31sk0
サーニャ「――ダレニクチキイトンジャワレェ!!」
エイラ「フェッ――?」
サーニャ……? サーニャなのカ?
エイラ「サーニャ? 疲れてるのカ?」
サーニャ「ガタガタうるせぇんだよバカ野郎! だから殺ってみろっつってんだろチンピラァ!」
エイラ「――ッ」
聞きなれない言語…… 口調こそ怒っているように思えたが、しかしそれを流暢に言うサーニャの顔はいつものように優しく温和なものであった。
10: 2015/05/23(土) 04:38:56.50 ID:wpJHwQFW0
エイラ「もしかして寝起きだったカ?」
サーニャ「ナンダコノヤロウ! ハヤクヤレェ!」
エイラ「……」
サーニャ「タダジャオカンゾコラァ!!」
エイラ「サーニャが! こんなのサーニャじゃない――!!」
11: 2015/05/23(土) 04:44:42.98 ID:wpJHwQFW0
ウエエエエエエエエン!!
言葉の凄みに気圧されてエイラは自室を飛び出した。
サーニャ「エイラ…… もしかして言葉選び間違えたかな……」
そもそも全てが間違いだということに、この時のサーニャは気付きもしなかったのであった……
12: 2015/05/23(土) 05:29:11.40 ID:wpJHwQFW0
正午、食堂にて。
エイラ「ウワアアアアアアアアン!!」
バルクホルン「何だっ!? どうしたエイラ!」
エイラ「どうしたもこうしたも、サーニャが――」
ペリーヌ「食事中ですわよ、エイラさん」
エイラ「ツンツン眼鏡! そんなことどうでもいいんだ!」
バルクホルン「席に着け、今日は私特製のカールスラント料理だ」
エーリカ「私も作ったよー」
バルクホルン「ハルトマン、お前は盗み食いしてただけだろう!?」
エーリカ「えー、ちゃんと手伝ってあげたじゃん」
シャーリー「なあルッキー二、エイラのやつどうしたんだ?」
ルッキー二「知らなーい! うじゅ…… またお芋料理……」
13: 2015/05/23(土) 05:50:14.34 ID:wpJHwQFW0
リーネ「エイラさんどうしたんだろう……」
芳佳「あんな血相変えて…… エイラさんどうしたんですかぁ?」
エイラ「宮藤聞いてくれ! サーニャが――」
坂本「サーニャがどうした?」
エイラ「少佐! サーニャが……」
ミーナ「サーニャさんがどうかしたの?」
エイラ「サーニャが――」
この時、エイラはその先を行き詰っていた。
聞きなれない言葉、気圧されるほどの勢い、語調…… あの光景をどうやって言い表せばいいか言い淀んでいたのである。
エイラ「とにかく大変なんダ! サーニャがっ――」
芳佳「あんな血相変えて…… エイラさんどうしたんですかぁ?」
エイラ「宮藤聞いてくれ! サーニャが――」
坂本「サーニャがどうした?」
エイラ「少佐! サーニャが……」
ミーナ「サーニャさんがどうかしたの?」
エイラ「サーニャが――」
この時、エイラはその先を行き詰っていた。
聞きなれない言葉、気圧されるほどの勢い、語調…… あの光景をどうやって言い表せばいいか言い淀んでいたのである。
エイラ「とにかく大変なんダ! サーニャがっ――」
14: 2015/05/23(土) 05:58:35.96 ID:wpJHwQFW0
サーニャ「エイラ、どうかしたの?」
エイラ「あれ……? サーニャ?」
サーニャ「お昼食べましょう? エイラ」
エイラ「サーニャ…… サーニャだよナ!?」ブンブン
サーニャ「痛いわ、エイラ……」
エイラ「あ、ごめん……」
ペリーヌ「一体何ですの?」
坂本「何だ、いつものサーニャじゃないか」
ペリーヌ「まったく…… 大変 なのはあなたの方ではなくて?」
エイラ「う、うるさいツンツン眼鏡!」
ペリーヌ「誰がツンツン眼鏡ですって!?」
坂本「まぁまぁ、そこまでだお前たち。ほら、さっさと席に着け」
15: 2015/05/23(土) 06:07:35.70 ID:wpJHwQFW0
エイラの中には大きなしこりが残った。
あの時まるで人が変わったように豹変していたサーニャが、ここに来ていつもの彼女に戻っている。
もしや悪ふざけ…… しかし優しいサーニャがそんなことするはずない。
その後もエイラは悶々と過ごすことになった。
16: 2015/05/23(土) 06:50:31.42 ID:wpJHwQFW0
訓練中。
芳佳「ハァ、ハァ、もう駄目……」
リーネ「芳佳ちゃん…… もう少しだから、頑張ろう?」
エイラ「どうして私がこんなことに付き合わないといけないんダ……」
坂本「コラッ! 気を抜くなエイラ! プラス2周だ!」
エイラ「エエエエッ!? それは酷いゾ!」
ペリーヌ「あらエイラさん、気が抜けているあなたのことを想って少佐は言って下さったのよ?」
エイラ「ほんとにサーニャが変だったんダ! 嘘じゃないっ!」
坂本「コラッ! まだ走り足りないようだな!」
エイラ「ちゃ、ちゃんと走ってるゾ!」
ペリーヌ「ほら見なさい、あなたが変なんですわ」
17: 2015/05/23(土) 07:01:32.24 ID:wpJHwQFW0
坂本「エイラ、プラス3周だ!」
エイラ「ウゲェ…… 少佐それはないゾ!!」
ペリーヌ「無我夢中に走って忘れてしまいなさい、エイラさん」
坂本「ペリーヌもプラス3周だっ!」
ペリーヌ「――しょ、少佐っ!?」
19: 2015/05/23(土) 07:41:27.96 ID:wpJHwQFW0
訓練後、サウナにて。
エイラ「サーニャのやつ、一体どうしたんダ?」
いつもならサーニャも誘ってサウナに入ったのに。
しかしエイラは悶々として、どこか気まずさを感じて彼女を誘えなかった。
ペリーヌ「――まったく、一体どうしたんですの?」
エイラ「聞いてくれツンツン眼鏡! サーニャが変だったんダ!」
ペリーヌ「だ、か、ら! 何が変だったのかを聞かない限りは何も分かりませんわ!」
エイラ「そ、そうだナ――」
一旦深呼吸して、そうしてエイラはサーニャの豹変ぶりについてああだこうだと拙い言葉でペリーヌに説明した。
20: 2015/05/23(土) 07:47:46.16 ID:wpJHwQFW0
ペリーヌ「――それ、本当でして?」
エイラ「だから本当なんダ! 聞いたこともない言葉でいきなりサーニャが!」
ペリーヌ「聞いたこともない言葉で…… それを言ったサーニャさんの様子は?」
エイラ「怒ってはなかったと思う…… いつもの優しいサーニャだった」
ペリーヌ「それなら、もしかしたら恥ずかしいことを言ったのかもしれませんね……」
エイラ「は、恥ずかしいことっ!?」
ペリーヌ「ちょっと! 落ち着いて下さいまし…… ほら、恥らうあまりに本人の分からない言葉で愛を伝えるとか、そういうのってよくありませんこと?」
エイラ「あ、愛の言葉っ!?」
21: 2015/05/23(土) 07:54:07.09 ID:wpJHwQFW0
ペリーヌ「エイラさん、だから落ち着いて下さい! 近いですわ!」
エイラ「す、スマン…… でも、そんな言葉に聞こえなかったゾ」
ペリーヌ「まあ、その時のサーニャさんを見ていないことにはいかようにも言い難いですわね」
エイラ「なんか…… 表情は優しいのに、言葉は怖く感じたナ……」
ペリーヌ「――怖い?」
エイラ「そうダ、なんかとにかく勢いが凄かった…… あんなサーニャ初めて見たゾ」
ペリーヌ「そうですわね…… とりあえずわたくしもわたくしなりにサーニャさんの様子を見てみることにしますわ」
エイラ「――本当カ!?」
ペリーヌ「くっつかないでくださいまし! またあなたが気を抜いて連帯責任になるのは御免ですわ! 決してあなたの為ではなくってよ!」
エイラ「さすがツンツン眼鏡!」
ペリーヌ「その呼び方はやめて下さいっ!」
ペリーヌを半ば強引にサウナへ連れ込んで相談を持ちかけたエイラ。
彼女なりのアドバイスに励まされ、とりあえずは経過観察という体でその場は収まったのだった……
22: 2015/05/23(土) 08:09:56.42 ID:wpJHwQFW0
それから数日後。
あれからエイラはいつも通りサーニャと接した。
サーニャもあれ以来豹変するようなこともなく、いつも通りに振舞う。
エイラ(一体あれは何だったんダ?)
確かにあの瞬間のサーニャは変だった。しかしあれ以来はいつもの優しい彼女で、突然豹変することもまったくなかった。
また、ペリーヌも「特に様子は変わらない」とのことだったので、エイラの心は平静を取り戻しつつあった。
そうして最終的にエイラは「私の見間違いだった」と結論付けることにした。
エイラ(見間違いにしたいけど…… 本当に愛の言葉だったら――)
23: 2015/05/23(土) 08:41:24.14 ID:wpJHwQFW0
エイラ「――サーニャ//」
ミーナ「エイラさん、どうかしたの?」
エイラ「エッ――?」
サーニャ「もう、エイラったら…… ちゃんと話を聞かないとダメじゃない」
エイラ「ごめん…… ぼーっとしてた……」
ミーナ「もう…… ネウロイの出現はないと予想されるので、本日は非番になりました。分かった?」
エイラ「非番!? ほんとうカ!?」
坂本「最近気が抜けているな…… エイラ、今日一日特訓はどうだ?」
エイラ「ゲッ、それはないゾ……」
坂本「冗談だ、ゆっくり休め。わっはっはっ!」
24: 2015/05/23(土) 08:49:03.33 ID:wpJHwQFW0
ネウロイの出現がここのところ連続していたが、彼女らの活躍によって周辺地帯のそれはとりあえずのところ一層されていた。
その為しばらくは防衛空域に出現することもないだろう…… そういう見解に至って、突然であるが非番となったのであった。
ミーナ「外出する人は必ず申請書を提出すること―― それでは解散!」
そうして銘々、胸を躍らせて繰り出していった。
25: 2015/05/23(土) 09:10:04.42 ID:wpJHwQFW0
非番決定後。
エイラ「サーニャ、今日は何するんダ? い、一緒にどこかへ行こう!」
サーニャ「そうね…… でも、午前中は少しゆっくりしたいわ」
エイラ「そ、そうかっ! それじゃ午前中は部屋でゆっくりしよう!」
サーニャ「ありがとうエイラ」
エイラ「ど、どういたしまして…… それじゃ申請書出してくるナ?」
サーニャ「私も一緒に行く?」
エイラ「い、いやぁ! サーニャは先に部屋行ってていいゾ?」
本当は今すぐにでも街へ繰り出したかったエイラであるが、大好きなサーニャと二人きりでゆっくりするのもいいだろう…… そう思って、彼女は申請書を片手にミーナのもとへ向かう。
ペリーヌの「愛の言葉」云々で変に鼓動が高鳴るエイラは、はやる気持ちを抑えて駆け出した……
26: 2015/05/23(土) 09:40:23.51 ID:wpJHwQFW0
同時刻、基地内ガレージ。
ルッキー二「ねぇねぇシャーリー、早く遊ぼうよー」
シャーリー「だから、これが終わったらなー」
シャーリーは愛車のバイクのチューニングに夢中。
ルッキー二「早く早くー!」
シャーリー「そう急かすなって、これが終わったらいくらでも遊んでやるからさ」
ルッキー二「もう…… シャーリーはこの前もそうだったじゃん!」
シャーリー「あのなあ、ルッキー二……」
いつも元気ハツラツなルッキー二が、この時はどこかふくれ面。
二人の間に何やら不穏な空気が立ち込める……
二人らしからぬ展開。
27: 2015/05/23(土) 09:53:37.12 ID:wpJHwQFW0
ルッキー二「貴重な非番なんだよ!? この前もそれやってていっぱい遊べなかったじゃん!」
シャーリー「あのなあ…… これもあたしの大事な趣味なんだ。大切な時間なんだ」
ルッキー二「でも……! あたしを放っておいてそれは酷いよ!」
延々と続く任務と、少ない休暇。人類の命運を賭けて戦うウィッチたち。
シャーリーにとってはそんな少ない休みを自分の趣味に費やしたいのは当然であった。
一方ルッキー二も、実の家族のように慕っている彼女と一緒に過ごしたいのは当然のこと。
仲が良いからこそ、時に主張の衝突も生まれる。
シャーリー「あたしもやりたいことがあるんだ……! これが終わったらいくらでも遊べるって言ったじゃないか」
ルッキー二「あたしはもっとシャーリーといたいの!」
シャーリー「わがまま言わないでくれ!」
ルッキー二「もう…… シャーリーなんて知らない!」
些細なすれ違いは時に大きな亀裂を生む。
涙を浮かべたルッキー二はそう言ってシャーリーの前から走り去ろうとした。
シャーリーも「やっちまった」と言わんばかりの苦い顔を浮かべていた。
そんな時であった――
28: 2015/05/23(土) 09:56:24.14 ID:wpJHwQFW0
サーニャ「キ…… キムラァ!! コノオトシマエ、ドナイツケルンヤオラァ」
29: 2015/05/23(土) 09:59:20.77 ID:wpJHwQFW0
ガレージ内に響く怒声。
その出所は――
サーニャ「ヤ、ヤッテヤロウヤナイカイ!!」
そこにいたのは、頬を赤らめ恥ずかしげに声を張り上げるサーニャだった。
30: 2015/05/23(土) 10:54:41.11 ID:YnXqKBNS0
シャーリー「サ、サーニャか?」
ルッキー二「サーニャ? どうしたの?」
いつもらしからぬサーニャの様子に、先程の軋轢などどこかへ消え去ってしまった二人……
ルッキー二「サーニャ?」
シャーリー「どうかしたのか? サーニャ――」
サーニャ「ユビツメルンカ!? オォン!!」
ルッキー二「ヒ、ヒイイイイイッ! 助けてシャーリー!!」サササッ
シャーリー「な、何言ってるんだ? サーニャ」
サーニャ「ドナイスルンジャ、ツメルンカ?」
ルッキー二「サーニャがおかしくなっちゃった!?」
サーニャ「ツメルユータラドーグイルヤロ? ナニガホシインヤ」
シャーリー「い、いったい何を言ってるんだサーニャ」
サーニャ「ナニガホシイユートルヤロッ! アァン!?」
シャッキーニ「「ヒエエエエエエエエ!!」」
31: 2015/05/23(土) 10:58:08.49 ID:YnXqKBNS0
サーニャ「ドウスッカ、ホーチョーカ? ダシテヤロカ?」
シャーリー「な、なあサーニャ? お願いだからいつもの言葉で喋ってくれないか?」
サーニャ「テメエラガタガタウルセーンダヨバカヤロウ!!」
シャッキーニ「「ひいいいいいいい!!」」
32: 2015/05/23(土) 11:26:22.21 ID:YnXqKBNS0
それから数分後……
サーニャ「あ、あの……」
ルッキー二「あ、いつものサーニャだ」
シャーリー「なあ、さっきのは何だったんだ?」
サーニャ「あの…… お二人が喧嘩していたみたいだったから……」
そこでシャーリーとルッキー二は顔を見合わせる。
サーニャのことに気を取られ、さっきの喧嘩など遠い昔のことのように思えて…… 何だか二人はおかしく思えて笑い合った。
33: 2015/05/23(土) 11:43:11.44 ID:YnXqKBNS0
シャーリー「もしかして、私たちを仲直りさせようとしてくれたのか?」
サーニャ「は、はい…… たまたま通りかかって、それでルッキー二ちゃんの声が聞こえて……」
ルッキー二「ありがとうサーニャ…… シャーリー、ごめんね……」
シャーリー「いいんだルッキー二、私も悪かった…… ごめんよ」
そうしてルッキー二はいつものようにシャーリーの胸へ飛び込む。
ルッキー二「ニシシッ! それじゃあたし、終わるまでちゃんと待ってるね!」
シャーリー「おう! さっさと終わらせるから一杯遊ぼうな!」
サーニャ(良かった…… やっぱりこの言葉、気持ちいい……)
シャーリー「サーニャありがとな!」
ルッキー二「サーニャも一緒に遊ぶ?」
サーニャ「ごめんなさい…… 私はエイラとの約束があるから」
シャーリー「そうかー…… それじゃまた後でな!」
サーニャ「はい、シャーリーさん。失礼します」
シャーリー「ありがとなー!」
34: 2015/05/23(土) 12:11:02.09 ID:YnXqKBNS0
サーニャはガレージを後にした。
実にいい心地であった、清々しさを感じていた。
私にもできるんだ…… あの言葉は魔法の言葉なんだ……
そう感じていた。
みんなの為に何かが出来た。
その事実がサーニャを更に前向きにさせて、もっとみんなの為になりたいと前進させる。
気付けばサーニャはどこへ行くやら―― 次のステージへと向かっていた。
一方その頃、サーニャとエイラの部屋では……
エイラ「あれ――? サーニャがいないゾ……」
呆然としたエイラがぽつねんと立ち竦んでいた。
35: 2015/05/23(土) 12:17:00.80 ID:YnXqKBNS0
それから、とある一室で。
バルクホルン「今日という今日は許さんぞ、ハルトマン!」
エーリカ「まぁまぁ、落ち着いてよトゥルーデ」
バルクホルン「これが落ち着いていられるかっ!!」
そう言ってバルクホルンは顔をより一層紅潮させ、一点を指し示す。
バルクホルン「私のジークフリート線がっ!!」
エーリカ「またそれぇー?」
バルクホルン「ジークフリート線はここまでだった! なのにお前のゴミが易々と超えているではないか! 早く掃除しろ、今すぐにだっ!」
エーリカ「ゴミじゃないし…… 今日はクリスのとこに行かないの?」
バルクホルン「気が変わった! お前が部屋を綺麗にするまで私はずっとここで監視する!」
エーリカ「えぇー…… クリスのとこに行こうよー」
バルクホルン「だ、め、だ! 早く掃除しろ! カールスラント軍人としてここは一歩も引かん!」
エーリカ「また始まったよ……」
その部屋はゴミでできていた―― というのは冗談であるが、半ば真実である。
エーリカとバルクホルンの自室は、エーリカの私物(本人はゴミではないと言い張る)で溢れている。
そうしてその私物の山はバルクホルンが設定した、いわゆるジークフリート線をまた越えてしまったのだ。
片付けさせても片付けさせてもすぐに防衛線を突破する私物たち…… それに業を煮やしたバルクホルンは、遂に一斉撤去を命じたのであった。
36: 2015/05/23(土) 12:22:11.97 ID:YnXqKBNS0
エーリカ「えー、今日はいいじゃん。明日ちゃんとやるからさー」
バルクホルン「明日だとっ!? 明日までネウロイが待ってくれるか! 明日にはベルリンが陥落するぞ!」
エーリカ「冗談に聞こえないよ…… それ」
バルクホルン「冗談ではない! 祖国を侵略されている屈辱を忘れたのか!」
エーリカ「話が変わってるよトゥルーデ……」
ああだこうだ―― 言ってしまえばいつもの光景だが、バルクホルンは頑なに意志を貫き通す。
対するエーリカもぶつくさ文句を言ってはなんとか彼女の気を逸らそうと言い逃れに徹する――
そんな時であった。
37: 2015/05/23(土) 12:27:12.83 ID:YnXqKBNS0
サーニャ「オカモトォ!! オマエノトコロハドーユーキョーイクシテンダッ!!」
突として発せられた怒声…… それを辿れば、部屋の入り口には。
サーニャ「ガタガタヌカシテットマスコミニアライザライバラストダイジンニイットケ!」
頬を染めて顔を伏せるサーニャがいた。
38: 2015/05/23(土) 12:46:14.30 ID:YnXqKBNS0
バルクホルン「サ、サーニャか?」
エーリカ「サーにゃん、どうしたの?」
普段のサーニャとは思えない豹変ぶり、わけが分からない言葉。
その様子にバルクホルンの怒りは引いて、目は大きく見開かれた。
バルクホルン「サーニャ? 何か用か?」
サーニャ「ヤクザブッテンジャネェヨオラァ!!」
エーリカ「サーにゃん……?」
バルクホルン「お、怒っては…… いないようだな……」
サーニャ「ウッセーナ、オレハマルボーダゾ」
エーリカ「な、何を言ってるのかな?」
サーニャ「テメェアンマチョーシノッテットヤマモトミテェニシズメチマウゾ」
どこの言葉か分からないものを流暢に話しながらサーニャは一点を指差した。
39: 2015/05/23(土) 12:51:06.87 ID:YnXqKBNS0
バルクホルン「ハルトマンの私物の山がどうかしたのか?」
サーニャ「カトートウラギッタイシハラニ、キッチリケジメツケテクダサイヨ!!」
バルクホルン「もしかして…… あれを片付けろ、そう言いたいのか?」
エーリカ「サーにゃん…… ほんとなの?」
サーニャ「ジャー、ヤキューヤローカ♪」ニッコリ
バルクホルン「――だ、そうだ…… ハルトマン」
エーリカ「サーにゃん…… なんだか分からないけど、サーにゃんがそう言うなら――」
バルクホルンの言葉なら決して始めなかったであろう部屋の片付け。
しかしサーニャの言葉にエーリカは何かを感じ取り、すっと作業に取り掛かったのだ。
その背にはスーパーエースの貫禄は微塵も感じられず、まるで母親に叱られた女の子そのものであったと後にバルクホルンは語った……
40: 2015/05/23(土) 12:56:24.32 ID:YnXqKBNS0
それからしばらく経って。
サーニャ「ご、ごめんなさい――!」
バルクホルン「あ、戻ったな――」
エーリカ「サーにゃん一体どーしたの?」
彼女たちの部屋は見間違えるほど綺麗に片付いていた。
サーニャ「あの…… お二人が言い合いしている声が聞こえたので」
バルクホルン「もしかして―― やはりハルトマンに片付けるよう言ってくれていたのか?」
サーニャ「いや、あの…… お二人の笑顔が、笑っている顔が見たいと思って……」
エーリカ「私たちの言い合いを止めようとしてくれたんだね、サーにゃん」
バルクホルン「そうなのか―― それは悪いことをしたな……」
サーニャ「いえ…… あの、お二人が笑っている顔が、やっぱり好きだから――」
エーゲル((何これかわいいっ――!!))
41: 2015/05/23(土) 13:03:28.47 ID:YnXqKBNS0
サーニャ「あの…… お節介でしたよね…… ごめんなさい」
バルクホルン「そ、そんなことはないぞ!? おかげでこうして部屋が綺麗になったのだからな!」
エーリカ「あーあ、サーにゃんが一緒の部屋だったらなー」
バルクホルン「何だとハルトマン! 私に不満があるのか!?」
サーニャ「や、やめてください……!」
バルクホルン(か、かわいい……)ドバー
エーリカ「ありがとうサーにゃん♪ トゥルーデ、クリスのところに行こうよ!」
バルクホルン「そ、そうだな…… サーニャは何か予定はあるのか? お礼と言ってはなんだが、その…… な?」
サーニャ(いけない……! エイラを待たせてしまったわ!)
サーニャ「ごめんなさいバルクホルンさん…… エイラと約束があるので」
エーリカ「振られちゃったね、トゥルーデ」
バルクホルン「な、なんだとっ!? 決してそんなやましい理由で言ったのでは――」
エーリカ「それじゃーありがとーサーにゃん、またねー!」
バルクホルン「あっ! コラ、待てハルトマンッ―― サーニャ、ありがとう!」
サーニャ「は、はい――!」
サーニャ(行っちゃった……)
二人は施錠もせずに出て行ってしまった。
誰もいなくなった部屋……
サーニャ(やっぱり―― この言葉はみんなを元気にする魔法の言葉なんだっ)
一人取り残されたサーニャは、誰もいなくなった部屋でふと、改めてそう感じた。
サーニャ「そうだ―― エイラ」
そして長らく待たせてしまった大好きな人のもとへ急いで向かったのだった。
42: 2015/05/23(土) 13:54:34.75 ID:YnXqKBNS0
同時刻、基地敷地内の花壇にて。
エイラ「よー、ツンツン眼鏡」
ペリーヌ「あらエイラさん…… その呼び方はやめて下さいと何度も――」
エイラ「ところで、サーニャを知らないカ?」
ペリーヌ「サーニャさん……? あなたと一緒ではないのですか?」
エイラ「それがヨー、部屋で待ってるはずだったのにいないんダヨナ」
ペリーヌ「そうでしたの…… ここには来てませんよ」
エイラ「ソーカ…… 分かった、アリガトー」フリフリ
ペリーヌ(あのお二人が一緒じゃないなんて珍しいですわね……)
43: 2015/05/23(土) 14:00:28.98 ID:YnXqKBNS0
一方サーニャは自室前。
サーニャ「あれ―― エイラがいないわ」
二人はなんというタイミングか、丁度すれ違っていたのだった。
芳佳「あれー? サーニャちゃんどうしたの?」
リーネ「何かあったの?」
サーニャ「芳佳ちゃん、リーネさん…… エイラがどこかへ行ってしまったみたいで……」
芳佳「エイラさん? リーネちゃん知ってる?」
リーネ「いいえ…… 私も見てないわ」
サーニャ「そうですか……」
芳佳「私たちも探すの手伝おうか?」
サーニャ「いや、それは二人の予定を邪魔してしまうから……」
芳佳「そんな、困ったときはお互い様だよ! ねえ、リーネちゃん?」
リーネ「うん! 困ってるサーニャちゃんを放っておけないよ」
サーニャ(そんな、二人とも私の為に…… これから予定があるみたいなのに)
私のせいで二人の時間を壊してしまうのは――
44: 2015/05/23(土) 14:08:55.24 ID:YnXqKBNS0
サーニャ「ジカンノムダダッツッテンダコノヤロー!!」
芳佳「――えっ?」
リーネ「――?」キョトン
芳佳「えっ――」
サーニャ「えっ――?」
芳佳(今の―― 扶桑言葉だよね!?)
芳佳「サーニャちゃん、それって――」
サーニャ「あっ! ううん、なんでもないの! とにかく大丈夫だからごめんなさい――」
リーネ「行っちゃった…… どうしたのかな?」
芳佳(どうしたんだろうサーニャちゃん…… それに、あれは扶桑語――)
リーネ「芳佳ちゃん? どうしたの?」
芳佳(あの言葉どこで覚えたんだろう…… サーニャちゃんがあんな乱暴な言葉知ってて使うように思えないよ)
リーネ「芳佳…… ちゃん?」
芳佳「リーネちゃん、サーニャちゃんを追いかけよう!」
リーネ「――えっ!?」
(とにかく大変なんダ! サーニャが――)
芳佳「行こう、リーネちゃん!」
乱暴な扶桑言葉を流暢に話したサーニャ。
何か複雑な理由を抱えているように思えた芳佳は、サーニャを助けようとリーネとともに駆け出した。
芳佳の脳裏にはいつしかエイラが取り乱し叫んでいた言葉が蘇ったのであった……
52: 2015/05/24(日) 11:31:53.21 ID:qi3i4qqX0
その頃エイラは……
エイラ「ナンダヨ、サーニャのやつ……」
ブツブツと独り言を呟きながら歩くエイラ。
せっかく一日非番になったのに…… サーニャは私と一緒にいるのが嫌ナノカ?
そんな不安がいつしか彼女の内に漂っていた。
そうするともうどんよりと埋め尽くされていって、ネガティブの渦に呑まれていく。
エイラ「私のことが嫌いなのか? サーニャ……」
今まで無理して私と付き合っていたのか―― いや、そんなはずない。
怒らせるようなこともした覚えはない。
でも…… それならなんでいなくなっちゃったんダ……
エイラ「あー…… もう、サーニャなんて!」
サーニャなんて―― その先の言葉は言いたくなかった。
サーニャは私を信頼してくれているはずだ、きっと何かあったんだ。
それなのに私は…… でも、もしかしたらサーニャは――
エイラ「もう…… わかんないよ」
心はぐちゃぐちゃに、色んな感情が混ざり合って、掻き乱され、ぐるぐると竜巻のようにうごめく。
わけが分からないのに、何故か底から込み上げるものがあって…… 涙が浮かんでくる。
エイラ「サーニャの、バカ……」
まるで神隠しにあったように突然姿を消したサーニャ。
基地の中、基地の外、敷地内をあてもなくふらふらとさ迷い、気付くとエイラはまた自室に戻ってきていた。
エイラ「もう知らないカンナ…… 私は寝る」
ドサッ、とベッドに倒れ込むエイラ。
もしかしたらサーニャは私よりも他の人といる方が楽しいのかもしれない…… 混乱する心はいつしかそんな結論に達していた。
53: 2015/05/24(日) 11:37:31.19 ID:qi3i4qqX0
エイラ「眠れるはずがないんだよナ……」
このまま不貞寝してしまおうと思ったが、まだ心は混乱していてとてもじゃないが眠りにつくことなどできない。
ふっとベッドから体を起こす……
エイラ「――ん? あれはナンダ?」
サーニャのベッドをチラリと一瞥したとき、ベッドの下にある何かを捉えた。
エイラ「サーニャのレコードか?」
それはレコードを収納したジャケットのように見えた。
いけないこととは思いつつも手を伸ばし、そして拾い上げる。
エイラ「――読めないナ」
それは派手な蛍光色に塗りたくられたジャケットだった。
やはりレコードのようで…… サーニャは普段からよくレコードで音楽を聴いていたけれど、それはクラシック音楽で、このようなレコードを持っていたのが意外だった。
そもそもこれが音楽のレコードかどうかも分からないが…… ド派手な蛍光色の上に、これまた豪快な黒字がデカデカと印刷されている。
その文字は見慣れないもので…… ブリタニアでもオラーシャでもスオムスのものでもない。しかし一見すると扶桑の文字だということはなんとなくだが分かった。
エイラ「何だっケ―― カンジ? カタカナ?」
以前芳佳から扶桑の言葉について話してもらったことがあるエイラ。
その際漢字だとかカタカナという文字の種類があることを教えてもらったのだ。
このジャケットに書かれているそれも、意味や読み方はてんで分からないものの、扶桑のそういった文字だということは辛うじて理解できた。
エイラ「サーニャのやつ、宮藤から貰ったノカ?」
まじまじとジャケットを眺める……
エイラ「それにしても、何て書いてあるんダ?」
54: 2015/05/24(日) 11:46:04.33 ID:qi3i4qqX0
ア○トレイジビヨンド―― 全員悪人、完結。
ジャケットにはそうした文字と、扶桑の俳優だかモデルらしき渋い男たちのリアルなイラストが描かれていた。
エイラ「ちょっと―― 聴いてみるカ」
サーニャのことで悶々とするエイラであったが、そのレコードが気になって、一時的にそちらの方に興味を惹かれた。
そうしてサーニャには悪いと思いつつも、危険な好奇心に支配されたエイラはそのレコードを片手に、部屋に置かれたレコードプレーヤーのもとへ向かう。
鼓動は高鳴る。
どんな音楽が流れるんだろう…… エイラはそう思っていた。
やがてレコードをジャケットから取り出し、プレーヤーのターンテーブルに載せて、針を置き起動させた。
すると……
55: 2015/05/24(日) 11:52:17.00 ID:qi3i4qqX0
ダレガマタヤクザヤルッツッタンダヨ!
エイラ「――エ?」
音楽じゃない―― 音声だった。
ア――トレイジビヨンド、ゼーインアクニン、カンケツ。
エイラ「これは…… 扶桑語ナノカ?」
何を言っているのか分からない。
しかし突如男のドスが利いた掠れ声が部屋に木霊し、次に渋いジャズ調のBGMが流れる…… トランペットだかサックスかの音色だ。
やがてタイトルコールのようなものが入って、これは音楽レコードではなく声劇、または朗読劇のレコードであることが分かった。
ナンダァ? オツトメスンダラカタギヅラカァ?
エイラ「な…… なんだこれは」
テメェノムカエキテルヤツミテミロヨ! アイツラミンナヤーコージャネーカヨ!!
エイラ「もしかして―― これは」
どこかで聞いたことのあるような言葉、語調の連続だった。
もしかして…… これは。
エイラは唖然と、口をポカンと開けたまま部屋に立ち尽くしていた……
56: 2015/05/24(日) 11:57:32.51 ID:qi3i4qqX0
芳佳「サーニャちゃん!」
エイラが謎のレコードを聴いている頃、芳佳とリーネはサーニャを探していた。
リーナ「サーニャちゃん、どこ行っちゃったんだろう」
走り去ってしまったサーニャ。
基地内にもいないし、外にもいないし、整備棟や格納庫にもいない。
そうして兵舎の入り口まで一周して戻ってきた。
芳佳「他にどこかあったっけ?」
リーネ「まだ周っていないところ…… 監視塔や管制塔は?」
芳佳「――行ってみよう!」
そうしてしらみつぶしに当たってみることにした。
その時……
シャーリー「お、宮藤とリーネじゃん!」
ルッキーニ「二人とも何してるの!?」
ぶらぶらと歩いていた二人組に遭遇する。
芳佳「シャーリーさん、ルッキーニちゃん!」
リーネ「あの、私たちサーニャちゃんを探しているんです」
シャーリー「サーニャ? サーニャなら見たぞ」
芳佳「本当ですかっ!?」
ルッキーニ「二時間前くらいだけどねー」
リーネ「二時間前かぁ……」
芳佳「私たちがはぐれたのは30分くらい前だから…… ううっ、どうしよう」
シャーリー「浮かない顔してるけど、何かあったのか?」
リーネ「それが…… サーニャちゃんの様子がどこか変で……」
芳佳「一人でどこかに行っちゃったんです」
シャーリー「サーニャはエイラと約束があるって言ってたけどな」
ルッキーニ「そーそー、エイラのところにいるんじゃない?」
リーネ「それが、サーニャちゃんはエイラさんを探していたみたいで……」
シャーリー「――どういうことだ?」
しばし沈黙。
芳佳は今までの話をこと細かく二人に説明した。
57: 2015/05/24(日) 12:04:17.73 ID:qi3i4qqX0
シャーリー「なるほどな。確かに、様子が変と言われれば変だったけど」
芳佳「本当ですか?」
ルッキーニ「うん! あたしとシャーリーが喧嘩しちゃったんだけど、サーニャが仲直りさせてくれたの!」
シャーリー「その時に聞いたこともない言葉をまくし立てていたな。それ以外はいつものサーニャだったよ」
リーネ「聞いたこともない言葉? オラーシャの言葉ですか?」
シャーリー「いんやー、多分扶桑の言葉だと思う…… ずっと前宮藤が話してくれた扶桑語とどこか似ていたから。だけど宮藤が話してみせてくれたやつとは雰囲気が全然違ってたけどな」
芳佳「もしかして――」
ルッキーニ「どうしたの芳佳?」
リーネ「とにかく、そういうことなので…… サーニャちゃんを探しているんです」
シャーリー「そうか、サーニャには世話になったしな…… あたしたちも手伝うか?」
ルッキーニ「うじゅ…… でもサーニャには助けてもらったし、今度はあたしたちが助ける番だね!」
芳佳「本当ですかっ!?」
シャーリー「ああ、仲間を見捨てるわけにはいかないしな!」
ルッキーニ「うん!」
リーネ「ありがとうございます!」
芳佳「それじゃ、管制塔と監視塔に行きましょう!」
そうしてサーニャ捜索隊が結成され、彼女らはまだ周っていない箇所へと向かう……
58: 2015/05/24(日) 12:09:52.72 ID:qi3i4qqX0
芳佳らが監視塔に向かう中、基地敷地内の花壇で。
ペリーヌ「ふう―― このくらいでいいかしら」
彼女がこの花壇をハーブ園にしてからは、こうして水やりや剪定等の手入れをするのが日課であった。
最初のうちこそ難航したものの、コツを掴んでからは育てるのにやりがいを感じ、他の隊員にも摘んだハーブをハーブティーなどにして振舞っている。
ペリーヌらしいささやかな楽しみであった。
そうして今日も手入れが完了し一息ついたところ。
そんな時であった。
サーニャ「あの…… ペリーヌさん」
花壇の陰からサーニャが現れた。
ペリーヌ「あら、サーニャさんごきげんよう…… どうかなされまして?」
サーニャ「こんにちは…… あの、エイラを見ませんでしたか?」
ペリーヌ(一体どういうことですの?)
恐らくすれ違い…… であることは予想できた。
ペリーヌ「あら、あなたもエイラさんを探していたのですか…… エイラさんなら一時間…… いえ、ずっと前にここへいらっしゃいましたよ?」
サーニャ「本当ですかっ!?」
ペリーヌ「――ええ、その後兵舎の方へ戻っていかれたようですけど」
サーニャ「そんな……」
ペリーヌ「どうかしまして?」
サーニャ「あの…… さっきまで兵舎の方を周っていたのに見つけられなくて。部屋にもいなかったんです」
これは厄介なことになった。
ペリーヌに嫌な予感が訪れる。
59: 2015/05/24(日) 12:21:58.72 ID:qi3i4qqX0
ペリーヌ「それで外に出てみた―― ということですね?」
サーニャ「――はい」
ペリーヌ「でも…… 見つけられなかった、と」
サーニャ「はい……」
沈黙。
ペリーヌ(ちょっと! この沈黙をどうしろというんですの!?)
そうか、分かった。さようなら…… とも言えないし。
サーニャの方から立ち去る動きもないし。
ペリーヌは何も言えず呆然としていた。
サーニャ「あの――」
ペリーヌ「――はい?」
サーニャ「お花…… 凄く綺麗ですね」
ペリーヌ「あ、ありがとうございます……」
サーニャ「このお花って、ペリーヌさんが育てているハーブですよね?」
ペリーヌ「そうですわ」
サーニャ「いつも私たちにハーブティーをご馳走してくれて、ありがとうございます」ペコリ
ペリーヌ「は、はい……」
ペリーヌは普段あまりサーニャと会話することがなかったので、少しばかりやりづらさを覚えていた。
しかし同時に、どこか心地よさのようなものも感じていた。
サーニャ「この黄色いお花は、マリーゴールドですか?」
ペリーヌ「ええ…… マリーゴールドのハーブティーは風邪予防になったり、美肌効果があると言われていますの」
サーニャ「そうなんですか…… 綺麗なお花……」
ペリーヌ「よ、よろしかったらサーニャさんにも今度ご馳走しますわ!」
サーニャ「本当ですかっ!? ありがとうございます!」
ペリーヌ「え、ええ……」
沈黙。
60: 2015/05/24(日) 12:27:38.70 ID:qi3i4qqX0
ペリーヌ(くぅぅぅ…… わたくしとしたことが…… 会話のスキルが)
ペリーヌ「そ、そうでしたわ!」
サーニャ「――?」
ペリーヌ(ここは貴族たるものノブレス・オブリージュですわ!)
ペリーヌ「サーニャさん、わたくしの作業は丁度終わったところでして…… エイラさんを一緒に探してあげてもよくってよ!?」
サーニャ「ほ、本当ですか?」
ペリーヌ「――え、ええ!」
サーニャ「でも…… ペリーヌさんにも予定が」
ペリーヌ「予定…… いえ、予定はこれで終わりでしたの。だからちょうどお暇になったところです」
サーニャ「でも……」
ペリーヌ「ほら、しゃんとなさい! わたくしが大丈夫と言っているのです、行きますわよ!」
サーニャ「あ、ありがとうございます!」
ペリーヌ(それにしてもどこにいるのかしら)
恐らく…… こういう場合は原点に返るのが最適だろう。
ペリーヌは瞬時にそう思い至って、サーニャの自室へと向かった……
61: 2015/05/24(日) 12:33:40.58 ID:qi3i4qqX0
同時刻、監視塔。
坂本「何だお前たち、揃いも揃って。外出するのではなかったのか?」
ミーナ「何か問題でも起きたの?」
芳佳「坂本さん、ミーナさん…… それが――」
監視塔屋上、坂本とミーナが過去話に花を咲かせていたとき、なにやらぞろぞろと隊員たちが押し寄せてきた。
芳佳は今までの経緯をしどろもどろに説明していく……
坂本「なるほど、要するにサーニャを探している…… そういうことだな?」
芳佳「は、はい……! こちらに来ませんでしたか?」
坂本「いや、ここには来てないぞ? 来る前も見なかった。ミーナはどうだ?」
ミーナ「私も美緒…… いえ、少佐と同じ。申し訳ないけど見てないわ。ごめんなさい」
芳佳「いえ……! こちらこそお邪魔してすみませんでした……」
肩を落とす一行。沈黙。
彼女らの様子をみかねて、坂本は思案を巡らせた。
坂本「そうだな…… とりあえず基地内、それに敷地周辺は探したんだな?」
芳佳「は、はい!」
坂本「彼女の性格からして、恐らく基地の外には出ていないだろう」
ミーナ「そうね……」
坂本「もう一度サーニャの部屋に行ってみたらどうだ? こういう時は原点に返ってみるのがいいだろう」
芳佳「そうですね…… 確かに…… はい、そうしてみます!」
坂本のアドバイスに納得したのか、全員はそれぞれ顔を見合わせてから監視塔を後にした……
坂本「どうしたんだろうな?」
ミーナ「そうね…… どこか様子がおかしかったわ」
坂本「私たちも様子を見に行くか? どこか心配だ」
ミーナ「ええ…… そうね」
彼女たちが去っていってからしばらくして、坂本とミーナもサーニャたちの部屋へ向かって行った……
62: 2015/05/24(日) 12:41:16.79 ID:qi3i4qqX0
そして。
エイラ「サーニャ、どういうことナンダ!? 酷いじゃないか!」
サーニャ「エイラ…… ごめんなさい」
ペリーヌ(一体何が起こっていますの……)
芳佳「サーニャちゃん!!」
ペリーヌ「宮藤さん!? シーッ! 静かになさい!」
芳佳「えっ――?」
エイラとサーニャの部屋。
その中には芳佳たちが探していたサーニャと、それからサーニャが探していたエイラがいて…… なにやら不穏で重い空気が立ち込めていた。
俗に言う「修羅場」である。
芳佳「ペリーヌさん、一体何があったんですか?」
部屋の入り口で立ち竦むペリーヌ、そこへ駆けつけた芳佳一行。
芳佳はペリーヌへ何があったか小声で尋ねた。
ペリーヌ「それが…… よく分かりませんの。サーニャさんがエイラさんを探しているということだったので、わたくしも一緒に探すのを手伝っていました。それでここへ来てみたら幸いにもエイラさんがいまして…… だけど二人は再会するなりこんな状況に……」
ペリーヌも何が何やら分からない、そんな状態であるらしかった。
声をかけようとするも、他者の介入が許されるような雰囲気ではない。
どうすればいいか分からず、そうして二人以外は部屋の入り口から様子を窺うことしかできなかった。
63: 2015/05/24(日) 12:47:28.04 ID:qi3i4qqX0
エイラ「どうして何も言わずにどこかへ行っちゃったンダ!?」
サーニャ「違うの、聞いて? エイラ――」
エイラ「何が違うのさ! サーニャは私といるのが嫌なんダロ!」
サーニャ「そんなことない……! あのね、私――」
エイラ「そうダ! やっぱりサーニャは私のことなんか嫌いナンダ!」
サーニャ「エイラ…… エイラのバカッ!!」
二人とも涙を流しながら声を張り上げる。
芳佳「あの――」
リーネ「よ、芳佳ちゃん!?」
ペリーヌ「宮藤さんっ! あなた――」
芳佳「二人とも…… 良かったら話を聞かせてもらえないかな?」
エイラ「宮藤…… 宮藤も宮藤ダッ!」
芳佳「――え?」
エイラ「こんなレコードをサーニャに渡して…… サーニャに変なことを焚きつけたんダロ!?」
芳佳「え…… それは?」
エイラが手に掲げ持つレコードらしき物体…… 芳佳は身に覚えがまるでなかった。
エイラ「これは扶桑のレコードだ! サーニャが変なこと言ってたのはきっとこれのせいダ!」
芳佳「レコード……? 私そんなことしてません!」
エイラ「宮藤がサーニャに渡したんダロ!?」
サーニャ「ダ、ダメ――!!」
64: 2015/05/24(日) 12:51:56.71 ID:qi3i4qqX0
サーニャは突如大声を出してエイラの手からレコードを奪い取った。
エイラ「サ、サーニャ?」
サーニャ「これは違うの…… 私が買ったレコードよ……」
エイラ「サーニャ……」
サーニャ「エイラ、これ―― 聴いたの?」
エイラ「ご、ごめん……」
サーニャ「ど、どうだった!?」
部屋に立ち込めていた重い空気が、何故かその時緩くなった。
エイラ「どうだったって…… 何言ってるのか分からなかったゾ……」
サーニャ「あのね…… エイラ、聞いて欲しいの――」
そしてサーニャはゆっくりと語っていく。
65: 2015/05/24(日) 12:54:02.12 ID:qi3i4qqX0
始めはラジオでその作品を知ったこと。
劇中の言葉は自分を前向きにしてくれるような気がして、引っ込み思案を直してくれるような気がして、それで興味を惹かれたこと。
自分なりに調べてみると、どうやらその作品は扶桑の映画が始まりだということ。
休みの日に街へ出てみると、レコード屋にその作品のレコード版が偶然にもあったこと。
唯一店に置いてあった輸入版を買ってきて、聴いてみたこと。
やっぱり劇中の言葉は自分を前向きにしてくれたこと。
意味は分からないけど、使ってみれば自分も変われるのではないかと思ったこと。
引っ込み思案を直してみんなの為になれると思ったこと。
そして今日…… エイラが申請書を出しにいった時。
その時自分は部屋に戻る際、遠回りしてしまったこと。
その道中にシャーリーとルッキーニが喧嘩しているのを見て、思い切って仲裁に入ったけれど、どうすればいいか分からず動転して劇中の言葉を使ってしまったこと。
その後更にエーリカとバルクホルンが言い合いしている場面に遭遇して、劇中の言葉でうまく解決できた経験から…… そこも同様にして仲裁に入ったこと。
そうして自分の部屋に戻った時、エイラがいなくなっていたこと……
サーニャ「ごめんなさい、エイラ……」
サーニャは全てを語り終える。
66: 2015/05/24(日) 13:00:07.47 ID:qi3i4qqX0
エイラ「そ、ソーダッタノカ……」
正直言って、どこから整理すればいいか分からないエイラであった。
サーニャ「元はといえば私がエイラとの約束を破ってしまったから…… ごめんなさい」
エイラ「た、確かに遠回りしたのは…… その、ダメだと思うケド……」
エイラはどういう風に声をかければいいか分からずに、言い淀んで視線をキョロキョロと動かす……
ふと、入り口から二人を窺う面々の姿が目に入った。そこには喧嘩していたらしいシャーリーとルッキーニもいる。
サーニャがあの二人の問題を解決していたのなら、そしてエーリカとバルクホルンのも―― それなら、サーニャの頑張りを無下にして責め立てるのはあんまりだろうとエイラは思った。
サーニャ「あの…… 私、みんなに迷惑かけているから、みんなの為になりたいと思って…… ごめんなさい」
エイラ「サーニャ……」
申し訳なさそうに顔を伏せるサーニャ。
それを見てエイラはいたたまれなくなった。
そして一つ決心をして、深呼吸して、声を張り上げた。
エイラ「サーニャ、ごめんっ!」
サーニャ「エイラ?」
エイラ「私はサーニャを疑っていた! 私のことなんか嫌いなんだろうって…… でも、サーニャはみんなの為になろうと頑張っていたンダ! それを知らずに私は――」
サーニャ「私もエイラに何も言わずに勝手に遠回りして、ごめんなさい!」
エイラ「もうそれはイインダ! こうしてまた再会できたんだからナ…… あの、サーニャ?」
サーニャ「なに……? エイラ」
エイラ「それじゃ、前に私に言ってくれた言葉って――」
サーニャ「あの…… あの時はその言葉を言ったらどんな風になるんだろうって思って…… それでエイラに言ってしまったの。混乱させてごめんなさい」
エイラ「わ、私をからかったノカ!?」
サーニャ「そ、そんなわけじゃ…… でも、そういう風に見えたよね……」
エイラ「い、いや…… そんなことないゾ! それに、サーニャは今のままだって充分ダ!」
サーニャ「そう、かな……」
67: 2015/05/24(日) 13:04:55.38 ID:qi3i4qqX0
そして。
シャーリー「そうだぞ、サーニャ!」
ルッキーニ「うんうん!」
様子を窺っていた他の隊員も空気がグッと緩くなったのに乗じて部屋に入ってくる。
シャーリー「確かに、最初こそ混乱したけど…… それでも、あの時はサーニャの思いやりや優しさがあたしたちにも凄く伝わってきたぞ!」
ルッキーニ「うん! サーニャのおかげだよ!」
ペリーヌ「そ、そうですわね…… 何だかよく分かりませんが、無理して変わろうとしなくても、サーニャさんはそのままでも私たちにとってとても大切な存在であることは変わりませんわ」
リーネ「うん……! サーニャちゃんがいるだけで、それだけで私たちは幸せだよ?」
芳佳「何だか全部言われちゃったね…… 私もありのままのサーニャちゃんが大好きだよ!」
サーニャ「みんな…… ありがとう……!」
エイラ「そうダ! だからサーニャはいつも通りサーニャらしくしてればイインダ!」
サーニャ「エイラ……! ありがとう!」
一時はどうなるかと危ぶまれたが…… 仲間たちの絆は深く、強固であった。
坂本「なんだ―― 私たちが来るまでもなかったな」
ミーナ「ええ、戻りましょう――」
遠巻きから事態を眺めていた二人も、事の収束を見届けてからその場を去っていった。
68: 2015/05/24(日) 13:10:29.52 ID:qi3i4qqX0
やがて。
エイラ「そういえば…… 宮藤も疑って悪かったナ……」
芳佳「い、いえ! それにしても……」
シャーリー「サーニャを元気付けるほどのレコードか……」
ルッキーニ「ねー、聴いてみよーよ!」
リーネ「か、勝手に聴くのはまずいよ……」
ペリーヌ「そうですわ、サーニャさんの密かな楽しみを奪ってはいけません」
シャーリー「と、言いつつ…… 実は気になってるんだろ?」
ペリーヌ「そ、そんなことありませんわ!」
サーニャ「あ、あの……!」
エイラ「どうしたンダ? サーニャ」
サーニャ「良かったら、皆さん一緒に聴きませんか?」
ルッキーニ「ほんとっ!?」
シャーリー「みんなこれからの予定ないんだろ!? どうせならパーッとやろうじゃないか! そうだ、みんなで買出しに行って、それからここで聴くってのはどうだ?」
ルッキーニ「買出し!? やったぁ! お菓子、お菓子!」
シャーリー「よーし異論はないな? それじゃ適当に買出し行くぞお前たち!」
ルッキーニ「レッツゴー!」
エイラ「ちぇーっ…… せっかくサーニャと二人きりで聴けると思ったのに。お前らくれぐれも私たちの部屋を荒らすなヨー?」
サーニャ「いいじゃない、エイラ…… 私たちはいつでもここで聴けるわ」
エイラ「サ、サーニャ//」
和やかなムード…… 再び集合することを約束しそれぞれ街へ繰り出していく。
69: 2015/05/24(日) 13:15:47.10 ID:qi3i4qqX0
しかし…… 何故か一人だけは苦い顔をしていた。
リーネ「芳佳ちゃん? どうしたの?」
芳佳「い、いいや! 何でもないよ?」
芳佳は分かっていた。
このレコードの話の内容が。
聴いたことはなかったし、映画版も見たことはなかったが…… クチコミで伝わってきた噂を聞いて、どんな作品かぐらいは大まかに知っていたのだ。
リーネ「これって、扶桑の言葉?」
レコードを持つ芳佳を窺いながら、リーネは尋ねる。
芳佳「う、うん! そうだね」
リーネ「どういう意味なのかな?」
芳佳「ア○トレイジビヨンド……」
リーネ「それって、Outrageのこと?」
芳佳「多分…… そうだと思う」
リーネ「無法だとか、乱暴って意味だけど…… あっ……」
何かを察したリーネ。
リーネ「よ、芳佳ちゃんは聴いたことあるの?」
芳佳「ううん、聴いたことはないけど…… どんな内容かは知ってる……」
リーネ「そ、そうなんだ……」
70: 2015/05/24(日) 13:23:00.06 ID:qi3i4qqX0
そう、芳佳は知っていた―― これはヤクザモノの乱暴な話だということに。
しかし言えなかった…… サーニャにも言えなかったのだ。
彼女はみんなの為に、そして自分を変えようとして…… それで恐らくこの作品の言葉を使っていた。
あの時自分とリーネに叫んだ言葉もきっとこの作品に出てくる言葉だ。
そしてサーニャは言葉の意味など決して知らないだろう……
意味を知っている立場として、彼女にそれを伝えるべきだ。
しかし…… いつ伝えればいいのか、そのタイミングに窮していた芳佳であった。
やがて「レコードパーティ」なる集いが開催される。
それらは盛大に始まり、盛大に終わった。
何を言っているのか分からない、しかし何故か爽快な気分になる。サーニャが使いたくなるのも頷ける…… 皆口々にそう漏らした。
そして場面場面で、扶桑語が分かる芳佳へ翻訳の依頼が殺到したが、芳佳はなあなあでかわし、意味もだいぶ湾曲させて伝えた。
結局芳佳は作品の内容を言えずにいた…… みなどこか察している部分はあるかと思ったが、詳細まで分かるはずがない。
だから自分が伝えてあげなければと思ったが、しかし、ストレートにサーニャへ伝えてしまうと傷つけてしまうかもしれないと思ったので、芳佳は言えなかった……
このためらいが後に大問題を起こす引き金になるとは、この時の芳佳はまるで気付きもしなかったのである……
76: 2015/05/27(水) 08:26:30.15 ID:Egh/weO00
それから…… ある日の朝。
芳佳「おはようございます!」
食堂―― 今日の食事当番は芳佳とリーネだった。
起床し準備を整えた隊員から順にぞろぞろと食堂へ入ってくる。
やがて全員が出揃うと、いつもの如く賑やかな時間となった。
芳佳とリーネは全員分への配膳が済むと自分たちの分も用意して、それから席に着き朝食に手をつけた。
他の隊員らはそれぞれ他愛もない世間話に花を咲かせる者もいれば、そんな話に相槌を打ちつつもただ黙々と朝食を片付ける者もいる。
芳佳も隣席のリーネと取り留めのない会話を挟みつつ朝食を片付けていった。
やがて会話も途切れ途切れになってきたとき、周囲の会話が耳に入ってきた。
77: 2015/05/27(水) 08:29:52.35 ID:Egh/weO00
異変その一。
シャーリー「いやぁ、面白かったなぁ!」
ルッキーニ「うんうん! 何言ってるかぜーんぜんわかんなかったけど!」
シャーリー「なあサーニャ、悪いけどもう一回聴きたいから貸してほしいんだけど」
エイラ「あのナ…… サーニャは哨戒終わりで眠いんダ。だからあまり話かけ――」
サーニャ「あの…… いいですよ……!」
シャーリー「本当かっ!? ありがとう!!」
エイラ「サ、サーニャ!?」
ルッキーニ「やったー!! それじゃあたしもシャーリーの部屋で聴くー!!」
シャーリー「それじゃ、これ片付けたらサーニャたちの部屋にお邪魔するな!」
サーニャ「――はい!」
恐らく…… それはサーニャがこの前聴かせてくれたあのレコードのことだろうと思われた。
あれはバイオレンスなヤクザモノの話だという真実を伝えられなかった芳佳は、このまま風化するのを待つという方針へ変えていた。
サーニャもあれからヤクザ風扶桑語を使ってはいなかったので、このまま熱が冷めれば自然と風化するだろうと思っていたのだ。
だからこの時も特に気には留めなかった。
しかし―― 異変はやって来る。
芳佳は完全に気を抜いていた……
78: 2015/05/27(水) 08:32:25.11 ID:Egh/weO00
時間は流れ――
この日は交代で防衛空域の哨戒または周辺の偵察を行うという日程であった。
ネウロイの出現もなく、やがて第一次の哨戒・偵察組が基地へ帰還してくる。
ちなみに芳佳は昼を挟んで三番目に飛ぶ予定であったから、それまではリーネと共に昼食の準備などで基地に待機していた。
そうして昼になり、帰還してきた一次組のシャーリーとルッキーニが食堂へ入ってきた。
芳佳とリーネはそれぞれ準備していた食事を配膳する。
任務には何も問題がなかったようで、二人の会話は普段通り賑やかなものだった。
シャーリー「あー、午後は暇だなー」
ルッキーニ「あのレコード聴こうよ!」
シャーリー「それはムリダナ……」
ルッキーニ「それ…… エイラのマネ?」
シャーリー「ゴホン…… 待機だからっていくらなんでも部屋で遊んでるのはいかんだろ?」
ルッキーニ「うじゅ…… それじゃどうするの?」
シャーリー「いつも通り訓練…… とか?」
ルッキーニ「ええぇ! 訓練ヤダー!」
シャーリー「しょうがないだろー 私だって嫌だけどそーゆー日程なんだし」
いつも通りな二人…… 賑やかな会話……
そんな二人を芳佳とリーネは遠巻きから眺めていた……
79: 2015/05/27(水) 08:35:05.88 ID:Egh/weO00
その時。
ルッキーニ「チョットマッテクレヨ!」
芳佳「――エッ!?」
芳佳は思わず驚きの声を漏らしてしまった。
何故か―― それは、ルッキーニがあまりにも自然な発音で扶桑語を喋ったからである。
ルッキーニ「カイチョー…… カシラ、カシラ…… タノムヨ、カシラ……! タ…… タノム!!」
シャーリー「プッ…… ンクク……!」
迫真の演技をするルッキーニを見て、笑いを必氏に堪えるシャーリー。
ルッキーニ「ヤッテヤローヤナイカイ! イテマウゾコラァ!!」
シャーリー「ダーハッハッハッ!! ルッキーニ、ちょ…… 似すぎ! 似すぎだって!」
芳佳「――ッ」
恐るべき事態に陥ってしまった。
芳佳が気付いた時には全てが手遅れだったのだ……
80: 2015/05/27(水) 08:41:35.19 ID:Egh/weO00
異変その二。
ある日の終業後、消灯前の自由時間。
エーリカ「じゃーん!!」
バルクホルン「ハルトマン、何だそれは?」
エーリカ「サーにゃんから借りてきたんだー♪」
バルクホルン「――明日は雪でも降るかもしれないな」
エーリカ「ちょっと、どーゆーことさ?」
バルクホルン「芸術とはほぼ無縁で休日も寝てばかりなお前が音楽を聴くようになるとはな…… しかも何だ? この文字は…… 扶桑の音楽か?」
エーリカ「酷いなー、私だって音楽くらい聴くよー…… でも、これは音楽のレコードじゃないんだ」
バルクホルン「――どういうことだ?」
以前撤去したエーリカの私物類であったが…… 現在は見事に復活していた。
辛うじてジークフリート線の内側に留まっている山の中から、エーリカはレコードプレーヤーを発掘する。
バルクホルン「それ…… 使えるのか?」
エーリカ「まぁー大丈夫だって、よいしょっ……」
81: 2015/05/27(水) 08:50:32.83 ID:Egh/weO00
バルクホルン「――で、それは何のレコードなんだ?」
エーリカ「気になるの? トゥルーデ」
バルクホルン「べ、別に…… ただ、お前がレコードを聴くなんて珍しいと思ってな」
エーリカ「それじゃートゥルーデも一緒に聞こうよ!」
バルクホルン「別に構わないが…… 音楽じゃないとするなら、一体何のレコードなんだ?」
エーリカ「それは聴いてからのお楽しみってやつさー! それじゃ、スタート!」ジジジ
バルクホルン「何だ……? 何も再生されないじゃないか――」
ダレガマタヤクザヤルッツッタンダヨ!
バルクホルン「――はっ?」ビクッ
ア――トレイジビヨンド、ゼーインアクニン、カンケツ。
バルクホルン「これは…… 一体」
エーリカ「おっ! 始まった始まった♪」オカシムシャムシャ
そうして夜は更けていった……
82: 2015/05/27(水) 08:55:06.02 ID:Egh/weO00
異変その三。
ある日の終業後、自由時間。
芳佳「あれ? リーネちゃんどうしたの?」
リーネ「芳佳ちゃん…… あのね、サーニャちゃんから…… これ……」サッ
ア○トレイジビヨンド―― 全員悪人、完結。
芳佳「――ッ」
ペリーヌ「あら、どうしてこれが?」
リーネ「あの…… 実は私もう一度聴いてみたくて…… 貸してもらったんです」
ペリーヌ「そうですか…… まあ、お好きになさい?」
リーネ「あ、ありがとうございます!」
芳佳「あ、あの……」
リーネ「どうしたの? 芳佳ちゃん」
芳佳「う、ううん! なんでもないよ……」
リーネ「それじゃ、ごめんね…… ちょっとうるさくなるかも」カシャリ
芳佳「いや、全然大丈夫! 気にしないで?」
ダレガマタヤクザヤルッツッタンダヨ!
芳佳「……」
ア――トレイジビヨンド、ゼーインアクニン、カンケツ。
リーネ「始まった……!」ワクワク
ペリーヌ「それにしても、これは何と言っているのかしら?」ドキドキ
芳佳「……」
83: 2015/05/27(水) 08:57:27.06 ID:Egh/weO00
それは芳佳にとって想定外の展開であった―― 隊員たちはこのヤクザモノの話を意外に気に入っているらしかったのだ……
もちろん、これがそういう話だということは芳佳しか知らない。
雰囲気から察することはできても、詳細を知ることができるのは扶桑人である芳佳のみであった…… 坂本も扶桑人であるが、指揮官の立場である彼女やミーナの手には不思議と回らなかった。あくまでも彼女らを除く隊員たちの間で一時的な流行となっていたのだ。
このようにしてこのレコードは指揮官二人を除く隊員たちの間を行き来するようになっていた。
その結果…… 恐るべき事態へと突入する。
もう止められることなどできなかった……
84: 2015/05/27(水) 09:00:20.74 ID:Egh/weO00
そうして。
バルクホルン「だ、か、ら! リベリアン! 貴様はたるみきってると言っているのだ!」
シャーリー「はいはい、分かった分かった」
バルクホルン「分かってない! その態度は何だ!? これだからリベリアンは――」
シャーリー「……」ブチッ
バルクホルン「軍人としてどうなんだ…… まったく――」
シャーリー「ナンダコノヤロー!!」
バルクホルン「――ッ!?」ポカーン
シャーリー「タダジャオカンゾコラァ!!」
バルクホルン「貴様…… 何を言っているんだ?」
シャーリー「ウルセーンダヨコノヤロー! オレニナンノカンケーガアンダバカヤロー!」
バルクホルン「……」ピキーン
バルクホルン、覚醒――
バルクホルン「アンマチョーシノッテット、マタムショブチコムゾオラ!!」
シャーリー「――ヤッテミロ、コノヤロー……」
バルクホルン「チョーシニノルノモエエカゲンニセーヤ、コノボケェ!! ナメトンノカ?」
シャーリー「ナメテネーヨバカヤロー!!」
85: 2015/05/27(水) 09:03:22.49 ID:Egh/weO00
ルッキーニ「スイマセン! カンベンシテクダサイ! アニキハマダムショカラデタバカリデ、マダナニモシラナインス!!」
ルッキーニ参戦。
バルクホルン「ナニモシランノハオマエノホージャボケェ!!」
エーリカ「コノオトシマエ、ドナイツケルンジャコラ」
エーリカ参戦。
バルクホルン「ヤッテヤローヤナイカイ!!」スチャッ
シャーリー「ヤレヨコノヤロー、ハヤクヤレ! オモチャカコレェ!?」
エーリカ「ユビツメルカコラァ!!」
シャーリー「テメーラガタガタウルセーンダヨバカヤロー……! キムラ、カ工口ー……」
バルクホルン「ナンヤコラァ…… タダジャオカンゾコラァ!」
シャーリー「ダカラヤッテミロッツッテンダヨコノヤロー、チンピラァ!! ヤレェ!!」
バルクホルン「ダレガチンピラダ、オォン!? ヤッテヤローヤナイカイ! イテマウゾコラァ!」スチャ
シャーリー「ヤレヨコノヤロー!!」
ルッキーニ「ウ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!(絶叫) ウ゛ウ゛ッ…… コレデイーッスカ!? サンノーカイグライ、オレラダケデトッテミセマスヨ!!」
バルクホルン「……」
エーリカ「……」
シャーリー「……」
沈黙。
86: 2015/05/27(水) 09:05:55.79 ID:Egh/weO00
一同「「「「ダッハッハッハッハッハッ!!」」」」
シャーリー「ハァーッ…… これヤバイぞ…… ップ…… ククク……!!」
バルクホルン「そういえば…… 私たちは何を争っていたんだ?」
エーリカ「これ面白いねー」
ルッキーニ「うじゅ……! これたのしー!!」
シャーリー「なんかどーでもよくなってきたな…… 悪かったよ、バルクホルン」
バルクホルン「いや…… 私の方も悪かった…… すまない」アクシュ
ルッキーニ「これで仲直りだね!!」
エーリカ「よーし! それじゃご飯いこー、ごはん!!」
いつしか「あの話ゴッコ」が部隊内にはびこるようになっていたのだ……
ミーナ「あら…… みなさん何やら叫び声が聞こえたけど…… どうかしたの?」
バルクホルン「いや、何でもないぞミーナ…… 余興というか、何というか……」
ミーナ「そう……? 夕食がもう出来たみたいだから、早く食堂へ来なさい?」
一時のお遊びが大惨事を巻き起こすとは…… この時は誰も知る由もなかった……
87: 2015/05/27(水) 09:08:26.63 ID:Egh/weO00
またある日では……
射撃訓練中でのこと。
リーネ「えいっ!」バーン
芳佳「リーネちゃんナイスショットだよ!!」
ペリーヌ「いい腕ですわね、リーネさん。さすがですわ」
リーネ「いえ、そんな……」
ペリーヌ「ですが…… まだ弾は残っていますね? 全弾必中ですわよ?」
リーネ「――はい!」
リーネ「よーし―― えいっ!」バーン
リーネ「あ…… 中心から少しそれちゃった……」
ペリーヌ「……」
ペリーヌ「ナニヤッテンダテメーントコロハ……!!」
リーネ「――えっ!?」
芳佳「……!?」
リーネ「……」ピキーン
リーネ「スイマセン…… ハジクコトハハジイタンデスガ…… エレベーターニ○△×でょあdじゃ□×△○×□……(意味不明)」
ペリーヌ「ソンナコトキイテンジャネーンダヨ!! ヤッタノカヤンナカッタノカヲキイテンダヨ!!」
リーネ「スイマセン…… ハラニハアタッテルトオモウンデスケド……」
ペリーヌ「ナニヤッテンダテメーノトコロハ……! チンピラヒトリヤレネーッテノハドーユーワケダコノヤロー!!」
リーネ「スイマセン……」
沈黙。
88: 2015/05/27(水) 09:12:53.69 ID:Egh/weO00
ペリーヌ「――さあ、次は頑張りなさい?」
リーネ「はい―― えいっ!」バァァン
ペリーヌ「さすがリーネさんですわ、お見事です」
リーネ「ウルセーコノヤロー……」ボソッ
ペリーヌ「……」
ペリーヌ「――どうかしまして?」
リーネ「いえ……! ありがとうございます!」
芳佳(これ…… 何!?)
坂本「調子はどうだ? お前たち…… 何か叫び声が聞こえたが、どうかしたのか?」
ペリーヌ「し、少佐っ!? い、いえ…… なんでもありませんわ!」
坂本「そうか…… それでは訓練の方、頑張れよ? わっはっはっ!」
芳佳(危なかった――)
全てが遅かった…… 芳佳があの時ちゃんと説明していれば……
しかし、今からでも遅くはない…… 芳佳は真実を語ることにしたのだが……
89: 2015/05/27(水) 09:15:33.80 ID:Egh/weO00
大浴場でのこと。
芳佳「――というわけなんです……」ゴニョゴニョ
エイラ「何でそれを早く言わないんダ! そんな汚い言葉をサーニャは……」
サーニャ「どうしたの? エイラ、芳佳ちゃん……」
芳佳「あ、あのね? あのレコードのことなんだけど……」ゴニョゴニョ
サーニャ「そ、そんな…… ごめんなさい……」
芳佳「いや、私もあの時分かっていながら説明もせずに…… ごめんね?」
エイラ「ソーダ…… あの時言っておけば……」
芳佳「みんな盛り上がっていたから、水を差して盛り下げちゃったら申し訳ないと思って…… なかなかタイミングが掴めなくて…… 私のせいだよね…… ごめんなさい」
サーニャ「でも、意味も知らないのに使い始めたのは私なの…… だから芳佳ちゃんのせいじゃない……!」
エイラ「うーん、これはマズイゾ…… 今こうして意味を知った私たちはともかく、他のヤツが……」
ナンダコノヤロー! センエンイレタグライデナンジカンモアソンデンジャネェゾコノヤロー! ソンナンモコンナンモアルカイコラァ! オォン!? ヨカッタナジャネーヨテメー、アン!? ミトケコノヤロー! ア゛、ア゛、オ゛モ゛イ゛ダシタッ!!
↑他の隊員たち
90: 2015/05/27(水) 09:20:16.26 ID:Egh/weO00
芳佳「……」
サーニャ「あっ……(諦観)」
エイラ「もう(元に戻すのは)ムリダナ……」
坂本「何だお前たち、今日は一段と騒がしいな――」ガララ
一同「……」シーン
芳佳(あ―― これはヤヴァイ)
坂本「扶桑語が聞こえた気がするが…… 私の気のせいか?」
芳佳「あ……! すみません坂本さん! 興奮したらついつい扶桑語が……!」
坂本「なんだ宮藤か…… まあ、そういうことはよくあるが…… ほどほどにしとけよ?」
芳佳「は、はーい……」
この日は難を逃れたが……
しかし―― 遂に終わりがやって来る。
91: 2015/05/27(水) 09:23:29.06 ID:Egh/weO00
――出動命令! 繰り返す、出動命令だ!
防衛空域にネウロイ侵入とのこと、至急迎撃に向かい撃破せよ――
基地内に響き渡るアラート。
ネウロイが現れたのだ。
規模はそこまででもないようだが、爆撃機型のものが数機編隊を組み、それを護衛する戦闘機型のものが複数機…… といった様相であるようだった。
隊員たちはさっそく総出で迎撃へ向かう。敵は基地の方角へ向かっていた。
恐らく基地の破壊が目的だろう…… 小規模な発生であるものの決して油断できない。
そうして彼女たちは大空へ飛び立った――
ストライカーによって空高く飛翔する魔女たち。
やがて青い空の遥か前方にポツポツと黒色が浮かんできた。
それは近付くにつれて段々と大きくなり、はっきりと視認できた頃には群れの中の数機が続々と魔女たちへ向かって行った。
戦いの火蓋が切られる。
芳佳「当たれ……!!」ズガガガガ
魔女たちはそれぞれフォーメーションを組み、そして分担して一撃を加えては離脱、また攻撃を加えては入れ替わる…… そのような波状攻撃で爆撃機を確実に消耗させていった。
爆撃機を集中攻撃することで掻き乱し、そうして混乱し散り散りになった護衛戦闘機も漏らすことなく撃墜していく。
統制された華麗なフォーメーション、そこから繰り出される芸術的な連携攻撃で一機また一機と落とされていくネウロイ……
そして、気付けば全て撃墜していた――
92: 2015/05/27(水) 09:27:12.06 ID:Egh/weO00
ルッキーニ「うじゅじゅ…… よーし――!!」
ルッキーニ「ヤッテヤローヤナイカイ!!」
それは全機撃墜が確認された時であった……
シャーリー「ルッキーニ……!!」
シャーリー「ヘヘッ…… モハンシューガササレルカヨ……!!」
バルクホルン「テメーナニカンガエテンダコノヤロー! オモチャカコレェ!?」
エーリカ「チンピラヒトリヤレネェーッテノハドーユーワケダコノヤロー! ハヤクヤレッ!!」
リーネ「ウルセーバカヤロー!! ガタガタヌカシテットテメーモウメチマウゾ!!」
ペリーヌ「ガタガタウルセーンダヨコノヤロー!! ケージガヤクザタキツケンノカコノヤロー!!」
芳佳「――あっ」
サーニャ「……」
エイラ「ごめんナ…… 未来予知はできたのニ…… 間に合わなかったヨ……」
ミーナ「ネウロイ、全機撃墜を確認…… これより基地へ帰投します―― って、どうしたのあなたたちっ!?」
坂本「……」プルプル
ルッキーニ「タノムヨ…… オヤカタァ!! コ、コマネチコマネチ(掠れ声)!!」
シャーリー「ンクククク……! ヒィー……!」←笑いを堪えている
エーリカ「オーイ、トミタシロヤマァ!」
リーネ「バカタレェ!! ダッフンダ!!」
ペリーヌ「ナニイッテンダコノヤロー!! ソレハチガウゾバカヤロー!!」
リーネ「ヤンノカコノヤロー! ダ○カンコノヤロー」
バルクホルン「アイーン」
エーリカ「ウルセェバカヤロー!!」
坂本「……」プチーン
93: 2015/05/27(水) 09:30:48.42 ID:Egh/weO00
坂本「WHAT THE F××K IS THIS(Native)!!!!????」
坂本「HOLY SHIT(ネry)!!!!」
一同「……」シーン
ミーナ「Ich bin überrascht(Muttersprachler)」
ミーナ「Mein Gott!!」
人類最高の叡智を誇る全て・デ・ジュスは終わった…… 終わってしまった……
竜の力を受け継ぐ最後の男、ナニモカモ・イドが手遅れドラグニルだったのだ……(ノムリッシュ)
94: 2015/05/27(水) 09:35:34.39 ID:Egh/weO00
後日。
坂本「お前ら、そこに正座」
一同「――はい」
坂本「なるほどな…… このア○トレイジが全ての元凶か…… サーニャ」
サーニャ「はい…… すみません」
坂本「いや…… まあ、確かに最初はお前から始まったわけだが、いたずら心で広めたわけではないと聞いた、そうだろう?」
サーニャ「はい…… でも、私が意味も知らずに使ってしまったせいで……」
エイラ「サ、サーニャは悪くないゾ!!」
坂本「あんたは黙っとれい(ツェペリ)!!」
エイラ「ヒエッ――」
坂本「そうだな…… 今度からは気をつけるんだぞ? 自分が言ったことに責任を持つこと。お姉さんとの約束だ☆」
サーニャ「はい…… ごめんなさい」
坂本「――そして宮藤」
芳佳「はい……」
坂本「意味を知っていながら、今まで放置していたことはいけないZO、吉幾ZO」
芳佳「プッ…… はい」
坂本「なにわろてんねんっ!!」
芳佳「すみません……」
坂本「間違いはちゃんと正してやること。道を踏み外しそうになったら、そうならないように支えてやるのが仲間というものだ…… わかったな?」
芳佳「Roger That」
95: 2015/05/27(水) 09:41:04.74 ID:Egh/weO00
坂本「さて…… 残りの者に教えてやろう。お前たちが一体どんな言葉を使っていたか」
ア○トレイジビヨンド(ブリタニア語字幕版)
坂本「たまたまこのフィルムを入手することができた。よって、これからこの映画を放映する…… 各自正座を解いて着席しろ」
坂本「いったいお前たちがどんなお下劣な言葉を使っていたか、その目に焼き付けろ」
坂本「ミーナ、悪い…… セットを頼む」
ミーナ「Die Flügel der Freiheit」
坂本「それでは始めるぞ――」
97: 2015/05/27(水) 09:52:58.93 ID:Egh/weO00
放映後。
一同「ザワ…… ザワ…… ザワワ…… ザワワ、ザワワ、ザワワ……(モリヤマ)」
シャーリー「あぁー、参ったよほんとによおー」
坂本「オイッッッ!! お前たちッッッ!!」
一同「……」
坂本「お前ら俺がどうして怒ってるのかまだ分からんのかッッッッ!?」
坂本「試合に負けたからじゃない…… どうでもいいや、というお前たちの心が許せんからだ!!」
ルッキーニ「いい加減にしてくんねーかな……」
坂本「ルッキーニィッッッ!!」
坂本「お前らがやったことは裏切りだ……」
坂本「いいか? 早朝練習に出るお前たちの為に、毎朝早く起きてご飯を作ってくれた宮藤たち……」
坂本「汚れた戦闘服を毎日毎日洗ってくれた宮藤たち…… 仕事を休んでまで応援に駆けつけてくれた宮藤たち……」
坂本「そういう、影で支えてくれた大勢の人々の信頼を、お前らは手酷く踏みにじったんだ!!」
坂本「俺は…… 他人を省みない優等生よりも、お前らの方が好きだ!」
坂本「しかし今日のお前らは最低だッッッッ!!!!」
坂本「貴様らラグビーをなめてるからな…… 生きるってことを馬鹿にしてるッッ!!」
坂本「今自分がやってることをひたむきにやらないで、この短い人生で一体何ができると思ってるんだ!!」
坂本「よく考えてみろ…… 相手も同じ魔女だ!! 同じ歳、同じ背丈、頭の中だってそう変わらんだろっ!」
坂本「それが何で109 ―― 0なんて差がつくんだぁ!!」
坂本「お前らゼロかぁっ!? ゼロの魔女なのかっ!?」
坂本「このままいい加減にして…… 一生ゼロのまま終わるのか!?」
坂本「それでいいのか…… お前らそれでも魔女かぁっ!」
坂本「ぐや゛じぐな゛い゛の゛がぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!?」
98: 2015/05/27(水) 09:58:19.54 ID:Egh/weO00
一同「――」
一同「……」
ペリーヌ「ぐや゛じい゛でずッッッッ(ザブングル)!!!!」
ペリーヌ「今までは負けるのが当たり前だと思ったけど…… いらついて誤魔化してたけどっ! 今はぐや゛じい゛でずッッ(ザブry)!!」
ペリーヌ「チクショォォォォォ!!!!」
リーネ「俺もッッッ!! 悔しいですッッッ!!」
一同「クソオオオオオオ!!! チクショオオオオオオオ!!!」
エーリカ「悔しいッ!! 悔しいよおおおおおお!!」
バルクホルン「くそおおおおおおおおお!! くそおおおお……!!」
ルッキーニ「チクショー…… 悔しいよ!!」
シャーリー「チクショー…… チクショオオオオオ!!」
坂本「悔しいなら誰でもそう思う…… でも、思うだけでは駄目だ!!」
坂本「お前たち、それでどうしたいんだ……」
坂本「どうしたいんだっ!!!!」
エイラ「勝ちたいですッッッッ!!!!」
サーニャ「敵を取りたいです!!」
坂本「勝つ為には並大抵の努力じゃ勝てないんだぞ!? 血反吐を吐いて氏ぬほどの練習をしなきゃならん!!」
宮藤「は゛い゛ッッ!! や゛り゛ま゛ずッッッ!!!」
坂本「誰も助けてくれるわけじゃない…… どんなに苦しくても、言い訳は効かないんだぞ!?」
坂本「お前たちそれでも勝ちたいかぁっ!?」
ペリーヌ「勝ちたいですッッ!! 勝ちたいよぉお!!」
エーリカ「やります!!」
バルクホルン「勝ちます!!」
ルッキーニ「頑張りますっ!!」
一同「やります…… 勝ちます……!!」
99: 2015/05/27(水) 10:03:36.20 ID:Egh/weO00
ミーナ「これほどの熱情が一人一人に秘められていようとは…… 美緒の胸に感動が突き上げた」
坂本「ようし……!! よく言った!! 俺が必ず勝たせてやるっ!!」
一同「せんせー…… 先生!!」
坂本「その為に…… 俺はこれからお前たちを殴るッッッッ!!!!」
坂本「いいか……? 殴られた痛みなど三日で消える」
坂本「だがな! 今日の悔しさだけは…… 絶対に忘れるなよっ!!」
坂本「ルッキーニ…… 頑張れよ!!」
ルッキーニ「はいっ!!」
坂本「ようし…… 歯を食いしばれッッ!!」ドゴォ
坂本「シャーリー、しっかりやれよぉ!!」
シャーリー「はいっ!!」ドゴォ
坂本「リーネ、頼むぞ!!」
リーネ「はいっ!!」ガシャアアアン
坂本「ペリーヌ…… いいな?」
ペリーヌ「はい!!」ベシィ!!
ミーナ「それは、美緒にとって隊員との絆をより深めたいと発した行為である」
ミーナ「これは、暴力ではない。もし暴力だと呼ぶのであれば、出るところへ出てもいい…… 美緒はそう思っていた」
ミーナ「隊員たちは目覚めた。美緒が何一つ強制したわけではない…… 翌日から目の色を変えて猛練習を始めたのである」
ス○ールウォーズ―― スクールウィッチーズ 完。
100: 2015/05/27(水) 10:07:14.40 ID:Egh/weO00
ミーナ「トゥルルルルルルルルルルル テン テン テテンテ テン テン テテンテ テン テン テテンテ……」
ミーナ「フッ フッ フゥー フーフッ フゥー フッフッフー ハアアアアアアアアアアアアアアアアアア アアアアアアアアアアアアア」
ミーナ「愛は奇跡を信じる力よぉ~」
ミーナ「孤独が心 とじーこめーてもー」
(中略)
ミーナ「You need a hero!!」
ミーナ「胸に眠るヒーロー 揺り起こーせー!!」
完。
101: 2015/05/27(水) 10:10:04.87 ID:Egh/weO00
みんなは熱い血を燃やしているか!!
辛い時、苦しい時、生きてりゃ色々あるさ!!
でも、そんな時こそチャンスなんだよ!!
そんなピンチの時こそ、お前の血が熱く燃えて、命は輝くんだ!!
さあ、明日に向かって走れ!!
102: 2015/05/27(水) 10:14:24.02 ID:Egh/weO00
おまけ。
一方それから、502統合戦闘航空団「ブレイブウィッチーズ」では……
エディータ「今日はあなたたちの為にとっておきの教材を準備しました!!」
ラル「おっ、私も混ぜてもらっていいか? 面白そうだな」
アレクサンドラ「で、パウラ…… ブレイクウィッチーズだけじゃなく私たちも呼んだ理由は……?」
エディータ「それは…… これだよ、サーシャ!」
下原「それは……」
ジョゼ「映写機にフィルム……?」
クルピンスキー「戦闘教義でも撮ってきたのかい?」
ニパ「あー…… 座学は辛いぞ……」
管野「もー、もったいぶらないで早く進めてくれよなー」
エディータ「私たちブレイブウィッチーズにはこういう気概こそが必要だと思いますっ!」
エディータ「なので、今日は映画を見ましょう!!」
ラル「映画…… だと?」
アレクサンドラ「あのね…… 貴重な非番に何をするかと思ったら……」
クルピンスキー「まあまあ、たまにはいいじゃないか」
ニパ「座学じゃない! ラッキー!」
ジョゼ「映画…… 何だろうね?」
下原「ワクワクする……」ドキドキ
管野「貴重な非番に映画かよー…… 面白くなかったら怒るぞー……」
エディータ「それは問題ありません!! 面白いこと間違いなし、です!!」
ラル「――で、それは何ていう映画なんだ?」
エディータ「それは―― これです!!」
ア○トレイジビヨンド 全員悪人、完結。
下原「――あっ(察し)」
管野「――!!」ワクワク
103: 2015/05/27(水) 10:19:39.50 ID:Egh/weO00
ウィッチ達の間でまことしやかに囁かれている噂がある。
統合戦闘航空団に宛てて突然映画のフィルムが届くというのだ。
それを見た者は次なる航空団へ回さなければならないという。
そうしてその映画は世界各地を転々としていった……
あなたのもとにも、届くかもしれませんよ……
信じるか信じないかは、あなた次第です……
本当に終わりだバカヤロー!! コマネチ!!
完。
105: 2015/05/27(水) 10:33:55.95 ID:Egh/weO00
502の口調なんてわからねぇよバカヤロー
501の口調や設定も間違ってたらすまねぇなコノヤロー
三期は502らしいから予習しとけよバカヤロー
ラルさんのコルセットprpr モグモグ…… ああああああああああああああああっっっっっすぅううううううううううううー……
501の口調や設定も間違ってたらすまねぇなコノヤロー
三期は502らしいから予習しとけよバカヤロー
ラルさんのコルセットprpr モグモグ…… ああああああああああああああああっっっっっすぅううううううううううううー……
106: 2015/05/27(水) 12:23:58.73 ID:3aDMb7EAO
何か知らねーうちにスポコンになって吹いたじゃねーかバカヤロー
デカケツが何言ってっかわからねーが何となく察してやったぞバカヤロー
お疲れさんだバカヤロー、あとそれは俺の腹巻きだバカヤロー
デカケツが何言ってっかわからねーが何となく察してやったぞバカヤロー
お疲れさんだバカヤロー、あとそれは俺の腹巻きだバカヤロー
引用元: サーニャ「ア○トレイジ?」
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