1: 2012/01/05(木) 12:20:04.52 ID:gHSsDCoP0
世の中、小手先だけじゃどうにもならないことがある

一介の女子高生がどんなに頭を揺らして傾け振り絞っても、叩いて殴ってじゃんけんしても

解決しようのないことはある

諦めるしかないことがある

じゃあ でも だからって 

暗い顔しながらお腹空いた赤ん坊みたく指咥えてストレス大気圏に雲散霧消するのを待つのも

今の私には我慢できないよ


勉強机の上に置かれた二つの棒磁石を ぼぉっと見つめながら

かちん こちん

くっつけたり 離したり

かちん こちん

2: 2012/01/05(木) 12:21:50.68 ID:gHSsDCoP0
絶対当然モチのロンでS極とN極はガッチリくっつくし

SとS NとNは まるで逃げるように反撥し合う

誰だろう ヒトが 男と女しかくっ付けないように作ったのは

そう

これだよ これをどうにかしないとダメなんだ

小手先だけじゃあダメだ

力だ

力が要るんだ

30: 2012/01/05(木) 12:23:49.45 ID:gHSsDCoP0
よくわかんない理系学問なんて全部無視して

思いっきり腕力でくっ付けてしまえば 磁石だって反撥するのを忘れちゃうさ


押してダメなら もっと押そう

もっと押してダメなら もっともっと押せばいい

もっともっと押してダメなら手首掴んで壁押し付けながらハリウッド女優顔負けのカッコいいキスしてやればいい

さぁ覚悟しろよ律 

絶対くっついてやるからな

32: 2012/01/05(木) 12:25:10.42 ID:gHSsDCoP0
――――――――――――――――――――――――――



朝は起きて布団から出て顔を洗って歯を磨いてシャワーを浴びて髪乾かしてママのご飯を食べて着替えて

そして 

律と一緒に登校する時間だ

横に並んで歩くんだ 嬉しいな


ピンポーン 

セレモニーチャイムが鳴ったから 私は急いで玄関に向かう

今日は律が迎えに来る日なんだ 

でも 力だ 迎えに来てもらったからって 押さなきゃダメだぞ私

そう思い ちょっと力んで扉を開ける

「おはよー澪ー。今日は元気そうだな」

そりゃあ気合も入るさ 段々エンジンかけていってその顔照れさせてやるからな

38: 2012/01/05(木) 12:29:06.90 ID:gHSsDCoP0
「それで聡のやつがさー」

呑気に笑ってる律の右腕はガラ空きだ

よし いくぞ ううう腕を く 組んでやるんだ やらなきゃダメだ

手を繋ぐだけじゃダメだぞ私 

やややるぞ ほんとだぞ

なんだか顔が熱い・・赤くなってないよな!?

「?」

うぅ ちょっと怪しまれてるぞ・・押すんだ 力だ 力こそパワーだ

あの細くて可愛いけれどでもいざとなると私の肩を抱いて守ってくれる素敵な腕を

・・・・

がっ

「お、おいっ。澪!」

40: 2012/01/05(木) 12:33:33.30 ID:gHSsDCoP0
・・・はっ!前 見えてなかったから 躓いちゃった

でも私の身体に土が付いてないのは 

当然 律が抱き寄せてくれたからだ

「大丈夫かー?家でる時は調子良さそうだったのに」

ありがとう と 顔を真っ赤にして言うことしかできなかった

腕を組むどころか 大失態だ

ま、まだ一日は始まったばかりじゃないか これからこれから・・・

絶対時計は回るから 後悔したって戻れないんだ・・・うん

42: 2012/01/05(木) 12:38:16.65 ID:gHSsDCoP0
――――――――――――――――――――――――――

教室

HR始まる前から女子高生の教室は賑やかで あっちでこっちでピーチクパーチク

まるで小鳥さんの集まる魔法の森みたいで ああ これで歌詞書けるかな・・

「おはよう!りっちゃん澪ちゃん!」

唯とムギは先に来てたみたいだ

この二人にも見せつけてやらないとな 私の押しっぷり 力の入れ具合を

それとなく律に午後の数学の話題を出してやる

「ゲ、出されてた宿題忘れてた・・・!」

「えへへ~ 私は憂に教えてもらったよ~」

「憂ちゃんすご~い」

ほら やっぱり 案の定 

律は課題をやってなかった わかってたぞ、律

だから律はこう言うんだ

「澪~ 後生だ、写させてくれ~!」

43: 2012/01/05(木) 12:40:26.83 ID:gHSsDCoP0
こうなるともう既に 私の掌の上だ でも更に押すんだ

こ ここで 何か条件でも付けてやるんだ えっと 何言うんだっけ

『今日のお弁当 あ~ん させてくれたらいいぞ』『MMQ(モエモエキュン)してくれなきゃ嫌だ』
『お願いのキスとか・・要るんじゃないのか?』『真顔で 好き って言ってよ』
『パンツ見せて』『カチューシャ取って』『コーラとパン買ってきて』『結婚しよう』

ううぅ昨日頑張って考えてきたのに う うまく思い出せない

変な考えも浮かんできた・・えっと どうしよ はやくしなきゃ・・・


「澪~?どした?」

「りっちゃん、私の見てもいいよ」

「ホントかムギ!助かるなぁ」

ああああああしまった 貴重なチャンスがー!?

また失敗しちゃったじゃないか・・たじろがせるつもりなのに・・・

気持ちに気付かせて 振り向かせるつもりなのに・・・

律・・

44: 2012/01/05(木) 12:45:17.40 ID:gHSsDCoP0
――――――――――――――――――――――――――

昼休み

今日のお弁当はいつもと違う 憩いの時間じゃないんだ

そう これは戦争 ラブ イズ ウォー

痛いのヤダけど 戦争なんだ

「澪ちゃんのお弁当 美味しそうだね~」

唯はそう言ってくれるけど 残念ながら今日は律に あ~ん をするんだ

私のお弁当は諦めてくれ

よよよし やるぞ ラブ イズ ウォー 力こそパワー

45: 2012/01/05(木) 12:48:49.11 ID:gHSsDCoP0

さ さぁ言うんだ私 あ でも律今喋ってるしこの後で いや 

今 あ 

ダメだ口モグモグしてる ちょっと 緊張してきたぞ

ぅ ぅぁ あ 今度はムギと話してる 

じゃあもうちょっと待とう そしたら

あ 目が合った いや たじろぐな

うううう い 今だっ



かちゃんっ


「おっと 箸が・・・」

「あはは 携帯見ながら食べるから~」


ひっ なんでこのタイミングで箸を落とすんだよぉ またチャンスが・・

47: 2012/01/05(木) 12:54:39.25 ID:gHSsDCoP0
いや 待てよ これは・・

今なら箸を代わりに使わせられるぞ! よしっ

えーと えーと・・・「り、律っ!

「澪ちゃん、りっちゃんもう箸洗いに行っちゃったよ」



また まただ

周りが見えてなかったみたいだ・・うぅぅ 私はダメな子だ・・


「な~に暗い顔してるんだ、澪?」

「りっちゃんおかえり~」


律が帰ってきた よし もう 

今 言っちゃうぞ

48: 2012/01/05(木) 12:54:54.88 ID:gHSsDCoP0

「ホラ 澪 あ~ん」


・・・えええぇ なななんで律が 

これじゃ計画と真逆じゃないか!

や、やっぱり私に力は無かったのか・・・

「澪暗い顔してるぞ?ホラ、唐揚げ食べて元気出せって」

うぅぅ・・・



なんて優しいんだ律は・・・

49: 2012/01/05(木) 12:58:01.98 ID:gHSsDCoP0
――――――――――――――――――――――――――

「うぇ~ お昼の後に数学ですか~」

「りっちゃん隊長、撤退の命令を!」

あと10分でチャイムが鳴って ちょっぴり退屈な数学の授業が始まる

律がこれっぽっちも焦っていないのは ムギからノートを写させてもらったからだ

その役目 私がやりたかったのになぁ 自業自得だけど・・・



・・・?

って アレ? ん いやそれはないな・・このファイルに挟まって・・

・・ない  え? 

いやよく探せば・・  いや  うぅ これは・・

数学のノート 無いぞ・・!

昨日机の上に忘れてきたんだ・・ お、怒られるかも・・

50: 2012/01/05(木) 13:03:52.73 ID:gHSsDCoP0
授業が始まって 早速課題のチェックが始まった

1人ずつ 順に確認してる

はぁ・・嫌だなぁ、怒られるのは・・・成績も下がっちゃうよ・・

きっと 律のことばかり考えてたから忘れちゃったんだ

押せ押せ言って 私が律に押されてばかりじゃないか

律に自覚は無いんだろうけど・・なんて罪な女だ・・!私がそうなりたいのに!


ごそ

と 机に何時の間にか 私の物じゃない 知らないノートが入ってた

ページを捲ると 今日の課題が解かれている

え 誰かが間違えたの・・?

ページの隅に文字が書かれていた

『やっぱり課題 忘れてたんだな! りつ』

51: 2012/01/05(木) 13:07:28.47 ID:gHSsDCoP0
――――――――――――――――――――――――――

今日の部活は もう 全部ティータイムに費やした

今の私が演奏したって きっとみんなの邪魔になってしまうだろう

帰路

夕焼けの後だけど でも 暗くなり過ぎてない 群青色の空の下

部員四人の後ろを とぼとぼ と 歩く

ああ・・何カッコつけてたんだろう私は・・なんてカッコ悪いんだ・・・


「じゃあまた明日ね~」

「ばいばーい」

何時の間にか 律と二人になっていた

ずっと俯いててもダメだ また律に心配させちゃう

無理してでも顔あげて 笑顔作って 安心させてあげないと

・・・

「・・・澪、今日はどうかしたのか?」


53: 2012/01/05(木) 13:13:50.85 ID:gHSsDCoP0
まぁ やっぱり変だったよね

「私 いつも澪が元気でいられるか ずーっと見てるつもりだけどさ」

・・・ん え 律 どうしたの・・・?

それは確かに昔から なんとなくわかってた事ではあるけれど

そんな事 律から言うなんて 

っていうか それならやっぱり 私は律に気を使わせてばかりで・・

「今日みたいな日は初めてだぞ」

うん 私が余計なことしようとしたから・・

「いいか?私は澪の事 めいっぱいサポートしてやる」

うん ありがとう

でも・・律にばっかり・・・

56: 2012/01/05(木) 13:17:55.24 ID:gHSsDCoP0
「でも 言ってくれなきゃわかんない事もあるんだ」

「澪も私もぶきっちょだからさ・・・だから」

「今 言ってくれよ」


・・・うぅぅ こんなお膳立てまでしてくれて・・

もう何言っても 一緒かもな

いや でも うん そうだ 

私のやってた事も 結局は ちまちま ちまちま 先に進まない小細工なんだ

もっと強くやれたじゃないか もっと強くやれるじゃないか


本当の 力こそパワー で

57: 2012/01/05(木) 13:21:45.82 ID:gHSsDCoP0
「律・・」

「うん?」


ジュラシックワールドで草食獣食い荒らす腹ぺこティラノサウルスよりもずっとずっと荒々しくて逞しくて

喉の奥から地球の裏まで全身全霊全力全開ゲージMAX100%の命の叫びを響かせなきゃ

いや ううん 叫ぶ必要なんてないんだ

大事なのはブレーキとアクセル踏み間違えてコンビニの壁面突き破る10tトラックみたいな勢いなんかじゃなくって

全裸で南極ヒッチハイクしながら大陸横断目指すなりふり構わない愚直さでもない

宇宙の端から端まで芸能人が腰振りながら歩くレッドカーペット丸めるみたく森羅万象全部の概念丸く収める

人類史上最強の言葉は 

心を込めればいいだけなんだ




「好きだ」


磁石に心は無い

私と律にはある

59: 2012/01/05(木) 13:25:35.88 ID:gHSsDCoP0
――――――――――――――――――――――――――



朝は起きて布団から出て顔を洗って歯を磨いてシャワーを浴びて髪乾かしてママのご飯を食べて着替えて

そして 

律と一緒に登校する時間だ

手を繋いで歩くんだ 嬉しいな


ピンポーン 

セレモニーチャイムが鳴ったから 私は急いで玄関に向かう

今日は律が迎えに来る日なんだ 

明るく元気に 前向かなきゃダメだぞ私

そう思い 

ちょっと力んで扉を開けた


おわり

63: 2012/01/05(木) 13:35:36.52 ID:eF9PlaJ40

引用元: 澪「力こそパワー」