1: 2013/09/19(木) 21:12:33.57 ID:Y2g9a9Do0
そろそろ仕事が終わるという時に声をかけられた

「あなた様」

「プロデューサー」

二人同時に、だ

「貴音に響か、どうしたんだ?」

うちの事務所でも特に仲が良い二人

「えっ? ……うぅ」

「ふふふっ」


2: 2013/09/19(木) 21:25:51.80 ID:Y2g9a9Do0
何やら恥ずかしそうな響

貴音は楽しそうな笑みをこちらに向けている

「ちょっとした趣向を考えてみたのです」

趣向……?

「そ、そうだぞ! プロデューサーは自分たちのために頑張ってくれてるから……」

もごもごと口ごもる響

「どうした、響?」

顔を覗き込むと赤くなっていた

3: 2013/09/19(木) 21:37:22.80 ID:Y2g9a9Do0
「うぎゃー! 顔が近すぎるぞプロデューサー!!」

そう言うと、バックスステップをして貴音の後ろに隠れてしまった

何とキレがある動き、流石は響だな

「うぅ……貴音ぇ」

貴音の服をちょこんと掴み上目づかい

思わず笑ってしまいそうになるのを堪える

こいつ、なかなかやりやがる

俺をノックアウトさせる気か

4: 2013/09/19(木) 21:43:55.40 ID:Y2g9a9Do0
「もう、あなた様も響も落ち着いてください」

響の頭を優しく撫でながら微笑む貴音

おっと、ついつい悪乗りしてしまった

からかいすぎてしまったようだ

「悪い悪い、ところで趣向ってのは?」

そう、二人が思いついたらしい趣向

「よろしいですか、響?」

「うん」

5: 2013/09/19(木) 21:51:16.06 ID:Y2g9a9Do0
二人が視線を交わし、こくりと頷く

「プロデューサー、今日は十五夜なんだ」

仲秋の名月ってやつかな

十五夜か、もうそんな時期だったのか

「そこで、今宵は月見と洒落こもうと思いまして」

貴音が続ける

「響がどうしてもあなた様をお誘いしたいと」

へぇ、嬉しいこと言ってくれる

6: 2013/09/19(木) 22:03:07.72 ID:Y2g9a9Do0
「あー、ずるいぞ貴音! 貴音だって誘いたいって言ってたじゃないか」

「はて……私、身に覚えがありませんね」

面白いやつらだな

見ていて全く飽きない

「月見か、風情があって良いじゃないか」

優しく夜空を照らす月

たまにはこういうのも悪くない

返事を返すと、二人はにこりと微笑んだ

7: 2013/09/19(木) 22:13:57.90 ID:Y2g9a9Do0
「貴音、じゃあ準備しなくちゃ!」

「そうですね、では急ぎましょう、響」

準備か、俺も手伝うとするか

「俺も手伝うよ、もう少しだけ待っててもらえるか?」

男手も必要だろうし……

「駄目!」

響からの拒絶の言葉

「えっ?」

思わず変な声をだしてしまう

8: 2013/09/19(木) 22:22:21.35 ID:Y2g9a9Do0
「あ……違うんだプロデューサー! これには訳があって……」

響の焦っている声

「いや、大丈夫だ。気にしなくてもいいぞ」

手伝われると何か困ることでもあるのだろう

「申し訳ありません、あなた様。今はまだお教えすることはできませんが……」

貴音も困ったような表情をしている

ふぅ、まったく……

「二人してそんな顔をするなって、俺は待っていればいいんだろ?」

二人に悪気がないことなんてわかっているのだから

9: 2013/09/19(木) 22:36:51.08 ID:Y2g9a9Do0
「ありがとう、プロデューサー!」

顔を上げて笑顔を見せる響

うんうん、お前にはその表情が一番似合うよ

「ではあなた様、一時間後に屋上にてお待ちしております」

仕事を終わらせて、一服したら丁度いい時間かな

「わかった、くれぐれも変なことはしないように」

「心得ております。では参りましょう、響」

「うん、またねプロデューサー」

10: 2013/09/19(木) 23:41:53.69 ID:Y2g9a9Do0
貴音と響が事務所から出るのを見送って、自分のデスクへと座る

残りの仕事を片づけてしまわないと

しかし、さっきはびっくりしたな

響にあんなに強く言われたのは初めてかもしれない

貴音にもはぐらかされたし……

何をたくらんでいるのやら

まぁいい

今は仕事に集中してとっとと終わらせてしまおう

11: 2013/09/19(木) 23:51:51.11 ID:Y2g9a9Do0
月の中にはうさぎが餅をついている

日本人ならこう教わるだろう

ちなみに俺もそう教わった

しかし、だ

今は自分自身の前にうさぎがいる

白と黒のうさぎが

どちらも特徴的で、どちらもとても美しい

スカウトできるならしたいぐらいだ

12: 2013/09/20(金) 00:00:27.79 ID:jBT67b7g0

最近は出張サービスでもしてるのかね

需要があるかはわからないが

いや、ないほうがいいか

これだけ美しいうさぎなら独り占めにしたい

そう思ってしまうのも仕方ないだろう

「お疲れ様です、あなた様」

白いうさぎが

「お疲れ様、プロデューサー」

黒いうさぎが

そう、労ってくれた




16: 2013/09/20(金) 20:10:15.96 ID:jBT67b7g0
「お疲れ様……」

さてさて、これは夢か幻か

頬をつねってみるか……

「痛い……な」

うん、現実のようだ

「何をしているのですか、あなた様?」

白いうさぎがくすくすと笑う

「プロデューサー……おかしくなっちゃったの?」

黒いうさぎが不安そうな顔をする

17: 2013/09/20(金) 20:22:52.33 ID:jBT67b7g0
本当に不安そうな顔をするな

「いや、その……な?」

しどろもどろである

何というか、言葉にできない? そんな感じだ

非日常的と言うか……

「貴音ぇ、やっぱりこの格好が……」

と、黒いうさぎ

「そのようなことはありませんよ、響」

と、自信に満ち溢れた白いうさぎの声

18: 2013/09/20(金) 20:35:10.44 ID:jBT67b7g0
「そうでしょう、あ な た 様?」

白いうさぎの妖艶な笑み

どくん、と心臓が高鳴る

落ち着け、落ち着け俺

相手は担当アイドル、OK?

自分は担当プロデューサー、OK!

相手は白と黒のうさぎ、OK?

自分は見惚れている、OK……!?

19: 2013/09/20(金) 20:46:54.95 ID:jBT67b7g0
「ご覧ください、響。私たちの格好は気に入って頂けたようですよ」

「そっか、よかったぁ」

そんな表情をするな

顔が赤くなってしまうじゃないか

「さぁ、あなた様。こちらに」

「座って座って、ほらほら」

白と黒のうさぎに手を取られ、座椅子に座らされる

「俺は逃げないから落ち着けって」

ぐいぐいと引っ張られ、転びそうになる

20: 2013/09/20(金) 20:58:49.55 ID:jBT67b7g0
俺を中心をして、右側に白いうさぎ、右側に黒いうさぎ

このような配置になった

「ふふっ、気が急いてしまったようです」

「プロデューサーがぼーっとしてるのが悪いんだぞ」

悪いのは俺か?

確かにぼーっとしてしまったのは認めるけどさ

「すまんすまん……おっ?」

そして気づく

「どう? 自分たち頑張ったんだからねっ!」

21: 2013/09/20(金) 21:08:19.77 ID:jBT67b7g0
大きなお盆に載せられた料理の数々

それに月見団子、酒

「本当に凄いな、全部手作りなのか?」

響は料理上手だと聞いてはいたが、まさかこれほどとは

「そうだぞ? 腕によりをかけたんだからね」

ふふんと、澄ました顔をする黒いうさぎ

おいおい、そんなに胸を強調するな

自分がどんな格好をしているのか自覚しろ

22: 2013/09/20(金) 21:18:24.00 ID:jBT67b7g0
「ま、貴音は主に味見係だったけどね」

団子にそっと手を伸ばしていた白いうさぎがびくりとする

「私は自分にできることをしたまでです」

「お、おう……」

何という力強い言葉

これ以上は何もいうまい

「ほらほら、早く食べてってば! それともお酒?」

黒いうさぎが目配せをすると

「どうそ、あなた様」

白いうさぎがおちょこを持ってきた

23: 2013/09/20(金) 21:28:47.44 ID:jBT67b7g0
「ああ、ありがとう」

とくりとくりと透明な液体が注がれる

おちょこの中を覗くと、まんまるいお月さま

「うん、美味い」

お月さまごと飲みほした

「ふふっ、良い飲みっぷりです」

「お酌をしてくれた人が美人だからな」

冗談で言ってみる

24: 2013/09/20(金) 21:42:27.49 ID:jBT67b7g0

「あなた様……そのような事……恥ずかしいです」

そっぽを向かれてしまった

ここは受け流すとか、笑って誤魔化すとか……

真正面から受け止めなくてもいいんだぞ?

「もう! プロデューサー、こっち向いて」

拗ねたような、怒ったような黒いうさぎの声

おっと、忙しいな

逆側の黒いうさぎのほうへ

「はいはいっと」

25: 2013/09/20(金) 21:53:23.92 ID:jBT67b7g0
「ほら、プロデューサー……ん!」

そこには箸を持ち、待ち構える黒いうさぎ

「うん?」

こっちもそっぽを向いている

それに、ん! だけじゃわからないぞ

「だからー! その……あーん、して」

真っ赤な顔でこっちを向いたと思った瞬間

そんな台詞を言いやがった

潤んだ瞳と、上目づかいのオマケつきだ

26: 2013/09/20(金) 22:22:31.44 ID:jBT67b7g0
「……」

勝手に体が動いていた

「どう? 美味しい……かな?」

力強く咀嚼する

しばしの沈黙

どこか期待と不安を混ぜた視線で俺を見ている

「美味しい」

ぼそりと出た本心

外で食べる飯は基本的に美味く感じる

しかし、そんなの抜きにしても抜群に美味い

27: 2013/09/20(金) 22:35:42.71 ID:jBT67b7g0
「本当に美味しいよ、料理上手なんだな」

男は胃袋をつかめと言われているが

それを実体験すると思わなかった

「へへっ、もっと、ほめてくれていいぞ! ね~、ほめてほめて!」

よしよし、では褒めてやろうじゃないか

「よーしよしよし」

わしゃわしゃと頭を撫でる

「うぎゃー! もっと優しく撫でてよ!」

怒られた

28: 2013/09/20(金) 22:47:31.02 ID:jBT67b7g0
「わかったよ」

髪の毛に沿うように

優しく手を動かす

さらりとした感触が心地よい

「そうそう、そんな感じ」

自分から頭を擦りつけてくる

黒いうさぎを上機嫌にすることに成功した

こいつ本当に小動物みたいだな


29: 2013/09/20(金) 22:49:57.06 ID:jBT67b7g0
「ふふっ、あなた様。どうぞもう一献」

「ああ、頂くよ」

片手で撫でつつ、もう片方の手で酌を受ける

一口でおちょこを開ける

「まこと、男らしい飲みっぷりですね」

それはどうも

「ほら、プロデューサー、あーん!」

うん、美味い美味い

30: 2013/09/20(金) 22:59:55.60 ID:jBT67b7g0
「……ふぅ」

飲ませ上手なうさぎにたくさん飲まされてしまった

ぐーっと伸びをする

上を見上げれば綺麗なお月さま

隣には綺麗なうさぎたち

料理も酒も美味いときたもんだ

いやはや、まさか屋上に楽園があるとはね

世の中わからないことばかりだ

31: 2013/09/20(金) 23:09:41.29 ID:jBT67b7g0
「ん?」

両肩が暖かいことに気づく

そして何やら柔らかい感触

「あなた様…」

白が

「プロデューサー…」

黒が

「もう少しだけ、このままで……」

二人の合わさった声

「ああ、少しだけだぞ」

こくりと頷くうさぎたち

32: 2013/09/20(金) 23:17:07.77 ID:jBT67b7g0
ああ……風が気持ちいいな

二人の体温も心地良い

とくんとくんと、肩越しに鼓動が伝わってくる

夜が、更けていく

お月さまの輝きが一層増して

うさぎたちをスポットライトのように照らしている

ステージは地球ってとこか

たった俺一人のために用意されたこのステージ

まだまだ楽しませてもらおうじゃないか






おしまい

33: 2013/09/20(金) 23:25:15.60 ID:jBT67b7g0
読んでくれた人に感謝を
ひびたか可愛いよひびたか

34: 2013/09/21(土) 00:22:02.41 ID:kHr3Jj1To

引用元: P「白と黒のうさぎ」